紫外線に対する感受性制御剤
【課題】安価で大量に採取できるアシュワガンダの葉に新たな薬効を見いだすとともに、その作用を検証し、これに基づき新規で有用な薬剤を提供する。
【解決手段】アシュワガンダの葉の水抽出物、特に、該抽出物中に含まれる水溶性タンパク質、を有効成分として含有する、紫外線に対する細胞の感受性制御剤または紫外線防御剤。さらに、該水抽出物は、比較的高濃度では、特にガン細胞に対して紫外線照射下、細胞殺傷促進作用を有し、抗ガン剤として使用可能である。
【解決手段】アシュワガンダの葉の水抽出物、特に、該抽出物中に含まれる水溶性タンパク質、を有効成分として含有する、紫外線に対する細胞の感受性制御剤または紫外線防御剤。さらに、該水抽出物は、比較的高濃度では、特にガン細胞に対して紫外線照射下、細胞殺傷促進作用を有し、抗ガン剤として使用可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシュワガンダ(Ashwagandha)水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする紫外線に対する感受性制御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アシュワガンダ(学名Withania somnifera)は、ナス科ウィザニア属に属する、インド亜大陸の乾燥地帯に普通に見られる常緑の潅木であり、インドの伝承医学であるアユルベーダで慣用されるハーブのひとつである。
アシュワガンダの抽出物を使用することにより、肉体的および精神的な健康増進、各種疾患および有害な環境因子への防御、老化防止といった作用がもたらされるとして古くから使用されてきた。このようなアシュワガンダのヒトの健康に対する様々な有用な作用について、予備実験程度ではあるが、多くの研究がなされており、抗ストレス、抗炎症、抗腫瘍、抗酸化、解熱、鎮痛、抗関節炎、抗鬱、抗凝血、免疫調節、強壮、心臓の保護、若返り、疲労回復などに効果のあることが示されている。
【0003】
アシュワガンダの成分としては、アルカロイド類、ウィザノライド(withanolide)類と呼ばれるステロイド性ラクトンが報告されており、このようなウィザノライド類としては、例えば、20β−ヒドロキ−1−オキソー(22R)−ウィザー2,5,24,−トリエノライド、ウィザフェリンA(withaferineA)、ウィザノン(withanone)、ウィザノンの構造異性体である2-Deoxywithastramonolide、ウィザノライドA(withanolide A)、ウィザノライドD、及び1−オキソー5β、6β−エポキシーウィザ−2−エンー27−エトキシーオリド等が挙げられる。ウィザフェリンAはアシュワガンダの根の抽出物の主要な構成成分であり、抗癌作用を有するが、同時に正常細胞への毒性も強いことが知られている。(非特許文献1〜3)。
【0004】
アシュワガンダの効能の分子的なメカニズムについての研究はあまり多くはないが、例えば、免疫賦活活性はNOS誘導性のタンパク質発現の誘導によるものであろうといわれており(非特許文献4、5)、抗腫瘍活性は、少なくとも部分的にはp34cdc2の発現のダウンレギュレーションによるものであるといわれており(非特許文献6)、H2O2で誘導された細胞毒性およびDNA損傷に対する保護効果は、抗酸化、フリーラジカル捕捉および解毒作用によるものとされる(非特許文献7〜10)。アシュワガンダの抗腫瘍活性についての根拠や作用メカニズムの多くは未解明である。
【0005】
これらの研究はアシュワガンダの植物体全体あるいは根の部分を用いて行われているものが大部分である。本明細書で記載するようなアシュワガンダの葉の抽出物に関する研究はほとんど行われていない(非特許文献4,11〜20)。
【0006】
このような状況下、本発明者は、アシュワガンダの葉のアルコール抽出物及び該抽出中有に含まれるウィザノン(6α、7α―エポキシー5,17−ジヒドロキシ−1−オキソウィザ−2,24−ジエノライド)及びその類縁体が、抗変異原性作用作用抗遺伝毒性作用、腫瘍細胞に対する選択的増殖阻害作用、p53活性化作用、テロメラーゼ阻害作用あるいはアンチエイジング作用を有することを見い出しすとともに、上記ウィザノンが正常細胞の寿命促進作用、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発、活性化作用、、酸化ストレスからの保護作用、紫外線のDNA損傷及び化学毒性からの保護作用、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼの活性化作用、該酵素欠損症の治療作用、及び癌の治療作用を有することを見いだしている(特許文献1,2)。
【0007】
【特許文献1】WO2005/082392 A1
【特許文献2】特開2008−195704
【非特許文献1】Ganzera et al.,2003; Quantitative HPLCanalysis of withanolides in Withania somnifera.Fitoterapia 74, 68−76.
【非特許文献2】Kaur et a1.,2003; Effect of 1-oxo-5beta,6beta-epoxy-witha-2−ene−27-ethoxy-olide isolated from the roots of Withania somnifera on stress induces in Wistar rats.J Altern Complement Med 9,897-907.
【非特許文献3】ur-Rahman eta1.,2003; Withanolides from Withania coagulans. Phytochemistry 63, 387-390.
【非特許文献4】Davis and Kuttan, 2002b; Effect of Withania somnifera on CTL activity.J Exp Clin Cancer Res 21, 115-118.
【非特許文献5】luvone et a1.,2003; lnduction of nitricoxide synthase expression by Withania somnifera in macrophages. Life Sci 72, 1617-1625.
【非特許文献6】Singh et al.,2001;Downregulation of p34cdc2 expression with aqueous fraction fromWithania somnifera for a possible molecular mechanism of a anti- tumor and other pharmacological effects. Phytomedicine 8,492-494
【非特許文献7】Davis and Kuttan,2001;Effect of Withania somnifera on DMBA induced carcinogenesis. J EthnoparmacolE 75,165-168
【非特許文献8】Pand and Kar,1997;Evidence for freeradical scavenging activity of Ashwagandha root powder in mice. Indian J Physiol Oharmacol 41,424-426
【非特許文献9】Prakash et a1.,2001; Chemopreventive activity of Withania somnifera in experimentally induced fibrosarcoma tumoursin Swiss albino mice. Phytother Res15,240-244.
【非特許文献10】Russoet a1.,2001; lndian medicinal plants as anti-radicals and DNA cleavage protectors.Phytomedicine 8,125-132.
【非特許文献11】Archana and Namasivayam,1999; Anti-stressor effect of Withania somnifera.J Ethnopharmacol 64, 91-93.
【非特許文献12】Bhattacharya et a1.,2000; Anxiolytic-antidepressant activity of Withania somnifera glycowithanolides: an experimental study.Phytomedicine 7,463-469.
【非特許文献13】Bhattacharya and Muruganandam, 2003; Adaptogenic activity of Withania somnifera: an experimental study using a rat model of chronic stress.Pharmacol Biochem Behav 75,547-555.
【非特許文献14】Davis and Kuttan, 2002a; Effect of Withania somnifera on cel1 mediated immune responses in mice. J Exp Clin Cancer Res 21 , 585-590.
【非特許文献15】Dhuley,2000; Adaptogenic and cardioprotective action of ashwagandha in rats and frogs.J Ethnopharmaco1 70, 57-63.
【非特許文献16】Mishra et al.,2000; Scientific basis forthe therapeutic use of Withania somnifera(ashwagandha):a review. Altern MedRev 5, 334-346.
【非特許文献17】Prakash et al.,2002; Withania somnifera root extract prevents DMBA-induced squamous cell carcinoma of skin in Swissalbino mice. Nutr Cancer42,91-97.
【非特許文献18】Scartezzini and Speroni, 2000; Review on some plants of lndian traditional medicine with antioxidant activity. J Ethnophamaco1 71,23-43.
【非特許文献19】Singh et a1.,2003; Adaptogenic activity of a novel withanolide-free aqueous fraction from the roots of Withania somnifera Dun. (Part II).Phytother Res 17,531-536.
【非特許文献20】Tohda et a1.,2000; Dendrite extension by methanol extract of Ashwagandha(roots of Withania somnifera)in SK-N-SH cells.Neuroreport 11,1981-1985.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の実情を考察し、より安価で大量に採取できるアシュワガンダの葉に着目し、しかもアシュワガンダの葉から有機溶媒ではなく、より安全な水を用いて抽出した抽出物中に、新たな薬効成分を見いだすとともに、その作用を検証し、これに基づき該成分を用いた新規で有用な薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、アシュワガンダの葉の水抽出物が紫外線損傷から細胞を保護する作用を有するとともに、特にガン細胞に対しては、該水抽出物の使用量を多くすると、紫外線に対する感受性を増大させ、紫外線による殺傷効果を高め、さらに、上記細胞保護作用の原因物質が、アシュワガンダの葉中に含まれる水溶性蛋白質であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) Ashwagandhaの葉の水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする紫外線に対する細胞の感受性制御剤。
(2) 紫外線防御剤であることを特徴とする、上記(1)に記載の薬剤。
(3) 紫外線照射下に抗ガン剤として使用されることを特徴とする、上記(1)に記載の薬剤。
(4) Ashwagandhaの葉の水抽出物中に含まれる水溶性タンパク質を有効成分として、含有することを特徴とする、紫外線防御剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明において使用するアシュワガンダの葉の水抽出物は、紫外線に対する細胞の感受性を制御する作用を有する。この作用は上記水抽出物の使用量に依存し、細胞に対する紫外線損傷防御作用と殺傷促進作用を有するが、後者の作用は、正常細胞よりもガン細胞に対して極めて顕著であり、正常細胞に対しては、実質的に紫外線損傷防御作用を発揮する。また、細胞に対する紫外線損傷防御作用は、上記水抽出物中の水溶性蛋白質による。
したがって、本願発明の紫外線感受性防御剤は、UV保護剤あるいは紫外線によるガン細胞殺傷増強剤として有用であり、化粧品、医薬品あるいは健康食品等の分野で広く用いられ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、アシュワガンダの葉水抽出物を有効成分として含む、細胞の紫外線に対する感受性制御剤に関する。また、本発明の上記感受性制御剤は、例えば、医薬品、医薬部外品又は化粧品あるいは食品添加物、栄養補助食品の形態で用いられ得る。
本発明のアシュワガンダの葉水抽出物は、その投与量に応じて、紫外線に対する細胞防護作用と、細胞殺傷作用を発揮する。しかし、細胞殺傷作用は特にガン細胞において著しく、正常細胞においては極めて高い投与量が必要となるので、通常の投与量では正常細胞に対しては、紫外線に対する細胞防護作用のみが実質的に奏される。
したがって、本発明のアシュワガンダの葉水抽出物は、実際問題として、正常細胞に対しては紫外線に対する感受性を減少させ、紫外線防御剤とし機能する。
また、ガン細胞に対しては、ガン細胞の紫外線に対する感受性を高め、紫外線照射によるガン細胞殺傷のための補助剤として使用しうる。
【0013】
本明細書にいう「アシュワガンダ」とは、学名Withania somniferaを意味する。したがって、本明細書にいう「アシュワガンダの葉」とはWithania somniferaの葉を意味し、「アシュワガンダの葉水抽出物」とは、アシュワガンダの葉を水で抽出して得られる抽出物を意味する。
アシュワガンダの葉は採取したままの新鮮葉、それを乾燥させたもの、または焙煎させたものの何れでもよいが、乾燥させたものが望ましい。原料とするアシュワガンダは天然に生育するものに限定されず、in vitroで培養したものであってもよいが、アシュワガンダの葉に含有される成分の組成はアシュワガンダの産地や樹齢等により若干の差があると考えられるため、本発明のアシュワガンダの葉水抽出物を得るためには、インド国内で種から栽培した2〜4年目の植物を用いることが望ましい。
【0014】
上記アシュワガンダの葉水抽出物は、例えば、水にアシュワガンダの葉を加えて20〜70℃で6〜100時間処理する工程、又は水にアシュワガンダの葉を加えて70〜100℃にまで熱した後に、1〜30℃にまで放冷する工程の何れかの工程により得ることができる。
本明細書にいう「水」とは、通常用いられる水であれば特に制限されず、例えば、水道水や医薬用水等が挙げられる。本明細書にいう「水にアシュワガンダの葉を加えて20〜70℃で6〜100時間処理する工程」は、水にアシュワガンダの葉を加えてアシュワガンダの葉水抽出物が得られる工程であって、温度範囲は20〜70℃、好ましくは30〜60℃、より好ましくは40〜50℃とし、処理時間は6〜100時間、好ましくは8〜48時間、より好ましくは12〜24時間とする工程である。上記工程を達成せしめる方法としては、上記した温度および時間の範囲を逸脱しなければ特に制限されない。上記工程の具体例としては、例えば、実施例に示した通り、10gのアシュワガンダドライリーフパウダー(インド原産、(株)iGENEより購入)を100mlの水に混ぜ、アシュワガンダの葉が10%である混濁液を用意し、該混濁液を45℃のインキュベーター内にてオーバーナイトでゆっくり振盪する工程を挙げることができる。
【0015】
本明細書にいう「水にアシュワガンダの葉を加えて70〜100℃にまで熱した後に、1〜30℃にまで放冷する工程」は、上記と同様に、水にアシュワガンダの葉を加えてアシュワガンダの葉水抽出物が得られる工程であって、加熱温度の範囲は70〜100℃、好ましくは70〜90℃、より好ましくは80〜90℃とし、放冷時の温度範囲は1〜30℃、好ましくは15〜30℃、より好ましくは20〜30℃、最適に好ましくは20〜25℃とする工程である。加熱時間および放冷時簡については特に制限はなく、アシュワガンダの葉水抽出物が得られるのであれば、上記工程を1又は2度以上繰り返してもよい。例えば、急速に加熱する(例えば、1〜10分間で80〜90℃にまで熱する)場合は、上記工程を2度以上繰り返すことが好ましい。上記工程を達成せしめる方法としては、上記した加熱および放冷時の温度範囲を逸脱しなければ特に制限されない。
【0016】
水にアシュワガンダの葉を加えて20〜70℃で6〜100時間処理する工程、及び水にアシュワガンダの葉を加えて70〜100℃にまで熱した後に、1〜30℃にまで放冷する工程の何れとも、任意に撹拌操作を加えることができる。撹拌操作として、振盪以外にも、マグネチックスターラーやボルテックスミキサーなどを用いた機械的な撹拌を採用してもよい。さらに、上記工程の前後に無菌ろ過やUV殺菌などの除菌・殺菌処理を加えることができる。上記工程の前に除菌・殺菌処理を加える場合には、上記工程を無菌的に実施するのが好ましい。本発明の製造方法は、アシュワガンダの葉水抽出物を得ることができれば、撹拌や除菌・殺菌処理以外にも、任意に種々の操作や処理を加えることができる。アシュワガンダの葉水抽出物は、温風乾燥や凍結乾燥などの乾燥、カラムクロマトグラフィーなどを用いて適宜濃縮・精製してもよい。
【0017】
アシュワガンダの葉水抽出物には、図1で示される少なくとも6つのタンパク質が含まれ、少なくとも紫外線に対する細胞の防御作用は、アシュワガンダの葉水抽出物中に含まれる上記蛋白質に起因する。
この6つのタンパク質はいずれも水溶性タンパク質であり、99℃の加熱及びプロテイナーゼKにより分解され、活性を失う。
これら蛋白質20〜90kDa の範囲に分布し、図1に示されるように、各蛋白質は、それぞれ、およそ90kDa、70kDa、60kDa、35kDa、30kDa、20kDaの分子量を有する。
この蛋白質は、例えば、アシュワガンダの葉水抽出物をSDS-PAGE上で電気泳動にかけ分離することができる。
これらの蛋白質は、水溶性で、親水性という特徴を有している。熱に対して感受性であり、99度の熱をかけると、失活する。また、プロテイナーゼにより分解され、活性を失う。
一方、アシュワガンダの葉には有用成分としてウィザノンも知られているが、これは、アシュワガンダの葉から有機溶媒抽出によって得られるもので、本願発明における抽出物中の有効成分とは明らかに異なる。
【0018】
本発明の紫外線感受性制御剤の投与形態は特に限定されるものではなく、経口、経鼻、非経口、経肺、経皮、経粘膜、静注等種々の形態で用いることが可能である。又その剤形も種々の剤形とすることができる。例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができるが、これらに限定されない。また、製剤には薬剤的に許容できる種々の担体を加えることができる。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、コーティング剤、ビタミンC、抗酸化剤を含むことができるが、これらに限定されない。
本発明の紫外線感受性制御剤を、ガン治療に用いられる場合、通常、予め本感受性制御剤を投与した後、ガン患部に紫外線を照射するが、紫外線照射後に投与しても良い。このような治療法が適用可能なガンとしては、皮膚癌、乳ガン等があるが、内臓のガンであっても、紫外線をガラスファイバー等により照射することが可能であるから、これらのガンにも本発明の紫外線感受性制御剤を用いた療法が適用できる。
【0019】
本発明の紫外線感受性制御剤の投与量は、紫外線防御剤として使用する場合、一般的には、アシュワガンダ葉抽出物に換算して成人1日用量として10mg〜500mg/kg、好ましくは100mg〜500mgを使用する。もちろん個別的に、投与されるヒトの年齢、体重、症状、投与経路、投与期間、治療経過等に応じて変化させることもできる。1日あたりの量を数回に分けて投与することもできる。また、ガン細胞に対しては、紫外線照射と組み合わせて使用する場合には、同様な投与量でガン細胞細胞殺傷作用を有する。
細胞試験の結果では、正常細胞に対しては、0.5〜5容量%(WEX/培養液)の濃度で、紫外線防御作用を有するが、ガン細胞に対しては同濃度で、細胞殺傷作用を有する。
ガン細胞に対する殺傷作用では0.5-3%で効果を示す。なお、上記WEXの濃度は、アシュワガンダの葉100gに対し水1リットル加えて抽出された抽出液を用いた場合の濃度である。
【0020】
本発明の紫外線感受性制御剤は、麺類、パン、キャンディー、ゼリー、クッキー、スープ、健康飲料、焼酎などのアルコール等の飲食品、あるいは、鉄、カルシウム等の無機成分、種々のビタミン類、オリゴ糖、キトサン等の食物繊維、大豆抽出物等のタンパク質、レシチンなどの脂質等を含む栄養補助食品の添加成分として用いることができる。
さらに、本発明の紫外線感受性制御剤は、医薬部外品または化粧品の配合成分として使用できる。本発明の紫外線感受性制御剤を医薬部外品または化粧品の配合成分として、さらに、通常医薬部外品や化粧品に用いられる他の成分、例えば油分、湿潤剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、保湿剤、香料、水、アルコール、増粘剤等を必要に応じて適宜配合することができる。本発明の紫外線感受性制御剤は、特に化粧品等において有用であり、ファンデーション等の皮膚化粧料、毛髪料、あるいは日焼け止化粧料等のの配合成分として用いる場合、皮膚あるいは毛髪の紫外線によるダメージを効果的に抑制することができる。
本発明を以下の実施例でさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
三角フラスコ中に100gのAshwagandha葉の粉末を投入し、滅菌処理した1リットルの純水を加え、該三角フラスコを回転式振盪機により、温度45℃で一晩振盪し、抽出操作を行った。この後、静置して葉泥を沈殿させ、上澄みを採取し、上澄みをWhatmann polydiscディスポーザブルフィルターで濾過し、残存する葉泥を分離除去し、さらに15分遠心分離機で10,000rpmで遠心し、上澄みを0.45ミクロンのフィルターでろ過して、抽出液を得た。
この方法に得られた抽出液(WEX)は、SDSポリアクリルアミドゲル上で電気泳動により分離し、クマシーブリリアント染色を行った。結果を、図1に示す。WEXは6つの水溶性タンパク質を有する。
【0022】
実施例2
ヒト正常繊維芽細胞(MRC5)を、10%のFCS、50U/mlのペニシリンおよび5mg/mlのストレプトマイシンを含有した低グルコースDMEM培地中で5%CO2インキュベーター37度の条件で24時間培養した。UVストレスを与えるために、細胞を、WEX無添加培地中あるいは1%WEX添加培地中で培養して、UV(5-10 mJ/cm2)を照射した。この48時間後に各培地中の細胞を観察し、写真撮影した。なお、上記WEXの添加割合は、実施例1で得られたWEXの培地溶液に対する割合(体積)を表す。すなわち、例えば、上記1%WEX添加培地とは、培養液100mlに対し、WEXlml添加した培地を表す。以下の実施例において同様。
結果を図2に示す。図2Cの3枚のパネルにすべてに見られるように、WEX添加された培地で培養したとき、無添加培地(図2B)と比較して、細胞数、形態共に、細胞は極めて良好な状態であることが明らかである。なお、図2は、紫外線無照射、WEXの無添加の場合を示す。
【0023】
実施例3
ヒト正常繊維芽細胞(MRC5)にUV(5mJ/cm2)照射した後、無添加培地及び0.5%WEX添加された培地でそれぞれ48-72h培養し、各培地の細胞を観察し、写真撮影した。
72時間培養後の細胞の状態を図3に示す。図3の結果から明らかなように、WEX処理で培養した細胞は高い生存率、分裂能、及び細胞形態変化能を示した。
【0024】
実施例4
1)ヒト正常細胞(TIG-1)をWEX(0.1%、0.5%)添加培地及び無添加培地中でそれぞれ48時間培養し、UV(3mJ/cm2)を照射した。UV照射後の細胞を、4%のホルムアルデヒとKCM溶液(120mM KCl、20mM NaCl、10mMトリス、0.1%トライトンpH 7.5)脱膜化及び細胞の固定を行った。一次抗体として抗H2AX(DNA損傷マーカー)抗体(anti- phospho-H2AX(Ser 139))を含有する、ABDIL溶液(2%BSA、0.2%ゼラチン、150mM NaCl、0.1%トリトンX-100、20mMトリス、0.1%アジ化ナトリウムpH 7.5)で、ブロッキングした。
次いで、結合しなかった1次抗体を洗浄除去し、2次抗体(抗マウスIgGヤギ抗体)含有するブロッキング溶液を用いてブロッキングを行い、その後、蛍光顕微鏡で細胞観察を行った。結果を図4に示す。紫外線照射下であっても、細胞が、WEX(0.1〜0.5%)添加した培地中で培養された場合、γH2AX抗体染色量が減少しており、DNA損傷が抑制されることを示す。
【0025】
2)上記と1)と同様にして、WEX添加培地及び無添加培地でそれそれ培養し、UV照射したヒト正常細胞(TIG-1)を、RIPAバッファーで溶解し、上記抗γH2AX抗体を用いて以下のようにウェスタンブロットを行って、γH2AX蛋白質の発現レベルを確認した。
ウェスタンブロット。
細胞を50mM HEPESバッファーpH 7.5、150mM NaCl、100mM NaF、1mM PMSF、0.5%トリトンX100、0.5%NP-40、1mM DTT、10%グリセリン、プロテアーゼ抑制剤カクテル(ロッシュ) を含むNP40ライシスバッファーで溶解した。次いで、細胞溶解物は細胞残屑を除去するために4度で10分間13,000rpmで遠心した。タンパク質濃度は、市販のブラッドフォード・タンパク質解析法によって決定した。20-30μgを含んでいるタンパク質溶解物は、5分間ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)サンプル・バッファー中で煮沸し、SDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動で泳動し、セミドライトランスファー装置(ATTO:日本製)を使用して、イモビロンP薄膜(ミリポア)上に転写した。トリスバッファー(TBS-Tバッファー)中で5%のスキムミルクで室温30分間ブロッキングした後、膜は、5%のスキムミルクを含有したTBS-T中の抗γH2AX抗体と反応させた。TBS-Tで洗浄後に、膜はホースラディシュ・ペルオキシダーゼ標識2次抗体(抗マウスIgGヤギ抗体)でブロッキングした後、TBS-Tで3回洗浄し、TBSで一回洗浄後、CCDカメラ(LAS3000ミニ富士フィルム)を装備したLuminoイメージ・アナライザーを使用して、増強された化学発光(ECL:Amershamバイオサイエンス)を視覚化した。
結果を図5に示す。WEX(0.5%)添加した培地中で培養された時、細胞のγH2AX蛋白質発現レベルは、無添加の場合と比較して減少している。この結果によっても、WEXによって紫外線よるDNA損傷が抑制されることが確認できる。なお、抗体の交差反応性を表わす他のバンドは発現レベルを示すコントロールとして使用した。
【0026】
実施例5
実施例4と同様にして、ヒト正常細胞(TIG-1)を培養し、UV照射を行った。次いで、UV照射された細胞をメタノールで固定し、PBSで3回洗浄した。5 分のアセトン(1:1)処理後、PBSで2-3回洗浄し、10分間のシェーカー上で0.2%のPBSTで細胞を脱膜化した。この後、抗p53抗体(DO-1; サンタクルーズ・バイオテクノロジー)含有する2%のBSA/PBS溶液を用いて、10分間室温でブロッキングした。その後、0.1%のPBSTで3回洗浄し、2次抗体(ヤギ反マウスIgGAlexa-594)で30分間反応させ、0.1%PBSTで3 回洗浄後、細胞をFA封入剤で封入し、蛍光顕微鏡下で観察した。
結果を、図6に示す。これによれば、無添加培地で培養した場合に比べ、細胞が、WEX(0.1〜0.5%)添加した培地中で培養された場合、p53(DNA損傷マーカー)発現量が、WEXの発現量に応じて明確に低下しており、WEX紫外線照射によるDNA損傷が顕著に抑制されることを示している。
【0027】
実施例6
1)Ashwagandhaの水溶性抽出物(WEX)に対し、99℃での20分間熱処理(WEX-HI)と、37℃で30分間プロテイナーゼK(20μg/ml)処理(WEX-PKI)をそれぞれ別々に行って、WEX中のタンパク質成分をそれぞれ不活化させた。正常ヒト繊維芽細胞をUV照射後、WEX,WEX-HIおよびWEX-PKI添加培地でそれぞれ培養した。結果を図7に示す。図7に示されるように、WEX添加培地を用いた場合、細胞はUVによる損傷から回復し、生育がよく、増殖を続けた。これに対し、WEX-HI、WEX-PKI添加培地を用いた場合、より顕著な細胞死が観察された。
一方、WEX、WEX-HI及びWEX-PKI中の蛋白質成分について、SDSポリアクリルアミドゲル上で電気泳動を行った。図8の電気泳動図で示されるように、WEXでは6つのバンドがみられたのに対し、WEX-HIおよびWEX-PKIでは明瞭なバンドはみられなかった。
2)上記正常繊維芽細胞のUVによる損傷を、実施例4、1)の手法に従って、γH2AXを染色することによって調べた。結果を図8に示す。図8に示されるように、WEX処理した細胞は、γH2AXの染色が減少した。99℃の熱処理(HI)あるいはプロテイナーゼK処理(PKI)によって不活化させたWEXを用いた場合、保護的な効果は全く見られなかった。この結果は、WEXのタンパク質成分が、正常細胞をUVによるDNA損傷から保護するために有効であることを示している。
【0028】
実施例7
1)ヒト乳がん細胞(MCF7)をUV(3 mJ/cm2)照射した後、WEX(1%)添加培地、実施例7と同様にして不活化したWEX添加培地、及び無添加培地でそれぞれ96時間培養し、写真撮影を行った。結果を図9に示す。これによれば、UV照射後WEX添加培地で培養した細胞は無添加培地で培養した細胞に比較し、より高い割合の細胞死が観察され、WEXはがん細胞のUVによる損傷と細胞死を増感させることが示された。一方、タンパク質成分を不活化させたWEX添加培地においても、WEX添加培地と同様の効果が見られたことから、WEX培地のタンパク質成分はがん細胞のUVに対する増感作用には必要がないことが示唆された。
【0029】
2)上記1)と同様にして、ヒト乳がん細胞(MCF7)をUV照射した後、無添加、WEX添加、WEX-HI添加、WEX-PKI添加培地で培養した。UVによるDNA損傷は、実施例4と同様にしてγH2AXを染色することによって調べた。結果を図10に示す。図10に示されるように、WEX添加培地で培養した細胞では、無添加培地で培養した細胞と比較して、強いγH2AXの発現が見られた。また、UVによる細胞死は、WEX添加培地で培養した細胞のほうが強く見られた。さらに、WEX-HI、WEX-PKI培地で培養した場合もWEX添加培地で培養した場合と同様の効果が見られたことから、WEX培地のタンパク質成分は、がん細胞のUVに対する増感作用には必要ないことが示唆された。
【0030】
3)以上から、図11に示される、WEX中に存在する小分子(フラクション1−4(Frc1-4))がこの効果に対して重要であると考えられる。
該フラクションは以下のようにして分画されたものである。
WEXをHPLCで解析した。すなわち、WEXの分画はC18カラム(TSKgel ODS−100Z、東ソー社)を用いた逆相HPLCで行った。流速は、1ml/min、カラム温度は40℃とし、グラジェント抽出には、水(溶液A)とエタノール(溶液B)を用いた。35分のグラジェントプログラムは次の通りである:溶液A 100%一定5分、溶液B 0.75%までのグラジェント15分、溶液B 0.75%から50%までのグラジェント5分、溶液B 50%一定5分、溶液B 50%から0%までのグラジェント2分、そして最後に、溶液A 100%一定5分。検出は220nmで行った。結果は、図11に示され、WEXは4つの構成物に分画できた(Frcl1−4)。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】アシュワガンダの葉の水抽出物(WEX)をSDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図2】ヒト正常繊維芽細胞(MRC5)をWEX添加培地で24時間培養後、紫外線照射し、該細胞の状態を観察した結果を示す。
【図3】ヒト正常繊維芽細胞(MRC5)に対して紫外線照射後、72時間WEX添加培地で培養し、該細胞の状態を観察した結果を示す。
【図4】ヒト正常繊維芽細胞(TIG−1)に対して紫外線照射後、WEX添加培地で培養し、該細胞に対しγH2AX(DNA損傷マーカー)抗体染色を行った結果を示す。
【図5】ヒト正常繊維芽細胞(TIG−1)に対して紫外線照射後、WEX添加培地で培養し、該細胞におけるγH2AXの発現レベルを測定した結果を示す。
【図6】ヒト正常繊維芽細胞(TIG−1)に対してWEX添加培地で培養し、紫外線照射し、該細胞に対しp53(DNA損傷マーカー)抗体染色を行った結果を示す。
【図7】正常ヒト繊維芽細胞を紫外線照射後、WEX添加培地、加熱により不活性化したWEX添加培地(WEX-HI)およびプロテイナーゼKにより不活性化したWEX添加培地(WEX-PKI)でそれぞれ培養し、細胞の状態を観察した結果を示す。
【図8】正常ヒト繊維芽細胞を紫外線照射後、WEX添加培地、加熱により不活性化したWEX添加培地(WEX-HI)およびプロテイナーゼKにより不活性化したWEX添加培地(WEX-PKI)でそれぞれ培養し、これら細胞に対し、γH2AX抗体染色を行った結果を示す。
【図9】ヒト乳がん細胞(MCF7)を紫外線照射後、WEX添加培地、加熱により不活性化したWEX添加培地(WEX-HI)およびプロテイナーゼKにより不活性化したWEX添加培地(WEX-PKI)でそれぞれ培養し、細胞の状態を観察した結果を示す。
【図10】ヒト乳がん細胞(MCF7)を紫外線照射後、WEX添加培地、加熱により不活性化したWEX添加培地(WEX-HI)およびプロテイナーゼKにより不活性化したWEX添加培地(WEX-PKI)でそれぞれ培養し、該細胞におけるγH2AX抗体染色を行った結果を示す。
【図11】WEXをHPLCで測定した結果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシュワガンダ(Ashwagandha)水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする紫外線に対する感受性制御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アシュワガンダ(学名Withania somnifera)は、ナス科ウィザニア属に属する、インド亜大陸の乾燥地帯に普通に見られる常緑の潅木であり、インドの伝承医学であるアユルベーダで慣用されるハーブのひとつである。
アシュワガンダの抽出物を使用することにより、肉体的および精神的な健康増進、各種疾患および有害な環境因子への防御、老化防止といった作用がもたらされるとして古くから使用されてきた。このようなアシュワガンダのヒトの健康に対する様々な有用な作用について、予備実験程度ではあるが、多くの研究がなされており、抗ストレス、抗炎症、抗腫瘍、抗酸化、解熱、鎮痛、抗関節炎、抗鬱、抗凝血、免疫調節、強壮、心臓の保護、若返り、疲労回復などに効果のあることが示されている。
【0003】
アシュワガンダの成分としては、アルカロイド類、ウィザノライド(withanolide)類と呼ばれるステロイド性ラクトンが報告されており、このようなウィザノライド類としては、例えば、20β−ヒドロキ−1−オキソー(22R)−ウィザー2,5,24,−トリエノライド、ウィザフェリンA(withaferineA)、ウィザノン(withanone)、ウィザノンの構造異性体である2-Deoxywithastramonolide、ウィザノライドA(withanolide A)、ウィザノライドD、及び1−オキソー5β、6β−エポキシーウィザ−2−エンー27−エトキシーオリド等が挙げられる。ウィザフェリンAはアシュワガンダの根の抽出物の主要な構成成分であり、抗癌作用を有するが、同時に正常細胞への毒性も強いことが知られている。(非特許文献1〜3)。
【0004】
アシュワガンダの効能の分子的なメカニズムについての研究はあまり多くはないが、例えば、免疫賦活活性はNOS誘導性のタンパク質発現の誘導によるものであろうといわれており(非特許文献4、5)、抗腫瘍活性は、少なくとも部分的にはp34cdc2の発現のダウンレギュレーションによるものであるといわれており(非特許文献6)、H2O2で誘導された細胞毒性およびDNA損傷に対する保護効果は、抗酸化、フリーラジカル捕捉および解毒作用によるものとされる(非特許文献7〜10)。アシュワガンダの抗腫瘍活性についての根拠や作用メカニズムの多くは未解明である。
【0005】
これらの研究はアシュワガンダの植物体全体あるいは根の部分を用いて行われているものが大部分である。本明細書で記載するようなアシュワガンダの葉の抽出物に関する研究はほとんど行われていない(非特許文献4,11〜20)。
【0006】
このような状況下、本発明者は、アシュワガンダの葉のアルコール抽出物及び該抽出中有に含まれるウィザノン(6α、7α―エポキシー5,17−ジヒドロキシ−1−オキソウィザ−2,24−ジエノライド)及びその類縁体が、抗変異原性作用作用抗遺伝毒性作用、腫瘍細胞に対する選択的増殖阻害作用、p53活性化作用、テロメラーゼ阻害作用あるいはアンチエイジング作用を有することを見い出しすとともに、上記ウィザノンが正常細胞の寿命促進作用、正常細胞のプロテアソーム活性の誘発、活性化作用、、酸化ストレスからの保護作用、紫外線のDNA損傷及び化学毒性からの保護作用、正常細胞のグルコース−6−ホスホデヒドロゲナーゼの活性化作用、該酵素欠損症の治療作用、及び癌の治療作用を有することを見いだしている(特許文献1,2)。
【0007】
【特許文献1】WO2005/082392 A1
【特許文献2】特開2008−195704
【非特許文献1】Ganzera et al.,2003; Quantitative HPLCanalysis of withanolides in Withania somnifera.Fitoterapia 74, 68−76.
【非特許文献2】Kaur et a1.,2003; Effect of 1-oxo-5beta,6beta-epoxy-witha-2−ene−27-ethoxy-olide isolated from the roots of Withania somnifera on stress induces in Wistar rats.J Altern Complement Med 9,897-907.
【非特許文献3】ur-Rahman eta1.,2003; Withanolides from Withania coagulans. Phytochemistry 63, 387-390.
【非特許文献4】Davis and Kuttan, 2002b; Effect of Withania somnifera on CTL activity.J Exp Clin Cancer Res 21, 115-118.
【非特許文献5】luvone et a1.,2003; lnduction of nitricoxide synthase expression by Withania somnifera in macrophages. Life Sci 72, 1617-1625.
【非特許文献6】Singh et al.,2001;Downregulation of p34cdc2 expression with aqueous fraction fromWithania somnifera for a possible molecular mechanism of a anti- tumor and other pharmacological effects. Phytomedicine 8,492-494
【非特許文献7】Davis and Kuttan,2001;Effect of Withania somnifera on DMBA induced carcinogenesis. J EthnoparmacolE 75,165-168
【非特許文献8】Pand and Kar,1997;Evidence for freeradical scavenging activity of Ashwagandha root powder in mice. Indian J Physiol Oharmacol 41,424-426
【非特許文献9】Prakash et a1.,2001; Chemopreventive activity of Withania somnifera in experimentally induced fibrosarcoma tumoursin Swiss albino mice. Phytother Res15,240-244.
【非特許文献10】Russoet a1.,2001; lndian medicinal plants as anti-radicals and DNA cleavage protectors.Phytomedicine 8,125-132.
【非特許文献11】Archana and Namasivayam,1999; Anti-stressor effect of Withania somnifera.J Ethnopharmacol 64, 91-93.
【非特許文献12】Bhattacharya et a1.,2000; Anxiolytic-antidepressant activity of Withania somnifera glycowithanolides: an experimental study.Phytomedicine 7,463-469.
【非特許文献13】Bhattacharya and Muruganandam, 2003; Adaptogenic activity of Withania somnifera: an experimental study using a rat model of chronic stress.Pharmacol Biochem Behav 75,547-555.
【非特許文献14】Davis and Kuttan, 2002a; Effect of Withania somnifera on cel1 mediated immune responses in mice. J Exp Clin Cancer Res 21 , 585-590.
【非特許文献15】Dhuley,2000; Adaptogenic and cardioprotective action of ashwagandha in rats and frogs.J Ethnopharmaco1 70, 57-63.
【非特許文献16】Mishra et al.,2000; Scientific basis forthe therapeutic use of Withania somnifera(ashwagandha):a review. Altern MedRev 5, 334-346.
【非特許文献17】Prakash et al.,2002; Withania somnifera root extract prevents DMBA-induced squamous cell carcinoma of skin in Swissalbino mice. Nutr Cancer42,91-97.
【非特許文献18】Scartezzini and Speroni, 2000; Review on some plants of lndian traditional medicine with antioxidant activity. J Ethnophamaco1 71,23-43.
【非特許文献19】Singh et a1.,2003; Adaptogenic activity of a novel withanolide-free aqueous fraction from the roots of Withania somnifera Dun. (Part II).Phytother Res 17,531-536.
【非特許文献20】Tohda et a1.,2000; Dendrite extension by methanol extract of Ashwagandha(roots of Withania somnifera)in SK-N-SH cells.Neuroreport 11,1981-1985.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の実情を考察し、より安価で大量に採取できるアシュワガンダの葉に着目し、しかもアシュワガンダの葉から有機溶媒ではなく、より安全な水を用いて抽出した抽出物中に、新たな薬効成分を見いだすとともに、その作用を検証し、これに基づき該成分を用いた新規で有用な薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、アシュワガンダの葉の水抽出物が紫外線損傷から細胞を保護する作用を有するとともに、特にガン細胞に対しては、該水抽出物の使用量を多くすると、紫外線に対する感受性を増大させ、紫外線による殺傷効果を高め、さらに、上記細胞保護作用の原因物質が、アシュワガンダの葉中に含まれる水溶性蛋白質であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) Ashwagandhaの葉の水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする紫外線に対する細胞の感受性制御剤。
(2) 紫外線防御剤であることを特徴とする、上記(1)に記載の薬剤。
(3) 紫外線照射下に抗ガン剤として使用されることを特徴とする、上記(1)に記載の薬剤。
(4) Ashwagandhaの葉の水抽出物中に含まれる水溶性タンパク質を有効成分として、含有することを特徴とする、紫外線防御剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明において使用するアシュワガンダの葉の水抽出物は、紫外線に対する細胞の感受性を制御する作用を有する。この作用は上記水抽出物の使用量に依存し、細胞に対する紫外線損傷防御作用と殺傷促進作用を有するが、後者の作用は、正常細胞よりもガン細胞に対して極めて顕著であり、正常細胞に対しては、実質的に紫外線損傷防御作用を発揮する。また、細胞に対する紫外線損傷防御作用は、上記水抽出物中の水溶性蛋白質による。
したがって、本願発明の紫外線感受性防御剤は、UV保護剤あるいは紫外線によるガン細胞殺傷増強剤として有用であり、化粧品、医薬品あるいは健康食品等の分野で広く用いられ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、アシュワガンダの葉水抽出物を有効成分として含む、細胞の紫外線に対する感受性制御剤に関する。また、本発明の上記感受性制御剤は、例えば、医薬品、医薬部外品又は化粧品あるいは食品添加物、栄養補助食品の形態で用いられ得る。
本発明のアシュワガンダの葉水抽出物は、その投与量に応じて、紫外線に対する細胞防護作用と、細胞殺傷作用を発揮する。しかし、細胞殺傷作用は特にガン細胞において著しく、正常細胞においては極めて高い投与量が必要となるので、通常の投与量では正常細胞に対しては、紫外線に対する細胞防護作用のみが実質的に奏される。
したがって、本発明のアシュワガンダの葉水抽出物は、実際問題として、正常細胞に対しては紫外線に対する感受性を減少させ、紫外線防御剤とし機能する。
また、ガン細胞に対しては、ガン細胞の紫外線に対する感受性を高め、紫外線照射によるガン細胞殺傷のための補助剤として使用しうる。
【0013】
本明細書にいう「アシュワガンダ」とは、学名Withania somniferaを意味する。したがって、本明細書にいう「アシュワガンダの葉」とはWithania somniferaの葉を意味し、「アシュワガンダの葉水抽出物」とは、アシュワガンダの葉を水で抽出して得られる抽出物を意味する。
アシュワガンダの葉は採取したままの新鮮葉、それを乾燥させたもの、または焙煎させたものの何れでもよいが、乾燥させたものが望ましい。原料とするアシュワガンダは天然に生育するものに限定されず、in vitroで培養したものであってもよいが、アシュワガンダの葉に含有される成分の組成はアシュワガンダの産地や樹齢等により若干の差があると考えられるため、本発明のアシュワガンダの葉水抽出物を得るためには、インド国内で種から栽培した2〜4年目の植物を用いることが望ましい。
【0014】
上記アシュワガンダの葉水抽出物は、例えば、水にアシュワガンダの葉を加えて20〜70℃で6〜100時間処理する工程、又は水にアシュワガンダの葉を加えて70〜100℃にまで熱した後に、1〜30℃にまで放冷する工程の何れかの工程により得ることができる。
本明細書にいう「水」とは、通常用いられる水であれば特に制限されず、例えば、水道水や医薬用水等が挙げられる。本明細書にいう「水にアシュワガンダの葉を加えて20〜70℃で6〜100時間処理する工程」は、水にアシュワガンダの葉を加えてアシュワガンダの葉水抽出物が得られる工程であって、温度範囲は20〜70℃、好ましくは30〜60℃、より好ましくは40〜50℃とし、処理時間は6〜100時間、好ましくは8〜48時間、より好ましくは12〜24時間とする工程である。上記工程を達成せしめる方法としては、上記した温度および時間の範囲を逸脱しなければ特に制限されない。上記工程の具体例としては、例えば、実施例に示した通り、10gのアシュワガンダドライリーフパウダー(インド原産、(株)iGENEより購入)を100mlの水に混ぜ、アシュワガンダの葉が10%である混濁液を用意し、該混濁液を45℃のインキュベーター内にてオーバーナイトでゆっくり振盪する工程を挙げることができる。
【0015】
本明細書にいう「水にアシュワガンダの葉を加えて70〜100℃にまで熱した後に、1〜30℃にまで放冷する工程」は、上記と同様に、水にアシュワガンダの葉を加えてアシュワガンダの葉水抽出物が得られる工程であって、加熱温度の範囲は70〜100℃、好ましくは70〜90℃、より好ましくは80〜90℃とし、放冷時の温度範囲は1〜30℃、好ましくは15〜30℃、より好ましくは20〜30℃、最適に好ましくは20〜25℃とする工程である。加熱時間および放冷時簡については特に制限はなく、アシュワガンダの葉水抽出物が得られるのであれば、上記工程を1又は2度以上繰り返してもよい。例えば、急速に加熱する(例えば、1〜10分間で80〜90℃にまで熱する)場合は、上記工程を2度以上繰り返すことが好ましい。上記工程を達成せしめる方法としては、上記した加熱および放冷時の温度範囲を逸脱しなければ特に制限されない。
【0016】
水にアシュワガンダの葉を加えて20〜70℃で6〜100時間処理する工程、及び水にアシュワガンダの葉を加えて70〜100℃にまで熱した後に、1〜30℃にまで放冷する工程の何れとも、任意に撹拌操作を加えることができる。撹拌操作として、振盪以外にも、マグネチックスターラーやボルテックスミキサーなどを用いた機械的な撹拌を採用してもよい。さらに、上記工程の前後に無菌ろ過やUV殺菌などの除菌・殺菌処理を加えることができる。上記工程の前に除菌・殺菌処理を加える場合には、上記工程を無菌的に実施するのが好ましい。本発明の製造方法は、アシュワガンダの葉水抽出物を得ることができれば、撹拌や除菌・殺菌処理以外にも、任意に種々の操作や処理を加えることができる。アシュワガンダの葉水抽出物は、温風乾燥や凍結乾燥などの乾燥、カラムクロマトグラフィーなどを用いて適宜濃縮・精製してもよい。
【0017】
アシュワガンダの葉水抽出物には、図1で示される少なくとも6つのタンパク質が含まれ、少なくとも紫外線に対する細胞の防御作用は、アシュワガンダの葉水抽出物中に含まれる上記蛋白質に起因する。
この6つのタンパク質はいずれも水溶性タンパク質であり、99℃の加熱及びプロテイナーゼKにより分解され、活性を失う。
これら蛋白質20〜90kDa の範囲に分布し、図1に示されるように、各蛋白質は、それぞれ、およそ90kDa、70kDa、60kDa、35kDa、30kDa、20kDaの分子量を有する。
この蛋白質は、例えば、アシュワガンダの葉水抽出物をSDS-PAGE上で電気泳動にかけ分離することができる。
これらの蛋白質は、水溶性で、親水性という特徴を有している。熱に対して感受性であり、99度の熱をかけると、失活する。また、プロテイナーゼにより分解され、活性を失う。
一方、アシュワガンダの葉には有用成分としてウィザノンも知られているが、これは、アシュワガンダの葉から有機溶媒抽出によって得られるもので、本願発明における抽出物中の有効成分とは明らかに異なる。
【0018】
本発明の紫外線感受性制御剤の投与形態は特に限定されるものではなく、経口、経鼻、非経口、経肺、経皮、経粘膜、静注等種々の形態で用いることが可能である。又その剤形も種々の剤形とすることができる。例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができるが、これらに限定されない。また、製剤には薬剤的に許容できる種々の担体を加えることができる。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、コーティング剤、ビタミンC、抗酸化剤を含むことができるが、これらに限定されない。
本発明の紫外線感受性制御剤を、ガン治療に用いられる場合、通常、予め本感受性制御剤を投与した後、ガン患部に紫外線を照射するが、紫外線照射後に投与しても良い。このような治療法が適用可能なガンとしては、皮膚癌、乳ガン等があるが、内臓のガンであっても、紫外線をガラスファイバー等により照射することが可能であるから、これらのガンにも本発明の紫外線感受性制御剤を用いた療法が適用できる。
【0019】
本発明の紫外線感受性制御剤の投与量は、紫外線防御剤として使用する場合、一般的には、アシュワガンダ葉抽出物に換算して成人1日用量として10mg〜500mg/kg、好ましくは100mg〜500mgを使用する。もちろん個別的に、投与されるヒトの年齢、体重、症状、投与経路、投与期間、治療経過等に応じて変化させることもできる。1日あたりの量を数回に分けて投与することもできる。また、ガン細胞に対しては、紫外線照射と組み合わせて使用する場合には、同様な投与量でガン細胞細胞殺傷作用を有する。
細胞試験の結果では、正常細胞に対しては、0.5〜5容量%(WEX/培養液)の濃度で、紫外線防御作用を有するが、ガン細胞に対しては同濃度で、細胞殺傷作用を有する。
ガン細胞に対する殺傷作用では0.5-3%で効果を示す。なお、上記WEXの濃度は、アシュワガンダの葉100gに対し水1リットル加えて抽出された抽出液を用いた場合の濃度である。
【0020】
本発明の紫外線感受性制御剤は、麺類、パン、キャンディー、ゼリー、クッキー、スープ、健康飲料、焼酎などのアルコール等の飲食品、あるいは、鉄、カルシウム等の無機成分、種々のビタミン類、オリゴ糖、キトサン等の食物繊維、大豆抽出物等のタンパク質、レシチンなどの脂質等を含む栄養補助食品の添加成分として用いることができる。
さらに、本発明の紫外線感受性制御剤は、医薬部外品または化粧品の配合成分として使用できる。本発明の紫外線感受性制御剤を医薬部外品または化粧品の配合成分として、さらに、通常医薬部外品や化粧品に用いられる他の成分、例えば油分、湿潤剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、防腐剤、保湿剤、香料、水、アルコール、増粘剤等を必要に応じて適宜配合することができる。本発明の紫外線感受性制御剤は、特に化粧品等において有用であり、ファンデーション等の皮膚化粧料、毛髪料、あるいは日焼け止化粧料等のの配合成分として用いる場合、皮膚あるいは毛髪の紫外線によるダメージを効果的に抑制することができる。
本発明を以下の実施例でさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
三角フラスコ中に100gのAshwagandha葉の粉末を投入し、滅菌処理した1リットルの純水を加え、該三角フラスコを回転式振盪機により、温度45℃で一晩振盪し、抽出操作を行った。この後、静置して葉泥を沈殿させ、上澄みを採取し、上澄みをWhatmann polydiscディスポーザブルフィルターで濾過し、残存する葉泥を分離除去し、さらに15分遠心分離機で10,000rpmで遠心し、上澄みを0.45ミクロンのフィルターでろ過して、抽出液を得た。
この方法に得られた抽出液(WEX)は、SDSポリアクリルアミドゲル上で電気泳動により分離し、クマシーブリリアント染色を行った。結果を、図1に示す。WEXは6つの水溶性タンパク質を有する。
【0022】
実施例2
ヒト正常繊維芽細胞(MRC5)を、10%のFCS、50U/mlのペニシリンおよび5mg/mlのストレプトマイシンを含有した低グルコースDMEM培地中で5%CO2インキュベーター37度の条件で24時間培養した。UVストレスを与えるために、細胞を、WEX無添加培地中あるいは1%WEX添加培地中で培養して、UV(5-10 mJ/cm2)を照射した。この48時間後に各培地中の細胞を観察し、写真撮影した。なお、上記WEXの添加割合は、実施例1で得られたWEXの培地溶液に対する割合(体積)を表す。すなわち、例えば、上記1%WEX添加培地とは、培養液100mlに対し、WEXlml添加した培地を表す。以下の実施例において同様。
結果を図2に示す。図2Cの3枚のパネルにすべてに見られるように、WEX添加された培地で培養したとき、無添加培地(図2B)と比較して、細胞数、形態共に、細胞は極めて良好な状態であることが明らかである。なお、図2は、紫外線無照射、WEXの無添加の場合を示す。
【0023】
実施例3
ヒト正常繊維芽細胞(MRC5)にUV(5mJ/cm2)照射した後、無添加培地及び0.5%WEX添加された培地でそれぞれ48-72h培養し、各培地の細胞を観察し、写真撮影した。
72時間培養後の細胞の状態を図3に示す。図3の結果から明らかなように、WEX処理で培養した細胞は高い生存率、分裂能、及び細胞形態変化能を示した。
【0024】
実施例4
1)ヒト正常細胞(TIG-1)をWEX(0.1%、0.5%)添加培地及び無添加培地中でそれぞれ48時間培養し、UV(3mJ/cm2)を照射した。UV照射後の細胞を、4%のホルムアルデヒとKCM溶液(120mM KCl、20mM NaCl、10mMトリス、0.1%トライトンpH 7.5)脱膜化及び細胞の固定を行った。一次抗体として抗H2AX(DNA損傷マーカー)抗体(anti- phospho-H2AX(Ser 139))を含有する、ABDIL溶液(2%BSA、0.2%ゼラチン、150mM NaCl、0.1%トリトンX-100、20mMトリス、0.1%アジ化ナトリウムpH 7.5)で、ブロッキングした。
次いで、結合しなかった1次抗体を洗浄除去し、2次抗体(抗マウスIgGヤギ抗体)含有するブロッキング溶液を用いてブロッキングを行い、その後、蛍光顕微鏡で細胞観察を行った。結果を図4に示す。紫外線照射下であっても、細胞が、WEX(0.1〜0.5%)添加した培地中で培養された場合、γH2AX抗体染色量が減少しており、DNA損傷が抑制されることを示す。
【0025】
2)上記と1)と同様にして、WEX添加培地及び無添加培地でそれそれ培養し、UV照射したヒト正常細胞(TIG-1)を、RIPAバッファーで溶解し、上記抗γH2AX抗体を用いて以下のようにウェスタンブロットを行って、γH2AX蛋白質の発現レベルを確認した。
ウェスタンブロット。
細胞を50mM HEPESバッファーpH 7.5、150mM NaCl、100mM NaF、1mM PMSF、0.5%トリトンX100、0.5%NP-40、1mM DTT、10%グリセリン、プロテアーゼ抑制剤カクテル(ロッシュ) を含むNP40ライシスバッファーで溶解した。次いで、細胞溶解物は細胞残屑を除去するために4度で10分間13,000rpmで遠心した。タンパク質濃度は、市販のブラッドフォード・タンパク質解析法によって決定した。20-30μgを含んでいるタンパク質溶解物は、5分間ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)サンプル・バッファー中で煮沸し、SDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動で泳動し、セミドライトランスファー装置(ATTO:日本製)を使用して、イモビロンP薄膜(ミリポア)上に転写した。トリスバッファー(TBS-Tバッファー)中で5%のスキムミルクで室温30分間ブロッキングした後、膜は、5%のスキムミルクを含有したTBS-T中の抗γH2AX抗体と反応させた。TBS-Tで洗浄後に、膜はホースラディシュ・ペルオキシダーゼ標識2次抗体(抗マウスIgGヤギ抗体)でブロッキングした後、TBS-Tで3回洗浄し、TBSで一回洗浄後、CCDカメラ(LAS3000ミニ富士フィルム)を装備したLuminoイメージ・アナライザーを使用して、増強された化学発光(ECL:Amershamバイオサイエンス)を視覚化した。
結果を図5に示す。WEX(0.5%)添加した培地中で培養された時、細胞のγH2AX蛋白質発現レベルは、無添加の場合と比較して減少している。この結果によっても、WEXによって紫外線よるDNA損傷が抑制されることが確認できる。なお、抗体の交差反応性を表わす他のバンドは発現レベルを示すコントロールとして使用した。
【0026】
実施例5
実施例4と同様にして、ヒト正常細胞(TIG-1)を培養し、UV照射を行った。次いで、UV照射された細胞をメタノールで固定し、PBSで3回洗浄した。5 分のアセトン(1:1)処理後、PBSで2-3回洗浄し、10分間のシェーカー上で0.2%のPBSTで細胞を脱膜化した。この後、抗p53抗体(DO-1; サンタクルーズ・バイオテクノロジー)含有する2%のBSA/PBS溶液を用いて、10分間室温でブロッキングした。その後、0.1%のPBSTで3回洗浄し、2次抗体(ヤギ反マウスIgGAlexa-594)で30分間反応させ、0.1%PBSTで3 回洗浄後、細胞をFA封入剤で封入し、蛍光顕微鏡下で観察した。
結果を、図6に示す。これによれば、無添加培地で培養した場合に比べ、細胞が、WEX(0.1〜0.5%)添加した培地中で培養された場合、p53(DNA損傷マーカー)発現量が、WEXの発現量に応じて明確に低下しており、WEX紫外線照射によるDNA損傷が顕著に抑制されることを示している。
【0027】
実施例6
1)Ashwagandhaの水溶性抽出物(WEX)に対し、99℃での20分間熱処理(WEX-HI)と、37℃で30分間プロテイナーゼK(20μg/ml)処理(WEX-PKI)をそれぞれ別々に行って、WEX中のタンパク質成分をそれぞれ不活化させた。正常ヒト繊維芽細胞をUV照射後、WEX,WEX-HIおよびWEX-PKI添加培地でそれぞれ培養した。結果を図7に示す。図7に示されるように、WEX添加培地を用いた場合、細胞はUVによる損傷から回復し、生育がよく、増殖を続けた。これに対し、WEX-HI、WEX-PKI添加培地を用いた場合、より顕著な細胞死が観察された。
一方、WEX、WEX-HI及びWEX-PKI中の蛋白質成分について、SDSポリアクリルアミドゲル上で電気泳動を行った。図8の電気泳動図で示されるように、WEXでは6つのバンドがみられたのに対し、WEX-HIおよびWEX-PKIでは明瞭なバンドはみられなかった。
2)上記正常繊維芽細胞のUVによる損傷を、実施例4、1)の手法に従って、γH2AXを染色することによって調べた。結果を図8に示す。図8に示されるように、WEX処理した細胞は、γH2AXの染色が減少した。99℃の熱処理(HI)あるいはプロテイナーゼK処理(PKI)によって不活化させたWEXを用いた場合、保護的な効果は全く見られなかった。この結果は、WEXのタンパク質成分が、正常細胞をUVによるDNA損傷から保護するために有効であることを示している。
【0028】
実施例7
1)ヒト乳がん細胞(MCF7)をUV(3 mJ/cm2)照射した後、WEX(1%)添加培地、実施例7と同様にして不活化したWEX添加培地、及び無添加培地でそれぞれ96時間培養し、写真撮影を行った。結果を図9に示す。これによれば、UV照射後WEX添加培地で培養した細胞は無添加培地で培養した細胞に比較し、より高い割合の細胞死が観察され、WEXはがん細胞のUVによる損傷と細胞死を増感させることが示された。一方、タンパク質成分を不活化させたWEX添加培地においても、WEX添加培地と同様の効果が見られたことから、WEX培地のタンパク質成分はがん細胞のUVに対する増感作用には必要がないことが示唆された。
【0029】
2)上記1)と同様にして、ヒト乳がん細胞(MCF7)をUV照射した後、無添加、WEX添加、WEX-HI添加、WEX-PKI添加培地で培養した。UVによるDNA損傷は、実施例4と同様にしてγH2AXを染色することによって調べた。結果を図10に示す。図10に示されるように、WEX添加培地で培養した細胞では、無添加培地で培養した細胞と比較して、強いγH2AXの発現が見られた。また、UVによる細胞死は、WEX添加培地で培養した細胞のほうが強く見られた。さらに、WEX-HI、WEX-PKI培地で培養した場合もWEX添加培地で培養した場合と同様の効果が見られたことから、WEX培地のタンパク質成分は、がん細胞のUVに対する増感作用には必要ないことが示唆された。
【0030】
3)以上から、図11に示される、WEX中に存在する小分子(フラクション1−4(Frc1-4))がこの効果に対して重要であると考えられる。
該フラクションは以下のようにして分画されたものである。
WEXをHPLCで解析した。すなわち、WEXの分画はC18カラム(TSKgel ODS−100Z、東ソー社)を用いた逆相HPLCで行った。流速は、1ml/min、カラム温度は40℃とし、グラジェント抽出には、水(溶液A)とエタノール(溶液B)を用いた。35分のグラジェントプログラムは次の通りである:溶液A 100%一定5分、溶液B 0.75%までのグラジェント15分、溶液B 0.75%から50%までのグラジェント5分、溶液B 50%一定5分、溶液B 50%から0%までのグラジェント2分、そして最後に、溶液A 100%一定5分。検出は220nmで行った。結果は、図11に示され、WEXは4つの構成物に分画できた(Frcl1−4)。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】アシュワガンダの葉の水抽出物(WEX)をSDS-PAGEで解析した結果を示す。
【図2】ヒト正常繊維芽細胞(MRC5)をWEX添加培地で24時間培養後、紫外線照射し、該細胞の状態を観察した結果を示す。
【図3】ヒト正常繊維芽細胞(MRC5)に対して紫外線照射後、72時間WEX添加培地で培養し、該細胞の状態を観察した結果を示す。
【図4】ヒト正常繊維芽細胞(TIG−1)に対して紫外線照射後、WEX添加培地で培養し、該細胞に対しγH2AX(DNA損傷マーカー)抗体染色を行った結果を示す。
【図5】ヒト正常繊維芽細胞(TIG−1)に対して紫外線照射後、WEX添加培地で培養し、該細胞におけるγH2AXの発現レベルを測定した結果を示す。
【図6】ヒト正常繊維芽細胞(TIG−1)に対してWEX添加培地で培養し、紫外線照射し、該細胞に対しp53(DNA損傷マーカー)抗体染色を行った結果を示す。
【図7】正常ヒト繊維芽細胞を紫外線照射後、WEX添加培地、加熱により不活性化したWEX添加培地(WEX-HI)およびプロテイナーゼKにより不活性化したWEX添加培地(WEX-PKI)でそれぞれ培養し、細胞の状態を観察した結果を示す。
【図8】正常ヒト繊維芽細胞を紫外線照射後、WEX添加培地、加熱により不活性化したWEX添加培地(WEX-HI)およびプロテイナーゼKにより不活性化したWEX添加培地(WEX-PKI)でそれぞれ培養し、これら細胞に対し、γH2AX抗体染色を行った結果を示す。
【図9】ヒト乳がん細胞(MCF7)を紫外線照射後、WEX添加培地、加熱により不活性化したWEX添加培地(WEX-HI)およびプロテイナーゼKにより不活性化したWEX添加培地(WEX-PKI)でそれぞれ培養し、細胞の状態を観察した結果を示す。
【図10】ヒト乳がん細胞(MCF7)を紫外線照射後、WEX添加培地、加熱により不活性化したWEX添加培地(WEX-HI)およびプロテイナーゼKにより不活性化したWEX添加培地(WEX-PKI)でそれぞれ培養し、該細胞におけるγH2AX抗体染色を行った結果を示す。
【図11】WEXをHPLCで測定した結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ashwagandha水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする紫外線に対する細胞の感受性制御剤。
【請求項2】
紫外線防御剤であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
紫外線照射下に抗ガン剤として使用されることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
Ashwagandha水抽出物中に含まれる水溶性タンパク質を有効成分として、含有することを特徴とする、紫外線防御剤。
【請求項1】
Ashwagandha水抽出物を有効成分として含有することを特徴とする紫外線に対する細胞の感受性制御剤。
【請求項2】
紫外線防御剤であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
紫外線照射下に抗ガン剤として使用されることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
Ashwagandha水抽出物中に含まれる水溶性タンパク質を有効成分として、含有することを特徴とする、紫外線防御剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−116381(P2010−116381A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292697(P2008−292697)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]