紫外線遮蔽および可視光増強方法、該方法を実現可能な紫外線遮蔽および可視光増強材料
【課題】紫外線を遮蔽または除去でき、可視光線を透過し、紫外線エネルギーを有効利用し、可視光線を得ることができ、希少金属を使用せず、低コストである紫外線遮蔽および可視光増強方法を提供する。
【解決手段】200nm〜330nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程、該第一励起工程で励起された蛍光性物質が330nm〜400nmの内部光を発光する内部光発光工程、330nm〜400nmの外部光および330〜400nmの内部光で該蛍光性物質を励起させる第二励起工程、および、該第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光工程、を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強方法。
【解決手段】200nm〜330nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程、該第一励起工程で励起された蛍光性物質が330nm〜400nmの内部光を発光する内部光発光工程、330nm〜400nmの外部光および330〜400nmの内部光で該蛍光性物質を励起させる第二励起工程、および、該第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光工程、を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光性物質を用いた紫外線遮蔽および可視光増強方法および該方法を実現可能な紫外線遮蔽および可視光増強材料に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用ガラス板、車両用ガラス板、太陽電池モジュール用ガラス板などとして、内側に存在する人あるいは物の紫外線による被害を防ぐため、紫外線遮蔽機能を付与したガラスが用いられている。このような紫外線遮蔽性ガラスとして、特許文献1には、ガラス基板表面にZnO−SiO2系薄膜、および、TiO2−SiO2系薄膜またはZrO2−SiO2系薄膜を被覆積層してなる紫外線遮蔽ガラスが記載されている。
【0003】
紫外線を遮蔽すると共に、紫外線エネルギーを有効利用する技術として、特許文献2には、太陽光発電モジュールのガラス基板中に、紫外線−可視光変換物質として三価のセリウムイオンを含ませることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−110474号公報
【特許文献2】特開2007−27271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の紫外線遮蔽ガラスは、紫外線遮蔽率が50%程度であり、十分なレベルとはいえない。また、特許文献2の技術では、希少金属であるセリウムを使用する必要があるということで、経済性に劣っていた。
本発明では、上記した問題点を含め、以下の5つの課題を解決することを目的する。
(1)紫外線を遮蔽または除去できること、
(2)可視光線を透過すること、
(3)紫外線エネルギーを有効利用し、可視光線を得ること、
(4)希少金属を使用しないこと、
(5)低コストであること、
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の点を発見するに至った。
(1)200〜330nmの外部光で蛍光性物質を励起して330〜400nmの内部光を発光させ、該発光した330〜400nmの内部光で蛍光性物質を励起して400nm以上の可視光を発光すると共に、330〜400nmの外部光で励起して400nm以上の可視光を発光させる。これにより、紫外線を遮蔽すると共に、可視光を増強することができる方法とする。
なお、このとき、発光した330〜400nmの内部光の発光ピーク波長λ1(nm)と、該内部光により励起されて発光する可視光が発光ピークとなる時の励起波長λ2(nm)とが、以下の関係を有する場合、紫外線の可視光への変換が効率的に行われ、可視光をより増強させることができる。
λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」
(2)上記方法を1物質で実現できる蛍光性物質。
(3)200〜330nmの外部光で励起して330〜400nmの内部光を発光させる蛍光性物質を備えた第一層、ならびに、該発光した330〜400nmの内部光で励起して400nm以上の可視光を発光すると共に、330〜400nmの外部光で励起して400nm以上の可視光を発光させる蛍光性物質を備えた第二層、を有し、各層が400nm以上の可視光を透過する、二つの層に機能を分離した方法。この方法では、各層を構成する蛍光物質の選択枝が広がるため、用途に応じた使い分けが可能となる。
(4)上記二つの層に機能を分離した方法を実現できる、積層材料。
【0007】
第1の本発明は、200nm〜330nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程、該第一励起工程で励起された蛍光性物質が330nm〜400nmの内部光を発光する内部光発光工程、330nm〜400nmの外部光および前記330〜400nmの内部光で蛍光性物質を励起させる第二励起工程、および、該第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光工程、を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強方法である。
なお、第一励起工程にて励起される蛍光性物質と、第二励起工程にて励起される蛍光性物質とは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0008】
第1の本発明において、内部光発光工程において発光する内部光の発光ピーク波長λ1(nm)と、第二励起工程で蛍光性物質が励起されて可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長λ2(nm)とが以下の関係を有することが好ましい。
λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」
【0009】
第1の本発明において、蛍光性物質は、アルギニンとクマリン色素から合成した化合物(これ以降、これをアルギニルクマリンと称する場合がある)と、塩化アルミニウムとの錯体または混合物であることが好ましい。
【0010】
第2の本発明は、アルギニンとクマリン色素から合成した化合物、塩化アルミニウム、を含有してなり、第1の本発明の方法を実現可能な、紫外線遮蔽および可視光増強材料である。
【0011】
第2の本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料は、アルギニンとクマリン色素から合成した化合物、塩化アルミニウム、を水中に含有してなることが好ましい。
【0012】
第2の本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料はゲル状であることが好ましい。
【0013】
第2の本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料は、さらに低分子アルコールを含有してなることが好ましい。また、低分子アルコールは、2−プロパノールであることが好ましい。また、低分子アルコールは、メタノールであることは好ましくない。
【0014】
第3の本発明は、光入射側から、200〜330nmの外部光で励起して330〜400nmの内部光を発光する第一層、ならびに、330〜400nmの外部光および第一層で発光した330〜400nmの内部光で励起して400nm以上の可視光を発光する第二層、を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強材料である。
【0015】
第3の本発明において、第一層は、4−ヒドロキシクマリンを含有する層であることが好ましく、第二層は7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する層であることが好ましい。また、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する層は、pH7以上であり、360nm近傍に光吸収極大をもつことが好ましい。
【0016】
第3の本発明において、第一層は、4−ヒドロキシクマリンを含有する層であることが好ましく、第二層はアルギニンとクマリン色素から合成した蛍光性化合物と塩化アルミニウムとの錯体または混合物を含有する層であることが好ましい。また、第二層は、さらに低分子アルコールを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
第1の本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法によると、紫外線を遮蔽できると共に、該遮蔽した紫外線エネルギーを利用し可視光を得ることができ、また、外部からの可視光はそのまま透過するため、可視光を増強させることができる。また、希少金属等を用いることなく、低価格な材料で実現できる方法であるので、低コストな方法である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法の概念を示す図である。
【図2】(a)は、内部光発光工程において発光する内部光の発光強度のスペクトル、(b)は、第二励起工程で蛍光性物質が励起されて可視光を発光する時の発光強度を、励起波長λ2に対してプロットした励起スペクトルのグラフである。
【図3】4−ヒドロキシクマリン(a)および7−ヒドロキシ4−メチルクマリン(b)の光吸収スペクトルである。
【図4】4−ヒドロキシクマリンおよびアルギニン混合物へのマイクロ波照射前後の光吸収スペクトルである。
【図5】4−ヒドロキシクマリンおよびアルギニン混合物へのマイクロ波照射前後の光吸収スペクトル(差スペクトル)である。
【図6】アルギニルクマリンの光透過スペクトルである。
【図7】アルギニルクマリンとAlCl3の混合溶液の光透過スペクトルである。
【図8】4−ヒドロキシクマリンとアルギニルクマリンの励起発光スペクトルである。
【図9】マイクロ波印加装置の概略図である。
【図10】7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液の光吸収スペクトルのpH依存性を示すグラフである。
【図11】7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液における、pHに対する320nm(●)および360nm(▲)における吸収強度を示すグラフである。
【図12】7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液を360nmの光で励起した場合における蛍光スペクトルを示したグラフである。
【図13】7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液を360nmの光で励起した場合における波長450nmにおける蛍光強度のpH依存性である。
【図14】アルギニルクマリンとAlCl3の混合溶液の蛍光スペクトル(Series1〜9で、AlCl3の添加量を変化させている)を示したグラフである。
【図15】Series1からSeries2を引いた差スペクトルを示したグラフである。
【図16】アルギニルクマリンの475nmでの蛍光強度vsAlCl3添加量(280nm励起)を示したグラフである。
【図17】蛍光スペクトル(アルギニルクマリン+AlCl3)の励起波長依存性(340〜400nm)を示したグラフである。
【図18】アルギニルクマリンの発光強度(475nm)の励起波長依存性(340〜400nm)を示したグラフである。
【図19】4−ヒドロキシクマリンにAlCl3を添加した場合の発光スペクトルを示したグラフである。
【図20】実施例に使用した物質材料の略記号を示した。
【図21】実施例1の一物質の例で「アルギニルクマリン+AlCl3」の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図22】実施例2の一物質の例で、「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図23】実施例3の積層材料の例で、4C(第1層)および7C(第2層、pH7以上)の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図24】実施例4の積層材料の例で、4C(第1層)および「アルギニルクマリン+AlCl3」(第2層)の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図25】実施例5の積層材料の例で、4C(第1層)および「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」(第2層)の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図26】実施例6の積層材料の例で、アルギニルクマリン(第1層)および「アルギニルクマリン+AlCl3」(第2層)の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図27】実施例1〜6、参考例1〜3の可視光増強実験結果の比較図である。
【図28】太陽電池モジュールカバーの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
光は、その波長により、紫外線、可視光、赤外線に分けられるが、本発明においては、波長によって次のように定義する。まず、200nm〜400nmの光を紫外線(UV)とし、このうち、200〜330nmのものをUV−B、330〜400nmのものをUV−Aとする。また、400〜700nmの光を可視光(Visible)とし、700nm以上の光を赤外線(Infrared)とする。
【0020】
<紫外線遮蔽および可視光増強方法>
本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法は、200nm〜330nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程、該第一励起工程で励起された蛍光性物質が330nm〜400nmの内部光を発光する内部光発光工程、330nm〜400nmの外部光および前記330nm〜400nmの内部光で該蛍光性物質を励起させる第二励起工程、および、該第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光工程、を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強方法である。
【0021】
以下、図1を用いて、該本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法について説明する。図1において、中央の括弧内には、蛍光性物質を含んでなる紫外線遮蔽および可視光増強材料が存在していることを意味している。左側から太陽光が紫外線遮蔽および可視光増強材料に入射し、紫外線が遮蔽され、可視光が増強された光が、右側から放出される。太陽光は、波長により4種類の光、UV−B(200〜330nm)、UV−A(330〜400nm)、可視光(400〜700nm)、および、赤外線(700〜1200nm)に分けている。
【0022】
括弧内では、太陽光が紫外線遮蔽および可視光増強材料に入射した後、どのように変換されているかを示している。まず、外部光のUV−Bを蛍光性物質が吸収し、蛍光性物質が励起され(第一励起工程)、該励起された蛍光性物質は330〜400nmの内部光を発光する(図示のA)。そして、この330〜400nmの内部光および外部光のUV−Aを蛍光性物質が吸収し、蛍光性物質が励起され(第二励起工程)、該励起された蛍光性物質は400nm以上の可視光を発光する(図示のB)。このように、本発明においては、紫外線(UV−AおよびUV−B)を遮蔽するだけでなく、これらを可視光に変換することができ、可視光を増強することができる。
【0023】
このように、本発明の方法は、第一励起工程および内部光発光工程で得られた内部光並びに外部光により第二励起工程を起こらしめ、可視光を発光させる方法であり、紫外線を可視光に変換することにより、紫外線エネルギーを最大限に利用し、可視光として取り出すことができる方法である。なお、この変換を効率的に行わせるためには、内部光発光工程で発光する内部光の発光ピーク波長λ1(nm)と、第二励起工程において蛍光性物質が励起されて可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長λ2(nm)とが、以下の関係を有する蛍光性物質を用いることが好ましい。
λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」
このような関係を満たすλ1およびλ2を備えた蛍光性物質を用いることにより、紫外線をより効率的に可視光に変換することができる。なお、より効率的な変換を起こらしめる点からは、λ1=「λ2−15」〜「λ2+15」であることがより好ましく、λ1=「λ2−10」〜「λ2+10」であることがさらに好ましい。
【0024】
上記したλ1およびλ2の関係を図2を用いて説明する。図2(a)には、第一励起工程で励起された蛍光性物質が発光した内部光の発光強度スペクトルである。もっとも発光強度が高い発光ピークにおける波長が発光ピーク波長λ1である。また、図2(b)は、蛍光性物質が光により励起され(第二励起工程)、該励起された蛍光性物質が発光した可視光の発光強度を、該第二励起工程の励起波長に対してプロットした励起スペクトルである。可視光が発光ピークとなる時の励起波長がλ2である。
【0025】
本発明においては、これらλ1およびλ2の波長が近いほど、発光した内部光が、より効率的に第二励起工程で蛍光性物質を励起して可視光を発光できることになり、より効率的に紫外線を可視光に変換できることになる。これより、λ1およびλ2は、上記した関係を満たすことが好ましいということになる。
【0026】
上記した紫外線遮蔽および可視光増強方法において使用する蛍光性物質としては、上記方法を実現できるものであれば、特に限定されない。上記方法を実現するのに好ましい紫外線遮蔽および可視光増強材料については、以下に説明する。
また、第一励起工程および内部光発光工程をある蛍光性物質Aに行わせて、第二励起工程および可視光発光工程を別の蛍光性物質Bに行わせるようにして、二種の蛍光性物質に分担させて上記方法を実現させてもよい。
【0027】
<紫外線遮蔽および可視光増強材料>
上記した方法を一物質で実現可能な蛍光性物質として、アルギニンおよびクマリン色素から合成した化合物と、塩化アルミニウムとの錯体または混合物が挙げられる。以下、この錯体または混合物を含んでなる紫外線遮蔽および可視光増強材料について説明する。
【0028】
(クマリン色素)
4−ヒドロキシクマリン(以下、4Cと略記する場合あり)とは、下記(1)の構造を有する単純クマリン化合物の一種である。
【0029】
【化1】
4−ヒドロキシルクマリンは、常温では淡黄色もしくは淡茶色の結晶性粉末である。今日では、天然物また合成物として1,000種類以上のクマリン化合物が見出されている。中でも4−ヒドロキシクマリンは、現在、誘導体のワーファリンが血液の抗凝固剤や殺鼠剤として用いられているように、構造が単純なため、多様な物質合成の可能性を持っている。単純クマリンにはまた、下記(2)に示すような、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン(以下、7Cと略記場合あり)なども存在する。
【0030】
【化2】
クマリンは、従来から香料などに応用されたり医学目的に使用されたりしてきたが、最近ではクマリンの光吸収と発光特性を利用した有機色素レーザー材料などへの応用も多く試みられるようになってきた。また、近年、太陽エネルギー利用の新形態として注目されている色素増感太陽電池の増感剤となる効果的な物質がクマリンの誘導体として実現された例も出てきているなど光エネルギー利用材料物質として工業的利用の可能性が広がりつつある。
【0031】
4−ヒドロキシクマリンは、図3の曲線(a)に示すような光吸収スペクトルを有する。この光吸収特性は紫外部における光吸収が大きく太陽エネルギーの紫外線領域の光吸収には向いているが、可視領域における光吸収帯は少ない。主要な吸収ピークは二つ有りその波長帯は接近している。7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンの場合は、図3の曲線(b)に示すような光吸収スペクトルを有する。この光吸収特性は紫外線領域の光吸収には向いていて、4−ヒドロキシクマリンよりも少し長波長側に光吸収帯があるが、可視領域における光吸収帯はやはり少ない。主要な吸収ピークは密集している。上記式(1)および(2)を比較して分かるように、ヒドロキシル基(−OH)の位置の違いが、スペクトルにおいて大きな違いとなって現れている。図3により7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンは波長290nmと322nmに主要な吸収帯があることがわかる。よくみると、322nmの吸収は4−ヒドロキシクマリンにもある。これは基本的な分子構造由来である。
【0032】
太陽エネルギーの効果的な利用のための材料とするには光吸収帯が紫外〜可視に広領域にあることが必要であり、メモリーなどの波長制御を要する材料とするには主要な吸収ピークが明瞭に分離したスペクトル特性を有する物質であることが必要である。
【0033】
また、レーザー材料等の光放射を利用する材料としては、蛍光スペクトルにおける励起発光ピークの制御が重要となる。より高エネルギーの放射エネルギーをもたらす材料とするには、より短波長にピークのある蛍光スペクトルすなわち励起発光スペクトルを有する物質であることが求められる。
【0034】
図10に、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液の光吸収スペクトルのpH依存性を示した。また、図11には、pHに対する320nm(●)または360nm(▲)における吸収強度を示した。これによると、pH7未満では320nm付近に吸収ピークが現れ、pH7以上では360nm付近に吸収ピークが現れることが分かる。また、pHが大きくなるにつれ、320nmでの吸収が小さくなり、逆に、360nmでの吸収が大きくなることが分かる。
【0035】
図12に、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液を360nmの光で励起した場合における蛍光スペクトルを示した。蛍光ピーク波長は450nmであり、pHが大きくなるに従って、蛍光強度が大きくなることが分かった。
【0036】
(アルギニン)
アルギニンは、下記(3)の構造を有する塩基性アミノ酸の一種である。
【0037】
【化3】
【0038】
アルギニンは側鎖RがCH2CH2CH2NH(C=NH)NH2であるα−アミノ酸で、荷電極性側鎖アミノ酸であり、塩基性アミノ酸である(蛋白質を構成するアミノ酸としては最も塩基性が高い。)。側鎖Rの構造は通常のポリペプチドとは異なる高分子化合物を形成する材料となることを意味している。すなわち主鎖ではなく、側鎖のアミノ基を介して高分子化するポリアルギニン等の高分子材料となることを意味している。ポリアミノ酸にはまた、側鎖のカルボキシル基を介して高分子化するグルタミン酸など多様に存在し、食品、医薬品以外の材料系の応用例としては、生分解性プラスチックスや酵素硬化ハイドロゲル、インジェクション可能な生体材料として、細胞足場材料、DDSマトリックス、生医学用止血剤・接着剤等様々である。
【0039】
(アルギニンと4−ヒドロキシクマリンから合成した化合物)
本発明者は、クマリン分子本体のいずれかの原子団が脱離し、そこにアルギニンが結合すると電子密度分布が大きく変化し、光吸収過程におけるエネルギー値に大きな変化が現れるのではないかと予測した。また、クマリンとアミン類の化学合成に効果があるマイクロ波合成の方法は、アルギニンと4−ヒドロキシクマリンとの反応にも有効に働くのではないかと予測した。これは、アミノ酸はアミン類と機能は異なるが、構造上アミノ基を有していることがその理由である。
【0040】
本発明においては、アルギニンとクマリン色素との反応を、マイクロ波を照射することにより行った。本発明で化学合成に用いるマイクロ波とは、波長0.3mm〜30cm、周波数1GHz〜1THzの電磁波を指し、マイクロ波の振動電場および振動磁場が物質中の永久・誘起双極子あるいは電荷と相互作用することにより、分子レベルで熱を発生し、物質を直接加熱する。化学反応系に利用した場合、迅速に、熱伝導および対流によらない均一な直接加熱、マイクロ波と相互作用をする物質のみの選択的加熱、パルス、連続照射による加熱モードの精密制御、といったことが可能である。また、反応器壁や物質移動の影響のない、また熱伝導の良否にかかわらない加熱が可能であり、外部熱源からの加熱では得られない精密な反応制御プロセスが構成できるものである。
【0041】
以下、本発明による蛍光性化合物及びその製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。反応に用いたアミノ酸のアルギニンだけを含む水溶液の紫外可視光吸収は、207nm近傍の紫外部に吸収波長帯があるだけである。
【0042】
アルギニンと4−ヒドロキシクマリンを1:1のモル比で混合した場合、両者は反応するかどうかを確かめる実験を行った。アルギニンと4−ヒドロキシクマリンを1:1のモル比で混合したサンプル(それぞれの濃度は、0.2mM)の光吸収スペクトルは図4の1のような結果となった。205nm,286nm,299nmに吸収極大が見られただけであり、これは、4−ヒドロキシクマリンの極大波長206nm,286nm,300nmとほぼ一致しており、4−ヒドロキシクマリンの存在が確認されただけである。アルギニンの光吸収帯と4−ヒドロキシクマリンの205nmピークをもつ光吸収帯はほぼ重なっている。この実験結果からは、単に両者を混合しただけでは反応しないことが分かった。
【0043】
次に、三段階の濃度の混合溶液をそれぞれ、容積15mL、最大耐圧1400kPaの高耐圧ガラスチューブ(Ace社製)に5mL入れ、それぞれ別々にマイクロ波を4分間印加した場合について説明する。図9はマイクロ波印加装置の概略図である。1は電子レンジ本体、2は被照射物質を設置する部分、3はマイクロ波を発生させるマグネトロン、4は高耐圧ガラスチューブ、および5はビーカーである。マイクロ波印加装置には一般家庭用電子レンジ(2.45GHz約900W)を使用した。ビーカー5に入れた高耐圧ガラスチューブ4を電子レンジ1の被照射物質を設置する部分2に設置し、マイクロ波を照射した。マイクロ波照射前後の光吸収スペクトルを図4に示す。線分1は上記したように照射前のスペクトルであり、線分2は2分間照射後、線分3は4分照射後のそれぞれのスペクトルである。可視波長域には吸収は見られず、208nm,287nm,300nmに吸収極大が見られた。これは、4−ヒドロキシクマリンの極大波長207nm,286nm,299nmとほぼ一致しており、4−ヒドロキシクマリンの存在が確認された。マイクロ波を印加させるに伴い、4−ヒドロキシクマリンに特有の吸収領域の吸光度が減少し、253nmと331nm近傍の吸光度が増加した。これは、アルギニンと4−ヒドロキシクマリンが、何らかの反応を起こして吸収極大がシフトしたためと考えられる。
【0044】
このマイクロ波印加時間を2分で行なった場合、図4の線分2に示したように、吸収スペクトルの変化が観察されたが吸収値の変化量は少なく、この変化を詳しく観るため差吸収スペクトルとして図5のように三段階の濃度と三段階の反応時間で比較してみると、0.05mMのサンプル(図5の1)において、286nmで吸光度は0.125下がった。4−ヒドロキシクマリン水溶液の検量線を別途実験的に求め、0.01mM〜0.04mMの濃度においては、吸光度をy、濃度をxとすると、関数y=54.44x+0.055で近似されることが分かっている。
よって、Δy=−0.125として、
Δy=−0.125=54.44Δx、
Δx=−2.30×10−3mM
【0045】
つまり、0.05mMのサンプルでは、4−ヒドロキシクマリンは、2.30×10−3mM減少したことになり、全体の(2.30×10−3/0.05)×100=4.6%が反応したと考えられる。同様にして、0.1mMのサンプル(図5の線分3)では4.2%、0.2mMのサンプル(図5の線分5)では3.1%(吸光度が0.25〜0.7を大きく越えているため誤差が大きい。)となり、2分間のマイクロ波照射により、4−ヒドロキシクマリンは、約4%近く反応したと考えられる。なお、4分間のマイクロ波照射となると、図4の線分3、および図5の線分6に示したような劇的な変化が生じ、90%以上が反応したものと考えられる。
【0046】
この反応の前後における光吸収スペクトルデータから差スペクトルを計算し、グラフ化したものが図5である。図5はマイクロ波2分間及び4分間照射前後における、アルギニンと4−ヒドロキシクマリンを含む水溶液の紫外可視光吸収差スペクトルを示すグラフ図である。線分1,2は濃度0.05mMの場合、線分3,4は濃度0.1mMの場合、線分5,6は濃度0.2mMの場合である。
可視波長域には吸収は見られず、208nm,253nm,330nm近傍に吸収極大が見られた。これは、4−ヒドロキシクマリンの極大波長207nm,286nm,299nmと比べると短波長の208nmのみほぼ一致し、それ以外は一致せず、吸収極大のシフトが見られた。
【0047】
また、2分間照射の場合、約4%が反応したと考えられるが、4分間照射の場合、4−ヒドロキシクマリンの吸収領域である286nm,300nm付近の吸収帯がほとんどシフトしているので、前述のようにほとんどが反応したと考えられ、照射時間2分間と4分間の間で大幅に反応割合が増加している。このことから、ある一定の高温高圧の条件でこの反応過程が急速に進むと考えられる。
【0048】
この反応をさらに続けて4分超行なうと、高耐圧ガラスチューブ4といえども耐え切れない圧力となり、破壊現象が起きることも確かめることができた。様々な条件で実験を試みたところ、以下の事象が確認できた。
【0049】
ビーカー5に高耐圧ガラスチューブ4をそのまま入れた場合は4分の照射でほぼ反応物は全て生成物となり、その後は化学反応にエネルギーが消費されることがないために高耐圧ガラスチューブ4内のエネルギーの充満によって圧力が一気に上昇し破壊現象が起きる。
【0050】
ビーカー5内に酸化アルミニウムの粉末を敷き詰めて同様の反応を行なった場合、約半分の2分間の照射で反応生成物が飽和し、破壊現象が始まる。これはマイクロ波のエネルギーの反応物への効率的な伝達が起きるためであると考えられる。
【0051】
反応生成物は10ヶ月以上の長期間保存しておいても安定しており元のアルギニンと4−ヒドロキシクマリンに戻ることはなかった。
【0052】
この化学合成で得られる合成物の大きな特徴は、吸収スペクトル上ふたつある。ひとつは4−ヒドロキシクマリン特有の波長286nm,300nm近傍の吸収極大が消失し、324nmへと長波長側へシフトしている点、もうひとつは253へ短波長シフトしている点である。これは、分子の鎖の長さが長くなると、電気的対称性の変化によって光吸収過程に大きな変化が生じ、吸収極大波長が長波長側へシフトするという特徴がある、という考察から、4−ヒドロキシクマリンとアルギニンが反応し、鎖の長さが長くなったためであると考えられる。また、文献で報告されているマイクロ波の照射下における、アミンの−NH基による4−ヒドロキシクマリンのヒドロキシル基(−OH)との置換反応と同じように、マイクロ波による熱触媒作用により、アルギニンの−NH基と、4−ヒドロキシクマリンのヒドロキシル基とが脱水を伴う置換反応を起こしたのではないかと考えられる。推定される化学構造式を、下記(4)に示す。
【0053】
【化4】
または、アルギニン分子中の主鎖の−NH2基の水素H、側鎖の−NH2基の水素H、不斉炭素原子から第4位の窒素Nに結合した水素H、と4−ヒドロキシクマリンのヒドロキシル基(−OH)とが脱水を伴う置換反応が起きたと推定される場合は、それぞれ下記(5)、(6)および(7)の化合物となる。
【0054】
【化5】
【0055】
【化6】
【0056】
【化7】
いずれもアルギニンと4−ヒドロキシクマリンから合成された化合物(仮称 アルギニルクマリン)と呼ぶことができる。
【0057】
次に得られた生成物アルギニルクマリンの励起発光スペクトルを測定したところ、図8のようになった。線分1はマイクロ波照射前のアルギニンと4−ヒドロキシクマリンの混合物の励起発光スペクトルである。線分2は生成物の励起発光スペクトルである。反応前は374nm近傍に発光強度の極大があるが、生成物アルギニルクマリンの発光強度極大点は348nmに26nmも短波長シフトしていることが分かった。よって生成物アルギニルクマリンには元の4−ヒドロキシクマリンよりも高エネルギーの光量子が放出される性質が備わっていることが明らかになった。
【0058】
(アルギニルクマリンとAlCl3との錯体)
次に、蒸留水2995μLに0.22mMのアルギニルクマリン5μLを添加し3000μLとし、0.05MのAlCl3を10μLずつ添加して、280nm励起による発光スペクトルを測定した。結果を図14に示す。AlCl3を添加しない場合(Series1)では、348nmに発光極大のある発光スペクトルが得られたが、AlCl3を添加すると、このスペクトルは強度低下して長波長シフトした363nmおよび475nmに発光極大のある発光スペクトルが得られた。348nmから363nmへの長波長シフトと強度低下は塩素イオンの増大によって起きるpH変化が原因である。一方475nmの発光の増大は、280nmの光により励起された錯体が、363nmに発光極大のある光を発光し、この光が励起光となって錯体を励起させ、励起した錯体が475nmに発光極大のある光(水色)を発光していることを示している。
【0059】
つまり、第一励起工程により励起された錯体が、内部光である363nmに発光極大がある光を発光し(内部光発光工程)、第二励起工程では、この内部光により錯体が励起されて、該励起された錯体が475nmに発光極大がある可視光を発光している(可視光発光工程)。このように、アルギニルクマリンとAlCl3との錯体は、本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法を、一物質で実現できる化合物である。
【0060】
また、図14より、AlCl3をさらに加えていくと、475nmピークの発光強度が大きくなることが分かる。
【0061】
図15に、アルギニルクマリンのみのスペクトル(Series1)から、アルギニルクマリンにAlCl3を10μL加えたもののスペクトル(Series2)を引いて得られた差スペクトルを示した。これによると、AlCl3の添加により、アルギニルクマリン固有の348nmピークの発光が消失していることが、はっきりと分かる。
【0062】
図16に、上記図14で示したアルギニルクマリンとAlCl3との錯体水溶液に対し、280nmの光をあて励起させて得られた475nmの発光強度を、AlCl3の添加量に対してプロットしたグラフを示す。これより、AlCl3の添加量が増加するにつれて、錯体の発光強度が増加することが示された。また、AlCl3の添加量が多くなると、蛍光強度の増大が頭打ちとなる傾向が見られた。これより、アルギニルクマリンとAlCl3との錯体では、アルギニルクマリンに対しAlCl3をモル比で、5000倍以上加えることが好ましく、1万倍以上加えることがより好ましく、2万倍以上加えることがさらに好ましい。また、発光強度の増加が頭打ちとなることから、上限としては、6万倍以下とすることが好ましく、5万倍以下とすることがより好ましい。
【0063】
図17に、アルギニルクマリンとAlCl3との錯体水溶液に対して、340nm〜400nmの光を当て、錯体を励起させて得られた発光強度を示した。いずれも、475に発光ピークを有する発光であった。また、図18には、該励起させた340〜400nmの励起波長に対する、475nmでの発光強度をプロットした励起スペクトルである。これによると、370nmにおける励起で、最も発光強度(475nm)が強いことが示された。
【0064】
以上の結果をまとめると、上記アルギニルクマリンとAlCl3との錯体においては、280nmの外部光による励起により、363nmに発光極大を有する内部光を発光する。該内部光が錯体を励起して、励起した錯体が475nmに発光極大を有する可視光を発光する。この際、錯体は、図18で示したように励起波長が370nmとなるときに、可視光の発光強度が最大となる。つまり、励起波長が370nmに近ければ近いほど、可視光の発光が強く、言い換えれば、紫外線を可視光へ効率的に変換できることになる。上記アルギニルクマリンとAlCl3との錯体では、363nmに発光極大を有する内部光を発光する。これは、上記370nmに近い。このため、効率的に紫外線を可視光に変換でき、非常に強い475nmの青水色発光が得られたのだと考えられる。
【0065】
図19には、4CにAlCl3を添加した場合の発光スペクトルを示したが、この場合、280nmの光の照射により錯体(4C−AlCl3錯体)は、363nmに発光極大を有する内部光を発光する。しかしながら、第二励起工程では、該錯体は、励起波長が320nmとなるときに可視光(450nm)の発光が最大とする。このため、発光した内部光(363nm)を第二励起工程にて十分に利用することができず、効率的に紫外線を可視光に変換できない。結果として、強い発光は得られない。
【0066】
以上より、本発明においては、内部光発光工程において発光する内部光の発光ピーク波長λ1(nm)と、第二励起工程で蛍光性物質が励起されて可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長λ2(nm)とが以下の関係を有することが好ましいとしている。
λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」
また、λ1とλ2とは、近ければ近いほど、効率的に紫外線を可視光に変換でき、強い可視光発光が得られるので、λ1=「λ2−15」〜「λ2+15」であることがより好ましく、λ1=「λ2−10」〜「λ2+10」であることがさらに好ましい。
【0067】
(低分子アルコールの添加)
本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料は、さらに低分子アルコールを含有していることが好ましい。これにより、可視光の発光効率がさらに向上する。具体的な機構は不明であるが、低分子アルコールがアルギニルクマリン・AlCl3錯体の配位形態に何らかの影響を与えているのではないかと予想される。低分子アルコールとしては、2−プロパノールが好ましい。
【0068】
<可視光透過性>
図6にアルギニルクマリン(Arg−C)の紫外光〜可視光領域の透過率の波長依存性を、濃度別で表す。線分1は、0.002mM、線分2は0.04mM、線分3は0.02mMの場合の測定結果である。いずれも400nm以上の可視光領域では透明であることがわかる。紫外線領域では濃度が高くなるにつれて330nm以下の領域で吸収があるため透過率は低下する。
【0069】
図7にArg−C+AlCl3の紫外光〜可視光領域の透過率の波長依存性を、濃度別で表す。線分1は、0.02mMのArg−Cに0.0005MのAlCl3、の場合の測定結果であり、このような低濃度の場合は400nm以上の可視光領域では100%透明であることがわかる。線分2は、その100倍という極めて高い濃度の2.00mMのArg−Cに0.05MのAlCl3の場合の測定結果である。この場合であっても、波長400nmで透過率約70%、波長450nmで透過率約90%、波長500nmで透過率約95%と可視光領域での透過性は高い。
【0070】
理想的な可視光透過性を考えるならば、それは波長400nmを境に短波長側で透過率0%、長波長側で透過率100%となることであるが、実際的にはそのような材料でなおかつ紫外線吸収エネルギーを可視光に変換できる材料は存しない。図7に示したArg−C+AlCl3の紫外光〜可視光領域の透過率の波長依存性は実存する材料の中では、要求される条件を満たすに最も近い性能を有していると評価できるものである。なぜならば、波長400nmを境にして短波長側で透過率は低く、長波長側で透過率は高くなるように変極しているからである。
【0071】
<積層材料>
本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法は、第一励起工程および内部光発光工程をある蛍光性物質に行わしめ、第二励起工程および可視光発光工程を他の蛍光性物質に行わしめるというように、二つの蛍光性物質を組み合わせることにより、実現させてもよい。二つの蛍光性物質は、積層材料として形成することができ、例えば、第一励起工程および内部光発光工程を担う蛍光性物質Aからなる第一層、ならびに、第二励起工程および可視光発光工程を担う蛍光性物質Bからなる第二層を備えてなる、積層材料とすることができる。このような積層材料は、例えば、ガラス中に二層の空間が存在するガラス板を準備し、それぞれの空間に、蛍光性物質Aおよび蛍光性物質Bを充填することにより形成できる。該積層材料は、外部光が入射する側に蛍光性物質Aからなる第一層が位置するようにし、蛍光性物質Bからなる第二層の側は可視光を利用したい側、例えば、室内側に位置するように設置するのが好ましい。
【0072】
第一層を形成する蛍光性物質Aとして4−ヒドロキシクマリンを用い、第二層を形成する蛍光性物質Bとして7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンを用いて、上記の積層材料とすることが好ましい。この場合、4−ヒドロキシクマリンが、200〜300nmの外部光で励起されて374nmに発光極大を持つ内部光を発光する。そして、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンが、この内部光および330〜400nmの外部光で励起されて450nmに発光極大を持つ可視光を発光する。
【0073】
なお、上記の組み合わせにおいて、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する第二層は、pHを7以上とすることが好ましい。図10に示したように、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンは、pHにより励起ピーク波長が異なり、pH7未満では、励起ピーク波長が320nmであり、pH7以上では、励起ピーク波長が360nmとなる。上記したように、第一層から発光される内部光の発光ピーク波長が374nmであるので、この発光ピーク波長と、励起ピーク波長が近い方が、より効率的に紫外線を可視光に変換できることになる。よって、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する第二層は、励起ピーク波長が360nmとなるpH7以上の条件とすることが好ましい。また、図13に示したように、pHが高いほど450nmにおける発光強度が大きくなる。これより、第2層のpHは、8以上がより好ましく、9以上がさらに好ましい。
【0074】
また、第一層を形成する蛍光性物質Aとして4−ヒドロキシクマリンを用い、第二層を形成する蛍光性物質Bとしてアルギニルクマリン・AlCl3錯体を用いて、上記の積層材料とすることが好ましい。この積層体においては、第一層における作用は上記と同様であり、第二層においては、アルギニルクマリン・AlCl3錯体は、励起ピーク波長が370nmであり、475nmの可視光を発光する。よって、第一層から発光される内部光のピーク波長374nmに励起ピーク波長が近いので、効率的に紫外線を可視光に変換することができる。また、第二層のアルギニルクマリン・AlCl3錯体に対して、低分子アルコールを添加することにより、発光効率をさらに向上させることができる。
【0075】
上記説明した本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料を実現することができる、紫外線遮蔽および可視光増強材料、および、積層材料は、基本的には、ガラス容器内に、蛍光性物質を溶解してなる水溶液(低分子アルコールを含む場合がある。)が、閉じ込められた形態となっている。この場合、ガラス容器内部で、液体が対流しているので、得られる青色発光あるいは水色発光に自然な揺らぎが生じ、室内にいる者に対し癒しの効果がある。ガラス容器としては、内部に薄い隙間を有する板状ガラス(内部に空気層を有する断熱ガラスのような形態)を用いることができ、隙間に蛍光性物質を溶解してなる水溶液を入れ、これを窓ガラスとして使用することができる。また、ガラス容器としては、内部に空間を有する様々な形態のガラスオブジェを用いることもでき、空間に蛍光性物質を溶解してなる水溶液を入れ、太陽光の当たる場所に置くことにより(あるいは、360〜375nmの紫外線をLED光源等によって当てることにより)、青色発光あるいは水色発光を楽しむことができる。
【0076】
ただ、ガラス容器が破損した場合、内部の水溶液が漏れ出す危険性があるので、これを防止する観点から、蛍光性物質を含む水溶液をゲル状にしたものをガラス容器内に閉じ込めた形態としてもよい。また、用途によっては、ゲル状物質をそのまま板状にしたものを使用することもできる。また、ガラス板上を流水が落ちる形態のオブジェ等があるが、この流水として本発明における蛍光性物質を含む水溶液を使用することもできる。この場合、流水自体が青色あるいは水色に発光し、かつ、発光媒体自体が動くことにより、動的な発光変化を楽しむことができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明について、実施例および比較例に基づいて、具体的に説明する。
図20に、使用した材料物質である、4−ヒドロキシクマリン(4C)、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン(7C)、塩化アルミニウム(AlCl3)、2−プロパノール(2−propanol)、アルギニルクマリン(Arg−4C)、アルギニルクマリン+2−プロパノール(Arg−4C+2−propanol)、アルギニルクマリン+塩化アルミニウム(Arg−4C+AlCl3)、アルギニルクマリン+塩化アルミニウム+2−プロパノール(Arg−4C+AlCl3+2−propanol)についての略記号を掲載した。図21〜図26においては、該略記号を用いて、各材料物質を表示している。
【0078】
<実施例1>
0.2mMのアルギニルクマリン溶液5μL、0.5MのAlCl3溶液10μLを、3000μLとなるように蒸留水で希釈して試料溶液を調製した。石英板(20mm×10mm×1mm)2枚とアクリル樹脂で作ったスペーサー(厚さ3mm)から構成して作製した自作試料セルに該試料溶液を充填した。
図21に、実施例1の「アルギニルクマリン+AlCl3」の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。外部光UV−Bにより、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、該励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」は、発光ピーク波長(λmax)が363nmである330〜400nmの内部光を発光する。該330〜400nmの内部光を「アルギニルクマリン+AlCl3」がさらに吸収して、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」より発光ピーク波長(λmax)が475nmである400〜600nmの水色発光が得られる。
また、外部光UV−Aにより、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、該励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」より、発光ピーク波長(λmax)が475nmである400〜600nmの水色発光が得られる。なお、可視光および赤外線は、そのまま透過する。
ここで、励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」の発光ピーク波長(λ1)は363nmであり、該「アルギニルクマリン+AlCl3」が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、370nmであるので、「λ1=λ2−7」となっている。
【0079】
<実施例2>
0.2mMのアルギニルクマリン溶液5μL、0.5MのAlCl3溶液10μL、2−プロパノール100μLを全体で3000μLとなるように蒸留水で希釈して試料溶液を調整した。該試料溶液を、実施例1と同様の自作試料セルに充填した。
図22に、実施例2の「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。青水色発光が得られる機構は実施例1と同様である。
ここで、励起された「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」の発光ピーク波長(λ1)は363nmであり、該「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、370nmであるので、「λ1=λ2−7」となっている。
【0080】
以下の実施例、比較例において、試料の調製条件として、アルギニルクマリン、4−ヒドロキシクマリンまたは7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンの濃度を0.2mM×5/3000=0.33μMとし、AlCl3濃度は1.67mMとし、2−プロパノール濃度は3.3V/V%とした。
【0081】
<実施例3>
4−ヒドロキシクマリン(4C)を含む試料溶液(第一液)(pH3)、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン(7C)を含む試料溶液(第二液)(pH9)をそれぞれ調整した。石英板(20mm×10mm×1mm)3枚とアクリル樹脂で作ったスペーサー(厚さ1mm)2枚から構成して作製した自作石英セルに、上記試料溶液をそれぞれ充填して、第一液からなる第一層、および、第二液からなる第二層を備えた積層材料とした。
図23に、4C(第1層、pH3)および7C(第2層、pH9)の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。外部光UV−Bにより、第1層の4Cが励起され、該励起された4Cは、発光ピーク波長(λmax)が374nmである330〜400nmの内部光を発光する。該330〜400nmの内部光を第二層の7Cが吸収して、7Cが励起され、励起された7Cから発光ピーク波長(λmax)が450nmである380〜580nmの青色発光が得られる。
また、外部光UV−Aにより、7Cが励起され、該励起された7Cから発光ピーク波長(λmax)が450nmである380〜580nmの青色発光が得られる。なお、可視光および赤外線は、そのまま透過する。
ここで、励起された4Cの発光ピーク波長(λ1)は374nmであり、7Cが可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、360nmであるので、「λ1=λ2+14」となっている。
【0082】
<実施例4>
4Cを含む試料溶液(第一液)(pH3)、アルギニルクマリンおよびAlCl3を含む試料溶液(第二液)(pH4.8〜3.9)をそれぞれ調整した。
図24に、4C(第1層、pH3)、および、「アルギニルクマリン+AlCl3」(第2層、pH4.8〜3.9)の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。外部光UV−Bにより、第1層の4Cが励起され、該励起された4Cは、発光ピーク波長(λmax)が374nmである330〜400nmの内部光を発光する。該330〜400nmの内部光を第2層の「アルギニルクマリン+AlCl3」がさらに吸収して、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」から発光ピーク波長(λmax)が475nmである380〜580nmの水色発光が得られる。
また、外部光UV−Aにより、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、該励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」から発光ピーク波長(λmax)が475nmである380〜580nmの水色発光が得られる。なお、可視光および赤外線は、そのまま透過する。
ここで、励起された4Cの発光ピーク波長(λ1)は374nmであり、「アルギニルクマリン+AlCl3」が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、370nmであるので、「λ1=λ2+4」となっている。
【0083】
<実施例5>
4Cを含む試料溶液(第一液)(pH3)、「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」を含む試料溶液(第二液)(pH4.8〜3.9)をそれぞれ調整した。
図25に、4C(第1層)、ならびに、「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」(第2層)の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。水色発光が得られる機構は実施例4と同様である。
ここで、励起された4Cの発光ピーク波長(λ1)は374nmであり、「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、370nmであるので、「λ1=λ2+4」となっている。
【0084】
<実施例6>
アルギニルクマリンを含む試料溶液(第一液)(pH7.4)、「アルギニルクマリン+AlCl3」を含む試料溶液(第二液)(pH4.8〜3.9)をそれぞれ調整した。
図26に、アルギニルクマリン(第1層、pH7.4)、および、「アルギニルクマリン+AlCl3」(第2層、pH4.8〜3.9)の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。外部光UV−Bにより、第1層のアルギニルクマリンが励起され、該励起されたアルギニルクマリンは、発光ピーク波長(λmax)が348nmである330〜400nmの内部光を発光する。該330〜400nmの内部光を第2層の「アルギニルクマリン+AlCl3」が吸収して、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」から発光ピーク波長(λmax)が475nmである400〜600nmの水色発光が得られる。
また、外部光UV−Aにより、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、該励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」から発光ピーク波長(λmax)が475nmである400〜600nmの青水色発光が得られる。なお、可視光および赤外線は、そのまま透過する。
ここで、励起されたアルギニルクマリンの発光ピーク波長(λ1)は348nmであり、「アルギニルクマリン+AlCl3」が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、370nmであるので、「λ1=λ2−22」となっている。
【0085】
<参考例1>
4−ヒドロキシクマリン(4C)のみを含む試料溶液を調整し、実施例1と同様の試料セルに充填した。
ここで、励起された4Cの発光ピーク波長(λ1)は374nmであり、4Cが紫外光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、300nmであるので、「λ1=λ2+74」となっている。
【0086】
<参考例2>
アルギニルクマリンのみを含む試料溶液を調整し、実施例1と同様の試料セルに充填した。
ここで、励起されたアルギニルクマリンの発光ピーク波長(λ1)は348nmであり、アルギニルクマリンが紫外光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、325nmであるので、「λ1=λ2+23 」となっている。
【0087】
<参考例3>
4Cを含む試料溶液(第一液)(pH3.0)、7Cを含む試料溶液(第二液)(pH7未満)をそれぞれ調整し、実施例3と同様の試料セルに充填した。
ここで、励起された4Cの発光ピーク波長(λ1)は374nmであり、7Cが可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、320nmであるので、「λ1=λ2+54 」となっている。
【0088】
上記の実施例および比較例で作製した各々の試料溶液の入った試料セルを(積層材料の場合は励起光が入射する側に第1層となるセルを配置して)、日本分光(Jasco)社製蛍光分光高度計FP750の試料室に挿入し、波長370nmのUV−A紫外線で励起し、波長475nmの蛍光強度を測定した。
【0089】
結果を図27に示した。参考例1の4Cのみの場合、参考例2のアルギニルクマリンのみの場合では低い値となり、可視発光機構が極めて小さいことが確認できた。また、参考例3の場合も、可視発光機構が小さかった。
その他の実施例1〜6では、いずれも、励起された蛍光物質の発光ピーク波長(λ1)と、該蛍光物質が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)とが、λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」の関係を満たしており、強い可視発光機構が働いていることが分かった。特に、実施例2の、「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」の一物質の場合が最も高い値となった。
【0090】
<2−プロパノールの添加効果について>
アルギニルクマリン+AlCl3への添加剤として、2−プロパノールがなぜ大きな発光量の増大をもたらすかについて分子量の点から検討した。いくつかのアルコール分子種について前記の実験を試したところ、メタノールを添加した場合は、極度に可視発光が消失し、クエンチング(quenching)現象が起きた。エタノール、オクチルアルコールの場合は、大きな変化は起きなかった。よって、分子量の大小が原因ではなく、溶液中での分子構造に依存する分子間相互作用が原因ではないかと推測されたが、詳細な機構については不明である。発見して分かったことは、2−プロパノールの場合、少量の添加で20%以上の可視発光量の増大の効果があることである。
【0091】
<太陽電池発電遮蔽>
図28は、太陽電池モジュールAの上に、本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料を含む水溶液をガラス板で挟んで封印したカバーBを設置して、太陽光に含まれる紫外線が可視光に変換され増強され、太陽電池に照射される様子を表した模式図である。
【0092】
アルギニルクマリン+AlCl3一物質の場合において次の手順で実験した。透明度の高い25mm×75mm×厚さ1mmのスライドガラスの下に水素化アモルファスシリコン太陽電池(QFSOLAR2510DS)を配置し、その上に「アルギニルクマリン+AlCl3」混合溶液(アルギニルクマリン濃度0.1mM、AlCl3濃度0.25M)を厚さ1mmとなるように、かつ漏れないように、周囲を予め作製しておいたアガロースゲルによって封止し、固定して被検体1とした。また、単なる1枚のスライドガラス板を被検体2とし、高分子材料としてのポリスチレン板(25mm×75mm×厚さ1mm)を被検体3とした。また、3枚のスライドガラス板を重ねたものを被検体3とした。それぞれ、上側に波長370nmの紫外線の出る紫外線LEDを、太陽電池から等距離に固定して、UV−Aを照射して発電させた。流れるそれぞれの電流値を比較して評価した。
【0093】
それぞれ3回電流値の測定を行って、その平均値を求めた。また、被検体2のスライドガラス1枚の場合の値を基準に相対評価値を求めた。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1の結果より、相対評価値が109である被検体1の「アルギニルクマリン+AlCl3」混合溶液で遮蔽した場合が最も発電量が大きかった。
被検体1は、基準とした被検体2と比べて、該紫外線遮蔽および可視光増強材料の厚さの分だけ2倍も厚く遮蔽されているにも関わらず、被検体2よりも発電量が大きくなったことから、UV−A紫外線が可視光として透過し、太陽電池の発電に寄与したことが立証された。本実験では比較的弱いUV−Aの照射によって、発電量を測定したが、より強いUV−B紫外線を用いた場合は、より大きな差異がでることが予測される。
【0096】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う紫外線遮蔽および可視光増強方法、紫外線遮蔽および可視光増強材料もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法、紫外線遮蔽および可視光増強材料は、例えば、建築用ガラス板、特に、室内の明るさを必要とする場合におけるガラス板として利用可能である。また、工場内での精密作業などで使用する強力な照明器具からは紫外線が作業者に降り注いでいて有害であるが、そうした照明器具の窓材料として使用することに適している。また、青色発光あるいは水色発光により光るオブジェとしても使用可能である。また、既に設置されている全ての太陽電池モジュールのカバー材料として使用可能である。もちろん、新規太陽電池モジュールの一部としても使用可能である。しかも希少金属を一切使用していないため低価格で提供できる。また、基材がガラスでなくてもポリスチレンのように軽量でガラスに匹敵する紫外〜可視域に透明度の高い高分子材料で該本発明材料を挟んで使用することが出来るので、低コストに提供可能であると同時に様々な形状の製品として製造可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光性物質を用いた紫外線遮蔽および可視光増強方法および該方法を実現可能な紫外線遮蔽および可視光増強材料に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用ガラス板、車両用ガラス板、太陽電池モジュール用ガラス板などとして、内側に存在する人あるいは物の紫外線による被害を防ぐため、紫外線遮蔽機能を付与したガラスが用いられている。このような紫外線遮蔽性ガラスとして、特許文献1には、ガラス基板表面にZnO−SiO2系薄膜、および、TiO2−SiO2系薄膜またはZrO2−SiO2系薄膜を被覆積層してなる紫外線遮蔽ガラスが記載されている。
【0003】
紫外線を遮蔽すると共に、紫外線エネルギーを有効利用する技術として、特許文献2には、太陽光発電モジュールのガラス基板中に、紫外線−可視光変換物質として三価のセリウムイオンを含ませることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−110474号公報
【特許文献2】特開2007−27271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の紫外線遮蔽ガラスは、紫外線遮蔽率が50%程度であり、十分なレベルとはいえない。また、特許文献2の技術では、希少金属であるセリウムを使用する必要があるということで、経済性に劣っていた。
本発明では、上記した問題点を含め、以下の5つの課題を解決することを目的する。
(1)紫外線を遮蔽または除去できること、
(2)可視光線を透過すること、
(3)紫外線エネルギーを有効利用し、可視光線を得ること、
(4)希少金属を使用しないこと、
(5)低コストであること、
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の点を発見するに至った。
(1)200〜330nmの外部光で蛍光性物質を励起して330〜400nmの内部光を発光させ、該発光した330〜400nmの内部光で蛍光性物質を励起して400nm以上の可視光を発光すると共に、330〜400nmの外部光で励起して400nm以上の可視光を発光させる。これにより、紫外線を遮蔽すると共に、可視光を増強することができる方法とする。
なお、このとき、発光した330〜400nmの内部光の発光ピーク波長λ1(nm)と、該内部光により励起されて発光する可視光が発光ピークとなる時の励起波長λ2(nm)とが、以下の関係を有する場合、紫外線の可視光への変換が効率的に行われ、可視光をより増強させることができる。
λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」
(2)上記方法を1物質で実現できる蛍光性物質。
(3)200〜330nmの外部光で励起して330〜400nmの内部光を発光させる蛍光性物質を備えた第一層、ならびに、該発光した330〜400nmの内部光で励起して400nm以上の可視光を発光すると共に、330〜400nmの外部光で励起して400nm以上の可視光を発光させる蛍光性物質を備えた第二層、を有し、各層が400nm以上の可視光を透過する、二つの層に機能を分離した方法。この方法では、各層を構成する蛍光物質の選択枝が広がるため、用途に応じた使い分けが可能となる。
(4)上記二つの層に機能を分離した方法を実現できる、積層材料。
【0007】
第1の本発明は、200nm〜330nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程、該第一励起工程で励起された蛍光性物質が330nm〜400nmの内部光を発光する内部光発光工程、330nm〜400nmの外部光および前記330〜400nmの内部光で蛍光性物質を励起させる第二励起工程、および、該第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光工程、を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強方法である。
なお、第一励起工程にて励起される蛍光性物質と、第二励起工程にて励起される蛍光性物質とは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0008】
第1の本発明において、内部光発光工程において発光する内部光の発光ピーク波長λ1(nm)と、第二励起工程で蛍光性物質が励起されて可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長λ2(nm)とが以下の関係を有することが好ましい。
λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」
【0009】
第1の本発明において、蛍光性物質は、アルギニンとクマリン色素から合成した化合物(これ以降、これをアルギニルクマリンと称する場合がある)と、塩化アルミニウムとの錯体または混合物であることが好ましい。
【0010】
第2の本発明は、アルギニンとクマリン色素から合成した化合物、塩化アルミニウム、を含有してなり、第1の本発明の方法を実現可能な、紫外線遮蔽および可視光増強材料である。
【0011】
第2の本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料は、アルギニンとクマリン色素から合成した化合物、塩化アルミニウム、を水中に含有してなることが好ましい。
【0012】
第2の本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料はゲル状であることが好ましい。
【0013】
第2の本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料は、さらに低分子アルコールを含有してなることが好ましい。また、低分子アルコールは、2−プロパノールであることが好ましい。また、低分子アルコールは、メタノールであることは好ましくない。
【0014】
第3の本発明は、光入射側から、200〜330nmの外部光で励起して330〜400nmの内部光を発光する第一層、ならびに、330〜400nmの外部光および第一層で発光した330〜400nmの内部光で励起して400nm以上の可視光を発光する第二層、を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強材料である。
【0015】
第3の本発明において、第一層は、4−ヒドロキシクマリンを含有する層であることが好ましく、第二層は7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する層であることが好ましい。また、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する層は、pH7以上であり、360nm近傍に光吸収極大をもつことが好ましい。
【0016】
第3の本発明において、第一層は、4−ヒドロキシクマリンを含有する層であることが好ましく、第二層はアルギニンとクマリン色素から合成した蛍光性化合物と塩化アルミニウムとの錯体または混合物を含有する層であることが好ましい。また、第二層は、さらに低分子アルコールを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
第1の本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法によると、紫外線を遮蔽できると共に、該遮蔽した紫外線エネルギーを利用し可視光を得ることができ、また、外部からの可視光はそのまま透過するため、可視光を増強させることができる。また、希少金属等を用いることなく、低価格な材料で実現できる方法であるので、低コストな方法である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法の概念を示す図である。
【図2】(a)は、内部光発光工程において発光する内部光の発光強度のスペクトル、(b)は、第二励起工程で蛍光性物質が励起されて可視光を発光する時の発光強度を、励起波長λ2に対してプロットした励起スペクトルのグラフである。
【図3】4−ヒドロキシクマリン(a)および7−ヒドロキシ4−メチルクマリン(b)の光吸収スペクトルである。
【図4】4−ヒドロキシクマリンおよびアルギニン混合物へのマイクロ波照射前後の光吸収スペクトルである。
【図5】4−ヒドロキシクマリンおよびアルギニン混合物へのマイクロ波照射前後の光吸収スペクトル(差スペクトル)である。
【図6】アルギニルクマリンの光透過スペクトルである。
【図7】アルギニルクマリンとAlCl3の混合溶液の光透過スペクトルである。
【図8】4−ヒドロキシクマリンとアルギニルクマリンの励起発光スペクトルである。
【図9】マイクロ波印加装置の概略図である。
【図10】7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液の光吸収スペクトルのpH依存性を示すグラフである。
【図11】7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液における、pHに対する320nm(●)および360nm(▲)における吸収強度を示すグラフである。
【図12】7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液を360nmの光で励起した場合における蛍光スペクトルを示したグラフである。
【図13】7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液を360nmの光で励起した場合における波長450nmにおける蛍光強度のpH依存性である。
【図14】アルギニルクマリンとAlCl3の混合溶液の蛍光スペクトル(Series1〜9で、AlCl3の添加量を変化させている)を示したグラフである。
【図15】Series1からSeries2を引いた差スペクトルを示したグラフである。
【図16】アルギニルクマリンの475nmでの蛍光強度vsAlCl3添加量(280nm励起)を示したグラフである。
【図17】蛍光スペクトル(アルギニルクマリン+AlCl3)の励起波長依存性(340〜400nm)を示したグラフである。
【図18】アルギニルクマリンの発光強度(475nm)の励起波長依存性(340〜400nm)を示したグラフである。
【図19】4−ヒドロキシクマリンにAlCl3を添加した場合の発光スペクトルを示したグラフである。
【図20】実施例に使用した物質材料の略記号を示した。
【図21】実施例1の一物質の例で「アルギニルクマリン+AlCl3」の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図22】実施例2の一物質の例で、「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図23】実施例3の積層材料の例で、4C(第1層)および7C(第2層、pH7以上)の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図24】実施例4の積層材料の例で、4C(第1層)および「アルギニルクマリン+AlCl3」(第2層)の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図25】実施例5の積層材料の例で、4C(第1層)および「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」(第2層)の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図26】実施例6の積層材料の例で、アルギニルクマリン(第1層)および「アルギニルクマリン+AlCl3」(第2層)の紫外線遮蔽および可視光増強の様子を示した。
【図27】実施例1〜6、参考例1〜3の可視光増強実験結果の比較図である。
【図28】太陽電池モジュールカバーの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
光は、その波長により、紫外線、可視光、赤外線に分けられるが、本発明においては、波長によって次のように定義する。まず、200nm〜400nmの光を紫外線(UV)とし、このうち、200〜330nmのものをUV−B、330〜400nmのものをUV−Aとする。また、400〜700nmの光を可視光(Visible)とし、700nm以上の光を赤外線(Infrared)とする。
【0020】
<紫外線遮蔽および可視光増強方法>
本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法は、200nm〜330nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程、該第一励起工程で励起された蛍光性物質が330nm〜400nmの内部光を発光する内部光発光工程、330nm〜400nmの外部光および前記330nm〜400nmの内部光で該蛍光性物質を励起させる第二励起工程、および、該第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光工程、を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強方法である。
【0021】
以下、図1を用いて、該本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法について説明する。図1において、中央の括弧内には、蛍光性物質を含んでなる紫外線遮蔽および可視光増強材料が存在していることを意味している。左側から太陽光が紫外線遮蔽および可視光増強材料に入射し、紫外線が遮蔽され、可視光が増強された光が、右側から放出される。太陽光は、波長により4種類の光、UV−B(200〜330nm)、UV−A(330〜400nm)、可視光(400〜700nm)、および、赤外線(700〜1200nm)に分けている。
【0022】
括弧内では、太陽光が紫外線遮蔽および可視光増強材料に入射した後、どのように変換されているかを示している。まず、外部光のUV−Bを蛍光性物質が吸収し、蛍光性物質が励起され(第一励起工程)、該励起された蛍光性物質は330〜400nmの内部光を発光する(図示のA)。そして、この330〜400nmの内部光および外部光のUV−Aを蛍光性物質が吸収し、蛍光性物質が励起され(第二励起工程)、該励起された蛍光性物質は400nm以上の可視光を発光する(図示のB)。このように、本発明においては、紫外線(UV−AおよびUV−B)を遮蔽するだけでなく、これらを可視光に変換することができ、可視光を増強することができる。
【0023】
このように、本発明の方法は、第一励起工程および内部光発光工程で得られた内部光並びに外部光により第二励起工程を起こらしめ、可視光を発光させる方法であり、紫外線を可視光に変換することにより、紫外線エネルギーを最大限に利用し、可視光として取り出すことができる方法である。なお、この変換を効率的に行わせるためには、内部光発光工程で発光する内部光の発光ピーク波長λ1(nm)と、第二励起工程において蛍光性物質が励起されて可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長λ2(nm)とが、以下の関係を有する蛍光性物質を用いることが好ましい。
λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」
このような関係を満たすλ1およびλ2を備えた蛍光性物質を用いることにより、紫外線をより効率的に可視光に変換することができる。なお、より効率的な変換を起こらしめる点からは、λ1=「λ2−15」〜「λ2+15」であることがより好ましく、λ1=「λ2−10」〜「λ2+10」であることがさらに好ましい。
【0024】
上記したλ1およびλ2の関係を図2を用いて説明する。図2(a)には、第一励起工程で励起された蛍光性物質が発光した内部光の発光強度スペクトルである。もっとも発光強度が高い発光ピークにおける波長が発光ピーク波長λ1である。また、図2(b)は、蛍光性物質が光により励起され(第二励起工程)、該励起された蛍光性物質が発光した可視光の発光強度を、該第二励起工程の励起波長に対してプロットした励起スペクトルである。可視光が発光ピークとなる時の励起波長がλ2である。
【0025】
本発明においては、これらλ1およびλ2の波長が近いほど、発光した内部光が、より効率的に第二励起工程で蛍光性物質を励起して可視光を発光できることになり、より効率的に紫外線を可視光に変換できることになる。これより、λ1およびλ2は、上記した関係を満たすことが好ましいということになる。
【0026】
上記した紫外線遮蔽および可視光増強方法において使用する蛍光性物質としては、上記方法を実現できるものであれば、特に限定されない。上記方法を実現するのに好ましい紫外線遮蔽および可視光増強材料については、以下に説明する。
また、第一励起工程および内部光発光工程をある蛍光性物質Aに行わせて、第二励起工程および可視光発光工程を別の蛍光性物質Bに行わせるようにして、二種の蛍光性物質に分担させて上記方法を実現させてもよい。
【0027】
<紫外線遮蔽および可視光増強材料>
上記した方法を一物質で実現可能な蛍光性物質として、アルギニンおよびクマリン色素から合成した化合物と、塩化アルミニウムとの錯体または混合物が挙げられる。以下、この錯体または混合物を含んでなる紫外線遮蔽および可視光増強材料について説明する。
【0028】
(クマリン色素)
4−ヒドロキシクマリン(以下、4Cと略記する場合あり)とは、下記(1)の構造を有する単純クマリン化合物の一種である。
【0029】
【化1】
4−ヒドロキシルクマリンは、常温では淡黄色もしくは淡茶色の結晶性粉末である。今日では、天然物また合成物として1,000種類以上のクマリン化合物が見出されている。中でも4−ヒドロキシクマリンは、現在、誘導体のワーファリンが血液の抗凝固剤や殺鼠剤として用いられているように、構造が単純なため、多様な物質合成の可能性を持っている。単純クマリンにはまた、下記(2)に示すような、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン(以下、7Cと略記場合あり)なども存在する。
【0030】
【化2】
クマリンは、従来から香料などに応用されたり医学目的に使用されたりしてきたが、最近ではクマリンの光吸収と発光特性を利用した有機色素レーザー材料などへの応用も多く試みられるようになってきた。また、近年、太陽エネルギー利用の新形態として注目されている色素増感太陽電池の増感剤となる効果的な物質がクマリンの誘導体として実現された例も出てきているなど光エネルギー利用材料物質として工業的利用の可能性が広がりつつある。
【0031】
4−ヒドロキシクマリンは、図3の曲線(a)に示すような光吸収スペクトルを有する。この光吸収特性は紫外部における光吸収が大きく太陽エネルギーの紫外線領域の光吸収には向いているが、可視領域における光吸収帯は少ない。主要な吸収ピークは二つ有りその波長帯は接近している。7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンの場合は、図3の曲線(b)に示すような光吸収スペクトルを有する。この光吸収特性は紫外線領域の光吸収には向いていて、4−ヒドロキシクマリンよりも少し長波長側に光吸収帯があるが、可視領域における光吸収帯はやはり少ない。主要な吸収ピークは密集している。上記式(1)および(2)を比較して分かるように、ヒドロキシル基(−OH)の位置の違いが、スペクトルにおいて大きな違いとなって現れている。図3により7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンは波長290nmと322nmに主要な吸収帯があることがわかる。よくみると、322nmの吸収は4−ヒドロキシクマリンにもある。これは基本的な分子構造由来である。
【0032】
太陽エネルギーの効果的な利用のための材料とするには光吸収帯が紫外〜可視に広領域にあることが必要であり、メモリーなどの波長制御を要する材料とするには主要な吸収ピークが明瞭に分離したスペクトル特性を有する物質であることが必要である。
【0033】
また、レーザー材料等の光放射を利用する材料としては、蛍光スペクトルにおける励起発光ピークの制御が重要となる。より高エネルギーの放射エネルギーをもたらす材料とするには、より短波長にピークのある蛍光スペクトルすなわち励起発光スペクトルを有する物質であることが求められる。
【0034】
図10に、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液の光吸収スペクトルのpH依存性を示した。また、図11には、pHに対する320nm(●)または360nm(▲)における吸収強度を示した。これによると、pH7未満では320nm付近に吸収ピークが現れ、pH7以上では360nm付近に吸収ピークが現れることが分かる。また、pHが大きくなるにつれ、320nmでの吸収が小さくなり、逆に、360nmでの吸収が大きくなることが分かる。
【0035】
図12に、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン水溶液を360nmの光で励起した場合における蛍光スペクトルを示した。蛍光ピーク波長は450nmであり、pHが大きくなるに従って、蛍光強度が大きくなることが分かった。
【0036】
(アルギニン)
アルギニンは、下記(3)の構造を有する塩基性アミノ酸の一種である。
【0037】
【化3】
【0038】
アルギニンは側鎖RがCH2CH2CH2NH(C=NH)NH2であるα−アミノ酸で、荷電極性側鎖アミノ酸であり、塩基性アミノ酸である(蛋白質を構成するアミノ酸としては最も塩基性が高い。)。側鎖Rの構造は通常のポリペプチドとは異なる高分子化合物を形成する材料となることを意味している。すなわち主鎖ではなく、側鎖のアミノ基を介して高分子化するポリアルギニン等の高分子材料となることを意味している。ポリアミノ酸にはまた、側鎖のカルボキシル基を介して高分子化するグルタミン酸など多様に存在し、食品、医薬品以外の材料系の応用例としては、生分解性プラスチックスや酵素硬化ハイドロゲル、インジェクション可能な生体材料として、細胞足場材料、DDSマトリックス、生医学用止血剤・接着剤等様々である。
【0039】
(アルギニンと4−ヒドロキシクマリンから合成した化合物)
本発明者は、クマリン分子本体のいずれかの原子団が脱離し、そこにアルギニンが結合すると電子密度分布が大きく変化し、光吸収過程におけるエネルギー値に大きな変化が現れるのではないかと予測した。また、クマリンとアミン類の化学合成に効果があるマイクロ波合成の方法は、アルギニンと4−ヒドロキシクマリンとの反応にも有効に働くのではないかと予測した。これは、アミノ酸はアミン類と機能は異なるが、構造上アミノ基を有していることがその理由である。
【0040】
本発明においては、アルギニンとクマリン色素との反応を、マイクロ波を照射することにより行った。本発明で化学合成に用いるマイクロ波とは、波長0.3mm〜30cm、周波数1GHz〜1THzの電磁波を指し、マイクロ波の振動電場および振動磁場が物質中の永久・誘起双極子あるいは電荷と相互作用することにより、分子レベルで熱を発生し、物質を直接加熱する。化学反応系に利用した場合、迅速に、熱伝導および対流によらない均一な直接加熱、マイクロ波と相互作用をする物質のみの選択的加熱、パルス、連続照射による加熱モードの精密制御、といったことが可能である。また、反応器壁や物質移動の影響のない、また熱伝導の良否にかかわらない加熱が可能であり、外部熱源からの加熱では得られない精密な反応制御プロセスが構成できるものである。
【0041】
以下、本発明による蛍光性化合物及びその製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。反応に用いたアミノ酸のアルギニンだけを含む水溶液の紫外可視光吸収は、207nm近傍の紫外部に吸収波長帯があるだけである。
【0042】
アルギニンと4−ヒドロキシクマリンを1:1のモル比で混合した場合、両者は反応するかどうかを確かめる実験を行った。アルギニンと4−ヒドロキシクマリンを1:1のモル比で混合したサンプル(それぞれの濃度は、0.2mM)の光吸収スペクトルは図4の1のような結果となった。205nm,286nm,299nmに吸収極大が見られただけであり、これは、4−ヒドロキシクマリンの極大波長206nm,286nm,300nmとほぼ一致しており、4−ヒドロキシクマリンの存在が確認されただけである。アルギニンの光吸収帯と4−ヒドロキシクマリンの205nmピークをもつ光吸収帯はほぼ重なっている。この実験結果からは、単に両者を混合しただけでは反応しないことが分かった。
【0043】
次に、三段階の濃度の混合溶液をそれぞれ、容積15mL、最大耐圧1400kPaの高耐圧ガラスチューブ(Ace社製)に5mL入れ、それぞれ別々にマイクロ波を4分間印加した場合について説明する。図9はマイクロ波印加装置の概略図である。1は電子レンジ本体、2は被照射物質を設置する部分、3はマイクロ波を発生させるマグネトロン、4は高耐圧ガラスチューブ、および5はビーカーである。マイクロ波印加装置には一般家庭用電子レンジ(2.45GHz約900W)を使用した。ビーカー5に入れた高耐圧ガラスチューブ4を電子レンジ1の被照射物質を設置する部分2に設置し、マイクロ波を照射した。マイクロ波照射前後の光吸収スペクトルを図4に示す。線分1は上記したように照射前のスペクトルであり、線分2は2分間照射後、線分3は4分照射後のそれぞれのスペクトルである。可視波長域には吸収は見られず、208nm,287nm,300nmに吸収極大が見られた。これは、4−ヒドロキシクマリンの極大波長207nm,286nm,299nmとほぼ一致しており、4−ヒドロキシクマリンの存在が確認された。マイクロ波を印加させるに伴い、4−ヒドロキシクマリンに特有の吸収領域の吸光度が減少し、253nmと331nm近傍の吸光度が増加した。これは、アルギニンと4−ヒドロキシクマリンが、何らかの反応を起こして吸収極大がシフトしたためと考えられる。
【0044】
このマイクロ波印加時間を2分で行なった場合、図4の線分2に示したように、吸収スペクトルの変化が観察されたが吸収値の変化量は少なく、この変化を詳しく観るため差吸収スペクトルとして図5のように三段階の濃度と三段階の反応時間で比較してみると、0.05mMのサンプル(図5の1)において、286nmで吸光度は0.125下がった。4−ヒドロキシクマリン水溶液の検量線を別途実験的に求め、0.01mM〜0.04mMの濃度においては、吸光度をy、濃度をxとすると、関数y=54.44x+0.055で近似されることが分かっている。
よって、Δy=−0.125として、
Δy=−0.125=54.44Δx、
Δx=−2.30×10−3mM
【0045】
つまり、0.05mMのサンプルでは、4−ヒドロキシクマリンは、2.30×10−3mM減少したことになり、全体の(2.30×10−3/0.05)×100=4.6%が反応したと考えられる。同様にして、0.1mMのサンプル(図5の線分3)では4.2%、0.2mMのサンプル(図5の線分5)では3.1%(吸光度が0.25〜0.7を大きく越えているため誤差が大きい。)となり、2分間のマイクロ波照射により、4−ヒドロキシクマリンは、約4%近く反応したと考えられる。なお、4分間のマイクロ波照射となると、図4の線分3、および図5の線分6に示したような劇的な変化が生じ、90%以上が反応したものと考えられる。
【0046】
この反応の前後における光吸収スペクトルデータから差スペクトルを計算し、グラフ化したものが図5である。図5はマイクロ波2分間及び4分間照射前後における、アルギニンと4−ヒドロキシクマリンを含む水溶液の紫外可視光吸収差スペクトルを示すグラフ図である。線分1,2は濃度0.05mMの場合、線分3,4は濃度0.1mMの場合、線分5,6は濃度0.2mMの場合である。
可視波長域には吸収は見られず、208nm,253nm,330nm近傍に吸収極大が見られた。これは、4−ヒドロキシクマリンの極大波長207nm,286nm,299nmと比べると短波長の208nmのみほぼ一致し、それ以外は一致せず、吸収極大のシフトが見られた。
【0047】
また、2分間照射の場合、約4%が反応したと考えられるが、4分間照射の場合、4−ヒドロキシクマリンの吸収領域である286nm,300nm付近の吸収帯がほとんどシフトしているので、前述のようにほとんどが反応したと考えられ、照射時間2分間と4分間の間で大幅に反応割合が増加している。このことから、ある一定の高温高圧の条件でこの反応過程が急速に進むと考えられる。
【0048】
この反応をさらに続けて4分超行なうと、高耐圧ガラスチューブ4といえども耐え切れない圧力となり、破壊現象が起きることも確かめることができた。様々な条件で実験を試みたところ、以下の事象が確認できた。
【0049】
ビーカー5に高耐圧ガラスチューブ4をそのまま入れた場合は4分の照射でほぼ反応物は全て生成物となり、その後は化学反応にエネルギーが消費されることがないために高耐圧ガラスチューブ4内のエネルギーの充満によって圧力が一気に上昇し破壊現象が起きる。
【0050】
ビーカー5内に酸化アルミニウムの粉末を敷き詰めて同様の反応を行なった場合、約半分の2分間の照射で反応生成物が飽和し、破壊現象が始まる。これはマイクロ波のエネルギーの反応物への効率的な伝達が起きるためであると考えられる。
【0051】
反応生成物は10ヶ月以上の長期間保存しておいても安定しており元のアルギニンと4−ヒドロキシクマリンに戻ることはなかった。
【0052】
この化学合成で得られる合成物の大きな特徴は、吸収スペクトル上ふたつある。ひとつは4−ヒドロキシクマリン特有の波長286nm,300nm近傍の吸収極大が消失し、324nmへと長波長側へシフトしている点、もうひとつは253へ短波長シフトしている点である。これは、分子の鎖の長さが長くなると、電気的対称性の変化によって光吸収過程に大きな変化が生じ、吸収極大波長が長波長側へシフトするという特徴がある、という考察から、4−ヒドロキシクマリンとアルギニンが反応し、鎖の長さが長くなったためであると考えられる。また、文献で報告されているマイクロ波の照射下における、アミンの−NH基による4−ヒドロキシクマリンのヒドロキシル基(−OH)との置換反応と同じように、マイクロ波による熱触媒作用により、アルギニンの−NH基と、4−ヒドロキシクマリンのヒドロキシル基とが脱水を伴う置換反応を起こしたのではないかと考えられる。推定される化学構造式を、下記(4)に示す。
【0053】
【化4】
または、アルギニン分子中の主鎖の−NH2基の水素H、側鎖の−NH2基の水素H、不斉炭素原子から第4位の窒素Nに結合した水素H、と4−ヒドロキシクマリンのヒドロキシル基(−OH)とが脱水を伴う置換反応が起きたと推定される場合は、それぞれ下記(5)、(6)および(7)の化合物となる。
【0054】
【化5】
【0055】
【化6】
【0056】
【化7】
いずれもアルギニンと4−ヒドロキシクマリンから合成された化合物(仮称 アルギニルクマリン)と呼ぶことができる。
【0057】
次に得られた生成物アルギニルクマリンの励起発光スペクトルを測定したところ、図8のようになった。線分1はマイクロ波照射前のアルギニンと4−ヒドロキシクマリンの混合物の励起発光スペクトルである。線分2は生成物の励起発光スペクトルである。反応前は374nm近傍に発光強度の極大があるが、生成物アルギニルクマリンの発光強度極大点は348nmに26nmも短波長シフトしていることが分かった。よって生成物アルギニルクマリンには元の4−ヒドロキシクマリンよりも高エネルギーの光量子が放出される性質が備わっていることが明らかになった。
【0058】
(アルギニルクマリンとAlCl3との錯体)
次に、蒸留水2995μLに0.22mMのアルギニルクマリン5μLを添加し3000μLとし、0.05MのAlCl3を10μLずつ添加して、280nm励起による発光スペクトルを測定した。結果を図14に示す。AlCl3を添加しない場合(Series1)では、348nmに発光極大のある発光スペクトルが得られたが、AlCl3を添加すると、このスペクトルは強度低下して長波長シフトした363nmおよび475nmに発光極大のある発光スペクトルが得られた。348nmから363nmへの長波長シフトと強度低下は塩素イオンの増大によって起きるpH変化が原因である。一方475nmの発光の増大は、280nmの光により励起された錯体が、363nmに発光極大のある光を発光し、この光が励起光となって錯体を励起させ、励起した錯体が475nmに発光極大のある光(水色)を発光していることを示している。
【0059】
つまり、第一励起工程により励起された錯体が、内部光である363nmに発光極大がある光を発光し(内部光発光工程)、第二励起工程では、この内部光により錯体が励起されて、該励起された錯体が475nmに発光極大がある可視光を発光している(可視光発光工程)。このように、アルギニルクマリンとAlCl3との錯体は、本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法を、一物質で実現できる化合物である。
【0060】
また、図14より、AlCl3をさらに加えていくと、475nmピークの発光強度が大きくなることが分かる。
【0061】
図15に、アルギニルクマリンのみのスペクトル(Series1)から、アルギニルクマリンにAlCl3を10μL加えたもののスペクトル(Series2)を引いて得られた差スペクトルを示した。これによると、AlCl3の添加により、アルギニルクマリン固有の348nmピークの発光が消失していることが、はっきりと分かる。
【0062】
図16に、上記図14で示したアルギニルクマリンとAlCl3との錯体水溶液に対し、280nmの光をあて励起させて得られた475nmの発光強度を、AlCl3の添加量に対してプロットしたグラフを示す。これより、AlCl3の添加量が増加するにつれて、錯体の発光強度が増加することが示された。また、AlCl3の添加量が多くなると、蛍光強度の増大が頭打ちとなる傾向が見られた。これより、アルギニルクマリンとAlCl3との錯体では、アルギニルクマリンに対しAlCl3をモル比で、5000倍以上加えることが好ましく、1万倍以上加えることがより好ましく、2万倍以上加えることがさらに好ましい。また、発光強度の増加が頭打ちとなることから、上限としては、6万倍以下とすることが好ましく、5万倍以下とすることがより好ましい。
【0063】
図17に、アルギニルクマリンとAlCl3との錯体水溶液に対して、340nm〜400nmの光を当て、錯体を励起させて得られた発光強度を示した。いずれも、475に発光ピークを有する発光であった。また、図18には、該励起させた340〜400nmの励起波長に対する、475nmでの発光強度をプロットした励起スペクトルである。これによると、370nmにおける励起で、最も発光強度(475nm)が強いことが示された。
【0064】
以上の結果をまとめると、上記アルギニルクマリンとAlCl3との錯体においては、280nmの外部光による励起により、363nmに発光極大を有する内部光を発光する。該内部光が錯体を励起して、励起した錯体が475nmに発光極大を有する可視光を発光する。この際、錯体は、図18で示したように励起波長が370nmとなるときに、可視光の発光強度が最大となる。つまり、励起波長が370nmに近ければ近いほど、可視光の発光が強く、言い換えれば、紫外線を可視光へ効率的に変換できることになる。上記アルギニルクマリンとAlCl3との錯体では、363nmに発光極大を有する内部光を発光する。これは、上記370nmに近い。このため、効率的に紫外線を可視光に変換でき、非常に強い475nmの青水色発光が得られたのだと考えられる。
【0065】
図19には、4CにAlCl3を添加した場合の発光スペクトルを示したが、この場合、280nmの光の照射により錯体(4C−AlCl3錯体)は、363nmに発光極大を有する内部光を発光する。しかしながら、第二励起工程では、該錯体は、励起波長が320nmとなるときに可視光(450nm)の発光が最大とする。このため、発光した内部光(363nm)を第二励起工程にて十分に利用することができず、効率的に紫外線を可視光に変換できない。結果として、強い発光は得られない。
【0066】
以上より、本発明においては、内部光発光工程において発光する内部光の発光ピーク波長λ1(nm)と、第二励起工程で蛍光性物質が励起されて可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長λ2(nm)とが以下の関係を有することが好ましいとしている。
λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」
また、λ1とλ2とは、近ければ近いほど、効率的に紫外線を可視光に変換でき、強い可視光発光が得られるので、λ1=「λ2−15」〜「λ2+15」であることがより好ましく、λ1=「λ2−10」〜「λ2+10」であることがさらに好ましい。
【0067】
(低分子アルコールの添加)
本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料は、さらに低分子アルコールを含有していることが好ましい。これにより、可視光の発光効率がさらに向上する。具体的な機構は不明であるが、低分子アルコールがアルギニルクマリン・AlCl3錯体の配位形態に何らかの影響を与えているのではないかと予想される。低分子アルコールとしては、2−プロパノールが好ましい。
【0068】
<可視光透過性>
図6にアルギニルクマリン(Arg−C)の紫外光〜可視光領域の透過率の波長依存性を、濃度別で表す。線分1は、0.002mM、線分2は0.04mM、線分3は0.02mMの場合の測定結果である。いずれも400nm以上の可視光領域では透明であることがわかる。紫外線領域では濃度が高くなるにつれて330nm以下の領域で吸収があるため透過率は低下する。
【0069】
図7にArg−C+AlCl3の紫外光〜可視光領域の透過率の波長依存性を、濃度別で表す。線分1は、0.02mMのArg−Cに0.0005MのAlCl3、の場合の測定結果であり、このような低濃度の場合は400nm以上の可視光領域では100%透明であることがわかる。線分2は、その100倍という極めて高い濃度の2.00mMのArg−Cに0.05MのAlCl3の場合の測定結果である。この場合であっても、波長400nmで透過率約70%、波長450nmで透過率約90%、波長500nmで透過率約95%と可視光領域での透過性は高い。
【0070】
理想的な可視光透過性を考えるならば、それは波長400nmを境に短波長側で透過率0%、長波長側で透過率100%となることであるが、実際的にはそのような材料でなおかつ紫外線吸収エネルギーを可視光に変換できる材料は存しない。図7に示したArg−C+AlCl3の紫外光〜可視光領域の透過率の波長依存性は実存する材料の中では、要求される条件を満たすに最も近い性能を有していると評価できるものである。なぜならば、波長400nmを境にして短波長側で透過率は低く、長波長側で透過率は高くなるように変極しているからである。
【0071】
<積層材料>
本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法は、第一励起工程および内部光発光工程をある蛍光性物質に行わしめ、第二励起工程および可視光発光工程を他の蛍光性物質に行わしめるというように、二つの蛍光性物質を組み合わせることにより、実現させてもよい。二つの蛍光性物質は、積層材料として形成することができ、例えば、第一励起工程および内部光発光工程を担う蛍光性物質Aからなる第一層、ならびに、第二励起工程および可視光発光工程を担う蛍光性物質Bからなる第二層を備えてなる、積層材料とすることができる。このような積層材料は、例えば、ガラス中に二層の空間が存在するガラス板を準備し、それぞれの空間に、蛍光性物質Aおよび蛍光性物質Bを充填することにより形成できる。該積層材料は、外部光が入射する側に蛍光性物質Aからなる第一層が位置するようにし、蛍光性物質Bからなる第二層の側は可視光を利用したい側、例えば、室内側に位置するように設置するのが好ましい。
【0072】
第一層を形成する蛍光性物質Aとして4−ヒドロキシクマリンを用い、第二層を形成する蛍光性物質Bとして7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンを用いて、上記の積層材料とすることが好ましい。この場合、4−ヒドロキシクマリンが、200〜300nmの外部光で励起されて374nmに発光極大を持つ内部光を発光する。そして、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンが、この内部光および330〜400nmの外部光で励起されて450nmに発光極大を持つ可視光を発光する。
【0073】
なお、上記の組み合わせにおいて、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する第二層は、pHを7以上とすることが好ましい。図10に示したように、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンは、pHにより励起ピーク波長が異なり、pH7未満では、励起ピーク波長が320nmであり、pH7以上では、励起ピーク波長が360nmとなる。上記したように、第一層から発光される内部光の発光ピーク波長が374nmであるので、この発光ピーク波長と、励起ピーク波長が近い方が、より効率的に紫外線を可視光に変換できることになる。よって、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する第二層は、励起ピーク波長が360nmとなるpH7以上の条件とすることが好ましい。また、図13に示したように、pHが高いほど450nmにおける発光強度が大きくなる。これより、第2層のpHは、8以上がより好ましく、9以上がさらに好ましい。
【0074】
また、第一層を形成する蛍光性物質Aとして4−ヒドロキシクマリンを用い、第二層を形成する蛍光性物質Bとしてアルギニルクマリン・AlCl3錯体を用いて、上記の積層材料とすることが好ましい。この積層体においては、第一層における作用は上記と同様であり、第二層においては、アルギニルクマリン・AlCl3錯体は、励起ピーク波長が370nmであり、475nmの可視光を発光する。よって、第一層から発光される内部光のピーク波長374nmに励起ピーク波長が近いので、効率的に紫外線を可視光に変換することができる。また、第二層のアルギニルクマリン・AlCl3錯体に対して、低分子アルコールを添加することにより、発光効率をさらに向上させることができる。
【0075】
上記説明した本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料を実現することができる、紫外線遮蔽および可視光増強材料、および、積層材料は、基本的には、ガラス容器内に、蛍光性物質を溶解してなる水溶液(低分子アルコールを含む場合がある。)が、閉じ込められた形態となっている。この場合、ガラス容器内部で、液体が対流しているので、得られる青色発光あるいは水色発光に自然な揺らぎが生じ、室内にいる者に対し癒しの効果がある。ガラス容器としては、内部に薄い隙間を有する板状ガラス(内部に空気層を有する断熱ガラスのような形態)を用いることができ、隙間に蛍光性物質を溶解してなる水溶液を入れ、これを窓ガラスとして使用することができる。また、ガラス容器としては、内部に空間を有する様々な形態のガラスオブジェを用いることもでき、空間に蛍光性物質を溶解してなる水溶液を入れ、太陽光の当たる場所に置くことにより(あるいは、360〜375nmの紫外線をLED光源等によって当てることにより)、青色発光あるいは水色発光を楽しむことができる。
【0076】
ただ、ガラス容器が破損した場合、内部の水溶液が漏れ出す危険性があるので、これを防止する観点から、蛍光性物質を含む水溶液をゲル状にしたものをガラス容器内に閉じ込めた形態としてもよい。また、用途によっては、ゲル状物質をそのまま板状にしたものを使用することもできる。また、ガラス板上を流水が落ちる形態のオブジェ等があるが、この流水として本発明における蛍光性物質を含む水溶液を使用することもできる。この場合、流水自体が青色あるいは水色に発光し、かつ、発光媒体自体が動くことにより、動的な発光変化を楽しむことができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明について、実施例および比較例に基づいて、具体的に説明する。
図20に、使用した材料物質である、4−ヒドロキシクマリン(4C)、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン(7C)、塩化アルミニウム(AlCl3)、2−プロパノール(2−propanol)、アルギニルクマリン(Arg−4C)、アルギニルクマリン+2−プロパノール(Arg−4C+2−propanol)、アルギニルクマリン+塩化アルミニウム(Arg−4C+AlCl3)、アルギニルクマリン+塩化アルミニウム+2−プロパノール(Arg−4C+AlCl3+2−propanol)についての略記号を掲載した。図21〜図26においては、該略記号を用いて、各材料物質を表示している。
【0078】
<実施例1>
0.2mMのアルギニルクマリン溶液5μL、0.5MのAlCl3溶液10μLを、3000μLとなるように蒸留水で希釈して試料溶液を調製した。石英板(20mm×10mm×1mm)2枚とアクリル樹脂で作ったスペーサー(厚さ3mm)から構成して作製した自作試料セルに該試料溶液を充填した。
図21に、実施例1の「アルギニルクマリン+AlCl3」の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。外部光UV−Bにより、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、該励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」は、発光ピーク波長(λmax)が363nmである330〜400nmの内部光を発光する。該330〜400nmの内部光を「アルギニルクマリン+AlCl3」がさらに吸収して、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」より発光ピーク波長(λmax)が475nmである400〜600nmの水色発光が得られる。
また、外部光UV−Aにより、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、該励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」より、発光ピーク波長(λmax)が475nmである400〜600nmの水色発光が得られる。なお、可視光および赤外線は、そのまま透過する。
ここで、励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」の発光ピーク波長(λ1)は363nmであり、該「アルギニルクマリン+AlCl3」が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、370nmであるので、「λ1=λ2−7」となっている。
【0079】
<実施例2>
0.2mMのアルギニルクマリン溶液5μL、0.5MのAlCl3溶液10μL、2−プロパノール100μLを全体で3000μLとなるように蒸留水で希釈して試料溶液を調整した。該試料溶液を、実施例1と同様の自作試料セルに充填した。
図22に、実施例2の「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。青水色発光が得られる機構は実施例1と同様である。
ここで、励起された「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」の発光ピーク波長(λ1)は363nmであり、該「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、370nmであるので、「λ1=λ2−7」となっている。
【0080】
以下の実施例、比較例において、試料の調製条件として、アルギニルクマリン、4−ヒドロキシクマリンまたは7−ヒドロキシ−4−メチルクマリンの濃度を0.2mM×5/3000=0.33μMとし、AlCl3濃度は1.67mMとし、2−プロパノール濃度は3.3V/V%とした。
【0081】
<実施例3>
4−ヒドロキシクマリン(4C)を含む試料溶液(第一液)(pH3)、7−ヒドロキシ−4−メチルクマリン(7C)を含む試料溶液(第二液)(pH9)をそれぞれ調整した。石英板(20mm×10mm×1mm)3枚とアクリル樹脂で作ったスペーサー(厚さ1mm)2枚から構成して作製した自作石英セルに、上記試料溶液をそれぞれ充填して、第一液からなる第一層、および、第二液からなる第二層を備えた積層材料とした。
図23に、4C(第1層、pH3)および7C(第2層、pH9)の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。外部光UV−Bにより、第1層の4Cが励起され、該励起された4Cは、発光ピーク波長(λmax)が374nmである330〜400nmの内部光を発光する。該330〜400nmの内部光を第二層の7Cが吸収して、7Cが励起され、励起された7Cから発光ピーク波長(λmax)が450nmである380〜580nmの青色発光が得られる。
また、外部光UV−Aにより、7Cが励起され、該励起された7Cから発光ピーク波長(λmax)が450nmである380〜580nmの青色発光が得られる。なお、可視光および赤外線は、そのまま透過する。
ここで、励起された4Cの発光ピーク波長(λ1)は374nmであり、7Cが可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、360nmであるので、「λ1=λ2+14」となっている。
【0082】
<実施例4>
4Cを含む試料溶液(第一液)(pH3)、アルギニルクマリンおよびAlCl3を含む試料溶液(第二液)(pH4.8〜3.9)をそれぞれ調整した。
図24に、4C(第1層、pH3)、および、「アルギニルクマリン+AlCl3」(第2層、pH4.8〜3.9)の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。外部光UV−Bにより、第1層の4Cが励起され、該励起された4Cは、発光ピーク波長(λmax)が374nmである330〜400nmの内部光を発光する。該330〜400nmの内部光を第2層の「アルギニルクマリン+AlCl3」がさらに吸収して、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」から発光ピーク波長(λmax)が475nmである380〜580nmの水色発光が得られる。
また、外部光UV−Aにより、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、該励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」から発光ピーク波長(λmax)が475nmである380〜580nmの水色発光が得られる。なお、可視光および赤外線は、そのまま透過する。
ここで、励起された4Cの発光ピーク波長(λ1)は374nmであり、「アルギニルクマリン+AlCl3」が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、370nmであるので、「λ1=λ2+4」となっている。
【0083】
<実施例5>
4Cを含む試料溶液(第一液)(pH3)、「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」を含む試料溶液(第二液)(pH4.8〜3.9)をそれぞれ調整した。
図25に、4C(第1層)、ならびに、「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」(第2層)の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。水色発光が得られる機構は実施例4と同様である。
ここで、励起された4Cの発光ピーク波長(λ1)は374nmであり、「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、370nmであるので、「λ1=λ2+4」となっている。
【0084】
<実施例6>
アルギニルクマリンを含む試料溶液(第一液)(pH7.4)、「アルギニルクマリン+AlCl3」を含む試料溶液(第二液)(pH4.8〜3.9)をそれぞれ調整した。
図26に、アルギニルクマリン(第1層、pH7.4)、および、「アルギニルクマリン+AlCl3」(第2層、pH4.8〜3.9)の紫外線遮断および可視光増強の様子を示した。外部光UV−Bにより、第1層のアルギニルクマリンが励起され、該励起されたアルギニルクマリンは、発光ピーク波長(λmax)が348nmである330〜400nmの内部光を発光する。該330〜400nmの内部光を第2層の「アルギニルクマリン+AlCl3」が吸収して、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」から発光ピーク波長(λmax)が475nmである400〜600nmの水色発光が得られる。
また、外部光UV−Aにより、「アルギニルクマリン+AlCl3」が励起され、該励起された「アルギニルクマリン+AlCl3」から発光ピーク波長(λmax)が475nmである400〜600nmの青水色発光が得られる。なお、可視光および赤外線は、そのまま透過する。
ここで、励起されたアルギニルクマリンの発光ピーク波長(λ1)は348nmであり、「アルギニルクマリン+AlCl3」が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、370nmであるので、「λ1=λ2−22」となっている。
【0085】
<参考例1>
4−ヒドロキシクマリン(4C)のみを含む試料溶液を調整し、実施例1と同様の試料セルに充填した。
ここで、励起された4Cの発光ピーク波長(λ1)は374nmであり、4Cが紫外光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、300nmであるので、「λ1=λ2+74」となっている。
【0086】
<参考例2>
アルギニルクマリンのみを含む試料溶液を調整し、実施例1と同様の試料セルに充填した。
ここで、励起されたアルギニルクマリンの発光ピーク波長(λ1)は348nmであり、アルギニルクマリンが紫外光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、325nmであるので、「λ1=λ2+23 」となっている。
【0087】
<参考例3>
4Cを含む試料溶液(第一液)(pH3.0)、7Cを含む試料溶液(第二液)(pH7未満)をそれぞれ調整し、実施例3と同様の試料セルに充填した。
ここで、励起された4Cの発光ピーク波長(λ1)は374nmであり、7Cが可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)は、320nmであるので、「λ1=λ2+54 」となっている。
【0088】
上記の実施例および比較例で作製した各々の試料溶液の入った試料セルを(積層材料の場合は励起光が入射する側に第1層となるセルを配置して)、日本分光(Jasco)社製蛍光分光高度計FP750の試料室に挿入し、波長370nmのUV−A紫外線で励起し、波長475nmの蛍光強度を測定した。
【0089】
結果を図27に示した。参考例1の4Cのみの場合、参考例2のアルギニルクマリンのみの場合では低い値となり、可視発光機構が極めて小さいことが確認できた。また、参考例3の場合も、可視発光機構が小さかった。
その他の実施例1〜6では、いずれも、励起された蛍光物質の発光ピーク波長(λ1)と、該蛍光物質が可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長(λ2)とが、λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」の関係を満たしており、強い可視発光機構が働いていることが分かった。特に、実施例2の、「アルギニルクマリン+AlCl3+2−プロパノール」の一物質の場合が最も高い値となった。
【0090】
<2−プロパノールの添加効果について>
アルギニルクマリン+AlCl3への添加剤として、2−プロパノールがなぜ大きな発光量の増大をもたらすかについて分子量の点から検討した。いくつかのアルコール分子種について前記の実験を試したところ、メタノールを添加した場合は、極度に可視発光が消失し、クエンチング(quenching)現象が起きた。エタノール、オクチルアルコールの場合は、大きな変化は起きなかった。よって、分子量の大小が原因ではなく、溶液中での分子構造に依存する分子間相互作用が原因ではないかと推測されたが、詳細な機構については不明である。発見して分かったことは、2−プロパノールの場合、少量の添加で20%以上の可視発光量の増大の効果があることである。
【0091】
<太陽電池発電遮蔽>
図28は、太陽電池モジュールAの上に、本発明の紫外線遮蔽および可視光増強材料を含む水溶液をガラス板で挟んで封印したカバーBを設置して、太陽光に含まれる紫外線が可視光に変換され増強され、太陽電池に照射される様子を表した模式図である。
【0092】
アルギニルクマリン+AlCl3一物質の場合において次の手順で実験した。透明度の高い25mm×75mm×厚さ1mmのスライドガラスの下に水素化アモルファスシリコン太陽電池(QFSOLAR2510DS)を配置し、その上に「アルギニルクマリン+AlCl3」混合溶液(アルギニルクマリン濃度0.1mM、AlCl3濃度0.25M)を厚さ1mmとなるように、かつ漏れないように、周囲を予め作製しておいたアガロースゲルによって封止し、固定して被検体1とした。また、単なる1枚のスライドガラス板を被検体2とし、高分子材料としてのポリスチレン板(25mm×75mm×厚さ1mm)を被検体3とした。また、3枚のスライドガラス板を重ねたものを被検体3とした。それぞれ、上側に波長370nmの紫外線の出る紫外線LEDを、太陽電池から等距離に固定して、UV−Aを照射して発電させた。流れるそれぞれの電流値を比較して評価した。
【0093】
それぞれ3回電流値の測定を行って、その平均値を求めた。また、被検体2のスライドガラス1枚の場合の値を基準に相対評価値を求めた。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1の結果より、相対評価値が109である被検体1の「アルギニルクマリン+AlCl3」混合溶液で遮蔽した場合が最も発電量が大きかった。
被検体1は、基準とした被検体2と比べて、該紫外線遮蔽および可視光増強材料の厚さの分だけ2倍も厚く遮蔽されているにも関わらず、被検体2よりも発電量が大きくなったことから、UV−A紫外線が可視光として透過し、太陽電池の発電に寄与したことが立証された。本実験では比較的弱いUV−Aの照射によって、発電量を測定したが、より強いUV−B紫外線を用いた場合は、より大きな差異がでることが予測される。
【0096】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う紫外線遮蔽および可視光増強方法、紫外線遮蔽および可視光増強材料もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法、紫外線遮蔽および可視光増強材料は、例えば、建築用ガラス板、特に、室内の明るさを必要とする場合におけるガラス板として利用可能である。また、工場内での精密作業などで使用する強力な照明器具からは紫外線が作業者に降り注いでいて有害であるが、そうした照明器具の窓材料として使用することに適している。また、青色発光あるいは水色発光により光るオブジェとしても使用可能である。また、既に設置されている全ての太陽電池モジュールのカバー材料として使用可能である。もちろん、新規太陽電池モジュールの一部としても使用可能である。しかも希少金属を一切使用していないため低価格で提供できる。また、基材がガラスでなくてもポリスチレンのように軽量でガラスに匹敵する紫外〜可視域に透明度の高い高分子材料で該本発明材料を挟んで使用することが出来るので、低コストに提供可能であると同時に様々な形状の製品として製造可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
200nm〜330nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程、
該第一励起工程で励起された蛍光性物質が330nm〜400nmの内部光を発光する内部光発光工程、
330nm〜400nmの外部光および前記330〜400nmの内部光で蛍光性物質を励起させる第二励起工程、および、
該第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光工程、
を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強方法。
【請求項2】
前記内部光発光工程において発光する内部光の発光ピーク波長λ1と、前記第二励起工程で蛍光性物質が励起されて可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長λ2とが以下の関係を有する、請求項1に記載の紫外線遮蔽および可視光増強方法。
λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」
【請求項3】
前記蛍光性物質が、アルギニンとクマリン色素から合成した化合物と、塩化アルミニウムとの錯体または混合物である、請求項1または2に記載の紫外線遮蔽および可視光増強方法。
【請求項4】
アルギニンとクマリン色素から合成した化合物、塩化アルミニウム、を含有してなり、
請求項1〜3のいずれかの方法を実現可能な、紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項5】
アルギニンとクマリン色素から合成した化合物、塩化アルミニウム、を水中に含有してなる、請求項4に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項6】
ゲル状である、請求項4または5に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項7】
さらに低分子アルコールを含有してなる、請求項4〜6のいずれかに記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項8】
前記低分子アルコールが2−プロパノールである、請求項7に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項9】
光入射側から、200〜330nmの外部光で励起して330〜400nmの内部光を発光する第一層、ならびに、330〜400nmの外部光および前記第一層で発光した330〜400nmの内部光で励起して400nm以上の可視光を発光する第二層、を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項10】
前記第一層が、4ヒドロキシクマリンを含有する層であり、前記第二層が7ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する層である、請求項9に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項11】
前記7ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する層が、pH7以上であり、360nm近傍に光吸収極大をもつ、請求項10に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項12】
前記第一層が、4ヒドロキシクマリンを含有する層であり、前記第二層が、アルギニンとクマリン色素から合成した蛍光性化合物と塩化アルミニウムとの錯体または混合物を含有する層である、請求項9に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項13】
前記第二層が、さらに低分子アルコールを含有する、請求項12に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項1】
200nm〜330nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程、
該第一励起工程で励起された蛍光性物質が330nm〜400nmの内部光を発光する内部光発光工程、
330nm〜400nmの外部光および前記330〜400nmの内部光で蛍光性物質を励起させる第二励起工程、および、
該第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光工程、
を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強方法。
【請求項2】
前記内部光発光工程において発光する内部光の発光ピーク波長λ1と、前記第二励起工程で蛍光性物質が励起されて可視光を発光する時の発光ピークとなる時の励起波長λ2とが以下の関係を有する、請求項1に記載の紫外線遮蔽および可視光増強方法。
λ1=「λ2−22」〜「λ2+22」
【請求項3】
前記蛍光性物質が、アルギニンとクマリン色素から合成した化合物と、塩化アルミニウムとの錯体または混合物である、請求項1または2に記載の紫外線遮蔽および可視光増強方法。
【請求項4】
アルギニンとクマリン色素から合成した化合物、塩化アルミニウム、を含有してなり、
請求項1〜3のいずれかの方法を実現可能な、紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項5】
アルギニンとクマリン色素から合成した化合物、塩化アルミニウム、を水中に含有してなる、請求項4に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項6】
ゲル状である、請求項4または5に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項7】
さらに低分子アルコールを含有してなる、請求項4〜6のいずれかに記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項8】
前記低分子アルコールが2−プロパノールである、請求項7に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項9】
光入射側から、200〜330nmの外部光で励起して330〜400nmの内部光を発光する第一層、ならびに、330〜400nmの外部光および前記第一層で発光した330〜400nmの内部光で励起して400nm以上の可視光を発光する第二層、を備えてなる、紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項10】
前記第一層が、4ヒドロキシクマリンを含有する層であり、前記第二層が7ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する層である、請求項9に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項11】
前記7ヒドロキシ−4−メチルクマリンを含有する層が、pH7以上であり、360nm近傍に光吸収極大をもつ、請求項10に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項12】
前記第一層が、4ヒドロキシクマリンを含有する層であり、前記第二層が、アルギニンとクマリン色素から合成した蛍光性化合物と塩化アルミニウムとの錯体または混合物を含有する層である、請求項9に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【請求項13】
前記第二層が、さらに低分子アルコールを含有する、請求項12に記載の紫外線遮蔽および可視光増強材料。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図18】
【図27】
【図1】
【図9】
【図11】
【図14】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図28】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図12】
【図13】
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【図16】
【図18】
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【図1】
【図9】
【図11】
【図14】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図28】
【公開番号】特開2012−25870(P2012−25870A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166865(P2010−166865)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
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