説明

紡績糸

【課題】通気性が高く清涼感があり、ストレッチ性にも優れており、極めて着用快適性に優れた手袋を提供できる紡績糸を提供する。
【解決手段】サイロスパン紡績糸又はダブルロービング紡績糸であって、この紡績糸を構成する繊維が、引張強度10cN/dtex以上の高強力繊維の短繊維からなることを特徴とする紡績糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紡績糸に関するものであり、特に切創防止に優れた手袋に好適な紡績糸であって、通気性が高く、清涼感があり、ストレッチ性にも優れており、極めて着用快適性に優れた手袋を提供できる紡績糸に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、芯成分に短繊維を用い、鞘糸にパラ系アラミド繊維等のフィラメント糸捲縮糸を用いてなる複合紡績糸が開示されており、複合紡績糸を用いることにより、毛羽が少なく糸表面、布帛表面の平滑性に優れ、例えば、切創防止並びに精密作業性等に優れた手袋を提供できると記載されているが、特に通気性、清涼感、ストレッチ性が十分ではなく、着用快適性が十分であるとはいえないものであった。
【0003】
【特許文献1】特開2005−256212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる欠点を改良した紡績糸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)サイロスパン紡績糸又はダブルロービング紡績糸であって、この紡績糸を構成する繊維が引張強度10cN/dtex以上の高強力繊維の短繊維からなることを特徴とする紡績糸。
(2)高強力繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維(以下、ポリケトン繊維という)であることを特徴とする上記(1)に記載の紡績糸。
【化1】

(3)上記(1)又は(2)に記載の紡績糸で構成されていることを特徴とする手袋。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、通気性が高く清涼感があり、ストレッチ性にも優れており、極めて着用快適性に優れた手袋を提供できる紡績糸を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について以下に具体的に説明する。
本発明において、引張強度10cN/dtex以上の高強力繊維としては、ポリケトン繊維、アラミド繊維(パラ系、メタ系)、全芳香族ポリエステル繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維等が挙げられる。
この引張強度の上限値は、特に制限は無いが、有機繊維では、40cN/dtex程度が上限である。
その繊維形態は、短繊維であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、扁平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
【0008】
好ましい単糸繊度は、0.01〜10dtex、より好ましくは0.1〜10dtex、特に好ましくは0.5〜5dtexの範囲である。
本発明では、かかる高強力繊維同士を一種以上混用してもよく、又、かかる高強力繊維100%で構成したものが好ましいが、70質量%以下、特に50質量%以下、さらに30質量%以下の範囲で、必要に応じて、高強力繊維以外の綿、羊毛等の天然繊維、レーヨン繊維、ライオセル繊維等のセルロース繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の汎用合成繊維と混用してもよい。
【0009】
以下に、本発明の目的達成上、高強力繊維として好ましいポリケトン繊維について、詳述する。
ポリケトン繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の95モル%以上、好ましくは98モル%以上、特に99.6モル%以上が、上記式(1)で示されるものであり、5モル%未満の範囲で、上記式(1)以外の繰り返し単位、例えば、下記式(2)に示すもの等を含有していても良い。
【化2】

但し式中、Rは、エチレン以外の炭素数1〜30の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等の基であり、Rの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Rは二種以上であってもよく、例えば、プロピレン基と1−フェニルエチレン基が混在していてもよい。
【0010】
ポリケトンの固有粘度[η]は、好ましくは1dl/g以上、より好ましくは2dl/g以上、特に好ましくは4dl/g以上であり、好ましくは20dl/g以下、より好ましくは15dl/g以下、特に好ましくは10dl/g以下である。
尚、固有粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
【数1】

式中のt及びTは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子(株)社製)及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。Cは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール100ml中のポリケトンの質量(g)である。
ポリケトンには必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含有させてもよい。
【0011】
次に、ポリケトン繊維の好ましい特性としては、引張強度は5cN/dtex以上、より好ましくは10cN/dtex以上、特に好ましくは15cN/dtex以上、30cN/dtex以下であり、引張伸度は3%以上、より好ましくは3.5%以上、特に好ましくは4%以上、15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは6%以下であり、引張弾性率は100cN/dtex以上、より好ましくは200cN/dtex以上、特に好ましくは300cN/dtex以上、1000cN/dtex以下である。
本発明は、サイロスパン紡績糸又はダブルロービング紡績糸であって、この紡績糸を構成する繊維が、引張強度10cN/dtex以上の高強力繊維の短繊維からなることを特徴とする紡績糸である。
【0012】
本発明のサイロスパン紡績糸は、以下の紡績法により得られたものである。
即ち、精紡機のフロントローラー対、ミドルローラー対、バックローラー対からなるドラフト域に、異なる平行走行路を経てバックローラー対に導入された、2本の粗糸(ロービング)が、精紡機のドラフト域にてドラフトされ、フロントローラーのニップ点を出た直後、リングトラベラー加撚機構の加撚作用により合撚されてボビンに巻き取られることにより得られるものであり、単糸にS・Zの交互撚を付与しながら、2本の単糸に上撚を与える紡績法であって、単糸に本撚を与える精紡法と異なり、精紡機で直接合撚糸が得られるものである。
【0013】
又、ダブルロービング紡績糸は、上記製法において2本の粗糸を引き揃えてバックローラー対に導入され、同様に合撚されて得られるものである。
ここで、2本の粗糸は、同一素材で構成しても良いし、異なる素材、例えば、高強力繊維の繊維素材違いや高強力繊維と高強力繊維以外の組み合わせで構成しても良く、又、両者の単繊度や質量比、例えば、10〜90/90〜10の範囲内で必要に応じて選定しても良いが、本発明の紡績糸における高強力繊維が占める比率は、高強力繊維100%で構成したものが好ましいが、70質量%以下、特に50質量%以下、さらに30質量%以下の範囲で、必要に応じて、上記した高強力繊維以外の繊維を混用してもよい。
【0014】
本発明の紡績糸を構成する、繊維の太さ、繊維長分布、繊維本数、繊維断面形状については、必要に応じて、適宜選定すればよく、例えば、構成する繊維素材や希望する用途に応じて、綿紡、2インチ紡、3インチ紡、梳毛紡を選定すればよく、例えば、繊維長としては、30〜200mm程度が好ましいが、必要に応じて、300〜400mm程度でもよく、さらには、牽切によって得られる平均繊維長70mm以上、より好ましくは100mm以上、特に200mm以上、さらには250mm以上であり、1500mm以下、1200mm以下、1000mm以下のものでも良い。
紡績糸の太さは、用途に応じて適宜選定すればよく、例えば、手袋用途では、英式綿番手で10〜45番手、特に10〜30番手が好ましい。本発明の紡績糸は、手袋として用いた時に、特にその有用性を発揮するものであり、通気性が高く、清涼感があり、ストレッチ性にも優れており、極めて着用快適性に優れた手袋を提供できる紡績糸を提供するものである。
【0015】
手袋とは、編物、織物、不織布並びにこれらを組み合わせた布帛形態で構成されているものを包含するが、例えば、島精機製作所製等市販のコンピューター手袋編機を用いて製編したものが挙げられる。
又、編物(横編、丸編、経編地)や織物(平、綾、朱子並びにこれらの変化組織、絡み織)、不織布(スパンボンド不織布やニードルパンチ、柱状流等により繊維交絡させた不織布、フェルト等)並びにこれらを組み合わせたもの(以下、単に布帛という)や豚革等の天然皮革や人工皮革を、手型に裁断して縫製した手袋として用いてもよく、本発明の紡績糸をもつて、かかる布帛の一部又は全部を構成すればよい。
尚、布帛としては、一層(表面及び裏面で構成)構造の場合と、二層や三層以上の多層構造(表面、裏面及び中間層で構成)の場合が挙げられる。
【0016】
多層構造布帛としては、編物では、リバーシブルのシングルニットやダブルニット、スライバーニット、ダンボールニットやダブルラッセルがあり、織物ではダブルベルベット織機、不織布では、一種又は二種以上の繊維ウェブを多層に積層して、又は、繊維ウェブと編織物を多層に積層して繊維交絡させたものがある。ここで、中間層は接結糸、連結糸、挿入糸(紡績糸、フィラメント糸並びにスライバーを含む)をいう。
又、手袋はそのまま用いても良いが、従来公知の各種処理、例えば、防滑性等付与を目的に手袋の一部又は全部に、手のひら側の外面や外面全面に塩化ビニル樹脂やラテックス、天然ゴム、合成ゴム等のエラストマーを公知の手段によってコーティングやラミネートしてもよい。又、蒸れ防止等からガス透過性かつ液体不透過性のエラストマー、例えば、多孔質や無孔質ポリウレタン、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をコーティングまたはラミネートしてもよい。この手袋の上にさらにゴム等のエラストマーを加工しても良い。
【0017】
具体的に手袋の用途例としては、製鉄用、溶接用、塗装用、消防用、カーレースのレーシング用が挙げられるが、特に本発明では、優れた着用快適性から、精密機械産業用、航空機産業、情報機器産業、医療手術又は衛生分野のように繊細な作業が要求される分野に好適である。
本発明の紡績糸は、手袋用途以外の用途、例えば、腕カバー等防護材料やアウトドアスポーツ衣料にも有用である。
尚、例えば屋外で強い紫外線を受けることによってポリケトン繊維の引張強度等の低下を抑制する目的で、繊維又は紡績糸や織編物等の形態で紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の一種又は二種以上の組み合わせがある。)及び/又は紫外線遮蔽剤(例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム等の微粒子があり、平均粒径は0.01〜0.6μmが好ましい。)を含有させることが好ましい。含有させる方法としては、例えば、繊維又は紡績糸や織編物等に紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤を含有した樹脂やフィルムを付与又は被覆する方法が挙げられ、紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤の含有量は、樹脂やフィルムの質量に対して0.001〜10質量%の範囲が好ましい。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明を実施例、比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)繊維の引張強度、引張伸度、引張弾性率
JIS−L−1013に準じて測定する。
サンプル長:20cm、引張速度:20cm/分で測定し、20回測定した時の平均値を求める。
(2)手袋の蒸れ感、清涼感、ソフト風合
繊維の研究に従事する5人の検査員によって手触りによる官能検査を行い、下記のランク付けを行った。
<蒸れ感、清涼感、ソフト風合>
○:蒸れ感、清涼感、ソフト風合に富んでいる。
△:蒸れ感、清涼感、ソフト風合を感じる。
×:蒸れ感、清涼感、ソフト風合に乏しい。
【0019】
(3)手袋の着用快適性
繊維の研究に従事する5人の検査員によって着用による官能検査を行い、下記のランク付けを行った。
<着用快適性>
○:着用快適性に優れている。
△:着用快適性にやや優れている。
×:着用快適性に劣っている。
(4)耐切傷性
JIS−T−8052に準ずる。
【0020】
[実施例1]
1670dtex/964fのパラ系アラミド繊維マルチフィラメント糸(引張強度20cN/dtex、引張伸度4.5%、引張弾性率500cN/dtex)を用い、繊維長51mmにカットして得られたロービング2本を異なる平行走行路を経てバックローラー対に導入し、精紡機のドラフト域にてドラフトした後、リングトラベラーの加撚作用により合撚してボビンに巻き取りサイロスパン紡績糸を得た(英式綿番手で10/1’s)。
この紡績糸を5本合糸したものを用いて、7ゲージの手袋編機で手袋を作製して評価した結果、手袋の蒸れ感、清涼感、ソフト風合(○〜△)、着用快適性(○〜△)と優れたものであった。尚、耐切傷性は8Nであった。
【0021】
[比較例1]
1670dtex/964fのパラ系アラミド繊維マルチフィラメント糸(引張強度20cN/dtex、引張伸度4.5%、引張弾性率500cN/dtex)を用い、繊維長51mmにカットして、短繊維フリースとなし、リング精紡機にて紡績糸を製造する際に、280dtexパラ系アラミド繊維マルチフィラメント糸を、短繊維フリースの速度(精紡機のフロントローラーの速度に相当)に対して1.05倍速く、精紡機のフロントローラーに短繊維フリースよりも速く供給し、パラ系アラミド繊維マルチフィラメント糸が鞘部を主体的に形成し、パラ系アラミド繊維短繊維が芯部を主体的に形成した鞘芯構造の精紡交撚糸条(英式綿番手で20/1’s相当、撚数15.7回/2.54cmのZ撚)を得た。得られた精紡交撚糸条は、実撚を有するパラ系アラミド繊維短繊維束の周囲に、パラ系アラミド繊維マルチフィラメント糸条が捲き付いた構造を有する精紡交撚糸条であった。
この精紡交撚糸条を常法により双糸加工した糸条を5本合糸したものを用いて、7ゲージの手袋編機で手袋を作製して評価した結果、手袋の蒸れ感、清涼感、ソフト風合(△〜×)、着用快適性(△〜×)と実施例1に対比して劣ったものであった。尚、耐切傷性は8Nであった。
【0022】
[実施例2]
1670dtex/1250fのポリケトン繊維マルチフィラメント糸(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)を用いて、繊維長51mmにカットしたものを用いた以外は、実施例1同様にして得られたサイロスパン紡績糸を用いて実施例1と同様に手袋を作製して評価した結果、手袋の蒸れ感、清涼感、ソフト風合(○)、精密作業性(○〜△)と実施例1と同様に優れたものであった。尚、耐切傷性は9Nと優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、通気性が高く清涼感があり、ストレッチ性にも優れており、極めて着用快適性に優れた手袋を提供できる紡績糸を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイロスパン紡績糸又はダブルロービング紡績糸であって、この紡績糸を構成する繊維が引張強度10cN/dtex以上の高強力繊維の短繊維からなることを特徴とする紡績糸。
【請求項2】
高強力繊維が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維であることを特徴とする請求項1に記載の紡績糸。
【化1】

【請求項3】
請求項1又は2に記載の紡績糸で構成されていることを特徴とする手袋。

【公開番号】特開2008−274496(P2008−274496A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122038(P2007−122038)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】