紫外線による皮膚障害防御用組成物
【課題】 紫外線による皮膚障害の防御作用に優れ、且つ安定性・安全性の高い紫外線による皮膚障害防御用組成物、および当該組成物を含有する皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】 紫外線による皮膚障害防御剤としてコエンザイムQ10を、好ましくは0.
0001〜10質量%で含有する組成物とする。
【解決手段】 紫外線による皮膚障害防御剤としてコエンザイムQ10を、好ましくは0.
0001〜10質量%で含有する組成物とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コエンザイムQ10を含有する紫外線による皮膚障害防御用組成物に関する。詳細には、紫外線による皮膚障害の防御作用に優れ、且つ安定性・安全性の高い紫外線による皮膚障害防御用組成物、および当該組成物を含有する化粧品および/または医薬部外品等の皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線による皮膚障害は、シミ、ソバカス、シワなどの皮膚の老化のみならず、皮膚ガンの原因の一つとして問題となっている。近年、特にシミ、ソバカスを防ぎ、肌を白く保つことが所望されており、紫外線による皮膚障害は深刻な肌の悩みの一つになっている。
【0003】
従来の紫外線による皮膚障害を防御する手段としては、紫外線吸収剤(サンスクリーン剤)の使用が最も一般的である。しかしながら、これらの紫外線吸収剤は、紫外線が皮膚に到達することを防ぐ目的で用いられており、皮膚の細胞自体の紫外線障害を防御するものではない。また、紫外線による皮膚障害を防御する成分として、インドール−3−アルデヒド、3−ヒドロキシアセチルインドールなどのインドール化合物(特開平7−48239)、テトラヒドロクルクミン(特開平6−128133)、イソフラボン誘導体(特開平6−40876)を皮膚外用剤に配合することが提案されている。しかし、これらの化合物は、紫外線による防御作用が十分でなかったり、また安全性の問題が生じる可能性がある。このため、紫外線による皮膚障害の防御作用に優れ、且つ安定性・安全性の高い紫外線による皮膚障害防御用組成物が所望されている。
【0004】
一方、コエンザイムQ10は、ユビキノン類と総称される、2,3−ジメトキシ−5−メ
チル−6−ポリプレニル−1,4−ベンゾキノンの側鎖のイソプレン単位が10のユビキ
ノンである。このコエンザイムQ10は、ユビデカレノンまたは補酵素Q10とも呼ばれ、日本薬局方に記載されている。またコエンザイムQ10は、生体内で電子伝達系および抗酸化システムに関与し、各種疾病に対して優れた薬理効果を示す物質である。例えば、免疫機能を向上させることにより心臓病、高血圧、リウマチ性弁疾患に対する有効性等が確認されている。また歯槽の炎症に対する有効性、皮膚外用剤としての老化防止に対する有効性も期待されている。このようにコエンザイムQ10は高い生理活性を持ち、且つ生体内に存在する安全性の高い物質であるため、近年、食品への適用が認められた。また、還元型のコエンザイムQ10がメラニンチロシナーゼを阻害することも知られている(特開昭61−27909)。しかしながら、コエンザイムQ10が紫外線による皮膚障害の防御作用に優れることは全く知られていない。
【特許文献1】特開平7−48239号公報
【特許文献2】特開平6−128133号公報
【特許文献3】特開平6−40876号公報
【特許文献4】特開昭61−27909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、紫外線による皮膚障害の防御作用に優れ、且つ安定性・安全性の高い紫外線による皮膚障害防御用組成物、および当該組成物を含有する皮膚外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、紫外線による皮膚細胞の障害が、コエンザイムQ
10によって防御できることを発見し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は、
[1]コエンザイムQ10を含有することを特徴とする紫外線による皮膚障害防御用組成物;
[2]コエンザイムQ10の含量が0.0001〜10質量%である上記[1]記載の組成
物;
[3]抗酸化剤、紫外線遮断剤、角層剥離剤、界面活性剤、香料、色素、防腐剤、pH調整剤、キレート剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有する上記[1]または[2]記載の組成物;
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の組成物を含有する皮膚外用剤;並びに
[5]皮膚外用剤の形態が、ローション、軟膏、クリーム、乳液、貼付剤およびジェルから選択される、上記[4]記載の皮膚外用剤;
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、紫外線による皮膚障害の防御作用に優れ、且つ安定性・安全性の高い紫外線による皮膚障害防御用組成物、および当該組成物を含有する皮膚外用剤が提供される。本発明のコエンザイムQ10を含有する組成物は、顕著な紫外線による皮膚障害防御効果を奏し、且つ自体が生体に存在する非常に安全性の高い物質であるため、本発明の皮膚外用剤は、日常的に使用して紫外線による皮膚障害の防御することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
コエンザイムQ10は、日本において医薬品として30年近い使用実績があり、重篤な副作用は報告されておらず、また海外でも健康食品として使用されているが問題となる有害事象は報告されていない。さらに、コエンザイムQ10は、皮膚刺激作用が無いことも知られている。
【0009】
一方、皮膚の細胞は紫外線により障害を受け、その結果、細胞内カルシウム濃度が上昇し、細胞内容物[例えば乳酸脱水素酵素(LDH)]の細胞外への漏出、細胞内でのチオバルビツール酸反応性物質(TBARS)として測定される過酸化物質濃度の上昇、およびNADPH−CoQレダクテース活性の低下などが観察される。そして、紫外線による障害の程度が大きいと、細胞は壊死し、その結果局所で炎症性の反応を惹起しさらなる皮膚組織障害を引き起こす。
しかしながら、コエンザイムQ10が通常のレベルより多く存在すると、細胞内カルシウム濃度の上昇、細胞内容物の細胞外への漏出およびTBARS産生の増加が抑制されると同時に、細胞のNADPH−CoQレダクテース活性が顕著に促進され、その結果として皮膚の細胞障害が顕著に防御される。このため、本発明のコエンザイムQ10を含有する組成物は、紫外線による皮膚障害から細胞を防御することができる。
【0010】
本発明の紫外線による皮膚障害防御用組成物において、コエンザイムQ10の含量は、組成物の形態により異なるが、通常は0.0001〜10質量%、好ましくは0.001〜5質量%の範囲である。コエンザイムQ10の含量が0.0001質量%未満であると十分な
防御効果が期待できず、10質量%より多く配合しても奏される効果は増加しない。
【0011】
本発明の紫外線による皮膚障害防御用組成物としては、コエンザイムQ10を上記の量で含有するものであれば特に限定されないが、コエンザイムQ10が水に難溶性であることから、植物性油、動物性油等の非親水性有機溶媒に溶解するか、または乳化剤、分散剤もしくは界面活性剤等を用いて水性溶液中に分散・乳化させた組成物であるのが好ましい。例えば、コエンザイムQ10を水性溶液中に分散・乳化させたコエンザイムQ10水溶化組成物としては、日清ファルマ株式会社製のアクアQ10L10、アクアQ10P5などを好ましく
用いることができる。
【0012】
また、コエンザイムQ10を含有する皮膚外用剤の剤型としては、ローション(例えばW/O型ローション、O/W型ローション)、軟膏、クリーム(例えばW/O型クリーム、O/W型クリーム)、乳液(例えば粘稠マイクロエマルジョンエッセンスまたはO/W型エッセンス)、貼付剤、およびジェルから選択される。
【0013】
本発明の組成物および皮膚外用剤は、製剤化のために、例えば大豆油、サフラー油、オリーブ油、胚芽油、ヒマワリ油、牛脂、イワシ油などの動植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトールなどの多価アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの界面活性剤、精製水、乳糖、澱粉、結晶セルロース、D−マンニトール、レシチン、アラビアガム、ソルビトール液、糖液などの賦形剤、色素、pH調整剤、香料などを含有することができる。さらに、本発明の組成物および皮膚外用剤は、製剤上許容し得る他の薬剤、添加剤および/または基剤と組合せられる。添加剤としては、抗酸化剤、紫外線遮断剤、角層剥離剤、防腐剤、キレート剤から選択されるが、抗酸化剤および/または紫外線遮断剤と組合わせることが好ましい。また、皮膚外用剤の有効性を向上させる角層剥離剤、経皮吸収性を向上させる天然系界面活性剤と組合わせることも好ましい。
【0014】
本発明において用いる抗酸化剤は、製剤上許容し得るものであれば特に限定はされないが、例えば、トコフェロールまたはその誘導体、水溶性抗酸化剤として低濃度のアスコルビン酸またはその誘導体、チオタウリン、グルタチオン等の含硫アミノ酸、ローズマリーエキス、セージエキス等の抗酸化生薬抽出エキス、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の合成抗酸化剤を挙げることができ、これらの1種または2種以上を組み合わせて適宜配合することができる。
【0015】
本発明において用いる紫外線遮断剤には、紫外線吸収剤および紫外線反射剤が包含される。紫外線吸収剤の例には、オクチルシンナメート、グリセリルモノ−2−エチルヘキサノイル−ジパラメトキシシンナメート等の桂皮酸エステル誘導体、パラアミノ安息香酸オクチルエステル、N,N−ジメチル−安息香酸オクチルエステル等の安息香酸エステル誘
導体、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸塩等のベンゾフェノン、その他の紫外線吸収剤として、3−(4′−メチルベンジリデン)−d,l−カンファー、3−ベンジリデン−d,l−カンファー、ウロカニン酸、ウロカニン酸エチルエステル、4−メトキシ−4′−t−ブチル−ジベンゾイルメタン等が挙げられる。紫外線反射剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、雲母チタン等が挙げられる。
【0016】
角層剥離剤としてはクエン酸、グリコール酸等のα−ヒドロキシ−カルボン酸、エチレンジアミンテトラカルボン酸モノ、ジおよびトリナトリウム塩、並びにトリメチルグリシン、ヒドロキシプロリン等のアミノ酸等が挙げられる。
【0017】
天然系界面活性剤としては、特にモノアルキロイルホスファチジルコリン等のリゾレシチン、ジアルキロイルホスファチジルコリン、ジアルキロイルホスファチジルエタノールアミン等のレシチン類を挙げることができる。
【0018】
本発明の皮膚外用剤には、通常、化粧品に用いられる成分(例えば、油性成分、保湿成分、増粘剤、乳化剤および各種添加剤)を配合することができる。例えば、油性成分としては炭化水素類、各種合成エステル類、ロウ類、油脂類、高級脂肪酸類、高級アルコール
類、シリコーン類等が挙げられる。
保湿成分としては、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、イソプレン
グリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、加水分解コラーゲンペプチド、エラスチンペプチド、ケラチンペプチド、ステロール配糖体等が挙げられる。
増粘剤としては、水溶性合成高分子化合物であるカルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースまたはその塩等、水溶性天然高分子化合物であるクインスシード抽出物、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
使用しうる界面活性剤・乳化剤は、ノニオン乳化剤としては各種高級アルコールのポリオキシエチレン付加物等、各種高級脂肪酸ポリオキシエチレングリコールモノ・ジエステル等およびグリセリン・ソルビタンのモノ・ジエステル等、アニオン乳化剤としては各種高級脂肪酸石鹸等、並びにカチオン乳化剤としてはα−オレオロイルグリセロールα′−ホスファチジルコリン(リゾレシチン)、大豆レシチンおよび卵黄レシチン等を挙げることができる。また、添加剤として、香料、色素、防腐剤、pH調整剤、キレート剤等を挙げることができ、これらを組み合わせて適宜配合することができる。
【0019】
次に、本発明における皮膚外用剤の製造例を示す。なお、下記の配合量は全て質量%である。
製造例1 コエンザイムQ10を含有するクリームの調製
A スクワラン 20.0
オリーブ油 8.0
精製蜜蝋 5.0
グリセリンモノステアレート 3.0
セトステアリルアルコール 2.0
コエンザイムQ10 2.0
B ポリオキシエチレン硬化ひまし油 3.0
グリセリン 10.0
精製水 47.0
(製法)A液とB液を80℃に加温する。攪拌しながらA液にB液を加え、ミキサーを用いて均一になるまで乳化させ、クリームを調製する。
【0020】
製造例2 コエンザイムQ10を含有するW/O型ローションの調製
マイクロクリスタリンワックス 1.0
精製蜜蝋 2.0
オリーブ油 2.0
スクワラン 10.0
流動パラフィン 19.0
コエンザイムQ10 1.0
1,3−ブチレングリコール 4.0
グリセリン 3.0
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 3.0
リゾレシチン 1.0
ポリオキシエチレン硬化ひまし油 1.0
α−トコフェロール 0.02
精製水 52.98
(製法)保湿剤として1,3−ブチレングリコール、グリセリンを精製水に添加し、70
℃まで加熱する。これとは別にマイクロクリスタリンワックス、精製蜜蝋、オリーブ油、スクワランおよび流動パラフィンを70℃まで加熱して溶解させた後、70℃に保持ながらコエンザイムQ10、乳化剤としてソルビタンセスキオレイン酸エステル、リゾレシチンおよびポリオキシエチレン硬化ひまし油、並びにα−トコフェロールを添加し、混合する
。この油相に、先に調製した水相を攪拌しながら徐々に添加して予備乳化させる。次いで、ホモミキサーで乳化し、脱気、冷却し、ローションを調製する。
【0021】
製造例3 コエンザイムQ10を含有するマイクロエマルジョン化粧水の調製
1,3−ブチレングリコール 6.0
グリセリン 5.0
ポリエチレングリコール 3.0
ピーナツ油 0.5
コエンザイムQ10 0.3
α−トコフェロール 0.02
ポリオキシエチレン硬化ひまし油 1.8
エタノール 10.0
香料 適量
pH調整剤 適量
キレート剤 適量
精製水 73.38
(製法)保湿剤として1,3−ブチレングリコール、グリセリンおよびポリエチレングリ
コール、pH調整剤およびキレート剤を精製水に添加して室温で溶解させる。これとは別にコエンザイムQ10、α−トコフェロール、ピーナツ油、乳化剤としてポリオキシエチレン硬化ひまし油および香料をエタノールに添加して室温にて溶解させる。先に調製した水相にこのアルコール相を添加して、ホモミキサーにて均質化して、マイクロエマルジョンを調製する。
【0022】
製造例4 O/W型紫外線遮断剤含有エッセンスの調製
ステアリン酸 3.0
エタノール 1.0
コレステリル−12−ヒドロキシステアレート 3.0
流動パラフィン 5.0
2−エチルヘキシルパルミテート 3.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
ポリオキシエチレン(20モル)セチルアルコールエーテル 2.0
グリセリルモノステアレート 2.0
グリセリルモノ−2−エチルヘキサノイル−ジパラメトキシ
シンナメート 4.0
4−メトキシ−4′−t−ブチル−ジベンゾイルメタン 4.0
コエンザイムQ10 0.6
α−トコフェロール 0.02
シリコーン表面処理微粒子酸化亜鉛 2.0
デカメチルシクロメチコン 2.0
トリエタノールアミン 0.8
香料 適量
精製水 62.58
(製法)1,3−ブチレングリコール、トリエタノールアミンを精製水に添加し、70℃
まで加熱する。ステアリン酸、コレステリル−12−ヒドロキシステアレート、流動パラフィンおよび2−エチルヘキシルパルミテートを70℃まで加熱して溶解させた後、乳化剤としてポリオキシエチレン(20モル)セチルアルコールエーテルおよびグリセリルモノステアレート、紫外線吸収剤としてシンナメートおよび4−メトキシ−4′−t−ブチル−ジベンゾイルメタン、コエンザイムQ10、α−トコフェロール、並びに香料を添加し、70℃まで加熱する。この油相を先に調製した水相に攪拌しながら添加し、予備乳化させる。その後、温度を40℃以下に冷却し、シリコーン表面処理微粒子酸化亜鉛とデカメチルシクロメチコン分散液を添加しながらホモミキサーで乳化して均質化し、脱気、冷却してエッセンスを調製する。
【実施例】
【0023】
以下の方法によりコエンザイムQ10による紫外線障害防御効果を測定した。
1.正常成人皮膚繊維芽細胞の調製
正常成人皮膚繊維芽細胞は、旭テクノグラスより入手し、37℃、飽和湿度、5%CO2含有空気下で、10%牛胎児血清(FBS)を含有したイーグル最小培地にて維持した
。繊維芽細胞を35mmの組織培養用ディシュ(培養皿)に、0.5×106cell/mlの濃度で播植し、コンフルエントになるまで培養した。
【0024】
2.紫外線照射実験
コンフルエントな状態に達した後、FBSからのコエンザイムQ10の混入を防ぐため照射実験開始1日前にFBSフリーのイーグル最小培地に変更した。10mMのコエンザイムQ10または対照溶媒を添加し、24時間培養を続けた。コエンザイムQ10を10mM添加したコエンザイムQ10含有培地、またはコエンザイムQ10を含有しない対照培地中の繊維芽細胞に、2J/cm2のUV−Bを照射した。18時間後までに培地中に漏出された乳酸脱
水素酵素(LDH;EC1.1.1.27)活性、細胞内のチオバルビツール酸反応性物質
(TBARS)量、細胞内遊離カルシウム量、ならびにNADPH−CoQレダクテース活性の変化を測定した。
【0025】
3.培地中へ漏出されたLDH活性の測定
培地中LDHは、Moldeusらの方法(Moldeus P et al. Isolation and use of liver cells. Methods Enzymol, 52, 60-71 (1978))に従い次のように測定した。100mlの培養液に、1100mlの2%牛血清アルブミン含有ハンクス培地、150mlの2mM NADHを加え混和した後、30℃で10分間保温する。150mlの14mMピルビン酸を加えて反応を開始し、340nmの吸収を測定した。
蛋白質濃度はLowryらの方法(Lowry OH et al. Protein measurement with folin
phenol reagent. J Biol Chem, 193, 265-275 (1951))によって測定した。
【0026】
4.細胞内のTBARSの測定
TBARSの測定は、BuegeとAustの方法(Buege JA, Aust SD. Microsomal lipid peroxidation. Methods Enzymol, 52, 302-310 (1978))に従い、次のように行っ
た。
細胞を10mlのPBS(137mM NaCl, 2.68mM KCl, 1.47mM KH2PO4, 7.8mM Na2HPO4)で1回洗浄した後、プレートに0.5mlの0.1M 水酸化ナトリウム溶液を加え、細胞をラバー・ポリスマンにて掻き取った。掻き取った可溶化細胞液に0.5 mlの0.1M HClを加え中和し、TBARSの測定に用いた。中和後の細胞可溶化液に、3mlの蒸留水、1mlのチオバルビツール酸試薬(8.8mM 酢酸、0.335%(w/v) 2−チオバルビツール酸、0.04% (w/v) 2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール)を加えて混和した後、沸騰水上で60分間加温する。反応液を室温にまで放冷したのち、反応液を3mlのn−ブタノールで抽出し、励起波長515nm、測定波長553nmでTBARSの蛍光を測定した。TBARS測定の標準品として、1,1,3,3−テトラエトキシプロパンを用いた。
【0027】
5.細胞内遊離カルシウム([Ca2+]i)量の測定
細胞内遊離カルシウム([Ca2+]i)量は、Lueckhoffらの方法(Lueckhoff A. Measuring cytosolic free calcium concentration in endothelial cells with indo
1: The pitfall of using the ratio of two fluorescence intensities recorded at different wavelengths. Cell Calcium, 7, 233-248 (1996))に準じて測定した。繊維芽
細胞に0.5mM Indo−1AMを添加し、5%CO2含有空気下、37℃で30分間保
温した。その後、細胞をBalanced salt solution(BSS)(116mM NaCl, 15.4mM KCl, 1.8mM CaCl2, 1.0mM MgSO4, 5.6mM グルコース, 10.0mM HEPES, pH7.3)で洗浄し、さらに培養液を2mLのBSSに置き換えて、37℃で30分間保温し、蛍光シグナルを測定した。
【0028】
6.細胞中のNADPH−CoQレダクテース活性の測定
5mlの25mM 2−メルカプトエタノール、5mlの 0.5M MgCl2、5mlの10mM NADPH, 5mlの4% Triton X-100、5mlの2.5mM CoQ10、さらに50mM Tris−HCl(pH 7.4を加えて全量240mlの反応液とした。ここ20mlの酵素液を加え反応を開始させ、37℃、10分間インキュベートした後、3.5mlのエタノール/n
−ヘキサン(2:5,v/v)を加えて反応を停止する。反応液中に生じたCoQ10H2を
n−ヘキサンで抽出した後、岡本らの報告(Takahashi T, Okamoto T, Mori K, Sayo T, Kishi T. Distribution of ubiquinone and ubiquinol homologues in rat tissues and subcellular fractions. Lipits, 28, 803-809 (1993))に従ってHPLCにて測定した
。
NADPH−CoQレダクテース活性は、1mg蛋白質が1分間あたりに還元するCoQ10量(mg/min/mg protein)として表した。
【0029】
7.実験結果
(1)培地中へのLDHの漏出
UVB照射前後の培地中のLDH濃度は、図1に示すとおりである。図中UVB(−)はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射しないもの、UVB(+)はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射したもの、UVB(+)+CoQ10はCoQ10を含む試験培地に紫外線照射したものを表す。CoQ10の添加によって培地中へのLDHの漏出が顕著に抑制された。6時間、12時間後では、CoQ10を添加した試験培地の場合、CoQ10を含まない対照培地に紫外線照射した場合に比べて統計的に有意の差があった(P<0.0
01)。
【0030】
(2)細胞中のTBARSの量
UVB照射前後の細胞中のTBARS量は、図2に示すとおりであった。図中一番左はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射しないもの、真中はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射したもの、右側はCoQ10を含む試験培地に紫外線照射したものである。この3者について照射開始前、照射開始後6時間および12時間後のTBARSの量を測定した。CoQ10を添加した試験培地の場合、添加しない対照培地に紫外線照射した場合に比べて、TBARSの産生は有意に抑制された(6時間後ではP<0.001、12時
間後ではP<0.05)。
【0031】
(3)細胞中の細胞内カルシウムの量
UVB照射前後の細胞内カルシウム濃度は、図3に示すとおりであった。図中一番左はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射しないもの、真中はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射したもの、右側はCoQ10を含む試験培地に紫外線照射したものである。この3者について照射開始前、照射開始後6時間および12時間後のカルシウムの量を測定した。CoQ10を添加した試験培地の場合、添加しない対照培地に紫外線照射した場合に比べて、細胞内カルシウムの増加が有意に抑制された(6時間後ではP<0.001、
12時間後ではP<0.05)。
【0032】
(4)細胞中のNADPH−CoQレダクテース活性
UVB照射前後の細胞のNADPH−CoQレダクテース活性は、図4に示すとおりである。図中一番左はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射しないもの、左から二番目
はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射したもの、左から三番目はCoQ10を含む培地に紫外線照射しなかったもの、右側はCoQ10を含む試験培地に紫外線照射したものである。この4者について照射開始前、照射開始後6時間および12時間後のNADPH−CoQレダクテース活性を測定した。CoQ10を添加した試験培地の場合、添加しない対照培地に紫外線照射した場合に比べて、細胞中のNADPH−CoQレダクテース活性が有意に増加した(P<0.001)。
【0033】
(5)試験結果の総括的考察
以上の結果より、CoQ10は、皮膚細胞の紫外線による障害を防御することが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】紫外線照射による培地中へのLDHの漏出量の変化を調べた試験結果を表す図である。
【図2】紫外線照射による繊維芽細胞中のTBARS量の変化を調べた試験結果を表す図である。
【図3】紫外線照射による繊維芽細胞中のカルシウム量の変化を調べた試験結果を表す図である。
【図4】紫外線照射による繊維芽細胞中のNADPH−CoQレダクテース活性の変化を調べた試験結果を表す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、コエンザイムQ10を含有する紫外線による皮膚障害防御用組成物に関する。詳細には、紫外線による皮膚障害の防御作用に優れ、且つ安定性・安全性の高い紫外線による皮膚障害防御用組成物、および当該組成物を含有する化粧品および/または医薬部外品等の皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線による皮膚障害は、シミ、ソバカス、シワなどの皮膚の老化のみならず、皮膚ガンの原因の一つとして問題となっている。近年、特にシミ、ソバカスを防ぎ、肌を白く保つことが所望されており、紫外線による皮膚障害は深刻な肌の悩みの一つになっている。
【0003】
従来の紫外線による皮膚障害を防御する手段としては、紫外線吸収剤(サンスクリーン剤)の使用が最も一般的である。しかしながら、これらの紫外線吸収剤は、紫外線が皮膚に到達することを防ぐ目的で用いられており、皮膚の細胞自体の紫外線障害を防御するものではない。また、紫外線による皮膚障害を防御する成分として、インドール−3−アルデヒド、3−ヒドロキシアセチルインドールなどのインドール化合物(特開平7−48239)、テトラヒドロクルクミン(特開平6−128133)、イソフラボン誘導体(特開平6−40876)を皮膚外用剤に配合することが提案されている。しかし、これらの化合物は、紫外線による防御作用が十分でなかったり、また安全性の問題が生じる可能性がある。このため、紫外線による皮膚障害の防御作用に優れ、且つ安定性・安全性の高い紫外線による皮膚障害防御用組成物が所望されている。
【0004】
一方、コエンザイムQ10は、ユビキノン類と総称される、2,3−ジメトキシ−5−メ
チル−6−ポリプレニル−1,4−ベンゾキノンの側鎖のイソプレン単位が10のユビキ
ノンである。このコエンザイムQ10は、ユビデカレノンまたは補酵素Q10とも呼ばれ、日本薬局方に記載されている。またコエンザイムQ10は、生体内で電子伝達系および抗酸化システムに関与し、各種疾病に対して優れた薬理効果を示す物質である。例えば、免疫機能を向上させることにより心臓病、高血圧、リウマチ性弁疾患に対する有効性等が確認されている。また歯槽の炎症に対する有効性、皮膚外用剤としての老化防止に対する有効性も期待されている。このようにコエンザイムQ10は高い生理活性を持ち、且つ生体内に存在する安全性の高い物質であるため、近年、食品への適用が認められた。また、還元型のコエンザイムQ10がメラニンチロシナーゼを阻害することも知られている(特開昭61−27909)。しかしながら、コエンザイムQ10が紫外線による皮膚障害の防御作用に優れることは全く知られていない。
【特許文献1】特開平7−48239号公報
【特許文献2】特開平6−128133号公報
【特許文献3】特開平6−40876号公報
【特許文献4】特開昭61−27909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、紫外線による皮膚障害の防御作用に優れ、且つ安定性・安全性の高い紫外線による皮膚障害防御用組成物、および当該組成物を含有する皮膚外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、紫外線による皮膚細胞の障害が、コエンザイムQ
10によって防御できることを発見し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は、
[1]コエンザイムQ10を含有することを特徴とする紫外線による皮膚障害防御用組成物;
[2]コエンザイムQ10の含量が0.0001〜10質量%である上記[1]記載の組成
物;
[3]抗酸化剤、紫外線遮断剤、角層剥離剤、界面活性剤、香料、色素、防腐剤、pH調整剤、キレート剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有する上記[1]または[2]記載の組成物;
[4]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の組成物を含有する皮膚外用剤;並びに
[5]皮膚外用剤の形態が、ローション、軟膏、クリーム、乳液、貼付剤およびジェルから選択される、上記[4]記載の皮膚外用剤;
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、紫外線による皮膚障害の防御作用に優れ、且つ安定性・安全性の高い紫外線による皮膚障害防御用組成物、および当該組成物を含有する皮膚外用剤が提供される。本発明のコエンザイムQ10を含有する組成物は、顕著な紫外線による皮膚障害防御効果を奏し、且つ自体が生体に存在する非常に安全性の高い物質であるため、本発明の皮膚外用剤は、日常的に使用して紫外線による皮膚障害の防御することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
コエンザイムQ10は、日本において医薬品として30年近い使用実績があり、重篤な副作用は報告されておらず、また海外でも健康食品として使用されているが問題となる有害事象は報告されていない。さらに、コエンザイムQ10は、皮膚刺激作用が無いことも知られている。
【0009】
一方、皮膚の細胞は紫外線により障害を受け、その結果、細胞内カルシウム濃度が上昇し、細胞内容物[例えば乳酸脱水素酵素(LDH)]の細胞外への漏出、細胞内でのチオバルビツール酸反応性物質(TBARS)として測定される過酸化物質濃度の上昇、およびNADPH−CoQレダクテース活性の低下などが観察される。そして、紫外線による障害の程度が大きいと、細胞は壊死し、その結果局所で炎症性の反応を惹起しさらなる皮膚組織障害を引き起こす。
しかしながら、コエンザイムQ10が通常のレベルより多く存在すると、細胞内カルシウム濃度の上昇、細胞内容物の細胞外への漏出およびTBARS産生の増加が抑制されると同時に、細胞のNADPH−CoQレダクテース活性が顕著に促進され、その結果として皮膚の細胞障害が顕著に防御される。このため、本発明のコエンザイムQ10を含有する組成物は、紫外線による皮膚障害から細胞を防御することができる。
【0010】
本発明の紫外線による皮膚障害防御用組成物において、コエンザイムQ10の含量は、組成物の形態により異なるが、通常は0.0001〜10質量%、好ましくは0.001〜5質量%の範囲である。コエンザイムQ10の含量が0.0001質量%未満であると十分な
防御効果が期待できず、10質量%より多く配合しても奏される効果は増加しない。
【0011】
本発明の紫外線による皮膚障害防御用組成物としては、コエンザイムQ10を上記の量で含有するものであれば特に限定されないが、コエンザイムQ10が水に難溶性であることから、植物性油、動物性油等の非親水性有機溶媒に溶解するか、または乳化剤、分散剤もしくは界面活性剤等を用いて水性溶液中に分散・乳化させた組成物であるのが好ましい。例えば、コエンザイムQ10を水性溶液中に分散・乳化させたコエンザイムQ10水溶化組成物としては、日清ファルマ株式会社製のアクアQ10L10、アクアQ10P5などを好ましく
用いることができる。
【0012】
また、コエンザイムQ10を含有する皮膚外用剤の剤型としては、ローション(例えばW/O型ローション、O/W型ローション)、軟膏、クリーム(例えばW/O型クリーム、O/W型クリーム)、乳液(例えば粘稠マイクロエマルジョンエッセンスまたはO/W型エッセンス)、貼付剤、およびジェルから選択される。
【0013】
本発明の組成物および皮膚外用剤は、製剤化のために、例えば大豆油、サフラー油、オリーブ油、胚芽油、ヒマワリ油、牛脂、イワシ油などの動植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトールなどの多価アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどの界面活性剤、精製水、乳糖、澱粉、結晶セルロース、D−マンニトール、レシチン、アラビアガム、ソルビトール液、糖液などの賦形剤、色素、pH調整剤、香料などを含有することができる。さらに、本発明の組成物および皮膚外用剤は、製剤上許容し得る他の薬剤、添加剤および/または基剤と組合せられる。添加剤としては、抗酸化剤、紫外線遮断剤、角層剥離剤、防腐剤、キレート剤から選択されるが、抗酸化剤および/または紫外線遮断剤と組合わせることが好ましい。また、皮膚外用剤の有効性を向上させる角層剥離剤、経皮吸収性を向上させる天然系界面活性剤と組合わせることも好ましい。
【0014】
本発明において用いる抗酸化剤は、製剤上許容し得るものであれば特に限定はされないが、例えば、トコフェロールまたはその誘導体、水溶性抗酸化剤として低濃度のアスコルビン酸またはその誘導体、チオタウリン、グルタチオン等の含硫アミノ酸、ローズマリーエキス、セージエキス等の抗酸化生薬抽出エキス、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の合成抗酸化剤を挙げることができ、これらの1種または2種以上を組み合わせて適宜配合することができる。
【0015】
本発明において用いる紫外線遮断剤には、紫外線吸収剤および紫外線反射剤が包含される。紫外線吸収剤の例には、オクチルシンナメート、グリセリルモノ−2−エチルヘキサノイル−ジパラメトキシシンナメート等の桂皮酸エステル誘導体、パラアミノ安息香酸オクチルエステル、N,N−ジメチル−安息香酸オクチルエステル等の安息香酸エステル誘
導体、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸塩等のベンゾフェノン、その他の紫外線吸収剤として、3−(4′−メチルベンジリデン)−d,l−カンファー、3−ベンジリデン−d,l−カンファー、ウロカニン酸、ウロカニン酸エチルエステル、4−メトキシ−4′−t−ブチル−ジベンゾイルメタン等が挙げられる。紫外線反射剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、雲母チタン等が挙げられる。
【0016】
角層剥離剤としてはクエン酸、グリコール酸等のα−ヒドロキシ−カルボン酸、エチレンジアミンテトラカルボン酸モノ、ジおよびトリナトリウム塩、並びにトリメチルグリシン、ヒドロキシプロリン等のアミノ酸等が挙げられる。
【0017】
天然系界面活性剤としては、特にモノアルキロイルホスファチジルコリン等のリゾレシチン、ジアルキロイルホスファチジルコリン、ジアルキロイルホスファチジルエタノールアミン等のレシチン類を挙げることができる。
【0018】
本発明の皮膚外用剤には、通常、化粧品に用いられる成分(例えば、油性成分、保湿成分、増粘剤、乳化剤および各種添加剤)を配合することができる。例えば、油性成分としては炭化水素類、各種合成エステル類、ロウ類、油脂類、高級脂肪酸類、高級アルコール
類、シリコーン類等が挙げられる。
保湿成分としては、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、イソプレン
グリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、加水分解コラーゲンペプチド、エラスチンペプチド、ケラチンペプチド、ステロール配糖体等が挙げられる。
増粘剤としては、水溶性合成高分子化合物であるカルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースまたはその塩等、水溶性天然高分子化合物であるクインスシード抽出物、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
使用しうる界面活性剤・乳化剤は、ノニオン乳化剤としては各種高級アルコールのポリオキシエチレン付加物等、各種高級脂肪酸ポリオキシエチレングリコールモノ・ジエステル等およびグリセリン・ソルビタンのモノ・ジエステル等、アニオン乳化剤としては各種高級脂肪酸石鹸等、並びにカチオン乳化剤としてはα−オレオロイルグリセロールα′−ホスファチジルコリン(リゾレシチン)、大豆レシチンおよび卵黄レシチン等を挙げることができる。また、添加剤として、香料、色素、防腐剤、pH調整剤、キレート剤等を挙げることができ、これらを組み合わせて適宜配合することができる。
【0019】
次に、本発明における皮膚外用剤の製造例を示す。なお、下記の配合量は全て質量%である。
製造例1 コエンザイムQ10を含有するクリームの調製
A スクワラン 20.0
オリーブ油 8.0
精製蜜蝋 5.0
グリセリンモノステアレート 3.0
セトステアリルアルコール 2.0
コエンザイムQ10 2.0
B ポリオキシエチレン硬化ひまし油 3.0
グリセリン 10.0
精製水 47.0
(製法)A液とB液を80℃に加温する。攪拌しながらA液にB液を加え、ミキサーを用いて均一になるまで乳化させ、クリームを調製する。
【0020】
製造例2 コエンザイムQ10を含有するW/O型ローションの調製
マイクロクリスタリンワックス 1.0
精製蜜蝋 2.0
オリーブ油 2.0
スクワラン 10.0
流動パラフィン 19.0
コエンザイムQ10 1.0
1,3−ブチレングリコール 4.0
グリセリン 3.0
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 3.0
リゾレシチン 1.0
ポリオキシエチレン硬化ひまし油 1.0
α−トコフェロール 0.02
精製水 52.98
(製法)保湿剤として1,3−ブチレングリコール、グリセリンを精製水に添加し、70
℃まで加熱する。これとは別にマイクロクリスタリンワックス、精製蜜蝋、オリーブ油、スクワランおよび流動パラフィンを70℃まで加熱して溶解させた後、70℃に保持ながらコエンザイムQ10、乳化剤としてソルビタンセスキオレイン酸エステル、リゾレシチンおよびポリオキシエチレン硬化ひまし油、並びにα−トコフェロールを添加し、混合する
。この油相に、先に調製した水相を攪拌しながら徐々に添加して予備乳化させる。次いで、ホモミキサーで乳化し、脱気、冷却し、ローションを調製する。
【0021】
製造例3 コエンザイムQ10を含有するマイクロエマルジョン化粧水の調製
1,3−ブチレングリコール 6.0
グリセリン 5.0
ポリエチレングリコール 3.0
ピーナツ油 0.5
コエンザイムQ10 0.3
α−トコフェロール 0.02
ポリオキシエチレン硬化ひまし油 1.8
エタノール 10.0
香料 適量
pH調整剤 適量
キレート剤 適量
精製水 73.38
(製法)保湿剤として1,3−ブチレングリコール、グリセリンおよびポリエチレングリ
コール、pH調整剤およびキレート剤を精製水に添加して室温で溶解させる。これとは別にコエンザイムQ10、α−トコフェロール、ピーナツ油、乳化剤としてポリオキシエチレン硬化ひまし油および香料をエタノールに添加して室温にて溶解させる。先に調製した水相にこのアルコール相を添加して、ホモミキサーにて均質化して、マイクロエマルジョンを調製する。
【0022】
製造例4 O/W型紫外線遮断剤含有エッセンスの調製
ステアリン酸 3.0
エタノール 1.0
コレステリル−12−ヒドロキシステアレート 3.0
流動パラフィン 5.0
2−エチルヘキシルパルミテート 3.0
1,3−ブチレングリコール 5.0
ポリオキシエチレン(20モル)セチルアルコールエーテル 2.0
グリセリルモノステアレート 2.0
グリセリルモノ−2−エチルヘキサノイル−ジパラメトキシ
シンナメート 4.0
4−メトキシ−4′−t−ブチル−ジベンゾイルメタン 4.0
コエンザイムQ10 0.6
α−トコフェロール 0.02
シリコーン表面処理微粒子酸化亜鉛 2.0
デカメチルシクロメチコン 2.0
トリエタノールアミン 0.8
香料 適量
精製水 62.58
(製法)1,3−ブチレングリコール、トリエタノールアミンを精製水に添加し、70℃
まで加熱する。ステアリン酸、コレステリル−12−ヒドロキシステアレート、流動パラフィンおよび2−エチルヘキシルパルミテートを70℃まで加熱して溶解させた後、乳化剤としてポリオキシエチレン(20モル)セチルアルコールエーテルおよびグリセリルモノステアレート、紫外線吸収剤としてシンナメートおよび4−メトキシ−4′−t−ブチル−ジベンゾイルメタン、コエンザイムQ10、α−トコフェロール、並びに香料を添加し、70℃まで加熱する。この油相を先に調製した水相に攪拌しながら添加し、予備乳化させる。その後、温度を40℃以下に冷却し、シリコーン表面処理微粒子酸化亜鉛とデカメチルシクロメチコン分散液を添加しながらホモミキサーで乳化して均質化し、脱気、冷却してエッセンスを調製する。
【実施例】
【0023】
以下の方法によりコエンザイムQ10による紫外線障害防御効果を測定した。
1.正常成人皮膚繊維芽細胞の調製
正常成人皮膚繊維芽細胞は、旭テクノグラスより入手し、37℃、飽和湿度、5%CO2含有空気下で、10%牛胎児血清(FBS)を含有したイーグル最小培地にて維持した
。繊維芽細胞を35mmの組織培養用ディシュ(培養皿)に、0.5×106cell/mlの濃度で播植し、コンフルエントになるまで培養した。
【0024】
2.紫外線照射実験
コンフルエントな状態に達した後、FBSからのコエンザイムQ10の混入を防ぐため照射実験開始1日前にFBSフリーのイーグル最小培地に変更した。10mMのコエンザイムQ10または対照溶媒を添加し、24時間培養を続けた。コエンザイムQ10を10mM添加したコエンザイムQ10含有培地、またはコエンザイムQ10を含有しない対照培地中の繊維芽細胞に、2J/cm2のUV−Bを照射した。18時間後までに培地中に漏出された乳酸脱
水素酵素(LDH;EC1.1.1.27)活性、細胞内のチオバルビツール酸反応性物質
(TBARS)量、細胞内遊離カルシウム量、ならびにNADPH−CoQレダクテース活性の変化を測定した。
【0025】
3.培地中へ漏出されたLDH活性の測定
培地中LDHは、Moldeusらの方法(Moldeus P et al. Isolation and use of liver cells. Methods Enzymol, 52, 60-71 (1978))に従い次のように測定した。100mlの培養液に、1100mlの2%牛血清アルブミン含有ハンクス培地、150mlの2mM NADHを加え混和した後、30℃で10分間保温する。150mlの14mMピルビン酸を加えて反応を開始し、340nmの吸収を測定した。
蛋白質濃度はLowryらの方法(Lowry OH et al. Protein measurement with folin
phenol reagent. J Biol Chem, 193, 265-275 (1951))によって測定した。
【0026】
4.細胞内のTBARSの測定
TBARSの測定は、BuegeとAustの方法(Buege JA, Aust SD. Microsomal lipid peroxidation. Methods Enzymol, 52, 302-310 (1978))に従い、次のように行っ
た。
細胞を10mlのPBS(137mM NaCl, 2.68mM KCl, 1.47mM KH2PO4, 7.8mM Na2HPO4)で1回洗浄した後、プレートに0.5mlの0.1M 水酸化ナトリウム溶液を加え、細胞をラバー・ポリスマンにて掻き取った。掻き取った可溶化細胞液に0.5 mlの0.1M HClを加え中和し、TBARSの測定に用いた。中和後の細胞可溶化液に、3mlの蒸留水、1mlのチオバルビツール酸試薬(8.8mM 酢酸、0.335%(w/v) 2−チオバルビツール酸、0.04% (w/v) 2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール)を加えて混和した後、沸騰水上で60分間加温する。反応液を室温にまで放冷したのち、反応液を3mlのn−ブタノールで抽出し、励起波長515nm、測定波長553nmでTBARSの蛍光を測定した。TBARS測定の標準品として、1,1,3,3−テトラエトキシプロパンを用いた。
【0027】
5.細胞内遊離カルシウム([Ca2+]i)量の測定
細胞内遊離カルシウム([Ca2+]i)量は、Lueckhoffらの方法(Lueckhoff A. Measuring cytosolic free calcium concentration in endothelial cells with indo
1: The pitfall of using the ratio of two fluorescence intensities recorded at different wavelengths. Cell Calcium, 7, 233-248 (1996))に準じて測定した。繊維芽
細胞に0.5mM Indo−1AMを添加し、5%CO2含有空気下、37℃で30分間保
温した。その後、細胞をBalanced salt solution(BSS)(116mM NaCl, 15.4mM KCl, 1.8mM CaCl2, 1.0mM MgSO4, 5.6mM グルコース, 10.0mM HEPES, pH7.3)で洗浄し、さらに培養液を2mLのBSSに置き換えて、37℃で30分間保温し、蛍光シグナルを測定した。
【0028】
6.細胞中のNADPH−CoQレダクテース活性の測定
5mlの25mM 2−メルカプトエタノール、5mlの 0.5M MgCl2、5mlの10mM NADPH, 5mlの4% Triton X-100、5mlの2.5mM CoQ10、さらに50mM Tris−HCl(pH 7.4を加えて全量240mlの反応液とした。ここ20mlの酵素液を加え反応を開始させ、37℃、10分間インキュベートした後、3.5mlのエタノール/n
−ヘキサン(2:5,v/v)を加えて反応を停止する。反応液中に生じたCoQ10H2を
n−ヘキサンで抽出した後、岡本らの報告(Takahashi T, Okamoto T, Mori K, Sayo T, Kishi T. Distribution of ubiquinone and ubiquinol homologues in rat tissues and subcellular fractions. Lipits, 28, 803-809 (1993))に従ってHPLCにて測定した
。
NADPH−CoQレダクテース活性は、1mg蛋白質が1分間あたりに還元するCoQ10量(mg/min/mg protein)として表した。
【0029】
7.実験結果
(1)培地中へのLDHの漏出
UVB照射前後の培地中のLDH濃度は、図1に示すとおりである。図中UVB(−)はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射しないもの、UVB(+)はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射したもの、UVB(+)+CoQ10はCoQ10を含む試験培地に紫外線照射したものを表す。CoQ10の添加によって培地中へのLDHの漏出が顕著に抑制された。6時間、12時間後では、CoQ10を添加した試験培地の場合、CoQ10を含まない対照培地に紫外線照射した場合に比べて統計的に有意の差があった(P<0.0
01)。
【0030】
(2)細胞中のTBARSの量
UVB照射前後の細胞中のTBARS量は、図2に示すとおりであった。図中一番左はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射しないもの、真中はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射したもの、右側はCoQ10を含む試験培地に紫外線照射したものである。この3者について照射開始前、照射開始後6時間および12時間後のTBARSの量を測定した。CoQ10を添加した試験培地の場合、添加しない対照培地に紫外線照射した場合に比べて、TBARSの産生は有意に抑制された(6時間後ではP<0.001、12時
間後ではP<0.05)。
【0031】
(3)細胞中の細胞内カルシウムの量
UVB照射前後の細胞内カルシウム濃度は、図3に示すとおりであった。図中一番左はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射しないもの、真中はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射したもの、右側はCoQ10を含む試験培地に紫外線照射したものである。この3者について照射開始前、照射開始後6時間および12時間後のカルシウムの量を測定した。CoQ10を添加した試験培地の場合、添加しない対照培地に紫外線照射した場合に比べて、細胞内カルシウムの増加が有意に抑制された(6時間後ではP<0.001、
12時間後ではP<0.05)。
【0032】
(4)細胞中のNADPH−CoQレダクテース活性
UVB照射前後の細胞のNADPH−CoQレダクテース活性は、図4に示すとおりである。図中一番左はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射しないもの、左から二番目
はCoQ10を含まない対照培地に紫外線照射したもの、左から三番目はCoQ10を含む培地に紫外線照射しなかったもの、右側はCoQ10を含む試験培地に紫外線照射したものである。この4者について照射開始前、照射開始後6時間および12時間後のNADPH−CoQレダクテース活性を測定した。CoQ10を添加した試験培地の場合、添加しない対照培地に紫外線照射した場合に比べて、細胞中のNADPH−CoQレダクテース活性が有意に増加した(P<0.001)。
【0033】
(5)試験結果の総括的考察
以上の結果より、CoQ10は、皮膚細胞の紫外線による障害を防御することが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】紫外線照射による培地中へのLDHの漏出量の変化を調べた試験結果を表す図である。
【図2】紫外線照射による繊維芽細胞中のTBARS量の変化を調べた試験結果を表す図である。
【図3】紫外線照射による繊維芽細胞中のカルシウム量の変化を調べた試験結果を表す図である。
【図4】紫外線照射による繊維芽細胞中のNADPH−CoQレダクテース活性の変化を調べた試験結果を表す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コエンザイムQ10を含有することを特徴とする紫外線による皮膚障害防御用組成物。
【請求項2】
コエンザイムQ10の含量が0.0001〜10質量%である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
抗酸化剤、紫外線遮断剤、角層剥離剤、界面活性剤、香料、色素、防腐剤、pH調整剤、キレート剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の組成物を含有する皮膚外用剤。
【請求項5】
皮膚外用剤の形態が、ローション、軟膏、クリーム、乳液、貼付剤、およびジェルから選択される、請求項4記載の皮膚外用剤。
【請求項1】
コエンザイムQ10を含有することを特徴とする紫外線による皮膚障害防御用組成物。
【請求項2】
コエンザイムQ10の含量が0.0001〜10質量%である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
抗酸化剤、紫外線遮断剤、角層剥離剤、界面活性剤、香料、色素、防腐剤、pH調整剤、キレート剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の組成物を含有する皮膚外用剤。
【請求項5】
皮膚外用剤の形態が、ローション、軟膏、クリーム、乳液、貼付剤、およびジェルから選択される、請求項4記載の皮膚外用剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2006−111596(P2006−111596A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302515(P2004−302515)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年4月25日 日本ビタミン学会発行の「ビタミン 第78巻 第4号」に発表
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年4月25日 日本ビタミン学会発行の「ビタミン 第78巻 第4号」に発表
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】
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