説明

紡績機−ドラフト機構のための上ローラ

紡績機−ドラフト機構のための上ローラは軸(2)の上に回転可能に支承されたローラ体(4)を有し、軸(2)はローラ体(4)あたり、2つの球列(5,6)から形成された転がり軸受のために、表面質の高い2つの転動路(10,11)を有している。ローラ体(4)の一方の開口は蓋として構成されたカバー(15)で閉じられかつ反対側の開口はローラ体(4)と軸(2)との間のシール装置(14)で閉鎖されている。カバー(15)とシール装置(14)は、転がり軸受が周囲に対し気密にシールされ、耐用年限に亙るグリースストックの受容にとって十分である内室が転がり軸受の潤滑剤のために形成されてるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の上位概念の特徴を有する紡績機−ドラフト機構のための上ローラに関する。
【0002】
上ローラは繊維ドラフトのために紡績機−ドラフト機構において入口−出口−及びベルト−上ローラとして用いられる。
【0003】
DE−AS1164288号明細書には紡績機−ドラフト機構のための上ローラであって、2つのローラ体が共通の軸に回転可能に支承されているものが記載されている。内側でローラ体は互いに間隔をおいて配置された2つのシールフランジを有する、軸方向に可動なシール部材によって周囲に対しシールされている。両方のシールフランジと軸受外レースとの間にはシールギャップが残されている。このようなシール装置では汚染物、特に繊維屑がシールギャップを介して侵入することがある。したがって上ローラは侵入した汚染物を除去するために内室を確実に掃除することが簡単に可能になるように構成されている。
【0004】
DE19509055C1号明細書には紡績機−ドラフト機構のための双子型上ローラであって、一本の共通の一貫した軸の端部にそれぞれ2つの転がり軸受で支承された2つのローラ体を有している形式のものが開示されている。上ローラのアウタリングと呼ばれるローラ体は軸端部を越えて側方へ突出している。端面側にてローラ体はカバーを備え、該カバーは上ローラの円筒形外套の少なくとも1部を形成している。
【0005】
今日の球支承された上ローラの後潤滑時期は以前の構成に較べて著しく早められている。上ローラは約50000時間の運転時間のあとで、特にそれが入口又は出口ローラとして使用されている場合には、後潤滑されることが一般的である。入口又は出口ローラはベルトローラに較べて高い負荷で又は高い速度で運転される。ドラフト機構の上ローラはその使用場所とは無関係に通常は同じ構成を有している。したがって公知の構成の上ローラがベルトローラとして使用されると生涯潤滑として十分である潤滑作用を有しているが、この潤滑作用は入口ローラ又は出口ローラとして使用した上ローラの場合には生涯潤滑としては不十分である。後潤滑孔を有するように上ローラの閉鎖蓋を構成することは公知である。後潤滑孔により、適当な後潤滑装置を用いて簡単な形式で後潤滑を実施することができる。後潤滑インターバルをできるだけ大きく保つためには、軸受装置を良好にシールすることが望まれる。これはDE−AS1164288号又はDE19509055C1号明細書によって公知である摩擦の少ないギャップシールによって行なわれるか又は選択的に自動調整される摩擦する多重円板シール装置によって行なわれる。しかし、多重円板シール装置のためのいくらか良好であるシール作用のためには、著しく高い費用が必要とされる。後潤滑プロセスでは、ギャップシールの場合にも、摩擦する多重円板の場合にも、保守が誤って実施される危惧がある。誤まりは軸受装置への潤滑剤の過小供給でも、過大供給でもある。過大供給の場合には潤滑剤は過剰充填に基づきシールギャップを通って外へ出る。これは後潤滑プロセス自体に際して発生するか又は軸受が差込まれる際にグリースの縮充性によって軸受摩擦が高められることに基づき発生する。侵出した潤滑グリースはかなりの度合で汚染物と繊維を集合させる。上ローラが後潤滑の前に入念に掃除されないと、後潤滑プロセスによって汚染物も軸受装置に引込まれる。上ローラの運転条件は高い要求を潤滑剤に課する。
【0006】
十分な運転時間を達成するためにはコスト高の特殊グリースの使用が必要である。誤まりを含んだ保守又は不適切な保守は、前述の欠点の他に、潤滑剤の多分な使用、ひいては不要に高められた保守費用の原因になる。
【0007】
本発明の課題は公知の上ローラを改良することにある。
【0008】
この課題は本発明によれば請求項1の特徴によって解決された。
【0009】
本発明の有利な構成は従属請求項の対象である。
【0010】
転動路の高い表面質は十分な潤滑と相俟って球と転動路との間の摩滅による転がり軸受の汚染を低減させる。軸の自由端部におけるローラ体の開口を常時閉じるカバーと、ローラ体の他方の端部における本発明によるシール装置とは、一方ではローラ体の内室をローラ体の周囲からの汚染物の侵入に対し気密にシールし、他方では液状の潤滑剤構成部分の侵出を防止する。侵出する潤滑剤が軸の上又はローラ体の上に分配され、それに付着する汚染物又は塵を集合するという欠点は、これによって除かれる。このシール装置自体は大きなスペースはとらない。これによって潤滑剤、特に潤滑グリースのためのスペースが与えられる。これにより、ローラ体の他方の端部に向かって配置された球列の両側には、転がり転受の生涯潤滑のために十分な潤滑剤が準備される。本発明の構成では潤滑剤のストックは十分な量で球列のそれぞれすぐ近くにて計量されて調量分配される。これによって生涯潤滑としての潤滑剤の作用が保証される。
【0011】
本発明によるシールはローラ体の内孔によって形成された反応シール面への緊密な接触を可能にする。内部への押込み、特にシールを組込む場合の押込みは容易になる。
【0012】
請求項3の構成によって、外側にあるシールリップは、ローラ体の内孔によって形成された対応シール面に面取り部の形成なしでかつギャップなしで接触するので、シールと対応シール面の接触個所に繊維又は汚染物が捕らえられかつローラ体の内部に置かれた転がり軸受に侵入することはなくなる。
【0013】
請求項4によるL字形の金属製の保持体によって、シール装置の組込み、安定性及び耐用性は改善される。
【0014】
請求項5による保持体に加硫結合された摩擦の少ないシール材料又は請求項6による保持体の上に吹き付けられたシール材料によっては、特に耐久性でかつ確実な構成が得られる。
【0015】
粗さ深さが0.2μmの値を越えない転動路の表面質は、転がり軸受の少ない摩滅と長い耐用年限とを可能にする。
【0016】
請求項8によるカバーは小さな壁厚さで構成可能で、汚染物又は繊維のいかなる侵入をも阻止する。
【0017】
上ローラのカバーの端面がローラ体の端面に対して引っ込むようにカバーがローラ体内に位置決めされた上ローラは、ローラ体の端面で垂直に安定した状態で載置可能である。
【0018】
本発明の上ローラによって生涯潤滑はベルトローラに較べて高い、入口ローラ又は出口ローラが晒される負荷及び速度でも保証される。後潤滑のために一般的であった保守費用は必要ではなくなった。これにより、不要になった保守作用と潤滑剤とのコストは節減される。
【0019】
生涯潤滑に十分な潤滑剤のストックは上ローラの組立に際して球列の位置に関連して好適に分配されることができる。後潤滑に際してサービス従業員が冒す保守ミス、例えば軸受の過剰潤滑又は上ローラの内室への汚染物の引込みは排除される。
【0020】
本発明によるシール装置はコスト的に好適に製作可能でかつ簡単にかつ容易に組立可能である。
【0021】
上ローラの本発明の構成の利点は、例えば後潤滑孔を有する一般的なカバーと公知の調整可能な多重円板シールとに較べて高い費用を必要としないことである。
【0022】
本発明の更なる詳細は図示の実施例に開示されている。
【0023】
図1は上ローラを部分的に断面した斜視図。
【0024】
図2は上ローラの1部の断面図。
【0025】
図3はシール装置の拡大断面図。
【0026】
図1の実施例に示された上ローラ1は中央部3が径減された軸2を有している。中央3において上ローラ1は簡易化を理由に図示されていない保持アームにより使用中に保持される。軸2の端部にはそれぞれ1つのローラ体4が回転可能に配置されている。このためにローラ体4は2つの球列5,6によって支承されている。球列5,6の球7はスナップケージとして構成された球軸受ケージ8,9により案内されかつ軸2に形成された転動路10,11の上を移動する。球列6のためにはローラ体4の内孔に付加的に、図2に示されているように転動路12が形成されている。付加的な転動路12によって球列6の球7により、ローラ体4における転動路10と協働して、両方向に発生する軸方向力が吸収される。
【0027】
ローラ体4の内室13は、中央部3に向かう側ではシール装置14により閉鎖されかつ軸2の端部における側では蓋として構成されたカバー15によって気密に閉鎖されている。カバー15には後潤滑開口は設けられていない。カバー15は外周に部分的に隆起部16を有し、該隆起部16でカバー15はローラ体4の内孔の環状の溝1つに係合している。このような形式で保守作業によって損なわれたり又は一時的に妨げられたりしないカバーの確実な着座並びに良好なシール作用が達成される。
【0028】
シール装置14はL字形に構成されたリング状の金属製の保持体18並びに弾性的なシール19を有している。該シール19は保持体18に解離不能に加硫された弾性的な摩擦の小さいシール材料から成っている。シール19の外径Dは図3に示されているように、ローラ体4の内径Dよりも僅かに小さい。シール19は外径にシールリップ尖端20,21を有し、該シールリップ尖端20、21はシール装置14の稼動位置でシール被覆作用及びシールリップ予負荷作用を発揮する。シール19の端面はローラ体4の内孔の表面に対し垂直に延在するかもしくはシール装置14の回転軸線並びに軸2の回転軸線に対し垂直に位置している。
【0029】
上ローラ1を組立てる際には、シール装置14はまずローラ体4の軸受を越えて軸2の上に被せ嵌められる。この状態でローラ体4は球列5,6を取付けるために傾けられる。まだ開放されている軸受を介して潤滑剤、例えば特殊グリースが両方の球列5,6の領域とシール19の接触面の領域とに空気がせき止められることなく分配されるかもしくは付与され得るように供給されたあとで、シール19が稼動位置へ押込まれる。この稼動位置は図1と2とに示されている。シール19はU字形に構成され、これにより端面側を環状に延びる溝26が形成されている。シール19のU字形の形状とその配向はシール装置14を組立てる場合にロータ体4へのシールリップ22の滑り込みを容易にする。その他にシール19はローラ体4の内孔の表面24に僅かではあるが十分な半径方向の押圧力で接触する。
【0030】
シール19はU字形に形成されたシールリップ22の外側の脚部でローラ体4の内孔に接線方向で接触する。ローラ体4の内孔の表面24はシール19と協働するシール面として作用する。シール装置14を上ローラ1内へ組込んだあとのローラ体4の内孔の表面24の位置及び軸2の表面23の位置は図3においてそれぞれ一点鎖で示されている。シール19のシールリップ22とローラ体4の内孔の表面24との間並びにシールリップ尖端20,21の間には室25が形成されている。シールリップ尖端20,21を有するシール装置14の構成は、ローラ体4の内部への汚染物侵入並びに潤滑剤の侵出に対する効果的に改善され保護を可能にする。
【0031】
本発明によって構成されたドラフト機構の上ローラ1は生涯潤滑のために十分である潤滑を備えた入口又は出口ローラとしても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】上ローラを部分的に断面した斜視図。
【図2】上ローラの1部分の断面図。
【図3】シールの拡大断面図。
【符号の説明】
【0033】
1 上ローラ
2 軸
3 中央部
4 ローラ体
5,6 球列
7 球
8,9 球軸受ケージ
10,11 転動路
12 転動路
13 内室
14 シール装置
15 カバー
16 隆起部
17 溝
18 保持体
19 シール
20,21 シール尖端
22 シールリップ
23 表面
24 表面
25 室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡績機−ドラフト機構における入口ローラと出口ローラとのための上ローラであって、静止している軸の上に回転可能に支承された複数のローラ体を有し、前記軸が中央だけで保持されておりかつ前記ローラ体で表面精度の高い2つの転動路を、2つの球列から形成された1つの転がり軸受のために有しておりかつ前記軸の自由端部において前記ローラ体の端面側の開口を閉鎖するカバーと、ローラ体の他方の端部にてローラ体と前記軸との間だけで作用するシール装置とを有している形式のものにおいて、転がり軸受が周囲に対しシールされ、耐用年限に亙るグリースのストックに十分である大きさの内室が転がり軸受の潤滑剤のために形成されるように、前記カバー(15)と前記シール装置(14)が構成され、前記シール装置(14)のシール(19)が弾性的なシールリップ(22)を有し、該シールリップ(22)がわずかな押圧力で接線方向で前記ローラ体(4)の内孔に接触することを特徴とする、紡績機−ドラフト機構の上ローラ。
【請求項2】
前記シール装置(14)が端面側に環状に延在する溝(26)を有するシール(19)を有している、請求項1記載の上ローラ。
【請求項3】
前記シールリップ(22)の外周に環状に延在するウェブ状のシールリップ尖端(20,21)が成形され、前記シールリップ(22)の、転がり軸受とは反対側の端面と該シールリップ(22)の縁部に配置されたシールリップ尖端(21)の側面とが、ローラ体(4)の内孔の表面に対し垂直に延在している、請求項2記載の上ローラ。
【請求項4】
前記シール装置(14)がL字形の金属製の保持体(18)を有し、該保持体(18)が軸(2)の上に差嵌め可能でありかつこの保持体(18)に前記シール(19)が固定的に結合されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の上ローラ。
【請求項5】
前記シール(19)が前記保持体(18)に加硫結合された摩擦の小さいシール材料から成っている、請求項4記載の上ローラ。
【請求項6】
前記シール(19)が前記保持体(18)の上に吹き付けられた摩擦の小さいシール材料から成っている、請求項4記載の上ローラ。
【請求項7】
前記転動路(10,11,12)の表面質が、粗面深さRaにおいて0.2μmの値が越えられないように構成されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の上ローラ。
【請求項8】
前記カバー(15)が貫通する開口なしで構成されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の上ローラ。
【請求項9】
前記カバー(15)の端部がローラ体(4)の端面に対し後退するように、該カバー(15)がローラ体(4)に配置されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の上ローラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2008−500499(P2008−500499A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513712(P2007−513712)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003928
【国際公開番号】WO2005/116312
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(505009715)テクスパーツ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (8)
【氏名又は名称原語表記】TEXParts GmbH
【住所又は居所原語表記】Maria−Merian−Strasse 8, D−70736 Fellbach, Germany
【Fターム(参考)】