説明

紫外線硬化型オーバープリントニス組成物、そのコーティング方法及びその塗被物

【課題】紫外線硬化型オーバープリントニス組成物による表面光沢加工の、高い生産性、耐擦過性、耐ブロッキング性を維持しながら、更に指紋が付着し難い皮膜を与える紫外線硬化型オーバープリントニス組成物、それを使用した光沢塗被物の製造方法及びその方法で得られる光沢塗被物を提供する。
【解決手段】少なくとも(A)光重合性化合物と(B)光重合開始剤とを含有する紫外線硬化型オーバープリントニス組成物において、更に(C)フローレン(商標)NAF−250を固形分として、上記紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の溶剤を除く成分中、0.05〜4質量%含有する紫外線硬化型オーバープリントニス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型オーバープリントニス組成物、そのコーティング方法及び塗被物に関し、更に詳しくは、印刷等により絵柄や模様、文字等の装飾が施されていてもよいフィルム状、シート状、板状等の各種基材の表面上にコーティングすることにより、耐擦過性や光沢を付与するとともに、更に指紋の付着を防止する性能を付与できる紫外線硬化型オーバープリントニス組成物、そのコーティング方法及び塗被物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フィルム状、シート状、板状等の各種基材の表面、又はその基材の表面に印刷等により施された絵柄や模様、文字等の装飾の上に紫外線硬化型オーバープリントニスをコーティングすることにより、その基材自体の表面、或いは装飾加工面を保護や光沢処理することが広く行われている。このような表面加工に紫外線硬化型オーバープリントニスを使用する場合、基材表面にニスを塗布してから紫外線を照射すると瞬時に硬化して高い光沢の皮膜が形成できるので、従来のビニール張り加工等に比べて高い生産性が得られるという特徴がある。更に、紫外線硬化型オーバープリントニスは有機溶剤等のVOCを大気中に放出しないので、環境保護の観点からも好ましい材料である。すなわち、高い生産性と環境保護とを両立することが可能な優れた材料であるので、従来行われてきたビニール張り加工や、溶剤性コーティング剤による塗布加工から急速に置き換えが進んでいる。このような表面ニス加工は、雑誌の表紙、絵本、ポスター、カレンダー等の印刷物、美装ケース等の紙器製品等広く利用され、我々の生活に身近なものとなっている。
【0003】
ところで、紫外線硬化型オーバープリントニスは、構成材料として含有させるオリゴマーやモノマーを工夫したり、添加剤を加えたりすることによって、基材に対する密着性、高光沢性や耐ブロッキング性等、様々な機能を付与できることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、「1個以上の水酸基を有する(メタ)アクリレートと、他のエチレン性不飽和基を有する単量体とを重合して得られる共重合体の水酸基に、1個のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体のカルボキシル基をエステル化反応させた反応性樹脂(A)と、紫外線硬化型の反応性希釈剤(B)と、光開始剤(C)と、を含有する紫外線硬化型オーバープリントワニス組成物」を用いることによって、密着性が高く、かつ耐溶剤性及び耐薬品性に優れ、更に表面光沢にも優れた硬化皮膜が得られるとする発明が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、「紫外線硬化成分と体質顔料を含有させた紫外線硬化型オーバープリントワニス組成物」を用いることによって、各種基材の表面に、優れた耐熱性、耐ブロッキング性(非密着性)に加えて、高荷重の条件下でも安定した滑り性能を付与することができ、その結果、二枚差し等の繰り出し不良の発生を防止でき、後工程の作業性も向上することができるとする発明が開示されている。
【0006】
このように、紫外線硬化型オーバープリントニス組成物は単に生産性や環境調和性が優れるだけでなく、その処方を工夫することにより、様々な機能を付与することができるのも大きな特徴の一つである。
【0007】
ところで、市場では、以前より、紫外線硬化型オーバープリントニスによって施したコーティング皮膜(以下、単に「コーティング皮膜」ともいう。)表面における指紋の付着が問題となっていた。これは、指で触れた際に付着した指紋が白く浮き出たように見える現象で、特にコーティング皮膜の下地が黒色や紺色等、濃い色の場合に顕著に目立つものである。この問題は、例えば、コーティング皮膜を施した黒色等の商品化粧箱を店頭に置いておいた場合等に起こりやすい。すなわち、買い物客が商品の化粧箱に手を触れるたびに指紋が付着するので、何人もの買い物客が繰り返し商品を手に取れば、やがて化粧箱は指紋だらけになって白く汚れてしまい、商品の外観を著しく損なう結果、購買意欲を削ぐことになる。そこで、指紋による汚れを防止するために、コーティング皮膜を施した化粧箱の外側に、わざわざビニール包装をする等の対策がとられるが、ビニール包装作業という無駄な工程を必要とするばかりか、廃棄物を増加させる原因にもなっている。
【0008】
以上の理由から、市場では長い間、指紋の付着し難いコーティング皮膜を形成できる紫外線硬化型オーバープリントニスが切望されてきた。しかしながら、いくら紫外線硬化型オーバープリントニスに様々な機能を付与することができるといっても、このような要望に応えることのできる安価な紫外線硬化型オーバープリントニスはこれまで存在しなかったのが実情である。
【特許文献1】特開平10−17787号公報
【特許文献2】特開2004−315546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高い生産性、耐擦過性、耐ブロッキング性を維持しながら、更に指紋が付着し難い皮膜を与える安価な紫外線硬化型オーバープリントニス組成物、それを使用した光沢塗被物の製造方法及びその方法で得られる光沢塗被物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の添加剤を含有する紫外線硬化型オーバープリントニス組成物を塗布対象物に塗工して活性エネルギー線で硬化させることにより、上記課題を全て解決し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)少なくとも(A)光重合性化合物と(B)光重合開始剤とを含有する紫外線硬化型オーバープリントニス組成物において、更に(C)フローレン(商標)NAF−250を固形分として、上記紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の溶剤を除く成分中、0.05〜4質量%含有することを特徴とする紫外線硬化型オーバープリントニス組成物に関する。
また本発明は、(2)上記(A)光重合性化合物が、(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有する光重合性化合物である上記(1)項記載の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物に関する。
また本発明は、(3)更に(D)重量平均分子量1,000〜50,000のアクリル系樹脂を含有する上記(1)項又は(2)項記載の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物に関する。
また本発明は、(4)25℃において、ザーンカップR♯4で測定した時の流出秒数が20〜60秒の粘度である上記(1)項〜(3)項のいずれか1項記載の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物に関する。
また本発明は、(5)上記(1)項〜(4)項のいずれか1項記載の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物を使用することを特徴とする光沢塗被物の製造方法に関する。
また本発明は、(6)上記(5)項記載の光沢塗被物の製造方法によって得られることを特徴とする光沢塗被物に関する。
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物は、(A)光重合性化合物及び(B)光重合開始剤に加えて、更に(C)フローレン(商標)NAF−250を含むものである。
【0013】
本発明で用いられる(A)光重合性化合物としては、光重合開始剤の存在下、重合して高分子量化することができるモノマーやオリゴマー等を挙げることができる。このような光重合性化合物としては、例えば、分子内に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1つ有するモノマー、オリゴマー等が挙げられる。これら光重合性化合物は1種でも、あるいは2種以上を組み合わせても良い。
【0014】
分子内に(メタ)アクリロイル基を1個有するモノマーとしては、例えば、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;ブトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルアクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの(メタ)アクリル酸エステル;ヘキサエチレングリコールモノフェニルエーテル等のポリアルキレングリコールモノアリールエーテルの(メタ)アクリル酸エステル;イソボニル(メタ)アクリレート;グリセロール(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が例示できる。
【0015】
分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上有するモノマーとしては、例えば、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びこれらがエチレンオキサイド(EO)又はプロピレンオキサイド(PO)で変性されたもの等が例示できる。
【0016】
分子内に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有するオリゴマーとしては、上記モノマーの1種又は2種以上を適宜重合させて得られたものを用いることができる。
【0017】
上記紫外線硬化型オーバープリントニス組成物における、(A)光重合性化合物の含有量は、組成物の全固形分中に50〜95質量%であることが好ましい。ここで、「全固形分」とは、溶剤が含まれていない状態の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物に含まれる全成分という意味である。すなわち、「溶剤を除いた成分」という意味であるので、モノマー、オリゴマーや各種添加剤等は液体であっても「固形分」の一つに含まれる。
【0018】
なお、これら光重合性化合物の中でも、基材への染み込みを防止し光沢を低下させないために、25℃での粘度が50mPa・s以下である低粘度成分が少ない方が好ましい。例えば、低粘度の光重合性化合物である1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(5〜10mPa・s)、トリプロピレングリコールジアクリレート(8〜20mPa・s)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(3〜10mPa・s)、PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート(12〜22mPa・s)、ジプロピレングリコールジアクリレート(5〜15mPa・s)等は、紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の全固形分中に30質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1〜20質量%である。なお、上記粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製DVM−BII型粘度計)により測定した値である。
【0019】
本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物は、更に(D)アクリル系樹脂を含有することが好ましい。
本発明で用いられる(D)アクリル系樹脂としては、下記の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を単独重合又は共重合して得られる樹脂、また、下記の(メタ)アクリロイル基を有する化合物とその他の共重合可能なラジカル重合性不飽和単量体とを共重合して得られる樹脂等を挙げることができる。更に、これら(メタ)アクリロイル基を有する化合物、その他の重合可能なラジカル重合性不飽和単量体の重合時の組成比率は、アクリル系樹脂のガラス転移温度がおよそ120℃以下となるように適宜組み合わせた組成比率であって良い。
【0020】
ここで、(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルブチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;N,N−ジメチルアミノ−2−エチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノ−3−プロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類等を挙げることができる。また、その他の共重合可能なラジカル重合性不飽和単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類等が挙げられる。
【0021】
なお、これらの中でも、上記光重合性化合物(A)との相溶性の点から、芳香環を有する化合物を利用することが好ましい。また、基材との密着性及び紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の硬化性を向上する観点から、少なくとも1つのアミノ基を有し、且つ増感機能を有する(メタ)アクリル酸エステルから選択される少なくとも1種の化合物と、他の共重合可能な(メタ)アクリロイル基を有する化合物やラジカル重合性不飽和単量体との共重合体が好ましく、〔少なくとも1つのアミノ基を有し、且つ増感機能を有する(メタ)アクリル酸エステルから選択される少なくとも1種の化合物〕:〔他の共重合可能な化合物〕=5:95〜75:25の質量比率で共重合して得られるアクリル系樹脂を使用するのがより好ましい。なお、ここでいう「増感作用」とは、後記する水素引き抜き型の光重合開始剤による重合反応を促進する作用のことである。こうした増感作用は、アミノ基を含有する化合物一般に見られるものだが、特に三級のアミノ基を有する化合物において顕著な作用が得られる。このような少なくとも1つのアミノ基を有し、且つ増感機能を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、上記のアミノ基含有(メタ)アクレート類が例示される。
上記アクリル系樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
なお、上記アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、次式のwoodの近似式によって求めた理論値を示す。
1/Tg=(W1/T1)+(W2/T2)+(W3/T3)+・・・・・・
(式中、Tgはアクリル系樹脂のガラス転移温度(絶対温度)を示し、W1、W2、W3・・・・はアクリル系樹脂中における単量体の重量分率を示し、T1、T2、T3・・・・はその単量体からなる単一重合体のガラス転移温度(絶対温度)を示す。)
【0023】
上記アクリル系樹脂の重量平均分子量は、例えば、1,000〜50,000、より好ましくは5,000〜15,000にするのが良い。50,000という上限値は、光沢を維持することを考慮して定めた数値である。また、1,000という下限値は、基材への密着性を維持することを考慮して定めた数値である。
【0024】
上記アクリル系樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法によって測定することができる。一例としては、Water 2690(ウォーターズ社製)で、カラムとしてPLgel 5μ MIXED−D(Polymer Laboratories社製)を使用して行いポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができる。
【0025】
また、上記アクリル系樹脂(D)の含有量は、上記紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の全固形分中に1〜30質量%、好ましくは、1〜25質量%の範囲である。1質量%という下限値は、基材への密着を維持することを考慮して定めた数値である。また、30質量%という上限値は、光沢を維持することを考慮して定めた数値である。
【0026】
次に、本発明における(B)光重合開始剤としては、活性エネルギー線照射によって、容易に開裂して2個のラジカルができる光開裂型の光重合開始剤、若しくは水素引き抜き型の光重合開始剤、又はこれらを組み合わせたものを使用することができる。これらの光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p′−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインn−プロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンゾインジメチルケタール、チオキサントン、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,4,6,−トリメチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタノン等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
上記光重合開始剤の使用量は、上記光重合性化合物(A)とアクリル系樹脂(D)の合計量100質量部に対して、2〜15質量部の範囲が適当である。
【0028】
本発明における(C)フローレン(商標)NAF−250は、共栄社化学株式会社より入手することができる。(C)成分を配合することにより、皮膜の指紋付着性を低下させることができる。
【0029】
本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物における(C)フローレン(商標)NAF−250の含有量は、組成物の溶剤を除く成分中に固形分として0.05〜4質量%、より好ましくは0.05〜1質量%である。なお、フローレン(商標)NAF−250の固形分は40質量%である。ここで、0.05質量%という下限値は、十分な耐指紋付着性を得ることを考慮して定めた数値である。また、4質量%という上限値は、ピンホールが発生したり、ニスが基材に浸透して光沢低下を防止することを考慮して定めた数値である。なお、「組成物の溶剤を除く成分中」とは、紫外線硬化型オーバープリントニス組成物中に希釈溶剤や各添加剤を溶解させる溶剤が含まれている場合もあり、その場合においては溶剤を含めない他の成分の合計質量であることを意味する。
【0030】
また、必要に応じて、本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物には、他に本発明の効果を妨げない範囲で、ワックス、可塑剤、レベリング剤、溶剤、重合禁止剤、老化防止剤、光増感剤、非シリコーン系消泡剤等を添加することもできる。
【0031】
ところで、紫外線硬化型オーバープリントニス組成物には、レベリングの向上や、滑り性の付与を目的として、シリコーン系の添加剤を使用するのが一般的であるが、これらシリコーン系の添加剤を使用しない事が好適であることも本発明の特徴の一つである。シリコーン系添加剤とは、ジメチルシロキサン、変性ジメチルシロキサン等のことであり、これらが0.05質量%以上含まれると、著しく耐指紋付着性が低下する。
【0032】
本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物は、上記構成成分を均一に混合して得られ、通常、溶剤を使用しないで、或いはアルコールに溶解させて使用される。
【0033】
本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の粘度としては、ザーンカップR♯4で測定した25℃における流出秒数が20〜60秒の範囲であることが好ましい。粘度が20秒以上ならば、ニスの基材への浸透が防止され、光沢が維持される。また、粘度が60秒以下ならば、良好なニスの塗工適性が得られる。好ましくは25〜40秒である。
上記範囲の粘度を有する紫外線硬化型オーバープリントニス組成物は、上記(A)〜(D)の構成成分を適宜選択し、適量使用することによって得ることができる。
【0034】
次に本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物を使用して光沢塗被物(塗工物)を製造する方法について説明する。
先ず、フィルム状、シート状、板状等の各種基材の表面、又は、必要であれば、予め印刷等により絵柄や模様、文字等の装飾を施した各種基材の表面に、本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物を各種塗工・印刷手段を用いて塗工する。紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の塗工量は通常0.5〜15g/m、好ましくは2〜10g/mである。続いて、活性エネルギー線を照射して塗工したオーバープリントニス組成物を硬化させて、硬化皮膜を形成する。この工程により皮膜の硬化は終了するが、再度、同様の工程を繰り返すことにより、より光沢の高い強固な皮膜を形成することができる。具体的には最初に形成された硬化皮膜の上に、更に本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物を通常0.5〜15g/m、好ましくは2〜10g/mとなるように塗工した後、活性エネルギー線を照射して塗工したオーバープリントニス組成物を硬化させる。
【0035】
また、上記活性エネルギー線としては、例えば、紫外線又は電子線を使用することができる。活性エネルギー線として紫外線を使用する場合には、照射強度80〜280W/cmの高圧水銀ランプやメタルハライドランプ等を用いて、積算光量15〜400mJ/cmの紫外線を照射し、ニスの塗膜を硬化させる。ここで、積算光量は、EIT社製UVIMAP UM−365HS型積算光量計で測定することができる。また、活性エネルギー線として電子線を使用する場合には、通常の電子線照射装置を用いて、2〜5Mradの照射強度で照射し、ニスの塗膜を硬化させる。
【0036】
本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物を用いる対象基材としては、例えば、コート紙、アート紙、マットコート紙、アルミ蒸着紙等のセルロースを主成分とした普通紙の他、ユポ(登録商標)等の合成紙、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド等のフィルム、シート、又はそれらで処理した紙等が挙げられる。
【0037】
本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物を基材に塗工・印刷する方法としては、例えば、カーテンフローコート、ロールコート、バーコート、スプレーコート等の通常の塗工方法、又は、オフセット、グラビアオフセット、グラビア方式による通常の印刷方法を用いることができる。
【0038】
上記の製造方法によって得られる塗被物は、高い光沢を有し、耐擦過性、耐ブロッキング性が良好で、更に指で触れても指紋が付着し難いという特徴を有する。
【発明の効果】
【0039】
本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物は、上述した構成よりなるので、これを使用することにより、紫外線硬化型ニスの高い生産性、耐擦過性及び耐ブロッキング性を維持しつつ、しかも指紋の付着し難い塗被物を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0041】
実施例1
コート紙(基材)に墨の紫外線硬化型インキ(以下、UVインキという。)をRI展色機(株式会社明製作所製)を用いて展色し、その直後にハンドプルーファーにて、下記の組成からなる紫外線硬化型オーバープリントニス組成物を5〜8g/mとなる量で塗工し、高圧水銀ランプを40mJ/cmに設定し、照射を行い、実施例1の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量10000) 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 54部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
フローレンNAF−250 1部
【0042】
実施例2
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、実施例2の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量2000) 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 54部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
フローレンNAF−250 1部
【0043】
実施例3
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、実施例3の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量40000) 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 54部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
フローレンNAF−250 1部
【0044】
実施例4
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、実施例4の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量10000) 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 50部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
フローレンNAF−250 5部
【0045】
実施例5
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、実施例5の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量800) 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 54部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
フローレンNAF−250 1部
【0046】
実施例6
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、実施例6の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量60000) 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 25部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 49部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
フローレンNAF−250 1部
【0047】
実施例7
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、実施例7の光沢塗被物を得た。
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 54部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
フローレンNAF−250 1部
【0048】
実施例8
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、実施例8の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量2000) 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 54.8部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
フローレンNAF−250 0.2部
【0049】
比較例1
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、比較例1の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量10000) 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 55部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
【0050】
比較例2
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、比較例2の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量10000) 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 55部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
フローレンNAF−250 15部
【0051】
比較例3
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、比較例3の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量10000) 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 54.9部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
BYK−302(ポリジメチルシロキサン) 0.1部
【0052】
比較例4
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、比較例4の光沢塗被物を得た。
アクリル系樹脂(スチレン/ジメチルアミノエチルメタクリレート(50/50)の共重合体、重量平均分子量800) 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 55部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
【0053】
比較例5
紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の組成を下記のように変えた以外は実施例1と同一条件にて、比較例5の光沢塗被物を得た。
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 15部
トリプロピレングリコールジアクリレート 20部
EO変性ビスフェノールAジアクリレート 55部
開始剤(ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン) 10部
【0054】
評価方法
<粘度>
上記で得られた実施例1〜8、比較例1〜5の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物について、ザーンカップR♯4を用いて25℃における流出秒数を測定した。実施例1〜8、比較例1〜5で得られた組成物は、すべて流出秒数が25〜60秒の範囲内であった。
【0055】
<指紋の付着の程度>
上記で得られた実施例1〜8、比較例1〜5の塗被物の作成直後における指紋の付着の程度を、触指試験にて評価した。結果を表1に示す。
A:指紋が付着しにくく、指紋による汚れがほとんどみられない。
B:指紋は付着するが程度は軽度であり、指紋による汚れはわずかである。
C:指紋が著しく付着し、指紋による汚れが目立つ。
【0056】
<光沢>
塗被物の作成直後及び1日後の光沢を測定した。測定には、村上式デジタル光沢計(村上色彩研究所製)を用いて、60°反射光沢を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
<UVインキとの密着性>
また、インキとの密着性については、紫外線硬化型オーバープリントニス組成物を塗工した展色物に対して、1日後、セロハンテープ剥離試験を行い、その剥離状態を観察することにより評価した。結果を表1に示す。
A:UVインキと基材との間で剥離が起こり、UVインキとコーティング皮膜との密着性は、基材とUVインキとの密着性より高いことを示す。
B:コーティング皮膜とUVインキとの間で剥離し、UVインキとコーティング皮膜との密着性は、基材とUVインキとの密着性より低いことを示す。
【0058】
<レベリング性>
製造直後の塗膜のレベリング性を目視評価した。結果を表1に示す。
A:ピンホールが観察されず、レベリングは良好である。
B:ピンホールが観察され、レベリングは不良である。
【0059】
【表1】

【0060】
適量のフローレンNAF−250を添加した実施例の塗被物では、触指試験において指紋付着性が優れていたのに対し、比較例(添加しなかった例、添加量が多すぎる例)では、指紋付着性が劣っていた。また、実施例では、実用性を有する光沢値、密着性、レベリング性も有していた。
【0061】
なお、密着性がBランクである実施例5の塗被物は比較例4の塗被物に対して、また、実施例7の塗被物は比較例5の塗被物に対して、それぞれ、紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の硬化成分であるEO変性ビスフェノールAジアクリレート55部のうちの1部を、フローレンNAF−250に振り替えたものである。このような関係において、実施例5と比較例4の塗被物、実施例7と比較例5の塗被物では、UVインキとコーティング皮膜との密着性の差は認められなかったため、フローレンNAF−250は密着性を低下させる成分ではないといえる。更に、いずれの塗被物も実用上、利用可能な密着性を有することを確認したことから、少なくとも紫外線硬化型オーバープリントニス組成物のその他の成分で実用的な密着性を有する限り、フローレンNAF−250を添加しても実用性を維持できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物によるコーティング皮膜を施した塗被物は指紋が付着し難い特性を有する。したがって、このコーティング皮膜を施した商品化粧箱等は、例えば、買い物客が繰り返し商品を手に取っても指紋により白く汚れることが少なく、商品の美観を維持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)光重合性化合物と(B)光重合開始剤とを含有する紫外線硬化型オーバープリントニス組成物において、
更に(C)フローレン(商標)NAF−250を固形分として、前記紫外線硬化型オーバープリントニス組成物の溶剤を除く成分中、0.05〜4質量%含有する
ことを特徴とする紫外線硬化型オーバープリントニス組成物。
【請求項2】
前記(A)光重合性化合物が、(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有する光重合性化合物である請求項1記載の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物。
【請求項3】
更に(D)重量平均分子量1,000〜50,000のアクリル系樹脂を含有する請求項1又は2記載の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物。
【請求項4】
25℃において、ザーンカップR♯4で測定した時の流出秒数が20〜60秒の粘度である請求項1、2又は3記載の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の紫外線硬化型オーバープリントニス組成物を使用することを特徴とする光沢塗被物の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の光沢塗被物の製造方法によって得られることを特徴とする光沢塗被物。

【公開番号】特開2009−73942(P2009−73942A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244390(P2007−244390)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000105947)サカタインクス株式会社 (123)
【Fターム(参考)】