説明

紫外線遮断材料およびその製造方法

【課題】紫外線吸収剤を配合しない場合であっても優れた紫外線遮断性を示す紫外線遮断材料を提供すること。
【解決手段】結晶性ポリグリコール酸系樹脂、好ましくは結晶化度が20%以上の結晶性ポリグリコール酸系樹脂を含有することを特徴とする紫外線遮断材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線遮断材料およびその製造方法に関し、より詳しくは、ポリグリコール酸系樹脂を含有する紫外線遮断材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の紫外線遮断フィルムなどの紫外線遮断材料においては、基体樹脂に紫外線吸収剤や金属ナノ粒子を配合し、材料中を透過する紫外線をこの紫外線吸収剤や金属ナノ粒子に吸収させることによって紫外線遮断性を発現させていた(特開2008−229865号公報(特許文献1)および特開2008−174745号公報(特許文献2)など参照)。
【0003】
しかしながら、紫外線吸収剤や金属ナノ粒子を含有する紫外線遮断材料において、紫外線吸収剤や金属ナノ粒子の含有量が増大すると、紫外線遮断性は向上するものの、含有量が多くなりすぎると製造時に紫外線吸収剤や金属ナノ粒子がブリードアウトしやすくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−229865号公報
【特許文献2】特開2008−174745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、紫外線吸収剤を配合しない場合であっても優れた紫外線遮断性を示す紫外線遮断材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリグリコール酸系樹脂を結晶化させることによって前記ポリグリコール酸系樹脂に紫外線遮断性が付与されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の紫外線遮断材料は、結晶性ポリグリコール酸系樹脂を含有することを特徴とするものである。前記結晶性ポリグリコール酸系樹脂の結晶化度としては20%以上が好ましい。また、本発明の紫外線遮断シートは、このような紫外線遮断材料からなるものである。
【0008】
このような紫外線遮断材料は、ポリグリコール酸系樹脂を200〜300℃に加熱して溶融した後、溶融した該ポリグリコール酸系樹脂を室温まで徐冷して結晶化させることによって製造することができる。このとき、溶融したポリグリコール酸系樹脂を徐冷する際の冷却速度としては、50℃/分以下が好ましい。
【0009】
また、非晶性ポリグリコール酸系樹脂を60〜200℃に加熱して該非晶性ポリグリコール酸系樹脂を結晶化させることによっても製造することができる。前記非晶性ポリグリコール酸系樹脂としては、ポリグリコール酸系樹脂を200〜300℃に加熱して溶融した後、150℃/分以上の冷却速度で急冷して得られるものが好ましい。
【0010】
なお、本発明の紫外線遮断材料が優れた紫外線遮断性を示す理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の紫外線遮断材料は、結晶性ポリグリコール酸系樹脂を含有するものであるが、結晶化したポリグリコール酸系樹脂はポリグリコール酸分子が規則的に配列した結晶構造を形成しており、この結晶構造によって紫外線が反射されるため、結晶性ポリグリコール酸系樹脂を含有する材料が紫外線遮断性を示すものと推察される。また、このような結晶構造による紫外線の反射は樹脂内部においても起こるため、紫外線吸収剤を配合しない場合であっても結晶性ポリグリコール酸系樹脂を含有する材料は優れた紫外線遮断性を示すものと推察される。
【0011】
一方、十分に結晶化していないポリグリコール酸系樹脂や非晶性ポリグリコール酸樹脂を含有する材料においては、ポリグリコール酸分子がランダムに配列しているため、上記のようなポリグリコール酸分子が規則的に配列した結晶構造は形成されていない。このため、上記のような結晶構造による紫外線の反射が起こらず、前記材料中を紫外線が透過するものと推察される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、紫外線吸収剤を配合しない場合であっても優れた紫外線遮断性を示す紫外線遮断材料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例および比較例で得たPGA樹脂シートの紫外線透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
先ず、本発明の紫外線遮断材料について説明する。本発明の紫外線遮断材料は、結晶性ポリグリコール酸系樹脂を含有するものである。以下、「ポリグリコール酸系樹脂」を「PGA系樹脂」と略す。本発明において、「結晶性PGA系樹脂」とは結晶化度が10%以上のものを意味し、結晶化度が10%未満のものは「非晶性PGA系樹脂」とする。なお、本発明においてPGA系樹脂の結晶化度X[%]は次式:
X=(1/ρ−1/ρ)/(1/ρ−1/ρ)×100
〔式中、ρは対象とするPGA系樹脂の密度[g/cm]を表し、ρは結晶化度100%のPGA系樹脂の密度[g/cm]を表し、ρは結晶化度0%のPGA系樹脂の密度[g/cm]を表す。〕
から求められる値である。
【0016】
本発明の紫外線遮断材料において、前記結晶性PGA系樹脂の結晶化度としては、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上が特に好ましい。前記結晶化度が前記下限未満になると十分な紫外線遮断性が得られない傾向にあり、この紫外線遮断性は、前記結晶化度が高くなるにつれて向上する傾向にある。結晶化度の上限は特に制限はないが、通常50%以下である。
【0017】
このような結晶性PGA系樹脂としては、下記式(1):
−[O−CH−C(=O)]− (1)
で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(以下、「PGA単独重合体」という。グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドの開環重合体を含む。)や前記グリコール酸繰り返し単位を含むポリグリコール酸共重合体(以下、「PGA共重合体」という。)などのPGA系樹脂であって結晶化したものが挙げられる。また、本発明の紫外線遮断材料においては、このような結晶性PGA系樹脂を1種単独で使用しても2種以上併用してもよい。
【0018】
前記PGA共重合体を製造する際に、グリコール酸モノマーとともに使用されるコポリマーとしては、シュウ酸エチレン(すなわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなど)カーボネート類(例えば、トリメチレンカーボネートなど)、エーテル類(例えば、1,3−ジオキサンなど)、エーテルエステル類(例えば、ジオキサノンなど)、アミド類(ε−カプロラクタムなど)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物を挙げることができる。これらのコポリマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このようなコポリマーのうち、耐熱性の観点からヒドロキシカルボン酸が好ましい。
【0019】
また、前記PGA系樹脂をグリコリドの開環重合によって製造する場合に使用する触媒としては、ハロゲン化スズ、有機カルボン酸スズなどのスズ系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物といった公知の開環重合触媒が挙げられる。
【0020】
前記PGA系樹脂は従来公知の重合方法により製造することができるが、その重合温度としては、120〜300℃が好ましく、130〜250℃がより好ましく、140〜220℃が特に好ましく、150〜200℃が最も好ましい。重合温度が前記下限未満になると重合が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が熱分解する傾向にある。
【0021】
また、前記PGA系樹脂の重合時間としては、2分間〜50時間が好ましく、3分間〜30時間がより好ましく、5分間〜18時間が特に好ましい。重合時間が前記下限未満になると重合が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が着色する傾向にある。
【0022】
本発明に用いるPGA系樹脂において、前記式(1)で表されるグリコール酸繰り返し単位の含有量としては、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。グリコール酸繰り返し単位の含有量が前記下限未満になるとPGA系樹脂の結晶化度が低下して十分な紫外線遮断性が得られなかったり、紫外線遮断材料の耐熱性が低下する傾向にある。
【0023】
前記PGA系樹脂の重量平均分子量としては、3万〜80万が好ましく、5万〜50万がより好ましい。重量平均分子量が前記下限未満になると紫外線遮断材料の機械的強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると溶融押出や成形加工が困難となる傾向にある。なお、前記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したポリメチルメタクリレート換算値である。
【0024】
また、前記PGA系樹脂の溶融粘度(温度:240℃、剪断速度:100sec−1)としては、100〜10000Pa・sが好ましく、300〜8000Pa・sがより好ましく、400〜5000Pa・sが好ましい。溶融粘度が前記下限未満になると紫外線遮断材料の機械的強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると溶融押出や成形加工が困難となる傾向にある。
【0025】
このような本発明の紫外線遮断材料は、前記PGA系樹脂を結晶化させること、すなわち、前記PGA系樹脂の結晶化度を増大させることによって製造することができる。前記結晶化度を増大させる方法、すなわち、本発明の紫外線遮断材料の製造方法としては、例えば、(i)前記PGA系樹脂を200〜300℃に加熱して溶融させ、その後、溶融したPGA系樹脂を室温まで徐冷する方法、(ii)非晶性ポリグリコール酸系樹脂を60〜200℃に加熱する方法などが挙げられる。
【0026】
先ず、(i)の方法について説明する。この方法においては、前記PGA系樹脂を200〜300℃に加熱して溶融させる。加熱溶融温度が前記下限未満になるとPGA系樹脂が十分に溶融せず、その後、徐冷しても結晶化度が増大しにくく、十分な紫外線遮断性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると長時間加熱溶融した場合にPGA系樹脂が分解する傾向にある。また、このような観点から前記加熱溶融温度としては、230〜280℃が好ましく、240〜270℃がより好ましい。
【0027】
また、加熱溶融時間としては、1〜10分間が好ましく、3〜5分間がより好ましい。加熱溶融時間が前記下限未満になるとPGA系樹脂が十分に溶融せず、その後、徐冷しても結晶化度が増大しにくく、十分な紫外線遮断性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると高温で加熱溶融した場合にPGA系樹脂が分解する傾向にある。
【0028】
このようにして得た溶融状のPGA系樹脂を、必要に応じて所望の形状に成形した後、室温まで徐冷する。成形方法としては特に制限はなく、プレス成形、押出成形、射出成形など従来公知の成形方法が挙げられる。また、徐冷方法としては特に制限はなく、冷却速度が所定の範囲内となるように強制的に冷却してもよいが、操作が簡便である点で室温に放置する方法が好ましい。
【0029】
このように溶融状のPGA系樹脂を徐冷することによってPGA系樹脂の結晶化度が増大し、結晶性のPGA系樹脂を含有する本発明の紫外線遮断材料が得られる。徐冷時の冷却速度としては50℃/分以下が好ましく、30℃/分以下がより好ましい。冷却速度が前記上限を超えるとPGA系樹脂の結晶化度が増大しにくく、十分な紫外線遮断性が得られない傾向にある。なお、冷却速度の下限としては特に制限はないが、5℃/分以上が好ましく、10℃/分以上がより好ましい。
【0030】
次に、(ii)の方法について説明する。この方法においては、非晶性PGA系樹脂を60〜200℃に加熱する。これにより、非晶性PGA系樹脂の結晶化度が増大し、結晶性PGA系樹脂を含有する本発明の紫外線遮断材料が得られる。前記加熱温度が前記下限未満になると非晶性PGA系樹脂の結晶化度が増大しにくく、十分な紫外線遮断性が得られない傾向にある。一方、加熱温度が高くなるにつれて結晶化度が高くなり、紫外線遮断性が向上する傾向にあるが、前記上限を超えると非晶性PGA系樹脂が溶融して、結晶化しなかったり、長時間加熱した場合にはPGA系樹脂が分解する傾向にある。
【0031】
また、加熱時間としては1分間以上が好ましく、3分間以上がより好ましい。加熱時間が前記下限未満になると非晶性PGA系樹脂の結晶化度が増大しにくく、十分な紫外線遮断性が得られない傾向にある。一方、加熱時間が長くなるにつれて結晶化度が高くなり、紫外線遮断性が向上する傾向にあるが、加熱時間が長くなりすぎるとPGA系樹脂が分解する傾向にあるため、60分間以下が好ましく、30分間以下がより好ましい。
【0032】
前記(ii)の方法において用いられる非晶性PGA系樹脂としては、前記PGA系樹脂を200〜300℃(より好ましくは230〜280℃、特に好ましくは240〜270℃)に加熱して溶融した後、150℃/分以上の冷却速度で急冷して調製したものが好ましい。
【0033】
また、前記(ii)の方法においては、必要に応じて、予め所望の形状に成形した非晶性PGA系樹脂を前記温度で加熱して結晶化させてもよい。例えば、前記温度で加熱溶融したPGA系樹脂を、プレス成形、押出成形、射出成形など従来公知の成形方法により所望の形状に成形する。このとき、水などを用いて急冷(例えば、冷却速度150℃/分以上で冷却)することによって所望の形状の非晶性のPGA系樹脂成形体が得られる。このようにして得られた非晶性のPGA系樹脂成形体を前記温度で加熱することによって結晶化を図ることができる。これにより、所望の形状の本発明の紫外線遮断材料(結晶性PGA系樹脂成形体)を得ることができる。
【0034】
以上、本発明の紫外線遮断材料およびその製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明の紫外線遮断材料およびその製造方法は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の紫外線遮断材料の製造方法、すなわち、前記(i)および(ii)の方法において、PGA系樹脂は単独で使用してもよいし、必要に応じて熱安定剤、末端封止剤、可塑剤、熱線吸収剤などの各種添加剤や他の熱可塑性樹脂を配合してもよい。すなわち、本発明の紫外線遮断材料は、前記結晶性PGA系樹脂のみからなるものであってもよいし、本発明の効果を損なわない範囲において、熱安定剤、末端封止剤、可塑剤、熱線吸収剤などの各種添加剤や他の熱可塑性樹脂を含有するものであってもよい。
【0035】
また、結晶化されたPGA系樹脂が紫外線遮断性を示すことから、前記製造方法においては、紫外線吸収剤を配合しなくてもよいが、従来公知の紫外線吸収剤を配合することによって紫外線遮断性をより向上させることが可能となる。すなわち、本発明の紫外線遮断材料においては、紫外線吸収剤が含まれていなくてもよいが、従来公知の紫外線吸収剤を含有させることによって紫外線遮断性をより向上させることが可能となる。
【0036】
さらに、前記製造方法において紫外線吸収剤を配合する場合、その配合量を従来の紫外線遮断材料の場合よりも少なくすることができる。すなわち、本発明の紫外線遮断材料に紫外線吸収剤を含有させる場合においては、その含有量を従来の紫外線遮断材料の場合よりも少なくすることができる。
【0037】
本発明の紫外線遮断材料をシート状に成形する場合、その厚さとしては100〜1000μmが好ましく、300〜500μmがより好ましい。紫外線遮断シートの厚さが前記範囲にあると優れた紫外線遮断性を示し、例えば、波長250nmの紫外線透過率は0.01〜0.10%となり、波長400nmの紫外線透過率は0.1〜3.0%となる傾向にある。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、PGA樹脂シートの密度測定および結晶化度の算出は以下の方法により実施した。
【0039】
<密度測定>
1,2−ジクロロエタンと四塩化炭素とを混合して密度勾配液(23℃)を調製し、これにPGA樹脂シートから切り出した試験片を浮かべてその位置を読み取り、標準密度球((株)柴山科学器械製作所製)を用いて校正して前記PGA樹脂シートの密度を測定した。
【0040】
<結晶化度の算出>
前記方法により測定したPGA樹脂シートの密度ρ(g/cm)を用いて結晶化度X(%)を次式により算出した。
【0041】
X=(1/ρ−1/ρ)/(1/ρ−1/ρ)×100
式中、ρは結晶化度0%のPGA樹脂の密度(=1.500g/cm)を表し、ρは結晶化度100%のPGA樹脂の密度(=1.700g/cm)を表す。
【0042】
(合成例)
攪拌機を備えるスチームジャケット構造の密閉可能なSUS製容器(容量:56L)にグリコリド22500gおよび二塩化スズ2水和物0.68g(30質量ppm)を仕込み、容器内の全プロトン濃度が0.13モル%となるように水1.49gを添加した。なお、前記容器内の全プロトンは容器内の雰囲気中の水分(湿気)のプロトンを含むものであり、前記水の添加量はこの容器内の雰囲気中の水分量(0.11g)を考慮して決定した。その後、容器を密閉し、攪拌しながらジャケットにスチームを循環させて容器内の混合物の温度が100℃になるまで加熱して混合物を溶融し、均一な液状混合物を得た。
【0043】
次に、内径24mmの反応管(SUS304製)を備えるジャケット構造の本体部とジャケット構造の金属板(SUS304製)2枚とからなる反応装置を準備した。前記反応管の下側開口部に前記金属板の一方(以下、「下板」という。)を取り付けた後、前記反応管の上側開口部から、前記液状混合物を、その温度を100℃に保持したまま移送した。移送終了後、直ちにもう一方の金属板(以下、「上板」という。)を取り付けて反応管を密閉した。その後、本体部と2枚の金属板のジャケットに170℃の熱媒体油を循環させて7時間保持し、ポリグリコール酸樹脂(PGA樹脂)を合成した。
【0044】
次に、前記ジャケットを循環している熱媒体油を冷却して反応装置を室温付近まで冷却した。その後、前記下板を取り外して反応管の下側開口部から前記PGA樹脂の塊状物を取り出した。なお、この方法によりPGA樹脂を合成した場合、その収率はほぼ100%となる。得られたPGA樹脂塊状物を粉砕機により粉砕した。
【0045】
得られたPGA樹脂粉砕物100質量部に対して、熱安定剤としてモノおよびジステアリルアシッドフォスフェートのほぼ等モル混合物((株)ADEKA製「アデカスタブAX−71」)0.030質量部添加して混合した。この混合物を供給部から排出部までの間に設けた10個の区間およびダイの温度を供給部から順に200℃、230℃、260℃、270℃、270℃、270℃、270℃、250℃、240℃、230℃、230℃に設定した二軸混練押出機(東芝機械(株)製「TEM−41SS」)に供給して溶融混練押出を行い、ペレット状のPGA樹脂組成物を得た。
【0046】
(実施例1)
前記合成例で得たPGA樹脂組成物のペレットをシート成形用金型(設定膜厚:300μm)とともにアルミニウムシートで挟み、その状態で260℃のヒートプレス機に載せて3分間加熱し、前記PGA樹脂組成物を溶融した。その後、5MPaで1分間加圧した。得られたシート状のPGA樹脂組成物を大気圧に脱圧し、室温(25℃)下で30分間放置して徐冷し、厚さ360μmのPGA樹脂シートを得た。このPGA樹脂シートの密度を測定したところ、1.583g/cmであった。また、結晶化度は44.6%であり、結晶化されていることが確認された。
【0047】
(比較例1)
前記合成例で得たPGA樹脂組成物のペレットをシート成形用金型(設定膜厚:300μm)とともにアルミニウムシートで挟み、その状態で260℃のヒートプレス機に載せて3分間加熱し、前記PGA樹脂組成物を溶融した。その後、5MPaで1分間加圧した。得られたシート状のPGA樹脂組成物を大気圧に脱圧し、約5℃の水中で急冷して厚さ320μmのPGA樹脂シートを得た。このPGA樹脂シートの密度を測定したところ、1.510g/cmであった。また、結晶化度は5.6%であり、非晶性であることが確認された。
【0048】
(実施例2)
比較例1と同様にして結晶化度5.6%、厚さ320μmの非晶性PGA樹脂シートを作製した。この非晶性PGAシートを120℃で10分間加熱した。得られたPGA樹脂シートの密度を測定したところ、1.561g/cmであった。また、結晶化度は33.2%であり、結晶化されていることが確認された。
【0049】
(比較例2)
設定膜厚が70μmのシート成形用金型を使用した以外は比較例1と同様にして厚さ70μmのPGA樹脂シートを得た。このPGA樹脂シートの密度を測定したところ、1.508g/cmであった。また、結晶化度は4.5%であり、非晶性であることが確認された。
【0050】
(実施例3)
比較例2と同様にして結晶化度4.5%、厚さ70μmの非晶性PGA樹脂シートを作製した。この非晶性PGAシートを120℃で10分間加熱した。得られたPGA樹脂シートの密度を測定したところ、1.563g/cmであった。また、結晶化度は34.3%であり、結晶化されていることが確認された。
【0051】
<紫外線透過率の測定>
実施例で得た結晶性PGA樹脂シートおよび比較例で得た非晶性PGA樹脂シートの紫外線透過率を、紫外可視分光光度計((株)島津製作所製「UV−2450」)を用いて波長190〜400nmの範囲について測定した。その結果を図1に示す。また、波長200nm、250nm、300nm、350nm、400nmの紫外線透過率を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
図1および表1に示した結果から明らかなように、本発明の結晶性PGA樹脂シート(実施例1〜3)は、紫外線透過率が低く、紫外線遮断性に優れたものであり、紫外線遮断シートとして有用であることが確認された。また、厚さが300μm以上の結晶性PGA樹脂シート(実施例1〜2)においては、波長400nm以下の紫外線の透過率は3%以下であり、紫外線遮断性に非常に優れたものであることが確認された。
【0054】
一方、非晶性のPGA樹脂シート(比較例1〜2)は、紫外線透過率が高く、特に、厚さが70μmのシート(比較例2)においては波長250〜400nmの範囲において紫外線透過率が70%以上であり、紫外線遮断性をほとんど示さないことが確認された。また、厚さが320μmのシート(比較例1)においては、波長250〜400nmの範囲において紫外線透過率は約20〜50%であり、紫外線遮断性に劣るものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように、本発明によれば、ポリグリコール酸系樹脂を結晶化させることによって紫外線透過率を低下させることが可能となる。
【0056】
したがって、本発明にかかる結晶性ポリグリコール酸系樹脂を含有する材料は、優れた紫外線遮断性を有する材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリグリコール酸系樹脂を含有することを特徴とする紫外線遮断材料。
【請求項2】
前記結晶性ポリグリコール酸系樹脂の結晶化度が20%以上であることを特徴とする請求項1に記載の紫外線遮断材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の紫外線遮断材料からなることを特徴とする紫外線遮断シート。
【請求項4】
ポリグリコール酸系樹脂を200〜300℃に加熱して溶融した後、溶融した該ポリグリコール酸系樹脂を室温まで徐冷して結晶化させることを特徴とする紫外線遮断材料の製造方法。
【請求項5】
溶融した前記ポリグリコール酸系樹脂を徐冷する際の冷却速度が50℃/分以下であることを特徴とする請求項4に記載の紫外線遮断材料の製造方法。
【請求項6】
非晶性ポリグリコール酸系樹脂を60〜200℃に加熱して該非晶性ポリグリコール酸系樹脂を結晶化させることを特徴とする紫外線遮断材料の製造方法。
【請求項7】
前記非晶性ポリグリコール酸系樹脂が、ポリグリコール酸系樹脂を200〜300℃に加熱して溶融した後、150℃/分以上の冷却速度で急冷して得られるものであることを特徴とする請求項6に記載の紫外線遮断材料の製造方法。

【図1】
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