説明

紫外線吸収部材用組成物およびこれを用いた紫外線吸収部材

【課題】耐光性を長期間持続し、可視光透過率を高度に保ったまま、長波紫外線を遮蔽することができる紫外線吸収部材用組成物の提供。
【解決手段】式(1):


で表されるニッケル錯体と、分子構造中に1個以上のアミノ基を有するシランカップリング剤と、分子構造中に1個以上のイソシアネート基を有するシランカップリング剤とを含む紫外線吸収部材用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(1)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体と、分子構造中に1個以上のアミノ基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤と、分子構造中に1個以上のイソシアネート基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤とを含む紫外線吸収部材用組成物、およびこれを用いて作製される紫外線吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光線を十分に透過すると同時に、紫外線のみを選択的に遮蔽する機能を有する部材が様々な分野で使用されている。例えば、自動車のウインドウガラスや建築物の窓ガラス等においては、日焼けや内装材の劣化を引き起こす紫外線を遮蔽するために紫外線遮蔽ガラスが広く使用されている。
【0003】
また、カーポート、ショーウインドウ、ショーケース、照明用透明シェード等に使用される透明樹脂板や、各種透明容器等の用途においても、紫外線遮蔽機能を付与したアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂等の透明な熱可塑性樹脂の成形体が用いられている。
【0004】
このように、ガラスや樹脂等に紫外線を遮蔽する機能を付与するために、紫外線吸収剤として無機系金属酸化物微粒子や有機系紫外線吸収剤を用いる方法が一般的に知られている(特許文献1〜4)。
【0005】
これら紫外線吸収剤には、高度な耐光性を有することに加えて、近年の紫外線遮蔽技術の高機能化に伴い、可視光域との境界付近の長波紫外線(λ=380〜400nm付近)を十分に遮蔽でき、且つ400〜780nmの可視光線を十分に透過する(着色の小さい)性能が求められているが、従来より知られている無機系金属酸化物微粒子や有機系紫外線吸収剤は必ずしもこの要求を満たす性能を有しておらず、改良が望まれていた。
【0006】
ここで長波紫外線とは、UV−Aと呼ばれる比較的波長の長い紫外線に分類され、地表に到達する太陽光の紫外線としては最も多く含まれるが、人体にとっては皮膚への浸透程度が深いため、長時間の曝露が色素沈着(シミ)やシワを引き起こすことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−052116号公報
【特許文献2】特開2010−111729号公報
【特許文献3】特開2010−189215号公報
【特許文献4】特開2008−274246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであり、優れた耐光性を長期間に渡って持続し、可視光透過率を高度に保ったまま、従来遮蔽困難であった長波紫外線を十分に遮蔽することができる紫外線吸収部材用組成物、およびこれを用いて作製される紫外線吸収部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示すとおりの紫外線吸収部材用組成物およびこれを用いた紫外線吸収部材に関する。
項1.式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、XおよびYはそれぞれ互いに独立して酸素原子または硫黄原子であり、
は1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基またはチオモルホリノスルホニル基であり、
は、存在しないか、あるいは存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子とRが結合した炭素原子を除いた最大3個の炭素原子に結合する水素原子のうち1ないし3個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、
は、存在しないか、あるいは存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基またはチオモルホリノスルホニル基を示す。)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体と、分子構造中に1個以上のアミノ基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤と、分子構造中に1個以上のイソシアネート基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤とを含む紫外線吸収部材用組成物。
【0012】
項2.項1に記載の紫外線吸収部材用組成物の硬化物を含む紫外線吸収部材。
【0013】
本発明は、紫外線吸収剤としての式(1)で表されるニッケル錯体と、分子構造中に1個以上のアミノ基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤と、分子構造中に1個以上のイソシアネート基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤とを含むことを特徴とする紫外線吸収部材用組成物を提供する。
【0014】
式(1)で表されるニッケル錯体と、該シランカップリング剤とを組み合わせて使用することで、式(1)で表されるニッケル錯体固有の可視光域の微弱な吸収を波長シフトまたは低減することができ、その結果、高度な可視光透過性を有する低着色の紫外線吸収部材を得ることができる。
【0015】
また、本発明は前記の紫外線吸収部材用組成物を用いて作製される紫外線吸収部材を提供する。
【0016】
前記のとおり、該紫外線吸収部材用組成物を基材上にコーティングした後、ゾル−ゲル硬化することによって、紫外線吸収部材を作製することができる。このようにして得られる紫外線吸収部材は、従来遮蔽困難であった長波紫外線を効率よく吸収し、非常に良好な耐光性を示す。また、可視光透過率が高く、着色が非常に小さいといった特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、優れた耐光性を長期間に渡って持続し、可視光透過率を高度に保ったまま、従来遮蔽困難であった長波紫外線を十分に遮蔽することができ、かつ着色を低減した紫外線吸収部材用組成物、およびこれを用いて作製される紫外線吸収部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、式(1):
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、XおよびYはそれぞれ互いに独立して酸素原子または硫黄原子であり、
は1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基またはチオモルホリノスルホニル基であり、
は、存在しないか、あるいは存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子とRが結合した炭素原子を除いた最大3個の炭素原子に結合する水素原子のうち1ないし3個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、
は、存在しないか、あるいは存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基またはチオモルホリノスルホニル基を示す。)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体と、分子構造中に1個以上のアミノ基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤と、分子構造中に1個以上のイソシアネート基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤とを含む紫外線吸収部材用組成物、およびこれを用いた紫外線吸収部材を提供するものである。
【0021】
式(1)におけるR、RおよびRについて以下に例示する。
【0022】
式中、Rに帰属される炭素数1〜3のフルオロアルキル基としては、例えばトリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられる。原料の入手性および合成の簡便さの観点からトリフルオロメチル基が好ましい。
【0023】
式中、Rに帰属されるハロゲノ基としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。原料の入手性およびニッケル錯体の耐光性の観点から、フルオロ基、クロロ基が好ましく、クロロ基がより好ましい。
【0024】
式中、Rに帰属される炭素数1〜8のアルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、1−プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、1−ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基、sec−ブチルスルホニル基、tert−ブチルスルホニル基、1−ペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、シクロペンチルスルホニル基、1−ヘキシルスルホニル基、イソヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、1−ヘプチルスルホニル基、1−オクチルスルホニル基、1−(2−エチルヘキシル)スルホニル基等のアルキルスルホニル基が挙げられる。原料の入手性の観点から、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、1−ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基、1−ヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、1−オクチルスルホニル基、1−(2−エチルヘキシル)スルホニル基が好ましく、メチルスルホニル基、1−ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基、1−ヘキシルスルホニル基、1−オクチルスルホニル基がより好ましく、メチルスルホニル基がさらに好ましい。
【0025】
式中、Rに帰属される炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基としては、例えば、N−メチルアミノスルホニル基、N−エチルアミノスルホニル基、N−イソプロピルアミノスルホニル基、N−n−プロピルアミノスルホニル基、N−n−ブチルアミノスルホニル基、N,N−ジメチルアミノスルホニル基、N,N−メチルエチルアミノスルホニル基、N,N−ジエチルアミノスルホニル基、N,N−エチルイソプロピルアミノスルホニル基、N,N−ジイソプロピルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−プロピルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−ブチルアミノスルホニル基、N,N−ジイソブチルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−ヘキシルアミノスルホニル基、N,N−ジシクロヘキシルアミノスルホニル基、N,N−ジ(2−エチルヘキシル)アミノスルホニル基等が挙げられる。原料の入手性および合成の簡便さの観点から、N,N−ジメチルアミノスルホニル基、N,N−ジエチルアミノスルホニル基、N,N−ジイソプロピルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−プロピルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−ブチルアミノスルホニル基、N,N−ジイソブチルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−ヘキシルアミノスルホニル基、N,N−ジシクロヘキシルアミノスルホニル基、N,N−ジ(2−エチルヘキシル)アミノスルホニル基が好ましく、N,N−ジメチルアミノスルホニル基、N,N−ジエチルアミノスルホニル基、N,N−ジイソブチルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−ヘキシルアミノスルホニル基、N,N−ジ(2−エチルヘキシル)アミノスルホニル基がより好ましい。
【0026】
式中、Rに帰属される炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基が挙げられる。原料の入手性の観点から、メチル基、エチル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基が好ましく、メチル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0027】
式中、Rに帰属される炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。原料の入手性の観点から、メトキシ基、エトキシ基であることが好ましい。
【0028】
式中、Rに帰属される炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基の例示としては、それぞれ、前記Rについて例示したものが挙げられる。
【0029】
式中、Rに帰属される炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基としては、それぞれ、前記Rについて例示したものが挙げられる。
【0030】
式(1)で表されるニッケル錯体は、下記式(2):
【0031】
【化3】

で表される配位子と、ハロゲン化ニッケル塩、硫酸ニッケル塩、酢酸ニッケル塩、硝酸ニッケル塩等のニッケル塩とを反応させることで合成することができる。
【0032】
式(2)において、X、Y、R、R、Rは、それぞれ式(1)中のX、Y、R、R、Rに対応している。
【0033】
式(2)で表される配位子は、例えば、特開昭56−87575において開示されている方法で合成することができる。
以下、式(2)で表される配位子の製造方法を一部説明する。
【0034】
≪配位子の製造方法≫
i)式(2)において「R=R」且つ「Rが存在しない」場合
例えば、特開昭56−87575に記載されている方法に従って合成することができる。すなわち、2−アミノ−置換ベンゾチアゾールまたは2−アミノ−置換ベンゾオキサゾールをフェノール等の酸触媒存在下において、150〜185℃に加熱し、反応させることによってビス[2−(置換ベンゾチアゾリル)]アミンまたはビス[2−(置換ベンゾオキサゾリル)]アミンを合成することができる。
【0035】
ii)式(2)においてR≠Rの場合
2−アミノ−置換ベンゾチアゾールまたは2−アミノ−置換ベンゾオキサゾールのいずれかと、2−アミノ(−置換’)ベンゾチアゾールまたは2−アミノ(−置換’)ベンゾオキサゾールのいずれかを、フェノール等の酸触媒存在下において、150〜185℃に加熱し、反応させることによって[2−(置換ベンゾチアゾリル)]{2−[(置換’)ベンゾチアゾリル]}アミン、[2−(置換ベンゾオキサゾリル)]{2−[(置換’)ベンゾオキサゾリル]}アミン、[2−(置換ベンゾオキサゾリル)]{2−[(置換’)ベンゾチアゾリル]}アミン、[2−(置換ベンゾチアゾリル)]{2−[(置換’)ベンゾオキサゾリル]}アミンを合成することができる。
【0036】
iii)式(2)においてR、Rで表される置換基のうち少なくとも1個が、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基またはチオモルホリノスルホニル基のいずれかである場合(以下の説明において(置換)アミノスルホニル基と表記する)
、Rのうち少なくとも1個の(置換)アミノスルホニル基を有する配位子を合成する場合、該当する(置換)アミノスルホニル基を含まない構造の配位子をi)やii)等の方法で得た後に、例えば、特表2007−535421に記載されている方法に従って、(置換)アミノスルホニル基を導入することができる。
【0037】
例として、式(2)において「R=R=(置換)アミノスルホニル基」且つ「Rが存在しない」場合の配位子の合成方法について説明する。
i)において2−アミノ−置換ベンゾチアゾールまたは2−アミノ−置換ベンゾオキサゾールを、2−アミノベンゾチアゾールまたは2−アミノベンゾオキサゾールに代えた以外は同様にして得られるビス[2−(ベンゾチアゾリル)]アミンまたはビス[2−(ベンゾオキサゾリル)]アミンをクロロスルホン酸に添加し、混合物を一晩攪拌する。さらに塩化チオニルを添加し50℃で1時間攪拌した後室温まで冷却する。混合物を氷の上に注ぎ、吸引ろ過し残った氷と一緒に所望のアミン(アンモニアも含む)を共存させ、攪拌することで対応するビス(2−{[(置換)アミノスルホニル]ベンゾチアゾリル})アミンまたはビス(2−{[(置換)アミノスルホニル]ベンゾオキサゾリル})アミンを合成することができる。
【0038】
≪式(1)で表されるニッケル錯体の製造方法≫
例えば、Polyhedron 2006,25,2363−2374やJ.Org.Chem.2002,67,5753−5772等に記載されている方法に従って、前記のi)〜iii)の製造方法に基づいて得られた配位子と、ハロゲン化ニッケル塩、硫酸ニッケル塩、酢酸ニッケル塩、硝酸ニッケル塩等のニッケル塩とを、メタノール、エタノール、水、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒中で反応させることによって対応するニッケル錯体を合成することができる。
【0039】
≪式(1)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体と、分子構造中に1個以上のアミノ基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤と、分子構造中に1個以上のイソシアネート基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤とを含む紫外線吸収部材用組成物の調製方法≫
本発明における紫外線吸収部材用組成物について以下に説明する。
【0040】
分子構造中に1個以上のアミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、4−(2−アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルエチレンジアミン、N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン等が挙げられる。本発明における着色低減効果、および最終的に得られる膜の機械強度の観点から、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−(2−アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、トリメトキシシリルエチレンジアミン、N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンであることが好ましく、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランであることがさらに好ましい。
【0041】
分子構造中に1個以上のイソシアネート基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。入手性の観点から、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0042】
本発明における紫外線吸収部材用組成物の調製方法としては、本発明における効果を損なわない限り特に制限されることはないが、例えば、該アミノ基を有するシランカップリング剤と該イソシアネート基を有するシランカップリング剤とを混合した後に該ニッケル錯体と混合する方法や、該ニッケル錯体と該アミノ基を有するシランカップリング剤を混合した後に該イソシアネート基を有するシランカップリング剤を添加、混合する方法等が挙げられる。
【0043】
尚、本発明における、該アミノ基を有するシランカップリング剤、および該イソシアネート基を有するシランカップリング剤とは、前で例示した化合物そのものだけでなく、これらの化合物が加水分解・重縮合することによって生成するゾル体も含む。最終的に得られる膜物性の観点からはゾル体を用いることが好ましいが、操作の簡便さ、すなわち経済性の観点からは、そのまま使用することが好ましい。
【0044】
例えば、本発明における紫外線吸収部材用組成物を調製するにあたり、該アミノ基を有するシランカップリング剤と該イソシアネート基を有するシランカップリング剤とを混合した後に該ニッケル錯体と混合する方法を用いる場合、該アミノ基を有するシランカップリング剤と該イソシアネート基を有するシランカップリング剤とを混合した後に、これを加水分解・重縮合することによってゾル体を調製し、このゾル体と該ニッケル錯体を混合してもよい。また、該ニッケル錯体と該アミノ基を有するシランカップリング剤を混合した後に該イソシアネート基を有するシランカップリング剤を混合する方法を用いる場合、該ニッケル錯体と該アミノ基を有するシランカップリング剤を混合した後にこれをゾル化し該イソシアネート基を有するシランカップリング剤を添加、混合してもよいし、該ニッケル錯体と該アミノ基を有するシランカップリング剤を混合した後にイソシアネート基を有するシランカップリング剤を混合し、これをゾル化してもよい。
【0045】
また、使用する該アミノ基を有するシランカップリング剤、該イソシアネート基を有するシランカップリング剤のそれぞれの全量をゾル化する必要はない。
【0046】
ゾル化の方法としては特に制限されるものではないが、一般的に知られている方法として以下に一例を示す。
【0047】
まず、シランカップリング剤を溶媒で希釈し、ここに水を添加する。水の使用量としては、シランカップリング剤1molに対して通常1〜10molであることが好ましい。1mol未満では加水分解反応が十分に進行しないおそれがあり、10molを超えて使用すると、続く重縮合反応の進行を妨げるおそれがある。次に、必要に応じて触媒を添加し、この溶液を0〜150℃、好ましくは50〜100℃の温度に維持することにより、加水分解・重縮合反応を進行させる。0℃未満では、加水分解・重縮合反応が進行しにくくなるおそれがある。また150℃を超えると加水分解・重縮合反応が急速に進行するため、未反応のアルコキシ基が残存したり、ゲル化や着色を招いたりするおそれがある。加水分解・重縮合反応の時間は、温度条件にもよるが、通常0.5〜50時間、より好ましくは0.5〜8時間である。0.5時間未満では、十分に加水分解・重縮合反応が進行しないおそれがあり、50時間を超えてもそれ以上反応が進まないことから経済的でない。
【0048】
加水分解・重縮合反応により副生するアルコールと水を系外に除去するために、反応終了後、あるいは反応中に、反応液を減圧留去することが好ましい。減圧留去しながら反応を進行させれば、重縮合反応の反応速度を向上させる効果も見込めるためより好ましい。
【0049】
この反応において使用可能な前記の触媒としては、酸触媒、塩基触媒のいずれでもよい。別途このような触媒を添加してもよいし、例えば本発明における該アミノ基を有するシランカップリング剤を塩基触媒として用いてもよい。
【0050】
該アミノ基を有するシランカップリング剤を塩基触媒として用いてゾル化を行う場合、ゾル化反応系中の組成比率としては、後述の該イソシアネート基を有するシランカップリング剤の好ましい使用量の項に記載の範囲内である必要はなく、ゾル体を得た後に該イソシアネート基を有するシランカップリング剤を添加し、最終的に得られる紫外線吸収部材用組成物中の組成比率が、後述の好ましい使用量の範囲内となるように調整すればよい。
【0051】
以上のような方法で所望のゾル体を得ることができる。
【0052】
該アミノ基を有するシランカップリング剤の使用量としては、該ニッケル錯体10重量部に対して5〜500重量部、好ましくは10〜350重量部、より好ましくは15〜250重量部である。5重量部未満の場合、本発明の特徴である着色低減効果が十分に発揮されないおそれがあり、500重量部より多いと得られる紫外線吸収部材用組成物中の該ニッケル錯体の濃度が低下し、最終的に得られる紫外線吸収部材に十分な紫外線吸収能を付与できないおそれがある。
【0053】
該イソシアネート基を有するシランカップリング剤の使用量としては、該アミノ基を有するシランカップリング剤の分子構造中のアミノ基1molに対して、該イソシアネート基を有するシランカップリング剤の分子構造中のイソシアネート基が0.5〜1.5mol、好ましくは0.6〜1.4mol、より好ましくは0.8〜1.3molとなるように設定することができる。0.5mol未満および1.5molを超えて使用した場合、最終的に得られる紫外線吸収部材の耐光性が低下するおそれがある。
【0054】
尚、ここでのアミノ基とは、一般的に認知されている活性プロトンを有する第一級アミン(−NH)および第二級アミン(−NH)を示す。例えば、ウレイド基を構成するNH基は、構造上、第二級アミンと見なすことができるが、ウレイド基を構成するこのNH基は第二級アミンとしての性質はほとんど有しておらず、一般的に第二級アミンとは認知されていない。このような場合は本発明におけるアミノ基には含まない。
【0055】
また、本発明における紫外線吸収部材用組成物の濃度を調整するために、溶媒を別途使用してもよい。溶媒種および使用量としては特に制限されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲内で適宜選択、設定し、使用することができる。
【0056】
また、最終的に得られる紫外線吸収部材の膜物性(機械強度等)を調整するために、別途シリコンアルコキシドや金属アルコキシドを添加してもよい。
【0057】
例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、エチル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリプロポキシシラン、ヘキシルトリブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、メチルジメトキシ(エトキシ)シラン、エチルジエトキシ(メトキシ)シラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビス(2−メトキシエトキシ)ジメチルシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のシリコンアルコキシドや、チタンアルコキシド、セリウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、スズアルコキシド、アルミニウムアルコキシド、ニッケルアルコキシド、亜鉛アルコキシド等の金属アルコキシド等が挙げられる。
【0058】
これらシリコンアルコキシドや金属アルコキシドを添加する場合、そのまま添加してもよいし、事前にシリコンアルコキシドおよび/または金属アルコキシドを加水分解・重縮合させゾル体を調製し、これを添加してもよい。最終的に得られる膜物性の向上の観点からは、事前にゾル体を調製し用いる方が好ましい。ゾル体は前記と同様の方法で調製することができる。尚、市販のゾル溶液をそのまま用いることも可能である。
【0059】
これらシリコンアルコキシド、およびシリコンアルコキシドのゾル体を使用する場合、その使用量は本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限されることはないが、通常、該アミノ基を有するシランカップリング剤と該イソシアネート基を有するシランカップリング剤の総量10molに対して、シリコンアルコキシドとして0.5〜200mol、好ましくは0.5〜170mol、さらに好ましくは1〜150molである。0.5mol未満の場合、有用な膜物性の向上効果は見込めず、200molを超えて使用した場合、本発明の効果が損なわれるおそれがある。尚、シリコンアルコキシドのゾル体を使用する場合、ゾル化前のシリコンアルコキシドの物質量(mol)として前記の好ましい使用量の範囲が適用される。
【0060】
また、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、硬化剤、硬化触媒、架橋剤、カップリング剤、レベリング剤、潤滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、フィラー、着色剤、光触媒材料、防錆剤、撥水剤、導電性材料、アンチブロッキング材、軟化剤、離型剤、蛍光増白剤、無機系光吸収剤、有機系光吸収剤等を適宜添加してもよい。
【0061】
《紫外線吸収部材用組成物を用いて作製される紫外線吸収部材》
かくして得られた紫外線吸収部材用組成物を基材上に塗布した後、焼成により硬化することによって、基材上に式(1)で表されるニッケル錯体を含有する膜を有する積層体としての紫外線吸収部材を作製することができる。
前記の紫外線吸収部材の作製方法を以下に詳述する。
【0062】
前記紫外線吸収部材用組成物を基材に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えばディップコート法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、バーコート法、スプレー法、リバースコート法等の公知の方法が挙げられる。
【0063】
基材は、所望によりフィルムでもボードでも良く、形状は限定されない。材質についても特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択し、使用することができる。例えば、ガラス等の無機系基材や、ポリ(シクロ)オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等の有機系基材が挙げられる。
【0064】
中でも、透明性の観点から、ガラス、ポリ(シクロ)オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が好ましい。
【0065】
また、層間剥離、コートムラを防ぐ目的で、コーティング前に基材表面を洗浄してもよい。洗浄方法としては特に限定されず、基材の種類に応じて適宜選択し、実施することができる。通常、超音波洗浄、UV洗浄、セリ粉洗浄、酸洗浄、アルカリ洗浄、界面活性剤洗浄、有機溶剤洗浄等を単独で、または組み合わせて実施することができる。洗浄終了後は、洗浄剤が残留しないように濯ぎ及び乾燥を行う。
【0066】
最終的に得られる紫外線吸収部材のコーティング膜の膜厚は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜調整することができるが、通常0.01〜100μm、好ましくは0.01〜50μm、より好ましくは0.01〜30μmである。0.01μm未満では、十分な紫外線吸収能が得られないおそれがあり、100μmを超えると、膜表面に凹凸が生じたり、クラックを生じる可能性がある。
【0067】
焼成温度は80〜500℃、好ましくは90〜400℃、より好ましくは100〜300℃である。80℃未満では、シランカップリング剤や別途必要に応じて併用するシリコンアルコキシドや金属アルコキシド(ゾル体を含む)の重縮合が進行しにくく十分な膜強度が得られないおそれがあり、500℃を超えると該ニッケル錯体の分解が起こり、着色増大や紫外線吸収能の低下を招くおそれがある。
【0068】
焼成時間は、通常、10分間〜5時間、好ましくは30分間〜3時間である。10分間より短いとシランカップリング剤や別途必要に応じて併用するシリコンアルコキシドや金属アルコキシド(ゾル体を含む)の重縮合が進行せず十分な膜強度が得られないおそれがあり、5時間より長いと時間に見合う効果が得られず経済的でない。
【0069】
前記紫外線吸収部材用組成物中に溶媒等の低分子揮発成分を含む場合、前記焼成工程の前に乾燥工程を設けてもよく、その乾燥温度、乾燥時間は、用いる溶媒の種類によって適宜設定することができる。
【実施例】
【0070】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0071】
製造例1
2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾール65.5g(0.300mol)とフェノール19.8g(0.210mol)とo−ジクロロベンゼン240gを混合し、170℃まで昇温した後、40時間保温した。その後、反応液を80℃まで冷却し、エタノール300gを滴下し、さらに1時間保温した。その後、室温まで冷却し、析出物を濾別した。DMF/エタノールから再結晶による精製を行い、配位子として微黄色粉末のビス[2−(6−トリフルオロメチルベンゾチアゾリル)]アミン25.8gを得た。収率は2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾールに対して41%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、95.2%であった。
【0072】
得られたビス[2−(6−トリフルオロメチルベンゾチアゾリル)]アミン21.0g(0.0500mol)にDMF150gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物6.22g(0.0250mol)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを100g添加した。その後、水50gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、赤茶色のニッケル錯体(C1)13.0gを得た。収率はビス[2−(6−トリフルオロメチルベンゾチアゾリル)]アミンに対して58%であった。
【0073】
製造例2
製造例1において2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾール65.5g(0.300mol)に代えて、2−アミノベンゾチアゾール22.5g(0.150mol)と2−アミノベンゾオキサゾール20.1g(0.150mol)を用いた以外は同様にして、配位子として白色粉末の(2−ベンゾオキサゾリル)(2−ベンゾチアゾリル)アミン22.9gを得た。収率は2−アミノベンゾチアゾールと2−アミノベンゾオキサゾールの総量に対して57%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、94.2%であった。
【0074】
得られた(2−ベンゾオキサゾリル)(2−ベンゾチアゾリル)アミン9.36g(0.0350mol)をクロロスルホン酸70.1g(0.602mol)に添加し、混合物を室温で18時間攪拌した。さらに塩化チオニル10.0g(0.084mol)を添加し50℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却した。この混合物を400gの氷の上に注ぎ、吸引ろ過し残った氷と一緒にN,N−ジイソブチルアミン13.1g(0.101mol)とともに攪拌した。室温まで昇温した後、約1mLの50重量%の水酸化ナトリウム溶液によって混合物をアルカリ性にした。固体を濾別し、水洗後、乾燥することで白色粉末の{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミン14.3gを得た。収率は(2−ベンゾオキサゾリル)(2−ベンゾチアゾリル)アミンに対して63%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、95.8%であった。
【0075】
得られた{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミン12.9g(0.0200mol)にDMF60gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物2.49g(0.0100mol)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを30g添加した。その後、水40gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、やや褐色がかった青緑色粉末のニッケル錯体(C2)12.9gを得た。収率は{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミンに対して95%であった。
【0076】
製造例3
製造例1において2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾール65.5g(0.300mol)に代えて、2−アミノベンゾチアゾール45.1g(0.300mol)を用いた以外は同様にして、配位子として白色の2,2’−イミノビスベンゾチアゾール31.5gを得た。収率は2−アミノベンゾチアゾールに対して74%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、98.1%であった。
【0077】
製造例2において(2−ベンゾオキサゾリル)(2−ベンゾチアゾリル)アミン9.36g(0.0350mol)に代えて、得られた2,2’−イミノビスベンゾチアゾール9.92g(0.0350mol)を用いた以外は同様にして、微黄色粉末の2,2’−イミノビス[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾール]17.9gを得た。収率は2,2’−イミノビスベンゾチアゾールに対して77%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、98.2%であった。
【0078】
得られた2,2’−イミノビス[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾール]13.3g(0.0200mol)にDMF60gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物2.49g(0.0100mol)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを30g添加した。その後、水40gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、ベージュ色粉末のニッケル錯体(C3)13.5gを得た。収率は2,2’−イミノビス[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾール]に対して97%であった。
【0079】
製造例4
製造例3においてN,N−ジイソブチルアミン13.1g(0.101mol)に代えてモルホリン8.80g(0.101mol)を用いた以外は同様にして、配位子として白色粉末の2,2’−イミノビス(6−モルホリノスルホニルベンゾチアゾール)14.7gを得た。収率は2,2’−イミノビスベンゾチアゾールに対して72%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、98.4%であった。
【0080】
得られた2,2’−イミノビス(6−モルホリノスルホニルベンゾチアゾール)11.6g(0.0200mol)にDMF60gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物2.49g(0.0100mol)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを30g添加した。その後、水40gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、黄土色粉末のニッケル錯体(C4)11.5gを得た。収率は2,2’−イミノビス(6−モルホリノスルホニルベンゾチアゾール)に対して94%であった。
【0081】
製造例5
製造例1において2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾール65.5g(0.300mol)に代えて、2−アミノベンゾオキサゾール20.1g(0.150mol)と2−アミノ−6−メトキシベンゾチアゾール27.0g(0.150mol)を用いた以外は同様にして、配位子として白色粉末の(2−ベンゾオキサゾリル)[2−(6−メトキシベンゾチアゾリル)]アミン18.3gを得た。収率は2−アミノベンゾオキサゾールと2−アミノ−6−メトキシベンゾチアゾールの総量に対して41%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、95.2%であった。
【0082】
得られた(2−ベンゾオキサゾリル)[2−(6−メトキシベンゾチアゾリル)]アミン10.4g(0.0350mol)をクロロスルホン酸70.1g(0.602mol)に添加し、混合物を室温で18時間攪拌した。さらに塩化チオニル10.0g(0.084mol)を添加し50℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却した。この混合物を400gの氷の上に注ぎ、吸引ろ過し残った氷と一緒にN,N−ジイソブチルアミン13.1g(0.101mol)とともに攪拌した。室温まで昇温した後、約1mLの50重量%の水酸化ナトリウム溶液によって混合物をアルカリ性にした。固体を濾別し、水洗後、乾燥することで白色粉末の{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[5−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−6−メトキシベンゾチアゾリル]}アミン15.4gを得た。収率は(2−ベンゾオキサゾリル)[2−(6−メトキシベンゾチアゾリル)]アミンに対して65%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、96.8%であった。
【0083】
得られた{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[5−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−6−メトキシベンゾチアゾリル]}アミン13.6g(0.0200mol)にDMF60gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物2.49g(0.0100mol)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを30g添加した。その後、水40gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、やや褐色がかった黄緑色粉末のニッケル錯体(C5)13.2gを得た。収率は{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[5−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−6−メトキシベンゾチアゾリル]}アミンに対して93%であった。
【0084】
製造例6
製造例1において2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾール65.5g(0.300mol)に代えて、2−アミノ−6−(メチルスルホニル)ベンゾチアゾール68.5g(0.300mol)を用いた以外は同様にして、配位子として微黄色粉末のビス{2−[6−(メチルスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミン33.0gを得た。収率は2−アミノ−6−(メチルスルホニル)ベンゾチアゾールに対して50%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、98.4%であった。
【0085】
得られたビス{2−[6−(メチルスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミン22.0g(0.0500mol)にDMF150gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物6.22g(0.0250mol)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを100g添加した。その後、水50gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、やや褐色がかった緑色粉末のニッケル錯体(C6)21.8gを得た。収率はビス{2−[6−(メチルスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミンに対して93%であった。
【0086】
得られた各ニッケル錯体の構造式を表1に示す。
【0087】
【表1−1】

【0088】
【表1−2】

【0089】
製造例7
撹拌機、温度計および冷却器を備え付けた500mL容の四つ口フラスコに、メチルトリエトキシシラン(MTES)66.9g(0.37mol)と、フェニルトリエトキシシラン(PTES)30.1g(0.13mol)と、2−エトキシエタノール50gとを混合し、室温で攪拌し、溶液を得た。この溶液に、触媒としてギ酸6.9g (0.15mol)および水27.0g(1.5mol)を添加し、室温で30分間攪拌した。次に70 ℃まで昇温した後2時間保温し、加水分解・重縮合反応を進行させた。次にロータリーエバポレーターを用いて70℃、2Torrで2時間減圧留去し、MTES+PTESゾル溶液51.3gを得た。ここに2−エトキシエタノールを17.6g添加し、均一になるまで攪拌し、MTES+PTESゾル溶液68.9g(MTES+PTESとして0.50mol)を得た。
【0090】
(紫外線吸収部材用組成物の調製)
実施例1
製造例1で得られたニッケル錯体(C1)19.8mgを20mlサンプル瓶に秤量し、ここに3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)0.45g(2.03mmol)を添加した。ここに攪拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて完全に溶解するまで攪拌した。ここにIPTES0.52g(2.10mmol)を加え均一になるまで攪拌し、薄緑色の紫外線吸収部材用組成物Aを得た。
【0091】
実施例2
製造例2で得られたニッケル錯体(C2)56.5mgを20mlサンプル瓶に秤量し、ここに3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)0.21g(1.17mmol)を添加した。ここに攪拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて完全に溶解するまで攪拌した。さらにここに3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(IPTES)0.30g(1.21mmol)を加え、均一になるまで攪拌した。ここに、製造例7で得られたMTES+PTESゾル溶液0.49g(MTES+PTESとして3.56mmol)および2−エトキシエタノール0.31gを添加し、均一になるまで攪拌し、薄緑色の紫外線吸収部材用組成物Bを得た。
【0092】
実施例3
製造例2で得られたニッケル錯体(C2)47.5mgを20mlサンプル瓶に秤量し、ここにAPTMS0.10g(0.558mmol)を添加した。攪拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて完全に溶解するまで攪拌した。さらにここにIPTES0.15g(0.606mmol)を加え、均一になるまで攪拌した。ここに、製造例7で得られたMTES+PTESゾル溶液0.96g(MTES+PTESとして6.97mmol)および2−エトキシエタノール0.52gを添加し、均一になるまで攪拌し、薄緑色の紫外線吸収部材用組成物Cを得た。
【0093】
実施例4
製造例3で得られたニッケル錯体(C3)25.3mgを20mlサンプル瓶に秤量し、ここにAPTMS0.37g(2.06mmol)を添加した。攪拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて完全に溶解するまで攪拌した。ここにIPTES0.54g(2.18mmol)を加え均一になるまで攪拌し、薄黄緑色の紫外線吸収部材用組成物Dを得た。
【0094】
実施例5
製造例3で得られたニッケル錯体(C3)59.2mgを20mlサンプル瓶に秤量し、ここにAPTMS0.38g(2.12mmol)を添加した。攪拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて完全に溶解するまで攪拌した。ここにIPTES0.54g(2.18mmol)を加え均一になるまで攪拌した。さらにここに2−エトキシエタノール0.29gを添加し均一になるまで攪拌し、薄黄緑色の紫外線吸収部材用組成物Eを得た。
【0095】
実施例6
製造例3で得られたニッケル錯体(C3)63.5mgを20mlサンプル瓶に秤量し、ここにN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.28g(1.28mmol)を添加した。攪拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて完全に溶解するまで攪拌した。ここにIPTES0.63g(2.56mmol)を加え、均一になるまで攪拌した。さらにここに2−エトキシエタノール0.37gを添加し、均一になるまで攪拌し、薄黄緑色の紫外線吸収部材用組成物Fを得た。
【0096】
実施例7
20mlサンプル瓶にAPTMS0.29g(1.62mmol)と2−エトキシエタノール0.31gを秤量し、攪拌子を入れてマグネティックスターラーを用いて均一になるまで攪拌した後、IPTES0.30g(1.21mmol)を添加し、さらに均一になるまで攪拌した。ここに水0.20g(11.1mmol)を添加し、室温で1時間攪拌した。次に60℃水浴下で2時間保温した後、イソプロパノール5.00gを加えて希釈し、ここに無水硫酸マグネシウム0.30g(2.49mmol)を加えて室温で15分間攪拌した。このスラリー液を濾過し、得られた濾液をロータリーエバポレーターを用いて40℃、15Torrで1時間減圧留去した。これにIPTES0.12g(0.485mmol)を加えて均一になるまで攪拌し、APTMS+IPTESゾル溶液0.84gを得た。
【0097】
製造例4で得られたニッケル錯体(C4)120.8mgを別途用意した20mlサンプル瓶に秤量し、ここに2−エトキシエタノール0.30gおよびAPTMS0.13g(0.725mmol)を添加した。攪拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて完全に溶解するまで攪拌した。ここにIPTES0.18g(0.728mmol)を加え、均一になるまで攪拌した。さらにここに、前で得られたAPTMS+IPTESゾル溶液0.84gと、製造例7で得られたMTES+PTESゾル溶液0.97g(MTES+PTESとして7.04mmol)を加え、均一になるまで攪拌し、薄黄緑色の紫外線吸収部材用組成物Gを得た。
【0098】
実施例8
20mlサンプル瓶にAPTMS0.39g(2.18mmol)および2−エトキシエタノール0.47gを秤量し、攪拌子を入れてマグネティックスターラーを用いて均一になるまで攪拌した。ここに水0.16g(8.89mmol)を添加し、室温で2時間攪拌した後、50℃水浴下で1時間保温した。イソプロパノール4.00gを加えて希釈し、ここに無水硫酸マグネシウム0.20g(1.66mmol)を加えて室温で30分間攪拌した。このスラリー液を濾過し、得られた濾液をロータリーエバポレーターを用いて40℃、15Torrで1時間減圧留去し、APTMSゾル溶液0.74gを得た。ここに、製造例5で得られたニッケル錯体(C5)84.5mgを添加し、完全に溶解するまで攪拌した後、IPTES0.60g(2.43mmol)を加え、均一になるまで攪拌し、薄緑色の紫外線吸収部材用組成物Hを得た。
【0099】
実施例9
製造例6で得られたニッケル錯体(C6)87.8mgを20mlサンプル瓶に秤量し、ここにAPTES0.12g(0.542mmol)を添加した。攪拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて完全に溶解するまで攪拌した。ここにIPTES0.13g(0.526mmol)を加え均一になるまで攪拌した。さらにここに製造例7で得られたMTES+PTESゾル溶液0.92g(MTES+PTESとして6.68mmol)および2−エトキシエタノール0.62gを添加し、均一になるまで攪拌し、薄緑色の紫外線吸収部材用組成物Iを得た。
【0100】
比較例1
製造例3で得られたニッケル錯体(C3)68.8mgを20mlサンプル瓶に秤量し、ここにメチルエチルケトン1.20gを添加した。攪拌子を入れ、60℃水浴下で加温し、マグネティックスターラーを用いて完全に溶解するまで攪拌した。ここに製造例7で得られたMTES+PTESゾル溶液1.50g(MTES+PTESとして10.9mmol)を加え、均一になるまで攪拌し、濃赤色の紫外線吸収部材用組成物Jを得た。
【0101】
比較例1は、本発明の特徴である、分子構造中に1個以上のアミノ基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤、および分子構造中に1個以上のイソシアネート基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤を含まない系である。実施例1〜9で得られた紫外線吸収部材用組成物A〜Iは、比較例1で得られた紫外線吸収部材用組成物Jに比べて明らかに色が薄くなっていることが確認された。
【0102】
(紫外線吸収部材の作製)
実施例10〜18および比較例2
実施例1〜9および比較例1で得られた紫外線吸収部材用組成物A〜Jを用いて紫外線吸収部材を作製した。
【0103】
[作製方法]
紫外線吸収部材用組成物を、スピンコーター(株式会社アクティブ製、型番:ACT−300A)を用いてソーダライムガラス基材上にコーティングした。その後、室温下、空気中で10分間予備乾燥させた後に、これを160℃に設定したデジタルホットプレート(コーニング社製、型番:PC−400D)に載せて1時間焼成し、その後、設定温度を200℃に変え、さらに1時間焼成することにより、ガラス基材上にコーティングした組成物を硬化させて、ガラス基板と本発明の紫外線吸収部材用組成物の硬化物の膜を有する積層体として、紫外線吸収部材を作製した。
【0104】
[紫外線吸収部材の評価]
(1)紫外線(UV−A)吸収能
紫外線吸収部材について分光光度計(株式会社日立製作所製、型番:U−4100)を用いてλ=380nmおよびλ=400nmにおける紫外線透過率を測定し、以下の判定を行った。
尚、ベースライン測定は空気層を用いて行った。結果を表2に示す。
◎:透過率10%T未満
〇:透過率10%T以上、50%T未満
×:透過率50%T以上
【0105】
(2)着色度
紫外線吸収部材について目視で着色度評価を行った。尚、評価基準は比較例2で得られた紫外線吸収部材Jの着色度を基準とした。結果を表2に示す。
◎:着色が極めて小さい
〇:着色が小さい
×:着色が比較的大きい
【0106】
(3)耐光性
紫外線吸収部材について分光光度計(株式会社日立製作所製、型番:U−4100)を用いてλ=380nmにおける吸光度を測定し、その後、この紫外線吸収部材にキセノンウェザーメーター(スガ試験機株式会社製、型番:X25)を用いて放射強度60W/m(λ=300〜400nm域における積算)の光を600時間照射した。光照射後の紫外線吸収部材について、再度λ=380nmにおける吸光度を測定し、光照射による紫外線吸収能の変化を吸収残存率として算出し、評価した。結果を表2に示す。
【0107】
吸収残存率は以下の式によって算出した。
吸収残存率(%)=(光照射後のλ=380nmにおける吸光度/光照射前のλ=380nmにおける吸光度)×100
【0108】
【表2】

【0109】
実施例10〜18で得られた紫外線吸収部材A〜Iは、比較例2で得られた紫外線吸収部材Jよりも明らかに着色が低減されていることが確認された。加えて、紫外線吸収部材A〜Iは、紫外線吸収部材Jと比べて同等レベルの耐光性を有している。
【0110】
すなわち、本発明によれば、式(1)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体と、分子構造中に1個以上のアミノ基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤と、分子構造中に1個以上のイソシアネート基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤とを組み合わせることで、該ニッケル錯体の長所である優れた耐光性や、優れた紫外線(UV−A)吸収能を維持したまま、短所であった着色のみを低減することができる。
【0111】
さらに紫外線(UV−A)吸収能については、実施例10、13、14、15、16、18で得られた紫外線吸収部材A、D、E、F、G、Iの場合には、400nmにおける透過率を大幅に低下させることが可能である。実施例10〜18で得られた紫外線吸収部材A〜I間のこれら紫外線(UV−A)吸収能の差は、用いるニッケル錯体の種類に起因するものであり、用途に応じて用いるニッケル錯体の種類を選択することができる。例えば、400nmの透過率を十分に低下させたい場合にはニッケル錯体C1、C3、C4、C6等を用いて実施例10、13、14、15、16、18に示されるような組成で作製された紫外線吸収部材を用いることが有効であり、主に380nmの透過率を低下させ且つ着色を十分に抑制したい場合にはニッケル錯体C2、C5等を用いて実施例11、12、17に示されるような組成で作製された紫外線吸収部材を用いることが有効である。
【0112】
近年、窓ガラス等のガラス代替材料として注目されているポリカーボネートは、耐薬品性が乏しいという大きな欠点をもっている。本発明における紫外線吸収部材用組成物を利用すれば、ポリカーボネート基材上に低着色且つ高紫外線吸収能を有するコーティング膜を形成することができ、さらにハードコート特性の付与にも効果的であることは想像に難くない。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明により、優れた耐光性を長期間に渡って持続し、可視光透過率を高度に保ったまま、従来遮蔽困難であった長波紫外線を十分に遮蔽することができ、かつ着色を低減した紫外線吸収部材用組成物、およびこれを用いて作製される紫外線吸収部材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、XおよびYはそれぞれ互いに独立して酸素原子または硫黄原子であり、
は1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基またはチオモルホリノスルホニル基であり、
は、存在しないか、あるいは存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子とRが結合した炭素原子を除いた最大3個の炭素原子に結合する水素原子のうち1ないし3個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、
は、存在しないか、あるいは存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基またはチオモルホリノスルホニル基を示す。)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体と、分子構造中に1個以上のアミノ基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤と、分子構造中に1個以上のイソシアネート基を有する少なくとも1種類のシランカップリング剤とを含む紫外線吸収部材用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の紫外線吸収部材用組成物の硬化物を含む紫外線吸収部材。

【公開番号】特開2013−87215(P2013−87215A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229707(P2011−229707)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】