説明

紫外線硬化性コーティングニス

【課題】 UV−LED光源の硬化性に優れ、且つ、皮膜の割れや黄変を生じさせない、紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを提供することにある。
【解決手段】 アミン変性アクリレート、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤に蛍光増白剤を併用することで硬化皮膜の割れや黄変を抑制しつつ、硬化性を向上させた紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線光源として発光ダイオード(LED)によるUV硬化システムにおいて好適に硬化する紫外線硬化性コーティングニスに関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線硬化型印刷物の製造には、光源として低圧、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等の紫外線ランプ(UVランプ)が硬化システムとして広く用いられてきた。
【0003】
近年、紫外線発光ダイオード(UV−LED)を光源とした照射モジュールが開発され、UV印刷分野への実用化が検討されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
UV−LEDは既存のUVランプ方式と比較して光源寿命が長く、省エネルギー性において大きく優れていることから、LED光源の実用化は印刷業界各社から強く要望されるものである。
【0005】
一方で、UV−LEDの短所として、ランプ光源と比較してUV組成物の皮膜硬化性が大きく劣る点が挙げられ、本方式が広まらない障害と成っている。
【0006】
原因として、既存のUV−LED光源は発光波長域が365〜420nmに限られており、広域波長の紫外線を発するランプ光源と比較して紫外線エネルギーの総量が小さく、光重合開始剤から生成するラジカルの発生量が少ない為に、重合反応が酸素阻害の影響を受けやすいことが挙げられる。また、相対的に短波長領域の紫外線エネルギー量が不足することから、LED照射により得られた紫外線組成物は、一般に皮膜表面の硬化性が劣る傾向が確認される。
【0007】
しかし光源のハイパワー化とLEDの発光波長に適した紫外線組成物の開発が進み、近年、UV−LED光源を搭載したオフセット印刷機が登場し、UV−LED対応組成のカラー印刷インキを乾燥させることが可能となった。
【0008】
現在は、高光沢等の意匠性や、印刷表面における機械的強度の付与を目的としたLED対応組成のUVコーティングニスの登場が待望されるが、LED硬化方式において無色透明のコーティングニスは特に皮膜表面の乾燥が劣る傾向があり、カラーインキと比較して設計が困難であった。
【0009】
コーティングニスの乾燥が劣る理由として、UV−LEDと好適に反応する光重合開始剤の多くが、反応時に黄変を呈する傾向を有しており、顔料を含むカラーインキでは黄変の影響は大きな問題とはならないが、無色透明のコーティングニスでは塗膜の黄変が顕著に現れてしまう為、実用可能な範囲に黄変を抑える為には、光重合開始剤の種別、使用量が大幅に制限されてしまうことが挙げられる。
加えて、コーティングニスは例えばオフセット用途のカラーインキと比較して相応に低粘度である為に、空気中酸素の浸透に起因する酸素阻害の影響をより強く受けてしまうことも一因である。
【0010】
フィルムカバーによりコーティングニス表面を覆った状態でLED照射することで、酸素阻害の影響を無くして良好な硬化状態の印刷物を得ることが期待される。
【0011】
また、フィルムカバーの無い状態でUV−LEDにより硬化するUVコーティングニスの例として、アミン変性アクリレートとアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の併用により、LED硬化良好なコーティングニス印刷物が得られることが確認できている。
【0012】
しかしながら、フィルムカバーの無い状態でUV−LEDにより硬化するUVコーティングニスに関しては、更なる硬化性の向上が期待されており、アミン変性アクリレートや、高反応性モノマー、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤、チオキサントン化合物の割合を更に増量すれば、硬化後の皮膜の割れや黄変、重合開始剤の析出といった問題が発現する。これら諸問題を抑制しつつ更に硬化レベルを向上させるUV−LED専用のUVコーティングニスの提供が望まれる。
【0013】
【特許文献1】特開2006−511684
【特許文献2】特開2006−176734
【特許文献3】特開2006−206875
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、UV−LED光源の硬化性に優れ、且つ、皮膜の割れや黄変を生じさせない、紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、アミン変性アクリレート、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤に蛍光増白剤を併用することで硬化皮膜の割れや黄変を抑制しつつ、硬化性を向上させた紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを見い出し本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、アミン変性アクリレート、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤及び蛍光増白剤を含有することを特徴とする紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを提供する。
【0017】
本発明は、第二に、前記した紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスによって得られる印刷物を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、紫外線光源としてUV−LEDを用いて、硬化膜の割れや黄変がなく、硬化性がさらに向上した紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスと、該ニスによる印刷物を得ることができる。
【0019】
次に、本発明で使用する紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス組成に関して説明する。
【0020】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスに用いるアミン変性アクリレートとしては、アミン変性ポリエーテルアクリレート、アミン変性エポキシアクリレート、アミン変性脂肪族アクリレート、アミン変性ポリエステルアクリレート、アミノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、市販品としては、BASF社製のLaromer PO77F,Laromer PO83F,Laromer PO84F,Laromer PO94F,Laromer LR8997,Laromer LR8889,Laromer LR8869,Laromer LR8996,Laromer LR9019,サートマー社製のCN371,CN372,CN373,CN383,CN374,CN386,ダイセル・サイテック社製のEBECRYL80,EBECRYL81,EBECRYL83,EBECRYL3708,EBECRYL7100,コグニス社製のPHOTOMER4662,4770,4771,4967等が挙げられる。紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス中のアミン変性アクリレートの含有量は、15〜75質量%であり、好ましくは、20〜60質量%である。
【0021】
アミン変性アクリレートの量が少な過ぎる場合には十分な皮膜硬化性が得られず、逆に多過ぎる場合には皮膜の黄変発現が顕著となる可能性がある。
【0022】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスに用いる、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分は、後述の例に示されるが、紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス中に、15〜70質量%含有し、好ましくは、25〜60質量%である。
【0023】
他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分としては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、重合性オリゴマー等、公知慣用であるもの、ランプ方式で実績のあるものが、本発明で述べる紫外線発光ダイオード方式においてもそのまま使用することが可能である。
【0024】
低エネルギーで紫外線硬化性組成物を好適に硬化させるという点では、より反応性の高い3官能以上の紫外線硬化性モノマーを用いたほうが好ましいが、用途に応じて印刷基材への接着性、皮膜の柔軟性等の必要物性を得る為に、適宜単官能、2官能のモノマーを単独もしくは併用することが可能である。
【0025】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシー3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
2官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチルー2−エチルー1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、グリセリン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレンポリオールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
重合性オリゴマーとしては、上述したアミン変性アクリレートの他に、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオレフィン(メタ)アクリレート、ポリスチレン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、特に、4官能以上のモノマーは硬化性や強度の向上に大きく寄与するが、使用量が過剰となると皮膜の柔軟性が損なわれ、割れが発生する場合がある。4官能以上のモノマーの使用量は、10〜30質量%が好ましい。
【0029】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスは、アミン変性アクリレート、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分とともに、光重合開始剤として、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%含有することを主要な特徴としている。
【0030】
アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤としては、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のビスアシルフォスフィンオキサイド類、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−フェニルフォスフィン酸メチルエステル、2−メチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ピバロイルフェニルフォスフィン酸イソプロピルエステル等のモノアシルフォスフィンオキサイド類等が挙げられ、これらの中でも、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のビスアシルフォスフィンオキサイド類が好ましく用いられ、特に、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイドは、紫外線発光ダイオードの発光波長領域に合致するUV吸収波長を有することで、好適な硬化性が得られ、且つ、硬化皮膜の黄変が少ない点でより好ましい。
【0031】
その他、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤以外の光重合開始剤としては、例えば、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2−[2[オキソ−2−フェニル−アセトキシ−エトキシ−]−エチルエステルとオキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−ヒドロキシ−エトキシ]−エチルエステルの混合物、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル等が挙げられ、黄変の発現性はある程度あるものの、前記したアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤と併用することが可能である。
【0032】
蛍光増白剤としては、ベンゾオキサザール、ピラゾリン、スチルベン、トリアジン、チアゾール、トリアゾール、オキサゾール、チオフェン、キサントン、及びクマリンの各誘導体が挙げられ、例えば、2,5−チオフェンジイル(5−tert−ブチル−1,3−ベンゾオキサゾール)、4,4’−ビス(ジフェニルトリアジニル)スチルベン、スチルベニル−ナフトトリアゾール、2,2’−(チオフェンジイル)−ビス(tert−ブチル−ベンゾオキサゾール)、2−(スチルビル−4)−(ナフト−1',2’,4,5)−1,2,3−トリアゾール−2’’−スルホン酸フェニルエステル、7−(4’−クロロ−6’’−ジエチルアミノ−1’,3’,5’−トリアジン−4’−イル)−アミノ−3−フェニル−クマリン、2,5−ビス(6,6’−ビス(tert−ブチル)−ベンゾオキサゾール−2−イル)チオフェン、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン、ジベンゾオキサゾリルエチレン、及びN−メチル−5−メトキシナフトールイミド等が挙げられ、これらの中でも、2,5−チオフェンジイル(5−tert−ブチル−1,3−ベンゾオキサゾール)のベンゾオキサゾール誘導体、2,2’−(チオフェンジイル)−ビス(tert−ブチル−ベンゾオキサゾール)が好ましく用いられ、特に2,5−チオフェンジイル(5−tert−ブチル−1,3−ベンゾオキサゾール)のベンゾオキサゾール誘導体は、硬化性が得られ、且つ、硬化皮膜の黄変が少ない点でより好ましい。
【0033】
これら蛍光増白剤は単独で用いても、2種以上を混合して使用しても良い。蛍光増白剤の最大吸収波長は360〜400nmの範囲にあることが好ましく、350〜420nmの紫外線発光ダイオードによりコーティングニス硬化性の向上効果を示す。
【0034】
蛍光増白剤のコーティングニス中の含有量は0.2〜1.0質量%であり、好ましくは、0.3〜0.7質量%である。含有量が0.2質量%に満たない場合、本発明で述べる硬化性の向上効果が十分に得られず、また1.0質量%を超える場合は保存安定性が低下し、溶解し切れない蛍光増白剤成分が析出する恐れがある。
【0035】
また上述の光重合開始剤に加えて、光増感剤を併用することで、より好適な硬化性を得ることが可能である。350〜420nmの紫外線発光ダイオードに反応し得る光増感剤としては、例えば、チオキサントン系化合物のうち、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン等が挙げられ、黄変の発現性を考慮すると使用量は少量に限定されるが、併用することで皮膜硬化性を好適に向上させることが可能である。
【0036】
また紫外線発光ダイオード発光波長領域に合致するUV吸収特性を有していないものであっても、上述したアミン変性アクリレート以外の3級アミン化合物を水素供与体として併用することでも、好適なUV硬化を得ることが可能である。例えば、脂肪族アミン誘導体としてトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、ジブチルエタノールアミン等が、安息香酸誘導体のアミンとして2−ジメチルアミノエチル安息香酸、2−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル等が、アニリン誘導体のアミンとしてN,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等が挙げられる。
【0037】
これら光増感剤の使用量は黄変への影響を考慮すると、チオキサントン系化合物の場合、コーティングニス中の含有量は0.5質量%以下であり、アミン変性アクリレート以外の3級アミン化合物の場合、2質量%以下であることが好ましい。
【0038】
本発明の第二の形態は、基材上、又は、基材上に印刷された印刷インキ層の上に、アミン変性アクリレートを15〜75質量%、他の紫外線硬化性成分を15〜70質量%、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%、及び、蛍光増白剤を0.2〜1.0%含有する紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスの層を形成し、350〜420nmにピーク波長を有する紫外線発光ダイオード光源で紫外線を照射することにより得られることを特徴とする印刷物である。
【0039】
本発明の印刷物で使用する印刷基材としては、特に限定は無く、例えば、上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、ナイロン、ポリ乳酸、ポリカーボネート等のフィルム又はシート、セロファン、アルミニウムフォイル、その他従来から印刷基材として使用されている各種基材を挙げることが出来る。
【0040】
本発明の印刷物の製造に用いられる印刷インキとしては、紫外線発光ダイオードより発せられる紫外線に対して好適に硬化する組成物であれば特に限定は無く、例えば印刷方式に応じて、オフセット、水無し、グラビア、フレキソ、シルクスクリーン、インクジェット、その他従来から印刷用途に使用されているUV硬化性インキを採用することが可能である。
【0041】
本発明の印刷物を製造するために使用する紫外線発光ダイオード光源より発せられる紫外線の発光波長としては、例えば、発光ピーク波長が350〜420nm程度であるものが好ましい。
【0042】
紫外線発光ダイオード光源よりUV硬化性組成物へ照射される紫外線の積算光量値に関しては、印刷基材上のUV硬化性組成物の種別や印刷層の厚み等により異なる為、厳密には特定出来ず、適宜好ましい条件を選択するものであるが、例えば、積算光量の総和が5〜200mJ/cm程度であり、より好ましくは、10〜100mJ/cm程度である。
【0043】
積算光量値5mJ/cmを下回る条件では十分な硬化性を得ることが困難となり、一方、積算光量値200mJ/cmを超える条件は、本発明で述べる印刷方式においては不必要であり、紫外線発光ダイオード光源の特徴である省エネルギー性を維持する目的においても過剰量のエネルギー照射は行わない。
【0044】
紫外線発光ダイオード光源より印刷基材上のUV硬化性組成物へ照射される紫外線の照射強度(mW/cm)に関しては、印刷方向に並べる紫外線発光ダイオード光源の個数、光源から組成物までの照射距離等の諸条件によっても適切な照射強度範囲が変動することから特に規定はしないが、本発明で述べる印刷方式における印刷基材の移動速度は60〜400m/min.程度であるから、該印刷速度で移動する印刷基材上のUV硬化性組成物に対して、積算光量値が先に述べた程度となる照射強度であることが好ましい。
【実施例】
【0045】
次に実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでは無い。
【0046】
(紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス(実施例ニス−1)の調製)
アミン変性ポリエーテルアクリレート(EBECRYL80)35.0部、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド(DAROCUR TPO)6.5部、ポリエチレンオキサイド#300ジアクリレート(MIRAMER M284)42.6部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとペンタアクリレートの混合物(アロニックスM−402)15.0部、蛍光増白剤(ユビテックスOB)0.2部、ポリエチレンワックスパウダー(サゾールワックスSPRAY40)0.2部、ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体(SH28PA)0.5部の配合で混合し、ミキサーを使用して撹拌分散し、光重合開始剤、光増感剤、および蛍光増白剤を完全に溶解させることで、実施例ニス−1を調製した。
【0047】
((実施例ニス−2〜5)及び(比較例ニス−1〜7)の調製)
原材料を表1〜2に示す配合で混合し、ミキサーを使用して撹拌分散し、光重合開始剤、光増感剤、および蛍光増白剤を完全に溶解させることで、実施例ニス-1と同様の方法で調製した。
【0048】
(印刷物の製造方法)
前記のように調製された紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス(実施例ニス−1〜5及び比較例ニス−1〜7)を、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を用い、0.45mlを使用して、PETフィルム(DIC社製、ダイタックUVPET透明25FL)上、約220cmの面積範囲に、紫外線発光ダイオード硬化性コーティング膜厚が約5μmとなるよう印刷した。
【0049】
(紫外線発光ダイオード光源による乾燥方法)
紫外線発光ダイオード光源として、発光波長ピークが385nmである紫外線発光ダイオード照射装置(パナソニック電工社製、ANUD8002T01)を使用し、紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを印刷したPETフィルムに対して、紫外線発光ダイオード光源の直下を通過させるよう、ラインスピードを振って紫外線照射を施した。積算光量測定にはUNIMETER UIT−150−A(ウシオ電機社製)を使用し、紫外線受光機としてはUVD−C405を用い、ラインスピード120m/min.における積算光量の値を測定したところ、22mJ/cmであった。
【0050】
(コーティングニスの評価方法:成分析出)
紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスを冷蔵庫内(4℃)にて1週間保管し、蛍光増白剤や光重合開始剤の溶解性低下に伴う析出の状態を目視で確認し、次の3段階で評価した。本評価項目において析出の発生する組成では、冬場等、低温環境下においては十分な製品性能を発揮することが出来ない。
3・・・析出は発生せず、コーティングニスの外観が透明である
2・・・コーティングニスに濁りが生じているが、沈殿していない
1・・・成分沈殿が確認される
【0051】
(印刷物の評価方法1:硬化性)
紫外線照射後における印刷物の硬化性の評価方法としては、上質紙によるラビングテストにより硬化皮膜の強度を確認し、皮膜に傷が発生し始めるコンベアスピード(m/min.)を記載した。
【0052】
(印刷物の評価方法2:黄変)
紫外線照射後における硬化皮膜の黄変に起因する色変化を目視で確認し、次の5段階で評価した。
5・・・色変化が全く無い、もしくは殆ど無い
4・・・5と3の中間程度の色変化が確認できる
3・・・若干の色変化が確認できる
2・・・3と1の中間程度の色変化が確認できる
1・・・明確に黄変による色変化が確認できる
【0053】
(印刷物の評価方法3:割れ)
紫外線照射後に硬化皮膜を、印刷表面に対して反対方向に180°の角度で折り曲げ、皮膜表面の状態を目視で確認し、次の3段階で評価した。
3・・・ひび、割れ共に全く発生しない
2・・・若干の亀裂が部分的に確認できる
1・・・皮膜が完全に割れる
【0054】
表1に実施例1〜5及び比較例1,2に記載のコーティングニスの組成、および評価結果を示す。
【0055】
【表1】









・EBECRYL 80:アミン変性ポリエーテルアクリレート(ダイセル・サイテック社製)
・DAROCUR TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製)、
・IRGACURE 819:ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製)、
・MIRAMER M284:ポリエチレンオキサイド#300ジアクリレート(MIWON社製)、
・アロニックス M−402:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとペンタアクリレートの混合物(東亜合成社製)、
・ユビテックス OB:2,5−チオフェンジイル(5−tert−ブチル−1,3−ベンゾオキサゾール)(BASF社製)
・Speedcure DETX:2,4−ジエチルチオキサントン(ランブソン社製)、
・SPRAY40:サゾールワックスSPRAY40、ポリエチレンワックスパウダー(サゾールワックス社製、皮膜表面滑り性の調整剤として添加)、
・SH28PA:ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、基材および下地インキ層との親和性を高めるレベリング剤として添加)。
【0056】
表2に比較例3〜7に記載のコーティングニスの組成、および評価結果を示す。
【0057】
【表2】
























【0058】
実施例の結果において、実施例1,2と比較例1の対応、及び実施例3と比較例2の対応、実施例4と比較例4の対応、実施例5と比較例6の対応において、蛍光増白剤2,5−チオフェンジイル(5−tert−ブチル−1,3−ベンゾオキサゾール)(ユビテックスOB)を0.2〜1.0質量%含有する紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスの硬化性はより良好であり、本発明で述べる紫外線照射条件において硬化皮膜の割れや黄変が発生しない事を確認した。
【0059】
比較例1、4、及び6の結果において、前記蛍光増白剤を添加しない印刷物に関して実施例と比較して硬化性が劣ることを確認した。
【0060】
比較例2、及び5〜7の結果において、前記蛍光増白剤を添加しない印刷物に関して実施例と比較して硬化皮膜が黄変する現象を確認した。
【0061】
比較例3の結果において、前記蛍光増白剤を1.0質量%を超過して添加した場合、蛍光増白剤が析出し、沈殿が発生することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスおよびそれを用いた印刷物は、UV硬化による印刷が求められるグラフィックイメージの印刷、印字図形、プラスチック電子材料などにおいて、高光沢、エンボスパターン、ホログラムパターン転写といった高意匠性を発揮する分野に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン変性アクリレート、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤及び蛍光増白剤を含有することを特徴とする紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項2】
アミン変性アクリレートを15〜75質量%、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分を15〜70質量%、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を5〜15質量%、及び蛍光増白剤を0.2〜1.0質量%含有する請求項1に記載の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項3】
前記した紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分が、1分子中に4官能以上の重合基を有する紫外線硬化性モノマーを含有する請求項1又は2に記載の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項4】
前記したアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤が、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイドである請求項1〜3の何れかに記載の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項5】
前記した蛍光増白剤が、最大吸収波長を360〜400nmの範囲に有する蛍光増白剤である請求項1〜4の何れかに記載の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項6】
前記した蛍光増白剤が、ベンゾオキサゾール誘導体である請求項1〜5の何れかに記載の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項7】
チオキサントン系化合物を0.01〜0.3質量%含有する請求項1〜6の何れかに記載の紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニス。
【請求項8】
基材上、又は、基材上に印刷された印刷インキ層の上に、アミン変性アクリレート、他の紫外線硬化性モノマー及び又はオリゴマー成分、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤、及び蛍光増白剤を含有する紫外線発光ダイオード硬化性コーティングニスの層を形成し、350〜420nmにピーク波長を有する紫外線発光ダイオード光源で紫外線を照射することにより得られることを特徴とする印刷物。

【公開番号】特開2011−213965(P2011−213965A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85954(P2010−85954)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(310000244)DICグラフィックス株式会社 (27)
【Fターム(参考)】