説明

紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法

【課題】 水酸化カルシウムを主成分とする水性懸濁液に二酸化炭素含有ガスを吹き込んで炭酸化反応させることにより紡錘状軽質炭酸カルシウムを製造するに当たり、複雑な合成条件や操作を必要とせず、容易でかつ相対的に幅広い合成条件のもとで、粉砕性に優れる塗工紙用顔料とし好適な紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】 生石灰を得る工程(A)、消石灰水性懸濁液を得る工程(B)、炭酸化反応させる工程(C)とを含む塗工紙用の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法であって、工程(A)における焼成温度が800〜1000℃であり、工程(A)で得た生石灰の全硫黄含有率が0.01質量%以上であり、(B)工程で得た消石灰水性懸濁液の濃度が10〜20質量%であり、(C)工程における炭酸化反応の反応開始温度が50〜80℃であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽質炭酸カルシウムの製造方法に関し、さらに詳しくは、塗工紙用の紡錘状軽質炭酸カルシウムとしての品質が安定し、製造効率(粉砕性)が高い紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗工紙の製造分野では、塗工紙用顔料として、例えばカオリン、二酸化チタン、タルク、水酸化アルミニウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム等の無機顔料が広く使用されている。これら無機顔料のうち、軽質炭酸カルシウムは、白色度、不透明度、平滑度あるいは透気度等に優れるので、従来より好ましく使用されている無機顔料の1つである。ところで、軽質炭酸カルシウムは3種の結晶構造を有し、その結晶構造の違いによって塗工紙の品質特性上の特徴を発現させている。例えば、針状炭酸カルシウムの場合には、高光沢性で不透明度、インキ着肉性及びインキセット性に優れた塗工紙の製造に適する等の特性を示し、紡錘状炭酸カルシウムの場合は、低光沢性でウェットインキ着肉性等に優れた塗工紙の製造に適している。
【0003】
一般的に合成される軽質炭酸カルシウムは、生石灰を温水に投入して消石灰を調成し、該消石灰に二酸化炭素含有ガスを吹き込んで合成される。そして、合成された軽質炭酸カルシウムが塗工紙用顔料として用いられる場合、合成後にフィルタープレス等で脱水あるいは搾水濃縮され、目標粒子径まで粉砕される。
【0004】
特に白紙光沢度等の高い塗工紙品質を得るためには軽質炭酸カルシウムの粒子径を小さくする必要があり、粒子径の小さい軽質炭酸カルシウムを合成するために様々な研究がなされている。
【0005】
例えば、消石灰水性懸濁液に二酸化炭素含有ガスを吹き込む際の条件を三段階にわたって制御することが提案されている(特許文献1)。また、炭酸化率によって昇温温度を制御しながら強制加温を行う方法が提案されている(特許文献2)。これらのアラゴナイト型針状軽質炭酸カルシウムの製造に当たって提案されている方法は、合成条件及びその制御を厳密に規定する必要があり、かつ合成条件が比較的狭い範囲に限られる。そのため、操作が複雑となり、結果的に生産性が低下するという難点がある。
【0006】
また、先ず合成条件の異なる方法で微小なアラゴナイト型針状軽質炭酸カルシウムを製造し、次いで消石灰水性懸濁液に該針状軽質炭酸カルシウムを種結晶として用い、この水性懸濁液に二酸化炭素(ガス)を導入し炭酸化反応によってこれを成長させて所望の粒子径を有するアラゴナイト型針状軽質炭酸カルシウムを製造することが提案されている(特許文献3)。しかしながら、この方法も所望とするアラゴナイト型針状軽質炭酸カルシウムを効率よく製造することが困難であるという難点を抱えている。
【0007】
さらに、消石灰水性懸濁液中に二酸化炭素含有ガスを吹き込んで炭酸化反応を行うことによる針状軽質炭酸カルシウムの製造方法において、該水性懸濁液中に針状軽質炭酸カルシウム種結晶を配合し、かつ該水性懸濁液を単位容積当りに与える攪拌動力を示すP値で0.25kw/m以上を示す攪拌力で攪拌しながら炭酸化反応を行わせる方法が提案されている(特許文献4)が、高攪拌力を維持しながら反応の温度設定を比較的低温に長時間制御する必要があり、操作の複雑性と製造コストが高くなるという問題点を有している。
【0008】
一方、紡錘状軽質炭酸カルシウムについては、針状軽質炭酸カルシウム対比短径が太く粉砕が困難であり、粒子径を小さくするのが困難であるため、塗工紙用として用いた場合針状軽質炭酸カルシウム対比白紙光沢が劣る。
【0009】
例えば、消石灰水性懸濁液濃度と二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素ガス濃度を制御することによって紡錘状軽質炭酸カルシウムの平均粒径を制御することが提案されている(特許文献5)。しかしながら、この方法は消石灰水性懸濁液濃度を5〜6.2質量%に制御する必要があり、製造コストが高くなるという問題点を有している。
【0010】
また、生石灰活性度および消化反応条件を制御することによって高収率で軽質炭酸カルシウムを得ることが提案されている(特許文献6)。しかしながら、この方法は消化反応時の平均滞留時間が60分以内である必要があり、工業的に製造する場合には、軽質炭酸カルシウム合成専用工場等に製造ラインが限定される。
【0011】
また、炭酸化反応後の水性懸濁液をフィルタープレス操作等で脱水あるいは搾水濃縮して高濃度の軽質炭酸カルシウムのケーキを調製することにより、高濃度の水性懸濁液を得ることができる塗工用紡錘状軽質炭酸カルシウムを得ることが提案されている(特許文献7)。しかしながら、この方法は、脱水あるいは搾水により軽質炭酸カルシウムの固形分濃度を非常に高濃度にする必要があり、フィルタープレス等脱水・搾水装置の性能に大きく依存する。また、ケーキを高濃度化することにより軽質炭酸カルシウム粒子の凝集性が増し、粉砕性が悪化する。
【0012】
また、脱水あるいは搾水後の高濃度化された軽質炭酸カルシウムの分散および粉砕処理後の軽質炭酸カルシウム粒子のBET比表面積を制御することにより、低粘度で高速流動性に優れた軽質炭酸カルシウムを得ることが提案されている(特許文献8)。しかしながら、分散および粉砕処理後の軽質炭酸カルシウム粒子のBET比表面積を制御することは、操作の複雑化により工業生産においては実施が非常に困難である。
【0013】
また、粒子径を制御することによって、高濃度かつ低粘度な紡錘状軽質炭酸カルシウムを得ることが提案されている(特許文献9)。しかしながら、この方法は、粉砕前の粒子径も制御する必要があり、針状軽質炭酸カルシウムの製造方法のような複雑な合成条件、操作および設備増設が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公昭55−51852号公報
【特許文献2】特公平2−55370号公報
【特許文献3】特公平1−34930号公報
【特許文献4】特開2000−272919号公報
【特許文献5】特開平6−271313号公報
【特許文献6】特開平9−309723号公報
【特許文献7】特開平10−316419号公報
【特許文献8】特開平11−335110号公報
【特許文献9】特開2002−201022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、消石灰水性懸濁液に二酸化炭素含有ガスを吹き込んで炭酸化反応させることにより塗工紙用顔料として用いる軽質炭酸カルシウムを製造するに当たり、複雑な合成条件、操作および設備増設を必要とせず、容易でかつ相対的に幅広い合成条件のもとで、塗工紙用に適した紡錘状軽質炭酸カルシウムを効率的に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、基本的には、石灰石を焼成することにより生石灰を得る工程(A)、該生石灰を湿式消化することにより消石灰水性懸濁液を得る工程(B)、該消石灰水性懸濁液に二酸化炭素含有ガスを吹き込み、炭酸化反応させる工程(C)とを含む塗工紙用の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法であって、工程(A)で得た生石灰の全硫黄含有率、(B)工程で得た消石灰水性懸濁液の濃度、(C)工程における炭酸化反応の反応開始温度を特定することを特徴とし、以下の各発明を包含する。
【0017】
(1)石灰石を焼成することにより生石灰を得る工程(A)、該生石灰を湿式消化することにより消石灰水性懸濁液を得る工程(B)、該消石灰水性懸濁液に二酸化炭素含有ガスを吹き込み、炭酸化反応させる工程(C)とを含む塗工紙用の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法であって、工程(A)における焼成温度が800〜1000℃であり、工程(A)で得た生石灰のJIS R 9011:2006に規定される蛍光X線分析法による全硫黄含有率が0.01質量%以上であり、(B)工程で得た消石灰水性懸濁液の濃度が10〜20質量%であり、(C)工程における炭酸化反応の反応開始温度が50〜80℃である紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【0018】
(2)工程(A)で得た生石灰中のJIS R 9011:2006に規定される蛍光X線分析法による全硫黄含有率が0.03質量%以上である(1)に記載の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【0019】
(3)工程(A)で得た生石灰中の焼け残り分としてのJIS R 9011:2006に規定される炭酸バリウム逆滴定法による二酸化炭素含有率が1.0質量%以下である(1)または(2)に記載の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【0020】
(4)工程(A)で得た生石灰中のJIS R 9011:2006に規定される蛍光X線分析法による酸化カルシウム含有率が90質量%以上である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【0021】
(5)工程(B)において、湿式消化水温度が20〜90℃である(1)〜(4)のいずれか1項に記載の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の軽質炭酸カルシウムの製造方法により、複雑な合成条件及び操作を必要とせず、容易でかつ相対的に幅広い合成条件のもとで、塗工紙用に適した紡錘状軽質炭酸カルシウムを効率的に製造する方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、塗工紙用顔料として用いる紡錘状軽質炭酸カルシウムを湿式合成によって製造する方法に関するものであり、その特徴は、石灰石を焼成することにより生石灰を得る工程(A)、該生石灰を湿式消化することにより消石灰水性懸濁液を得る工程(B)、該消石灰水性懸濁液に二酸化炭素含有ガスを吹き込み、炭酸化反応させる工程(C)とを含む塗工紙用の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法であって、工程(A)で得た生石灰の全硫黄含有率、(B)工程で得た消石灰水性懸濁液の濃度、(C)工程における炭酸化反応の反応開始温度を特定することである。
【0024】
紡錘状軽質炭酸カルシウムの品質は、合成条件に大きく影響を受けるが、原料である生石灰の成因、成分にも大きく影響を受ける。塗工紙に適した紡錘状軽質炭酸カルシウムを得るためには、合成条件および/または粉砕条件等によって粒子径を小さくする必要があるが、合成条件および/または粉砕条件で小さい粒子径の炭酸カルシウムを得ようとすると、複雑な合成条件、操作および設備増設が必要となる。しかし、生石灰中に含有する全硫黄量を制御することによって粉砕性が向上し、複雑な合成条件、操作および設備増設を必要とせずに粒子径の小さい紡錘状軽質炭酸カルシウムを得ることが可能となる。このような優れた粉砕性を有する紡錘状軽質炭酸カルシウムを合成するためには生石灰中のJIS R 9011:2006に規定される蛍光X線分析法による全硫黄含有率を0.01質量%以上とする必要があり、好ましくは0.03質量%以上である。
【0025】
生石灰中に含有される硫黄量は、原石である石灰石にも影響を受けるが、主に焼成条件に左右される。焼成に用いられる燃料はLPG、重油、石炭、コークスなどがあるが、重油やコークス等のようにJIS K 2541−6:2003で定められた放射線式励起法あるいはJIS M 8813:2004で定められた燃焼容量法による硫黄含有率が0.5質量%以上となるような燃料を用いるのが好ましい。
【0026】
また、現在日本で実用化されている石灰焼成炉は、ベッケンバッハ炉、メルツ炉、国井式炉、KHD炉、コマ式炉、混合焼き立炉、ロータリーキルン、プレヒーター付ロータリーキルン、プレヒーター付流動焼成炉、カルシマチック炉等が挙げられるが、ベッケンバッハ炉、メルツ炉、プレヒーター付ロータリーキルンなどの熱排気ガスを熱源とするプレヒーターを用いた焼成炉は、プレヒーター内の石灰石が予熱される段階で熱排気ガス中の硫黄分を吸収しやすく、また熱効率も良好であり、得られる生石灰の製造コストが低下するので、好ましい。
【0027】
生石灰と吸収対象の硫黄化合物であるSOとの反応は、生石灰の温度が200℃未満の温度では殆ど進行しない。生石灰の温度が約200〜400℃の範囲においては、生石灰とSOが反応しCaSOとなる。そして、温度が約400〜800℃の範囲ではCaSOが部分的に分解反応する。一方、温度の上昇と共に生石灰のSOとの反応性は上がり、SOの吸収量は増加する。そして、温度が約800〜1000℃の範囲ではCaSOとCaSは極めて不安定になり、空気と反応してCaSOの生成量が増加する。そして、生石灰とSOの反応性は更に上がり、SO吸収量は益々増加する。そして、約900〜1000℃の範囲でSOの吸収量は最高となる。しかしながら、1000℃を超えるとCaSOの分解反応が起き、その反応速度が高いためにSO吸収量は逆に減少する。したがって、焼成温度は800〜1000℃であることが必要であり、焼成雰囲気は酸化雰囲気下であることが好ましい。
【0028】
生石灰中の成分としては、焼け残りとして含有するJIS R 9011:2006で定められた炭酸バリウム逆滴定法による二酸化炭素含有率が1.0質量%以下であることが好ましい。二酸化炭素含有率が1.0質量%を上回ると、消化反応および炭酸化反応における未反応残渣が増加し、軽質炭酸カルシウムの収率が低下する。ここで、該二酸化炭素含有率は焼成温度、時間等を制御することにより1.0質量%以下に調製される。
【0029】
生石灰中の成分としては、JIS R 9011:2006に規定される蛍光X線分析法による酸化カルシウム含有率が90質量%以上であることが好ましい。酸化カルシウム含有率が90質量%を下回ると、消化反応および炭酸化反応における未反応残渣が増加し、軽質炭酸カルシウムの収率が低下するだけではなく、白色度も低下するおそれがある。ここで、該酸化カルシウム含有率は焼成温度、時間等を制御することにより90質量%以上に調製される。
【0030】
従来生石灰の品質の指標の主なものとして活性度が挙げられていた(特開平9−309723号公報等参照)が、軽質炭酸カルシウムを合成する際に活性度が影響を及ぼす項目としては、炭酸化反応時間、収率、一次粒子径等であり、粉砕性には影響しない。
【0031】
本発明においては、消和反応および炭酸化反応において湿式反応を採用しているが、乾式反応は複雑な合成条件及び操作を必要とし、また生産性も低いため、好ましくない。
【0032】
このような生石灰を水により湿式消化し、水酸化カルシウム(消石灰)水性懸濁液を製造する。該水性懸濁液の消石灰濃度は10〜20質量%である必要がある。消石灰水性懸濁液の濃度が20質量%を超えると合成された軽質炭酸カルシウムの凝集が激しくなり、粉砕性が悪化する。逆に、消石灰水性懸濁液の濃度が10質量%を下回ると、生産性が低下する。
【0033】
湿式消化に用いる消化水温度は20〜90℃が好ましく、より好ましくは30〜70℃である。消化水温度が20℃を下回ると、消化に要する時間が長くなり生産性が低下し、90℃を超えると懸濁液粘度が上昇し、スクリーンなどの目詰まりのおそれがある。
【0034】
本発明において用いられる二酸化炭素含有ガスは、特に限定されるものではないが、石灰石焼成キルン排ガスなどの石灰石焼成排ガス、パルプ製造プラントのライムキルン排ガスなどの石灰石焼成排ガス、発電ボイラー排ガス、ゴミ焼却排ガスなどが挙げられる。
【0035】
本発明においては、炭酸化反応開始温度は50〜80℃である必要がある。消化反応は発熱反応であり、消石灰濃度が10〜20質量%の範囲では消石灰水性懸濁液の温度は最高で85℃程度である。したがって、消化反応後に80℃を超える温度で炭酸化反応を開始するには加温をする必要があり、加温のための付帯設備が必要となり、そのためのエネルギーを消費することとなる。また、50℃未満で炭酸化反応を開始するには消石灰水性懸濁液を冷却する必要があり、冷却のための付帯設備が必要となり、加温以上にエネルギーを消費することとなる。さらに、結晶形が変化し、紡錘状のものが減少するおそれがあるため品質上も好ましくない。
【0036】
本発明においては上記の生石灰より調成して得た既定濃度の消石灰水性懸濁液中に既定濃度の二酸化炭素含有ガスを水性懸濁液に吹き込んで炭酸化反応を行う。なお、炭酸化反応は、水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変換されることにより終了するものであり、反応の完結を示すpH8.0以下まで二酸化炭素含有ガスの吹き込みを継続して行うものである。
【0037】
紡錘状軽質炭酸カルシウムの合成には攪拌が必ずしも必要ではないが、粒度分布が狭まり塗工品質が向上するため、攪拌を加えることが好ましい。本発明で採用される攪拌は、単位容積あたりに与える攪拌動力を示すP値で0.25kw/m以上が好ましく、上限については特に限定するものではないが、本発明が所望とする紡錘状軽質炭酸カルシウムを効率良く得るためには0.4kw/m以上が好ましく、さらに好ましくは0.4〜1.5kw/mの範囲である。P値が0.25kw/m未満の場合は、好ましい粒度分布を有する紡錘状軽質炭酸カルシウムが得られ難い。また、P値が1.5kw/mを超える強力な攪拌でも、好ましい粒度分布を有する紡錘状軽質炭酸カルシウムを得ることができるが、動力負荷に見合った効果が得られないおそれがある。なお、攪拌動力を示すP値とは、P=P/V(kw/m)で表され、Pは水性懸濁液への二酸化炭素含有ガス通気時における攪拌動力(kw)であり、Vは攪拌の対象となる液容積(m)である。強力な攪拌を得て反応を促進させるためには、攪拌の中心となる攪拌翼として、剪断能力に優れ、かつガス気泡を破壊細分化するのに好適なタービン型攪拌翼または傾斜タービン型攪拌翼を装備した攪拌翼が特に好ましく使用される。
【0038】
炭酸化反応における二酸化炭素濃度は特に限定されるものではなく、好ましくは、二酸化炭素(ガス)の混合容量が10〜35容量%である二酸化炭素含有ガスを使用し、かつ二酸化炭素(ガス)として、消石灰1kg当り0.5〜5.0L/分の割合となるように水性懸濁液中に吹き込んで炭酸化反応を促進すると、反応時間、及び得られる紡錘状軽質炭酸カルシウムの品質等の面で、極めて効率良く炭酸化反応が促進される。二酸化炭素導入量が0.5L/分未満では生産性が劣り、また、5L/分を超えるような量を採用することはできるが、そのように使用量を増加させるために必要な動力負荷に見合った効果は期待できない。
【0039】
かくして得られる紡錘状軽質炭酸カルシウムはフィルタープレス等で脱水濃縮してケーキとし、さらに高濃度で水に分散し、粉砕性に優れる塗工紙用顔料として適用できるものである。
【0040】
ここで用いられる粉砕機としては、特に限定はないが、サンドグラインダー、SCミル、ペイントシェイカー、ダイノミル、ミュービスコミル、ドライスDCPスーパーフロー等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。勿論、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、例中の「部」及び「%」は特に断らない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0042】
なお、各測定は下記により行った。
〔燃料中の硫黄含有率〕 重油はJIS K 2541−6:2003で定められた波放射線式励起法、コークスはJIS M 8813:2004で定められた燃焼容量法、LPGはJIS K 2240:2007で定められた酸水素燃焼−過塩素酸バリウム沈殿滴定法に準拠して測定を行った。
【0043】
〔生石灰中の全硫黄含有率〕 JIS R 9011:2006で定められた蛍光X線分析法に準拠して測定を行った。
【0044】
〔生石灰中の二酸化炭素含有率〕 JIS R 9011:2006で定められた炭酸バリウム逆滴定法に準拠して測定を行った。
【0045】
〔生石灰中の酸化カルシウム含有率〕 JIS R 9011:2006で定められた蛍光X線分析法に準拠して測定を行った。
【0046】
〔粉砕前粒子径〕 粉砕開始前の炭酸カルシウム水性懸濁液をマイクロトラックHRA粒度分析計(日機装社製)を用いて測定し、そのメディアン径を粉砕前粒子径とした。
【0047】
〔粉砕性〕 平均粒子径(マイクロトラックHRA粒度分析計(日機装社製)を用いて測定したメディアン径)が0.85±0.03μmとなるまでに要した時間を粉砕性とした。この時間が短いほど粉砕性が良く、長いほど粉砕性が悪い。この粉砕時間が45分を超えると操業上問題がある。
【0048】
〔200mesh残渣率〕 炭酸化反応後の炭酸カルシウム水性懸濁液中の未反応物を200meshで濾し、200mesh残渣率を求めた。
200mesh残渣率(%)=炭酸化反応後炭酸カルシウム水性懸濁液200mesh残渣質量/炭酸化反応後炭酸カルシウム水性懸濁液中の炭酸カルシウム固形分質量 × 100
【0049】
〔消石灰水性懸濁液粘度〕 消化反応後の消石灰水性懸濁液を濃度11%、温度20℃に調整し、回転数60rpmのBrookfield型粘度計でローシェア粘度を測定した。
【0050】
〔粒子形状〕 炭酸化反応後の炭酸カルシウム水性懸濁液を105℃で乾燥させ、SEM写真撮影を行い、炭酸カルシウムの粒子形状を観察した。
【0051】
<実施例1>
CO99.85容量%、SO0.15容量%の混合ガス雰囲気下で900℃の電気炉で焼成した生石灰中の全硫黄含有率0.027%、生石灰中の二酸化炭素含有量0.50%、生石灰中の酸化カルシウム含有量97.10%である生石灰を炭酸化反応槽22m3 (直径2.6m)中の65℃の温水に投入し120分攪拌して消和し、消石灰水性懸濁液20mを調製した。次いで、この70℃、濃度11%、20mの消石灰水性懸濁液に、二酸化炭素を20容量%含有するガスを消石灰1kg当り二酸化炭素(ガス)として2.5L/分となる割合で吹き込み、同時に攪拌動力P値が0.7kw/mとなる攪拌力で、傾斜タービン型攪拌翼を備えた攪拌機により攪拌を行いながら炭酸化反応を行い、pH7.7を反応終点とした。炭酸化反応終了後の紡錘状軽質炭酸カルシウム水性懸濁液をフィルタープレス(株式会社藪田製作所製)にて脱水濃縮し、分散剤(商品名:「アロンT−50」、東亞合成株式会社製)を炭酸カルシウム100部に対し0.6部添加してコーレスミキサー(商品名:「T.K.ホモミキサー」、プライミクス株式会社製)にて湿式分散した。該分散液の濃度を55%に調整して該分散液200gをφ2mmのガラスビース200gと共に500mLポリビンに入れ、ペイントシェイカー(東洋精機製)を用いてJIS K 5101−1−2:2004に規定された条件にて振とう(往復運動+反復回転運動)させ、平均粒子径(マイクロトラックHRA粒度分析計(日機装社製)を用いて測定したメディアン径)が0.85±0.03μmとなるまで粉砕した。
【0052】
<実施例2>
実施例1において、N92.85容量%、HO7容量%、SO0.15容量%の混合ガス雰囲気下で焼成した、全硫黄含有率0.012%、二酸化炭素含有率0.87%、酸化カルシウム含有率96.69%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0053】
<実施例3>
実施例1において、CO25.5容量%、N67.25容量%、HO5.6容量%、O1.5容量%、SO0.15容量%の混合ガス雰囲気下で焼成した、全硫黄含有率0.055%、二酸化炭素含有率0.23%、酸化カルシウム含有率97.88%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0054】
<実施例4>
実施例1において、CO14.9容量%、N76.75容量%、HO6.4容量%、O1.8容量%、SO0.15容量%の混合ガス雰囲気下で焼成した、全硫黄含有率0.036%、二酸化炭素含有率0.43%、酸化カルシウム含有率96.87%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0055】
<実施例5>
実施例1において、CO16.3容量%、N76.45容量%、HO7.1容量%、SO0.15容量%の混合ガス雰囲気下で焼成した、全硫黄含有率0.028%、二酸化炭素含有率0.27%、酸化カルシウム含有率96.61%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0056】
<実施例6>
実施例1において、CO27.5容量%、N66.25容量%、HO6.1容量%、SO0.15容量%の混合ガス雰囲気下で焼成した、全硫黄含有率0.020%、二酸化炭素含有率1.65%、酸化カルシウム含有率96.42%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0057】
<実施例7>
実施例1において、硫黄含有率が0.8%である重油を燃料としたプレヒーター付ロータリーキルンで焼成した、全硫黄含有率0.036%、二酸化炭素含有率0.85%、酸化カルシウム含有率95.83%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0058】
<実施例8>
実施例1において、硫黄含有率が1.1%であるコークスを燃料とした混合焼き立炉で焼成した、全硫黄含有率0.014%、二酸化炭素含有率0.58%、酸化カルシウム含有率89.26%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0059】
<実施例9>
実施例1において消化水温度を95℃とした以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0060】
<実施例10>
実施例1において炭酸化反応開始温度を60℃とした以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0061】
<実施例11>
実施例1において炭酸化反応開始時消石灰濃度を15%とした以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0062】
<比較例1>
実施例1において、CO16.0容量%、N74.95容量%、HO6.9容量%、CO2.0容量%、SO0.15容量%の混合ガス雰囲気下で焼成した、全硫黄含有率0.005%、二酸化炭素含有率0.055%、酸化カルシウム含有率96.80%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0063】
<比較例2>
実施例1において、CO27.0容量%、N64.95容量%、HO5.9容量%、CO2.0容量%、SO0.15容量%の混合ガス雰囲気下で焼成した、全硫黄含有率0.002%、二酸化炭素含有率0.036%、酸化カルシウム含有率97.88%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0064】
<比較例3>
実施例1において、CO26.5容量%、N63.45容量%、HO5.9容量%、CO4.0容量%、SO0.15容量%の混合ガス雰囲気下で焼成した、全硫黄含有率0.004%、二酸化炭素含有率0.028%、酸化カルシウム含有率96.87%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0065】
<比較例4>
実施例1において、硫黄含有率が0.36%である石炭を燃料とした混合焼き立炉で焼成した、全硫黄含有率0.006%、二酸化炭素含有率0.02%、酸化カルシウム含有率96.61%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0066】
<比較例5>
実施例1において、硫黄含有率が0.01%であるLPGを燃料としたプレヒーター付ロータリーキルンで焼成した、全硫黄含有率0.008%、二酸化炭素含有率0.036%、酸化カルシウム含有率96.42%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0067】
<比較例6>
実施例1において炭酸化反応開始時消石灰濃度を40%とした以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0068】
<比較例7>
実施例1において炭酸化反応開始温度を45℃とした以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0069】
<比較例8>
実施例1において、1500℃で焼成した、全硫黄含有率0.006%、二酸化炭素含有率0.50%、酸化カルシウム含有率97.10%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0070】
<比較例9>
実施例1において、700℃で焼成した、全硫黄含有率0.008%、二酸化炭素含有率0.50%、酸化カルシウム含有率97.10%である生石灰を用いた以外は実施例1と同様にして紡錘状軽質炭酸カルシウムを得た。
【0071】
<比較例10>
紡錘状軽質炭酸カルシウム(商品名:「TP-121」、奥多摩工業株式会社製)を濃度55%の水性懸濁液に調製して該懸濁液200gをφ2mmのガラスビース200gと共に500mLポリビンに入れ、ペイントシェイカー(東洋精機製)を用いてJIS K 5101−1−2:2004に規定された条件にて振とう(往復運動+反復回転運動)させ、平均粒子径(マイクロトラックHRA粒度分析計(日機装社製)を用いて測定したメディアン径)が0.85±0.03μmとなるまで粉砕した。
【0072】
<比較例11>
紡錘状軽質炭酸カルシウム水性分散液(商品名:「TP-221BM」、奥多摩工業株式会社製)の濃度を55%に調製して該分散液200gをφ2mmのガラスビース200gと共に500mLポリビンに入れ、ペイントシェイカー(東洋精機製)を用いてJIS K 5101−1−2:2004に規定された条件にて振とう(往復運動+反復回転運動)させ、平均粒子径(マイクロトラックHRA粒度分析計(日機装社製)を用いて測定したメディアン径)が0.85±0.03μmとなるまで粉砕した。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
実施例1〜11は石灰石の焼成温度が800〜1000℃であり、かつ生石灰中の全硫黄含有率が0.01%以上、炭酸化反応開始時の消石灰濃度が10〜20質量%、反応開始温度が50〜80℃であるので、粉砕性が良好で短時間で目標粒子径の紡錘状軽質炭酸カルシウムを得ることができた。
これに対し、比較例1〜5、8、9は生石灰中の全硫黄含有率が0.01質量%未満であったため、また比較例6は炭酸化反応時の消石灰濃度が20質量%を超えたため、目標粒子径の紡錘状軽質炭酸カルシウムを得るために長時間の粉砕処理を必要とした。また、比較例7は炭酸化反応開始温度が50℃未満であったため紡錘状軽質炭酸カルシウムが得られなかった。
さらに、粉砕前粒子径が同等である市販されている紡錘状軽質炭酸カルシウムを同様に粉砕しても、目標粒子径の紡錘状軽質炭酸カルシウムを得るために長時間の粉砕処理を必要とした。
【産業上の利用可能性】
【0078】
表1〜4から明らかなように本発明の実施例は、比較例に比べ粉砕性に優れ、塗工紙用顔料として用いる紡錘状軽質炭酸カルシウムとしての生産性に極めて優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰石を焼成することにより生石灰を得る工程(A)、該生石灰を湿式消化することにより消石灰水性懸濁液を得る工程(B)、該消石灰水性懸濁液に二酸化炭素含有ガスを吹き込み、炭酸化反応させる工程(C)とを含む塗工紙用の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法であって、工程(A)における焼成温度が800〜1000℃であり、工程(A)で得た生石灰が含有する全硫黄の含有量が0.01質量%以上であり、(B)工程で得た消石灰水性懸濁液の濃度が10〜20質量%であり、かつ(C)工程における炭酸化反応の反応開始温度が50〜80℃であることを特徴とする紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
工程(A)で得た生石灰中の全硫黄含有量が0.03質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
工程(A)で得た生石灰が焼け残り分として含有する二酸化炭素量が1.0質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
工程(A)で得た生石灰中の酸化カルシウム含有量が90質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
工程(B)において、湿式消化水温度が20〜90℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の紡錘状軽質炭酸カルシウムの製造方法。

【公開番号】特開2011−225390(P2011−225390A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95602(P2010−95602)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】