説明

紫外線吸収剤、その製造方法、樹脂組成物及び成形体

【課題】樹脂等に配合した場合の分散性が良好で、且つ耐候性に優れた製品を与えうる紫外線吸収剤、その製造方法、並びに耐候性に優れ、高温で長期間紫外線に晒されてもヘイズの低下等の劣化を起こしにくい樹脂組成物及び成形体を提供する。
【解決手段】不飽和二重結合を有する単量体由来の重合単位を含む主鎖と、末端のフルオロアルキル基又はフルオロオキサアルキル基とからなる重合体;及び層状結晶化合物を含む紫外線吸収剤。層状結晶化合物を分散させた分散液に、前記重合体を接触させる等する紫外線吸収剤の製造方法。前記紫外線吸収剤を含む樹脂組成物及び成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収剤、該紫外線吸収剤の製造方法、該紫外線吸収剤及び樹脂からなる樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線吸収剤は、今日多くの技術分野で利用されている。例えば、プラスチック製品、塗料又はインキ等の樹脂を含む製品は、紫外線を吸収すると品質が劣化する。このような品質の劣化を防ぐため、これらの製品に有機系又は無機系の紫外線吸収剤を配合することが広く行われている。また最近化粧品の分野において、皮膚に到達する紫外線量を低減することを目的として、皮膚に適用する化粧料組成物に紫外線吸収剤を配合することが広く行われている。
【0003】
これまで知られている紫外線吸収剤は、有機系及び無機系の物質に大別できる。有機系の紫外線吸収剤としては、具体的には例えばキニーネ塩類、パラアミノ安息香酸誘導体、サリチル酸誘導体、桂皮酸誘導体、及びアセトアニリド等が知られている。一方無機系の紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化セリウム等が知られている。
【0004】
しかしながら、これまで知られている紫外線吸収剤及びそれを配合した製品は、耐候性が不十分である場合が多い。例えば、樹脂に紫外線吸収剤を配合した製品の場合、高温で長期間紫外線に晒されることにより、紫外線吸収剤がブリーディングし、ヘイズの増加及び紫外線吸収能の低下等の経時的な劣化を起こすことが多い。そのため、樹脂成形体等の各種製品において、良好な紫外線吸収能を有し且つ耐候性に優れた製品を与えうる新たな紫外線吸収剤が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、樹脂等に配合した場合の分散性が良好で、且つ耐候性に優れた製品を与えうる紫外線吸収剤、並びにその製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、耐候性に優れ、高温で長期間紫外線に晒されてもヘイズの低下等の劣化を起こしにくい樹脂組成物及び成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
[1] 不飽和二重結合を有する単量体由来の重合単位を含む主鎖と、末端のフルオロアルキル基又はフルオロオキサアルキル基とからなる重合体(A);及び層状結晶化合物(B)を含む紫外線吸収剤;
[2] 前記重合体(A)の数平均分子量が500〜50000である、[1]に記載の紫外線吸収剤;
[3] 前記重合単位が、アクリルアミド、メタクリルアミド、これらの誘導体及びこれらの組み合わせを含む群から選択される単量体由来の重合単位である[1]又は[2]に記載の紫外線吸収剤;
[4] 前記層状結晶化合物(B)が、層状無機化合物を有機化処理してなるものである[1]〜[3]のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤;
[5] 水または有機溶剤に前記層状結晶化合物(B)を分散させ、分散液を調製する工程;及び当該分散液中に、前記重合体(A)を加え撹拌する工程を含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤の製造方法;
[6] 水または有機溶剤に前記層状結晶化合物(B)を分散させ、分散液を調製する工程;及び当該分散液中で、前記重合体(A)を生成する反応を行う工程を含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤の製造方法;
[7] [1]〜[4]のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤および樹脂(C)を含む樹脂組成物;
[8] 前記樹脂(C)が、脂環式構造含有重合体である[7]に記載の樹脂組成物;及び
[9] [7]又は[8]に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の紫外線吸収剤は、前記特定の重合体(A)及び層状結晶化合物(B)を含むため、良好な紫外線吸収能を有しながら樹脂等に対して良好に分散し、耐候性に優れた製品を与えることができる。
本発明の紫外線吸収剤の製造方法によれば、前記本発明の紫外線吸収剤を簡便に製造することができる。
本発明の樹脂組成物および成形体は、前記本発明の紫外線吸収剤を含むため、紫外線吸収能が高く、且つ耐候性に優れ、高温で長期間紫外線に晒されてもヘイズの低下等の劣化を起こしにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<重合体(A)>
本発明の紫外線吸収剤は、不飽和二重結合を有する単量体由来の重合単位を含む主鎖(以下、不飽和二重結合を有する単量体を単量体(a1)、単量体(a1)由来の重合単位を重合単位(a1)、及び重合単位(a1)を含む主鎖を主鎖(a1)と、それぞれ呼ぶことがある。)と、末端のフルオロアルキル基又はフルオロオキサアルキル基(以下、末端Rf基又は単にRf基ということがある。)とからなる重合体(以下、重合体(A)ということがある)を含む。
【0010】
重合体(A)の主鎖(a1)は、重合単位(a1)としてエチレン性不飽和結合を有する重合単位を含む鎖とすることができる。より具体的には、重合単位(a1)は、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を含む単量体由来の重合単位とすることができる。さらに具体的には、重合単位(a1)は、アクリルアミド、メタクリルアミド、これらの誘導体及びこれらの組み合わせを含む群から選択される単量体由来の重合単位とすることができる。主鎖(a1)は、重合単位(a1)のみを含む鎖、又は重合単位(a1)及びこれらと共重合可能な他の単量体由来の重合単位を共に含む鎖とすることができる。
【0011】
一方、重合体(A)はその末端にRf基即ちフルオロアルキル基又はフルオロオキサアルキル基を有する。重合体(A)は通常一分子中に2つのRf基を有するが、これらは同一でも異なっていてもよい。Rf基は、好ましくは炭素数3以上、より好ましくは炭素数3〜18、さらにより好ましくは炭素数3〜12のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロオキサアルキル基である。ポリフルオロアルキル基とは、直線状、分岐状または環状骨格を有するアルキル基内の炭素原子に結合する水素原子の全部または一部がフッ素原子に置換されている置換基をいう。また、ポリフルオロオキサアルキル基とは、上記ポリフルオロアルキル基中の炭素−炭素結合の間に、エーテル性酸素原子を少なくとも1個有する置換基をいう。末端Rf基は、フッ素原子以外の他のハロゲン原子を含んでいてもよい。他のハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。また末端Rf基中の炭素−炭素結合の間には、チオエーテル性硫黄原子が挿入されていてもよい。
【0012】
末端Rf基中のフッ素原子数は、((Rf基中のフッ素原子数)/(Rf基と同一炭素数の対応するアルキル基中に含まれる水素原子数))×100(%)として求められるフッ素置換率が、60%以上であることが好ましく、さらには80%以上であることがより好ましい。特に末端Rf基の末端の炭素原子にはフッ素原子が結合していることが好ましく、さらにはペルフルオロ基、即ち上記フッ素置換率が100%である基が特に好ましい。
【0013】
末端Rf基としては、具体的には後述のラジカル重合開始剤から導かれる基である、−CF2CF2CF3、−CF2CF2CF2CF2CF3、−CF(CF3)OCF2CF2CF3、−[CF(CF3)OCF2]xCF2CF3(Xは正の整数)等を挙げることができる。
【0014】
重合体(A)は、より具体的には、下記一般式(I)で表される構造を有するものを用いることができる。
【0015】
Rf1−(CH2CR11)n−Rf2 ・・・(I)
【0016】
上記一般式(I)において、Rf1およびRf2は、それぞれ独立に、上で述べたRf基を表す。
【0017】
上記一般式(I)において、単位−(CH2CR11)−は、重合体(A)の主鎖を構成する重合単位(a1)である。この単位は、エチレン性重合単位とすることができる。重合体(A)における重合単位中のR1は水素原子又はメチル基とすることができる。重合体(A)に複数のR1が存在する場合、これらは同一でも異なっていてもよい。
【0018】
重合単位−(CH2CR11)−における側鎖Z1は、それぞれ独立に水素原子、一価の有機基又はハロゲン原子であり、所望の特性によって適宜選択することができる。Z1が一価の有機基である場合の好ましいZ1の例としては、式−CONR23で表されるアミド基又はアミド基誘導体が挙げられる。ここでR2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜18のスルホン酸含有アルキル基または−[C(R42qCOR5(R4はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R5は炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であり、qは1〜5の整数である。)を示す。または、R2およびR3は結合して、炭素数2〜8の二価のアルキレン基又はエーテル基を形成し隣接する窒素原子と共に環を形成してもよい。
【0019】
1が上記アミド基以外の一価の有機基である場合の例としては、−Si(R73、−OCOR8、−COOR9、−CON(R10)R11−N+(R12)3-、又は−COOR11−N+(R123-が挙げられる。ここでR7はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシ基である。R8およびR9は水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、炭素数1〜18のスルホン酸含有アルキル基、−(CH23−Si(R133、または−(C(R142pCOR13である(R13はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であり、R14はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、pは1〜5の整数である。)。R10は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。R11は炭素数1〜4のアルキレン基である。R12はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基である。また、Xはハロゲン原子であり、好ましくはCl、BrまたはIである。
【0020】
重合単位(A)中のZ1は、その一部又は全部が一価の有機基であることが好ましく、当該一価の有機基の一部又は全部が上記式−CONR23で表されるアミド基であることが好ましい。
【0021】
重合単位−(CH2CR11)−であってZ1がアミド基であるものを与えうる単量体(a1)の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−tert−オクチルアクリルアミド、N−オクタデシルアクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−ベンジル(メタ)アクリルアミド、N−ジフェニルメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、アクロイルモルホリン、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミド、N−(3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などを挙げることができる。
【0022】
重合単位−(CH2CR31)−であってZ1が上記アミド基以外であるものを与えうる単量体(a1)の具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリイソプロポキシビニルシラン、トリ−tert−ブトキシビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジエチルメチルビニルシラン、エトキシジエチルビニルシラン、トリメチルビニルシラン、ジアセチルオキシメチルビニルシラン、トリアセチルオキシビニルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジアセチルオキシメチルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリアセチルオキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリ−tert−ブトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジエチルメチルシラン、トリ−n−ブチル((メタ)アクリロイルオキシメチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−ブチル((メタ)アクリロイルオキシメチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−オクチル((メタ)アクリロイルオキシメチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−ドデシル((メタ)アクリロイルオキシメチル)アンモニウムクロライド、トリ−n−ブチル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−ブチル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−オクチル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−ドデシル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムクロライド、トリ−n−ブチル(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライド、ジメチル−n−ブチル(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライド、3−(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。
【0023】
重合体(A)の主鎖(a1)において、Z1が上記アミド基又はアミド基誘導体である重合単位の割合は、全重合単位の1〜100%であることが好ましく、用いる層状無機化合物との親和性に応じて適宜調整することができる。
【0024】
一分子の重合体(A)において複数種類の単位−(CH2CR11)−が共に存在する場合、これらの存在の態様は、ブロック共重合、交互重合、ランダム共重合を含むいずれの態様であってもよい。
【0025】
重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、界面張力の低下や末端Rf基部分の凝集等のフッ素セグメントの特性をより顕著に発現させるために、500〜50,000が好ましく、5,000〜20,000がより好ましい。Mnが上記範囲であると製造が容易であり、末端Rf基の凝集効果が相対的に増加し、自己組織化による分子集合体を構築できるため、疎溶剤性の高い層状結晶化合物をゲスト分子として取り込むことができ、極性の低い樹脂への親和性が充分となるため好ましい。
【0026】
上記式(I)におけるnの値は、特に限定されず重合体(A)の数平均分子量が上記好ましい値の範囲内となるよう、重合単位および末端Rf基のサイズに応じて適宜調節することができるが、具体的には例えば5〜350の範囲内とすることができる。
【0027】
なお、本発明の紫外線吸収剤は、重合体(A)とともに、重合工程で生じる重合体の片末端のみに上記Rf基が導入された化合物を任意の割合で含んでいてもよく、さらに、ラジカルの連鎖移動により溶剤などに由来する基や不均化反応によるラジカル停止反応に由来する基が片末端に導入されたものを含んでいてもよい。
【0028】
<重合体(A)の製造方法>
重合体(A)は、ポリフルオロアルキル基またはポリフルオロオキサアルキル基を含む有機過酸化物(以下、フッ素含有有機過酸化物という。)をラジカル重合開始剤として、前述のエチレン性単量体等の単量体(a1)を含む単量体を重合することにより、得ることができる。
【0029】
フッ素含有有機過酸化物としては、上記に例示した分子両末端にある2つのRf基同士を過酸化結合(−OO−)した化合物であるRf−CO−OO−OC−Rfなどが使用できる。これらの−OO−または−CO−OO−OC−を介して結合されるRf基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0030】
フッ素含有有機過酸化物としては、具体的には{−OC(=O)CF2CF2CF3]2、{−OC(=O)CF2CF2CF2CF2CF3]2、{−OC(=O)CF(CF3)OC37]2、{−OC(=O)[CF(CF3)OCF2]XCF2CF32(Xは正の整数)等が挙げられる。
【0031】
なお、上記ポリフルオロオキサアルキル基を含む有機過酸化物および該基を分子末端とする含フッ素重合体を合成し重合体(A)を得る方法は、特開2003−155272号公報に記載された方法に準じて行うこともできる。
【0032】
重合体(A)の調製において、フッ素含有有機過酸化物と、前述の単量体(a1)等の単量体との仕込み量は任意の割合でよく、フッ素含有有機過酸化物/単量体のモル比で、1/(0.1〜5000)が好ましく、1/(0.1〜3000)がより好ましく、1/(0.1〜1000)が最も好ましい。なお、単量体の仕込みモル比が上記範囲であると、フッ素含有有機過酸化物の自己分解に起因する生成物の生成が少なく、且つ重合体(A)の収率が高いため好ましい。
【0033】
フッ素含有有機過酸化物の仕込みモル比を調節することにより、得られる重合体(A)の平均分子量を調節することができる。すなわち、フッ素含有有機過酸化物の仕込みモル比を単量体(a1)に対して高くすれば、数平均分子量の小さい重合体(A)が得られ、仕込みモル比を低くすれば、数平均分子量の大きい含フッ素重合体を得ることができる。
【0034】
重合反応は常圧で行うことができ、反応温度は−20〜150℃が好ましく、0〜100℃がより好ましい。反応温度が−20℃以上であると反応時間を短くでき、150℃以下であると反応時の圧力が高くなりすぎず、反応操作が容易である。反応時間は30分〜20時間が好ましく、実用的には1〜10時間となるように条件を設定することが好ましい。
【0035】
種々の反応条件下において、フッ素含有有機過酸化物と単量体(a1)とを反応させることにより、重合体(A)を直接1段階反応により得ることができるが、反応をより円滑に行うために、反応溶剤として有機溶剤を用いることが好ましい。
【0036】
有機溶剤としては、ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤が特に好ましく、具体的には塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、2−クロロ−1,2−ジブロモ−1,1,2−トリフルオロエタン、1,2−ジブロモヘキサフルオロプロパン、1,2−ジブロモテトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロテトラクロロエタン、1,2−ジフルオロテトラクロロエタン、フルオロトリクロロメタン、ヘプタフルオロ−2,3,3−トリクロロブタン、1,1,1,3−テトラクロロテトラフルオロプロパン、1,1,1−トリクロロペンタフルオロプロパン、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロ−3,3−ジクロロプロパン、1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン、トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルエチルエーテル、ヘプタフルオロシクロペンタン、ベンゾトリフルオリド、ヘキサフルオロキシレン、ペンタフルオロベンゼンが挙げられる。
【0037】
特に工業的には、1,1,1,2,2−ペンタフルオロ−3,3−ジクロロプロパン、1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン、トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルエチルエーテル、ヘプタフルオロシクロペンタン、ベンゾトリフルオリドが好ましい。
【0038】
溶剤は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。溶剤を使用する場合は、溶剤中のフッ素含有有機過酸化物の濃度は0.1〜30質量%であることが好ましい。反応終了後に得られる重合体(A)は、再沈殿法、カラムクロマトグラフィー、透析等の公知の方法で精製できる。
【0039】
<層状結晶化合物(B):層状無機化合物>
本発明の紫外線吸収剤は、重合体(A)に加えて、層状結晶化合物(B)を含む。層状結晶化合物としては、層状無機化合物そのもの、又は層状無機化合物を有機化剤により有機化処理したもの(以下、「有機化層状結晶化合物」ということがある。)を用いることができる。本明細書においては、当該有機化処理を施していない層状無機化合物そのもの、及び層状無機化合物を有機化処理した有機化層状結晶化合物を総称して、層状結晶化合物(B)という。
【0040】
ここで層状無機化合物とは、その化合物が平面的に配列されたシート構造を有する状態(層状)にあり、その垂直方向にシート構造の繰り返しが見られる、多結晶層構造を有する化合物である。この結晶化合物は、結晶層が相互にイオン結合または水素結合力により結合されているものと、各結晶層間に陽イオンが介在していて、負電荷に荷電した結晶層が相互に前記陽イオンを介して微弱な静電力により結合されているものとに大別することができる。
【0041】
層状無機化合物としては、グラファイト、TiS2、NbSe2、MoS2等の遷移金属ジカルコゲン化物;CrPS4等の二価金属リンカルコゲン化物;MoO3、V25等の遷移金属の酸化物;FeOCl、VOCl、CrOCl等のオキシハロゲン化物;Zn(OH)2、Cu(OH)2等の水酸酸化物;Zr(HPO42・nH2O、Ti(HPO43・nH2O、Na(UO2PO43・nH2O等のリン酸塩;Na2Ti37、KTiNbO5、RbXMnXTi2-X4等のチタン酸塩(Xは正の整数);Na227、K227等のウラン酸塩;KV38、K3514、CaV616・nH2O、Na(UO239)・nH2O等のバナジン酸塩;KNb33、K4Nb617等のニオブ酸塩;Na2413、Ag41013等のタングステン酸塩;Mg2Mo27、Cs2Mo516、Cs2Mo722、Ag4Mo1033等のモリブデン酸塩;モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ヘクトライト、ノントロナイト、スティブンサイト等のスメクタイト系粘度鉱物、トリオクタヘドラルバーミキュライト、ハロイサイト、ジオクタヘドラルバーミキュライト、マスコバイト、フィロゴバイト、バイオタイト、レピドライト、バラゴナイト、テトラシリシックマイト、カオリナイト、ハロイサイト、ディッカイト、H2SiO5、H2Si1429・5H2O等のケイ酸塩またはこのケイ酸塩により構成される鉱物類等を挙げることができる。
【0042】
これら層状無機化合物の中でも、樹脂あるいは溶剤への分散性、得られる樹脂組成物の耐熱性等から、ケイ酸塩、リン酸塩およびモリブデン酸塩が好ましく、さらにはケイ酸塩が特に好ましい。
【0043】
層状無機化合物の大きさは、長径として、通常1nm〜100μm、好ましくは1nm〜10μm、さらに好ましくは1nm〜1μmである。前記層状無機化合物の大きさが上記範囲にあることにより、樹脂あるいは溶剤への分散性に優れた紫外線吸収剤を得ることができる。
【0044】
<層状結晶化合物(B):有機化処理と有機化層状結晶化合物>
本発明に用いる層状結晶化合物(B)としては、前述の通り層状無機化合物をそのまま用いることもできるが、層状無機化合物を有機化剤により有機化処理した有機化層状結晶化合物を、より好ましく用いることができる。有機化処理を行うことにより、もとの層状構造を有する無機化合物そのものとは異なり、結晶化合物の層間の引力を低減して、層間距離を拡大させて各層が分離して微細な板状の粒子を形成することができる。
【0045】
前記有機化剤としては、陽イオン性界面活性剤を挙げることができる。陽イオン性界面活性剤の具体例として、R1234+-で表される第四級アンモニウム塩を挙げることができる。
【0046】
前記R1234+-において、有機オニウムイオンR1234+中のR1、R2、R3およびR4は、炭素数1〜30の飽和または不飽和炭化水素基又は水素原子(但し、R1〜R4の少なくとも一つは水素原子でない)を表し、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。この炭素数1〜30の飽和炭化水素基または不飽和炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等の飽和脂肪族炭化水素基;ラウリル基、オレイル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基を挙げることができる。
【0047】
前記R1234+-における有機オニウムイオンR1234+-としては、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2-エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ステアリルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、又はラウリン酸アンモニウムイオン等を用いることができる。
【0048】
前記R1234+-におけるX-としては、Cl-、Br-、NO3-、OH-、CH3COO-等の陰イオンを挙げることができる。
【0049】
層状無機化合物の有機化処理は、例えば、層状無機化合物を水または有機溶剤に分散させて層状無機化合物の分散液を調製し、この分散液に前記陽イオン性界面活性剤を添加し、常温または加熱下で撹拌することによって行うことができる。このときの層状無機化合物の分散液における層状無機化合物の濃度は、0.01〜70質量%に調整することが好ましい。
【0050】
このような有機化処理は、後に「本発明の製造方法(1)および(2)」として詳述する、重合体(A)と層状結晶化合物(B)との接触の後に行うことも可能であるが、重合体(A)と層状結晶化合物(B)との接触に先立ち有機化処理を行い、層状結晶化合物(B)を有機化層状結晶化合物とし、その後重合体(A)との接触を行い、紫外線吸収剤を調製することが好ましい。
【0051】
<紫外線吸収剤:重合体(A)と層状結晶化合物(B)との配合割合>
本発明の紫外線吸収剤において、重合体(A)と層状結晶化合物(B)との含有割合は、所望の紫外線吸収能、分散能に応じて適宜調整することができる。
【0052】
<紫外線吸収剤:その他の成分>
本発明の紫外線吸収剤は、上記重合体(A)及び層状結晶化合物(B)を必須成分として含むが、それ以外に、分散性を高めるために分散剤等の任意成分を含んでも良い。分散剤としては、特に限定されないが、脂肪酸、界面活性剤およびカップリング剤等が挙げられる。
脂肪酸としては、ステアリン酸などの炭素数4〜30の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸などの炭素数4〜30の不飽和脂肪酸が挙げられる。
界面活性剤としては、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤;N−ラウリルエタノールアミン、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル、ソルビタンステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステル等のノニオン界面活性剤;アルキルアミノカルボン酸、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル、イミダゾリンスルホン酸等の両性界面活性剤;フッ素系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;(メタ)アクリル酸系界面活性剤;等が挙げられる。
【0053】
カップリング剤としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシラン系カップリング剤;トリイソステアロイルイソプロピルチタネート、ジ(ジオクチルホスフェート)ジイソプロピルチタネート等のチタネート系カップリング剤;モノイソプロポキシアルミニウムモノメタクリレートモノオレイルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート等のアルミナート系カップリング剤;等が挙げられる。
【0054】
<紫外線吸収剤の製造方法>
上述の重合体(A)と層状結晶化合物(B)とを材料として用いて、本発明の紫外線吸収剤を調製する方法は、特に限定されないが、下記の2通りの製造方法によって製造することができる(以下、これらをそれぞれ「本発明の製造方法(1)および(2)」という。):
(1)水または有機溶剤に層状結晶化合物(B)を分散させ、分散液を調製する工程;及び当該分散液中に、重合体(A)を加え撹拌する工程を含む方法。
(2)水または有機溶剤に層状結晶化合物(B)を分散させ、分散液を調製する工程;及び当該分散液中で、重合体(A)を生成する反応を行う工程。
【0055】
<本発明の製造方法(1)>
本発明の製造方法(1)では、第1の工程として、必要に応じて有機化処理を施した層状結晶化合物(B)を水または有機溶剤に分散させ、分散液を調製する。分散液中の層状結晶化合物(B)の濃度は層状結晶化合物(B)が分散可能な濃度の範囲であれば特に限定はないが、1〜15質量%であることが好ましい。この場合、あらかじめ凍結乾燥した層状結晶化合物を用いることは、層状結晶化合物を容易に製造するために有効である。
【0056】
層状結晶化合物(B)を分散させるために用いる溶剤は、不活性で、常温において液体であれば良く、特に限定されるものではないが、層状結晶化合物(B)の分散性の点から極性が高い溶剤を用いることが好ましい。例えば、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール等のプロトン性系溶剤;、スルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性溶剤;を挙げることができる。
【0057】
本発明の製造方法(1)では、第2の工程として、前記分散液中に、重合体(A)を添加して混合する。ここで、重合体(A)は、前記分散液に直接添加してもいいし、予め溶剤に重合体(A)を溶解させて溶液とし、当該溶液を前記分散液に添加してもよい。ここで、重合体(A)を予め溶解させるのに用いる溶剤としては、不活性で、常温において液体であれば良く、特に限定されるものではなく、前記層状結晶化合物(B)を分散するのに用いた溶剤との親和性に優れている溶剤が好ましい。
【0058】
本発明の製造方法(1)の前記第2の工程において、重合体(A)の配合割合は、層状結晶化合物(B)100質量部に対して、通常10〜2,000質量部、好ましくは50〜1,000質量部、より好ましくは100〜500質量部である。重合体(A)の配合割合が前記範囲より少ない場合、層状無機化合物表面の極性が低下しないために樹脂との親和性が不十分となり、層状結晶化合物(B)を均一に分散することが困難となるため好ましくない。逆に、重合体(A)の配合割合が前記範囲より多い場合、処理された層状結晶化合物(B)中のフッ素含有量が高くなることにより、樹脂との親和性が低下し、紫外線吸収剤を均一に分散することが困難となるため好ましくない。前記第2の工程は、室温で十分進行するが、加温しながら行ってもよい。加温する場合の最高温度は用いる重合体(A)の分解点以下とするのが好ましく、その範囲内であれば任意に設定が可能である。
【0059】
前記第2の工程により混合物中に生成した固体を、必要に応じて混合物からの分離、洗浄、乾燥、粉砕等の操作を行うことにより、本発明の紫外線吸収剤を得ることができる。混合物中に固体が生成しない場合は、得られた混合物を濃縮し、乾燥して固体を得、これを必要に応じて粉砕することにより、本発明の紫外線吸収剤を得ることができる。
【0060】
<本発明の製造方法(2)>
本発明の製造方法(2)では、第1の工程として、必要に応じて有機化処理を施した層状結晶化合物(B)を水または有機溶剤に分散させ、分散液を調製する。この工程において層状結晶化合物(B)を分散する溶剤としては、前記本発明の製造方法(1)の第1の工程に用いるものとして例示した溶剤と同様のものを用いることできるが、重合体(A)の重合性の観点から、前述したハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤や、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。その他の条件は、前記本発明の製造方法(1)の第1の工程と同様である。
【0061】
本発明の製造方法(2)では、第2の工程として、前記分散液中で重合体(A)を生成する反応を行う。当該反応は、具体的には、前記分散液を溶剤とする他は、上に述べた重合体(A)の調製方法と同様の重合反応を行うことにより達成することができる。この工程において、重合体(A)の原料の配合割合は、生成する重合体(A)の量が、前記本発明の製造方法(1)における好ましい配合割合と同様の量となるよう、適宜調節することができる。
【0062】
<紫外線吸収剤の製造方法:その他の工程等>
上記製造方法(1)及び(2)においては、必要に応じて、上に述べた層状結晶化合物の任意成分である分散剤等を、工程のいずれかの段階において添加することができる。
【0063】
また、上記本発明の製造方法(1)及び(2)において、層状結晶化合物(B)として層状無機化合物を用いた場合は、上記工程の終了後に、必要に応じて有機化処理を行うこともできる。具体的には例えば、上記製造方法(1)及び(2)の工程が終了した重合体(A)と層状結晶化合物(B)の複合体に対して、上記と同様の有機化処理を行う。
【0064】
<紫外線吸収剤の性質、用途等>
本発明の紫外線吸収剤の生成は、X線回折で(001)底面反射の位置を測定することにより容易に確認することができる。例えば、層状無機化合物として合成スメクタイト型粘土を用いた場合は、脱水状態で10Å、通常の温度、湿度下では12〜18Åの底面間隔を有するが、本発明の紫外線吸収剤は、18Å以上の底面間隔を示すことから、層状無機化合物が効果的に処理されていることが分かる。このように底面同士の間隔が離れることは、層状無機化合物の層間に重合体(A)等が入った積層構造が形成されることによるものと考えられる。
【0065】
本発明の紫外線吸収剤の各構成要素である重合体(A)及び層状結晶化合物(B)のいずれも、それら単独では、波長350nm以下の紫外線領域において、通常特に大きな吸収を有しない。にもかかわらず、上記の通り層状結晶化合物(B)に重合体(A)を接触させ本発明の紫外線吸収剤とすると、紫外線領域、特に280nm以下の、プラスチック製品等の劣化に関与する部分の波長を効果的に吸収しうるようになる。いかなる理論にも拘束されないが、これは層状結晶化合物(B)の層間に重合体(A)が入ることにより、層間距離が変化し、吸収が変化するためである可能性がある。
【0066】
本発明の紫外線吸収剤は、良好な紫外線吸収能を有し、種々の用途に用いることができる。具体的にはファンデーション、日焼け止めなどの化粧品、ペンキなどの塗料、プラスチック製品に配合することができる。特に、後述する通り樹脂と配合し樹脂組成物又は成形体とする態様が好ましく挙げられる。
【0067】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、前記本発明の紫外線吸収剤および樹脂(C)を含む。
【0068】
<樹脂(C)>
本発明の樹脂組成物に含まれる樹脂(C)としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂のいずれであってもよい。
【0069】
熱可塑性樹脂としては、脂環式構造含有重合体、鎖状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルポリスルホン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、酢酸セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアクリレート系樹脂等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ケイ素系樹脂等を挙げることができ、紫外線硬化性樹脂としては、ポリシロキサン樹脂等を挙げることができる。
【0070】
これら樹脂の中でも、光学材料として用いる場合に有利な種々の特性を有する、吸水性が低い、紫外線吸収剤と組み合わせて良好な機械的、熱的、物理的性質を得ることができる等の理由から、熱可塑性樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂の中でも脂環式構造含有重合体が特に好ましい。
【0071】
<樹脂(C):脂環式構造含有重合体>
脂環式構造含有重合体は、その重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を含有する重合体である。この脂環式構造としては、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造を挙げることができるが、脂環式構造含有重合体を含む樹脂組成物またはこの組成物から得られる成形体の熱安定性の観点からすると、シクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を形成する炭素数は、通常は4〜30、好ましくは、5〜20、より好ましくは、5〜15である。炭素数がこの範囲にあることにより、優れた耐熱性と柔軟性を有する樹脂組成物となる。この脂環式構造は、重合体の主鎖、側鎖のいずれに存在していてもよい。
【0072】
前記脂環式構造含有重合体における脂環式構造を含有する繰り返し単位の含有割合に制限はなく、得られる樹脂組成物の性状、物性等に応じて適宜、選択されるが、通常は50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。この繰り返し単位の含有割合が少量に過ぎると、得られる樹脂組成物の耐熱性が低下することがあるので望ましくない。脂環式構造含有重合体は、脂環式構造を含有する繰り返し単位以外の繰り返し単位を含有していてもよい。
【0073】
本発明の樹脂組成物に含まれる脂環式構造含有重合体としては、ノルボルネン系重合体(c1)、単環の環状オレフィン系重合体(c2)、環状共役ジエン系重合体(c3)、ビニル脂環式炭化水素重合体(c4)およびこれらの混合物等を挙げることができる。これら重合体の中でも、得られる樹脂組成物の耐熱性、機械的強度の観点からすると、ノルボルネン系重合体(c1)、およびビニル脂環式炭化水素重合体(c4)が好ましい。
【0074】
前記ノルボルネン系重合体(c1)としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体及びその水素化物、ノルボルネン系単量体とこのノルボルネン系単量体に対して開環共重合可能な他の単量体との開環共重合体およびこれら開環共重合体の水素化物、ならびにノルボルネン系単量体の付加重合体、およびノルボルネン系単量体とこのノルボルネン系単量体に対して共重合可能な他の単量体との付加共重合体等を挙げることができる。これら重合体および共重合体の中でも、得られる脂環式構造含有重合体組成物の耐熱性、機械的強度の観点からすると、ノルボルネン系単量体の開環(共)重合体の水素化物が特に好ましい。
【0075】
前記ノルボルネン系単量体としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体(環に置換基を有するもの、以下、同じ。)、トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)およびその誘導体、テトラシクロ〔9.2.1.02,10.03,8〕テトラデカ−3,5,7,12−テトラエン(慣用名:メタテトラヒドロフルオレン)およびその誘導体、テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体等を挙げることができる。
【0076】
前記置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基等を挙げることができ、前記ノルボルネン系単量体は、これら置換基を一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0077】
これら置換基を有するノルボルネン系単量体としては、9−メチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−エチリデン−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン、9−メチル−9−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔6.2.1.13,6.02,7〕ドデカ−4−エン等を挙げることができる。
【0078】
前記ノルボルネン系重合体(c1)を製造するために用いられるこれらノルボルネン系単量体は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0079】
前記ノルボルネン系単量体の開環重合体またはノルボルネン系単量体とこのノルボルネン系単量体に対して開環共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、前記単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合することによって製造することができる。
【0080】
前記ノルボルネン系単量体に対して開環共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン系単量体を挙げることができる。
【0081】
前記ノルボルネン系単量体の開環(共)重合体の水素化物は、通常、ノルボルネン系単量体の開環重合後の反応液に、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素化することによって製造することができる。
【0082】
前記ノルボルネン系単量体の付加重合体、またはノルボルネン系単量体とこのノルボルネン系単量体に対して共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、前記単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することによって製造することができる。
【0083】
ノルボルネン系単量体に対して付加共重合可能な他の単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン等の炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン等のシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエン等を挙げることができる。これら単量体の中でも、α−オレフィン、特にエチレンが好ましい。
【0084】
前記ノルボルネン系単量体に対して共重合可能な他の単量体は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0085】
ノルボルネン系単量体とこのノルボルネン系単量体に対して共重合可能な他の単量体とを付加共重合するに当っては、得られる付加共重合体中のノルボルネン系単量体に由来する構造単位と、付加共重合可能な他の単量体に由来する構造単位との割合が、質量比で、50:50〜99:1、好ましくは70:30〜97:3の範囲となるよう、各単量体の使用量が選択される。
【0086】
前記単環の環状オレフィン系重合体(c2)としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を挙げることができる。
【0087】
前記環状共役ジエン系重合体(c3)としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系単量体の1,2−または1,4−付加重合体およびその水素化物を挙げることができる。
【0088】
また、前記ビニル脂環式炭化水素重合体(c4)としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン等のビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体およびその水素化物、スチレン、α−メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素系単量体を重合してなる重合体に含まれる芳香族部分を水素化してなる水素化物、ビニル脂環式炭化水素系単量体またはビニル芳香族炭化水素系単量体とこれらビニル芳香族炭化水素系単量体に対して共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体等の共重合体の水素化物等を挙げることができる。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロックまたはそれ以上のマルチブロック、傾斜ブロック共重合体等を挙げることもできる。
【0089】
前記脂環式構造含有重合体は、紫外線吸収剤との親和性が高い等の理由から、極性基を有していてもよい。
【0090】
前記極性基としては、ヘテロ原子またはヘテロ原子を有する原子団を挙げることができ、ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、ハロゲン原子を挙げることができる。これらヘテロ原子の中でも、層状結晶化合物との分散性および相溶性の観点からすると、酸素原子および窒素原子が好ましい。具体的には、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシ基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基を挙げることができる。
【0091】
極性基を有する脂環式構造含有重合体を得る方法としては特に制限はないが、脂環式構造含有重合体がノルボルネン系重合体である場合、例えば、(I)各種のノルボルネン系単量体の中から選択されたところの、極性基を有しないノルボルネン系単量体を重合して得られる未変性重合体に、極性基を有する化合物を反応(変性反応)させる方法、(II)各種のノルボルネン系単量体の中から選択されたところの、極性基を有しないノルボルネン系単量体と極性基を有するノルボルネン系単量体とを共重合させる方法、(III)各種のノルボルネン系単量体の中から選択されたところの、極性基を有しないノルボルネン系単量体を重合して得られる重合体と、前記(I)の方法または(II)の方法により得られた極性基を有するノルボルネン系重合体とを混合する方法等を挙げることができる。ノルボルネン系重合体以外の脂環式構造含有重合体についても、ノルボルネン系重合体の場合と同様である。
【0092】
極性基を有する脂環式構造含有重合体としては、脂環式構造含有重合体を塩素化したもの、脂環式構造含有重合体をクロロスルホン化したもの、脂環式構造含有重合体を極性基含有不飽和化合物でグラフト変性したもの等も挙げることができ、中でも、脂環式構造含有重合体を極性基含有不飽和化合物でグラフト変性したものが好ましい。
【0093】
前記極性基含有不飽和化合物としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、p−スチリルカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテルのグリシジルエーテル等の不飽和エポキシ化合物;アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸化合物;無水マレイン酸、クロロ無水マレイン酸、ブテニル無水コハク酸等の不飽和カルボン酸化合物;マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレート等の不飽和エステル化合物;アリルアルコール、2−アリル−6−メトキシフェノール、4−アリロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン等の不飽和アルコール酸化合物;クロロジメチルビニルシラン、トリメチルシリルアセチレン、5−トリメチルシリル−1,3−シクロペンタジエン、3−トリメチルシリルアリルアルコール、トリメチルシリルメタクリレート等の不飽和シラン化合物等を挙げることができる。
【0094】
これら極性基含有不飽和化合物の中でも、紫外線吸収剤の分散性の観点からすると、不飽和エポキシ化合物および不飽和カルボン酸化合物が特に好ましい。なお、これら紫外線吸収剤を効率よく変性させるためには、汎用のラジカル開始剤の存在下に変性反応を実施することが好ましく、この好適なラジカル開始剤としては、有機ペルオキシド、有機ペルエステル等を挙げることができる。
【0095】
極性基を有する脂環式構造含有重合体を用いる場合の極性基含有量は、少なくとも0.01mmol/gであることが好ましく、より具体的には、0.01〜0.8mmol/g、さらに好ましくは、0.01〜0.5mmol/gである。極性基含有量が前記範囲内にあることにより、紫外線吸収剤の分散性の向上と耐水性等のような諸物性の向上とを両立させることができる。
【0096】
前記極性基含有量は、前記(I)の方法においては、極性基を有する化合物の反応による極性基の導入率により、前記(II)の方法においては、極性基を有する単量体の共重合割合により、前記(III)の方法においては、極性基を有しない重合体と極性基を含有する重合体との混合割合により、調節することができる。
【0097】
熱可塑性樹脂の分子量に特に制限はないが、ポリスチレン換算の質量平均分子量が、通常は、5,000〜500,000、好ましくは、8,000〜200,000、より好ましくは、10,000〜100,000である。質量平均分子量がこの範囲にあることにより、得られる樹脂組成物の成形加工性が良好となり、機械的強度を向上させることもできる。この質量平均分子量は、シクロヘキサン溶液またはトルエン溶液のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ法により測定することができる。
【0098】
さらに、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)にも特に制限はないが、通常は、80℃以上、好ましくは、130〜250℃である。ガラス転移温度がこの範囲にあることにより、得られる樹脂組成物において、高温下の使用に耐え、熱変形、応力集中等を生じることがなく、優れた耐久性を与えることができる。
【0099】
<紫外線吸収剤と樹脂(C)との配合割合>
本発明の樹脂組成物において、紫外線吸収剤と樹脂(C)との配合割合は、目的に応じて適宜調整できるが、得られた組成物中の紫外線吸収剤の含有量が通常0.1〜70質量%、好ましくは1〜60質量%、より好ましくは5〜50質量%となるようにする。なお、組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、樹脂組成物の加熱残分(灰分量)を測定することにより求めることができる。
【0100】
<樹脂組成物中のその他の成分>
本発明の樹脂組成物には、所望により各種添加剤を添加してもよい。用いる添加剤としては、例えば、フェノール系やリン系などの酸化防止剤、帯電防止剤、本発明の紫外線吸収剤以外の紫外線吸収剤、ゴム質重合体、石油樹脂、他の熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、成形性、物性などを改良する目的で、例えば、ガラスファイバー、カーボンファイバーなどの繊維状充填剤;シリカ、アルミナ、炭酸カルシウムなどの微粒子状充填剤;テトラキス[2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート]メタン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどの酸化防止剤;などが例示できるほか、光安定剤、滑剤、難燃剤、顔料、染料、アンチブロッキング剤などを添加してもよい。一般に、重合体からの溶出を避けるため、これらの添加剤は、分子量の大きいものほど好ましい。添加剤の添加量は特に限定されず、目的に応じた範囲で添加することができる。
【0101】
<樹脂組成物の調製方法>
本発明の樹脂組成物の調製方法は、特に限定されないが、前記本発明の紫外線吸収剤と、樹脂(C)と、必要に応じて添加しうる上記その他の成分とを単に混練する方法、又は前記本発明の紫外線吸収剤と、樹脂(C)を構成する単量体と、必要に応じて添加しうる上記その他の成分との混合物を調製し、単量体を重合させ、さらに必要に応じて混練する方法等が挙げられる。
【0102】
<成形体>
本発明の成形体は、前記本発明の樹脂組成物を成形してなる。本発明の成形体の成形方法は、特に限定されないが、溶液流延法、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等が採用されうる。
【0103】
本発明の成形体は、良好な紫外線吸収能を有し、対候性に優れた樹脂が適合しうる種々の用途に用いることができる。具体的には(1)防風ガラスおよび窓ガラスなどの建材、(2)自動車ランプ、眼鏡、ゴーグル等に使用されるレンズ、(3)カメラ部品、携帯電話、時計、各種計器・機器等のハウジングおよび容器等の工業部品、(4)カメラ、VTR、複写機、OHP,プロジェクション及びプリンター等に使用される撮像系または投影系のレンズ若しくはミラーレンズ等、(5)光磁気ディスク、色素系ディスク、音楽用コンパクトディスク、画像音楽同時録再型ディスクおよびメモリディスク等の情報ディスク材料、(6)反射防止フィルム、液晶表示素子基板、拡散板、導光板および前方散乱板等の情報記録・情報表示分野、ならびに光ファイバー、光導波フィルムおよびコネクター等の情報転送部品、(7)受光素子用カバーおよびプリズム等をはじめとする種々の光学部品、などを挙げることができる。
【実施例】
【0104】
以下において実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。下記の実施例において、「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準である。また、重合体(A)の分子量、紫外線吸収剤の吸収スペクトル、紫外線吸収剤を含むフィルムの耐候性、及びフィルムのヘイズは、それぞれ下記(1)〜(4)の通り測定した。
【0105】
(1) 重合体(A)の分子量測定
テトラヒドロフランを溶剤として用い、ポリスチレンを標準として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。
【0106】
(2) 紫外吸収スペクトルの測定
1,2−ジクロロエタン溶液を用いて溶液濃度を1g/dm3に調製した溶液を分光光度計(V−560、日本分光社製)を用いて測定した。
【0107】
(3) 促進耐候性試験
作製したフィルムのヘイズをヘイズメーター(NDH2000、日本電色工業製)を用いて測定し、その後そのフィルムを80℃、4日間オーブン中に放置した。その後、デューパネルウェザーメーター(紫外線(波長λ270〜700nm)、照度強度:30W/cm2)で1000時間光を照射し、促進試験後のフィルムのヘイズを測定し、これと促進試験前のヘイズとを比較することにより耐候性について評価した。
【0108】
(製造例1) 末端フルオロアルキル基含有重合体(重合体(A))の作製
コンデンサー、温度計、攪拌機、滴下ロートを備えた四口フラスコに、フッ素系溶媒(商品名:AK−225、旭硝子製、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン:1,3−ジクロロ−1,2,2,3,3,−ペンタフルオロプロパン=1:1.35の混合物)50部及びN−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミド 1.69部(10mmol)を仕込み、反応容器を45℃に調温し、次いで過酸化ジペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイル/AK−225 10重量%溶液 6.58部(開始剤量:1mmol)を5分間かけて滴下した。滴下終了後、45℃、5時間、窒素気流中で反応させ、その後得られた生成物を5mlに濃縮し、ヘキサンで再沈澱を行い、乾燥することにより末端フルオロオキサアルキル基含有重合体(重合体(A))1.72部を得た。テトラヒドロフランを展開溶剤として、得られた重合体の分子量をGPCを用いて測定したところ、数平均分子量は9,500であった。
【0109】
(製造例2) 有機化処理サポナイトの作製
層状無機化合物である合成サポナイト(商品名:スメクトンSA、クニミネ工業社製、平均長径0.05μm)100部を60℃の蒸留水1000部に均一に分散させ、サポナイト分散液を調製した。次いで、前記サポナイト分散液を撹拌しながら、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド100部を蒸留水7000部に溶解させた溶液を緩やかに添加し、60℃で3時間、撹拌を続けた後、ろ過して固形物を分取した。この固形物を60℃の蒸留水で2回洗浄した。凍結乾燥法により水分を除去して、本発明における層状結晶化合物(B)である、有機化層状結晶化合物を得た。
【0110】
(実施例1)
製造例2で得られた有機化層状結晶化合物1部を1,2−ジクロロエタン120部に加え、室温で攪拌し、有機化層状結晶化合物を完全に分散した。該溶液に、製造例1で得られた末端フルオロオキサアルキル基含有重合体1部を1,2−ジクロロエタン120部に溶かした溶液を加え、室温で10時間攪拌し、本発明の紫外線吸収剤を含む溶液を調製した。得られた溶液の紫外吸収スペクトルの測定を実施した。結果を図1において、曲線b)として示す。また対照として、前記重合体(A)を加えなかった他は同様に操作した1,2−ジクロロエタン溶液についても、同様に吸収スペクトルを測定した。結果を図1において、曲線a)として示す。有機化層状結晶化合物のみからなる溶液は280nm以下の紫外領域の光をそれほど吸収しないのに対して、末端フルオロオキサアルキル基含有重合体及び有機化層状結晶化合物を含む本発明の紫外線吸収剤の溶液は280nm以下の紫外領域の光を効果的に吸収していることが分かる。
【0111】
(実施例2)
実施例1で得た末端フルオロオキサアルキル基含有重合体/有機化層状結晶化合物の1,2−ジクロロエタン溶液中の溶媒をロータリーエバポレータ−を用いて除くことにより、本発明の紫外線吸収剤である末端フルオロオキサアルキル基含有重合体/有機化層状結晶化合物混合物を得た。得られた末端フルオロオキサアルキル基含有重合体/有機化層状結晶化合物混合物1部及び脂環式構造重合体の一種であるノルボルネン系重合体(商品名:ZEONEX480R、日本ゼオン製)200部を混合し、二軸混練機(東芝機械製、TEM−35B、スクリュー経37mm、L/D=32、スクリュー回転数150rpm、樹脂温度240℃、フィールドレート10kg/時間)を用い、樹脂組成物をストランド状に押出し、水冷してペレタイザーで切断しペレット化することにより、樹脂組成物を得た。次いで、この得られた樹脂組成物を10μmのポリマーフィルター、65mmΦのスクリューを備えた樹脂溶融混練機を有するTダイ式フィルム溶融押出機を使用し、溶融樹脂温度240℃、Tダイの幅350mmの成形条件で、押出成形することにより、厚さ200μmの、本発明の樹脂組成物のフィルムを得た。得られたフィルムのヘイズは0.4%であった。次いで、該フィルムを用いて促進耐候性試験を実施したところ、促進試験後のフィルムのヘイズは0.5%であり、促進試験前後でフィルムの光学特性は全く変化しなかった。
【0112】
(実施例3)
コンデンサー、温度計、攪拌機、滴下ロートを備えた四口フラスコに、フッ素系溶剤(商品名:AK−225、旭硝子製、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン:1,3−ジクロロ−1,2,2,3,3,−ペンタフルオロプロパン=1:1.35の混合物)50部、アクリロイルモルホリン 1.41部(10mmol)および製造例2で得た有機化層状結晶化合物0.7部を仕込み、反応容器を45℃に調温し、次いで過酸化ジペルフルオロヘプタノイルのAK−225 10質量%溶液 7.26部(開始剤量:1mmol)を5分間かけて滴下した。滴下終了後、45℃で5時間、窒素気流中で反応させ、その後得られた生成物を5mlに濃縮し、ヘキサンで再沈澱を行い、乾燥することにより、本発明の紫外線吸収剤である、末端フロロアルキル基含有重合体/有機化層状結晶化合物1.89部を得た。得られた紫外線吸収剤をテトラヒドロフランに分散し、遠心分離機を用いて上澄み液を回収した。その後、得られた上澄み液中に含まれる含フッ素重合体の数平均分子量を測定したところ、8,600であった。次いで、得られた末端フルオロアルキル基含有重合体/有機化層状結晶化合物の紫外吸収スペクトルを測定した。その結果を図2に示す。該化合物も270nm付近の領域の光を効果的に吸収していることが分かる。
【0113】
(比較例1)
紫外線吸収剤として、実施例2で用いた末端フルオロアルキル基含有重合体/有機化層状結晶化合物混合物のかわりに、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(商品名:アデカスタブLA−31、旭電化工業社製)を用いた以外は実施例2と同様の操作により、比較例の樹脂組成物のフィルムを得た。得られたフィルムのヘイズは0.5%であった。次いで、該フィルムを用いて促進耐候性試験を実施したところ、促進試験後のフィルムのヘイズは5.4%であり、促進試験前後でフィルムの光学特性は大きく低下した。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、実施例1における、本発明の紫外線吸収剤及び対照の吸収スペクトルを表すグラフである。
【図2】図2は、実施例2における、本発明の紫外線吸収剤の吸収スペクトルを表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和二重結合を有する単量体由来の重合単位を含む主鎖と、末端のフルオロアルキル基又はフルオロオキサアルキル基とからなる重合体(A);及び層状結晶化合物(B)を含む紫外線吸収剤。
【請求項2】
前記重合体(A)の数平均分子量が500〜50000である、請求項1に記載の紫外線吸収剤。
【請求項3】
前記重合単位が、アクリルアミド、メタクリルアミド、これらの誘導体及びこれらの組み合わせを含む群から選択される単量体由来の重合単位である請求項1又は2に記載の紫外線吸収剤。
【請求項4】
前記層状結晶化合物(B)が、層状無機化合物を有機化処理してなるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤。
【請求項5】
水または有機溶剤に前記層状結晶化合物(B)を分散させ、分散液を調製する工程;及び
当該分散液中に、前記重合体(A)を加え撹拌する工程
を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤の製造方法。
【請求項6】
水または有機溶剤に前記層状結晶化合物(B)を分散させ、分散液を調製する工程;及び
当該分散液中で、前記重合体(A)を生成する反応を行う工程
を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤および樹脂(C)を含む樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂(C)が、脂環式構造含有重合体である請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−265389(P2006−265389A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85950(P2005−85950)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】