説明

細径脱気チューブ及びその製造方法

【課題】真空減圧による脱気効率が高く、極端な偏平化による被脱気液体の閉塞や、キンクの発生がなく、連続的に製造可能な構成の細径脱気チューブを提供すること。
【解決手段】フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、及び塩化ビニル樹脂から選択される1種の熱可塑性樹脂からなり、前記熱可塑性樹脂が充実した芯部と、該芯部から放射状に延設された複数のリブ部と、該複数のリブ部の外端間を連結する外環状部と、を備え、該リブ部によって分割され長手方向に連続した複数の中空部(通液部)が形成され、長手方向に直交する断面が略円形、又は略多角形状であって、外環状部の見なし外径平均値が5mm以下である、ことを特徴とする細径脱気チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細径脱気チューブ及びその製造方法に関し、特に溶存気体を除去するための真空脱気効率が向上できる細径脱気チューブ及びその製造方法に関するものである。
【0002】
例えば、液体クロマトグラフなどでは、試薬液(溶媒やサンプル液等)中に溶け込んでいる気体を移送中に除去する(脱気する)必要がある。
各種理化学・分析機器や製薬、半導体、液晶等を含む各種の生産プロセス設備等において、液体(被脱気液体)から溶存気体を除去するのに真空脱気装置が使用される。
真空脱気装置には、上記サンプル液や溶媒、緩衝液等と接触する部分に、気体のみを通し液体の透過を阻止するフッ素樹脂やポリプロピレン(以下、「PP」と称す。)、ポリメチルペンテン(以下、「PMP」と称す。)などの熱可塑性樹脂からなるいわゆる気体透過で液体不透過の性能を有する細径脱気用チューブが使用される。
【0003】
真空脱気装置の脱気効率を向上させるためには、気体成分の拡散効率を上げる必要がある。気体の拡散は、拡散方程式に従うため、拡散移動距離が短い程、指数関数的に効率が向上する。つまり、脱気用チューブ内を通過する被脱気液体を脱気用チューブの中心部よりも膜面(チューブの内周面)にできるだけ近い位置を移動させることが好ましい。
この種の脱気チューブとして、チューブの長手方向に沿って線材を内蔵させ、該線材外壁面とチューブ内壁面との間に空隙を形成せしめた脱気用チューブが提案されている(特許文献1参照)。
また、粒子状プラスチック基材に揮発性の高い特定の分散液を添加してペースト化したものを押出し焼成してなるチューブ内に長手方向に沿って線材を内蔵させ、該線材の外周面と当該チューブ内周面との間に被脱気液体を流通させるための空隙を形成しチューブを複数本用いてなる真空脱気装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
さらに、広範囲の流速と高効率かつ小型化可能な脱気装置として、気体透過性の偏平(楕円形)チューブを2枚のメッシュシート体の間に配列した脱気装置(特許文献3参照)が提案されている。
さらにまた、気体透過性チューブの断面形状が少なくとも1つ以上の凹部を有する異形(中央部が窪んだ繭型)に形成して、気体透過性チューブのキンクを起こり難くした脱気用チューブ(特許文献4参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭63−49285号公報
【特許文献2】特開2001−113103号公報
【特許文献3】特開2000−275229号公報
【特許文献4】特開2009−195833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された脱気用チューブでは、チューブ内に線材を内蔵させる方法では、チューブを製造後に当該線材を挿入することになり、手間がかかり、コストアップを回避できず、また、連続した長尺状の脱気用チューブを得ることが困難であるという問題があった。
また、特許文献3に記載の断面が偏平状や、特許文献4に記載の断面に少なくとも1つ以上の凹部を有する異形に形成された脱気用チューブでは、被脱気液体中に含まれる気体の拡散距離は確かに短くなるが、真空引きにより圧力差で膨らんでしまい、結局略円形になってしまう場合があり、これを防止する為には、外から変形を防止する手段を設けねばならず、特許文献3に開示された様なモジュールでは複雑化及びコストアップを招くと共に、装置において空間的なロスも大きくなる。
さらに、脱気用チューブの脱気効率は、被脱気液体中の気体拡散と共に、チューブの内壁面から外へ、チューブ壁面(外層)内部の拡散も影響し、その(外層)厚みに逆比例し、厚みが薄いほど良くなるが、この観点から楕円形や繭型にすると、気体透過壁(膜)の厚みが薄いと、より変形し易くなるという、相反する問題がある。
【0007】
そこで、本発明者らは、真空減圧による脱気効率が高く、極端な偏平化による被脱気液体の閉塞や、キンクの発生がなく、連続的に製造可能な構成の細径脱気チューブについて鋭意検討して本願発明を完成した。
上記課題を解決するため、本発明は、下記の〔1〕〜〔5〕を提供する。
〔1〕フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、及び塩化ビニル樹脂から選択される1種の熱可塑性樹脂からなり、前記熱可塑性樹脂が充実した芯部と、該芯部から放射状に延設された複数のリブ部と、該複数のリブ部の外端間を連結する外環状部と、を備え、該リブ部によって分割され長手方向に連続した複数の中空部(通液部)が形成され、長手方向に直交する断面が略円形、又は略多角形状であって、外環状部の見なし外径平均値が5mm以下である、ことを特徴とする細径脱気チューブ。
〔2〕長手方向の見なし外径の変動率(CV値)が2%以下である前記〔1〕に記載の細径脱気チューブ。
〔3〕前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリメチルペンテンから選択される1種のポリオレフィン樹脂、又はペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体から選択される1種のフッ素樹脂である前記〔1〕又は〔2〕に記載の細径脱気チューブ。
〔4〕前記芯部と、該芯部から放射状に延設された複数のリブ部と、該複数のリブ部を連結する外環状部と、を備え、該リブ部によって分割された長手方向に連続した複数の中空部(通液部)が形成され、長手方向に直交する断面が略円形、又は略多角形状であって、外環状部の見なし外径平均値が5mm以下である細径脱気チューブを、ダイスを用いて製造するに際し、中央に芯部用孔と、該芯部用孔の外周から放射状に延びる複数の直線状孔と、該直線状孔の外端を連結する外環状孔と、前記芯部用孔と前記外環状孔及び前記直線状孔とで囲まれた領域内に中空部形成用内圧調整エアーの導入用貫通孔を設けたダイスを用いて、
内圧調整用エアーを前記導入用貫通孔から中空部内に導入しつつ、前記芯部用孔と前記外環状孔及び前記直線状孔よりなるダイス孔部から溶融した樹脂を垂直下方に押出し、これを引き落としつつ冷却、細径化して引き取る、ことを特徴とする細径脱気チューブの製造方法。
〔5〕前記冷却細径化は、ダイスから押出し、引き落とされた溶融状樹脂成形物を予備冷却しつつ、水槽中に設けられた真空サイジング装置に挿通して行う、前記〔4〕に記載の細径脱気チューブの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の細径脱気チューブは、中心に充実部を持つ細径脱気チューブとし、複数ある中空部に被脱気液体を通過させることができる構成としたので、キンク等が発生することなく効率的に脱気することができる。
また、本発明の細径脱気チューブの製造方法は、所定のダイスを用いて熱可塑性樹脂を溶融押出成形することにより連続して長尺のものが得られるので、生産性がよく、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る細径脱気チューブの1実施形態の断面図である。
【図2】同実施形態の概略斜視図である。
【図3】本発明に係る細径脱気チューブの製造方法の一例を示す概念図である。
【図4】本発明に係る細径脱気チューブの製造方法の他の例を示す概念図である。
【図5】本発明に係る細径脱気チューブの製造方法に用いるダイスの先端孔部形状の一例を示す断面図である。
【図6】本発明に係る細径脱気チューブの他の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、添付図面に示された各実施形態は、本発明に係わる代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0011】
図1は、本発明に係る細径脱気チューブの第1実施形態の断面図である。図2は、同実施形態の簡略斜視図である。図1中の符号1は、本発明に係る細径脱気チューブを示している。該細径脱気チューブ1のサイズや構造等は、本発明の効果が得られる範囲内において、目的に応じて適宜選定可能である。
【0012】
細径脱気チューブ1は、芯部10と、6本のリブ部12と、リブ部12を連結する外環状部14と、を備えている。芯部10とリブ部12と外環状部14とによって中空部Aが形成されている。なお、芯部10は熱可塑性樹脂が充実した構造となっている。この細径脱気チューブ1は図1では円形断面を示しているが、略円形や略多角形状であってもよく、外環状部14の見なし外径平均値を5mm以下としている。本発明において、見なし外径とは、後述する測定方法により測定した外径の平均値を言う。
見なし外径平均値を5mm以下とすることによって、実用レベルにおいても優れた特性を有する細径脱気チューブとすることができる。
【0013】
中心に充実部を持つ細径脱気チューブとし、中空部に被脱気液体を通過させることで、安価に、効率よく脱気することができる。
中央の充実部のサイズは、大きいと中空部が小さくなり、被脱気液体の通過抵抗(圧力損失)が大きくなる。小さすぎると拡散距離が長くなり効率が低下する。これらの観点から充実部の外径を、細径脱気チューブの外径の3/10〜7/10とすることが好ましい。
【0014】
本発明に係る細径脱気チューブ1は、側圧特性や曲げ特性等の機械的特性や、細径脱気チューブ構造の真円性あるいは正多角形性を、より良好に保つために、リブ部12を3本以上とすることが望ましい。リブの数が3本未満では、中空部に通液して脱気する際に、圧力差による変形が大きくなり、リブ数が多いと空隙率(被脱気液体を通過させる有効断面積)が小さくなるので、4〜6個が好ましい。特に6個(断面略6角形)の場合、モジュール化したときの端末部を6角ハニカム構造に最密充填することができるので好適である。
【0015】
また、細径脱気チューブ1の中空率については限定されず、適宜好適な中空率とすることができる。本発明に係る細径脱気チューブ1では、チューブ内の単位時間あたりの流体輸送量を低下させずにすみ、かつ圧力損失が大きくなって材質を高圧対応とすることも不要とできる。また、キンク等の発生も防止できる。本発明によれば、高い中空率を有しながらキンク等にも優れた細径脱気チューブとすることができる。この中空率とは、細径脱気チューブ1の断面積(芯部10、リブ12、外環状部14、中空部Aの各断面積の総和)に対する、細径脱気チューブ1の中空部Aの断面積の割合をいう。中空率として30〜60%が好ましい。
【0016】
本発明に係る細径脱気チューブの材料としては、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、及び塩化ビニル樹脂から選択される1種の熱可塑性樹脂が用いられる。
これらの熱可塑性樹脂は、気体透過性で液体不透過性の性質を有している。
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリメチルペンテンから選択される1種であることが好ましい。また、フッ素樹脂としては、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体から選択される1種のフッ素樹脂が好適に使用できる。
【0017】
本発明に係る細径脱気チューブは、長手方向の見なし外径変動率(CV値)を2%以下とすることが、モジュール端末部の加工性等、モジール化の作業性の観点から好ましい。本発明において、見なし外径変動率とは、連続製造しながら、得られた細径脱気チューブについて、中心軸の周囲±90°の角度を10秒間で往復回転する揺動式のレーザー外径測定器を使用し、40秒間を、毎秒50回の測定速度で外径を計測し、その1秒間に計測した外径(測定数:50)の平均値を見なし外径とする。
更に40秒間連続計測し、見なし外径の平均値とその標準偏差を求め、この見なし外径標準偏差を見なし外径平均値で除した値(変動係数)を%(変動率=CV値)で表示したものである。
見なし外径の変動率が2%を超えると、外径の変動に伴い、中空部の面積が変動して脱気圧が脈動するなど好ましくない場合がある。
【0018】
本発明に係る細径脱気チューブは、側圧特性に優れているため、曲げてもキンクやクラックが発生しない細径脱気チューブとして、幅広い用途に用いることができる。例えば、半導体製造用、医療用・生化学分析用細径脱気チューブ、各種装置の細径脱気チューブ等に用いることができる。
【0019】
本発明に係る細径脱気チューブは、微量の多種流体を送液する送液用細径脱気チューブとして用いることができる。通常の微細な細径脱気チューブであれば、多数本の細径脱気チューブを束ねる必要があるため曲げ難くなるとともに、曲げた際に細径脱気チューブ内の空間が潰れることがある。これに関して、本発明に係る細径脱気チューブであれば、側圧特性等に優れているため、細径脱気チューブ内の空間が閉塞されることなく確実に多種流体を送液することができる。
【0020】
例えば、医療用の薬液用の細径脱気チューブや、化学反応等を行うマイクロリアクター用の細径脱気チューブ等として用いることができる。
【0021】
各種分析機器用細径脱気チューブとして用いる場合には、微量試料を分析する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や各種分光測定機器やフローサイトメトリー等に用いられる送液用細径脱気チューブとして用いることができる。
複数の中空部Aを有するため、コネクター接続の工夫により1本のチューブで、複数の流体(液体やガス等)を細径脱気チューブによって送液できるため省スペース化ができる。また、細径脱気チューブを曲げても流路となる中空部Aが潰れることがないため好適である。
【0022】
各種装置の配管用細径脱気チューブとして用いる場合には、側圧特性に優れている細径脱気チューブであるため、曲げることで省スペース化が可能となる。
【0023】
本発明に係る細径脱気チューブの製造方法は、芯部と、該芯部から放射状に延設された複数のリブ部と、該複数のリブ部を連結する外環状部と、を備え、該リブ部によって分割された長手方向に連続した複数の中空部(通液部)が形成され、長手方向に直交する断面が略円形、又は略多角形状であって、外環状部の見なし外径平均値が5mm以下である細径脱気チューブを、ダイスを用いて製造するに際し、中央に芯部用孔と、該芯部用孔の外周から放射状に延びる複数の直線状孔と、該直線状孔の外端を連結する外環状孔と、前記芯部用孔と前記外環状孔及び前記直線状孔とで囲まれた領域内に中空部形成用内圧調整エアーの導入用貫通孔を設けたダイスを用いて、
内圧調整用エアーを前記導入用貫通孔から中空部内に導入しつつ、前記芯部用孔と前記外環状孔及び前記直線状孔よりなるダイス孔部から溶融した樹脂を垂直下方に押出し、これを引き落としつつ冷却、細径化して引き取る、ことを特徴とする。
【0024】
前記冷却細径化は、ダイスから押出し引き落とされた溶融状樹脂成形物を予備冷却しつつ、水槽中に導いて冷却するか或いは、減圧水槽と組み合わせた真空サイジング装置に挿通して行うことができる。
真空サイジング装置に挿通することによって、外径精度をより高めることができる。
以下、真空サイジング装置に挿通する製造方法について説明する。
【0025】
図3は、本発明に係る細径脱気チューブの製造方法の一例を示す概念図である。図5は、それに用いられるダイス孔部の一形態例である。図3の符号2は、細径脱気チューブの製造装置を示している。
【0026】
溶融した樹脂Pは、ダイス孔部3から押出されて、減圧水槽22でサイジングされて、細径脱気チューブ1が製造される。なお、本発明の製造工程では、真空サイジング装置のサイジングノズル221に挿通し、しかる後に水槽22に導いて冷却している。
これによって側圧、寸法特性に優れた細径脱気チューブを得ることができる。以下、各工程について説明する。
【0027】
ダイス孔部3から溶融した樹脂Pを押出しする。このダイス孔部3は、図5に示す如く、芯部用孔31と、この芯部用孔31の外周から放射状に延びる複数の直線状孔32と、この直線状孔32の外端間を連結する外環状孔33の孔を備えている。この芯部用孔31と外環状孔33と直線状孔32から、樹脂Pを押出し引き落とすことで、細径脱気チューブ1の形状とする(図1参照)。
【0028】
また、ダイス孔部3に内圧調整用エアーを導入するための貫通孔35を設けることが必要である。貫通孔35は、芯部用孔31と直線状孔32,32と外環状孔33とで囲まれた領域に設けられている(図5参照)。押出しする樹脂Pを所定速度で引き取る際に、これに伴って外部のエアーが、貫通孔35の後方から前方に通される(図3、図4の矢印a参照)。これによって、樹脂Pから成形される細径脱気チューブ1の中空部Aの内圧を均一化することができる。
【0029】
さらに、樹脂Pの押出しに伴って自然発生する空気流により中空部Aに内圧調整用エアーを導入してもよいし、積極的に所定圧力で加圧した内圧調整用エアーを導入することも可能である。
【0030】
なお、ダイス孔部から溶融樹脂を垂直下方に押出しこれを引き落としつつ冷却、細径化するに際して、ダイス開口部の面積と得られた細径脱気チューブとの断面積との関係から求められる、面積引落とし倍率は、下記式で求められる値であり、好ましい範囲としては、30〜4000倍であることが望ましい。このような数値範囲とすることで、吐出量をより安定させることができ、更には外径ムラを防止し、見なし外径変動率を2%以下にできるという点でより好適である。
面積引落とし倍率=(ダイス孔部の外環状部の外径)2/(細径脱気チューブの外径)2
【0031】
続いて、細径脱気チューブの賦形のためのサイジングを行う。これにより細径脱気チューブの形状を微調整する。サイジングは、図3に示すように減圧水槽22を用いて真空サイジングすることで行われる。減圧水槽22を設けることで、減圧条件下でサイジングしやすいように適度に樹脂を冷却できる。その結果、サイジングの精度を高めることができる。
【0032】
減圧水槽22は、サイジングノズル221を備えている。そして、樹脂Pの垂直下方への押出し方向と逆方向(矢印b)に冷却水を吐出する給水部222を備えている。給水方向は限定されないが、樹脂Pの押出し方向と同軸方向であることが望ましい。同軸方向とすれば、給水部222から吐出される水流が押出しされている樹脂に直接当たらないため、減圧水槽22内でチューブが踊ったり、その表面が波打つことを防止できる。
【0033】
減圧水槽22の入り口ではいわゆる溢流が起こりうるが、これに関してはサイジングノズル221の貫通孔2211、2212、2213から冷却水を減圧吸引することが望ましい。あるいは、減圧水槽22の水位を一定に保つことが望ましい。これらによって、外径の変動を少なくすることができる。また、外環の円周が同時に冷却されるので、真円性に優れた多孔チューブとすることができる。
【0034】
減圧水槽22、サイジングノズル221の長さは限定されず、適宜好適な長さに調節することができる。
また、ダイス面と減圧水槽のサイジングノズル221上面との距離(エアーギャップ)Gは、減圧水槽22自体を上下動可能として、エアーギャップGを調整することで、減圧水槽22の減圧水槽用サイジングノズル221でサイジングされる際に、溶融した樹脂Pがある程度降温し、かつサイジングに好適な温度で成形しつつ冷却効果も得ることができるために望ましい。なお、減圧水槽22、サイジングノズル221の長さは、押出し速度に応じて適宜選定することができる。例えば、押出し速度が高速の場合には長さを長く、押出し速度が低速の場合には長さを短くすればよい。
【0035】
例えば、溶融した柔らかい樹脂をいきなり減圧水槽22に入れてしまうと膨張してしまい、サイジングを行う際に詰まりを引き起こしてしまうが、本発明ではこのような現象を防止できる。また、樹脂Pに含有される添加剤等のブリード現象を防止できる。溶融状態である樹脂Pはサイジングによって急冷却されると、添加剤が樹脂表面からブリードアウトしてしまう。このブリード現象は冷却ムラの原因となるだけでなく、更には外径のムラの原因ともなりうるが、このような現象も防止できる。
【0036】
また、通常の減圧サイジングでは、樹脂を搾るようにサイジングする。そのため、このような細径脱気チューブの製造においては、高精度の形状制御が難しいといった問題が挙げられる。例えば、細径脱気チューブであれば、そのリブ部の形状制御等がとりわけ難しい。すなわち、搾るようにサイジングすればリブ部が潰れやすくなる。そこでサイジングノズル内径は、製品径より必ず大きめにする必要がある。
【0037】
このように、本発明に係る製造方法では、減圧サイジングを行なうことができる。より好適には、減圧サイジングノズルのサイジング径は所望する製品径よりも大きいサイジング径でサイジングを行うことが望ましい。次に、このサイジングされた樹脂Pは減圧されることでその径を外周方向に大きくしながら成形することが更に望ましい。これによって、より正確な形状制御が可能となり、その結果、より側圧、寸法特性に優れた細径脱気チューブを得ることができる。
【0038】
また、減圧水槽22では、真空ポンプ(図示せず)により水槽内の空気と冷却水とを同時に吸引するように設定することが望ましい。これにより、安定した減圧状態を作り出すことができる。
【0039】
各サイジングノズルは、製造する多孔チューブの形状や大きさ等を考慮して、適宜好適な形状のものとすることができるが、好適には、予定する外径よりもやや大きい口径であることが望ましい。また、サイジングノズルの材質は限定されないが、SUSや真鍮等を用いることができる。
【0040】
冷却細径化を、ダイスから押出し引き落とされた溶融状樹脂成形物を予備冷却しつつ、水槽中に導いて行う場合には、冷却に用いる冷却水槽は、図4に示すように前記の減圧水槽22において、減圧装置と、サイジングノズル221を備えていない冷却水槽23であって、ダイス21と冷却水槽23の水面間の距離Gを調整できる排水部225を備え、冷却水は、成形物の走行方向(矢印c)と逆方向に、給水管222から上部方向(矢印b)に流れ、排水部225から排出される。
【実施例】
【0041】
本発明に係る製造方法の効果を検証するために、種々の細径脱気チューブを製造し、その物性を測定・評価した。
【0042】
本発明において、面積引落とし倍率、真円率、見なし外径の変動率は、以下に記載の方法で測定した。
(1)面積引落し倍率
面積引落とし率(%)=(ダイス孔部の外環状部の直径)2/(細径脱気チューブの外径)2
(2)細径脱気チューブの真円率
真円率は、図1において外環状部13の最長径をa、最短径をb、平均外径をc(c=(a+b)/2)とした場合、下記数式で示される値であり、どれだけ細径脱気チューブが真円に近いかを示す。
真円率(%)=(1−(a−b)/c)×100
(3)見なし外径の変動率(CV値)
連続的に製造しながら、得られた細径脱気チューブについて、中心軸の周囲±90°の角度を10秒間で往復回転する揺動式のレーザー外径測定器(LDM−903M、タキカワエンジニアリング(株)製)を使用し、40秒間を、毎秒50回の測定速度で外径を計測し、その1秒間に計測した外径(測定数:50)の平均値を見なし外径とする。更に40秒間連続計測し、見なし外径の平均値とその標準偏差を求め、この見なし外径標準偏差を見なし外径平均値で除した値(変動係数)を%(変動率=CV値)で表示したものである。
上記における表現の定義を下記に示す。
外径:ある時点の1点の外径計測値
見なし外径:外径を50点/秒の速度で1秒間計測した値の平均値(50点の計測平均値)
見なし外径平均値:40秒間での見なし外径の平均値
見なし外径標準偏差:40秒間での見なし外径の標準偏差
見なし外径変動率(CV値)(%)=見なし外径標準偏差/見なし外径平均値×100
なお、細径脱気チューブが略多角形の断面形状である場合は、対角線の最長部を円の直径と見なして見なし外径変動率を評価した。具体的には揺動式のレーザー外径測定器で計測した値が最大値を示す回転位置で揺動を停止させ(即ちこの位置での計測が略多角形の対角線の最長部である)、その他は前記の方法と同一の方法で、40秒間を、毎秒50回の測定速度でこの対角線長さを計測し、その1秒間に計測した長さ(測定数:50)の平均値を見なし外径とし、更に同様に40秒間連続計測し、見なし外径の平均値とその標準偏差を求め、この見なし外径標準偏差を見なし外径平均値で除した値(変動係数)を%(変動率=CV値)で表示した。
【0043】
実施例1
300℃に加熱した図5に示す孔形状のダイスより、20m/minの速度で四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(以下、「FEP」と称す。)樹脂(三井・デュポンフロロケミカル製;TE9494、融点260℃)をチューブ状に成形した。直下にダイスとの距離Gを50mmとして、図3に示す減圧通水サイジング装置2を設け、サイジングノズル221の内径を0.94mmとし、下方に引き取り、見なし外径平均値0.92mmの細径脱気チューブを得た。断面形状を図1に示す。見なし外径標準偏差は0.0100mm、見なし外径変動率(CV値)は1.09%、真円率は96%となり、サイジング方式を用いることにより真円形状に近い形状が得られた。
【0044】
実施例2
300℃に加熱した図5に示す孔形状のダイスより、20m/minの速度で実施例1と同じFEP樹脂を押出しチューブ状に成形した。
直下にサイジングノズルを有しない図4に示す水冷却槽23を設け、ダイス21と水冷却槽23の水面間を30mmとし、水冷却槽に導いて連続的に引き取り、冷却し、見なし外径平均値0.48mmの細径脱気チューブを得た。断面形状は図1に示す形状であった。
得られた細径脱気チューブの見なし外径標準偏差は0.0094mm、見なし外径変動率(CV値)は1.96%、真円率は93%であった。
【0045】
実施例3
300℃に加熱した図5に示す孔形状のダイスより、20m/minの速度で実施例1と同一のFEP樹脂を押出しチューブ状に成形した。
成形の際形状が悪化しないよう、ダイスの空気孔35に0.10kg/cm2の圧力でエアーを送気ポンプにより導入した。ダイスから50mmの直下に減圧通水サイジング装置2を設けサイジングノズルの内径を1.41mmとし、当該減圧通水サイジング装置2に導いて引き取り、見なし外径平均値1.40mmの細径脱気チューブを得た。断面形状を図1に示す。見なし外径標準偏差は0.0200mm、見なし外径変動率(CV値)は、1.43%、真円率は96%であった。
【0046】
実施例4
200℃に加熱した図5に示す孔形状のダイスより、20m/minの速度でポリプロピレン樹脂(以下、「PP」という。)(プライムポリマー製;J106MG、融点160℃)を押出してチューブ状に成形した。
直下に水冷却槽23を設けダイスと水冷却槽の水面間を50mmとし、水冷槽に導き連続的に引き取り、冷却し、見なし外径平均値0.92mmの細径脱気チューブを得た。断面形状は図1に示す形状であった。見なし外径標準偏差は、0.0110mm、見なし外径変動率(CV値)は1.20%、真円率は93%であった。
【0047】
実施例5
260℃に加熱した図5に示す孔形状のダイスにより、20m/minの速度でポリメチルペンテン(以下、「PMP樹脂」という)(三井化学製;商品名:TPX RT18、融点237℃)を押出しチューブ状に成形した。
直下に水冷却槽23を設けダイス21と水冷却槽23の水面間を45mmとし、水冷槽に導き連続して引き取り、冷却し、見なし外径平均値0.92mm細径脱気チューブを得た。断面形状は図1に示す形状であった。見なし外径標準偏差は0.0120mm、見なし外径変動率(CV値)は1.30%、真円率は93%であった。
【0048】
実施例6
略6角形状で対角線の長さが0.5mm、すなわち見なし外径が0.5mmで、中央部に充実部、6個の中空部(リブ)を有する図6に示すような断面のPMP樹脂(実施例5に同じ)製の極細細径脱気チューブを作製した。溶融したPMP樹脂を、図5に示す孔形状のダイスを用いて、押出し成形することによって極細細径脱気チューブを得た。その際の条件は以下の様にした。
線速度は30m/分、加熱筒長(図示省略)は250mm、筒内加熱温度200℃(外気温度は19℃)、面積引き落とし倍率は280倍で行った。
得られたチューブの断面は図6に示すようにリブ部を頂点とする略6角形状をしていた。リブ部で形成される対角線を外径として、見なし外径平均値が0.50mm、見なし外径標準偏差が0.0070mm、見なし外径変動率(CV値)は1.40%であった。また、本実施例の断面形状は円形ではなく略6角形であり、真円率を評価するのは適切ではないが、本発明における定義に従って、真円率は90%であった。
なお、略6角形状になる原因は、PMP樹脂融点に対して加熱筒の筒内温度を、この融点近くの高温に設定した結果、冷却効率が低下し、リブを頂点として外環状部が内側に入り込み、6角形状を呈する結果となったものと思われる。
上記の実施例の結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の細径脱気チューブは、中心に充実部を持つ細径脱気チューブとし、複数ある中空部に被脱気液体を通過させることができる構成としたので、キンク等が発生することなく効率的に脱気することができ、各種理化学・分析機器や製薬、半導体、液晶等を含む各種の生産プロセス設備等において、液体(被脱気液体)から溶存気体を除去するのに真空脱気装置用細径脱気チューブとして利用できる。
また、本発明の細径脱気チューブの製造方法は、所定のダイスを用いて熱可塑性樹脂を溶融押出成形することにより連続して長尺のものが得られるので、生産性がよく、製造コストを低減することができる細径脱気チューブの製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 細径脱気チューブ
2 サイジング装置
3 ダイス孔部
11 芯部
12 リブ部
13 外環状部
21 ダイス
22 減圧水槽
23 冷却水槽
31 中央孔部
32 直線状孔部
33 外環状孔部
34 中空部形成ブロック
35 貫通孔
211 中空部用エアー導入孔
221 サイジングノズル
222 給水部(給水管)
224 減圧孔(排水孔)
225 排水孔(排水管)
2211、2212、2213 貫通孔(サイジンブノズル減圧孔)
A 中空部
G ダイス−サイジング装置面間距離
P 樹脂
a,b,c, 空気、水、成形物の流れ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、及び塩化ビニル樹脂から選択される1種の熱可塑性樹脂からなり、
前記熱可塑性樹脂が充実した芯部と、該芯部から放射状に延設された複数のリブ部と、該複数のリブ部の外端間を連結する外環状部と、を備え、
該リブ部によって分割され長手方向に連続した複数の中空部(通液部)が形成され、長手方向に直交する断面が略円形、又は略多角形状であって、外環状部の見なし外径平均値が5mm以下である、ことを特徴とする細径脱気チューブ。
【請求項2】
長手方向の見なし外径の変動率(CV値)が2%以下である請求項1に記載の細径脱気チューブ。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリメチルペンテンから選択される1種のポリオレフィン樹脂、又はペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体から選択される1種のフッ素樹脂である請求項1又は2に記載の細径脱気チューブ。
【請求項4】
前記芯部と、該芯部から放射状に延設された複数のリブ部と、該複数のリブ部を連結する外環状部と、を備え、該リブ部によって分割された長手方向に連続した複数の中空部(通液部)が形成され、長手方向に直交する断面が略円形、又は略多角形状であって、外環状部の見なし外径平均値が5mm以下である細径脱気チューブを、ダイスを用いて製造するに際し、
中央に芯部用孔と、該芯部用孔の外周から放射状に延びる複数の直線状孔と、該直線状孔の外端を連結する外環状孔と、
前記芯部用孔と前記外環状孔及び前記直線状孔とで囲まれた領域内に中空部形成用内圧調整エアーの導入用貫通孔を設けたダイスを用いて、
内圧調整用エアーを前記導入用貫通孔から中空部内に導入しつつ、前記芯部用孔と前記外環状孔及び前記直線状孔よりなるダイス孔部から溶融した樹脂を垂直下方に押出し、これを引き落としつつ冷却、細径化して引き取る、
ことを特徴とする細径脱気チューブの製造方法。
【請求項5】
前記冷却細径化は、ダイスから押出し、引き落とされた溶融状樹脂成形物を予備冷却しつつ、水槽中に設けられた真空サイジング装置に挿通して行う、請求項4に記載の細径脱気チューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−187549(P2012−187549A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54768(P2011−54768)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】