細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する薬剤
【課題】植物の生長若しくは分化を制御する薬剤、並びに、標的を明確にした有用な生物活性を有する化学物質の探索手法、即ち、標的部位を化学的に調節する、特定の標的に対する活性で化学物質をスクリーニングする方法等を提供する。
【解決手段】植物由来のサイトカイニン受容体を有する細胞と前記受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と被験物質との接触系内において、前記受容体からの細胞内信号伝達の量を測定し、次いで測定された量と前記化学物質が存在しない場合における細胞内信号伝達の量とを比較することにより得られる差異に基づき植物の根の生長促進能力を有する化学物質。この方法により、活性物質として、6−クロロ−2−エトキシカルボニルメチルアミノ−4−フェニルキナゾリン等を見いだした。
【解決手段】植物由来のサイトカイニン受容体を有する細胞と前記受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と被験物質との接触系内において、前記受容体からの細胞内信号伝達の量を測定し、次いで測定された量と前記化学物質が存在しない場合における細胞内信号伝達の量とを比較することにより得られる差異に基づき植物の根の生長促進能力を有する化学物質。この方法により、活性物質として、6−クロロ−2−エトキシカルボニルメチルアミノ−4−フェニルキナゾリン等を見いだした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生長若しくは分化を制御する薬剤であり、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする薬剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカイニンは、高等植物の細胞分裂及び分化に関する植物ホルモンであり、高等植物細胞の分裂の誘起、カルスや髄から茎葉への分化、葉の黄化や落葉・落果等の防止、頂芽優先の打破等の作用を示すことが知られている重要な生理活性物質である(例えば、非特許文献1参照)。サイトカイニンによって引き起こされる生理現象を制御する方法としては、サイトカイニンを外部から与える方法、植物体内のサイトカイニン生合成を制御する方法、植物体内のサイトカイニン代謝を制御する方法等が考えられてきた。
【0003】
ところで、植物成長調節剤の有効成分となる化学物質は、従来、供試化学物質を植物に直接作用させ、その生物学的活性を検定するランダムスクリーニングによって見出されてきた。この場合、当該化学物質の安全性や環境への負荷を予測するために、有用な生物活性を有する化学物質が特定された後に、その化学物質がどのような作用機構で効力を有するか、その化学物質が作用する標的が何であるかを分子レベルで詳細に研究する必要があった。
【0004】
【非特許文献1】Cytokinins: Chemistry, Activity, and Function, CRC Press (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、植物成長調節剤の有効成分となる化学物質の探索及び開発に係る、上記のような状況下において、標的を明確にした有用な生物活性を有する化学物質の探索手法、即ち、標的部位を化学的に調節することを目的として、特定の標的に対する活性で化学物質をスクリーニングする方法等の開発を試みた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、このような状況下鋭意検討を行った結果、植物の生長若しくは分化を制御する薬剤であり、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする薬剤等を見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
(1)植物の生長若しくは分化を制御する薬剤であり、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする薬剤;
(2)植物を生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物成長調節剤であることを特徴とする前項1記載の薬剤;
(3)植物の生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物体の生長を制御する薬剤であることを特徴とする前項1記載の薬剤;
(4)植物の生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物細胞の分化を制御する薬剤であることを特徴とする前項1記載の薬剤;
(5)植物体の生長を制御する薬剤が、植物の芽の生長の制御のための薬剤であることを特徴とする前項3記載の薬剤;
(6)植物の芽の生長の制御が、腋芽抑制等であることを特徴とする前項5記載の薬剤;
(7)植物の芽の生長の制御が、花芽抑制等であることを特徴とする前項5記載の薬剤;
(8)植物体の生長を制御する薬剤が、植物の苗立ちを促進させる薬剤であることを特徴とする前項3記載の薬剤;
(9)植物体の生長を制御する薬剤が、植物の分げつを促進させる薬剤であることを特徴とする請求項3記載の薬剤;
(10)植物体の生長を制御する薬剤が、植物の根の生長を促進させる薬剤であることを特徴とする前項3記載の薬剤;
(11)細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体であることを特徴とする前項1〜10いずれか一項記載の薬剤;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(12)細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質との接触系において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性であることを特徴とする前項1〜10いずれか一項記載の薬剤;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(13)有効成分として、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする植物成長調節剤;
(14)前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、前記化学物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする前項13記載の植物成長調節剤;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(15)サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質が、トランスゼアチンであることを特徴とする前項14記載の植物成長調節剤;
(16)前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、0.6ppmのトランスゼアチンと、2ppmの前記化学物質との接触系内において、前記化学物質が存在しない場合よりも前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする前項13記載の植物成長調節剤;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(17)前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、0.6ppmのトランスゼアチンと、2ppmの前記化学物質との接触系内において、前記化学物質が存在しない場合よりも前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を90%以上阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする前項13記載の植物成長調節剤;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(18)植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質の探索方法であって、
<1>下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、被験物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の量を測定する第一工程、及び
<2>第一工程により測定された細胞内信号伝達の量と前記化学物質が存在しない場合における細胞内信号伝達の量とを比較することにより得られる差異に基づき植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質を選択する第二工程、
を有することを特徴とする方法;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(19)サイトカイニン受容体を有する細胞が、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが導入されてなる形質転換細胞であることを特徴とする前項18記載の探索方法;
(20)サイトカイニン受容体を有する細胞が、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが導入されてなる形質転換酵母細胞であることを特徴とする前項18記載の探索方法;
(21)サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質が、トランスゼアチンであることを特徴とする前項18、19又は20記載の探索方法;
(22)前項18、19、20又は21記載の探索方法により選抜された化学物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする植物成長調節剤;
(23)前項13、14、15、16、17又は22記載の植物成長調節剤の有効量を、植物又はその生息場所に施用することを特徴とする植物成長調節方法;
(24)前項18、19、20又は21記載の探索方法により植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質を特定し、特定された植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質と植物とを接触させることを特徴とする植物成長調節方法;
(25)有効成分として、一般式(I)
(式中、R及びXは同一又は異なって置換されていてもよい炭化水素基、NR1R2で表される基、OR3で表される基、S(O)mR4で表される基、ニトロ基又はハロゲン原子を示し、
ここでR1は水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示し、
R2は水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、NR5R6で表される基(ここでR5及びR6は同一もしくは異なり水素原子又は置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)又はOR7で表される基(ここでR7は水素原子又は置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し、又はR1及びR2が隣接する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい環状アミノ基を示し、
R3及びR4はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素基を示し、
lは0〜1の整数を示し、
mは0〜2の整数を示し、
nは0〜4の整数を示し、
nが2以上の場合Xは同一又は異なっていてもよく、
Arは置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示す)で表される化合物又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする植物成長調節剤;
(26)lが1であり、Rが置換されていてもよい炭化水素基である前項25記載の植物成長調節剤;
(27)lが1であり、Rがハロゲン原子又はオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である前項25記載の植物成長調節剤;
(28)置換されていてもよい炭化水素基がハロゲン原子又はオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である前項26記載の植物成長調節剤;
(29)lが1であり、RがNR1R2で表される基である前項25記載の植物成長調節剤;
(30)R1が水素原子又はC1-3アルキル基を示し、R2が水素原子、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、アミジノ基、C1-3アルコキシ基、フェニル基、C1-3アシル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基又はC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のフェニル基は1〜3個の同じもしくは異なるC1-3アルキル基で置換されていてもよく、前記のフェニル基、アシル基、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基はハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-3アルコキシ基、ヒドロキシC1-3アルコキシ基、カルボキシル基、C1-3アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、メルカプト基、C1-3アシルチオ基、シアノ基、フリル基及びテトラヒドロフリル基の中から選ばれる1〜3個の同じもしくは異なる置換基で置換されていてもよく、又はR1及びR2が隣接する窒素原子と一緒になってピロリジノ基、ピペリジノ基又はモルホリノ基を示す前項29記載の植物成長調節剤;
(31)R1が水素原子を示し、R2が水素原子、ホルミル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基又はC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基はヒドロキシル基、メトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、シアノ基及びフリル基の中から選ばれる置換基で置換されていてもよい前項29記載の植物成長調節剤;
(32)lが1であり、RがOR3で表される基である前項25記載の植物成長調節剤;
(33)R3がアミノ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である前項32記載の植物成長調節剤;
(34)lが1であり、RがS(O)mR4で表される基である前項25記載の植物成長調節剤;
(35)R4がアミノ基又はヒドロキシル基で置換されていてもよいC1-3アルキル基であり、mが0である前項34記載の植物成長調節剤;
(36)lが1であり、Rがハロゲン原子である前項25記載の植物成長調節剤;
(37)ハロゲン原子が塩素原子である前項36記載の植物成長調節剤;
(38)nが1〜2であり、XがC1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基、C1-3ハロアルキル基、シアノ基、ハロゲン原子又はニトロ基である前項25〜37いずれか一項記載の植物成長調節剤;
(39)Xが塩素原子、臭素原子又はニトロ基であり、Xの置換位置が6位及び/又は8位である前項38記載の植物成長調節剤;
(40)Arがハロゲン原子又はC1-3アルキル基で置換されていてもよいフェニル基である前項23〜37いずれか一項記載の植物成長調節剤;
(41)前項25〜40いずれか一項記載の植物成長調節剤の有効量を、植物又はその生息場所に施用することを特徴とする植物成長調節方法;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、植物の生長若しくは分化を制御する薬剤、並びに、標的を明確にした有用な生物活性を有する化学物質の探索手法、即ち、標的部位を化学的に調節することを目的として、特定の標的に対する活性で化学物質をスクリーニングする方法等が提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、詳細に本発明を説明する。
【0009】
本発明において「植物」とは、草や木等、根が生えて固定的な生活をしているような生物を示すような広義な意味で使用されており、植物体、植物組織、植物細胞等を含むような概念である。詳細には、土壌における植物の固定、外部からの水分及び養分吸収等の重要な役割を根という器官を介して行うことができる高等植物等の生物を示し、花卉・観葉植物等の鑑賞用植物、穀類・野菜・果樹等の作物、繊維植物、樹木、芝等の植物があげられる。具体的には例えば、イネ、トウモロコシ等の穀物類、ベントグラス、コウライシバ等の芝類、トマト、ピーマン、トウガラシ、スイカ等のウリ類、キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ等のウリ類、キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ等の菜類、セロリ、パセリ、レタス等の生菜、香辛菜類、ネギ、タマネギ、ニンニク等のネギ類、ダイズ、インゲン、エンドウ、アズキ等の豆類、イチゴ等の果菜類、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ等の直根類、サトイモ、バレイショ、サツマイモ、ナガイモ等のイモ類、アスパラガス、ホウレンソウ、ミツバ等の柔菜類、トルコギキョウ、ストック、カーネーション、キク等の花弁類、ナタネ、ラッカセイ等の油料作物類、サトウキビ、テンサイ等の糖料作物類、ワタ、イグサ等の繊維料作物類、クローバー、ソルガム等の飼料作物類、リンゴ、ナシ、ブドウ、モモ、クリ等の落葉性果樹類、ミカン、レモン、グレープフルーツ等の柑橘類、サツキ、ツツジ、スギ等の木本類等を挙げることができる。
本発明において植物の「生長」とは、種子の発芽に始まる植物の初期発生から、根、茎、葉の成長と発達、花の形成から種子の成熟に至るまでの過程において、すでにある栄養器官(根、茎、葉)を新たに作っては積み上げていくような一般的な過程をいうが、例えば、発芽、根の伸長、芽の伸長、茎の伸長、頂芽・腋芽の形成と伸長、枝・葉の展開、花芽の形成と開花、結実、種子の成熟等が挙げられる。
本発明において植物の「分化」とは、分化全能性を獲得した植物細胞集団であるカルスから、根、茎、葉等の植物組織が形成されること(再分化)、又は、根、茎、葉等の植物組織の細胞からカルスが形成されること(脱分化)をいう。
本発明において植物の「芽の生長の制御」とは、頂芽若しくは腋芽の生長を促進又は抑制することをいうが、例えば、頂芽優勢により生長が抑制されている腋芽の生長を開始させたり、頂芽を切除することにより生長を開始する腋芽の生長を抑制させたり、通常の頂芽の生長を抑制させたりすることが挙げられる。
本発明において「植物の生長若しくは分化を制御する薬剤」とは、植物に種々の方法により処理することによって植物の生長若しくは分化を制御することができる薬剤である。植物の生長若しくは分化を制御することにより、農作物等有用植物の成長や発育をコントロールして、初期生育を高めたり、品質を高めたり、収量を上げたり、不良条件でも収量を安定させたり、生産上の労力を省くことが可能となり、「植物の生長若しくは分化を制御する薬剤」は、「植物成長調節剤」として利用することができる。
【0010】
本発明において植物の「根」とは、双子葉植物及び裸子植物の場合には、種子の胚にある幼根から発達した主根、主根から枝分かれして伸びる側根等をいう。また、単子葉植物の場合には、種子の胚にある幼根(種子根)、種子根の成長停止後、上方部に生ずる不定根(所謂ひげ根)、不定根から枝分かれして伸びる側根等をいう。また、根の表皮細胞が、外側に向かって長く伸びた根毛等をいうこともある。植物の根は、土壌における植物の固定、外部からの水分及び養分吸収等、植物にとって重要な役割を担う器官である。また、植物の根は、植物ホルモンの生成場所としても非常に重要である。農業上においては、多くの作物は種子によって増殖する。従って、植物の生長の初期に均一に苗立ちが得られることは、高品質、高収量につながる非常に重要な要素である。植物の根の生長を促進させることにより、土壌への活着率の向上、苗立ちの改善等による生産性又は品質の向上、苗立ちの向上による早期の雑草防除コントロール、種子の供給源の効率化等、種々の利点が期待される。また、根張りが向上することにより、乾燥ストレス耐性の向上又は病害虫耐性の向上等、また養分吸収能力の向上による肥料量の削減等が期待される。
【0011】
本発明において植物の「根の生長」とは、根の細胞の分裂、伸長、重量増加により、根の長さ、根数が増加又は、根量、太さ、活性等が増加すること等をいう。
【0012】
本発明において植物の「根の生長を促進させる」とは、植物の根の生長を従来よりも活発にし、無処理の場合と比較して、根の長さ、根数が増加又は、根量、太さ、活性等が増加すること等をいう。
【0013】
本発明において「植物の根の生長を促進させる薬剤」とは、植物に種々の方法により処理することによって植物の根の生長を促進させることができる薬剤である。植物の根の生長が促進することにより、農作物等有用植物の成長や発育をコントロールして、初期生育を高めたり、品質を高めたり、収量を上げたり、不良条件でも収量を安定させたり、生産上の労力を省くことが可能となり、「植物の根の生長を促進させる薬剤」は、「植物成長調節剤」として利用することができる。
【0014】
ここで、「苗立ち」とは、播種された種子が出芽した後植物体として正常な生育が可能な状態で土壌に定着することまたは移植された植物の苗が土壌に定着し正常に生育することをいう。苗立ちが促進されることにより、植物の初期生育が改善され、健全な植物を育成することができる。また、健全に生育する植物数が増加することにより、最終的な収量の増加が期待される。例えば、イネ直播栽培においては、出芽・苗立ちが不安定で、常に一定の苗立ち数を確保することは一般に困難である。本発明の苗立ちを促進させる薬剤は、苗立ちを促進しイネ直播栽培の効率を改善することができる。「苗立ち率」とは、播種された種子の総数または移植された植物の苗の総数に対する苗立ちした植物の割合をいい、例えば、イネの場合、本願明細書において次式にて定義されうる。
式; [苗立ち率(%)]=[葉の先端が水面に出現している苗数]/[播種数]×100
【0015】
植物の「分げつ」とは、植物生長にともない枝分かれすることまたはその枝をいい、例えばイネ科植物の場合側枝をいう。分げつの促進とは、分げつ時期が早まることおよび分げつ数が増加することを含む。例えば、低温・高温・乾燥などのストレス条件下で、本発明の植物成長調節剤を用いて分げつ時期を早めて、健全苗を早期に確保できれば、ストレスからの苗のダメージを回避することができる。また、例えば、分げつ時期が早まることにより、植物の栽培期間の短縮につながる。また、植物の分げつ形成は、穂数にも直接影響するため、栽培条件によっては増収が期待できる。
【0016】
オーキシン活性物質は、植物の種類・オーキシン処理濃度等によっては葉の上偏成長、茎の捻転や茎割れ、根こぶの誘導等といった好ましくない性質を示すことがある。
サイトカイニン活性物質は植物の根の生長抑制と生長促進との両面の性質を有すると考えられている〔例えば、PNAS 101 (23):8821-8826 (2004)〕が、このような性質を農業上実用的に利用するには、未だ多くの知見の蓄積を待たねばならない状況にある。しかしながら、植物におけるサイトカイニンの役割を詳細に検討することは、植物体内のサイトカイニン量を調節すること(特に、植物の内性のサイトカイニン量を低減させること)は通常困難であるために、いくら当該技術分野に精通する研究者と雖も容易なものではない。
植物の内性のサイトカイニンは、サイトカイニン情報伝達を阻害してサイトカイニンに対する感受性を弱めることにより、負の制御が可能と考えられる。例えば、サイトカイニン受容体そのものを変異させることによりサイトカイニン情報伝達を阻害させることができ、サイトカイニン受容体の変異体が単離されている〔The Plant Cell 16:1365-1377 (2004), PNAS 101 (23):8821-8826 (2004)〕。しかしながら、これらの変異体では阻害の程度を段階的に制御することは困難であり、サイトカイニン受容体の1重変異体は野生型と同様の表現型を示す一方で、3重変異体は根の伸長阻害と植物体の生長不良とを示す。
【0017】
本発明において「細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体」とは、植物に存在するサイトカイニン受容体を示す。サイトカイニン受容体は、例えば、カイネチン、ゼアチン等のプリン系サイトカイニン、N−フェニル−N’−(4−ピリジル)ウレア等のウレア系サイトカイニン等のサイトカイニンに特異的に結合し、Two-Component regulatory system (又はHis to Asp phosphorelay system)と呼ばれる細胞内信号伝達メカニズムによって高等植物細胞の増殖、分化を制御する機能を有するタンパク質である。本発明で用いられるサイトカイニン受容体とは、ヒスチジンキナーゼファミリーに属しており、細胞外領域、膜貫通領域、ヒスチジンキナーゼ領域(細胞内でヒスチジンキナーゼ活性を有しかつ活性部位となるHis残基を保持する領域)及びレシーバー領域(リン酸基転移の受容部を有しかつ活性部位となるAsp残基を保持する領域)から構成されているタンパク質である。
【0018】
Two-Component regulatory systemは、真性細菌、古細菌、カビ、植物で広く用いられている情報受容・細胞内信号伝達メカニズムである。このメカニズムにおいて受容体として働くヒスチジンキナーゼにはN-末端側にシグナルを受容するインプット領域、そのC-末端側にリン酸基転移に関わるトランスミッター領域と呼ばれる領域がある。インプット領域がシグナルを感知するとトランスミッター領域(前述のサイトカイニン受容体のヒスチジンキナーゼ領域)のHis残基が自己リン酸化される。このリン酸基は、保存された特定のHis残基とAsp残基を交互にリン酸化しながら転移して、最終的にはレスポンスレギュレーターと呼ばれるタンパク質のレシーバー領域のAsp残基をリン酸化する。リン酸基は、ヒスチジンキナーゼからレスポンスレギュレーターへ直接受け渡される場合と、何段階かのリン酸基転移を経てレスポンスレギュレーターに受け渡される場合がある。前者のような単純なTwo-Component regulatory systemは原核生物に多く存在する。一方、多段階のリン酸基転移は真核生物に多く見られ、そのような真核生物のヒスチジンキナーゼにはレシーバー領域が付随している場合が多い。また、リン酸基の転移にはリン酸基転移メディエーターも関与する。レスポンスレギュレーターのリン酸化は、付随するアウトプット領域の活性を制御する。アウトプット領域は転写制御因子であることが多い。
植物のサイトカイニン受容体においては、同一分子内にレシーバー領域が付随している。即ち、サイトカイニンと結合したサイトカイニン受容体では、分子内のHis残基の自己リン酸化に続いて、このHis残基から分子内Asp残基へのリン酸基の転移が起こることが知られている。さらに、このリン酸基はリン酸基転移メディエーターのHis残基を経て、レスポンスレギュレーターのAsp残基へ転移することが明らかになっている。例えば、シロイヌナズナにおいては、リン酸基はサイトカイニン受容体CRE1、AHK2、AHK3からリン酸基転移メディエーターAHPを経て、レスポンスレギュレーターに転移することが明らかになっている。
【0019】
サイトカイニン受容体をコードする遺伝子としては、これまでに、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana、CRE1:accession No.AB049934、AHK2:accession No.AB046869、AHK3:accession No.AB046870)、ツルニチニチソウ(Catharanthus roseus、accession No.AY092025)、イネ(Oryza sativa、accession No.AY572461)、トウモロコシ(Zea mays、ZmHK1:accession No. AB042270、ZmHK2:accession No. AB102956、ZmHK3a:accession No. AB102957、ZmHK3b:accession No. AB121445)等由来の遺伝子の塩基配列が知られている。このような塩基配列既知の遺伝子は、目的の遺伝子を持つ生物のゲノムDNA又はcDNAを鋳型にして、その遺伝子にコードされるタンパク質のアミノ末端付近に相当する塩基配列及びカルボキシ末端付近に相当する塩基配列をもとに作製したプライマーを用いてPCRを行うことにより増幅し、これを単離することができる。また、上記以外の植物から、サイトカイニン受容体をコードする遺伝子を取得することもできる。まず、目的とする植物からmRNAを調製し、該mRNAを鋳型として逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、これをZAPII等のファージベクター又はpUC等のプラスミドベクターに組み込んでcDNAライブラリーを製作する。このcDNAライブラリーを鋳型にして、上記のような塩基配列既知の遺伝子間で良好に保存された塩基配列に基づき設計し合成されたプライマーを用いてPCRを行うことによって、サイトカイニン受容体をコードする遺伝子の少なくとも一部を含むDNA断片を増幅することができる。このDNA断片をプローブにしてcDNAライブラリーをスクリーニングし、陽性クローンを選抜する。選抜したクローンの有するDNAの塩基配列を決定することによって、目的とするサイトカイニン受容体をコードする遺伝子であることを確認することができる。
シロイヌナズナの3種類のサイトカイニン受容体(CRE1、AHK2、AHK3)はいずれも同一分子内にレシーバー領域が付随しているヒスチジンキナーゼである。これら3者間のアミノ酸配列の相同性は高く、とりわけ、サイトカイニンと結合すると考えられる細胞外領域のアミノ酸配列の相同性は高い。後述の組換え酵母においても、これら3種類のサイトカイニン受容体はいずれもサイトカイニンに応答した細胞内信号伝達を起こし、サイトカイニン受容体の活性を確認することができた。他の植物のサイトカイニン受容体もヒスチジンキナーゼであり、それらのアミノ酸配列はシロイヌナズナのサイトカイニン受容体のアミノ酸配列と相同性が高い。
シロイヌナズナのサイトカイニン受容体CRE1のアミノ酸配列に対するその他のサイトカイニン受容体のアミノ酸配列との同一性は表1に示される。
好ましい「細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体」として、例えば、シロイヌナズナのサイトカイニン受容体CRE1のアミノ酸配列と45%以上、好ましくは49%以上、さらに好ましくは53%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、サイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質を挙げることができる。
【0020】
【表1】
【0021】
「細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達」とは、前述のとおり、サイトカイニンが結合したサイトカイニン受容体の自己リン酸化に始まるリン酸基の転移によって行われる情報伝達である。即ち、植物の細胞においては、サイトカイニンが結合して自己リン酸化されたサイトカイニン受容体からリン酸基転移メディエーターに、さらにそこからレスポンスレギュレーターにリン酸基が転移することでサイトカイニン応答の信号が伝達される。同様に、植物由来のサイトカイニン受容体を有する組換え細胞においても、サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達はリン酸基の転移によって行われるが、リン酸基転移メディエーターとレスポンスレギュレーターは宿主細胞由来のものである場合がある。全てが宿主由来のものである場合も、いくつかだけが宿主由来の場合もある。また、リン酸基転移メディエーターは存在しない場合もある。例えば、サイトカイニン受容体を有する組換え出芽酵母においては、植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達は、サイトカイニンが結合して自己リン酸化されたサイトカイニン受容体から、宿主出芽酵母細胞由来のリン酸基転移メディエーターであるYpd1を経て、宿主出芽酵母細胞由来のレスポンスレギュレーターであるSsk1にリン酸基が転移することによって行われる。また、サイトカイニン受容体を有する組換え分裂酵母においては、植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達は、宿主分裂酵母由来のリン酸基転移メディエーターSpy1を経て宿主分裂酵母由来のレスポンスレギュレーターMcs4にリン酸基の転移によって伝達される。その他、サイトカイニン受容体を有する組換え大腸菌においては、植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達は、宿主大腸菌由来のリン酸基転移メディエーターYojNを経て宿主大腸菌由来のレスポンスレギュレーターRcsBにリン酸基の転移によって伝達される。
こうした植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の有無や量を測定する方法の一つに、植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の下流に位置するレスポンスレギュレーターによって転写を制御されているターゲット遺伝子の発現の有無や量を測定する方法がある。この方法には、ターゲット遺伝子の発現の有無や量を直接測定する他に、ターゲット遺伝子のプロモーター領域に蛍光タンパク質の遺伝子やベータガラクトシダーゼの遺伝子等のレポーター遺伝子を結合して作製したレポータープラスミドで宿主細胞の形質転換を行ってレポーター遺伝子の発現の有無や量を蛍光や発色を指標にして測定する方法や、ターゲット遺伝子の発現に関連した細胞数の増減や細胞の形質の変化等を測定したり観察したりする方法がある。例えば、前述の組換え出芽酵母ではサイトカイニン依存的な組換え出芽酵母の生育を指標に、また組換え分裂酵母ではサイトカイニン依存的な組換え分裂酵母の大きさを指標に、さらに組換え大腸菌ではターゲット遺伝子cpsのプロモーター領域に結合したベータガラクトシダーゼ遺伝子の発現に起因する発色を指標にして、植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の有無や量を測定することができる。その他、タイプAのレスポンスレギュレーターであるARR5やARR6のプロモーター領域にレポーター遺伝子を結合したレポータープラスミドで形質転換したシロイヌナズナにおいて、サイトカイニン依存的な蛍光や発色を指標にサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の有無や量を測定することもできる。以上のような測定方法は、例えば、Higuchi et al, Nature 409, 1060-1063(2001); Suzuki et al, Plant Cell Physiol. 42, 107-113(2001); Hwang and Sheen, Nature 413, 383-389(2001)等に記載されている。
以上のような細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の様々な測定方法の中で、機械的且つ定量的に効率良く測定する方法としては、組換え出芽酵母のサイトカイニン依存的な生育を液体培地の濁度を分光光度計で測定する方法が望ましい。具体的には、日本特許公開特許公報(特開2003−079393)等に記載されている方法が挙げられる。
【0022】
「細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性」とは、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を減少させる能力をいう。即ち、サイトカイニン受容体の自己リン酸化に始まりサイトカイニン受容体からレスポンスレギュレーターへと転移されるリン酸基の量を減少させる能力を意味する。具体的には、サイトカイニン受容体のヒスチジンキナーゼ活性を阻害する能力、サイトカイニン受容体からリン酸基転移メディエーターへのリン酸基転移を阻害する能力、リン酸基転移メディエーターからレスポンスレギュレーターへのリン酸基転移を阻害する能力、レスポンスレギュレーターの転写制御を阻害する能力等が挙げられる。さらに具体的には、サイトカイニン受容体のヒスチジンキナーゼ活性を阻害する能力として、サイトカイニンアゴニスト活性を有する物質とサイトカイニン受容体との結合の阻害有無に依存して、サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の阻害有無が決定されるような機構により、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害し、その結果、前記サイトカイニン受容体のヒスチジンキナーゼ活性を阻害する能力が挙げられる。この場合、実際にサイトカイニンアゴニスト活性を有する物質とサイトカイニン受容体との結合を被験物質が阻害することを調べる方法の一つに、放射性標識したサイトカイニンアゴニスト活性を有する物質とサイトカイニン受容体とを用いる方法がある。例えば、水素の放射性同位体であるトリチウムで標識して高い放射活性を持たせたサイトカイニンアゴニスト活性を有する物質とサイトカイニン受容体の遺伝子を導入した組換え酵母から調製したサイトカイニン受容体タンパク質とを適当な緩衝液中に共存させた後、サイトカイニン受容体タンパク質をガラスフィルター上に回収して放射能を測定することで、サイトカイニン受容体に結合した前記トリチウムで標識して高い放射活性を持たせたサイトカイニンアゴニスト活性を有する物質を検出することができ、緩衝液中に被験物質も共存させた場合に放射能の測定値が減少することを指標にして、サイトカイニンアゴニスト活性を有する物質とサイトカイニン受容体との結合を被験物質が阻害することを調べることができる。そして、前記の植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の有無や量を測定する反応系に被験物質を添加して、被験物質が植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達に与える影響を調べることができる。
【0023】
「細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする薬剤」とは、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する物質を有効成分とする薬剤である。
【0024】
本発明において「植物の生長若しくは分化を制御する薬剤であり、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする」とは、前記の測定方法で細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する能力を特定された薬剤であり、植物の生長若しくは分化を制御することができる薬剤を意味する。当該薬剤として、望ましくは、植物の生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物成長調節剤である薬剤が挙げられる。
【0025】
本発明において「植物成長調節剤」とは、前記植物の生長若しくは分化を制御する能力を有する薬剤をいう。
植物の生長若しくは分化を制御する能力を測定する方法の一つとして、本発明で開示される方法の他に、例えば、前記の植物に対する根部生長促進活性を測定する方法が挙げられる。具体的には、例えば、以下の方法に従い、測定することができる。
下記の組成(表2参照)からなる園試標準培地を調製する。化学物質のDMSO溶液を4μlずつ、終濃度0.001ppm〜10ppmになるようにクラスターチューブに分注し、さらに滅菌した園試標準培地を600μlずつクラスターチューブに加えて混合する。チューブ当り10〜20粒のシロイヌナズナ種子を播種し、22℃、明所にて10日間培養した後、平均的な主根の長さを測定する。8反復の平均値を求め、次の式により根部生長率を求める。
【0026】
【表2】
【0027】
根部生長率(%)=(化学物質処理区の平均主根長)/(対照区の平均主根長)×100
有意に高い根部生長率を示す供試薬剤については、根部生長促進活性があると言える。また、より好ましくは、根部生長率が120%以上の供試薬剤は根部生長促進活性があると判断できる。
【0028】
本発明における植物成長調節剤は、有効成分として、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質又はその農学的に許容される塩を含む。
本発明において「農学的に許容される塩」とは、植物成長調節剤としての製造、及び当該製造物の施用に関して、その製造及び施用が不可能とならない形態の塩を指し、どのような形態の塩でもあってもよい。かかる塩としては、具体的には、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の鉱酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩等の有機酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸塩などの酸付加塩、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)及びアルカリ土類金属塩(マグネシウム塩など)、アルミニウム塩等の金属塩、並びに、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基及びリジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸との付加塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0029】
当該植物成長調節剤は、通常、固体担体、液体担体等と混合し、必要により界面活性剤、その他の製剤用補助剤等を添加して、乳剤、水和剤、懸濁剤、水溶剤等に製剤化して用いられる。これらの製剤中にサイトカイニン情報伝達阻害物質が一般に0.5〜90重量%、好ましくは1〜80重量%含有される。
製剤化するに際し用いられる固体担体としては、例えば粘土類(カオリナイト、珪藻土、合成含水酸化珪素、フバサミクレー、ベントナイト、酸性白土等)、タルク、その他の無機鉱物(セリサイト、石英粉末、硫黄粉末、活性炭、炭酸カルシウム等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、塩安、尿素等)等の微粉末や粒状物が挙げられ、液体担体としては、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルナフタレン等)、非芳香族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、ケロシン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジオキサン、ジイソプロピルエーテル等)、酸アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロエタン、トリクロロエチレン等)等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールエーテル類及びそのポリオキシエチレン化物、ポリエチレングリコールエーテル類、多価アルコールエステル類、糖アルコール誘導体等が挙げられる。
その他の製剤用補助剤としては、例えばカゼイン、ゼラチン、多糖類(澱粉、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等)等の固着剤や分散剤、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−/3−tert−ブチル−4−メトキシフェノール)、植物油、鉱物油、脂肪酸、脂肪酸エステル等の安定剤が挙げられる。
【0030】
本発明において「有効成分として、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする植物成長調節剤」とは、前記の測定方法で細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する能力を特定された化学物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有することにより植物の生長若しくは分化を制御することができる薬剤をいう。当該化学物質として、望ましくは、サイトカイニン受容体と前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質との前記組換え出芽酵母接触系において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する能力を有する化学物質を挙げることができる。また、より望ましくは、サイトカイニン受容体と前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質との前記組換え出芽酵母接触系において、トランスゼアチンの存在濃度が0.6ppmで化学物質の存在濃度が2ppm以上の場合に、当該化学物質が存在しない場合よりもサイトカイニン受容体の活性が低くなるように阻害する能力を有する化学物質が挙げられる。またさらに望ましくは、サイトカイニン受容体と前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質との前記組換え出芽酵母接触系において、トランスゼアチンの存在濃度が0.6ppmで化学物質の存在濃度が2ppm以上の場合に、当該化学物質が存在しない場合よりもサイトカイニン受容体の活性が90%以上低くなるように阻害する能力を有する化学物質を挙げることができる。
【0031】
本発明において「被験物質が有する、植物の根の生長を促進させる能力の検定方法であって、(1)下記の群Aから選択される植物由来のサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、被験物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性(or細胞内信号伝達の有無若しくはその量)を測定する第一工程、及び(2)第一工程により測定された活性と対照における活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記物質が有する植物の根の生長を促進させる能力を評価する第二工程、を有することを特徴とする方法」とは、被験物質が有する植物の根の生長を促進させる能力を検定する様々な方法の中で、前記の第一工程及び第二工程を有することを特徴とする方法をいう。
ここで、「群A」とは、
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
を示す。
【0032】
前記の第一工程は、前記の様々な植物由来のサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、被験物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性(or細胞内信号伝達の有無若しくはその量)を測定する工程である。また第二工程は、第一工程により測定された活性と対照における活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記物質が有する植物の根の生長を促進させる能力を評価する工程である。ここで対照とは、例えば被験物質を溶媒に溶解した状態で反応系に添加した場合には、被験物質を溶解した溶媒のみを添加した試験区を意味する。
当該第一工程及び当該第二工程を有する、被験物質が有する、植物の根の生長を促進させる能力の検定方法に使用される、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体は、前記群Aに示す蛋白質である。上記の群Aの蛋白質のうち、(b)、(c)、(d)、(e)に示される蛋白質のアミノ酸配列において、(a)に示されるアミノ酸配列との間に認められることのある相違は、一部のアミノ酸の欠失、置換、付加等である。これらには、例えば、上記の(a)で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質が細胞内で受けるプロセシングによる欠失が含まれる。また、当該蛋白質が由来する生物の種差や個体差等により天然に生じる遺伝子変異や、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、突然変異処理等によって人為的に導入される遺伝子変異等により生じるアミノ酸の欠失、置換、付加等が含まれる。
かかる欠失、置換、付加等を受けるアミノ酸の数は、サイトカイニン受容体のヒスチジンキナーゼ活性を見出すことのできる範囲内の数であれば良い。また、アミノ酸の置換としては、例えば、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似したアミノ酸への置換をあげることができる。このような置換としては、具体的には例えば、(1)グリシン、アラニン;(2)バリン、イソロイシン、ロイシン;(3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、(4)セリン、スレオニン;(5)リジン、アルギニン;(6)フェニルアラニン、チロシン等のグループ内での置換が挙げられる。
かかるアミノ酸の欠失、付加若しくは置換(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う手法としては、例えば、(a)で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。また、アミノ酸の改変を人為的に行う手法としては、例えば、(a)で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対してランダムに変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法も挙げられる。ここでランダムに変異を導入する手法としては、例えば、上記のアミノ酸配列のいずれかをコードするDNAを鋳型とし、それぞれのDNAの全長を増幅できるようなプライマー対を用い、基質に用いるdATP、dTTP、dGTP、dCTPの各々の添加濃度を通常とは変化させた反応条件や、或いはポリメラーゼの反応を促進させるMg2+の濃度を通常よりも増加させた反応条件でPCRを行う方法等が挙げられる。このようなPCRの手法としては、例えば、Method in Molecular Biology, (31), 1994, 97-112 に記載される方法があげられる。また、WO0009682号公報に記載される方法をあげることもできる。
【0033】
ここで「配列同一性」とは、2つの塩基配列又は2つのアミノ酸配列間の同一性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の塩基配列又はアミノ酸配列の最適なアラインメントにおいては、付加又は欠失(例えばギャップ等)を許容してもよい。このような配列同一性は、例えば、FASTA[Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,4, 2444-2448(1988)]、BLAST[Altschulら、Journal of Molecular Biology, 215, 403-410(1990)]、CLUSTAL W[Thompson,Higgins&Gibson, Nucleic Acid Research, 22, 4673-4680(1994a)]等のプログラムを用いて相同性解析を行いアラインメントを作成することによって算出することができる。上記のプログラムは、例えば、DNA Data Bank of Japan[国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター (Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan ;CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンク]のホームページ(http://www.ddbj.nig.ac.jp)等において、一般的に利用可能である。また、配列同一性は市販の配列解析ソフトウェアを用いて求めることもできる。具体的には例えば、GENETYX-WIN Ver.5(ソフトウェア開発株式会社製)」を用い、Lipman-Pearson法[Lipman, D. J. and Pearson, W.R., Science, 227, 1435-1441,(1985)]により相同性解析を行ってアラインメントを作成することにより算出することができる。
【0034】
(e)に記載される「ストリンジェントな条件」としては、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行われるハイブリダイゼーションにおいて、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)を含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSC(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSC(高ストリンジェンシーな条件)までの条件から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)までの条件から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
これらの蛋白質は、勿論サイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質であるが、より望ましくは、最大の配列同一性が得られるよう配列番号1で示されるアミノ酸配列と整列させた場合に、配列番号1で示されるアミノ酸配列の(I)459位、(II)973位に相当する位置のアミノ酸残基が、下記アミノ酸残基;(I)459位はヒスチジン、(II)973位はアスパラギン酸である蛋白質が用いられる。ここで、「最大の配列同一性が得られるように配列番号1で示されるアミノ酸配列と整列させる」とは、上記のFASTA、BLAST、CLUSTAL W等のプログラムを用いて配列番号1で示されるアミノ酸配列を含めて対象となる複数のアミノ酸配列の配列同一性解析を行い整列させることを意味する。このような方法で複数の配列を整列させることにより、アミノ酸配列中にある挿入、欠失にかかわらず、各アミノ酸配列中における相同アミノ酸残基の位置を決めることが可能である。相同位置は、三次元構造中で同位置に存在すると考えられ、対象の蛋白質の特異的機能に関して類似した効果を有することが推定できる。例えば、本発明で配列が開示されるサイトカイニン受容体を含め、既知のサイトカイニン受容体は、アミノ酸配列最大の配列同一性が得られるよう配列番号1で示されるアミノ酸配列と整列させた場合に、配列番号1で示されるアミノ酸配列の(I)459位、(II)973位に相当する位置のアミノ酸残基が、下記アミノ酸残基;(I)459位はヒスチジン、(II)973位はアスパラギン酸である。
【0035】
植物の生長若しくは分化を制御する薬剤の有効成分は、例えば、前記の植物の根に対する根の生長を促進させる能力を測定することによって探索することができる。
また、前記の細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体を用いた植物の根の生長を促進させる能力の検定方法によっても植物の生長若しくは分化を制御する能力を有する物質を探索することが可能である。具体的には、前記のサイトカイニン受容体を用いた植物の根の生長を促進させる能力の検定方法を用いて、被験物質の植物の根の生長を促進させる能力がある一定値以上、又は一定値以下であることが特定された場合、当該物質を選抜することによって植物の根の生長を促進させる能力を有する物質を探索できる。
また当該探索方法によって選抜された物質は、植物の生長若しくは分化を制御する能力を有することから、その物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有する植物成長調節剤となり得る。
【0036】
サイトカイニン情報伝達を阻害する物質としては、具体的には例えば、サイトカイニンアンタゴニスト、サイトカイニンアゴニストのようなものが挙げられる。
上述の探索方法により選抜されたサイトカイニン情報伝達阻害物質は、植物の根部の生長を促進しうる。根部の生長とは主根の伸長、側根の伸長、根毛の伸長等をいう。
上述の探索方法により選抜されたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性は、例えば、下記の方法を用いて検定することができる。植物の種類、アッセイ方法により変わり得るが、例えば、サイトカイニン情報伝達阻害物質を0.0001〜100ppmの範囲で種々の濃度に調製した水溶液、水耕栽培用培地、組織培養用培地を作成する。シャーレ試験の場合、シャーレ中に敷いたろ紙に上記溶液を沁み込ませ、植物種子を置床する。小袋試験の場合、種子成長袋等根の生長の観察のできる袋中の厚紙に上記溶液を沁みこませ、植物種子を播種する。また、上記溶液にアガロース、寒天等を添加した固形培地をプラスチックシャーレ又はプラスチック遠沈管に調製し、植物種子を播種して、明所にて10〜30℃の温度にて一定期間培養した後、主根又は側根の長さ、側根の数、根部湿重量、根部乾重量等を測定する。
上述の探索方法により選抜されたサイトカイニン情報伝達阻害物質は、植物成長調節剤として利用してもよい。
【0037】
本発明で使用される一般式(I)で表される化合物(以下、化合物(I)と記すこともある。)におけるR、X、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7で表される基において、
「炭化水素基」としては、例えば、脂肪族炭化水素基、単環式飽和炭化水素基及び芳香族炭化水素基等が挙げられ、炭素数1乃至16個のものが好ましい。具体的には例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基等が用いられる。
「アルキル基」は、例えば、低級アルキル基等が好ましく、具体的には例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチル、ペンチル、へキシル等のC1-6アルキル基等が用いられる。
「アルケニル基」は、例えば、低級アルケニル基等が好ましく、具体的には例えば、ビニル、1−プロペニル、アリル、イソプロペニル、ブテニル及びイソブテニル等のC2-6アルケニル基等が用いられる。
「アルキニル基」は、例えば、低級アルキニル基等が好ましく、具体的には例えば、エチニル、プロパルギル及び1−プロピニル等のC2-6アルキニル基等が用いられる。
「シクロアルキル基」は、例えば、低級シクロアルキル基等が好ましく、具体的には例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロへキシル等のC3-6シクロアルキル基等が用いられる。「アラルキル基」は、例えば、ベンジル、フェネチル等のC7-11アラルキル基が好ましく、具体的には例えば、ベンジル基が用いられる。
「アリール基」は、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル及び2−アンスリル等のC6-14アリール基等が好ましく、具体的には例えば、フェニル基等が用いられる。
【0038】
「置換されていてもよい炭化水素基」及び「置換されていてもよいC1-6アルキル基」の「炭化水素基」及び「C1-6アルキル基」が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子(具体的には例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、低級アルキル基(具体的には例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、へキシル等のC1-6アルキル基等)、低級アルコキシ基(具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、ペンチルオキシ、へキシルオキシ等のC1-6アルコキシ基等)、アミノ基、モノ−低級アルキルアミノ基(具体的には例えば、メチルアミノ、エチルアミノ等のモノ−C1-6アルキルアミノ基等)、ジ−低級アルキルアミノ基(具体的には例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等のジ−C1-6アルキルアミノ基等)、イミノ基、カルボキシル基、低級アルキルカルボニル基(具体的には例えば、アセチル、プロピオニル等のC1-6アルキルカルボニル基等)、低級アルコキシカルボニル基(具体的には例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル等のC1-6アルコキシカルボニル基等)、カルバモイル基、チオカルバモイル基、モノ−低級アルキルカルバモイル基(具体的には例えば、メチルカルバモイル、エチルカルバモイル等のモノ−C1-6アルキルカルバモイル基等)、ジ−低級アルキルカルバモイル基(具体的には例えば、ジメチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル等のジ−C1-6アルキルカルバモイル基等)、アリールカルバモイル基(具体的には例えば、フェニルカルバモイル、ナフチルカルバモイル等のC6-10アリールカルバモイル基等)、アリール基(具体的には例えば、フェニル、ナフチル等のC6-10アリール基等)、アリールオキシ基(具体的には例えば、フェニルオキシ、ナフチルオキシ等のC6-10アリールオキシ基等)、複素環基(具体的には例えば、2−又は3−チエニル、2−又は3−テトラヒドロチエニル、2−又は3−フリル、2−又は3−テトラヒドロフリル、1−、2−又は3−ピロリル、1−、2−又は3−ピロリジニル、2−、4−又は5−オキサゾリル、3−、4−又は5−イソオキサゾリル、2−、4−又は5−チアゾリル、3−、4−又は5−イソチアゾリル、3−、4−又は5−ピラゾリル、2−、3−又は4−ピラゾリジニル、2−、4−又は5−イミダゾリル、4−又は5−1H−1,2,3−トリアゾリル、3−又は5−1,2,4−トリアゾリル、5−1H−又は5−2H−テトラゾリル、2−、3−又は4−ピリジル、2−、4−又は5−ピリミジニル、1−、2−又は3−チオモルホリニル、1−、2−又は3−モルホリニル、1−、2−、3−又は4−ピペリジノ、2−、3−又は4−ピペリジル、2−、3−又は4−チオピラニル、2−、3−又は4−4H−1,4−オキサジニル、2−、3−又は4−4H−1,4−チアジニル、1,3−チアジニル、1−又は2−ピぺラジニル、3−、5−又は6−1,2,4−トリアジニル、2−1,3,5−トリアジニル、3−又は4−ピリダジニル、2−ピラジニル等)、低級アルキルカルボニルアミノ基(具体的には例えば、アセチルアミノ等のC1-6アルキルカルボニルアミノ基等)、メルカプト基、C1-6アルキルチオ基(具体的には例えば、メチルチオ等のC1-6アルキルチオ基)、アルキルスルフィニル基(具体的には例えば、メチルスルフィニル等のC1-6アルキルスルフィニル基)、アルキルスルホニル基(具体的には例えば、メチルスルホニル等のC1-6アルキルスルホニル基)、アリールチオ基(具体的には例えば、フェニルチオ等のC6-10アリールチオ基)、アリールスルフィニル基(具体的には例えば、フェニルスルフィニル等のC6-10アリールスルフィニル基)、アリールスルホニル基(具体的には例えば、フェニルスルホニル等のC6-10アリールスルホニル基)、オキソ基、チオキソ基等が用いられる。
ここでアシル基(具体的には例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ピバロイル、アクリロイル、ベンゾイル等)はオキソ基で置換された炭化水素基の一種であり、前記の「置換されていてもよい炭化水素基」及び「置換されていてもよいC1-6アルキル基」に含まれる。
【0039】
「置換されていてもよい炭化水素基」及び「置換されていてもよいC1-6アルキル基」の「炭化水素基」及び「C1-6アルキル基」は、上記した置換基を置換可能な位置に1個以上、好ましくは1乃至3個有していてもよく、置換基がハロゲン原子の場合には置換可能な最大数まで置換していてもよく、置換基数が2個以上の場合には各置換基は同一又は異なっていてもよい。
上記の置換基が、低級アルキル基、低級アルコキシ基、モノ−低級アルキルアミノ基、ジ−低級アルキルアミノ基、低級アルキルカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、モノ−低級アルキルカルバモイル基、ジ−低級アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、低級アルキルカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールチオ基、アリールスルフィニル基、アリールスルホニル基等の場合には、これらの置換基はハロゲン原子(具体的には例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基(具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ)、アリール基、オキソ基等で1乃至3個置換されていてもよく、上記の置換基が、アリールカルバモイル基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、C6-10アリールチオ、C6-10アリールスルフィニル、C6-10アリールスルホニル等の場合、これらの置換基はC1-4アルキル基(具体的には例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等)で1乃至3個置換されていてもよい。
「C1-6アルキル基」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びtert−ブチル、ペンチル、へキシル等が用いられる。
「C1-3アルキル基」(C1-3アルキルアミノ基及びジC1-3アルキルアミノ基として示される基のC1-3アルキル基を含む)としては、メチル、エチル、プロピル及びイソプロピルが用いられる。
「C3-6アルケニル基」としては、例えば、1−プロペニル、アリル、イソプロペニル、ブテニル及びイソブテニル等が用いられる。
「C3-6アルキニル基」としては、例えば、プロパルギル及び1−プロピニル等が用いられる。
「C1-3アルコキシ基」(ヒドロキシC1-3アルコキシ基及びC1-3アルコキシカルボニル基として示される基のC1-3アルキル基を含む)としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ及びイソプロピルオキシ等が用いられる。
「C1-3アシル基」(C1-3アシルチオ基として示される基のC1-3アシル基を含む)としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル等が用いられる。
「C1-3ハロアルキル基」としては、例えば、クロロメチル、トリフルオロメチル、2−ブロモエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル等が用いられる。
「R1及びR2が隣接する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい環状アミノ基」で示される「環状アミノ基」としては、例えば、1−アジリジニル、ピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ、チオモルホリノ等が用いられ、その置換基としては、例えば、上記したようなC1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基、ヒドロキシル基等が1〜3個用いられる。
Arで表される基において、
「アリール基」としては、例えば、上記、R、X、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7で表される基の「炭化水素基」の一部として示したアリール基等が用いられ、
「ヘテロアリール基」としては、例えば、2−または3−チエニル、2−または3−フリル、1−、2−または3−ピロリル、2−、4−または5−オキサゾリル、3−、4−または5−イソオキサゾリル、2−、4−または5−チアゾリル、3−、4−または5−イソチアゾリル、3−、4−または5−ピラゾリル、2−、4−または5−イミダゾリル、4−または5−1H−1,2,3−トリアゾリル、3−または5−1,2,4−トリアゾリル、5−1H−または5−2H−テトラゾリル、2−、3−または4−ピリジル、2−、4−または5−ピリミジニル、1−または2−ピぺラジニル、3−、5−または6−1,2,4−トリアジニル、2−1,3,5−トリアジニル、3−または4−ピリダジニル、2−ピラジニル等が用いられる。
これら「アリール基」および「ヘテロアリール基」の置換基としては、例えば、上記、R、X、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7で表される「置換されていてもよい炭化水素基」および「置換されていてもよいC1-6アルキル基」の置換基として例示した基等が用いられる。
【0040】
一般式(I)において、lが0である化合物とは、キナゾリン骨格の2位が無置換であるもの、すなわち一般式(I-1)
(式中、Xは置換されていてもよい炭化水素基、NR1R2で表される基、OR3で表される基、S(O)mR4で表される基、ニトロ基またはハロゲン原子を示し、
ここでR1は水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示し、
R2は水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、NR5R6で表される基(ここでR5およびR6は同一もしくは異なり水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)またはOR7で表される基(ここでR7は水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し、又はR1およびR2が隣接する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい環状アミノ基を示し、
R3およびR4はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素基を示し、
mは0〜2の整数を示し、
nは0〜4の整数を示し、
nが2以上の場合Xは同一または異なっていてもよく、
Arは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいヘテロアリール基を示す)で表される化合物である。
【0041】
一般式(I)において、lが1である化合物とは、キナゾリン骨格の2位がRで置換されたもの、すなわち一般式(I-2)
(式中、RおよびXは同一または異なって置換されていてもよい炭化水素基、NR1R2で表される基、OR3で表される基、S(O)mR4で表される基、ニトロ基またはハロゲン原子を示し、
ここでR1は水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示し、
R2は水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、NR5R6で表される基(ここでR5およびR6は同一もしくは異なり水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)またはOR7で表される基(ここでR7は水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し、又はR1およびR2が隣接する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい環状アミノ基を示し、
R3およびR4はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素基を示し、
mは0〜2の整数を示し、
nは0〜4の整数を示し、
nが2以上の場合Xは同一または異なっていてもよく、
Arは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいヘテロアリール基を示す)で表される化合物である。
【0042】
化合物(I)は、前記した「農学的に許容される塩」の形態であってもよい。
化合物(I)が1個以上の不斉中心を有する場合には、当該化合物には2個以上の立体異性体(具体的には例えば、エナンチオマー、ジアステレオマ一等)が存在する。本発明化合物には、これらの立体異性体のすべて及びそれらのうちの任意の2個以上からなる混合物が包含される。
また化合物(I)が二重結合等に基づく幾何異性を有する場合には、当該化合物には2個以上の幾何異性体(具体的には例えば、E/Z又はトランス/シスの各異性体、S−トランス/S−シスの各異性体等)が存在する。化合物(I)には、これらの幾何異性体のすべて及びそれらのうちの任意の2個以上からなる混合物が包含される。
【0043】
化合物(I)の好ましい態様としては、例えば、以下に示される態様が挙げられる。
一般式(I)において、
(1)lが1であり、Rが置換されていてもよい炭化水素基である化合物。
(2)lが1であり、Rがハロゲン原子又はオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である(1)記載の化合物。
(3)置換されていてもよい炭化水素基がハロゲン原子又はオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である(1)記載の化合物。
(4)lが1であり、RがNR1R2で表される基である化合物。
(5)R1が水素原子又はC1-3アルキル基を示し、R2が水素原子、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、アミジノ基、C1-3アルコキシ基、フェニル基、C1-3アシル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基又はC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のフェニル基は1〜3個の同じもしくは異なるC1-3アルキル基で置換されていてもよく、前記のフェニル基、アシル基、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基はハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-3アルコキシ基、ヒドロキシC1-3アルコキシ基、カルボキシル基、C1-3アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、メルカプト基、C1-3アシルチオ基、シアノ基、フリル基及びテトラヒドロフリル基の中から選ばれる1〜3個の同じもしくは異なる置換基で置換されていてもよく、又はR1及びR2が隣接する窒素原子と一緒になってピロリジノ基、ピペリジノ基又はモルホリノ基を示す(4)記載の化合物。
(6)R1が水素原子を示し、R2が水素原子、ホルミル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基又はC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基はヒドロキシル基、メトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、シアノ基及びフリル基の中から選ばれる置換基で置換されていてもよい(4)記載の化合物。
(7)lが1であり、RがOR3で表される基である化合物。
(8)R3がアミノ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である(7)記載の化合物。
(9)lが1であり、RがS(O)mR4で表される基である化合物。
(10)R4がアミノ基又はヒドロキシル基で置換されていてもよいC1-3アルキル基であり、mが0である(9)記載の化合物。
(11)lが1であり、Rがハロゲン原子である化合物。
(12)ハロゲン原子が塩素原子である(11)記載の化合物。
(13)nが1〜2であり、XがC1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基、C1-3ハロアルキル基、シアノ基、ハロゲン原子又はニトロ基である化合物。
(14)Xが塩素原子、臭素原子又はニトロ基であり、Xの置換位置が6位及び/又は8位である(13)記載の化合物。
(15)Arがハロゲン原子又はC1-3アルキル基で置換されていてもよいフェニル基である化合物。
【0044】
化合物(I)は、公知化合物を含み、公知又はそれに準じる方法で製造することができる。
例えば、lが1であり、Rが塩素原子である化合物(Ia)は、例えば以下の製造法1により、化合物(II)をオキシ塩化リンと加熱することにより製造することができる。
【0045】
文献例:特開昭62−145073
製造法1
(式中の記号は前記と同意義を示す。)
【0046】
当該反応は、反応に支障のない溶媒中で行ってもよいが、通常無溶媒で過剰量のオキシ塩化リン(化合物(II)に対し5当量〜30当量)を使用する。反応温度は、通常80〜200℃であり、好ましくは90℃〜還流(105℃)である。反応時間は、通常0.1〜96時間、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは0.5〜2時間である。還流下でも反応の進行が遅い場合には、耐圧密閉容器を使用し、200℃程度まで加熱し、加圧下(例えば、1.1〜100気圧)で反応させることもできる。
また、lが1であり、Rがハロゲン原子以外の基Raである化合物(Ib)は、例えば、以下の製造法2により、化合物(III)と化合物(IV)とを反応させることにより製造することができる。
【0047】
文献例:日本化学会誌1973、1944頁;特開昭58-88369
製造法2
(式中、Yは脱離基(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、例えば、メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p-トルエンスルホニルオキシ基等のアルカン又はアレーンスルホニルオキシ基,例えばメタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、フェニルメタンメタンスルホニル等のアルカン、アレーン又はアレーンアルカンスルホニル基等)を示し、RaはRと同意義であるがハロゲン原子ではなく、他の記号は前記と同意義を示す。)
【0048】
当該反応は無溶媒で行ってもよく、溶媒を使用してもよい。溶媒としては、例えば、ペンタン、へキサン、へプタン、石油エーテル、シクロへキサン等の脂肪族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の酸アミド類、1−メチル−2−ピロリドン等の環状アミド類、ヘキサメチルホスホルアミド等のリン酸アミド類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の環状尿素類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、スルホラン等のスルホン類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、ピリジン、ピコリン、ルチジン、キノリン等の芳香族アミン類、及びこれらの混合溶媒、水、さらにはこれらと水との混合溶媒等が挙げられる。
水との混合溶媒が用いられ、反応が均一系でない場合には、相間移動触媒(例えば、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩、18-クラウン-6等のクラウンエーテル類等)を使用してもよい。
塩基としては、例えば、ナトリウムエチラート、ナトリウムメチラート、カリウムtert-ブトキシド等のアルカリ金属のアルコラート、例えば、ピリジン、ピコリン、ルチジン、キノリン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、4−ジメチルアミノビリジン、N,N−ジメチルアニリン等の有機塩基、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基、例えば、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等の金属水素化物、例えば、ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド等の有機リチウム試薬等が挙げられる。
用いられる塩基の量は反応に悪影響を及ぼさない量であれば特に限定されず、溶媒を兼ねて大過剰量用いることもできる。
化合物(IV)がアミン類である場合には、過剰量の化合物(IV)を塩基及び溶媒を兼ねて使用することもできる。
反応温度は、通常−50〜200℃であり、好ましくは室温〜150℃である。反応時間は一般には0.1〜96時間、好ましくは0.1〜72時間、より好ましくは0.1〜24時間である。
化合物(IV)がアンモニア、メチルアミン、エチルアミン等の低沸点化合物である場合や反応の進行が遅い場合には、耐圧密閉容器を使用し、40〜150℃程度に加熱し、加圧下(例えば、1.1〜100気圧)で反応させることもできる。
【0049】
化合物(II)は、公知化合物を含み、公知又はそれに準じる方法で製造することができる。
例えば、以下の参考製造法1により、化合物(V)を化合物(VI)及びクロロ炭酸メチルと反応させることにより製造することができる。
【0050】
文献例:Tetrahedron 42, 3697(1986)
参考製造法1
(式中、Zは塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を示し、他の記号は前記と同意義を示す。)
【0051】
当該反応では、まず化合物(V)と化合物(VI)とを反応させる。通常溶媒を使用し、例えば、ペンタン、ヘキサン、へプタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、メチルtertブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類又はこれらの2種以上の混合物が用いられる。
化合物(V)に対し化合物(VI)は、通常1〜5当量、好ましくは2〜2.5当量用いられる。
この段階での反応温度は、通常40〜100℃であり、好ましくは50〜70℃である。
反応時間は、通常0.2〜96時間、好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは1〜3時間である。
次いでクロロ炭酸メチルを反応させる。化合物(V)に対しクロロ炭酸メチルは、通常1〜5当量、好ましくは1〜2当量用いられる。この段階ではまず0〜20℃に冷却してクロロ炭酸メチルを添加し、その後加熱するのが好ましい。加熱時の反応温度は、通常40〜200℃であり、好ましくは50〜70℃である。反応時間は合わせて通常0.2〜96時間、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは約1〜3時間である。
また化合物(II)は、以下の参考製造法2により、化合物(VII)を塩化トリクロロアセチルと反応させ、化合物(VIII)を製造した後、化合物(VIII)とアンモニア又はアンモニアの弱酸性物質との塩とを反応させることによっても製造することができる。
【0052】
文献例:Chem. Pharm. Bull., 26, 1633 (1978)
参考製造法2
(式中の記号は前記と同意義を示す。)
【0053】
前半の反応では、化合物(VII)に塩基の存在下で塩化トリクロロアセチルを反応させる。反応は無溶媒で行ってもよいが通常溶媒の存在下で行われる。このような溶媒としては製造例2で記載した、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、ニトリル類、酸アミド類、環状アミド類、リン酸アミド類、環状尿素類、スルホキシド類、スルホン類、ハロゲン化炭化水素類等、又はこれらの混合物が用いられる。塩基としては、製造例2で記載したような塩基が用いられ、特に有機塩基、無機塩基が好ましく、中でもトリエチルアミンが汎用される。
反応温度は、通常−50〜100℃であり、好ましくは0〜20℃である。反応時間は一般には約0.1〜96時間、好ましくは0.2〜5時間、より好ましくは0.5〜3時間である。
後半の反応では前半の反応で製造した化合物(VIII)にアンモニア又は系中でアンモニアを発生する化合物を反応させる。このような化合物としては、炭酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニアの弱酸性物質との塩が用いられる。反応は通常、製造例2で記載したような溶媒が用いられる。好ましい溶媒は、酸アミド類、環状アミド類、リン酸アミド類、環状尿素類、スルホキシド類、スルホン類等である。
反応温度は、通常20〜200℃であり、好ましくは50〜120℃である。
反応時間は一般には0.2〜96時間、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは1〜5時間である。
【0054】
化合物(III)は、公知化合物を含み、公知又はそれに準じる方法で製造することができる。
例えば、Yが塩素原子である場合には、化合物(III)は、化合物(I)に含まれる化合物(Ia)であり、上記した方法で製造できる。
【0055】
化合物(IV)、化合物(V)、化合物(VI)及び化合物(VII)は、通常公知化合物であり、市販されているか公知の方法で製造することができる。特に化合物(VI)はグリニヤール試薬と称される化合物であり、市販品を使用してもよいが、公知の方法で使用前に製造し、単離・精製せずにそのまま用いることもできる。
【0056】
上記の製造法1、2及び参考製造法1、2により製造される各化合物は、公知の手段、例えば濃縮、減圧濃縮、抽出、転溶、結晶化、再結晶化、クロマトグラフィー等の方法によって、単離・精製することができる。
【0057】
本発明における植物の成長調節は、通常、植物成長調節剤の有効量を植物又はその生息場所に施用することにより行われる。
本発明の植物成長調節剤を農林用として用いる場合には、その施用量は通常1000m2の量で0.01〜1000gである。植物成長調節剤が乳剤、水和剤、フロアブル剤、マイクロカプセル剤等に製剤化されたものである場合には、通常有効成分濃度が0.001〜10000ppmとなるように水で希釈して散布することにより施用し、植物成長調節剤が粒剤、粉剤等に製剤化されたものである場合には、通常そのまま施用する。
このようにして製剤化された本発明の植物成長調節剤は、例えば、そのままで、又は、水等で希釈して、耕作地の土壌の植物の根の生長を促進させる目的で当該土壌に処理することにより使用してもよい。また、シート状やひも状等に加工した樹脂製剤を作物に巻き付ける、作物の近傍に張り渡す及び/又は株元の土壌表面に敷く等の方法で使用することもできる。また、本発明の植物成長調節剤は植物に対して茎葉処理又は芽に処理することにより使用することができ、作物の苗を植え付ける前の苗床や植付けの時に植穴や株元に処理することにより使用することもできる。当該植物成長調節剤は、対象植物に対して、1回もしくは複数回処理する。
本発明の植物成長調節剤を植物体に茎葉処理することにより用いる場合又は土壌に処理することにより用いる場合、その処理量は製剤形態、施用時期、施用方法、施用場所、対象植物により変わり得るが、1ヘクタール当り通常0.1〜10000gである。また、当該植物成長調節剤を水に希釈して用いる場合の使用濃度としては、製剤形態、施用時期、施用方法、施用場所、対象植物により変わり得るが、一般には0.001〜10000ppmで、望ましくは0.01〜1000ppmである。
また、本発明の植物成長調節剤は移植前の植物に処理して使用することができる。移植前の植物に直接吸収させる場合は、使用濃度として、0.001ppm〜10000ppmに希釈又は懸濁した液に、植物の根部又は全体を浸漬して使用することができる。
また、製剤化された本発明の植物成長調節剤は対象植物の種子に直接処理して使用することができる。例えば植物の種子を本発明の植物成長調節剤における有効成分の濃度が1〜10000ppmに調製した本発明の植物成長調節剤に種子を浸漬する方法、植物の種子に本発明の植物成長調節剤における有効成分の濃度が1〜10000ppmの本発明の植物成長調節剤を噴霧もしくは塗沫する方法及び植物の種子に本発明の植物成長調節剤を粉衣する方法が挙げられる。
また、本発明の植物成長調節剤は水耕栽培における水耕液に混合して用いてもよく、また組織培養における培地成分の1つとして用いてもよい。水耕栽培に使用する場合は、通常用いられる園試等の水耕栽培用の培地に培地中濃度として0.001ppm〜10000ppmの範囲で溶解又は懸濁して用いることができる。また組織培養や細胞培養時に使用する場合は、通常用いられるMS培地等の植物組織培養用の培地に、培地中濃度として0.001ppm〜10000ppmの範囲で溶解又は懸濁して用いることができる。この場合、定法に従い、炭素源としての糖類、各種植物ホルモン等を適宜加えることができる。
【0058】
本発明の植物成長調節剤は他の殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、除草剤、植物生長調節剤及び/又は肥料と共に用いることもできる。
これらの施用量、施用濃度は、いずれも製剤の種類、施用時期、施用場所、施用方法、植物の種類、期待する効果程度の等の状況によって異なり、上記の範囲にかかわることなく増減させることができ、適宜選択することができる。
以上に示した植物成長調節方法に、前記の植物成長調節剤を用いることができる。
また一方、前記の、群Aから選択されるサイトカイニン受容体を用いた第一工程、第二工程を有する、被験物質が有する植物の根の生長を促進させる能力の検定方法、によって評価された植物の根の生長を促進させる能力を有する物質を特定し、特定された植物の根の生長を促進させる能力を有する物質と植物とを接触させることによって植物の根の生長を促進させることも可能である。ここで特定された植物の根の生長を促進させる能力を有する物質と植物とを接触させる方法としては、前記の製剤方法、施用方法等を用いることが出来る。
【0059】
本発明の植物成長調節剤はイネの直播栽培時の根部生育促進による苗立ちの向上、活着率の向上を目的として使用できる。また本発明の植物成長調節剤はイネ育苗箱栽培時の根部生育促進を目的としても利用できる。また本発明の植物成長調節剤はゴルフ場のグリーンの根張り改善と耐暑・耐乾燥性の向上を目的として使用できる。ダイズ、トウモロコシ、コムギ等の作物では、根張り向上、早期の苗立ちの確立による生産性の向上又は除草剤の削減を目的として使用できる。トマト、ペッパー等の栽培では移植時の活着率の向上を目的として使用できる。野菜等の苗生産においては、本発明の植物成長調節剤の使用により均一な苗立ちの確立による機械移植の効率化が期待できる。
本発明の植物成長調節剤を用いて、植物の頂芽優勢を制御することができる。例えば、本発明の植物成長調節剤を用いてタバコ、バラ等の腋芽抑制に利用することができる。また、果樹作物、花卉植物等の花芽形成を制御することにより、摘花剤として利用することができる。また花芽を増やすことにより果樹作物の増収又は花卉植物の品質を向上させることができる。また、果樹作物等の枝の生長を抑制することにより枝数を減らし、又は促進することにより枝数を増やし、樹体生長の制御に利用することもできる。
本発明の植物成長調節剤を用いて、カルスへの脱分化若しくはカルスからの再分化等の組織培養技術に利用することができる。例えば、本発明の植物成長調節剤を用いて植物組織からのカルス化を促進することができる。またダイズ等の不定胚からの再分化効率を向上させることができる。
本発明の植物成長調節剤を用いて植物の老化を制御するができる。例えば、本発明の植物成長調節剤を用いてカーネーション等花卉植物の切花の老化抑制、花持ち改良に利用することができる。また、野菜、果物等の成熟抑制に利用することもできる。また水稲の苗等における葉の老化を防止し、健苗育成することができる。また、ワタ等の植物の収穫前に処理することにより、葉の老化を促進させることができる。
【0060】
前記の群Bに示されるアミノ酸配列からなる植物由来のサイトカイニン受容体は、研究ツールとして使用することができる。例えば、前記の植物の根の生長を促進させる能力の検定や、植物の生長若しくは分化を制御する能力を有する化学物質の探索、等の研究を実施するための研究ツールとして使用することができる。また、例えば、サイトカイニン受容体に作用する薬剤の作用機構を解析する研究においても、サイトカイニン受容体は研究ツールとして利用可能である。
また、前記の群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドやそれらに対して相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド、また前記の群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの部分塩基配列又はその部分塩基配列に対して相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド、配列番号3又は4で示される塩基配列からなるポリペプチドは、研究ツールとして使用することができる。例えば、これらの一部は、前記のようにサイトカイニン受容体の製造法に用いられるポリヌクレオチドとして機能する。また一部は、前記のようにして、PCRを用いるポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドの取得、或いは、ハイブリダイゼーションを用いるポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドの取得、等を実施するための重要な研究ツールとして使用できる。
特に、植物成長調節剤のスクリーニングを実施するにあたっては、スクリーニングのために実施する実験の実験ツールとして使用できる。具体的には、前記の植物の根の生長を促進させる能力の検定や、植物の生長若しくは分化を制御する能力を有する化学物質の探索、等を実施するにあたって行う実験のための実験ツールとして使用することができる。
【0061】
さらに本発明は、被験物質について、当該被験物質が有する、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性(or細胞内信号伝達の有無若しくはその量)に係るデータ情報を入力・蓄積・管理する手段(以下、手段aと記すこともある。)、前記データ情報を所望の条件に基づき照会・検索する手段(以下、手段bと記すこともある。)、及び、照会・検索された結果を表示・出力する手段(以下、手段cと記すこともある。)を具備することを特徴とするシステム(以下、本発明システムと記すこともある。)をも含むものである。
【0062】
まず、手段aについて説明する。手段aは、前記のとおり、前記被験物質が有する、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性に係るデータ情報を入力した後、入力された当該情報を蓄積・管理する手段である。かかる情報は、入力手段1により入力され、通常記憶手段2に記憶される。入力手段としては、例えばキーボード、マウス等の当該情報の入力可能なものが挙げられる。当該情報の入力及び蓄積・管理が完了すれば、次の手段bに進む。尚、当該情報の蓄積・管理には、コンピュータ等のハードウェアとOS及びデータベース管理等のソフトウェアとを用いて、データ構造を有する情報を入力し、適当な記憶装置、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読取可能な記録媒体に蓄積することにより、大量のデータを効率良く蓄積し管理すればよい。
【0063】
手段bについて説明する。手段bは、前記のとおり、手段aにより蓄積・管理された前記データ情報を所望の結果を得るための条件に基づき照会・検索する手段である。かかる情報は、入力手段1により照会・検索のための条件が入力され、通常記憶手段2に記憶された上記情報の中で当該条件に合致したものを選択すれば、次の手段cに進む。選択された結果は、通常、記憶手段2に記憶され、さらに表示・出力手段3により表示可能となっている。
【0064】
手段cについて説明する。手段cは、前記のとおり、照会・検索された結果を表示・出力する手段である。表示・出力手段3としては、例えばディスプレイ、プリンタ等が挙げられ、当該結果をコンピュータのディスプレイ装置に表示するか、印刷等により紙上に出力するか等すればよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げてさらに詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
以下に合成例及び参考合成例を示し、本発明で用いられる化合物(I)をより具体的に説明するが、化合物(I)はこれらの例に限定されない。
合成例及び参考合成例において、「室温」とは、通常10-30℃を示す。「1H NMR」とは、プロトン核磁気共鳴スペクトルを示し、内部標準としてテトラメチルシランを用いて日本電子JNM-AL400型スぺクトロメーター(400MHz)で測定し、ケミカルシフト(δ)をppmで表記した。「Mp」とは、融点を示し、メトラー(Mettler)FP61型融点測定装置で測定した。
下記合成例、参考合成例及び表3〜表7中で用いられている記号は以下の意味を有する。「CDC13」:重クロロホルム、「DMSO-d6」:重ジメチルスルホキシド、「s」:シングレット、「d」:ダブレット、「t」:トリプレット、「q」:カルテット、「dd」:ダブルダブレット、「m」:マルチプレット、「br」:ブロード(幅広い)、「J」:カップリング定数、「Me」:メチル、「Et」:エチル、「Pr」:プロピル、「i-Pr」:イソプロピル、「t-Bu」:ターシャリーブチル、「Ph」:フェニル、「Ac」:アセチル、「THF」:テトラヒドロフラン、「DMF」:N,N-ジメチルホルムアミド、「DMSO」:ジメチルスルホキシド、「MTBE」:メチルターシャリーブチルエーテル
【0067】
合成例1 (2,8−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-11)の製造)
8−クロロ−4−フェニル−2(1H)―キナゾリノン(化合物No. II-11)1.24gにオキシ塩化リン6.65gを加え、これを95℃で1時間攪拌した。得られた反応液を氷水200mlに注ぎ加えた後、これに重曹を加えてpH.9にした。次いで、析出した結晶をろ取した。回収物をエタノールで再結晶することにより標記化合物1.07gを得た。Mp.154.4.℃。1H NMR (CDCl3): 7.52-7.65 (4H, m), 7.76-7.80 (2H, m), 8.02-8.08 (2H, m).
【0068】
合成例2 (2−アミノ−6,8−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic12-4)の製造)
2,6,8−トリクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-12)300mg、28%アンモニア水溶液30g及びアセトニトリル6mlの混合物を耐圧反応容器中、105℃で1.5時間反応させた。得られた反応液を冷却した後、これを水100mlに注ぎ加えた。当該混合物に酢酸エチル60mlを加え抽出し、得られた抽出物を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製することにより標記化合物230mgを得た。Mp.212.7℃。 1H NMR (CDCl3): 5.56 (2H, br. s), 7.54-7.60 (3H, m), 7.63-7.68 (2H, m), 7.74 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.79 (1H, d, J = 2.3 Hz).
【0069】
合成例3 (6−クロロ−2−フルフリルアミノ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-16)の製造)
2,6―ジクロロ−4―フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-3)275mg及びフルフリルアミン486mgの混合物を85℃で40分間攪拌した後、これを水50mlに注ぎ加えた。当該混合物を酢酸エチルで抽出し、得られた抽出物を水洗後濃縮した。得られた残渣をエタノール再結晶することにより標記化合物280mgを得た。Mp.142.0℃. 1H NMR (CDCl3): 4.77 (2H, d, J = 5.6 Hz), 5.70 (1H, br. t, J = 5.6 Hz), 6.29-6.32 (2H, m), 7.36 (1H, dd, J = 1.8, 0.9 Hz), 7.53-7.70 (7H, m), 7.78 (1H, d, J = 2.2 Hz).
【0070】
合成例4 (6−クロロ−2−エトキシカルボニルメチルアミノ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-33)の製造)
2,6―ジクロロ−4―フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-3)550mg及びグリシンエチルエステル塩酸塩419mgにDMF 3ml及びトリエチルアミン607mgを加え、これを85℃で5.5時間攪拌した。得られた反応液を水100mlに注ぎ加えた後、酢酸エチルで抽出し、抽出物を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン: 酢酸エチル=6 : 1 〜3 : 1)で精製することにより標記化合物503mgを得た。Mp.146.1℃。1H NMR (CDCl3): 1.30 (3H, t, J = 7.2 Hz), 4.25 (2H, q, J = 7.2 Hz), 4.31 (2H, d, J = 5.2 Hz), 5.97 (1H, br. s), 7.54-7.63 (5H, m), 7.67-7.70 (2H, m), 7.79 (1H, s).
【0071】
合成例5 (6−クロロ−2−メトキシアミノ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-32)の製造)
2,6―ジクロロ−4―フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-3)275mg、アセトニトリル10ml及びメトキシアミン塩酸塩334mgの混合物にトリエチルアミン506mgを滴室温下で滴下して得られた混合物をステンレス製耐圧反応容器に仕込み、これを105℃で3.5時間反応した。冷却後、反応液を水100mlに注ぎ加えた。当該混合物を酢酸エチルで抽出し、得られた抽出物を水洗後、濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製することにより粗結晶156mgを得た。さらに、これを酢酸エチル再結晶することにより標記化合物55mgを得た。Mp.173.9℃。1H NMR (CDCl3): 3.98 (3H, s), 7.47-7.72 (6H, m), 7.87 (1H, d, J = 9.0 Hz), 7.89 (1H, d, J = 2.2 Hz), 8.03 (1H, br. s).
【0072】
合成例6 (6−クロロ−2−(2−ヒドロキシエチルチオ)−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ie3-1)の製造)
2−メルカプトエタノール86mgのDMF7.5ml溶液に水素化ナトリウム(60%)44mgを加え、これを室温で30分撹拌した。反応混合物に2,6−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No.Ia1-3)275mgを加え、これを室温でさらに2時間撹拌した。反応液を水100mlに注ぎ加え、酢酸エチルで抽出し、得られた抽出物を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:5)で精製することにより標記化合物266mgを得た。Mp.124.4℃。1H NMR (CDCl3): 3.50 (2H, t, J = 5.5 Hz), 3.64 (1H, br. t), 4.07 (2H, q-like, J = 5.5 Hz), 7.57-7.61 (3H, m), 7.71-7.74 (2H, m), 7.77 (1H, dd, J = 8.9, 2.3 Hz), 7.85 (1H, d, J = 8.9 Hz), 7.97 (1H, d, J = 2.3 Hz).
【0073】
合成例7 (6−クロロ−2−ホルムアミド−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-35)の製造)
乾燥ホルムアミド54mgのDMF5ml溶液に水素化ナトリウム(60%)48mgを加え、これを室温で30分撹拌した。反応混合物に2,6−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No.Ia1-3)275mgを加えた後、85℃に加温し、3時間撹拌した。得られた反応液を水100mlに注ぎ加え、酢酸エチルで抽出し、抽出物を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:3)で精製することにより標記化合物64mgを得た。Mp.252.1℃。1H NMR: 7.59-7.66 (3H, m), 7.72-7.81 (3H, m), 7.88 (1H, d, J = 8.8 Hz), 8.02 (1H, d, J = 2.0 Hz), 8.37 (1H, br. d, J = 10.4 Hz), 9.71 (1H, d, J = 10.4 Hz).
【0074】
合成例8 (6−クロロ−2−(1−メチルヒドラジノ)−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-27)の製造)
2,6−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-3)275mg及びモノメチルヒドラジン461mgの混合物を85℃で30分間攪拌した。得られた反応物を冷却した後、これに水200mlを加えた。析出した結晶をろ取し、回収物をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製することにより標記化合物225mgを得た。Mp. 155.9℃。1H NMR (CDCl3): 3.52 (3H, s), 4.65 (2H, s), 7.54-7.63 (5H, m), 7.70-7.74 (2H, m), 7.80 (1H, d, J = 2.0 Hz).
【0075】
合成例9 (2−(2−アミノエトキシ)−6−クロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Id3-1)の製造)
2,6−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-3)500mgとN−(2−ヒドロキシエチル)フタルイミド382mgとを合成例6に準じて反応させ、6−クロロ−4−フェニル−2−(2−フタルイミドエトキシ)キナゾリン380mgを得た。Mp. 154.7℃。1H NMR (CDCl3): 4.25 (2H, t, J = 5.8 Hz), 4.84 (2H, t, J = 5.8 Hz), 7.53-7.60 (3H, m), 7.67-7.71 (3H, m), 7.72-7.76 (3H, m), 7.78-7.82 (2H, m), 7.97 (1H, d, J = 2.2 Hz).
6−クロロ−4−フェニル−2−(2−フタルイミドエトキシ)キナゾリン380mg、抱水ヒドラジン70mg及びエタノール6mlの混合物を2時間加熱還流した。得られた反応液に水1.2mlを加えた後、エタノールを留去した。得られた残留物に濃塩酸1.5mlを加えた後、これを1時間加熱還流した。得られた反応物を冷下時飽和重曹水に注ぎ加え、酢酸エチルで抽出し、抽出物を濃縮することにより標記化合物240mgを得た。Mp.134.9℃。1H NMR (CDCl3): 3.59-3.63 (2H, m), 3.84 (2H, t, J = 4.6 Hz), 6.15 (2H, br. s), 7.53-7.59 (5H, m), 7.63-7.67 (2H, m), 7.75 (1H, d, J = 1.2 Hz).
【0076】
合成例10 (2−(2−アセチルチオエチルアミノ)−6−クロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-14)の製造)
トリフェニルホスフィン292mgの脱水THF3ml溶液に、氷冷下でジイソプロピルカルボジイミド40%トルエン溶液563mgを滴下し、20分間撹拌した。得られた懸濁液に氷冷下6−クロロ−2−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-1)167mgの脱水THF2ml溶液を滴下し直にチオ酢酸127mgを滴下した。得られた黄色透明溶液を氷冷下で1時間、室温で1時間撹拌した後、これを飽和重曹水に注ぎ加え、クロロホルムで抽出し、抽出物を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:酢酸エチル=10:1)で精製することにより標記化合物170mgを得た。Mp.128.9℃。1H NMR (CDCl3):2.34 (3H, s), 3.22 (2H, t, J = 6.5 Hz), 3.73 (2H, q, J = 6.5 Hz), 5.74 (1H, br. t, J = 6.5 Hz), 7.53-7.62 (5H, m), 7.65-7.70 (2H, m), 7.77 (1H, s)。
【0077】
合成例11 (6−クロロ−2−(2−メルカプトエチルアミノ)−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-13)及びビス[2−(6−クロロ−4−フェニル−2−キナゾリニル)アミノエチル]ジスルフィド(化合物No. Ic3-15))
2−(2−アセチルチオエチルアミノ)−6−クロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-14)108mg、エタノール2ml及び10%水酸化ナトリウム水溶液362mgの混合物を室温で2時間加熱還流下で30分間撹拌した後、反応液から不溶物をろ取した。回収物(固体)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:酢酸エチル=10:1)で精製することにより、まず6−クロロ−2−(2−メルカプトエチルアミノ)−4−フェニルキナゾリン50mgを得た。Mp.165.9℃。1H NMR (CDCl3): 1.46 (1H, t, J = 8.5 Hz), 2.84 (2H, q-like, J=7.2 Hz), 3.66 (2H, q-like, J=6.4 Hz), 5.79 (1H, br. t, J = 5.4 Hz), 7.55-7.57 (3H, m), 7.60 (2H, s), 7.66-7.69 (2H, m), 7.77-7.78 (1H, m)。次いでビス[2−(6−クロロ−4−フェニル−2−キナゾリニル)アミノエチル]ジスルフィド(下式で示される化合物)
28mgを得た。Mp.159.2℃。1H NMR (CDCl3): 3.02 (4H, t, J=6.4 Hz), 3.89 (4H, q, J=6.4 Hz), 5.81 (2H, br. t, J=6.4 Hz), 7.51-7.61 (10H, m), 7.63-7.68 (4H, m), 7.75 (2H, d, J = 2.2Hz)。
【0078】
上記の合成例と同様にして製造可能な化合物及び市販されていて入手可能な化合物の例を表3、表4、表5及び表6に記載する(上記合成例で製造した化合物も含む)。
尚、表4及び表5中にある注釈「a)」、「b)」、「c)」及び「d)」は以下の通りである。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
a) 合成例11に構造を記載した。
b) 1H NMR (CDCl3): 1.66-1.75 (1H, m), 1.86-2.08 (3H, m), 3.57-3.64 (1H, m), 3.75-3.83 (2H, m), 3.89-3.59 (1H, m), 4.13-4.20 (1H, m), 5.70 (1H, br. s), 7.52-7.60 (5H, m), 7.64-7.69 (2H, m), 7.75-7.76 (1H, m).
c) 1H NMR (CDCl3): 1.22 (3H, t, J = 7.0 Hz), 3.55 (2H, q, J = 7.0 Hz), 3.68 (2H, t, J = 5.2 Hz), 3.78 (2H, q-like, J = 5.2 Hz), 5.75 (1H, br. t), 7.53-7.60 (5H, m), 7.65-7.69 (2H, m), 7.75-7.77 (1H, m).
d) 1H NMR (CDCl3): 1.22 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.96 (2H, quintet, J = 6.3 Hz), 3.50 (2H, q, J = 7.0 Hz), 3.58 (2H, t, J = 6.3 Hz), 3.67 (2H, q-like, J = 6.3 Hz), 5.65 (1H, br. t), 7.53-7.60 (5H, m), 7.65-7.69 (2H, m), 7.74-7.76 (1H, m).
【0084】
参考合成例1 (8−クロロ−4−フェニル−2(1H)−キナゾリノン(化合物No. II-11)の製造)
フェニルマグネシウムブロミド(32%THF溶液)7.10gに2―アミノ−3−クロロベンゾニトリル953mgのTHF7ml溶液を室温で滴下し、30分間加熱還流した。得られた反応物にクロロ炭酸メチル885mgを氷冷下滴下した後、これを40分間加熱還流した。得られた反応液を冷下時2N−塩酸40mlに注ぎ加えた後、これに重曹8g及びMTBE20mlを加え攪拌した。次いで、析出した結晶をろ取することにより標記化合物1.30gを得た。1H NMR (DMSO-d6): 7.24(1H, t, J = 8.0 Hz), 7.57-7.70 (6H, m), 7.90-7.93 (1H, m), 11.45 (br. s).
【0085】
参考合成例2 (4−フェニル−6−トリフルオロメチル−2(1H)−キナゾリノン(化合物No. II-6))
2−アミノ−5−トリフルオロメチルベンゾフェノン762mgをクロロホルム10mlに溶かし、これにトリエチルアミン349mgを滴下した後、氷冷下トリクロロアセチルクロリド627mgを滴下した。30分間同温で攪拌した後、これに水50mlを加え分液した。有機層を回収し、回収された有機層を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製することにより、2’−ベンゾイル−2,2,2−トリクロロ−4’−トリフルオロメチルアセトアニリド1.08gを得た。1H NMR (CDCl3): 7.53-7.58 (2H, m), 7.66-7.75 (3H, m), 7.90-7.95 (2H, m), 8.81 (1H, d, J = 8.6 Hz), 12.38 (1H, br. s).
2’−ベンゾイル−2,2,2−トリクロロ−4’−トリフルオロメチルアセトアニリド1.08g、DMSO10ml及び酢酸アンモニウム1.18gの混合物を75℃で1時間攪拌した。冷却後、これに水100mlを加え、析出した結晶をろ取した。得られた回収物をへキサン:酢酸エチル=1:1の混合液に溶かした後、これを無水硫酸マグネシウムを用いて脱水し、濃縮することにより標記化合物765mgを得た。1H NMR (CDCl3): 7.58-7.68 (3H, m), 7.75 (1H, d, J = 8.8 Hz), 7.79-7.83 (2H, m), 7.93 (1H, dd, J = 8.8, 1.7 Hz), 8.17 (1H, br. s), 13.37 (1H, br. s).
【0086】
上記の参考合成例と同様にして製造可能な化合物の例を表7に記載する(上記の参考合成例で製造した化合物も含む)。
尚、表7中にある注釈「a)」乃至「i)」は以下の通りである。
【0087】
【表7】
【0088】
a) 1H NMR (DMSO-d6): 7.27 (1H, dd, J = 7.7, 1.0 Hz), 7.38 (1H, dd, J = 8.3, 1.1 Hz), 7.43-7.55 (5H, m), 7.69 (1H, t, J = 8.1 Hz), 12.18 (1H, br. s).
b) 1H NMR (DMSO-d6): 7.35 (1H, dd, J = 9.2, 2.7 Hz), 7.43 (1H, dd, J = 9.2, 4.8 Hz), 7.58-7.74 (6H, m), 12.05 (1H, br. s).
c) 1H NMR (DMSO-d6): 7.35 (1H, d, J = 9.2 Hz), 7.59-7.71 (6H, m), 7.91 (1H, dd, J = 9.2, 2.2 Hz), 12.08 (1H, br. s).
d) 1H NMR 参考合成例2に記載した。
e) 1H NMR (CDCl3): 3.78 (3H, s), 7.25-7.27 (1H, m), 7.36-7.40 (1H, m), 7.54-7.62 (4H, m), 7.81-7.85 (2H, m), 13.37 (1H, br. s).
f) 1H NMR (DMSO-d6): 7.48 (1H, d, J = 8.4 Hz), 7.60-7.68 (3H, m), 7.71-7.74 (2H, m), 8.05 (1H, s), 8.08-8.12 (1H, m), 12.36 (1H, br. s).
g) (単離精製せず。)
h) 1H NMR 参考合成例1に記載した。
i) 1H NMR (DMSO-d6): 7.52-7.72 (6H, m), 8.10-8.12 (1H, m), 11.69 (1H, br. s).
【0089】
実施例1 (CER1クローニング用シロイヌナズナcDNAファージライブラリーの作成)
シロイヌナズナのWassilewskija系統の種子を70%のエチルアルコールで1分間殺菌し、さらに1.5%の次亜塩素酸ナトリウムで10分間殺菌した。これを滅菌水でよく洗った後、GM培地(4.3g Murashige and Skoog's basal salt mixture, 1% sucrose, 10ml of 5% MES-KOH (pH5.7), 0.3%PhytagelTM (SIGMA))で2週間培養することにより、5gの植物を得た。これを液体窒素中で凍結させた後、乳鉢により物理的に磨砕した。得られた磨砕物に10mlの抽出バッファー(200mM Tris−HCl(pH8.5)、100mM NaCl、10mM EDTA、0.5% SDS、14mM βメルカプトエタノール)と10gのフェノールの混合液を加えた。当該混合物をVoltex ミキサーで攪拌した後、これに10mlのクロロホルムを加えて激しく攪拌した。次いで得られた混合物を10000回転で20分間遠心し、水層を回収した。回収された水層にLiClを最終濃度2Mとなるように加え、これを-80℃で3時間放置した。得られた凍結物を解凍した後、これを10000回転で20分間遠心し、沈殿を回収した。回収された沈殿を2mlのTE (10mM Tris-HCl(pH 8.0) 1mM EDTA)に溶かした後、これに0.2mlの3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)と5mlのエタノールを加えて遠心し、RNAを沈殿として回収した。次いで回収された沈殿(RNA)をOligotexTM dT30super(日本ロッシュ社製)に供することにより当該沈殿中からpolyAが結合したRNAを抽出した。
抽出されたpolyAが結合したRNAからのファージcDNAライブラリーは、ZAP-cDNARSynthesis Kit(Stratagene社製)を用い、キット説明書に従って作製された。作製されたファージcDNAライブラリーの力価は500000PFUであった。
【0090】
実施例2 (CRE1のDNAプローブの作製)
実施例1で作製されたファージcDNAライブラリーのファージ液(約1000000PFU)を鋳型として、TAKARA LA TaqTMキット(宝酒造社製)を用い、配列番号3で示されたDNA及び配列番号4で示されたDNAをプライマーとしてPCR反応を行い、DNAを増幅した。詳細を以下に述べる。
ファージ1000000pfu、プライマーDNA各々0.2μMにキット説明書に従ってdNTP等の反応組成物を添加してPCR反応液を調製し、PCRの条件として、94℃で2分間保温し、94℃で30秒間、55℃で30秒間、68℃で5分間のサイクルを40サイクル繰り返す増幅条件下でPCRを行うことにより、目的のDNA断片の増幅を行った。次に増幅されたDNA断片を鋳型にしてMegaprime DNA-labelling system キット(アマシャムファルマシア社製)を用いて32Pでラベルしたプローブを調製した。尚、反応液(25μl)は、増幅されたDNA断片25ngに32PdCTP 2.0 MBqを添加し、キットに指定される反応組成物を添加することにより調製された。ラベル化反応は、37℃10分間で行われた。
【0091】
実施例3 (CRE1遺伝子を保持するファージcDNAクローンの取得)
実施例2で調製されたDNAプローブを用いたプラークハイブリダイゼーションにより目的とするCRE1遺伝子をクローニングした。詳細を以下に述べる。
実施例1で作製されたcDNAファージライブラリーを用いて、ZAP-cDNARSynthesis Kitの説明書に従い 、プラークを形成させた。形成されたプラークからニトロセルロースフィルター上にDNAを吸着させた後、紫外線処理をすることにより、フィルター上にDNAを固定させた。このようにして調製されたフィルターを用いて、6×SSC(0.9M NaCl、0.09Mクエン酸ナトリウム)、5×デンハルト溶液(0.1%(w/v) フィコール400、0.1%(w/v) ポリビニルピロリドン、0.1%BSA)、0.5%(w/v) SDS及び100μg/ml変性サケ精子DNA存在下に、又は100μg/ml変性サケ精子DNAを含むDIG EASY Hyb溶液(ベーリンガーマンハイム社)中に65℃で保温した後、1×SSC(0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に室温で15分間の保温を2回行い、さらに0.1×SSC(0.015M NaCl、0.0015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に、68℃で30分間保温することによりハイブリダイズするファージcDNAクローンを得た。
【0092】
実施例4 (CRE1 cDNAのクローニング)
実施例3で得られたファージcDNAクローンのcDNAを鋳型として、配列番号5に示されるDNA及び配列番号6に示されるDNAをプライマーとしてPCR反応を行い、配列番号5で示される塩基配列を有するDNAを増幅した。詳細を以下に述べる。
PCR反応は、Herculase Enhanced DNA Polymerase (TOYOBO社製)を用いて、94℃で1分間保温し、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間のサイクルを25サイクル繰り返す増幅条件下で行われた。尚、PCR反応液(50μl)は、ファージcDNAクローンのcDNA500ng、プライマーDNA各々100ngにキット説明書に従ってdNTP等の反応組成物を添加することにより調製された。
このようにして目的のDNA断片の増幅を行った。
【0093】
実施例5 (CRE1発現プラスミドの構築)
酵母発現ベクターであるp415CYC1(Munberg et al. Gene:156 119-122(1995)、ATCCライブラリー (No.87382)から入手可能)を制限酵素SmaIで切断した後、T4 DNA Ligaseを用いて、実施例4で得られたDNA断片(配列番号2で示される塩基配列を有するDNA)を発現ベクターp415CYC1のCYC1プロモーター配列に結合することにより、酵母において目的タンパク質が発現されるように組み込んだ。挿入されたDNA断片の塩基配列が正しい向きであり、当該塩基配列が配列番号2で示された塩基配列であることを自動塩基配列決定装置を用いて確認し、発現プラスミドp415CYC-CRE1を得た。
【0094】
実施例6 (形質転換細胞TM182-CRE1及び形質転換細胞TM182- p415CYC1の作製)
実施例5で得られた発現プラスミドp415CYC-CRE1及び酵母発現ベクターであるp415CYC1をそれぞれ用いて、Sln1遺伝子欠損株であるTM182(sln1Δ)(Maeda T et al. Nature:369 242-245(1994))を形質転換した。形質転換は、Polyethylene glycol/lithium acetate (PEG/LiAc)-mediated transformation 法を用い、CLONTECH社:MATCHMAKER Two-Hybrid System 3 User Manual 22ページに記載される VII.Library Transformation & Screening Protocolsに従って行った。得られる形質転換細胞では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、DOLU+Gal培地で生育する形質転換酵母を選択することにより、形質転換細胞TM182-CRE1及び形質転換細胞TM182- p415CYC1を得た。
【0095】
実施例7 (細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質の探索方法)
実施例6で得られた形質転換細胞TM182-CRE1及び形質転換細胞TM182- p415CYC1をDOLU+Gal培地10mlに植菌し、30℃で18時間前培養を行い、これを前培養液とした。この前培養液を形質転換細胞TM182-CRE1についてはDOLU+Glu培地を用いて、また形質転換細胞TM182- p415CYC1についてはDOLU+Gal培地を用いて、それぞれOD600=0.1になるように希釈したものをそれぞれの希釈前培養液とした。
96穴プレートの各ウエルにジメチルスルホキシド(DMSO)で200ppmに調製された被験物質を1μlずつ添加したアッセイプレートを準備した。このとき、一部のウエルにはDMSOを1μl添加しただけの対照区を設定した。アッセイプレートは形質転換細胞TM182-CRE1用アッセイプレートと形質転換細胞TM182- p415CYC1用アッセイプレートとを準備した。
DMSOに10000ppmでtrans-zeatin(サイトカイニン)を溶解したものを、DOLU+Gul培地で50倍に希釈して200ppmにした。この200ppmのtrans-zeatin液を、上記のそれぞれの希釈前培養液に1000分の3容量添加して、最終的に0.6ppmのtrans-zeatin を含有するそれぞれの希釈前培養液を調製した。この0.6ppmのtrans-zeatin を含有したそれぞれの希釈前培養液を100μlずつ、それぞれの形質転換細胞用アッセイプレートの各ウエルに添加し、30℃で24時間培養した後、プレートリーダーを用いて各ウエルの濁度(OD600)を測定した。当該濁度を対照区における濁度と比較することにより、被験物質の、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を検定した。その結果を表8及び表9に示す。
形質転換細胞TM182-CRE1に関して、試験区における濁度が対照区における濁度に比べて低い値を示した被験物質を、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質として選抜した。ただし、形質転換細胞TM182- p415CYC1に関して、形質転換細胞TM182-CRE1の場合と同等以上に試験区における濁度が対照区における濁度に比べて低い値を示した被験物質は、酵母への毒性を有する化合物であるものとして、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質としては選抜しなかった。
【0096】
(対照区に対する試験区の相対生育度)[%]=[(試験区の濁度)−(ブランクの濁度)]/[(対照区の濁度)−(ブランクの濁度)]×100
【0097】
(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性)[%]=100−(対照区に対する試験区の相対生育度)
【0098】
【表8】
【0099】
【表9】
【0100】
実施例8 (細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質の濃度応答性の検定方法)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質に関して、供試濃度を変化させて実施例7と同様の試験を行った。実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質の供試濃度を0.06ppmから6ppmとなるように種々変化させる他は、実施例7と同じ条件で、実施例6で得られた形質転換細胞TM182-CRE1及び形質転換細胞TM182- p415CYC1を培養した。供試された化学物質の濃度調整にはDMSOを用いた。培養終了後、形質転換細胞TM182-CRE1の増殖状態が観察されなかった最低供試濃度から、また以下に示す方法で作成した濃度応答性生育阻害曲線から、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性の濃度応答性を検定した。
濃度応答性生育阻害曲線を作成するにあたり、まず相対生育度を次のように算定した。
【0101】
(相対生育度)[%]=(B)/(A)×100
(A)=[(0.06ppm試験区の濁度)−(ブランクの濁度)]/[(対照区の濁度)−(ブランクの濁度)]
(B)=[(各試験区の濁度)−(ブランクの濁度)]/[(対照区の濁度)−(ブランクの濁度)]
【0102】
そして、X軸を供試された化学物質の濃度とし、Y軸を相対生育度としたグラフ(図1参照、左図:形質転換細胞TM182-CRE1、右図:形質転換細胞TM182- p415CYC1)を作成して、これを濃度応答性生育阻害曲線とした。
【0103】
実施例9 (根部生長促進活性試験)
下記の組成(表10参照)からなる園試標準培地を調製した。クラスターチューブに化学物質のDMSO溶液を4μlずつ、終濃度0.001ppm〜10ppmになるように分注し、さらに滅菌した園試標準培地を600μlずつ分注した後、得られた溶液を充分に混合した。クラスターチューブ当り10〜20粒のシロイヌナズナ種子を前記クラスターチューブ内に播種し、22℃、明所にて10日間培養した後、シロイズナズナ種子から生じた主根(平均的な主根)の長さを測定した。8反復の平均値を求め、下記の式により根部生長率を求めることにより、有意な根部生長率(例えば根部生長率が120%以上)を示したものを根部生長促進活性有りとして判定可能であった。
また詳細な結果として、前記終濃度において最も高い根部生長率を示した値を表11及び表12に示した。
【0104】
根部生長率(%)=(化学物質処理区の平均主根長)/(対照区の平均主根長)×100
【0105】
【表10】
【0106】
【表11】
【0107】
【表12】
【0108】
実施例10 (レタスを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質IC3-1及び化学物質Ic7-1について、レタス(Lactuca sativa Red wave)を用いて主根の伸長促進活性を評価した。化学物質を種々の濃度の水溶液に調製し(0.6ppm、1.2ppm、2.5ppm、5ppm、10ppm、20ppm、それぞれ0.1% DMSOを含む)、60φプラスチックシャーレ中の直径50mmのろ紙に1ml添加した後、当該プラスチックシャーレ上にレタス種子30粒を播種した。22℃、明所にて4日間培養した後、主根の長さを測定した。3反復の平均値を求め、次の式により根部生長率を求めた。
【0109】
根部生長率(%)=(化学物質処理区の平均主根長)/(対照区の平均主根長)×100−100
【0110】
図2及び図3に結果を示す。化学物質Ic3-1は0.6ppm〜2.5ppmの濃度で対照区に対し15〜17%(図2参照)、化学物質Ic7-1は10ppm〜20ppmの濃度で10〜17%(図3参照)の主根伸長が認められた。Dunnettの検定の結果、全ての処理区で危険率5%の有意水準で有意差ありと判定され、顕著に根部生長促進効果があることが示された。
【0111】
実施例11 (イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質Ic3-1及び化学物質Ic7-1について、イネ(Oriza sativa L. japonica)を用いて主根伸長促進活性を評価した。化学物質を種々の濃度(10ppm、25ppm、それぞれ0.1% DMSOを含む)の水溶液に調製した後、当該薬液17mlを根部生長観察用の種子成長袋(177mm×163mm、大起理化工業製)中の厚紙にしみこませ、当該厚紙上にイネ種子3粒を播種した。子袋をプラスチック容器中に入れて密閉し、25℃、明所にて7日間培養後、主根の長さを測定した。3反復の平均値を求め、次の式により根部生長率を求めた。
【0112】
根部生長率(%)=(化学物質処理区の平均主根長)/(対照区の平均主根長)×100−100
【0113】
図4及び図5にその結果を示す。化学物質Ic3-1は10ppmで対照区に対し17%、25ppmで20%の主根伸長が認められた(図4参照)。また、化学物質Ic7-1は10ppmで対照区に対し17%、25ppmで19%の主根伸長が認められた(図5参照)。Dunnettの検定の結果、全ての処理区で危険率5%の有意水準で有意差ありと判定され、顕著に根部生長促進効果があることが示された。
【0114】
実施例12 (イネ種子処理によるサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質Ic3-1及び化学物質Ic7-1について、イネ(Oriza sativa L. japonica)を用いて種子処理による主根伸長促進活性を評価した。化学物質をアセトンに溶解して10,000ppmの溶液を調製した。調製されたアセトン化学物質溶液300μlをエッペンチューブに入れた後、15粒の種子を当該エッペンチューブに投入して、次いで得られた混合物を約30秒間攪拌混合した。このようにして薬剤処理された種子をろ紙上に広げて乾燥した。
底に穴の開いたプラスチック容器(直径120mm、高さ97mm)に約820ml容の培養土を入れ、これに上記のようにして薬剤処理された種子を15粒ずつ播種した。当該種子を暗所、30℃にて4日間栽培した後、温室にて35日間栽培した。こうして栽培された植物の根部を切り取って付着した土を洗い流した後、これを凍結乾燥した。次いで凍結乾燥後の根部の重量を測定した。各処理区につき3反復の試験を実施し、その平均値を求めた。結果を図6に示す。
株当りの根部乾燥重量は、化合物Ic3-1の場合には対照区の119%、化合物Ic7-1の場合には126%に増加し、いずれの化合物においても顕著な根部生長促進効果が確認された。尚、オーキシン化合物IAAの場合には対照区の87%に根部重量は抑えられ、根部生長抑制効果が認められた。
【0115】
実施例13 (シロイヌナズナの胚軸を用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の植物分化促進活性評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質Ic3-1及び化学物質Ic7-1について、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana Columbia)の胚軸を用いて不定根形成活性を調べることにより、植物分化促進活性を評価した。
まず、シロイヌナズナを播種するための寒天培地を作製した。寒天培地の成分は、水溶液1リットル当たりムラシゲ・スクーグ植物培地用混合塩類(和光純薬工業)1リットル用を1包、スクロース10g、水酸化カリウムでpH5.7に調整した5%MES(2-(N-Morpholino)ethanesulfonic Acid)水溶液10ml、イノシトール100mg、ビタミン類ストック液(水溶液1リットル当たりチアミン塩酸塩10g、ピリドキシン塩酸塩1g、ニコチン酸1g)1ml、寒天8gであった。次いで、当該寒天培地を120℃で20分間オートクレーブにかけた後、円形シャーレに分注して固化させた。
次に、種子容量25μl程度のシロイヌナズナの種子を1.5mlチューブに入れ、そこに次亜塩素酸ナトリウム溶液(ナカライテスク)を滅菌蒸留水で10倍に希釈した液を1ml加えて、チューブミキサー(TOMY、MT-360、MIXING SPEED10)で1分間程度攪拌しながら殺菌消毒を行った。卓上小型遠心機で遠心して種子を沈降させた後、前記チューブ内から次亜塩素酸ナトリウム溶液の希釈液を除き、新たに滅菌蒸留水を1ml加えた後、前記チューブミキサーで1分間程度攪拌することにより、種子を洗浄した。卓上小型遠心機で遠心して種子を沈降させた後、前記チューブ内から洗浄後の水を除いた。当該洗浄作業を3回繰り返した。洗浄を終えた種子を円形シャーレの寒天培地上に蒔き、22℃の暗所で発芽、生育させた。
一方、化学物質をDMSOに溶解して10,000ppmの溶液を調製した。さらに、DMSOで希釈して6000ppm、2000ppm、600ppm、200ppmの溶液を調製した。そして、12穴マルチプレート(住友ベークライト)の各穴に、1穴につき1種類1濃度の調製された化学物質DMSO溶液を2μlずつ分注した。対照区として設定した穴には化学物質DMSO溶液ではなくDMSOを2μl入れた。次いで、トランスゼアチンをDMSOに溶解して10,000ppmの溶液を調製した。これを滅菌蒸留水で希釈して10ppmの溶液を調製した。前記組成の寒天培地を調製し、オートクレーブ後、50℃程度まで冷ましたところに、この10ppmのトランスゼアチン溶液を最終濃度0.01ppmになるように添加して混合した。このトランスゼアチン含有寒天培地を、化学物質DMSO溶液又はDMSOを分注し終えた12穴マルチプレートの各穴に2mlずつ分注して固化させた。
前記の22℃の暗所で発芽・生育させたシロイヌナズナの芽生えを胚軸部分で切断し、子葉が付いている側の胚軸を以下の不定根形成活性の測定に用いた。尚、根部が付いている側の胚軸は廃棄した。具体的には、12穴マルチプレートの各穴の寒天培地に、子葉付き胚軸を切断部分から5mm程度まで挿し込んだ。当該マルチプレートを22℃、16時間明所(8時間暗所)に静置した結果、1週間後には化学物質Ic3-1を含有する寒天培地(最終濃度6ppm、2ppm、0.6ppm、0.2ppmの全試験区)に挿した胚軸部分及び化学物質Ic7-1を含有する寒天培地(最終濃度6ppm、2ppmの試験区)に挿した胚軸部分から不定根の形成が確認された。化学物質DMSO溶液の代わりにDMSOが添加された対照区では胚軸部分から不定根の形成は確認できなかった。最終濃度0.6ppmの化学物質Ic3-1を含有する寒天培地に挿した胚軸、最終濃度2ppmの化学物質Ic7-1を含有する寒天培地に挿した胚軸及び対照区の寒天培地に挿した胚軸の場合における試験結果を図7に示す。
【0116】
実施例14 (イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性の測定)
化学物質Ic3-3について、イネ(Oriza sativa japonicaニッポンバレ)を用いて根の伸長促進活性を測定した。
まず化学物質を所定濃度含むアセトン薬液を調製し、次いでこれを蒸留水にて100倍に希釈して10ppmの濃度に調製(1%アセトンを含む)することにより、化学物質溶液を得た。水中に2日間浸漬して催芽処理された種子を3粒ずつ288穴プラグトレーに播種し、前記化学物質溶液をウェル当り500μlずつ土壌潅注した。覆土後、プラグトレーをビニール袋に入れ、これを人工気象室(30℃、暗所)にて3日間放置した。プラグトレーからビニール袋を外した後、常時底面潅水しながら、明所/暗所=16h/8hの光条件下で、さらに4日間放置した。このようにしてイネ種子を栽培した後、生育したイネを得た。得られたイネの根を洗浄し、根長測定画像解析装置WinRHIZO(Regent Instruments社製)を用いて総根長を解析した。化学物質Ic3-3処理区では土壌潅注処理においてアセトンのみを用いた対照区(UTC)と比較して顕著な根の伸長促進が認められた。写真を図8に示す。また、根長測定画像解析装置による解析の結果、化学物質Ic3-3処理区では総根長の増加が認められた。結果を図9に示す。
【0117】
実施例15 (CRE1 cDNAのクローニング その2)
実施例5で得られた発現プラスミドp415CYC-CRE1を鋳型として、配列番号7に示されるDNA及び配列番号8に示されるDNAをプライマーとしてPCR反応を行い、配列番号2で示される塩基配列を有するDNAを増幅した。詳細を以下に述べる。
PCR反応は、KOD Plus DNA Polymerase (TOYOBO社製)を用いて、94℃で2分間保温し、94℃で15秒間、58℃で30秒間、68℃で3分30秒間のサイクルを30サイクル繰り返す増幅条件下で行われた。尚、PCR反応液(50μl)は、プラスミドp415CYC-CRE1を500ng、プライマーDNA各々100ngにキット説明書に従ってdNTP等の反応組成物を添加することにより調製された。
このようにして増幅した目的のDNA断片はpCR-Blunt II-TOPOベクター(インビトロジェン社)にキット添付の説明書に従ってクローニングした。この際、配列番号7で示される塩基配列がT7プロモーターに近く、配列番号8で示される塩基配列がSp6プロモーターに近くなる向きで目的のDNA断片をpCR-Blunt II-TOPOベクターに挿入した。挿入されたDNA断片の塩基配列が正しい向きであり、当該塩基配列が配列番号2で示された塩基配列であることを自動塩基配列決定装置を用いて確認した。
【0118】
実施例16 (CRE1発現プラスミドの構築)
酵母発現ベクターであるp425GPD(Munberg et al. Gene:156 119-122(1995)、ATCCライブラリー (No.87359)から入手可能)を制限酵素BamHIで切断した後、T4 DNA Ligaseを用いて、実施例15で得られたDNA断片(配列番号2で示される塩基配列を有するDNA)を発現ベクターp425GPDのGPDプロモーター配列に結合することにより、酵母において目的タンパク質が発現されるように組み込んだ。挿入されたDNA断片の塩基配列が正しい向きであり、当該塩基配列が配列番号2で示された塩基配列であることを自動塩基配列決定装置を用いて確認し、発現プラスミドp425GPD-CRE1を得た。
【0119】
実施例17 (形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の作製)
実施例16で得られた発現プラスミドを用いて、Sln1遺伝子欠損株であるTM182(sln1Δ)(Maeda T et al. Nature:369 242-245(1994))を形質転換した。形質転換は、S. cerevisiae Direct Transformation Kit Wako(和光純薬工業社製)を用い、添付のマニュアルに従って行った。得られる形質転換細胞では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、DOLU+Gal培地で生育する形質転換酵母を選択することにより、形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1を得た。
また、酵母発現ベクターであるp425GPDを用いて同様の方法で形質転換細胞TM182-p425GPDを得た。
【0120】
実施例18 (CRE1を含む膜タンパク質画分の調製)
実施例17で得られた形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1をガラスビーズで破壊した後、超遠心機によってCRE1を含む膜タンパク質画分を調製した。詳細を以下に述べる。
実施例17で得られた形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1をDOLU+Gal培地100mlに植菌し、30℃で16時間培養を行い、OD600=1.4程度の培養液を得た。培養液を50mlの遠心管に分注して、4℃、7,400xgで5分間遠心して形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の菌体を回収した。この菌体を、4℃に冷却したリン酸バッファー(50mM リン酸二水素ナトリウム水溶液と50mM リン酸水素二ナトリウム水溶液を4対6の割合で混ぜてpH7.0に調整したもの)に再度懸濁して2mlチューブに分注して、4℃、1,000xgで5分間遠心して形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の菌体を回収した。この菌体を、4℃に冷却したリン酸バッファーに再度懸濁して、4℃、1,000xgで5分間遠心して形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の菌体を回収した。この菌体を、DTT(ジチオスレイトール)とPMSF(フッ化フェニルメチルスルホニル)を含む菌体の3倍量のリン酸バッファー(前述のリン酸バッファーに5mM DTTと0.5mM PMSFを添加したもの)に再度懸濁して、あらかじめ250μlのガラスビーズ(直径0.25〜0.5mm)を入れて4℃に冷却していた1.5mlチューブに200μlずつ分注した。これらの1.5mlチューブをマイクロチューブミキサー(TOMY社、MT-360)の最高出力で30秒間攪拌した後、1分間氷中で冷却することを2回繰り返した。さらに、これらの1.5mlチューブをマルチビーズショッカー(安井器械社、MB-200)の出力(SPEED METER)2000で30秒間攪拌した後、1分間氷中で冷却することを3回繰り返した。次に、これらの1.5mlチューブを4℃、1,500xgで10分間遠心して上清を回収した。この上清を新しい1.5mlチューブに移して4℃、10,000xgで3分間遠心して上清を回収した。超遠心機を用いてこの上清を4℃、100,000×gで1時間遠心して沈殿を回収した。この沈殿を、スクロースモノカプレートを1%含むリン酸バッファー(前述のリン酸バッファーに1%のスクロースモノカプレートを添加したもの)に溶解させて形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の膜タンパク質画分とした。
また、同様の方法で、形質転換細胞TM182-p425GPDの膜タンパク質画分を調製した。
【0121】
実施例19 (化学物質がサイトカイニンがサイトカイニン受容体に結合することを阻害することを調べる方法)
実施例18で得られた形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の膜タンパク質画分と水素の放射性同位体であるトリチウムで標識して高い放射活性を持たせたサイトカイニンとを用いて、被験物質がサイトカイニンがサイトカイニン受容体に結合することを阻害することを検証した。詳細を以下に述べる。
水素の放射性同位体であるトリチウムで標識して高い放射活性を持たせたサイトカイニンは、アマシャムバイオサイエンス社製の[3H]N-6-(isopent-2-enyl)Adenine(以下、放射性標識2IPと記す)を用いた。比放射能は74.0GBq/mmolで、放射能濃度は37.0MBq/ml。
はじめに、形質転換細胞TM182-p415CYC1の膜タンパク質画分を100μgと設定濃度になるようにリン酸バッファーで希釈した放射性標識2IPと設定濃度になるようにDMSOで希釈した被験物質1μlをリン酸バッファー中で混合して100μlの反応液を調製した。次に、この反応液を氷中に1時間静置した後、ガラスフィルターGF/B(ワットマン社製)で濾過して形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の膜タンパク質画分を回収した。そして、このガラスフィルターを液体シンチレーションカクテルUltima Gold(パーキンエルマー社製)に浸して、液体シンチレーションカウンターで放射能を測定した。また、対照として形質転換細胞TM182-p425GPDの膜タンパク質画分を用いて同様の試験を行った。放射性標識2IPの非特異的な結合による放射能の影響を排除するために、形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の膜タンパク質画分を用いた試験で得た放射能の値から形質転換細胞TM182-p425GPDの膜タンパク質画分を用いた試験で得た放射能の値を引いた。その試験結果を図10に示す。
放射能は、被験物質無し(被験物質の溶媒に用いたDMSOのみを添加)や被験物質がアブシジン酸の場合に比べて、被験物質がトランスゼアチンやIc3-4の場合に減少した。
【0122】
実施例20 (湛水直播試験における種子処理したサイトカイニン情報伝達阻害物質のイネ苗立ち促進活性の評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質Ic3-3について、イネ(Oryza sativa japonica 日本晴)に種子処理して湛水直播条件下生育させ、苗立ち率を調べることにより、化学物質のイネ苗立ち促進活性を評価した。
まず、5%(v/v) Color Coat Red(BECKER UNDERWOOD社製)、5%(v/v) CF-Clear(BECKER UNDERWOOD社製)、0.42%(v/v) Maxim-XL(Syngenta社製)を含むBlank slurry溶液を調製した。1.3mlのBlank slurry溶液当り、それぞれ6.25mg、12.5mg、25mg、50mgの化学物質Ic3-3を溶解させ、当該溶液をHege11種子処理装置(Hans-Ulrich Hege社製)を用いて、50g種子当り1.3mlの化学物質− slurry溶液の割合で処理した(それぞれ0.125mg、0.25mg、0.5mg、1mg/g種子に相当する)。
次に、野外に設置されたコンクリートポット(50cm×50cm)に、湛水深5cmに設定して、ポット当り50粒ずつ散播した。播種後23日目に、葉の先端が水面に出現している苗数を調査した結果、0.125〜1mg/g種子の処理濃度で、Blank slurry 処理区と比較して、苗立ち率の増大が認められた。各処理区(4反復)の試験結果(平均値)を表13に示す。
[苗立ち率(%)]=[葉の先端が水面に出現している苗数]/[播種数]×100
【0123】
【表13】
【0124】
実施例21 (乾田直播試験における種子処理したサイトカイニン情報伝達阻害物質のイネ分げつ促進活性評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質Ic3-3について、イネ(Oryza sativa japonica 日本晴)に種子処理して乾田直播条件下生育させ、分げつ数を調べることにより、化学物質のイネに対する分げつ促進活性を評価した。
まず、5%(v/v) Color Coat Red(BECKER UNDERWOOD社製)、5%(v/v) CF-Clear(BECKER UNDERWOOD社製)、0.42%(v/v) Maxim-XL(Syngenta社製)を含むBlank slurry溶液を調製した。1.3mlのBlank slurry溶液当り、12.5mgの化学物質Ic3-3を溶解させ、当該溶液をHege11種子処理装置(Hans-Ulrich Hege社製)を用いて50g種子当り1.3mlのの割合で処理した(0.25mg/g種子に相当する)。
次に種子処理した種子を1/5000aワグネルポットに、ポット当り20粒ずつ、播種深度1cmに播種し、温室にて栽培した。播種後10日目に湛水深5cmに設定して入水し、さらに栽培を継続した。播種後30日目に、分げつ数を調査した結果、Blank slurry処理区と比較して、株当りの分げつ数の増加が認められた。各処理区(3反復)の試験結果(平均値)を図11に示す。
【0125】
以下に、本発明において使用される培地の組成を記す。
(a)DOLU+Glu培地
Bacto-yeast nitrogen base without amino acids 6.7g
Glucose 20g
SC-HIS-LEU-URA(Q-BIOgene社) 1.66g
Histidine 0.076g
Distilled water 1000ml
(b)DOLU+Gal培地
Bacto-yeast nitrogen base without amino acids 6.7g
Glucose 20g
SC-HIS-LEU-URA(Q-BIOgene社) 1.66g
Histidine 0.076g
Distilled water 1000ml
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明により、植物の生長若しくは分化を制御する薬剤、並びに、標的を明確にした有用な生物活性を有する化学物質の探索手法、即ち、標的部位を化学的に調節することを目的として、特定の標的に対する活性で化学物質をスクリーニングする方法等が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】図1は、実施例8において、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質の濃度応答性を検定した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質の濃度とし、且つ、Y軸を相対生育度とした濃度応答性生育阻害曲線を表している。尚、図中の左図(左縦1列の3つのサブ図)は形質転換細胞TM182-CRE1を用いた試験系での結果を示すものであり、右図(右縦1列の3つのサブ図)は形質転換細胞TM182- p415CYC1)を用いた試験系での結果を示すものである。また、図中の上段図、中段図及び下段図は、上から化学物質Ic7-1、化学物質Ic3-1及び化学物質Ic3-3を用いた試験系での結果を示すものである。
【図2】図2は、実施例10において、レタスを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を評価した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質(化学物質Ic3-1)の濃度とし、且つ、Y軸を根部生長度(%)とした濃度応答性生長促進曲線を表している。
【図3】図3は、実施例10において、レタスを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を評価した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質(化学物質Ic7-1)の濃度とし、且つ、Y軸を根部生長度(%)とした濃度応答性生長促進曲線を表している。
【図4】図4は、実施例11において、イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を評価した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質(化学物質Ic3-1)の濃度とし、且つ、Y軸を根部生長度(%)とした濃度応答性生長促進曲線を表している。
【図5】図5は、実施例11において、イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を評価した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質(化学物質Ic7-1)の濃度とし、且つ、Y軸を根部生長度(%)とした濃度応答性生長促進曲線を表している。
【図6】図6は、実施例12において、イネ種子処理によるサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を評価した結果を示した図である。図中の「UTC」とは、種子処理においてアセトンのみを用いた対照区での結果を示すものであり、また「IAA」とはオーキシン化合物IAAを用いた試験系での結果を示すものである。
【図7】図7は、実施例13において、植物分化促進活性を評価するために、シロイヌナズナの胚軸を用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の不定根形成活性を測定した結果を示した図である。図中の「対照区」とは、実施例13に記載された対照区の寒天培地での結果を示すものである。
【図8】図8は、実施例14において、イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を測定した結果を示した図である。図中の「UTC」とは、土壌潅注処理においてアセトンのみを用いた対照区での結果を示すものである。
【図9】図9は、実施例14において、イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性について根長測定画像解析装置を用いて解析した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質(化学物質Ic3-3)の濃度とし、且つ、Y軸は根径毎の根長の累計(総根長)を表している。図中の「UTC」とは、土壌潅注処理においてアセトンのみを用いた対照区での結果を示すものである。凡例の数値(L)は、根径(mm)を示す。
【図10】図10は、実施例19において、サイトカイニンがサイトカイニン受容体に結合することを被験物質が阻害することを検証した試験結果である。図中の「DMSOのみ」とは、被験物質を入れていない対照区であって、被験物質の溶媒として使用したDMSOのみを被験物質のDMSO溶液の替わりに添加したものである。「t-Zeatin」とは被験物質としてトランスゼアチンを添加したもの、「Ic3-4」とは被験物質としてIc3-4を添加したもの、「ABA」とは被験物質としてアブシジン酸を添加したものである。
【図11】図11は、実施例21において、乾田直播試験における種子処理したサイトカイニン情報伝達阻害物質のイネ分げつ促進活性の評価結果を示した図である。図中、「Ic3-3」とは種子処理に被験物質Ic3-3のBlank slurry溶液を用いた場合の、また「Blank slurry処理」とはIc3-3溶液の代わりに種子処理にBlank slurryを用いた場合の株あたりの分げつ数を示した図である。
【配列表フリーテキスト】
【0128】
配列番号3
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号4
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号5
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号6
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号7
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号8
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生長若しくは分化を制御する薬剤であり、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする薬剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカイニンは、高等植物の細胞分裂及び分化に関する植物ホルモンであり、高等植物細胞の分裂の誘起、カルスや髄から茎葉への分化、葉の黄化や落葉・落果等の防止、頂芽優先の打破等の作用を示すことが知られている重要な生理活性物質である(例えば、非特許文献1参照)。サイトカイニンによって引き起こされる生理現象を制御する方法としては、サイトカイニンを外部から与える方法、植物体内のサイトカイニン生合成を制御する方法、植物体内のサイトカイニン代謝を制御する方法等が考えられてきた。
【0003】
ところで、植物成長調節剤の有効成分となる化学物質は、従来、供試化学物質を植物に直接作用させ、その生物学的活性を検定するランダムスクリーニングによって見出されてきた。この場合、当該化学物質の安全性や環境への負荷を予測するために、有用な生物活性を有する化学物質が特定された後に、その化学物質がどのような作用機構で効力を有するか、その化学物質が作用する標的が何であるかを分子レベルで詳細に研究する必要があった。
【0004】
【非特許文献1】Cytokinins: Chemistry, Activity, and Function, CRC Press (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、植物成長調節剤の有効成分となる化学物質の探索及び開発に係る、上記のような状況下において、標的を明確にした有用な生物活性を有する化学物質の探索手法、即ち、標的部位を化学的に調節することを目的として、特定の標的に対する活性で化学物質をスクリーニングする方法等の開発を試みた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、このような状況下鋭意検討を行った結果、植物の生長若しくは分化を制御する薬剤であり、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする薬剤等を見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
(1)植物の生長若しくは分化を制御する薬剤であり、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする薬剤;
(2)植物を生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物成長調節剤であることを特徴とする前項1記載の薬剤;
(3)植物の生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物体の生長を制御する薬剤であることを特徴とする前項1記載の薬剤;
(4)植物の生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物細胞の分化を制御する薬剤であることを特徴とする前項1記載の薬剤;
(5)植物体の生長を制御する薬剤が、植物の芽の生長の制御のための薬剤であることを特徴とする前項3記載の薬剤;
(6)植物の芽の生長の制御が、腋芽抑制等であることを特徴とする前項5記載の薬剤;
(7)植物の芽の生長の制御が、花芽抑制等であることを特徴とする前項5記載の薬剤;
(8)植物体の生長を制御する薬剤が、植物の苗立ちを促進させる薬剤であることを特徴とする前項3記載の薬剤;
(9)植物体の生長を制御する薬剤が、植物の分げつを促進させる薬剤であることを特徴とする請求項3記載の薬剤;
(10)植物体の生長を制御する薬剤が、植物の根の生長を促進させる薬剤であることを特徴とする前項3記載の薬剤;
(11)細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体であることを特徴とする前項1〜10いずれか一項記載の薬剤;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(12)細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質との接触系において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性であることを特徴とする前項1〜10いずれか一項記載の薬剤;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(13)有効成分として、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする植物成長調節剤;
(14)前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、前記化学物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする前項13記載の植物成長調節剤;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(15)サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質が、トランスゼアチンであることを特徴とする前項14記載の植物成長調節剤;
(16)前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、0.6ppmのトランスゼアチンと、2ppmの前記化学物質との接触系内において、前記化学物質が存在しない場合よりも前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする前項13記載の植物成長調節剤;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(17)前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、0.6ppmのトランスゼアチンと、2ppmの前記化学物質との接触系内において、前記化学物質が存在しない場合よりも前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を90%以上阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする前項13記載の植物成長調節剤;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(18)植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質の探索方法であって、
<1>下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、被験物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の量を測定する第一工程、及び
<2>第一工程により測定された細胞内信号伝達の量と前記化学物質が存在しない場合における細胞内信号伝達の量とを比較することにより得られる差異に基づき植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質を選択する第二工程、
を有することを特徴とする方法;
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(19)サイトカイニン受容体を有する細胞が、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが導入されてなる形質転換細胞であることを特徴とする前項18記載の探索方法;
(20)サイトカイニン受容体を有する細胞が、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが導入されてなる形質転換酵母細胞であることを特徴とする前項18記載の探索方法;
(21)サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質が、トランスゼアチンであることを特徴とする前項18、19又は20記載の探索方法;
(22)前項18、19、20又は21記載の探索方法により選抜された化学物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする植物成長調節剤;
(23)前項13、14、15、16、17又は22記載の植物成長調節剤の有効量を、植物又はその生息場所に施用することを特徴とする植物成長調節方法;
(24)前項18、19、20又は21記載の探索方法により植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質を特定し、特定された植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質と植物とを接触させることを特徴とする植物成長調節方法;
(25)有効成分として、一般式(I)
(式中、R及びXは同一又は異なって置換されていてもよい炭化水素基、NR1R2で表される基、OR3で表される基、S(O)mR4で表される基、ニトロ基又はハロゲン原子を示し、
ここでR1は水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示し、
R2は水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、NR5R6で表される基(ここでR5及びR6は同一もしくは異なり水素原子又は置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)又はOR7で表される基(ここでR7は水素原子又は置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し、又はR1及びR2が隣接する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい環状アミノ基を示し、
R3及びR4はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素基を示し、
lは0〜1の整数を示し、
mは0〜2の整数を示し、
nは0〜4の整数を示し、
nが2以上の場合Xは同一又は異なっていてもよく、
Arは置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示す)で表される化合物又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする植物成長調節剤;
(26)lが1であり、Rが置換されていてもよい炭化水素基である前項25記載の植物成長調節剤;
(27)lが1であり、Rがハロゲン原子又はオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である前項25記載の植物成長調節剤;
(28)置換されていてもよい炭化水素基がハロゲン原子又はオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である前項26記載の植物成長調節剤;
(29)lが1であり、RがNR1R2で表される基である前項25記載の植物成長調節剤;
(30)R1が水素原子又はC1-3アルキル基を示し、R2が水素原子、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、アミジノ基、C1-3アルコキシ基、フェニル基、C1-3アシル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基又はC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のフェニル基は1〜3個の同じもしくは異なるC1-3アルキル基で置換されていてもよく、前記のフェニル基、アシル基、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基はハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-3アルコキシ基、ヒドロキシC1-3アルコキシ基、カルボキシル基、C1-3アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、メルカプト基、C1-3アシルチオ基、シアノ基、フリル基及びテトラヒドロフリル基の中から選ばれる1〜3個の同じもしくは異なる置換基で置換されていてもよく、又はR1及びR2が隣接する窒素原子と一緒になってピロリジノ基、ピペリジノ基又はモルホリノ基を示す前項29記載の植物成長調節剤;
(31)R1が水素原子を示し、R2が水素原子、ホルミル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基又はC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基はヒドロキシル基、メトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、シアノ基及びフリル基の中から選ばれる置換基で置換されていてもよい前項29記載の植物成長調節剤;
(32)lが1であり、RがOR3で表される基である前項25記載の植物成長調節剤;
(33)R3がアミノ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である前項32記載の植物成長調節剤;
(34)lが1であり、RがS(O)mR4で表される基である前項25記載の植物成長調節剤;
(35)R4がアミノ基又はヒドロキシル基で置換されていてもよいC1-3アルキル基であり、mが0である前項34記載の植物成長調節剤;
(36)lが1であり、Rがハロゲン原子である前項25記載の植物成長調節剤;
(37)ハロゲン原子が塩素原子である前項36記載の植物成長調節剤;
(38)nが1〜2であり、XがC1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基、C1-3ハロアルキル基、シアノ基、ハロゲン原子又はニトロ基である前項25〜37いずれか一項記載の植物成長調節剤;
(39)Xが塩素原子、臭素原子又はニトロ基であり、Xの置換位置が6位及び/又は8位である前項38記載の植物成長調節剤;
(40)Arがハロゲン原子又はC1-3アルキル基で置換されていてもよいフェニル基である前項23〜37いずれか一項記載の植物成長調節剤;
(41)前項25〜40いずれか一項記載の植物成長調節剤の有効量を、植物又はその生息場所に施用することを特徴とする植物成長調節方法;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、植物の生長若しくは分化を制御する薬剤、並びに、標的を明確にした有用な生物活性を有する化学物質の探索手法、即ち、標的部位を化学的に調節することを目的として、特定の標的に対する活性で化学物質をスクリーニングする方法等が提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、詳細に本発明を説明する。
【0009】
本発明において「植物」とは、草や木等、根が生えて固定的な生活をしているような生物を示すような広義な意味で使用されており、植物体、植物組織、植物細胞等を含むような概念である。詳細には、土壌における植物の固定、外部からの水分及び養分吸収等の重要な役割を根という器官を介して行うことができる高等植物等の生物を示し、花卉・観葉植物等の鑑賞用植物、穀類・野菜・果樹等の作物、繊維植物、樹木、芝等の植物があげられる。具体的には例えば、イネ、トウモロコシ等の穀物類、ベントグラス、コウライシバ等の芝類、トマト、ピーマン、トウガラシ、スイカ等のウリ類、キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ等のウリ類、キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ等の菜類、セロリ、パセリ、レタス等の生菜、香辛菜類、ネギ、タマネギ、ニンニク等のネギ類、ダイズ、インゲン、エンドウ、アズキ等の豆類、イチゴ等の果菜類、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ等の直根類、サトイモ、バレイショ、サツマイモ、ナガイモ等のイモ類、アスパラガス、ホウレンソウ、ミツバ等の柔菜類、トルコギキョウ、ストック、カーネーション、キク等の花弁類、ナタネ、ラッカセイ等の油料作物類、サトウキビ、テンサイ等の糖料作物類、ワタ、イグサ等の繊維料作物類、クローバー、ソルガム等の飼料作物類、リンゴ、ナシ、ブドウ、モモ、クリ等の落葉性果樹類、ミカン、レモン、グレープフルーツ等の柑橘類、サツキ、ツツジ、スギ等の木本類等を挙げることができる。
本発明において植物の「生長」とは、種子の発芽に始まる植物の初期発生から、根、茎、葉の成長と発達、花の形成から種子の成熟に至るまでの過程において、すでにある栄養器官(根、茎、葉)を新たに作っては積み上げていくような一般的な過程をいうが、例えば、発芽、根の伸長、芽の伸長、茎の伸長、頂芽・腋芽の形成と伸長、枝・葉の展開、花芽の形成と開花、結実、種子の成熟等が挙げられる。
本発明において植物の「分化」とは、分化全能性を獲得した植物細胞集団であるカルスから、根、茎、葉等の植物組織が形成されること(再分化)、又は、根、茎、葉等の植物組織の細胞からカルスが形成されること(脱分化)をいう。
本発明において植物の「芽の生長の制御」とは、頂芽若しくは腋芽の生長を促進又は抑制することをいうが、例えば、頂芽優勢により生長が抑制されている腋芽の生長を開始させたり、頂芽を切除することにより生長を開始する腋芽の生長を抑制させたり、通常の頂芽の生長を抑制させたりすることが挙げられる。
本発明において「植物の生長若しくは分化を制御する薬剤」とは、植物に種々の方法により処理することによって植物の生長若しくは分化を制御することができる薬剤である。植物の生長若しくは分化を制御することにより、農作物等有用植物の成長や発育をコントロールして、初期生育を高めたり、品質を高めたり、収量を上げたり、不良条件でも収量を安定させたり、生産上の労力を省くことが可能となり、「植物の生長若しくは分化を制御する薬剤」は、「植物成長調節剤」として利用することができる。
【0010】
本発明において植物の「根」とは、双子葉植物及び裸子植物の場合には、種子の胚にある幼根から発達した主根、主根から枝分かれして伸びる側根等をいう。また、単子葉植物の場合には、種子の胚にある幼根(種子根)、種子根の成長停止後、上方部に生ずる不定根(所謂ひげ根)、不定根から枝分かれして伸びる側根等をいう。また、根の表皮細胞が、外側に向かって長く伸びた根毛等をいうこともある。植物の根は、土壌における植物の固定、外部からの水分及び養分吸収等、植物にとって重要な役割を担う器官である。また、植物の根は、植物ホルモンの生成場所としても非常に重要である。農業上においては、多くの作物は種子によって増殖する。従って、植物の生長の初期に均一に苗立ちが得られることは、高品質、高収量につながる非常に重要な要素である。植物の根の生長を促進させることにより、土壌への活着率の向上、苗立ちの改善等による生産性又は品質の向上、苗立ちの向上による早期の雑草防除コントロール、種子の供給源の効率化等、種々の利点が期待される。また、根張りが向上することにより、乾燥ストレス耐性の向上又は病害虫耐性の向上等、また養分吸収能力の向上による肥料量の削減等が期待される。
【0011】
本発明において植物の「根の生長」とは、根の細胞の分裂、伸長、重量増加により、根の長さ、根数が増加又は、根量、太さ、活性等が増加すること等をいう。
【0012】
本発明において植物の「根の生長を促進させる」とは、植物の根の生長を従来よりも活発にし、無処理の場合と比較して、根の長さ、根数が増加又は、根量、太さ、活性等が増加すること等をいう。
【0013】
本発明において「植物の根の生長を促進させる薬剤」とは、植物に種々の方法により処理することによって植物の根の生長を促進させることができる薬剤である。植物の根の生長が促進することにより、農作物等有用植物の成長や発育をコントロールして、初期生育を高めたり、品質を高めたり、収量を上げたり、不良条件でも収量を安定させたり、生産上の労力を省くことが可能となり、「植物の根の生長を促進させる薬剤」は、「植物成長調節剤」として利用することができる。
【0014】
ここで、「苗立ち」とは、播種された種子が出芽した後植物体として正常な生育が可能な状態で土壌に定着することまたは移植された植物の苗が土壌に定着し正常に生育することをいう。苗立ちが促進されることにより、植物の初期生育が改善され、健全な植物を育成することができる。また、健全に生育する植物数が増加することにより、最終的な収量の増加が期待される。例えば、イネ直播栽培においては、出芽・苗立ちが不安定で、常に一定の苗立ち数を確保することは一般に困難である。本発明の苗立ちを促進させる薬剤は、苗立ちを促進しイネ直播栽培の効率を改善することができる。「苗立ち率」とは、播種された種子の総数または移植された植物の苗の総数に対する苗立ちした植物の割合をいい、例えば、イネの場合、本願明細書において次式にて定義されうる。
式; [苗立ち率(%)]=[葉の先端が水面に出現している苗数]/[播種数]×100
【0015】
植物の「分げつ」とは、植物生長にともない枝分かれすることまたはその枝をいい、例えばイネ科植物の場合側枝をいう。分げつの促進とは、分げつ時期が早まることおよび分げつ数が増加することを含む。例えば、低温・高温・乾燥などのストレス条件下で、本発明の植物成長調節剤を用いて分げつ時期を早めて、健全苗を早期に確保できれば、ストレスからの苗のダメージを回避することができる。また、例えば、分げつ時期が早まることにより、植物の栽培期間の短縮につながる。また、植物の分げつ形成は、穂数にも直接影響するため、栽培条件によっては増収が期待できる。
【0016】
オーキシン活性物質は、植物の種類・オーキシン処理濃度等によっては葉の上偏成長、茎の捻転や茎割れ、根こぶの誘導等といった好ましくない性質を示すことがある。
サイトカイニン活性物質は植物の根の生長抑制と生長促進との両面の性質を有すると考えられている〔例えば、PNAS 101 (23):8821-8826 (2004)〕が、このような性質を農業上実用的に利用するには、未だ多くの知見の蓄積を待たねばならない状況にある。しかしながら、植物におけるサイトカイニンの役割を詳細に検討することは、植物体内のサイトカイニン量を調節すること(特に、植物の内性のサイトカイニン量を低減させること)は通常困難であるために、いくら当該技術分野に精通する研究者と雖も容易なものではない。
植物の内性のサイトカイニンは、サイトカイニン情報伝達を阻害してサイトカイニンに対する感受性を弱めることにより、負の制御が可能と考えられる。例えば、サイトカイニン受容体そのものを変異させることによりサイトカイニン情報伝達を阻害させることができ、サイトカイニン受容体の変異体が単離されている〔The Plant Cell 16:1365-1377 (2004), PNAS 101 (23):8821-8826 (2004)〕。しかしながら、これらの変異体では阻害の程度を段階的に制御することは困難であり、サイトカイニン受容体の1重変異体は野生型と同様の表現型を示す一方で、3重変異体は根の伸長阻害と植物体の生長不良とを示す。
【0017】
本発明において「細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体」とは、植物に存在するサイトカイニン受容体を示す。サイトカイニン受容体は、例えば、カイネチン、ゼアチン等のプリン系サイトカイニン、N−フェニル−N’−(4−ピリジル)ウレア等のウレア系サイトカイニン等のサイトカイニンに特異的に結合し、Two-Component regulatory system (又はHis to Asp phosphorelay system)と呼ばれる細胞内信号伝達メカニズムによって高等植物細胞の増殖、分化を制御する機能を有するタンパク質である。本発明で用いられるサイトカイニン受容体とは、ヒスチジンキナーゼファミリーに属しており、細胞外領域、膜貫通領域、ヒスチジンキナーゼ領域(細胞内でヒスチジンキナーゼ活性を有しかつ活性部位となるHis残基を保持する領域)及びレシーバー領域(リン酸基転移の受容部を有しかつ活性部位となるAsp残基を保持する領域)から構成されているタンパク質である。
【0018】
Two-Component regulatory systemは、真性細菌、古細菌、カビ、植物で広く用いられている情報受容・細胞内信号伝達メカニズムである。このメカニズムにおいて受容体として働くヒスチジンキナーゼにはN-末端側にシグナルを受容するインプット領域、そのC-末端側にリン酸基転移に関わるトランスミッター領域と呼ばれる領域がある。インプット領域がシグナルを感知するとトランスミッター領域(前述のサイトカイニン受容体のヒスチジンキナーゼ領域)のHis残基が自己リン酸化される。このリン酸基は、保存された特定のHis残基とAsp残基を交互にリン酸化しながら転移して、最終的にはレスポンスレギュレーターと呼ばれるタンパク質のレシーバー領域のAsp残基をリン酸化する。リン酸基は、ヒスチジンキナーゼからレスポンスレギュレーターへ直接受け渡される場合と、何段階かのリン酸基転移を経てレスポンスレギュレーターに受け渡される場合がある。前者のような単純なTwo-Component regulatory systemは原核生物に多く存在する。一方、多段階のリン酸基転移は真核生物に多く見られ、そのような真核生物のヒスチジンキナーゼにはレシーバー領域が付随している場合が多い。また、リン酸基の転移にはリン酸基転移メディエーターも関与する。レスポンスレギュレーターのリン酸化は、付随するアウトプット領域の活性を制御する。アウトプット領域は転写制御因子であることが多い。
植物のサイトカイニン受容体においては、同一分子内にレシーバー領域が付随している。即ち、サイトカイニンと結合したサイトカイニン受容体では、分子内のHis残基の自己リン酸化に続いて、このHis残基から分子内Asp残基へのリン酸基の転移が起こることが知られている。さらに、このリン酸基はリン酸基転移メディエーターのHis残基を経て、レスポンスレギュレーターのAsp残基へ転移することが明らかになっている。例えば、シロイヌナズナにおいては、リン酸基はサイトカイニン受容体CRE1、AHK2、AHK3からリン酸基転移メディエーターAHPを経て、レスポンスレギュレーターに転移することが明らかになっている。
【0019】
サイトカイニン受容体をコードする遺伝子としては、これまでに、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana、CRE1:accession No.AB049934、AHK2:accession No.AB046869、AHK3:accession No.AB046870)、ツルニチニチソウ(Catharanthus roseus、accession No.AY092025)、イネ(Oryza sativa、accession No.AY572461)、トウモロコシ(Zea mays、ZmHK1:accession No. AB042270、ZmHK2:accession No. AB102956、ZmHK3a:accession No. AB102957、ZmHK3b:accession No. AB121445)等由来の遺伝子の塩基配列が知られている。このような塩基配列既知の遺伝子は、目的の遺伝子を持つ生物のゲノムDNA又はcDNAを鋳型にして、その遺伝子にコードされるタンパク質のアミノ末端付近に相当する塩基配列及びカルボキシ末端付近に相当する塩基配列をもとに作製したプライマーを用いてPCRを行うことにより増幅し、これを単離することができる。また、上記以外の植物から、サイトカイニン受容体をコードする遺伝子を取得することもできる。まず、目的とする植物からmRNAを調製し、該mRNAを鋳型として逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、これをZAPII等のファージベクター又はpUC等のプラスミドベクターに組み込んでcDNAライブラリーを製作する。このcDNAライブラリーを鋳型にして、上記のような塩基配列既知の遺伝子間で良好に保存された塩基配列に基づき設計し合成されたプライマーを用いてPCRを行うことによって、サイトカイニン受容体をコードする遺伝子の少なくとも一部を含むDNA断片を増幅することができる。このDNA断片をプローブにしてcDNAライブラリーをスクリーニングし、陽性クローンを選抜する。選抜したクローンの有するDNAの塩基配列を決定することによって、目的とするサイトカイニン受容体をコードする遺伝子であることを確認することができる。
シロイヌナズナの3種類のサイトカイニン受容体(CRE1、AHK2、AHK3)はいずれも同一分子内にレシーバー領域が付随しているヒスチジンキナーゼである。これら3者間のアミノ酸配列の相同性は高く、とりわけ、サイトカイニンと結合すると考えられる細胞外領域のアミノ酸配列の相同性は高い。後述の組換え酵母においても、これら3種類のサイトカイニン受容体はいずれもサイトカイニンに応答した細胞内信号伝達を起こし、サイトカイニン受容体の活性を確認することができた。他の植物のサイトカイニン受容体もヒスチジンキナーゼであり、それらのアミノ酸配列はシロイヌナズナのサイトカイニン受容体のアミノ酸配列と相同性が高い。
シロイヌナズナのサイトカイニン受容体CRE1のアミノ酸配列に対するその他のサイトカイニン受容体のアミノ酸配列との同一性は表1に示される。
好ましい「細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体」として、例えば、シロイヌナズナのサイトカイニン受容体CRE1のアミノ酸配列と45%以上、好ましくは49%以上、さらに好ましくは53%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、サイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質を挙げることができる。
【0020】
【表1】
【0021】
「細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達」とは、前述のとおり、サイトカイニンが結合したサイトカイニン受容体の自己リン酸化に始まるリン酸基の転移によって行われる情報伝達である。即ち、植物の細胞においては、サイトカイニンが結合して自己リン酸化されたサイトカイニン受容体からリン酸基転移メディエーターに、さらにそこからレスポンスレギュレーターにリン酸基が転移することでサイトカイニン応答の信号が伝達される。同様に、植物由来のサイトカイニン受容体を有する組換え細胞においても、サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達はリン酸基の転移によって行われるが、リン酸基転移メディエーターとレスポンスレギュレーターは宿主細胞由来のものである場合がある。全てが宿主由来のものである場合も、いくつかだけが宿主由来の場合もある。また、リン酸基転移メディエーターは存在しない場合もある。例えば、サイトカイニン受容体を有する組換え出芽酵母においては、植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達は、サイトカイニンが結合して自己リン酸化されたサイトカイニン受容体から、宿主出芽酵母細胞由来のリン酸基転移メディエーターであるYpd1を経て、宿主出芽酵母細胞由来のレスポンスレギュレーターであるSsk1にリン酸基が転移することによって行われる。また、サイトカイニン受容体を有する組換え分裂酵母においては、植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達は、宿主分裂酵母由来のリン酸基転移メディエーターSpy1を経て宿主分裂酵母由来のレスポンスレギュレーターMcs4にリン酸基の転移によって伝達される。その他、サイトカイニン受容体を有する組換え大腸菌においては、植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達は、宿主大腸菌由来のリン酸基転移メディエーターYojNを経て宿主大腸菌由来のレスポンスレギュレーターRcsBにリン酸基の転移によって伝達される。
こうした植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の有無や量を測定する方法の一つに、植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の下流に位置するレスポンスレギュレーターによって転写を制御されているターゲット遺伝子の発現の有無や量を測定する方法がある。この方法には、ターゲット遺伝子の発現の有無や量を直接測定する他に、ターゲット遺伝子のプロモーター領域に蛍光タンパク質の遺伝子やベータガラクトシダーゼの遺伝子等のレポーター遺伝子を結合して作製したレポータープラスミドで宿主細胞の形質転換を行ってレポーター遺伝子の発現の有無や量を蛍光や発色を指標にして測定する方法や、ターゲット遺伝子の発現に関連した細胞数の増減や細胞の形質の変化等を測定したり観察したりする方法がある。例えば、前述の組換え出芽酵母ではサイトカイニン依存的な組換え出芽酵母の生育を指標に、また組換え分裂酵母ではサイトカイニン依存的な組換え分裂酵母の大きさを指標に、さらに組換え大腸菌ではターゲット遺伝子cpsのプロモーター領域に結合したベータガラクトシダーゼ遺伝子の発現に起因する発色を指標にして、植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の有無や量を測定することができる。その他、タイプAのレスポンスレギュレーターであるARR5やARR6のプロモーター領域にレポーター遺伝子を結合したレポータープラスミドで形質転換したシロイヌナズナにおいて、サイトカイニン依存的な蛍光や発色を指標にサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の有無や量を測定することもできる。以上のような測定方法は、例えば、Higuchi et al, Nature 409, 1060-1063(2001); Suzuki et al, Plant Cell Physiol. 42, 107-113(2001); Hwang and Sheen, Nature 413, 383-389(2001)等に記載されている。
以上のような細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の様々な測定方法の中で、機械的且つ定量的に効率良く測定する方法としては、組換え出芽酵母のサイトカイニン依存的な生育を液体培地の濁度を分光光度計で測定する方法が望ましい。具体的には、日本特許公開特許公報(特開2003−079393)等に記載されている方法が挙げられる。
【0022】
「細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性」とは、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を減少させる能力をいう。即ち、サイトカイニン受容体の自己リン酸化に始まりサイトカイニン受容体からレスポンスレギュレーターへと転移されるリン酸基の量を減少させる能力を意味する。具体的には、サイトカイニン受容体のヒスチジンキナーゼ活性を阻害する能力、サイトカイニン受容体からリン酸基転移メディエーターへのリン酸基転移を阻害する能力、リン酸基転移メディエーターからレスポンスレギュレーターへのリン酸基転移を阻害する能力、レスポンスレギュレーターの転写制御を阻害する能力等が挙げられる。さらに具体的には、サイトカイニン受容体のヒスチジンキナーゼ活性を阻害する能力として、サイトカイニンアゴニスト活性を有する物質とサイトカイニン受容体との結合の阻害有無に依存して、サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の阻害有無が決定されるような機構により、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害し、その結果、前記サイトカイニン受容体のヒスチジンキナーゼ活性を阻害する能力が挙げられる。この場合、実際にサイトカイニンアゴニスト活性を有する物質とサイトカイニン受容体との結合を被験物質が阻害することを調べる方法の一つに、放射性標識したサイトカイニンアゴニスト活性を有する物質とサイトカイニン受容体とを用いる方法がある。例えば、水素の放射性同位体であるトリチウムで標識して高い放射活性を持たせたサイトカイニンアゴニスト活性を有する物質とサイトカイニン受容体の遺伝子を導入した組換え酵母から調製したサイトカイニン受容体タンパク質とを適当な緩衝液中に共存させた後、サイトカイニン受容体タンパク質をガラスフィルター上に回収して放射能を測定することで、サイトカイニン受容体に結合した前記トリチウムで標識して高い放射活性を持たせたサイトカイニンアゴニスト活性を有する物質を検出することができ、緩衝液中に被験物質も共存させた場合に放射能の測定値が減少することを指標にして、サイトカイニンアゴニスト活性を有する物質とサイトカイニン受容体との結合を被験物質が阻害することを調べることができる。そして、前記の植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の有無や量を測定する反応系に被験物質を添加して、被験物質が植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達に与える影響を調べることができる。
【0023】
「細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする薬剤」とは、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する物質を有効成分とする薬剤である。
【0024】
本発明において「植物の生長若しくは分化を制御する薬剤であり、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする」とは、前記の測定方法で細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する能力を特定された薬剤であり、植物の生長若しくは分化を制御することができる薬剤を意味する。当該薬剤として、望ましくは、植物の生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物成長調節剤である薬剤が挙げられる。
【0025】
本発明において「植物成長調節剤」とは、前記植物の生長若しくは分化を制御する能力を有する薬剤をいう。
植物の生長若しくは分化を制御する能力を測定する方法の一つとして、本発明で開示される方法の他に、例えば、前記の植物に対する根部生長促進活性を測定する方法が挙げられる。具体的には、例えば、以下の方法に従い、測定することができる。
下記の組成(表2参照)からなる園試標準培地を調製する。化学物質のDMSO溶液を4μlずつ、終濃度0.001ppm〜10ppmになるようにクラスターチューブに分注し、さらに滅菌した園試標準培地を600μlずつクラスターチューブに加えて混合する。チューブ当り10〜20粒のシロイヌナズナ種子を播種し、22℃、明所にて10日間培養した後、平均的な主根の長さを測定する。8反復の平均値を求め、次の式により根部生長率を求める。
【0026】
【表2】
【0027】
根部生長率(%)=(化学物質処理区の平均主根長)/(対照区の平均主根長)×100
有意に高い根部生長率を示す供試薬剤については、根部生長促進活性があると言える。また、より好ましくは、根部生長率が120%以上の供試薬剤は根部生長促進活性があると判断できる。
【0028】
本発明における植物成長調節剤は、有効成分として、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質又はその農学的に許容される塩を含む。
本発明において「農学的に許容される塩」とは、植物成長調節剤としての製造、及び当該製造物の施用に関して、その製造及び施用が不可能とならない形態の塩を指し、どのような形態の塩でもあってもよい。かかる塩としては、具体的には、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の鉱酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩等の有機酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸塩などの酸付加塩、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)及びアルカリ土類金属塩(マグネシウム塩など)、アルミニウム塩等の金属塩、並びに、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基及びリジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸との付加塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0029】
当該植物成長調節剤は、通常、固体担体、液体担体等と混合し、必要により界面活性剤、その他の製剤用補助剤等を添加して、乳剤、水和剤、懸濁剤、水溶剤等に製剤化して用いられる。これらの製剤中にサイトカイニン情報伝達阻害物質が一般に0.5〜90重量%、好ましくは1〜80重量%含有される。
製剤化するに際し用いられる固体担体としては、例えば粘土類(カオリナイト、珪藻土、合成含水酸化珪素、フバサミクレー、ベントナイト、酸性白土等)、タルク、その他の無機鉱物(セリサイト、石英粉末、硫黄粉末、活性炭、炭酸カルシウム等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、塩安、尿素等)等の微粉末や粒状物が挙げられ、液体担体としては、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルナフタレン等)、非芳香族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、ケロシン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジオキサン、ジイソプロピルエーテル等)、酸アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロエタン、トリクロロエチレン等)等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールエーテル類及びそのポリオキシエチレン化物、ポリエチレングリコールエーテル類、多価アルコールエステル類、糖アルコール誘導体等が挙げられる。
その他の製剤用補助剤としては、例えばカゼイン、ゼラチン、多糖類(澱粉、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等)等の固着剤や分散剤、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−/3−tert−ブチル−4−メトキシフェノール)、植物油、鉱物油、脂肪酸、脂肪酸エステル等の安定剤が挙げられる。
【0030】
本発明において「有効成分として、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする植物成長調節剤」とは、前記の測定方法で細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する能力を特定された化学物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有することにより植物の生長若しくは分化を制御することができる薬剤をいう。当該化学物質として、望ましくは、サイトカイニン受容体と前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質との前記組換え出芽酵母接触系において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する能力を有する化学物質を挙げることができる。また、より望ましくは、サイトカイニン受容体と前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質との前記組換え出芽酵母接触系において、トランスゼアチンの存在濃度が0.6ppmで化学物質の存在濃度が2ppm以上の場合に、当該化学物質が存在しない場合よりもサイトカイニン受容体の活性が低くなるように阻害する能力を有する化学物質が挙げられる。またさらに望ましくは、サイトカイニン受容体と前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質との前記組換え出芽酵母接触系において、トランスゼアチンの存在濃度が0.6ppmで化学物質の存在濃度が2ppm以上の場合に、当該化学物質が存在しない場合よりもサイトカイニン受容体の活性が90%以上低くなるように阻害する能力を有する化学物質を挙げることができる。
【0031】
本発明において「被験物質が有する、植物の根の生長を促進させる能力の検定方法であって、(1)下記の群Aから選択される植物由来のサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、被験物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性(or細胞内信号伝達の有無若しくはその量)を測定する第一工程、及び(2)第一工程により測定された活性と対照における活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記物質が有する植物の根の生長を促進させる能力を評価する第二工程、を有することを特徴とする方法」とは、被験物質が有する植物の根の生長を促進させる能力を検定する様々な方法の中で、前記の第一工程及び第二工程を有することを特徴とする方法をいう。
ここで、「群A」とは、
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
を示す。
【0032】
前記の第一工程は、前記の様々な植物由来のサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、被験物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性(or細胞内信号伝達の有無若しくはその量)を測定する工程である。また第二工程は、第一工程により測定された活性と対照における活性とを比較することにより得られる差異に基づき前記物質が有する植物の根の生長を促進させる能力を評価する工程である。ここで対照とは、例えば被験物質を溶媒に溶解した状態で反応系に添加した場合には、被験物質を溶解した溶媒のみを添加した試験区を意味する。
当該第一工程及び当該第二工程を有する、被験物質が有する、植物の根の生長を促進させる能力の検定方法に使用される、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体は、前記群Aに示す蛋白質である。上記の群Aの蛋白質のうち、(b)、(c)、(d)、(e)に示される蛋白質のアミノ酸配列において、(a)に示されるアミノ酸配列との間に認められることのある相違は、一部のアミノ酸の欠失、置換、付加等である。これらには、例えば、上記の(a)で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質が細胞内で受けるプロセシングによる欠失が含まれる。また、当該蛋白質が由来する生物の種差や個体差等により天然に生じる遺伝子変異や、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、突然変異処理等によって人為的に導入される遺伝子変異等により生じるアミノ酸の欠失、置換、付加等が含まれる。
かかる欠失、置換、付加等を受けるアミノ酸の数は、サイトカイニン受容体のヒスチジンキナーゼ活性を見出すことのできる範囲内の数であれば良い。また、アミノ酸の置換としては、例えば、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似したアミノ酸への置換をあげることができる。このような置換としては、具体的には例えば、(1)グリシン、アラニン;(2)バリン、イソロイシン、ロイシン;(3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、(4)セリン、スレオニン;(5)リジン、アルギニン;(6)フェニルアラニン、チロシン等のグループ内での置換が挙げられる。
かかるアミノ酸の欠失、付加若しくは置換(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う手法としては、例えば、(a)で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。また、アミノ酸の改変を人為的に行う手法としては、例えば、(a)で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対してランダムに変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法も挙げられる。ここでランダムに変異を導入する手法としては、例えば、上記のアミノ酸配列のいずれかをコードするDNAを鋳型とし、それぞれのDNAの全長を増幅できるようなプライマー対を用い、基質に用いるdATP、dTTP、dGTP、dCTPの各々の添加濃度を通常とは変化させた反応条件や、或いはポリメラーゼの反応を促進させるMg2+の濃度を通常よりも増加させた反応条件でPCRを行う方法等が挙げられる。このようなPCRの手法としては、例えば、Method in Molecular Biology, (31), 1994, 97-112 に記載される方法があげられる。また、WO0009682号公報に記載される方法をあげることもできる。
【0033】
ここで「配列同一性」とは、2つの塩基配列又は2つのアミノ酸配列間の同一性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の塩基配列又はアミノ酸配列の最適なアラインメントにおいては、付加又は欠失(例えばギャップ等)を許容してもよい。このような配列同一性は、例えば、FASTA[Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,4, 2444-2448(1988)]、BLAST[Altschulら、Journal of Molecular Biology, 215, 403-410(1990)]、CLUSTAL W[Thompson,Higgins&Gibson, Nucleic Acid Research, 22, 4673-4680(1994a)]等のプログラムを用いて相同性解析を行いアラインメントを作成することによって算出することができる。上記のプログラムは、例えば、DNA Data Bank of Japan[国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター (Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan ;CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンク]のホームページ(http://www.ddbj.nig.ac.jp)等において、一般的に利用可能である。また、配列同一性は市販の配列解析ソフトウェアを用いて求めることもできる。具体的には例えば、GENETYX-WIN Ver.5(ソフトウェア開発株式会社製)」を用い、Lipman-Pearson法[Lipman, D. J. and Pearson, W.R., Science, 227, 1435-1441,(1985)]により相同性解析を行ってアラインメントを作成することにより算出することができる。
【0034】
(e)に記載される「ストリンジェントな条件」としては、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行われるハイブリダイゼーションにおいて、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)を含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSC(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSC(高ストリンジェンシーな条件)までの条件から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)までの条件から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
これらの蛋白質は、勿論サイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質であるが、より望ましくは、最大の配列同一性が得られるよう配列番号1で示されるアミノ酸配列と整列させた場合に、配列番号1で示されるアミノ酸配列の(I)459位、(II)973位に相当する位置のアミノ酸残基が、下記アミノ酸残基;(I)459位はヒスチジン、(II)973位はアスパラギン酸である蛋白質が用いられる。ここで、「最大の配列同一性が得られるように配列番号1で示されるアミノ酸配列と整列させる」とは、上記のFASTA、BLAST、CLUSTAL W等のプログラムを用いて配列番号1で示されるアミノ酸配列を含めて対象となる複数のアミノ酸配列の配列同一性解析を行い整列させることを意味する。このような方法で複数の配列を整列させることにより、アミノ酸配列中にある挿入、欠失にかかわらず、各アミノ酸配列中における相同アミノ酸残基の位置を決めることが可能である。相同位置は、三次元構造中で同位置に存在すると考えられ、対象の蛋白質の特異的機能に関して類似した効果を有することが推定できる。例えば、本発明で配列が開示されるサイトカイニン受容体を含め、既知のサイトカイニン受容体は、アミノ酸配列最大の配列同一性が得られるよう配列番号1で示されるアミノ酸配列と整列させた場合に、配列番号1で示されるアミノ酸配列の(I)459位、(II)973位に相当する位置のアミノ酸残基が、下記アミノ酸残基;(I)459位はヒスチジン、(II)973位はアスパラギン酸である。
【0035】
植物の生長若しくは分化を制御する薬剤の有効成分は、例えば、前記の植物の根に対する根の生長を促進させる能力を測定することによって探索することができる。
また、前記の細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体を用いた植物の根の生長を促進させる能力の検定方法によっても植物の生長若しくは分化を制御する能力を有する物質を探索することが可能である。具体的には、前記のサイトカイニン受容体を用いた植物の根の生長を促進させる能力の検定方法を用いて、被験物質の植物の根の生長を促進させる能力がある一定値以上、又は一定値以下であることが特定された場合、当該物質を選抜することによって植物の根の生長を促進させる能力を有する物質を探索できる。
また当該探索方法によって選抜された物質は、植物の生長若しくは分化を制御する能力を有することから、その物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有する植物成長調節剤となり得る。
【0036】
サイトカイニン情報伝達を阻害する物質としては、具体的には例えば、サイトカイニンアンタゴニスト、サイトカイニンアゴニストのようなものが挙げられる。
上述の探索方法により選抜されたサイトカイニン情報伝達阻害物質は、植物の根部の生長を促進しうる。根部の生長とは主根の伸長、側根の伸長、根毛の伸長等をいう。
上述の探索方法により選抜されたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性は、例えば、下記の方法を用いて検定することができる。植物の種類、アッセイ方法により変わり得るが、例えば、サイトカイニン情報伝達阻害物質を0.0001〜100ppmの範囲で種々の濃度に調製した水溶液、水耕栽培用培地、組織培養用培地を作成する。シャーレ試験の場合、シャーレ中に敷いたろ紙に上記溶液を沁み込ませ、植物種子を置床する。小袋試験の場合、種子成長袋等根の生長の観察のできる袋中の厚紙に上記溶液を沁みこませ、植物種子を播種する。また、上記溶液にアガロース、寒天等を添加した固形培地をプラスチックシャーレ又はプラスチック遠沈管に調製し、植物種子を播種して、明所にて10〜30℃の温度にて一定期間培養した後、主根又は側根の長さ、側根の数、根部湿重量、根部乾重量等を測定する。
上述の探索方法により選抜されたサイトカイニン情報伝達阻害物質は、植物成長調節剤として利用してもよい。
【0037】
本発明で使用される一般式(I)で表される化合物(以下、化合物(I)と記すこともある。)におけるR、X、R1、R2、R3、R4、R5、R6及びR7で表される基において、
「炭化水素基」としては、例えば、脂肪族炭化水素基、単環式飽和炭化水素基及び芳香族炭化水素基等が挙げられ、炭素数1乃至16個のものが好ましい。具体的には例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アリール基等が用いられる。
「アルキル基」は、例えば、低級アルキル基等が好ましく、具体的には例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチル、ペンチル、へキシル等のC1-6アルキル基等が用いられる。
「アルケニル基」は、例えば、低級アルケニル基等が好ましく、具体的には例えば、ビニル、1−プロペニル、アリル、イソプロペニル、ブテニル及びイソブテニル等のC2-6アルケニル基等が用いられる。
「アルキニル基」は、例えば、低級アルキニル基等が好ましく、具体的には例えば、エチニル、プロパルギル及び1−プロピニル等のC2-6アルキニル基等が用いられる。
「シクロアルキル基」は、例えば、低級シクロアルキル基等が好ましく、具体的には例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロへキシル等のC3-6シクロアルキル基等が用いられる。「アラルキル基」は、例えば、ベンジル、フェネチル等のC7-11アラルキル基が好ましく、具体的には例えば、ベンジル基が用いられる。
「アリール基」は、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル及び2−アンスリル等のC6-14アリール基等が好ましく、具体的には例えば、フェニル基等が用いられる。
【0038】
「置換されていてもよい炭化水素基」及び「置換されていてもよいC1-6アルキル基」の「炭化水素基」及び「C1-6アルキル基」が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子(具体的には例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、低級アルキル基(具体的には例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、へキシル等のC1-6アルキル基等)、低級アルコキシ基(具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、ペンチルオキシ、へキシルオキシ等のC1-6アルコキシ基等)、アミノ基、モノ−低級アルキルアミノ基(具体的には例えば、メチルアミノ、エチルアミノ等のモノ−C1-6アルキルアミノ基等)、ジ−低級アルキルアミノ基(具体的には例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等のジ−C1-6アルキルアミノ基等)、イミノ基、カルボキシル基、低級アルキルカルボニル基(具体的には例えば、アセチル、プロピオニル等のC1-6アルキルカルボニル基等)、低級アルコキシカルボニル基(具体的には例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル等のC1-6アルコキシカルボニル基等)、カルバモイル基、チオカルバモイル基、モノ−低級アルキルカルバモイル基(具体的には例えば、メチルカルバモイル、エチルカルバモイル等のモノ−C1-6アルキルカルバモイル基等)、ジ−低級アルキルカルバモイル基(具体的には例えば、ジメチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル等のジ−C1-6アルキルカルバモイル基等)、アリールカルバモイル基(具体的には例えば、フェニルカルバモイル、ナフチルカルバモイル等のC6-10アリールカルバモイル基等)、アリール基(具体的には例えば、フェニル、ナフチル等のC6-10アリール基等)、アリールオキシ基(具体的には例えば、フェニルオキシ、ナフチルオキシ等のC6-10アリールオキシ基等)、複素環基(具体的には例えば、2−又は3−チエニル、2−又は3−テトラヒドロチエニル、2−又は3−フリル、2−又は3−テトラヒドロフリル、1−、2−又は3−ピロリル、1−、2−又は3−ピロリジニル、2−、4−又は5−オキサゾリル、3−、4−又は5−イソオキサゾリル、2−、4−又は5−チアゾリル、3−、4−又は5−イソチアゾリル、3−、4−又は5−ピラゾリル、2−、3−又は4−ピラゾリジニル、2−、4−又は5−イミダゾリル、4−又は5−1H−1,2,3−トリアゾリル、3−又は5−1,2,4−トリアゾリル、5−1H−又は5−2H−テトラゾリル、2−、3−又は4−ピリジル、2−、4−又は5−ピリミジニル、1−、2−又は3−チオモルホリニル、1−、2−又は3−モルホリニル、1−、2−、3−又は4−ピペリジノ、2−、3−又は4−ピペリジル、2−、3−又は4−チオピラニル、2−、3−又は4−4H−1,4−オキサジニル、2−、3−又は4−4H−1,4−チアジニル、1,3−チアジニル、1−又は2−ピぺラジニル、3−、5−又は6−1,2,4−トリアジニル、2−1,3,5−トリアジニル、3−又は4−ピリダジニル、2−ピラジニル等)、低級アルキルカルボニルアミノ基(具体的には例えば、アセチルアミノ等のC1-6アルキルカルボニルアミノ基等)、メルカプト基、C1-6アルキルチオ基(具体的には例えば、メチルチオ等のC1-6アルキルチオ基)、アルキルスルフィニル基(具体的には例えば、メチルスルフィニル等のC1-6アルキルスルフィニル基)、アルキルスルホニル基(具体的には例えば、メチルスルホニル等のC1-6アルキルスルホニル基)、アリールチオ基(具体的には例えば、フェニルチオ等のC6-10アリールチオ基)、アリールスルフィニル基(具体的には例えば、フェニルスルフィニル等のC6-10アリールスルフィニル基)、アリールスルホニル基(具体的には例えば、フェニルスルホニル等のC6-10アリールスルホニル基)、オキソ基、チオキソ基等が用いられる。
ここでアシル基(具体的には例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ピバロイル、アクリロイル、ベンゾイル等)はオキソ基で置換された炭化水素基の一種であり、前記の「置換されていてもよい炭化水素基」及び「置換されていてもよいC1-6アルキル基」に含まれる。
【0039】
「置換されていてもよい炭化水素基」及び「置換されていてもよいC1-6アルキル基」の「炭化水素基」及び「C1-6アルキル基」は、上記した置換基を置換可能な位置に1個以上、好ましくは1乃至3個有していてもよく、置換基がハロゲン原子の場合には置換可能な最大数まで置換していてもよく、置換基数が2個以上の場合には各置換基は同一又は異なっていてもよい。
上記の置換基が、低級アルキル基、低級アルコキシ基、モノ−低級アルキルアミノ基、ジ−低級アルキルアミノ基、低級アルキルカルボニル基、低級アルコキシカルボニル基、モノ−低級アルキルカルバモイル基、ジ−低級アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、低級アルキルカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールチオ基、アリールスルフィニル基、アリールスルホニル基等の場合には、これらの置換基はハロゲン原子(具体的には例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、C1-4アルコキシ基(具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ)、アリール基、オキソ基等で1乃至3個置換されていてもよく、上記の置換基が、アリールカルバモイル基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基、C6-10アリールチオ、C6-10アリールスルフィニル、C6-10アリールスルホニル等の場合、これらの置換基はC1-4アルキル基(具体的には例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等)で1乃至3個置換されていてもよい。
「C1-6アルキル基」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びtert−ブチル、ペンチル、へキシル等が用いられる。
「C1-3アルキル基」(C1-3アルキルアミノ基及びジC1-3アルキルアミノ基として示される基のC1-3アルキル基を含む)としては、メチル、エチル、プロピル及びイソプロピルが用いられる。
「C3-6アルケニル基」としては、例えば、1−プロペニル、アリル、イソプロペニル、ブテニル及びイソブテニル等が用いられる。
「C3-6アルキニル基」としては、例えば、プロパルギル及び1−プロピニル等が用いられる。
「C1-3アルコキシ基」(ヒドロキシC1-3アルコキシ基及びC1-3アルコキシカルボニル基として示される基のC1-3アルキル基を含む)としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ及びイソプロピルオキシ等が用いられる。
「C1-3アシル基」(C1-3アシルチオ基として示される基のC1-3アシル基を含む)としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル等が用いられる。
「C1-3ハロアルキル基」としては、例えば、クロロメチル、トリフルオロメチル、2−ブロモエチル、2,2,2−トリフルオロエチル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル等が用いられる。
「R1及びR2が隣接する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい環状アミノ基」で示される「環状アミノ基」としては、例えば、1−アジリジニル、ピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ、チオモルホリノ等が用いられ、その置換基としては、例えば、上記したようなC1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基、ヒドロキシル基等が1〜3個用いられる。
Arで表される基において、
「アリール基」としては、例えば、上記、R、X、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7で表される基の「炭化水素基」の一部として示したアリール基等が用いられ、
「ヘテロアリール基」としては、例えば、2−または3−チエニル、2−または3−フリル、1−、2−または3−ピロリル、2−、4−または5−オキサゾリル、3−、4−または5−イソオキサゾリル、2−、4−または5−チアゾリル、3−、4−または5−イソチアゾリル、3−、4−または5−ピラゾリル、2−、4−または5−イミダゾリル、4−または5−1H−1,2,3−トリアゾリル、3−または5−1,2,4−トリアゾリル、5−1H−または5−2H−テトラゾリル、2−、3−または4−ピリジル、2−、4−または5−ピリミジニル、1−または2−ピぺラジニル、3−、5−または6−1,2,4−トリアジニル、2−1,3,5−トリアジニル、3−または4−ピリダジニル、2−ピラジニル等が用いられる。
これら「アリール基」および「ヘテロアリール基」の置換基としては、例えば、上記、R、X、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7で表される「置換されていてもよい炭化水素基」および「置換されていてもよいC1-6アルキル基」の置換基として例示した基等が用いられる。
【0040】
一般式(I)において、lが0である化合物とは、キナゾリン骨格の2位が無置換であるもの、すなわち一般式(I-1)
(式中、Xは置換されていてもよい炭化水素基、NR1R2で表される基、OR3で表される基、S(O)mR4で表される基、ニトロ基またはハロゲン原子を示し、
ここでR1は水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示し、
R2は水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、NR5R6で表される基(ここでR5およびR6は同一もしくは異なり水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)またはOR7で表される基(ここでR7は水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し、又はR1およびR2が隣接する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい環状アミノ基を示し、
R3およびR4はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素基を示し、
mは0〜2の整数を示し、
nは0〜4の整数を示し、
nが2以上の場合Xは同一または異なっていてもよく、
Arは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいヘテロアリール基を示す)で表される化合物である。
【0041】
一般式(I)において、lが1である化合物とは、キナゾリン骨格の2位がRで置換されたもの、すなわち一般式(I-2)
(式中、RおよびXは同一または異なって置換されていてもよい炭化水素基、NR1R2で表される基、OR3で表される基、S(O)mR4で表される基、ニトロ基またはハロゲン原子を示し、
ここでR1は水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示し、
R2は水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、NR5R6で表される基(ここでR5およびR6は同一もしくは異なり水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)またはOR7で表される基(ここでR7は水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し、又はR1およびR2が隣接する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい環状アミノ基を示し、
R3およびR4はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素基を示し、
mは0〜2の整数を示し、
nは0〜4の整数を示し、
nが2以上の場合Xは同一または異なっていてもよく、
Arは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいヘテロアリール基を示す)で表される化合物である。
【0042】
化合物(I)は、前記した「農学的に許容される塩」の形態であってもよい。
化合物(I)が1個以上の不斉中心を有する場合には、当該化合物には2個以上の立体異性体(具体的には例えば、エナンチオマー、ジアステレオマ一等)が存在する。本発明化合物には、これらの立体異性体のすべて及びそれらのうちの任意の2個以上からなる混合物が包含される。
また化合物(I)が二重結合等に基づく幾何異性を有する場合には、当該化合物には2個以上の幾何異性体(具体的には例えば、E/Z又はトランス/シスの各異性体、S−トランス/S−シスの各異性体等)が存在する。化合物(I)には、これらの幾何異性体のすべて及びそれらのうちの任意の2個以上からなる混合物が包含される。
【0043】
化合物(I)の好ましい態様としては、例えば、以下に示される態様が挙げられる。
一般式(I)において、
(1)lが1であり、Rが置換されていてもよい炭化水素基である化合物。
(2)lが1であり、Rがハロゲン原子又はオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である(1)記載の化合物。
(3)置換されていてもよい炭化水素基がハロゲン原子又はオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である(1)記載の化合物。
(4)lが1であり、RがNR1R2で表される基である化合物。
(5)R1が水素原子又はC1-3アルキル基を示し、R2が水素原子、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、アミジノ基、C1-3アルコキシ基、フェニル基、C1-3アシル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基又はC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のフェニル基は1〜3個の同じもしくは異なるC1-3アルキル基で置換されていてもよく、前記のフェニル基、アシル基、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基はハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-3アルコキシ基、ヒドロキシC1-3アルコキシ基、カルボキシル基、C1-3アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、メルカプト基、C1-3アシルチオ基、シアノ基、フリル基及びテトラヒドロフリル基の中から選ばれる1〜3個の同じもしくは異なる置換基で置換されていてもよく、又はR1及びR2が隣接する窒素原子と一緒になってピロリジノ基、ピペリジノ基又はモルホリノ基を示す(4)記載の化合物。
(6)R1が水素原子を示し、R2が水素原子、ホルミル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基又はC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基はヒドロキシル基、メトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、シアノ基及びフリル基の中から選ばれる置換基で置換されていてもよい(4)記載の化合物。
(7)lが1であり、RがOR3で表される基である化合物。
(8)R3がアミノ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である(7)記載の化合物。
(9)lが1であり、RがS(O)mR4で表される基である化合物。
(10)R4がアミノ基又はヒドロキシル基で置換されていてもよいC1-3アルキル基であり、mが0である(9)記載の化合物。
(11)lが1であり、Rがハロゲン原子である化合物。
(12)ハロゲン原子が塩素原子である(11)記載の化合物。
(13)nが1〜2であり、XがC1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基、C1-3ハロアルキル基、シアノ基、ハロゲン原子又はニトロ基である化合物。
(14)Xが塩素原子、臭素原子又はニトロ基であり、Xの置換位置が6位及び/又は8位である(13)記載の化合物。
(15)Arがハロゲン原子又はC1-3アルキル基で置換されていてもよいフェニル基である化合物。
【0044】
化合物(I)は、公知化合物を含み、公知又はそれに準じる方法で製造することができる。
例えば、lが1であり、Rが塩素原子である化合物(Ia)は、例えば以下の製造法1により、化合物(II)をオキシ塩化リンと加熱することにより製造することができる。
【0045】
文献例:特開昭62−145073
製造法1
(式中の記号は前記と同意義を示す。)
【0046】
当該反応は、反応に支障のない溶媒中で行ってもよいが、通常無溶媒で過剰量のオキシ塩化リン(化合物(II)に対し5当量〜30当量)を使用する。反応温度は、通常80〜200℃であり、好ましくは90℃〜還流(105℃)である。反応時間は、通常0.1〜96時間、好ましくは0.5〜5時間、より好ましくは0.5〜2時間である。還流下でも反応の進行が遅い場合には、耐圧密閉容器を使用し、200℃程度まで加熱し、加圧下(例えば、1.1〜100気圧)で反応させることもできる。
また、lが1であり、Rがハロゲン原子以外の基Raである化合物(Ib)は、例えば、以下の製造法2により、化合物(III)と化合物(IV)とを反応させることにより製造することができる。
【0047】
文献例:日本化学会誌1973、1944頁;特開昭58-88369
製造法2
(式中、Yは脱離基(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、例えば、メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p-トルエンスルホニルオキシ基等のアルカン又はアレーンスルホニルオキシ基,例えばメタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、フェニルメタンメタンスルホニル等のアルカン、アレーン又はアレーンアルカンスルホニル基等)を示し、RaはRと同意義であるがハロゲン原子ではなく、他の記号は前記と同意義を示す。)
【0048】
当該反応は無溶媒で行ってもよく、溶媒を使用してもよい。溶媒としては、例えば、ペンタン、へキサン、へプタン、石油エーテル、シクロへキサン等の脂肪族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の酸アミド類、1−メチル−2−ピロリドン等の環状アミド類、ヘキサメチルホスホルアミド等のリン酸アミド類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の環状尿素類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、スルホラン等のスルホン類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、ピリジン、ピコリン、ルチジン、キノリン等の芳香族アミン類、及びこれらの混合溶媒、水、さらにはこれらと水との混合溶媒等が挙げられる。
水との混合溶媒が用いられ、反応が均一系でない場合には、相間移動触媒(例えば、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩、18-クラウン-6等のクラウンエーテル類等)を使用してもよい。
塩基としては、例えば、ナトリウムエチラート、ナトリウムメチラート、カリウムtert-ブトキシド等のアルカリ金属のアルコラート、例えば、ピリジン、ピコリン、ルチジン、キノリン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、4−ジメチルアミノビリジン、N,N−ジメチルアニリン等の有機塩基、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基、例えば、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等の金属水素化物、例えば、ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド等の有機リチウム試薬等が挙げられる。
用いられる塩基の量は反応に悪影響を及ぼさない量であれば特に限定されず、溶媒を兼ねて大過剰量用いることもできる。
化合物(IV)がアミン類である場合には、過剰量の化合物(IV)を塩基及び溶媒を兼ねて使用することもできる。
反応温度は、通常−50〜200℃であり、好ましくは室温〜150℃である。反応時間は一般には0.1〜96時間、好ましくは0.1〜72時間、より好ましくは0.1〜24時間である。
化合物(IV)がアンモニア、メチルアミン、エチルアミン等の低沸点化合物である場合や反応の進行が遅い場合には、耐圧密閉容器を使用し、40〜150℃程度に加熱し、加圧下(例えば、1.1〜100気圧)で反応させることもできる。
【0049】
化合物(II)は、公知化合物を含み、公知又はそれに準じる方法で製造することができる。
例えば、以下の参考製造法1により、化合物(V)を化合物(VI)及びクロロ炭酸メチルと反応させることにより製造することができる。
【0050】
文献例:Tetrahedron 42, 3697(1986)
参考製造法1
(式中、Zは塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を示し、他の記号は前記と同意義を示す。)
【0051】
当該反応では、まず化合物(V)と化合物(VI)とを反応させる。通常溶媒を使用し、例えば、ペンタン、ヘキサン、へプタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、メチルtertブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類又はこれらの2種以上の混合物が用いられる。
化合物(V)に対し化合物(VI)は、通常1〜5当量、好ましくは2〜2.5当量用いられる。
この段階での反応温度は、通常40〜100℃であり、好ましくは50〜70℃である。
反応時間は、通常0.2〜96時間、好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは1〜3時間である。
次いでクロロ炭酸メチルを反応させる。化合物(V)に対しクロロ炭酸メチルは、通常1〜5当量、好ましくは1〜2当量用いられる。この段階ではまず0〜20℃に冷却してクロロ炭酸メチルを添加し、その後加熱するのが好ましい。加熱時の反応温度は、通常40〜200℃であり、好ましくは50〜70℃である。反応時間は合わせて通常0.2〜96時間、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは約1〜3時間である。
また化合物(II)は、以下の参考製造法2により、化合物(VII)を塩化トリクロロアセチルと反応させ、化合物(VIII)を製造した後、化合物(VIII)とアンモニア又はアンモニアの弱酸性物質との塩とを反応させることによっても製造することができる。
【0052】
文献例:Chem. Pharm. Bull., 26, 1633 (1978)
参考製造法2
(式中の記号は前記と同意義を示す。)
【0053】
前半の反応では、化合物(VII)に塩基の存在下で塩化トリクロロアセチルを反応させる。反応は無溶媒で行ってもよいが通常溶媒の存在下で行われる。このような溶媒としては製造例2で記載した、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、ニトリル類、酸アミド類、環状アミド類、リン酸アミド類、環状尿素類、スルホキシド類、スルホン類、ハロゲン化炭化水素類等、又はこれらの混合物が用いられる。塩基としては、製造例2で記載したような塩基が用いられ、特に有機塩基、無機塩基が好ましく、中でもトリエチルアミンが汎用される。
反応温度は、通常−50〜100℃であり、好ましくは0〜20℃である。反応時間は一般には約0.1〜96時間、好ましくは0.2〜5時間、より好ましくは0.5〜3時間である。
後半の反応では前半の反応で製造した化合物(VIII)にアンモニア又は系中でアンモニアを発生する化合物を反応させる。このような化合物としては、炭酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニアの弱酸性物質との塩が用いられる。反応は通常、製造例2で記載したような溶媒が用いられる。好ましい溶媒は、酸アミド類、環状アミド類、リン酸アミド類、環状尿素類、スルホキシド類、スルホン類等である。
反応温度は、通常20〜200℃であり、好ましくは50〜120℃である。
反応時間は一般には0.2〜96時間、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは1〜5時間である。
【0054】
化合物(III)は、公知化合物を含み、公知又はそれに準じる方法で製造することができる。
例えば、Yが塩素原子である場合には、化合物(III)は、化合物(I)に含まれる化合物(Ia)であり、上記した方法で製造できる。
【0055】
化合物(IV)、化合物(V)、化合物(VI)及び化合物(VII)は、通常公知化合物であり、市販されているか公知の方法で製造することができる。特に化合物(VI)はグリニヤール試薬と称される化合物であり、市販品を使用してもよいが、公知の方法で使用前に製造し、単離・精製せずにそのまま用いることもできる。
【0056】
上記の製造法1、2及び参考製造法1、2により製造される各化合物は、公知の手段、例えば濃縮、減圧濃縮、抽出、転溶、結晶化、再結晶化、クロマトグラフィー等の方法によって、単離・精製することができる。
【0057】
本発明における植物の成長調節は、通常、植物成長調節剤の有効量を植物又はその生息場所に施用することにより行われる。
本発明の植物成長調節剤を農林用として用いる場合には、その施用量は通常1000m2の量で0.01〜1000gである。植物成長調節剤が乳剤、水和剤、フロアブル剤、マイクロカプセル剤等に製剤化されたものである場合には、通常有効成分濃度が0.001〜10000ppmとなるように水で希釈して散布することにより施用し、植物成長調節剤が粒剤、粉剤等に製剤化されたものである場合には、通常そのまま施用する。
このようにして製剤化された本発明の植物成長調節剤は、例えば、そのままで、又は、水等で希釈して、耕作地の土壌の植物の根の生長を促進させる目的で当該土壌に処理することにより使用してもよい。また、シート状やひも状等に加工した樹脂製剤を作物に巻き付ける、作物の近傍に張り渡す及び/又は株元の土壌表面に敷く等の方法で使用することもできる。また、本発明の植物成長調節剤は植物に対して茎葉処理又は芽に処理することにより使用することができ、作物の苗を植え付ける前の苗床や植付けの時に植穴や株元に処理することにより使用することもできる。当該植物成長調節剤は、対象植物に対して、1回もしくは複数回処理する。
本発明の植物成長調節剤を植物体に茎葉処理することにより用いる場合又は土壌に処理することにより用いる場合、その処理量は製剤形態、施用時期、施用方法、施用場所、対象植物により変わり得るが、1ヘクタール当り通常0.1〜10000gである。また、当該植物成長調節剤を水に希釈して用いる場合の使用濃度としては、製剤形態、施用時期、施用方法、施用場所、対象植物により変わり得るが、一般には0.001〜10000ppmで、望ましくは0.01〜1000ppmである。
また、本発明の植物成長調節剤は移植前の植物に処理して使用することができる。移植前の植物に直接吸収させる場合は、使用濃度として、0.001ppm〜10000ppmに希釈又は懸濁した液に、植物の根部又は全体を浸漬して使用することができる。
また、製剤化された本発明の植物成長調節剤は対象植物の種子に直接処理して使用することができる。例えば植物の種子を本発明の植物成長調節剤における有効成分の濃度が1〜10000ppmに調製した本発明の植物成長調節剤に種子を浸漬する方法、植物の種子に本発明の植物成長調節剤における有効成分の濃度が1〜10000ppmの本発明の植物成長調節剤を噴霧もしくは塗沫する方法及び植物の種子に本発明の植物成長調節剤を粉衣する方法が挙げられる。
また、本発明の植物成長調節剤は水耕栽培における水耕液に混合して用いてもよく、また組織培養における培地成分の1つとして用いてもよい。水耕栽培に使用する場合は、通常用いられる園試等の水耕栽培用の培地に培地中濃度として0.001ppm〜10000ppmの範囲で溶解又は懸濁して用いることができる。また組織培養や細胞培養時に使用する場合は、通常用いられるMS培地等の植物組織培養用の培地に、培地中濃度として0.001ppm〜10000ppmの範囲で溶解又は懸濁して用いることができる。この場合、定法に従い、炭素源としての糖類、各種植物ホルモン等を適宜加えることができる。
【0058】
本発明の植物成長調節剤は他の殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、除草剤、植物生長調節剤及び/又は肥料と共に用いることもできる。
これらの施用量、施用濃度は、いずれも製剤の種類、施用時期、施用場所、施用方法、植物の種類、期待する効果程度の等の状況によって異なり、上記の範囲にかかわることなく増減させることができ、適宜選択することができる。
以上に示した植物成長調節方法に、前記の植物成長調節剤を用いることができる。
また一方、前記の、群Aから選択されるサイトカイニン受容体を用いた第一工程、第二工程を有する、被験物質が有する植物の根の生長を促進させる能力の検定方法、によって評価された植物の根の生長を促進させる能力を有する物質を特定し、特定された植物の根の生長を促進させる能力を有する物質と植物とを接触させることによって植物の根の生長を促進させることも可能である。ここで特定された植物の根の生長を促進させる能力を有する物質と植物とを接触させる方法としては、前記の製剤方法、施用方法等を用いることが出来る。
【0059】
本発明の植物成長調節剤はイネの直播栽培時の根部生育促進による苗立ちの向上、活着率の向上を目的として使用できる。また本発明の植物成長調節剤はイネ育苗箱栽培時の根部生育促進を目的としても利用できる。また本発明の植物成長調節剤はゴルフ場のグリーンの根張り改善と耐暑・耐乾燥性の向上を目的として使用できる。ダイズ、トウモロコシ、コムギ等の作物では、根張り向上、早期の苗立ちの確立による生産性の向上又は除草剤の削減を目的として使用できる。トマト、ペッパー等の栽培では移植時の活着率の向上を目的として使用できる。野菜等の苗生産においては、本発明の植物成長調節剤の使用により均一な苗立ちの確立による機械移植の効率化が期待できる。
本発明の植物成長調節剤を用いて、植物の頂芽優勢を制御することができる。例えば、本発明の植物成長調節剤を用いてタバコ、バラ等の腋芽抑制に利用することができる。また、果樹作物、花卉植物等の花芽形成を制御することにより、摘花剤として利用することができる。また花芽を増やすことにより果樹作物の増収又は花卉植物の品質を向上させることができる。また、果樹作物等の枝の生長を抑制することにより枝数を減らし、又は促進することにより枝数を増やし、樹体生長の制御に利用することもできる。
本発明の植物成長調節剤を用いて、カルスへの脱分化若しくはカルスからの再分化等の組織培養技術に利用することができる。例えば、本発明の植物成長調節剤を用いて植物組織からのカルス化を促進することができる。またダイズ等の不定胚からの再分化効率を向上させることができる。
本発明の植物成長調節剤を用いて植物の老化を制御するができる。例えば、本発明の植物成長調節剤を用いてカーネーション等花卉植物の切花の老化抑制、花持ち改良に利用することができる。また、野菜、果物等の成熟抑制に利用することもできる。また水稲の苗等における葉の老化を防止し、健苗育成することができる。また、ワタ等の植物の収穫前に処理することにより、葉の老化を促進させることができる。
【0060】
前記の群Bに示されるアミノ酸配列からなる植物由来のサイトカイニン受容体は、研究ツールとして使用することができる。例えば、前記の植物の根の生長を促進させる能力の検定や、植物の生長若しくは分化を制御する能力を有する化学物質の探索、等の研究を実施するための研究ツールとして使用することができる。また、例えば、サイトカイニン受容体に作用する薬剤の作用機構を解析する研究においても、サイトカイニン受容体は研究ツールとして利用可能である。
また、前記の群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドやそれらに対して相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド、また前記の群Bに示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの部分塩基配列又はその部分塩基配列に対して相補性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチド、配列番号3又は4で示される塩基配列からなるポリペプチドは、研究ツールとして使用することができる。例えば、これらの一部は、前記のようにサイトカイニン受容体の製造法に用いられるポリヌクレオチドとして機能する。また一部は、前記のようにして、PCRを用いるポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドの取得、或いは、ハイブリダイゼーションを用いるポリヌクレオチド群Bに示されるポリヌクレオチドの取得、等を実施するための重要な研究ツールとして使用できる。
特に、植物成長調節剤のスクリーニングを実施するにあたっては、スクリーニングのために実施する実験の実験ツールとして使用できる。具体的には、前記の植物の根の生長を促進させる能力の検定や、植物の生長若しくは分化を制御する能力を有する化学物質の探索、等を実施するにあたって行う実験のための実験ツールとして使用することができる。
【0061】
さらに本発明は、被験物質について、当該被験物質が有する、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性(or細胞内信号伝達の有無若しくはその量)に係るデータ情報を入力・蓄積・管理する手段(以下、手段aと記すこともある。)、前記データ情報を所望の条件に基づき照会・検索する手段(以下、手段bと記すこともある。)、及び、照会・検索された結果を表示・出力する手段(以下、手段cと記すこともある。)を具備することを特徴とするシステム(以下、本発明システムと記すこともある。)をも含むものである。
【0062】
まず、手段aについて説明する。手段aは、前記のとおり、前記被験物質が有する、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性に係るデータ情報を入力した後、入力された当該情報を蓄積・管理する手段である。かかる情報は、入力手段1により入力され、通常記憶手段2に記憶される。入力手段としては、例えばキーボード、マウス等の当該情報の入力可能なものが挙げられる。当該情報の入力及び蓄積・管理が完了すれば、次の手段bに進む。尚、当該情報の蓄積・管理には、コンピュータ等のハードウェアとOS及びデータベース管理等のソフトウェアとを用いて、データ構造を有する情報を入力し、適当な記憶装置、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読取可能な記録媒体に蓄積することにより、大量のデータを効率良く蓄積し管理すればよい。
【0063】
手段bについて説明する。手段bは、前記のとおり、手段aにより蓄積・管理された前記データ情報を所望の結果を得るための条件に基づき照会・検索する手段である。かかる情報は、入力手段1により照会・検索のための条件が入力され、通常記憶手段2に記憶された上記情報の中で当該条件に合致したものを選択すれば、次の手段cに進む。選択された結果は、通常、記憶手段2に記憶され、さらに表示・出力手段3により表示可能となっている。
【0064】
手段cについて説明する。手段cは、前記のとおり、照会・検索された結果を表示・出力する手段である。表示・出力手段3としては、例えばディスプレイ、プリンタ等が挙げられ、当該結果をコンピュータのディスプレイ装置に表示するか、印刷等により紙上に出力するか等すればよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げてさらに詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
以下に合成例及び参考合成例を示し、本発明で用いられる化合物(I)をより具体的に説明するが、化合物(I)はこれらの例に限定されない。
合成例及び参考合成例において、「室温」とは、通常10-30℃を示す。「1H NMR」とは、プロトン核磁気共鳴スペクトルを示し、内部標準としてテトラメチルシランを用いて日本電子JNM-AL400型スぺクトロメーター(400MHz)で測定し、ケミカルシフト(δ)をppmで表記した。「Mp」とは、融点を示し、メトラー(Mettler)FP61型融点測定装置で測定した。
下記合成例、参考合成例及び表3〜表7中で用いられている記号は以下の意味を有する。「CDC13」:重クロロホルム、「DMSO-d6」:重ジメチルスルホキシド、「s」:シングレット、「d」:ダブレット、「t」:トリプレット、「q」:カルテット、「dd」:ダブルダブレット、「m」:マルチプレット、「br」:ブロード(幅広い)、「J」:カップリング定数、「Me」:メチル、「Et」:エチル、「Pr」:プロピル、「i-Pr」:イソプロピル、「t-Bu」:ターシャリーブチル、「Ph」:フェニル、「Ac」:アセチル、「THF」:テトラヒドロフラン、「DMF」:N,N-ジメチルホルムアミド、「DMSO」:ジメチルスルホキシド、「MTBE」:メチルターシャリーブチルエーテル
【0067】
合成例1 (2,8−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-11)の製造)
8−クロロ−4−フェニル−2(1H)―キナゾリノン(化合物No. II-11)1.24gにオキシ塩化リン6.65gを加え、これを95℃で1時間攪拌した。得られた反応液を氷水200mlに注ぎ加えた後、これに重曹を加えてpH.9にした。次いで、析出した結晶をろ取した。回収物をエタノールで再結晶することにより標記化合物1.07gを得た。Mp.154.4.℃。1H NMR (CDCl3): 7.52-7.65 (4H, m), 7.76-7.80 (2H, m), 8.02-8.08 (2H, m).
【0068】
合成例2 (2−アミノ−6,8−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic12-4)の製造)
2,6,8−トリクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-12)300mg、28%アンモニア水溶液30g及びアセトニトリル6mlの混合物を耐圧反応容器中、105℃で1.5時間反応させた。得られた反応液を冷却した後、これを水100mlに注ぎ加えた。当該混合物に酢酸エチル60mlを加え抽出し、得られた抽出物を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)で精製することにより標記化合物230mgを得た。Mp.212.7℃。 1H NMR (CDCl3): 5.56 (2H, br. s), 7.54-7.60 (3H, m), 7.63-7.68 (2H, m), 7.74 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.79 (1H, d, J = 2.3 Hz).
【0069】
合成例3 (6−クロロ−2−フルフリルアミノ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-16)の製造)
2,6―ジクロロ−4―フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-3)275mg及びフルフリルアミン486mgの混合物を85℃で40分間攪拌した後、これを水50mlに注ぎ加えた。当該混合物を酢酸エチルで抽出し、得られた抽出物を水洗後濃縮した。得られた残渣をエタノール再結晶することにより標記化合物280mgを得た。Mp.142.0℃. 1H NMR (CDCl3): 4.77 (2H, d, J = 5.6 Hz), 5.70 (1H, br. t, J = 5.6 Hz), 6.29-6.32 (2H, m), 7.36 (1H, dd, J = 1.8, 0.9 Hz), 7.53-7.70 (7H, m), 7.78 (1H, d, J = 2.2 Hz).
【0070】
合成例4 (6−クロロ−2−エトキシカルボニルメチルアミノ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-33)の製造)
2,6―ジクロロ−4―フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-3)550mg及びグリシンエチルエステル塩酸塩419mgにDMF 3ml及びトリエチルアミン607mgを加え、これを85℃で5.5時間攪拌した。得られた反応液を水100mlに注ぎ加えた後、酢酸エチルで抽出し、抽出物を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン: 酢酸エチル=6 : 1 〜3 : 1)で精製することにより標記化合物503mgを得た。Mp.146.1℃。1H NMR (CDCl3): 1.30 (3H, t, J = 7.2 Hz), 4.25 (2H, q, J = 7.2 Hz), 4.31 (2H, d, J = 5.2 Hz), 5.97 (1H, br. s), 7.54-7.63 (5H, m), 7.67-7.70 (2H, m), 7.79 (1H, s).
【0071】
合成例5 (6−クロロ−2−メトキシアミノ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-32)の製造)
2,6―ジクロロ−4―フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-3)275mg、アセトニトリル10ml及びメトキシアミン塩酸塩334mgの混合物にトリエチルアミン506mgを滴室温下で滴下して得られた混合物をステンレス製耐圧反応容器に仕込み、これを105℃で3.5時間反応した。冷却後、反応液を水100mlに注ぎ加えた。当該混合物を酢酸エチルで抽出し、得られた抽出物を水洗後、濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製することにより粗結晶156mgを得た。さらに、これを酢酸エチル再結晶することにより標記化合物55mgを得た。Mp.173.9℃。1H NMR (CDCl3): 3.98 (3H, s), 7.47-7.72 (6H, m), 7.87 (1H, d, J = 9.0 Hz), 7.89 (1H, d, J = 2.2 Hz), 8.03 (1H, br. s).
【0072】
合成例6 (6−クロロ−2−(2−ヒドロキシエチルチオ)−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ie3-1)の製造)
2−メルカプトエタノール86mgのDMF7.5ml溶液に水素化ナトリウム(60%)44mgを加え、これを室温で30分撹拌した。反応混合物に2,6−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No.Ia1-3)275mgを加え、これを室温でさらに2時間撹拌した。反応液を水100mlに注ぎ加え、酢酸エチルで抽出し、得られた抽出物を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:5)で精製することにより標記化合物266mgを得た。Mp.124.4℃。1H NMR (CDCl3): 3.50 (2H, t, J = 5.5 Hz), 3.64 (1H, br. t), 4.07 (2H, q-like, J = 5.5 Hz), 7.57-7.61 (3H, m), 7.71-7.74 (2H, m), 7.77 (1H, dd, J = 8.9, 2.3 Hz), 7.85 (1H, d, J = 8.9 Hz), 7.97 (1H, d, J = 2.3 Hz).
【0073】
合成例7 (6−クロロ−2−ホルムアミド−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-35)の製造)
乾燥ホルムアミド54mgのDMF5ml溶液に水素化ナトリウム(60%)48mgを加え、これを室温で30分撹拌した。反応混合物に2,6−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No.Ia1-3)275mgを加えた後、85℃に加温し、3時間撹拌した。得られた反応液を水100mlに注ぎ加え、酢酸エチルで抽出し、抽出物を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:3)で精製することにより標記化合物64mgを得た。Mp.252.1℃。1H NMR: 7.59-7.66 (3H, m), 7.72-7.81 (3H, m), 7.88 (1H, d, J = 8.8 Hz), 8.02 (1H, d, J = 2.0 Hz), 8.37 (1H, br. d, J = 10.4 Hz), 9.71 (1H, d, J = 10.4 Hz).
【0074】
合成例8 (6−クロロ−2−(1−メチルヒドラジノ)−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-27)の製造)
2,6−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-3)275mg及びモノメチルヒドラジン461mgの混合物を85℃で30分間攪拌した。得られた反応物を冷却した後、これに水200mlを加えた。析出した結晶をろ取し、回収物をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製することにより標記化合物225mgを得た。Mp. 155.9℃。1H NMR (CDCl3): 3.52 (3H, s), 4.65 (2H, s), 7.54-7.63 (5H, m), 7.70-7.74 (2H, m), 7.80 (1H, d, J = 2.0 Hz).
【0075】
合成例9 (2−(2−アミノエトキシ)−6−クロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Id3-1)の製造)
2,6−ジクロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ia1-3)500mgとN−(2−ヒドロキシエチル)フタルイミド382mgとを合成例6に準じて反応させ、6−クロロ−4−フェニル−2−(2−フタルイミドエトキシ)キナゾリン380mgを得た。Mp. 154.7℃。1H NMR (CDCl3): 4.25 (2H, t, J = 5.8 Hz), 4.84 (2H, t, J = 5.8 Hz), 7.53-7.60 (3H, m), 7.67-7.71 (3H, m), 7.72-7.76 (3H, m), 7.78-7.82 (2H, m), 7.97 (1H, d, J = 2.2 Hz).
6−クロロ−4−フェニル−2−(2−フタルイミドエトキシ)キナゾリン380mg、抱水ヒドラジン70mg及びエタノール6mlの混合物を2時間加熱還流した。得られた反応液に水1.2mlを加えた後、エタノールを留去した。得られた残留物に濃塩酸1.5mlを加えた後、これを1時間加熱還流した。得られた反応物を冷下時飽和重曹水に注ぎ加え、酢酸エチルで抽出し、抽出物を濃縮することにより標記化合物240mgを得た。Mp.134.9℃。1H NMR (CDCl3): 3.59-3.63 (2H, m), 3.84 (2H, t, J = 4.6 Hz), 6.15 (2H, br. s), 7.53-7.59 (5H, m), 7.63-7.67 (2H, m), 7.75 (1H, d, J = 1.2 Hz).
【0076】
合成例10 (2−(2−アセチルチオエチルアミノ)−6−クロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-14)の製造)
トリフェニルホスフィン292mgの脱水THF3ml溶液に、氷冷下でジイソプロピルカルボジイミド40%トルエン溶液563mgを滴下し、20分間撹拌した。得られた懸濁液に氷冷下6−クロロ−2−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-1)167mgの脱水THF2ml溶液を滴下し直にチオ酢酸127mgを滴下した。得られた黄色透明溶液を氷冷下で1時間、室温で1時間撹拌した後、これを飽和重曹水に注ぎ加え、クロロホルムで抽出し、抽出物を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:酢酸エチル=10:1)で精製することにより標記化合物170mgを得た。Mp.128.9℃。1H NMR (CDCl3):2.34 (3H, s), 3.22 (2H, t, J = 6.5 Hz), 3.73 (2H, q, J = 6.5 Hz), 5.74 (1H, br. t, J = 6.5 Hz), 7.53-7.62 (5H, m), 7.65-7.70 (2H, m), 7.77 (1H, s)。
【0077】
合成例11 (6−クロロ−2−(2−メルカプトエチルアミノ)−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-13)及びビス[2−(6−クロロ−4−フェニル−2−キナゾリニル)アミノエチル]ジスルフィド(化合物No. Ic3-15))
2−(2−アセチルチオエチルアミノ)−6−クロロ−4−フェニルキナゾリン(化合物No. Ic3-14)108mg、エタノール2ml及び10%水酸化ナトリウム水溶液362mgの混合物を室温で2時間加熱還流下で30分間撹拌した後、反応液から不溶物をろ取した。回収物(固体)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:酢酸エチル=10:1)で精製することにより、まず6−クロロ−2−(2−メルカプトエチルアミノ)−4−フェニルキナゾリン50mgを得た。Mp.165.9℃。1H NMR (CDCl3): 1.46 (1H, t, J = 8.5 Hz), 2.84 (2H, q-like, J=7.2 Hz), 3.66 (2H, q-like, J=6.4 Hz), 5.79 (1H, br. t, J = 5.4 Hz), 7.55-7.57 (3H, m), 7.60 (2H, s), 7.66-7.69 (2H, m), 7.77-7.78 (1H, m)。次いでビス[2−(6−クロロ−4−フェニル−2−キナゾリニル)アミノエチル]ジスルフィド(下式で示される化合物)
28mgを得た。Mp.159.2℃。1H NMR (CDCl3): 3.02 (4H, t, J=6.4 Hz), 3.89 (4H, q, J=6.4 Hz), 5.81 (2H, br. t, J=6.4 Hz), 7.51-7.61 (10H, m), 7.63-7.68 (4H, m), 7.75 (2H, d, J = 2.2Hz)。
【0078】
上記の合成例と同様にして製造可能な化合物及び市販されていて入手可能な化合物の例を表3、表4、表5及び表6に記載する(上記合成例で製造した化合物も含む)。
尚、表4及び表5中にある注釈「a)」、「b)」、「c)」及び「d)」は以下の通りである。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
a) 合成例11に構造を記載した。
b) 1H NMR (CDCl3): 1.66-1.75 (1H, m), 1.86-2.08 (3H, m), 3.57-3.64 (1H, m), 3.75-3.83 (2H, m), 3.89-3.59 (1H, m), 4.13-4.20 (1H, m), 5.70 (1H, br. s), 7.52-7.60 (5H, m), 7.64-7.69 (2H, m), 7.75-7.76 (1H, m).
c) 1H NMR (CDCl3): 1.22 (3H, t, J = 7.0 Hz), 3.55 (2H, q, J = 7.0 Hz), 3.68 (2H, t, J = 5.2 Hz), 3.78 (2H, q-like, J = 5.2 Hz), 5.75 (1H, br. t), 7.53-7.60 (5H, m), 7.65-7.69 (2H, m), 7.75-7.77 (1H, m).
d) 1H NMR (CDCl3): 1.22 (3H, t, J = 7.0 Hz), 1.96 (2H, quintet, J = 6.3 Hz), 3.50 (2H, q, J = 7.0 Hz), 3.58 (2H, t, J = 6.3 Hz), 3.67 (2H, q-like, J = 6.3 Hz), 5.65 (1H, br. t), 7.53-7.60 (5H, m), 7.65-7.69 (2H, m), 7.74-7.76 (1H, m).
【0084】
参考合成例1 (8−クロロ−4−フェニル−2(1H)−キナゾリノン(化合物No. II-11)の製造)
フェニルマグネシウムブロミド(32%THF溶液)7.10gに2―アミノ−3−クロロベンゾニトリル953mgのTHF7ml溶液を室温で滴下し、30分間加熱還流した。得られた反応物にクロロ炭酸メチル885mgを氷冷下滴下した後、これを40分間加熱還流した。得られた反応液を冷下時2N−塩酸40mlに注ぎ加えた後、これに重曹8g及びMTBE20mlを加え攪拌した。次いで、析出した結晶をろ取することにより標記化合物1.30gを得た。1H NMR (DMSO-d6): 7.24(1H, t, J = 8.0 Hz), 7.57-7.70 (6H, m), 7.90-7.93 (1H, m), 11.45 (br. s).
【0085】
参考合成例2 (4−フェニル−6−トリフルオロメチル−2(1H)−キナゾリノン(化合物No. II-6))
2−アミノ−5−トリフルオロメチルベンゾフェノン762mgをクロロホルム10mlに溶かし、これにトリエチルアミン349mgを滴下した後、氷冷下トリクロロアセチルクロリド627mgを滴下した。30分間同温で攪拌した後、これに水50mlを加え分液した。有機層を回収し、回収された有機層を濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製することにより、2’−ベンゾイル−2,2,2−トリクロロ−4’−トリフルオロメチルアセトアニリド1.08gを得た。1H NMR (CDCl3): 7.53-7.58 (2H, m), 7.66-7.75 (3H, m), 7.90-7.95 (2H, m), 8.81 (1H, d, J = 8.6 Hz), 12.38 (1H, br. s).
2’−ベンゾイル−2,2,2−トリクロロ−4’−トリフルオロメチルアセトアニリド1.08g、DMSO10ml及び酢酸アンモニウム1.18gの混合物を75℃で1時間攪拌した。冷却後、これに水100mlを加え、析出した結晶をろ取した。得られた回収物をへキサン:酢酸エチル=1:1の混合液に溶かした後、これを無水硫酸マグネシウムを用いて脱水し、濃縮することにより標記化合物765mgを得た。1H NMR (CDCl3): 7.58-7.68 (3H, m), 7.75 (1H, d, J = 8.8 Hz), 7.79-7.83 (2H, m), 7.93 (1H, dd, J = 8.8, 1.7 Hz), 8.17 (1H, br. s), 13.37 (1H, br. s).
【0086】
上記の参考合成例と同様にして製造可能な化合物の例を表7に記載する(上記の参考合成例で製造した化合物も含む)。
尚、表7中にある注釈「a)」乃至「i)」は以下の通りである。
【0087】
【表7】
【0088】
a) 1H NMR (DMSO-d6): 7.27 (1H, dd, J = 7.7, 1.0 Hz), 7.38 (1H, dd, J = 8.3, 1.1 Hz), 7.43-7.55 (5H, m), 7.69 (1H, t, J = 8.1 Hz), 12.18 (1H, br. s).
b) 1H NMR (DMSO-d6): 7.35 (1H, dd, J = 9.2, 2.7 Hz), 7.43 (1H, dd, J = 9.2, 4.8 Hz), 7.58-7.74 (6H, m), 12.05 (1H, br. s).
c) 1H NMR (DMSO-d6): 7.35 (1H, d, J = 9.2 Hz), 7.59-7.71 (6H, m), 7.91 (1H, dd, J = 9.2, 2.2 Hz), 12.08 (1H, br. s).
d) 1H NMR 参考合成例2に記載した。
e) 1H NMR (CDCl3): 3.78 (3H, s), 7.25-7.27 (1H, m), 7.36-7.40 (1H, m), 7.54-7.62 (4H, m), 7.81-7.85 (2H, m), 13.37 (1H, br. s).
f) 1H NMR (DMSO-d6): 7.48 (1H, d, J = 8.4 Hz), 7.60-7.68 (3H, m), 7.71-7.74 (2H, m), 8.05 (1H, s), 8.08-8.12 (1H, m), 12.36 (1H, br. s).
g) (単離精製せず。)
h) 1H NMR 参考合成例1に記載した。
i) 1H NMR (DMSO-d6): 7.52-7.72 (6H, m), 8.10-8.12 (1H, m), 11.69 (1H, br. s).
【0089】
実施例1 (CER1クローニング用シロイヌナズナcDNAファージライブラリーの作成)
シロイヌナズナのWassilewskija系統の種子を70%のエチルアルコールで1分間殺菌し、さらに1.5%の次亜塩素酸ナトリウムで10分間殺菌した。これを滅菌水でよく洗った後、GM培地(4.3g Murashige and Skoog's basal salt mixture, 1% sucrose, 10ml of 5% MES-KOH (pH5.7), 0.3%PhytagelTM (SIGMA))で2週間培養することにより、5gの植物を得た。これを液体窒素中で凍結させた後、乳鉢により物理的に磨砕した。得られた磨砕物に10mlの抽出バッファー(200mM Tris−HCl(pH8.5)、100mM NaCl、10mM EDTA、0.5% SDS、14mM βメルカプトエタノール)と10gのフェノールの混合液を加えた。当該混合物をVoltex ミキサーで攪拌した後、これに10mlのクロロホルムを加えて激しく攪拌した。次いで得られた混合物を10000回転で20分間遠心し、水層を回収した。回収された水層にLiClを最終濃度2Mとなるように加え、これを-80℃で3時間放置した。得られた凍結物を解凍した後、これを10000回転で20分間遠心し、沈殿を回収した。回収された沈殿を2mlのTE (10mM Tris-HCl(pH 8.0) 1mM EDTA)に溶かした後、これに0.2mlの3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)と5mlのエタノールを加えて遠心し、RNAを沈殿として回収した。次いで回収された沈殿(RNA)をOligotexTM dT30super(日本ロッシュ社製)に供することにより当該沈殿中からpolyAが結合したRNAを抽出した。
抽出されたpolyAが結合したRNAからのファージcDNAライブラリーは、ZAP-cDNARSynthesis Kit(Stratagene社製)を用い、キット説明書に従って作製された。作製されたファージcDNAライブラリーの力価は500000PFUであった。
【0090】
実施例2 (CRE1のDNAプローブの作製)
実施例1で作製されたファージcDNAライブラリーのファージ液(約1000000PFU)を鋳型として、TAKARA LA TaqTMキット(宝酒造社製)を用い、配列番号3で示されたDNA及び配列番号4で示されたDNAをプライマーとしてPCR反応を行い、DNAを増幅した。詳細を以下に述べる。
ファージ1000000pfu、プライマーDNA各々0.2μMにキット説明書に従ってdNTP等の反応組成物を添加してPCR反応液を調製し、PCRの条件として、94℃で2分間保温し、94℃で30秒間、55℃で30秒間、68℃で5分間のサイクルを40サイクル繰り返す増幅条件下でPCRを行うことにより、目的のDNA断片の増幅を行った。次に増幅されたDNA断片を鋳型にしてMegaprime DNA-labelling system キット(アマシャムファルマシア社製)を用いて32Pでラベルしたプローブを調製した。尚、反応液(25μl)は、増幅されたDNA断片25ngに32PdCTP 2.0 MBqを添加し、キットに指定される反応組成物を添加することにより調製された。ラベル化反応は、37℃10分間で行われた。
【0091】
実施例3 (CRE1遺伝子を保持するファージcDNAクローンの取得)
実施例2で調製されたDNAプローブを用いたプラークハイブリダイゼーションにより目的とするCRE1遺伝子をクローニングした。詳細を以下に述べる。
実施例1で作製されたcDNAファージライブラリーを用いて、ZAP-cDNARSynthesis Kitの説明書に従い 、プラークを形成させた。形成されたプラークからニトロセルロースフィルター上にDNAを吸着させた後、紫外線処理をすることにより、フィルター上にDNAを固定させた。このようにして調製されたフィルターを用いて、6×SSC(0.9M NaCl、0.09Mクエン酸ナトリウム)、5×デンハルト溶液(0.1%(w/v) フィコール400、0.1%(w/v) ポリビニルピロリドン、0.1%BSA)、0.5%(w/v) SDS及び100μg/ml変性サケ精子DNA存在下に、又は100μg/ml変性サケ精子DNAを含むDIG EASY Hyb溶液(ベーリンガーマンハイム社)中に65℃で保温した後、1×SSC(0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に室温で15分間の保温を2回行い、さらに0.1×SSC(0.015M NaCl、0.0015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5%SDS存在下に、68℃で30分間保温することによりハイブリダイズするファージcDNAクローンを得た。
【0092】
実施例4 (CRE1 cDNAのクローニング)
実施例3で得られたファージcDNAクローンのcDNAを鋳型として、配列番号5に示されるDNA及び配列番号6に示されるDNAをプライマーとしてPCR反応を行い、配列番号5で示される塩基配列を有するDNAを増幅した。詳細を以下に述べる。
PCR反応は、Herculase Enhanced DNA Polymerase (TOYOBO社製)を用いて、94℃で1分間保温し、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で4分間のサイクルを25サイクル繰り返す増幅条件下で行われた。尚、PCR反応液(50μl)は、ファージcDNAクローンのcDNA500ng、プライマーDNA各々100ngにキット説明書に従ってdNTP等の反応組成物を添加することにより調製された。
このようにして目的のDNA断片の増幅を行った。
【0093】
実施例5 (CRE1発現プラスミドの構築)
酵母発現ベクターであるp415CYC1(Munberg et al. Gene:156 119-122(1995)、ATCCライブラリー (No.87382)から入手可能)を制限酵素SmaIで切断した後、T4 DNA Ligaseを用いて、実施例4で得られたDNA断片(配列番号2で示される塩基配列を有するDNA)を発現ベクターp415CYC1のCYC1プロモーター配列に結合することにより、酵母において目的タンパク質が発現されるように組み込んだ。挿入されたDNA断片の塩基配列が正しい向きであり、当該塩基配列が配列番号2で示された塩基配列であることを自動塩基配列決定装置を用いて確認し、発現プラスミドp415CYC-CRE1を得た。
【0094】
実施例6 (形質転換細胞TM182-CRE1及び形質転換細胞TM182- p415CYC1の作製)
実施例5で得られた発現プラスミドp415CYC-CRE1及び酵母発現ベクターであるp415CYC1をそれぞれ用いて、Sln1遺伝子欠損株であるTM182(sln1Δ)(Maeda T et al. Nature:369 242-245(1994))を形質転換した。形質転換は、Polyethylene glycol/lithium acetate (PEG/LiAc)-mediated transformation 法を用い、CLONTECH社:MATCHMAKER Two-Hybrid System 3 User Manual 22ページに記載される VII.Library Transformation & Screening Protocolsに従って行った。得られる形質転換細胞では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、DOLU+Gal培地で生育する形質転換酵母を選択することにより、形質転換細胞TM182-CRE1及び形質転換細胞TM182- p415CYC1を得た。
【0095】
実施例7 (細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質の探索方法)
実施例6で得られた形質転換細胞TM182-CRE1及び形質転換細胞TM182- p415CYC1をDOLU+Gal培地10mlに植菌し、30℃で18時間前培養を行い、これを前培養液とした。この前培養液を形質転換細胞TM182-CRE1についてはDOLU+Glu培地を用いて、また形質転換細胞TM182- p415CYC1についてはDOLU+Gal培地を用いて、それぞれOD600=0.1になるように希釈したものをそれぞれの希釈前培養液とした。
96穴プレートの各ウエルにジメチルスルホキシド(DMSO)で200ppmに調製された被験物質を1μlずつ添加したアッセイプレートを準備した。このとき、一部のウエルにはDMSOを1μl添加しただけの対照区を設定した。アッセイプレートは形質転換細胞TM182-CRE1用アッセイプレートと形質転換細胞TM182- p415CYC1用アッセイプレートとを準備した。
DMSOに10000ppmでtrans-zeatin(サイトカイニン)を溶解したものを、DOLU+Gul培地で50倍に希釈して200ppmにした。この200ppmのtrans-zeatin液を、上記のそれぞれの希釈前培養液に1000分の3容量添加して、最終的に0.6ppmのtrans-zeatin を含有するそれぞれの希釈前培養液を調製した。この0.6ppmのtrans-zeatin を含有したそれぞれの希釈前培養液を100μlずつ、それぞれの形質転換細胞用アッセイプレートの各ウエルに添加し、30℃で24時間培養した後、プレートリーダーを用いて各ウエルの濁度(OD600)を測定した。当該濁度を対照区における濁度と比較することにより、被験物質の、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を検定した。その結果を表8及び表9に示す。
形質転換細胞TM182-CRE1に関して、試験区における濁度が対照区における濁度に比べて低い値を示した被験物質を、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質として選抜した。ただし、形質転換細胞TM182- p415CYC1に関して、形質転換細胞TM182-CRE1の場合と同等以上に試験区における濁度が対照区における濁度に比べて低い値を示した被験物質は、酵母への毒性を有する化合物であるものとして、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質としては選抜しなかった。
【0096】
(対照区に対する試験区の相対生育度)[%]=[(試験区の濁度)−(ブランクの濁度)]/[(対照区の濁度)−(ブランクの濁度)]×100
【0097】
(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性)[%]=100−(対照区に対する試験区の相対生育度)
【0098】
【表8】
【0099】
【表9】
【0100】
実施例8 (細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質の濃度応答性の検定方法)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質に関して、供試濃度を変化させて実施例7と同様の試験を行った。実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質の供試濃度を0.06ppmから6ppmとなるように種々変化させる他は、実施例7と同じ条件で、実施例6で得られた形質転換細胞TM182-CRE1及び形質転換細胞TM182- p415CYC1を培養した。供試された化学物質の濃度調整にはDMSOを用いた。培養終了後、形質転換細胞TM182-CRE1の増殖状態が観察されなかった最低供試濃度から、また以下に示す方法で作成した濃度応答性生育阻害曲線から、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性の濃度応答性を検定した。
濃度応答性生育阻害曲線を作成するにあたり、まず相対生育度を次のように算定した。
【0101】
(相対生育度)[%]=(B)/(A)×100
(A)=[(0.06ppm試験区の濁度)−(ブランクの濁度)]/[(対照区の濁度)−(ブランクの濁度)]
(B)=[(各試験区の濁度)−(ブランクの濁度)]/[(対照区の濁度)−(ブランクの濁度)]
【0102】
そして、X軸を供試された化学物質の濃度とし、Y軸を相対生育度としたグラフ(図1参照、左図:形質転換細胞TM182-CRE1、右図:形質転換細胞TM182- p415CYC1)を作成して、これを濃度応答性生育阻害曲線とした。
【0103】
実施例9 (根部生長促進活性試験)
下記の組成(表10参照)からなる園試標準培地を調製した。クラスターチューブに化学物質のDMSO溶液を4μlずつ、終濃度0.001ppm〜10ppmになるように分注し、さらに滅菌した園試標準培地を600μlずつ分注した後、得られた溶液を充分に混合した。クラスターチューブ当り10〜20粒のシロイヌナズナ種子を前記クラスターチューブ内に播種し、22℃、明所にて10日間培養した後、シロイズナズナ種子から生じた主根(平均的な主根)の長さを測定した。8反復の平均値を求め、下記の式により根部生長率を求めることにより、有意な根部生長率(例えば根部生長率が120%以上)を示したものを根部生長促進活性有りとして判定可能であった。
また詳細な結果として、前記終濃度において最も高い根部生長率を示した値を表11及び表12に示した。
【0104】
根部生長率(%)=(化学物質処理区の平均主根長)/(対照区の平均主根長)×100
【0105】
【表10】
【0106】
【表11】
【0107】
【表12】
【0108】
実施例10 (レタスを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質IC3-1及び化学物質Ic7-1について、レタス(Lactuca sativa Red wave)を用いて主根の伸長促進活性を評価した。化学物質を種々の濃度の水溶液に調製し(0.6ppm、1.2ppm、2.5ppm、5ppm、10ppm、20ppm、それぞれ0.1% DMSOを含む)、60φプラスチックシャーレ中の直径50mmのろ紙に1ml添加した後、当該プラスチックシャーレ上にレタス種子30粒を播種した。22℃、明所にて4日間培養した後、主根の長さを測定した。3反復の平均値を求め、次の式により根部生長率を求めた。
【0109】
根部生長率(%)=(化学物質処理区の平均主根長)/(対照区の平均主根長)×100−100
【0110】
図2及び図3に結果を示す。化学物質Ic3-1は0.6ppm〜2.5ppmの濃度で対照区に対し15〜17%(図2参照)、化学物質Ic7-1は10ppm〜20ppmの濃度で10〜17%(図3参照)の主根伸長が認められた。Dunnettの検定の結果、全ての処理区で危険率5%の有意水準で有意差ありと判定され、顕著に根部生長促進効果があることが示された。
【0111】
実施例11 (イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質Ic3-1及び化学物質Ic7-1について、イネ(Oriza sativa L. japonica)を用いて主根伸長促進活性を評価した。化学物質を種々の濃度(10ppm、25ppm、それぞれ0.1% DMSOを含む)の水溶液に調製した後、当該薬液17mlを根部生長観察用の種子成長袋(177mm×163mm、大起理化工業製)中の厚紙にしみこませ、当該厚紙上にイネ種子3粒を播種した。子袋をプラスチック容器中に入れて密閉し、25℃、明所にて7日間培養後、主根の長さを測定した。3反復の平均値を求め、次の式により根部生長率を求めた。
【0112】
根部生長率(%)=(化学物質処理区の平均主根長)/(対照区の平均主根長)×100−100
【0113】
図4及び図5にその結果を示す。化学物質Ic3-1は10ppmで対照区に対し17%、25ppmで20%の主根伸長が認められた(図4参照)。また、化学物質Ic7-1は10ppmで対照区に対し17%、25ppmで19%の主根伸長が認められた(図5参照)。Dunnettの検定の結果、全ての処理区で危険率5%の有意水準で有意差ありと判定され、顕著に根部生長促進効果があることが示された。
【0114】
実施例12 (イネ種子処理によるサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質Ic3-1及び化学物質Ic7-1について、イネ(Oriza sativa L. japonica)を用いて種子処理による主根伸長促進活性を評価した。化学物質をアセトンに溶解して10,000ppmの溶液を調製した。調製されたアセトン化学物質溶液300μlをエッペンチューブに入れた後、15粒の種子を当該エッペンチューブに投入して、次いで得られた混合物を約30秒間攪拌混合した。このようにして薬剤処理された種子をろ紙上に広げて乾燥した。
底に穴の開いたプラスチック容器(直径120mm、高さ97mm)に約820ml容の培養土を入れ、これに上記のようにして薬剤処理された種子を15粒ずつ播種した。当該種子を暗所、30℃にて4日間栽培した後、温室にて35日間栽培した。こうして栽培された植物の根部を切り取って付着した土を洗い流した後、これを凍結乾燥した。次いで凍結乾燥後の根部の重量を測定した。各処理区につき3反復の試験を実施し、その平均値を求めた。結果を図6に示す。
株当りの根部乾燥重量は、化合物Ic3-1の場合には対照区の119%、化合物Ic7-1の場合には126%に増加し、いずれの化合物においても顕著な根部生長促進効果が確認された。尚、オーキシン化合物IAAの場合には対照区の87%に根部重量は抑えられ、根部生長抑制効果が認められた。
【0115】
実施例13 (シロイヌナズナの胚軸を用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の植物分化促進活性評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質Ic3-1及び化学物質Ic7-1について、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana Columbia)の胚軸を用いて不定根形成活性を調べることにより、植物分化促進活性を評価した。
まず、シロイヌナズナを播種するための寒天培地を作製した。寒天培地の成分は、水溶液1リットル当たりムラシゲ・スクーグ植物培地用混合塩類(和光純薬工業)1リットル用を1包、スクロース10g、水酸化カリウムでpH5.7に調整した5%MES(2-(N-Morpholino)ethanesulfonic Acid)水溶液10ml、イノシトール100mg、ビタミン類ストック液(水溶液1リットル当たりチアミン塩酸塩10g、ピリドキシン塩酸塩1g、ニコチン酸1g)1ml、寒天8gであった。次いで、当該寒天培地を120℃で20分間オートクレーブにかけた後、円形シャーレに分注して固化させた。
次に、種子容量25μl程度のシロイヌナズナの種子を1.5mlチューブに入れ、そこに次亜塩素酸ナトリウム溶液(ナカライテスク)を滅菌蒸留水で10倍に希釈した液を1ml加えて、チューブミキサー(TOMY、MT-360、MIXING SPEED10)で1分間程度攪拌しながら殺菌消毒を行った。卓上小型遠心機で遠心して種子を沈降させた後、前記チューブ内から次亜塩素酸ナトリウム溶液の希釈液を除き、新たに滅菌蒸留水を1ml加えた後、前記チューブミキサーで1分間程度攪拌することにより、種子を洗浄した。卓上小型遠心機で遠心して種子を沈降させた後、前記チューブ内から洗浄後の水を除いた。当該洗浄作業を3回繰り返した。洗浄を終えた種子を円形シャーレの寒天培地上に蒔き、22℃の暗所で発芽、生育させた。
一方、化学物質をDMSOに溶解して10,000ppmの溶液を調製した。さらに、DMSOで希釈して6000ppm、2000ppm、600ppm、200ppmの溶液を調製した。そして、12穴マルチプレート(住友ベークライト)の各穴に、1穴につき1種類1濃度の調製された化学物質DMSO溶液を2μlずつ分注した。対照区として設定した穴には化学物質DMSO溶液ではなくDMSOを2μl入れた。次いで、トランスゼアチンをDMSOに溶解して10,000ppmの溶液を調製した。これを滅菌蒸留水で希釈して10ppmの溶液を調製した。前記組成の寒天培地を調製し、オートクレーブ後、50℃程度まで冷ましたところに、この10ppmのトランスゼアチン溶液を最終濃度0.01ppmになるように添加して混合した。このトランスゼアチン含有寒天培地を、化学物質DMSO溶液又はDMSOを分注し終えた12穴マルチプレートの各穴に2mlずつ分注して固化させた。
前記の22℃の暗所で発芽・生育させたシロイヌナズナの芽生えを胚軸部分で切断し、子葉が付いている側の胚軸を以下の不定根形成活性の測定に用いた。尚、根部が付いている側の胚軸は廃棄した。具体的には、12穴マルチプレートの各穴の寒天培地に、子葉付き胚軸を切断部分から5mm程度まで挿し込んだ。当該マルチプレートを22℃、16時間明所(8時間暗所)に静置した結果、1週間後には化学物質Ic3-1を含有する寒天培地(最終濃度6ppm、2ppm、0.6ppm、0.2ppmの全試験区)に挿した胚軸部分及び化学物質Ic7-1を含有する寒天培地(最終濃度6ppm、2ppmの試験区)に挿した胚軸部分から不定根の形成が確認された。化学物質DMSO溶液の代わりにDMSOが添加された対照区では胚軸部分から不定根の形成は確認できなかった。最終濃度0.6ppmの化学物質Ic3-1を含有する寒天培地に挿した胚軸、最終濃度2ppmの化学物質Ic7-1を含有する寒天培地に挿した胚軸及び対照区の寒天培地に挿した胚軸の場合における試験結果を図7に示す。
【0116】
実施例14 (イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性の測定)
化学物質Ic3-3について、イネ(Oriza sativa japonicaニッポンバレ)を用いて根の伸長促進活性を測定した。
まず化学物質を所定濃度含むアセトン薬液を調製し、次いでこれを蒸留水にて100倍に希釈して10ppmの濃度に調製(1%アセトンを含む)することにより、化学物質溶液を得た。水中に2日間浸漬して催芽処理された種子を3粒ずつ288穴プラグトレーに播種し、前記化学物質溶液をウェル当り500μlずつ土壌潅注した。覆土後、プラグトレーをビニール袋に入れ、これを人工気象室(30℃、暗所)にて3日間放置した。プラグトレーからビニール袋を外した後、常時底面潅水しながら、明所/暗所=16h/8hの光条件下で、さらに4日間放置した。このようにしてイネ種子を栽培した後、生育したイネを得た。得られたイネの根を洗浄し、根長測定画像解析装置WinRHIZO(Regent Instruments社製)を用いて総根長を解析した。化学物質Ic3-3処理区では土壌潅注処理においてアセトンのみを用いた対照区(UTC)と比較して顕著な根の伸長促進が認められた。写真を図8に示す。また、根長測定画像解析装置による解析の結果、化学物質Ic3-3処理区では総根長の増加が認められた。結果を図9に示す。
【0117】
実施例15 (CRE1 cDNAのクローニング その2)
実施例5で得られた発現プラスミドp415CYC-CRE1を鋳型として、配列番号7に示されるDNA及び配列番号8に示されるDNAをプライマーとしてPCR反応を行い、配列番号2で示される塩基配列を有するDNAを増幅した。詳細を以下に述べる。
PCR反応は、KOD Plus DNA Polymerase (TOYOBO社製)を用いて、94℃で2分間保温し、94℃で15秒間、58℃で30秒間、68℃で3分30秒間のサイクルを30サイクル繰り返す増幅条件下で行われた。尚、PCR反応液(50μl)は、プラスミドp415CYC-CRE1を500ng、プライマーDNA各々100ngにキット説明書に従ってdNTP等の反応組成物を添加することにより調製された。
このようにして増幅した目的のDNA断片はpCR-Blunt II-TOPOベクター(インビトロジェン社)にキット添付の説明書に従ってクローニングした。この際、配列番号7で示される塩基配列がT7プロモーターに近く、配列番号8で示される塩基配列がSp6プロモーターに近くなる向きで目的のDNA断片をpCR-Blunt II-TOPOベクターに挿入した。挿入されたDNA断片の塩基配列が正しい向きであり、当該塩基配列が配列番号2で示された塩基配列であることを自動塩基配列決定装置を用いて確認した。
【0118】
実施例16 (CRE1発現プラスミドの構築)
酵母発現ベクターであるp425GPD(Munberg et al. Gene:156 119-122(1995)、ATCCライブラリー (No.87359)から入手可能)を制限酵素BamHIで切断した後、T4 DNA Ligaseを用いて、実施例15で得られたDNA断片(配列番号2で示される塩基配列を有するDNA)を発現ベクターp425GPDのGPDプロモーター配列に結合することにより、酵母において目的タンパク質が発現されるように組み込んだ。挿入されたDNA断片の塩基配列が正しい向きであり、当該塩基配列が配列番号2で示された塩基配列であることを自動塩基配列決定装置を用いて確認し、発現プラスミドp425GPD-CRE1を得た。
【0119】
実施例17 (形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の作製)
実施例16で得られた発現プラスミドを用いて、Sln1遺伝子欠損株であるTM182(sln1Δ)(Maeda T et al. Nature:369 242-245(1994))を形質転換した。形質転換は、S. cerevisiae Direct Transformation Kit Wako(和光純薬工業社製)を用い、添付のマニュアルに従って行った。得られる形質転換細胞では、ロイシンの栄養要求性が消失することを利用し、DOLU+Gal培地で生育する形質転換酵母を選択することにより、形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1を得た。
また、酵母発現ベクターであるp425GPDを用いて同様の方法で形質転換細胞TM182-p425GPDを得た。
【0120】
実施例18 (CRE1を含む膜タンパク質画分の調製)
実施例17で得られた形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1をガラスビーズで破壊した後、超遠心機によってCRE1を含む膜タンパク質画分を調製した。詳細を以下に述べる。
実施例17で得られた形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1をDOLU+Gal培地100mlに植菌し、30℃で16時間培養を行い、OD600=1.4程度の培養液を得た。培養液を50mlの遠心管に分注して、4℃、7,400xgで5分間遠心して形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の菌体を回収した。この菌体を、4℃に冷却したリン酸バッファー(50mM リン酸二水素ナトリウム水溶液と50mM リン酸水素二ナトリウム水溶液を4対6の割合で混ぜてpH7.0に調整したもの)に再度懸濁して2mlチューブに分注して、4℃、1,000xgで5分間遠心して形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の菌体を回収した。この菌体を、4℃に冷却したリン酸バッファーに再度懸濁して、4℃、1,000xgで5分間遠心して形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の菌体を回収した。この菌体を、DTT(ジチオスレイトール)とPMSF(フッ化フェニルメチルスルホニル)を含む菌体の3倍量のリン酸バッファー(前述のリン酸バッファーに5mM DTTと0.5mM PMSFを添加したもの)に再度懸濁して、あらかじめ250μlのガラスビーズ(直径0.25〜0.5mm)を入れて4℃に冷却していた1.5mlチューブに200μlずつ分注した。これらの1.5mlチューブをマイクロチューブミキサー(TOMY社、MT-360)の最高出力で30秒間攪拌した後、1分間氷中で冷却することを2回繰り返した。さらに、これらの1.5mlチューブをマルチビーズショッカー(安井器械社、MB-200)の出力(SPEED METER)2000で30秒間攪拌した後、1分間氷中で冷却することを3回繰り返した。次に、これらの1.5mlチューブを4℃、1,500xgで10分間遠心して上清を回収した。この上清を新しい1.5mlチューブに移して4℃、10,000xgで3分間遠心して上清を回収した。超遠心機を用いてこの上清を4℃、100,000×gで1時間遠心して沈殿を回収した。この沈殿を、スクロースモノカプレートを1%含むリン酸バッファー(前述のリン酸バッファーに1%のスクロースモノカプレートを添加したもの)に溶解させて形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の膜タンパク質画分とした。
また、同様の方法で、形質転換細胞TM182-p425GPDの膜タンパク質画分を調製した。
【0121】
実施例19 (化学物質がサイトカイニンがサイトカイニン受容体に結合することを阻害することを調べる方法)
実施例18で得られた形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の膜タンパク質画分と水素の放射性同位体であるトリチウムで標識して高い放射活性を持たせたサイトカイニンとを用いて、被験物質がサイトカイニンがサイトカイニン受容体に結合することを阻害することを検証した。詳細を以下に述べる。
水素の放射性同位体であるトリチウムで標識して高い放射活性を持たせたサイトカイニンは、アマシャムバイオサイエンス社製の[3H]N-6-(isopent-2-enyl)Adenine(以下、放射性標識2IPと記す)を用いた。比放射能は74.0GBq/mmolで、放射能濃度は37.0MBq/ml。
はじめに、形質転換細胞TM182-p415CYC1の膜タンパク質画分を100μgと設定濃度になるようにリン酸バッファーで希釈した放射性標識2IPと設定濃度になるようにDMSOで希釈した被験物質1μlをリン酸バッファー中で混合して100μlの反応液を調製した。次に、この反応液を氷中に1時間静置した後、ガラスフィルターGF/B(ワットマン社製)で濾過して形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の膜タンパク質画分を回収した。そして、このガラスフィルターを液体シンチレーションカクテルUltima Gold(パーキンエルマー社製)に浸して、液体シンチレーションカウンターで放射能を測定した。また、対照として形質転換細胞TM182-p425GPDの膜タンパク質画分を用いて同様の試験を行った。放射性標識2IPの非特異的な結合による放射能の影響を排除するために、形質転換細胞TM182-p425GPD-CRE1の膜タンパク質画分を用いた試験で得た放射能の値から形質転換細胞TM182-p425GPDの膜タンパク質画分を用いた試験で得た放射能の値を引いた。その試験結果を図10に示す。
放射能は、被験物質無し(被験物質の溶媒に用いたDMSOのみを添加)や被験物質がアブシジン酸の場合に比べて、被験物質がトランスゼアチンやIc3-4の場合に減少した。
【0122】
実施例20 (湛水直播試験における種子処理したサイトカイニン情報伝達阻害物質のイネ苗立ち促進活性の評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質Ic3-3について、イネ(Oryza sativa japonica 日本晴)に種子処理して湛水直播条件下生育させ、苗立ち率を調べることにより、化学物質のイネ苗立ち促進活性を評価した。
まず、5%(v/v) Color Coat Red(BECKER UNDERWOOD社製)、5%(v/v) CF-Clear(BECKER UNDERWOOD社製)、0.42%(v/v) Maxim-XL(Syngenta社製)を含むBlank slurry溶液を調製した。1.3mlのBlank slurry溶液当り、それぞれ6.25mg、12.5mg、25mg、50mgの化学物質Ic3-3を溶解させ、当該溶液をHege11種子処理装置(Hans-Ulrich Hege社製)を用いて、50g種子当り1.3mlの化学物質− slurry溶液の割合で処理した(それぞれ0.125mg、0.25mg、0.5mg、1mg/g種子に相当する)。
次に、野外に設置されたコンクリートポット(50cm×50cm)に、湛水深5cmに設定して、ポット当り50粒ずつ散播した。播種後23日目に、葉の先端が水面に出現している苗数を調査した結果、0.125〜1mg/g種子の処理濃度で、Blank slurry 処理区と比較して、苗立ち率の増大が認められた。各処理区(4反復)の試験結果(平均値)を表13に示す。
[苗立ち率(%)]=[葉の先端が水面に出現している苗数]/[播種数]×100
【0123】
【表13】
【0124】
実施例21 (乾田直播試験における種子処理したサイトカイニン情報伝達阻害物質のイネ分げつ促進活性評価)
実施例7で選抜された(細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する)化学物質Ic3-3について、イネ(Oryza sativa japonica 日本晴)に種子処理して乾田直播条件下生育させ、分げつ数を調べることにより、化学物質のイネに対する分げつ促進活性を評価した。
まず、5%(v/v) Color Coat Red(BECKER UNDERWOOD社製)、5%(v/v) CF-Clear(BECKER UNDERWOOD社製)、0.42%(v/v) Maxim-XL(Syngenta社製)を含むBlank slurry溶液を調製した。1.3mlのBlank slurry溶液当り、12.5mgの化学物質Ic3-3を溶解させ、当該溶液をHege11種子処理装置(Hans-Ulrich Hege社製)を用いて50g種子当り1.3mlのの割合で処理した(0.25mg/g種子に相当する)。
次に種子処理した種子を1/5000aワグネルポットに、ポット当り20粒ずつ、播種深度1cmに播種し、温室にて栽培した。播種後10日目に湛水深5cmに設定して入水し、さらに栽培を継続した。播種後30日目に、分げつ数を調査した結果、Blank slurry処理区と比較して、株当りの分げつ数の増加が認められた。各処理区(3反復)の試験結果(平均値)を図11に示す。
【0125】
以下に、本発明において使用される培地の組成を記す。
(a)DOLU+Glu培地
Bacto-yeast nitrogen base without amino acids 6.7g
Glucose 20g
SC-HIS-LEU-URA(Q-BIOgene社) 1.66g
Histidine 0.076g
Distilled water 1000ml
(b)DOLU+Gal培地
Bacto-yeast nitrogen base without amino acids 6.7g
Glucose 20g
SC-HIS-LEU-URA(Q-BIOgene社) 1.66g
Histidine 0.076g
Distilled water 1000ml
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明により、植物の生長若しくは分化を制御する薬剤、並びに、標的を明確にした有用な生物活性を有する化学物質の探索手法、即ち、標的部位を化学的に調節することを目的として、特定の標的に対する活性で化学物質をスクリーニングする方法等が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】図1は、実施例8において、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質の濃度応答性を検定した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質の濃度とし、且つ、Y軸を相対生育度とした濃度応答性生育阻害曲線を表している。尚、図中の左図(左縦1列の3つのサブ図)は形質転換細胞TM182-CRE1を用いた試験系での結果を示すものであり、右図(右縦1列の3つのサブ図)は形質転換細胞TM182- p415CYC1)を用いた試験系での結果を示すものである。また、図中の上段図、中段図及び下段図は、上から化学物質Ic7-1、化学物質Ic3-1及び化学物質Ic3-3を用いた試験系での結果を示すものである。
【図2】図2は、実施例10において、レタスを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を評価した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質(化学物質Ic3-1)の濃度とし、且つ、Y軸を根部生長度(%)とした濃度応答性生長促進曲線を表している。
【図3】図3は、実施例10において、レタスを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を評価した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質(化学物質Ic7-1)の濃度とし、且つ、Y軸を根部生長度(%)とした濃度応答性生長促進曲線を表している。
【図4】図4は、実施例11において、イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を評価した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質(化学物質Ic3-1)の濃度とし、且つ、Y軸を根部生長度(%)とした濃度応答性生長促進曲線を表している。
【図5】図5は、実施例11において、イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を評価した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質(化学物質Ic7-1)の濃度とし、且つ、Y軸を根部生長度(%)とした濃度応答性生長促進曲線を表している。
【図6】図6は、実施例12において、イネ種子処理によるサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を評価した結果を示した図である。図中の「UTC」とは、種子処理においてアセトンのみを用いた対照区での結果を示すものであり、また「IAA」とはオーキシン化合物IAAを用いた試験系での結果を示すものである。
【図7】図7は、実施例13において、植物分化促進活性を評価するために、シロイヌナズナの胚軸を用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の不定根形成活性を測定した結果を示した図である。図中の「対照区」とは、実施例13に記載された対照区の寒天培地での結果を示すものである。
【図8】図8は、実施例14において、イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性を測定した結果を示した図である。図中の「UTC」とは、土壌潅注処理においてアセトンのみを用いた対照区での結果を示すものである。
【図9】図9は、実施例14において、イネを用いたサイトカイニン情報伝達阻害物質の根部生長促進活性について根長測定画像解析装置を用いて解析した結果を示した図である。図中のデータラインは、X軸を供試された化学物質(化学物質Ic3-3)の濃度とし、且つ、Y軸は根径毎の根長の累計(総根長)を表している。図中の「UTC」とは、土壌潅注処理においてアセトンのみを用いた対照区での結果を示すものである。凡例の数値(L)は、根径(mm)を示す。
【図10】図10は、実施例19において、サイトカイニンがサイトカイニン受容体に結合することを被験物質が阻害することを検証した試験結果である。図中の「DMSOのみ」とは、被験物質を入れていない対照区であって、被験物質の溶媒として使用したDMSOのみを被験物質のDMSO溶液の替わりに添加したものである。「t-Zeatin」とは被験物質としてトランスゼアチンを添加したもの、「Ic3-4」とは被験物質としてIc3-4を添加したもの、「ABA」とは被験物質としてアブシジン酸を添加したものである。
【図11】図11は、実施例21において、乾田直播試験における種子処理したサイトカイニン情報伝達阻害物質のイネ分げつ促進活性の評価結果を示した図である。図中、「Ic3-3」とは種子処理に被験物質Ic3-3のBlank slurry溶液を用いた場合の、また「Blank slurry処理」とはIc3-3溶液の代わりに種子処理にBlank slurryを用いた場合の株あたりの分げつ数を示した図である。
【配列表フリーテキスト】
【0128】
配列番号3
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号4
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号5
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号6
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号7
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号8
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の生長若しくは分化を制御する薬剤であり、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする薬剤。
【請求項2】
植物を生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物成長調節剤であることを特徴とする請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
植物の生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物体の生長を制御する薬剤であることを特徴とする請求項1記載の薬剤。
【請求項4】
植物の生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物細胞の分化を制御する薬剤であることを特徴とする請求項1記載の薬剤。
【請求項5】
植物体の生長を制御する薬剤が、植物の芽の生長の制御のための薬剤であることを特徴とする請求項3記載の薬剤。
【請求項6】
植物の芽の生長の制御が、腋芽抑制等であることを特徴とする請求項5記載の薬剤。
【請求項7】
植物の芽の生長の制御が、花芽抑制等であることを特徴とする請求項5記載の薬剤。
【請求項8】
植物体の生長を制御する薬剤が、植物の苗立ちを促進させる薬剤であることを特徴とする請求項3記載の薬剤。
【請求項9】
植物体の生長を制御する薬剤が、植物の分げつを促進させる薬剤であることを特徴とする請求項3記載の薬剤。
【請求項10】
植物体の生長を制御する薬剤が、植物の根の生長を促進させる薬剤であることを特徴とする請求項3記載の薬剤。
【請求項11】
細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体であることを特徴とする請求項1〜10いずれか一項記載の薬剤。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項12】
細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質との接触系において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性であることを特徴とする請求項1〜10いずれか一項記載の薬剤。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項13】
有効成分として、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする植物成長調節剤。
【請求項14】
前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、前記化学物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする請求項13記載の植物成長調節剤。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項15】
サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質が、トランスゼアチンであることを特徴とする請求項14記載の植物成長調節剤。
【請求項16】
前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、0.6ppmのトランスゼアチンと、2ppmの前記化学物質との接触系内において、前記化学物質が存在しない場合よりも前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする請求項13記載の植物成長調節剤。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項17】
前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、0.6ppmのトランスゼアチンと、2ppmの前記化学物質との接触系内において、前記化学物質が存在しない場合よりも前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を90%以上阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする請求項13記載の植物成長調節剤。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項18】
植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質の探索方法であって、
(1)下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、被験物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の量を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された細胞内信号伝達の量と前記化学物質が存在しない場合における細胞内信号伝達の量とを比較することにより得られる差異に基づき植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質を選択する第二工程、
を有することを特徴とする方法。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項19】
サイトカイニン受容体を有する細胞が、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが導入されてなる形質転換細胞であることを特徴とする請求項18記載の探索方法。
【請求項20】
サイトカイニン受容体を有する細胞が、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが導入されてなる形質転換酵母細胞であることを特徴とする請求項18記載の探索方法。
【請求項21】
サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質が、トランスゼアチンであることを特徴とする請求項18、19又は20記載の探索方法。
【請求項22】
請求項18、19、20又は21記載の探索方法により選抜された化学物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする植物成長調節剤。
【請求項23】
請求項13、14、15、16、17又は22記載の植物成長調節剤の有効量を、植物又はその生息場所に施用することを特徴とする植物成長調節方法。
【請求項24】
請求項18、19、20又は21記載の探索方法により植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質を特定し、特定された植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質と植物とを接触させることを特徴とする植物成長調節方法。
【請求項25】
有効成分として、一般式(I)
(式中、RおよびXは同一または異なって置換されていてもよい炭化水素基、NR1R2で表される基、OR3で表される基、S(O)mR4で表される基、ニトロ基またはハロゲン原子を示し、
ここでR1は水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示し、
R2は水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、NR5R6で表される基(ここでR5およびR6は同一もしくは異なり水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)またはOR7で表される基(ここでR7は水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し、又はR1およびR2が隣接する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい環状アミノ基を示し、
R3およびR4はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素基を示し、
lは0〜1の整数を示し、
mは0〜2の整数を示し、
nは0〜4の整数を示し、
nが2以上の場合Xは同一または異なっていてもよく、
Arは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいヘテロアリール基を示す)で表される化合物又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする植物成長調節剤。
【請求項26】
lが1であり、Rが置換されていてもよい炭化水素基である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項27】
lが1であり、Rがハロゲン原子又はオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項28】
置換されていてもよい炭化水素基がハロゲン原子またはオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である請求項26記載の植物成長調節剤。
【請求項29】
lが1であり、RがNR1R2で表される基である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項30】
R1が水素原子またはC1-3アルキル基を示し、R2が水素原子、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、アミジノ基、C1-3アルコキシ基、フェニル基、C1-3アシル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基またはC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のフェニル基は1〜3個の同じもしくは異なるC1-3アルキル基で置換されていてもよく、前記のフェニル基、アシル基、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基はハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-3アルコキシ基、ヒドロキシC1-3アルコキシ基、カルボキシル基、C1-3アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、メルカプト基、C1-3アシルチオ基、シアノ基、フリル基およびテトラヒドロフリル基の中から選ばれる1〜3個の同じもしくは異なる置換基で置換されていてもよく、又はR1およびR2が隣接する窒素原子と一緒になってピロリジノ基、ピペリジノ基またはモルホリノ基を示す請求項29記載の植物成長調節剤。
【請求項31】
R1が水素原子を示し、R2が水素原子、ホルミル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基またはC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基はヒドロキシル基、メトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、シアノ基およびフリル基の中から選ばれる置換基で置換されていてもよい請求項29記載の植物成長調節剤。
【請求項32】
lが1であり、RがOR3で表される基である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項33】
R3がアミノ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である請求項32記載の植物成長調節剤。
【請求項34】
lが1であり、RがS(O)mR4で表される基である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項35】
R4がアミノ基またはヒドロキシル基で置換されていてもよいC1-3アルキル基であり、mが0である請求項34記載の植物成長調節剤。
【請求項36】
lが1であり、Rがハロゲン原子である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項37】
ハロゲン原子が塩素原子である請求項36記載の植物成長調節剤。
【請求項38】
nが1〜2であり、XがC1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基、C1-3ハロアルキル基、シアノ基、ハロゲン原子またはニトロ基である請求項25〜37いずれか一項記載の植物成長調節剤。
【請求項39】
Xが塩素原子、臭素原子またはニトロ基であり、Xの置換位置が6位および/または8位である請求項38記載の植物成長調節剤。
【請求項40】
Arがハロゲン原子またはC1-3アルキル基で置換されていてもよいフェニル基である請求項25〜39いずれか一項記載の植物成長調節剤。
【請求項41】
請求項25〜40いずれか一項記載の植物成長調節剤の有効量を、植物又はその生息場所に施用することを特徴とする植物成長調節方法。
【請求項1】
植物の生長若しくは分化を制御する薬剤であり、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有することを特徴とする薬剤。
【請求項2】
植物を生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物成長調節剤であることを特徴とする請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
植物の生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物体の生長を制御する薬剤であることを特徴とする請求項1記載の薬剤。
【請求項4】
植物の生長若しくは分化を制御する薬剤が、植物細胞の分化を制御する薬剤であることを特徴とする請求項1記載の薬剤。
【請求項5】
植物体の生長を制御する薬剤が、植物の芽の生長の制御のための薬剤であることを特徴とする請求項3記載の薬剤。
【請求項6】
植物の芽の生長の制御が、腋芽抑制等であることを特徴とする請求項5記載の薬剤。
【請求項7】
植物の芽の生長の制御が、花芽抑制等であることを特徴とする請求項5記載の薬剤。
【請求項8】
植物体の生長を制御する薬剤が、植物の苗立ちを促進させる薬剤であることを特徴とする請求項3記載の薬剤。
【請求項9】
植物体の生長を制御する薬剤が、植物の分げつを促進させる薬剤であることを特徴とする請求項3記載の薬剤。
【請求項10】
植物体の生長を制御する薬剤が、植物の根の生長を促進させる薬剤であることを特徴とする請求項3記載の薬剤。
【請求項11】
細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体であることを特徴とする請求項1〜10いずれか一項記載の薬剤。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項12】
細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質との接触系において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性であることを特徴とする請求項1〜10いずれか一項記載の薬剤。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項13】
有効成分として、細胞が有する植物由来のサイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する化学物質又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする植物成長調節剤。
【請求項14】
前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、前記化学物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする請求項13記載の植物成長調節剤。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項15】
サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質が、トランスゼアチンであることを特徴とする請求項14記載の植物成長調節剤。
【請求項16】
前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、0.6ppmのトランスゼアチンと、2ppmの前記化学物質との接触系内において、前記化学物質が存在しない場合よりも前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする請求項13記載の植物成長調節剤。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項17】
前記化学物質が、下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、0.6ppmのトランスゼアチンと、2ppmの前記化学物質との接触系内において、前記化学物質が存在しない場合よりも前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達を90%以上阻害する活性を有する化学物質であることを特徴とする請求項13記載の植物成長調節剤。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項18】
植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質の探索方法であって、
(1)下記の群Aから選択されるサイトカイニン受容体を有する細胞と、前記サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質と、被験物質との接触系内において、前記サイトカイニン受容体からの細胞内信号伝達の量を測定する第一工程、及び
(2)第一工程により測定された細胞内信号伝達の量と前記化学物質が存在しない場合における細胞内信号伝達の量とを比較することにより得られる差異に基づき植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質を選択する第二工程、
を有することを特徴とする方法。
<群A>
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と45%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
(d)配列番号2で示される塩基配列によりコードされるアミノ酸配列からなる蛋白質
(e)配列番号2で示される塩基配列を有するポリヌクレオチドに対し相補性を有するポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなり、かつサイトカイニン受容体として機能する活性を有する蛋白質
【請求項19】
サイトカイニン受容体を有する細胞が、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが導入されてなる形質転換細胞であることを特徴とする請求項18記載の探索方法。
【請求項20】
サイトカイニン受容体を有する細胞が、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが導入されてなる形質転換酵母細胞であることを特徴とする請求項18記載の探索方法。
【請求項21】
サイトカイニン受容体に対してアゴニスト活性を有する物質が、トランスゼアチンであることを特徴とする請求項18、19又は20記載の探索方法。
【請求項22】
請求項18、19、20又は21記載の探索方法により選抜された化学物質又はその農学的に許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする植物成長調節剤。
【請求項23】
請求項13、14、15、16、17又は22記載の植物成長調節剤の有効量を、植物又はその生息場所に施用することを特徴とする植物成長調節方法。
【請求項24】
請求項18、19、20又は21記載の探索方法により植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質を特定し、特定された植物の根の生長を促進させる能力を有する化学物質と植物とを接触させることを特徴とする植物成長調節方法。
【請求項25】
有効成分として、一般式(I)
(式中、RおよびXは同一または異なって置換されていてもよい炭化水素基、NR1R2で表される基、OR3で表される基、S(O)mR4で表される基、ニトロ基またはハロゲン原子を示し、
ここでR1は水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示し、
R2は水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、NR5R6で表される基(ここでR5およびR6は同一もしくは異なり水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)またはOR7で表される基(ここでR7は水素原子または置換されていてもよいC1-6アルキル基を示す)を示し、又はR1およびR2が隣接する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい環状アミノ基を示し、
R3およびR4はそれぞれ置換されていてもよい炭化水素基を示し、
lは0〜1の整数を示し、
mは0〜2の整数を示し、
nは0〜4の整数を示し、
nが2以上の場合Xは同一または異なっていてもよく、
Arは置換されていてもよいアリール基または置換されていてもよいヘテロアリール基を示す)で表される化合物又はその農学的に許容される塩を含有することを特徴とする植物成長調節剤。
【請求項26】
lが1であり、Rが置換されていてもよい炭化水素基である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項27】
lが1であり、Rがハロゲン原子又はオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項28】
置換されていてもよい炭化水素基がハロゲン原子またはオキソ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である請求項26記載の植物成長調節剤。
【請求項29】
lが1であり、RがNR1R2で表される基である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項30】
R1が水素原子またはC1-3アルキル基を示し、R2が水素原子、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、アミジノ基、C1-3アルコキシ基、フェニル基、C1-3アシル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基またはC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のフェニル基は1〜3個の同じもしくは異なるC1-3アルキル基で置換されていてもよく、前記のフェニル基、アシル基、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基はハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-3アルコキシ基、ヒドロキシC1-3アルコキシ基、カルボキシル基、C1-3アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、C1-3アルキルアミノ基、ジC1-3アルキルアミノ基、メルカプト基、C1-3アシルチオ基、シアノ基、フリル基およびテトラヒドロフリル基の中から選ばれる1〜3個の同じもしくは異なる置換基で置換されていてもよく、又はR1およびR2が隣接する窒素原子と一緒になってピロリジノ基、ピペリジノ基またはモルホリノ基を示す請求項29記載の植物成長調節剤。
【請求項31】
R1が水素原子を示し、R2が水素原子、ホルミル基、C1-6アルキル基、C3-6アルケニル基またはC3-6アルキニル基を示し、ここで前記のアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基はヒドロキシル基、メトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、シアノ基およびフリル基の中から選ばれる置換基で置換されていてもよい請求項29記載の植物成長調節剤。
【請求項32】
lが1であり、RがOR3で表される基である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項33】
R3がアミノ基で置換されていてもよいC1-3アルキル基である請求項32記載の植物成長調節剤。
【請求項34】
lが1であり、RがS(O)mR4で表される基である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項35】
R4がアミノ基またはヒドロキシル基で置換されていてもよいC1-3アルキル基であり、mが0である請求項34記載の植物成長調節剤。
【請求項36】
lが1であり、Rがハロゲン原子である請求項25記載の植物成長調節剤。
【請求項37】
ハロゲン原子が塩素原子である請求項36記載の植物成長調節剤。
【請求項38】
nが1〜2であり、XがC1-3アルキル基、C1-3アルコキシ基、C1-3ハロアルキル基、シアノ基、ハロゲン原子またはニトロ基である請求項25〜37いずれか一項記載の植物成長調節剤。
【請求項39】
Xが塩素原子、臭素原子またはニトロ基であり、Xの置換位置が6位および/または8位である請求項38記載の植物成長調節剤。
【請求項40】
Arがハロゲン原子またはC1-3アルキル基で置換されていてもよいフェニル基である請求項25〜39いずれか一項記載の植物成長調節剤。
【請求項41】
請求項25〜40いずれか一項記載の植物成長調節剤の有効量を、植物又はその生息場所に施用することを特徴とする植物成長調節方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−208113(P2008−208113A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291724(P2007−291724)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]