説明

細繊度ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントおよびその製造方法

【課題】 繊度均一性、強度に優れる高精密フィルターに適した耐熱、耐薬品性を備えた細繊度モノフィラメントを提供する。
【解決手段】 本発明のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、繊度が25dtex以下、U%(Normal)が3.0未満であり、強度が3.0cN/dtex以上、伸度が30%未満であることを特徴とするものである。さらに、本発明のポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの製造法は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を溶融紡糸するに際し、該樹脂を溶融した後、紡糸口金から吐出した糸条を気体により冷却固化させて未延伸糸を得、該未延伸糸をTg−10℃以上、Tg+20℃以下に加熱された第1ローラと、第一ローラ温度以上、Tg+50℃以下に加熱された第2ローラの間でホットロール延伸することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊度均一性と強度に優れる細繊度ポリフェニレンスルフィドモノフィラメント、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以後、PPSと呼ぶ)樹脂は、耐熱性、耐薬品性に加えて、優れた機械的強度や成形加工性を備えていることから、金属代替材料や極限環境下に耐え得る材料として広く使用されている。繊維やモノフィラメントについても、これらの特性を利用して液体フィルター、気体フィルター、ブラシ用毛材、抄紙ドライヤーキャンバス、電気絶縁紙などに使用することが提案されてきている。
【0003】
これらの中で、化学、電気・電子、自動車、食品、精密機器、医薬・医療などの製造現場において、特定の物質を除去、透過させるフィルターが使用され、中でもモノフィラメントの織物がフィルターやフィルター補強基材として広く使用されている。これらの用途において、モノフィラメントは有機溶剤や強酸、強アルカリ、有害ガス、あるいは高温に曝されるケースがあるため、耐熱、耐薬品性が必要となっている。さらに、近年、高い耐熱、耐薬品性を必要とする前記製造現場において、製品の品位や品質を向上させるために、PPS繊維からなるフィルター性能に対する高精密化の要請は極めて高くなってきている。この主たる目標は繊度25dtex以下であり、これによりメッシュにしたときの厚みを薄くでき、またオープニング(繊維間の距離)を小さくかつオープニングエリア(メッシュの空間率)を大きくすることができ、フィルター性能を向上することが可能となる。
【0004】
しかしながら、細繊度で繊度均一性に優れたPPSモノフィラメントはこれまで製造することができなかった。
【0005】
特許文献1には、ドライヤーキャンバス向けモノフィラメントとして、PPSの溶融紡糸時に、溶融PPSと接触する最終フィルター以降の流路を構成する装置として、合金成分の鉄成分が30重量%以下の金属からなる装置を使用することで、PPSの紡糸機内での分解・酸化・ゲル化を防ぎ、異物による欠陥を減少させている。しかしながら、ドライヤーキャンバス向けモノフィラメントは紡糸時に液体により冷却固化させており、この方法では、細繊度モノフィラメントは溶媒の抵抗により固化点が安定せず、繊維の長手方向の斑が起こり、繊度均一性に優れたPPSモノフィラメントを得ることができない。
【0006】
特許文献2には、繊維表面の欠陥の少ないPPS繊維の製造方法が開示されているが、溶融紡糸後に冷却溶媒中で固化させており、特許文献1と同様に繊度均一性に優れたPPSモノフィラメントを得ることができない。さらにその後加圧飽和水蒸気雰囲気下で加熱延伸しているが、この方法では延伸点が固定されないことから繊度均一性に優れた細繊度PPSモノフィラメントを得ることはできない。
【0007】
特許文献3には、温水または沸騰水中、高温ガス中で非接触加熱延伸し、その後緊張下で熱処理することで、強度6.0cN/dtex以上のPPSモノフィラメントを得ているが、この方法では延伸点が固定されず、細繊度で繊度均一性に優れたPPSモノフィラメントを得ることはできない。
【0008】
非特許文献1では、PPSを溶融高速紡糸することにより、紡糸速度7000m/minで繊度7.3dtexのモノフィラメントを得ている。しかしながら、高速紡糸では強度が高々約1.6cN/dtexであり、本発明のような強度の優れたモノフィラメントを得ることはできない。
【特許文献1】特開2005−273111号公報(段落0026、0029、実施例)
【特許文献2】特開2002−285429号公報(請求項7、段落0022、0052)
【特許文献3】特開平3−040812号公報(請求項1、請求項3、実施例1)
【非特許文献1】繊維学会誌、1992年、第48巻、第10号、P549〜556
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題点を鑑み、繊度均一性、強度に優れる高精密フィルターに適した耐熱、耐薬品性を備えた細繊度PPSモノフィラメントを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するために、
ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントは、繊度が25dtex以下、U%(Normal)が3.0未満であり、強度が3.0cN/dtex以上、伸度が30%未満であることを特徴とするものである。さらに、本発明の細繊度ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの製造法は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を溶融紡糸するに際し、該樹脂を溶融した後、紡糸口金から吐出した糸条を気体により冷却固化させて未延伸糸を得、該未延伸糸を加熱ローラ間で延伸することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊度均一性、強度に優れる高精密フィルターに適した細繊度PPSモノフィラメントを提供することができる。このようなPPSモノフィラメントからなるフィルターは、有機溶剤や強酸、強アルカリ、有害ガス、あるいは高温に曝される化学、電気・電子、自動車、食品、精密機器、医薬・医療などの製造現場における高品質フィルターとして使用され、中でもモノフィラメント織物としてのフィルターやフィルター補強基材として使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、ポリフェニレンスルフィドとは繰り返し単位としてp−フェニレンスルフィド単位やm−フェニレンスルフィド単位を有するポリマーを意味する。PPSは、p−フェニレンスルフィド単位かm−フェニレンスルフィド単位のいずれか一方からなるホモポリマーであってもよいし、両者を有する共重合体であってもよい。また本発明の効果を損なわない範囲で、他の芳香族スルフィドが共重合されていてもよい。p−フェニレンスルフィド単位のほうが、直鎖状であることから紡糸、延伸性に優れており、強度も高くなるので好ましい。
【0013】
また本発明の効果を損なわない範囲、すなわちおよそ30重量%以下の範囲で、混合紡糸や複合紡糸などにより他のポリマーを添加、併用してもよい。他のポリマーとしては、ポリエステル、ポリオレフィンやポリスチレンなどのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエステルアミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂などのポリマーが挙げられ、耐熱性、機能の複合化の点から液晶ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミドなどが好適な例として挙げられる。
【0014】
さらに本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、相溶化剤等の各種添加剤を少量含有しても良い。
【0015】
本発明のモノフィラメントの繊度は25dtex以下であり、25dtexを超える場合、フィルターの精密濾過が困難となる。該繊度は、さらに濾過精度を向上させるためには、20dtex以下が好ましい。
【0016】
また、フィルターの特性上、フィルターのオープニングの均一性は高性能フィルターの重要な特性の一つであるが、このオープニングの変動は構成する繊維の繊度均一性に大きく依存する。繊度の小さな差でも、繊維の剛性を大きく変化させるため、本発明のモノフィラメントの繊度均一性を表すU%は3.0未満とする。3.0以上であるとフィルターの高精密化は達成できない。さらなる高精密化のためは2.0未満であることが好ましい。
【0017】
本発明のモノフィラメントの強度は3.0cN/dtex以上であり、強度が3.0cN/dtex未満であると、製織工程などフィルター加工において十分な加工性を確保することが困難であり、さらにフィルターの強度は低くなる。好ましくは、3.5cN/dtex以上であり、製織工程などフィルター加工での加工性が向上し、フィルター強度が高くなる。さらに好ましくは、4.0cN/dtex以上であり、フィルターの強度が高くなることで、フィルターの圧力損失をより高く設計できるため優れた濾過性能を発揮することができる。
【0018】
本発明のモノフィラメントの伸度は30%未満であり、伸度が30%以上であると、繊維の配高度が低いために、製織工程での過度の張力により延伸され、細繊度化高収縮率化してしまい、品位が低下し、高精度のフィルターを得ることができない。
【0019】
本発明のモノフィラメントの沸騰水収縮率は、4.0%以下が好ましく、さらに好ましくは3.0%以下であり、沸騰水収縮率が4.0%以下であると、フィルターへの加工性、開口幅変動率が向上し、フィルター濾過精度が向上する。
【0020】
本発明のモノフィラメントの断面形状は任意であるが、円形断面がフィルターの精密濾過性能の点で望ましい。
【0021】
本発明のモノフィラメントは、液体フィルター、気体フィルター、ブラシ用毛材、抄紙ドライヤーキャンバス、電気絶縁紙など任意の用途に適応することができるが、これまで述べたように主に気体や液体を媒体とするフィルターに加工することにより本発明のモノフィラメントの特性を十分に発揮する。本発明でいうフィルターとは、織物からなるフィルターであり、平織り、綾織り、朱子織りや、畳織り、多重織りなど、従来公知の織り組織を採用することができる。また本発明のモノフィラメントをフェルトなどの不織布の基布として使用することも好適である。
【0022】
以下に、本発明のモノフィラメントの製造方法について記載する。
【0023】
ポリフェニレンスルフィド樹脂は前述した繰り返し単位としてp−フェニレンスルフィド単位やm−フェニレンスルフィド単位を有し、該樹脂を溶融紡糸して製造される。該樹脂のメルトフローレート(MFR)を100〜500とすることが好ましい。メルトフローレートが100以上では、溶融粘度が低くなり安定した溶融紡糸が可能となり、一方、500以下では、吐出時の安定性、細化挙動の安定性が確保でき、得られる繊維の繊度均一性を向上させることが可能となる。さらに好ましいメルトフローレートの範囲は、110以上、400以下であり、さらに安定した紡糸が可能となる。
【0024】
PPSのポリマーペレットは、140〜180℃で8〜24時間程度乾燥して用いることが好ましい。その理由は、主に低沸点異物を除去し、また適度に結晶化させることによって、紡糸機中でのスムーズな溶融が可能となるからである。
【0025】
溶融紡糸において、PPSの溶融押出は公知の手法を用いることができるが、エクストルーダー型の押出機を用いることが好ましい。押し出されたポリマーは配管を経由しギヤポンプなど公知の計量装置により計量され、異物除去のフィルターを通過した後、口金へと導かれる。このときポリマー配管から口金までのポリマー温度(紡糸温度)は、295℃以上、330℃以下が好ましく、300℃以上、320℃以下がより好ましい。
【0026】
本発明のモノフィラメントを得るには、公知のPPSの溶融紡糸方法を用いることができるが、口金孔の孔径Dを0.10mm以上、0.40mm以下とすることが好ましく、口金孔のランド長L(口金孔の孔径と同一の直管部の長さ)を孔径で除した商で定義されるL/Dは、1.0以上、4.0以下が好ましい。また1口金当たりの孔数は1孔で製造しても良いが、2孔以上20孔以下の複数孔とし、各糸条を個別に巻き取る低コストの製造方法が好ましく用いられる。
【0027】
口金孔から吐出した糸条は、気体により冷却することが必須である。液体による冷却では、本発明の繊度25dtex以下のモノフィラメントは液体の抵抗により繊度均一性を確保することができない。この場合、空気や、窒素や酸素、水蒸気などの混合気体など、任意の気体を用いることができるが、取扱い性の点から空気が好ましい。冷却気体の温度は、冷却効率の観点から冷却風速とのバランスで決定すればよいが、繊度均一性の点から50℃以下であることが好ましい。また、冷却気体は糸条にほぼ垂直方向に流すことにより、糸条を冷却させる。その際、冷却風の速度は冷却効率および繊度均一性の点から5m/分以上が好ましく、製糸安定性の点から50m/分以下が好ましい。また、口金から20mm以上、100mm以内で冷却を開始し、冷却固化することが好ましい。20mm未満の距離で冷却を開始すると、口金表面温度が低下し吐出が不安定となることがあり、100mm以内で冷却を開始しない場合には、細化挙動の安定性が維持できず、安定した紡糸ができないことがある。
【0028】
冷却固化された糸条は、一定速度で回転するローラ(ゴデットローラ)により引き取られる。引き取り速度は繊度均一性、生産性向上のため、500m/分以上が好ましく、糸切れを起こさないため3000m/分以下が好ましい。
【0029】
このようにして得られた未延伸糸は、一旦巻き取った後、または引き取った後連続して、加熱された第1ローラと第2ローラの間で延伸することが必要である。すなわち、細繊度モノフィラメントを均一に延伸するためには、延伸点を固定することが重要であり、該未延伸糸は第1ローラで所定温度に加熱され、第1ローラと第2ローラの周速度の比にしたがって、第1ローラ出口付近で延伸を受けるよう、条件を設定する。加熱された第1ローラと第2ローラを用いないオーブンによる延伸操作では熱供給のばらつきにより延伸点が不安定となり、液浴による延伸操作では走行糸に対する抵抗から延伸点が不安定となり、繊度均一性を高めることは困難である。また、熱板による延伸操作では延伸点は固定できるが、擦過により繊度均一性が悪くなる。
【0030】
これらのローラにはセパレートローラを付属させ、ローラを周回させつつ繊維を加熱および速度固定させ、加熱温度の安定と速度固定のために、各ローラへの繊維の周回数は4回程度とすることが好ましい。設備生産性の観点から、上限は10回程度である。
【0031】
該第1ローラの加熱温度は、Tg−10℃以上、Tg+20℃以下である。Tg−10℃以下とすると延伸が不安定となり繊度均一性が低下し、Tg+20℃より高くした場合には溶断による糸切れが発生する。ここでTgは未延伸糸のガラス転移温度(℃)である。延伸倍率rは、延伸糸の伸度が30%未満となるようにする。延伸倍率rは最終ローラ速度の第1ローラ速度に対する比であり、未延伸糸の破断伸度Eu(%)、および延伸糸の破断伸度Ed(%)にしたがって、
r=(1+Eu/100)/(1+Ed/100)×a
のように決定される。ここでaは補正係数で、0.8以上、1.2以下が好ましい。
【0032】
第2ローラの加熱温度は、Tg+50℃以下である。第1ローラ温度以上とすることで強度および熱寸法安定性が向上し、Tg+50℃を超えると、溶断による糸切れが発生する。第2ローラの下限温度は室温であり、上限温度はTg+40℃以下であることが好ましい。
【0033】
延伸操作は、1段であっても多段であってもよく、多段延伸の場合にも主たる延伸操作部分について、本発明は適用される。すなわち、主たる延伸操作部分について1対のローラによる延伸、および該1対のローラの第1ローラは加熱する必要がある。また主たる延伸操作部分とは、複数の延伸操作の内、最大延伸倍率をとる延伸操作を指す。
【0034】
さらに、モノフィラメントの強度および熱寸法安定性を向上させるためには、ホットロール延伸に引き続き、加熱体を用いて熱セットすることが好ましい。加熱体はオーブンや熱板を用いることもできるが、好ましくはホットローラを用いることで繊度均一性に優れたモノフィラメントを得ることができる。熱セット温度は、140℃以上、250℃以下にすることが好ましい。140℃以上にすることで、強度の向上および沸騰水収縮率を4.0%以下にすることができる。また、250℃以上にすると溶断による糸切れが起こりやすい。さらに好ましくは180℃以上であり、さらに高い強度および熱安定性が得られる。しかしながら、細繊度PPSモノフィラメントは、140℃以上で熱セットしようとすると溶断による糸切れが起こりやすい。そこで熱セット温度を140℃以上にする場合には、熱セットする前、つまり主たる延伸操作後の伸度が30%未満になるように延伸することで、分子配向により溶断せずに熱セットすることができ、強度および熱寸法安定性を向上させることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めたが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
A.メルトフローレート(MFR)
ASTM D−1238−70記載の方法に準じて、測定温度316℃、5000g荷重として、測定した。単位はg/10分である。
【0037】
B.繊度
JIS L1013:1999記載の方法に準じて、測定した。
【0038】
C.強度、伸度
JIS L1013:1999記載の方法に準じて、試料長200mm、引張速度200mm/分の条件で、オリエンテック社製テンシロンUCT−100を用い1水準当たり10回の測定を行い、強度(cN/dtex)、伸度(%)を求めた。
【0039】
D.U%
Zellweger Uster社製 USTER TESTER 4を使用し、200m/分の速度で糸を給糸しながらノーマルモードで測定した。
【0040】
E.沸騰水収縮率
JIS L1013:1999記載の方法に準じて、処理温度100℃、処理時間15分で測定した。
【0041】
F.ガラス転移温度(Tg)
TA instruments社製 DSC2920を使用し、示差熱量測定を行い、50℃から16℃/分の昇温条件で測定した際に観測されるDSC曲線よりTgを算出した。算出方法は、各ベースラインを延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
【0042】
G.製織性評価
レピア織機にて経糸に直径29.8μmのポリエステルモノフィラメントを用い、平織で緯糸の織密度380本/インチ(2.54cm)、オープニングが略正方形となるよう、サンプル糸を緯打ち込みした。この試織反を検反して1.0m当たりに糸切れが0.5個未満の場合は○、0.5個以上、1.0個未満を△、1.0個以上を×とした。
【0043】
H.開口幅変動率
試織反を走査型電子顕微鏡(Nikon社製ESEM−2700)により倍率1000倍で、任意の20か所のオープニングについて、緯糸間隔の最も広い部分の幅を0.1μmのオーダーで測定し、開口幅変動率は標準偏差を平均値で除して求めた。
【0044】
実施例1
PPSとして東レ(株)製E2280(メルトフローレート160g/10分)を用い、紡糸温度320℃で溶融紡糸した。金属不織布フィルター絶対濾過径15μmで濾過し、孔径0.30mm、ランド長0.65mmの孔を2個有する口金より吐出量4.40g/分(単孔あたり2.20g/分)でポリマーを吐出した。
【0045】
吐出したポリマーは40mmの保温領域を通過させた後、ユニフロー型冷却装置を用いて空気により温度25℃、風速30m/分、1.0mの長さに渡って冷却し、油剤を付与し2フィラメントともに600m/分の第1ゴデットローラ、第2ゴデットローラを介し、2フィラメントをそれぞれダンサーアームを介し、モノフィラメントとしてパーンワインダー(巻取パッケージに接触するコンタクトローラ無し)を用いてパーンの形状に巻き取った。約120分の巻取時間中、糸切れは発生せず製糸性は良好であった。この未延伸糸の物性を以下に示す。
【0046】
繊度:36.6 dtex
U%: 1.3 %
強度: 1.1 cN/dtex
伸度: 467 %
Tg: 90 ℃
この未延伸糸を、ニップローラを付属するフィードローラにて引き取り、第1ローラとの間で未延伸糸に緊張を与えた後、それぞれ90℃、110℃に加熱した第1、第2ローラに6周回させて加熱延伸を施した。さらに200℃に加熱した第3ローラに6周回させて熱セットを施した。トータル延伸倍率は3.89倍であり、第3ローラ出の繊維は600m/分の非加熱ローラで引き取り、ツイスターにより巻き取った。
【0047】
得られた繊維の物性を表1に示す。
【0048】
実施例1のモノフィラメントを実際に緯糸に用い、平織りのフィルターを試作した。得られたフィルターの開口幅は37.0μm、開口幅変動率は3.4%であり、目的とする特性を示すものであった。
【0049】
実施例2〜6
表1に示したように吐出量を変更した以外は、実施例1と同様にして紡糸、延伸を行った。糸特性、開口幅変動率をあわせて表1に示す。
【0050】
実施例7
実施例1の未延伸糸を、ニップローラを付属するフィードローラにて引き取り、第1ローラとの間で未延伸糸に緊張を与えた後、それぞれ90℃、110℃に加熱した第1、第2ローラに6周回させて加熱延伸を施した。トータル延伸倍率は3.89倍であり、第2ローラ出の繊維は600m/分の非加熱ローラで引き取り、ツイスターにより巻き取った。糸特性、開口幅変動率をあわせて表1に示す。
【0051】
実施例8
延伸工程での第3ローラの温度を160℃とした以外は、実施例5と同様にして延伸を行った。糸特性、開口幅変動率をあわせて表1に示す。
【0052】
実施例9
単孔あたりの吐出量3.30g/分、巻き取り速度を1200m/分として、実施例1と同様にして、紡糸を行った。この未延伸糸の物性を以下に示す。
【0053】
繊度:27.8 dtex
U%: 2.1 %
強度: 1.0 cN/dtex
伸度: 313 %
Tg: 91 ℃
この未延伸糸をトータル延伸倍率は3.11倍にした以外は実施例1と同様にして延伸した。糸特性、開口幅変動率をあわせて表1に示す。
【0054】
比較例1
実施例1の未延伸糸を、ニップローラを付属するフィードローラにて引き取り、第1ローラとの間で未延伸糸に緊張を与えた後、60℃に加熱した第1、加熱していない第2ローラに6周回させて延伸を施した。トータル延伸倍率は3.89倍であり、第2ローラ出の繊維は600m/分の非加熱ローラで引き取り、ツイスターにより巻き取った。
【0055】
糸特性、開口幅変動率を表1に示したが、この延伸方法で得られたモノフィラメントは、延伸が不安定であり、U%が13.2%で繊度均一性に劣っていた。また、強度が低く、製織性試験での緯糸打ち込みが困難であり、試織を断念した。
【0056】
比較例2
紡糸は実施例1と同様にして行った。未延伸糸を、ニップローラを付属するフィードローラにて引き取り、加熱していない第1ローラとの間で未延伸糸に緊張を与え、さらに90℃の温水バスを通過させた後、110℃に加熱した第2ローラに6周回させて加熱延伸を施した。さらに200℃に加熱した第3ローラに6周回させて熱セットを施した。トータル延伸倍率は3.89倍であり、第3ローラ出の繊維は30m/分の非加熱ローラで引き取り、ツイスターにより巻き取った。
【0057】
糸特性、開口幅変動率を表1に示したが、この延伸方法で得られたモノフィラメントは、U%が6.6%で繊度均一性に劣っており、開口幅変動率も14.6%となり、精密濾過に適したフィルターを作製できなかった。
【0058】
比較例3
延伸工程での延伸倍率を3.56倍とした以外は、実施例1と同様にして延伸を行った。延伸に際し、第3ホットローラでの熱による溶断により糸切れが発生した。また、比較例3で得られたモノフィラメントを実際に緯糸に用い、平織りのフィルターを試作した。緯糸打ち込みは可能であったが、得られたメッシュは伸度が30%以上であり、試織中の過度の張力により細繊度化した糸が混入し、品位が不良であった。糸特性、開口幅変動率を表1に示したが、開口幅変動率が11.9%となり、精密濾過に適したフィルターを作製できなかった。
【0059】
比較例4
吐出量を0.4g/分(単孔当たり0.2g/分)に変更した以外は実施例3と同様に溶融紡糸を行い、吐出した糸は口金直下に設けた80℃の温水浴で急冷し、未延伸糸を得た。さらにこの未延伸糸を100℃の蒸気浴中で3.9倍に延伸し、さらに140℃の空気中で1.2倍に2段目の延伸を施した後、200℃の空気中で熱セット処理して100m/分で巻取り、比較例4とした。
【0060】
糸特性、開口幅変動率を表1に示したが、精密濾過に適したフィルターを作製できなかった。
【0061】
比較例5
実施例1と同様のPPSを用い、紡糸温度320℃で溶融紡糸した。金属不織布フィルター絶対濾過径15μmで濾過し、孔径1.00mm、ランド長2.00mmの孔を1個有する口金より吐出量5.10g/分でポリマーを吐出した。
【0062】
吐出したポリマーは、油剤を付与し、7000m/分の第1ゴデットローラ、第2ゴデットローラを介し、ダンサーアームを介しパーンワインダーを用いてパーンの形状に巻き取った。
【0063】
糸特性を表1に示したが、強度が低く、製織性試験での緯糸打ち込みが困難であり、試織を断念した。
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度が25dtex以下、U%(Normal)が3.0未満であり、強度が3.0cN/dtex以上、伸度が30%未満であることを特徴とする細繊度ポリフェニレンスルフィドモノフィラメント。
【請求項2】
ポリフェニレンスルフィド樹脂を溶融紡糸するに際し、該樹脂を溶融した後、紡糸口金から吐出した糸条を気体により冷却固化させて未延伸糸を得、該未延伸糸をTg−10℃以上、Tg+20℃以下に加熱された第1ローラと、Tg+50℃以下に加熱された第2ローラの間でホットロール延伸することを特徴とする請求項1に記載の細繊度ポリフェニレンスルフィドモノフィラメントの製造方法。

【公開番号】特開2009−68149(P2009−68149A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239702(P2007−239702)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】