説明

累進屈折力レンズの設計方法

【課題】累進特性の共通する累進屈折力レンズにおいてレンズ形状が中間〜近用領域にかけてプラス度数あるいはマイナス度数となる場合にその度数状態に応じて中間〜近用領域の累進特性を変更するようにした累進屈折力レンズの設計方法を提供すること。
【解決手段】所定の累進帯長における所定の累進特性についてレンズ度数が中間〜近用領域でマイナス度数の場合の左右方向が狭い累進面を設計し、同じくプラス度数の場合の左右方向が広い累進面を設計する。そして、あるユーザーがその累進特性のレンズを選択した際に中間〜近用領域でのレンズ度数がマイナスかプラスかによっていずれかの設計の累進面を適用したレンズを選択するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は老視補正用の眼鏡に使用される累進屈折力レンズの設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢により眼の水晶体による調節機能が低下し近方視が困難な状態が老視である。この老視に対する矯正用の眼鏡に累進屈折力レンズが使用されている。
一般的に累進屈折力レンズは屈折力のそれぞれ異なる2つの屈折領域と、それら両領域の間で屈折力(度数)が累進的に変わる累進帯領域とを備えており、境目がなく1枚のレンズで遠くのものから近くのものまで見ることができるものである。ここに2つの領域とはレンズの上方位置に設定された遠用部領域と、レンズの下方位置に設定された近用部領域の2つの領域のことである。遠用部領域と近用部領域との移行帯である累進帯領域は滑らかかつ連続的に連結されている。
遠用部領域は主として遠距離の物体を目視するための領域であり、近用部領域は主として近距離の物体を目視するための領域であり、累進帯領域は主として中距離の物体を目視するための領域である。もっとも累進屈折力レンズは屈折力が連続的に変化しているためこれら領域が明確に区画されているわけではない。
ここに、遠近等の距離の概念はしっかりとした区分けがされているわけではなく定義も決まってはいない。一般に遠距離とは4〜5mよりも遠くを言い、近距離とは50cmよりも手前側を言い、中距離とはこれらの中間距離を言う。このような累進屈折力レンズの設計方法の一例として特許文献1及び2を挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3787227号公報
【特許文献2】特開2008−65358号公報
【特許文献3】特開2006−285200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズには図4のように入射した光がレンズの厚い方に屈折するというプリズム効果がある。これは要はプラスレンズであればレンズを透過した光は内側に屈折し、マイナスレンズであれば外側に屈折することを意味する。プラスレンズとマイナスレンズのプリズム効果による視線の屈折方向の違いについては、例えば特許文献3にも記載されている。
【0005】
このようなプラスレンズとマイナスレンズのプリズム効果によって、累進屈折力レンズでは次のような課題が生じていた。
1)図5(a)において水平方向の一点鎖線L1位置での左右方向の明視幅を考える。明視幅とは目的距離にある物体が無理なく明視可能なレンズ上の幅を示し、左右方向の明視幅とは例えば、L1線上において非点収差の絶対値が一定値以下である範囲等によって定義される。中間〜近用領域にかけての比較的近傍を目視する場合では左右方向に視線が頻繁に移動し、かつ中間〜近用領域においては物体を注視する傾向となるため、どの程度の明視幅が確保できるのか重要である。しかし、図5(b)及び(c)のようにプリズム効果によってこの付近でプラス度数となる場合(つまりプラスレンズ形状となる場合)には、レンズ上の明視幅の両端を通過する光線のレンズ度数0の場合の方向を破線方向とすると同じレンズ上の明視幅の両端を通過する光線が実線のように内側に寄って明視できる幅が狭くなってしまうこととなる。一方、マイナス度数となる場合(つまりマイナスレンズ形状となる場合)では逆に、レンズ上の明視幅の両端を通過する光線のレンズ度数0の場合の方向を破線方向とすると実線のように外側に寄って明視できる幅が広くなってしまい、レンズ上の左右方向の明視幅が同じであってもマイナス度数となる場合に比べてプラス度数となる場合では相対的に実際に装用した時に明視できる幅が狭くなってしまう現象が生じていた。
2)同様に図6(a)において垂直方向の一点破線L2上において、中間〜近用距離において所定の距離にある物体を見る際の上下方向の明視幅を考える。累進屈折力レンズでは、レンズ上方の遠用部からレンズ下方の近用部に掛けて度数が大きくなっていくように変化しており、適切に見ることの出来る距離が遠方距離から近方距離に徐々に近くなってくる。つまり、ある所定の目的とする距離を定めた場合には、その距離を見るための適切な度数を調節力等による許容幅も含めて設定することが出来、一点破線L2上における許容度数内となる範囲を上下方向の明視幅と定義できる。中間〜近用部分は度数が変化している領域に当たるため、上下方向の明視幅においても左右方向の明視幅の場合と同様にどの程度明視幅が確保できるかが重要である。しかし、図6(b)及び(c)のようにプリズム効果によってこの付近でプラス度数となる場合にレンズ上の明視幅の両端を通過する光線のレンズ度数0となる場合の方向を破線方向とすると実線のように明視できる幅が狭くなってしまうこととなる。一方、マイナス度数となる場合には逆に、レンズ上の明視幅の両端を通過する光線のレンズ度数0となる場合の方向を破線方向とすると実線のように明視できる幅が広くなってしまうこととなる。これは、一般にプリズム効果はレンズの中心から周辺に離れるに従って大きくなることに由来する。これらのことからレンズ上の上下方向の明視幅が同じであってもマイナス度数となる場合に比べてプラス度数となる場合においては相対的に実際に装用した時に明視できる幅が狭くなってしまう現象が生じ、焦点の合う位置を探すためにあごや首を動かすなどしてレンズ上で見える位置を探す必要が生じていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、累進特性の共通する累進屈折力レンズにおいてレンズ形状が中間〜近用領域にかけてプラス度数あるいはマイナス度数となる場合にその度数状態に応じて中間〜近用領域の累進特性を変更するようにした累進屈折力レンズの設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために第1の手段では、レンズ上方に配置された比較的遠方を見るための遠用部領域と、同遠用部領域よりも下方に配置され同遠用部領域よりも大きな屈折力を有する近用部領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進帯領域を備え、前記遠用部領域から近用部領域にかけて加入度数が徐々に付加されていくように加入勾配が設定された累進屈折力レンズの設計方法であって、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置でプラス度数となる場合に、マイナス度数となる場合よりも中間〜近用領域における所定の明視幅設定位置の左右方向の明視幅を相対的に広く設計することをその要旨とする。
このような構成とすることで、累進屈折力レンズの中間〜近用領域にかけてプラス度数となる場合にプリズム効果によってレンズ上の左右方向の明視幅の両端を通過する光線が内側に寄ってしまい明視できる幅が狭くなることを防止でき、同じ累進特性で同じ累進帯長を選択した設計において中間〜近用領域にかけてマイナス度数となる場合との中間〜近用領域にかけての左右方向の見え方の差異を解消させることが可能となる。
【0007】
これはより具体的には次のような設計を実行するものである。例えば、このユーザーがある累進特性について13mmの累進帯長を選択した設計を行うものとする。ここで、レンズ度数が−2D(ディオプター)であったとする。その場合にこの累進特性において当該ユーザーに好適な中間〜近用領域にかけての見え方となるようにユーザー固有の加入度数を設定する。その結果、中間〜近用領域にかけてプラス度数となるとする。一方、視力の異なる別のユーザーで同じ累進特性について13mmの累進帯長を選択した場合があり、中間〜近用領域にかけてマイナス度数であるとする。そのような場合に中間〜近用領域での当該ユーザーの左右方向の明視幅をマイナス度数の場合よりもプラス度数の場合を広く設計するというものである。
ここに「所定の累進特性」とは例えば、近用領域が広く明瞭に見えるとか、遠くを見ることを重視するとか、揺れ歪みが少ないとかいうような累進屈折力レンズの見え方の特性をいう。この累進屈折力レンズの見え方の特性は、ある累進屈折力レンズの見え方や装用感の特徴としてユーザーや眼鏡店の店員等に理解されるものであり、レンズ設計時に非点収差分布、度数分布、加入度曲線、プリズム分布などの光学的特性を変更することにより制御されるものである。
また、所定の度数判定位置とは、中間〜近用領域にかけての明視幅の変化がわかる位置であれば特に限定はされない。
【0008】
また、第2の手段では第1の手段に記載の発明の構成に加え、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合に所定の明視幅設定位置において左右方向が所定の明視幅となるように設計される累進面(以下、第1の基本累進屈折面とする)と、前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合に前記所定の明視幅設定位置における前記第1の基本累進屈折面よりも左右方向の明視幅の広い設計によって構成される累進面(以下、第2の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、所定の度数判定位置での当該ユーザーのレンズ度数がマイナス度数である場合には前記第1の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とし、プラス度数である場合には前記第2の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とすることをその要旨とする。
第2の手段はより具体的な設計手法であって、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合の第1の基本累進屈折面とプラス度数の場合の第2の基本累進屈折面を算出し、その累進帯長における中間〜近用領域での当該ユーザーのレンズ度数に応じていずれかを使い分けるというものである。
これによって、簡便に同じ累進特性で同じ累進帯長を選択した設計においてマイナス度数とプラス度数との中間〜近用領域にかけて左右方向の見え方の差異を解消させることが可能となる。
ここに、基本累進屈折面とは、累進要素の面形状変化を与える基本となる面のことを言う。基本累進屈折面は他の条件、例えばレンズの表カーブ面、レンズの度数面、非球面とレンズ面を合成して具体的な三次元レンズ形状を構成できる面である。
【0009】
また、第3の手段では第1の手段に記載の発明の構成に加え、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合に所定の明視幅設定位置において左右方向が所定の明視幅となるように設計される累進面(以下、第1の基本累進屈折面とする)と、前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合に前記所定の明視幅設定位置における前記第1の基本累進屈折面よりも左右方向の明視幅が広い設計によって構成される累進面(以下、第2の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、中間〜近用領域での当該ユーザーのプラス又はマイナスのレンズ度数の数値に応じた重みを前記両基本累進屈折面に対して与え、重みを与えた前記両基本累進屈折面を合成して当該ユーザーのレンズの累進面を設計することをその要旨とする。
第3の手段はより具体的な設計手法であって、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合の第1の基本累進屈折面とプラス度数の場合の第2の基本累進屈折面を算出し、その累進帯長における累進特性での中間〜近用領域での当該ユーザーのレンズ度数に応じた重みをそれら基本累進屈折面に与えて当該ユーザーのレンズの累進面を設計するというものである。
これによって、同じ累進特性で同じ累進帯長を選択した設計においてマイナス度数とプラス度数との中間〜近用領域にかけて左右方向の見え方の差異をユーザーの実際のレンズ度数に応じてより妥当な量として解消させることが可能となる。
重みを取得するための度数判定位置は中間〜近用領域であれば特に限定はされず、例えば1)近用度数測定位置、2)近用度数測定位置の3〜4mm上(=累進帯の終わりの位置で近用入り口)、3)アイポイントの下方9mmの地点、4)アイポイントの下方7mmの地点等が挙げられる。
3)4)の位置(地点)は、実質的に近用を見る位置なので好ましい位置である。一方で、1)2)はレンズ度数を測定し易いため取り扱いがしやすい点で好ましい位置である。
【0010】
また、第4の手段ではレンズ上方に配置された比較的遠方を見るための遠用部領域と、同遠用部領域よりも下方に配置され同遠用部領域よりも大きな屈折力を有する近用部領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進帯領域を備え、前記遠用部領域から近用部領域にかけて加入度数が徐々に付加されていくように加入勾配が設定された累進屈折力レンズの設計方法であって、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対しユーザー毎に処方される所定のレンズ度数と加入度数を設定することで当該ユーザーの累進屈折力レンズのレンズ形状が所定の度数判定位置でプラス度数となる場合に、同じ設定条件でマイナス度数となる場合よりも中間〜近用部の所定の高さ位置の加入量が相対的に多くなるように設計することをその要旨とする。
このような構成とすることで、累進屈折力レンズの中間〜近用領域にかけてプラス度数となる場合にプリズム効果によってレンズ上の上下方向の明視幅の両端を通過する光線が狭くなることを防止でき、同じ累進特性で同じ累進帯長を選択した設計においてマイナス度数となる場合との中間〜近用領域にかけての上下方向の見え方の差異を解消させることが可能となる。
ここに「所定の高さ位置」とは中間〜近用部にかけた範囲であれば特に限定されるものではないが、特に近用入り口はレンズ上方から下方への加入度の設定(加入度曲線の設定)において設計の違いが生じやすい高さ位置であるため好ましい。近用入り口とは累進帯の終わりの位置に相当し、近用部の度数測定位置の概ね3〜4mm上方に位置する。
【0011】
また、第5の手段では第4の手段に記載の発明の構成に加え、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合において所定の高さ位置で所定の加入量となるように設計される累進面(以下、第3の基本累進屈折面とする)と前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合において前記第3の基本累進屈折面よりも前記所定の高さ位置での加入量が多くなるような設計によって構成される累進面(以下、第4の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、所定の度数判定位置での当該ユーザーのレンズ度数がマイナス度数である場合には前記第3の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とし、プラス度数である場合には前記第4の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とすることをその要旨とする。
第5の手段はより具体的な設計手法であって、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合の第3の基本累進屈折面とプラス度数の場合の第4の基本累進屈折面を算出し、その累進帯長における累進特性での中間〜近用領域での当該ユーザーのレンズ度数に応じていずれかを使い分けるというものである。
これによって、簡便に同じ累進特性で同じ累進帯長を選択した設計においてマイナス度数とプラス度数との中間〜近用領域にかけて上下方向の見え方の差異を解消させることが可能となる。
【0012】
また、第6の手段では第4の手段に記載の発明の構成に加え、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合において所定の高さ位置で所定の加入量となるように設計される累進面(以下、第3の基本累進屈折面とする)と、前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合において前記第3の基本累進屈折面よりも前記所定の高さ位置での加入量が多くなるような設計によって構成される累進面(以下、第4の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、所定の度数判定位置での当該ユーザーのプラス又はマイナスのレンズ度数の数値に応じた重みを前記両基本累進屈折面に対して与え、重みを与えた前記両基本累進屈折面を合成して当該ユーザーのレンズの累進面を設計することをその要旨とする。
第6の手段はより具体的な設計手法であって、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合の第3の基本累進屈折面とプラス度数の場合の第4の基本累進屈折面を算出し、その累進帯長における累進特性での中間〜近用領域での当該ユーザーのレンズ度数に応じた重みをそれら基本累進屈折面に与えて当該ユーザーのレンズの累進面を設計するというものである。
これによって、同じ累進特性で同じ累進帯長を選択した設計においてマイナス度数とプラス度数との中間〜近用領域にかけて上下方向の見え方の差異をユーザーの実際のレンズ度数に応じてより妥当な量として解消させることが可能となる。
【0013】
また、第7の手段では第1の手段に記載の発明の構成に加え、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では、当該ユーザーの累進屈折力レンズのレンズ形状が少なくとも所定の度数判定位置でプラス度数となる場合に、同じ設定条件でマイナス度数となる場合よりも所定の高さ位置での加入量が相対的に多くなるように設計することをその要旨とする。
このような構成とすることで、累進屈折力レンズの中間〜近用領域にかけてプラス度数となる場合にプリズム効果によって左右及び上下方向の明視できる幅が狭くなることを防止でき、同じ累進特性で同じ累進帯長を選択した設計においてマイナス度数となる場合との中間〜近用領域にかけて左右及び上下方向の見え方の差異を解消させることが可能となる。この第7の手段は要は第1の手段と第4の手段とを組み合わせた場合である。
【0014】
また、第8の手段では第7の手段に記載の発明の構成に加え、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合に所定の明視幅設定位置において左右方向が所定の明視幅となり、かつ所定の高さ位置で所定の加入量となるように設計される累進面(以下、第5の基本累進屈折面とする)と、前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合に前記所定の明視幅設定位置における前記第1の基本累進屈折面よりも左右方向の明視幅が広く、かつ前記所定の高さ位置での加入量が多くなるような設計によって構成される累進面(以下、第6の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、中間〜近用領域おける所定の度数判定位置で当該ユーザーのレンズ度数がマイナス度数である場合には前記第5の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とし、プラス度数である場合には前記第6の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とすることをその要旨とする。
第8の手段はより具体的な設計手法であって、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合の第5の基本累進屈折面とプラス度数の場合の第6の基本累進屈折面を算出し、その累進帯長における累進特性での中間〜近用領域での当該ユーザーのレンズ度数に応じていずれかを使い分けるというものである。
これによって、簡便に同じ累進特性で同じ累進帯長を選択した設計においてマイナス度数とプラス度数との中間〜近用領域にかけて左右及び上下方向の見え方の差異を解消させることが可能となる。
【0015】
また、第9の手段では第7の手段に記載の発明の構成に加え、所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合に所定の明視幅設定位置において左右方向が所定の明視幅となり、かつ所定の高さ位置で所定の加入量となるように設計される累進面(以下、第5の基本累進屈折面とする)と、前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合に前記所定の明視幅設定位置における前記第1の基本累進屈折面よりも左右方向の明視幅が広く、かつ前記所定の高さ位置での加入量が多くなるような設計によって構成される累進面(以下、第6の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、中間〜近用領域における所定の度数判定位置で当該ユーザーのプラス又はマイナスのレンズ度数の数値に応じた重みを前記両基本累進屈折面に対して与え、重みを与えた前記両基本累進屈折面を合成して当該ユーザーのレンズの累進面を設計することをその要旨とする。
第9の手段はより具体的な設計手法であって、こ所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合の第5の基本累進屈折面とプラス度数の場合の第6の基本累進屈折面を算出し、その累進帯長における累進特性での中間〜近用領域での当該ユーザーのレンズ度数に応じた重みをそれら基本累進屈折面に与えて当該ユーザーのレンズの累進面を設計するというものである。
これによって、同じ累進特性で同じ累進帯長を選択した設計においてマイナス度数とプラス度数との中間〜近用領域にかけて左右及び上下方向の見え方の差異をユーザーの実際のレンズ度数に応じてより妥当な量として解消させることが可能となる。
【0016】
また、第10の手段では第3、6又は9のいずれかの手段に記載の発明の構成に加え、中間〜近用領域における所定の度数判定位置で当該ユーザーのレンズ度数が所定範囲に属する小さい値である場合には重みを与えた前記両基本累進屈折面を合成し、それ以上の値の場合には当該ユーザーのプラス又はマイナスのレンズ度数に対応したいずれかの基本累進屈折面をそのまま選択することをその要旨とする。
これはマイナス度数とプラス度数が所定範囲に属する場合に限り当該ユーザーのレンズ度数の重みを考慮して、マイナス度数とプラス度数が所定範囲に属さない場合には実際上重みを考慮しなくともマイナス度数とプラス度数のそれぞれの基本累進屈折面をそのまま選択して構わないとするものである。これにより、マイナス度数とプラス度数との中間〜近用領域にかけて左右方向の見え方の差異をユーザーの実際のレンズ度数に応じてより妥当な量として解消させることが可能となる。
また、第11の手段では第10の手段に記載の発明の構成に加え、前記所定範囲の小さい値とは絶対値において0〜2D(ディオプター)の範囲であることをその要旨とする。
この範囲はマイナス度数とプラス度数の切り替わりの度数に相当し、マイナス度数からプラス度数への変化をなだらかにするため、重みを考慮することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記各請求項の発明では、ある累進特性である累進帯長累進の累進屈折力レンズにおいて中間〜近用領域にかけて加入度数を設定することによってマイナス度数となる場合よりもプラス度数となる場合に中間〜近用領域にかけての明瞭に見える範囲を拡大したため、中間〜近用領域にかけてプラス度数となるユーザーについてもマイナス度数となるユーザーと同等の装用感を与えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における累進屈折力レンズの面要素であって、(a)はマイナス度数の基本累進屈折面の非点収差分布部図、(b)は同じくプラス度数の基本累進屈折面の0.50Dステップの非点収差分布部図。図中、上方から○、×、+、×、○の各位置は、上方から、遠用度数測定位置、フィッティングポイント、幾何中心、累進帯終わり位置(=近用入り口)、近用度数測定位置をそれぞれ示す。
【図2】縦軸を加入度数とし、横軸を幾何中心からの距離とした場合のマイナス度数の基本累進屈折面の加入度曲線を実線で、同じくプラス度数の基本累進屈折面の加入度曲線を破線で示すグラフ。
【図3】中間〜近用の所定の度数判定位置における当該ユーザーの判定度数とマイナス度数の基本累進屈折面とプラス度数の基本累進屈折面について与える重みの関係を説明するグラフ。
【図4】プリズムを透過する透過光の屈折方向を説明する説明図。
【図5】(a)は累進屈折力レンズを装用した状態を正面から目視した模式図、(b)は(a)における一点鎖線におけるプラス度数の場合の見え方の模式図、(c)は同じくマイナス度数の場合の見え方の模式図。
【図6】(a)は累進屈折力レンズを装用した状態を正面から目視した模式図、(b)は(a)における一点鎖線におけるプラス度数の場合の見え方の模式図、(c)は同じくマイナス度数の場合の見え方の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の各レンズは説明上一方のレンズのみを図示するが対になる他方のレンズは対称形状に形成されるものとする。以下のステップは図示しないCAM(computer aided manufacturing)装置を使用して半製品(セミ)の裏面に対して切削加工及び研削加工を施す際のサグデータを算出するステップである。以下の第2〜第5のステップの計算は公知のCAM装置あるいはCAM装置に指示を与える設計用コンピュータ内において実行される。レンズ形状の計算ステップおよびその手順は一例でありこれに限定されるものではない。
【0020】
<第1のステップ>
ユーザーのレンズ度数から、最適な表面のレンズ形状を決定し、レンズ加工に用いるための半製品(セミ)を決定するステップである。
ここでは一例として3人のユーザーを想定する。例えば、レンズの素材の屈折率を1.60として、
1)ユーザー1
R眼 S−7.00 ADD2.00
L眼 S−7.00 ADD2.00
2)ユーザー2
R眼 S−1.75 ADD2.00
L眼 S−1.75 ADD2.00
3)ユーザー3
R眼 S+2.00 ADD2.00
L眼 S+2.00 ADD2.00
としたとき、ユーザー1では表面1.5カーブ(1.523換算)、ユーザー2では表面3.5カーブ(1.523換算)、ユーザー3では表面6.0カーブ(1.523換算)の表面を持つ半製品(セミ)を予め登録しておいたレンズ度数と半製品(セミ)の対応に基づいて選択する。本実施例は内面累進屈折力レンズの作成事例である為、半製品(セミ)の表面は球面形状である。
【0021】
<第2のステップ>
第1ステップで選択された表面形状に対し、ユーザーの遠用のレンズ度数を設定するための裏面の球面形状を設定する。ここでは、上記1)〜3)に対応して、
1)ユーザー1の裏面:7.6カーブ(1.523換算)
2)ユーザー2の裏面:5.0カーブ(1.523換算)
3)ユーザー3の裏面:4.3カーブ(1.523換算)
を設定する。
【0022】
<第3のステップ>
ユーザーのレンズ度数から基本累進屈折面を設定するステップである。基本累進屈折面はユーザーの中間〜近用領域にかけてのレンズ度数に基づいて累進帯長毎に2種類の基本累進屈折面をベースとして設計する。2種類の基本累進屈折面としてマイナス度数の基本累進屈折面Aとプラス度数の基本累進屈折面Bの2つが用意される。また、ここでは累進帯長13mmが選択された場合における一例を挙げる。つまり、ユーザー1〜3はいずれも累進帯長13mmを選択したものとする。
ここに、基本累進屈折面とは、累進要素の面形状変化を与える面のことを言う。図1(a)(b)及び図2の加入度曲線は、表面が4.0カーブ、遠用度数S+0.00で加入度ADD2.00の条件での基本累進屈折面の特性を図示した例である。ここでは遠用度数S+0.00としたため、レンズ度数の影響は小さく基本累進屈折面の累進特性を具現化した図となっている。
図1(a)(b)に示すように、マイナス度数の基本累進屈折面Aとプラス度数の基本累進屈折面Bでは明視幅設定位置をL1とした時、L1上での非点収差の絶対値が1.0D(主注視線L2から左右に2本目の太実線)以下の範囲がプラス度数となる場合(b)ではマイナス度数となる場合(a)よりも広く設計されている。また、L1よりもやや上方(例えば、近用入り口上)の水平方向の明視幅も同様である。すなわち、図1(a)(b)は中間〜近用領域にかけてプラス度数となる場合にマイナス度数となる場合よりも左右方向の明視幅が広く設計されている。その他の全体的特性は近似している。つまり、この2つの基本累進屈折面A,Bは中間〜近用領域にかけての見え方がプラス度数とマイナス度数の場合で同等となるように設定されている同じ累進特性の屈折面であるといえる。
また、図2は図1(a)(b)の主注視線L2における加入度数変化、すなわち加入度曲線の比較図である。プラス度数(破線)ではマイナス度数(実線)よりも近用部の入り口(幾何中心から11mm下方位置)の加入度が相対的に大きくなるように設定されている(近用度数測定位置での度数、すなわち加入度数は同じである)。
【0023】
基本的に本実施の形態では、図3に示すような度数判定位置における水平方向の判定度数に応じた重みを考慮する。この水平方向のレンズ度数は中間〜近用領域にかけての任意の位置とすることが可能であるが、図1(a)及び(b)に示すように、ここでは近用度数測定位置(幾何中心から14mm下方)とした。
ユーザー1では、近用の水平方向度数が−5.0Dであったため、図3から基本累進屈折面Aの割合が100%、つまり重み1としてマイナス度数での基本累進屈折面Aをそのまま使用する。
ユーザー3では、近用の水平方向度数が+4.00Dであったため、図3から基本累進面Bの割合が100%、つまり重み1としてプラス度数での基本累進屈折面Bをそのまま使用する。
しかし、ユーザー2では、近用の水平方向度数が+0.25Dであるため、図3に基づいて基本累進屈折面Aと基本累進屈折面Bを重み付けして合成する必要がある。
ここでは基本累進屈折面Aとの差の絶対値は2+0.25=2.25となり、基本累進屈折面Bとの差の絶対値は2−0.25=1.75となるため、その重み(%)は、
基本累進屈折面Aの割合=2.25/(2−(−2))×100=2.25/4×100
=56.25%
基本累進屈折面Bの割合=1.75/(2−(−2))×100=1.75/4×100
=43.75%
となる。つまり、ユーザー2では基本累進屈折面Aを0.5625とし基本累進屈折面Bを0.4375とする重みを与えて基本累進屈折面Aと基本累進屈折面Bを合成するようにして合成した基本累進屈折面のデータを取得する。
【0024】
<第4のステップ>
ここでは第2のステップで取得した裏面球面形状データに対して、第3のステップで取得した基本累進屈折面を付加する(合成する)工程である。内面累進設計においては、例えば第2のステップで設定したユーザーの遠用度数に対応した球面レンズの裏面形状に対して、第3のステップで設定した基本累進面を与える面形状変化を付加するようにする。
<第5のステップ>
第4のステップの面形状に対して、非球面を付加するステップである。レンズ周辺部の光学的な調整を非球面の付加により行い、ステップ2〜ステップ5の面の合成(付加)課程を経て実際に加工されるレンズの形状が決定されるものである。
【0025】
上記のような構成によって、次のような効果が奏される。
(1)従来では同じ累進帯長においては同じ累進設計であったため、中間〜近用領域にかけてマイナス度数となるユーザーよりもプラス度数となるユーザーの方がはっきり見える領域が狭くなってしまっており実生活上の不便を感じやすかったが、上記のようにプラス度数となる場合には中間〜近用領域にかけての累進特性を変更してはっきり見える領域をマイナス度数の場合と同様とすることができる。これにより、眼鏡店では中間〜近用領域にかけてどのような度数となっても同じ見え方となるという前提でユーザーに累進屈折力レンズを勧めることができる。
(2)基本累進屈折面Aと基本累進屈折面Bを前もって設定し、ユーザーがそれをそのまま適用できるようなレンズ度数であればそのまま適用し、特に中間〜近用領域にかけての判定度数の絶対値が所定範囲よりも小さい場合には基本累進屈折面Aと基本累進屈折面Bを合成することでより合理的な最適な累進屈折力レンズを提供することができる。すなわち計算コストを抑えながら、マイナス度数からプラス度数までより好ましいレンズの形状を提供することが出来る。
【0026】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記実施の形態では度数判定位置における判定度数として水平方向のレンズ度数を用いていたが等価球面度数(S+C/2)や垂直方向度数等を採用してもよい。
・上記実施の形態ではプラス度数の場合にマイナス度数の場合よりも中間〜近用領域にかけて明視幅を広くし、かつ近用部入り口の加入量を相対的に多くなるような左右方向と上下方向の両方向について調整するような設計としたが、左右方向と上下方向のいずれか一方のみをこのような設計とすることも可能である。
・上記実施の形態では重みの設定基準として絶対値で2以下について基本累進屈折面Aと基本累進屈折面Bを合成するようにしていたが、このような絶対値の小さな値のみならず大きな値についても合成するようにしてもよい。また、重みの設定基準は、0を挟んで均等でなくても、例えば、−10Dおよび+6Dを両端として設定するようにしてもよい。このようにすることで、計算コストを抑えつつ、マイナス度数とプラス度数との中間〜近用領域にかけて左右方向の見え方の差異を広い度数範囲について妥当な量として解消させることが可能となる。
・重みを設定せず、単純に中間〜近用領域にかけてプラス度数になるかマイナス度数になるかという二者択一的に基本累進面を選択してもよい。その時、左眼がマイナス度数、右眼がプラス度数となるような場合には、左右で設計が揃うようにマイナス度数かプラス度数のどちらかを優先して選択(例えば、マイナス度数を優先し、左右ともマイナス度数の基本累進面を選択)するなどにより左右の設計を合わせるなどしても良い。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ上方に配置された比較的遠方を見るための遠用部領域と、同遠用部領域よりも下方に配置され同遠用部領域よりも大きな屈折力を有する近用部領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進帯領域を備え、前記遠用部領域から近用部領域にかけて加入度数が徐々に付加されていくように加入勾配が設定された累進屈折力レンズの設計方法であって、
所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置でプラス度数となる場合に、マイナス度数となる場合よりも中間〜近用領域における所定の明視幅設定位置の左右方向の明視幅を相対的に広く設計することを特徴とする累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項2】
所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合に所定の明視幅設定位置において左右方向が所定の明視幅となるように設計される累進面(以下、第1の基本累進屈折面とする)と、前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合に前記所定の明視幅設定位置における前記第1の基本累進屈折面よりも左右方向の明視幅の広い設計によって構成される累進面(以下、第2の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、所定の度数判定位置での当該ユーザーのレンズ度数がマイナス度数である場合には前記第1の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とし、プラス度数である場合には前記第2の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とすることを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項3】
所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合に所定の明視幅設定位置において左右方向が所定の明視幅となるように設計される累進面(以下、第1の基本累進屈折面とする)と、前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合に前記所定の明視幅設定位置における前記第1の基本累進屈折面よりも左右方向の明視幅が広い設計によって構成される累進面(以下、第2の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、中間〜近用領域での当該ユーザーのプラス又はマイナスのレンズ度数の数値に応じた重みを前記両基本累進屈折面に対して与え、重みを与えた前記両基本累進屈折面を合成して当該ユーザーのレンズの累進面を設計することを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項4】
レンズ上方に配置された比較的遠方を見るための遠用部領域と、同遠用部領域よりも下方に配置され同遠用部領域よりも大きな屈折力を有する近用部領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進帯領域を備え、前記遠用部領域から近用部領域にかけて加入度数が徐々に付加されていくように加入勾配が設定された累進屈折力レンズの設計方法であって、
所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対しユーザー毎に処方される所定のレンズ度数と加入度数を設定することで当該ユーザーの累進屈折力レンズのレンズ形状が所定の度数判定位置でプラス度数となる場合に、同じ設定条件でマイナス度数となる場合よりも中間〜近用部の所定の高さ位置の加入量が相対的に多くなるように設計することを特徴とする累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項5】
所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合において所定の高さ位置で所定の加入量となるように設計される累進面(以下、第3の基本累進屈折面とする)と前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合において前記第3の基本累進屈折面よりも前記所定の高さ位置での加入量が多くなるような設計によって構成される累進面(以下、第4の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、所定の度数判定位置での当該ユーザーのレンズ度数がマイナス度数である場合には前記第3の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とし、プラス度数である場合には前記第4の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とすることを特徴とする請求項4に記載の累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項6】
所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合において所定の高さ位置で所定の加入量となるように設計される累進面(以下、第3の基本累進屈折面とする)と、前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合において前記第3の基本累進屈折面よりも前記所定の高さ位置での加入量が多くなるような設計によって構成される累進面(以下、第4の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、所定の度数判定位置での当該ユーザーのプラス又はマイナスのレンズ度数の数値に応じた重みを前記両基本累進屈折面に対して与え、重みを与えた前記両基本累進屈折面を合成して当該ユーザーのレンズの累進面を設計することを特徴とする請求項4に記載の累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項7】
所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では、当該ユーザーの累進屈折力レンズのレンズ形状が少なくとも所定の度数判定位置でプラス度数となる場合に、同じ設定条件でマイナス度数となる場合よりも所定の高さ位置での加入量が相対的に多くなるように設計することを特徴とする請求項1に記載の累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項8】
所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合に所定の明視幅設定位置において左右方向が所定の明視幅となり、かつ所定の高さ位置で所定の加入量となるように設計される累進面(以下、第5の基本累進屈折面とする)と、前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合に前記所定の明視幅設定位置における前記第1の基本累進屈折面よりも左右方向の明視幅が広く、かつ前記所定の高さ位置での加入量が多くなるような設計によって構成される累進面(以下、第6の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、中間〜近用領域おける所定の度数判定位置で当該ユーザーのレンズ度数がマイナス度数である場合には前記第5の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とし、プラス度数である場合には前記第6の基本累進屈折面を当該ユーザーのレンズの累進面とすることを特徴とする請求項7に記載の累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項9】
所定の累進帯長が選択された所定の累進特性に対し所定のレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてマイナス度数の場合に所定の明視幅設定位置において左右方向が所定の明視幅となり、かつ所定の高さ位置で所定の加入量となるように設計される累進面(以下、第5の基本累進屈折面とする)と、前記と同じ累進帯長及び累進特性に対し前記と同じレンズ度数で設計する際に、当該ユーザーの加入度数では中間〜近用領域における所定の度数判定位置においてプラス度数の場合に前記所定の明視幅設定位置における前記第1の基本累進屈折面よりも左右方向の明視幅が広く、かつ前記所定の高さ位置での加入量が多くなるような設計によって構成される累進面(以下、第6の基本累進屈折面とする)とをそれぞれ算出し、中間〜近用領域における所定の度数判定位置で当該ユーザーのプラス又はマイナスのレンズ度数の数値に応じた重みを前記両基本累進屈折面に対して与え、重みを与えた前記両基本累進屈折面を合成して当該ユーザーのレンズの累進面を設計することを特徴とする請求項7に記載の累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項10】
中間〜近用領域における所定の度数判定位置で当該ユーザーのレンズ度数が所定範囲に属する小さい値である場合には重みを与えた前記両基本累進屈折面を合成し、それ以上の値の場合には当該ユーザーのプラス又はマイナスのレンズ度数に対応したいずれかの基本累進屈折面をそのまま選択することを特徴とする請求項3、6又は9のいずれかに記載の累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項11】
前記所定範囲の小さい値とは絶対値において0〜2D(ディオプター)の範囲であることを特徴とする請求項10に記載の累進屈折力レンズの設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−41125(P2013−41125A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178181(P2011−178181)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】