説明

細片および偽造防止用紙

【課題】特別な器具や装置を使わずとも容易に真贋を判定することが可能であり、かつ高い偽造防止効果を有する偽造防止材料を提供する。
【解決手段】温度が変化することにより色相が可逆的に変化する温度応答性塗工層を基材に設けた細片を作成する。これを偽造防止用紙に付与することにより、温度の変化による細片の変色効果を目視により判別することができ、容易に真贋判定が可能となる。当該温度応答性塗工層は2種類以上設けることで、より高度な効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真贋判定機能を有する材料に関するものである。詳しくは、偽造防止用紙に使用される細片に関するものであり、特に温度の変化により全く別の色相に変化することで、真贋の判定を容易かつ高度にすることが可能な細片、およびそれを含有した偽造防止用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣、商品券、株券、債券、小切手、宝くじ等の金銭的価値を有する有価証券類には、容易に偽造又は変造されない様に多種多様の偽造防止対策を施してある。また、オリンピック等の入場券やパスポート、その他各種の身分証明書についても同様である。
【0003】
ところで、近年の技術の進歩により、上記した有価証券類が、多色印刷機により印刷されるという方法、カラーコピー機により複写されるという方法、或いはパソコンに連動したデジタルスキャナーで画像を取り込みカラープリンターでプリントする方法等で偽造されることが多くなっている。最近では家庭用プリンターであっても、解像度や色相等が本物と見分けがつかないほど精巧に再現できるようになっているため、比較的簡単に偽造品を作製できるようになってきた。このようにデジタル機器を用いた偽造の増加が問題となっており、その偽造による被害が身近なものになっている。
【0004】
以上のような背景から、デジタル機器を使用した偽造を防止する技術として様々な提案がなされている。例えば特許文献1では、カラーコピー機等での複製が困難な中間色の色相を有し、かつ紫外線照射で発色する細片を有する偽造防止用紙が提案されている。特許文献2には、見る角度によって色の変化が生じる層が積層された細片を抄き込む偽造防止用紙が提案されている。特許文献3では、ホログラムを施したセキュリティ素子が提案されている他、真珠顔料印刷、紫外蛍光印刷や、これらを施した基材を加工してスレッドとして用いた偽造防止用紙の提案がなされている。
【0005】
また、ホログラムや真珠顔料は金属光沢や真珠光沢を有しており、カラーコピー機による印刷や、デジタルスキャナーで読み込んだ画像をカラープリンターにより出力する方法では金属光沢感や真珠光沢感を再現する事ができないため、偽造を防止する効果がある。例えば、本出願人は特許文献4において、基紙表面に真珠顔料と接着剤を主体とした部分的な被覆層を形成し偽造防止用紙を得ること、この用紙を使用して印刷を施し、偽造防止印刷物を得ることを提案した。また、特許文献5では、真珠光沢を付与した細片について提案した。
【0006】
以上のように偽造を防止する技術として様々なものが提案され、採用されている。しかしながら、偽造防止の技術を確立したとしても、新たな偽造の手段が次々と生み出されているのが現状であるため、新たに出現する偽造手段に対抗すべく、新規の偽造防止技術が常に求められている。さらには、前記のような印刷機やスキャナー等を用いた方法で容易に偽造できる結果、その偽造による被害も身近になっており、そのため特別な器具を使わずとも簡易的に真贋を判定できる偽造防止技術が必要とされている。例えば、商品券等を買い取る店において、持ち込まれた商品券を店員がその場で容易に真贋判定できるような技術が要求されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−73298号公報
【特許文献2】特開2005-15963号公報
【特許文献3】特表2006-528369号公報
【特許文献4】特開平6-313298号公報
【特許文献5】特開平7−243193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
容易に真贋判定を行うためには、ブラックライト、磁気検出装置のような特別な器具を使わないことが望ましく、簡易的に真贋を判定することのできるセキュリティ材料が効果的である。本発明は、新たな偽造防止用の材料として、このような簡易的に真贋判定をする手段として有効な新規の偽造防止材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題について鋭意研究した結果、温度の変化により色相が変化する層を基材に設け、それを小片化した細片を得ることで本発明の完成に至った。さらに当該細片を紙に抄きこむことで、今までに無い効果を有する偽造防止用紙を得ることができた。
【0010】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、基材の少なくとも片面に、温度が変化することにより色相が変化する温度応答性塗工層が設けられた細片である。
【0011】
本発明の請求項2に係る発明は、前記温度応答性塗工層が、温度が変化することにより可逆的に色相が変化することを特徴とする請求項1に記載の細片である。
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、基材が紙であることを特徴とする請求項1または2に記載の細片である。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、基材が透明多層膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の細片である。
【0014】
本発明の請求項5に係る発明は、基材に真珠光沢層を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の細片である。
【0015】
本発明の請求項6に係る発明は、基材に紫外線吸収層を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細片である。
【0016】
本発明の請求項7に係る発明は、色相の変化する温度が−4℃〜58℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細片である。
【0017】
本発明の請求項8に係る発明は、色相の変化する温度が25℃〜33℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細片である。
【0018】
本発明の請求項9に係る発明は、常温では同じ色相を呈するが常温以外の任意の温度では色相が異なる2種類以上の温度応答性塗工層が、基材の一方の面に存在するか、または基材の両面に分かれて存在することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の細片である。
【0019】
本発明の請求項10に係る発明は、常温では異なる色相を呈するが常温以外の任意の温度では色相が同一になる2種類以上の温度応答性塗工層が、基材の一方の面に存在するか、または基材の両面に分かれて存在することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の細片である。
【0020】
本発明の請求項11に係る発明は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の細片が用いられていることを特徴とする偽造防止用紙である。
【0021】
本発明の請求項12に係る発明は、異なる色相変化を示す2種類以上の細片が用いられていることを特徴とする請求項11に記載の偽造防止用紙である。
【0022】
本発明の請求項13に係る発明は、2種類以上の細片が、常温では同じ色相を呈するが常温以外の任意の温度では色相が異なることを特徴とする請求項12に記載の偽造防止用紙である。
【0023】
本発明の請求項14に係る発明は、2種類以上の細片が、常温では異なる色相を呈するが熱変化後の色相が同一になることを特徴とする請求項12に記載の偽造防止用紙である。
【発明の効果】
【0024】
本発明による細片を用いた偽造防止用紙は以下に記載する効果を奏するため、紙幣、商品券、パスポート、株券、身分証明書、カード、入場券、株券、小切手等の偽造防止対策として好ましく使用することができる。
(1)温度の変化による細片の変色効果を目視することにより容易に真贋判定が可能となる。
(2)真珠光沢を有する細片は、可視光下で見る角度により色相が連続して変化するカラーシフト効果を有しており、それを目視することにより容易に真贋判定することができる。
(3)上記(1)と(2)の効果を目視で同時に確認する事が可能であり、しかもこの検出には特別な技術器具を要しないため、容易に真贋判定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の第一の形態は、温度が変化する事により色相の変化する温度応答性塗工層を少なくとも基材に設けて、それを小片化した細片である。当該細片は温度条件の変化により色相が変化するため、目視による真贋判定が可能となる。例えば細片を指で触れた際に、その体温の熱に応答して細片の色相が変化するように設計しておけば、誰でもその真贋の判定を容易に識別することができる。
【0026】
温度応答性塗工層に用いる材料は、従来から知られている電子供与性呈色性有機化合物と、フェノール性水酸基を有する化合物と、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類のいずれかより選ばれた有機溶媒との三成分からなるサーモクロミック材料である。電子供与性呈色性有機化合物は、例えばジフェニルメタンフタリド類、トリフェニルメタンフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、アゾメチン類、ロイコオーラミン類、スピロピラン類、ローダミンラクタム類、ジアザローダミンラクトン類、ナフトラクタム類、フェノチアジン類、トリアゼン類、スピロフタランキサンテン類があるがこれらに限定されるものではない。フェノール性水酸基を有する化合物としては、例えばモノフェノール類、ポリフェノール類等があり、具体的には特開昭49−78682号公報や特開昭61−9488号公報に記載されたものが挙げられるがこれらに限定されるものではない。サーモクロミック材料は市販されているものが使用可能である。
【0027】
前記サーモクロミック材料は、例えば粒子径0.1〜50μmの微小カプセルに内包したものが好適に用いられる。サーモクロミック材料の温度による色変化には、材料の選定により、可逆的に変化するもの、準可逆的に変化するもの、不可逆的に変化するものの3つのタイプがあるが、いずれを用いてもよい。
【0028】
当該温度応答性塗工層を形成する塗料には、前記サーモクロミック材料に加えて、バインダーとしてメラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ニトロセルロース、環化ゴム、塩化ゴム等の単独あるいは混合物を使用でき、当該バインダーをトルエン、酢酸エチル、メチル・エチル・ケトン、アセトン、ガソリン等の石油系溶剤等の有機溶剤に溶解して使用する。バインダーとしては、他にもロジン変性フェノール樹脂を乾性油(アマニ油等)と高沸点溶剤で溶解したオフセット印刷インキ用のビヒクルにしたもの、或いは、SBRラテックス、MBRラテックス、酢酸ビニルエマルジョン、アクリル酸エステルエマルジョン、ポリビニルアルコール系樹脂等の水系のバインダーを使用することができる。
【0029】
温度応答性塗工層の色相の変化としては、例えば次のようなものがある。一つは、色相が変化する温度以下では有色であって色相変化温度を超えると白色に変化するものであり、具体的には黒色から白色へ変化するもの、青色から白色へ変化するもの等がある。別のものとしては、色相変化温度以下では有色であって色相変化温度を超えると元の色相とは異なる有色に変化するものがあり、具体的には黒色から青色へ変化するもの、緑色から黄色に変化するもの等が挙げられる。もちろん、これら以外の色相変化も設計可能である。色相変化の設計は、顕色剤の選定、有色染料および/または顔料との組み合わせにより幅広い選択性があるため、目的に応じて適宜選択して用いることができる。
【0030】
また、温度応答性塗工層は、温度が変化することにより可逆的に変化することが好ましい。いったん色相が変化した場合でも、元の色相へ戻ることができれば、繰り返し使用することができ実用的であるからである。
【0031】
本発明で用いる基材としては、紙、合成紙、不織布、フィルム等が用いられる。基材として紙を用いた場合、細片化後に用紙に抄き込む際に用紙との接着力が高いので好ましい。また、基材として不織布やフィルムを用いた場合は、厚みの薄いものを採用できる点で好ましい。なお、透明なフィルムを採用すると、後述するように温度応答性塗工層を設けない面も温度応答性塗工層の影響により色相を変化させることができるため好ましい。
【0032】
基材に用いる紙としては、製紙用として一般的に用いられている木材パルプを主体にして、これに必要に応じて非木材パルプやカチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ、ミクロフィブリル化パルプ、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル等の再生繊維、半合成繊維、合成繊維を適宜混合し、これに填料、紙力増強剤、サイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、消泡剤、染料、顔料等の一般的な製紙用薬品を適宜添加して抄紙したものを用いることができる。特に細片を製造する際のサーモクロミック材料や真珠顔料等の塗料の塗工適性や耐水性を考慮して、サイズ度や湿潤紙力強度が大きいことが好ましい。基材に用いる合成紙としては、例えばポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、エチレンープロピレン共重合体、エチレンー酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド等を原材料とし、延伸法により製造した物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。基材に用いる不織布としては、例えばレーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル、綿、パルプ、麻、羊毛、ガラス繊維等の材料を使用して乾式、湿式、直接式で製造したものが挙げられるが、これらに限定されない。基材に用いるフィルムとしては例えば、PET、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等のフィルムが用いられるが、これらに限定されるものではない。なお、基材としては、各塗料を塗工する際に必要な強度や剛度が必要であり、紙や合成の場合は20〜50g/m程度のものが好ましい。フィルムや不織布の場合は、6〜45g/m程度のものが好ましい。
【0033】
温度応答性塗工層を基材へ設ける方法は、公知の塗工技術を用いて行うことができる。例えば、ロッドコーター、バーコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、ダイコーター、ゲートロールコーター、サイズプレスコーター、各種印刷機等の塗工方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
基材に設ける温度応答性塗工層は、好ましくは基材の両面に設けるとよい。得られた細片が偽造防止用紙に抄き込まれる場合、該用紙の表面において細片のいずれの面が露出するかが予測できないため、両面に温度応答性塗工層を設けておくと効率がよいからである。
【0035】
基材へ設ける温度応答性塗工層の塗工量としては、塗料成分にもよるが、2〜19g/mが好ましい。2g/m未満だと発色が弱いため色相の変化を確認することが困難であり、19g/mを越えて塗工して発色の強さが増加しないため無駄である。
【0036】
基材は、本発明の性能に影響を及ぼさない程度に着色されていてもよい。当該着色された基材からなる細片を偽造防止用紙に適用した場合、細片の存在する箇所を見つけやすく、その結果真贋判定が容易となる。基材を着色する方法は特に限定はなく、既存の染料や着色顔料を用いることができる。ただし、濃色に着色した場合、偽造防止用紙の印刷情報や金額情報等と位置が重複することで必要な情報が判別できなくなる恐れがあるため好ましくない。
【0037】
本発明では、温度応答性塗工層を設けた基材を小片化することで細片が得られる。細片は、目的に応じた形状、長さ、面積になるように小片化すればよい。形状としては、例えば、円、楕円、正方形、長方形、ひし形、三角形、星型、三日月形、多角形など任意の形状が選択可能である。小片化の方法としては、特に指定は無いが、シュレッダーを使用する方法、前記形状の歯形を使用して打ち抜く方法、又はマイクロスリッターで基材を細長く切ってそれをさらに細かく切断する方法等が採用できる。細片の大きさの目安は、長さとして0.2〜10mm程度がよいが、色相の変化を容易に判別するためには細片は大きい方がよい。
【0038】
また本発明では、基材として、真珠光沢顔料を内包するものが好ましい。このような基材を用いると、反射光下におけるカラーシフト効果と温度変化による色相変化の効果の両方を組み合わせる事ができ、その複雑な色相変化を偽造するのが困難となる。カラーシフト効果とは、対象物との視野角を変化させていくと、反射光が徐々にシフトすることで色が変化するこという。たとえば、真珠光沢を有する透明多層膜を使用すると、より高い偽造防止効果を得ることができる。
【0039】
前記の真珠光沢を内包する基材としては、例えば天然パールエッセンスや雲母粉末、塩基性炭酸塩、酸化チタンコート雲母粉末、金属酸化物被覆雲母粉末、ベンガラ被覆雲母粉末等を内添した紙が利用できる。または、特開平5−222700公報で紹介されているような基紙に真珠顔料をスプレー装置により散布した真珠光沢紙が挙げられる。これらのような真珠顔料の製造方法は特に限定されるものではなく、従来から既知の製造方法(例えば、特公昭53−47375号、特公昭54−34010号、特開昭58−149959号等の公報に記載されている方法)で得られたものが使用できる。これ以外にも、真珠光沢を内包する基材としては、真珠顔料を樹脂に練りこんでフィルム化したもの等が挙げられる。
【0040】
また、前記の透明多層膜とは、2種類以上の屈折率の異なるポリマーを複数積層させたものであり、光干渉現象により真珠光沢を呈するフィルムである。例えば、高屈折率と低屈折率のポリマーを繰り返し100層以上積層させたものを用いることができる。真珠光沢は、正反射光で見ると虹彩色に輝いて見えるという特徴があるため、カラーコピーやデジタルスキャナーで読み込んでプリンターで出力するなどの複写方法では再現できない事が知られている。そのため、透明多層膜を用いることにより、カラーシフト効果のみならずこのような複写防止効果をも付与することができる。さらには、真珠光沢を有する透明多層膜のフィルム上に設けられた着色塗工層を、フィルムを介して見ることで、フィルム本来の色相が混合された新たな色相が生み出される。そして、既述のように本発明では更に温度変化により着色塗工層の色相も変化するため、そのカラーシフト効果は非常に複雑なものとなり、その結果、高度な偽造防止効果が得られる。
【0041】
また本発明においては、真珠光沢を有する塗工層を基材上に設けることでもカラーシフト効果を発揮するため、前記の真珠光沢紙や透明多層膜を使用したときと同様の偽造防止効果を得ることができる。前述の真珠光沢を有する透明多層膜を用いた場合、その色相は各層の厚さおよび総厚により変化するため、小ロットでの生産はコスト面での懸念があるが、真珠光沢を有する塗工層を設ける方法では、顔料を変える事でフィルムの生産に比べ低いコストで多岐にわたるバリエーションを増やせるという利点もある。
【0042】
真珠光沢を有する塗工層に用いることのできる顔料としては、天然パールエッセンスや雲母粉末、塩基性炭酸塩、酸化チタンコート雲母粉末、金属酸化物被覆雲母粉末、ベンガラ被覆雲母粉末等が挙げられる。このような真珠顔料の製造方法は特に限定されるものではなく、従来から既知の製造方法(例えば、特公昭53−47375号、特公昭54−34010号、特開昭58−149959号等の公報に記載されている方法)で得られたものが使用できる。当該真珠顔料は接着剤と混合して基材に塗工される。接着剤としては、真珠顔料を基材に固着可能にするものであれば特に限定はないが、例えば超微細なフィラーにより複合化されたバインダー粒子の水性分散液が使用できる。超微細なフィラーとしてはコロイダルシリカ、アルミナゾル等が使用でき、バインダーとしてはアクリル系重合体エマルジョン、シラン基付加オレフィン系重合体エマルジョン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン等が使用できる。真珠光沢を有する塗工層は、前述したような公知の塗工技術を用いて設けることができ、その塗工量は本発明の性能を損なわない程度が好ましく、2〜12g/m程度がよい。2g/m未満では真珠光沢の効果を得られにくく、また12g/mを超えて塗工した場合には、相応の効果が得られないため無駄である。ただし、真珠光沢を有する塗工層を基材上に設ける際には、本発明の色相変化の効果に影響を与えないように注意する必要がある。そのため、温度応答性塗工層の上に真珠光沢を有する塗工層を設ける場合は、その塗布量を温度応答性塗工層の量に応じて調整すべきであり、塗工量としては例えば2〜5g/m程度がよい。
【0043】
本発明では、基材に紫外線吸収能を持った樹脂層を設ける事ができる。これを設けることにより、温度応答性塗工層に用いる材料の耐光性を向上させることができるため、長期間にわたり流通あるいは保管されるような使用方法をする場合にも好適に使用することができる。当該紫外線吸収能を持った樹脂層は温度応答性塗工層の光劣化を防ぐ目的で設けるため、温度応答性塗工層よりも光が当たる側に当該紫外線吸収層が存在するように使用するとよい。例えば光が当たる側から、紫外線吸収層、温度反応性塗工層、基材の順になるように使用する。あるいは、紫外線吸収層、基材、温度反応性塗工層の順でもよく、基材、紫外線吸収層、温度反応性塗工層の順でもよい。ただし、該基材を細片化して紙に抄き込む場合に、基材の一方の面のみを光が当たる側へと抄き込むことが困難なので、両面の最外層に3紫外線吸収層を設けることが好ましい。
【0044】
紫外線吸収能を持った樹脂層に用いられる樹脂は、公知のものを用いることができる。特に、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系等の透明樹脂が好ましく用いられる。その理由は、紫外線吸収層がその機能上温度応答性塗工層よりも光が当たる側に配置されているためである。よって、酸化チタンのような紫外線吸収能と同時に不透明性も付与するようなものを用いると、色相変化効果の視認性を妨げる可能性があるため好ましくない。紫外線吸収層は本発明の性能を阻害しない程度に設けるべきであるため、その塗工量は0.4〜3.0g/mとする。塗工方法は前述の公知技術を用いるとよい。
【0045】
本発明において、温度応答性塗工層に用いる材料の色相が変化する温度は−4℃〜58℃の範囲であることが好ましい。そして、特にその変化温度を25〜33℃に設定することが好ましい。この温度範囲に該当する材料を用いることで、人間の体温程度でも色相を変化させることができるため、冷却装置や加熱装置等の特別な装置が必要無く容易に真贋判定を行うことが可能となる。色相変化温度が25℃未満の場合、気温が25度以上になる季節や場所では色相変化を確認するために何らかの冷却手段を用いる必要がある。その際には冷却スプレー、冷却シート、氷嚢、冷却機等の簡便な物を用いて冷却すればよい。ただし、色相変化温度が−4℃未満になると特別な冷却装置が必要となり、その結果簡便に真贋判定を行うことができなくなるため好ましくない。また、色相変化温度が33℃より高くなると、人間の手の表面温度程度では変化し難いため、何らかの加熱手段が必要となる。この際、なるべく簡便な手段がよく、例えばストーブ、加熱ヒーター、カイロ、蛍光灯の熱、湯たんぽ、温熱シート等を用いることで、色相変化を確認することができる。ただし、色相変化温度が58℃より高くなると、特別な加熱装置が必要となり、簡便に真贋判定を行うことができなくなる可能性があり、好ましくない。
【0046】
本発明において、温度応答性塗工層は2種類以上設けてもよい。異なる2種類以上の層を設けることにより、各温度応答性塗工層の効果を合わせることができるため、複雑な色相変化が得られる。当該2種類以上の温度応答性塗工層は基材の片面に設けてもよい。例えば、基材の片面において、2種類以上の温度応答性塗工層が任意の模様を形成するように設けるとよい。これにより、ある温度帯では視認できない模様が別の温度帯で視認できるようになるという効果が得られる。具体的には、常温では同一の色相を呈するが、常温以外の任意の温度に変化した際に異なった色相を示す2種類以上の温度応答性をストライプを形成するように基材上に配することで、常温では同一色に見えるが常温以外の温度を変えることによって初めてストライプの模様を確認する事ができるようになる。このように、単に色相が変化するだけでなく、模様の種類によりさまざまな意匠性を与える事ができるようになる。そのため、用途や使用者に応じて個性のある特徴を与える事ができるようになるので、実用性に優れ、且つ偽造防止効果の高い細片を得ることができる。このような任意の模様を形成する場合は、塗工機ではなく印刷機を用いるとよい。なお、本発明でいう「常温」とは日常的な気温を指し、季節や時間帯や場所によって異なるが具体的には12℃〜28℃程度の気温を指す。
【0047】
あるいは、基材の表裏に異なる温度応答性塗工層を1種類以上ずつ設けてもよい。当該塗工層を設けた基材を細片化して紙に抄き込む場合に、基材の一方の面のみを人間が視認できる側になるように抄き込むことが困難なので、基材の表裏に異なる温度応答性塗工層を設けて紙に抄き込むことで、いずれの面も人間が視認可能となり、偽造防止効果としても2種類以上の色相変化効果が得られるため好ましい。
【0048】
別の例として、常温では異なる色相を呈するが、常温以外の任意の温度に変化後には同一の色相を示す2種類以上の温度応答性塗工層を任意の模様を形成するように基材上に配することで、または基材の表裏にそれぞれ設けることで、常温では確認できた模様や色相が温度変化後には見えなくなるという効果が得られる。これも偽造防止効果や意匠効果として有効である。
【0049】
本発明の第二の形態は、本発明の第一の形態である細片を紙に付与した偽造防止用紙である。当該細片を偽造防止用紙に適用するためには、細片と該用紙とが接着する必要がある。そのためには、細片の基材に設けられた温度応答性塗工層と反対側の面および/または温度応答性塗工層の上に接着剤層を設けることが好ましい。接着剤層としては、冷水には不要であるが熱水に可溶な接着剤を用いるとよい。これは、抄紙機のウェットパートで溶解すると温度応答性塗工層が溶出する恐れがあるので冷水に不溶であることが必要であり、また乾燥工程の熱で膨潤または溶解して用紙と接着する性質が必要であるからである。そのような性質を持つものとしては水溶性バインダーが有効であり、例えば澱粉系、メチルセルロース系、カルボキシル化セルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルピロリドン系、ビニルエチルエーテル−無水マレイン酸共重合体系、ポリアクリル酸系、ポリエチレンオキサイド系等のうち、冷水には不溶で熱水で溶解するものを使用するとよい。この接着剤層はエアナイフコーターやロールコーター等の公知の塗工機を用いて、片面あたり2〜10g/mの塗工量を設ける。この接着剤層は基材の片面に設ければよいが、細片が用紙から脱落するのを防ぐためにも基材の両面に設けておくと効果的である。当該接着剤層を設ける場合、細片に直接設けてもよいが、細片化する前の基材に設ける方が作業の効率がよい。
【0050】
細片を紙中に付与する方法としては公知の手法が採用される。例えば、細片を水に懸濁させて紙料に添加し、これを一般の抄紙工程で抄紙してもよい。しかしながら、細片が紙の内部ではなく紙の表面近くに広く偏在するように抄き込む方が効率的かつ実用的である。細片を表面近くに広く偏在させる方法としては、例えば、特開平7−145600で提案されている装置を用いて長網抄紙機上の紙匹に細片を均一に振りかける方法や、特開平7−207599で提案されているように多層抄き紙の最外層に細片を含ませる方法が挙げられる。
【0051】
本発明において、細片を付与する紙の原料には特に限定はなく、例えば木材パルプや麻、綿、藁等の非木材パルプ等を適宜配合して叩解し、これに必要に応じて合成繊維、半合成繊維、無機繊維等を混合したものが使用できる。これに填料、紙力増強剤、サイズ剤、定着剤、歩留まり向上剤、濾水性向上剤、消泡剤、染料、顔料等といった一般的に使用される製紙用薬品を適宜添加し、紙料を調製する。叩解度は150〜580mLc.s.f.程度で抄紙するとよい。抄紙方法は一般的な抄紙機を用いればよく、坪量は使用目的にもよるが30〜160g/m程度がよい。
【0052】
本発明では、2種類以上の細片を用いた偽造防止用紙としてもよい。異なる色彩を有する2種類以上の細片を抄き込んだり、異なる色相変化を示す2種類以上の細片を抄き込んだりすることで、偽造がさらに困難となるため偽造防止効果が高まる。例えば、2種類以上の細片が、常温では同じ色相を呈するが常温以外の温度へ変化した際に色相が異なる場合、それらを用いて得られる偽造防止用紙は、常温では同一色に見えるが温度を変えることによって初めて2種類以上の細片の存在が判別できるようになる。同様に、2種類以上の細片が、常温では異なる色相を呈するが常温以外の温度へ変化した際の色相が同一になるように設計することでも、得られる偽造防止用紙は常温以外の任意の温度で色相が一つになり、偽造の判別を行うことが可能となる。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
基材として針葉樹晒クラフトパルプ40質量部、広葉樹晒クラフトパルプ60質量部を380mLc.s.fに叩解し、これに紙力増強剤(商品名「ポリストロン117」、荒川化学工業(株)製)0.4質量部、サイズ剤(商品名「サイズパインG−F」、荒川化学工業(株)製)1.0質量部、硫酸バンドを2.0質量部加えて紙料を調製し、長網抄紙機を使用して坪量35g/mの基紙を抄造した。この基紙の片面に、温度応答性塗工層として示温グラビアインキ(商品名「クロミカラー ブラックtoホワイト“温度タイプ27”」、(株)松井色素化学工業所製)をグラビアコーターで8g/m塗工した。基紙のもう一方の面にはポリビニルアルコール(クラレポバール117、クラレ(株)製)の5質量%水溶液を、エアナイフコーターで4g/m塗工した。これを打ち抜き機で5mm×6mmの長方形に打ち抜き、細片を得た。この細片は、25℃に設定された室温では黒色を呈しており、27℃に昇温すると色相の変化が30秒以内に現れて灰色になり、30℃に昇温すると完全な白色に変化した。30℃から25℃条件下に戻すと、20秒ほどで元の黒色に戻った。
【0054】
[実施例2]
基材として厚さ16μmの透明多層膜(商品名「MLF16.5」、帝人デュポン(株)製)を用い、この片面に温度応答性塗工層として示温グラビアインキ(商品名「クロミカラー ブラックtoホワイト“温度タイプ27”」)をグラビアコーターで8g/m塗工した。基紙のもう一方の面にはポリビニルアルコール(クラレポバール117、クラレ(株)製)の5質量%水溶液を、エアナイフコーターで4g/m塗工した。これを打ち抜き機で5mm×6mmの長方形に打ち抜き、細片を得た。これにより得られた細片は、25℃条件下では温度応答性塗工層は黒色を呈しておりフィルム面側から目視で見ると、角度によって緑から赤に変化するカラーシフト効果が際立って見えた。そして、30℃に昇温すると温度応答性塗工層は白色に変化し、フィルム本来の桃色が見て取れた。フィルム本来の効果は変わらないが、裏面の色相が変化するため、あたかもフィルム自体の色相と効果が変化しているように見え、独特の意匠性を得ることができた。さらに30℃から25℃条件下に戻すと、温度応答性塗工層は黒色に戻った。
【0055】
[実施例3]
ウレタン樹脂バインダー(商品名「ラミックF220」、大日精化工業(株)製)を固形分15%になるように希釈した。この溶液に真珠顔料(商品名「イリオジン225」、メルク(株)製)を総固形分が25%になるように添加、分散した塗料を作成した。この塗料を厚さ16μmの透明PETフィルム(商品名「ルミラー16S28」、東レ(株)製)の片面にグラビアコーターにて10g/m塗工して真珠光沢層を有するフィルムを作成した。続いて、この真珠光沢層を覆うように示温グラビアインキ(商品名「クロミカラー ブラックtoホワイト“温度タイプ27”」)をグラビアコーターで8g/m塗工した。基紙のもう一方の面にはポリビニルアルコール(クラレポバール117、クラレ(株)製)の5質量%水溶液を、エアナイフコーターで4g/m塗工した。これにより得られたフィルムは、25℃条件下では温度応答性塗工層は黒色を呈しておりフィルム面側から見ると、青色の真珠光沢が際立って見えた。この得られたフィルムを打ち抜き機で5mm×6mmの長方形に打ち抜いて、細片を得た。この細片は、30℃に昇温すると温度応答性塗工層は白色に変化し、一見すると細片は白色に見えるが角度によっては青色や黄色の真珠光沢をも確認する事ができた。真珠光沢層の色相は変化していないが、裏面の色相の明度が低いと真珠光沢が際立って見える特徴を利用しており、独特の意匠性を得ることができた。再び、30℃から25℃条件下に戻すと、温度応答性塗工層は黒色に戻り、細片は青色の真珠光沢が見えた。
【0056】
[実施例4]
実施例2で得られたフィルムの温度応答性塗工層側の上から、紫外線吸収性能を有した樹脂(商品名「ULS−1935」、一方社油脂工業(株)製)をグラビアコーターで1g/m塗工した後、打ち抜き機で5mm×6mmの長方形に打ち抜いて、細片を得た。
【0057】
実施例2と実施例4で得られた細片を共に耐光性試験機(ATLAS Ci4000、東洋精機(株)製)に供し、連続的に紫外線を照射した(波長340nm、ブラックパネル温度65℃、槽内温度25℃、相対湿度50%、照度0.50W/m)。実施例2で得られた細片は、試験前は25℃条件下で黒色を呈していたが、紫外線を6時間照射したところ温度応答性塗工層が灰色に変化しており、17時間の照射で完全に白色に変化し、照射をやめても黒色には戻らなくなった。これに対し実施例4で得られた細片は、試験前は25℃条件下で黒色を呈していたが、6時間の紫外線照射後もその色相(黒色)は変化しておらず、その機能も失われていなかった。そして、17時間の照射後においては、温度応答性塗工層の色相は灰色に変化し、これが完全に白色に変化し且つ黒色に戻らなくなるまでには35時間の紫外線照射を要した。これにより、実施例4の細片は紫外線に対する耐性が向上していることを確認した。
【0058】
[実施例5]
実施例1で得られた基紙の片面に示温グラビアインキ(商品名「クロミカラー ブラックtoピンク“温度タイプ27”」、(株)松井色素化学工業所製)をグラビアコーターで8g/m塗工した。さらに、基紙の反対側の面に示温グラビアインキ(商品名「クロミカラー ブラックtoホワイト“温度タイプ27”」をグラビアコーターで8g/m塗工し、温度応答性塗工層を表裏に形成させた。さらに、基紙の両面にポリビニルアルコール(クラレポバール117、クラレ(株)製)の5質量%水溶液を、エアナイフコーターで3g/m塗工した。これを打ち抜き機で5mm×6mmの長方形に打ち抜いて、細片を得た。これにより得られた細片は25℃条件下では温度応答性塗工層は黒色を呈していたが、30℃に昇温すると表裏がそれぞれ桃色と白色を呈した。
【0059】
[実施例6]
基材として厚さ16μmの透明多層膜(商品名「MLF16.5」)を用意し、この片面に示温グラビアインキ(商品名「クロミカラー ブラックtoブルー“温度タイプ27”」、(株)松井色素化学工業所製)を用いてストライプパターンを3mm間隔で印刷した(基材上に印刷が施された箇所と非印刷箇所がストライプ状に3mm間隔で交互に並ぶようにした)。さらに、このストライプパターンを覆うように全面に示温グラビアインキ(商品名「クロミカラー ブラックtoホワイト“温度タイプ27”」を塗工し、温度応答性塗工層を形成させた。基紙のもう一方の面にはポリビニルアルコール(クラレポバール117、クラレ(株)製)の5質量%水溶液を、エアナイフコーターで4g/m塗工した。得られたフィルムは、25℃条件下では温度応答性塗工層は黒色を呈しておりストライプパターンは見ることができなかった。フィルム面側から見ると、角度によって緑から赤に変化するカラーシフト効果が際立って見えていた。そして、30℃に昇温すると青色と白色のストライプパターンが浮かび上がった。フィルム面から見ると白色の部分はフィルム本来の桃色に、青色の部分はフィルムの桃色と合わさり紫色に見えた。これにより、温度が変化する事でパターンが浮かび上がるフィルムが得られる事を確認した。これを打ち抜き機で5mm×6mmの長方形に打ち抜いて、細片を得た。
【0060】
[実施例7]
基材として厚さ16μmの透明多層膜(商品名「MLF16.5」)を用意し、この片面に示温グラビアインキ(商品名「クロミカラー ニューボーンtoホワイト“温度タイプ27”」、(株)松井色素化学工業所製)を用いてストライプパターンを3mm間隔で印刷した(基材上に印刷が施された箇所と非印刷箇所がストライプ状に3mm間隔で交互に並ぶようにした)。さらに、このストライプパターンを覆うように全面に示温グラビアインキ(商品名「クロミカラー ファストブルーtoホワイト“温度タイプ27”」、(株)松井色素化学工業所製)を塗工し、温度応答性塗工層を形成させた。基紙のもう一方の面にはポリビニルアルコール(クラレポバール117、クラレ(株)製)の5質量%水溶液を、エアナイフコーターで4g/m塗工した。これにより得られたフィルムは、25℃では白と青色のストライプパターンが見えた。フィルム面から見ると緑から赤に変化するカラーシフト効果が見られる部分と青から紫に変化するカラーシフト効果が見られる部分とがストライプパターンを形成していた。これを30℃条件下に置く事でいずれの温度応答性塗工層も白色に変化し、フィルム本来の桃色が見て取れた。これを打ち抜き機で5mm×6mmの長方形に打ち抜いて、細片を得た。
【0061】
[実施例8]
<紙料の調製>
NBKP20質量部、LBKP80質量部を350mlC.S.F.に叩解し、これに白土10質量部、紙力増強剤(商品名「ポリストロン117」、荒川化学工業(株)製)0.4質量部、サイズ剤(商品名「サイズパインE50」、荒川化学工業(株)製)1.0質量部、さらに硫酸バンドを2.0質量部加え、紙料を調製した。
<用紙の抄造>
長網抄紙機を使用して坪量110g/cmの基紙を抄造時に実施例の各細片を抄紙網上の紙層形成前の紙匹に特開平7−145600記載の装置を使用して均一に振りかけた。細片の分布密度は用紙10×10cm当たり30〜40個となるように装置を調整した。後は常法に従い乾燥を行い、用紙を得た。
【0062】
実施例1〜7で得られた各細片を実施例8の手法で用紙に抄き込んだところ、次のような効果が生じた。
(1)実施例1で得られた細片を抄き込んだ用紙を確認したところ、半分程度の細片は温度応答性塗工層側が用紙表面の視認できる側に抄き込まれていた。当該細片の温度応答性塗工層側は紙に抄き込まれる前と同様に25℃に設定された室温では黒色を呈しており、30℃に昇温すると白色に変化した。そして、30℃から25℃条件下に戻すと元の黒色に戻った。
(2)実施例2で得られた細片を抄き込んだ用紙を確認したところ、半分程度の細片は温度応答性塗工層側が用紙表面の視認できる側に抄き込まれていた。25℃では、細片の温度応答性塗工層側が黒色であり、反対面側(フィルム面側)が視認できる細片は角度によって緑から赤へのカラーシフトする効果が見られた。次に30℃へ昇温すると、細片の温度応答性塗工層側が白色になり、反対面側は桃色に見えた。そして、30℃から25℃条件下に戻すと、各細片は元の色へ戻った。なお、得られた用紙をA4サイズにして市販のカラーコピー機(商品名「PIXEL CLC1160」、キヤノン(株)製 )に供したところ、細片部分の色や光輝感は再現されず、偽造防止効果を確認できた。
(3)実施例3で得られた細片を抄き込んだ用紙を確認したところ、半分程度の細片は温度応答性塗工層側が用紙表面の視認できる側に抄き込まれていた。25℃では、細片の温度応答性塗工層側が黒色であり、反対面側が視認できる細片は青色の真珠光沢感が見えた。これを30℃に昇温すると、黒色であった細片が白色に変化し、反対面側の細片は一見すると白色だが角度によっては青色や黄色にカラーシフトする効果が見えた。そして、30℃から25℃に戻すと、各細片は元の色へ戻った。
(4)実施例4で得られた細片を抄き込んだ用紙を確認したところ、前記(2)と同様の色相変化の効果が得られた。なお、実施例2で得られた細片を前述の紫外線を17時間照射した後に用紙へ抄き込んだ場合は、25℃から30℃への昇温による色相変化が見られなかったが、実施例4で得られた細片は同様の紫外線照射を行った後に用紙へ抄き込んでも、25℃から30℃への昇温により色相変化が確認された。
(5)実施例5で得られた細片を抄き込んだ用紙は、25℃ではすべての細片が黒色であったが、30℃に昇温すると桃色と白色の細片が混在して見えた。これは細片の両面に異なる温度応答性塗工層を設けられたからである。具体的には、用紙表面の視認できる側に抄き込まれていた温度応答性塗工層がそれぞれ半分程度存在し、一方の層が桃色に変化し、別側の層が白色に変化したからである。そして、30℃から25℃に戻すと、各細片は元の黒色へ戻った。
(6)実施例6で得られた細片を抄き込んだ用紙を確認したところ、半分程度の細片は温度応答性塗工層側が用紙表面の視認できる側に抄き込まれていた。25℃では、細片の温度応答性塗工層側が黒色であり、反対面側が視認できる細片は角度によって緑から赤へのカラーシフト効果が見られた。次に30℃へ昇温すると、細片の温度応答性塗工層側は青色と白色の2色に変化し、反対面側は桃色と紫色に見えた。そして、30℃から25℃に戻すと、各細片は元の色へ戻った。
(7)実施例7で得られた細片を抄き込んだ用紙を確認したところ、半分程度の細片は温度応答性塗工層側が用紙表面の視認できる側に抄き込まれていた。25℃では、細片の温度応答性塗工層側が白色と青色の2色が見られ、反対面側が視認できる細片は緑から赤へのカラーシフト効果と青から紫へのカラーシフト効果が見られた。次に30℃へ昇温すると、細片の温度応答性塗工層側がすべて白色になり、反対面側はフィルム本来の桃色に見えた。そして、30℃から25℃に戻すと、各細片は元の色へ戻った。
【0063】
以上のように、本発明の偽造防止用紙に存在する細片は、温度変化により色相が変わるため、偽造の判断が非常に容易である。特に、手の体温などで色相が変わるように細片を設計することで、特別な器具を用いることなく偽造を判別することができる。さらに、本発明の偽造防止用紙に他の偽造防止技術を併用することで、より高度な偽造防止効果が得られる。例えば、染色繊維や磁性繊維のような特殊繊維の混抄、蛍光発色粒子の混抄、スレッドの抄き込み、抄き入れ等の技術を併用するとよい。さらには、エンボスや印刷等の後加工の技術を併用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の細片を用いた偽造防止用紙は、容易に偽造を判断できるという特徴を利用して、各種チケット、紙幣、小切手、株券、債券、商品券、カード、機密文書、パスポート、身分証明書等の偽造防止効果を要求される用途に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面に、温度が変化することにより色相が変化する温度応答性塗工層が設けられた細片。
【請求項2】
前記温度応答性塗工層が、温度が変化することにより可逆的に色相が変化することを特徴とする請求項1に記載の細片。
【請求項3】
基材が紙であることを特徴とする請求項1または2に記載の細片。
【請求項4】
基材が透明多層膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の細片。
【請求項5】
基材に真珠光沢層を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の細片。
【請求項6】
基材に紫外線吸収層を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細片。
【請求項7】
色相の変化する温度が−4℃〜58℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細片。
【請求項8】
色相の変化する温度が25℃〜33℃の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細片。
【請求項9】
常温では同じ色相を呈するが常温以外の任意の温度では色相が異なる2種類以上の温度応答性塗工層が、基材の一方の面に存在するか、または基材の両面に分かれて存在することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の細片。
【請求項10】
常温では異なる色相を呈するが常温以外の任意の温度では色相が同一になる2種類以上の温度応答性塗工層が、基材の一方の面に存在するか、または基材の両面に分かれて存在することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の細片。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の細片が用いられていることを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項12】
異なる色相変化を示す2種類以上の細片が用いられていることを特徴とする請求項11に記載の偽造防止用紙。
【請求項13】
2種類以上の細片が、常温では同じ色相を呈するが常温以外の任意の温度では色相が異なることを特徴とする請求項12に記載の偽造防止用紙。
【請求項14】
2種類以上の細片が、常温では異なる色相を呈するが常温以外の任意の温度では色相が同一になることを特徴とする請求項12に記載の偽造防止用紙。

【公開番号】特開2010−65336(P2010−65336A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231545(P2008−231545)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000225049)特種製紙株式会社 (45)
【Fターム(参考)】