説明

累進多焦点レンズ及びその製造方法

【課題】中間視力領域及び近用視力領域に渡る距離及び溝幅の機能的損失なしに不必要なレンズ非点収差を減少させる累進多焦点レンズおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】累進多焦点レンズは、最大、かつ局在化した不要な非点収差からなる少なくとも一つの領域と第1の屈折付加力とを持つ第1の累進屈折面と、最大、かつ局在化した不要な非点収差からなる少なくとも一つの領域と第2の屈折付加力とを持つ第2の累進屈折面とを有する。また、不必要な非点収差の一部分あるいはすべてが位置ずれするように、第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面は相互に関係した形で配置され、さらにレンズの屈折付加力は前記第1の屈折付加力及び前記第2の屈折付加力の合計となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、視力矯正用多焦点眼鏡レンズの製造方法に関する。特に、この発明は従来の累進多焦点レンズ(progressive addition lens)と比較して中間視力領域及び近用視力領域に渡る距離及び溝幅の機能的損失なしに不必要なレンズ非点収差を減少させる累進多焦点レンズの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
屈折異常を矯正するために眼鏡レンズを使用することがよく知られている。例えば、例えば累進多焦点レンズ(以下「PAL」ともいう)等の多焦点レンズは老眼の処置に使用される。PALの表面は、遠用から近用焦点、あるいはレンズの上部から下部に向けた屈折力(dioptric power)の縦方向の増大が、ゆるやかに、かつ連続的に変化していることで、遠用、中間、及び近用視野を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PALは、二重焦点レンズ、三重焦点レンズ等の他の多焦点レンズで見られる屈折力が異なる領域間の可視的堤が認められないため、他の多焦点レンズよりも着用者にとっては魅力的である。しかし、PALが抱える固有の短所は、不要なレンズ非点収差、またはレンズの一つ以上の面によって誘導あるいは引き起こされる非点収差である。一般に不要なレンズ非点収差は、レンズの近用視野領域のいずれかの側、あるいはそのおおよその光学中心近くに見られ、レンズの近用視野屈折付加力(near vision dioptric add power)にほぼ一致する最大値に達する。
【0004】
一般に、2.00ジオプトリの付加屈折力(add power)及び15mmの溝長(channel length)を持つPALは、2.00ジオプトリの最大、かつ局在化した不要な非点収差を有するものとなろう。レンズの溝幅は約6mmであり、不要な非点収差は閾値0.75ジオプトリ以下である。
【0005】
不要な非点収差を減少させることまたは最小溝幅を増加させることのいずれか、あるいはそれら両方を目的として、かなりの数のレンズ設計が試みられてきた。しかし、従来の累進多焦点レンズは、レンズ外周部に不要な非点収差によって使用不可能な大きな領域を持ち、その一方で不要な非焦点収差の減少を最小とするだけである。したがって、最大で、かつ局在化した不要な非点収差を減少させると同時に、最小溝幅を増大させるPALが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、累進多焦点レンズ、同様に累進多焦点レンズの設計及び生産のための方法を提供する。一定の屈折付加力に対応付けられ、最大、かつ局在化した不要な非点収差が従来のレンズと比べて減少する。さらに間隔幅、またはレンズの光学中心の幅が約0.50ジオプトリ以上の不要な非点収差から外れ、さらにレンズの最小溝幅がレンズの着用者にとって最適なものとなる。
【0007】
この発明の目的のために、「溝(channel)」は、着用者の眼が遠用領域から近用領域へと順に見ていき、そして戻る場合に、約0.75ジオプトリ以上の非点収差から外れる視野の回廊を意味する。また、「レンズ(lens or lenses)」は、限定されるものではないが、眼鏡レンズ、コンタクトレンズ、眼内レンズ等を意味する。好ましくは、本発明のレンズは眼鏡レンズである。
【0008】
この発明の一つの発見は、最大、かつ局在化した不要な非点収差は、2枚以上の累進屈折面(progressive addition surfaces)を組み合わせることによって減少することが可能であるということである。個々の累進屈折面の屈折付加力(dioptric add power)よりも大きい屈折付加力のレンズを生産するために、各々の累進屈折面は他の累進屈折面の屈折付加力と組み合わせられる屈折付加力を有する。「屈折付加力」は、累進屈折面の近用視野領域と遠用視野領域との間の屈折力差の分量を意味する。この発明のレンズは、単一の累進屈折面のみを用いて同様の屈折付加力を持つレンズを製造することによって予想されるものよりも、最大、かつ局在化した不要な非点収差が少なく、かつ溝が広い。さらに、この発明は、複数の累進屈折面を使用することで着用者の視野を矯正するのに必要な遠用屈折力と全屈折付加力とが損なわれないことを発見した。この発明の別の発見は、累進屈折面の屈折付加力領域が互いにずれている場合、結果として得られるレンズの全体的な最大、かつ局在化した不必要な非点収差は、各累進屈折面の個々の屈折付加力によってもたらされる最大、かつ局在化した不必要な非点収差の合計よりも少ないことである。
【0009】
「累進屈折面」は、遠用視野領域と、近用視野領域と、これらの領域を結合させる屈折力が増加する領域とを有する連続的非球面を意味する。「最大、かつ局在化した不要な非点収差(maximum, localized unwanted astigmatism)」は、レンズの面上で不要な非点収差の領域でもっとも高い測定可能な値に達した非点収差を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に基づくレンズを説明するためのもので、図1(A)は側面図、図1(B)は図1(A)に示すレンズの非点収差マップを表す図である。
【図2】本発明に基づくレンズを説明するためのもので、図2(A)は側面図、図2(B)は図2(A)に示すレンズの非点収差マップを表す図である。
【図3】本発明に基づくレンズの側面図である。
【図4】本発明に基づくレンズを説明するためのもので、図4(A)は側面図、図4(B)は図4(A)に示すレンズの非点収差マップを表す図である。
【図5】本発明に基づくレンズを説明するためのもので、図5(A)は側面図、図5(B)は図5(A)に示すレンズの累進屈折面の非点収差マップを表す図である。
【図6】本発明に基づくレンズを説明するためのもので、図6(A)は図5(A)に示すレンズの累進屈折面の非点収差マップ、図6(B)は図5(A)に示すレンズの非点収差マップを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施態様では、本発明の方法により製造されるレンズは、(a)最大、かつ局在化した不要な非点収差からなる少なくとも一つの領域と第1の屈折付加力とを持つ第1の累進屈折面と、(b)最大、かつ局在化した不要な非点収差からなる少なくとも一つの領域と第2の屈折付加力とを持つ第2の累進屈折面とを有し、最大、かつ局在化した不必要な非点収差の一部分あるいはすべてが位置ずれするように、第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面は相互に関係した形で配置され、さらにレンズの屈折付加力は第1の屈折付加力及び第2の屈折付加力の合計である。
【0012】
別の実施態様では、本発明は、(a)第1の累進屈折面は、最大、かつ局在化した不要な非点収差からなる少なくとも一つの領域と第1の屈折付加力とを持ち、また第2の累進屈折面は、最大、かつ局在化した不要な非点収差からなる少なくとも一つの領域と第2の屈折付加力とを持つように、少なくとも第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とを設けるステップと、(b)最大、かつ局在化した不必要な非点収差の一部分あるいはすべてが位置ずれするように、またレンズの屈折付加力は第1の屈折付加力及び第2の屈折付加力の合計となるように、第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とを配置するステップとを有する。
【0013】
「位置ずれ(misaligned)」は、一つの累進屈折面の最大、かつ局在化した不要な非点収差の部分またはすべての領域が別の累進屈折面の最大、かつ局在化した不要な非点収差の一つ以上の領域と実質的に一致することがないように、累進屈折面、したがって不要な非点収差が互いに関連して整列あるいは配置されることを意味する。好ましくは、位置ずれは、ある累進屈折面の最大、かつ局在化した不要な非点収差には、別の累進屈折面と実質的に一致する領域がないように行われる。
【0014】
本発明のレンズで使用される累進屈折面は、多数ある方法のいずれかによって位置ずれしてもよい。例えば、複数の累進屈折面の光学中心を互いに対して側方向あるいは垂直方向のいずれか一方あるいは両方へシフトさせてもよい。「光学中心(optical center)」は、レンズの光軸と交差する一面上の点を意味する。当業者は、もし光学中心が側方向にシフトするならば、このシフトの程度によって最小溝幅が減少することを容易に理解することができよう。したがって、側方向へのシフトを用いる累進多焦点レンズ設計は、該シフトによる溝幅の減少を補償するために、より広い溝幅を持つ累進屈折面を使用する。
【0015】
あるいは、もし累進屈折面の光学中心が垂直方向にシフトするならば、溝長が増大するであろう。「溝長(channel length)」は、光学中心と近用視野領域の上端との間の累進屈折面の中心経線に沿う距離を意味する。したがって、そのようなシフトを利用する設計は、好ましくは補償としてより短い溝長を持つ累進屈折面を使用する。
【0016】
さらに別の選択肢として、複数の累進屈折面の光学中心を互いに一致させながら、これらの光学中心を互いに対して回転させてもよい。好ましい実施態様では、各累進屈折面は該面の溝の中心線に関して非対称であるように設計される。この場合、累進屈折面の最大、かつ局在化した不要な非点収差の領域は、その面の光学中心に接する軸に対する目(optics)の回転に実質的に一致しない。「非対称」は、累進屈折面の屈折力及び非点収差マップが該面の中心経線に関して非対称であることを意味する。
【0017】
側方向及び垂直方向のシフトは、レンズの遠用視野屈折力及び近用視野屈折力を保持するようにして行われる。レンズのプリズム屈折力(prism power)の誘導を最小限にするために、一つの累進屈折面の光学中心が他の累進屈折面の遠用弯曲に平行な弯曲に沿ってシフトするように、上記側方向及び垂直方向のシフトが起こらなければならない。回転の場合、遠用屈折力及び近用屈折力が影響されないように、累進屈折面は該面の光学中心のまわりを回転する。当業者は、不要な非点収差を減少させる目的で上記位置ずれに加えて回転位置ずれ(rotational misalignment)を行ってもよいことを容易に理解することができよう。
【0018】
位置ずれ、または垂直方向シフト、側方シフトあるいは光学中心の回転の量は、複数の累進屈折面の最大、かつ局在化した不要な非点収差領域の実質的な重ね合わせ、または一致を防ぐのに十分な量である。より具体的に言えば、位置ずれによって、一つの面に対応付けられた非点収差ベクターの方向が別の面の対応する非点収差ベクターに対して不整合となり、もしそれらのベクターが一致した場合と比較して、最終的に得られるレンズの全体的な最大、かつ局在化した不要な非点収差がより少ないと信じられている。側方または垂直方向のシフトは、約0.1mm乃至約10mm、好ましくは約1.0mm乃至約8mm、より好ましくは約2.0mm乃至約4.0mmであってもよい。回転シフトは、約1度乃至約40度、好ましくは約5度乃至約30度、より好ましくは約10度乃至20度であってもよい。
【0019】
位置ずれのさらに別の選択肢として、各累進屈折面の溝長が互いに異なる長さになるように、各累進屈折面を設計してもよい。この実施態様では、複数の累進屈折面の光学中心が位置ずれする場合、これらの累進屈折面の最大、かつ局在化した不要な非点収差の領域の位置が合うようなことはない。その結果、同一の全体的な屈折力のレンズと比較して不要な非点収差が減少する。溝長の違いが大きければ大きいほど、最大、かつ局在化した不要な非点収差がよりいっそう減少する。しかし、レンズ着用者の近用視野が損なわれるので、近用視野領域に不整合が生じるほど溝長を大きくしてはならない。この実施態様から得られるレンズは、各累進屈折面の溝長間の範囲内にあり、かつ各累進屈折面によってレンズの全体的な屈折付加力の一因となる屈折付加力に依存する溝長を持つであろう。累進屈折面間の溝長の差は、約0.1mm乃至約10mm、好ましくは約1mm乃至約7mm、より好ましくは約2mm乃至約5mmである。
【0020】
累進屈折面は、各々が独立してレンズの凹面または凸面上に、あるいはレンズの外側凹面と外側凸面との間に設けられてもよい。レンズをレンズ着用者の眼科処方に適応させるように設計された他の面、例えば球面及び円環面を、一つ以上の累進屈折面と組み合わせて、あるいはそれに加えて用いてもよい。
【0021】
例えば、累進屈折面を円環面、例えば累進屈折面であり、かつ特定の軸で円筒屈折力を持つ凹面と組み合わせてもよい。この場合、レンズに求められる軸の組み合わせごとに屈折付加力及び円筒屈折力を提供する必要はない。むしろ、付加領域の中心からレンズの周辺部に向けて水平方向に遠ざかる場合、レンズに対して所望の屈折付加力をなおも達成する一方で約−25度または約+25度、好ましくは−20度または+20度、より好ましくは−15度または+15度までの累進屈折面の回転位置ずれを用いてもよい。
【0022】
この発明で使用される累進屈折面の各々の屈折付加力は、屈折付加力の合計が実質的にレンズ着用者の近用視野明瞭度を矯正するのに必要とされる値に等しくなるように選択される。さらに、各面の屈折付加力は最大、かつ局在化した不要な非点収差を考慮して選択される。累進屈折面の屈折付加力は各々が独立して約+0.01ジオプトリ乃至約+3.00ジオプトリ、好ましくは約+0.25ジオプトリ乃至約+2.00ジオプトリ、より好ましくは約+0.50ジオプトリ乃至約+1.50ジオプトリである。
【0023】
同様に、各累進屈折面の遠用屈折力及び近用屈折力は、屈折力の合計が着用者の遠用及び近用視野を矯正するのに必要な値となるように選択される。一般に、各面の遠用屈折力は約0.25ジオプトリ乃至約8.50ジオプトリの範囲内にあろう。好ましくは、凹面の遠用領域の屈折力は+または−で約2.00ジオプトリ乃至約5.50ジオプトリであってもよく、また凸面では+または−で約0.5ジオプトリ乃至約8.00ジオプトリであってもよい。各々の面の近用視野屈折力は約1.00ジオプトリ乃至約12.00ジオプトリであろう。
【0024】
この発明の累進屈折面及びレンズはいずれかの従来の方法、例えば限定されるものではないが、熱成形、モールディング、グラインディング、キャスティング等によって形成することができよう。好ましい方法では、累進屈折面を持つ光学予成形品を用い、第2の累進屈折面をこの予成形品上にキャストする。より好ましい方法では、凹面が基本球面屈折力及び円筒屈折力を有する累進屈折面である予成形品を用い、従来の方法、好ましくはキャスティング、より好ましくは表面キャスティングによって、その前面に累進屈折面を形成する。
【0025】
この発明は、以下の非限定的実施例を検討することによってさらに明確になろう。
【実施例】
【0026】
実施例1
図1(A)は、本発明に基づくレンズ10が凸状の累進屈折面11と凹状の累進屈折面12とを有することが示されている図である。累進屈折面11は、曲率が6.00ジオプトリである遠用領域13と曲率が7.00ジオプトリである近用領域18とを有する。累進屈折面12は、曲率が6.00ジオプトリである遠用領域19と曲率が5.00ジオプトリである近用領域21とを有する。結果として生ずる遠用屈折力(distance power)は0.00ジオプトリであり、またレンズの屈折付加力(dioptric add power)は2.00ジオプトリであり、累進屈折面11及び累進屈折面12の各々が1.00ジオプトリを付与する。図1(A)に示すように、凸状の累進屈折面11上の光学中心16と凹状の累進屈折面12上の光学中心17とは、それぞれ互いに4.0mmずれている。
【0027】
図1(B)は、レンズ10の非点収差を説明するための図である。この図では、累進屈折面11及び累進屈折面12の位置ずれが示されている。領域22及び領域23は、それぞれ累進屈折面11及び累進屈折面12の不要な非点収差の領域である。最大、かつ局在化した不要な非点収差の位置14及び非点収差の位置15は重なり合うことはないので相加的ではない。このレンズに関して最大、かつ局在化した不要な非点収差の値が1.90ジオプトリであることが表1に示されており、この値は同様の近用屈折力の従来のPALで見いだされる2.20ジオプトリという値よりも著しく低い。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例2
2つの累進屈折面を持ち、かつこれらの面の位置ずれが8.00mmであるレンズを用いる。表1の従来のレンズと比較して、位置ずれによって最大、かつ局在化した不要な非点収差が0.30ジオプトリ減少する。
【0030】
実施例3
図2(A)及び図2(B)に示すように、レンズ20は凹状の累進屈折面25を有する。累進屈折面25は、曲率6.00ジオプトリの遠用領域及び曲率5.00ジオプトリの近用領域を有する。凸状の累進屈折面24もまた図示されており、この面は曲率6.00ジオプトリの遠用領域及び曲率7.00ジオプトリの近用領域を有する。累進屈折面25の光学中心27は、累進屈折面24の光学中心26に対して角度α、10度まで回転する。図2(B)にレンズ20の非点収差マップを示す。領域31及び領域32は、それぞれ累進屈折面24及び累進屈折面25の不要な非点収差の領域を表す。累進屈折面24及び累進屈折面25の各々に対する最大、かつ局在化した不要な非点収差の領域28及び領域29もまた表している。表2は、従来のレンズでは2.10ジオプトリであるのに対して、結果として得られるレンズが最大、かつ局在化した不要な非点収差1.90ジオプトリを有することを示す。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例4乃至実施例6
レンズの凹状の累進屈折面をその光学中心のまわりに凸状の累進屈折面に対して20度,30度及び40度回転させる。このような回転によって、表2に示すように、ぞれぞれの角度について最大、かつ局在化した不要な非点収差1.85,1.75ジオプトリ及び1.41ジオプトリが得られる。
【0033】
実施例7
図3は、レンズ30の凸状の累進屈折面33と凹状の累進屈折面35との間に置かれた凹状の累進屈折面34を示す図である。レンズ30は、屈折率が1.60の光学的予成形品38と屈折率が1.50のキャスト層39とから作られている。予成形品38の凹状の累進屈折面33は光学中心36、6.50ジオプトリの遠用曲率及び8.50ジオプトリの近用曲率を持つ。予成形品38の凹状の累進屈折面34は光学中心を持ち、さらに6.50ジオプトリの遠用曲率(「DC」)と以下の等式で得られた0.50ジオプトリの近用曲率(「NC」)とを持つ。
【0034】
NC = DC − 付加度 × 1 − 1.00
1 − n2
式中、n1 は光学的予成形品38の屈折率及びn2 はキャスト層39の屈折率である。光学中心37は、光学中心36に対して垂直かつ下方向に4mm位置がずれている。キャスト層39の凹状の累進屈折面35は、着用者の乱視を矯正するために−2.00ジオプトリの円柱度(cylindrical power)を有する。また、レンズ30の遠用度は0.00ジオプトリ、全屈折付加屈折力は3.00ジオプトリであり、これらの値は累進屈折面33の屈折付加屈折力2.00ジオプトリと累進屈折面34の屈折付加屈折力1.00ジオプトリとの組み合わせによって得られる。最大、かつ局在化した不要な非点収差は、屈折付加屈折力が3.00ジオプトリである従来のレンズの非点収差よりも低い。
【0035】
実施例8
図4(A)は、凸面51と凹面52とを有するレンズ50を示す図である。凸面51は光学中心53を有する累進屈折面である。また、凹面52は光学中心54を持つ複合累進付加円環面(combination progressive addition-toric surface)を有する。この光学中心54は、光学中心53に対して垂直下方向に4mm位置ずれしている。図4(B)は、位置ずれが表されたレンズ50の非点収差マップを示す図である。領域55及び領域56は、それぞれ不要な非点収差57及び非点収差58の領域であり、凸面51及び凹面52のそれぞれ最大、かつ局在化した不要な非点収差領域である。図中、I−I線は凹面52の円環軸である。累進屈折面(凸面51及び凹面52)の重なりは、遠用視野領域及び近用視野領域が保たれているとはいえ、各面の最大、かつ局在化した不要な非点収差57及び非点収差58の位置が一致しないようになっている。そのため、非点収差57及び非点収差58の効果は付加的ではない。
【0036】
実施例9
図5(A)、図5(B)、図6(A)及び図6(B)を参照しながらこの実施例のレンズについて説明する。
【0037】
図5(A)に示すように、レンズ60は、右側に配向した凹状の累進屈折面62と組み合わさり、かつ左側に配向した凸状の累進屈折面61を有する。また、累進屈折面61のみを図5(B)に示し、一方累進屈折面62のみを図6(A)に示す。各々の累進屈折面61及び累進屈折面62の光学中心63及び光学中心64は、光学的に位置合わせされるように回転する。図6(B)は累進屈折面61及び累進屈折面62がそれぞれ左側及び右側に配向していることが、これらの面の不必要な非点収差領域65及び非点収差領域66の位置ずれを生ずることを示している図である。表3に示すように、レンズ60の最大、かつ不必要な非点収差は1.70ジオプトリである。
【0038】
【表3】

【0039】
実施例10
曲率が6.00ジオプトリである凸状球面を持つ光学的予成形品を製造する。予成形品の凸状球面は、基礎球面曲率(base spherical curvature)が6.00ジオプトリ、0軸乃至180軸に置かれた一つの軸での円筒曲率が4.00ジオプトリであり、さらに付加屈折力が1.00である近用視野領域を持つ円環状の累進面である。近用視野領域は、レンズの底面(270度軸)から時計方向に11.25度で予成形品の凹状の円環面上に置かれる。結果として得られる予成形品は遠用屈折力が0.00ジオプトリ、0度の軸における円筒屈折力が−2.00ジオプトリ及び付加屈折力が1.00ジオプトリである従来の表面キャスティング技術を用いて予成形品の凸面上に紫外線(UV)硬化樹脂を表面キャストするために、6.00ジオプトリの基本曲率と270度軸に置かれた1.00ジオプトリ付加屈折力とを有する累進付加ガラス鋳型を用いる。結果として得られたレンズは遠用屈折力g0.00ジオプトリ、0度軸での円筒屈折力が−2.00、付加屈折力が2.00ジオプトリである。前面及び背面の付加屈折力が11.25度位置ずれであることによって最大、かつ局在化した不必要な非点収差が従来のレンズと比較して減少する。
【0040】
好ましい実施態様は以下の通りである。
(1)第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面の最大、かつ局在化した不要な非点収差の領域の一部分が位置ずれするように、第1累進屈折面及び第2の累進屈折面が配置されている請求項1に記載のレンズ。
(2)第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面の最大、かつ局在化した不要な非点収差の領域の全体が位置ずれするように、第1累進屈折面及び第2の累進屈折面が配置されている請求項1に記載のレンズ。
(3)第1の累進屈折面の光学中心と第2の累進屈折面の光学中心とが互いに、垂直方向、側方向、あるいは垂直方向と側方向とを組み合わせた方向にシフトするようにして第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とが位置ずれしている請求項1に記載のレンズ。
(4)第1の累進屈折面の光学中心と第2の累進屈折面の光学中心とが互いに対して回転するようにして是第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とが位置ずれしている請求項1に記載のレンズ。
(5)第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とが互いに非対称である実施態様(4)に記載のレンズ。
【0041】
(6)第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面は溝長を持つ溝を各々が有し、第1の累進屈折面の溝長は第2の累進屈折面の溝長と長さが異なる請求項1に記載のレンズ。
(7)凹面と凸面とをさらに有し、第1の累進屈折面は凹面上にあり、また第2の累進屈折面は凸面上にある請求項1に記載のレンズ。
(8)凹面、凸面及びそれらの面の間の層をさらに有し、第1の累進屈折面は凹面または凸面上にあり、また第2の累進屈折面は凹面と凸面との間にある請求項1に記載のレンズ。
(9)第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面の最大、かつ局在化した不要な非点収差の領域の一部分が位置ずれするように、第1累進屈折面及び第2の累進屈折面が配置されている請求項2に記載の眼鏡レンズ。
(10)第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面の最大、かつ局在化した不要な非点収差の領域の全体が位置ずれするように、第1累進屈折面及び第2の累進屈折面が配置されている請求項2に記載の眼鏡レンズ。
【0042】
(11)第1の累進屈折面の光学中心と第2の累進屈折面の光学中心とが互いに、垂直方向、側方向、あるいは垂直方向と側方向とを組み合わせた方向にシフトするようにして第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とが位置ずれしている請求項2に記載の眼鏡レンズ。
(12)第1の累進屈折面の光学中心と第2の累進屈折面の光学中心とが互いに垂直方向に約0.1mm乃至約10mmシフトするようにして第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とが互いに位置ずれしている実施態様(9)または実施態様(10)に記載の眼鏡レンズ。
(13)第1の累進屈折面の光学中心と第2の累進屈折面の光学中心とが互いに側方向に約0.1mm乃至約10mmシフトするようにして第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とが互いに位置ずれしている実施態様(9)または実施態様(10)に記載の眼鏡レンズ。
(14)第1の累進屈折面の光学中心と第2の累進屈折面の光学中心とが互いに垂直方向及び側方向にそれぞれ約0.1mm乃至約10mmシフトするようにして第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とが互いに位置ずれしている実施態様(9)または実施態様(10)に記載の眼鏡レンズ。
(15)第1の累進屈折面の光学中心と第2の累進屈折面の光学中心とが互いに対して約1度乃至約40度回転するようにして第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とが位置ずれしている実施態様(9)または実施態様(10)に記載の眼鏡レンズ。
【0043】
(16)第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とが互いに非対称である実施態様(15)に記載の眼鏡レンズ。
(17)第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面は溝長を持つ溝を各々が有し、第1の累進屈折面の溝長は第2の累進屈折面の溝長と長さが異なり、その差は約0.1mm乃至約10mmである請求項2に記載の眼鏡レンズ。
(18)凹面と凸面とをさらに有し、第1の累進屈折面は凹面上にあり、また第2の累進屈折面は凸面上にある請求項2に記載の眼鏡レンズ。
(19)凹面、凸面及びそれらの面の間の層をさらに有し、第1の累進屈折面は凹面または凸面上にあり、また第2の累進屈折面は凹面と凸面との間にある請求項2に記載の眼鏡レンズ。
(20)第1の累進屈折面の光学中心と第2の累進屈折面の光学中心とが互いに対してシフト、第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とが互いに対して回転、あるいは他の面とは異なる溝長を持つ溝を第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とに与えることによって第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面の位置ずれを達成するように、第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とを配置する請求項3に記載の製造方法。
【0044】
(21)第1の累進屈折面の光学中心と第2の累進屈折面の光学中心とが互いに対してシフトすることによって、第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面の位置ずれを達成するように、第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とを配置する請求項3に記載の製造方法。
(22)第1の累進屈折面の光学中心と第2の累進屈折面の光学中心とが互いに対して回転することによって、第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面の位置ずれを達成するように、第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とを配置する請求項3に記載の製造方法。
(23)第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面に対して溝長を持つ溝を各々設け、第1の累進屈折面及び第2の累進屈折面の位置ずれを達成するように、第1の累進屈折面と第2の累進屈折面とを配置する請求項3に記載の製造方法。
【0045】
以上述べたように、本発明によれば、従来の累進多焦点レンズと比較して中間視力領域及び近用視力領域に渡る距離及び溝幅の機能的損失なしに不必要なレンズ非点収差を減少させる累進多焦点レンズ及びその製造方法を提供できる効果がある。
【符号の説明】
【0046】
10,20,30,50,60 レンズ
11,12,24,25,33,34,35,60,62 累進屈折面
13,19 遠用領域
14,15 非点収差の位置
16,17,26,27,36,37,53,54,63,64 光学中心
18,21 近用領域
22,23,28,29,31,32,55,56 領域(不要な非点収差の領域)
38 予成形品
39 キャスト層
51 凸面
52 凹面
57,58 非点収差
65 非点収差領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の累進屈折面が、局部的に最大値を示す不要な非点収差を有する非点収差領域を少なくとも一つ含み、第1の屈折付加力を与える形状を有し、第2の累進屈折面が、局部的に最大値を示す不要な非点収差を有する非点収差領域を少なくとも一つ含み、第2の屈折付加力を与える形状を有するように、少なくとも前記第1の累進屈折面と前記第2の累進屈折面とを設けるステップと、
前記第1の累進屈折面における前記非点収差領域と、前記第2の累進屈折面における前記非点収差領域とが互いに位置ずれするように、かつ、レンズの屈折付加力前記第1の屈折付加力と前記第2の屈折付加力との合計となるように、前記第1の累進屈折面と前記第2の累進屈折面とを配置するステップとを有するレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−237710(P2010−237710A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161763(P2010−161763)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【分割の表示】特願平11−301661の分割
【原出願日】平成11年10月22日(1999.10.22)
【出願人】(591019759)エシロール アンテルナショナル コムパニー ジェネラル ドプテイク (27)
【Fターム(参考)】