説明

素材の製造方法及び絵画の製作方法、素材及び絵画

【課題】 オリジナルの絵画等と同じ又は同様の織り目の生絹等の絹又は麻等の布を用い、同質感の素材を提供すること、また、オリジナルと同質感・同素材の複製画を迅速且つ効果的に製作すること。
【解決手段】 オリジナル等と同様の織り目の絹等を支持体として用い、支持体の裏面に、目止めのために接着剤で薄い第1の紙を貼り、第1の裏打ちをする工程(a−2)と、第1の裏打ちをした支持体の裏面に、布の織り目の隙間を埋めるために、白色系顔料等を塗布する工程(a−5)と、顔料を塗布した支持体の裏面に厚い第2の紙を貼り第2の裏打ちをする工程(a−7)と、支持体の表面に、インクの定着のための塗布剤を塗布する工程(b−1)により素材を作成する。さらに、支持体の表面に、インクジェットプリンタ等で顔料インクを用いて、オリジナルの絵画等のデータを印刷する工程(b−3)によりオリジナルの絵画等を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素材の製造方法及び絵画の製作方法、素材及び絵画に係り、特に、オリジナルや表現する基底材・素材の質感を表現した素材の製造方法及び絵画の製作方法、質感を表現した素材及び絵画に関する。本発明により、生絹・麻等の布に描かれた絵画の同質感再現複製方法、及び、その制作物を提供することができる。
【背景技術】
【0002】
古くより東洋絵画は同素材を用いた「現状模写」によって、その図像、技法が継承され、現代へと伝わってきた。しかし、写真技術の登場から、コロタイプ印刷やオフセット印刷などに代表される印刷技術を用いることで、オリジナルの絵画(図像)をある程度忠実に再現できるようになった。その印刷複製画は、美術館や博物館においてオリジナルの代わりに展示、活用されるなど、存在意義は極めて高いと言える。
【0003】
現在の印刷複製画の多くは、紙を支持体としている。それはつまり、紙に描かれた絵画しか同じ質感で複製できないことを表している。東洋絵画は古くより、絹に描かれているものが多く、仏教絵画や肖像画、風景画や花鳥画など様々な題材で描かれている。これらの絵画の質感を忠実に再現できる複製技術が十分に開発されないことで、東洋の多くの絵画の複製画を製作することが難しくなっている。
【0004】
以下に、複製方法に関する従来文献を挙げる。
特許文献1では、複製用シート材とそれを使用する平面的美術品の複製方法および複製品が記載されている。
特許文献2では、インクジェット印刷用紙及びそれを用いた複製の作製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−244799号公報
【特許文献2】特開2006−026971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生絹等の絹を用いた複製画の製作を困難にさせる大きな原因のひとつとして、その織り目の多様性が挙げられる。絹は経糸と緯糸の太さも違えば、描かれる絵画により織り目が粗いもの(糸同士の隙間80μm)から細かいもの(糸同士の隙間20μm)まで様々である。特に、織り目が粗い絹に絵画を印刷しようとすると、その織り目の隙間からインク(顔料インクの粒子は約100 nm)が抜け落ち、高精細な図像を印刷することが難しい。また、織り目の凹凸によって図像の輪郭がぼやけてしまうことが課題であった。
【0007】
現在、絹本印刷(絹に印刷した)と謳っている複製画は、新絹本とよばれる化学繊維(主にナイロン)を細かく織り、より凹凸が少ないものが使用されている。しかし、その質感はオリジナルの絵画と異なるため、素材を似せただけの複製画となっており、忠実な複製には至っていない。
【0008】
本発明においては、以上の点に鑑み、オリジナルの絵画と同じ又は同様の織り目の生絹等の絹又は麻等の布を用い、オリジナルに用いられた基底材・素材と同質感の素材を提供することを目的のひとつとする。また、本発明は、オリジナルの絵画と同じ又は同様の織り目の生絹等の絹又は麻等の布を用い、オリジナルと同質感・同素材の複製画を迅速且つ効果的に製作することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、特に、生絹等の絹の織り目を生かしつつ、凹凸のある面に高精細な図像を印刷するため、生絹の織り目の間を埋めるため、薄い和紙等の紙を裏から接着し、さらに白色顔料を裏から塗布する。これにより基底材の白色度も増し、より彩度の高い色の再現が可能になる。さらにもう一度裏から和紙等の紙を接着して強度を持たせ、インクの定着を助ける塗布剤を表面に塗布する。これらの下処理を終えた絹又は麻等の布にインクジェット機で印刷し、最終的にインクの滲み止めとして表面にドーサ(膠水溶液と生明礬の混合液)を塗布する。
【0010】
本発明の第1の解決手段によると、
オリジナル又は表現する素材若しくは表現する基底材と同じ又は同様の織り目の絹又は麻の布又は天然の布を支持体として用い、前記支持体の裏面に、目止めのために接着剤で前記支持体が透き通る程度に薄い第1の紙を貼り、第1の裏打ちをする工程と、
前記第1の裏打ちをした前記支持体の裏面に、前記支持体の織り目の隙間を埋めるために、白色系顔料又は他の顔料を、膠又は他の接着剤の水溶液で溶いて水を加え、顔料を塗布する工程と、
前記顔料を塗布した前記支持体の裏面に、強度を増すために接着剤で前記第1の紙より厚い第2の紙を貼り、第2の裏打ちをする工程と、
前記支持体の表面に、インクの定着のための塗布剤を塗布する工程と、
を含む素材の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の第2の解決手段によると、
上述のような素材の製造方法により作成された素材を用いて、
さらに、前記塗布剤を塗布した前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナル若しくは表現する絵画の写真データを印刷する、及び/又は、手彩色する工程を含む絵画の製作方法が提供される。
【0012】
本発明の第3の解決手段によると、
上述のような素材の製造方法により作成された素材を用いて、
さらに、
前記塗布剤を塗布した前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナルの背景又は表現する素材若しくは表現する基底材の写真データ又は他のデータを印刷する工程と、
その後、前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナル若しくは表現する絵画の写真データを印刷する、及び/又は、手彩色する工程と、
を含む絵画の製作方法が提供される。
【0013】
本発明の第4の解決手段によると、
オリジナル又は表現する素材若しくは表現する基底材と同じ又は同様の織り目の絹又は麻の布又は天然の布を支持体として用い、前記支持体の裏面に、目止めのために接着剤で前記支持体が透き通る程度に薄い第1の紙を貼り、第1の裏打ちをする工程と、
前記第1の裏打ちをした前記支持体の裏面に、前記支持体の織り目の隙間を埋めるために、白色系顔料又は他の顔料を、膠又は他の接着剤の水溶液で溶いて水を加え、顔料を塗布する工程と、
前記顔料を塗布した前記支持体の裏面に、強度を増すために接着剤で前記第1の紙より厚い第2の紙を貼り、第2の裏打ちをする工程と、
前記支持体の表面に、インクの定着のための塗布剤を塗布する工程と、
により製造された素材が提供される。
【0014】
本発明の第5の解決手段によると、
オリジナル又は表現する素材若しくは表現する基底材と同じ又は同様の織り目の絹又は麻の布又は天然の布を支持体と、
前記支持体の裏面に、目止めのために接着剤で前記支持体が透き通る程度に薄い第1の紙を貼り、第1の裏打ちが施された第1の層と、
前記第1の裏打ちをした前記支持体の裏面に、前記支持体の織り目の隙間を埋めるために、白色系顔料又は他の顔料を、膠又は他の接着剤の水溶液で溶いて水を加え、顔料を塗布した第2の層と、
前記顔料を塗布した前記支持体の裏面に、強度を増すために接着剤で前記第1の紙より厚い第2の紙を貼り、第2の裏打ちが施された第3の層と、
前記支持体の表面に、インクの定着のための塗布剤を塗布した第4の層と
を含む素材が提供される。
【0015】
本発明の第6の解決手段によると、
上述のような素材を用いて、
さらに、前記塗布剤を塗布した前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナル若しくは表現する絵画の写真データを印刷する、及び/又は、手彩色することにより製作された絵画が提供される。
【0016】
本発明の第7の解決手段によると、
上述のような素材を用いて、
さらに、
前記塗布剤を塗布した前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナルの背景又は表現する素材若しくは表現する基底材の写真データ又は他のデータを印刷し、
その後、前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナル若しくは表現する絵画の写真データを印刷する、及び/又は、手彩色する
ことにより製作された絵画が提供される。
【0017】
なお、上述のような素材を用いた建築用材料、又は、上述のような絵画を用いた建築用材料を提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、紙に描かれた絵画の複製のみならず、古代から現代まで数多く描かれてきた絹本絵画の同質感再現複製が可能になった。また、インクジェット機で印刷をするため、高精細な写真データを用意することができれば、現在は消失してしまった絵画、または公開することができない絵画、移動が困難な絵画においても複製画の製作が可能である。つまりは、現存する作品の複製だけでなく、消失した絵画−文化財の復元や当時の色味をコンピューターで再現し、印刷することで復元できるようになった。また、製作した複製画が経年劣化したとしても、写真データがあればいつでも同じ状態のものが復元できるメリットもある。文化財はその図像だけでなく、その質感が鑑賞者にリアリティを持たせる。その意味で、質感を再現できる本発明は、今後の美術館や博物館での展示、活用に非常に貢献できると考える。
【0019】
さらに、本発明によると、本物と同様の質感が非常に軽く且つ薄く表現することができる。また、本発明によると、インクジェット機等のプリンタで印刷をするため、写真データを用意することができれば、いかなる種類・模様・色の基底材・素材・絵画であっても製作が可能である。このことにより、本発明によると、利用や移動・運搬・展示などを容易にすることができる。
【0020】
本発明によると、上述のように製作された素材の上にオリジナル原画等の絵をさらにインクジェット機等のプリンタで印刷をすることで、オリジナルの絵画・表現したい絵画の写真データを用意することにより、オリジナルを模写・複製することが可能である。
さらに、本発明によると、形成された素材を用いた建築用材料、又は、その素材上に複写・複製・描写等により製作された絵画を用いた建築用材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態の素材・絵画の製造工程を表す流れ図。
【図2】本実施の形態の素材・絵画の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.質感を表現した素材・絵画の製造工程
図1に、本実施の形態の素材・絵画の製造工程を表す流れ図を示す。
図2に、本実施の形態の素材・絵画の断面図を示す。
以下、図2を参照しつつ、図1に従って、基底材等の素材の製造方法についての各工程を順に説明する。
【0023】
A. 絹支持体の裏面からの工程
[a−1:支持体(ニ)]
オリジナルや、表現する素材又は表現する基底材と同じ又は同様の織り目の支持体を用意する(図2(ニ))。
支持体には、例えば、絹を用意する。絹は、蚕の繭から採った繊維、またはこの糸で織ったものである。絵画では、例えば、生絹と呼ばれる経緯ともに生糸で織ったものが使用される場合が想定される。支持体には、絵絹・生絹・練絹、平絹等の絹以外にも、麻等の布又は天然の布なども用いることができる。
以下は、一例として、特に、生絹等の絹を支持体として用いた例を説明する場合があるが、これに限られない。
【0024】
[a−2:背面裏打ち(ホ)]
まず、支持体の裏面に、和紙等の薄い紙を接着剤で貼り裏打ちをする(図2(ホ))。
生絹の織り目を生かしつつ、凹凸のある面に高精細な図像を印刷するため、生絹の織り目の間を埋める必要がある。そのために、生絹に薄い和紙等の紙を裏から接着し、脆弱な生絹の強度を増すと共に、生絹の伸縮を抑制する。この工程では、例えば、支持体に小麦粉澱粉糊と薄美濃紙13g/mを用いて裏打ちを施す。
【0025】
なお、「薄い」とは、例えば、裏が透き通る程度、又は、後の工程「a−5:顔料塗布」における顔料が浸透する程度、又は、後の工程「a−6:背面裏打ち」で用いる紙と比べて薄い程度等の薄さであり、絹又は麻等の支持体と顔料に応じて適宜選択することができる。
【0026】
接着剤としては、小麦粉澱粉糊等の糊をはじめ、メチルセルロースや酢酸ビニルなどを主成分とした接着剤(ボンドなど)を用いることができる。裏打ちの回数は一度でも、複数回でもよい。裏打ちに使用される紙は、薄美濃紙や八女紙以外にも、例えば、楮を主な原料とした和紙、コウゾを原料として漉いた紙(楮紙)等適宜のものを用いることができる。
【0027】
[a−3:伸ばし(仮張り)]
裏向きに仮張りにかけて絹等の支持体を伸ばす。
仮張りとは、格子状の木の骨組みに幾重にも丈夫な和紙を貼ったものである。表面に柿渋を塗ったものが多く、表具を仕立てる工程で紙や裂を貼付けて乾燥させたり、一時的に紙をピンと伸ばす際に用いる。
【0028】
[a−4:ドーサ(ヘ)]
つぎに、支持体の裏面にドーサを塗布し、裏打ち紙の滲み止めを施す(図2(ヘ))。
ドーサを塗布することで、滲み止めの効果が増し、表側に白色系顔料等の顔料がしみ出さなくする又は極力しみ出すことを少なくすることができる。
【0029】
ドーサとは、膠水と明礬の混合水溶液であり、例えば、水と、三千本膠等の膠と、生明礬等の明礬との水溶液で作ることができる。この工程では、例えば、水500cc+三千本膠10g+生明礬1.4gの水溶液の水溶液を用いることができる。ドーサが、一度で効かない場合、二度以上に引いてもよい。ドーサは、支持体によって、配合物質や割合は異なる。なお、「膠」は、三千本以外の膠でも可能であるが、水溶液を作る際のパーセンテージが異なる。他に、樹脂を用いてもよい。
【0030】
[a−5:顔料塗布(ト)]
つぎに、白色系顔料又は他の顔料を支持体の裏から塗布する(図2(ト))。
この工程では、絹又は麻等の布の織り目を埋めるため(目止め)、裏面に、例えば、白色系顔料を膠等の接着剤の水溶液を用いて、白色系顔料を濃度を変えながら塗布する。
【0031】
白色系顔料は、胡粉、雲母、鉛白、白土、方解末等の適宜のものを用いることができる。この工程では、例えば、胡粉を三千本膠15%の水溶液で溶き、さらに水を加える。その他にも、二酸化チタン、酸化亜鉛を主成分とした工業的に作られた白色系顔料を用いてもよい。
【0032】
また、この工程では、白色系顔料を濃度を変えながら塗布することができる。例えば、顔料と接着剤の比率を一定に保ち、水で薄めていきながら複数回(例、5回)塗る。顔料+接着剤と水との重量比を、1回目は1:10、2回目は1:8、3回目は1:7、4回目は1:6、5回目は1:5、等というように濃度を変えて、複数回塗布することができる。
【0033】
なお、東洋絵画において絹の裏側から彩色する「裏彩色」という技法があるが、これは、表面からの彩色よりもより和らいだ色を表現するものであるが、本発明及び本実施の形態では、絹等の布の織り目を埋めるための顔料塗布の工程を使用したもので、裏彩色とは基本的に作用効果が異なる。この工程により基底材の白色度も増し、より彩度の高い色の再現が可能になった。
[a−6:仮張りのはずし]
以上の工程を終えた、絹等の支持体を仮張りからはずす。
【0034】
[a−7:背面裏打ち(チ)]
上述した[a−2:背面裏打ち(ホ)]と同様に、さらにもう一度、支持体の裏から和紙等の紙を接着して裏打ちする(図2(チ))。これにより、支持体の強度を持たせることができる。この工程では、例えば、接着剤として小麦粉澱粉糊を用い、薄美濃紙17g/mで裏打ちすることができる。接着剤及び紙は、上述のように適宜のものを選択することができる。
【0035】
「a−2:背面裏打ち(ホ)」と「a−7:背面裏打ち(チ)」との違いは、特に、工程a−2が「目止め」を目的としているのに対して、工程a−7は純粋に基底材(絹)の強度を増すためである。この工程a−7により、基底材をプリンターで印刷する際、よれたり、折れたりするのを防ぐことができる。
【0036】
[a−8:伸ばし(仮張り)]
表向きに仮張りにかけて絹等の支持体を伸ばす。仮張りについては、工程a−3と同様である。
【0037】
B. 絹等の支持体の表面からの工程

[b−1:表面塗布(ハ)]
つぎに、インクジェットプリンタ等のプリンタを用いた印刷のために、支持体の表面に、インクの定着を助ける塗布剤(インク定着剤)を表面に塗布する(図2(ハ))。
インク定着剤としては、例えば、市販品のインク定着剤(成分として、Water、norganic Nitrate、Acrylic Polymer、Formaldehyde(水、硝酸塩、アクリルポリマー、ホルムアルデヒド等のいずれか複数又は全てを含むもの)等、適宜のものを用いることができる。
【0038】
[b−2:仮張りのはずし]
このようにして、以上のこれらの工程を終えた、絹等の支持体を用いた素材を仮張りからはずし、質感が表現された素材が製作される。
【0039】
[b−3:インクジェット印刷(ロ)]
作成された素材の表面にインクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インク等のインクを用いて、表現したい絵画、表現したい基底材、表現したい素材等の写真データ又は他のデータをカラー印刷する(図2(ロ))。
【0040】
この工程では、基本的に背景と絵画部分の両方の図柄を印刷することができる。ただし、印刷される側の絹目と印刷データの絹目(背景)のぶつかりによってモアレが発生する場合、印刷データの絹目(背景)を除いたもの、つまり絵画部分のみを印刷するようにしてもよい。または、オリジナルの背景、表現する素材、基底材のデータを印刷してもよい。また、オリジナルの背景、表現する素材、基底材のデータを印刷し、さらにその後、絵画のデータを印刷するようにしてもよい。
【0041】
顔料インクとしては、例えば、絵に使用された鉱物・着色材料・絵具等の顔料インク、天然岩絵具や新岩絵具等の岩絵具などの顔料インクを用いることができる。また、カラー印刷の前、後、又は前後に、さらに、岩絵具等の顔料を用いて手彩色してもよい。また、プリンタによる印刷をせずに、手彩色等の適宜の手法により絵を描写してもよい。カラー印刷に限らず、オリジナルや表現すべき基底材・素材によっては、白黒や単色、複数色による印刷でもよい。
このようにして、絵画が、素材上に表現される。
【0042】
[b−4:ドーサ(イ)]
さらに、上述の[a−4:ドーサ(ヘ)]と同様に、インクの滲み止めとして表面にドーサを塗布する(図2(イ))。この工程では、例えば、インクの定着と退色防止のため、表面に水500cc+三千本膠10g+生明礬1.4gの水溶液(ドーサ)を塗布する。ドーサの成分及び配合としては、上述のように適宜のものを用いることができる。
【0043】
このようにして、質感が表現された絵画等が製作される。
以上のように、工程a−4〜a−6にかけての背面目止め効果と、工程b−1の表面インク定着剤の双方向から絹目の隙間を埋めることが重要なポイントのひとつである。
【0044】
2.変形例
(1)上述の実施の形態では、工程a−5では、白色系顔料を用いたが、色のある天然岩絵具等の岩絵具や他の顔料を用いてもよいし、または、天然染料又は合成染料から顔料化したものを用いてもよい。また、工程a−5において、例えば、白色系の天然岩絵具等の岩絵具の代わりに、青色系、緑色系、赤色系、黄色系、紫色系等の色のある岩絵具等の顔料を用いてもよい。
(2)ドーサ、絵具、岩絵具等の顔料等の使用材料や配合割合は、上述に限らず適宜とすることができる。
(3)プリンタを用いられる顔料インクは、様々なタイプのインクを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の基底材等の素材、又は、基底材等の素材に模写・複製・描写等により製作された絵画は、絵画用の他に、壁、天井、床、塀、屋根、窓、扉、柱、梁、枠等の建築用材料として用いてもよい。本発明の基底材等の素材又は絵画は、一枚で用いてもよいし、複数枚貼り合わせてもよい。また、本発明の基底材等の素材又は絵画には、枠、留め具、ジョイント、貼り付け具、固定具等を表面・側面・裏面の適宜の位置に取り付けてもよい。さらに、本発明の基底材等の素材又は絵画を、ユニットとして形成してもよく、また、複数組合せることもできる。
【符号の説明】
【0046】
a−1 支持体(ニ)
a−2 背面裏打ち(ホ)
a−3 伸ばし(仮張り)
a−4 ドーサ(ヘ)
a−5 顔料塗布(ト)
a−6 仮張りのはずし
a−7 背面裏打ち(チ)
a−8 伸ばし(仮張り)
b−1 表面塗布(ハ)
b−2 仮張りのはずし
b−3 インクジェット印刷(ロ)
b−4 ドーサ(イ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリジナル又は表現する素材若しくは表現する基底材と同じ又は同様の織り目の絹又は麻の布又は天然の布を支持体として用い、前記支持体の裏面に、目止めのために接着剤で前記支持体が透き通る程度に薄い第1の紙を貼り、第1の裏打ちをする工程と、
前記第1の裏打ちをした前記支持体の裏面に、前記支持体の織り目の隙間を埋めるために、白色系顔料又は他の顔料を、膠又は他の接着剤の水溶液で溶いて水を加え、顔料を塗布する工程と、
前記顔料を塗布した前記支持体の裏面に、強度を増すために接着剤で前記第1の紙より厚い第2の紙を貼り、第2の裏打ちをする工程と、
前記支持体の表面に、インクの定着のための塗布剤を塗布する工程と、
を含む素材の製造方法。

【請求項2】
前記第1の裏打ちをする工程の後に、滲み止めのため、前記第1の裏打ちをした前記支持体の裏面に、ドーサを引く工程とを含むことを特徴とする請求項1に記載の素材の製造方法。

【請求項3】
前記顔料を塗布する工程では、胡粉若しくは白色系顔料、オリジナル又は表現する基底材若しくは表現する素材に含まれる、青色系、緑色系、赤色系、黄色系、紫色系のいずれかひとつ又は複数の色のある岩絵具又は顔料を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の素材の製造方法。

【請求項4】
前記第1の裏打ちをする工程の後に、さらに、裏向きに仮張りにかけて支持体を伸ばす工程と、
前記顔料を塗布する工程の前に、前記支持体を伸ばす工程で施された仮張りをはずす工程と
を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の素材の製造方法。

【請求項5】
前記第2の裏打ちをする工程の後に、さらに、表向きに仮張りにかけて支持体を伸ばす工程と、
前記塗布剤を塗布する工程の後に、前記支持体を伸ばす工程で施された仮張りをはずす工程と
を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の素材の製造方法。

【請求項6】
さらに、前記塗布剤を塗布した前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナルの背景又は表現する素材若しくは表現する基底材の写真データ又は他のデータを印刷する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の素材の製造方法。

【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の素材の製造方法により作成された素材を用いて、
さらに、前記塗布剤を塗布した前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナル若しくは表現する絵画の写真データを印刷する、及び/又は、手彩色する工程を含む絵画の製作方法。

【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の素材の製造方法により作成された素材を用いて、
さらに、
前記塗布剤を塗布した前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナルの背景又は表現する素材若しくは表現する基底材の写真データ又は他のデータを印刷する工程と、
その後、前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナル若しくは表現する絵画の写真データを印刷する、及び/又は、手彩色する工程と、
を含む絵画の製作方法。

【請求項9】
さらに、前記印刷する工程の後に、支持体の表面に、滲み止めのためドーサを引く工程を含む請求項7又は8に記載の絵画の製作方法。

【請求項10】
オリジナル又は表現する素材若しくは表現する基底材と同じ又は同様の織り目の絹又は麻の布又は天然の布を支持体として用い、前記支持体の裏面に、目止めのために接着剤で前記支持体が透き通る程度に薄い第1の紙を貼り、第1の裏打ちをする工程と、
前記第1の裏打ちをした前記支持体の裏面に、前記支持体の織り目の隙間を埋めるために、白色系顔料又は他の顔料を、膠又は他の接着剤の水溶液で溶いて水を加え、顔料を塗布する工程と、
前記顔料を塗布した前記支持体の裏面に、強度を増すために接着剤で前記第1の紙より厚い第2の紙を貼り、第2の裏打ちをする工程と、
前記支持体の表面に、インクの定着のための塗布剤を塗布する工程と、
により製造された素材。

【請求項11】
オリジナル又は表現する素材若しくは表現する基底材と同じ又は同様の織り目の絹又は麻の布又は天然の布を支持体と、
前記支持体の裏面に、目止めのために接着剤で前記支持体が透き通る程度に薄い第1の紙を貼り、第1の裏打ちが施された第1の層と、
前記第1の裏打ちをした前記支持体の裏面に、前記支持体の織り目の隙間を埋めるために、白色系顔料又は他の顔料を、膠又は他の接着剤の水溶液で溶いて水を加え、顔料を塗布した第2の層と、
前記顔料を塗布した前記支持体の裏面に、強度を増すために接着剤で前記第1の紙より厚い第2の紙を貼り、第2の裏打ちが施された第3の層と、
前記支持体の表面に、インクの定着のための塗布剤を塗布した第4の層と
を含む素材。

【請求項12】
請求項10又は11に記載の発明の結果物である素材を用いて、
さらに、前記塗布剤を塗布した前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナル若しくは表現する絵画の写真データを印刷する、及び/又は、手彩色することにより製作された絵画。

【請求項13】
請求項10又は11に記載の発明の結果物である素材を用いて、
さらに、
前記塗布剤を塗布した前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナルの背景又は表現する素材若しくは表現する基底材の写真データ又は他のデータを印刷し、
その後、前記支持体の表面に、インクジェットプリンタ又は他のプリンタで顔料インクを用いて、オリジナル若しくは表現する絵画の写真データを印刷する、及び/又は、手彩色する
ことにより製作された絵画。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−106361(P2012−106361A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255533(P2010−255533)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【特許番号】特許第4755722号(P4755722)
【特許公報発行日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(505372871)国立大学法人東京芸術大学 (3)
【Fターム(参考)】