説明

細孔を有する金多孔質体およびその製造方法

【課題】本発明の目的は、孔径が50〜1000nmである細孔を有する金多孔質体の製造方法、および当該金多孔質体を提供することである。
【解決手段】本発明にかかる金多孔質体の製造方法は、例えば、モリブデン板を塩化金塩酸に1時間浸漬し、金ナノ粒子を析出させる工程(「コーティング工程」)、アルゴン雰囲気中930℃で10分間、上記モリブデン板を加熱して金ナノ粒子同士を接合する工程(「焼結工程」)、および酸化雰囲気中で上記モリブデン板を900℃程度まで加熱してモリブデン板を酸化および昇華させて除去する工程(「昇華工程」)を含む。上記製造方法により、例えば、孔径が100〜300nmである細孔を有し、空孔率は14.5%、厚さ500nmである膜状金多孔質体を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔径が50〜1000nmである細孔を表面に有する金多孔質体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金は、電気や熱の伝導性、耐熱性、耐酸化性、および耐食性に優れていること、並びにアルカンチオール分子鎖の自己組織化単分子膜(SAM膜)のごとく官能基による化学修飾が可能であることから、例えば、金をナノ粒子化してタンパク質や糖で表面修飾し、新たな反応場としての利用等、種々の用途への応用が期待されており、金はナノテクノロジーの鍵となる物質であるといわれている。
【0003】
今後、金に求められる形態は上記ナノ粒子状に限られないことが予想され、種々の形態制御手法の追求と確立は今後のナノテクノロジーの技術展開の基礎として重要であり、急務とされている。
【0004】
ナノメートルサイズの金薄膜(厚さ:100〜1000nm程度)の形成は、スパッタ法、PVD法、CVD法、真空蒸着法、およびメッキ法等を用いることで比較的容易に実現することは可能である。例えば、スパッタ法では厚さ約50nmの金薄膜を製造することができ、PVD法やCVD法では厚さ数nm〜数μmの金薄膜を製造することができ、真空蒸着法では厚さ20〜300nmの金薄膜を製造することができ、金メッキ(JIS H8620)では最小0.2μmの厚さの金薄膜を製造することができる。また一般に市販されている金箔の厚さは数百nm〜1μm程度である。
【0005】
上記の金薄膜を各種反応の反応場として利用する場合、その比表面積を向上させ、さらに反応効率を向上させるために、金薄膜の表面にナノメートルオーダーの細孔(例えば孔径100nm程度の細孔)を設けることが好ましいとされ、かような金薄膜が求められている。
【0006】
ここで、金属薄膜を穿孔する技術としては、例えば、非特許文献1が挙げられる。非特許文献1には、紫外線パルスレーザーで、孔径5μmの孔をアルミに穿孔する技術が開示されている。
【0007】
他方、多孔質体の製造方法としては、例えば、金−銀合金を化学的選択腐食により銀のみを腐食させ、純金に近い多孔質体を製造する方法(非特許文献2参照);金と有機物との混合物を焼結することによって多孔質体を製造する方法(非特許文献3参照);活性炭素繊維に白金化合物を担持させ、その後、焼成やプラズマ酸化によって活性炭素繊維を除去することによって多孔質体を製造する方法(非特許文献4 p461参照);ポーラスガラスにPMMA(プラスチック)を含浸させ、当該ポーラスガラスを選択的に除去した後に、PMMA上に金属を電気析出させ、さらにPMMAを選択的に除去して金属多孔質体を作製する方法(「two-step レプリカ法」と称される)(非特許文献5参照);ポーラスアルミナを用いてtwo-step レプリカ法でポーラス金を作製する方法(非特許文献6参照);Au-Al合金を作製した後で、AuAl化合物をアルカリリーチングで除去し、ナノメートルオーダーの細孔を有するスポンジ状の金を作製する方法(非特許文献7参照);直径100nmの細孔が基板表面に対して垂直に入ったアルミナ基板に金を蒸着する方法(非特許文献8参照);ステンレス粉末の圧粉体を水素雰囲気下、1200℃で焼結して孔径2.2μmのステンレス膜を製造する方法(非特許文献9参照);ポーラスアルミナ表面にPtなどを付着させてマイクロポーラスとする方法(非特許文献10参照);および銀ナノ粒子を核として金ナノチューブを製造する方法(非特許文献11参照)が知られている。
【0008】
ところで、細胞やウィルスなどは複数の糖鎖が表面で特定の幾何学的配置を持つと言われ、細胞やウィルスと同程度のサイズを持つ半閉鎖された空間表面、すなわち細孔を実現し、その内部表面を修飾することで、細胞やウィルスの選択的捕集(フィルタリング)といった高次の機能を実現することが期待されている。細胞やウィルスの選択的捕集手段を実現するためには、担持体を板状(膜状)またはチューブ状(管状)などとした上で、細孔を形成させ、当該細孔内面に細胞表面の糖鎖配置と幾何学的に対応するように配置した糖鎖を配列させることが必要である。また金は、アルカンチオール分子鎖などを介して糖鎖やDNAなどをその表面に固定化して(非特許文献12 p141参照)、生化学的機能やセンサー機能(非特許文献4 p656、p688、p738参照)を与えることが容易であることから、板状(膜状)またはチューブ状(管状)などの形状を有し、かつ細孔を有する金多孔質体を製造することが可能となれば、上記のような細胞やウィルスの選択的捕集(フィルタリング)といった高次の機能を実現することが可能となる。その他、ポーラスアルミナ内壁に金を充填し、DNAを金に固定すれば規則的にパターニングされたDNA配列構造を得ることができる(非特許文献4 p491参照)。
【0009】
従来、高分子量物質であるタンパク質とウィルスとの分離には、高分子多孔質膜が適しているとされてきた(非特許文献4 p625-630参照)。さらに、高分子溶質を透過し、かつ巨大分子物質である大腸菌やブドウ球菌などを阻止する膜分離法として精密ろ過法があり、当該精密ろ過には高分子膜が使われている。上記高分子膜を金多孔質体で代替すれば、圧力差に対する耐久性や繰り返し使用などの点でメリットがある。
【非特許文献1】「紫外線パルスレーザーによる金属の微細孔加工に関する研究」、溝口 洋和、[online]、[平成18年2月8日検索]、インターネット<http://www.fit.ac.jp/~y-kawa/2000st/mizoguchi.html>
【非特許文献2】Nature, (2001) J. Erlebacher, M. J. Aziz, A. Karma, N. Dimitrov and K. Sieradzki, "Evolution of nanoporosity in dealloying", NATURE 410 (6827): 450-453 MAR 22 2001
【非特許文献3】"Dextran templating for the synthesis of metallic and metal oxide sponges", DOMINIC WALSH, LAURA ARCELLI, TOSHIYUKI IKOMA, JUNZO TANAKA and STEPHEN MANN, Nature Materials 2, 386-390 (2003)
【非特許文献4】NTS、「ナノマテリアルハンドブック」、国武豊春監修、2005年2月出版
【非特許文献5】H.Masuda, K. Nishio and N. Baba, J. Materials Science Letters, 13(1994), 338-340
【非特許文献6】H.Masuda and K. Fukuda, Science, 268(1995), 1466-1468
【非特許文献7】M. B. Cortie and E. van der Lingen, Gold 2003, Vancouver
【非特許文献8】T. M. McCleskey, D. S. Ehler, J. S. Young, D. R. Pesiri, G. D. Jarvinen, N. N. Sauer, J. Membrane Science, 210(2002), 273-278
【非特許文献9】R. L. Ames, E. A. Bluhm, J. D. Way, A. L. Bunge, K. D. Abney, S. B. Schreiber, J. Membrane Science, 213(2003), 13-23
【非特許文献10】94MAS:J. Electroanalytical Chemistry, 368, (1994),333-336
【非特許文献11】P. Shao, G. Ji and P. Chen, J. Membrane Science, 255(2005), 1-11
【非特許文献12】ナノテクノロジーハンドブックIV、オーム社、2003年5月出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、厚さが100〜1000nm程度である金薄膜に、孔径が50〜1000nmである細孔を穿孔する技術や、当該細孔を有しかつ厚さが100〜1000nm程度である金薄膜を製造する技術は、これまでに知られていなかった。それゆえ、広範囲にわたり、孔径が50〜1000nmである細孔を有する金薄膜は存在しない。さらには薄膜以外の形態、例えば、孔径が50〜1000nmである細孔を有するチューブ状の金多孔質体についても知られていない。
【0011】
したがって本発明の目的は、孔径が50〜1000nmである細孔を有する金多孔質体の製造方法、および当該金多孔質体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった。その結果、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち本発明にかかる金多孔質体の製造方法は、孔径が50〜1000nmの細孔を有する金多孔質体の製造方法であり、
表面が金よりも卑な金属よりなる基盤の表面を、金粒子でコートし、
当該金粒子が互いに焼結し、当該基盤の表面に所望の孔径を有する孔が形成される温度および時間で、不活性ガス雰囲気中、真空雰囲気中、または還元雰囲気中で、当該基盤を加熱し、
さらに、当該基盤を酸化雰囲気中で、基盤のみが昇華する温度で加熱を行なうことを特徴としている。
【0014】
また本発明にかかる金多孔質体の製造方法は、孔径が50〜1000nmの細孔を有する金多孔質体の製造方法であり、
メッキ法により、表面が金よりも卑な金属よりなる基盤の表面を、金粒子でコートし、
当該金粒子が互いに焼結し、当該基盤の表面に所望の孔径を有する孔が形成される温度および時間で、不活性ガス雰囲気中、真空雰囲気中、または還元雰囲気中で、当該基盤を加熱し、
さらに、当該基盤を酸化雰囲気中で、基盤のみが昇華する温度で加熱を行なうことを特徴とする方法であってもよい。また本発明にかかる金多孔質体の製造方法は、上記メッキ法は無電解メッキ法であってもよい。さらに上記無電解メッキ法は、表面が金よりも卑な金属でよりなる基盤を塩化金酸水溶液に浸して行なわれる方法であってもよい。また本発明にかかる金多孔質体の製造方法において、上記無電解メッキ法は、表面が金よりも卑な金属よりなる基盤上に塩化金酸水溶液を滴下する方法であってもよい。
【0015】
また本発明にかかる細孔を有する金多孔質体の製造方法は、上記基盤が板状であってもよく、さらに上記基盤がワイヤー状であってもよい。
【0016】
また本発明にかかる細孔を有する金多孔質体の製造方法は、金粒子がコートされる前の上記基盤が、金よりも卑な金属からなる金属粒子を表面に備える製造方法であってもよい。この時、上記金属粒子の粒径は、10〜1000nmであることが好ましい。
【0017】
また本発明にかかる細孔を有する金多孔質体の製造方法において、上記金よりも卑な金属がモリブデンであることが好ましい。
【0018】
一方、本発明にかかる金多孔質体は、孔径が50〜1000nmである細孔を有することを特徴としている。
【0019】
また本発明にかかる金多孔質体は、空孔率が5%以上、50%以下であることが好ましい。
【0020】
また本発明にかかる金多孔質体は、厚さが100〜1000nmであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる細孔を有する金多孔質体の製造方法によれば、孔径が50〜1000nmである細孔を有する金多孔質体(例えば、厚さ100〜1000nmの膜状の金多孔質体、管の内径が10〜200μmである管状の金多孔質体、等)を製造することができる。また基盤の形状を適宜選択することによって、あらゆる形状を有する金多孔質体を製造することができる。
【0022】
上記金多孔質体(すなわち、本発明にかかる金多孔質体)の表面を修飾することによって、当該金多孔質体が有する細孔を通過する物質に対し、化学反応を起こさせたり、活性化させたりすることが可能となる。また本発明にかかる金多孔質体が有する細孔の内部表面を適宜修飾することで、細胞やウィルスの選択的捕集(フィルタリング)といった高次の機能を実現することが可能である。その他、種々の物質を本発明にかかる金多孔質体の表面に固定(修飾)して、触媒機能を付与することによって触媒反応系を構築することが可能となる。例えば、金ナノ粒子担持チタノシリケート系で、水素共存下、気相酸素により90%以上の高選択率でプロピレンからプロピレンオキシド(PO)を合成するユニークな選択酸化触媒系を見出されていることから、本発明にかかる金多孔質体を用いて当該選択酸化触媒系を構築すれば、反応効率をさらに向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りである。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。
【0024】
〔1.本発明にかかる細孔を有する金多孔質体の製造方法〕
本発明は、細孔を有する金多孔質体の製造方法に関するものである。ここで「金多孔質体」とは、金または金合金からなる多孔質体のことである。金合金としては、金を主成分とし、金と、金を除く1種類以上の金属元素または非金属元素(炭素、ケイ素)とを構成元素としている合金であれば、特に限定されるものではなく、例えば金−銀合金、金−プラチナ合金、金−銅合金等が挙げられる。
【0025】
また本発明にかかる製造方法において製造され得る金多孔質体の「細孔」は、孔径が50〜1000nm(より好ましくは50〜100nm)の、微細な孔(好ましくは貫通孔)である。なお本明細書中において使用される「〜」は、「左記の数値以上、右記の数値以下」のことを意味する。例えば「50〜1000nm」は、「50nm以上、1000nm以下」のことを意味する。また上記孔の開口形状は特に限定されず、円形状、楕円形状、正方形状、長方形状、六角形状などのいかなる形状であってもよい。ここで本明細書中において使用される場合、用語「孔径」は、孔の開口形状に対する最大内接円の直径が意図され、例えば、孔の開口形状が実質的に円形状である場合はその円の直径が意図され、実質的に楕円形状である場合はその楕円の短径が意図され、実質的に正方形状である場合はその正方形の辺の長さが意図され、実質的に長方形状である場合はその長方形の短辺の長さが意図される。当該「孔径」は走査型電子顕微鏡(SEM)等で測定すればよい。また当該「孔径」は、任意に選択される孔の孔径を測定し、その平均値を計算することにより求めればよい。
【0026】
また、本発明にかかる製造方法において製造される金多孔質体の空孔率の下限は5%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、30%以上であることが最も好ましい。一方、本発明にかかる製造方法において製造される金多孔質体の空孔率の上限は、50%以下であることが好ましい。空孔率が50%を超えると、機械的強度が低くなる場合があり、また金多孔質体をフィルタとして機能しなくなる場合がある。本明細書中において使用される用語「空孔率」は、「有孔率」ともいい、金多孔質体の表面積に対する孔の開口が占める面積の割合を意味する。なお当該「空孔率」の測定は、金多孔質体の走査型電子顕微鏡(SEM)像を公知の画像解析ソフトウエアNIH-Image(米国、NIHより入手可能)等を用いて計算すればよい。より具体的には、以下の計算式により測定することができる。
【0027】
空孔率(%)=((孔の総面積)÷(金多孔体の表面積))×100
また、本発明にかかる製造方法において製造される金多孔質体の形状は、後述するように塩化金酸水溶液がコートされる基盤の形状によって決まるために、特に限定されるものではない。例えば、板状の基盤を用いて金多孔質体を製造すれば、膜状の金多孔質体を製造することができ、ワイヤー状(針金状)の基盤を用いて金多孔質体を製造すれば、管状(チューブ状)の金多孔質体を製造することができる。上記金多孔質体を各種反応の反応場として利用することを考慮すれば、膜状の金多孔質体の場合、厚さが100〜1000nmとすることが好ましい。上記好ましい厚さ未満であると、機械的強度が低くハンドリングに問題が生じる場合がある。また製造工程において孔の形成が困難であり、上記好ましい厚さを超える金多孔質体を製造することが困難な場合がある。また上記金多孔質体を各種反応の反応場として利用することを考慮すれば、管状の金多孔質体の場合は、管の直径(内径)が10〜200μmとすることが好ましい。上記膜の厚さ、および管の直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)像等を用いて測定し、その平均値を求めることにより得ることができる。
【0028】
次に、本発明にかかる細孔を有する金多孔質体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」という)に含まれる各工程について具体的に説明する。本発明の製造方法は、
(a)表面が金よりも卑な金属よりなる基盤の表面を、金粒子でコートする工程(以下、「コーティング工程」という)と、
(b)当該金粒子が互いに焼結し、当該基盤の表面に所望の孔径を有する孔が形成される温度および時間で、不活性ガス雰囲気中、真空雰囲気中、または還元雰囲気中で、当該基盤を加熱する工程(以下、「焼結工程」という)と、さらに
(c)当該基盤を酸化雰囲気中で、基盤のみが昇華する温度で加熱を行なう工程(以下「昇華工程」という)とを含むものである。本発明の製造方法は、通常(a)コーティング工程→(b)焼結工程→(c)昇華工程の順序で行なわれる。なお本発明の製造方法は、上記3工程以外の工程を含んでいてもよい。
【0029】
上記「(a)コーティング工程」では、例えば所望の形状を有する基盤の表面に塩化金酸水溶液等をコート(被覆)することによって、基盤の表面に金粒子(好ましくは、金ナノ粒子)を析出させる。また上記「(b)焼結工程」では、上記金粒子(好ましくは、金ナノ粒子が焼結して粒子同士が接合する。この時、粒子間が埋まらずに隙間として残存した部分が細孔となる。また上記「(c)昇華工程」では、基盤を酸化および昇華させることによって除去する。上記(a)〜(c)の工程を経た後、昇華されずに最終的に残ったものが目的とする金多孔質体である。以下に各工程についてさらに具体的に説明する。
【0030】
<(a)コーティング工程>
コーティング工程において使用する基盤は、その表面が金よりも卑な金属で構成されているものである。ここで「金よりも卑な金属」とは、金に比して酸化されやすい性質を有する金属のことを意味する。「金よりも卑な金属」は、上記性質を有する金属であれば特に限定されるものではないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、および鉛等を始めとする典型金属元素、並びに白金等の貴金属元素を除く遷移金属元素が挙げられる。上記「金よりも卑な金属」のうち、昇華が容易であるという理由から、特にモリブデン、またはタングステンが好ましい。タングステンやモリブデン以外の金属は、その昇華温度が高く、金の融点に近いために、その後の昇華工程において金の焼結が進みすぎる可能性がある。またモリブデンは、昇華し易く、金と合金を形成しない(金にほとんど溶け込まない)ために特に好ましい。
【0031】
なお、本明細書において「金」とは、特記しない限り、金のみならず金合金をも含む意味である。よって、基盤に金合金のナノ粒子を析出させて金合金からなる多孔質体を製造する場合には、「金よりも卑な金属」とは「金合金よりも卑な金属」のことを意味する。なお金合金の説明については既述の説明を援用する。
【0032】
また基盤は、その表面が少なくとも「金よりも卑な金属」で構成されているものであれば特に限定されるものではない。したがって、「金よりも卑な金属」のみからなる基盤であっても、金に比して酸化され易く、かつ金に対して不活性な材料からなる基体の表面を当該「金よりも卑な金属」でコーティングした基盤であってもよい。上記コーティングの方法は、メッキ法、スパッタ法、PVC法、CVD法等、従来公知の方法で行なうことができる。なお「金に対して不活性な材料」とは、金に対して固溶や化合物形成などが起きないという物性を有する材料のことを意味し、例えばグラファイト、アルミナ、ジルコニアやシリカ等のセラミックス等が挙げられる。
【0033】
また金粒子がコートされる前の基盤は、「金よりも卑な金属」からなる金属粒子を表面に備えるものであってもよい。ここで「基盤が金属粒子を表面に備える」とは、金属粒子が基盤の表面に物理的または化学的に結合した態様、および物理的または化学的に結合していない態様を含む意味である。よって、金属粒子を基盤の表面に単に振りかけるのみであっても、予め接着剤をコートした基盤の表面に金属粒子を振りかけてもよく、また基盤の表面に振りかけた金属粒子を溶融もしくは焼結することによって基盤表面と金属粒子とを結合させてもよい。上記金属粒子が基盤の表面に備わることによって、当該金属粒子間の隙間に金粒子(好ましくは、金ナノ粒子)を析出させることができ、金多孔質体における細孔の孔径、形状、および配置を、金属粒子の粒径、形状、配置により、緻密に制御することが可能となる。金多孔質体の孔の孔径は上記金属粒子の粒径により決まるため、金多孔質体における孔を細孔にするためには金属粒子の粒径をナノメートルサイズにしなければならない。より具体的には、上記金属粒子の粒径は、50〜1000nmであることが好ましく、50〜100nmであることがより好ましい。ここで本明細書中において使用される場合、用語「粒径」は、金属粒子の形状に対する最大内接円の直径が意図され、例えば、粒子の形状が実質的に円形状である場合はその円の直径が意図され、実質的に楕円形状である場合はその楕円の短径が意図され、実質的に正方形状である場合はその正方形の辺の長さが意図され、実質的に長方形状である場合はその長方形の短辺の長さが意図される。当該「粒径」は走査型電子顕微鏡(SEM)等で測定すればよい。また当該「粒径」は、任意に選択される粒子の粒径を測定し、その平均値を計算することにより求めればよい。
【0034】
ところで本発明の製造方法は、基盤の表面に細孔を有する金の薄膜を形成した後、基盤を昇華により除去する方法であるため、目的の金多孔質体の形状を基盤の形状により制御することができるという特徴を有している。基盤の形状は、所望の金多孔質体の形状にあわせて適宜選択の上、適用すればよい。例えば、板状の基盤を用いて金多孔質体を製造すれば、膜状の金多孔質体を製造することができ、ワイヤー状(針金状)の基盤を用いて金多孔質体を製造すれば、管状(チューブ状)の金多孔質体を製造することができる。管状の金多孔質体を製造する場合、ワイヤーの直径は10〜200μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。管状の金多孔質体を各種反応の反応場として利用することを考慮すれば、管および管の直径は微細であることが好ましいからである。
【0035】
本コーティング工程は、表面が金よりも卑な金属よりなる基盤の表面を、金粒子でコートする工程である。基盤の表面を金粒子でコートする具体的な方法は、当該目的を達成し得る方法であれば特に限定されるものではない。基盤の表面を金粒子でコートする上記方法としては、例えば、無電解メッキ法、電気メッキ法等のメッキ法が適用可能である。以下の説明においては、無電解メッキ法を例に挙げて説明する。ただし本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
無電解メッキ法による本コーティング工程では、表面が金よりも卑な金属よりなる基盤の表面に金粒子を化学的に還元析出させる。なお上記「無電解メッキ法」には「金シアン化カリウム」などを含むシアン系の浴を用いる方法と、非シアン系の浴(四塩化金ナトリウム(塩化金酸(III)ナトリウム、NaAuCl4)などを含む)を用いる方法とがある(「電気化学便覧第五版」、(社)電気化学会、丸善、平成12年6月30日発行、p472-477参照)。本発明の方法におけるコーティング工程において実施する「無電解メッキ法」は特に限定されるものではなく、公知の方法、条件等を適宜採用し得る。以下に本コーティング工程に、塩化金酸水溶液を用いて行なう場合について説明する。ただし本発明はこれに限定されるものではない。なお本発明の製造方法においては、上記塩化金酸水溶液の他、金塩として金シアン化カリウム、塩化金酸(III)ナトリウムや亜硫酸金塩を用いてもよく、また、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどを錯化剤、安定剤として、さらに、チオ尿素、アスコルビン酸ナトリウム、シュウ酸、クエン酸などを還元剤として用いてもよい(「アスコルビン酸を還元剤とする無電解金メッキ浴の電気化学的挙動」、加藤 勝ら、表面技術、vol.42, (1991), p729-725;「下地触媒型無電解金メッキ」、加藤 勝、The Chemical Times, vol.189, 2003, p10-16;特開2004−332037号公報;特開2005−194569号公報;特開2005−307309号公報参照)。
【0037】
上記「塩化金酸水溶液」とは、塩化金酸(テトラクロロ金(III)酸四水和物、H[AuCl4]・4H2O)の水溶液のことである。酸水溶液に溶解する塩化金の濃度は、特に限定されるものではないが、0.005重量%〜5重量%であることが好ましく、0.01重量%〜1重量%であることがより好ましく、0.05重量%〜0.5重量%であることが最も好ましい。上記濃度を用いることで、基盤の表面上に析出する金粒子の粒径が小さくなる傾向にある。塩化金酸水溶液の濃度を制御することによって、細孔を有する金多孔質体の厚さ、金粒子の粒径、および金粒子析出に要するまでの時間を制御することが可能となる。
【0038】
また上記「塩化金酸水溶液」の調製方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択の上、調製すればよい。例えば錯化剤、安定剤、還元剤などを塩化金酸水溶液に添加して調製してもよい。
【0039】
なお、本発明の製造方法によって、金合金からなる多孔質体を製造する場合には、下地に、銅や銀など、金に比べて卑な金属を、無電解メッキ法などによってメッキし、その上に金ナノ粒子を析出させて多層メッキとし、その後の熱処理によって合金化すればよい。
【0040】
「コーティング工程」は、上記説示した基盤の表面に上記塩化金酸水溶液をコートする工程である。基盤の表面に上記塩化金酸水溶液をコートする具体的な方法については特に限定されるものでなく、基盤を塩化金酸水溶液に浸漬すればよい。浸漬時間は、10秒間から50時間が好ましく、2分間から10時間がより好ましく、20分間から2時間が最も好ましい。また上記の方法の他、基盤の表面に塩化金酸水溶液を噴霧してもよいし、基盤の表面に塩化金酸水溶液を塗布してもよい。なおコーティングは必ずしも基盤の全表面を塩化金酸水溶液でコートする必要はなく、基盤の一部を塩化金酸水溶液でコートする態様であってもよい。ただし、管状等の3次元的な形状を有する金多孔質体を確実に実現するためには、できるだけ基盤の全面をコートすることが好ましい。
【0041】
上記の通り、表面が金よりも卑な金属である基盤の表面に、塩化金酸水溶液をコートすることによって、無電解メッキ法の原理にしたがって、基盤の表面に金ナノ粒子が析出する。この時、塩化金酸水溶液の濃度、還元剤等の塩化金酸水溶液への添加の有無およびその添加量、塩化金酸水溶液の温度、並びに析出時間等を調整することによって、金ナノ粒子の粒径を制御することができる。例えば、塩化金酸水溶液の濃度や析出時間等を減少させることによって、金ナノ粒子の粒径をさらに微細にすることが可能となる。
【0042】
<(b)焼結工程>
「(b)焼結工程」は、当該基盤を不活性ガス雰囲気中で、金粒子が互いに焼結し、当該基盤の表面に所望の孔径を有する孔が形成される温度および時間で加熱を行なう工程である。焼結工程によって、上記コーティング工程によって基盤上に析出した金ナノ粒子が、焼結し、粒子同士が接合する。この時、粒子間が埋まらずに隙間として残存した部分が細孔となる。
【0043】
かかる焼結工程では、基盤を不活性ガス雰囲気中、真空雰囲気中、または還元雰囲気中で加熱を行なうために、基盤が酸化されることはなく、金粒子が互いに焼結するような温度で加熱した後も基盤は残存することができる。かかる焼結工程で使用する不活性ガスとしては、希ガスであれば特に限定されるものでない。不活性ガスとしては例えば、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。また加熱時の雰囲気中の不活性ガスの濃度は、99.99〜99.999%(v/v)であることが好ましく、99.999〜99.9999%(v/v)であることがより好ましい。また焼結工程は、還元雰囲気中や真空雰囲気中で行なってもよい。ここで「還元雰囲気中」とは、基盤が酸化し得ない雰囲気のことを意味する。例えば「還元雰囲気」は、加熱時の雰囲気を高純度水素雰囲気とすれば実現できる。換言すれば、「還元雰囲気」は、加熱時の雰囲気中の水素濃度が99.99〜99.999%(v/v)(より好ましくは、99.999〜99.9999%(v/v))となるようにすれば実現できる。また「真空雰囲気」とは、加熱時の雰囲気が、通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた状態であることを意味する。かかる「真空雰囲気」には、低真空102Pa以上である低真空、102〜10-1Paである中真空、10-1〜10-5Paである高真空、10-5〜10-10Paである超高真空、および10-10Paである極高真空のいずれもが含まれる。
【0044】
また焼結工程における加熱温度は、当該金粒子が互いに焼結し、当該基盤の表面に所望の孔径を有する孔が形成される温度であればよく、所望の孔径を有する孔が形成される温度条件をSEM観察などによって明らかにすることによって適宜決定すればよい。例えば、金の融点の90%程度の温度となる温度で加熱することが好ましい。上記加熱温度は、金の融点(1064℃=1337K)を、0.90倍することによって決定することができる。なお、金粒子の粒径が10nm程度以下であると融点が急激に低下することが知られており、粒径10nm程度の金粒子の場合には300℃程度で焼結する場合もある。よって上記金粒子を用いるときは温度の調整を行なわないと焼結が過度に進み、所望の孔径を有する孔が残存しなくなる可能性がある。したがって、過度の焼結を防ぐことも考慮に入れると粒径10nm程度の金粒子の場合は、300〜400℃で焼結を行なうことが好ましい。その他、粒径100〜300nmの金粒子を焼結する場合には、300〜930℃で加熱することが好ましく、600〜900℃で加熱することがより好ましい。
【0045】
また焼結工程における加熱時間は、当該金粒子が互いに焼結し、当該基盤の表面に所望の孔径を有する孔が形成される時間であればよく、所望の孔径を有する孔が形成される時間をSEM観察などによって明らかにして適宜決定すればよい。例えば粒径100〜300nm程度の金ナノ粒子を焼結する場合には、1〜10分間加熱することが好ましく、2〜5分間加熱することがより好ましい。
【0046】
また焼結工程は、上記好ましい不活性ガス濃度および加熱温度を達成することができる、公知の加熱炉を適宜選択の上、採用すればよい。
【0047】
<(c)昇華工程>
「(c)昇華工程」は、当該基盤を酸化雰囲気中で、基盤のみが昇華する温度で加熱を行なう工程である。昇華工程では、基盤を酸化および昇華させることによって除去する。基盤の表面は金よりも卑な金属で構成されているため、金よりも酸化され易い。よって酸化雰囲気中、金と同条件で加熱すれば、基盤のみを酸化し、昇華させることができる。この昇華工程を経た後、昇華されずに最終的に残ったものが、本発明の製造方法が目的とする金多孔質体である。
【0048】
かかる昇華工程では、基盤を酸化雰囲気中で加熱を行なう。「酸化雰囲気」とは、少なくとも酸素が存在し、その雰囲気中で加熱を行なうことによって目的物(基盤)を酸化しうる雰囲気のことを意味する。よって、通常、空気中で昇華工程を行なえばよい。ただし、昇華工程において加熱炉中に酸素を強制的に供給すれば、基盤の酸化がさらに促進され、基盤の除去がさらに効率良く行なうことができるため、より好ましいといえる。
【0049】
また昇華工程における加熱温度は、基盤のみが昇華する温度であればよい。上記加熱温度は、焼結工程後の基盤上の金膜の構造(孔径、孔の分布など)がほとんど変化することがなく、かつ基盤を構成する金よりも卑な金属が酸化され、当該金属酸化物が昇華することを条件として、適宜決定され得る。例えば、後述する実施例においては930℃で焼結工程を行なっていることから、その温度より低くかつ短時間で酸化および昇華が終了する温度(900℃)で焼結工程を行なうことが望ましい。例えば金多孔質体を製造する場合には、930℃未満で加熱することが好ましく、800〜900℃で加熱することがより好ましい。
【0050】
また昇華工程における加熱時間は、基盤のみが酸化し昇華するまで時間であればよく、適宜最適な時間を検討の上、決定すればよい。例えば金多孔質体を製造する場合には、1〜10分間加熱することが好ましく、1〜5分間加熱することがより好ましい。
【0051】
また昇華工程は、上記加熱条件を達成することができる、公知の加熱炉を適宜選択の上、採用すればよい。ただし本発明の製造方法を効率良く行なうことができるという理由から、当該昇華工程は上記焼結工程と同一の加熱炉を用いて行なうことが好ましい。
【0052】
〔2.本発明にかかる細孔を有する金多孔質体〕
本発明にかかる金多孔質体は、孔径が50〜1000nm、より好ましくは50〜100nmである、細孔を有することを特徴としている。また本発明にかかる金多孔質体は空孔率が、5%以上、より好ましくは15%以上、最も好ましくは30%以上であってもよい。一方、本発明にかかる金多孔質体の空孔率の上限は、50%以下であることが好ましい。空孔率が50%を超えると、機械的強度が低くなる場合があり、また金多孔質体をフィルタとして利用することができなくなる場合がある。また本発明にかかる金多孔質体を各種反応の反応場として利用する場合には、厚さ100〜1000nm、より好ましくは500〜1000nmであることが好ましい。また管の内径が10〜200μmの管状であってもよい。
【0053】
本発明にかかる金多孔質体の製造方法は、特に限定されるものではないが、上記説示した本発明の製造方法が好適である。なお本発明にかかる金多孔質体の説明は、「1.本発明にかかる細孔を有する金多孔質体の製造方法」の説明を適宜援用することができる。
【0054】
本発明にかかる金多孔質体の応用例としては、以下のものが挙げられる。膜状である本発明にかかる金多孔質体は、その表面および細孔部を化学修飾することによって、機能性薄膜フィルタとして利用することが可能である。また、管状である本発明にかかる金多孔質体を上記と同様に処理することによって、流路を確保した機能性フィルタを構成することができる。また金は生体への悪影響がほとんどないため、本発明にかかる金多孔質体を、生体内物質のフィルタとして利用することができる。その他、本発明にかかる金多孔質体は、触媒、として利用可能である。
【0055】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0056】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0057】
〔実施例1:膜状金多孔質体の製造例〕
<方法>
(コーティング工程)
モリブデン板(縦1cm、横1cm、厚さ0.05mm;(株)ニラコより購入)を塩化金塩酸に1時間浸漬し、モリブデン板の表面に金粒子を析出させた。上記塩化金塩酸は、塩化金酸(テトラクロロ金(III)酸四水和物、H[AuCl4]・4H2O)1gを100mlの純水に溶解して調製した。
【0058】
(焼結工程)
加熱炉として(有)トステック社製ゴールドイメージ炉を用い、アルゴン雰囲気中(アルゴン濃度99.9999%)、930℃で10分間、上記モリブデン板を加熱した。
【0059】
(昇華工程)
次に、同加熱炉を用い、酸化雰囲気中(空気中)で、上記モリブデン板を900℃程度まで加熱した。
【0060】
上記各工程により得られた物を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察を行なった。
【0061】
<結果>
上記コーティング工程後のモリブデン板の走査型電子顕微鏡像(SEM像)を図1(a)〜(c)に示した。図1(a)は倍率が1,000倍のSEM像であり、図1(b)は倍率が5,000倍のSEM像であり、図1(c)は倍率が15,000倍のSEM像である。図1(a)〜(c)より、金ナノ粒子(粒径100〜300nm)がモリブデン板上に析出しているということが確認できた(同図中の灰色の粒子)。なお図1(a)においてマイクロメートルオーダーの粒子が散在していた(同図中矢印で示す)。上記粒子の詳細については現時点で不明であるが、発明者らはこれをモリブデンの塩化物ではないかと推察している。
【0062】
上記焼結工程後のモリブデン板の走査型電子顕微鏡像(SEM像)を図2(a)〜(c)に示した。図2(a)は倍率が1,000倍のSEM像であり、図2(b)は倍率が5,000倍のSEM像であり、図2(c)は倍率が15,000倍のSEM像である。図2(a)〜(c)より、細孔(孔径100〜300nm)を有する金多孔質体がモリブデン板上に形成されているということが確認できた。なお図2(a)〜(c)においてマイクロメートルオーダーの粒子が見受けられる(同図中矢印で示す)。上記粒子の詳細については現時点で不明である。
【0063】
最終的に取得した膜状金多孔質体は、孔径が100〜300nmである細孔を有し、空孔率は14.5%(=孔の面積総和÷膜面積×100)、厚さ500nm程度であった。
【0064】
〔実施例2:管状金多孔質体の製造例〕
(方法)
モリブデンワイヤー(直径30μm、長さ10mm;(株)ニラコより購入)を用いた以外は、「実施例1」と同様にした。
【0065】
(結果)
上記コーティング工程後のモリブデンワイヤーの走査型電子顕微鏡像(SEM像)を図3(a)および(b)に示した。図3(a)は倍率が700倍のSEM像であり、図3(b)は倍率が3,000倍のSEM像である。図3(a)および(b)より、金粒子がモリブデンワイヤー上に析出しているということが確認できた(同図中の灰色の粒子)。
【0066】
上記焼結工程後のモリブデンワイヤーの走査型電子顕微鏡像(SEM像)を図4に示した。図4は倍率が700倍のSEM像である。図4より、細孔(孔径100〜300nm)を有する金多孔質体がモリブデンワイヤー上に形成されているということが確認できた。
【0067】
最終的に取得されて管状金多孔質体は、孔径が100〜300nmである細孔を有し、管壁の厚さ10μm、内径30μmであった。なお本実施例にかかる管状金多孔質体の空孔率は、5%〜50%の範囲内であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明にかかる細孔を有する金多孔質体の製造方法によれば、孔径が50〜1000nmである細孔を有する金多孔質体(例えば、厚さ100〜1000nmの膜状の金多孔質体、管の内径が10〜200μmである管状の金多孔質体、等)を製造することができる。また基盤の形状を適宜選択することによって、あらゆる形状を有する金多孔質体を製造することができる。上記金多孔質体(すなわち、本発明にかかる金多孔質体)の表面を修飾することによって、当該金多孔質体が有する細孔を通過する物質に対し、化学反応を起こさせたり、活性化させたりすることが可能となり、新しい反応場として利用することができる。また本発明にかかる金多孔質体は、細胞やウィルスの選択的捕集を実現することが可能である。その他、種々の物質を本発明にかかる金多孔質体の表面に固定(修飾)して、触媒機能を付与することによって触媒反応系を構築することが可能となる。また金は生体への悪影響がほとんどないため、本発明にかかる金多孔質体を、生体内物質のフィルタとして利用することができる。
【0069】
したがって、本発明は化学および金属加工の分野のみならず、家電をはじめとする電気機器産業、医薬品産業、医療機器産業、食品産業等、多岐にわたる産業において利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1におけるコーティング工程後のモリブデン板の走査型電子顕微鏡像(SEM像)であり、図1(a)は倍率が1,000倍のSEM像であり、図1(b)は倍率が5,000倍のSEM像であり、図1(c)は倍率が15,000倍のSEM像である。
【図2】実施例1における焼結工程後のモリブデン板の走査型電子顕微鏡像(SEM像)であり、図2(a)は倍率が1,000倍のSEM像であり、図2(b)は倍率が5,000倍のSEM像であり、図2(c)は倍率が15,000倍のSEM像である。
【図3】実施例2におけるコーティング工程後のモリブデン板の走査型電子顕微鏡像(SEM像)であり、図3(a)は倍率が700倍のSEM像であり、図3(b)は倍率が3,000倍のSEM像である。
【図4】実施例2における焼結工程後のモリブデンワイヤーの走査型電子顕微鏡像(SEM像、倍率700倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が金よりも卑な金属よりなる基盤の表面を、金粒子でコートし、
当該金粒子が互いに焼結し、当該基盤の表面に所望の孔径を有する孔が形成される温度および時間で、不活性ガス雰囲気中、真空雰囲気中、または還元雰囲気中で、当該基盤を加熱し、
さらに、当該基盤を酸化雰囲気中で、基盤のみが昇華する温度で加熱を行なうことを特徴とする、孔径が50〜1000nmの細孔を有する金多孔質体の製造方法。
【請求項2】
メッキ法により、表面が金よりも卑な金属よりなる基盤の表面を、金粒子でコートし、
当該金粒子が互いに焼結し、当該基盤の表面に所望の孔径を有する孔が形成される温度および時間で、不活性ガス雰囲気中、真空雰囲気中、または還元雰囲気中で、当該基盤を加熱し、
さらに、当該基盤を酸化雰囲気中で、基盤のみが昇華する温度で加熱を行なうことを特徴とする、孔径が50〜1000nmの細孔を有する金多孔質体の製造方法。
【請求項3】
上記メッキ法は無電解メッキ法である、請求項2に記載の金多孔質体の製造方法。
【請求項4】
上記無電解メッキ法は、表面が金よりも卑な金属よりなる基盤を塩化金酸水溶液に浸して行なわれる、請求項3に記載の金多孔質体の製造方法。
【請求項5】
上記基盤が板状である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の金多孔質体の製造方法。
【請求項6】
上記基盤がワイヤー状である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の金多孔質体の製造方法。
【請求項7】
金粒子がコートされる前の上記基盤が、金よりも卑な金属からなる金属粒子を表面に備える、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の金多孔質体の製造方法。
【請求項8】
上記金属粒子の粒径が10〜1000nmである、請求項7に記載の金多孔質体の製造方法。
【請求項9】
上記金よりも卑な金属がモリブデンである、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の金多孔質体の製造方法。
【請求項10】
孔径が50〜1000nmである細孔を有することを特徴とする、金多孔質体。
【請求項11】
空孔率が5%以上、50%以下である、請求項10に記載の金多孔質体。
【請求項12】
厚さが100〜1000nmである、請求項10または11に記載の金多孔質体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−277613(P2007−277613A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103364(P2006−103364)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】