説明

紫外線硬化型インクジェット用組成物、紫外線硬化型インクジェット用組成物の製造方法および記録物

【課題】保存安定性に優れ、光沢感、耐擦性に優れたパターンの形成に好適に用いることのできる紫外線硬化型インクジェット用組成物を提供すること、当該紫外線硬化型インクジェット用組成物を効率よく製造することができる製造方法を提供すること、また、前記紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて形成された光沢感、耐擦性に優れたパターンを有する記録物を提供すること。
【解決手段】本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物は、インクジェット方式により吐出される紫外線硬化型インクジェット用組成物であって、重合性化合物と、ステンレス鋼で構成された鱗片状の粉末とを含むことを特徴とする。前記ステンレス鋼は、Feを主成分とし、3.0wt%以上8.0wt%以下のCr、2.0wt%以上10.0wt%以下のNi、および、1.0wt%以上10.0wt%以下のMoを含むものであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型インクジェット用組成物、紫外線硬化型インクジェット用組成物の製造方法および記録物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。
他方、顔料または染料を含む組成物による記録媒体への記録方法として、インクジェット法による記録方法が用いられている。インクジェット法では、微細なパターンの形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。また、近年、インクジェット法において、耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を特に優れたものとするため等に、紫外線を照射すると硬化する組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、紫外線硬化型インクジェット用組成物では、顔料や染料の代わりに、金属粉末を適用しようとした場合、当該金属が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができないという問題点があり、また、組成物の安定性に劣り、ゲル化による粘度上昇による吐出安定性の低下等の問題を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−57548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、保存安定性に優れ、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)の形成に好適に用いることのできる紫外線硬化型インクジェット用組成物を提供すること、当該紫外線硬化型インクジェット用組成物を効率よく製造することができる製造方法を提供すること、また、前記紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて形成された光沢感、耐擦性に優れたパターンを有する記録物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物は、インクジェット方式により吐出される紫外線硬化型インクジェット用組成物であって、
重合性化合物と、
ステンレス鋼で構成された鱗片状の粉末とを含むことを特徴とする。
これにより、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)の形成に好適に用いることのできる紫外線硬化型インクジェット用組成物を提供することができる。
【0006】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物では、前記ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感を特に優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0007】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物では、前記ステンレス鋼は、Fe−Cr−Ni−Mo系合金であることが好ましい。
これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0008】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物では、前記ステンレス鋼は、Feを主成分とし、16.0wt%以上18.0wt%以下のCr、12.0wt%以上15.0wt%以下のNi、および、2.0wt%以上3.0wt%以下のMoを含むものであることが好ましい。
これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0009】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物では、前記ステンレス鋼は、Fe、Cr、NiおよびMo以外の成分の含有率の和が、2.0wt%以下のものであることが好ましい。
これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0010】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物では、前記粉末は、水アトマイズ法により製造されたものを、鱗片化することにより得られたものであることが好ましい。
これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0011】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物では、前記粉末の平均粒径は、500nm以上2.0μm以下であることが好ましい。
これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0012】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物では、前記重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートを含むことが好ましい。
これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の紫外線硬化型インクジェット用組成物の反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0013】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物では、前記重合性化合物として、前記フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の紫外線硬化型インクジェット用組成物の反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0014】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物では、前記重合性化合物として、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含むことが好ましい。
これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性をより優れたものとしつつ、形成されるパターンの耐擦性等をさらに優れたものとすることができる。
【0015】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物の製造方法は、インクジェット方式により吐出される紫外線硬化型インクジェット用組成物を製造する方法であって、
水アトマイズ法によりステンレス鋼で構成された粉末を製造する粉末製造工程と、
前記粉末をビーズとともに攪拌し、前記粉末を鱗片化する鱗片化工程と、
鱗片化された前記粉末を、重合性化合物と混合する混合工程とを有することを特徴とする。
これにより、光沢感、耐擦性に優れたパターンの形成に好適に用いることのできる紫外線硬化型インクジェット用組成物を効率よく製造することができる紫外線硬化型インクジェット用組成物の製造方法を提供することができる。
【0016】
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物の製造方法では、前記鱗片化工程は、フェノキシエチルアクリレートの存在下にて行うものであることが好ましい。
これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感を特に優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
本発明の記録物は、本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物を記録媒体上に付与し、その後、紫外線を照射することにより製造されたこと特徴とする。
これにより、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を有する記録物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《紫外線硬化型インクジェット用組成物》
まず、本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物について説明する。
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物は、インクジェット方式により吐出されるものであり、紫外線の照射により重合する重合性化合物を含むものである。
【0018】
ところで、従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。また、箔押し印刷では、グラデーションのある金属調の印刷ができないという問題があった。
【0019】
他方、顔料または染料を含む組成物による記録媒体への記録方法として、インクジェット法による記録方法が用いられている。インクジェット法では、微細なパターンの形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。また、近年、インクジェット法において、耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を特に優れたものとするため等に、紫外線を照射すると硬化する組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)が用いられている。
【0020】
しかしながら、紫外線硬化型インクジェット用組成物では、顔料や染料の代わりに、金属粉末を適用しようとした場合、当該金属が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができないという問題点があり、また、組成物の安定性に劣り、ゲル化による粘度上昇による吐出安定性の低下等の問題を引き起こす。
そこで、発明者は、上記のような問題を解決する目的で鋭意研究を行った結果、本発明に至った。すなわち、本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物は、重合性化合物とともに、金属粉末として、ステンレス鋼で構成された鱗片状の粉末を含むものである。
【0021】
このように、重合性化合物とともに、金属粉末として、ステンレス鋼で構成された鱗片状の粉末を含むことにより、紫外線を照射すると硬化することによる利益を享受しつつ、紫外線硬化型インクジェット用組成物に一般の金属粉末を含ませた場合に生じる問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性を優れたものとし、かつ、光沢感、耐擦性等に優れたパターン(印刷部)を有する記録物の製造に好適に用いることのできる。
【0022】
<粉末(金属粉末)>
上述したように、本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物は、粉末(金属粉末)として、ステンレス鋼で構成された鱗片状の粉末を含むものである。
金属粉末を構成するステンレス鋼は、特に限定されないが、オーステナイト系ステンレス鋼であるのが好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感を特に優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0023】
また、金属粉末を構成するステンレス鋼は、Fe−Cr−Ni−Mo系合金であるのが好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
また、金属粉末を構成するステンレス鋼は、Feを主成分とし、16.0wt%以上18.0wt%以下のCr、12.0wt%以上15.0wt%以下のNi、および、2.0wt%以上3.0wt%以下のMoを含むFe−Cr−Ni−Mo系合金であるのが好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0024】
金属粉末が上記のようなFe−Cr−Ni−Mo系合金で構成されたものである場合、ステンレス鋼は、Fe、Cr、NiおよびMo以外の成分を、含むものであってもよいが、Fe、Cr、NiおよびMo以外の成分の含有率の和が、2.0wt%以下のものであるのが好ましく、1.0wt%以下のものであるのがより好ましく、0.6wt%以下のものであるのがより好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0025】
また、金属粉末は、いかなる方法で製造されたものであってもよく、例えば、インゴット等を粉砕することにより得られた粗大粉末を所望の粒径まで粉砕する粉砕法、蒸着等の気相成膜法等によりフィルム上に形成した金属膜を前記フィルムから剥離・粉砕させる方法(特に、液体中において剥離・粉砕を行い、前記液体中に分散させる方法)、化学的な造粒法等の方法により製造することができるが、本発明において、金属粉末は、水アトマイズ法により製造されたものを、鱗片化することにより得られたものであるのが好ましい。
【0026】
水アトマイズ法では、高温溶解した金属を水中にアトマイズして作ることから、水アトマイズ法により製造された粒子は、その表面が酸化膜化しており、化学的安定性の高いものとなり、水やモノマーとの反応性が低いものとなる。そして、このような性質は、ビーズを用いて鱗片化した後にも保持されることとなる。その結果、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0027】
上述したように、本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物を構成する金属粉末は、鱗片状をなすものである。金属粉末が鱗片形状を有するものであることにより、インクジェット法により紫外線硬化型インクジェット用組成物が付与される記録媒体上で、当該金属粉末の主面が記録媒体の表面形状に沿うように、金属粉末を配置することができる。その結果、金属粉末がステンレス鋼で構成されたものであることと相まって、金属粉末を構成するステンレス鋼が本来有している光沢感等を、得られる記録物においても十分に発揮させることができる。これに対し、金属粉末が鱗片状以外の形状である場合には、金属粉末は、記録媒体上で、入射した光を乱反射してしまうこととなり、記録物の光沢感を十分に優れたものとすることができない。
【0028】
本発明において、鱗片状とは、平板状、湾曲板状等のように、所定の角度から観察した際(平面視した際)の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいい、特に、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S[μm]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S[μm]に対する比率(S/S)が、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは8以上である。この値としては、例えば、任意の10個の粒子について観察を行い、これらの粒子についての算出される値の平均値を採用することができる。
【0029】
金属粉末の平均粒径は、500nm以上2.0μm以下であるのが好ましく、800nm以上1.8μm以下であるのがより好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感をさらに優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。なお、本発明において、平均粒径とは、個数基準の平均粒径のことを指し、投影面積が最大となる方向から観察した際の面積Sと同一の面積を有する真円の直径の平均値のことを指す。
【0030】
<重合性化合物>
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物は、紫外線の照射により重合し、硬化する成分である重合性化合物を含むものである。このような成分を含むことにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の耐擦性、耐水性、耐溶剤性等を優れたものとすることができる。重合性化合物は、液状をなすものであり、紫外線硬化型インクジェット用組成物において、金属粉末を分散する分散媒として機能するものであるのが好ましい。これにより、別途、記録物の製造過程において除去される(蒸発する)分散媒を用いる必要がなく、記録物の製造においても、分散媒を除去する工程を設ける必要がないため、記録物の生産性を特に優れたものとすることができる。また、分散媒として一般に有機溶媒として用いられているものを使用する必要がないため、揮発性有機化合物(VOC)の問題の発生を防止することができる。また、重合性化合物を含むことにより、様々な記録媒体(基材)に対する、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて形成される印刷部の密着性を優れたものとすることができる。すなわち、重合性化合物を含むことにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物は、メディア対応性に優れたものとなる。
【0031】
重合性化合物としては、紫外線の照射により重合する成分であればよく、例えば、各種モノマー、各種オリゴマー(ダイマー、トリマー等を含む)等を用いることができるが、紫外線硬化型インクジェット用組成物は、重合性化合物として、少なくともモノマー成分を含むものであるのが好ましい。モノマーは、オリゴマー成分等に比べて、一般に、低粘度の成分であるため、紫外線硬化型インクジェット用組成物の吐出安定性を特に優れたものとする上で有利である。
【0032】
重合性化合物としてのモノマーとしては、例えば、イソボニルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、PO変性ノニルフェノールアクリレート、EO変性ノニルフェノールアクリレート、EO変性2エチルヘキシルアクリレート、EO変性ノニルフェノールアクリレート、フェニルグリシジルエーテルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、EO変性フェノールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、EO変性フェノールアクリレート、EO変性クレゾールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、ジプロピレングリコールアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1.9−ノナンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、ポリエチレングリコール300ジアクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピパレートジアクリレート、2−エチル−2−ブチル−プロパンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレート、ポリエチレングリコール600ジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、1.9−ノナンジオールジアクリレート、1.6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA EO変性ジアクリレート、PO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性水添ビスフェノールAジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル等が挙げられる。中でも、4−ヒドロキシブチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0033】
特に、紫外線硬化型インクジェット用組成物は、重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートを含むものであるのが好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の紫外線硬化型インクジェット用組成物の反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0034】
また、紫外線硬化型インクジェット用組成物は、重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであるのが好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法による吐出後の紫外線硬化型インクジェット用組成物の反応性を特に優れたものとし、記録物の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
【0035】
また、紫外線硬化型インクジェット用組成物は、重合性化合物として、モノマー以外に、多官能のオリゴマーを含むものであるのが好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性を優れたものとしつつ、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。
また、紫外線硬化型インクジェット用組成物は、重合性化合物として、モノマー以外に、オリゴマーを含むものとしてもよい。特に多官能のオリゴマーを含むものであるのが好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性を優れたものとしつつ、形成されるパターンの耐擦性等を特に優れたものとすることができる。なお、本発明では、重合性化合物の中でも、分子の骨格中に繰り返し構造を有し、分子量が600以上のものをオリゴマーと呼ぶ。オリゴマーとしては、繰り返し構造がウレタンであるウレタンオリゴマー、繰り返し構造がエポキシであるエポキシオリゴマー等が好ましく用いられる。
また、紫外線硬化型インクジェット用組成物は、前記重合性化合物として、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含むのが好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性をより優れたものとしつつ、形成されるパターンの耐擦性等をさらに優れたものとすることができる。
【0036】
<その他の成分>
本実施の形態に係る紫外線硬化型インクジェット用組成物は、上述した以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、光重合開始剤、スリップ剤(レベリング剤)、分散剤、重合促進剤、重合禁止剤、浸透促進剤、湿潤剤(保湿剤)、着色剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤、増感剤(増感色素)等が挙げられる。
【0037】
光重合開始剤は、紫外線照射によってラジカルやカチオン等の活性種を発生し、上記重合性化合物の重合反応を開始させるものであれば特に制限されない。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができるが、光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。光重合開始剤を用いる場合、当該光重合開始剤は、紫外線領域に吸収ピークを有していることが好ましい。
【0038】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物等)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アルキルアミン化合物等が挙げられる。
これらの中でも、重合性化合物への溶解性および硬化性の観点から、アシルホスフィンオキサイド化合物およびチオキサントン化合物から選択される少なくとも1種が好ましく、アシルホスフィンオキサイド化合物およびチオキサントン化合物を併用することがより好ましい。
【0039】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン、およびビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等が挙げられ、これらのうちから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
紫外線硬化型インクジェット用組成物中における光重合開始剤の含有量は、0.5wt%以上10wt%以下であるのが好ましい。光重合開始剤の含有量が前記範囲であると、紫外線硬化速度が十分大きく、且つ、光重合開始剤の溶け残りや光重合開始剤に由来する着色がほとんどない。
紫外線硬化型インクジェット用組成物がスリップ剤を含むものであると、レベリング作用により記録物の表面が平滑になり、耐擦性が向上する。
【0041】
スリップ剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーン等のシリコーン系界面活性剤を用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンまたはポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが好ましい。
紫外線硬化型インクジェット用組成物が分散剤を含むものであると、金属粉末の分散性を優れたものとすることができ、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマーおよびコポリマー、アクリル系ポリマーおよびコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0042】
また、本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物は、記録物の製造工程において除去される(蒸発する)有機溶剤を含まないものであるのが好ましい。これにより、揮発性有機化合物(VOC)の問題の発生を効果的に防止することができる。
本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物の室温(20℃)での粘度は、20mPa・s以下であるのが好ましく、3mPa・s以上15mPa・s以下であるのがより好ましい。これにより、インクジェット法による液滴吐出を好適に行うことができる。
【0043】
《紫外線硬化型インクジェット用組成物の製造方法》
次に、本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物の製造方法について説明する。
本実施形態の紫外線硬化型インクジェット用組成物の製造方法は、水アトマイズ法によりステンレス鋼で構成された金属粉末を製造する粉末製造工程(1a)と、前記粉末をビーズとともに攪拌し、金属粉末を鱗片化する鱗片化工程(1b)と、金属粉末の鱗片化に用いたビーズを除去するビーズ除去工程(1c)と、金属粉末を分級する分級工程(1d)と、鱗片化された前記粉末を、重合性化合物と混合する混合工程(1e)とを有するこのような方法を用いることにより、光沢感、耐擦性に優れたパターンの形成に好適に用いることのできる紫外線硬化型インクジェット用組成物を効率よく製造することができる。
【0044】
<粉末製造工程>
本実施形態の製造方法では、まず、水アトマイズ法によりステンレス鋼で構成された金属粉末を製造する(1a)。
金属粉末は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、水アトマイズ法により製造されたものであることにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物中における金属粉末の変色や凝集等をより効果的に防止することができる。
【0045】
<鱗片化工程>
上記のようにして得られる金属粉末は、通常、略球形状をなすものである。金属粉末として略球形状のものを含む紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いた場合、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造された記録物において、記録媒体上で、入射した光を乱反射してしまうこととなり、記録物の光沢感を十分に優れたものとすることができない。
そこで、本実施形態では、上記のようにして得られた金属粉末を鱗片化(異形化)する。
【0046】
本工程は、いかなる方法で行うものであってもよいが、遊星ボールミルを用いることにより、好適に行うことができる。これにより、上述したような好適な形状(鱗片状)の金属粉末を効率よく得ることができる。
本工程を遊星ボールミルで行う場合、ビーズとして、ジルコニア、アルミナ、クロム鋼等で構成されたものを用いることができるが、ジルコニアで構成されたビーズを用いるのが好ましい。これにより、金属粉末の変性をより確実に防止しつつ、上述したような好適な形状(鱗片状)の金属粉末をより効率よく得ることができる。また、所望の形状でない粉末が形成されてしまうことを抑制することができ、本工程後の分級処理を省略または簡略化することができる。
【0047】
本工程を遊星ボールミルで行う場合、ビーズの大きさ(直径)は、1mm以上10mm以下であるのが好ましく、3mm以上7mm以下であるのがより好ましい。これにより、上述したような好適な形状(鱗片状)の金属粉末をさらに効率よく得ることができる。また、所望の形状でない粉末が形成されてしまうことを抑制することができ、本工程後の分級処理を省略または簡略化することができる。
【0048】
また、本工程では、複数回処理を行ってもよい。例えば、比較的粒径の大きいビーズを用いた第1の処理と、第1の処理で用いたビーズとよりも粒径の小さいビーズを用いた第2の処理を行うものであってもよい。
特に、本工程は、フェノキシエチルアクリレートの存在下にて行うものであるものであるのが好ましい。これにより、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感、高級感を特に優れたものとすることができる。また、紫外線硬化型インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性を特に優れたものとすることができる。
【0049】
<ビーズ除去工程>
次に、金属粉末の鱗片化に用いたビーズを除去する。これにより、最終的に得られる紫外線硬化型インクジェット用組成物中に前記ビーズが含まれることによる弊害を防止することができ、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感(美的外観)を確実に優れたものとすることができる。
ビーズの除去は、例えば、ろ過、遠心分離等の方法により好適に行うことができる。
【0050】
<分級工程>
本実施形態では、金属粉末を鱗片化した後に、金属粉末の分級を行う。これにより、最終的に得られる紫外線硬化型インクジェット用組成物中における金属粉末の粒度分布をシャープなものとすることができ、紫外線硬化型インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感(美的外観)を確実に優れたものとすることができる。
<混合工程>
その後、鱗片化された金属粉末を、重合性化合物と混合する。これにより、前述したような紫外線硬化型インクジェット用組成物が得られる。
【0051】
《記録物》
次に、本発明の記録物について説明する。
本発明の記録物は、上述したような紫外線硬化型インクジェット用組成物を記録媒体上に付与し、その後、紫外線を照射することにより製造されたものである。このような記録物は、光沢感、耐擦性に優れたパターン(印刷部)を有するものである。
【0052】
上述したように、本発明に係る紫外線硬化型インクジェット用組成物は、重合性化合物を含むものであり、記録媒体に対する密着性に優れるものである。このように、本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物は記録媒体に対する密着性に優れるものであるため、記録媒体は、いかなるものであってもよく、吸収性または非吸収性のいずれを用いてもよく、例えば、紙(普通紙、インクジェット用専用紙等)、プラスチック材料、金属、セラミックス、木材、貝殻、綿、ポリエステル、ウール等の天然繊維・合成繊維、不織布等を用いることができる。
【0053】
本発明の記録物は、いかなる用途のものであってもよく、例えば、装飾品やそれ以外に適用されるものであってもよい。本発明の記録物の具体例としては、コンソールリッド、スイッチベース、センタークラスタ、インテリアパネル、エンブレム、センターコンソール、メーター銘板等の車両用内装品、各種電子機器の操作部(キースイッチ類)、装飾性を発揮する装飾部、指標、ロゴ等の表示物等が挙げられる。
【0054】
液滴吐出方式(インクジェット法の方式)としては、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、紫外線硬化型インクジェット用組成物の変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。
インクジェット法による紫外線硬化型インクジェット用組成物の吐出は、公知の液滴吐出装置を用いて行うことができる。
【0055】
インクジェット法により吐出された紫外線硬化型インクジェット用組成物は、紫外線の照射により硬化する。
紫外線源としては、例えば、水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線発光ダイオード(UV−LED)、紫外線レーザダイオード(UV−LD)等を用いることができる。中でも、小型、高寿命、高効率、低コストの観点から、紫外線発光ダイオード(UV−LED)および紫外線レーザダイオード(UV−LD)が好ましい。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]インクジェット用組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の製造
(実施例1)
まず、ステンレス鋼の溶湯を用いて、水アトマイズ法により、球形状をなし、平均粒径が9.0μmの金属粉末を製造した(粉末製造工程)。製造された金属粉末は、Fe:69.0wt%、Cr:16.5wt%、Ni:12.5wt%、Mo:2.0wt%の組成を有するものであった。
次に、上記のようにして得られた略球形状の金属粉末を、ジルコニアビーズ(直径:5mm)を用いた遊星ボールミルにより、鱗片形状に異形化(鱗片化)した(鱗片化工程)。本工程は、フェノキシエチルアクリレート中で行った。
【0057】
次に、鱗片化工程で得られた混合物を、超音波分散機に導入し、微細処理を行い、さらにその後、5μmメンブレンフィルターにて濾過を行い、ジルコニアビーズを除去するとともに、金属粉末の粗大粒子をカットして、平均粒子径D50が0.2μmの分散体を得た。
次に、鱗片化した金属粉末を分離し、その後、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、光重合開始剤としてのIrgacure819(チバ・ジャパン社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure TPO(ACETO社製)、光重合開始剤としてのSpeedcure DETX(Lambson社製)、レベリング剤としてのUV−3500(ビックケミー社製)、および、重合禁止剤としてのp−メトキシフェノールと混合することにより、インクジェット用組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)を得た。
【0058】
(実施例2〜10)
インクジェット用組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の調製に用いる原料の種類・比率を変更することにより、表1に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット用組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)を製造した。
【0059】
(比較例1)
金属粉末としてステンレス鋼製の粉末の代わりにAg粉末を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット用組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)を製造した。
(比較例2)
金属粉末としてステンレス鋼製の粉末の代わりにAl粉末を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット用組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)を製造した。
【0060】
(比較例3)
金属粉末として、鱗片化処理を施していない球形状の粉末を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェット用組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)を製造した。
(比較例4)
前記実施例1と同様にして得られた鱗片状の金属粉末と、1,2−ヘキサンジオールと、トリメチロールプロパンと、サーフィノール465(日信化学工業社製)と、トリエタノールアミンと、グリセリンと、ポリフロー401(日信化学工業社製)と、イオン交換水とを混合することにより、インクジェット用組成物を製造した。すなわち、本比較例のインクジェット用組成物は、紫外線の照射により硬化する重合性化合物を含まないものである。
【0061】
前記各実施例および比較例について、インクジェット用組成物の組成を、表1にまとめて示した。なお、表中、フェノキシエチルアクリレートを「PEA」、アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルを「VEEA」、トリプロピレングリコールジアクリレートを「TPGDA」、ジプロピレングリコールジアクリレートを「DPGDA」、N−ビニルカプロラクタムを「VC」、ベンジルメタクリレートを「BM」、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートを「DMTCDDA」、アミノアクリレートを「AA」、ウレタンアクリレートを「UA」、Irgacure 819(チバ・ジャパン社製)を「ic819」、Speedcure TPO(ACETO社製)を「scTPO」、Speedcure DETX(Lambson社製)を「scDETX」、UV−3500(ビックケミー社製)を「UV3500」、p−メトキシフェノールを「pMP」、4−ヒドロキシブチルアクリレートを「HBA」、1,2−ヘキサンジオールを「1,2HD」、トリメチロールプロパンを「TMP」、サーフィノール465(日信化学工業社製)を「S465」、トリエタノールアミンを「TEA」、グリセリンを「GL」、ポリフロー401(日信化学工業社製)を「PF401」で示した。また、各インクジェット用組成物中に含まれるそれぞれ任意の10個の金属粒子について観察を行い、投影面積が最大となる方向から観察した際(平面視した際)の面積S[μm]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S[μm]に対する比率(S/S)を求め、これらの平均値を、表1にあわせて示した。また、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された前記各実施例のインクジェット用組成物(紫外線硬化型インクジェット用組成物)の20℃における粘度は、いずれも、3mPa・s以上15mPa・s以下の範囲内の値であった。
【0062】
【表1】

【0063】
[2]液滴吐出の安定性評価(吐出安定性評価)
前記各実施例および各比較例のインクジェット用組成物を用いて、下記に示すような試験による評価を行った。
まず、チャンバー(サーマルチャンバー)内に設置した液滴吐出装置および前記各実施例および各比較例のインクジェット用組成物を用意し、ピエゾ素子の駆動波形を最適化した状態で、25℃、55%RHの環境下で、各色のインクについて、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、2000000発(2000000滴)の液滴の連続吐出を行った。その後、液滴吐出装置の運転を停止し、液滴吐出装置の流路に各インクが充填された状態で、25℃、55%RHの環境下に、120時間放置した。
【0064】
その後、液滴吐出ヘッドの各ノズルから、25℃、55%RHの環境下で、3000000発(3000000滴)の液滴の連続吐出を行った。上記120時間放置した後の、液滴吐出ヘッドの中央部付近の指定したノズルから吐出された3000000発の液滴について、着弾した各液滴の中心位置の中心狙い位置からのズレ量dの平均値を求め、以下の5段階の基準に従い、評価した。この値が小さいほど飛行曲がりの発生が効果的に防止されていると言える。
【0065】
A:ズレ量dの平均値が0.09μm未満。
B:ズレ量dの平均値が0.09μm以上0.15μm未満。
C:ズレ量dの平均値が0.15μm以上0.18μm未満。
D:ズレ量dの平均値が0.18μm以上0.22μm未満。
E:ズレ量dの平均値が0.22μm以上。
【0066】
[3]インクジェット用組成物の保存安定性評価(長期安定性評価)
前記各実施例および各比較例のインクジェット用組成物について、40℃の環境下に、30日間放置した後、目視による観察を行い、以下の5段階の基準に従い、評価した。
A:金属粉末の凝集・沈降が全く認められない。
B:金属粉末の凝集・沈降がほとんど認められない。
C:金属粉末の凝集・沈降がわずかに認められる。
D:金属粉末の凝集・沈降がはっきりと認められる。
E:金属粉末の凝集・沈降が顕著に認められる。
【0067】
[4]硬化性
前記各実施例および各比較例のインクジェット用組成物について、エプソン製インクジェットプリンター;PM800Cへ導入し、基材として三菱樹脂(株)製、ダイアホイル G440E(厚さ38μm)を用いて、インク量wet 9g/mにて、ベタ印刷を行い、印刷後、ただちにLED−UVランプ;フォセオン社製 RX firefly(ギャップ6mm 1000mW/cm)を用いて紫外線の照射を行い、インクジェット用組成物が硬化したか否かを確認し、以下の5段階の基準に従い、評価した。硬化したか否かは、綿棒にて表面をこすって、未硬化のインク組成物が付着しないか否かで判断した。なお、下記A〜Eの照射量に該当するかどうかは、ランプを何秒照射したかによって算出できる。
【0068】
A:100mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
B:100mJ/cm以上200mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
C:200mJ/cm以上500mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
D:500mJ/cm以上1000mJ/cm未満の紫外線照射量にて硬化した。
E:1000mJ/cm以上の紫外線照射量にて硬化する。もしくはまったく硬化 しない。
【0069】
[5]記録物の製造
各実施例および各比較例について製造直後のインクジェット用組成物を用いて、それぞれ、以下のようにして、記録物としてのインテリアパネルを製造した。
まず、製造直後のインクジェット用組成物をインクジェット装置に投入した。
その後、ポリカーボネート(旭硝子社製、カーボグラス ポリッシュ 2mm厚)を用いて成形した曲面部を有する基材(記録媒体)上に、所定のパターンで、インクジェット用組成物を吐出した。
【0070】
その後、365nm、380nm、395nmの波長に極大値を有するスペクトルの紫外線を照射を、照射強度180mW/cmを20秒間照射し、基材上のインクジェット用組成物を硬化させ、記録物としてのインテリアパネルを得た。
上記のような方法を用いて、各実施例および各比較例のインクジェット用組成物を用いて、それぞれ、10個のインテリアパネル(記録物)を製造した。
【0071】
また、基材として、ポリエチレンテレフタレート(三菱樹脂社製 ダイヤホイル G440E 38μm厚)を用いて成形したもの、低密度ポリエチレン(三井化学東セロ社製 T.U.X(L−LDPE) HC−E #80)を用いて成形したもの、2軸延伸ポリプロピレン(三井化学東セロ社製 OP U−1 #60)を用いて成形したもの、硬質塩化ビニル(アクリサンデー社製 サンデーシート(透明)0.5mm厚)を用いて成形したものを用いた以外は、上記と同様にして、各実施例および各比較例のインクジェット用組成物を用いて、それぞれ、10個ずつのインテリアパネル(記録物)を製造した。
【0072】
[6]記録物の評価
上記のようにして得られた各記録物について、以下のような評価を行った。
[6.1]記録物の外観評価
前記各実施例および比較例で製造した各記録物を目視により観察し、以下の7段階の基準に従い、評価した。
【0073】
A:高級感に溢れる光沢感を有し、極めて優れた外観を有している。
B:高級感に溢れる光沢感を有し、非常に優れた外観を有している。
C:高級感のある光沢感を有し、優れた外観を有している。
D:高級感のある光沢感を有し、良好な外観を有している。
E:光沢感に劣り、外観がやや不良。
F:光沢感に劣り、外観が不良。
G:光沢感に劣り、外観が極めて不良。
【0074】
[6.2]光沢度
前記各実施例および比較例で製造した各記録物のパターン形成部について、光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268)を用い、煽り角度60°での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
A:光沢度が300以上。
B:光沢度が200以上300未満。
C:光沢度が100以上200未満。
D:光沢度が100未満。
【0075】
[6.3]耐擦性
前記各実施例および比較例に係る記録物について、記録物の製造から48時間経過した時点で、サウザーランドラブテスターを用い、JIS K5701に準じて耐擦性試験を行い、上記[6.2]で述べたのと同様の方法により、耐擦性試験後の記録物についても光沢度(煽り角度60°)を測定し、耐擦性試験前後での光沢度の低下率を求め、以下の基準に従い評価した。
【0076】
A:光沢度の低下率が10%未満。
B:光沢度の低下率が10%以上20%未満。
C:光沢度の低下率が20%以上30%未満。
D:光沢度の低下率が30%以上。
これらの結果を表2に示す。なお、表2中、ポリカーボネート製の基材を用いて製造された記録物を「M1」、ポリエチレンテレフタレート製の基材を用いて製造された記録物を「M2」、低密度ポリエチレン製の基材を用いて製造された記録物を「M3」、2軸延伸ポリプロピレン製の基材を用いて製造された記録物を「M4」、硬質塩化ビニル製の基材を用いて製造された記録物を「M5」で示した。
【0077】
【表2】

【0078】
表2から明らかなように、本発明の紫外線硬化型インクジェット用組成物は、液滴の吐出安定性、保存安定性および硬化性に優れていた。また、本発明の記録物は、優れた光沢感、外観を有しており、パターン形成部の耐擦性にも優れていた。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式により吐出される紫外線硬化型インクジェット用組成物であって、
重合性化合物と、
ステンレス鋼で構成された鱗片状の粉末とを含むことを特徴とする紫外線硬化型インクジェット用組成物。
【請求項2】
前記ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼である請求項1に記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物。
【請求項3】
前記ステンレス鋼は、Fe−Cr−Ni−Mo系合金である請求項1または2に記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物。
【請求項4】
前記ステンレス鋼は、Feを主成分とし、16.0wt%以上18.0wt%以下のCr、12.0wt%以上15.0wt%以下のNi、および、2.0wt%以上3.0wt%以下のMoを含むものである請求項3に記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物。
【請求項5】
前記ステンレス鋼は、Fe、Cr、NiおよびMo以外の成分の含有率の和が、2.0wt%以下のものである請求項3または4に記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物。
【請求項6】
前記粉末は、水アトマイズ法により製造されたものを、鱗片化することにより得られたものである請求項1ないし5のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物。
【請求項7】
前記粉末の平均粒径は、500nm以上2.0μm以下である請求項1ないし6のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物。
【請求項8】
前記重合性化合物として、フェノキシエチルアクリレートを含む請求項1ないし7のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物。
【請求項9】
前記重合性化合物として、前記フェノキシエチルアクリレートに加え、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、および、4−ヒドロキシブチルアクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項8に記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物。
【請求項10】
前記重合性化合物として、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレートおよび/またはアミノアクリレートを含む請求項1ないし9のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物。
【請求項11】
インクジェット方式により吐出される紫外線硬化型インクジェット用組成物を製造する方法であって、
水アトマイズ法によりステンレス鋼で構成された粉末を製造する粉末製造工程と、
前記粉末をビーズとともに攪拌し、前記粉末を鱗片化する鱗片化工程と、
鱗片化された前記粉末を、重合性化合物と混合する混合工程とを有することを特徴とする紫外線硬化型インクジェット用組成物の製造方法。
【請求項12】
前記鱗片化工程は、フェノキシエチルアクリレートの存在下にて行うものである請求項11に記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし10のいずれかに記載の紫外線硬化型インクジェット用組成物を記録媒体上に付与し、その後、紫外線を照射することにより製造されたこと特徴とする記録物。

【公開番号】特開2012−188487(P2012−188487A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51322(P2011−51322)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】