説明

紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性の評価方法

【課題】非侵襲的な手段を用いて採取した皮膚角層を用いて、皮膚サンバーンに対する抵抗性の指標を提供する。
【解決手段】皮膚角層中のアネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、アルギナーゼ−1、SCCA2からなる群から選ばれる1種又は2種以上のタンパク質の発現量を指標とする紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日焼けは照射された紫外線がメラニンの保護能力を超える時に起こる。日焼け現象には2種類あり、紫外線にあたった直後には発症せず、2〜6時間後皮膚が赤くなり、痛みは6〜48時間後に最もひどくなるサンバーン(紅斑:sunburn)と、24〜72時間の間、色素沈着が進行するサンタン(suntan)がある。サンバーンはUVBが表皮を透過し、真皮乳頭体まで達した結果、乳頭体内の毛細血管が炎症反応として充血を起こし、皮膚の色が赤くなった状態(紅斑)を指す。紫外線量がメラニン色素の防御反応を超えると、細胞組織が損傷を受け、発熱や水泡、痛みが起きる。これを日光皮膚炎という。また、サンタンはUVAがメラノサイトに働きかけ、メラニン色素の生成を促す。UVAは発赤や炎症を伴うことは無いが、皮膚の新陳代謝を遅らせるためシミを発生する。
これら日焼けの元となっている紫外線には皮膚に対する発ガン作用、白内障等の眼疾患への影響、免疫機能への影響など多くの健康への影響が懸念されている。皮膚においても紫外線にさらされると、様々な紫外線障害を引き起こす。紫外線は皮膚に炎症を起こしたり、皮膚の不飽和脂質を酸化して脂質ラジカルを発生させ、過酸化脂質を生成する。この様な紫外線による炎症や酸化は組織、細胞、DNAの障害を引き起こす。皮膚の紫外線曝露による現象としては一般的に、シワ、シミ、皮膚癌等が挙げられる。
近年、疫学的なデータとして紫外線に対する感受性の違い(肌の色、スキンタイプ等)により皮膚がんのリスクが高まるとの報告もある(非特許文献1,2,3)。さらに皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)の危険リスク度はmelanocortin1 receptoerの1塩基置換の遺伝子変異によりリスクが数倍高くなることも明らかとなっている(非特許文献4,5)。紫外線に対する感受性はスキンタイプ(日焼けした際のサンバーン、サンタンの状態の違いにより分類)によって大きく異なり、6段階に分類するタイプ別にわけたり、赤み(紅斑)を生じる最小紫外線エネルギー(最小紅斑量:MED)を目安に行われたりするが、前者は主観的観測、また後者は紫外線を当てなくては測定できないというリスクが伴う。オゾン層破壊などにより以前にも増して紫外線増加が問題になっており、個人に対する紫外線への感受性リスク評価も適切に行われる必要がある。
一方、一般的にシミと言われている色素沈着ができる初期段階においては皮膚表面に顕在化する前に様々な刺激により表皮角化細胞がα−MSH、bFGF、CGRP、エンドセリンなどの情報伝達物質を生成し、メラノサイトに伝達する。メラノサイトに伝達された後、細胞内においてメラニン色素が大量に作られる。さらに紫外線によってターンオーバーが異常となり大量に作られたメラニン色素が排出できないため色素性病変へと変化する。in vitro系を用いた実験においてもメラノサイトにUVを照射した場合、細胞の増殖因子マーカーである、p73、Nup88、p27、Id1、PCNAが、またアポトーシス関連蛋白質であるbcl−2の発現が増減するという報告がある(非特許文献5)。
これまでに、バイオプシーによる皮膚組織を用いて侵襲的にシミ部と正常部を比較し、シミ部においてNT−3、ADAM9、HB−EGFといった蛋白質の発現が顕著に増加しているという報告がある(特許文献1)。さらに、皮膚のシミ形成を予知する検査方法としてバイオプシーによってMLSTD1、MOGAT1、Mcp9、Krt2−6b等のmRNA量を測定し、しみ形成のリスクを判断するという報告がある(特許文献2、3、4)。また、非侵襲的な方法としてテープストリッピングもしくは擦過を介して採取した皮膚に由来する角層を試料として、インターロイキン1(IL−1)とインターロイキン1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)の存在量分析をし、肌質の評価をする方法が特許文献5に開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−205246号公報
【特許文献2】特開2005−106745号公報
【特許文献3】特開2005−110505号公報
【特許文献4】特開2007−289063号公報
【特許文献5】特許第3590708号公報
【非特許文献1】Arch Dermatol.2004;140:819−824
【非特許文献2】Cancer Causes Control. 1997;8 (2):246−252
【非特許文献3】Ann Epidemiol.2008;18(8):614−627
【非特許文献4】Invest Dermatol.117:294−300,2001
【非特許文献5】Am.J.Hum.Genet.66:176−186,2000
【非特許文献6】Carcinogenesis 24(12):1929−1934,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、非侵襲的な手段を用いて採取した皮膚角層を用いて、皮膚サンバーンに対する抵抗性の指標を提供することを目的とする。尚、本発明で言う皮膚サンバーンに対する抵抗性とは、紫外線曝露による照射後24時間以内に発生する炎症が早期に回復し、発赤の程度が減少することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)皮膚角層中のアネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、アルギナーゼ−1、偏平上皮癌関連抗原(SCCA2)からなる群から選ばれる1種又は2種以上のタンパク質の発現量を指標とすることを特徴とする紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性の評価方法。
(2)(1)の評価方法に基づいて皮膚サンバーン防止化粧料を選択する方法。
【発明の効果】
【0006】
本願発明は、非侵襲的な手法を用いて得られた皮膚角層において、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、アルギナーゼ−1、偏平上皮癌関連抗原squamous cell carcinoma−related antigen2(SCCA2)の存在量が紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性の指標となることを明らかにした。
本発明により、紫外線を実際に照射することなく、紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性を評価することができる。
本発明は、非侵襲的なテープストリッピング手段を用いて採取した皮膚角層を用いて評価することができるので、安全かつ簡便である。
また、本発明の評価法を利用して、紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗を高めることに有用な成分をスクリーニングすることができる。
本発明により、紫外線による炎症(紅斑)の回復力を評価することが可能である。紫外線による炎症の回復力が低いと、紫外線曝露による皮膚老化、シワ、シミ、さらには皮膚癌のリスクが高いと推測されるので、紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性の弱い人には、あらかじめ強力なサンスクリーン剤の使用を薦める等の美容カウンセリングを的確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
本願発明は、非侵襲的な手法により採取した皮膚角層中に存在する5種類のタンパク質を計測した存在量に基づいて、当該被験者の紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性を知ることができるものである。紫外線に暴露した後の回復度合いとこの5種類のタンパク質の存在量が相関することを見出して、この発明を完成した。この5種類のタンパク質は、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、アルギナーゼ−1、SCCA2である。アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンDは、タンパク質の発現量が少ない人は、紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性が強い傾向がある。アルギナーゼ−1、SCCA2は、タンパク質の発現量が多い人は、紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性が強い傾向がある。
したがって、これら5種類について、予め発現量をいくつかの段階に設定して、紫外線による皮膚サンバーン抵抗度合いを指標化することができる。被験者から採取した皮膚角層の発現量を測定して、これらの指標と比較することにより、当該被験者の皮膚サンバーン抵抗性を容易に知ることができる。
この結果に基づき、日焼けに注意が必要な者に屋外活動を注意するよう指導することができる。あるいは、紫外線に弱いことが判明した場合は、紫外線遮蔽効果の強い化粧料を選択することなどの対処を一人一人が採ることができる。あるいは、化粧料選択のカウンセリングを科学的な根拠をもって行うことができる。
また、紫外線によるサンバーンが生じ易い培養皮膚モデルを利用して、この5種類のタンパク質の発現量に影響を与える被検査物質を探索することにより、紫外線によるサンバーン抵抗性を改善できる薬剤をスクリーニングすることが可能となる。
本願発明は、テープストリッピング等の被侵襲的な方法によって安全に、かつ容易に皮膚角層を採取して、その皮膚角層を用いて短時間に注目するタンパク質の発現量を特定することができる。このため、化粧品売り場等で簡単に測定して、その場で化粧料選択の情報として活用することができる。このタンパク質の発現量を測定する機器は検出した結果と前記段階化した指標と比較して提示することができる。更に、この結果に基づいて、適した化粧料を表示することもできる。
更に本発明は、医療目的以外の目的で、皮膚老化などの老化リスクを評価でき、それに基づいて医療以外の目的で対処措置を施すことができるものである。
【0008】
アルギナーゼ−1は分子質量34,735Daの細胞内タンパク質で、アルギニンをオルニチンと尿素に変換する酵素。哺乳類《アルギナーゼ》の少なくとも2つの《アイソフォーム》(I型とII型)が存在し、それらは組織分布、細胞内局在性、免疫学的交差反応性、生理学的機能において異なる。この遺伝子が指令するアイソフォームI型は細胞質ゾル酵素であり、尿素循環の構成因子として肝臓で優先的に発現される。この酵素の遺伝的《欠損》は、《高アンモニア血症》を特徴とする《常染色体劣性遺伝疾患》である《アルギニン血症》をもたらす 。遺伝子塩基配列情報(ARG1,Nucleic Acids Res.:16:8789−8802(1988), X12662)。アミノ酸配列情報(Arginase−1, Cell Death Differ. 2000 Feb;7(2):137−44, P05089)。
【0009】
アネキシンIIは、分子質量38,473Daの細胞内タンパク質で、カルシウムで制御される膜結合蛋白質であり、この蛋白質に二つのカルシウムイオンが結合する。2組あるアネキシンリピートのうち、一つはカルシウムが結合し、一つはリン脂質が結合する。この蛋白質は細胞膜にあるリン脂質に結合しているアクチンや細胞骨格系の蛋白質と架橋したり、t−PA (tissue plasminogen activator)を介してプラスミノーゲンを活性化したりする。遺伝子塩基配列情報(Annexin A2 ,Gene 95:243−251(1990), BC015834)。アミノ酸配列情報(Annexin A2, J.Biol. Chem. 266:5169−5176(1991), P07355)。
ブレオマイシン ハイドロラーゼは分子質量52,562Daの細胞内タンパク質で、パパインファミリーの中性システインプロテアーゼの一つ。唯一知られている活性は糖ペプチドブレオマイシン(BLM)(癌の複合化学療法の重要要素)の代謝不活性化である。遺伝子塩基配列情報(BLMH,1230091253543_0, X92106)。アミノ酸配列情報(bleomycin hydrolase, Biochemistry 35:6706−6714(1996),Q13867)。
【0010】
カテプシンDは分子質量44,542Daのリソソーム性アスパラギン酸プロテアーゼで,細胞内タンパク質の分解を促進します。炎症,アテローム性動脈硬化症,血栓症,アルツハイマー病等の発症に関与しており,アポトーシスや,乳癌等の腫瘍細胞の増殖にも関与することが示唆されている。遺伝子塩基配列情報(CTSD,1230091253543_1
, M63138)。アミノ酸配列情報(Cathepsin D, Nat. Biotechnol. 21:660−666(2003), P07339)。
【0011】
偏平上皮癌関連抗原squamous cell carcinoma-related antigen2(SCCA2)は分子質量44,854Daの細胞内蛋白質で、カルボキシル末端側にセルピン構造を有するセリンプロテアーゼ阻害剤。正常扁平上皮では発現が僅かだが、扁平上皮ガンでは高発現が見られる。また、カテプシンG、キマーゼのセリンプロテアーゼを強く阻害する他にシステインプロテアーゼ、パパイン、カテプシンLを抑制する。遺伝子塩基配列情報(SERPINB4,1230091253543_2,X89015)。アミノ酸配列情報(Serpin B4, Int. J. Cancer 89:368−377(2000),P07355)。
【0012】
上記のアルギナーゼ−1、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、SCCA2は、前駆体タンパク質であっても、成熟タンパク質であってもよく、また、切断型であっても、非切断型であってもよい。前駆体タンパク質としては、プロタンパク質、プレプロタンパク質などを挙げることができる。プロタンパク質、プレプロタンパク質などには、シグナルペプチドを持つものもある。
【0013】
皮膚角層から角層タンパク質を採取する方法
(1)テープストリッピング法による角層の採取
テープストリッピング法とは皮膚に粘着テープを貼り付けて、粘着テープを剥がすことにより、粘着面に粘着した角層を採取する方法である。
市販の粘着テープを用いて、例えばヒト頬部に粘着テープを押し付けることにより、角層を粘着テープに粘着させて採取することができる。市販の粘着テープとしてはアサヒバイオメッド社製角質チェッカー、モリテックス社製角層シール、PROMOTOOL社製角質チェッカー(ディスクタイプW、ディスクタイプG、PROタイプ)、Integral社製Corneofix、3M社製透明テープ、3M社製透明両面テープ等が挙げられる。
【0014】
(2)抽出バッファー
粘着テープに粘着した角層から角層タンパク質を抽出するために抽出バッファーを用いる。抽出バッファーとして例えば以下の組成を挙げることができる。組成:PBS(−)、0.1%SDS。
粘着テープで採取されてくる皮膚の角質層は角化細胞が分化したもので、細胞骨格系のタンパク質を多く含む。そのため角層タンパク質の抽出効率を上げるには、この抽出バッファーに適当な界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤としてはSDS(ラウリル硫酸ナトリウム、CH3(CH2)11OSO3Na)を使用することが好ましい。
【0015】
(3)角層タンパク質の抽出
角層を採取した粘着テープを円筒容器に入れて、高速回転するホモジナイゼーション用のペッスル(以下、「ペッスル」と呼ぶ)を用いて粘着面を擦ることにより迅速に角層タンパク質の抽出が可能である。粘着テープは粘着面を円筒容器内側に向けて、粘着面の反対面を円筒容器の内側に沿わせるようにして、円筒容器に入れる。粘着テープを粘着面の反対面を円筒容器の内側に沿わせて入れることにより、ペッスルにより容易に粘着面を擦ることができる。この他の方法として、角層を採取した粘着テープを抽出バッファーに浸してスクレーパーで擦って角層タンパク質を抽出しても良く、振盪法や超音波法を用いても良い。
【0016】
(4)角層タンパク質抽出液の回収
角層タンパク質抽出液を約1分間静置し、泡を沈静化し、その後、円筒容器から角層タンパク質抽出液を吸引して回収することが好ましい。
【0017】
(5)角層タンパク質中のアルギナーゼ−1、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、SCCA2の存在量の分析
得られた角層タンパク質抽出液中のアルギナーゼ−1、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、SCCA2の存在量は、免疫ブロッティング法、ELISA法、抗体チップ法、FRET法により定量分析することができる。
【0018】
紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性の評価
1MEDの紫外線照射1週間後に皮膚紅斑が消失する群のアネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンDの存在量は、皮膚サンバーンが消失しない群と比べて少ないことが明らかとなった。
また、1MEDの紫外線照射1週間後に皮膚サンバーンが消失する群のアルギナーゼ−1、SCCA2の存在量は、皮膚サンバーンが消失しない群と比べて多いことが明らかとなった。
従って、皮膚角層中のアネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンDの存在量が平均値よりも少ない場合、又は、アルギナーゼ−1、SCCA2の存在量が平均値よりも多い場合には、紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性が強いと評価できる。
逆に、皮膚角層中のアネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンDの存在量が平均値よりも多い人、あるいは、アルギナーゼ−1、SCCA2の存在量が平均値よりも少ない人は、紫外線被爆によって皮膚老化、シミ、シワが亢進され易く、シミ等の紫外線障害が生じ易いと評価できる。
【0019】
紫外線による皮膚サンバーンの消失促進剤のスクリーニング
マウス等の皮膚角層中のアネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンDの存在量を減少させる、あるいは、アルギナーゼ−1、SCCA2の存在量を増大させる成分を探索することにより、紫外線による皮膚サンバーンの消失促進剤をスクリーニングすることができる。
【実施例】
【0020】
1.被験者
20代と30代の男性10名を被験者とした。各被験者の年齢、スキンタイプ、最小紅斑量、紫外線照射前のa*値を表1に示す。また、スキンタイプのIIは「簡単にサンバーンを起こし、僅かにサンタンを起こす」タイプ、IIIは「普通にサンバーンを起こし、普通にサンタンを起こす(薄茶色の日焼け)」タイプ、IVは「僅かにサンバーンを起こし、常にサンタンを起こす(茶色の日焼け)」タイプである。表1に示したスキンタイプは被験者の自己申告である。従って、今回客観的に測定した最小紅斑量とスキンタイプは必ずしも対応しない。
尚、a*値は紫外線による炎症に伴って発生する発赤レベルの指標として測定した。
【0021】
【表1】

【0022】
2.皮膚角層中のアルギナーゼ−1、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、SCCA2の存在量の測定
2.1 テープストリッピングによる角層の採取
粘着テープとしてアサヒバイオメッド社製角質チェッカー(2.5cm×2.5cm)を用いた。被験者の背部に角質チェッカーを貼り、指先で軽く擦り付けて皮膚角層を角質チェッカーの粘着面に粘着させ、合計5枚のテープストリッピングを背部から採取した。また、テープストリッピングからのによる採取箇所は紫外線非照射部位から採取した。
【0023】
2.2 皮膚角層タンパク質の抽出
抽出バッファー:PBS(−)、 0.1%(w/v)SDS。
抽出バッファー量:200μL。
抽出容器:直径11mmの円筒容器。
円筒容器に粘着テープを粘着面の反対の面が容器の内壁に沿うようにして入れ、抽出バッファーを入れて、ミニ・コードレスグラインダー(フナコシ社 code13753E)にペッスルとしてHandy pestle (TOYOBO社、code HMX−301)を接続し、ペッスルを9000rpmで回転させて、円筒容器内壁に沿わせた粘着テープの粘着面を擦った。攪拌時間は90秒とした。
皮膚角層タンパク質抽出液を約1分間静置し、泡を沈静化し、その後、円筒容器から皮膚角層タンパク質抽出液を吸引して回収した。
【0024】
3.皮膚角層タンパク質量の測定
皮膚角層タンパク質抽出液に含まれる全タンパク質量をDC protein Assay Kit(BIO−RAD社)を用いて測定した。
【0025】
4.皮膚角層タンパク質中のアルギナーゼ−1、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、SCCA2の存在量の測定
皮膚角層タンパク質量1μg分を用いて免疫ブロッティングによるアルギナーゼ−1、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、SCCA2の発現量を測定した。各被験者の皮膚角層タンパク質1μg分を用いて5-15%グラジエントゲルを用いてSDS-PAGEによって分離後、タンパク質をPVDF膜に転写し、5%スキムミルクでブロッキングを行った。1次抗体(アルギナーゼ1モノクローナル抗体:Santa Cruz Biotechnology 、アネキシンIIポリクローナル抗体:Santa Cruz Biotechnology、ブレオマイシン ハイドロラーゼポリクローナル抗体:Abnova、カテプシンDモノクローナル抗体:R&D Systems、SCCA2モノクローナル抗体:Santa Cruz Biotechnology)を1000倍希釈、2次抗体(HRP-マウス anti−Goat IgG: ZYMED Laboratories 、HRP−ラビットanti−Goat IgG:ZYMED Laboratories)を10000倍希釈で反応させた後、ECLplus(BD Bioscience)にて検出を行った。得られたバンドの強度はNIH−Imageにて数値化を行った。この数値をアルギナーゼ−1、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、SCCA2の存在量とした。
【0026】
5.紫外線照射
被験者の背部の直径約8mmの円内に1MEDの紫外線を照射した。紫外線照射装置はsolar light company製 Multiple Solar Ultraviolet Simulator Model 601を用いた。紫外線強度はsolar light company製 Erythema UV & UVA IntensityMeter Model 3D−600 v2.0を用いて設定した。
【0027】
6.皮膚a*値の測定
皮膚サンバーンの紅斑の程度を評価するために、分光測色計(CM−500、コニカミノルタ社製)を用いて紫外線照射部位および非照射部位のa*値を測定した。紫外線照射前、照射後2、4、7、10、14日目の紫外線照射部位および非照射部位のa*値を測定し、同日内で照射部位と非照射部位のa*の差を測定日のa*変化量(Δa*)として解析に用いた。
【0028】
7.皮膚a*値の測定結果
紫外線照射後のa*値の変化量(Δa*)を図1に、7日目のΔa*値を表2に示す。
Δa*を指標とする皮膚紅斑は照射後24時間で最大に達し、これが、このあと経時的に減少していく。そして7日目には最大値の約1/4に達する。
【0029】
【表2】

被験者1〜5は紫外線照射7日目に紅斑がほぼ消失したが(Δa*<1)、被験者6〜10は紫外線照射7日目でも紅斑が消失しなかった(Δa*>1)。Δa*>1であると、目視評価により紅斑の確認が可能であり、被験者6〜10はいずれも、目視評価により紅斑が確認された。一方、目視評価により被験者1〜5の紅斑は認められなかった。
従って、被験者1〜5は被験者6〜10と比べて発赤の回復が早く、皮膚サンバーンに対する抵抗性が高いと評価できる。
本発明の皮膚サンバーンに対する抵抗性とは、皮膚サンバーンの程度を最小紅斑に統一したときに、最小紅斑が消失し、炎症が回復する機能の優劣を示すものである。従って、紫外線の最小紅斑量と、皮膚サンバーンに対する抵抗性は必ずしも相関しない。
表2で示したスキンタイプはあくまでも被験者本人の日焼けに対する感受性をアンケート調査によって分類したもので、表2の最小紅斑量との整合がとれない部分があるが、これは、一般的に自分で分類しているスキンタイプの型はあいまいな点が多いことを示し、最小紅斑量や今回測定したタンパク発現量はより客観的な指標を示すことができることを示している。
【0030】
8.紫外線による皮膚サンバーン消失群と皮膚サンバーン非消失群のアルギナーゼ−1、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、SCCA2の存在量について
前記7.を表2に示した紫外線照射7日後に皮膚サンバーンが消失した群(被験者1〜5)と皮膚サンバーンが消失しなかった群(被験者6〜10)の2群に分け、それぞれの群の被験者の皮膚角層中のアルギナーゼ−1、アネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、SCCA2の存在量の平均値を比較した。結果を図2〜6に示す。
図2、図6に示したとおり、紅斑非消失群のアルギナーゼ−1存在量平均値が2.166であるのに対して、紅斑消失群のアルギナーゼ−1存在量平均値は8.081であり、3.73倍である。アルギナーゼ−1存在量平均値は紅斑非消失群、紅斑消失群で有意な差があった(p=0.038)。また、紅斑非消失群のSCCA2存在量平均値が4.220であるのに対して、紅斑消失群のSCCA2存在量平均値は12.377であり、2.93倍の差が認められた。
皮膚角層中のアルギナーゼ−1、SCCA2の存在量の多い人は皮膚サンバーンに対する抵抗性が高いと評価した。
【0031】
図3〜5に示したとおり、紅斑非消失群のアネキシンII存在量平均値が2.598であるのに対して、紅斑消失群のアネキシンII存在量平均値は1.286であり、0.49倍である。アネキシンII存在量平均値は紅斑非消失群、紅斑消失群で有意な差があった(p=0.011)。また、紅斑非消失群のブレオマイシン ハイドロラーゼ存在量平均値が13.756であるのに対して、紅斑消失群のブレオマイシン ハイドロラーゼ存在量平均値は4.961であり、0.36倍の差が認められた。紅斑非消失群のカテプシンD存在量平均値が27.757であるのに対して、紅斑消失群のカテプシンD存在量平均値は8.705であり、0.31倍の差が認められた。
皮膚角層中のアネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンDの存在量が多い人は皮膚サンバーンに対する抵抗性が低いと評価した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】紫外線照射後のa*値の変化量を示す図。
【図2】被験者の皮膚角層中のアルギナーゼ−1の存在量の平均値を比較したグラフ。
【図3】被験者の皮膚角層中のアネキシンIIの存在量の平均値を比較したグラフ。
【図4】被験者の皮膚角層中のブレオマイシン ハイドロラーゼの存在量の平均値を比較したグラフ。
【図5】被験者の皮膚角層中のカテプシンDの存在量の平均値を比較したグラフ。
【図6】被験者の皮膚角層中のSCCA2の存在量の平均値を比較したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚角層中のアネキシンII、ブレオマイシン ハイドロラーゼ、カテプシンD、アルギナーゼ−1、偏平上皮癌関連抗原(SCCA2)からなる群から選ばれる1種又は2種以上のタンパク質の発現量を指標とすることを特徴とする紫外線による皮膚サンバーンに対する抵抗性の評価方法。
【請求項2】
請求項1の評価方法に基づいて皮膚サンバーン防止化粧料を選択する方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−151482(P2010−151482A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327377(P2008−327377)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【特許番号】特許第4446010号(P4446010)
【特許公報発行日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】