紡績糸およびそれを用いてなる繊維製品
【課題】極細繊維を用いた紡績糸及び該紡績糸を供給するための前駆体としてのポリマーアロイ繊維を用いた紡績糸を提供する。
【解決手段】島が難溶解性ポリマーから、海が易溶解性ポリマーからなる海島構造を示し、該易溶解性ポリマーのブレンド比が10〜90重量%、島の数平均直径が1〜500nmであるポリマーアロイ繊維を少なくとも一部に含んでなる紡績糸。
【解決手段】島が難溶解性ポリマーから、海が易溶解性ポリマーからなる海島構造を示し、該易溶解性ポリマーのブレンド比が10〜90重量%、島の数平均直径が1〜500nmであるポリマーアロイ繊維を少なくとも一部に含んでなる紡績糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノサイズで均一に分散した島を有するポリマーアロイ繊維とその他の繊維からなる紡績糸またそれを使用した繊維製品、さらにこれから得られる極細繊維とその他の繊維からなる紡績糸を用いた繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紡績糸は通常数十mm、長くても数百mm程度の有限長さの単繊維(原綿)を数十本以上平行に集合させて撚りをかけたり、空気などで結束させて糸条を形成しているのが通常用いられている姿である。せいぜい、長繊維との複合紡績糸までである。
【0003】
このとき同じ番手や撚数の紡績糸を使用し、同じ設計や加工の繊維製品を形成する場合、当然ながらもとの原綿の繊度が細ければ細いほど微細なタッチの風合いを再現することが可能となる。たとえば綿番手40s、22回/インチ(25.4mm)の撚り数の紡績糸で経110本、緯76本のゾッキ織物を形成する場合においても、紡績糸を形成する原綿の繊度が2dtexの場合と1dtexの場合とでは、1dtexの原綿を使用した紡績糸の方が微細なタッチの風合いを発現できる。
【0004】
ただし、従来技術においては紡績糸を用いた繊維製品を形成するのには原綿の単繊維繊度を細くする範囲に限界があった。
【0005】
まず、直接紡糸による原綿を使用して紡績する場合は単繊維繊度が0.4dtex程度を下回ると、繊維長4インチ(102mm)以下では一般的に使用するカード工程でシリンダー巻付きを起こすために紡績糸形成前の中間体であるスライバーの紡出すら困難になる。一方、繊維長4インチ以上の場合はカードではなく、綿状にカットする前の数万本〜数十万本でトータル繊度数十万〜数百万dtex相当の繊維集合体(トウ)を牽切方式にて引きちぎる方法によってスライバーを製造し、該スライバーから紡績糸を作る方法が一般的であるが、この場合も単繊維繊度が1.1dtex程度を下回ると、トウを形成する繊維本数が多くなるために牽切そのものが困難になる。トウのトータル繊度を落とすことである程度対応可能になるが、生産性が大幅に低下するなど、実用的ではない。
【0006】
上記の問題を解決する方法として、溶解性の異なる複数の成分を用いた複合紡糸による原綿を使用して紡績糸を製造し、糸や布帛になってから易溶解性ポリマーを溶解したり、それら複数成分を剥離させて分割し、単繊維繊度を極細にすることによって微細なタッチを狙う方法もある(特許文献1〜3)。ただし、ここにおける溶解または分割後の極細繊維の単繊維繊度とは細くとも0.1dtex以上(繊維直径3μm以上)であるが、この繊度の場合、溶解または分割後に繊維同士の静摩擦による拘束力がなくなるために、単繊維が抜け落ちてしまい、糸として実用に耐えないといった商品化にとっては致命的な問題があった。
【0007】
一方、特許文献4には、単繊維繊度が0.1×10−6〜500×10−6dtexのナノファイバーと単繊維繊度0.001〜0.1dtexの混繊糸が開示されているが、混繊糸である故、紡績糸のメリットは得られないものであった。
【特許文献1】特開平5−51821号公報
【特許文献2】特開平11−256449号公報
【特許文献3】特開2004−255023号公報
【特許文献4】特開2005−23466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、紡績に使用する原綿において、単繊維繊度をより細くしても十分な強度を持ち、実用に耐える紡績糸を得るためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0010】
(1)島が難溶解性ポリマーから、海が易溶解性ポリマーからなる海島構造を示し、該易溶解性ポリマーの難溶解性ポリマーに対するブレンド比が10〜90重量%、島の数平均直径が1〜500nmであるポリマーアロイ繊維を少なくとも一部に含んでなる紡績糸。
【0011】
(2)番手が3s〜100sであることを特徴とする前記(1)に記載の紡績糸。ただし、番手とは綿番手表示である。
【0012】
(3)撚係数KがK=2〜8であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の紡績糸。
ここに撚数Tと撚係数Kの関係は以下に表すとおりである。
撚数T(回/25.4mm)=撚係数K × (綿番手)0.5
(4)ポリマーアロイ繊維の難溶解成分と染色性の異なる繊維を混紡した請求項1〜3のいずれかに記載の紡績糸。
【0013】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の紡績糸からポリマーアロイ繊維の易溶解性ポリマーを溶解して得られた紡績糸。
【0014】
(6)番手が3.3s〜1000sであることを特徴とする前記(5)に記載の紡績糸。
【0015】
(7)撚係数KがK=0.1〜8.0であることを特徴とする前記(5)または(6)に記載の紡績糸。
【0016】
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の紡績糸を使用してなることを特徴とする繊維製品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、これまでのような細くても0.1dtex(繊維直径で3μm程度)までの原綿では得ることができなかった新たな紡績糸の製造が可能となる。
【0018】
本発明により、これまでにない細さの極細繊維の静摩擦を活用によって、易溶解成分溶解後もばらけることのない紡績糸およびそれを用いた布帛を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明は、島が難溶解性ポリマーから、海が易溶解性ポリマーからなる海島構造を有するポリマーアロイ繊維を少なくとも一部に含む紡績糸であって、易溶解性ポリマーを溶解することにより紡績糸を構成する繊維の単繊維繊度を細くし、極細繊維を含む紡績糸を得られるものである。
【0021】
海島構造を有するポリマーアロイ繊維における海成分の易溶解性ポリマーの島成分の難溶性ポリマーに対するブレンド比は10〜90重量%であることが好ましい。易溶解性ポリマーのブレンド比を10重量%以上とすることで安定した紡糸条件を得られ、90重量%以下とすることで極細糸の生成効率を高くすることができるためである。より好ましくはブレンド比が50〜80重量%である。このとき島成分の数平均直径は1〜500nmであることが必要である。
【0022】
仮に、直径500nm以下の極細繊維(以下、ナノファイバーともいう)を複合紡糸ではなく直接紡糸によって得られたとしても、これをカットした原綿を直接カードにかけたり、カット前のトウを牽切方式でカットしてスライバーを紡出すること自体があまりにも困難である。
【0023】
カードにかけるには糸鋸状のメタリックワイヤで原綿を開繊できることが前提であるが、通常は繊度が細くなるほど開繊性をあげるためにワイヤも目の細かいものを使用する必要がある。極端に単繊維繊度が細い原綿に対応するにはワイヤも細かくする必要があるため、直接紡糸による原綿を使用するのは実用的ではない。
【0024】
同様に直径500nm以下の繊維から形成されるトウをカットする場合においては、カット自体が2対のローラに挟んで牽引することで行うため、均一にカットするにはトウを形成する各繊維を均一に平面状に並べる必要がある。単繊維繊度が極端に細いトウは、均一に並べることや、その状態を直接管理することは困難を極める。
【0025】
したがって、ポリマーアロイ繊維による原綿を用いて通常の紡績方法によって紡績を行い、後から易溶解成分を溶解してナノファイバーとする方が製造方法として容易であり、かつその際にナノファイバーの特長も損なわずにすむ。
【0026】
難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーのブレンド品による繊維やそれを用いた紡績糸、あるいはそれを用いた繊維製品も多数の例があるが、溶解後の直径が500nmを超える繊維では繊維間の隙間が大きく、静摩擦が不足して紡績糸としての糸条形態を保持できずに糸がバラバラになってしまう。また、易溶解性ポリマー溶解前に織編物を作って糸を拘束したとしても同様であり、溶解後に繊維間に隙間が生じ、繊維間の静摩擦が減少するため、手で擦る程度の摩擦でも繊維が抜け落ち、商品としての実用性を損なってしまう。しかし、易溶解性ポリマー溶解後の隙間が500nm以下であれば、同素材で同番手の紡績糸を作っても各繊維の表面積が膨大に増える分、繊維間の静摩擦が十分に働くので繊維同士の抜けの発生なく、紡績糸の強力も従来より向上する。
【0027】
また、静摩擦が十分に生きているため、従来のような0.1dtex(3μm)以上の直接紡糸による繊維を用いた紡績糸では得られなかった甘撚紡績糸も製造が可能となる。さらには溶解後の表面積が膨大に増えるため、吸水性や保水性が格段に向上する。
【0028】
一方、溶解後の繊度が1nm未満の場合は、繊維の表面積が大きくなりすぎるため、染色するにも多量の染料を必要とするほか、表面積が増える分、可視光線まで乱反射を起こすため、濃色展開が困難になる。そのため、特に多様な色展開を要求される衣料用途においては致命的なため、あまり細すぎる繊度も適切ではない。
【0029】
本発明で用いるポリマーアロイ繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下のような方法を採用することができる。
【0030】
すなわち、2種類以上の溶剤に対する溶解性の異なるポリマーをアロイ化したポリマーアロイ溶融体となし、これを紡糸した後、冷却固化して繊維化する。そして必要に応じて延伸・熱処理を施しポリマーアロイ繊維を得る。そして、このポリマーアロイ繊維は易溶解性ポリマーを溶剤で除去し、難溶解性ポリマーを残すことによりナノファイバーを得ることができる。
【0031】
ここで、ナノファイバーの前駆体であるポリマーアロイ繊維中では易溶解性ポリマーが海(マトリックス)、難溶解性ポリマーが島(ドメイン)となし、その島サイズを制御することが重要である。ここで、島サイズは、ポリマーアロイ繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)観察し、直径換算で評価したものである。具体的には、TEM(透過型電子顕微鏡)による繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて島直径の円換算による直径を求めるものである。なお、島の数平均直径は同一横断面内で無作為抽出した100個を測定し、数平均を求める。島の形状が複雑でWINROOFでの解析が難しい場合は、目視と手作業により解析を行う。ポリマーアロイ繊維中での島サイズによりナノファイバーの直径がほぼ決定されるため、島サイズの分布はナノファイバーの直径分布に準じて設計すればよい。
【0032】
具体的に混練を行う際の目安としては、組み合わせるポリマーにもよるが、混練押出機を用いる場合は、2軸押出混練機を用いることが好ましく、静止混練器を用いる場合は、その分割数は100万以上とすることが好ましい。また、ブレンド斑や経時的なブレンド比率の変動を避けるため、それぞれのポリマーを独立に計量し、独立にポリマーを混練装置に供給することが好ましい。このとき、ポリマーはペレットとして別々に供給しても良く、あるいは、溶融状態で別々に供給しても良い。また、2種以上のポリマーを押出混練機の根本に供給しても良いし、あるいは、一成分を押出混練機の途中から供給するサイドフィードとしても良い。
【0033】
ポリマーの組み合わせの設計に際しては、溶融粘度が重要であり、島を形成するポリマーの方を低く設定すると剪断力による島ポリマーの変形が起こりやすいため、島ポリマーの微分散化が進みやすくナノファイバー化の観点からは好ましい。ただし、島ポリマーを過度に低粘度にすると海化しやすくなり、繊維全体に対するブレンド比を高くできないため、島ポリマー粘度は海ポリマー粘度の1/10以上とすることが好ましい。また、海ポリマーの溶融粘度は紡糸性に大きな影響を与える場合があり、海ポリマーとして100Pa・s以下の低粘度ポリマーを用いると島ポリマーを分散させ易く好ましい。また、これにより紡糸性を著しく向上できるのである。この時、溶融粘度は紡糸の際の口金面温度で剪断速度1216sec−1での値である。
【0034】
本発明で用いる超微分散化したポリマーアロイ繊維を紡糸する際は、紡糸口金設計が重要であるが、糸の冷却条件も重要である。上記したようにポリマーアロイは非常に不安定な溶融流体であるため、口金から吐出した後に速やかに冷却固化させることが好ましい。このため、口金から冷却開始までの距離は1〜15cmとすることが好ましい。ここで、冷却開始とは糸の積極的な冷却が開始される位置のことを意味するが、実際の溶融紡糸装置ではチムニー上端部でこれに代える。
【0035】
また、紡糸されたポリマーアロイ繊維には延伸・熱処理を施すことが好ましいが、延伸の際の予熱温度は島ポリマーのガラス転移温度以上の温度することで、糸斑を小さくすることができ、好ましい。
【0036】
以上のようなポリマーの組み合わせ、紡糸・延伸条件の最適化を行うことで、島ポリマーが数十nmに超微分散化し、しかも糸斑の小さなポリマーアロイ繊維を得ることを可能にするものである。このようにして糸長手方向に糸斑の小さなポリマーアロイ繊維を前駆体とすることで、ある断面だけでなく長手方向のどの断面をとっても単繊維繊度ばらつきの小さなナノファイバー集合体を得ることができるのである。
【0037】
このようにして得られたポリマーアロイ繊維から海ポリマーである易溶解ポリマーを溶剤で溶出することで、ナノファイバー集合体を得ることができるのであるが、その際、溶剤としては水溶液系のものを用いることが環境負荷を低減する観点から好ましい。具体的にはアルカリ水溶液や熱水を用いることが好ましい。このため、易溶解ポリマーとしては、ポリエステルやポリカーボネート(PC)等のアルカリ加水分解されるポリマーやポリアルキレングリコールやポリビニルアルコールおよびそれらの誘導体等の熱水可溶性ポリマーが好ましい。
【0038】
以上の理由により、難溶解性ポリマーと易溶解性のポリマーのブレンド品でかつ易溶解性ポリマー溶解後の難溶解性ポリマー各々の直径が500nm以下の繊維であることが好ましい。
【0039】
この方法によれば、極細繊維の紡績糸を得ることも容易である。また、紡績の場合は長繊維と異なり混紡率を0.1%単位でも自在に調整できるため、機能性付与や染色性の向上等により、用途に汎用性を持たせることも可能である。さらに、混紡の場合、該ポリマーアロイ繊維と別成分とを混紡すればよいので混紡も容易であるというメリットがある。
【0040】
ポリマーアロイ繊維を混紡する場合において、混紡率は最終的に得られるナノファイバーの特性を失わない程度にする必要があり、具体的には易溶解性ポリマーを溶解した後のナノファイバーが5〜90重量%になる範囲での混紡が好ましく、10〜30重量%になる範囲での混紡がより好ましい。
【0041】
ポリマーアロイ繊維に混紡する繊維としては、該ポリマーアロイ繊維の易溶解性ポリマーより難溶解性であり、優れた染色性を有する繊維が好ましい。具体的にはアクリルやカチオン可染ポリエステル等である。また、難溶解性成分であれば綿などの天然繊維でもよく、特に素材に限定はされない。
【0042】
混紡する繊維の単繊維繊度は0.1dtex以上8dtex以下であることが好ましい。この理由は、単繊維繊度が0.1dtex未満の原綿での紡績が困難であり、単繊維繊度が0.1dtexに満たない繊維ではカード工程でシリンダーに巻き付いたり、ネップになりやすく、糸質に悪影響を与えるためである。また、単繊維繊度が8dtexを超えると風合いや布帛表面感が悪化するためである。さらに好ましくは、単繊維繊度が0.5dtex以上3dtex以下である。
【0043】
ポリマーアロイ繊維を用いて得た紡績糸は後に長繊維と混繊しても合撚しても実用でき、また易溶解成分の溶解も、混繊や合撚前、合撚後のいずれでもよく、更には織編物にした後でも可能である。
【0044】
本発明のポリマーアロイ繊維を含む紡績糸の番手、すなわち、易溶解性ポリマーを溶解する前の番手は3s〜100sであることが好ましい。ただし、ここでいう番手とは綿番手表示であり、JISL1095(1999)、9.4.2にしたがって測定したものをいう。
原綿の強度から考慮して100sより細い番手の糸を紡出するのは操業性の面から困難を極める。安定した生産のためには紡績糸の断面繊維本数は少なくとも60本以上は必要であり、断面繊維本数が少ないことは糸強力の低下、糸むらの悪化、糸欠点の増加を招く。断面繊維本数を増すためには原綿の細繊度化と紡績糸の太番手化に手段が限定され、原綿の生産性を大きく悪化させる細繊度化よりも原綿の生産性を悪化させず、また欠点の少ない良質の紡績糸を得ることが重要である。
【0045】
逆に3sより太い番手の紡績糸を作ることは技術的には可能であるが、従来から用いられている原綿でも十分紡出可能なため、該ポリマーアロイ繊維をわざわざ使用する意味は薄い。
なお、ポリマーアロイ繊維を使用した原綿で紡績糸を製造するにあたっては、リング精紡などに代表される実撚を有した紡績糸はもとより、ローターを使用する空紡にも、エアジェットスピナーによる空気を使用した実質的に無撚の紡績糸にも、カードから直接ミュール精紡にかける紡績糸などにも、すなわち通常の紡績方式によるあらゆる紡績方法で適用可能である。
【0046】
さらに、ポリマーアロイ繊維およびこれとは平均繊度が異なる繊維の混紡、あるいはそれぞれ単独にスライバーや粗糸を作って精紡工程等で2本の篠を1錘に同時供給して複合する短々複合紡績糸でも、ポリマーアロイ繊維と長繊維、平均繊度が異なる繊維を短繊維といった長短複合でも、あるいはポリマーアロイ繊維と短繊維、平均繊度が異なる繊維を長繊維といった長短複合でも適用可能である。そしてポリマーアロイ繊維とポリマーアロイ繊維とは断面形状が異なる繊維(たとえば楕円断面、多角形断面、凹凸をひとつ以上有する断面、中空断面、芯鞘構造断面の繊維)との該複合糸でも適用可能である。
【0047】
これらの紡績工程を経た紡績糸はそのままでも実用可能であるが、その後の工程で易溶解成分を溶解することによって、極細糸となっても糸条がバラバラに分解されることのない実用に適した強度を持った繊維製品を製造することが可能となる。ただし、紡績糸を製造する前のスライバーや粗糸のような中間体の状態で易溶解成分を溶解してしまうと繊維間摩擦が大きくなりすぎてしまい、精紡などの工程でドラフトができなくなってしまうため好ましくない。
【0048】
また、本発明において実撚を有する紡績糸とする場合は、易溶解性ポリマーを溶解する前の撚係数KがK=2〜8であることが好ましい。その理由は、紡績工程自体を易溶解成分を溶解する前の原綿で、かつ従来方式の紡績で行うため、撚係数が2を下回るとその紡出時点で糸の強度を持たせるのが困難になること、逆に撚係数が8を越えてしまうと糸条を形成した後の撚ビリ(スナール)が発生してしまい、後の工程における解舒性を損なうためである。好ましくは、撚係数KがK=3〜6であるとより実用的になる。
【0049】
ここに撚数Tと撚係数Kの関係は以下に表すとおりである。
撚数T(回/25.4mm)=撚係数K × (綿番手)0.5
この方法によって製造した紡績糸は、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーの成分比によって、溶解前の番手が3〜100sの範囲であれば、易溶解性ポリマーを溶解した後の番手は3.3s〜1000sとなる。従来から用いられている繊維では細くても350s程度が紡出限界とされているため、本発明によれば溶解後にはさらに細い番手の紡績糸を得ることも可能となる。
【0050】
また、本発明において、実撚を有する紡績糸とする場合、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーの成分比によって、易溶解性ポリマーを溶解した後、すなわち極細繊維を用いた紡績糸として見掛けの撚係数KがK=0.1〜8.0の紡績糸を得ることが可能となる。これも、従来から用いられている繊維で実撚を有する紡績をする場合は撚係数Kが2を下回ると繊維間の静摩擦不足によって繊維の抜けが生じて紡績糸強度が不足し、実用に耐えない糸となってしまうが、本発明においては繊度が極端に細くなるために繊維間静摩擦が増し、このような極端に低い撚係数となっても強度を保つことが可能となる。
【0051】
以上の本発明の紡績糸やそれらを用いて布帛を形成することによって、これまでの繊度の原綿を用いた繊維製品からは得られなかった新たな用途開拓が可能となり、衣料(インナー、レッグ、スポーツなど)、インテリア(カーテン、カーペットなど)、車輌内装製品(マット、カーシートなど)、生活資材(ワイピングクロス、健康用品など)等に幅広く展開が期待される。
【実施例】
【0052】
以下に実施例をあげて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
なお、本実施例中で採用した評価方法は次のとおりである。
【0054】
[島の数平均直径]
ポリマーアロイ中の島の直径および超極細繊維の単繊維直径は以下のようにして測定する。すなわち、TEM(透過型電子顕微鏡)による繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて島直径の円換算による直径を求めた。島の数平均直径は同一横断面内で無作為抽出した100個を測定し、数平均を求めた。なお、島の形状が複雑でWINROOFでの解析が難しい場合は、目視と手作業により解析を行った。
【0055】
[原綿繊度(溶解前)]
JIS L1015(1999)、8.5.1B法にしたがって測定した。
【0056】
[原綿強伸度(溶解前)]
JIS L1015(1999)、8.7.1に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
【0057】
[原綿捲縮数、捲縮率(溶解前)]
JIS L1015(1999)、8.12.1に示される条件で測定した。
【0058】
[繊維長]
JIS L1015(1999)、8.4.1にしたがって測定した。
【0059】
[紡績糸番手]
JIS L1095(1999)、9.4.2にしたがって測定した。溶解後については紡績糸で筒編地を作ってから易溶解成分を溶解して、その編地から紡績糸をほどいてから測定した。
【0060】
[紡績糸強伸度]
JIS L1095(1999)、9.5.1にしたがって測定した。溶解後については紡績糸を製造後、その糸で筒編地を作ってから易溶解成分を溶解して、その編地から紡績糸をほどいてから測定した。
【0061】
[風合い]
織物の風合いを選ばれた評価者10名で肌触りを次の3段階で官能評価した。
○:張り、腰、ソフト感良好
△:張り、腰、ソフト感やや良好
×:張り、腰、ソフト感不良。
【0062】
[摩耗判定]
平面摩耗試験機(ユニバーサル型)の平面摩耗台の上に、直径9.5cm厚さ2.0cmのスポンジを乗せ、その上に試料を取り付ける。上部に摩擦布を置き、押圧荷重4.45Nで2000回摩擦する。なお、摩耗速度は125往復/分、往復距離2.5cmであり、100回摩擦する間に試料片は1回転する。
【0063】
摩擦後に試料片を取り外し表面状態をモニター5人で以下の5段階で判定評価した。
◎: 繊維脱落が摩擦前とほとんど変化がない。
○: 摩擦後は布帛表面に毛羽が見られるが繊維脱落は見られない。
△: 布帛形態は維持しているが、表面からやや繊維が脱落しかけている。
▲: 布帛から繊維が脱落しかけており、布帛の表面形態が摩擦前より明らかに乱れている。
×: 繊維の脱落が激しく、布帛表面の形態が原形をとどめていない。
【0064】
[吸水性]
JIS L 1096(1999)におけるバイレック法を準用し、次の方法で行った。まず、サンプルとして2.5cm×22cmの試験片をたて方向に3枚採取した。次に10分後の毛細管現象による水の上昇距離(mm)を測定し、3回の平均値で表した。
【0065】
[実施例1]
溶融粘度250Pa・s(240℃、1216sec−1)のN6を40重量%と重量平均分子量12万、溶融粘度35Pa・s(240℃、1216sec−1)、融点170℃のポリL乳酸を60重量%を混練温度を235℃として混練し、ポリマーアロイペレットを得た。これを溶融温度230℃、紡糸速度1600m/分、口径0.2mmの口金を使用して溶融紡糸を行い、180dtex−72fの未延伸糸を得た。これを2本合糸した状態で延伸温度90℃、延伸倍率1.6倍、熱セット温度130℃、800m/分の条件下で延伸し、224dtex−144fの延伸糸を得た。この延伸糸をさらに分割してトウとし、捲縮を付与してカットし、繊度1.64dtex、強度2.60cN/dtex、伸度58.9%、捲縮数20.4山/25.4mm、捲縮率18.7%、繊維長38mmのポリマーアロイ繊維の原綿を得た。
【0066】
得られた原綿を100%用いてフラットカードにてドッファ回転数10rpmの条件で300ゲレン/6ydのスライバーを得た後、練条工程は8本ダブリング、100m/分、7.6倍のドラフト条件にてスライバーを2回通過させ、粗紡では2回の練条工程後のスライバーを6.4倍のドラフトにて320ゲレン/30ydの粗糸を得た。この粗糸を38.4倍のドラフト、撚係数K=4.0として30sの紡績糸を得た。また、この紡績糸を用いて20ゲージで筒編地を作った。
【0067】
その後NaOH濃度1.5%、浴比1:40、95℃×30分の条件にて易溶解成分であるポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例2]
実施例1の工程条件を変更し、精紡機で撚係数K=4.5として30sの紡績糸を得て、同じ条件で筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例3]
実施例1の工程条件を変更し、精紡機で撚係数K=4.0として24sの紡績糸を得て、同じ条件で筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例4]
実施例1の工程条件を変更し、精紡機で撚係数K=4.0として16sの紡績糸を得て、同じ条件で筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例5]
実施例1のポリマーアロイ原綿とカチオン可染ポリエステル原綿(K302 1.7dtex×38mm:東レ(株)製)を45:55の重量比で混紡し、実施例1と同工程で撚係数K=4.0として綿番手30sの紡績糸を得た。また、この紡績糸を用いて実施例1と同じ条件で筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0072】
[実施例6]
実施例1で作製したポリマーアロイ原綿とアクリル原綿(T2162 0.7dtex×38mm:東レ(株)製)を45:55の重量比で混紡し、実施例1と同様の工程で撚係数K=4.0として綿番手30sの紡績糸を得た。また、この紡績糸を用いて実施例1と同じ条件で筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
口径0.23mmの複合口金を使用し、易溶解成分に共重合ポリエステル、難溶解成分にN6を用いて溶融紡糸・延伸・捲縮付与・カットを行い、繊度1.9dtex、強度4.2cN/dtex、伸度43.4%、捲縮数16.0山/25.4mm、捲縮率11.0%、繊維長38mmの原綿を得た。断面形状は放射状割繊型である。実施例1と同じ工程で30sの紡績糸を得て、筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分を溶解した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2]
実施例1と同じポリマーを用いて、N6とポリL乳酸をそれぞれ溶融紡糸・延伸・捲縮付与・カットを行い、N6は繊度1.7dtex、強度5.6cN/dtex、伸度46.0%、捲縮数15.0山/25.4mm、捲縮率12.0%、繊維長38mmの原綿(丸断面)を、ポリL乳酸は繊度1.7dtex、強度2.7cN/dtex、伸度60.5%、捲縮数12.2山/25.4mm、捲縮率11.3%、繊維長38mmの原綿(丸断面)を得た。
2種類の原綿をサンドイッチ方式にて同時投入したほかは、実施例1と同じ工程で30sの紡績糸を得て、筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例3]
カチオン可染ポリエステル原綿(K302 1.7dtex×38mm:東レ(株)製)のみを用いて、実施例1と同じ工程を経て、精紡機で撚係数K=3.5として40sの紡績糸を得た。この紡績糸で筒編み地を作った。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例4]
アクリル原綿(T2162 0.7dtex×38mm:東レ(株)製)のみを用いて、実施例1と同じ工程を経て、精紡工程で撚係数K=3.5として40sの紡績糸を得た。この紡績糸で筒編み地を作った。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
かかる表1よりわかるように、本発明に沿った製造方法によって、易溶解成分溶解後も紡績糸の強度を保持することが可能になる。
【0079】
実施例では難溶解成分をナイロン、易溶解成分をポリL乳酸としたが、これらの成分に限ることなく、難溶解成分をポリエチレンテレフタレート等に置き換えても同様の効果が期待できる。
【技術分野】
【0001】
本発明はナノサイズで均一に分散した島を有するポリマーアロイ繊維とその他の繊維からなる紡績糸またそれを使用した繊維製品、さらにこれから得られる極細繊維とその他の繊維からなる紡績糸を用いた繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紡績糸は通常数十mm、長くても数百mm程度の有限長さの単繊維(原綿)を数十本以上平行に集合させて撚りをかけたり、空気などで結束させて糸条を形成しているのが通常用いられている姿である。せいぜい、長繊維との複合紡績糸までである。
【0003】
このとき同じ番手や撚数の紡績糸を使用し、同じ設計や加工の繊維製品を形成する場合、当然ながらもとの原綿の繊度が細ければ細いほど微細なタッチの風合いを再現することが可能となる。たとえば綿番手40s、22回/インチ(25.4mm)の撚り数の紡績糸で経110本、緯76本のゾッキ織物を形成する場合においても、紡績糸を形成する原綿の繊度が2dtexの場合と1dtexの場合とでは、1dtexの原綿を使用した紡績糸の方が微細なタッチの風合いを発現できる。
【0004】
ただし、従来技術においては紡績糸を用いた繊維製品を形成するのには原綿の単繊維繊度を細くする範囲に限界があった。
【0005】
まず、直接紡糸による原綿を使用して紡績する場合は単繊維繊度が0.4dtex程度を下回ると、繊維長4インチ(102mm)以下では一般的に使用するカード工程でシリンダー巻付きを起こすために紡績糸形成前の中間体であるスライバーの紡出すら困難になる。一方、繊維長4インチ以上の場合はカードではなく、綿状にカットする前の数万本〜数十万本でトータル繊度数十万〜数百万dtex相当の繊維集合体(トウ)を牽切方式にて引きちぎる方法によってスライバーを製造し、該スライバーから紡績糸を作る方法が一般的であるが、この場合も単繊維繊度が1.1dtex程度を下回ると、トウを形成する繊維本数が多くなるために牽切そのものが困難になる。トウのトータル繊度を落とすことである程度対応可能になるが、生産性が大幅に低下するなど、実用的ではない。
【0006】
上記の問題を解決する方法として、溶解性の異なる複数の成分を用いた複合紡糸による原綿を使用して紡績糸を製造し、糸や布帛になってから易溶解性ポリマーを溶解したり、それら複数成分を剥離させて分割し、単繊維繊度を極細にすることによって微細なタッチを狙う方法もある(特許文献1〜3)。ただし、ここにおける溶解または分割後の極細繊維の単繊維繊度とは細くとも0.1dtex以上(繊維直径3μm以上)であるが、この繊度の場合、溶解または分割後に繊維同士の静摩擦による拘束力がなくなるために、単繊維が抜け落ちてしまい、糸として実用に耐えないといった商品化にとっては致命的な問題があった。
【0007】
一方、特許文献4には、単繊維繊度が0.1×10−6〜500×10−6dtexのナノファイバーと単繊維繊度0.001〜0.1dtexの混繊糸が開示されているが、混繊糸である故、紡績糸のメリットは得られないものであった。
【特許文献1】特開平5−51821号公報
【特許文献2】特開平11−256449号公報
【特許文献3】特開2004−255023号公報
【特許文献4】特開2005−23466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、紡績に使用する原綿において、単繊維繊度をより細くしても十分な強度を持ち、実用に耐える紡績糸を得るためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0010】
(1)島が難溶解性ポリマーから、海が易溶解性ポリマーからなる海島構造を示し、該易溶解性ポリマーの難溶解性ポリマーに対するブレンド比が10〜90重量%、島の数平均直径が1〜500nmであるポリマーアロイ繊維を少なくとも一部に含んでなる紡績糸。
【0011】
(2)番手が3s〜100sであることを特徴とする前記(1)に記載の紡績糸。ただし、番手とは綿番手表示である。
【0012】
(3)撚係数KがK=2〜8であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の紡績糸。
ここに撚数Tと撚係数Kの関係は以下に表すとおりである。
撚数T(回/25.4mm)=撚係数K × (綿番手)0.5
(4)ポリマーアロイ繊維の難溶解成分と染色性の異なる繊維を混紡した請求項1〜3のいずれかに記載の紡績糸。
【0013】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の紡績糸からポリマーアロイ繊維の易溶解性ポリマーを溶解して得られた紡績糸。
【0014】
(6)番手が3.3s〜1000sであることを特徴とする前記(5)に記載の紡績糸。
【0015】
(7)撚係数KがK=0.1〜8.0であることを特徴とする前記(5)または(6)に記載の紡績糸。
【0016】
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の紡績糸を使用してなることを特徴とする繊維製品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、これまでのような細くても0.1dtex(繊維直径で3μm程度)までの原綿では得ることができなかった新たな紡績糸の製造が可能となる。
【0018】
本発明により、これまでにない細さの極細繊維の静摩擦を活用によって、易溶解成分溶解後もばらけることのない紡績糸およびそれを用いた布帛を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明は、島が難溶解性ポリマーから、海が易溶解性ポリマーからなる海島構造を有するポリマーアロイ繊維を少なくとも一部に含む紡績糸であって、易溶解性ポリマーを溶解することにより紡績糸を構成する繊維の単繊維繊度を細くし、極細繊維を含む紡績糸を得られるものである。
【0021】
海島構造を有するポリマーアロイ繊維における海成分の易溶解性ポリマーの島成分の難溶性ポリマーに対するブレンド比は10〜90重量%であることが好ましい。易溶解性ポリマーのブレンド比を10重量%以上とすることで安定した紡糸条件を得られ、90重量%以下とすることで極細糸の生成効率を高くすることができるためである。より好ましくはブレンド比が50〜80重量%である。このとき島成分の数平均直径は1〜500nmであることが必要である。
【0022】
仮に、直径500nm以下の極細繊維(以下、ナノファイバーともいう)を複合紡糸ではなく直接紡糸によって得られたとしても、これをカットした原綿を直接カードにかけたり、カット前のトウを牽切方式でカットしてスライバーを紡出すること自体があまりにも困難である。
【0023】
カードにかけるには糸鋸状のメタリックワイヤで原綿を開繊できることが前提であるが、通常は繊度が細くなるほど開繊性をあげるためにワイヤも目の細かいものを使用する必要がある。極端に単繊維繊度が細い原綿に対応するにはワイヤも細かくする必要があるため、直接紡糸による原綿を使用するのは実用的ではない。
【0024】
同様に直径500nm以下の繊維から形成されるトウをカットする場合においては、カット自体が2対のローラに挟んで牽引することで行うため、均一にカットするにはトウを形成する各繊維を均一に平面状に並べる必要がある。単繊維繊度が極端に細いトウは、均一に並べることや、その状態を直接管理することは困難を極める。
【0025】
したがって、ポリマーアロイ繊維による原綿を用いて通常の紡績方法によって紡績を行い、後から易溶解成分を溶解してナノファイバーとする方が製造方法として容易であり、かつその際にナノファイバーの特長も損なわずにすむ。
【0026】
難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーのブレンド品による繊維やそれを用いた紡績糸、あるいはそれを用いた繊維製品も多数の例があるが、溶解後の直径が500nmを超える繊維では繊維間の隙間が大きく、静摩擦が不足して紡績糸としての糸条形態を保持できずに糸がバラバラになってしまう。また、易溶解性ポリマー溶解前に織編物を作って糸を拘束したとしても同様であり、溶解後に繊維間に隙間が生じ、繊維間の静摩擦が減少するため、手で擦る程度の摩擦でも繊維が抜け落ち、商品としての実用性を損なってしまう。しかし、易溶解性ポリマー溶解後の隙間が500nm以下であれば、同素材で同番手の紡績糸を作っても各繊維の表面積が膨大に増える分、繊維間の静摩擦が十分に働くので繊維同士の抜けの発生なく、紡績糸の強力も従来より向上する。
【0027】
また、静摩擦が十分に生きているため、従来のような0.1dtex(3μm)以上の直接紡糸による繊維を用いた紡績糸では得られなかった甘撚紡績糸も製造が可能となる。さらには溶解後の表面積が膨大に増えるため、吸水性や保水性が格段に向上する。
【0028】
一方、溶解後の繊度が1nm未満の場合は、繊維の表面積が大きくなりすぎるため、染色するにも多量の染料を必要とするほか、表面積が増える分、可視光線まで乱反射を起こすため、濃色展開が困難になる。そのため、特に多様な色展開を要求される衣料用途においては致命的なため、あまり細すぎる繊度も適切ではない。
【0029】
本発明で用いるポリマーアロイ繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下のような方法を採用することができる。
【0030】
すなわち、2種類以上の溶剤に対する溶解性の異なるポリマーをアロイ化したポリマーアロイ溶融体となし、これを紡糸した後、冷却固化して繊維化する。そして必要に応じて延伸・熱処理を施しポリマーアロイ繊維を得る。そして、このポリマーアロイ繊維は易溶解性ポリマーを溶剤で除去し、難溶解性ポリマーを残すことによりナノファイバーを得ることができる。
【0031】
ここで、ナノファイバーの前駆体であるポリマーアロイ繊維中では易溶解性ポリマーが海(マトリックス)、難溶解性ポリマーが島(ドメイン)となし、その島サイズを制御することが重要である。ここで、島サイズは、ポリマーアロイ繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)観察し、直径換算で評価したものである。具体的には、TEM(透過型電子顕微鏡)による繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて島直径の円換算による直径を求めるものである。なお、島の数平均直径は同一横断面内で無作為抽出した100個を測定し、数平均を求める。島の形状が複雑でWINROOFでの解析が難しい場合は、目視と手作業により解析を行う。ポリマーアロイ繊維中での島サイズによりナノファイバーの直径がほぼ決定されるため、島サイズの分布はナノファイバーの直径分布に準じて設計すればよい。
【0032】
具体的に混練を行う際の目安としては、組み合わせるポリマーにもよるが、混練押出機を用いる場合は、2軸押出混練機を用いることが好ましく、静止混練器を用いる場合は、その分割数は100万以上とすることが好ましい。また、ブレンド斑や経時的なブレンド比率の変動を避けるため、それぞれのポリマーを独立に計量し、独立にポリマーを混練装置に供給することが好ましい。このとき、ポリマーはペレットとして別々に供給しても良く、あるいは、溶融状態で別々に供給しても良い。また、2種以上のポリマーを押出混練機の根本に供給しても良いし、あるいは、一成分を押出混練機の途中から供給するサイドフィードとしても良い。
【0033】
ポリマーの組み合わせの設計に際しては、溶融粘度が重要であり、島を形成するポリマーの方を低く設定すると剪断力による島ポリマーの変形が起こりやすいため、島ポリマーの微分散化が進みやすくナノファイバー化の観点からは好ましい。ただし、島ポリマーを過度に低粘度にすると海化しやすくなり、繊維全体に対するブレンド比を高くできないため、島ポリマー粘度は海ポリマー粘度の1/10以上とすることが好ましい。また、海ポリマーの溶融粘度は紡糸性に大きな影響を与える場合があり、海ポリマーとして100Pa・s以下の低粘度ポリマーを用いると島ポリマーを分散させ易く好ましい。また、これにより紡糸性を著しく向上できるのである。この時、溶融粘度は紡糸の際の口金面温度で剪断速度1216sec−1での値である。
【0034】
本発明で用いる超微分散化したポリマーアロイ繊維を紡糸する際は、紡糸口金設計が重要であるが、糸の冷却条件も重要である。上記したようにポリマーアロイは非常に不安定な溶融流体であるため、口金から吐出した後に速やかに冷却固化させることが好ましい。このため、口金から冷却開始までの距離は1〜15cmとすることが好ましい。ここで、冷却開始とは糸の積極的な冷却が開始される位置のことを意味するが、実際の溶融紡糸装置ではチムニー上端部でこれに代える。
【0035】
また、紡糸されたポリマーアロイ繊維には延伸・熱処理を施すことが好ましいが、延伸の際の予熱温度は島ポリマーのガラス転移温度以上の温度することで、糸斑を小さくすることができ、好ましい。
【0036】
以上のようなポリマーの組み合わせ、紡糸・延伸条件の最適化を行うことで、島ポリマーが数十nmに超微分散化し、しかも糸斑の小さなポリマーアロイ繊維を得ることを可能にするものである。このようにして糸長手方向に糸斑の小さなポリマーアロイ繊維を前駆体とすることで、ある断面だけでなく長手方向のどの断面をとっても単繊維繊度ばらつきの小さなナノファイバー集合体を得ることができるのである。
【0037】
このようにして得られたポリマーアロイ繊維から海ポリマーである易溶解ポリマーを溶剤で溶出することで、ナノファイバー集合体を得ることができるのであるが、その際、溶剤としては水溶液系のものを用いることが環境負荷を低減する観点から好ましい。具体的にはアルカリ水溶液や熱水を用いることが好ましい。このため、易溶解ポリマーとしては、ポリエステルやポリカーボネート(PC)等のアルカリ加水分解されるポリマーやポリアルキレングリコールやポリビニルアルコールおよびそれらの誘導体等の熱水可溶性ポリマーが好ましい。
【0038】
以上の理由により、難溶解性ポリマーと易溶解性のポリマーのブレンド品でかつ易溶解性ポリマー溶解後の難溶解性ポリマー各々の直径が500nm以下の繊維であることが好ましい。
【0039】
この方法によれば、極細繊維の紡績糸を得ることも容易である。また、紡績の場合は長繊維と異なり混紡率を0.1%単位でも自在に調整できるため、機能性付与や染色性の向上等により、用途に汎用性を持たせることも可能である。さらに、混紡の場合、該ポリマーアロイ繊維と別成分とを混紡すればよいので混紡も容易であるというメリットがある。
【0040】
ポリマーアロイ繊維を混紡する場合において、混紡率は最終的に得られるナノファイバーの特性を失わない程度にする必要があり、具体的には易溶解性ポリマーを溶解した後のナノファイバーが5〜90重量%になる範囲での混紡が好ましく、10〜30重量%になる範囲での混紡がより好ましい。
【0041】
ポリマーアロイ繊維に混紡する繊維としては、該ポリマーアロイ繊維の易溶解性ポリマーより難溶解性であり、優れた染色性を有する繊維が好ましい。具体的にはアクリルやカチオン可染ポリエステル等である。また、難溶解性成分であれば綿などの天然繊維でもよく、特に素材に限定はされない。
【0042】
混紡する繊維の単繊維繊度は0.1dtex以上8dtex以下であることが好ましい。この理由は、単繊維繊度が0.1dtex未満の原綿での紡績が困難であり、単繊維繊度が0.1dtexに満たない繊維ではカード工程でシリンダーに巻き付いたり、ネップになりやすく、糸質に悪影響を与えるためである。また、単繊維繊度が8dtexを超えると風合いや布帛表面感が悪化するためである。さらに好ましくは、単繊維繊度が0.5dtex以上3dtex以下である。
【0043】
ポリマーアロイ繊維を用いて得た紡績糸は後に長繊維と混繊しても合撚しても実用でき、また易溶解成分の溶解も、混繊や合撚前、合撚後のいずれでもよく、更には織編物にした後でも可能である。
【0044】
本発明のポリマーアロイ繊維を含む紡績糸の番手、すなわち、易溶解性ポリマーを溶解する前の番手は3s〜100sであることが好ましい。ただし、ここでいう番手とは綿番手表示であり、JISL1095(1999)、9.4.2にしたがって測定したものをいう。
原綿の強度から考慮して100sより細い番手の糸を紡出するのは操業性の面から困難を極める。安定した生産のためには紡績糸の断面繊維本数は少なくとも60本以上は必要であり、断面繊維本数が少ないことは糸強力の低下、糸むらの悪化、糸欠点の増加を招く。断面繊維本数を増すためには原綿の細繊度化と紡績糸の太番手化に手段が限定され、原綿の生産性を大きく悪化させる細繊度化よりも原綿の生産性を悪化させず、また欠点の少ない良質の紡績糸を得ることが重要である。
【0045】
逆に3sより太い番手の紡績糸を作ることは技術的には可能であるが、従来から用いられている原綿でも十分紡出可能なため、該ポリマーアロイ繊維をわざわざ使用する意味は薄い。
なお、ポリマーアロイ繊維を使用した原綿で紡績糸を製造するにあたっては、リング精紡などに代表される実撚を有した紡績糸はもとより、ローターを使用する空紡にも、エアジェットスピナーによる空気を使用した実質的に無撚の紡績糸にも、カードから直接ミュール精紡にかける紡績糸などにも、すなわち通常の紡績方式によるあらゆる紡績方法で適用可能である。
【0046】
さらに、ポリマーアロイ繊維およびこれとは平均繊度が異なる繊維の混紡、あるいはそれぞれ単独にスライバーや粗糸を作って精紡工程等で2本の篠を1錘に同時供給して複合する短々複合紡績糸でも、ポリマーアロイ繊維と長繊維、平均繊度が異なる繊維を短繊維といった長短複合でも、あるいはポリマーアロイ繊維と短繊維、平均繊度が異なる繊維を長繊維といった長短複合でも適用可能である。そしてポリマーアロイ繊維とポリマーアロイ繊維とは断面形状が異なる繊維(たとえば楕円断面、多角形断面、凹凸をひとつ以上有する断面、中空断面、芯鞘構造断面の繊維)との該複合糸でも適用可能である。
【0047】
これらの紡績工程を経た紡績糸はそのままでも実用可能であるが、その後の工程で易溶解成分を溶解することによって、極細糸となっても糸条がバラバラに分解されることのない実用に適した強度を持った繊維製品を製造することが可能となる。ただし、紡績糸を製造する前のスライバーや粗糸のような中間体の状態で易溶解成分を溶解してしまうと繊維間摩擦が大きくなりすぎてしまい、精紡などの工程でドラフトができなくなってしまうため好ましくない。
【0048】
また、本発明において実撚を有する紡績糸とする場合は、易溶解性ポリマーを溶解する前の撚係数KがK=2〜8であることが好ましい。その理由は、紡績工程自体を易溶解成分を溶解する前の原綿で、かつ従来方式の紡績で行うため、撚係数が2を下回るとその紡出時点で糸の強度を持たせるのが困難になること、逆に撚係数が8を越えてしまうと糸条を形成した後の撚ビリ(スナール)が発生してしまい、後の工程における解舒性を損なうためである。好ましくは、撚係数KがK=3〜6であるとより実用的になる。
【0049】
ここに撚数Tと撚係数Kの関係は以下に表すとおりである。
撚数T(回/25.4mm)=撚係数K × (綿番手)0.5
この方法によって製造した紡績糸は、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーの成分比によって、溶解前の番手が3〜100sの範囲であれば、易溶解性ポリマーを溶解した後の番手は3.3s〜1000sとなる。従来から用いられている繊維では細くても350s程度が紡出限界とされているため、本発明によれば溶解後にはさらに細い番手の紡績糸を得ることも可能となる。
【0050】
また、本発明において、実撚を有する紡績糸とする場合、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーの成分比によって、易溶解性ポリマーを溶解した後、すなわち極細繊維を用いた紡績糸として見掛けの撚係数KがK=0.1〜8.0の紡績糸を得ることが可能となる。これも、従来から用いられている繊維で実撚を有する紡績をする場合は撚係数Kが2を下回ると繊維間の静摩擦不足によって繊維の抜けが生じて紡績糸強度が不足し、実用に耐えない糸となってしまうが、本発明においては繊度が極端に細くなるために繊維間静摩擦が増し、このような極端に低い撚係数となっても強度を保つことが可能となる。
【0051】
以上の本発明の紡績糸やそれらを用いて布帛を形成することによって、これまでの繊度の原綿を用いた繊維製品からは得られなかった新たな用途開拓が可能となり、衣料(インナー、レッグ、スポーツなど)、インテリア(カーテン、カーペットなど)、車輌内装製品(マット、カーシートなど)、生活資材(ワイピングクロス、健康用品など)等に幅広く展開が期待される。
【実施例】
【0052】
以下に実施例をあげて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
なお、本実施例中で採用した評価方法は次のとおりである。
【0054】
[島の数平均直径]
ポリマーアロイ中の島の直径および超極細繊維の単繊維直径は以下のようにして測定する。すなわち、TEM(透過型電子顕微鏡)による繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて島直径の円換算による直径を求めた。島の数平均直径は同一横断面内で無作為抽出した100個を測定し、数平均を求めた。なお、島の形状が複雑でWINROOFでの解析が難しい場合は、目視と手作業により解析を行った。
【0055】
[原綿繊度(溶解前)]
JIS L1015(1999)、8.5.1B法にしたがって測定した。
【0056】
[原綿強伸度(溶解前)]
JIS L1015(1999)、8.7.1に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
【0057】
[原綿捲縮数、捲縮率(溶解前)]
JIS L1015(1999)、8.12.1に示される条件で測定した。
【0058】
[繊維長]
JIS L1015(1999)、8.4.1にしたがって測定した。
【0059】
[紡績糸番手]
JIS L1095(1999)、9.4.2にしたがって測定した。溶解後については紡績糸で筒編地を作ってから易溶解成分を溶解して、その編地から紡績糸をほどいてから測定した。
【0060】
[紡績糸強伸度]
JIS L1095(1999)、9.5.1にしたがって測定した。溶解後については紡績糸を製造後、その糸で筒編地を作ってから易溶解成分を溶解して、その編地から紡績糸をほどいてから測定した。
【0061】
[風合い]
織物の風合いを選ばれた評価者10名で肌触りを次の3段階で官能評価した。
○:張り、腰、ソフト感良好
△:張り、腰、ソフト感やや良好
×:張り、腰、ソフト感不良。
【0062】
[摩耗判定]
平面摩耗試験機(ユニバーサル型)の平面摩耗台の上に、直径9.5cm厚さ2.0cmのスポンジを乗せ、その上に試料を取り付ける。上部に摩擦布を置き、押圧荷重4.45Nで2000回摩擦する。なお、摩耗速度は125往復/分、往復距離2.5cmであり、100回摩擦する間に試料片は1回転する。
【0063】
摩擦後に試料片を取り外し表面状態をモニター5人で以下の5段階で判定評価した。
◎: 繊維脱落が摩擦前とほとんど変化がない。
○: 摩擦後は布帛表面に毛羽が見られるが繊維脱落は見られない。
△: 布帛形態は維持しているが、表面からやや繊維が脱落しかけている。
▲: 布帛から繊維が脱落しかけており、布帛の表面形態が摩擦前より明らかに乱れている。
×: 繊維の脱落が激しく、布帛表面の形態が原形をとどめていない。
【0064】
[吸水性]
JIS L 1096(1999)におけるバイレック法を準用し、次の方法で行った。まず、サンプルとして2.5cm×22cmの試験片をたて方向に3枚採取した。次に10分後の毛細管現象による水の上昇距離(mm)を測定し、3回の平均値で表した。
【0065】
[実施例1]
溶融粘度250Pa・s(240℃、1216sec−1)のN6を40重量%と重量平均分子量12万、溶融粘度35Pa・s(240℃、1216sec−1)、融点170℃のポリL乳酸を60重量%を混練温度を235℃として混練し、ポリマーアロイペレットを得た。これを溶融温度230℃、紡糸速度1600m/分、口径0.2mmの口金を使用して溶融紡糸を行い、180dtex−72fの未延伸糸を得た。これを2本合糸した状態で延伸温度90℃、延伸倍率1.6倍、熱セット温度130℃、800m/分の条件下で延伸し、224dtex−144fの延伸糸を得た。この延伸糸をさらに分割してトウとし、捲縮を付与してカットし、繊度1.64dtex、強度2.60cN/dtex、伸度58.9%、捲縮数20.4山/25.4mm、捲縮率18.7%、繊維長38mmのポリマーアロイ繊維の原綿を得た。
【0066】
得られた原綿を100%用いてフラットカードにてドッファ回転数10rpmの条件で300ゲレン/6ydのスライバーを得た後、練条工程は8本ダブリング、100m/分、7.6倍のドラフト条件にてスライバーを2回通過させ、粗紡では2回の練条工程後のスライバーを6.4倍のドラフトにて320ゲレン/30ydの粗糸を得た。この粗糸を38.4倍のドラフト、撚係数K=4.0として30sの紡績糸を得た。また、この紡績糸を用いて20ゲージで筒編地を作った。
【0067】
その後NaOH濃度1.5%、浴比1:40、95℃×30分の条件にて易溶解成分であるポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0068】
[実施例2]
実施例1の工程条件を変更し、精紡機で撚係数K=4.5として30sの紡績糸を得て、同じ条件で筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例3]
実施例1の工程条件を変更し、精紡機で撚係数K=4.0として24sの紡績糸を得て、同じ条件で筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0070】
[実施例4]
実施例1の工程条件を変更し、精紡機で撚係数K=4.0として16sの紡績糸を得て、同じ条件で筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例5]
実施例1のポリマーアロイ原綿とカチオン可染ポリエステル原綿(K302 1.7dtex×38mm:東レ(株)製)を45:55の重量比で混紡し、実施例1と同工程で撚係数K=4.0として綿番手30sの紡績糸を得た。また、この紡績糸を用いて実施例1と同じ条件で筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0072】
[実施例6]
実施例1で作製したポリマーアロイ原綿とアクリル原綿(T2162 0.7dtex×38mm:東レ(株)製)を45:55の重量比で混紡し、実施例1と同様の工程で撚係数K=4.0として綿番手30sの紡績糸を得た。また、この紡績糸を用いて実施例1と同じ条件で筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
口径0.23mmの複合口金を使用し、易溶解成分に共重合ポリエステル、難溶解成分にN6を用いて溶融紡糸・延伸・捲縮付与・カットを行い、繊度1.9dtex、強度4.2cN/dtex、伸度43.4%、捲縮数16.0山/25.4mm、捲縮率11.0%、繊維長38mmの原綿を得た。断面形状は放射状割繊型である。実施例1と同じ工程で30sの紡績糸を得て、筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分を溶解した。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2]
実施例1と同じポリマーを用いて、N6とポリL乳酸をそれぞれ溶融紡糸・延伸・捲縮付与・カットを行い、N6は繊度1.7dtex、強度5.6cN/dtex、伸度46.0%、捲縮数15.0山/25.4mm、捲縮率12.0%、繊維長38mmの原綿(丸断面)を、ポリL乳酸は繊度1.7dtex、強度2.7cN/dtex、伸度60.5%、捲縮数12.2山/25.4mm、捲縮率11.3%、繊維長38mmの原綿(丸断面)を得た。
2種類の原綿をサンドイッチ方式にて同時投入したほかは、実施例1と同じ工程で30sの紡績糸を得て、筒編地を作り、同じ条件で易溶解成分のポリL乳酸を溶解した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例3]
カチオン可染ポリエステル原綿(K302 1.7dtex×38mm:東レ(株)製)のみを用いて、実施例1と同じ工程を経て、精紡機で撚係数K=3.5として40sの紡績糸を得た。この紡績糸で筒編み地を作った。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例4]
アクリル原綿(T2162 0.7dtex×38mm:東レ(株)製)のみを用いて、実施例1と同じ工程を経て、精紡工程で撚係数K=3.5として40sの紡績糸を得た。この紡績糸で筒編み地を作った。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
かかる表1よりわかるように、本発明に沿った製造方法によって、易溶解成分溶解後も紡績糸の強度を保持することが可能になる。
【0079】
実施例では難溶解成分をナイロン、易溶解成分をポリL乳酸としたが、これらの成分に限ることなく、難溶解成分をポリエチレンテレフタレート等に置き換えても同様の効果が期待できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
島が難溶解性ポリマーから、海が易溶解性ポリマーからなる海島構造を示し、該易溶解性ポリマーの難溶解性ポリマーに対するブレンド比が10〜90重量%、島の数平均直径が1〜500nmであるポリマーアロイ繊維を少なくとも一部に含んでなる紡績糸。
【請求項2】
番手が3s〜100sであることを特徴とする請求項1に記載の紡績糸。ただし、番手とは綿番手表示である。
【請求項3】
撚係数KがK=2〜8であることを特徴とする請求項1または2に記載の紡績糸。
ここに撚数Tと撚係数Kの関係は以下に表すとおりである。
撚数T(回/25.4mm)=撚係数K × (綿番手)0.5
【請求項4】
ポリマーアロイ繊維の難溶解成分と染色性の異なる繊維を混紡した請求項1〜3のいずれかに記載の紡績糸。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の紡績糸からポリマーアロイ繊維の易溶解性ポリマーを溶解して得られた紡績糸。
【請求項6】
番手が3.3s〜1000sであることを特徴とする請求項5に記載の紡績糸。
【請求項7】
撚係数KがK=0.1〜8.0であることを特徴とする請求項5または6に記載の紡績糸。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の紡績糸を使用してなることを特徴とする繊維製品。
【請求項1】
島が難溶解性ポリマーから、海が易溶解性ポリマーからなる海島構造を示し、該易溶解性ポリマーの難溶解性ポリマーに対するブレンド比が10〜90重量%、島の数平均直径が1〜500nmであるポリマーアロイ繊維を少なくとも一部に含んでなる紡績糸。
【請求項2】
番手が3s〜100sであることを特徴とする請求項1に記載の紡績糸。ただし、番手とは綿番手表示である。
【請求項3】
撚係数KがK=2〜8であることを特徴とする請求項1または2に記載の紡績糸。
ここに撚数Tと撚係数Kの関係は以下に表すとおりである。
撚数T(回/25.4mm)=撚係数K × (綿番手)0.5
【請求項4】
ポリマーアロイ繊維の難溶解成分と染色性の異なる繊維を混紡した請求項1〜3のいずれかに記載の紡績糸。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の紡績糸からポリマーアロイ繊維の易溶解性ポリマーを溶解して得られた紡績糸。
【請求項6】
番手が3.3s〜1000sであることを特徴とする請求項5に記載の紡績糸。
【請求項7】
撚係数KがK=0.1〜8.0であることを特徴とする請求項5または6に記載の紡績糸。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の紡績糸を使用してなることを特徴とする繊維製品。
【公開番号】特開2007−291592(P2007−291592A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26362(P2007−26362)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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