説明

紫外線遮蔽効果を有する制電性極細仮撚り加工糸およびその製造方法

【課題】従来の極細ポリエステル仮撚り加工糸が持つ、柔らかな風合、保温性、吸水、吸湿性などの性能も維持し、紫外線遮蔽性とともに洗濯耐久性優れた制電性能を有するポリエステル布帛を得ることができるポリエステル極細糸及びそれを安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】芯鞘型複合繊維であって、芯部が特定の制電剤及び有機系紫外線吸収剤をポリエステルに対して0.1〜5.0重量%含む紫外線吸収性ポリエステルで形成され、且つ単糸繊度、複合比、単糸強度及び糸の摩擦耐電圧を特定値とした制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線遮蔽性と、耐久性に優れた制電性を有するポリエステル極細仮撚加工糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光に含まれる紫外線の有害性が知られるようになり、紫外線から肌を守ることが望まれている。このため、紫外線を遮蔽する目的で、二酸化チタンなどの無機系紫外線吸収・反射剤を合成繊維に含ませることが提案されている(例えば下記特許文献1、特許文献2参照)
【0003】
しかしながら、合成繊維、特に極細のポリエステル繊維布帛は静電気を蓄積しやすく、縫製時や縫製品の着用時に静電気障害を生じ、電撃や身体へのまとわりつきによる不快感を与えたり、空気中の埃を吸着して汚れたりしやすいという問題があった。
【0004】
従来から、ポリエステルに親水性を付与して制電性を発現させようとする試みが行われており、これまでに数多くの提案がなされている。例えばポリエステルにポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物を配合せしめる方法(特許文献3)、並びにポリエステルに実質的に非相溶性のポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物と有機・無機のイオン性化合物とを配合せしめる方法(特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9等)が知られている。単糸繊度が1.5dtexより大きければ、制電性を有するものの、極細糸においては芯/鞘形成のバラツキ、単糸繊度のバラツキにより、制電性を有するものはないのが、実情であった。
【0005】
しかしながら近年、織編物の風合い、肌触り、外観等に関する要求がますます高まってきており、従来の極細ポリエステル延伸糸を用いて製編織された布帛では、柔らかな風合が得られ、保温性、吸水、吸湿性などの性能も向上するものの、パチパチする静電気を抑えるといった制電性を有する布帛は皆無に等しいといっていいほどまだ十分なものではなかった。特に、屋外スポーツ衣料、ユニフォーム等の紫外線を遮蔽し、かつ静電気を抑える用途において、制電性を有する布帛は得られていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開平5−148734号公報
【特許文献2】特開平6−2219号公報
【特許文献3】特公昭39−5214号公報
【特許文献4】特公昭44−31828号公報
【特許文献5】特公昭60−11944号公報
【特許文献6】特開昭53−80497号公報
【特許文献7】特開昭53−149247号公報
【特許文献8】特開昭60−39413号公報
【特許文献9】特開平3−139556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述したことから明らかなように、従来の極細ポリエステル糸が持つ、柔らかな風合、保温性、吸水、吸湿性などの性能も維持し、制電性能にも優れたポリエステル布帛を得ることができるポリエステル極細仮撚り加工糸及びそれを安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、下記要件を満足することを特徴とする制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸。
(A)芯部及び/又は鞘部がポリエステル中に有機系紫外線吸収剤がポリエステルに対して0.1〜5.0重量%含まれていること。
(B)単糸の単糸繊度が1.5dtex以下。
(C)芯部の面積Aと鞘部の面積Bとの比A:Bが5:95〜80:20の範囲である。
(D)単糸の強度が3.0cN/dtex以上。
(E)糸の摩擦帯電圧が2000V以下。
(F)ポリエステルAが、芳香族ポリエステル100重量部に対して、制電剤として、
(a)下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン系ポリエーテルを0.2〜30重量部及び(b)該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルであること。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k 式(1)
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]
及び、
上記制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸を製造するに際し、紡糸速度が2000〜4500m/minであり、且つ紡出時の吐出速度と引き取り速度の比(以降ドラフト比と記す)を100〜800の範囲で引き取ることを特徴とする制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の制電性ポリエステル繊維は、繰り返される洗濯処理によっても制電性が持続し、かつ紫外線遮蔽性(耐候性とも呼ぶ場合がある)も有するため、屋外スポーツ衣料、ユニフォーム等の表地として利用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明についてさらに詳しく説明する。本発明でいうポリエステルは、芳香環を重合体の連鎖単位に有する芳香族ポリエステルであって、二官能性芳香族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体との反応により得られる重合体を対象とする。
【0011】
ここでいう二官能性芳香族カルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5―ナフタレンジカルボン酸、2,5―ナフタレンジカルボン酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルジカルボン酸、3,3′―ビフェニルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボン酸、2,5―アントラセンジカルボン酸、2,6―アントラセンジカルボン酸、4,4′―p―フェニレンジカルボン酸、2,5―ピリジンジカルボン酸、β―ヒドロキシエトキシ安息香酸、p―オキシ安息香酸等をあげることができ、特にテレフタル酸が好ましい。
これらの二官能性芳香族カルボン酸は2種以上併用してもよい。なお、少量であればこれらの二官能性芳香族カルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸の如き二官能性脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き二官能性脂環族カルボン酸、5―ナトリウムスルホイソフタル酸等を1種または2種以上併用することができる。
【0012】
また、ジオール化合物としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2―メチル―1,3―プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコールの如き脂肪族ジオール、1,4―シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等およびそれらの混合物等を好ましくあげることができる。また、少量であればこれらのジオール化合物と共に両末端または片末端が未封鎖のポリオキシアルキレングリコールを共重合することができる。
【0013】
更に、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを使用することができる。
【0014】
具体的な好ましい芳香族ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン―1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボキシレート等のほか、ポリエチレンイソフタレート・テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート・デカンジカルボキシレート等のような共重合ポリエステルをあげることができる。なかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0015】
本発明では耐候性を改善するため、ポリエステルA及び/又はポリエステルBに対して有機系紫外線吸収剤をポリエステル全重量に対して0.1〜5.0重量%(好ましくは0.5〜3.0重量%)含むことが肝要である。有機系紫外線吸収剤の含有量が0.1重量%よりも小さいと、十分な紫外線吸収性能が得られないため、好ましくない。逆に、有機系紫外線吸収剤の含有量が5.0重量%よりも大きいと、有機系紫外線吸収剤を含むポリエステルを紡糸してポリエステル繊維を得る際、紡糸の工程安定性が損なわれ、色の鮮明性も低下するので好ましくない。有機系紫外線吸収剤としては、ベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系有機紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系有機紫外線吸収剤、サリチル酸系有機紫外線吸収剤などが例示される。なかでも、紡糸の段階で分解しないという点からベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤が特に好ましい。ベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤が特に優れる理由としては明らかではないが他の紫外線吸収剤と比べて、高耐熱性であること、環状イミドエステルに基づくポリエステルとの親和性がよいためブリードアウトの少なさ等を挙げることが出来る。
【0016】
かかるベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤としては、特開昭62−11744号公報に開示されたものが好適に例示される。すなわち、2−メチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−ブチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−フェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2,2’−エチレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−テトラメチレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、1,3,5−トリ(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)ベンゼン、1,3,5−トリ(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)ナフタレンなどである。
【0017】
また、本発明の制電性芯鞘型ポリエステル仮撚り加工糸を形成するポリエステル中には、無機系の紫外線吸収及び/又は反射剤は0.5重量%以下で含有することが好ましい。無機系の紫外線吸収および/または反射剤の含有量が0.5重量%よりも大きいと、鮮明性が損なわれるだけでなく、製編織性も損なわれるため好ましくない。なお、かかる無機系の紫外線吸収および/または反射剤としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、酸化マグネシウム、タルク、カリオン、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等の無機化合物があげられる。
【0018】
なお、本発明の制電性芯鞘型ポリエステル仮撚り加工糸を形成するポリエステル中には、有機系紫外線吸収剤以外に、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン可染剤、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤、蛍光増白剤、着色剤、帯電防止剤、吸湿剤、抗菌剤、マイナスイオン発生剤等を1種又は2種以上を添加してもよい。
【0019】
かかる芳香族ポリエステルは任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートついて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段反応、次いでその生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段の反応とによって容易に製造される。
【0020】
本発明の制電性芯鞘型ポリエステル仮撚り加工糸に配合する制電剤のポリオキシアルキレン系ポリエーテル(a)は、ポリエステルに実質的に不溶性のものであれば、単一のオキシアルキレン単位からなるポリオキシアルキレングリコールであっても、二種以上のオキシアルキレン単位からなる共重合ポリオキシアルキレングリコールであってもよく、また、下記一般式(1)、
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]で表わされるポオキシエチレン系ポリエーテルが好ましい。
【0021】
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテルの具体例としては、分子量が4000以上のポリオキシエチレングリコール、分子量が1000以上のポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、分子量が2000以上のエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド共重合体、分子量4000以上のトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、分子量3000以上のノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、並びにこれらの末端OH基に炭素数が6以上の置換エチレンオキサイドが付加した化合物があげられ、なかでも分子量が10000〜100000のポリオキシエチレングコール、及び分子量が5000〜16000の、ポリオキシエチレングリコールの両末端に炭素数が8〜40のアルキル基置換エチレンオキサイドが付加した化合物が好ましい。
【0022】
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物の配合量は、前記芳香族ポリエステル100重量部に対して0.2〜30重量部の範囲である。0.2重量部より少ないときは親水性が不足して充分な制電性を呈することができない。一方30重量部より多くしても最早制電性の向上効果は認められず、かえって得られる組成物の機械的性質を損うようになる上、該ポリエーテルがブリードアウトし易くなるため溶融成形時チップのルーダーへのかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになる。
【0023】
本発明の制電性芯鞘型ポリエステル仮撚り加工糸には、特に制電性を向上させるために有機イオン性化合物を配合する。有機イオン性化合物としては、例えば下記一般式(2)、(3)で示されるスルホン酸金属塩及びスルホン酸第4級ホスホニウム塩を好ましいものとしてあげることができる。
RSOM ……式(2)
式中、Rは炭素原子数3〜30のアルキル基又は炭素原子数7〜40のアリール基、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。上記式(2)においてRがアルキル基のときはアルキル基は直鎖状であっても又は分岐した側鎖を有していてもよい。MはNa,K,Li等のアルカリ金属又はMg,Ca等のアルカリ土類金属であり、なかでもLi,Na,Kが好ましい。かかるスルホン酸金属塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としてはステアリルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
RSOPR ……式(3)
式中、Rは上記式(2)におけるRの定義と同じであり、R、R、R及びRはアルキル基又はアリール基でなかでも低級アルキル基、フェニル基又はベンジル基が好ましい。かかるスルホン酸第4級ホスホニウム塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としては炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラフェニルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
【0024】
かかる有機のイオン性化合物は1種でも、2種以上併用してもよく、その配合量は、芳香族ポリエステル100重量部に対して0.05〜10重量部の範囲が好ましい。0.05重量部未満では制電性向上の効果が小さく、10重量部を越えると組成物の機械的性質を損なうようになる上、該イオン性化合物もブリードアウトし易くなるため、溶融成形時のチップのルーダーかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになる。
【0025】
なお、ポリエステルBは艶消し剤をポリエステル全重量に対して10%以下の配合している。艶消し剤が10wt%を超えると本発明の親糸となる未延伸糸の紡糸性が悪化するので、その範囲は0〜10wt%とするのが好ましい。
【0026】
更に、芯部ポリエステルAと鞘部ポリエステルBの繊維軸に直交する断面における面積比は5:95〜80:20の範囲にする必要がある。面積比が5:95より小さい場合にはポリエステルAによる制電性能の発現が不十分になり、80:20よりも大きくなる場合は、10%以上のアルカリ減量を施した場合に、芯部の制電性ポリエステルが溶出し、制電性能が低下するとともに延伸糸の強度が低下し、3.0cN/dtex以下となり、布帛にした場合の強度が不足する為、スポーツ衣料等、強度を必要とする用途には適さず、用途が限られたものとなるので好ましくない。
【0027】
また、本発明の制電性芯鞘型ポリエステル仮撚り加工糸の芯部および鞘部の芳香族ポリエステルには、酸化防止剤、熱安定剤等を配合してもよく、またそうすることは好ましいことである。その他、必要に応じて、難燃剤、蛍光増白剤、艶消削1着色剤、不活性微粒子その他の任意の添加剤を配合してもよい。
【0028】
酸化防止剤は、繊維の溶融紡糸工程等における高温度、低吐出速度、および長時間滞留などに起因する前記ポリオキシエチレン系ポリエーテル重合体の熱分解を抑制し、その水溶性化およびアルカリ耐久性の低下などの発生を防止することができる。本発明において用いられる酸化防止剤としては、それが酸化防止能を有する限り、その種類に制限はない。本発明に用いられる好ましい酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、チオプロピオネート系化合物、ホスファイト系化合物などが挙げられ、1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。また酸化防止剤の配合量は、芳香族ポリエステルに対して0.02〜3重量%の範囲にあることが好ましい。この配合量が0.02重量%より少ないときは、ポリオキシエチレン系ポリエーテル重合体に対する熱分解抑制効果が不充分であり、また、それを3重量%より多くしても、その熱分解抑制効果は飽和してそれ以上の向上は認められず、かえって得られる繊維の機械的性質2色相等が損なわれるようになる。
【0029】
本発明の制電性芯鞘型ポリエステル仮撚り加工糸を製造するにあたり、芯部及び/又は鞘部ポリエステルに有機系紫外線吸収剤を、又芯部ポリエステルに、水不溶性ポリオキシエチレン系ポリエーテル、有機および/または無機のイオン性化合物、および必要に応じて酸化防止剤を、鞘部に艶消し剤を配合するには、任意の方法により、上記成分を同時にまたは任意の順序でポリエステルに配合することができる。即ち、ポリエステル繊維の紡糸が終了するまでの任意の段階、例えばポリエステルの重縮合反応開始前1重縮合反応途中5重縮合反応終了時であってまだ溶融状態にある時点、粉粒状態、または紡糸段階等において、ポリエステルと添加成分のそれぞれを予め溶融混合して1回の操作で添加してもよく、または2回以上に分割添加してもよく、各添加成分を予め別々にポリエステルに配合した後、これらを紡糸前等において混合してもよい。さらに、重縮合反応中期以前に添加成分を添加するときは、グリコール等の溶媒に溶解または分散させて添加してもよい。
【0030】
本発明の制電性芯鞘型ポリエステル仮撚り加工延伸糸は、従来公知の複合紡糸装置を用い、鞘側に前述したポリエステルBを、芯部にポリエステルAを使用して、2000〜3000m/分の速度で溶融紡糸し、且つ紡出時の吐出速度と引き取り速度の比(以降ドラフト比と記す)を100〜800の範囲で引き取ることが重要である。
熱処理する方法としては、上記の速度で溶融紡糸し、延伸と仮撚加工とを同時にまたは続いて行う方法、任意の製糸条件を採用することができる。
【0031】
また得られた制電性芯鞘型ポリエステル仮撚り加工糸またはこの繊維から製造された織編物を100℃以上の温度で熱処理して、構造の安定化と繊維中に含有されているポリオキシエチレン系ポリエーテル、および必要に応じて含有されている各種添加剤の移行による適正配列化を助長させることも好ましい。さらに必要に応じて弛絨熱処理なども併用することができる。
【0032】
また必要に応じて、本発明の制電性芯鞘型ポリエステル仮撚り加工糸またはこの繊維から製造された織編物に、適宜の親水化後加工を施してもよく、またそうすることは好ましいことである。この親水化後加工としては、例えばテレフタル酸および/またはイソフタル酸もしくはそれらの低級アルキルエステルと、低級アルキレングリコール、およびポリアルキレングリコールとからなるポリエステルポリエーテルブロック共重合体の水性分散液で処理する方法、または、アクリル酸、メタクリル酸等の親水性モノマーをグラフト重合し、その後これをナトリウム塩化する方法等が好ましく採用できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0034】
(1)固有粘度
オルソ−クロルフェノールに溶解し、ウベローデ粘度管を用い、35℃で測定した。
【0035】
(2)紡糸断糸
複合紡糸設備で1週間溶融紡糸を行い断糸した回数を記録し、1日1錘当りの紡糸断糸回数を紡糸断糸とした。ただし、人為的あるいは機械的要因による断糸は断糸回数から除外した。
【0036】
(3)延伸仮撚断糸
帝人製機製216錘建HTS−15V(2ヒーター仮撚加工機で非接触式ヒーター仕様)にて、延伸仮撚加工を1週間連続実施し、延伸仮撚機1台・1日当たりの断糸回数を延伸仮撚断糸とした。ただし、糸繋ぎ前後による断糸(ノット断糸)あるいは自動切替え時の断糸等、人為的あるいは機械的要因による断糸は断糸回数から除外した。
【0037】
(4)複屈折率
常法に従い、光学顕微鏡とコンペンセーターを用いて、繊維の表面に観察される偏光のリターデーションから求めた。
【0038】
(5)仮撚加工糸の強度、伸度
JIS L―1013―75に準じて測定した。
【0039】
(6)捲縮率
ポリエステル仮撚加工糸サンプルに0.044cN/dtexの張力を掛けてカセ枠に巻き取り、約3300dtexのカセを作成した。該カセの一端に、0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの2個の荷重を負荷し、1分間経過後の長さS0(cm)を測定した。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去した状態で、100℃の沸水中にて20分間処理した。沸水処理後0.0177cN/dtexの荷重を除去し、24時間自由な状態で自然乾燥し、再び0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さを測定しS1(cm)とした。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去し、1分間経過後の長さを測定しS2とし、次の算式で捲縮率を算出し、10回の測定値の平均値で表した。
捲縮率(%)=[(S1−S2)/S0]×100
【0040】
(7)毛羽個数
東レ(株)製DT−104型毛羽カウンター装置を用いて、ポリエステル延伸糸サンプルを500m/minの速度で20分間連続測定して発生毛羽数を計測し、サンプル長1万m当たりの個数で表した。
【0041】
(8)風合い
(ソフト感)
レベル1:ソフトでしなやかな感触がある
レベル2:ややソフト感が乏しいが反撥性は感じられる
レベル3:カサカサした触感あるいは硬い触感である。
【0042】
(9)帯電性試験方法
A法(半減期測定法)
本発明の制電性芯鞘型ポリエステル仮撚り加工糸を、筒編みし、染色し、調湿後、試験片をコロナ放電場で帯電させた後、この帯電圧が1/2に減衰するまでの時間(秒)をスタテイック オネストメータで測定する。時間(秒)が短い方が 制電性能が優れていると判断した。
B法(摩擦帯電圧測定法)
試験片を回転させながら摩擦布で摩擦し、発生した帯電圧を測定する。
L1094帯電性試験方法B法(摩擦帯電圧測定法)に順ずる。
制電効果については、摩擦帯電圧が、約2000V以下(好ましくは1500V以下)
であれば、制電効果が奏される。
【0043】
(10)明度指数
明度指数Lとして、JIS−Z−8729(L*a*b*表示系およびL*u*v*表示系による物体色の表示方法)に示すL*a*b*表示系で表示した。
【0044】
(11)紫外線透過率
島津製作所製分光光度計MPC−3100で透過率を測定し、波長380nmの紫外線遮蔽率を測定した。
【0045】
(12)保温性
温度20℃、湿度60%RHの恒温恒湿環境下で、エネルギー源として200Wレフランプ光源を用い、高さ50cmから照射し、180秒後の布帛の裏面の温度を熱電対で測定した。かかる温度が30℃以上を良好とする。
【0046】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100部、エチレングリコール60部、酢酸カルシウム1水塩0.06部(テレフタル酸ジメチルに対して0.066モル%)および整色剤として酢酸コバルト4水塩0.013部(テレフタル酸ジメチルに対して0.01モル%)をエステル交換反応缶に仕込み、この反応物を窒素ガス雰囲気下で4時間かけて140℃から220℃まで昇温し、反応缶中に生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応させた。エステル交換反応終了後、反応混合物に安定剤としてリン酸トリメチル0.058部(テレフタル酸ジメチルに対して0.080モル%)、および消泡剤としてジメチルポリシロキサンを0.024部加えた。次に、10分後に、反応混合物に三酸化アンチモン0.041部(テレフタル酸ジメチルに対して0.027モル%)を添加し、同時に過剰のエチレングリコールを留去しながら240℃まで昇温し、その後、反応混合物を重合反応缶に移した。次いで1時間40分かけて760mmHgから1mmHgまで減圧するとともに240℃から280℃まで昇温して重縮合反応せしめポリエステルを得た。
【0047】
(ポリエステルAの作成)
上記のポリエステルを用いて、制電剤としてポリオキシアルキレン系ポリエーテルとして下記式(4)で表される水不溶性ポリオキシエチレン系ポリエーテルを4部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2部、真空下で添加し、さらに240分間重縮合反応せしめ、次いで酸化防止剤としてチバカイギー社製イルガノックス1010を0.4部真空下で添加し、その後さらに30分間重縮合反応を行なった。重合反応工程で、制電剤を添加し、得られたポリマーの固有粘度は0.657、軟化点258℃であった。
【0048】
【化1】

(ただし、jは18〜28の整数で平均21、Pは平均値として100、mは平均値として5である)
【0049】
(ポリエステルBの作成)
特開昭62−11744号公報に記載された方法で合成された2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)からなる有機系紫外線吸収剤を1.0重量%含み、二酸化チタンなどの無機系紫外線吸収剤および/または反射剤を含まない固有粘度0.65の乾燥したポリエステルをポリエステルBとして用いた。
【0050】
(製糸方法)
乾燥したポリエステルA及びポリエステルBを各々常法で溶融し、ギヤポンプを経て2成分複合紡糸ヘッドに供給した。芯と鞘ポリマーの比率が表1記載の値となるように設定した。同時に供給された芯部と鞘部の溶融ポリマーは、ノズル孔径0.25mmの円形複合紡糸孔を72個穿設した紡糸口金から、通常のクロスフロー型紡糸筒からの冷却風で冷却・固化し、紡糸油剤を付与しつつ一つの糸条として集束し、3000m/minの速度で引き取り、複屈折率0.035の140dtex/72フィラメントのポリエステル未延伸糸を得た。
【0051】
公知の仮撚り加工機を用い、仮撚数2400T/m、ヒーター温度210℃、糸速即ち第2デリベリローラ11の速度250m/minで延伸倍率1.8倍に延伸した仮撚り加工糸を用いて筒編地を製造し、制電性を測定した。溶融紡糸時の工程安定性及び制電性能の結果を表1に示す。
【0052】
次いで、該織物を液流染色機を用いて沸騰水で20分間リラックス処理し、引き続きプリセット処理を行った後、さらに、染色、ファイナルセット処理を行い、ポリエステル複合延伸糸からなる布帛とした。
得られた布帛の制電性能は15秒であり、官能評価を実施したところ、非常に深みのある、且つ高級感を有し、ソフト感を呈した風合のものであった。
【0053】
[実施例2〜5、比較例1〜7]
表1に示す条件で行った以外は実施例1と同様な方法で行った。
本発明は、特に、後工程における、高圧染色を経て顕著に現れ耐熱性に強く実用的である。更に、用途として、スポーツ用途、ユニフォームに適している。又、制電性を発揮する部分がつつみこまれているので、制電成分を包み込み変形を少なくすることで、毛羽を出さないようにすることが制電性を維持すること、延伸での毛羽ダウン、生産性UP、更に、織物とした場合における洗濯耐久性に優れる要因と考えられる。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の制電性ポリエステル繊維は、繰り返される洗濯処理によっても制電性が持続し、かつ紫外線遮蔽性も有するため、屋外スポーツ衣料、ユニフォーム等の表地として利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がポリエステルA、鞘部が艶消し剤を0〜10wt%含むポリエステルBで構成される芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、下記要件を満足することを特徴とする制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸。
(A)ポリエステルA及び/又はポリエステルBが有機系紫外線吸収剤をポリエステル全重量に対して0.1〜5.0重量%含むこと。
(B)単糸繊度が1.5dtex以下。
(C)芯部の面積Aと鞘部の面積Bとの比A:Bが5:95〜80:20の範囲である。
(D)単糸強度が3.0cN/dtex以上。
(E)糸の摩擦帯電圧が2000V以下。
(F)ポリエステルAが芳香族ポリエステル100重量部に対して、制電剤として、(a)下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン系ポリエーテルを0.2〜30重量部及び(b)該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルであること。
Z−[(CHCHO)n(RO)m−R]k 式(1)
[式中、Zは1〜6個の活性水素原子を有する有機化合物残基、Rは炭素原子数6以上のアルキレン基又は置換アルキレン基、Rは水素原子、炭素原子数1〜40の一価の炭化水素基、炭素原子数2〜40の一価のヒドロキシ炭化水素又は炭素原子数2〜40の一価のアシル基、kは1〜6の整数、nはn≧70/kを満足する整数、mは1以上の整数]
【請求項2】
有機系紫外線吸収剤がベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤である、請求項1記載の制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸。
【請求項3】
請求項1〜2いずれかに記載の制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚加工糸の製造方法であって、紡糸速度が2000〜4500m/minであることを特徴とする制電性芯鞘型ポリエステル極細仮撚り加工糸の製造方法。

【公開番号】特開2010−126837(P2010−126837A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302666(P2008−302666)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】