説明

紫外線遮蔽粒子、紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物、紫外線遮蔽ハードコート膜、自動車用プラスチック製ヘッドレンズカバー

【課題】屋外で使用されるプラスチック基材に用いて好適な紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物は、一次粒子径が5nm以上かつ50nm以下の酸化チタン粒子と、酸化チタン粒子の表面に形成され酸化チタン粒子に対して1体積%以上かつ35体積%以下の水酸化アルミニウムからなる表面処理層と、表面処理層を覆って形成され表面処理層を有する酸化チタン粒子に対して10体積%以上かつ30体積%以下のシリカからなる被覆層とを有する紫外線遮蔽粒子と、樹脂とを含有し、紫外線遮蔽粒子の平均分散粒径が5nm以上かつ70nm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線遮蔽粒子及び紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物並びに紫外線遮蔽ハードコート膜に関し、更に詳しくは、高耐候性が求められる屋外用で使用されるプラスチック基材に用いて好適な紫外線遮蔽粒子及び紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物並びに紫外線遮蔽ハードコート膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来自動車を軽量化するために、自動車の各種部材を樹脂から構成する試みが広く行われている。これらの部材の中でも紫外線や砂塵等の影響を受ける各種ランプレンズや樹脂グレージングは、紫外線遮蔽性、耐摩耗性、透明性が要求されている。そのためにこれらの特性を付与する被膜をプラスチック基材の表面に形成させることが必要となっている。
【0003】
このような特性を有する被膜形成用の組成物として、特定のラジカル重合性化合物に有機系の紫外線吸収剤や光安定剤を加えた被覆剤組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−238845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1の方法では、紫外線を遮蔽するために有機系紫外線吸収剤を用いているため、長期間屋外に暴露されると紫外線によって塗膜が劣化し、屋外で用いるには耐侯性が不十分であるとの問題があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、屋外で使用されるプラスチック基材等に好適に用いることができる紫外線遮蔽コーティング用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、無機系の紫外線遮蔽材である酸化チタンの微粒子に、水酸化アルミニウム及びシリカを特定の量被覆させることにより、耐侯性及び透明性に優れた塗膜をプラスチック基材に形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物は、一次粒子径が5nm以上かつ50nm以下の酸化チタンと、前記酸化チタンの表面に形成され前記酸化チタンに対して1体積%以上かつ35体積%以下の水酸化アルミニウムからなる表面処理層と、前記表面処理層を覆って形成され前記表面処理層を有する酸化チタンに対して10体積%以上かつ30体積%以下のシリカからなる被覆層とを有する紫外線遮蔽粒子と、樹脂とを含有し、前記紫外線遮蔽粒子の平均分散粒径が5nm以上かつ70nm以下であることを特徴とする。
なお、本明細書中における平均分散粒径とは、動的光散乱法により測定した平均体積分散粒径(d50)を意味する。
【0009】
前記紫外線遮蔽粒子の含有量が2.5質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましい。
【0010】
前記樹脂がアクリル−シリコーン樹脂であることが、より耐候性に優れる点で好ましい。
【0011】
前記樹脂組成物がコロイダルシリカを含有することが、耐摩耗性を向上させる点で好ましい。
【0012】
本発明の紫外線遮蔽ハードコート膜は、プラスチック基材の表面に形成される紫外線遮蔽ハードコート膜であって、上記の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物を用いて形成され、膜厚が2μm以上かつ15μm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の自動車用プラスチック製ヘッドレンズカバーは、上記の紫外線遮蔽ハードコート膜を備えてなることを特徴とする。
【0014】
本発明の紫外線遮蔽粒子は、一次粒子径が5nm以上かつ50nm以下の酸化チタンと、前記酸化チタンの表面に形成され前記酸化チタンに対して1体積%以上かつ35体積%以下の水酸化アルミニウムからなる表面処理層と、前記表面処理層を覆って形成され前記酸化チタン粒子に対して10体積%以上かつ30体積%以下のシリカからなる被覆層と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物によれば、酸化チタンの表面に水酸化アルミニウムからなる表面処理層とシリカからなる被覆層とを順に形成した紫外線遮蔽粒子を用いていることで、紫外線遮蔽粒子を構成する酸化チタンの光活性を効果的に抑制することができ、優れた耐候性及び透明性を有する紫外線遮蔽ハードコート膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1〜3の紫外線遮蔽ハードコート膜の分光透過率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の紫外線遮蔽粒子及び紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物並びに紫外線遮蔽ハードコート膜を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は発明の趣旨をよりよく理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り本発明を限定するものではない。
【0018】
[紫外線遮蔽粒子]
本実施形態の紫外線遮蔽粒子は、一次粒子径が5nm以上かつ50nm以下の酸化チタン粒子の表面が、酸化チタン粒子に対して1体積%以上かつ35体積%以下の水酸化アルミニウムで表面処理され、さらにこの水酸化アルミニウムで表面処理された酸化チタン粒子に対して10体積%以上かつ30体積%以下のシリカで被覆されている粒子である。すなわち、酸化チタン粒子の表面に、水酸化アルミニウムからなる表面処理層と、シリカからなる被覆層とがこの順に積層されている粒子である。
【0019】
酸化チタン粒子は、一般に市販されている微粒子を用いることができ、ルチル型、アナターゼ型、またはこれらが混合した酸化チタン微粒子を用いることができる。これらのうちでも、酸化チタンの光活性をより抑制できる点で、ルチル型酸化チタンを用いることが好ましい。
【0020】
酸化チタン粒子の一次粒子径は5nm以上かつ50nm以下である。酸化チタン粒子の一次粒子径が5nm未満の場合、製造が難しく取扱いが困難であり、比表面積の増大により活性も上がる可能性があり好ましくない。一方、酸化チタン粒子の一次粒子径が50nmを超えると、プラスチック基材等の上に塗膜を形成した際に、透明性が悪くなるため好ましくない。酸化チタン粒子の一次粒子径は、10nm以上かつ30nm以下であることがより好ましい。
【0021】
酸化チタン粒子の表面に形成された表面処理層は、水酸化アルミニウムからなり、その被覆量は、酸化チタン粒子の1体積%以上かつ35体積%以下である。水酸化アルミニウムの被覆量が1体積%未満の場合、酸化チタンの光活性を抑止する効果が不十分である場合があるため好ましくない。一方、水酸化アルミニウムの被覆量が35体積%を超えても、酸化チタンの光活性抑止効果には顕著な変化がなく、水酸化アルミニウムが無駄になる。さらには、所定の紫外線遮断能力を得るため、粒子の添加量が増え塗膜の透明性に悪影響を及ぼすため好ましくない。水酸化アルミニウムの被覆量は、20体積%以上かつ30体積%以下であることがより好ましい。
【0022】
水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタン粒子の表面には、この表面処理層を有する酸化チタン粒子に対して10体積%以上かつ30体積%以下のシリカからなる被覆層が形成されている。シリカの被覆量が10体積%未満の場合、酸化チタンの光活性の抑止効果が不十分の場合があるため好ましくない。一方、シリカの被覆量が30体積%を超えても、酸化チタンの光活性抑止効果には顕著な変化がなく、シリカが無駄になる。さらには、シリカの被覆量を多くすると酸化チタン粒子の相対的な体積率が減少するので、所定の紫外線遮断能力を得るための粒子の添加量が増え、塗膜の透明性に悪影響を及ぼすため好ましくない。シリカの被覆量は、15体積%以上かつ25体積%以下であることがより好ましい。
【0023】
[紫外線遮蔽粒子の製造方法]
本実施形態の紫外線遮蔽粒子の製造方法は、酸化チタン粒子を表面処理することで、酸化チタン粒子に対して1体積%以上かつ35体積%以下の水酸化アルミニウムからなる表面処理層を形成する工程と、次いで得られた粒子とテトラアルコキシシランを水存在下で溶媒中に分散させることで、表面処理層を有するシリカ粒子に対して10体積%以上かつ30体積%以下のシリカを粒子の最外層に被覆させる方法である。
【0024】
酸化チタン粒子に水酸化アルミニウムを被覆させる方法は、水酸化アルミニウムを粒子表面に所定量(酸化チタン粒子の1体積%以上かつ35質量%以下)被覆させることができれば特に限定されない。このような方法としては、例えば、酸化チタン粒子を水に適宜添加してスラリーとし、このスラリーに水溶性アルミニウム化合物を添加して溶解させた後、酸又はアルカリでpHを調整することにより、酸化チタン粒子の表面に水酸化アルミニウムを析出させる方法等が挙げられる。
または、市販の酸化チタン(例えば石原産業株式会社製 TTOシリーズ;TTO−51(A)、TTO−55(A)、TTO−55(B))を用いてもよい。
【0025】
次いで、水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタン粒子とアルコキシシランとを水存在下で溶媒中に分散させて、酸化チタン粒子の溶媒への分散処理とシリカの被覆を同時に行う。水存在下でアルコキシシランを分散させているため、アルコキシシランの加水分解が促進され、表面処理層を有する酸化チタンを溶媒中に分散させながら、その最外層にシリカを被覆させることが可能であると推定される。
アルコキシシランとしては、酸化チタン粒子の最外層にシリカの被覆層を形成することができれば特に限定されず、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシランの1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
溶媒は、後述する樹脂との相溶性及び水との相溶性を考慮して適宜選択すればよい。このような溶媒としては例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらの中でもメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノールが好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。
【0027】
水酸化アルミニウムで被覆された酸化チタン粒子は、上記溶媒中に5質量%以上30質量%以下加えて分散させるのがよい。酸化チタンが5質量%未満の場合には、生産効率が悪く、加えて分散液中の酸化チタン濃度が低い範囲で限定されてしまうため好ましくない。一方、酸化チタンが30質量%を超える場合には、酸化チタンの量が多すぎてシリカの被覆が均一に出来ない場合があり、また分散工程中で、吸着したアルコキシシランが粒子間で反応しやすくなり凝集・ゲル化を招きやすくなるため好ましくない。
【0028】
また、アルコキシシランの加水分解速度を早くして生産効率を上げるために、アンモニア、水酸化ナトリウム、硫酸、塩酸、硝酸等を分散液に適量添加して実施してもよい。
【0029】
分散処理に用いる分散装置としては、上記溶媒に水酸化アルミニウムを被覆した酸化チタン粒子を分散し、かつシリカを被覆させることができれば特に限定されず、例えば、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波装置、ピンミル、遊星ボールミル、ジェットミル、振動ミル、パールミル、ダイノミル、ウルトラビスコミル、アトライター、アニューラミル等の分散装置を用いることができる。これらの中でも、ビーズミルが大量生産に適しており、分散エネルギーがアルコキシシランの加水分解を促進させると考えられるので好ましい。
【0030】
上記方法で被覆処理することにより、微粒子である酸化チタン粒子を分散させながら、シリカを粒子の最外層に均一に被覆させることができるので、粒子径が小さく透明性に優れた紫外線遮蔽粒子を得ることができる。
【0031】
[紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物]
本実施形態の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物は、本実施形態の紫外線遮蔽粒子と樹脂とを含有する樹脂組成物であって、上記紫外線遮蔽粒子の樹脂組成物中における平均分散粒径が5nm以上かつ70nm以下とされたものである。
【0032】
樹脂組成物を構成する樹脂は特に限定されず、樹脂組成物の用途に応じて適宜選択すればよい。
具体的に、自動車用プラスチック製ヘッドレンズカバーのハードコート形成に用いる場合には、耐摩耗性に優れる点でUV硬化樹脂が好ましく、ランプの透光性を良くする点で透明な樹脂が好ましい。このような樹脂としては例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリベンゾシクロブテン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリシクロヘキサン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シアネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂等の1種または2種以上を用いることができる。透明性が高い点でアクリル樹脂が好ましく、透明性及び耐磨耗性に優れる点でコロイダルシリカが添加されたアクリル−シリコーン樹脂がより好ましい。
【0033】
樹脂としては、多官能樹脂と低官能樹脂(1官能〜4官能の樹脂)を適宜混合したものを用いることが好ましい。このような樹脂を用いることで、耐磨耗性と耐候性を両立させることができる。この場合に、樹脂組成物中の樹脂成分の平均官能基数が、2官能〜4官能と比較的低官能になるように多官能樹脂と低官能樹脂を混合させて用いることが好ましい。樹脂の平均官能基を上記範囲にすることにより、長期間屋外で使用することによる塗膜のワレを防ぐことができるからである。
【0034】
UV系硬化樹脂を用いる場合には、それぞれの樹脂に応じて適宜光開始剤を添加して実施すればよい。光開始剤は樹脂に対して1〜10質量%程度添加させればよい。
【0035】
樹脂組成物中における紫外線遮蔽粒子の平均分散粒径は、5nm以上かつ70nm以下である。分散粒径が5nm未満の場合、比表面積の増大により紫外線遮蔽粒子の活性が上がり、塗膜を劣化させやすくなるため好ましくなく、平均分散粒径が70nmを超えると塗膜にした場合に透明性が悪くなるため好ましくない。平均分散粒径は、10nm以上かつ40nm以下であることがより好ましい。
【0036】
上記樹脂組成物には、固形分調整及び乾燥速度の調整を目的として溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、上記樹脂組成物との相溶性がよいものを、塗膜化方法を勘案しつつ選択するとよい。
【0037】
[紫外線遮蔽ハードコート膜]
本実施形態の紫外線遮蔽ハードコート膜は、プラスチック基材の表面に形成される紫外線遮蔽ハードコート膜であり、本実施形態の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物を用いて形成され、膜厚が2μm以上かつ15μm以下であることを特徴とするハードコート膜である。
【0038】
プラスチック基材は特に限定されず、用途にあわせて適宜選択すればよい。自動車用プラスチック製ヘッドレンズカバーに使用する場合には、耐衝撃性、透明性、軽量性等に優れたポリカーボネートを基材として選択することが好ましい。
【0039】
本実施形態の紫外線遮蔽ハードコート膜は、その膜厚が2μm以上かつ15μm以下である。膜厚が2μm未満の場合には、紫外線遮蔽機能、耐摩耗性が十分でないため、長期間の屋外の使用に耐えることができない場合があるため好ましくない。一方、膜厚が15μmを超える場合には、コストの増加、透明性の悪化を招くため好ましくない。紫外線遮蔽ハードコート膜の膜厚は、5μm以上かつ10μm以下であることがより好ましい。
【0040】
紫外線遮蔽ハードコート膜は、本実施形態の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物を、上記のプラスチック基材の表面に塗布し、樹脂の種類に応じた硬化方法により硬化させることで形成することができる。
紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物を塗布する方法としては、所望の膜厚の塗膜を得ることができれば特に限定されず、例えば、バーコート法、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法、吸上げ塗工法など、通常のウェットコート法を用いることができる。
【0041】
本実施形態の紫外線遮蔽ハードコート膜では、水酸化アルミニウムの表面処理層とシリカの被覆層との積層膜を酸化チタン粒子の表面に形成してなる紫外線遮蔽粒子を含む樹脂組成物を用いて形成されていることで、屋外で使用しても優れた耐候性と耐摩耗性を得ることができる。
このように優れた耐候性を得られることについての詳細なメカニズムは不明であるが、酸化チタン粒子の表面に水酸化アルミニウムとシリカを上述の範囲で積層して被覆させていることにより、酸化チタンを内部に閉じこめることができ、酸化チタンが塗膜表面に浮いてくる現象が防止されるためであると推定される。
【0042】
[自動車用プラスチック製ヘッドレンズカバー]
本実施形態の自動車用プラスチック製ヘッドレンズカバーは、上述した紫外線遮蔽ハードコート膜を備えたものである。すなわち、先の実施形態の紫外線ハードコート用樹脂組成物からなる塗料を従来公知の塗布法を用いてヘッドカバー基材に塗布し、硬化させることにより得ることができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物によれば、水酸化アルミニウム及びシリカで酸化チタン粒子の表面を上述の範囲で被覆した紫外線遮蔽粒子を含有しているので、形成した塗膜において酸化チタンの光活性を抑制することができる。また、粒子表面に形成されたシリカの被覆層が樹脂との優れた親和性を呈し、粒子と樹脂とが強固に結合した塗膜を形成することができる。これらにより、屋外で使用するプラスチック基材に対して、優れた耐候性、透明性、耐磨耗性を付与することができる。
また、本実施形態の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物において、低官能基数の樹脂を用いるならば、長期間使用してもワレ等が生じにくい紫外線遮蔽ハードコート膜を形成することが可能である。
【0044】
なお、本実施形態の紫外線遮蔽ハードコート膜の用途は、自動車用プラスチック製ヘッドレンズカバーに限られるものではない。ヘッドレンズカバー以外の屋外で長期間使用されるプラスチック基材にも好適に用いることができる。特に、耐候性、透明性、耐磨耗性を必要とするプラスチック基材へのハードコート形成用途に好適である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
「酸化チタン分散液の調製」
酸化チタン粉末(石原産業社製 TTO−51(A);一次粒子径10〜30nm、水酸化アルミニウム17〜24体積%)10質量部、イソプロピルアルコール83.88質量部、テトラメトキシシラン5.06質量部、28質量%のアンモニア水1.06質量部を混合した。次いで、この混合液に0.1mmφのガラスビーズ150質量部を添加して、サンドミルを用いて3000rpmで4時間分散させた。次いでイソプロピルアルコールで酸化チタンの濃度を5質量%に調整し、高透明性な酸化チタン分散液を得た。
シリカの被覆量はTTO−51(A)に対して18.3体積%(テトラメトキシシラン濃度に基づく計算値)であった。
分散粒径(d50)を動的光散乱式粒度分布測定装置(Microtrac社製、Microtrac UPA150)を用いて測定した結果、15nmであった。
【0047】
「酸化チタンハードコート塗料の作製」
得られた酸化チタン分散液30質量部、アクリル−シリコーン樹脂(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、UVHC1101)26.2質量部、光開始剤(チバ・スペシャルティケミカルズ社製、イルガキュア184)2.0質量部、ダイアセトンアルコール(DAA)20質量部、プロプレングリコールモノプロピルエーテル(PGP)19.8質量部を混合し、酸化チタンハードコート塗料(紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物)を得た。
【0048】
「酸化チタンハードコート膜の作製」
ポリカーボネート基材(100×100×10mmt)に、上記の酸化チタンハードコート塗料を乾燥膜厚が5μmになるようにバーコートで塗膜を形成した。次いでこの基材を熱風乾燥炉において80℃で3分間乾燥させた。次いでこの基材に高圧水銀灯の紫外線照射装置を用いて700mJ/cmの紫外線を照射して、酸化チタンハードコート膜(紫外線遮蔽ハードコート膜)をポリカーボネート基材に形成した。
【0049】
[実施例2]
実施例1のハードコート塗料の作製において酸化チタン分散液を15質量部、アクリル−シリコーン樹脂を27.1質量部、PGPを35.9質量部用いた以外は同様にして酸化チタンハードコート塗料を得た。
次いで実施例1の酸化チタンハードコート膜の作製において乾燥膜厚が5μmになるように塗膜を形成した以外は同様にして、酸化チタンハードコート膜をポリカーボネート基材に形成した。
【0050】
[実施例3]
実施例1のハードコート塗料の作製において酸化チタン分散液を60質量部、アクリル−シリコーン樹脂を24.4質量部、ダイアセトンアルコール13.6質量部、PGP0質量部を用いた以外は同様にして、酸化チタンハードコート塗料を得た。
次いで実施例1の酸化チタンハードコート塗膜の作製において乾燥膜厚が5μmになるように塗膜を形成した以外は同様にして、酸化チタンハードコート膜をポリカーボネート基材に形成した。
【0051】
[比較例1]
「酸化チタン分散液の調整」
酸化チタン粉末(石原産業社製 TTO−51(A))10質量部、イソプロピルアルコール86質量部、リン酸エステル系界面活性剤(楠本化成社製、PW−36)4質量部を混合した。次いで、この混合液に0.1mmφのガラスビーズ150質量部を添加して、サンドミルを用いて3000rpmで4時間分散させた。次いでイソプロピルアルコールで酸化チタンの濃度を5質量%に調整し、高透明性な酸化チタン分散液を得た。
【0052】
実施例1のハードコート塗料の作製において、比較例1で得られた酸化チタン分散液を用いた以外は同様にして酸化チタンハードコート塗料を得た。さらに、実施例1と同様にして酸化チタンハードコート膜をポリカーボネート基材に形成した。
【0053】
[比較例2]
比較例1のハードコート塗料の作製において、アクリル−シリコーン樹脂の代わりにアクリル樹脂(日本化薬社製、DPHA)を用いた以外は同様にして、酸化チタンハードコート塗料を得た。さらに、実施例1と同様にして酸化チタンハードコート膜をポリカーボネート基材に形成した。
【0054】
実施例1〜3及び比較例1、2で得られた塗膜は、黄色度(YI値)、全光線透過率(Tr(%))、ヘーズ値(Hz(%))の3点について、キセノンアークランプで100MJ/cmの紫外線(300nm−400nm 95W/m)を照射する前後の特性について下記の方法により評価した。
【0055】
(1)黄色度(YI値): 日本工業規格JISK7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準拠し、カラーアナライザー(東京電色社製、TC-1800MK/II)により測定した。
(2)全光線透過率(Tr(%))及びヘーズ値: ヘーズメータ(日本電色社製、NDH2000)により測定した。
【0056】
以上の評価結果を表1に示す。なお、表1に示す値は、ポリカーボネート基材を含む値である。
【0057】
【表1】

【0058】
また、実施例1〜3の可視光透過率を分光光度計(日本分光社製、V-570)で測定した結果を図1に示す。
【0059】
以上の結果より、水酸化アルミウムの表面処理層とシリカの被覆層とが形成された酸化チタン粒子を含有する酸化チタンハードコート塗料を、ポリカーボネート基材に塗布することにより、高い透明性を維持しつつ、耐候性に優れる塗膜が得られることが確認できた。
また、実施例1〜3をテーバー磨耗試験(JISK7240)したところ、キセノンアークランプ照射前後で、ヘーズ値の顕著な変化は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子径が5nm以上かつ50nm以下の酸化チタン粒子と、前記酸化チタン粒子の表面に形成され前記酸化チタン粒子に対して1体積%以上かつ35体積%以下の水酸化アルミニウムからなる表面処理層と、前記表面処理層を覆って形成され前記表面処理層を有する酸化チタン粒子に対して10体積%以上かつ30体積%以下のシリカからなる被覆層とを有する紫外線遮蔽粒子と、樹脂とを含有し、
前記紫外線遮蔽粒子の平均分散粒径が5nm以上かつ70nm以下であることを特徴とする紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物。
【請求項2】
前記紫外線遮蔽粒子の含有量が2.5質量%以上かつ10質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂がアクリル−シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物。
【請求項4】
コロイダルシリカを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物。
【請求項5】
プラスチック基材の表面に形成される紫外線遮蔽ハードコート膜であって、
請求項1乃至4のいずれか1項記載の紫外線遮蔽ハードコート用樹脂組成物を用いて形成され、膜厚が2μm以上かつ15μm以下であることを特徴とする紫外線遮蔽ハードコート膜。
【請求項6】
請求項5記載の紫外線遮蔽ハードコート膜を備えてなることを特徴とする自動車用プラスチック製ヘッドレンズカバー。
【請求項7】
一次粒子径が5nm以上かつ50nm以下の酸化チタン粒子と、
前記酸化チタン粒子の表面に形成され前記酸化チタンに対して1体積%以上かつ35体積%以下の水酸化アルミニウムからなる表面処理層と、
前記表面処理層を覆って形成され前記表面処理層を有する酸化チタン粒子に対して10体積%以上かつ30体積%以下のシリカからなる被覆層と、
を有することを特徴とする紫外線遮蔽粒子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−168377(P2012−168377A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29727(P2011−29727)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】