説明

紫外線吸収フィルム

【課題】耐熱性、耐衝撃性および透明性のみならず耐候性にも優れる紫外線吸収フィルムであり、自動車用液晶ディスプレイの表示装置やダッシュボードのような加飾成形品等に積層させて使用されるフィルムを提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して特定のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(B)1.0〜1.5重量部を必須成分として含有する樹脂組成物を成形してなる紫外線吸収フィルムであって、当該フィルムの60μm厚みにおける(1)波長380nmの光線透過率が10%以下であり、かつ(2)波長400nmの光線透過率が70%以上である、ことを特徴とする紫外線吸収フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂製の紫外線吸収フィルムに関する。詳しくは、自動車用液晶ディスプレイの表示装置やダッシュボードのような加飾成形品等に積層させることにより、耐熱性、耐衝撃性および耐候性を付与することができるがポリカーボネート樹脂製の紫外線吸収フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性、耐衝撃性、自己消火性に優れた樹脂であることから、電気、電子、ITE、精密機械、自動車、建材などの分野で広く用いられている。また、その押出加工品であるシートやフィルムもこれらの特性を活かして様々な分野で使用されている。
【0003】
一方、自動車用液晶ディスプレイの表示装置やダッシュボードのような加飾成形品においては、屋外で使用されることから耐候性が必要とされている。この用途分野においては、従来技術においては、アクリル樹脂に紫外線吸収剤を添加したフィルムを当該表示装置や成形品に積層することによって、外部からの紫外線による劣化を防止する方法が用いられていた。(特許文献1参照)しかしながら、アクリル樹脂製の紫外線吸収フィルムの場合、耐熱性や耐衝撃性が劣ることからこれらの改良が求められていた。また、耐衝撃性を改良するためにアクリルゴムを添加することも提案されているが、改良効果は未だ十分ではないという課題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2010−240969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性、耐衝撃性および透明性のみならず耐候性をも具備した紫外線吸収フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリカーボネート樹脂に特定のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を添加することによって、効果的に紫外線を吸収し、かつ耐熱性および耐衝撃性にも優れた紫外線吸収フィルムを得ることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して下記一般式1に示す紫外線吸収剤(B)1.0〜1.5重量部を必須成分として含有する樹脂組成物を成形してなる紫外線吸収フィルムであって、当該フィルムの60μm厚みにおける
(1)波長380nmの光線透過率が10%以下であり、かつ
(2)波長400nmの光線透過率が70%以上である、
ことを特徴とする紫外線吸収フィルムを提供するものである。
一般式1
【0008】
【化1】


(一般式1において、R1およびR2は炭素数1〜12のアルキル基またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、aおよびbは0〜3の整数を示す。)
【0009】
本発明の紫外線吸収フィルムの厚みは、50μm〜0.2mmの範囲のものを言い、好ましくは60μm〜0.1mmである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の紫外線吸収フィルムは、耐熱性、耐衝撃性および透明性のみならず耐候性にも優れることから、自動車用液晶ディスプレイの表示装置やダッシュボードのような加飾成形品等に当該紫外線吸収フィルムを積層させることにより、これらの性能を簡単に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0012】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0013】
これらは、単独または2種類以上混合して使用することができる。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0014】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0015】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、通常10000〜100000、好ましくは15000〜35000、さらに好ましくは、18000〜23000である。かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0016】
本発明にて使用される紫外線吸収剤(B)は、下記一般式1に示すベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤である。
一般式1
【0017】
【化2】


(一般式1において、R1およびR2は炭素数1〜12のアルキル基またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、aおよびbは0〜3の整数を示す。)
【0018】
なかでも、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]フェノール]]が好適に使用できる。
【0019】
紫外線吸収剤(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、1.0〜1.5重量部である。配合量が1.0重量部未満であれば、紫外線吸収性能に劣り、また1.5重量部を超えると透明性が低下するので好ましくない。好ましくは、1.1〜1.4重量部、更に好ましくは1.2〜1.3重量部の範囲である。
【0020】
本発明の紫外線吸収フィルムの製造方法としては、溶融押出法等を挙げることができる。
【0021】
本発明の紫外線吸収フィルムにおいて、60μm厚みにおける光線透過率の測定方法としては、以下のとおり。
分光光度計を用いて波長300〜800nmの範囲における光線透過率をJIS A5759に準じて測定した。
【0022】
本発明の紫外線吸収フィルムは、熱ラミネーションなどを行い積層成形品にしてインストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックベゼル、パワーウィンドウスイッチベース、ダッシュボード等の自動車内装用部材;AV機器等の各種フロントパネル; 電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種内装用部材などに好適に私用できる。また、表面硬度を高めるためにハードコート層を本発明の紫外線吸収フィルム層の表面に設けても良い。
【0023】
本発明の紫外線吸収フィルムを得るためのポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じて他の添加剤、例えば離型剤、酸化防止剤、染顔料、展着剤(エポキシ化大豆油、流動パラフィン等)等を配合することができる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に制限されるものではない。尚、実施例中の「部」は断りのない限り重量基準に基づく。
【0025】
使用した原料の詳細は以下のとおりである。
ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAおよびホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化スタイロンポリカーボネート社製カリバー301−22、
粘度平均分子量18500、以下「PC」と略記)
紫外線吸収剤(B):
2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−
[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]フェノール]]
(ADEKA社製LA―31、以下「UVA」と略記)
他の紫外線吸収剤:
2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−
2H−ベンゾトリアゾール
(シプロ化成社製SEESORB703、以下「他UVA」と略記)
酸化防止剤(C):
リン系酸化防止剤
(BASF社製IRGAFOS P−EPQ、以下「AO」と略記)
【0026】
表1〜2に示す配合比率にて、上記の原料をそれぞれタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(L/D=42、Φ=30mm、日本製鋼所社製TEX30α)を用いて、溶融温度260℃にて溶融混錬し、各種のペレットを得た。
【0027】
得られたペレットを熱風乾燥式乾燥機で、120℃で4時間以上乾燥してから、フィルム成形用押出機(L/D=32、40Φ、田辺プラスチック社製VS40単軸押出機)を用いて、260℃の条件下で溶融混錬し、厚み60μmのフィルムを成形した。
【0028】
得られた紫外線吸収フィルムの光線透過率は、分光光度計(日立製作所製U4100を用いて波長300〜800nmの範囲における光線透過率をJIS A5759に準じて測定した。
380nmおよび400nmの光線透過率がそれぞれ10%以下、70%以上を合格とした。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1に示したとおり、本発明の紫外線吸収フィルムの構成要件を全て満足する場合は、得られたフィルムの380nmおよび400nmにおける光線透過率(%)はそれぞれ10%以下、70%以上のレベルを満足していた。
【0032】
一方、比較例1は、UVAの添加量が本発明の構成要件よりも少ない例であり、いずれの厚みにおいても400nmの透過率は70%以上であったが、380nmの透過率が10%を超える結果となった。
比較例2は、UVAの添加量が本発明の構成要件よりも多かった例であり、380nmの透過率は10%以下となっていたが、400nmの透過率が70%未満となる結果となった。
比較例3は、本発明の紫外線吸収剤(B)とは構造の異なる紫外線吸収剤を用いた例であり、380nmの透過率はいずれの厚みにおいても透過率が10%以下であったが、400nmの透過率が70%未満となる結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して下記一般式1に示す紫外線吸収剤(B)1.0〜1.5重量部を必須成分として含有する樹脂組成物を成形してなる紫外線吸収フィルムであって、当該フィルムの60μm厚みにおける
(1)波長380nmの光線透過率が10%以下であり、かつ
(2)波長400nmの光線透過率が70%以上である、
ことを特徴とする紫外線吸収フィルム。
一般式1
【化1】


(一般式1において、R1およびR2は炭素数1〜12のアルキル基またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、aおよびbは0〜3の整数を示す。)
【請求項2】
紫外線吸収剤(B)が、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]フェノール]]である請求項1に記載の紫外線吸収フィルム。

【公開番号】特開2013−95827(P2013−95827A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239070(P2011−239070)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(396001175)住化スタイロンポリカーボネート株式会社 (215)
【Fターム(参考)】