説明

紫外線硬化型インクジェット用インク、インクジェット記録方法

【課題】インクの吐出安定性及び硬化性、並びに硬化膜の耐擦性及び伸張性に優れた、紫外線硬化型インクジェット用インク及びこれを用いたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】単官能(メタ)アクリレートのモノマーと光重合開始剤とを含有する紫外線硬化型インクジェット用インクであって、前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーは、下記一般式(I):
CH=CR−COOR−O−CH=CH−R ・・・(I)
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数2〜20の2価の有機残基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表されるモノマーAを含み、前記モノマーAの含有量は、該インクの総質量に対し、10〜75質量%であり、該インクに含まれる前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーの硬化物におけるモル数平均Tgが6〜37℃である、紫外線硬化型インクジェット用インクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型インクジェット用インク及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙などの被記録媒体に、画像データ信号に基づき画像を形成する記録方法として、種々の方式が利用されてきた。このうち、インクジェット方式は、安価な装置であり、必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像を形成するため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。さらに、インクジェット方式は騒音が小さいため、記録方法として優れている。
【0003】
近年、インクジェット方式の記録方法において、良好な耐水性、耐溶剤性、及び耐擦過性などを与えることのできるインクとして、紫外線を照射すると硬化する紫外線硬化型インクジェット用インクが使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、顔料としてカーボンブラック、光重合開始剤として2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、及び、添加剤としてスチレン/アクリル酸/アクリル酸ブチルの共重合体(酸価=30、重量平均分子量=6000)を含有する、活性エネルギー線硬化型インクジェット印刷用インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3461501号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の活性エネルギー線硬化型インクジェット印刷用インクは、その硬化性、並びにインクの硬化により得られる硬化膜の耐擦性及び伸張性(伸び)に劣る場合がある。そのため、これらの性能全てに優れた紫外線硬化型インクジェット用インクを得難く、実用上問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、インクの硬化性、並びに硬化膜の耐擦性及び伸張性に優れた、紫外線硬化型インクジェット用インク及びこれを用いたインクジェット記録方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。上記特許文献1で用いられている(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルが包含される、下記一般式(I)で表されるモノマー(以下、「モノマーA」という。)を紫外線硬化型インクジェット用インク(以下、単に「インク」ともいう。)に含有させることにより、インクは低粘度化し、かつ、照射される紫外線に対し高感度を有するため硬化性が良好になる傾向にあることを本発明者らは知見した。
CH=CR−COOR−O−CH=CH−R ・・・(I)
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数2〜20の2価の有機残基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
【0009】
しかし、単に(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル等のモノマーAをインクに含有させただけでは、得られたインクに種々の問題が生じることを本発明者らは知見した。以下、この知見を詳細に説明する。
【0010】
第1に、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル等のモノマーAを、単にインクに含有させただけでは、上述したインクの各種性能を改善することができない。
【0011】
上記の各種性能が良好となるようなインク組成を追求したところ、インク中のモノマーA、例えば(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルの含有量が重要であることを見出した。インク中の(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルの含有量が一定量を超えると、伸張性を付与する重合性化合物の添加が制限されるため、伸張性に優れたインクを得ることができない。これに加えて、光重合開始剤がインクに溶解し難くなり、その添加量が制限されてしまい、これにより光重合開始剤に起因した感度の上昇が生じないため、硬化性に劣るインクとなる。この場合に、無理に光重合開始剤を添加しすぎると、光重合開始剤が析出してしまい、結果として、画像欠陥、及びプリントヘッドからのインクの吐出不良が生じる。
【0012】
一方、インク中の(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルの含有量が一定量を下回ると、インクの硬化膜(塗膜)が柔らかくなりすぎて耐擦性に劣ってしまう。これに加えて、紫外線硬化型のインクとして最低限必要な感度を維持できないため、結果として硬化性に劣るインクとなる。
【0013】
そこで、本発明者らが更に鋭意検討したところ、インクの各種性能が比較的良好となるような、モノマー(A)の含有量が存在することを知見した。具体的には、含有量が所定範囲内である場合、硬化性が比較的良好になる。なお、この場合、吐出安定性にも優れる。
【0014】
第2に、硬化性がより良好であって、硬化膜の耐擦性及び伸張性(伸び)に優れたインクを得るために、上記のようにモノマー(A)の含有量を所定範囲にすることに加えて、更なるインク組成の改良が必要である。例えば、車両のボディー等の表面に、インクを用いて画像を形成する場合、インクの硬化膜にある程度の伸張性(伸び)が求められる。
【0015】
そこで、本発明者らが更に鋭意検討した結果、インク中の単官能(メタ)アクリレートのモノマー(モノマーAを含む。)のモル数平均ガラス転移温度(Tg)を所定範囲とすることで、所望のインクが得られることを知見した。この知見は、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルの含有量が一定量を下回ると耐擦性に劣る原因を探求したところ、その原因として、硬化膜の強度が不足していることを突き止め、かかる強度がモル数平均Tgに依存していることを見出したことに基づくものである。
【0016】
以上のことから、所定量のモノマーAを含む単官能(メタ)アクリレートのモノマーを含有し、かつ、インクに含まれる前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーのモル数平均Tgが所定範囲である、紫外線硬化型インクジェット用インクにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
単官能(メタ)アクリレートのモノマーと光重合開始剤とを含有する紫外線硬化型インクジェット用インクであって、前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーは、下記一般式(I):
CH=CR−COOR−O−CH=CH−R ・・・(I)
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数2〜20の2価の有機残基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表されるモノマーAを含み、前記モノマーAの含有量は、該インクの総質量に対し、10〜75質量%であり、該インクに含まれる前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーの硬化物におけるモル数平均Tgが6〜37℃である、紫外線硬化型インクジェット用インク。
[2]
前記モノマーAが、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルである、[1]に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
[3]
前記光重合開始剤として、該インクの総質量に対して8〜11質量%のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含む、[1]又は[2]に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
[4]
前記光重合開始剤として、該インクの総質量に対して1〜3質量%のチオキサントン系開始剤をさらに含む、[3]に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
[5]
前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーとして、該インクの総質量に対して5〜55質量%のフェノキシエチルアクリレートを含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
[6]
発光ピーク波長が365〜410nmの範囲にある紫外線を、350mJ/cm以下の照射エネルギーで照射することにより硬化可能である、[1]〜[5]のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
[7]
前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーの含有量は、該インクの総質量に対し、50質量%以上である、[1]〜[6]のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
[8]
[1]〜[7]のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用インクを被記録媒体上に吐出して画像を形成する、インクジェット記録方法。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態で使用する記録装置の一例であるラインプリンターの構成を示すブロック図である。
【図2】図1のラインプリンターの一態様における記録領域周辺の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。また、「オリゴマー」とは、モノマーの重合により得られる、2量体以上であって重量平均分子量1万以下の低重合体をいう。なお、本明細書における重量平均分子量は、質量分析法により測定して得られる値を採用する。
【0021】
本明細書において、「硬化性」とは、光に感応して硬化する性質をいう。「吐出安定性」とは、ノズルの目詰まりがなく常に安定したインク滴をノズルから吐出させる性質をいう。「耐擦性」とは、記録することで形成された画像の表面に、擦れなどの物理的な力が作用する場合に、色材が画像表面から剥がれ落ちないようにする、物理的な力に対する画像表面における耐性をいう。「伸張性」とはインクの硬化膜(塗膜)の伸びと換言でき、インク塗膜を硬化させて作製した記録物を引っ張ったときに、硬化膜がクラックを生じることなく伸びる性質をいう。
【0022】
また、本明細書において、「カラーインク」とは、無色透明のクリアインクを除くあらゆる有色のインクを指す。「本硬化」とは、被記録媒体上に形成されたドットを、印刷物を使用するのに必要な硬化状態まで硬化させることをいう。「仮硬化」とは、インクの仮留め(ピニング)を意味し、ドットのブリードや混色を防止するために、本硬化の前に硬化させることをいい、一般に、仮硬化における転化率は仮硬化の後で行う本硬化による転化率よりも低い。なお、上記の転化率とは、インクに含まれる重合性化合物が硬化物へ転化する率を意味し、光照射によるインクの硬化度と換言することができる。
【0023】
本明細書において、「記録装置」とは、被記録媒体上に画像を形成する装置を意味する。「インクジェット記録装置」とは、上記記録装置のうち、被記録媒体上にインクジェット方式により画像を形成する装置を意味し、例えば後述のプリンター(1)が該当する。また、記録制御装置は、記録装置を制御する装置を意味し、例えば、後述する、プリンタードライバーをインストールしたコンピューター(110)が該当する。
【0024】
[紫外線硬化型インクジェット用インク]
本発明の一実施形態は、紫外線硬化型インクジェット用インクに係る。当該紫外線硬化型インクジェット用インクは、上記一般式(I)で表されるモノマーAを含む単官能(メタ)アクリレートのモノマーを含有する紫外線硬化型インクジェット用インクであって、前記モノマーAの含有量は、該インクの総質量に対し、10〜75質量%であり、該インクに含まれる前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーの硬化物におけるモル数平均Tgが6〜37℃である、紫外線硬化型インクジェット用インクである。ここで、本明細書における「単官能(メタ)アクリレートのモノマーの硬化物におけるモル数平均Tg」は、各モノマーを硬化物(ホモポリマー)とした際の硬化物のTgに、インクに含有する単官能(メタ)アクリレートのモノマーの全モル数に対する各モノマーのモル数含有率(モル数換算の百分率)を乗じた値を、互いに足すことにより算出されるものである。また、各モノマーの硬化物のTgは、示差熱分析装置(DSC)によって測定される。
【0025】
以下、本実施形態の紫外線硬化型インクジェット用インクに含まれるか、又は含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
【0026】
〔重合性化合物〕
本実施形態のインクに含まれる重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により紫外線照射時に重合し、印刷されたインクを硬化させることができる。
【0027】
(1.モノマーA)
本実施形態において必須の重合性化合物であるモノマーAは、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステルに属する化合物である。モノマーAは、後述する単官能(メタ)アクリレートモノマーに含まれるものであって、下記一般式(I)で示される。
CH=CR−COOR−O−CH=CH−R ・・・(I)
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数2〜20の2価の有機残基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
【0028】
インクがモノマーAを含有することにより、インクの硬化性を良好なものとすることができる。
【0029】
上記の一般式(I)において、Rで表される炭素数2〜20の2価の有機残基としては、炭素数2〜20の直鎖状、分枝状又は環状の置換されていてもよいアルキレン基、構造中にエーテル結合及び/又はエステル結合による酸素原子を有する置換されていてもよい炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜11の置換されていてもよい2価の芳香族基が好適である。これらの中でも、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2〜6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2〜9のアルキレン基が好適に用いられる。
【0030】
上記の一般式(I)において、Rで表される炭素数1〜11の1価の有機残基としては、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状又は環状の置換されていてもよいアルキル基、炭素数6〜11の置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1〜2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6〜8の芳香族基が好適に用いられる。
【0031】
上記の各有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基等が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0032】
上記のモノマーAとしては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1−ジメチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。
【0033】
これらの中でも、低粘度で、引火点が高く、かつ、硬化性に優れるため、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、すなわち、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル及びメタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルのうち少なくともいずれかが好ましく、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルがより好ましい。(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及び(メタ)アクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられ、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル(以下「VEEA」ともいう。)及びアクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられる。
【0034】
モノマーAの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、10〜75質量%の範囲であり、40〜75質量%の範囲であることが好ましく、55〜75質量%の範囲であることがより好ましく、65〜70質量%の範囲であることがさらに好ましい。含有量が上記範囲内であると、インクの硬化性及び吐出安定性に優れ、さらに粘度、耐擦性、及び伸張性にも優れる。
【0035】
モノマーAの製造方法としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法B)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法C)、(メタ)アクリル酸無水物と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法D)、(メタ)アクリル酸エステルと水酸基含有ビニルエーテルとをエステル交換する方法(製法E)、(メタ)アクリル酸とハロゲン含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法F)、(メタ)アクリル酸アルカリ(土類)金属塩とハロゲン含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法G)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとカルボン酸ビニルとをビニル交換する方法(製法H)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとアルキルビニルエーテルとをエーテル交換する方法(製法I)が挙げられる。
【0036】
これらの中でも、本実施形態に所望の効果を一層発揮することができるため、製法Eが好ましい。
【0037】
モノマーAは、1種単独の化合物であってもよいし、2種以上の化合物を組み合わせてもよい。
【0038】
(2.単官能(メタ)アクリレートのモノマー及びオリゴマー)
本実施形態のインクは、単官能(メタ)アクリレートのモノマーを含有する。特に、本実施形態のインクは、単官能(メタ)アクリレートのモノマーの1種である上記のモノマーAを含有する。なお、本明細書において、特に記載がない限り、単官能(メタ)アクリレートのモノマーは、モノマーAを含む。
【0039】
また、本実施形態のインクは、単官能(メタ)アクリレートのモノマーに加えて、単官能(メタ)アクリレートのオリゴマー、ウレタンオリゴマー、及びエポキシオリゴマー等のうち少なくともいずれかをさらに含んでもよい。
【0040】
単官能(メタ)アクリレートのモノマー(モノマーAを除く。)及びオリゴマーとしては、以下に限定されないが、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、並びにこれらのオリゴマーが挙げられる。
【0041】
インクが単官能(メタ)アクリレートのモノマー(及びオリゴマー)を含むことで、インクが低粘度となり、光重合開始剤その他の添加剤の溶解性に優れ、かつ、インクジェット記録時の吐出安定性が得られやすい。さらにインク塗膜の強靭性、耐熱性、及び耐薬品性が増すため、単官能(メタ)アクリレートのモノマー(及びオリゴマー)と後述する2官能(メタ)アクリレートのモノマー(及びオリゴマー)とを併用することがより好ましい。
【0042】
さらに、上記単官能(メタ)アクリレートのモノマー(及びオリゴマー)は、芳香環骨格、飽和脂環骨格、及び不飽和脂環骨格からなる群より選択される1種以上の骨格を有することが好ましい。これにより、インクの粘度を低下させることができる。
【0043】
芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートのモノマー及びオリゴマーとして、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートのモノマー及びオリゴマーとして、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、不飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートのモノマー及びオリゴマーとして、例えば、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0044】
上記した中でも、モノマーAを除く単官能(メタ)アクリレートのモノマー(及びオリゴマー)は、インクに含まれる単官能(メタ)アクリレートのモル数平均Tgを所望の範囲にすることができるため、そのモル数平均Tgが37℃以下である化合物が含まれていてもよい。中でも、被記録媒体への優れた密着性及び接着性を付与し、インク塗膜の柔軟性を良好なものとし、インクの粘度を低下させることができ、かつ、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の溶解性に優れるため、フェノキシエチルアクリレート(Tg=−22℃)及び4−ヒドロキシブチルアクリレート(Tg=−80℃)のうち少なくともいずれかが好ましい。より好ましくは、上記に加えて臭気を低下させることもできるため、フェノキシエチルアクリレートである。
【0045】
単官能(メタ)アクリレートのモノマーの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは65〜70質量%である。含有量が50質量%以上であると、単官能(メタ)アクリレートのインク全体に対する寄与度が大きくなるため、これらのモル数平均Tgに起因して硬化膜の特性を良好にすることができる。
【0046】
また、単官能(メタ)アクリレートのモノマーが上記フェノキシエチルアクリレートを含む場合、このフェノキシエチルアクリレートの含有量の下限値は、インクの総質量(100質量%)に対し、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上である。含有量の下限値が上記範囲内であると、インクの硬化性に一層優れたものとなる。また、フェノキシエチルアクリレートの含有量の上限値は、インクの総質量(100質量%)に対し、55質量%以下とすることが好ましく、40質量%以下とすることがより好ましく、35質量%以下とすることがさらに好ましく、30質量%以下とすることがさらにより好ましい。含有量の上限値が上記範囲内であると、インク組成物中の他の成分を相対的に多く含有させることができる。
なお、本実施形態のインクが、単官能(メタ)アクリレートのモノマーに加えて単官能(メタ)アクリレートのオリゴマーをさらに含む場合、単官能(メタ)アクリレートのモノマー及びオリゴマーを合わせた含有量の好ましい範囲は、上記の含有量の好ましい範囲と同じである。
【0047】
インクに含まれる単官能(メタ)アクリレートのモノマーのモル数平均Tgは、6〜37℃であることが好ましく、より好ましくは10〜30℃であり、さらに好ましくは20〜30℃である。モル数平均Tgが上記範囲内であると、上記のとおり、硬化性が極めて良好であり、かつ、硬化膜の耐擦性及び伸張性(伸び)に優れたインクを得ることができる。
なお、本実施形態のインクが、単官能(メタ)アクリレートのモノマーに加えて単官能(メタ)アクリレートのオリゴマーをさらに含む場合、単官能(メタ)アクリレートのモノマー及びオリゴマーのモル数平均Tgの好ましい範囲は、上記のモル数平均Tgの好ましい範囲と同じである。
【0048】
このモル数平均Tgと、単官能(メタ)アクリレートのモノマー(及びオリゴマー)の組成と、の間の関係について詳細に説明する。上述のとおり、モノマーAのうち好ましい化合物であるアクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルのTgは39℃である一方、インクに含まれる単官能(メタ)アクリレートのモノマー(及びオリゴマー)のモル数平均Tgは好ましくは6〜37℃である。したがって、本実施形態のインクは、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルを含有するとしても、その他の単官能(メタ)アクリレートのモノマー(及びオリゴマー)をも実質的に含有する。その際、上記その他の単官能(メタ)アクリレートの含有量は、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルのそれと合算したときに、モル数平均Tgを上記好ましい範囲にできる範囲であればよい。また、上記のモル数平均Tgは、上記その他の単官能(メタ)アクリレートのTg、及びアクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルの含有量などにも拠るため、上記その他の単官能(メタ)アクリレートの含有量は特に制限されない。
【0049】
上記の単官能(メタ)アクリレートのモノマー及びオリゴマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
(3.単官能(メタ)アクリレートのモノマー及びオリゴマー以外の重合性化合物)
また、上記の単官能(メタ)アクリレートのモノマー及びオリゴマー以外に、従来公知の、単官能や、2官能以上の多官能といった種々のモノマー及びオリゴマーも使用可能である(以下、「その他の重合性化合物」という。)。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0051】
また、他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N−ビニル化合物を含んでいてもよい。N−ビニル化合物としては、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、及びアクリロイルモルホリン、並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
【0052】
その他の重合性化合物のうち、(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましい(但し、単官能のものを除く。)。
【0053】
上記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及び1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートとアミン化合物とを反応させて得られるアクリル化アミン化合物が挙げられる。なお、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートとアミン化合物とを反応させて得られるアクリル化アミン化合物の市販品としては、EBECRYL 7100(アミノ基2個及びアクリロイル基2個の含有化合物、サイテック社(Cytech, Inc.)製商品名)等が挙げられる。
【0054】
上記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0055】
上記のその他の重合性化合物の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、好ましくは10〜35質量%である。含有量が上記範囲内であると、添加剤の溶解性に優れ、かつ、インク塗膜の強靭性、耐熱性、及び耐薬品性に優れる。
【0056】
上記のその他の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
〔光重合開始剤〕
本実施形態のインクは、光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、紫外線の照射による光重合によって、被記録媒体の表面に存在するインクを硬化させて印字を形成するために用いられる。放射線の中でも紫外線(UV)を用いることにより、安全性に優れ、且つ光源ランプのコストを抑えることができる。
【0058】
インク特性、特に硬化性を良好なものとするための光重合開始剤を検討した。その結果、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を用いることにより、インクの硬化性を極めて優れたものとできることを本願発明者らは見出した。
【0059】
また、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤及びチオキサントン系光重合開始剤を組み合わせて用いることにより、インクの硬化性を優れたものとできるだけでなく、インクジェット記録後初期の硬化膜の着色を防止することもできることを本願発明者らは見出した。
【0060】
このように、上記の光重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含有することが好ましく、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤及びチオキサントン系光重合開始剤を含有することがより好ましい。
【0061】
また、光重合開始剤の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、好ましくは10〜13質量%であり、より好ましくは11〜13質量%である。特に、光重合開始剤として上記の好ましい化合物を、上記の好ましい含有量で用いた場合、インクの硬化性及び吐出安定性に極めて優れる。
【0062】
(1.アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤)
本実施形態における光重合開始剤は、上記のとおり、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(以下、単に「アシルフォスフィンオキサイド」ともいう。)を含むことが好ましい。これにより、特にインクの硬化性を優れたものとすることができる。
【0063】
このアシルフォスフィンオキサイドとして、特に限定されないが、例えば、2、4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリエチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリフェニルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドが挙げられる。
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の市販品としては、例えば、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、及びCGI 403(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド)が挙げられる。
【0064】
また、上記のアシルフォスフィンオキサイドは、モノアシルフォスフィンオキサイドを含むことが好ましい。これにより、光重合開始剤が十分に溶解して硬化が十分に進行するとともに、インクの硬化性に優れる。
【0065】
このモノアシルフォスフィンオキサイドとして、特に限定されないが、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリエチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリフェニルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドが挙げられる。これらの中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドであることが好ましい。
【0066】
モノアシルフォスフィンオキサイドの市販品としては、例えば、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)が挙げられる。
【0067】
本実施形態における光重合開始剤は、重合性化合物への溶解性及びインク塗膜の内部硬化性に優れ、且つ初期着色度が小さくなるため、モノアシルフォスフィンオキサイドであるか、又は、モノアシルフォスフィンオキサイドとビスアシルフォスフィンオキサイドとの混合物であることが好ましい。
なお、上記のビスアシルフォスフィンオキサイドとして、特に限定されないが、例えば、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドが挙げられる。これらの中でも、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドであることが好ましい。
【0068】
アシルフォスフィンオキサイドの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、8〜11質量%の範囲が好ましい。含有量が上記範囲内であると、インクの硬化性に優れ、かつ、硬化膜の初期着色度が小さい。
【0069】
(2.チオキサントン系光重合開始剤)
本実施形態における光重合開始剤は、上記のとおり、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤と共に、チオキサントン系光重合開始剤(以下、単に「チオキサントン」ともいう。)を含むことが好ましい。これにより、インクの硬化性に優れ、かつ、インクジェット記録後初期の硬化膜の着色を防止できる(硬化膜の初期着色量が小さくなる。)。
【0070】
チオキサントンの中でも、アシルフォスフィンオキサイドへの増感効果、重合性化合物に対する溶解性、及び安全性に優れるため、2,4−ジエチルチオキサントンが好ましい。
【0071】
チオキサントンの市販品としては、例えば、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製商品名)ITX(BASF社製)、Quantacure CTX(Aceto Chemical社製)が挙げられる。
【0072】
チオキサントンの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、1〜3質量%の範囲が好ましい。含有量が上記範囲内であると、インクの硬化性に優れ、かつ、硬化膜の初期着色度が小さくなる。
【0073】
〔色材〕
本実施形態のインクは、色材をさらに含んでもよい。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0074】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インクの耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0075】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック 7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0076】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0077】
更に詳しくは、ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製商品名)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製商品名)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製商品名)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4等(以上、デグッサ(Degussa)社製商品名)が挙げられる。
【0078】
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメント ホワイト 6、18、21が挙げられる。また、ホワイト顔料として使用可能な金属原子含有化合物も用いることができ、例えば、従来から白色顔料として用いられている金属酸化物、硫酸バリウムや炭酸カルシウムが挙げられる。上記の金属酸化物としては、特に制限されないが、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0079】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメント イエロー 1,2,3,4,5,6,7,10,11,12,13,14,16,17,24,34,35,37,53,55,65,73,74,75,81,83,93,94,95,97,98,99,108,109,110,113,114,117,120,124,128,129,133,138,139,147,151,153,154,167,172,180が挙げられる。
【0080】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメント レッド 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,14,15,16,17,18,19,21,22,23,30,31,32,37,38,40,41,42,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,88,112,114,122,123,144,146,149,150,166,168,170,171,175,176,177,178,179,184,185,187,202,209,219,224,245,又はC.I.ピグメント ヴァイオレット 19,23,32,33,36,38,43,50が挙げられる。
【0081】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメント ブルー 1,2,3,15,15:1,15:2,15:3,15:34,15:4,16,18,22,25,60,65,66,又はC.I.バット ブルー 4,60が挙げられる。
【0082】
また、マゼンタ、シアン及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメント グリーン 7,10,又はC.I.ピグメント ブラウン 3,5,25,26,又はC.I.ピグメント オレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
【0083】
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
上記の顔料を使用する場合、その平均粒子径は2μm以下が好ましく、30〜300nmがより好ましい。平均粒子径が上記の範囲内にあると、インクにおける吐出安定性や分散安定性などの信頼性に一層優れるとともに、優れた画質の画像を形成することができる。ここで、本明細書における平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
【0085】
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0086】
上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
色材の含有量は、良好な発色性を有し、色材自身の光吸収によるインク塗膜の硬化阻害を低減できるため、インクの総質量(100質量%)に対して、1.5〜6質量%(ホワイトの場合15〜30質量%)の範囲が好ましい。
【0088】
〔分散剤〕
本実施形態のインクが顔料を含む場合、顔料分散性をより良好なものとするため、分散剤をさらに含んでもよい。分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミン系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち一種以上を主成分とするものが挙げられる。
高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ(商品名)、ルーブリゾール社(Lubrizol社)から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse 36000等、商品名)、BYKChemie社製のディスパービックシリーズ(商品名)、楠本化成社製のディスパロンシリーズ(商品名)が挙げられる。
【0089】
〔レベリング剤〕
本実施形態のインクは、印刷基材への濡れ性が良好となるため、レベリング剤(界面活性剤)をさらに含んでもよい。レベリング剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(以上、ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製商品名)を挙げることができる。
【0090】
〔重合禁止剤〕
本実施形態のインクは、インクの保存安定性を良好なものとするため、重合禁止剤をさらに含んでもよい。重合禁止剤としては、特に限定されないが、例えば、IRGASTAB UV10及びUV22(BASF社製商品名)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ、関東化学社(KANTO CHEMICAL CO., INC)製商品名)を用いることができる。
【0091】
〔その他の添加剤〕
本実施形態のインクは、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、重合促進剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
【0092】
〔紫外線硬化型インクジェット用インクの物性〕
本実施形態のインクは、20℃での粘度が9〜15mPa・sであることが好ましく、10〜14mPa・sであることがより好ましい。粘度が上記範囲内であると、光重合開始剤その他の添加剤の溶解性に優れ、かつ、インクジェット記録時の吐出安定性が得られやすい。なお、本明細書における粘度は、DKSHジャパン社(DKSH Japan K.K.)製のレオメーターMCR300を用いて測定した値である。
【0093】
また、本実施形態のインクは、発光ピーク波長が365〜410nmの範囲にある紫外線を、350mJ/cm以下の照射エネルギーで照射することにより硬化可能であることが好ましい。本実施形態のインクは、350mJ/cm以下という低い照射エネルギーを照射することにより硬化可能であるため、種々の有利な効果を奏する。積算光量(照射エネルギー)[mJ/cm]は、光源から照射される被照射表面における照射強度[mW/cm]と照射継続時間[s]との積から算出される。積算光量が少ないということは、特に照射強度が小さい場合にはコストの低下につながり、特に照射継続時間が短い場合には印刷速度の増大、すなわち印刷時間の短縮につながる。中でも、商業用の記録装置の場合、印刷時間の短縮が求められるため、本実施形態のインクは、商業用印刷の分野で突出した有利な効果を発揮することができる。紫外線の発光ピーク波長は、より好ましくは385〜400nmであり、照射エネルギーは、より好ましくは100〜200mJ/cmである。なお、本明細書における積算光量(照射エネルギー)は、後述の実施例において用いた方法により測定する。
【0094】
上記のとおり、本実施形態のインクに占めるモノマーAの含有量は10〜75質量%である。下限値である10質量%を下回ると、紫外線硬化型のインクとして最低限必要な感度を維持できないため、結果として硬化性に劣るインクとなる。この場合に、硬化性の良好なインクを得ようとするならば、350mJ/cmを超える照射エネルギーで硬化させる必要があるため、多量の照射エネルギーが必要になり、照射装置が大きくなる結果、機械が大きくなったり、コストが高くなったり、ランニングコストも多く必要になったりする。
【0095】
このように、本実施形態のインクは、従来のインクとは異なり、低い照射エネルギーでも十分に硬化可能なインクである。
【0096】
[被記録媒体]
本実施形態の紫外線硬化型インクジェット用インクは、後述する記録方法によって、被記録媒体上に吐出されること等により、記録物が得られる。この被記録媒体として、例えば、吸収性又は非吸収性の被記録媒体が挙げられる。下記実施形態の記録方法は、水溶性インクの浸透が困難な非吸収性被記録媒体から、水溶性インクの浸透が容易な吸収性被記録媒体まで、様々な吸収性能を持つ被記録媒体に幅広く適用できる。ただし、当該インクを非吸収性の被記録媒体に適用した場合は、紫外線を照射し硬化させた後に乾燥工程を設けること等が必要となる場合がある。
【0097】
吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、水性インクの浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)、水性インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0098】
非吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック類のフィルムやプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート等が挙げられる。
【0099】
[記録装置]
本発明の一実施形態は、記録装置に係る。当該記録装置は、上記実施形態の紫外線硬化型インクジェット用インクが吐出されるノズルの径が好ましくは25μm以下のヘッドを備える。
【0100】
上記記録装置の中でも、小型化及び低コスト化を実現でき、かつ、画質に優れるため、被記録媒体上にインクジェット方式により画像を形成する装置、すなわちインクジェット記録装置が好ましい。
【0101】
以下、上記記録装置のうちインクジェット記録装置を詳細に説明する。
図1は、本実施形態で使用する記録装置の一例であるラインプリンターの構成を示すブロック図である。図2は、図1のラインプリンターの一態様における記録領域周辺の概略図である。
【0102】
〔1.装置構成〕
図1に示すように、本実施形態のプリンター1は、外部装置であるコンピューター110と通信可能に接続されている。
【0103】
プリンター1は、光(紫外線)の照射により硬化する紫外線硬化型インクを吐出することにより、被記録媒体上に画像を形成する記録装置である。この記録装置に用いられる紫外線硬化型インクのうち少なくとも1種は、本実施形態の紫外線硬化型インクジェット用インクである。
なお、本明細書における「被記録媒体上」とは、被記録媒体の表面上、及び、当該表面の上方に位置することを意味する。
【0104】
上記のプリンター1(記録装置)は、被記録媒体を搬送方向に搬送する搬送ユニット20(搬送部)と、紫外線硬化型カラーインクを前記被記録媒体に吐出するヘッドユニット30の一部(第1のプリントヘッド)と、前記被記録媒体に着弾した前記カラーインクからなる第1の塗膜を第1の光照射により仮硬化させる照射ユニット40の一部(第1の仮硬化用照射部)と、前記第1の仮硬化用照射部よりも前記搬送方向の下流側に配置され、少なくとも前記第1の塗膜の一部に、紫外線硬化型クリアインクを吐出するヘッドユニット30の一部(第2のプリントヘッド)と、仮硬化した前記第1の塗膜と少なくとも前記第1の塗膜の前記一部に着弾した前記クリアインクからなる第2の塗膜とを第2の光照射により仮硬化させる照射ユニット40の一部(第2の仮硬化用照射部)と、仮硬化した前記第1の塗膜と仮硬化した前記第2の塗膜を本硬化用光源からの光照射により本硬化させる照射ユニット40の一部(本硬化用照射部)と、を備える。これに加えて、上記のプリンター1(記録装置)は、任意に、検出器群50及びコントローラー60を有する。
なお、上記の第1の光照射及び第2の光照射とは、いずれも仮硬化用光源からの光照射を意味する。
【0105】
搬送ユニット20は、被記録媒体を搬送方向に搬送させるためのものである。搬送ユニット20は、図2に示すように、例えば、上流側搬送ローラー23A及び下流側搬送ローラー23Bと、ベルト24と、を有する。
【0106】
ヘッドユニット30は、被記録媒体に向けて紫外線硬化型インクを吐出するためのものである。
【0107】
照射ユニット40は、被記録媒体S上に着弾した紫外線硬化型インクのドットに向けて光を照射するものである。本実施形態における照射ユニット40は、ブリードを抑制することができ、かつ、混色を防止することができるため、後述の図2に示すような態様で、第1の仮硬化用照射部42e及び第2の仮硬化用照射部42fと本硬化用照射部44とを備える。
【0108】
検出器群50は、必要に応じてロータリー式エンコーダー(図示せず)及び紙検出センサー(図示せず)等を備える。
【0109】
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御部であり、コントローラー60は、インターフェイス部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64と、を有する。インターフェイス部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU62は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。ユニット制御回路64は、メモリー63に格納されているプログラムに従ったCPU62の制御に基づいて各ユニット(各部)を制御するものである。
【0110】
プリンター1は、上記のとおり、少なくとも、先に吐出される紫外線硬化型カラーインク(以下、単に「カラーインク」ともいう。)と後に吐出される紫外線硬化型クリアインク(以下、単に「クリアインク」ともいう。)とを用いて、画像を形成可能(印刷を実行可能)に構成されている。
【0111】
図2は、プリンター1において印刷に関連する構成を概略的に示した図である。図2は、カラーインクが1種単独又は2種以上の組み合わせからなる態様を例示する。図2の態様において、カラーインクが2種以上の組み合わせからなる場合、各色のカラーインク用のプリントヘッド(図示せず)が、図2のインクヘッドCOLORの位置に、搬送方向に対し上流側から下流側に順番に並んでいるものとする。具体例として、図2のインクヘッドCOLORの位置に、上流側から、ブラックインクヘッド、シアンインクヘッド、マゼンタインクヘッド、及びイエローインクヘッドの各ヘッドが順番に設けられる。そして、図2に示すように、搬送方向の上流側から順に、上記のカラーヘッドCOLOR、クリアインクヘッドCLが設けられる。
【0112】
図2に示す態様において、第1の仮硬化用照射部42eは、インクヘッドCOLORの搬送方向下流側に設けられている。また、この第1の仮硬化用照射部42eの他、クリアインクヘッドCLの搬送方向下流側に第2の仮硬化用照射部42fが設けられている。さらに、この第2の仮硬化用照射部42fの搬送方向下流側に本硬化用照射部44が設けられている。
【0113】
〔2.装置動作〕
外部装置であるコンピューター110から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー60によって各ユニット(各部)、即ち搬送ユニット20、ヘッドユニット30、及び照射ユニット40を制御して、印刷データに従い、被記録媒体上に画像を形成する。コントローラー60は、コンピューター110から受信した印刷データに基づいて、各部を制御し、被記録媒体上に画像を形成する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は、検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は、検出器群50から出力された検出結果に基づいて、各部を制御する。
【0114】
搬送ユニット20においては、搬送モーター(図示せず)が回転すると、図2に示した上流側搬送ローラー23A及び下流側搬送ローラー23Bが回転し、ベルト24が移動する。給紙ローラー(図示せず)によって給紙された被記録媒体Sは、ベルト24によって、記録可能な領域(プリントヘッドと対向する領域)まで搬送される。そして、この領域を通過した被記録媒体Sは、ベルト24によって外部へ排紙される。
【0115】
このとき、搬送ユニット20(走査部)は、被記録媒体Sをヘッドユニット30(プリントヘッド)に対して相対的に搬送方向(走査方向)に走査させながら、インク(後述の紫外線硬化型インクセット)をヘッドユニット30から吐出する。被記録媒体Sの搬送を行わずにヘッドユニット30を被記録媒体Sに対して移動させる走査を行いながらインクの吐出を行わせてもよい。ここで、被記録媒体Sがヘッドユニット30に対して移動する走査を行う場合は被記録媒体Sが搬送されていく側が下流であり、ヘッドユニット30が被記録媒体Sに対して移動する走査を行う場合は、ヘッドユニット30が移動していく方向が上流側である。
【0116】
なお、搬送中の被記録媒体Sは、ベルト24に静電吸着又はバキューム吸着されていてもよい。また、本明細書では便宜上、「給紙」という文言を用いているが、本実施形態における被記録媒体Sとしては、後述の被記録媒体を用いることができる。
【0117】
ヘッドユニット30は、画像を形成するための紫外線硬化型インクとして、カラーインク及びクリアインクを少なくとも吐出する。
【0118】
ヘッドユニット30は、搬送中の被記録媒体Sに対して各インクを吐出することによって、被記録媒体S上にドットを形成し(インクを着弾させて)、塗膜を形成して画像を形成する。プリンター1はラインプリンターであり、ヘッドユニット30の各プリントヘッド(以下、単に「ヘッド」ともいう。)は被記録媒体の幅相当の画像を形成することができる。ここで、ヘッドユニット30が有するヘッドのうち少なくとも1つは、上記実施形態の紫外線硬化型インクジェット用インクが吐出されるものであり、そのノズルの径は、好ましくは25μm以下、より好ましくは17〜20μmである。ノズル径が上記範囲内であると、本実施形態のインクは、尾引きやミストが少なく、吐出安定性に優れたものになり、印字品質の向上につながる。
【0119】
照射ユニット40において、被記録媒体S上に形成されたドット(着弾したインク)は、照射ユニット40から光照射を受けることにより、硬化する。
【0120】
図2に示した第1の仮硬化用照射部42eは、被記録媒体S上に形成された第1の塗膜に相当するドットを、その上にクリアインクが着弾する前に仮硬化させるための第1の光照射をする。この第1の仮硬化用照射部では、仮硬化を行うことができればよいため、ドット(液滴)の少なくとも一部、例えばドット表面が硬化されればよい。この仮硬化を行うことにより、インクの滲みを防止することができる。
【0121】
また、図2に示した第2の仮硬化用照射部42fは、クリアインクについて第2の光照射をして迅速に仮硬化することにより、カラーインク及びクリアインクのブリードを確実に抑制可能なものである。なお、図2において第2の仮硬化用照射部42fを設けずクリアインクに本硬化用照射部44のみを照射してもよい。
【0122】
図2に示した本硬化用照射部44は、前記被記録媒体に着弾した前記カラーインク及び前記クリアインクを本硬化用光源からの光照射により本硬化させる。換言すれば、本硬化用照射部44は、被記録媒体S上に形成されたドット(第1の塗膜、及びクリアインクによる第2の塗膜)を本硬化させるための光照射を行う。また、被記録媒体Sの幅方向における本硬化用照射部44の長さは被記録媒体Sの幅以上である。そして、本硬化用照射部44は、ヘッドユニット30の各ヘッドによって形成されたドットに光を照射する。
【0123】
本硬化用照射部44は、本硬化用光源として、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)又はランプを有する。当該ランプとして、特に限定されないが、例えば、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、及び高圧水銀ランプが挙げられる。
【0124】
第1の仮硬化用照射部42e及び第2の仮硬化用照射部42fは、仮硬化用光源としてLEDを有する。LEDは入力電流の大きさを制御することによって、照射エネルギーを容易に変更することができる。
【0125】
本硬化用照射部44による本硬化の光照射エネルギーは、本硬化を1回で行う場合、紫外線硬化型カラーインク及び紫外線硬化型クリアインクの間で共通となる。他方、紫外線硬化型カラーインク及び紫外線硬化型クリアインクの間で本硬化の光照射エネルギーを相違させるためには、各インクを被記録媒体に着弾させた後に本硬化をその都度行う必要がある。しかし、本硬化を2回以上行った場合、煩雑になると共に記録方法の工程が複雑になるため、本硬化は1回行うのが好ましい。
【0126】
プリンター1が、図2に示すように、クリアインクヘッドCLと本硬化用照射部44との間に、第2の仮硬化用照射部42fをさらに備えることにより、カラーインク及びクリアインクの間のブリード(混色)を効果的に抑制することができる。
【0127】
検出器群50に備えられ得るロータリー式エンコーダーは、上流側搬送ローラー23Aや下流側搬送ローラー23Bの回転量を検出する。ロータリー式エンコーダーの検出結果に基づいて、被記録媒体Sの搬送量を検出することができる。また、検出器群50に備えられ得る紙検出センサーは、給紙中の被記録媒体Sの先端の位置を検出する。
なお、コントローラー60を構成する各部の動作については、上述のとおりである。
【0128】
コンピューター110は、プリンタードライバーをインストールするものである。プリンタードライバーは、表示装置(図示せず)にユーザーインターフェイスを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データ(画像形成データ)に変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどのコンピューターが読み取り可能な被記録媒体に記録されている。あるいは、このプリンタードライバーは、インターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
そして、コンピューター110は、プリンター1に画像を形成させるため、当該画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。
【0129】
なお、上記で説明してきた本実施形態におけるプリンター1(記録装置)の種類として、上記のラインプリンターの他に後述のシリアルプリンターが挙げられる。これらはプリンターの方式が異なる。簡潔にいえば、ラインプリンターは、ヘッドが移動せずに固定されて印刷が行われるものである。一方、シリアルプリンターは、ヘッドが被記録媒体の搬送方向と直交した方向に往復移動(シャトル移動)しながら印刷が行われるものである。これらの中でもラインプリンターにおいては、被記録媒体に対してヘッドを所定の方向に一度走査(シングルパス)するだけで画像が形成される。被記録媒体が所定の搬送方向に搬送される場合、相対的に、その搬送方向の逆方向にヘッドが走査される。換言すれば、ラインプリンターにおいては、記録の際にヘッドの下方を被記録媒体が一度しか通過しない。これは、一般にシングルパスプリントと称される。
【0130】
(3.変形例) ヘッドユニット30において、カラーインクのヘッドが2種以上存在する場合、図2を用いて説明したような、カラーヘッドCOLORの位置に複数のヘッドが並んで配置される態様には限られない。例えば、複数のカラーヘッドが別々のヘッドとして搬送方向に順番に並んでいる態様であってもよい。この変形例において、各カラーインクのヘッドはそれぞれ搬送方向に並んで、接触して互いに隣り合うように配置されてもよく、又は間隔を空けて配置されてもよい。
【0131】
各カラーインクのヘッドがそれぞれ、間隔を空けて配置される場合、各ヘッド同士の間に、ヘッド毎に仮硬化用の第1の仮硬化用照射部を備えてもよい。つまり、照射ユニット40において、各カラーインクのヘッド及び第1の仮硬化用照射部を交互に備えてもよい(第1の仮硬化用照射部が各インク色のヘッドの搬送方向下流側にそれぞれ設けられる。)。
【0132】
図2の態様及び上記の変形例において、プリンター1はラインプリンターであり、ヘッドユニット30の各ヘッドは被記録媒体の幅相当のドットを一度に形成することができる。
【0133】
一方、本発明の記録方法はシリアルプリンターで行ってもよい。この場合、例えば、特開2003−341021号公報のように、キャリッジに設けられたヘッドと仮硬化用光源によりインクの吐出と仮硬化を行い、その後、キャリッジよりも搬送方向下流に設けられた本硬化用光源により本硬化を行えばよい。
【0134】
[記録方法]
本発明の一実施形態は、記録方法に係る。上記実施形態の紫外線硬化型インクジェット用インクは、本実施形態の記録方法に用いることができる。当該記録方法は、インクジェット方式に適用することができ、上記実施形態の紫外線硬化型インクジェット用インクを被記録媒体上に吐出して画像を形成するものである。より具体的に言えば、当該記録方法は、被記録媒体上に、上記インクを吐出する吐出工程と、上記吐出工程により吐出されたインクに紫外線を照射して、上記インクを硬化する硬化工程と、を含む。このようにして、被記録媒体上で硬化したインクにより、塗膜(硬化膜)が形成される。
【0135】
〔吐出工程〕
吐出工程において、被記録媒体上にインクが吐出され、インクが被記録媒体に付着する。吐出時のインクの粘度は、9〜15mPa・sであることが好ましく、10〜14mPa・sであることがより好ましい。インクの粘度が、インクの温度を室温(約20℃)として、あるいは、インクを加熱しない状態として上記のものであれば、インクの温度を室温として、あるいはインクを加熱せずに吐出させればよい。一方、インクを所定の温度に加熱することによって粘度を好ましいものとして吐出させてもよい。このようにして、良好な吐出安定性が実現される。
【0136】
本実施形態のインクは、通常のインクジェット記録用インクで使用される水性インクより粘度が高いため、吐出時の温度変動による粘度変動が大きい。かかるインクの粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を与え、ひいては画質劣化を引き起こし得る。したがって、吐出時のインクの温度はできるだけ一定に保つことが好ましい。
【0137】
〔硬化工程〕
次に、上記硬化工程においては、被記録媒体上に吐出され付着したインクが、紫外線(光)の照射によって硬化する。これは、インクに含まれる光重合開始剤が紫外線の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進されるためである。あるいは、紫外線(光)の照射によって、重合性化合物の重合反応が開始するためである。このとき、インクにおいて光重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が活性放射線を吸収して励起状態となり、光重合開始剤と接触することによって光重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0138】
紫外線源としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、紫外線硬化型インクジェット用インクの硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザダイオード(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、紫外線硬化型インクジェット用光源として期待されている。これらの中でも、UV−LEDが好ましい。
【0139】
ここで、発光ピーク波長が、好ましくは365〜410nmの範囲、より好ましくは385〜400nmの範囲にある紫外線を、UV−LED等を用いて、好ましくは350mJ/cm以下、より好ましくは100〜200mJ/cmの照射エネルギーで照射することにより硬化可能であるような、インクを用いることが好ましい。この場合、コストの低下、及び印刷速度の増大、すなわち印刷時間の短縮を実現できる。このようなインクは、上記波長範囲の紫外線照射により分解する光重合開始剤、及び上記波長範囲の紫外線照射により重合を開始する重合性化合物のうち少なくともいずれかを含むことにより得られる。
【0140】
このように、上記3つの実施形態によれば、インクの吐出安定性及び硬化性に優れ、かつ、インクの硬化により得られる硬化膜の耐擦性及び伸張性のバランスにも優れた、紫外線硬化型インクジェット用インク、並びにこれを用いたインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することができる。このような実施形態により、伸張性と耐擦性等の塗膜特性との間で、いずれか一方のみが優れるのでなく、双方が優れた紫外線硬化型インクジェット用インクを得ることができる。
【実施例】
【0141】
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0142】
[使用成分]
下記の実施例及び比較例において使用した成分は、以下の通りである。
〔顔料〕
・FASTOGEN BLUE(カラーインデックス名:ピグメントブルー15:4、DIC社製商品名、表ではシアンと略記した。)
・SYMULER FAST YELLOW(カラーインデックス名:C.I.ピグメントイエロー180、DIC社製商品名、表ではイエローと略記した。)
・MICROLITH−WA Black C−WA(カラーインデックス名:C.I.ピグメントブラック7、BASF社製商品名、表ではブラックと略記した。)
・CROMOPHTAL PinkPT(SA) GLVO(カラーインデックス名:C.I.ピグメントレッド122、BASF社製商品名、表ではマゼンタと略記した。)
・Pigment white 06(二酸化チタン、御国色素社(Mikuni Color Ltd.)製商品名、表ではホワイトと略記した。)
〔分散剤〕
・SOLSPERSE 36000(アミン系、ルーブリゾール社製商品名、表ではSOL36000と略記した。)
〔重合性化合物〕
(1.単官能アクリレートモノマー)
・VEEA(アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、日本触媒社(Nippon Shokubai Co., Ltd.)製商品名、表ではVEEAと略記した。)
・ビスコート#192(フェノキシエチルアクリレート、大阪有機化学社(OSAKA ORGANIC CHEMICAL INDUSTRY LTD.)製商品名、表ではPEAと略記した。)
・4−HBA(4−ヒドロキシブチルアクリレート、大阪有機化学社製商品名、表では4−HBAと略記した。)
・IBXA(イソボルニルアクリレート、大阪有機化学社製商品名、表ではIBXAと略記した。)
・V#155(シクロヘキシルアクリレート、大阪有機化学社製商品名、表ではCHAと略記した。)
・ME−4S(メトキシポリエチレングリコールアクリレート、第一工業製薬社(Dai-ichiKogyo Seiyaku Co., Ltd.)製商品名、表ではMPEGAと略記した。)
・V#190(エチルカルビトールアクリレート、大阪有機化学社製商品名、表ではECAと略記した。)
(2.多官能アクリレートモノマー)
・KAYARAD R−684(トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、日本化薬社製商品名、表ではR−684と略記した。)
・A−DPH(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、新中村化学社製商品名、表ではA−DPHと略記した。)
・NKエステル A−9300(エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、新中村化学工業社(SHIN-NAKAMURA CHEMICAL CO, LTD.)製商品名、表ではA−9300と略記した。)
・EBECRYL 7100(アミノ基2個及びアクリロイル基2個の含有化合物、サイテック社(Cytech, Inc.)製商品名、表ではEB7100と略記した。)
〔重合禁止剤〕
・MEHQ(関東化学社製商品名、表ではMEHQと略記した。)
〔レベリング剤〕
・シリコーン系表面調整剤 BYK−UV3500(BYK社製商品名、表ではUV3500と略記した。)
〔光重合開始剤〕
・IRGACURE 819(BASF社製商品名、表では819と略記した。)
・DAROCUR TPO(BASF社製商品名、表ではTPOと略記した。)
・KAYACURE DETX−S(日本化薬社製商品名、表ではDETX−Sと略記した。)
【0143】
上記で挙げた重合性化合物のうち単官能アクリレートモノマーについての物性を、下記表1に纏める。なお、以下の表中、「分子量」とは重量平均分子量を表す。
【0144】
【表1】

【0145】
[実施例1〜17、比較例1〜32]
まず、下記表2〜表6に記載の顔料及び分散剤、並びにVEEA又はPEAを、表2〜表6に記載の組成(単位:質量%)となるように混合することで、顔料分散液を調製した(実施例及び比較例のうち色材を含有しない例を除く。)。
次に、調製した顔料分散液に、下記表2〜表6に記載された他の成分を、表2〜表6に記載の組成(単位:質量%)となるように添加し、これを高速水冷式撹拌機により撹拌することにより、各色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、ホワイト)の紫外線硬化型インクジェット用インクを得た。また、実施例及び比較例のうち色材を含有しない例については、下記表2、表4〜表6に記載された各成分を、表2、表4〜表6に記載の組成(単位:質量%)となるように混合し、これを高速水冷式撹拌機により撹拌することにより、クリアの紫外線硬化型インクジェット用インクを得た。
【0146】
【表2】

【0147】
【表3】

【0148】
【表4】

【0149】
【表5】

【0150】
【表6】

【0151】
【表7】

【0152】
〔評価項目〕
(1.インクの硬化性)
インクの印字及び硬化は、以下のように行った。まず、テストサンプルを直線状に搬送するように構成された搬送ユニットのテーブル上に、受容層ありのPETフィルムを貼り付け、搬送させ、途中でインクジェットヘッドからインクを吐出させ、さらに照射機の下を通して印字サンプルに光を当てて、そのときの硬化性を指蝕試験によって確認した。
印字は720dpi×720dpiの解像度で印字の際のインク重量は14ng/ドットで印字を行った。照射機の印字面の照射強度は1W/cmで行った。印字サンプルは1インチ×1インチのサイズで印字した。サンプルの搬送スピードを変えて、エネルギー量を調整した。
各実施例及び各比較例のインクに対して、発光ピーク波長が395nmである紫外線を照射し、インクを硬化させるため要した照射エネルギー(単位:mJ/cm)を測定した。硬化に必要な紫外線の照射は、ベタ印刷パターンを指触してべたつきが感じられなくなるまで行い、そのときの積算光量を積算光量計UM−40(コニカミノルタ社(Konica Minolta Holdings, Inc.)製)によって測定した。
評価基準は下記のとおりである。評価結果を下記表8〜表13に示す。
◎:積算光量が200mJ/cm以下。
○:積算光量が200mJ/cmを超えて350mJ/cm以下。
△:積算光量が350mJ/cmを超えて500mJ/cm以下。
×:積算光量が500mJ/cm超。
【0153】
(2.インクの粘度)
各実施例及び各比較例のインクの粘度を、20℃で、DKSHジャパン社製のレオメーターMCR300を用いて測定した。
評価基準は下記のとおりである。評価結果を下記表8〜表13に示す。
◎:10mPa・s未満。
○:10mPa・s以上14mPa・s未満。
△:14mPa・s以上。
【0154】
(3.吐出安定性)
高速印刷を実現可能な高速MACHヘッド(ヘッド1インチ当たり180個のノズル、ノズル径20μm)を備えたインクジェットプリンター(PX−7500(商品名)、セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製)を用いて、評価を行った。この高速MACHヘッドに各実施例及び各比較例のインクを別々に充填し、インクを5分間連続して吐出させたときの詰まったノズル数で吐出安定性を判断した。
評価基準は下記のとおりである。評価結果を下記表8〜表13に示す。
◎:詰まったノズルがなかった。
○:詰まったノズルはあったが復帰した。
△:詰まったノズル数が1つ〜5つであった。
×:詰まったノズル数が5つを超えた。
なお、上記の「復帰した」とは、印字中にインクが詰まったノズルがあった場合に、そのヘッドのインク吐出口をフラッシングすることにより、インクを再び吐出できるようになったことを意味する。
【0155】
(4.耐擦性)
各実施例及び各比較例のインクに対して、発光ピーク波長が395nmである紫外線を、上記「1.インクの硬化性」で測定した積算光量の2倍量に相当する照射エネルギーで照射し、インクを硬化させることでベタ印刷パターンを作製した。なお、上記の照射エネルギー(積算光量)は、換言すると、画像表面の硬化に必要なエネルギーの2倍量に相当する。また、その他の印字及び硬化の方法や条件については、上記「1.インクの硬化性」と同様である。
【0156】
得られたベタ印刷パターンの耐擦性の評価を行った。評価において、学振型磨耗堅牢度試験機(テスター産業社(TESTER SANGYO CO., LTD.)製商品名)を用い、金巾に500gの荷重をかけた状態で100往復、印刷面を擦った。
評価基準は下記のとおりである。評価結果を下記表8〜表13に示す。
◎:擦ったベタ印刷パターン面に傷がない上、汚れも見られなかった。
○:擦ったベタ印刷パターン面に傷がなかった。
△:擦ったベタ印刷パターン面に傷が見られた。
×:擦ったベタ印刷パターン面にハガレが見られ、傷が多く見られた。
【0157】
(5.伸張性)
各実施例及び各比較例のインクを、10mm×100mm試験片 3M社製 IJ−180−10(PVC(塩ビ)メディア)の全面に厚さ10μmとなるよう塗布した。この塗膜に対し、発光ピーク波長が395nmである紫外線を200mJ/cm照射するか、あるいは、このエネルギーで硬化しない場合には指蝕試験により硬化に必要なエネルギーを明らかにした上で、そのエネルギーでインクを硬化させて硬化膜を作製した。
引張り試験機 TENSILON(ORIENTEC社製商品名)を用いて、硬化膜が作製された各試験片を長手方向に両方から引張り、硬化膜にクラック(ひび)が発生したときの伸び率(2倍に伸びたら100%の伸び率とする。)を測定した。
評価基準は下記のとおりである。評価結果を下記表8〜表13に示す。
◎:伸び率が40%以上。
○:伸び率が30%以上40%未満。
△:伸び率が10%以上30%未満。
×:伸び率が、0%以上10%未満。
【0158】
【表8】

【0159】
【表9】

【0160】
【表10】

【0161】
【表11】

【0162】
【表12】

【0163】
【表13】

【0164】
上記の表8〜表13より、インク中10〜75質量%のモノマーAを含み、かつ、インクに含まれる単官能(メタ)アクリレートモノマーのモル数平均Tgが6〜37℃である、紫外線硬化型インクジェット用インクである全ての実施例において、いずれの評価項目にも優れ、特に、硬化性、耐擦性、及び伸張性に優れていることが分かった。
【0165】
これに対し、モノマーAの含有量がインク中10質量%を下回る比較例22〜27では、硬化性及び耐擦性が非常に劣る上、粘度や吐出安定性も劣ることが分かった。硬化性が劣る理由は、モノマーAが少ないためであると考えられる。また、モノマーAが少ないと、(メタ)アクリレートモノマーのモル数平均Tgが6〜37℃であっても、耐擦性が劣る一方、伸張性も良好とは言えず、仮に、(メタ)アクリレートモノマーのモル数平均Tgをどのような値にしても、耐擦性及び伸張性を共に優れたものにすることはできないと考えられる。また、モノマーAの含有量が少ないと粘度が高くなり、吐出安定性に劣る傾向が見られた。吐出安定性が劣る理由として、モノマーAの量が少ないと、結果的に表面張力が高くなりインクが飛翔しづらくなったためであると考えられる。
【0166】
逆に、モノマーAの含有量がインク中75質量%を上回る比較例28〜32では、(メタ)アクリレートモノマーのモル数平均Tgが6〜37℃であっても、伸張性が非常に劣る一方、耐擦性も良好とは言えず、仮に、(メタ)アクリレートモノマーのモル数平均Tgをどのようなものにしても耐擦性及び伸張性を共に優れたものにすることはできないと考えられる。また、(メタ)アクリレートモノマーのモル数平均Tgを下げることが困難であった。伸張性が劣る理由は、モノマーAの含有量が多すぎるためであると考えられる。
【0167】
また、インクに含まれる単官能(メタ)アクリレートモノマーのモル数平均Tgが37℃を上回る比較例1〜11では、硬化性及び伸張性が非常に劣ることが分かった。その理由は、モル数平均Tgが高いため硬化膜の柔軟性が低くなったためである。なお、PEAの含有量が5%を下回る比較例では、光重合開始剤の溶解に長時間を有し、光重合開始剤の溶解性に劣ることが分かった。
【0168】
また、インクに含まれる単官能(メタ)アクリレートモノマーのモル数平均Tgが6℃を下回る比較例12〜21では、硬化性が極めて劣っており、かつ、吐出安定性及び耐擦性も非常に劣ることが分かった。耐擦性が劣る理由は、モル数平均Tgが低いことに起因して膜が柔らかいためである。
【符号の説明】
【0169】
1…プリンター、20…搬送ユニット、23A…上流側搬送ローラー、23B…下流側搬送ローラー、24…ベルト、30…ヘッドユニット、40…照射ユニット、42e…第1の仮硬化用照射部、42f…第2の仮硬化用照射部、44…本硬化用照射部、50…検出器群、60…コントローラー、61…インターフェイス部、62…CPU、63…メモリー、64…ユニット制御回路、110…コンピューター、CL…クリアインクヘッド、COLOR…カラーインクヘッド、S…被記録媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単官能(メタ)アクリレートのモノマーと光重合開始剤とを含有する紫外線硬化型インクジェット用インクであって、
前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーは、下記一般式(I):
CH=CR−COOR−O−CH=CH−R ・・・(I)
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数2〜20の2価の有機残基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表されるモノマーAを含み、
前記モノマーAの含有量は、該インクの総質量に対し、10〜75質量%であり、
該インクに含まれる前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーの硬化物におけるモル数平均Tgが6〜37℃である、紫外線硬化型インクジェット用インク。
【請求項2】
前記モノマーAが、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルである、請求項1に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
【請求項3】
前記光重合開始剤として、該インクの総質量に対して8〜11質量%のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含む、請求項1又は2に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
【請求項4】
前記光重合開始剤として、該インクの総質量に対して1〜3質量%のチオキサントン系開始剤をさらに含む、請求項3に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
【請求項5】
前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーとして、該インクの総質量に対して5〜55質量%のフェノキシエチルアクリレートを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
【請求項6】
発光ピーク波長が365〜410nmの範囲にある紫外線を、350mJ/cm以下の照射エネルギーで照射することにより硬化可能である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
【請求項7】
前記単官能(メタ)アクリレートのモノマーの含有量は、該インクの総質量に対し、50質量%以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の紫外線硬化型インクジェット用インク。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の紫外線硬化型インクジェット用インクを被記録媒体上に吐出して画像を形成する、インクジェット記録方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188612(P2012−188612A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55170(P2011−55170)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】