説明

細管内壁のめっき方法

【課題】微小な内径で且つアスペクト比が大きい細管の内壁に均一なめっき皮膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】細管10の内壁10aへの接触を防止する非導電性部材14が外周面に固定されている電極線12を前記細管10内に挿入し、前記細管10内壁と前記電極線12との間隙にめっき液を満たした状態で前記電極線12を前記細管10の管軸方向に往復移動させると共に前記めっき液を前記電極線12と同じ方向に交互に流動させる。そして、前記電極線12を+極、前記細管10を−極として直流電流を流して細管10の内壁10aにめっき皮膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な内径の金属製の細管、特には微小な内径で且つアスペクト比が大きい金属製の細管の内壁のめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な内径の細管の内壁に金めっき加工を施すと抗菌性や耐久性、光の反射性が向上することから、レーザ導光管等の光学部品、薬剤や血液等の送液に用いられる医療用送液管、分析機器部品等、様々な分野への応用が期待されている。しかし、微小径の細管は内部の空気を外に出すことが難しく、細管内にめっき液を入り込ませ難い。また、細管内にめっき液を入れることができても加工の際に発生する水素ガスにより均一なめっき皮膜を形成することが難しい。
【0003】
これに対して、特許文献1には、棒状電極を細管内に挿入すると共に前記細管内壁と棒状陽電極との間に電解液を満たした状態で前記棒状電極と細管内壁との間に電流を印加することにより金属または合金を電解析出させ、細管内壁にめっき皮膜を形成する方法が記載されている。特許文献1の方法では、電解析出中に棒状電極を往復運動や回転運動させたり、電解液を流動させたりすることによって、均一なめっき被膜を形成するようにしている。
【特許文献1】特開2006-111958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法は、アスペクト比(細管の長さ寸法/細管の内径寸法)が3以上の細管の内壁にめっき皮膜を形成することを目的としており、具体的には内径寸法が1mm、長さ寸法が5mmの細管、つまりアスペクト比5の細管の内壁にめっき皮膜を形成した例が挙げられている。
ところが、レーザ導光管や医療用送液管等に用いられる細管は内径寸法が2mm以下であり、用途によっては1mmよりも小さいものもある。しかも長尺であり、アスペクト比が5を大きく上回ることもある。微小径で且つ長尺な細管は内部にめっき液を入り込ませることが非常に難しい。また、たとえ細管内部にめっき液を入り込ませることができたとしても、該めっき液を流動、循環させることが難しく、均一なめっき皮膜を形成することができない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、微小内径で且つアスペクト比が大きい細管の内壁に均一なめっき皮膜を形成することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために成された本発明は金属製の細管内壁にめっき皮膜を形成する方法であって、
前記細管内壁への接触を防止する非導電性部材が外周面に固定されている電極線を前記細管内に挿入し、
前記細管内壁と前記電極線との間隙にめっき液を前記細管の管軸方向に流動させると共に少なくとも前記めっき液の流動方向と前記電極線の移動方向とが一致する期間が存在するように前記電極線を前記細管の管軸方向に移動させ、
前記電極線及び前記細管内壁の一方を陰極、他方を陽極とすることにより前記細管の内壁にめっき皮膜を形成することを特徴とする。
【0007】
この場合、前記電極線を、前記細管内を往復移動させるとよい。
更に、前記めっき液を、前記電極線の往復移動に同期して前記電極線の移動方向と同じ方向に交互に流動させることが好ましい。
このような構成では、めっき液の流動方向と電極線の移動方向とが常に一致する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、前記電極線の移動方向とめっき液の流動方向とが一致する期間では、電極線に引っ張られるように電極線の移動と共にめっき液が流動する。したがって、微小内径で且つアスペクト比が大きい細管であってもその内部全体にめっき液を流動させることができ、細管内壁に均一なめっき皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、微小内径で且つアスペクト比が大きい細管に電極線を挿通し、前記細管内に電解めっき液を当該細管の管軸方向に流動させ且つ前記電極線を前記細管の管軸方向に移動させながら前記電極線に電流を流すことにより前記細管内壁にめっき皮膜を形成する方法である。特に、少なくとも前記めっき液の流動方向と前記電極線の移動方向とが一致する期間が存在するように前記めっき液を流動させ且つ前記電極線を移動させたことに特徴を有する。ここでは、細管の内径寸法に対する長さ寸法の比(長さ寸法/内径寸法)をアスペクト比という。ただし、アスペクト比がそれほど大きくなくても微小な内径の細管は表面張力のため通常はめっき液を内部まで入り込ませることが難しい。本発明の方法では、このような微小内径の細管の内壁にめっき皮膜を形成する方法としても有用である。
【0010】
本発明は、無電解めっき法を用いることができない金属及び合金、即ち表面に強力な酸化被膜が存在するステンレスなどの鉄合金、銅及び銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金、ニッケル及びニッケル合金、チタン及びチタン合金、ニオブ及びその合金、タンタル及びその合金、バナジウム及びその合金、タングステン及びその合金等から成る細管の内壁にめっき皮膜を形成する方法として、特に有用である。
【0011】
電極線の素材はステンレス、鉄、ニッケル、白金、金等、めっき液及び細管の素材に応じて適宜選択される。電極線の外周には、当該電極線を細管内に挿通したときに該電極線と該細管とが接触することを防止する非導電性部材が取り付けられている。
電極線の大きさ(長さ寸法、外径寸法)及び非導電性部材の大きさ(長さ寸法、外径寸法)は、細管の内径寸法に応じて適宜設定される。要は、非導電性部材が取り付けられた電極線を細管内に挿入でき、且つ、細管内に電極線を挿入した状態で該細管内にめっき液を流すことができれば良い。
【0012】
前記非導電性部材は電極線の外周の複数箇所に取り付けられる環状部材から構成することができる。例えば、図1に示すように細管10の内径寸法が0.3mm、電極線12の外径寸法が約0.1mm、電極線12の外周に等間隔に取り付けられた環状部材14の外径が0.2mmであれば、電極線12の最も太い部分(環状部材の取付部分)における細管内壁10aとの間隙は、電極線の直径方向両側合わせて0.1mm、その他の部分における細管内壁10aとの隙間は0.2mmとなる。
【0013】
また、例えば、線径0.1mmの電極線の外周に幅1mm、厚さ0.05mmの非導電性フィルムを1回巻き付けて環状部材とすることができる。非導電性フィルムとしては例えばナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂などを用いることができる。このとき、電極線に取り付けられた非導電性部材の幅は1mm、電極線の外径は0.2mmとなる。前記環状部材を11mm間隔で電極線に取り付ければ、前記環状部材が取り付けられていない部分の幅は10mm、外径寸法は0.1mmとなる。本発明者は、このような電極線を内径寸法が0.3mmの細管に容易に挿通できることを確認している。
【0014】
図2は非導電性部材の別の例を示す。この非導電性部材は電極線12の外周全体を被覆する樹脂層20から構成されている。電極線12の直径が0.2mm、樹脂層20の厚さが0.02mmのとき、該電極線12を内径が0.3mmの細管10に挿入すると電極線12と細管内壁との間には当該電極線12の直径方向両側合わせて0.06mmの隙間ができる。本発明者は、電極線12と細管10の内壁10aとの間隙が0.05mm以上あれば、細管10内にめっき液を流すことができることを確認している。
【0015】
前記樹脂層20には径方向に貫通する多数の細孔20aが形成されている。この細孔20aは電極線12とめっき液とを接触させるためものである。電極線12とめっき液とが接触することによりイオンが移動し、二次的に電子が移動する。
前記細孔20aを有する樹脂層20は例えば次の方法A,Bにより成形することができる。
【0016】
方法A:1.樹脂を溶剤aで溶解して溶液Aを作製する。
2.溶液Aに電極線を浸漬する。
3.溶液Aから電極線を引き上げる。これにより電極線の外周面が溶液Aで覆われる。
4.溶液Aで覆われた電極線を溶剤aの沸点付近の温度まで加熱して一気に溶剤aを揮発させる。これにより細孔を有する樹脂層が電極線の外周に形成される。
【0017】
方法B:1〜3.方法Aと同じであるため説明を省略する。
4.樹脂に対する非溶剤で且つ溶剤aと相溶する溶剤bに、溶液Aで覆われた電極線を浸漬する。
5.溶剤bから電極線を引き上げて乾燥し、溶剤a及びbを揮発させる。これにより、細孔を有する樹脂層が電極線の外周に形成される。
【0018】
細管内壁と電極線の間隙へのめっき液の供給はケミカルポンプ等によって強制的に行う。注射器を用いても良い。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を内径0.3mmの細管の内壁に金めっきする方法に適用した具体的な実施例について図3等を参照しながら説明する。本実施例に係る細管内壁の金めっき方法は(1)脱脂、(2)電解脱脂、(3)酸活性、(4)ストライクニッケルめっき、(5)金ストライクめっき、(7)金めっき、(8)乾燥の各工程からなる。
【0020】
(1)脱脂
外径0.5mm、内径0.3mm、長さ100mmのSUS316ステンレス鋼からなる細管を脱脂液が入ったビーカーに完全に浸漬し、そのビーカーを真空デシケーターに入れ真空ポンプにて約1Torr(133Pa)まで減圧した後、すぐに大気圧に戻す。この操作を10回繰り返し、細管内部を脱脂する。
次に、細管を水の入ったビーカーに完全に浸漬し、そのビーカーを真空デシケーターに入れ真空ポンプにて約1Torr(133Pa)まで減圧した後、すぐに大気圧に戻す。この操作を10回繰り返し細管内を水洗する。
【0021】
(2)電解脱脂
電解脱脂工程は細管内の脱脂を完全なものとするために行われ、図3に示す装置100が用いられる。装置100は後述の酸活性、ストライクニッケルめっき、金ストライクめっき、金めっきの各工程でも用いられる。
まず、水洗後の細管30(図3参照)に、直径0.1mm、長さ300mmのSUS製電極線31を挿入する。この電極線31にはショート防止のための複数のセパレータ311(本発明の非導電性部材、環状部材に相当)が予め取り付けられている。前記セパレータ311は、電極線31に、厚さ0.05mm、幅1mmのポリエステル製フィルムを11mm間隔で巻き付けたものから成る。
【0022】
次に、装置100に電極線31が挿入された細管30をセットする。前記装置100は、細管30の両端に配管321,331を介して接続される2個のケミカルポンプ32,33と、これらケミカルポンプ32,33に接続されるタンク35とを備えている。配管321,331にはそれぞれ活栓322,332が取り付けられている。配管321,331の細管取付部323,333には開口324,334が形成されている。細管30は、電極線31の両端を開口324,334から外部に突出させた状態で前記細管取付部323,333に取り付けられる。
【0023】
細管取付部324,334に取り付けられた細管30と電極線31の間には直流電源36が接続される。また、開口324,334から突出する電極線31の両端には樹脂線の線381,391を介して電動リール38,39がそれぞれ取り付けられる。電動リール38,39は正逆両方向に回転可能に構成されており、電動リール38,39によって線381,391が巻き出されたり巻き上げられたりすることによって、電極線31が細管30内を管軸方向(図3中、矢印Pで示す方向)に往復移動する。
【0024】
続いて、電解脱脂液が入ったタンク35をケミカルポンプ32,33に接続する。また、装置100の全体を例えば汎用の振動試験装置(図示せず)に載置する。そして、一方の活栓322を開き、ケミカルポンプ32を10秒間駆動する。このとき、他方の活栓332は閉じられ、ケミカルポンプ33は停止している。これにより、タンク35から汲み上げられた電解脱脂液が配管321を通って細管30内に流入する。そして、細管内壁と電極線31との間隙を図3における左方から右方に向かって管軸方向に10秒間流れ、配管33の開口334から排出される。
【0025】
また、このとき細管30を−極、前記SUS製電極線31を+極として50mAの直流電流を10秒間流す。更に、電動リール38,39を正方向(図3において反時計回り)に回転させて電極線31を電解脱脂液の流れる方向(図3において左方から右方)に5mm/秒の速度で10秒間移動させる。更にまた、前記振動試験装置を駆動して約30〜50Hzの振動を細管30に10秒間与える。
【0026】
この後、前記ケミカルポンプ32を停止すると共に活栓322を閉じる。同時に他方のケミカルポンプ33を10秒間駆動すると共に活栓332を開く。また、電動リール38,39を逆方向(図3において時計回り)に10秒間回転させる。これにより、細管30内を電解脱脂液が右方から左方に向かって10秒間流れると共に電極線31が右方から左方に向かって10秒間移動する。
【0027】
ケミカルポンプ32,33の駆動・停止、活栓322,332の開閉、電動リール38,39の正逆回転の動作は10秒周期で2回ずつ行い、全体で40秒間、電解脱脂処理を行った。
電解脱脂処理の後、細管30から電極線31を抜き、細管30の一方の端部にのみケミカルポンプを接続した。そして、細管30内に十分量の水を流して水洗した。このとき、水洗処理をより効果的にするために約30〜50Hzの振動を細管30に与えた。
【0028】
(3)酸活性化
電解脱脂後の細管30の片端にケミカルポンプを接続し、細管30内に塩酸を流して酸活性化した。続いて、細管30の片端に別のケミカルポンプを接続し、細管30内に十分量の水を流して水洗した。このとき、水洗をより効果的にするため約30〜50Hzの振動を細管30に与えた。
【0029】
(4)ストライクニッケルめっき
酸活性化後の細管30に直径0.1mm、長さ300mmのPt電極線を挿入した。上述のSUS電極線31と同様、このPt電極線にもショート防止のための複数のセパレータが予め取り付けられている。前記セパレータは、厚さ0.05mm、幅1mmのポリエチレン製フィルムを11mm間隔で巻き付けたものからなる。
【0030】
次に、ケミカルポンプ32,33間にストライクニッケルめっき液が入ったタンク35を接続し、上述の電解脱脂処理と同様に、前記ケミカルポンプ32,33を細管30の両端に接続した。また、装置100の全体を振動試験装置に載置した。その後、ケミカルポンプ32,33の駆動・停止、活栓322,332の開閉、電動リール38,39の正逆回転の動作を10秒周期で6回ずつ行い、全体で120秒間のストライクニッケルめっき処理を行った。このとき、細管30を−極、前記Pt電極線を+極として40mAの直流電流を流した。また、約30〜50Hzの振動を細管30に与えた。
【0031】
この後、細管30から電極線を抜いて当該細管30の片端にのみケミカルポンプを接続し、細管30内に十分量の水を流して水洗した。このとき、水洗をより効果的にするために約30〜50Hzの振動を細管30に与えた。
【0032】
(5)金ストライクめっき
ストライクニッケルめっき後の細管30に直径0.1mm、長さ300mmのPt電極線を挿入した。上述のSUS電極線と同様、このPt電極線にも厚さ0.05mm、幅1mmのポリプロピレン製フィルムを10mm間隔で巻き付けてなるセパレータがショート防止のために予め取り付けられている。
【0033】
次に、ケミカルポンプ32,33間に金ストライクめっき液が入ったタンク35を接続し、上述の電解脱脂処理と同様に、前記ケミカルポンプ32,33を細管30の両端に接続した。また、装置100の全体を振動試験装置に載置した。その後、ケミカルポンプ32,33の駆動・停止、活栓322,332の開閉、電動リール38,39の正逆回転の動作を10秒周期で2回ずつ行い、全体で40秒間の金ストライクめっき処理を行った。このとき、細管を−極、前記電極を+極として40mAの直流電流を流した。また、約30〜50Hzの振動を細管30に与えた。
【0034】
この後、細管30からPt電極線を抜いて該細管の片端にのみケミカルポンプを接続して細管30内に十分量の水を流して水洗した。このとき、水洗をより効果的にするために約30〜50Hzの振動を細管30に与えた。
【0035】
(6)金めっき
金ストライクめっき後の細管に直径0.1mm、長さ300mmのPt電極線を挿入した。このPt電極線には、厚さ0.05mm、幅1mmのフッ素樹脂製フィルムを11mm間隔で巻き付けてなるセパレータがショート防止のために予め取り付けられている。
次に、ケミカルポンプ32,33間に金めっき液が入ったタンク35を接続し、上述の電解脱脂処理と同様に、前記ケミカルポンプ32,33を細管30の両端に接続した。また、装置100の全体を振動試験装置に載置した。その後、ケミカルポンプ32,33の駆動・停止、活栓322,332の開閉、電動リール38,39の正逆回転の動作を10秒周期で6回ずつ行い、全体で120秒間の金めっき処理を行った。このとき、細管30を−極、前記電極線を+極として10mAの直流電流を流した。また、約30〜50Hzの振動を細管30に与えた。
【0036】
この後、細管30からPt電極線を抜いて該細管30の片端にのみケミカルポンプを接続し、細管30内に十分量の水を流して水洗した。その際、水洗をより効果的にするために約30〜50Hzの振動を細管に与えた。
【0037】
(7)乾燥
真空乾燥機にて細管30内の水を十分に除去して乾燥させた。これにより、外径0.5mm、内径0.3mm、長さ100mmのSUS316ステンレス鋼からなる細管内壁への金めっきの全工程が終了した。金めっき終了後の細管30の断面構造は図4に示す通りであった。細管30の内壁全体に金めっき層が形成されている。
【0038】
このように本実施例では、電解脱脂処理、ストライクニッケルめっき処理、金ストライクめっき処理、金めっき処理において、電極線31を細管30の管軸方向に往復移動させ且つ電極線31の移動に同期して電解脱脂液やめっき液を管軸方向に交互に流した。このため、常に、電解脱脂液やめっき液の流動方向と電極線の移動方向が一致し、電極線に引っ張られるように電解脱脂液やめっき液が細管30内を流動する。したがって、細管30内壁と電極線31との間隙全体に電解脱脂液やめっき液を流動させることができ、細管内壁全体を完全に脱脂できて均一なめっき皮膜を形成することができる。また、電極線31を移動させると共に細管30に振動を与えたことにより、処理の際に発生するガスの排出をより効率よく行うことができる。
【0039】
なお、上記した実施例は単なる例示に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば細管や電極線の材料、細管に付与する振動の振動数、電極線の移動速度などは上記した例に限定されない。
【0040】
少なくとも前記めっき液の流動方向と前記電極線の移動方向とが一致する期間が存在する形態としては、上記実施例のように、前記めっき液を、前記電極線の往復移動に同期して前記電極線の移動方向と同じ方向に交互に流動させる他、次のような形態が考えられる。
めっき液は常に一方向に流動させ、電極線を往復移動させる。この形態では、前記電極線が一往復するうちの一方では必ず電極線の移動方向とめっき液の流動方向が一致する。
めっき液の流動方向を交互に変化させると共に電極線の移動方向を交互に変化させ、且つ一方の変化周期を他方の変化周期の整数倍にする。
めっき液を交互に流動させ、電極線を常に一方向に移動させる。ただし、ガスの排出効果を考慮すると、電極線は往復移動させることが好ましい。
【0041】
上記実施例では、細管を−極、前記電極線を+極として直流電流を流して電解脱脂(陰極電解脱脂)を行ったが、細管を+極、前記電極線を−極として直流電流を流して電解脱脂(陽極電解脱脂)を行うことも可能である。また、単位時間毎に細管と電極線の極性を入れ替えるPR電解脱脂を行っても良い。
【0042】
本発明の方法は、微小径で且つ長尺な細管に内壁にめっき処理を行う際に特に有用であるが、細管の内径、外径、長さ寸法は上記実施例に示したものに限定されない。本発明者によれば、上記実施例で用いた細管と内径及び外径は同じで長さ寸法が1000mmの細管についても、上記方法によりめっき処理を行うことができることを確認している。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態に係る細管と電極線の縦断側面図。
【図2】別の実施の形態に係る細管と電極線の縦断側面図(a)、樹脂層で被覆された電極線の側面図(b)。
【図3】細管内壁のめっき方法に用いられる装置の全体構成図。
【図4】内壁に金めっきが形成された細管内の様子を示す顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0044】
10…細管
10a…内壁
12…電極線
14…環状部材(非導電性部材)
20…樹脂層(非導電性部材)
20a…細孔
30…細管
31…電極線
311…セパレータ(非導電性部材、環状部材)
32,33…ケミカルポンプ
321,331…配管
322,332…活栓
323,333…細管取付部
324,334…開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の細管内壁にめっき皮膜を形成する方法であって、
前記細管内壁への接触を防止する非導電性部材が外周面に固定されている電極線を前記細管内に挿入し、
前記細管内壁と前記電極線との間隙にめっき液を前記細管の管軸方向に流動させると共に少なくとも前記めっき液の流動方向と前記電極線の移動方向とが一致する期間が存在するように前記電極線を前記細管の管軸方向に移動させ、
前記電極線及び前記細管内壁の一方を陰極、他方を陽極とすることにより前記細管の内壁にめっき皮膜を形成することを特徴とする細管内壁のめっき方法。
【請求項2】
前記電極線が、前記細管内を往復移動されることを特徴とする請求項1に記載の細管内壁のめっき方法。
【請求項3】
前記めっき液が、前記電極線の往復移動に同期して前記電極線の移動方向と同じ方向に交互に流動されることを特徴とする請求項2に記載の細管内壁のめっき方法。
【請求項4】
2個のポンプを細管の両端にそれぞれ接続し、前記ポンプを交互に駆動することにより前記めっき液を交互に流動させることを特徴とする請求項3に記載の細管内壁のめっき方法。
【請求項5】
非導電性部材は、電極線の外周面の複数箇所に帯状の非導電性フィルムを巻回したものから成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の細管内壁のめっき方法。
【請求項6】
前記非導電性部材は、電極線の外周面の全体を被覆する非導電性樹脂層から成り、
前記非導電性樹脂層には前記めっき液の前記電極線への接触を可能にする多数の微細な孔が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の細管内壁のめっき方法。
【請求項7】
非導電性樹脂を溶剤に溶解してなる溶液に前記電極線を浸漬し、引き上げて前記電極線の外周面を前記溶液で覆い、前記電極線を前記溶剤の沸点付近の温度まで加熱することにより前記電極線の外周面を覆う溶液から前記溶剤を揮発させて、前記電極線の外周面に前記孔を有する前記非導電性樹脂層を成形したことを特徴とする請求項6に記載の細管内壁のめっき方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の細管内壁のめっき方法により製造された細管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−116617(P2010−116617A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291985(P2008−291985)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日経産業新聞、平成20年5月16日付、日本経済新聞社 2008年6月27日、http://www.nakajimakinzoku.co.jp/、http://www.nakajimakinzoku.co.jp/product/032/index.html
【出願人】(501255424)中嶋金属株式会社 (1)
【Fターム(参考)】