説明

紫外線遮蔽能を有するガラス物品

【課題】紫外線遮蔽能の持続性に優れた紫外線遮蔽膜を有するガラス物品を提供する。
【解決手段】ガラス板1の上に形成された紫外線遮蔽膜2に、酸化ケイ素と共に、常温で固体の有機化合物Aの平均粒径150nm以下の微粒子を含ませる。化合物Aは式(1)の基を分子中に2つ以上有する。A1〜A5は、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル基、又はベンゾトリアゾール構造であってその少なくとも1つは同構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板とその上に形成された紫外線遮蔽膜とを備えたガラス物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板には可視光線を透過させながら紫外線を遮蔽する特性が求められている。特に窓ガラス用途では、日焼け防止の観点などから、紫外線を遮蔽する機能(紫外線遮蔽能)を付加したガラス板への需要が高まっている。このため、酸化鉄(III;Fe23)など紫外線を吸収する無機成分の比率を高めた組成を有するガラス板が製造され、販売されている。
【0003】
ガラス板の組成の調整のみでは紫外線の遮蔽に限界があるため、ガラス板の上に紫外線遮蔽能を有する膜(紫外線遮蔽膜)を形成することが提案されている。例えば、本発明者は、国際公開第2006/137454号パンフレット(特許文献1)において、ガラス板上に、酸化ケイ素(シリカ)を主成分とし、有機物として親水性有機ポリマーおよび紫外線吸収剤を含む紫外線遮蔽膜を形成する技術を開示した。この技術は、同じく本発明者による国際公開第2005/095101号パンフレット(特許文献2)に開示された耐摩耗性に優れた有機無機複合膜に紫外線遮蔽能を付加したものである。特許文献1には、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系、ポリメチン系、イミダゾリン系などの有機化合物が開示されている。
【0004】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、広い波長域にわたって紫外線を吸収し、この波長域における光線吸収能にも優れているため、紫外線によるプラスチックの劣化を防ぐ添加剤などとして広く用いられている。特許文献1の各実施例において使用されている紫外線吸収剤もベンゾトリアゾール系の化合物である。特許文献1に開示されている技術では、ゾルゲル法により膜を形成することとしている。ゾルゲル法により膜を形成するための溶液には極性溶媒である低級アルコールが用いられるため、この溶液に添加して用いるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は低級アルコールに溶けるものを選択しなければならない。このため、特許文献1の各実施例では、常温で液体であるとともに低級アルコールに溶かすことができるベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤「チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製TINUVIN1130」が選択され、この紫外線吸収剤が膜の形成溶液に添加されている。
【0005】
特許文献3には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含み、非極性溶媒を含む溶液から形成した紫外線遮蔽膜を備えたガラス板が開示されている。この膜は、ゾルゲル法ではなく、低温硬化型のポリシラザンを含む溶液を用いて形成される。この溶液にはキシレンを溶媒として用いることができるため、溶液に添加する紫外線吸収剤の選択肢は極性溶媒を用いる場合と比較して広くなる。特許文献3の実施例(調製例3)では、紫外域の長波長側における吸収能に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤「チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製TINUVIN109」が用いられている。TINUVIN109も常温で液体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/137454号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/095101号パンフレット
【特許文献3】特開2009−184882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の紫外線遮蔽膜には、長期間にわたって屋外で使用されたときの紫外線遮蔽効果の低下を十分に抑制できないという問題がある。そこで、本発明の目的は、優れた紫外線遮蔽特性を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を用いながらも、紫外線遮蔽効果の持続性に優れた紫外線遮蔽膜を備えたガラス物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
ガラス板と、前記ガラス板上に形成された紫外線遮蔽膜と、を有し、
前記紫外線遮蔽膜が、酸化ケイ素とともに、
紫外線遮蔽成分として、下記式(1)により示される官能基を2つ以上分子中に有するとともに常温で固体である有機化合物Aの微粒子を含み、
前記微粒子の平均粒径が150nm以下である、紫外線遮蔽能を有するガラス物品、を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
ここで、A1〜A5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20、好ましくは炭素数5〜15、より好ましくは炭素数7〜13のアルキル基、または下記式(2)により示される官能基である。ただし、A1〜A5の少なくとも1つは、下記式(2)により示される官能基である。
【0011】
【化2】

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期間にわたって屋外で使用しても、紫外線遮蔽効果が低下しにくい紫外線遮蔽膜を備えたガラス物品を提供することができる。従来、ガラス板上の紫外線遮蔽膜に添加するべきベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、溶液を用いた成膜法に適合するように、常温で液体である化合物が選択されていた。これに対し、本発明による紫外線遮蔽膜には、常温で固体であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である有機化合物Aが微粒子として添加されており、これにより、紫外線遮蔽効果の持続性の向上が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるガラス物品の一形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に例示した本発明によるガラス物品は、ガラス板1と、その表面に直接形成された紫外線遮蔽膜2とを備えている。
【0015】
紫外線遮蔽膜2は、無機物(酸化ケイ素)とともに、有機物として、有機化合物Aの微粒子を含み、好ましくは有機化合物B(詳細は後述するが、例えばポリエーテルおよび/またはポリオールに相当する化合物)をさらに含む。有機化合物Aは、分子中に少なくとも2つのベンゾトリアゾール構造(式(2)参照)を含むベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である。1分子中に少なくとも2つ存在するベンゾトリアゾール構造は、有機化合物Aによる紫外線遮蔽効果に貢献し、有機化合物Aが常温で固体状態となる程度に分子量を大きく保つことにも寄与する。周知のとおり、化合物の融点は分子量のみによって定まるわけではないが、分子量は融点を大きく左右する因子である。
【0016】
式(1)により示される官能基は、例えば、A1〜A5のうち、1つが水酸基であり、1つが上記で規定したアルキル基であり、1つが式(2)により示される官能基であり、残り2つが水素原子であってもよい。具体的には、有機化合物Aは、以下の式(3)で示される官能基を2つ以上分子中に有することが好ましい。式(3)において、R1は、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20、好ましくは炭素数5〜15、より好ましくは炭素数7〜13のアルキル基である。
【0017】
【化3】

【0018】
なお、有機化合物Aに含まれるアルキル基の炭素数は、多いほど分子全体の疎水性が高くなる傾向があるため、分散媒を水とする分散液から作製する膜において、微粒子として存在させることが容易となる。ただし、炭素数が多くなりすぎると、立体障害などの影響によって有機化合物Aの融点が下がる傾向がある。
【0019】
本発明の好ましい形態において、有機化合物Aは、式(3)により示される2つの官能基がアルキレン基により結合されている構造単位を有する。アルキレン基を構成する炭素数は、好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。
【0020】
有機化合物Aは、以下の式(4)で示される化合物であってもよい。
【0021】
【化4】

【0022】
ここで、R1およびR2は、互いに独立して、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20、好ましくは炭素数5〜15、より好ましくは炭素数7〜13のアルキル基である。
【0023】
有機化合物Aは常温において固体である。本明細書において、「常温」は25℃を意味する用語として使用する。上述のとおり、従来、溶液から形成される紫外線遮蔽膜には常温で液体であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が用いられてきた。このような紫外線吸収剤をエマルション化して得た溶液を用いて形成された紫外線遮蔽膜には、紫外線吸収剤が微細な液体として分散していると考えられる。これに対し、本発明による紫外線遮蔽膜では、有機化合物Aが固体である微粒子として分散している。この相違が、膜の耐久性、特に紫外線遮蔽能の持続性に大きな影響を与えていると考えられる。有機化合物Aを微粒子として含む紫外線遮蔽膜は、常温で固体である有機化合物Aを微粒子として分散させた分散液を用いて形成することができる。
【0024】
有機化合物Aは、ボールミルなど各種の粉砕機で細かく砕き、分散媒に分散させた状態の分散液として調製し、これを膜の形成溶液と混合することにより、膜に導入するとよい。分散媒としては、水、低級アルコールが適しているが、水が最も適している。有機化合物Aは、これを溶かしうる有機溶媒を用いた溶液として膜に導入することもできるが、このような導入法は、紫外線遮蔽能の持続性の十分な向上をもたらさない。
【0025】
有機化合物Aは、平均粒径が150nm以下、好ましくは50〜150nm、より好ましくは50〜140nm、特に好ましくは70〜140nm、の微粒子として膜に分散させるとよい。この微粒子の平均粒径は、大きすぎると膜の透明性を低下させ、小さすぎると紫外線吸収能が劣化したり、その持続性が低下したりおそれがある。なお、上記「平均粒径」は、後述する実施例の欄における測定値も含め、レーザー回折法による測定値に基づく数値であり、具体的には、球形に換算した粒子径の分布において累積頻度が50%となる粒子径である。
【0026】
有機化合物Aは、膜中の酸化ケイ素(SiO2換算)に対しては、質量%により表示して、1〜50%、さらには1〜30%の範囲で含まれていることが好ましい。これを考慮すると、後述する膜の形成溶液の液量に対しては、同じく質量%により表示して、0.5〜25%、より好ましくは0.5〜15%となるように添加することが好ましい。
【0027】
有機化合物Bは、有機化合物A(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)との相互作用によって、有機化合物Aの膜中における分散性の向上に寄与し、この化合物による光線遮蔽能を高め、さらにはこの化合物の劣化を抑制する成分である。紫外線遮蔽膜2をゾルゲル法などの液相成膜により比較的厚く(例えば300nmを超える程度)形成する際には、膜の形成溶液に含まれる液体成分の蒸発に伴ってクラックが発生することがある。有機化合物Bは、クラックの発生を抑制しながら厚膜の形成を可能にする成分でもある。
【0028】
有機化合物Bは、好ましくはポリエーテル化合物、ポリオール化合物、ポリビニルピロリドン類およびポリビニルカプロラクタム類から選ばれる少なくとも1種である。有機化合物Bは、ポリエーテル型の界面活性剤などのポリエーテル化合物であってもよいし、ポリカプロラクトンポリオール、ビスフェノールAポリオールなどのポリオール化合物であってもよい。有機化合物Bは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどであっても構わない。ポリエーテル化合物は2以上のエーテル結合を含む化合物、ポリオール化合物はジオール、トリオールを含む多価アルコールを意味する。ポリビニルピロリドン類は、具体的には、ポリビニルピロリドンおよびその誘導体を指し、ポリビニルカプロラクタム類は、具体的には、ポリビニルカプロラクタムおよびその誘導体を指す。
【0029】
有機化合物Bは、膜中の酸化ケイ素(SiO2換算)に対し、質量%で表示して、0〜75%、好ましくは0.1〜40%、より好ましくは2〜30%となるように、膜に添加することが好ましい。なお、有機化合物Aが多い場合は、その量に応じて有機化合物Bを減らしてもよい。
【0030】
本発明による紫外線遮蔽膜には、有機化合物A,B以外の機能性成分を含んでいてもよい。例えば、近赤外線の吸収剤として知られているインジウム錫酸化物(ITO)微粒子は紫外線遮蔽膜への添加が好ましい成分の一つである。
【0031】
ITO微粒子は、平均粒径が200nm以下、好ましくは5〜150nm、の微粒子として膜に分散させるとよい。有機化合物Aの微粒子と同様、粒径が大きすぎると膜の透明性を低下させ、小さすぎると添加による効果が十分得られない。ITO微粒子も予め分散液を調製しておいて、これを膜の形成溶液に添加するとよい。
【0032】
紫外線遮蔽膜2は、無機成分として酸化ケイ素を含む。ただし、紫外線遮蔽膜2は、酸化ケイ素以外の成分を含んでいてもよい。酸化ケイ素以外の無機成分としては、上記ITO微粒子に加え、ゾルゲル法で用いた酸触媒に由来する成分(例えば、塩素、窒素、硫黄原子)などが挙げられる。紫外線遮蔽膜2に含まれる酸化ケイ素は、シリコンアルコキシドなどのシリコン含有化合物(シリコン化合物)として膜の形成溶液に添加される。
【0033】
紫外線遮蔽膜2中の酸化ケイ素は、膜全体の30質量%以上、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上(この場合は酸化ケイ素が膜の主成分となる)、場合によっては70質量%以上、を占めるようにするとよい。紫外線遮蔽膜2は、好ましくは、酸化ケイ素を主成分とし、Si−O結合のネットワーク中に有機化合物Aの微粒子やその他の成分が分散している形態を有する。
【0034】
以下、紫外線遮蔽膜2をゾルゲル法により成膜する場合の好ましい方法について説明する。
【0035】
ゾルゲル法に用いる有機溶媒は、シリコンアルコキシドや水との相溶性が高く、ゾルゲル反応を進行させることができる溶媒であることが必要であり、炭素数が1〜3の低級アルコールが適している。シリコンアルコキシドとしては、特に制限はないが、シリコンテトラメトキシド、シリコンテトラエトキシド(TEOS)、シリコンテトライソプロポキシドなどを用いればよい。シリコンアルコキシドの加水分解物をシリコン原料として用いてもよい。ゾルゲル法による形成溶液におけるシリコンアルコキシドの濃度は、シリコンアルコキシドをSiO2換算したときのSiO2濃度により表示して、3〜10質量%、特に3〜8質量%が好ましい。この濃度が高すぎると、膜にクラックが発生することがある。
【0036】
水は、シリコンアルコキシドに対し、モル比により表示して、4倍以上、具体的には4〜40倍、好ましくは4〜35倍が好適である。加水分解触媒としては、酸触媒、特に塩酸、硝酸、硫酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などの強酸を用いることが好ましい。酸触媒に由来する有機物は膜硬度を低下させることがあるため、酸触媒としては無機酸が好ましい。塩酸は、揮発性が高く、膜に残存しにくいため、最も好ましい酸触媒である。酸触媒の濃度は、酸からプロトンが完全に解離したと仮定したときのプロトンの質量モル濃度により表示して0.001〜2mol/kgの範囲とすることが好ましい。
【0037】
上記程度に水を過剰に加え、上記程度の濃度となるように酸触媒を加えると、特許文献2に解説されているように、ゾルゲル法により、有機物の分解を防ぐことができる温度域で比較的厚い膜を容易に形成できる。
【0038】
形成溶液の塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持することが好ましい。相対湿度を低く保持すると、膜が雰囲気から水分を過剰に防止することを防止できる。雰囲気から水分が多量に吸収されると、膜のマトリックス内に入り込んで残存した水が膜の強度を低下させるおそれがある。
【0039】
形成溶液の乾燥工程は、塗布環境下における風乾工程と、加熱を伴う加熱乾燥工程とを含むように実施することが好ましい。風乾工程は、相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持した雰囲気に形成溶液の塗布膜を曝すことにより、実施するとよい。加熱乾燥工程では、加水分解により生成したシラノール基の縮重合反応が進行するとともに、膜に残存する液体成分の除去、特に水の除去、が進行し、酸化ケイ素のマトリックス(Si−O結合のネットワーク)が発達する。加熱乾燥工程では、300℃以下、例えば100〜200℃の雰囲気に、塗布膜を曝すことにより、実施するとよい。
【0040】
以上説明した一連の工程、すなわち、a)有機化合物Aの微粒子その他を含む形成溶液の調製工程、b)形成溶液のガラス板上への塗布工程、c)形成溶液の乾燥工程を順次実施することにより、液相成膜法により、本発明のガラス物品を得ることができる。
【0041】
なお、上記で説明したガラス物品の製造方法は、有機化合物Aに限らず、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤に幅広く適用できる。この製造方法は、シリコンアルコキシドなどのシリコン含有化合物を溶質として含み、常温で固体であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を平均粒径が150nm以下の微粒子として含む膜の形成溶液を調製する工程と、この形成溶液をガラス板上に塗布する工程と、このガラス板上において上記形成溶液を乾燥させて紫外線遮蔽膜を形成する工程と、を含む、紫外線遮蔽膜を有するガラス物品の製造方法である。
【0042】
紫外線遮蔽膜の膜厚は、300nmを超え15μm以下、さらには500nm以上10μm以下、特に1000nm以上5000nm以下、が好ましい。膜が薄すぎると十分な紫外線遮蔽能が得られないことがあり、膜が厚すぎると膜の透過率が低下して物品の透明性を損なうことがある。
【0043】
ガラス板1は、特に制限されないが、Fe23の濃度を高め、必要に応じてTiO2、CeO2などその他の紫外線吸収成分を添加した組成を有するソーダ石灰珪酸塩ガラス板を用いることが好ましい。
【0044】
ガラス板1としては、0.2質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、のFe23を含むガラス組成を有し、波長380nmにおける光線透過率が70%以下、好ましくは50%以下、波長550nmにおける光線透過率が75%以上であるソーダ石灰珪酸塩ガラス板が好適である。もっとも、Fe23の含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.02%〜0.06%であるソーダ石灰ケイ酸塩ガラス板を用いることもできる。なお、上記において、Fe23濃度は、ガラス板に含まれる全酸化鉄(酸化鉄はFeOとしてもガラス中に存在する)をFe23に換算して算出される数値である。
【0045】
実施例の欄に示す実験結果により確認されているように、本発明によれば、波長380nmにおける光線透過率(T380)が8%以下である紫外線遮蔽能を有するガラス物品を提供できる。また、本発明によれば、ISO9050(1990年度版)に基づく紫外線透過率(TUV2003)が5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1%以下である、紫外線遮蔽能を有するガラス物品を提供できる。さらに、本発明によれば、上記程度の紫外線遮蔽能を有しながらも、波長550nmにおける光線透過率(T550)が70%を超え、さらには可視光透過率YAも70%を超えるガラス物品を提供できる。
【0046】
またさらに、本発明によれば、上記程度の紫外線遮蔽能を有する程度に紫外線吸収剤を膜中に含みながらも、JIS R3221に準拠した500g荷重、1000回転のテーバー摩耗試験後にも紫外線遮蔽膜がガラス板から剥離しないガラス物品、特に同試験後のヘイズ率の上昇幅が3%以下に抑制された耐摩耗性に優れた紫外線遮蔽膜を備えたガラス物品を提供できる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。まず、各実施例、比較例で作製したサンプル(紫外線遮蔽膜付きガラス板)の特性を評価するために実施した試験の内容を説明する。
【0048】
<光学特性>
光学特性は、分光光度計(島津製作所製、UV−3100PC)を用いて測定した。測定した透過率は、波長550nmおよび380nmにおける透過率、ISO9050(1990年度版)に従って算出した紫外線透過率TUV380および可視光透過率YAである。なお、TUV380は波長280nm〜380nmにおける光線の透過率に基づいて算出される値である。また、用いたガラス板についても上記各光学特性を別途測定し、これに基づいて紫外線遮蔽膜(膜単独)についての上記各光学特性を算出した。
【0049】
<耐摩耗性>
膜の耐摩耗性は、JIA R3221に準拠した摩耗試験により評価した。すなわち、市販のテーバー摩耗試験機(TABER INDUSTRIES社製5150 ABRASER)を用い、500gの荷重で1000回摩耗を行い、摩耗試験前後のヘイズ率の測定を行った。なお、ヘイズ率は、スガ試験機社製HZ−1Sを用いて測定した。
【0050】
<耐光性(耐紫外線特性)>
耐光性(耐紫外線特性)は、岩崎電気社製の紫外線照射装置(EYE SUPER UV TESTER SUV−W13)を用い、波長295〜450nm、照度76mW/cm2、ブラックパネル温度83℃、湿度50%RHの条件を適用し、所定時間(10時間、64時間または100時間)、紫外線を、ガラス板の膜が形成されていない面から紫外線遮蔽膜付きガラス板に照射することにより実施した。紫外線照射試験後の光学特性(T380,TUV380)を測定し、同試験前後の変化を算出した。
【0051】
(実施例1)
式(4)において、R1およびR2がともに1,1,3,3−テトラメチルブチル基であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製「TINUVIN360」;有機化合物A)を分散質として含み、水を分散媒とする分散液(固形分濃度10重量%、平均粒径110nm)を準備した。なお、上記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、予め、上記平均粒径となるように、ペイントコンディショナーを用い、ジルコニアビーズとともに混合して粉砕したものを用いた。この紫外線吸収剤分散液とともに、純水、エチルアルコール(片山化学製)、グリセリンにプロピレンオキシドが付加したトリオール(ADEKA製G−300;平均分子量300;有機化合物B)、テトラエトキシシラン(TEOS;信越化学工業製)、濃塩酸(関東化学製;35質量%)、を混合、攪拌し、紫外線遮蔽膜の形成溶液を得た。形成溶液は、各成分の濃度(含有率)が表1の値となるように調製した。表1には、実施例2〜6、比較例1で調製した形成溶液における各成分の濃度も併せて示す。
【0052】
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(日本板硝子製UVカットグリーンガラス100×100mm、厚さ3.1mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約5分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し15分加熱し、その後冷却し、紫外線遮蔽膜を形成した。なお、用いたUVカットグリーンガラスは、波長380nmにおける光線透過率(T380)が40%、波長550nmにおける光線透過率(T550)が77%である。このUVカットグリーンガラス板は、Fe23に換算した全酸化鉄を0.9質量%程度含有している。
【0053】
こうして得た紫外線遮蔽膜付きガラス板について、上記測定を実施した。結果を表2に示す。表2には、実施例2〜6、比較例1で作製した紫外線遮蔽膜付きガラス板についての測定結果も示す。
【0054】
(実施例2〜6)
形成溶液における各成分の濃度を表1に示したとおりに変更した以外は実施例1と同様にして紫外線遮蔽膜付きガラス板を得た。
【0055】
(比較例1)
常温で液体であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「TINUVIN1130」)、シアニン系有機色素(zenzoxazolium系)、エチルアルコール(片山化学製)、テトラエトキシシラン(信越化学工業製)、濃塩酸(35質量%)を表1に示した濃度となるように混合、撹拌し、形成溶液を得た。この形成溶液は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含むエマルションである。次いで、この形成溶液を用い、実施例1と同様にして、紫外線遮蔽膜付きガラス板を得た。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
比較例1の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、紫外線照射試験前には極めて良好な紫外線遮蔽能を有していたものの、紫外線照射によって紫外線透過率が大きく上昇した。各実施例の紫外線遮蔽膜付きガラス板は、初期の紫外線遮蔽特性では比較例1に劣るものの、長時間の紫外線照射後にも安定した紫外線遮蔽効果を維持していた。長期間にわたる紫外線遮蔽効果の持続が望まれる窓ガラスなどの用途では、各実施例の紫外線遮蔽膜付きガラス板がより適している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明による紫外線遮蔽能を有するガラス物品は、屋外に面する窓、太陽電池用カバーガラスなどにおける使用に適した製品として大きな利用価値を有する。
【符号の説明】
【0060】
1 ガラス板
2 紫外線遮蔽膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、前記ガラス板上に形成された紫外線遮蔽膜と、を有し、
前記紫外線遮蔽膜が、酸化ケイ素とともに、
紫外線遮蔽成分として、下記式(1)により示される官能基を2つ以上分子中に有するとともに常温で固体である有機化合物Aの微粒子を含み、
前記微粒子の平均粒径が150nm以下である、紫外線遮蔽能を有するガラス物品。
【化1】

ここで、A1〜A5は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20のアルキル基、または下記式(2)により示される官能基であり、A1〜A5の少なくとも1つは、下記式(2)により示される官能基である。
【化2】

【請求項2】
前記有機化合物Aが、下記式(3)により示される官能基を2つ以上分子中に有する請求項1に記載のガラス物品。
【化3】

ここで、R1は、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20のアルキル基である。
【請求項3】
前記有機化合物Aが、前記式(3)により示される2つの官能基が炭素数3以下のアルキレン基により結合されている構造単位を有する請求項2に記載のガラス物品。
【請求項4】
前記有機化合物Aが、下記式(4)により示される化合物である請求項3に記載のガラス物品。
【化4】

ここで、R1およびR2は、互いに独立して、直鎖のもしくは分岐を有する炭素数1〜20のアルキル基である。
【請求項5】
ISO9050(1990年度版)に従って算出した紫外線透過率TUV380が2%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のガラス物品。
【請求項6】
波長550nmにおける光線透過率が70%を超える、請求項1〜5のいずれかに記載のガラス物品。
【請求項7】
前記紫外線遮蔽膜が、ポリエーテル化合物、ポリオール化合物、ポリビニルピロリドン類およびポリビニルカプロラクタム類から選ばれる少なくとも1種に相当する有機化合物Bをさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載のガラス物品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−136846(P2011−136846A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295917(P2009−295917)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【出願人】(591064508)御国色素株式会社 (28)
【Fターム(参考)】