説明

紡績機

【課題】紡績機における構成機器の取り扱いやメンテナンスをなどを簡便化し、さらに、新規なケンスの交換作業を迅速に行なって紡績機の生産性を向上する。
【解決手段】機台1の前面にケンス10を収容する格納部7と、紡績機器が配置される機器配置部8とを設ける。機器配置部8における紡績機4の糸道Rを、第1糸道R1と、第2糸道R2と、第3糸道R3とでN字状に構成する。糸道Rに沿って、紡績機器を配置する。格納部7には、紡績機4のドラフト処理部12へ向かって送出されるスライバSを収容するケンス10と、新規なスライバSを収容するケンス10とを左右に隣接する状態で格納する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライバを延伸処理するドラフト処理部と、延伸処理されたスライバに撚りをかける空気紡績部と、得られた紡績糸を巻き取ってパッケージを形成する巻取部などを備えている紡績機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の紡績機は、例えば特許文献1に公知である。そこでは、スライバを収容するケンス、ドラフト処理部、空気紡績部、デリベリローラ、巻取部などの各機器を、機台の下方から上方へ向かう糸道に沿って直線状に配置して、紡績機を構成している。
【0003】
【特許文献1】国際公開第06/122605号パンフレット(図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、紡績用の各機器を糸道に沿って直線状に配置する紡績機においては、スライバからパッケージに至る糸道の全長が長くなる。そのため、機台の上面がオペレータの身長より高くなり、オペレータが頭よりも上方へ手を上げたとしても、紡績機の上部に配置された巻取部に手が届かないことがあった。こうした状況では、巻取部のパッケージの取り扱いやメンテナンスを行なう際に、オペレーターは作業台を他所から運び込む必要があり、その結果、パッケージの取り扱いやメンテナンス作業の作業性に劣り、紡績作業の効率を向上するうえで限界があった。
【0005】
従来の紡績機においては、機台の長手方向に沿って一群の紡績機を一定間隔おきに隣接配置する関係で、スライバを収容するケンスは、機台の下部の格納部に個々の紡績機に対応して1個ずつ格納してある。また、交換用の新規なケンスは、ほかに載置する場所もないことから、多くの場合はオペレータ用の通路に載置してある。そのため、新規なケンスがオペレータが移動するときの邪魔になる。さらに、ケンスを交換する場合には、旧ケンスを収容部から取り出し、新規なケンスを該当する収容部まで移送して格納する必要があり、一連の交換作業に多くの手間と時間を要していた。
【0006】
上記のように、新規なケンスの交換作業に手間取ると、一群の紡績機を停止待機させている時間が長引き、紡績機全体の生産性が低下してしまう。近年の紡績機はますます高速化される傾向にあるため、スライバの単位時間当たりの消費量が大であり、その分ケンスの交換頻度が増加する傾向にある。したがって、ケンスの交換作業を短時間で行なえる紡績機の開発が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、紡績機における構成機器の配置パターンを再検討することにより、各機器の取り扱いやメンテナンスをなどを簡便に行なえるようにし、以て全体装置の作業効率を向上できる紡績機を提供することにある。本発明の目的は、新規なケンスの交換作業を迅速に行なって、全体装置の生産性を著しく向上できる紡績機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における紡績機は、ドラフト処理部と、空気紡績部と、巻取部などの各機器を含んで構成してある。機台の前面に、スライバを収容するケンスが格納される格納部と、前記各機器が糸道に沿って配置される機器配置部とを設ける。機器配置部における糸道は、機器配置部の一側に配置されて格納部の上方へ延びる第1糸道と、第1糸道に連続して、機器配置部の一側上部から他側下部へ向かって斜め下向きに反転案内される第2糸道と、機器配置部の他側下部から上方へ延びる第3糸道とで構成する。本発明における糸道は、全体がN字やZ字などに構成してある場合や、全体がN字やZ字などの鏡文字状に構成してある場合、さらにN字やZ字を構成する縦横の文字要素、および縦横の文字要素を繋ぐ斜めの文字要素が3次元空間内で連続している場合のいずれをも含むこととする。
【0009】
前記紡績機において、格納部はスライバを収容するケンスを少なくとも2つ格納するように構成される。
【0010】
格納部に、ドラフト処理部へ向かって送出されるスライバを収容するケンスと、新規なスライバを収容するケンスとを、左右に隣接する状態で格納する。
【0011】
第1糸道に沿って配置される機器は、少なくともドラフト処理部と、空気紡績部と、第1変向ガイドとを含む。第3糸道に沿って配置される機器は、少なくとも第2変向ガイドと、巻取部とを含む。第1変向ガイドと第2変向ガイドとの間に第2糸道を設ける。
【0012】
第1糸道の下流側に、第1反転ガイドを兼ねるデリベリローラを配置する。第3糸道の上流側に、第2反転ガイドを兼ねる糸貯留装置を配置する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の紡績機においては、機台の機器配置部における糸道を、上方へ延びる第1糸道と、斜め下向きに反転案内される第2糸道と、上方へ延びる第3糸道とで例えばN字状やZ字状等に構成し、糸道に沿って紡績機の構成機器を配置した。このように、糸道の全体をN字状やZ字状等に構成すると、第3糸道を第1糸道と同じ高さ範囲内に位置させた分だけ機台1の上下長を低くできるので、オペレーターは各機器の取り扱いやメンテナンスを、各機器に正対する状態で簡便に、しかも的確に行なうことができる。また、各機器の取り扱いやメンテナンスを簡便化できる分だけ、紡績機を稼動するときの作業効率を向上し、生産性を向上できる。さらに、糸道の全体をN字状やZ字状等に構成することにより、従来の紡績機に比べて機台全体の高さを低くすることができる。その結果、自動ワインダーの玉揚装置を共有化することが可能となる。
【0014】
紡績機に、格納部がスライバを収容するケンスを少なくとも2つ格納できるように構成してあると、ケンスの交換頻度を減少できる。したがって、スライバの消費量が大きな高速化された紡績機であっても支障なく対応できる。
【0015】
個々の紡績機ごとに、旧ケンスと新規なケンスとを格納部に収容しておくと、新規なケンスの交換作業をより少ない手間で迅速に行なうことができる。さらに、ケンスの交換作業を短時間で行なえる分だけ、一群の紡績機が停止待機している時間を削減して、紡績機全体の生産性を大幅に向上できる。また、補給用の新規なケンスがオペレータ用の通路に置かれるのを一掃できるので、オペレータは各機器の取り扱いやメンテナンスを楽にしかも的確に行なうことができる。
【0016】
ドラフト処理部と、空気紡績部と、第1変向ガイドとを第1糸道に沿って配置し、第2変向ガイドと巻取部を第3糸道に沿って配置する紡績機によれば、紡績機を構成する主要機器を上下方向に連続する直線状の第1糸道および第3糸道に配置できる。つまり、直線状の第1糸道および第3糸道に先の主要機器を集約配置して、主要機器をオペレーターと正対させることができるので、主要機器の部品交換や調整などのメンテナンス作業などをより的確に行なえる。また、紡績糸を第1変向ガイドと第2変向ガイドで反転案内して糸道を例えばN字状やZ字状等に構成することにより、各変向ガイドを通過する紡績糸に無理な力が作用するのを防止して、一連の紡績作業を円滑に行なうことができる。
【0017】
第1糸道の下流側に第1反転ガイドを兼ねるデリベリローラを配置すると、デリベリローラの駆動状態を制御して、適度のテンションを付与した状態で紡績糸を第2糸道側へ送給できる。また、第1変向ガイドを省略できる分だけ、紡績機の構造を簡素化して、その製造コストを削減できる。
【0018】
第3糸道の上流側に第2反転ガイドを兼ねる糸貯留装置を配置すると、糸貯留装置の駆動状態を制御して、適度のテンションを付与した状態で紡績糸を第3糸道へ送給できる。また、第2変向ガイドを省略できる分だけ、紡績機の構造を簡素化して、その製造コストを削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施例) 図1ないし図3は本発明に係る紡績機の実施例を示す。本発明における前後とは、各図において紙面の手前側を前、紙面の奥行き側を後とし、左右、上下とは、図2に示す交差矢印と左右、および上下の表示に従うものとする。図2において紡績装置は、左右横長の機台1と、機台1の一側端に配置される原動機ボックス2と、機台1の他側端に配置されるブロワボックス3と、機台1の前面に沿って直線列状に隣接配置される一群の紡績機4などで構成してある。機台1の前面の下部には、ケンス10を収容する格納部7が設けてあり、機台1の前面の上部には、紡績機4を構成する各機器を配置するための機器配置部8が設けてある。
【0020】
機器配置部8における紡績機4の糸道Rは、第1糸道R1と、第2糸道R2と、第3糸道R3との三者でN字状に構成する。図3に示すように、第1糸道R1は、機器配置部8の左側に配置されて格納部7の上方へ延びる糸道からなる。第2糸道R2は、第1糸道R1に連続して、機器配置部8の左側上部から右側下部へ向かって斜め下向きに反転案内される糸道からなる。第3糸道R3は、第2糸道R2に連続して、機器配置部8の右側下部から上方へ延びる糸道からなる。なお、第1糸道R1および第3糸道R3は、厳密には上下方向の直線ではなく、中途部で前後あるいは左右へ屈曲する状態で連続する概ね直線状の屈曲線からなる。とくに、第3糸道R3においては、糸道が綾振ドラム28のトラバース幅の分だけ左右方向へ変化するが、トラバース幅の中央を糸道の代表とみなすこととする。
【0021】
格納部7は、機台1の前面に向かって開口する直方体状の空間からなり、その内部には、後述するドラフト処理部12へ向かって送出されるスライバSを収容するケンス10と、新規なスライバSを収容するケンス10とが、左右に隣接する状態で格納してある(図1参照)。各ケンス10は、従来の紡績機において使用されていたケンスと同じサイズである。したがって、機台1において各紡績機4が占める左右幅、あるいは機器配置部8の左右幅は、従来の紡績機が占める左右幅の2倍前後となる。先に説明した各糸道R1〜R3は、左右幅が大きな機器配置部8に充分な余裕を持った状態でN字状に配置される。
【0022】
紡績機4は、スライバSを収容するケンス10と、スライバガイド11と、ドラフト処理部12と、空気紡績部13と、デリベリローラ14と、糸貯留装置15と、ヤーンクリアラ17と、巻取部18とを備える。ケンス10は上面が開口する円筒状、あるいは角筒状の容器からなり、その内部に紡績糸Yの形成素材となる綱状のスライバSが収容してある。上記の各機器11〜18のうち、スライバガイド11と、ドラフト処理部12と、空気紡績部13と、デリベリローラ14が、第1糸道R1に沿って記載順に配置してある。また、糸貯留装置15と、ヤーンクリアラ17と、巻取部18とが第3糸道R3に沿って記載順に配置してある。
【0023】
図3に示すようにドラフト処理部12は、それぞれスライバSを間に挟む、バックローラ21と、サードローラ22と、エプロンベルトが巻き掛けられたセカンドローラ23と、フロントローラ24などのローラ対で構成する。スライバSは、各ローラ21〜24を通過する間に延伸されて繊維束に加工され、空気紡績部13へと送給される。
【0024】
空気紡績部13には、旋回気流を形成する空気紡績ノズルと中空ガイド軸体が組み込んであり、これら両者の協同作用によってドラフト処理部12から送給された繊維束に旋回気流を吹き付けて紡績糸Yを形成する。空気紡績部13で形成された紡績糸Yは、第1変向ガイドを兼ねるデリベリローラ14で斜め下向きに反転案内されて第2糸道R2へと送出される。符号26はデリベリローラ14と協同して紡績糸Yを挟持するニップローラであり、これら両者14・26で紡績糸Yを送り操作している。
【0025】
第2糸道R2から移行してきた紡績糸Yは、第2変向ガイドを兼ねる糸貯留装置15で上向きに反転案内されたのち、ヤーンクリアラ17を経て糸欠陥の有無が確認される。巻取部18は、紡績糸Yを一定の幅範囲で左右にトラバース操作する綾振ドラム28と、パッケージPの巻芯29を回転駆動するクレードル(図示していない)などで構成する。
【0026】
以上のように、機器配置部8における糸道Rを第1糸道R1と、第2糸道R2と、第3糸道R3との三者でN字状に構成し、第1糸道R1および第3糸道R3に沿って各機器を配置する紡績機4によれば、機台1の上下長を低くすることができる。具体的には、第3糸道R3を第1糸道R1と同じ高さ範囲内に位置させた分だけ、機台1の上下長を低くできる。これにより、機台1の上面が平均的なオペレータの身長を越えるのを確実に防止でき、したがって、オペレーターは各機器の取り扱いやメンテナンスを、各機器に正対する状態で簡便に、しかも的確に行なうことができる。とくに、最上端に位置するパッケージPの取り出し、および巻芯29の交換、あるいは綾振ドラム28のメンテナンスを的確に行なえ、全体として紡績機4を稼動するときの作業効率を向上することができる。
【0027】
また、個々の紡績機4ごとに、旧ケンス10と新規なケンス10とを格納部7に収容しておくので、新規なケンス10の交換作業をより少ない手間で迅速に行なうことができる。さらに、ケンス10の交換作業を短時間で行なえる分だけ、一群の紡績機4が停止待機している時間を削減して、紡績機全体の生産性を大幅に向上できる。なお、ケンス10の交換に伴なって格納部7から取り出された空状態のケンス10は、スライバSを補給する部署へと返却され、新規なケンス10が格納部7に補給される。したがって、新規なケンス10がオペレータ用の通路に置かれることもなく、先に説明した各機器の取り扱いやメンテナンスを、楽な姿勢で的確に行なうことができる。
【0028】
デリベリローラ14を第1変向ガイドとして利用し、さらに、糸貯留装置15を第2変向ガイドとして利用するので、デリベリローラ14あるいは糸貯留装置15の駆動状態を制御して、適度のテンションを付与した状態で紡績糸Yを送給できる。また、第1変向ガイドと第2変向ガイドを別途設ける必要がないので、その分だけ紡績機4の構造を簡素化して、製造コストを削減できる利点もある。
【0029】
上記の実施例におけるデリベリローラ14は省略することができ、その場合には第1糸道R1の上端に、デリベリローラ14に換えて第1変向ガイドを設けるとよい。同様に、上記の実施例における糸貯留装置15は省略することができ、その場合には第3糸道R3の下端に、糸貯留装置15に換えて第2変向ガイドを設けるとよい。第1変向ガイドおよび第2変向ガイドは、それぞれ回転自在なローラや、紡績糸Yを変向案内する固定支持された丸軸状のガイド棒などで構成することができる。
【0030】
上記の実施例における糸貯留装置15は円筒状に形成され、その外周面に糸を螺旋状に巻き付けて貯留する。しかし、その必要はなく他の形態の糸貯留装置を適用することができる。例えば、エアーで糸を貯留するスラックチューブを糸貯留装置とすることができる。但し、その場合には、変更ガイドとして先に説明したようなローラやガイド棒などの専用部品を付加する必要がある。
【0031】
上記の実施例以外に、紡績機4を構成する機器の一部は、第2糸道R2に沿って配置することができる。糸道RはN字状に構成する以外に、Nの斜体文字状に構成でき、さらにN字あるいはNの斜体文字の鏡文字状に構成できる。格納部7には、2個以上のケンス10を格納してもよい。ドラフト処理部12は、4個のローラー対で構成する必要はなく、3個のローラー対で構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】紡績機の正面図である。
【図2】紡績装置の正面図である。
【図3】紡績機における糸道の構造および機器配置を示す正面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 機台
4 紡績機
7 格納部
8 機器配置部
10 ケンス
12 ドラフト処理部
13 空気紡績部
18 巻取部
S スライバ
Y 紡績糸
R 糸道
R1 第1糸道
R2 第2糸道
R3 第3糸道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフト処理部と、空気紡績部と、巻取部などの各機器を含んで構成してある紡績機であって、
機台の前面に、スライバを収容するケンスが格納される格納部と、前記各機器が糸道に沿って配置される機器配置部とが設けられており、
前記機器配置部における前記糸道が、
前記機器配置部の一側に配置されて、前記格納部の上方へ延びる第1糸道と、
前記第1糸道に連続して、前記機器配置部の一側上部から他側下部へ向かって斜め下向きに反転案内される第2糸道と、
前記機器配置部の他側下部から上方へ延びる第3糸道とで構成されている紡績機。
【請求項2】
前記格納部が、スライバを収容する前記ケンスを少なくとも2つ格納するように構成してある請求項1に記載の紡績機。
【請求項3】
前記格納部に、前記ドラフト処理部へ向かって送出されるスライバを収容するケンスと、新規なスライバを収容するケンスとが、左右に隣接する状態で格納してある請求項2に記載の紡績機。
【請求項4】
前記第1糸道に沿って配置される機器が、少なくとも前記ドラフト処理部と、前記空気紡績部と、第1変向ガイドとを含み、
前記第3糸道に沿って配置される機器が、少なくとも第2変向ガイドと、前記巻取部とを含み、
前記第1変向ガイドと、前記第2変向ガイドとの間に前記第2糸道が設けてある請求項1、2または3に記載の紡績機。
【請求項5】
前記第1糸道の下流側に、第1反転ガイドを兼ねるデリベリローラが配置してある請求項4に記載の紡績機。
【請求項6】
前記第3糸道の上流側に、第2反転ガイドを兼ねる糸貯留装置が配置してある請求項4または5に記載の紡績機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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