説明

紡績糸

【課題】織編物に対し軽量感、ソフト感、弾力感といった特性の他、タンブル乾燥のような家庭乾燥にも十分耐えうるだけの寸法安定性を与えうる、従来ない優れたナイロン紡績糸を提供する。
【解決手段】単糸繊度10dtex以下のナイロン11短繊維を、紡績糸全体に対し40質量%以上含んでなる紡績糸。単独使用でも、他の繊維との混合使用でも良い。
【効果】紡績糸からなる織物は、ナイロン6紡績糸からなる織物より寸法安定性が優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン11短繊維を使用した紡績糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古くから、ナイロン6やナイロン66といったポリアミド短繊維を使用した紡績糸が知られ、衣料だけでなく資材分野においても広く使用されている。
【0003】
しかしながら、上記のポリアミド繊維を使用した織編物は、一般に熱セット性にやや劣り、表面変化を付与し難い点が度々問題視されることがあった。
【0004】
この点を解決するために、例えば特許文献1では、アルカリ溶出成分を特定量含んだナイロン6複合繊維からなる糸条を使用することが提案されている。この糸条は、通常のナイロン6糸条よりも撚止めセット効果に優れているため、これを用いて織編物に変化に富むシボ感を与えることができる。
【0005】
また、特許文献2では、芯成分としてエチレン−酢酸ビニルケン化物、鞘成分としてナイロン6を配した複合繊維からなる糸条を使用した、シワ感に富む織物が提案されている。
【特許文献1】特開平8−35145号公報
【特許文献2】特開平6−220770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、ポリアミド繊維を使用した織編物の熱セット性を向上させるには、上記のように繊維内にポリアミド以外の成分を含有させる手段が一般的に有効とされてきた。衣料用織編物には、軽量感、ソフト感、弾力感といった特性が欠かせず、ポリアミド繊維は、このような特性を織編物に同時に付与できる点で優れているが、上記のように、繊維内にポリアミド以外の成分を含ませてしまうと、織編物からこのような特性が失われてしまうことがある。
【0007】
また、かかる織編物の熱セット性を向上させる目的も、織編物の表面感向上に限られ、洗濯後、乾燥機を使用しても収縮しないだけの寸法安定性を織編物に具備させるという視点から検討された事例はない。
【0008】
熱セットとは、織編物が熱に追随して形態を変え、その後、その形態に固定されるという現象を指す。織編物の熱セット性を向上させるには、染色加工時に織編物を高温で熱セットすればよく、これにより織編物の収縮をある程度防ぐことができる。つまり、後に織編物に熱を加えても、これがセット時より低い温度であれば、一般にセット性は保たれるのである。しかし、熱セット性の付与がポリアミドを始めとする高分子組成物の基質に由来する特性を利用したものである以上、織編物に加える熱がいくらセット時より低い温度であったとしても、長時間熱を加え続ければ当然織編物が受ける熱量が増すから、少なからず織編物は収縮してしまうことになる。
【0009】
そうすると、例えば、タンブル乾燥のような家庭乾燥であっても、乾燥温度こそセット時の温度より低いものの、長時間乾燥するから織編物が受ける熱量は相当大きなり、それに伴い織編物は収縮してしまう。
【0010】
これを改善するには、織編物をより高い温度でセットすればよいが、高い温度でセットすればするほど、新たに繊維の脆化、黄変といった問題が発生しやすくなり、かえって織編物の風合いや品位を損ねてしまうことになる。
【0011】
そこで、この点を改善するため、織編物を付帯加工するなどの手段が検討されてきたが、有効といえるものは見出されておらず、タンブル乾燥のような家庭乾燥にも十分耐えうるだけの寸法安定性を確保するには、繊維の組成自体を改変・改質する以外、有効な手段が見当たらないのが現状である。
【0012】
本発明は、このような従来技術の欠点を解消するものであり、織編物に対し軽量感、ソフト感、弾力感といった特性の他、タンブル乾燥のような家庭乾燥にも十分耐えうるだけの寸法安定性を与えうる、従来ない優れたナイロン紡績糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究の結果、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、単糸繊度10dtex以下のナイロン11短繊維を、紡績糸全体に対し40質量%以上含んでなることを特徴とする紡績糸を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の紡績糸は、特定繊度のナイロン11短繊維を特定量含むものである。これにより、従来のナイロン紡績糸と異なり、軽量感、ソフト感、弾力感といった特性だけでなく、タンブル乾燥のような家庭乾燥にも十分耐えうるだけの寸法安定性を織編物に付することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明ではナイロン11短繊維を用いる。この繊維の原材料たるナイロン11とは、11−アミノウンデカン酸を重縮合することにより得られるものである。11−アミノウンデカン酸はヒマ(トウゴマ)の種子から抽出されたひまし油を元に生成されるものであるため、ナイロン11は、植物由来成分といえる。ナイロン11中には、少量であればε−カプロラクタムやヘキサメチレンジアンモニウムアジペートなどの他のポリアミド形成単量体が共重合されていてもよく、また、ナイロン6やナイロン66など他のポリアミドがブレンドされていてもよい。さらに、ナイロン11中には、効果を損なわない範囲であれば、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、艶消剤、無機充填剤、補強剤、耐熱剤、着色剤、顔料などの各種添加剤が含有されていてもよい。
【0018】
ナイロン11は、いうまでもなく高分子組成物であるところ、低分子組成物(モノマー)を必然的に含んでいる。このモノマーの量を通常よりも少なくすると、繊維を得る際に溶融紡糸、延伸条件などを厳しく制御せずとも、強伸度に優れたナイロン11短繊維を操業性よく得ることができる。したがって、ナイロン11中に含まれるモノマー量としては、0.35%未満であることが好ましい。
【0019】
ナイロン11のモノマー量の測定は、以下のようにして行う。まず、ナイロン11チップを凍結粉砕して1mm角以下になるようにし、これを0.5g分精秤し、純水10mlを添加して、60℃のウォーターバス中で2時間抽出する。次に、0.45μmのフィルターでろ過し、GC/MS測定用試料とし、以下に示す条件でGC/MSの測定を行う。
【0020】
装置:GC:アジレント6890N、MS:アジレント 5975C
カラム:5%−ジフェニル−95%−ジメチルポリシロキサン
カラム温度:50℃、昇温測定 20℃/分
キャリアガス:ヘリウム
注入口温度:250℃、注入量1μリットル、スプリット比 10:1
検出器温度:280℃
ナイロン11中のモノマー量を0.35%未満となすには、チップとイオン交換水を向流で接触させ、浴比(チップ/イオン交換水=1/10〜1/4)、97℃で8〜16時間、抽出処理を行う方法などがあげられる。
【0021】
本発明におけるナイロン11短繊維は以上の組成からなる。他方、繊維形状としては、断面形状については円断面、異形断面、中空断面など任意の形状を採用してよいが、太さすなわち単糸繊度については10dtex以下とする必要がある。10dtexを超えると、織編物に軽量感やソフト感などを与えることができなくなる。単糸繊度の下限については特に限定されないものの、織編物に張り腰感を付与する観点から、0.5dtex以上が好ましい。また、繊維長については、特に限定されないが、紡績性の観点から一般に35〜76mmが好ましい。
【0022】
本発明の紡績糸は、以上のようにナイロン11短繊維を含むものであり、その含有量としては、織編物に対し軽量感や寸法安定性を付する観点から、40質量%以上とする必要がある。ナイロン11短繊維の比重は、一般に1.03g/cm程度とナイロン6短繊維の1.14g/cmに比べ小さく、このため、本発明の紡績糸を用いれば、軽量感ある織編物が得られる。また、本発明の紡績糸と織編物の寸法安定性との関係については、詳細は不明であるが、ナイロン11短繊維の公定水分率が約1.0%とナイロン6短繊維の4.5%より小さいことが寸法安定性向上に寄与しているものと思われる。つまり、公定水分率が小さくなると、標準状態と湿潤状態との間で水分率の差が少なくなるから、これが織編物の寸法変化に好ましい影響を及ぼしているものと推測している。
【0023】
本発明の紡績糸はこのようにナイロン11短繊維を特定量含むものであり、本発明の効果を損なわない限りにおいてこれ以外の短繊維を含んでいてもよい。かかる短繊維としては、特に限定こそされないものの、例えば、ナイロン11が植物由来成分である点を考慮すれば、天然繊維や再生繊維の他、ポリ乳酸短繊維などを選択するのがよいし、また、織編物の風合いを考慮すれば、ナイロン6短繊維やナイロン66短繊維などがよいし、寸法安定性を考慮すれば、ポリエステル短繊維がよいといえる。
【0024】
次に、本発明の紡績糸の製造方法として一例を説明する。
【0025】
まず、モノマー量を0.35%未満としたナイロン11チップを用意し、このチップの水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度230℃で溶融紡糸する。次に、得られた紡糸糸条を延伸することなく一旦引き取り、10万から200万dtexのトウに集束する。そして、これを熱延伸した後、クリンパーにて機械捲縮を与え、所定の長さに切断してナイロン11短繊維となす。
【0026】
得られた短繊維は、本発明の主たる構成をなすもので、必要に応じて他の短繊維と共に一連の紡績工程に導入し、目的の紡績糸となす。紡績工程は、一般の合繊紡績法を準用すればよい。
【実施例】
【0027】
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)が2.01、モノマー量が0.25%のナイロン11チップを用い、このチップの水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度230℃で溶融紡糸した。そして、得られた紡糸糸条を集束して10万dtexのトウとし、熱延伸した後、これを押し込み式クリンパーに導入して捲縮を加えた。その後、これを平均繊維長51mmに切断し、単糸繊度1.7dtexのナイロン11短繊維となした。得られた短繊維の強度は4.0cN/dtex、伸度は50%であった。
【0028】
次に、得られたナイロン11短繊維を一連の紡績工程を投入し、ナイロン11短繊維単独使用の紡績糸(実施例1)、及びナイロン11短繊維と綿繊維とを1:1の質量比で混ぜ合わせた紡績糸(実施例2)の2種を作製した。紡績糸の太さは共に30番手(英式綿番手)であった。
【0029】
得られた紡績糸をそれぞれ経緯糸に用い、経糸密度100本/2.54cm、緯糸密度70本/2.54cmで平組織の生機を製織し、精練後、酸性染料を使用して染色し、2種の織物を得た。
【0030】
得られた2種の織物は、共に軽量感、ソフト感、弾力感に優れていた。ただし、織物目付けがそれぞれ146g/m2(実施例1)、158g/m2(実施例2)であったことから、ナイロン11短繊維を多く使用した実施例1にかかる織物が、より軽量感に富むものであった。
【0031】
また、両織物に対し、JIS L1042G法に基づいて家庭洗濯し、続いてタンブラー乾燥するという操作を10回繰り返した後、その寸法変化について測定したところ、それぞれ経方向0.5%、緯方向0.4%(実施例1)、経方向1.5%、緯方向1.4%(実施例2)であった。
【0032】
比較のため、ナイロン11短繊維に代えて、平均繊維長及び単糸繊度を同じくするナイロン6短繊維を用いる以外は、上記実施例1、2と同様にして、ナイロン6短繊維単独使用の紡績糸(比較例1)、及びナイロン6短繊維と綿繊維とを1:1の質量比で混ぜ合わせた紡績糸(比較例2)の2種、並びにこれらを用いた2種の織物を得た(比較例1、2)。
【0033】
得られた織物は、ソフト感、弾力感に優れていたが、織物目付けがそれぞれ161g/m2(比較例1)、166g/m2(比較例2)とやや重く、軽量感に欠ける結果となった。
【0034】
また、上記実施例1、2と同様の手段にて織物の寸法変化を測定したところ、それぞれ経方向3.0%、緯方向2.8%(比較例1)、経方向2.8%、緯方向3.0%(比較例2)であった。この結果から、ナイロン11短繊維を使用した実施例1、2の織物は、従来公知の織物に比べ、タンブル乾燥のような家庭乾燥にも十分耐えうるだけの寸法安定性を有していることが確認できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度10dtex以下のナイロン11短繊維を、紡績糸全体に対し40質量%以上含んでなることを特徴とする紡績糸。


【公開番号】特開2010−77562(P2010−77562A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248096(P2008−248096)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】