細胞による取り込みが制御可能なペプチド
【課題】輸送分子によって物質を細胞に制御して送達するための分子、組成物、および方法の提供。
【解決手段】構造としてA-X-B-Cが含まれる。式中、Cは積荷部であり、B部分は塩基性アミノ酸を含み、Xは切断可能なリンカー配列であり、A部分は酸性アミノ酸を含む。Xが細胞外で切断されると、B-C部分は取り込まれ、積荷は標的細胞に送達される。積荷は、例えば、画像診断用の造影剤、化学療法薬、または治療用の放射線増感剤でもよい。Xが切断されるとBからAが分離して、Bの塩基性アミノ酸が薬物積荷Cを切断事象付近の細胞に引きずり込む通常の能力が現れる。Xは、細胞外で、好ましくは生理学的条件下で切断される。免疫原性およびバックグラウンドペプチダーゼまたはプロテアーゼによる非特異的切断を最小限にするために、A部分およびB部分はD-アミノ酸であることが好ましい。
【解決手段】構造としてA-X-B-Cが含まれる。式中、Cは積荷部であり、B部分は塩基性アミノ酸を含み、Xは切断可能なリンカー配列であり、A部分は酸性アミノ酸を含む。Xが細胞外で切断されると、B-C部分は取り込まれ、積荷は標的細胞に送達される。積荷は、例えば、画像診断用の造影剤、化学療法薬、または治療用の放射線増感剤でもよい。Xが切断されるとBからAが分離して、Bの塩基性アミノ酸が薬物積荷Cを切断事象付近の細胞に引きずり込む通常の能力が現れる。Xは、細胞外で、好ましくは生理学的条件下で切断される。免疫原性およびバックグラウンドペプチダーゼまたはプロテアーゼによる非特異的切断を最小限にするために、A部分およびB部分はD-アミノ酸であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞膜を横断して物質を輸送するための組成物および方法、ならびにこのような組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連邦政府の支援による研究に関する記載
本研究は一部、米エネルギー省からの助成金(DE-FG03-01ER63276)および米国立衛生研究所(NINCDS)からの助成金(NS27177)による助成を受けた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の背景
序論
細胞膜は細胞の外周を定め、細胞内部への輸送および細胞内部から外への輸送を調節している。細胞膜は主に脂質およびタンパク質からなり、親水性の表面が疎水性の内部を取り囲み、物質が細胞に入る前には疎水性内部を通過しなければならない。多くの小さな親油性化合物は受動的に細胞膜を横断することができるが、ほとんどの化合物、粒子、および物質は生細胞に入るために能動的な機構に頼らなければならない。
【0004】
膜貫通輸送
細胞内外への輸送の調節は、細胞が連続して生存するために極めて重要である。例えば、細胞膜は、多くの重要な物質の膜通過を促進することができる、イオンチャンネル、ポンプ、および交換体を含んでいる。しかしながら、膜貫通輸送は選択的である。すなわち、細胞膜の主な役割は、望ましい物質を細胞内に入れ、望ましくない物質を出すことに加えて、物質が細胞内部に無秩序に入ってこないようにすることである。細胞膜のこの障壁機能が、細胞へのマーカー、薬物、核酸、および他の外因性物質の送達を難しくしている。
【0005】
過去10年間にわたって、細胞に容易に入ることができるペプチド配列が特定されてきた。例えば、ヒト免疫不全症ウイルス1(HIV-1)のTatタンパク質は細胞外環境から細胞に入ることができる(例えば、Fawell et al.P.N.A.S.91:664-668(1994)(非特許文献1))。このような取り込みは、例えば、Richard et al.,J.Biol.Chem.278(1):585-590(2003)(非特許文献2)において概説されている。
【0006】
細胞に容易に取り込まれるこのような分子はまた、これらの分子と一緒に他の分子を細胞内に運ぶのにも使用することができる。細胞内への物質の輸送を促進にすることができる分子は、Tung et al.,Advanced Drug Delivery Reviews 55:281-294(2003)(非特許文献3)に記載のように「膜移行シグナル(membrane translocation signal:MTS)」と名づけられている。ほとんどの重要なMTSは、アルギニンなどの正電荷側鎖を有するアミノ酸を多く含んでいる。このようなカチオン性ペプチドによって細胞に輸送される分子は「積荷(cargo)」と呼ばれることがあり、カチオン性ペプチドに可逆的または不可逆的に連結することができる。可逆的な連結の一例は、Zhang et al.,P.N.A.S.95:9184-9189(1994)(非特許文献4))において見られる。
【0007】
MTS分子は、例えば、Wender et al.,P.N.A.S.97:13003-13008(2000)(非特許文献5);Hallbrink et al.,Biochim.Biophys.Acta 1515:101-109(2001)(非特許文献6);Derossi et al.,Trends in Cell Biology 8:84-87(1998)(非特許文献7);Rothbard et al.,J.Med.Chem.45:3612-3618(2002)(非特許文献8);Rothbard et al.,Nature Medicine 6(11):1253-1247(2000)(非特許文献9);Wadia et al.,Curr.Opinion Biotech.13:52-56(2002)(非特許文献10);Futaki et al;.Bioconj.Chem.12:1005-1011 (2001)(非特許文献11);Rothbard et al.,U.S.Patent Serial No.6,306,993(特許文献1);Frankel et al.,U.S.Patent Serial No.6,316,003(特許文献2);Rothbard et al.,U.S.Patent Serial No.6,495,663(特許文献3);およびMonahan et al.,U.S.Patent Serial No.6,630,351(特許文献4)に記載されている。前記および下記の特許および刊行物は全てその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0008】
MTS分子により促進される取り込みは一般的に特異性がないので、ほとんどまたは全ての細胞への取り込みを促進する。このように、MTS分子は細胞に入ることができ、MTS分子と連結している他の分子の細胞への輸送を促進することができるかもしれないが、このような輸送の制御および調節は依然として難しい。しかしながら、積荷の送達を、ある種の細胞もしくは組織、または動物の体内のある位置もしくは領域に標的化できることが望ましいだろう。
【0009】
従って、MTS分子による積荷分子の送達を標的化、制御、および調節することが当技術分野において依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,306,993号明細書
【特許文献2】米国特許第6,316,003号明細書
【特許文献3】米国特許第6,495,663号明細書
【特許文献4】米国特許第6,630,351号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Fawell et al.P.N.A.S.91:664-668(1994)
【非特許文献2】Richard et al.,J.Biol.Chem.278(1):585-590(2003)
【非特許文献3】Tung et al.,Advanced Drug Delivery Reviews 55:281-294(2003)
【非特許文献4】Zhang et al.,P.N.A.S.95:9184-9189(1994)
【非特許文献5】Wender et al.,P.N.A.S.97:13003-13008(2000)
【非特許文献6】Hallbrink et al.,Biochim.Biophys.Acta 1515:101-109(2001)
【非特許文献7】Derossi et al.,Trends in Cell Biology 8:84-87(1998)
【非特許文献8】Rothbard et al.,J.Med.Chem.45:3612-3618(2002)
【非特許文献9】Rothbard et al.,Nature Medicine 6(11):1253-1247(2000)
【非特許文献10】Wadia et al.,Curr.Opinion Biotech.13:52-56(2002)
【非特許文献11】Futaki et al;.Bioconj.Chem.12:1005-1011 (2001)
【発明の概要】
【0012】
輸送分子によって物質を細胞に制御して送達するための分子、組成物、および方法が提供される。本発明の特徴を有する分子として、切断可能なリンカー部分によって連結されたペプチド部分が挙げられる。切断可能なリンカー部分はペプチドでもよい。本発明者らは、生理学的pHで複数の負電荷を有する部分(例えば、複数の酸性アミノ酸を有するペプチド部分)を付加することによって、複数の塩基性アミノ酸を有するMTS分子の細胞取り込みを阻害または阻止できることを発見した。従って、本発明の一態様は、約2〜約20個の酸性アミノ酸のペプチド部分Aが切断可能なリンカーXによって約5〜約20個の塩基性アミノ酸のペプチド部分Bに連結された化合物であって、ペプチド部分Aがペプチド部分Bに連結している間、細胞への分子の取り込みが阻害または阻止されるような化合物を提供する。酸性部分Aは、酸性アミノ酸でないアミノ酸を含んでもよく、他の部も含んでよい。同様に、塩基性部分Bは、塩基性アミノ酸でないアミノ酸を含んでもよく、他の部も含んでよい。酸性部分Aによる塩基性部分Bの取り込みの阻害または阻止は、Bの取り込みの「拒否(veto)」と呼ばれる。ペプチド部分Aがペプチド部分Bから分離できるようにリンカーXが切断された後、部分Aによる拒否は取り除かれているので、部分Bは細胞に入ることができる。切断可能なリンカーXは、好ましくは、生理学的条件下で切断することができる。
【0013】
さらなる態様において、積荷部を含む積荷部分Cを塩基性部分Bと一緒に細胞内へ輸送するために、積荷部分CをBに取り付けることができる。従って、本発明の一態様は、約2〜約20個の連続した酸性アミノ酸のペプチド部分Aが切断可能なリンカーXによって約5〜約20個の塩基性アミノ酸のペプチド部分Bに連結された化合物であって、ペプチド部分Bは積荷部分Cに共有結合して構造B-Cを形成し、ペプチド部分Aが部分Bに連結している間、MTS化合物の細胞への取り込みが阻害または阻止されるような、化合物を提供する。酸性部分AはB-Cの取り込みを拒否することができる。従って、部分Bと連結している積荷部分Cの細胞膜を横断した輸送も酸性部分Aによって阻害または阻止される。ペプチド部分Aがペプチド部分Bから分離できるようにリンカーXが切断された後、ペプチド部分Aによる取り込み拒否は取り除かれているので、ペプチド部分Bと連結している積荷部分Cは細胞に入ることができる。切断可能なリンカーXは、好ましくは、積荷部分Cの生細胞への輸送を可能にする生理学的条件下で切断することができる。積荷部分Cはまた細胞内で部分Bから分離できるように、塩基性部分Bに切断可能に取り付けることもできる。
【0014】
従って、本発明の一態様は、複数の酸性アミノ酸(例えば、約2〜約20個、好ましくは、約5〜20個の酸性アミノ酸)を有するペプチド部分Aを含む分子を提供し、ペプチド部分Aは、複数の塩基性アミノ酸(例えば、約5〜約20個、好ましくは、約9〜約16個の塩基性アミノ酸)を有するペプチド部分Bを有するMTS分子の取り込みを阻止する効果がある。従って、ペプチド部分Aはまた、複数の塩基性アミノ酸を有するペプチド部分Bによる積荷Cの細胞膜貫通輸送の促進を阻止する効果もある。ペプチド部分Bを有する分子からのペプチド部分Aの切断は、部分Bを含む分子の残存部分が細胞に取り込まれる能力を回復させる効果がある。積荷部分Cがペプチド部分Bに共有結合して構造B-Cを形成している分子からのペプチド部分Aの切断は、構造B-Cが細胞に取り込まれる能力を回復させる効果がある。
【0015】
1つの態様において、細胞膜を横断して積荷部分を制御可能に輸送するための分子として、構造A-X-B-Cを有する分子または物質が挙げられる。式中、Cは積荷部を含み、Bは、複数の塩基性アミノ酸(例えば、約5〜約20個、好ましくは、約9〜約16個の塩基性アミノ酸)を有するペプチド部分を含み、BおよびCは共有結合しており、Aは、複数の酸性アミノ酸(例えば、約2〜約20個、好ましくは、約4〜約20個の酸性アミノ酸)を有するペプチド部分を含み、Xは、AとB-Cをつなぐ切断可能なリンカーを含む。ペプチド部分AはB-Cと連結している時には、積荷Cの細胞膜貫通輸送の促進を阻止する効果がある。切断可能なリンカーXが切断されると、ペプチド部分Aは、部分Bおよび積荷部分Cから遊離するなど、分子の残りから遊離する。切断可能なリンカーXが切断された後、積荷部分Cは部分Bと連結したままである。部分Bは、部分Aの非存在下で積荷部分Cの細胞膜貫通輸送を促進する効果がある。
【0016】
模式的な構造A-X-Bを有する分子および模式的な構造A-X-B-Cを有する分子を含む本発明の1つの態様において、部分Aの酸性アミノ酸はグルタミン酸、アスパラギン酸、またはホスホセリンである。酸性アミノ酸はpH6.0で負電荷を有する側鎖を有し、グルタミン酸、アスパラギン酸、または他の酸性アミノ酸でもよい。複数の酸性アミノ酸を有する酸性部分Aは、約2〜約20個、または約5〜約20個、または好ましくは約5〜約9個の酸性アミノ酸を有してもよい。好ましい態様において、部分Aは、5〜9個のグルタミン酸またはアスパラギン酸を含み、5〜9個の連続したグルタミン酸またはアスパラギン酸を含んでもよい。態様において、部分Aの酸性アミノ酸はDアミノ酸である。好ましい態様において、部分Aの酸性アミノ酸は、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸のいずれか、またはその両方である。
【0017】
塩基性アミノ酸はpH6.0で正電荷を有する側鎖を有し、アルギニン、ヒスチジン、リジン、または他の塩基性アミノ酸でもよい。本発明の態様において、部分Bの塩基性アミノ酸はアルギニン、リジン、またはヒスチジンのいずれかである。複数の塩基性アミノ酸を有する塩基性部分Bは、約5個〜約20個、または約9個〜約16個の塩基性アミノ酸を有してもよい。好ましい態様において、部分Bは約9個〜約16個のアルギニンを含み、約9個〜約16個の連続したアルギニンを含んでもよい。本発明の態様において、部分Bの塩基性アミノ酸はDアミノ酸である。好ましい態様において、部分Bの塩基性アミノ酸はD-アルギニン、D-リジン、D-ヒスチジンのいずれか、またはその組み合わせである。
【0018】
積荷部は、MTSと連結することで細胞に輸送され得る任意の分子、材料、物質、または構築物でよい。積荷部分Cは1つまたはそれ以上の積荷部を含んでもよい。積荷部は、例えば、蛍光部、蛍光消光部、放射性部、放射線不透過性部、常磁性部、ナノ粒子、小胞、分子ビーコン、マーカー、マーカー酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、β-ガラクトシダーゼ、もしくは細胞の標識に適した他の酵素)、造影剤(例えば、画像診断用の造影剤)、化学療法剤、放射線増感剤(例えば、放射線療法用の放射線増感剤)、細胞周期に影響を及ぼすペプチドもしくはタンパク質、タンパク質毒素、または細胞への輸送に適した他の積荷でもよい。Cが蛍光部である態様において、リンカーXが切断される前に蛍光部Cの蛍光を消光し、リンカーXが切断された後に蛍光部Cの消光を取り除く効果のある蛍光消光部が部分Aに取り付けられる。
【0019】
切断可能なリンカーXは酸性部分Aと塩基性部分Bを結合する役割を果たしている。切断可能なリンカーXとして、例えば、約2個〜約100個の原子、または約6個〜約30個の原子を挙げることができる。切断可能なリンカー部分Xはアミノ酸残基を含んでもよく、約1個〜約30個、または約2個〜約10個のアミノ酸残基からなるペプチド結合でもよい。本発明の実施に適した切断可能なリンカーXは可撓性リンカーでもよい。好ましい態様において、本発明の実施に適した切断可能なリンカーXは可撓性リンカーであり、長さが約6個〜約24個の原子でもよい。本発明の態様において、Xはペプチド結合を含んでもよい。本発明の好ましい態様において、切断可能なリンカーXはアミノカプロン酸を含む。
【0020】
切断可能なリンカーXは細胞外で切断されるような構成になっていてもよい。本発明の好ましい態様において、切断可能なリンカーXは、細胞または組織の損傷または疾患に関連した状態で切断されるような構成にすることができる。このような状態として、例えば、アシドーシス;(通常、細胞内に閉じ込められている)細胞内酵素の存在(壊死状態を含む(例えば、壊死細胞からこぼれたカルパインもしくは他のプロテアーゼによって切断される));還元環境などの低酸素状態;血栓形成(例えば、リンカーXはトロンビンもしくは血液凝固カスケードに関連した別の酵素によって切断することができる);免疫系活性化(例えば、リンカーXは活性化補体タンパク質の働きによって切断することができる);または疾患もしくは損傷に関連した他の状態が挙げられる。
【0021】
例えば、切断可能なリンカーXはマトリックスメタロプロテアーゼなどの酵素によって切断されるような構成になっていてもよい。切断可能なリンカーを切断することができる他の酵素として、例えば、ウロキナーゼプラスミノゲンアクチベーター(uPA)、リソソーム酵素、カテプシン、前立腺特異的抗原、単純ヘルペスウイルスプロテアーゼ、サイトメガロウイルスプロテアーゼ、トロンビン、カスパーゼ、およびインターロイキン1β変換酵素が挙げられる。本発明の態様において、切断可能なリンカーXはアミノ酸配列PLGLAG(配列番号:1)を含んでもよく、アミノ酸配列EDDDDKA(配列番号:2)を含んでもよい。他の態様において、切断可能なリンカーXはS-S結合を含んでもよく、金属が還元された時に分解する遷移金属錯体を含んでもよい。本発明の特徴を具体化する分子は、酸性アミノ酸を有する複数の部分Aと1つの構造B-Cを連結する複数のリンカーXを有してもよい。
【0022】
本発明の態様において、ペプチド部分Aは、B-Cを含むポリペプチド鎖の末端に位置するか、またはB-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端を含む。Aは、B-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端の近くで連結されてもよく、B-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端で連結されてもよい。または、Aは、B-Cを含むポリペプチド鎖のカルボキシ末端の近くで連結されてもよく、B-Cを含むポリペプチド鎖のカルボキシ末端で連結されてもよい。ポリペプチド鎖B-Cは、B側末端と呼ばれることがある末端およびC側末端と呼ばれることがある末端を有してもよい。切断可能なリンカーXはB側末端の近くに配置されてもよく、B側末端に配置されてもよく、またはC側末端の近くに配置されてもよく、C側末端に配置されてもよい。さらなる態様において、1つまたはそれ以上の部分が直鎖状になっていてもよく、環状になっていてもよい。態様において、本発明の特徴を有する環状分子は1つのリンカーXを有してもよく、複数のリンカーXを有してもよい。
【0023】
本発明のさらなる態様において、積荷を細胞に制御可能に送達することができるペプチドを有する本発明の化合物と適切な担体を含む、組成物および溶液(薬学的組成物を含む)が提供される。積荷を細胞に制御可能に送達することができるこのようなペプチド、およびこのようなペプチドを含む薬学的組成物を生成する方法も提供される。本発明の態様において、酸性部分と塩基性部分との間に切断可能な結合を有する、ペプトイド、カルバメート、ビニル重合体、および他の分子も提供できることが理解されるだろう。
【0024】
本発明の特徴を具体化する分子、組成物、および方法によって、塩基性アミノ酸含有分子の細胞への取り込みが制御できるという利点、および積荷の細胞への送達が制御できるという利点が得られる。細胞への積荷のこのような制御された取り込みおよび制御された送達は、例えば、罹患細胞または罹患組織を有する患者の治療において有用であるかもしれない。例えば、積荷として画像化用造影剤または抗増殖剤を、患者の全ての細胞ではなく癌細胞のみに送達することができるので、非侵襲的画像化を可能にするために、または治療の有効性を高め、起こり得る副作用を減らすために、送達を罹患細胞に標的化できるという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1Aは、塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。 図1Bは、塩基性部分B、2つのリンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有する環状MTS分子の模式図である。
【図2a】積荷部分C、塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。
【図2b】積荷部分C、塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。リンカー部分Xは積荷部分Cと結合している。
【図2c】1つの積荷Cが複数コピーのMTS分子と連結している、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。MTS分子はそれぞれ塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含んでいる。
【図2d】積荷部分C、塩基性部分B、複数の(2つの)リンカー領域X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。
【図2e】積荷部分C、塩基性部分Bを含み、2つのリンカー領域Xが酸性部分Aに隣接している、本発明の特徴を有する環状MTS分子の模式図である。
【図2f】蛍光積荷部分C、塩基性部分B、リンカー領域X、および酸性部分A(クエンチャーQが取り付けられている)を含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。
【図3】本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。ここで、積荷部分Cは造影剤または薬物であり、塩基性部分Bは、8〜10個のD-アルギニン残基の配列(例えば、rrrrrrrr(配列番号:4))であり、リンカー部分Xは、癌細胞の近くで見られるタンパク質分解酵素または還元環境によって切断することができる切断可能なリンカーであり、酸性部分Aは、D-アミノ酸を含む阻害ドメインである。
【図4】本発明の特徴を有する図3のMTS分子の模式図である。ここで、切断可能なリンカーは正常組織付近では切断されず、図3の分子は積荷を正常組織に入れることができない。
【図5】本発明の特徴を有する図3のMTS分子の模式図である。ここで、切断可能なリンカーは癌細胞の近くで見られるタンパク質分解酵素または還元環境によって切断され、図3の分子は積荷を罹患組織に入れることができる。
【図6】図6Aは、エンテロキナーゼの基質であるリンカー部分Xが切断される前の、本発明の特徴を有するペプチドの高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)クロマトグラムを示す。 図6Bは、リンカー部分Xがエンテロキナーゼによって切断された後の、図6AのペプチドのHPLCクロマトグラムを示す。
【図7】図7Aは、マトリックスメタロプロテイナーゼ-2(MMP-2)の基質であるリンカー部分Xが切断される前の、本発明の特徴を有するペプチドのHPLCクロマトグラムを示す。 図7Bは、リンカー部分XがMMP-2によって切断された後の、図7AのペプチドのHPLCクロマトグラムを示す。
【図8】本発明の特徴を有するMTS分子(蛍光積荷部を含む)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞集団の蛍光活性化セルソーター(FACS)分析によって測定された平均蛍光を示す。
【図9】本発明の特徴を有するMTS分子(蛍光積荷部を含む)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞集団のFACS分析によって測定された平均蛍光を示す。
【図10】本発明の特徴を有するMTS分子(蛍光積荷部を含む)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞集団のFACS分析によって測定された平均蛍光を示す。
【図11】本発明の特徴を有するMTS分子(蛍光積荷部を含む)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞集団のFACS分析によって測定された平均蛍光を示す。
【図12】図11のMTS分子と1時間インキュベートしたジャーカット細胞において測定された平均蛍光を示す。
【図13】ジスルフィドリンカーが酸性部分と蛍光標識塩基性部分を結合しているMTS分子と、または蛍光標識塩基性部分のみと10分間インキュベートしたジャーカット細胞において測定された平均蛍光を示す。
【図14a】図14aは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14b】図14bは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14c】図14cは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14d】図14dは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14e】図14eは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14f】図14fは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14g】図14gは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14h】図14hは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14i】図14iは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14j】図14jは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14k】図14kは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14l】図14lは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14m】図14mは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14n】図14nは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図15a】図15aは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15b】図15bは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15c】図15cは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15d】図15dは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15e】図15eは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15f】図15fは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15g】図15gは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15h】図15hは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15i】図15iは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15j】図15jは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15k】図15kは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15l】図15lは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15m】図15mは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15n】図15nは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15o】図15oは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15p】図15pは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15q】図15qは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15r】図15rは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15s】図15sは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16a】図16aは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16b】図16bは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16c】図16cは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16d】図16dは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16e】図16eは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16f】図16fは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16g】図16gは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17a】図17aは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17b】図17bは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17c】図17cは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17d】図17dは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17e】図17eは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17f】図17fは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17g】図17gは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17h】図17hは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17i】図17iは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17j】図17jは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17k】図17kは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17l】図17lは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17m】図17mは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17n】図17nは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17o】図17oは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図18】酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した重合体部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
1つの態様において、本発明の特徴を有するペプチドの一般構造はA-X-Bである。式中、ペプチド部分Bは約5個〜約20個の塩基性アミノ酸を含み、Xは、切断可能なリンカー部分(好ましくは、生理学的条件下で切断することができる切断可能なリンカー部分)であり、ペプチド部分Aは約2個〜約20個の酸性アミノ酸を含む。本発明の特徴を有する分子の一部の態様において、ペプチド部分Bは、約5個〜約20個、または約9個〜約16個の塩基性アミノ酸を含み、一続きの塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン、ヒスチジン、リジン、または他の塩基性アミノ酸)でもよい。本発明の特徴を有する分子の一部の態様において、ペプチド部分Aは、約2個〜約20個、または約5個〜約20個の酸性アミノ酸を含み、一続きの酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸およびアスパラギン酸、または他の酸性アミノ酸)でもよい。塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図を図1Aに示す。態様において、本発明の特徴を有するMTS分子は、図1Bに図示したように環状分子でもよい。従って、本発明の特徴を有するMTS分子は、直鎖状分子、環状分子でもよく、環式部分を含む直鎖状分子でもよい。
【0027】
前記のように、複数の塩基性アミノ酸(例えば、一続きの塩基性アミノ酸)を含む分子は、多くの場合、細胞に取り込まれる。しかしながら、本発明者らは、塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む構造を有する分子は細胞に取り込まれないことを発見した。酸性部分Aは、酸性ではないアミノ酸を含んでもよい。酸性部分Aは、他の部(例えば、負に荷電した部)を含んでもよい。本発明の特徴を有するMTS分子の1つの態様において、酸性部分Aは、アミノ酸を含まない、負に荷電した部分(好ましくは、生理学的pHで約2〜約20の負電荷を有する負に荷電した部分)でもよい。塩基性部分Bは、塩基性でないアミノ酸を含んでもよい。塩基性部分Bは、他の部(例えば、正に荷電した部)を含んでもよい。本発明の特徴を有するMTS分子の態様において、塩基性部分Bは、アミノ酸を含まない、正に荷電した部分(好ましくは、生理学的pHで約5〜約20の正電荷を有する正に荷電した部分)でもよい。酸性部分Aを含めることは、部分Bの細胞への取り込みを阻害または阻止する効果がある。部分Bの塩基性アミノ酸によってもたらされる取り込みのこのような妨害は、酸性部分Aによる取り込みの「拒否」と呼ばれることがある。さらに、本発明者らは、リンカーXを切断して部分Bから部分Aを分離させることには、部分Bを細胞に取り込ませる効果があるという驚くべき発見をした。
【0028】
さらなる態様において、本発明の特徴を有するペプチドの一般構造はA-X-B-Cである。式中、Cは積荷部であり、Xはリンカーであり、Aは酸性部分であり、Bは塩基性部分である。酸性部分Aは、酸性でないアミノ酸を含んでもよい。酸性部分Aは、他の部(例えば、負に荷電した部)を含んでもよい。本発明の特徴を有するMTS分子の態様において、酸性部分Aは、アミノ酸を含まない、負に荷電した部分(好ましくは、生理学的pHで約2個〜約20個の負電荷を有する負に荷電した部分)でもよい。塩基性部分Bは、塩基性でないアミノ酸を含んでもよい。塩基性部分Bは、他の部(例えば、正に荷電した部)を含んでもよい。本発明の特徴を有するMTS分子の態様において、塩基性部分Bは、アミノ酸を含まない、正に荷電した部分(好ましくは、生理学的pHで約5個〜約20個の正電荷を有する正に荷電した部分)でもよい。好ましい態様において、部分Aにおける負電荷の量は部分Bにおける正電荷の量とほぼ同じである。
【0029】
積荷部Cは、画像診断用の造影剤、または化学療法薬もしくは治療用の放射線増感剤でもよい。Bは、例えば、約5個〜約20個の塩基性アミノ酸(例えば、一続きの塩基性アミノ酸)(アルギニンが好ましいが、ヒスチジンも適しており、同様にリジンまたは他の塩基性アミノ酸も適している)を有するペプチド部分でもよい。Xは、切断可能なリンカー(好ましくは、生理学的条件下で切断することができる切断可能なリンカー)である。Aは、約2個〜約20個、約2個〜約20個の酸性アミノ酸(一続きの酸性アミノ酸)を有するペプチド部分でもよい。本発明の特徴を有する分子の一部の態様において、グルタミン酸およびアスパラギン酸がペプチド部分Aに好ましい酸性アミノ酸である。積荷部分C、塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図を図2Aに図示した。
【0030】
本発明者らは、酸性部分Aを含めることには、部分Bおよび部分Cを組み合わせた分子の細胞への取り込みを阻害または阻止する効果もあるという驚くべき発見をした。さらに、本発明者らは、リンカーXを切断して部分Bから部分Aを分離させることには、部分Bおよび部分Cを細胞に取り込ませる効果があるという発見をした。従って、積荷Cの送達は、本発明の特徴を有する分子によって制御および促進することができる。
【0031】
例えば、ペプチド部分Aが約5個〜約9個の連続したグルタミン酸およびアスパラギン酸を含有し、Xが、長さが約2個〜約100個または約6個〜約30個の原子の可撓性リンカーである場合、ペプチド部分B(例えば、9個の連続したアルギニン残基の配列)が細胞への取り込みを引き起こす通常の能力は妨害される。リンカーXが切断されると、部分Bおよび部分Cから部分Aが分離し、部分Aによる拒否が軽減する。従って、部分BはAから分離されると、積荷Cを細胞に取り込ませる通常の能力が回復する。このような細胞取り込みは、一般的に、切断事象の位置の近くで起こる。従って、標的細胞で、または標的細胞の近くで切断されるように切断可能なリンカーXを設計することが、積荷Cを標的細胞に取り込ませるのに有効である。Xが細胞外で切断されると、Aが分子の残りから分離して、分子の残りが細胞に取り込まれる。
【0032】
本発明の特徴を有するMTS分子は任意の長さでよい。本発明の特徴を有するMTS分子の態様において、MTS分子は長さが約7個〜約40個のアミノ酸でよい(リンカーXおよび積荷部分Cの長さを含まない)。他の態様において、特に、複数の非酸性アミノ酸(部分A)または非塩基性アミノ酸(部分B)が部分Aおよび部分Bの一方または両方に含まれる場合、MTS分子の部分Aおよび部分Bは合わせて長さが約50個、または約60個、または約70個のアミノ酸でもよい。MTSの環状部分は約12個〜約60個のアミノ酸を含んでもよい(リンカーXおよび積荷部分Cの長さを含まない)。例えば、本発明の特徴を有する直鎖状MTS分子は、約5個〜約20個の塩基性アミノ酸(好ましくは、約9個〜約16個の塩基性アミノ酸)を有する塩基性部分B、および約2個〜約20個の酸性アミノ酸(例えば、約5個〜約20個、好ましくは、約5個〜約9個の酸性アミノ酸)を有する酸性部分Aを有してもよい。一部の好ましい態様において、本発明の特徴を有するMTS分子は、約9個〜約16個の塩基性アミノ酸および約5個〜約9個の酸性アミノ酸を有する塩基性部分Bを有してもよい。
【0033】
健常細胞において、構造A-X-BまたはA-X-B-Cの完全な状態の化合物は、部分Aが存在するので細胞に入ることができない。従って、厳密に細胞内でXを切断するプロセスは、健常細胞ではXを切断する効果がない。なぜなら、細胞への取り込みを阻止する部分Aは取り込まれず、健常細胞の細胞内酵素に接近しないので、このような細胞内酵素によって効果的に切断されないからである。しかしながら、細胞に損傷または病気があるために、このような細胞内酵素が細胞から漏れ出ている場合、Aの切断が起こり、部分BまたはB-Cは細胞内に入り、標的である付近の細胞に部分Bまたは積荷部分Cが送達される。
【0034】
部分Aは部分Bは、L-アミノ酸またはD-アミノ酸のどちらも含んでもよい。本発明の態様において、免疫原性およびバックグラウンドペプチダーゼまたはプロテアーゼによる非特異的切断を最小限にするために、D-アミノ酸がA部分およびB部分に好ましい。オリゴ-D-アルギニン配列の細胞取り込みが良好である、またはオリゴ-L-アルギニンの細胞取り込みよりより良好ことが知られている。一般構造A-X-BおよびA-X-B-Cは、Aがアミノ末端にある場合、およびAがカルボキシ末端にある場合に有効であり得る(すなわち、ペプチド結合のどちらの方向も許される)。しかしながら、Xがプロテアーゼによってペプチド切断される態様では、Xの切断によって生じる新たなアミノ末端が、さらなる正電荷を、Bに既に存在している正電荷に付与するように、XのC-末端とBのN-末端をつなぐことが好ましい場合がある。
【0035】
積荷部分Cは任意の位置または方向でBに取り付けることができる。積荷部分Cは、部分Bの、リンカーXとは反対の末端に位置する必要はない。Xが切断された後に、CとBが依然として結合している限り、CとBはどの位置でも取り付けることができる。例えば、図2Aおよび2Bに図示したように、積荷部分Cは、部分Bの末端に取り付けられてもよく、部分Bの末端の近くに取り付けられてもよく、リンカーXは部分Bの反対の末端に取り付けられる。積荷部分Cはまた部分Bの末端に取り付けられてもよく、部分Bの末端の近くに取り付けられてもよく、リンカーXは部分Bの同じ末端に取り付けられているか、または部分Bの同じ末端の近くに取り付けられる。本発明の一部の態様において、図2Bに図示したように、リンカーXは、塩基性部分Bと連結している積荷部分Cと連結してもよい。図2Cは、複数の塩基性部分Bと連結した積荷部分Cを含む本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。塩基性部分Bはそれぞれリンカー部分と連結し、リンカーを介して酸性部分Aと連結している。
【0036】
リンカーXは、特定の状態の存在下でまたは特定の環境で切断されるように設計することができる。好ましい態様において、リンカーXは生理学的条件下で切断することができる。このようなリンカーXの切断は、例えば、積荷の送達が望まれる細胞に関連した特定の生理学的シグナルまたは特定の環境によって促進されされもよく、引き起こされてもよい。特定の条件(例えば、特異的酵素)によって切断されるリンカーXを設計すると、細胞取り込みを、このような条件が成り立っている特定の位置に標的化することができる。従って、本発明の特徴を有するMTS分子によって、細胞取り込みを所望の細胞、組織、または領域に特異的に標的化する重要な手段の1つは、このような標的となる細胞、組織、または領域の近くの条件によって切断されるリンカー部分Xを設計することによるものである。リンカーXが切断された後、分子の部分B-CはBおよびCの簡単な結合体であり、場合によっては、リンカーXの残存部分から残った比較的小さな不活性の突出部を保持している。
【0037】
リンカー部分Xは、細胞外環境で見られる状態(例えば、癌性の細胞および組織の近くで見られることがある酸性状態、または低酸素下もしくは虚血下の細胞および組織の近くで見られることがある還元環境)によって;治療すべき状態を有する細胞(例えば、病気、アポトーシス、もしくは壊死のある細胞および組織)の表面に見られる、またはその細胞の近くに放出されたプロテアーゼまたは他の酵素によって;あるいは他の状態または要因によって切断することができる。酸不安定性リンカーは、例えば、cis-アコニット酸リンカーでもよい。pH感受性結合の他の例として、アセタール、ケタール、活性化アミド(例えば、2,3ジメチルマレアミド酸(2,3 dimethylmaleamic acid)のアミド)、ビニルエーテル、他の活性化エーテルおよびエステル(例えば、エノールまたはシリルエーテルまたはエステル)、イミン、イミニウム、エナミン、カルバメート、ヒドラゾン)、ならびに他の結合が挙げられる。リンカーXはアミノ酸またはペプチドでもよい。ペプチドリンカーは任意の適切な長さ(例えば、約3個〜約30個、または好ましくは約6個〜約24個の連続した原子)のリンカー(例えば、約1〜10、好ましくは約2〜8アミノ酸長の直鎖状ペプチド)でよい。切断可能なペプチドリンカーは、プロテアーゼのタンパク質分解作用によってリンカーXが切断されるように、プロテアーゼによって認識および切断されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0038】
重要なシグナルクラスの1つは、転移性腫瘍細胞の浸潤移動において非常に重要な、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMPs)の加水分解活性である。MMPsはまた、炎症および脳卒中において主用な役割を果たしていると考えられている。MMPsは、Visse et al.,Circ.Res.92:827-839(2003)において概説されている。MMPsの働きによって積荷Cの細胞取り込みが誘発されるように、MMPsは、リンカーXを切断し、部分Bおよび部分Cから酸性部分Aを分離させて、積荷Cの細胞取り込みを可能にするのに、MMPsを使用することができる。このような取り込みは、一般的に、Xの切断を誘発するMMPsの近くで行われる。従って、本発明の特徴を有する分子の取り込みことによって、積荷Cの細胞取り込みが、細胞外環境に活性型MMPsを有する特定の細胞、組織、または領域に向けられる。
【0039】
例えば、アミノ酸配列PLGLAG(配列番号:1)を含むリンカーXは、メタロプロテイナーゼ酵素MMP-2(癌および炎症における主要なMMP)によって切断することができる。このようなリンカーXの切断は中心にあるG残基とL残基の間で行われ、これによって、細胞取り込みが10倍〜20倍増加する(実施例4を参照のこと)。様々なMMPsに基質特異性があることがかなり知られているので、リンカーXの特異的感受性を、ある特定のMMPsサブクラスに、または大きなプロテイナーゼMMPファミリーの個々の一員に偏らせるようにすることができる、リンカーXを設計することができる。例えば、ある態様では、膜結合型MMPsによって切断されるように設計されたリンカーXが特に好ましい。なぜなら、膜結合型MMPsの活性は発現細胞の外表面に限局するからである。別の態様において、切断されたまさにその位置から積荷Cが拡散することが望ましく、拡散によって積荷の空間分布が向上する場合に、可溶性分泌型MMPによって切断されるように設計されたリンカーXが好ましい。他のMMPsによって切断可能な他のリンカーXを実施例9において議論する。
【0040】
低酸素は重要な生理学的シグナルである。例えば、低酸素は、癌細胞の放射線耐性および化学療法耐性を強くすると考えられ、また、血管形成を引き起こすとも考えられている。低酸素で傷つけられている組織での、または低酸素で傷つけられている組織の近くでの切断に適したリンカーXを用いると、部分Bおよび部分Cを、癌細胞および癌組織、梗塞領域、ならびに他の低酸素領域に標的化することができる。例えば、ジスルフィド結合を含むリンカーXは低酸素領域において特異的に切断されるので、このような領域の細胞に積荷の送達を標的化する。例えば、漏出性細胞または壊死細胞が存在する低酸素環境では、遊離チオールおよび他の還元剤が細胞外で利用可能になるのに対して、通常、細胞外環境を酸化しているO2は当然のことながら枯渇している。この酸化還元バランスの変化は、リンカーX内部のジスルフィド結合の還元および切断を促進するはずである。チオール-ジスルフィド平衡を利用するジスルフィド結合に加えて、低酸素環境において切断されるように設計されたリンカーXにhz、還元されるとヒドロキノンに分解するキノンを含む結合を使用することができる。
【0041】
壊死は、多くの場合、リンカーXの切断を誘発するのに使用することができる酵素または他の細胞内容物の放出につながる。低酸素が存在しない壊死領域において切断されるように設計されたリンカーXは、例えば、カルパインまたは壊死細胞から放出されることがある他のプロテアーゼによって切断されるリンカーでもよい。このようにリンカーXがカルパインによって切断されると、結合している部分B-Cが部分Aから放出されて、積荷が罹患細胞およびまだ十分に漏出性になっていない付近の細胞に取り込まれる。
【0042】
アシドーシスもまた、損傷のある組織または低酸素組織の部位では、酸化的リン酸化から嫌気的解糖および乳酸産生へのワールブルクシフトのために、よく観察される。このような局所的な酸過剰は、酸不安定性リンカーXを作成することによって(例えば、アセタールまたはビニルエーテル結合をXに含めることにって)感知することができる。または、またはさらに、B内部のアルギニンの一部を、pH7未満でしか陽イオンとならないヒスチジンで置換することによって、アシドーシスを積荷取り込みのトリガーとして使用することができる。
【0043】
本発明の特徴を有する分子は、細胞に取り込ませるための異なる積荷(異なるタイプの積荷および同じタイプの異なる種類の積荷を含む)を運ぶのに適している。例えば、異なるタイプの積荷として、マーカー積荷(例えば、蛍光部もしくは放射性標識部)および治療用積荷(例えば、メトトレキセートもしくはドキソルビシンなどの化学療法用分子)、または他の積荷を挙げることができる。異常細胞または罹患細胞の破壊が治療上必要とされる場合、治療用積荷は、「細胞傷害剤」すなわち細胞の機能を阻害もしくは阻止する物質および/または細胞を破壊する物質を含んでもよい。一部の態様において、本発明の特徴を有する1個の分子が2個以上の積荷部分Cを含んでもよく、その結果、1個の塩基性部分Bが複数の積荷Cと連結されてもよい。このような複数の積荷Cは、マーカー積荷、治療用積荷、または他の積荷を含んでもよい。複数の積荷部を用いると、例えば、放射性マーカーと超音波または造影剤を送達することができ、これによって異なるモダリティーによる画像化が可能になる。または、例えば、放射性積荷と抗癌剤を送達して抗癌活性を高めてもよく、放射性積荷と蛍光積荷を送達して、積荷を取り込んだ細胞を突き止め、特定する複数の手段を可能にしてもよい。
【0044】
ある特定の状態を有する細胞またはある特定の状態を示す領域にある細胞を視覚化するために、蛍光分子などの積荷の送達を使用することができる。例えば、蛍光または他のマーカーを含む積荷を血栓症領域に送達するために、血餅形成カスケードにおける多くのプロテアーゼのいずれかによって切断されるリンカーXを設計することによって、血栓症(血餅形成)を視覚化することができる。同様に、蛍光または他のマーカーを補体活性化領域に送達するために、補体活性化カスケードにおけるプロテアーゼのいずれか1つまたはそれ以上によって切断されるリンカーXを設計することによって、補体活性化を視覚化することができる。このように、蛍光分子は、リンカーXが切断されて部分Aが放出された時に、標的細胞および標的領域に送達することができるマーカーの一例である。
【0045】
本発明の特徴を有する分子は、1つまたはそれ以上の結合によって酸性部分Aを部分Bおよび部分Cに連結できるように、1つまたはそれ以上リンカーXを含んでもよい。部分Aとつながっているこのような結合は、部分B、部分C、または部分Bおよび部分Cの両方とつながっていてもよい。本発明の特徴を有する分子が複数の結合Xを含む場合、部分Aが分子の他の部分から分離するには、全ての結合Xが切断される必要がある。複数のリンカーXの切断は同時に起こってもよく、連続して起こってもよい。部分Aが分子の他の部分から分離するには、分子が2つ以上の状態または環境(「細胞外シグナル」)に遭遇することが必要となるように、複数の結合Xは異なる特異性を有する結合Xを含んでもよい。従って、複数のリンカーXの切断は、このような細胞外シグナルの組み合わせを検出するものとして働く。図2Dは、塩基性部分Bと酸性部分Aを結合する2つのリンカー部分XaおよびXbを含む本発明の特徴を有するMTS分子を示す。図2Eは、塩基性部分Bと酸性部分Aを結合する2つのリンカー領域XaおよびXbを含む本発明の特徴を有する環状MTS分子を示す。図2Dおよび2Eにおいて模式的に示したMTS分子において、リンカーXaおよびXbは両方とも、酸性部分Aが塩基性部分Bから分離して、部分Bおよび積荷部分C(もしあれば)が細胞に入る前に切断されなければならない。リンカー領域は、存在し得る別のリンカーとは独立して、塩基性部分Bまたは積荷部分Cのいずれかに連結してもよく、所望であれば、3つ以上のリンカー領域Xを含めてもよいことが理解されるだろう。
【0046】
所望の細胞、組織、または領域への分子の標的化および送達をさらに調節するために、2つ以上のリンカーXの組み合わせを使用することができる。所望であれば、リンカーXの切断の特異性を広くする、または狭くするために、細胞外シグナルのブール組み合わせを検出することができる。複数のリンカーXが並列に連結されている場合、部分Aが分子の残りから分離する前に各リンカーが切断されなければならないので、切断の特異性は狭くなる。複数のリンカーXが直列に連結されている場合、いずれか1つのリンカーXが切断されると分子の残りから部分Aが分離するので、切断の特異性は広くなる。例えば、プロテアーゼまたは低酸素のいずれかを検出するために(すなわち、プロテアーゼまたは低酸素のいずれかの存在下でXを切断するために)、酸性部分Aを分離するにはプロテアーゼ感受性部位および還元感受性部位のいずれかを切断すれば十分であるので、プロテアーゼ感受性部位および還元感受性部位を直列に配置するようにリンカーXが設計される。または、プロテアーゼおよび低酸素の両方の存在を検出するために(すなわち、プロテアーゼおよび低酸素の存在下でXを切断するが、単独のみの存在下では切断しないために)、互いとジスルフィド結合している少なくとも一対のシステインの間にプロテアーゼ感受性部位を配置するようにリンカーXが設計される。この場合、部分Aを分離するために、プロテアーゼ切断およびジスルフィド還元の両方が必要とされる。
【0047】
腫瘍および他の外傷部位の周辺の毛細血管が漏出性である場合が多いことは、高分子量分子(例えば、約40kDa以上の分子量)が隙間区画に到達する能力を高めるはずである。リンカーXの切断は一般的に細胞外であるので、何らかの傍観者標識(bystander labeling)が予想される。すなわち、関連するプロテアーゼを発現しないが、発現細胞のすぐ隣にいる細胞が積荷の一部を取り込む可能性が高い。腫瘍の場合、細胞表現型が均一でないことと、高いパーセントの疑わしい細胞を除去することが望まれるために、このような傍観者標的化(bystander targeting)は有益であると考えられる。
【0048】
1つだけの機構によって画像化用積荷および治療用積荷の取り込みが媒介できることは、無害のトレーサー量による画像化を用いて、後の治療量が正確に標的組織に集まる可能性が高いかどうか試験することができるので特に価値がある。
【0049】
本発明の特徴を有するMTS分子ではDアミノ酸を使用することができる。例えば、部分Aおよび部分Bのペプチドの一部または全体が本発明の一部の好ましい態様ではD-アミノ酸でもよい。検出可能なマーカーを標的細胞に送達するのに適した本発明の態様において、本発明の特徴を有するMTSは、8個〜10個のD-アルギニンを含む塩基性部分Bに取り付けられた造影剤を積荷Cとして含む。酸性部分AもD-アミノ酸を含んでよい。同様に、8個〜10個のD-アルギニンを含む塩基性部分Bおよび酸性D-アミノ酸を含む酸性部分Aを有するこのような分子によって、薬物を細胞に送達することができる。このようなMTS分子の模式図を図3に示す。
【0050】
本発明の特徴を有するMTS分子は、標準的でないアミノ酸(例えば、ヒドロキシリジン、デスモシン、イソデスモシン、または他の標準的でないアミノ酸)を含んでもよいことが理解されるだろう。本発明の特徴を有するMTS分子は、修飾されたアミノ酸(例えば、メチル化アミノ酸(例えば、メチルヒスチジン、リジンのメチル化型など)、アセチル化アミノ酸、アミド化アミノ酸、ホルミル化アミノ酸、ヒドロキシル化アミノ酸、リン酸化アミノ酸、または他の修飾されたアミノ酸などの翻訳後修飾を受けたアミノ酸を含む)を含んでもよい。本発明の特徴を有するMTS分子はまた、ペプチドミメティック部(非ペプチド結合によって連結された部分、および非アミノ酸部分によって、または非アミノ酸部分に連結されたアミノ酸を含む)を含んでもよい。例えば、本発明の特徴を有するMTS分子は、ペプトイド、カルバメート、ビニル重合体、または非ペプチド結合を有するが、積荷部分を有する塩基性部分に切断可能に連結した酸性部分を有する他の分子を含んでもよい。
【0051】
リンカー部分Xは、例えば、癌細胞の近くで見られることがあるタンパク質分解酵素または還元環境によって切断されるように設計することができる。このような環境または酵素は、一般的に、正常細胞の近くでは見られない。図4は、癌細胞の近くで切断されるように設計された切断可能なリンカーを有する図3に示したMTS分子を図示している。図4に示したように、この切断可能なリンカーは正常組織の近くで切断されない。図4は、部分Bおよび部分B-Cの細胞取り込みを拒否して、積荷が正常組織に入らないようにすることができる部分Aを有するMTSの能力を図示している。
【0052】
しかしながら、図5に図示したように、リンカー部分Xは、マーカーまたは薬物を癌細胞に送達するために、例えば、癌細胞の近くで見られるタンパク質分解酵素または還元環境によって切断することができる。図5に示したように、癌細胞の近くにあるタンパク質分解酵素または還元環境によって切断される切断可能なリンカーXを有する図3のMTS分子は、罹患組織への積荷の侵入を促進することができる。従って、リンカーXの選択的切断および酸性部分Aからの積荷Cおよび塩基性部分Bの分離は、選択された特徴(例えば、酵素)を有するか、ある特定の環境の近くに位置する細胞を標的とした積荷の取り込みを可能にする。従って、本発明の特徴を有する分子は、正常細胞または非標的細胞に積荷を送達することなく、標的細胞に積荷を選択的に送達することができる。
【0053】
一部の態様において、積荷Cはフルオレセインなどの蛍光分子でもよい。蛍光積荷部を用いると、蛍光顕微鏡観察または固定していない培養細胞におけるフローサイトメトリーによる簡単な測定が可能になる。しかしながら、オリゴアルギニン配列(例えば、部分Bを構成する)は、多種多様な積荷C(小さな極性分子からナノ粒子および小胞に及ぶ)を運び入れることが証明されている(Tung&Weissleder(2003)Advanced Drug Delivery Reviews 55:281-294)。従って、本発明の態様において、積荷部分Cは、塩基性部分Bに結合しながら、細胞に取り込まれる任意の適切な積荷部でよい。
【0054】
例えば、インビボでの画像化のために、Cは、陽電子放出同位体(例えば、18F)(陽電子放射型断層撮影法(PET)の場合)、γ線同位体(例えば、99mTc)(単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)の場合)、常磁性の分子またはナノ粒子(例えば、Gd3+キレートまたはコーティングされた磁鉄鉱ナノ粒子)(磁気共鳴画像法(MRI)の場合)、近赤外線フルオロフォア(近赤外線(near-IR)画像法の場合)、ルシフェラーゼ(ホタル、細菌、もしくは腔腸動物)または他の発光分子(生物発光画像法の場合)、あるいはパーフルオロカーボンが満たされた小胞(超音波の場合)で標識することができる。治療目的のために、例えば、適切なクラスの積荷として、a)化学療法剤(例えば、ドキソルビシン、マイトマイシン、パクリタキセル、ナイトロジェンマスタード、エトポシド、カンプトテシン、5-フルオロウラシルなど);b)放射線増感剤(例えば、ポルフィリン(光線力学的療法の場合)または10Bクラスターもしくは157Gd(中性子捕獲治療の場合));あるいはc)アポトーシス、細胞周期、または他の重要なシグナル伝達カスケードを調節するペプチドまたはタンパク質が挙げられるが、これに限定されない。既存の化学療法薬を使用することができるが、それ自体で細胞に入る何らかの能力のために既に選択されているので、理想的でない場合がある。本発明の分子の態様において、多塩基性部分Bの助け無しでは細胞に入ることができない、または細胞から離れることができない積荷が好ましい場合がある。
【0055】
積荷Cは、放射性部(例えば、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32Pなどの放射性同位体、Luの放射性同位体など)を含んでもよい。
【0056】
積荷部分Cは、蛍光部(例えば、蛍光タンパク質、ペプチド、または蛍光染料分子)を含んでもよい。蛍光染料の一般的なクラスとして、キサンテン(例えば、ローダミン、ロドール(rhodol)、およびフルオレセイン)、ならびにその誘導体;ビマン(bimane);クマリンおよびその誘導体(例えば、ウンベリフェロンおよびアミノメチルクマリン);芳香族アミン(例えば、ダンシル);スクアレート(squarate)染料;ベンゾフラン;蛍光シアニン;カルバゾール;ジシアノメチレンピラン(dicyanomethylene pyrane)、ポリメチン(polymethine)、オキサベンズアントラン(oxabenzanthrane)、キサンテン、ピリリウム、カルボスチル(carbostyl)、ペリレン、アクリドン、キナクリドン、ルブレン、アントラセン、コロネン、フェナントレセン(phenanthrecene)、ピレン、ブタンジエン、スチルベン、ランタニド金属キレート錯体、希土類金属キレート錯体、およびこのような染料の誘導体が挙げられるが、これに限定されない。蛍光染料は、例えば、U.S.Pat.No.4,452,720、U.S.Pat.No.5,227,487、およびU.S.Pat.No.5,543,295において議論されている。
【0057】
積荷部分Cはフルオレセイン染料を含んでもよい。代表的なフルオレセイン染料として、5-カルボキシフルオレセイン、フルオレセイン-5-イソチオシアネート、および6-カルボキシフルオレセインが挙げられるが、これに限定されない。他のフルオレセイン染料の例は、例えば、U.S.Pat.No.6,008,379、U.S.Pat.No.5,750,409、U.S.Pat.No.5,066,580、およびU.S.Pat.No.4,439,356で見ることができる。積荷部分Cはローダミン染料を含んでもよい。ローダミン染料は、例えば、テトラメチルローダミン-6-イソチオシアネート、5-カルボキシテトラメチルローダミン、5-カルボキシロドール誘導体、テトラメチルローダミンおよびテトラエチルローダミン、ジフェニルジメチルローダミンおよびジフェニルジエチルローダミン、ジナフチルローダミン、ローダミン101塩化スルフォニル(テキサスレッド(登録商標)の商品名で販売されている)、ならびに他のローダミン染料である。他のローダミン染料は、例えば、U.S.Pat.No.6,080,852、U.S.Pat.No.6,025,505、U.S.Pat.No.5,936,087、U.S.Pat.No.5,750,409で見ることができる。積荷部分Cはシアニン染料を含んでもよい。シアニン染料は、例えば、Cy3、Cy3B、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7である。
【0058】
前記の化合物またはこれらの誘導体の一部は蛍光の他にリン光を出すか、リン光のみを出す。一部のリン光化合物は、ポルフィリン、フタロシアニン、多環芳香族化合物(例えば、ピレン、アントラセン、およびアセナフテン)などを含み、積荷部分Cであってもよく、積荷部分Cに含まれてもよい。積荷部分Cはまた、例えば、(4-ジメチルアミノ-フェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)基などの蛍光クエンチャーであってもよく、蛍光クエンチャーを含んでもよい。
【0059】
フルオロフォアの蛍光がクエンチャーによって消光されるように、一対の化合物をつないで、フルオロフォアを有する相補領域と蛍光クエンチャーを有する相補領域が一緒に結合している分子ビーコンを形成してもよい。相補領域の一方または両方が積荷部分Cの一部でもよい。相補領域の一方(例えば、蛍光部)だけが積荷部分Cの一部であり、クエンチャー部がリンカーXまたは酸性部分Aの一部である場合、リンカーXが切断されると蛍光部分が蛍光を発し、切断が検出される。分子ビーコンの蛍光部分が細胞に取り込まれると、細胞が検出される。例えば、図2Fに図示したように、クエンチャーQを酸性部分Aに取り付けて、本発明の特徴Q-A-X-B-C(式中、積荷Cは蛍光でありQによって消光される)を有するMTS分子を形成することができる。QによるCの消光は、Xが切断されると軽減して、部分B-Cを取り込んだ細胞が蛍光標識される。蛍光の脱消光(dequenching)と選択的取り込みを組み合わせると、Xを切断できる組織とXを切断できない組織との対比が強調されるはずである。
【0060】
積荷Cは、化学療法部(例えば、癌治療において有用な化合物)または他の治療部(例えば、虚血組織もしくは壊死組織の治療において有用な薬剤)、あるいは他の治療剤を含んでもよい。
【0061】
本発明の特徴を有するMTS分子は、標準的な合成技術(例えば、固相ペプチド合成を含む固相合成)によって合成することができる。Fmocを使用するペプチド合成の一例を以下の実施例1として示す。例えば、ペプチド合成のための従来の固相法は、N-α-保護アミノ酸無水物を結晶の形で調製するか、または溶解状態で新鮮に調製し、N-末端での連続アミノ酸付加に使用することから始まってもよい。残基を付加するごとに、(固体支持体に付着している)成長中のペプチドを酸処理してN-α-保護基を除去し、数回洗浄して、残存している酸を除去し、ペプチド末端を反応媒体に接近しやすくする。次いで、ペプチドを活性化N-保護アミノ酸対称無水物と反応させ、固体支持体を洗浄する。反応した成長中のペプチド分子のパーセントを高めるために、残基付加工程ごとに、全部で2つまたは3つの別々の付加反応のためにアミノ酸付加反応を繰り返してもよい。一般的に、最初の12個の残基の付加のために1〜2回の反応サイクルが用いられ、残りの残基のために2〜3回の反応サイクルが用いられる。
【0062】
成長ペプチド鎖が完成した後、ペプチドを脱ブロックし、支持体から放出するために、保護ペプチド樹脂を強酸(例えば、フッ化水素酸またはトリフルオロ酢酸の液体)で処理する。アミド化ペプチドを調製するために、合成に用いられる樹脂支持体は、ペプチドを樹脂から切断した後にC末端アミドをもたらすように選択される。強酸を取り除いた後、ペプチドを1M酢酸溶液に抽出し、凍結乾燥してもよい。ペプチド二量体およびさらに高い分子量の重合体を除去するために、また、望ましくない塩を除去するために、ペプチドを、ゲル濾過による初回分離によって単離することができる。部分的に精製されたペプチドを、調製用HPLCクロマトグラフィーによってさらに精製してもよく、ペプチドの純度および同一性を、アミノ酸組成分析、質量分析、および分析用HPLC(例えば、2種類の溶媒系での分析用HPLC)によって確認してもよい。
【0063】
本発明はまた、本明細書に記載のMTS分子をコードするポリヌクレオチドを提供する。用語「ポリヌクレオチド」は、少なくとも10塩基長のヌクレオチド重合体を意味する。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、またはいずれかのタイプのヌクレオチドの修飾型でもよい。この用語は、一本鎖型および二本鎖型のDNAを含む。従って、この用語は、例えば、ベクター(例えば、発現ベクター)に組み込まれる組換えDNA、自己複製プラスミドもしくはウイルスに組み込まれる組換えDNA、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれる組換えDNA、あるいは他の配列とは無関係の別の分子(例えば、cDNA)として存在する組換えDNAを含む。
【0064】
これらのポリヌクレオチドとして、本発明の特徴を有するMTS分子をコードするDNA配列、cDNA配列、およびRNA配列、またはその一部が挙げられる。ペプチド部分は、望ましいアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドによる合成を含む、組換え手段によって生成することができる。このようなポリヌクレオチドはまたプロモーターおよび他の配列を含んでもよく、宿主細胞においてトランスフェクション用ベクター(安定したトランスフェクションでもよく、一過的なトランスフェクションでもよい)に組み込まれてもよい。
【0065】
発現ベクターの構築およびトランスフェクトされた細胞における遺伝子の発現では、当技術分野において周知の分子クローニング法が用いられる。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning--A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N. Y.,(1989)およびCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel et al.,eds.,(Current Protocols,Greene Publishing Associates,Inc.とJohn Wiley&Sons,Inc.の合弁事業,最新補遺)を参照のこと。関心対象のポリペプチドの発現をコードする配列で細胞をトランスフェクトするのに用いられる核酸は、一般的に、ポリペプチドの発現をコードするヌクレオチド配列と作動可能に連結した発現制御配列を含む発現ベクターの形をしている。本明細書で使用する「作動可能に連結した」は、このように述べられた成分が意図したように機能できる関係にある並置を意味する。コード配列と作動可能に連結している制御配列は、制御配列と適合する条件下でコード配列が発現するように連結されている。「制御配列」は、制御配列が連結しているコード配列および非コード配列を発現させるのに必要なポリヌクレオチド配列を意味する。制御配列は、一般的に、プロモーター、リボソーム結合部位、および転写終結配列を含む。用語「制御配列」は、最低でも、存在すると発現に影響を及ぼす成分を含むことが意図され、また、存在すると有利なさらなる成分(例えば、リーダー配列および融合パートナー配列)を含んでもよい。本明細書で使用する用語「(ポリヌクレオチドの)発現をコードするヌクレオチド配列」は、mRNAが転写および翻訳されるとポリペプチドを産生する配列を意味する。これは、例えば、イントロンを含有する配列を含んでもよい。本明細書で使用する用語「発現制御配列」は、作動可能に連結している核酸配列の発現を調節する核酸配列を意味する。発現制御配列は、発現制御配列が核酸配列の転写(適宜、翻訳)を制御および調節する時に、核酸配列に作動可能に連結される。従って、発現制御配列は、適切なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の前に開始コドン(すなわち、ATG)、イントロン用のスプライシングシグナル、mRNAを適切に翻訳するための遺伝子の正しい読み枠の維持、および停止コドンを含んでもよい。
【0066】
蛍光表示コード配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築するために、当業者に周知の方法を使用することができる。これらの方法として、インビトロ組換えDNA法、合成法、およびインビボ組換え/遺伝子組換えが挙げられる(例えば、Maniais,et al.,Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.,1989に記載の技法を参照のこと)。組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当業者に周知の従来法によって行うことができる。宿主が大腸菌などの原核生物である場合、DNA取り込みが可能なコンピテント細胞は、指数増殖期後に採取し、その後に当技術分野において周知の手順によるCaCl2法で処理した細胞から調製することができる。または、MgCl2またはRbClを使用することができる。宿主細胞のプロトプラストを形成した後に、またはエレクトロポレーションによって、形質転換を行うこともできる。
【0067】
宿主が真核生物である場合、リン酸カルシウム共沈、従来の機械的手段(例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソームに入れたプラスミドの挿入)、またはウイルスベクターなどのDNAトランスフェクション法を使用することができる。真核細胞はまた、本発明の融合ポリペプチドをコードするDNA配列と、選択可能な表現型をコードする第2の外来DNA分子(例えば、単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子)でコトランスフェクトすることもできる。別の方法は、真核生物ウイルスベクター(例えば、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルス)を用いて、真核細胞に一過的に感染させるか、または真核細胞を形質転換し、タンパク質を発現する方法である(Eukaryotic Viral Vectors,Cold Spring Harbor Laboratory,Gluzman ed.,1982)。原核生物または真核生物において発現した本発明のポリペプチドを単離および精製する技法は、任意の従来の手段(例えば、調製用クロマトグラフィー分離および免疫学的分離(例えば、モノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体または抗原の使用を伴う免疫学的分離))によるものでよい。
【0068】
本発明の化合物は薬学的に有用な組成物に処方できることが理解されるだろう。このような薬学的組成物は既知の方法に従って調製することができる。例えば、本発明の特徴を有し、積荷部分C(例えば、治療剤部)を有するMTS化合物は、薬学的に許容される担体ビヒクルと混合して組み合わせることができる。適切なビヒクルおよびその処方物(他のヒトタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)を含む)は、例えば、本明細書に参考として組み入れられる、E.W.MartinによるRemington's Pharmaceutical Sciencesで述べられている。効果的な投与に適した薬学的に許容される組成物を調製するために、このような組成物は有効量の化合物を適量のビヒクルと一緒に含有している。投与量および投与計画は、当技術分野において周知の方法((例えば、実験動物において)ある範囲の用量を実験動物または被検体に与え、応答を記録することによって、有効量(処置した半分の実験動物が処置に対して応答を示す量)(ED50)を求めることを含む)によって、適応症および化合物について決定することができる。
【実施例】
【0069】
実施例1
ペプチド合成
細胞取り込みを調節することができる多数のペプチドを合成した。下記において、以下の記号を使用する場合には、指示した意味をもつものとして使用した。Fl=フルオレセイン、aca=アミノカプロン酸リンカー(-HN-(CH2)5-CO-)、C=L-システイン、E=L-グルタミン酸、R=L-アルギニン、D=L-アスパラギン酸、K=L-リジン、A=L-アラニン、r=D-アルギニン、c=D-システイン、e=D-グルタミン酸、P=L-プロリン、L=L-ロイシン、G=グリシン、V=バリン、I=イソロイシン、M=メチオニン、F=フェニルアラニン、Y=チロシン、W=トリプトファン、H=ヒスチジン、Q=グルタミン、N=アルギニン、S=セリン、およびT=スレオニン。下記の配列において、小文字はアミノ酸のD異性体を示している。
【0070】
ペプチドを、固相合成法ならびに市販のFmocアミノ酸、樹脂、および他の試薬を用いて、ペプチド合成装置(Applied BiosystemsによるPioneer Peptide Synthesis System)において合成した。ペプチドをTFA/チオアニソール/トリイソプロピルシランまたはTFA/チオアニソール/トリイソプロピルシラン/エタンジチオールで切断した。ペプチドのアミノ基を、5-(および-6)カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステルで標識するか、ペプチドのチオール基を5-ヨードアセトアミドフルオレセインで標識した。粗ペプチドをHPLCで精製し、一晩凍結乾燥した。それぞれのペプチド組成物を質量分析で確認した。
【0071】
実施例2
エンテロキナーゼによるペプチド切断
水保存液に溶解した0.38mMペプチド10μlを、1U/μlエンテロキナーゼ(Invitrogen,EKmax)10μlに添加し、反応混合物5μlをHPLC(440nmでモニタリングする)に注入することによって、切断の進行をモニタリングした。ペプチドはエンテロキナーゼの基質になるように設計し、エンテロキナーゼはK残基とA残基の間を切断すると予想された。ペプチドEDDDDKA-aca-R9-aca-C(Fl)-CONH2 (配列番号:3)(リンカー部分がKとAの間で切断される前)の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)クロマトグラムを図6Aに図示する。(用語「R9」は9個のアルギニンの配列を示す)。HPLCクロマトグラムから、15分の反応時間の後にペプチドはほぼ完全に切断されたことが分かった。図6Bは、エンテロキナーゼによる切断後の図6AのペプチドのHPLCクロマトグラムを図示している。新たなピークが集められ、質量分析計によって測定された。求められた質量は(予想通り)EDDDDKA-aca-R9-aca-C(Fl)-CONH2 (配列番号:3)の配列のKとAの間の切断に対応している。
【0072】
実施例3
取り込みを拒否する酸性部分を有するペプチド
蛍光積荷部が(複数のアルギニン残基を有する)塩基性部分に結合し、塩基性部分が切断可能なリンカーによって(複数のグルタミン酸残基を有する)酸性部分と連結している、本発明の特徴を有するペプチド分子を合成し、積荷を細胞に送達する能力について試験した。オリゴアルギニンを介した細胞取り込みをオリゴグルタミン酸が拒否したペプチドとして、
が挙げられる。
切断依存的な取り込みを示したペプチドとして、
【0073】
実施例4
マトリックスメタロプロテイナーゼ-2(MMP-2)により切断されるペプチド
Stricklin et al(1983)Biochemistry 22:61およびMarcy et al(1991)Biochemistry 30:6476)に記載のように、MMP-2(5μgを88μlに溶解した)を、Tris-HCl緩衝液中でヒトリウマチ滑液線維芽細胞(human rheumatoid synovial fibroblast)プロ酵素(Invitrogen)から活性化し、次いで、0.5mMペプチド保存液32μlと室温で1時間インキュベートした。図7Aは、MMP-2による切断前の基質ペプチドのHPLCクロマトグラムを図示している。酵素による切断の進行は、215nm吸光度でHPLCによってモニタリングした。図7Bは、MMP-2による切断後のペプチドのHPLCクロマトグラムであり、新たな化学種に完全に変換されたことを示している。
【0074】
実施例5
細胞取り込みのFACS分析
ヒトT細胞株である野生型ジャーカット細胞を、10%(v/v)不活化ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI1640培地中で培養し、密度を約1×106細胞/mlにした。培地を、使用する1日前に新鮮にした。実験の前に、ジャーカット細胞をHBSS緩衝液で3回洗浄し、(0.5-1)×106細胞/mlの密度でHBSSに再懸濁した。細胞取り込み実験では、細胞を、室温で10分間、1μMペプチドまたは化合物で染色し、次いで、冷HBSSで2回洗浄し、FACS分析にかけた。細胞取り込みを530nmでの蛍光によってFACSでモニタリングし、前方散乱光および側方散乱光によって健常であると判断された細胞から5,000〜10,000の事象を記録した。データは記録された細胞集団の平均蛍光を表し、蛍光標識化合物が取り込まれたことを示している。大部分の実験において、Fl-GGR10-CONH2 (グラフでは「R10」と省略する;配列番号:49)を取り込みの正の対照として含めた。
【0075】
指示したペプチド(それぞれ蛍光積荷部を有する)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞において測定した平均蛍光を、図8、図9、および図10に示した。
【0076】
図9に示したように、化合物6-14(配列番号:7)および6-16(配列番号:8)は蛍光の大幅な上昇を示した。このことから、完全な状態のペプチドより切断型ペプチドがかなり多く取り込まれたことが分かる。同様に、図10に示したように、化合物7-2(配列番号:11)および7-6(配列番号:13)も、非切断型化合物の蛍光と比較して、切断後に蛍光の大幅な上昇を示した。従って、これらの結果は、塩基性アミノ酸を有する化合物の細胞取り込みが酸性部分と連結することで阻止されたことを証明している。さらに、これらの結果は、(塩基性アミノ酸を有する)これらのペプチドの蛍光部分の細胞取り込みが酸性部分の切断後に上昇することを証明している。
【0077】
インキュベーション時間が長くなるにつれて、このような細胞取り込みは増大する。図11は、蛍光積荷部、塩基性部分および酸性部分、ならびに切断可能なリンカー部分を有する指示したペプチドと10分間インキュベートしたジャーカット細胞において測定した平均蛍光を図示している。図12に示したように、1時間インキュベートしたジャーカット細胞において測定した平均蛍光は、図11に示したように測定した蛍光と比較して増加している。
【0078】
ジスルフィドリンカーXを有するMTS分子が積荷部分を制御して送達する能力を、以下の構造
を有するペプチド7-45(配列番号:14)を用いて試験した。この構造では、2つのシステイン間のジスルフィド結合が酸性部分H2N-eeeeeec-CONH2 (配列番号:15)と塩基性部分Fl-rrrrrrrrrc-CONH2 (配列番号:16)を連結している。塩基性部分は、積荷部分である蛍光部Fl(フルオレセイン)を運ぶ。図13に図示したように、完全な状態の7-45ペプチド(配列番号:14)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞において測定した平均蛍光は、ジャーカット細胞のみから測定したバックグラウンドの蛍光を少し上回るだけであった。しかしながら、ペプチドを、25mM tris(カルボキシエチル)ホスフィンおよび250mM 2-メルカプトエタンスルホネートで15分間還元し(これにより、ジスルフィドリンカーXが切断される)、ジャーカット細胞と10分間インキュベートすると、細胞に取り込まれる蛍光は、R10の存在下で10分間インキュベートした細胞の蛍光に匹敵するものであった。従って、ジスルフィドリンカーXを有する本発明の特徴を有するMTS分子は、積荷部分を細胞に制御して送達することができる。
【0079】
実施例6
様々な長さを有するMTS分子
本発明の特徴を有するMTS分子は、様々な数の塩基性アミノ酸、様々な数の酸性アミノ酸、および異なるリンカーを有してもよい。本発明の特徴を示す、様々なMTS分子の数例を本実施例において示す。ここでは、蛍光積荷部をフルオレセイン(Fl)で例示し、放射性積荷部を125Iで例示し、治療用積荷をドキソルビシン(DOX)で例示した。
【0080】
実施例7
積荷部として使用するのに適した分子の例
本発明の特徴を有するMTS分子の塩基性部分Bへ積荷部として取り付けるのに適した分子の例を図14に図示する。図14に示した様々な例示的な分子はそれぞれ、括弧内の識別文字によって標識されている。この分子には、末端が点になっている1つの結合がある。末端が点になっているこの結合は、積荷分子を塩基性部分Bに取り付けるのに使用することができる。点の付いた結合の近くにある角括弧内の文字は、積荷分子が結合し得る適切な原子を示している。例えば、[N]は、積荷分子が窒素(例えば、リジンεアミノ基の窒素、またはMTS分子のペプチドバックボーンのαアミノ基の窒素)に結合できることを示している。[S]は硫黄原子(例えば、システイン硫黄原子)との結合を示している。
【0081】
これらの例示的な積荷分子の2つ以上が1つの塩基性部分Bに取り付けられてもよく、複数の積荷分子を運ぶ複数の塩基性部分Bに、2種類以上の積荷分子が取り付けられてもよい。積荷分子はまた、より複雑な構造の一部であってもよい。例えば、(k)と表示した積荷部の黒っぽい円は、架橋アミノ化デキストランで覆われた超常磁性酸化鉄コアを含む粒子を表している(このような粒子の半径は一般的に約22ナノメートルである)。ペンダント基を1つだけ示したが、このような粒子は複数のペンダント基(一般的に、約4個〜約20個)を有してもよい。
【0082】
実施例8
酸性部分Aに含めるのに適した酸性部の例
酸性部分Aは、図15に図示したような酸性部を含んでもよい。このような部は、ペプチド結合、ジスルフィド結合、または他の結合によって、リンカーXおよび酸性部分Aに連結することができる。図中の破線は、可能な取り付け点を示している。この図および後の図において、角括弧内の部は繰り返しが可能なモチーフを示している。文字(例えば「x」)はモチーフを繰り返すことができる回数を示し、多くの可能な値(一般的に、約1〜約100、好ましくは約1〜約20)をとることができる)。このような酸性部は任意の適切なやり方で酸性部分Aに取り付けることができることが理解されるだろう。態様において、本発明の特徴を有するMTS分子の酸性部分Aは、部分的に、図15に図示したような酸性部からなってもよく、主に、図15に図示したような酸性部からなってもよく、本質的に完全に、図15に図示したような酸性部からなってもよい。
【0083】
実施例9
リンカー部の例
本発明の特徴を有するMTS分子において使用にするのに適したリンカーは、生理学的条件下で酵素によって切断可能なペプチドまたは他の分子でもよい。例えば、リンカーは、メタロプロテアーゼのような酵素によって切断することができてもよい。MMP-2によって切断可能なリンカーは前述されている。さらに、例えば、MMP-9、MMP-11、およびMMP-14などの他のメタロプロテアーゼによって切断可能なリンカーも適している。例えば、MMP-9によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
PR(S/T)(L/I)(S/T)(配列番号:29)
を含んでもよい(式中、括弧内の文字は、指示したアミノ酸のいずれか1つが配列内のその位置にあり得ることを示している)。MMP-11によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GGAANLVRGG(配列番号:30)
を含んでもよく、MMP-14(MT1-MMP)によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
SGRIGFLRTA(配列番号:31)を含んでもよい。
【0084】
ウロキナーゼプラスミノゲンアクチベーター(uPA)によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
SGRSA(配列番号:32)を含んでもよい。
【0085】
リソソーム酵素によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GFLG(配列番号:33)、
ALAL(配列番号:34)、およびFK
の1つまたはそれ以上を含んでもよい。
【0086】
ペプチドリンカーはカテプシンによって切断することができてもよい。例えば、カテプシンBによって切断可能なリンカーはKK配列またはRR配列を含んでもよく、その両方を含んでもよい(この場合、切断は一般的にリジンまたはアルギニンの間で起こる)。カテプシンDによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
PIC(Et)F-F(配列番号:35)
を含んでもよい(式中、C(Et)は、S-エチルシステイン(エチル基がチオールに取り付けられたシステイン)を示し、「-」は、この配列および後の配列における代表的な切断部位を示している)。カテプシンKによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GGPRGLPG(配列番号:36)
を含んでもよい。
【0087】
前立腺特異的抗原によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
HSSKLQ-(配列番号:37)
を含んでもよい。
【0088】
単純ヘルペスウイルスプロテアーゼによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
LVLA-SSSFGY(配列番号:38)
を含んでもよい。
【0089】
HIVプロテアーゼによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GVSQNY-PIVG(配列番号:39)
を含んでもよい。
【0090】
サイトメガロウイルスプロテアーゼによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GVVQA-SCRLA(配列番号:40)
を含んでもよい。
【0091】
トロンビンによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
f(Pip)R-S(配列番号:41)
を含んでもよい。式中、「f」はD-フェニルアラニンを示し、「Pip」は、ピペリジン-2-カルボン酸(ピペコリン酸,六員環を有するプロリン類似体)を示す。
【0092】
カスパーゼ-3によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
DEVD-(配列番号:42)
を含んでもよい。
【0093】
インターロイキン1β変換酵素によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GWEHD-G(配列番号:43)
を含んでもよい。
【0094】
さらに、本発明の特徴を有するMTS分子において使用するのに適したリンカーは、生理学的条件下でプロテアーゼ以外の薬剤によって切断することができてもよい。リンカーはまた非ペプチド分子でもよい。リンカーとして適した酵素切断可能な部および非酵素的に切断可能な部のいくつかの例を図16に図示した。様々な切断可能なリンカーの例を、切断につながる条件の表示と共に示した。例えば、(a)と表示したリンカーの切断は、β-ラクタマーゼによって達成することができる。(b)と表示したリンカーの切断は、光(例えば、単一光子の紫色光または二光子の赤外光)への暴露によって達成することができる。(c)と表示したリンカーの切断は還元条件下で行われる。(d)および(e)と表示したリンカーの切断は酸性状態で行われる。エステラーゼを付加すると、(f)と表示したリンカーを切断することができ、ホスファターゼは(g)と表示したリンカーを切断することができる。
【0095】
実施例10
塩基性部分Bに含めるのに適した塩基性部の例
塩基性部分Bは、図17に図示したような塩基性部を含んでもよい。このような部分Bは、ペプチド結合、ジスルフィド結合、または他の結合によって、リンカーX、積荷C、または塩基性部分Bの別の部分に連結することができる。点は、可能な取り付け点を示すのに対して、角括弧で囲まれた文字は、このような取り付けを行うことができる可能な原子を示している(例えば、[S]は、硫黄原子への結合(例えば、ジスルフィド結合(diusulfide bond))が可能なことを示し、[N]は、窒素への結合が可能なことを示している)。このような塩基性部は、任意の適切なやり方で塩基性部分BまたはMTS分子の他の部分に取り付けることができることが理解されるだろう。例えば、図17の化合物(c)に示した「X」は、リンカーXがD-リジン残基の側鎖に取り付けられることを示している。図17の化合物(c)のアミノ酸部分は配列番号:44である。図17の化合物(d)のアミノ酸部分は配列番号:45である。図17の化合物(e)のアミノ酸部分は配列番号:46である。図17の化合物(f)のアミノ酸部分は配列番号:47である。態様において、本発明の特徴を有するMTS分子の塩基性部分Bは、部分的に、図17に図示したような塩基性部からなってもよく、主に、図17に図示したような塩基性部からなってもよく、本質的に完全に、図17に図示したような塩基性部からなってもよい。
【0096】
AとBの組み合わせの中には他の組み合わせより適しているものもあることが理解されるだろう。例えば、AおよびBが両方ともペプチドであるか、AおよびBが両方ともペプトイドであるか、またはAおよびBが両方ともカルバメートになるように、本発明の特徴を有するMTS分子の部分Aおよび部分Bの両方に同じバックボーン構造が存在することが好ましい。例えば、Aの負電荷の数とBの正電荷の数がほぼ同じになるように、一方の部分の実効電荷の絶対値が他方の部分の実効電荷の絶対値とほぼ同じであるか、または同じであることも好ましい。
【0097】
実施例11
重合酸性部分の例
別の態様において、酸性部分Aは重合体を含んでもよく、重合体の一部でもよい。好ましい態様において、重合体の平均分子量は約50kDa以上である。このような高分子量は免疫原性を弱め、排出を遅らせ、血流中での滞留時間を長くすることで薬力学特性を改善する。さらに、このような大きさの重合体は、正常組織より漏出性の高い毛細血管を有し、リンパ排液が損なわれていることが多い腫瘍において「EPR(enhanced permeability and retention)」の恩恵を受ける。これらの特性によって、重合体の腫瘍対正常組織における濃度比は低分子量薬物のものより高くなる。重合体担体の利益の最近の議論については、Kopecek et al(2001)J.Controlled Release 74:147-158;Luo&Prestwich(2002)Current Cancer Drug Targets 2:209-226;Maeda et al(2003)International Immunopharmacology 3:319-328;およびTorchilin&Lukyanov(2003)Drug Discovery Today 8:259-266を参照のこと。このEPR効果は、正常組織と比較した腫瘍組織での濃度の上昇につながる、腫瘍付近で見られる酵素による、または条件下での本発明の特徴を有するMTS分子のリンカーXの特異的な切断に起因する腫瘍感受性をさらに補強するはずである。Xの切断は、塩基性部分BおよびBに取り付けられた積荷Cを重合酸性部分Aから放出させ、BおよびCを細胞に取り込ませる効果がある。好ましい態様では、リンカーXが完全な状態のままで、重合体は、BおよびCの取り込みを拒否するのに十分な数の負電荷を運ぶ。このような重合体の例を図18に示す。図18の化合物(c)のアミノ酸部分は配列番号:48である。
(配列表)
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞膜を横断して物質を輸送するための組成物および方法、ならびにこのような組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連邦政府の支援による研究に関する記載
本研究は一部、米エネルギー省からの助成金(DE-FG03-01ER63276)および米国立衛生研究所(NINCDS)からの助成金(NS27177)による助成を受けた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の背景
序論
細胞膜は細胞の外周を定め、細胞内部への輸送および細胞内部から外への輸送を調節している。細胞膜は主に脂質およびタンパク質からなり、親水性の表面が疎水性の内部を取り囲み、物質が細胞に入る前には疎水性内部を通過しなければならない。多くの小さな親油性化合物は受動的に細胞膜を横断することができるが、ほとんどの化合物、粒子、および物質は生細胞に入るために能動的な機構に頼らなければならない。
【0004】
膜貫通輸送
細胞内外への輸送の調節は、細胞が連続して生存するために極めて重要である。例えば、細胞膜は、多くの重要な物質の膜通過を促進することができる、イオンチャンネル、ポンプ、および交換体を含んでいる。しかしながら、膜貫通輸送は選択的である。すなわち、細胞膜の主な役割は、望ましい物質を細胞内に入れ、望ましくない物質を出すことに加えて、物質が細胞内部に無秩序に入ってこないようにすることである。細胞膜のこの障壁機能が、細胞へのマーカー、薬物、核酸、および他の外因性物質の送達を難しくしている。
【0005】
過去10年間にわたって、細胞に容易に入ることができるペプチド配列が特定されてきた。例えば、ヒト免疫不全症ウイルス1(HIV-1)のTatタンパク質は細胞外環境から細胞に入ることができる(例えば、Fawell et al.P.N.A.S.91:664-668(1994)(非特許文献1))。このような取り込みは、例えば、Richard et al.,J.Biol.Chem.278(1):585-590(2003)(非特許文献2)において概説されている。
【0006】
細胞に容易に取り込まれるこのような分子はまた、これらの分子と一緒に他の分子を細胞内に運ぶのにも使用することができる。細胞内への物質の輸送を促進にすることができる分子は、Tung et al.,Advanced Drug Delivery Reviews 55:281-294(2003)(非特許文献3)に記載のように「膜移行シグナル(membrane translocation signal:MTS)」と名づけられている。ほとんどの重要なMTSは、アルギニンなどの正電荷側鎖を有するアミノ酸を多く含んでいる。このようなカチオン性ペプチドによって細胞に輸送される分子は「積荷(cargo)」と呼ばれることがあり、カチオン性ペプチドに可逆的または不可逆的に連結することができる。可逆的な連結の一例は、Zhang et al.,P.N.A.S.95:9184-9189(1994)(非特許文献4))において見られる。
【0007】
MTS分子は、例えば、Wender et al.,P.N.A.S.97:13003-13008(2000)(非特許文献5);Hallbrink et al.,Biochim.Biophys.Acta 1515:101-109(2001)(非特許文献6);Derossi et al.,Trends in Cell Biology 8:84-87(1998)(非特許文献7);Rothbard et al.,J.Med.Chem.45:3612-3618(2002)(非特許文献8);Rothbard et al.,Nature Medicine 6(11):1253-1247(2000)(非特許文献9);Wadia et al.,Curr.Opinion Biotech.13:52-56(2002)(非特許文献10);Futaki et al;.Bioconj.Chem.12:1005-1011 (2001)(非特許文献11);Rothbard et al.,U.S.Patent Serial No.6,306,993(特許文献1);Frankel et al.,U.S.Patent Serial No.6,316,003(特許文献2);Rothbard et al.,U.S.Patent Serial No.6,495,663(特許文献3);およびMonahan et al.,U.S.Patent Serial No.6,630,351(特許文献4)に記載されている。前記および下記の特許および刊行物は全てその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0008】
MTS分子により促進される取り込みは一般的に特異性がないので、ほとんどまたは全ての細胞への取り込みを促進する。このように、MTS分子は細胞に入ることができ、MTS分子と連結している他の分子の細胞への輸送を促進することができるかもしれないが、このような輸送の制御および調節は依然として難しい。しかしながら、積荷の送達を、ある種の細胞もしくは組織、または動物の体内のある位置もしくは領域に標的化できることが望ましいだろう。
【0009】
従って、MTS分子による積荷分子の送達を標的化、制御、および調節することが当技術分野において依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,306,993号明細書
【特許文献2】米国特許第6,316,003号明細書
【特許文献3】米国特許第6,495,663号明細書
【特許文献4】米国特許第6,630,351号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Fawell et al.P.N.A.S.91:664-668(1994)
【非特許文献2】Richard et al.,J.Biol.Chem.278(1):585-590(2003)
【非特許文献3】Tung et al.,Advanced Drug Delivery Reviews 55:281-294(2003)
【非特許文献4】Zhang et al.,P.N.A.S.95:9184-9189(1994)
【非特許文献5】Wender et al.,P.N.A.S.97:13003-13008(2000)
【非特許文献6】Hallbrink et al.,Biochim.Biophys.Acta 1515:101-109(2001)
【非特許文献7】Derossi et al.,Trends in Cell Biology 8:84-87(1998)
【非特許文献8】Rothbard et al.,J.Med.Chem.45:3612-3618(2002)
【非特許文献9】Rothbard et al.,Nature Medicine 6(11):1253-1247(2000)
【非特許文献10】Wadia et al.,Curr.Opinion Biotech.13:52-56(2002)
【非特許文献11】Futaki et al;.Bioconj.Chem.12:1005-1011 (2001)
【発明の概要】
【0012】
輸送分子によって物質を細胞に制御して送達するための分子、組成物、および方法が提供される。本発明の特徴を有する分子として、切断可能なリンカー部分によって連結されたペプチド部分が挙げられる。切断可能なリンカー部分はペプチドでもよい。本発明者らは、生理学的pHで複数の負電荷を有する部分(例えば、複数の酸性アミノ酸を有するペプチド部分)を付加することによって、複数の塩基性アミノ酸を有するMTS分子の細胞取り込みを阻害または阻止できることを発見した。従って、本発明の一態様は、約2〜約20個の酸性アミノ酸のペプチド部分Aが切断可能なリンカーXによって約5〜約20個の塩基性アミノ酸のペプチド部分Bに連結された化合物であって、ペプチド部分Aがペプチド部分Bに連結している間、細胞への分子の取り込みが阻害または阻止されるような化合物を提供する。酸性部分Aは、酸性アミノ酸でないアミノ酸を含んでもよく、他の部も含んでよい。同様に、塩基性部分Bは、塩基性アミノ酸でないアミノ酸を含んでもよく、他の部も含んでよい。酸性部分Aによる塩基性部分Bの取り込みの阻害または阻止は、Bの取り込みの「拒否(veto)」と呼ばれる。ペプチド部分Aがペプチド部分Bから分離できるようにリンカーXが切断された後、部分Aによる拒否は取り除かれているので、部分Bは細胞に入ることができる。切断可能なリンカーXは、好ましくは、生理学的条件下で切断することができる。
【0013】
さらなる態様において、積荷部を含む積荷部分Cを塩基性部分Bと一緒に細胞内へ輸送するために、積荷部分CをBに取り付けることができる。従って、本発明の一態様は、約2〜約20個の連続した酸性アミノ酸のペプチド部分Aが切断可能なリンカーXによって約5〜約20個の塩基性アミノ酸のペプチド部分Bに連結された化合物であって、ペプチド部分Bは積荷部分Cに共有結合して構造B-Cを形成し、ペプチド部分Aが部分Bに連結している間、MTS化合物の細胞への取り込みが阻害または阻止されるような、化合物を提供する。酸性部分AはB-Cの取り込みを拒否することができる。従って、部分Bと連結している積荷部分Cの細胞膜を横断した輸送も酸性部分Aによって阻害または阻止される。ペプチド部分Aがペプチド部分Bから分離できるようにリンカーXが切断された後、ペプチド部分Aによる取り込み拒否は取り除かれているので、ペプチド部分Bと連結している積荷部分Cは細胞に入ることができる。切断可能なリンカーXは、好ましくは、積荷部分Cの生細胞への輸送を可能にする生理学的条件下で切断することができる。積荷部分Cはまた細胞内で部分Bから分離できるように、塩基性部分Bに切断可能に取り付けることもできる。
【0014】
従って、本発明の一態様は、複数の酸性アミノ酸(例えば、約2〜約20個、好ましくは、約5〜20個の酸性アミノ酸)を有するペプチド部分Aを含む分子を提供し、ペプチド部分Aは、複数の塩基性アミノ酸(例えば、約5〜約20個、好ましくは、約9〜約16個の塩基性アミノ酸)を有するペプチド部分Bを有するMTS分子の取り込みを阻止する効果がある。従って、ペプチド部分Aはまた、複数の塩基性アミノ酸を有するペプチド部分Bによる積荷Cの細胞膜貫通輸送の促進を阻止する効果もある。ペプチド部分Bを有する分子からのペプチド部分Aの切断は、部分Bを含む分子の残存部分が細胞に取り込まれる能力を回復させる効果がある。積荷部分Cがペプチド部分Bに共有結合して構造B-Cを形成している分子からのペプチド部分Aの切断は、構造B-Cが細胞に取り込まれる能力を回復させる効果がある。
【0015】
1つの態様において、細胞膜を横断して積荷部分を制御可能に輸送するための分子として、構造A-X-B-Cを有する分子または物質が挙げられる。式中、Cは積荷部を含み、Bは、複数の塩基性アミノ酸(例えば、約5〜約20個、好ましくは、約9〜約16個の塩基性アミノ酸)を有するペプチド部分を含み、BおよびCは共有結合しており、Aは、複数の酸性アミノ酸(例えば、約2〜約20個、好ましくは、約4〜約20個の酸性アミノ酸)を有するペプチド部分を含み、Xは、AとB-Cをつなぐ切断可能なリンカーを含む。ペプチド部分AはB-Cと連結している時には、積荷Cの細胞膜貫通輸送の促進を阻止する効果がある。切断可能なリンカーXが切断されると、ペプチド部分Aは、部分Bおよび積荷部分Cから遊離するなど、分子の残りから遊離する。切断可能なリンカーXが切断された後、積荷部分Cは部分Bと連結したままである。部分Bは、部分Aの非存在下で積荷部分Cの細胞膜貫通輸送を促進する効果がある。
【0016】
模式的な構造A-X-Bを有する分子および模式的な構造A-X-B-Cを有する分子を含む本発明の1つの態様において、部分Aの酸性アミノ酸はグルタミン酸、アスパラギン酸、またはホスホセリンである。酸性アミノ酸はpH6.0で負電荷を有する側鎖を有し、グルタミン酸、アスパラギン酸、または他の酸性アミノ酸でもよい。複数の酸性アミノ酸を有する酸性部分Aは、約2〜約20個、または約5〜約20個、または好ましくは約5〜約9個の酸性アミノ酸を有してもよい。好ましい態様において、部分Aは、5〜9個のグルタミン酸またはアスパラギン酸を含み、5〜9個の連続したグルタミン酸またはアスパラギン酸を含んでもよい。態様において、部分Aの酸性アミノ酸はDアミノ酸である。好ましい態様において、部分Aの酸性アミノ酸は、D-グルタミン酸、D-アスパラギン酸のいずれか、またはその両方である。
【0017】
塩基性アミノ酸はpH6.0で正電荷を有する側鎖を有し、アルギニン、ヒスチジン、リジン、または他の塩基性アミノ酸でもよい。本発明の態様において、部分Bの塩基性アミノ酸はアルギニン、リジン、またはヒスチジンのいずれかである。複数の塩基性アミノ酸を有する塩基性部分Bは、約5個〜約20個、または約9個〜約16個の塩基性アミノ酸を有してもよい。好ましい態様において、部分Bは約9個〜約16個のアルギニンを含み、約9個〜約16個の連続したアルギニンを含んでもよい。本発明の態様において、部分Bの塩基性アミノ酸はDアミノ酸である。好ましい態様において、部分Bの塩基性アミノ酸はD-アルギニン、D-リジン、D-ヒスチジンのいずれか、またはその組み合わせである。
【0018】
積荷部は、MTSと連結することで細胞に輸送され得る任意の分子、材料、物質、または構築物でよい。積荷部分Cは1つまたはそれ以上の積荷部を含んでもよい。積荷部は、例えば、蛍光部、蛍光消光部、放射性部、放射線不透過性部、常磁性部、ナノ粒子、小胞、分子ビーコン、マーカー、マーカー酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、β-ガラクトシダーゼ、もしくは細胞の標識に適した他の酵素)、造影剤(例えば、画像診断用の造影剤)、化学療法剤、放射線増感剤(例えば、放射線療法用の放射線増感剤)、細胞周期に影響を及ぼすペプチドもしくはタンパク質、タンパク質毒素、または細胞への輸送に適した他の積荷でもよい。Cが蛍光部である態様において、リンカーXが切断される前に蛍光部Cの蛍光を消光し、リンカーXが切断された後に蛍光部Cの消光を取り除く効果のある蛍光消光部が部分Aに取り付けられる。
【0019】
切断可能なリンカーXは酸性部分Aと塩基性部分Bを結合する役割を果たしている。切断可能なリンカーXとして、例えば、約2個〜約100個の原子、または約6個〜約30個の原子を挙げることができる。切断可能なリンカー部分Xはアミノ酸残基を含んでもよく、約1個〜約30個、または約2個〜約10個のアミノ酸残基からなるペプチド結合でもよい。本発明の実施に適した切断可能なリンカーXは可撓性リンカーでもよい。好ましい態様において、本発明の実施に適した切断可能なリンカーXは可撓性リンカーであり、長さが約6個〜約24個の原子でもよい。本発明の態様において、Xはペプチド結合を含んでもよい。本発明の好ましい態様において、切断可能なリンカーXはアミノカプロン酸を含む。
【0020】
切断可能なリンカーXは細胞外で切断されるような構成になっていてもよい。本発明の好ましい態様において、切断可能なリンカーXは、細胞または組織の損傷または疾患に関連した状態で切断されるような構成にすることができる。このような状態として、例えば、アシドーシス;(通常、細胞内に閉じ込められている)細胞内酵素の存在(壊死状態を含む(例えば、壊死細胞からこぼれたカルパインもしくは他のプロテアーゼによって切断される));還元環境などの低酸素状態;血栓形成(例えば、リンカーXはトロンビンもしくは血液凝固カスケードに関連した別の酵素によって切断することができる);免疫系活性化(例えば、リンカーXは活性化補体タンパク質の働きによって切断することができる);または疾患もしくは損傷に関連した他の状態が挙げられる。
【0021】
例えば、切断可能なリンカーXはマトリックスメタロプロテアーゼなどの酵素によって切断されるような構成になっていてもよい。切断可能なリンカーを切断することができる他の酵素として、例えば、ウロキナーゼプラスミノゲンアクチベーター(uPA)、リソソーム酵素、カテプシン、前立腺特異的抗原、単純ヘルペスウイルスプロテアーゼ、サイトメガロウイルスプロテアーゼ、トロンビン、カスパーゼ、およびインターロイキン1β変換酵素が挙げられる。本発明の態様において、切断可能なリンカーXはアミノ酸配列PLGLAG(配列番号:1)を含んでもよく、アミノ酸配列EDDDDKA(配列番号:2)を含んでもよい。他の態様において、切断可能なリンカーXはS-S結合を含んでもよく、金属が還元された時に分解する遷移金属錯体を含んでもよい。本発明の特徴を具体化する分子は、酸性アミノ酸を有する複数の部分Aと1つの構造B-Cを連結する複数のリンカーXを有してもよい。
【0022】
本発明の態様において、ペプチド部分Aは、B-Cを含むポリペプチド鎖の末端に位置するか、またはB-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端を含む。Aは、B-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端の近くで連結されてもよく、B-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端で連結されてもよい。または、Aは、B-Cを含むポリペプチド鎖のカルボキシ末端の近くで連結されてもよく、B-Cを含むポリペプチド鎖のカルボキシ末端で連結されてもよい。ポリペプチド鎖B-Cは、B側末端と呼ばれることがある末端およびC側末端と呼ばれることがある末端を有してもよい。切断可能なリンカーXはB側末端の近くに配置されてもよく、B側末端に配置されてもよく、またはC側末端の近くに配置されてもよく、C側末端に配置されてもよい。さらなる態様において、1つまたはそれ以上の部分が直鎖状になっていてもよく、環状になっていてもよい。態様において、本発明の特徴を有する環状分子は1つのリンカーXを有してもよく、複数のリンカーXを有してもよい。
【0023】
本発明のさらなる態様において、積荷を細胞に制御可能に送達することができるペプチドを有する本発明の化合物と適切な担体を含む、組成物および溶液(薬学的組成物を含む)が提供される。積荷を細胞に制御可能に送達することができるこのようなペプチド、およびこのようなペプチドを含む薬学的組成物を生成する方法も提供される。本発明の態様において、酸性部分と塩基性部分との間に切断可能な結合を有する、ペプトイド、カルバメート、ビニル重合体、および他の分子も提供できることが理解されるだろう。
【0024】
本発明の特徴を具体化する分子、組成物、および方法によって、塩基性アミノ酸含有分子の細胞への取り込みが制御できるという利点、および積荷の細胞への送達が制御できるという利点が得られる。細胞への積荷のこのような制御された取り込みおよび制御された送達は、例えば、罹患細胞または罹患組織を有する患者の治療において有用であるかもしれない。例えば、積荷として画像化用造影剤または抗増殖剤を、患者の全ての細胞ではなく癌細胞のみに送達することができるので、非侵襲的画像化を可能にするために、または治療の有効性を高め、起こり得る副作用を減らすために、送達を罹患細胞に標的化できるという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1Aは、塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。 図1Bは、塩基性部分B、2つのリンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有する環状MTS分子の模式図である。
【図2a】積荷部分C、塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。
【図2b】積荷部分C、塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。リンカー部分Xは積荷部分Cと結合している。
【図2c】1つの積荷Cが複数コピーのMTS分子と連結している、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。MTS分子はそれぞれ塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含んでいる。
【図2d】積荷部分C、塩基性部分B、複数の(2つの)リンカー領域X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。
【図2e】積荷部分C、塩基性部分Bを含み、2つのリンカー領域Xが酸性部分Aに隣接している、本発明の特徴を有する環状MTS分子の模式図である。
【図2f】蛍光積荷部分C、塩基性部分B、リンカー領域X、および酸性部分A(クエンチャーQが取り付けられている)を含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。
【図3】本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。ここで、積荷部分Cは造影剤または薬物であり、塩基性部分Bは、8〜10個のD-アルギニン残基の配列(例えば、rrrrrrrr(配列番号:4))であり、リンカー部分Xは、癌細胞の近くで見られるタンパク質分解酵素または還元環境によって切断することができる切断可能なリンカーであり、酸性部分Aは、D-アミノ酸を含む阻害ドメインである。
【図4】本発明の特徴を有する図3のMTS分子の模式図である。ここで、切断可能なリンカーは正常組織付近では切断されず、図3の分子は積荷を正常組織に入れることができない。
【図5】本発明の特徴を有する図3のMTS分子の模式図である。ここで、切断可能なリンカーは癌細胞の近くで見られるタンパク質分解酵素または還元環境によって切断され、図3の分子は積荷を罹患組織に入れることができる。
【図6】図6Aは、エンテロキナーゼの基質であるリンカー部分Xが切断される前の、本発明の特徴を有するペプチドの高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)クロマトグラムを示す。 図6Bは、リンカー部分Xがエンテロキナーゼによって切断された後の、図6AのペプチドのHPLCクロマトグラムを示す。
【図7】図7Aは、マトリックスメタロプロテイナーゼ-2(MMP-2)の基質であるリンカー部分Xが切断される前の、本発明の特徴を有するペプチドのHPLCクロマトグラムを示す。 図7Bは、リンカー部分XがMMP-2によって切断された後の、図7AのペプチドのHPLCクロマトグラムを示す。
【図8】本発明の特徴を有するMTS分子(蛍光積荷部を含む)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞集団の蛍光活性化セルソーター(FACS)分析によって測定された平均蛍光を示す。
【図9】本発明の特徴を有するMTS分子(蛍光積荷部を含む)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞集団のFACS分析によって測定された平均蛍光を示す。
【図10】本発明の特徴を有するMTS分子(蛍光積荷部を含む)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞集団のFACS分析によって測定された平均蛍光を示す。
【図11】本発明の特徴を有するMTS分子(蛍光積荷部を含む)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞集団のFACS分析によって測定された平均蛍光を示す。
【図12】図11のMTS分子と1時間インキュベートしたジャーカット細胞において測定された平均蛍光を示す。
【図13】ジスルフィドリンカーが酸性部分と蛍光標識塩基性部分を結合しているMTS分子と、または蛍光標識塩基性部分のみと10分間インキュベートしたジャーカット細胞において測定された平均蛍光を示す。
【図14a】図14aは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14b】図14bは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14c】図14cは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14d】図14dは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14e】図14eは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14f】図14fは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14g】図14gは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14h】図14hは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14i】図14iは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14j】図14jは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14k】図14kは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14l】図14lは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14m】図14mは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図14n】図14nは、本発明の特徴を有するMTS分子の積荷部分の一部として、または積荷部分の全体として適した部を示す。
【図15a】図15aは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15b】図15bは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15c】図15cは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15d】図15dは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15e】図15eは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15f】図15fは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15g】図15gは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15h】図15hは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15i】図15iは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15j】図15jは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15k】図15kは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15l】図15lは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15m】図15mは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15n】図15nは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15o】図15oは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15p】図15pは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15q】図15qは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15r】図15rは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図15s】図15sは、酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16a】図16aは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16b】図16bは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16c】図16cは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16d】図16dは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16e】図16eは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16f】図16fは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図16g】図16gは、リンカーXの一部として、またはリンカーXの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17a】図17aは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17b】図17bは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17c】図17cは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17d】図17dは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17e】図17eは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17f】図17fは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17g】図17gは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17h】図17hは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17i】図17iは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17j】図17jは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17k】図17kは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17l】図17lは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17m】図17mは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17n】図17nは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図17o】図17oは、塩基性部分Bの一部として、または塩基性部分Bの全体として使用するのに適した部を示す。
【図18】酸性部分Aの一部として、または酸性部分Aの全体として使用するのに適した重合体部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
1つの態様において、本発明の特徴を有するペプチドの一般構造はA-X-Bである。式中、ペプチド部分Bは約5個〜約20個の塩基性アミノ酸を含み、Xは、切断可能なリンカー部分(好ましくは、生理学的条件下で切断することができる切断可能なリンカー部分)であり、ペプチド部分Aは約2個〜約20個の酸性アミノ酸を含む。本発明の特徴を有する分子の一部の態様において、ペプチド部分Bは、約5個〜約20個、または約9個〜約16個の塩基性アミノ酸を含み、一続きの塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン、ヒスチジン、リジン、または他の塩基性アミノ酸)でもよい。本発明の特徴を有する分子の一部の態様において、ペプチド部分Aは、約2個〜約20個、または約5個〜約20個の酸性アミノ酸を含み、一続きの酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸およびアスパラギン酸、または他の酸性アミノ酸)でもよい。塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図を図1Aに示す。態様において、本発明の特徴を有するMTS分子は、図1Bに図示したように環状分子でもよい。従って、本発明の特徴を有するMTS分子は、直鎖状分子、環状分子でもよく、環式部分を含む直鎖状分子でもよい。
【0027】
前記のように、複数の塩基性アミノ酸(例えば、一続きの塩基性アミノ酸)を含む分子は、多くの場合、細胞に取り込まれる。しかしながら、本発明者らは、塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む構造を有する分子は細胞に取り込まれないことを発見した。酸性部分Aは、酸性ではないアミノ酸を含んでもよい。酸性部分Aは、他の部(例えば、負に荷電した部)を含んでもよい。本発明の特徴を有するMTS分子の1つの態様において、酸性部分Aは、アミノ酸を含まない、負に荷電した部分(好ましくは、生理学的pHで約2〜約20の負電荷を有する負に荷電した部分)でもよい。塩基性部分Bは、塩基性でないアミノ酸を含んでもよい。塩基性部分Bは、他の部(例えば、正に荷電した部)を含んでもよい。本発明の特徴を有するMTS分子の態様において、塩基性部分Bは、アミノ酸を含まない、正に荷電した部分(好ましくは、生理学的pHで約5〜約20の正電荷を有する正に荷電した部分)でもよい。酸性部分Aを含めることは、部分Bの細胞への取り込みを阻害または阻止する効果がある。部分Bの塩基性アミノ酸によってもたらされる取り込みのこのような妨害は、酸性部分Aによる取り込みの「拒否」と呼ばれることがある。さらに、本発明者らは、リンカーXを切断して部分Bから部分Aを分離させることには、部分Bを細胞に取り込ませる効果があるという驚くべき発見をした。
【0028】
さらなる態様において、本発明の特徴を有するペプチドの一般構造はA-X-B-Cである。式中、Cは積荷部であり、Xはリンカーであり、Aは酸性部分であり、Bは塩基性部分である。酸性部分Aは、酸性でないアミノ酸を含んでもよい。酸性部分Aは、他の部(例えば、負に荷電した部)を含んでもよい。本発明の特徴を有するMTS分子の態様において、酸性部分Aは、アミノ酸を含まない、負に荷電した部分(好ましくは、生理学的pHで約2個〜約20個の負電荷を有する負に荷電した部分)でもよい。塩基性部分Bは、塩基性でないアミノ酸を含んでもよい。塩基性部分Bは、他の部(例えば、正に荷電した部)を含んでもよい。本発明の特徴を有するMTS分子の態様において、塩基性部分Bは、アミノ酸を含まない、正に荷電した部分(好ましくは、生理学的pHで約5個〜約20個の正電荷を有する正に荷電した部分)でもよい。好ましい態様において、部分Aにおける負電荷の量は部分Bにおける正電荷の量とほぼ同じである。
【0029】
積荷部Cは、画像診断用の造影剤、または化学療法薬もしくは治療用の放射線増感剤でもよい。Bは、例えば、約5個〜約20個の塩基性アミノ酸(例えば、一続きの塩基性アミノ酸)(アルギニンが好ましいが、ヒスチジンも適しており、同様にリジンまたは他の塩基性アミノ酸も適している)を有するペプチド部分でもよい。Xは、切断可能なリンカー(好ましくは、生理学的条件下で切断することができる切断可能なリンカー)である。Aは、約2個〜約20個、約2個〜約20個の酸性アミノ酸(一続きの酸性アミノ酸)を有するペプチド部分でもよい。本発明の特徴を有する分子の一部の態様において、グルタミン酸およびアスパラギン酸がペプチド部分Aに好ましい酸性アミノ酸である。積荷部分C、塩基性部分B、リンカー部分X、および酸性部分Aを含む、本発明の特徴を有するMTS分子の模式図を図2Aに図示した。
【0030】
本発明者らは、酸性部分Aを含めることには、部分Bおよび部分Cを組み合わせた分子の細胞への取り込みを阻害または阻止する効果もあるという驚くべき発見をした。さらに、本発明者らは、リンカーXを切断して部分Bから部分Aを分離させることには、部分Bおよび部分Cを細胞に取り込ませる効果があるという発見をした。従って、積荷Cの送達は、本発明の特徴を有する分子によって制御および促進することができる。
【0031】
例えば、ペプチド部分Aが約5個〜約9個の連続したグルタミン酸およびアスパラギン酸を含有し、Xが、長さが約2個〜約100個または約6個〜約30個の原子の可撓性リンカーである場合、ペプチド部分B(例えば、9個の連続したアルギニン残基の配列)が細胞への取り込みを引き起こす通常の能力は妨害される。リンカーXが切断されると、部分Bおよび部分Cから部分Aが分離し、部分Aによる拒否が軽減する。従って、部分BはAから分離されると、積荷Cを細胞に取り込ませる通常の能力が回復する。このような細胞取り込みは、一般的に、切断事象の位置の近くで起こる。従って、標的細胞で、または標的細胞の近くで切断されるように切断可能なリンカーXを設計することが、積荷Cを標的細胞に取り込ませるのに有効である。Xが細胞外で切断されると、Aが分子の残りから分離して、分子の残りが細胞に取り込まれる。
【0032】
本発明の特徴を有するMTS分子は任意の長さでよい。本発明の特徴を有するMTS分子の態様において、MTS分子は長さが約7個〜約40個のアミノ酸でよい(リンカーXおよび積荷部分Cの長さを含まない)。他の態様において、特に、複数の非酸性アミノ酸(部分A)または非塩基性アミノ酸(部分B)が部分Aおよび部分Bの一方または両方に含まれる場合、MTS分子の部分Aおよび部分Bは合わせて長さが約50個、または約60個、または約70個のアミノ酸でもよい。MTSの環状部分は約12個〜約60個のアミノ酸を含んでもよい(リンカーXおよび積荷部分Cの長さを含まない)。例えば、本発明の特徴を有する直鎖状MTS分子は、約5個〜約20個の塩基性アミノ酸(好ましくは、約9個〜約16個の塩基性アミノ酸)を有する塩基性部分B、および約2個〜約20個の酸性アミノ酸(例えば、約5個〜約20個、好ましくは、約5個〜約9個の酸性アミノ酸)を有する酸性部分Aを有してもよい。一部の好ましい態様において、本発明の特徴を有するMTS分子は、約9個〜約16個の塩基性アミノ酸および約5個〜約9個の酸性アミノ酸を有する塩基性部分Bを有してもよい。
【0033】
健常細胞において、構造A-X-BまたはA-X-B-Cの完全な状態の化合物は、部分Aが存在するので細胞に入ることができない。従って、厳密に細胞内でXを切断するプロセスは、健常細胞ではXを切断する効果がない。なぜなら、細胞への取り込みを阻止する部分Aは取り込まれず、健常細胞の細胞内酵素に接近しないので、このような細胞内酵素によって効果的に切断されないからである。しかしながら、細胞に損傷または病気があるために、このような細胞内酵素が細胞から漏れ出ている場合、Aの切断が起こり、部分BまたはB-Cは細胞内に入り、標的である付近の細胞に部分Bまたは積荷部分Cが送達される。
【0034】
部分Aは部分Bは、L-アミノ酸またはD-アミノ酸のどちらも含んでもよい。本発明の態様において、免疫原性およびバックグラウンドペプチダーゼまたはプロテアーゼによる非特異的切断を最小限にするために、D-アミノ酸がA部分およびB部分に好ましい。オリゴ-D-アルギニン配列の細胞取り込みが良好である、またはオリゴ-L-アルギニンの細胞取り込みよりより良好ことが知られている。一般構造A-X-BおよびA-X-B-Cは、Aがアミノ末端にある場合、およびAがカルボキシ末端にある場合に有効であり得る(すなわち、ペプチド結合のどちらの方向も許される)。しかしながら、Xがプロテアーゼによってペプチド切断される態様では、Xの切断によって生じる新たなアミノ末端が、さらなる正電荷を、Bに既に存在している正電荷に付与するように、XのC-末端とBのN-末端をつなぐことが好ましい場合がある。
【0035】
積荷部分Cは任意の位置または方向でBに取り付けることができる。積荷部分Cは、部分Bの、リンカーXとは反対の末端に位置する必要はない。Xが切断された後に、CとBが依然として結合している限り、CとBはどの位置でも取り付けることができる。例えば、図2Aおよび2Bに図示したように、積荷部分Cは、部分Bの末端に取り付けられてもよく、部分Bの末端の近くに取り付けられてもよく、リンカーXは部分Bの反対の末端に取り付けられる。積荷部分Cはまた部分Bの末端に取り付けられてもよく、部分Bの末端の近くに取り付けられてもよく、リンカーXは部分Bの同じ末端に取り付けられているか、または部分Bの同じ末端の近くに取り付けられる。本発明の一部の態様において、図2Bに図示したように、リンカーXは、塩基性部分Bと連結している積荷部分Cと連結してもよい。図2Cは、複数の塩基性部分Bと連結した積荷部分Cを含む本発明の特徴を有するMTS分子の模式図である。塩基性部分Bはそれぞれリンカー部分と連結し、リンカーを介して酸性部分Aと連結している。
【0036】
リンカーXは、特定の状態の存在下でまたは特定の環境で切断されるように設計することができる。好ましい態様において、リンカーXは生理学的条件下で切断することができる。このようなリンカーXの切断は、例えば、積荷の送達が望まれる細胞に関連した特定の生理学的シグナルまたは特定の環境によって促進されされもよく、引き起こされてもよい。特定の条件(例えば、特異的酵素)によって切断されるリンカーXを設計すると、細胞取り込みを、このような条件が成り立っている特定の位置に標的化することができる。従って、本発明の特徴を有するMTS分子によって、細胞取り込みを所望の細胞、組織、または領域に特異的に標的化する重要な手段の1つは、このような標的となる細胞、組織、または領域の近くの条件によって切断されるリンカー部分Xを設計することによるものである。リンカーXが切断された後、分子の部分B-CはBおよびCの簡単な結合体であり、場合によっては、リンカーXの残存部分から残った比較的小さな不活性の突出部を保持している。
【0037】
リンカー部分Xは、細胞外環境で見られる状態(例えば、癌性の細胞および組織の近くで見られることがある酸性状態、または低酸素下もしくは虚血下の細胞および組織の近くで見られることがある還元環境)によって;治療すべき状態を有する細胞(例えば、病気、アポトーシス、もしくは壊死のある細胞および組織)の表面に見られる、またはその細胞の近くに放出されたプロテアーゼまたは他の酵素によって;あるいは他の状態または要因によって切断することができる。酸不安定性リンカーは、例えば、cis-アコニット酸リンカーでもよい。pH感受性結合の他の例として、アセタール、ケタール、活性化アミド(例えば、2,3ジメチルマレアミド酸(2,3 dimethylmaleamic acid)のアミド)、ビニルエーテル、他の活性化エーテルおよびエステル(例えば、エノールまたはシリルエーテルまたはエステル)、イミン、イミニウム、エナミン、カルバメート、ヒドラゾン)、ならびに他の結合が挙げられる。リンカーXはアミノ酸またはペプチドでもよい。ペプチドリンカーは任意の適切な長さ(例えば、約3個〜約30個、または好ましくは約6個〜約24個の連続した原子)のリンカー(例えば、約1〜10、好ましくは約2〜8アミノ酸長の直鎖状ペプチド)でよい。切断可能なペプチドリンカーは、プロテアーゼのタンパク質分解作用によってリンカーXが切断されるように、プロテアーゼによって認識および切断されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0038】
重要なシグナルクラスの1つは、転移性腫瘍細胞の浸潤移動において非常に重要な、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMPs)の加水分解活性である。MMPsはまた、炎症および脳卒中において主用な役割を果たしていると考えられている。MMPsは、Visse et al.,Circ.Res.92:827-839(2003)において概説されている。MMPsの働きによって積荷Cの細胞取り込みが誘発されるように、MMPsは、リンカーXを切断し、部分Bおよび部分Cから酸性部分Aを分離させて、積荷Cの細胞取り込みを可能にするのに、MMPsを使用することができる。このような取り込みは、一般的に、Xの切断を誘発するMMPsの近くで行われる。従って、本発明の特徴を有する分子の取り込みことによって、積荷Cの細胞取り込みが、細胞外環境に活性型MMPsを有する特定の細胞、組織、または領域に向けられる。
【0039】
例えば、アミノ酸配列PLGLAG(配列番号:1)を含むリンカーXは、メタロプロテイナーゼ酵素MMP-2(癌および炎症における主要なMMP)によって切断することができる。このようなリンカーXの切断は中心にあるG残基とL残基の間で行われ、これによって、細胞取り込みが10倍〜20倍増加する(実施例4を参照のこと)。様々なMMPsに基質特異性があることがかなり知られているので、リンカーXの特異的感受性を、ある特定のMMPsサブクラスに、または大きなプロテイナーゼMMPファミリーの個々の一員に偏らせるようにすることができる、リンカーXを設計することができる。例えば、ある態様では、膜結合型MMPsによって切断されるように設計されたリンカーXが特に好ましい。なぜなら、膜結合型MMPsの活性は発現細胞の外表面に限局するからである。別の態様において、切断されたまさにその位置から積荷Cが拡散することが望ましく、拡散によって積荷の空間分布が向上する場合に、可溶性分泌型MMPによって切断されるように設計されたリンカーXが好ましい。他のMMPsによって切断可能な他のリンカーXを実施例9において議論する。
【0040】
低酸素は重要な生理学的シグナルである。例えば、低酸素は、癌細胞の放射線耐性および化学療法耐性を強くすると考えられ、また、血管形成を引き起こすとも考えられている。低酸素で傷つけられている組織での、または低酸素で傷つけられている組織の近くでの切断に適したリンカーXを用いると、部分Bおよび部分Cを、癌細胞および癌組織、梗塞領域、ならびに他の低酸素領域に標的化することができる。例えば、ジスルフィド結合を含むリンカーXは低酸素領域において特異的に切断されるので、このような領域の細胞に積荷の送達を標的化する。例えば、漏出性細胞または壊死細胞が存在する低酸素環境では、遊離チオールおよび他の還元剤が細胞外で利用可能になるのに対して、通常、細胞外環境を酸化しているO2は当然のことながら枯渇している。この酸化還元バランスの変化は、リンカーX内部のジスルフィド結合の還元および切断を促進するはずである。チオール-ジスルフィド平衡を利用するジスルフィド結合に加えて、低酸素環境において切断されるように設計されたリンカーXにhz、還元されるとヒドロキノンに分解するキノンを含む結合を使用することができる。
【0041】
壊死は、多くの場合、リンカーXの切断を誘発するのに使用することができる酵素または他の細胞内容物の放出につながる。低酸素が存在しない壊死領域において切断されるように設計されたリンカーXは、例えば、カルパインまたは壊死細胞から放出されることがある他のプロテアーゼによって切断されるリンカーでもよい。このようにリンカーXがカルパインによって切断されると、結合している部分B-Cが部分Aから放出されて、積荷が罹患細胞およびまだ十分に漏出性になっていない付近の細胞に取り込まれる。
【0042】
アシドーシスもまた、損傷のある組織または低酸素組織の部位では、酸化的リン酸化から嫌気的解糖および乳酸産生へのワールブルクシフトのために、よく観察される。このような局所的な酸過剰は、酸不安定性リンカーXを作成することによって(例えば、アセタールまたはビニルエーテル結合をXに含めることにって)感知することができる。または、またはさらに、B内部のアルギニンの一部を、pH7未満でしか陽イオンとならないヒスチジンで置換することによって、アシドーシスを積荷取り込みのトリガーとして使用することができる。
【0043】
本発明の特徴を有する分子は、細胞に取り込ませるための異なる積荷(異なるタイプの積荷および同じタイプの異なる種類の積荷を含む)を運ぶのに適している。例えば、異なるタイプの積荷として、マーカー積荷(例えば、蛍光部もしくは放射性標識部)および治療用積荷(例えば、メトトレキセートもしくはドキソルビシンなどの化学療法用分子)、または他の積荷を挙げることができる。異常細胞または罹患細胞の破壊が治療上必要とされる場合、治療用積荷は、「細胞傷害剤」すなわち細胞の機能を阻害もしくは阻止する物質および/または細胞を破壊する物質を含んでもよい。一部の態様において、本発明の特徴を有する1個の分子が2個以上の積荷部分Cを含んでもよく、その結果、1個の塩基性部分Bが複数の積荷Cと連結されてもよい。このような複数の積荷Cは、マーカー積荷、治療用積荷、または他の積荷を含んでもよい。複数の積荷部を用いると、例えば、放射性マーカーと超音波または造影剤を送達することができ、これによって異なるモダリティーによる画像化が可能になる。または、例えば、放射性積荷と抗癌剤を送達して抗癌活性を高めてもよく、放射性積荷と蛍光積荷を送達して、積荷を取り込んだ細胞を突き止め、特定する複数の手段を可能にしてもよい。
【0044】
ある特定の状態を有する細胞またはある特定の状態を示す領域にある細胞を視覚化するために、蛍光分子などの積荷の送達を使用することができる。例えば、蛍光または他のマーカーを含む積荷を血栓症領域に送達するために、血餅形成カスケードにおける多くのプロテアーゼのいずれかによって切断されるリンカーXを設計することによって、血栓症(血餅形成)を視覚化することができる。同様に、蛍光または他のマーカーを補体活性化領域に送達するために、補体活性化カスケードにおけるプロテアーゼのいずれか1つまたはそれ以上によって切断されるリンカーXを設計することによって、補体活性化を視覚化することができる。このように、蛍光分子は、リンカーXが切断されて部分Aが放出された時に、標的細胞および標的領域に送達することができるマーカーの一例である。
【0045】
本発明の特徴を有する分子は、1つまたはそれ以上の結合によって酸性部分Aを部分Bおよび部分Cに連結できるように、1つまたはそれ以上リンカーXを含んでもよい。部分Aとつながっているこのような結合は、部分B、部分C、または部分Bおよび部分Cの両方とつながっていてもよい。本発明の特徴を有する分子が複数の結合Xを含む場合、部分Aが分子の他の部分から分離するには、全ての結合Xが切断される必要がある。複数のリンカーXの切断は同時に起こってもよく、連続して起こってもよい。部分Aが分子の他の部分から分離するには、分子が2つ以上の状態または環境(「細胞外シグナル」)に遭遇することが必要となるように、複数の結合Xは異なる特異性を有する結合Xを含んでもよい。従って、複数のリンカーXの切断は、このような細胞外シグナルの組み合わせを検出するものとして働く。図2Dは、塩基性部分Bと酸性部分Aを結合する2つのリンカー部分XaおよびXbを含む本発明の特徴を有するMTS分子を示す。図2Eは、塩基性部分Bと酸性部分Aを結合する2つのリンカー領域XaおよびXbを含む本発明の特徴を有する環状MTS分子を示す。図2Dおよび2Eにおいて模式的に示したMTS分子において、リンカーXaおよびXbは両方とも、酸性部分Aが塩基性部分Bから分離して、部分Bおよび積荷部分C(もしあれば)が細胞に入る前に切断されなければならない。リンカー領域は、存在し得る別のリンカーとは独立して、塩基性部分Bまたは積荷部分Cのいずれかに連結してもよく、所望であれば、3つ以上のリンカー領域Xを含めてもよいことが理解されるだろう。
【0046】
所望の細胞、組織、または領域への分子の標的化および送達をさらに調節するために、2つ以上のリンカーXの組み合わせを使用することができる。所望であれば、リンカーXの切断の特異性を広くする、または狭くするために、細胞外シグナルのブール組み合わせを検出することができる。複数のリンカーXが並列に連結されている場合、部分Aが分子の残りから分離する前に各リンカーが切断されなければならないので、切断の特異性は狭くなる。複数のリンカーXが直列に連結されている場合、いずれか1つのリンカーXが切断されると分子の残りから部分Aが分離するので、切断の特異性は広くなる。例えば、プロテアーゼまたは低酸素のいずれかを検出するために(すなわち、プロテアーゼまたは低酸素のいずれかの存在下でXを切断するために)、酸性部分Aを分離するにはプロテアーゼ感受性部位および還元感受性部位のいずれかを切断すれば十分であるので、プロテアーゼ感受性部位および還元感受性部位を直列に配置するようにリンカーXが設計される。または、プロテアーゼおよび低酸素の両方の存在を検出するために(すなわち、プロテアーゼおよび低酸素の存在下でXを切断するが、単独のみの存在下では切断しないために)、互いとジスルフィド結合している少なくとも一対のシステインの間にプロテアーゼ感受性部位を配置するようにリンカーXが設計される。この場合、部分Aを分離するために、プロテアーゼ切断およびジスルフィド還元の両方が必要とされる。
【0047】
腫瘍および他の外傷部位の周辺の毛細血管が漏出性である場合が多いことは、高分子量分子(例えば、約40kDa以上の分子量)が隙間区画に到達する能力を高めるはずである。リンカーXの切断は一般的に細胞外であるので、何らかの傍観者標識(bystander labeling)が予想される。すなわち、関連するプロテアーゼを発現しないが、発現細胞のすぐ隣にいる細胞が積荷の一部を取り込む可能性が高い。腫瘍の場合、細胞表現型が均一でないことと、高いパーセントの疑わしい細胞を除去することが望まれるために、このような傍観者標的化(bystander targeting)は有益であると考えられる。
【0048】
1つだけの機構によって画像化用積荷および治療用積荷の取り込みが媒介できることは、無害のトレーサー量による画像化を用いて、後の治療量が正確に標的組織に集まる可能性が高いかどうか試験することができるので特に価値がある。
【0049】
本発明の特徴を有するMTS分子ではDアミノ酸を使用することができる。例えば、部分Aおよび部分Bのペプチドの一部または全体が本発明の一部の好ましい態様ではD-アミノ酸でもよい。検出可能なマーカーを標的細胞に送達するのに適した本発明の態様において、本発明の特徴を有するMTSは、8個〜10個のD-アルギニンを含む塩基性部分Bに取り付けられた造影剤を積荷Cとして含む。酸性部分AもD-アミノ酸を含んでよい。同様に、8個〜10個のD-アルギニンを含む塩基性部分Bおよび酸性D-アミノ酸を含む酸性部分Aを有するこのような分子によって、薬物を細胞に送達することができる。このようなMTS分子の模式図を図3に示す。
【0050】
本発明の特徴を有するMTS分子は、標準的でないアミノ酸(例えば、ヒドロキシリジン、デスモシン、イソデスモシン、または他の標準的でないアミノ酸)を含んでもよいことが理解されるだろう。本発明の特徴を有するMTS分子は、修飾されたアミノ酸(例えば、メチル化アミノ酸(例えば、メチルヒスチジン、リジンのメチル化型など)、アセチル化アミノ酸、アミド化アミノ酸、ホルミル化アミノ酸、ヒドロキシル化アミノ酸、リン酸化アミノ酸、または他の修飾されたアミノ酸などの翻訳後修飾を受けたアミノ酸を含む)を含んでもよい。本発明の特徴を有するMTS分子はまた、ペプチドミメティック部(非ペプチド結合によって連結された部分、および非アミノ酸部分によって、または非アミノ酸部分に連結されたアミノ酸を含む)を含んでもよい。例えば、本発明の特徴を有するMTS分子は、ペプトイド、カルバメート、ビニル重合体、または非ペプチド結合を有するが、積荷部分を有する塩基性部分に切断可能に連結した酸性部分を有する他の分子を含んでもよい。
【0051】
リンカー部分Xは、例えば、癌細胞の近くで見られることがあるタンパク質分解酵素または還元環境によって切断されるように設計することができる。このような環境または酵素は、一般的に、正常細胞の近くでは見られない。図4は、癌細胞の近くで切断されるように設計された切断可能なリンカーを有する図3に示したMTS分子を図示している。図4に示したように、この切断可能なリンカーは正常組織の近くで切断されない。図4は、部分Bおよび部分B-Cの細胞取り込みを拒否して、積荷が正常組織に入らないようにすることができる部分Aを有するMTSの能力を図示している。
【0052】
しかしながら、図5に図示したように、リンカー部分Xは、マーカーまたは薬物を癌細胞に送達するために、例えば、癌細胞の近くで見られるタンパク質分解酵素または還元環境によって切断することができる。図5に示したように、癌細胞の近くにあるタンパク質分解酵素または還元環境によって切断される切断可能なリンカーXを有する図3のMTS分子は、罹患組織への積荷の侵入を促進することができる。従って、リンカーXの選択的切断および酸性部分Aからの積荷Cおよび塩基性部分Bの分離は、選択された特徴(例えば、酵素)を有するか、ある特定の環境の近くに位置する細胞を標的とした積荷の取り込みを可能にする。従って、本発明の特徴を有する分子は、正常細胞または非標的細胞に積荷を送達することなく、標的細胞に積荷を選択的に送達することができる。
【0053】
一部の態様において、積荷Cはフルオレセインなどの蛍光分子でもよい。蛍光積荷部を用いると、蛍光顕微鏡観察または固定していない培養細胞におけるフローサイトメトリーによる簡単な測定が可能になる。しかしながら、オリゴアルギニン配列(例えば、部分Bを構成する)は、多種多様な積荷C(小さな極性分子からナノ粒子および小胞に及ぶ)を運び入れることが証明されている(Tung&Weissleder(2003)Advanced Drug Delivery Reviews 55:281-294)。従って、本発明の態様において、積荷部分Cは、塩基性部分Bに結合しながら、細胞に取り込まれる任意の適切な積荷部でよい。
【0054】
例えば、インビボでの画像化のために、Cは、陽電子放出同位体(例えば、18F)(陽電子放射型断層撮影法(PET)の場合)、γ線同位体(例えば、99mTc)(単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)の場合)、常磁性の分子またはナノ粒子(例えば、Gd3+キレートまたはコーティングされた磁鉄鉱ナノ粒子)(磁気共鳴画像法(MRI)の場合)、近赤外線フルオロフォア(近赤外線(near-IR)画像法の場合)、ルシフェラーゼ(ホタル、細菌、もしくは腔腸動物)または他の発光分子(生物発光画像法の場合)、あるいはパーフルオロカーボンが満たされた小胞(超音波の場合)で標識することができる。治療目的のために、例えば、適切なクラスの積荷として、a)化学療法剤(例えば、ドキソルビシン、マイトマイシン、パクリタキセル、ナイトロジェンマスタード、エトポシド、カンプトテシン、5-フルオロウラシルなど);b)放射線増感剤(例えば、ポルフィリン(光線力学的療法の場合)または10Bクラスターもしくは157Gd(中性子捕獲治療の場合));あるいはc)アポトーシス、細胞周期、または他の重要なシグナル伝達カスケードを調節するペプチドまたはタンパク質が挙げられるが、これに限定されない。既存の化学療法薬を使用することができるが、それ自体で細胞に入る何らかの能力のために既に選択されているので、理想的でない場合がある。本発明の分子の態様において、多塩基性部分Bの助け無しでは細胞に入ることができない、または細胞から離れることができない積荷が好ましい場合がある。
【0055】
積荷Cは、放射性部(例えば、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32Pなどの放射性同位体、Luの放射性同位体など)を含んでもよい。
【0056】
積荷部分Cは、蛍光部(例えば、蛍光タンパク質、ペプチド、または蛍光染料分子)を含んでもよい。蛍光染料の一般的なクラスとして、キサンテン(例えば、ローダミン、ロドール(rhodol)、およびフルオレセイン)、ならびにその誘導体;ビマン(bimane);クマリンおよびその誘導体(例えば、ウンベリフェロンおよびアミノメチルクマリン);芳香族アミン(例えば、ダンシル);スクアレート(squarate)染料;ベンゾフラン;蛍光シアニン;カルバゾール;ジシアノメチレンピラン(dicyanomethylene pyrane)、ポリメチン(polymethine)、オキサベンズアントラン(oxabenzanthrane)、キサンテン、ピリリウム、カルボスチル(carbostyl)、ペリレン、アクリドン、キナクリドン、ルブレン、アントラセン、コロネン、フェナントレセン(phenanthrecene)、ピレン、ブタンジエン、スチルベン、ランタニド金属キレート錯体、希土類金属キレート錯体、およびこのような染料の誘導体が挙げられるが、これに限定されない。蛍光染料は、例えば、U.S.Pat.No.4,452,720、U.S.Pat.No.5,227,487、およびU.S.Pat.No.5,543,295において議論されている。
【0057】
積荷部分Cはフルオレセイン染料を含んでもよい。代表的なフルオレセイン染料として、5-カルボキシフルオレセイン、フルオレセイン-5-イソチオシアネート、および6-カルボキシフルオレセインが挙げられるが、これに限定されない。他のフルオレセイン染料の例は、例えば、U.S.Pat.No.6,008,379、U.S.Pat.No.5,750,409、U.S.Pat.No.5,066,580、およびU.S.Pat.No.4,439,356で見ることができる。積荷部分Cはローダミン染料を含んでもよい。ローダミン染料は、例えば、テトラメチルローダミン-6-イソチオシアネート、5-カルボキシテトラメチルローダミン、5-カルボキシロドール誘導体、テトラメチルローダミンおよびテトラエチルローダミン、ジフェニルジメチルローダミンおよびジフェニルジエチルローダミン、ジナフチルローダミン、ローダミン101塩化スルフォニル(テキサスレッド(登録商標)の商品名で販売されている)、ならびに他のローダミン染料である。他のローダミン染料は、例えば、U.S.Pat.No.6,080,852、U.S.Pat.No.6,025,505、U.S.Pat.No.5,936,087、U.S.Pat.No.5,750,409で見ることができる。積荷部分Cはシアニン染料を含んでもよい。シアニン染料は、例えば、Cy3、Cy3B、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7である。
【0058】
前記の化合物またはこれらの誘導体の一部は蛍光の他にリン光を出すか、リン光のみを出す。一部のリン光化合物は、ポルフィリン、フタロシアニン、多環芳香族化合物(例えば、ピレン、アントラセン、およびアセナフテン)などを含み、積荷部分Cであってもよく、積荷部分Cに含まれてもよい。積荷部分Cはまた、例えば、(4-ジメチルアミノ-フェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)基などの蛍光クエンチャーであってもよく、蛍光クエンチャーを含んでもよい。
【0059】
フルオロフォアの蛍光がクエンチャーによって消光されるように、一対の化合物をつないで、フルオロフォアを有する相補領域と蛍光クエンチャーを有する相補領域が一緒に結合している分子ビーコンを形成してもよい。相補領域の一方または両方が積荷部分Cの一部でもよい。相補領域の一方(例えば、蛍光部)だけが積荷部分Cの一部であり、クエンチャー部がリンカーXまたは酸性部分Aの一部である場合、リンカーXが切断されると蛍光部分が蛍光を発し、切断が検出される。分子ビーコンの蛍光部分が細胞に取り込まれると、細胞が検出される。例えば、図2Fに図示したように、クエンチャーQを酸性部分Aに取り付けて、本発明の特徴Q-A-X-B-C(式中、積荷Cは蛍光でありQによって消光される)を有するMTS分子を形成することができる。QによるCの消光は、Xが切断されると軽減して、部分B-Cを取り込んだ細胞が蛍光標識される。蛍光の脱消光(dequenching)と選択的取り込みを組み合わせると、Xを切断できる組織とXを切断できない組織との対比が強調されるはずである。
【0060】
積荷Cは、化学療法部(例えば、癌治療において有用な化合物)または他の治療部(例えば、虚血組織もしくは壊死組織の治療において有用な薬剤)、あるいは他の治療剤を含んでもよい。
【0061】
本発明の特徴を有するMTS分子は、標準的な合成技術(例えば、固相ペプチド合成を含む固相合成)によって合成することができる。Fmocを使用するペプチド合成の一例を以下の実施例1として示す。例えば、ペプチド合成のための従来の固相法は、N-α-保護アミノ酸無水物を結晶の形で調製するか、または溶解状態で新鮮に調製し、N-末端での連続アミノ酸付加に使用することから始まってもよい。残基を付加するごとに、(固体支持体に付着している)成長中のペプチドを酸処理してN-α-保護基を除去し、数回洗浄して、残存している酸を除去し、ペプチド末端を反応媒体に接近しやすくする。次いで、ペプチドを活性化N-保護アミノ酸対称無水物と反応させ、固体支持体を洗浄する。反応した成長中のペプチド分子のパーセントを高めるために、残基付加工程ごとに、全部で2つまたは3つの別々の付加反応のためにアミノ酸付加反応を繰り返してもよい。一般的に、最初の12個の残基の付加のために1〜2回の反応サイクルが用いられ、残りの残基のために2〜3回の反応サイクルが用いられる。
【0062】
成長ペプチド鎖が完成した後、ペプチドを脱ブロックし、支持体から放出するために、保護ペプチド樹脂を強酸(例えば、フッ化水素酸またはトリフルオロ酢酸の液体)で処理する。アミド化ペプチドを調製するために、合成に用いられる樹脂支持体は、ペプチドを樹脂から切断した後にC末端アミドをもたらすように選択される。強酸を取り除いた後、ペプチドを1M酢酸溶液に抽出し、凍結乾燥してもよい。ペプチド二量体およびさらに高い分子量の重合体を除去するために、また、望ましくない塩を除去するために、ペプチドを、ゲル濾過による初回分離によって単離することができる。部分的に精製されたペプチドを、調製用HPLCクロマトグラフィーによってさらに精製してもよく、ペプチドの純度および同一性を、アミノ酸組成分析、質量分析、および分析用HPLC(例えば、2種類の溶媒系での分析用HPLC)によって確認してもよい。
【0063】
本発明はまた、本明細書に記載のMTS分子をコードするポリヌクレオチドを提供する。用語「ポリヌクレオチド」は、少なくとも10塩基長のヌクレオチド重合体を意味する。ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、またはいずれかのタイプのヌクレオチドの修飾型でもよい。この用語は、一本鎖型および二本鎖型のDNAを含む。従って、この用語は、例えば、ベクター(例えば、発現ベクター)に組み込まれる組換えDNA、自己複製プラスミドもしくはウイルスに組み込まれる組換えDNA、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれる組換えDNA、あるいは他の配列とは無関係の別の分子(例えば、cDNA)として存在する組換えDNAを含む。
【0064】
これらのポリヌクレオチドとして、本発明の特徴を有するMTS分子をコードするDNA配列、cDNA配列、およびRNA配列、またはその一部が挙げられる。ペプチド部分は、望ましいアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドによる合成を含む、組換え手段によって生成することができる。このようなポリヌクレオチドはまたプロモーターおよび他の配列を含んでもよく、宿主細胞においてトランスフェクション用ベクター(安定したトランスフェクションでもよく、一過的なトランスフェクションでもよい)に組み込まれてもよい。
【0065】
発現ベクターの構築およびトランスフェクトされた細胞における遺伝子の発現では、当技術分野において周知の分子クローニング法が用いられる。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning--A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N. Y.,(1989)およびCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel et al.,eds.,(Current Protocols,Greene Publishing Associates,Inc.とJohn Wiley&Sons,Inc.の合弁事業,最新補遺)を参照のこと。関心対象のポリペプチドの発現をコードする配列で細胞をトランスフェクトするのに用いられる核酸は、一般的に、ポリペプチドの発現をコードするヌクレオチド配列と作動可能に連結した発現制御配列を含む発現ベクターの形をしている。本明細書で使用する「作動可能に連結した」は、このように述べられた成分が意図したように機能できる関係にある並置を意味する。コード配列と作動可能に連結している制御配列は、制御配列と適合する条件下でコード配列が発現するように連結されている。「制御配列」は、制御配列が連結しているコード配列および非コード配列を発現させるのに必要なポリヌクレオチド配列を意味する。制御配列は、一般的に、プロモーター、リボソーム結合部位、および転写終結配列を含む。用語「制御配列」は、最低でも、存在すると発現に影響を及ぼす成分を含むことが意図され、また、存在すると有利なさらなる成分(例えば、リーダー配列および融合パートナー配列)を含んでもよい。本明細書で使用する用語「(ポリヌクレオチドの)発現をコードするヌクレオチド配列」は、mRNAが転写および翻訳されるとポリペプチドを産生する配列を意味する。これは、例えば、イントロンを含有する配列を含んでもよい。本明細書で使用する用語「発現制御配列」は、作動可能に連結している核酸配列の発現を調節する核酸配列を意味する。発現制御配列は、発現制御配列が核酸配列の転写(適宜、翻訳)を制御および調節する時に、核酸配列に作動可能に連結される。従って、発現制御配列は、適切なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の前に開始コドン(すなわち、ATG)、イントロン用のスプライシングシグナル、mRNAを適切に翻訳するための遺伝子の正しい読み枠の維持、および停止コドンを含んでもよい。
【0066】
蛍光表示コード配列および適切な転写/翻訳制御シグナルを含有する発現ベクターを構築するために、当業者に周知の方法を使用することができる。これらの方法として、インビトロ組換えDNA法、合成法、およびインビボ組換え/遺伝子組換えが挙げられる(例えば、Maniais,et al.,Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,N.Y.,1989に記載の技法を参照のこと)。組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当業者に周知の従来法によって行うことができる。宿主が大腸菌などの原核生物である場合、DNA取り込みが可能なコンピテント細胞は、指数増殖期後に採取し、その後に当技術分野において周知の手順によるCaCl2法で処理した細胞から調製することができる。または、MgCl2またはRbClを使用することができる。宿主細胞のプロトプラストを形成した後に、またはエレクトロポレーションによって、形質転換を行うこともできる。
【0067】
宿主が真核生物である場合、リン酸カルシウム共沈、従来の機械的手段(例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソームに入れたプラスミドの挿入)、またはウイルスベクターなどのDNAトランスフェクション法を使用することができる。真核細胞はまた、本発明の融合ポリペプチドをコードするDNA配列と、選択可能な表現型をコードする第2の外来DNA分子(例えば、単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子)でコトランスフェクトすることもできる。別の方法は、真核生物ウイルスベクター(例えば、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルス)を用いて、真核細胞に一過的に感染させるか、または真核細胞を形質転換し、タンパク質を発現する方法である(Eukaryotic Viral Vectors,Cold Spring Harbor Laboratory,Gluzman ed.,1982)。原核生物または真核生物において発現した本発明のポリペプチドを単離および精製する技法は、任意の従来の手段(例えば、調製用クロマトグラフィー分離および免疫学的分離(例えば、モノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体または抗原の使用を伴う免疫学的分離))によるものでよい。
【0068】
本発明の化合物は薬学的に有用な組成物に処方できることが理解されるだろう。このような薬学的組成物は既知の方法に従って調製することができる。例えば、本発明の特徴を有し、積荷部分C(例えば、治療剤部)を有するMTS化合物は、薬学的に許容される担体ビヒクルと混合して組み合わせることができる。適切なビヒクルおよびその処方物(他のヒトタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)を含む)は、例えば、本明細書に参考として組み入れられる、E.W.MartinによるRemington's Pharmaceutical Sciencesで述べられている。効果的な投与に適した薬学的に許容される組成物を調製するために、このような組成物は有効量の化合物を適量のビヒクルと一緒に含有している。投与量および投与計画は、当技術分野において周知の方法((例えば、実験動物において)ある範囲の用量を実験動物または被検体に与え、応答を記録することによって、有効量(処置した半分の実験動物が処置に対して応答を示す量)(ED50)を求めることを含む)によって、適応症および化合物について決定することができる。
【実施例】
【0069】
実施例1
ペプチド合成
細胞取り込みを調節することができる多数のペプチドを合成した。下記において、以下の記号を使用する場合には、指示した意味をもつものとして使用した。Fl=フルオレセイン、aca=アミノカプロン酸リンカー(-HN-(CH2)5-CO-)、C=L-システイン、E=L-グルタミン酸、R=L-アルギニン、D=L-アスパラギン酸、K=L-リジン、A=L-アラニン、r=D-アルギニン、c=D-システイン、e=D-グルタミン酸、P=L-プロリン、L=L-ロイシン、G=グリシン、V=バリン、I=イソロイシン、M=メチオニン、F=フェニルアラニン、Y=チロシン、W=トリプトファン、H=ヒスチジン、Q=グルタミン、N=アルギニン、S=セリン、およびT=スレオニン。下記の配列において、小文字はアミノ酸のD異性体を示している。
【0070】
ペプチドを、固相合成法ならびに市販のFmocアミノ酸、樹脂、および他の試薬を用いて、ペプチド合成装置(Applied BiosystemsによるPioneer Peptide Synthesis System)において合成した。ペプチドをTFA/チオアニソール/トリイソプロピルシランまたはTFA/チオアニソール/トリイソプロピルシラン/エタンジチオールで切断した。ペプチドのアミノ基を、5-(および-6)カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステルで標識するか、ペプチドのチオール基を5-ヨードアセトアミドフルオレセインで標識した。粗ペプチドをHPLCで精製し、一晩凍結乾燥した。それぞれのペプチド組成物を質量分析で確認した。
【0071】
実施例2
エンテロキナーゼによるペプチド切断
水保存液に溶解した0.38mMペプチド10μlを、1U/μlエンテロキナーゼ(Invitrogen,EKmax)10μlに添加し、反応混合物5μlをHPLC(440nmでモニタリングする)に注入することによって、切断の進行をモニタリングした。ペプチドはエンテロキナーゼの基質になるように設計し、エンテロキナーゼはK残基とA残基の間を切断すると予想された。ペプチドEDDDDKA-aca-R9-aca-C(Fl)-CONH2 (配列番号:3)(リンカー部分がKとAの間で切断される前)の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)クロマトグラムを図6Aに図示する。(用語「R9」は9個のアルギニンの配列を示す)。HPLCクロマトグラムから、15分の反応時間の後にペプチドはほぼ完全に切断されたことが分かった。図6Bは、エンテロキナーゼによる切断後の図6AのペプチドのHPLCクロマトグラムを図示している。新たなピークが集められ、質量分析計によって測定された。求められた質量は(予想通り)EDDDDKA-aca-R9-aca-C(Fl)-CONH2 (配列番号:3)の配列のKとAの間の切断に対応している。
【0072】
実施例3
取り込みを拒否する酸性部分を有するペプチド
蛍光積荷部が(複数のアルギニン残基を有する)塩基性部分に結合し、塩基性部分が切断可能なリンカーによって(複数のグルタミン酸残基を有する)酸性部分と連結している、本発明の特徴を有するペプチド分子を合成し、積荷を細胞に送達する能力について試験した。オリゴアルギニンを介した細胞取り込みをオリゴグルタミン酸が拒否したペプチドとして、
が挙げられる。
切断依存的な取り込みを示したペプチドとして、
【0073】
実施例4
マトリックスメタロプロテイナーゼ-2(MMP-2)により切断されるペプチド
Stricklin et al(1983)Biochemistry 22:61およびMarcy et al(1991)Biochemistry 30:6476)に記載のように、MMP-2(5μgを88μlに溶解した)を、Tris-HCl緩衝液中でヒトリウマチ滑液線維芽細胞(human rheumatoid synovial fibroblast)プロ酵素(Invitrogen)から活性化し、次いで、0.5mMペプチド保存液32μlと室温で1時間インキュベートした。図7Aは、MMP-2による切断前の基質ペプチドのHPLCクロマトグラムを図示している。酵素による切断の進行は、215nm吸光度でHPLCによってモニタリングした。図7Bは、MMP-2による切断後のペプチドのHPLCクロマトグラムであり、新たな化学種に完全に変換されたことを示している。
【0074】
実施例5
細胞取り込みのFACS分析
ヒトT細胞株である野生型ジャーカット細胞を、10%(v/v)不活化ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI1640培地中で培養し、密度を約1×106細胞/mlにした。培地を、使用する1日前に新鮮にした。実験の前に、ジャーカット細胞をHBSS緩衝液で3回洗浄し、(0.5-1)×106細胞/mlの密度でHBSSに再懸濁した。細胞取り込み実験では、細胞を、室温で10分間、1μMペプチドまたは化合物で染色し、次いで、冷HBSSで2回洗浄し、FACS分析にかけた。細胞取り込みを530nmでの蛍光によってFACSでモニタリングし、前方散乱光および側方散乱光によって健常であると判断された細胞から5,000〜10,000の事象を記録した。データは記録された細胞集団の平均蛍光を表し、蛍光標識化合物が取り込まれたことを示している。大部分の実験において、Fl-GGR10-CONH2 (グラフでは「R10」と省略する;配列番号:49)を取り込みの正の対照として含めた。
【0075】
指示したペプチド(それぞれ蛍光積荷部を有する)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞において測定した平均蛍光を、図8、図9、および図10に示した。
【0076】
図9に示したように、化合物6-14(配列番号:7)および6-16(配列番号:8)は蛍光の大幅な上昇を示した。このことから、完全な状態のペプチドより切断型ペプチドがかなり多く取り込まれたことが分かる。同様に、図10に示したように、化合物7-2(配列番号:11)および7-6(配列番号:13)も、非切断型化合物の蛍光と比較して、切断後に蛍光の大幅な上昇を示した。従って、これらの結果は、塩基性アミノ酸を有する化合物の細胞取り込みが酸性部分と連結することで阻止されたことを証明している。さらに、これらの結果は、(塩基性アミノ酸を有する)これらのペプチドの蛍光部分の細胞取り込みが酸性部分の切断後に上昇することを証明している。
【0077】
インキュベーション時間が長くなるにつれて、このような細胞取り込みは増大する。図11は、蛍光積荷部、塩基性部分および酸性部分、ならびに切断可能なリンカー部分を有する指示したペプチドと10分間インキュベートしたジャーカット細胞において測定した平均蛍光を図示している。図12に示したように、1時間インキュベートしたジャーカット細胞において測定した平均蛍光は、図11に示したように測定した蛍光と比較して増加している。
【0078】
ジスルフィドリンカーXを有するMTS分子が積荷部分を制御して送達する能力を、以下の構造
を有するペプチド7-45(配列番号:14)を用いて試験した。この構造では、2つのシステイン間のジスルフィド結合が酸性部分H2N-eeeeeec-CONH2 (配列番号:15)と塩基性部分Fl-rrrrrrrrrc-CONH2 (配列番号:16)を連結している。塩基性部分は、積荷部分である蛍光部Fl(フルオレセイン)を運ぶ。図13に図示したように、完全な状態の7-45ペプチド(配列番号:14)と10分間インキュベートしたジャーカット細胞において測定した平均蛍光は、ジャーカット細胞のみから測定したバックグラウンドの蛍光を少し上回るだけであった。しかしながら、ペプチドを、25mM tris(カルボキシエチル)ホスフィンおよび250mM 2-メルカプトエタンスルホネートで15分間還元し(これにより、ジスルフィドリンカーXが切断される)、ジャーカット細胞と10分間インキュベートすると、細胞に取り込まれる蛍光は、R10の存在下で10分間インキュベートした細胞の蛍光に匹敵するものであった。従って、ジスルフィドリンカーXを有する本発明の特徴を有するMTS分子は、積荷部分を細胞に制御して送達することができる。
【0079】
実施例6
様々な長さを有するMTS分子
本発明の特徴を有するMTS分子は、様々な数の塩基性アミノ酸、様々な数の酸性アミノ酸、および異なるリンカーを有してもよい。本発明の特徴を示す、様々なMTS分子の数例を本実施例において示す。ここでは、蛍光積荷部をフルオレセイン(Fl)で例示し、放射性積荷部を125Iで例示し、治療用積荷をドキソルビシン(DOX)で例示した。
【0080】
実施例7
積荷部として使用するのに適した分子の例
本発明の特徴を有するMTS分子の塩基性部分Bへ積荷部として取り付けるのに適した分子の例を図14に図示する。図14に示した様々な例示的な分子はそれぞれ、括弧内の識別文字によって標識されている。この分子には、末端が点になっている1つの結合がある。末端が点になっているこの結合は、積荷分子を塩基性部分Bに取り付けるのに使用することができる。点の付いた結合の近くにある角括弧内の文字は、積荷分子が結合し得る適切な原子を示している。例えば、[N]は、積荷分子が窒素(例えば、リジンεアミノ基の窒素、またはMTS分子のペプチドバックボーンのαアミノ基の窒素)に結合できることを示している。[S]は硫黄原子(例えば、システイン硫黄原子)との結合を示している。
【0081】
これらの例示的な積荷分子の2つ以上が1つの塩基性部分Bに取り付けられてもよく、複数の積荷分子を運ぶ複数の塩基性部分Bに、2種類以上の積荷分子が取り付けられてもよい。積荷分子はまた、より複雑な構造の一部であってもよい。例えば、(k)と表示した積荷部の黒っぽい円は、架橋アミノ化デキストランで覆われた超常磁性酸化鉄コアを含む粒子を表している(このような粒子の半径は一般的に約22ナノメートルである)。ペンダント基を1つだけ示したが、このような粒子は複数のペンダント基(一般的に、約4個〜約20個)を有してもよい。
【0082】
実施例8
酸性部分Aに含めるのに適した酸性部の例
酸性部分Aは、図15に図示したような酸性部を含んでもよい。このような部は、ペプチド結合、ジスルフィド結合、または他の結合によって、リンカーXおよび酸性部分Aに連結することができる。図中の破線は、可能な取り付け点を示している。この図および後の図において、角括弧内の部は繰り返しが可能なモチーフを示している。文字(例えば「x」)はモチーフを繰り返すことができる回数を示し、多くの可能な値(一般的に、約1〜約100、好ましくは約1〜約20)をとることができる)。このような酸性部は任意の適切なやり方で酸性部分Aに取り付けることができることが理解されるだろう。態様において、本発明の特徴を有するMTS分子の酸性部分Aは、部分的に、図15に図示したような酸性部からなってもよく、主に、図15に図示したような酸性部からなってもよく、本質的に完全に、図15に図示したような酸性部からなってもよい。
【0083】
実施例9
リンカー部の例
本発明の特徴を有するMTS分子において使用にするのに適したリンカーは、生理学的条件下で酵素によって切断可能なペプチドまたは他の分子でもよい。例えば、リンカーは、メタロプロテアーゼのような酵素によって切断することができてもよい。MMP-2によって切断可能なリンカーは前述されている。さらに、例えば、MMP-9、MMP-11、およびMMP-14などの他のメタロプロテアーゼによって切断可能なリンカーも適している。例えば、MMP-9によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
PR(S/T)(L/I)(S/T)(配列番号:29)
を含んでもよい(式中、括弧内の文字は、指示したアミノ酸のいずれか1つが配列内のその位置にあり得ることを示している)。MMP-11によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GGAANLVRGG(配列番号:30)
を含んでもよく、MMP-14(MT1-MMP)によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
SGRIGFLRTA(配列番号:31)を含んでもよい。
【0084】
ウロキナーゼプラスミノゲンアクチベーター(uPA)によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
SGRSA(配列番号:32)を含んでもよい。
【0085】
リソソーム酵素によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GFLG(配列番号:33)、
ALAL(配列番号:34)、およびFK
の1つまたはそれ以上を含んでもよい。
【0086】
ペプチドリンカーはカテプシンによって切断することができてもよい。例えば、カテプシンBによって切断可能なリンカーはKK配列またはRR配列を含んでもよく、その両方を含んでもよい(この場合、切断は一般的にリジンまたはアルギニンの間で起こる)。カテプシンDによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
PIC(Et)F-F(配列番号:35)
を含んでもよい(式中、C(Et)は、S-エチルシステイン(エチル基がチオールに取り付けられたシステイン)を示し、「-」は、この配列および後の配列における代表的な切断部位を示している)。カテプシンKによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GGPRGLPG(配列番号:36)
を含んでもよい。
【0087】
前立腺特異的抗原によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
HSSKLQ-(配列番号:37)
を含んでもよい。
【0088】
単純ヘルペスウイルスプロテアーゼによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
LVLA-SSSFGY(配列番号:38)
を含んでもよい。
【0089】
HIVプロテアーゼによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GVSQNY-PIVG(配列番号:39)
を含んでもよい。
【0090】
サイトメガロウイルスプロテアーゼによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GVVQA-SCRLA(配列番号:40)
を含んでもよい。
【0091】
トロンビンによって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
f(Pip)R-S(配列番号:41)
を含んでもよい。式中、「f」はD-フェニルアラニンを示し、「Pip」は、ピペリジン-2-カルボン酸(ピペコリン酸,六員環を有するプロリン類似体)を示す。
【0092】
カスパーゼ-3によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
DEVD-(配列番号:42)
を含んでもよい。
【0093】
インターロイキン1β変換酵素によって切断可能なペプチドリンカーは、ペプチド配列
GWEHD-G(配列番号:43)
を含んでもよい。
【0094】
さらに、本発明の特徴を有するMTS分子において使用するのに適したリンカーは、生理学的条件下でプロテアーゼ以外の薬剤によって切断することができてもよい。リンカーはまた非ペプチド分子でもよい。リンカーとして適した酵素切断可能な部および非酵素的に切断可能な部のいくつかの例を図16に図示した。様々な切断可能なリンカーの例を、切断につながる条件の表示と共に示した。例えば、(a)と表示したリンカーの切断は、β-ラクタマーゼによって達成することができる。(b)と表示したリンカーの切断は、光(例えば、単一光子の紫色光または二光子の赤外光)への暴露によって達成することができる。(c)と表示したリンカーの切断は還元条件下で行われる。(d)および(e)と表示したリンカーの切断は酸性状態で行われる。エステラーゼを付加すると、(f)と表示したリンカーを切断することができ、ホスファターゼは(g)と表示したリンカーを切断することができる。
【0095】
実施例10
塩基性部分Bに含めるのに適した塩基性部の例
塩基性部分Bは、図17に図示したような塩基性部を含んでもよい。このような部分Bは、ペプチド結合、ジスルフィド結合、または他の結合によって、リンカーX、積荷C、または塩基性部分Bの別の部分に連結することができる。点は、可能な取り付け点を示すのに対して、角括弧で囲まれた文字は、このような取り付けを行うことができる可能な原子を示している(例えば、[S]は、硫黄原子への結合(例えば、ジスルフィド結合(diusulfide bond))が可能なことを示し、[N]は、窒素への結合が可能なことを示している)。このような塩基性部は、任意の適切なやり方で塩基性部分BまたはMTS分子の他の部分に取り付けることができることが理解されるだろう。例えば、図17の化合物(c)に示した「X」は、リンカーXがD-リジン残基の側鎖に取り付けられることを示している。図17の化合物(c)のアミノ酸部分は配列番号:44である。図17の化合物(d)のアミノ酸部分は配列番号:45である。図17の化合物(e)のアミノ酸部分は配列番号:46である。図17の化合物(f)のアミノ酸部分は配列番号:47である。態様において、本発明の特徴を有するMTS分子の塩基性部分Bは、部分的に、図17に図示したような塩基性部からなってもよく、主に、図17に図示したような塩基性部からなってもよく、本質的に完全に、図17に図示したような塩基性部からなってもよい。
【0096】
AとBの組み合わせの中には他の組み合わせより適しているものもあることが理解されるだろう。例えば、AおよびBが両方ともペプチドであるか、AおよびBが両方ともペプトイドであるか、またはAおよびBが両方ともカルバメートになるように、本発明の特徴を有するMTS分子の部分Aおよび部分Bの両方に同じバックボーン構造が存在することが好ましい。例えば、Aの負電荷の数とBの正電荷の数がほぼ同じになるように、一方の部分の実効電荷の絶対値が他方の部分の実効電荷の絶対値とほぼ同じであるか、または同じであることも好ましい。
【0097】
実施例11
重合酸性部分の例
別の態様において、酸性部分Aは重合体を含んでもよく、重合体の一部でもよい。好ましい態様において、重合体の平均分子量は約50kDa以上である。このような高分子量は免疫原性を弱め、排出を遅らせ、血流中での滞留時間を長くすることで薬力学特性を改善する。さらに、このような大きさの重合体は、正常組織より漏出性の高い毛細血管を有し、リンパ排液が損なわれていることが多い腫瘍において「EPR(enhanced permeability and retention)」の恩恵を受ける。これらの特性によって、重合体の腫瘍対正常組織における濃度比は低分子量薬物のものより高くなる。重合体担体の利益の最近の議論については、Kopecek et al(2001)J.Controlled Release 74:147-158;Luo&Prestwich(2002)Current Cancer Drug Targets 2:209-226;Maeda et al(2003)International Immunopharmacology 3:319-328;およびTorchilin&Lukyanov(2003)Drug Discovery Today 8:259-266を参照のこと。このEPR効果は、正常組織と比較した腫瘍組織での濃度の上昇につながる、腫瘍付近で見られる酵素による、または条件下での本発明の特徴を有するMTS分子のリンカーXの特異的な切断に起因する腫瘍感受性をさらに補強するはずである。Xの切断は、塩基性部分BおよびBに取り付けられた積荷Cを重合酸性部分Aから放出させ、BおよびCを細胞に取り込ませる効果がある。好ましい態様では、リンカーXが完全な状態のままで、重合体は、BおよびCの取り込みを拒否するのに十分な数の負電荷を運ぶ。このような重合体の例を図18に示す。図18の化合物(c)のアミノ酸部分は配列番号:48である。
(配列表)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造A-X-Bの分子であって、式中、
Bは、細胞取り込みに適した、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチド部分であり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチド部分であり、部分Bと連結している時には、部分Bの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとBをつなぐ約2〜約100個の原子のリンカーである、分子。
【請求項2】
ペプチド部分Aが約5〜約9個のグルタミン酸またはアスパラギン酸を含む、請求項1記載の分子。
【請求項3】
ペプチド部分Aが約5〜約9個の連続したグルタミン酸またはアスパラギン酸を含む、請求項2記載の分子。
【請求項4】
ペプチド部分Bが約9〜約16個のアルギニンを含む、請求項1記載の分子。
【請求項5】
ペプチド部分Bが約9〜約16個の連続したアルギニンを含む、請求項4記載の分子。
【請求項6】
ペプチド部分AがD-アミノ酸を含む、請求項1記載の分子。
【請求項7】
ペプチド部分BがD-アミノ酸を含む、請求項1記載の分子。
【請求項8】
ペプチド部分AがD-アミノ酸からなる、請求項1記載の分子。
【請求項9】
ペプチド部分BがD-アミノ酸からなる、請求項1記載の分子。
【請求項10】
ペプチド部分AおよびBがD-アミノ酸からなる、請求項1記載の分子。
【請求項11】
細胞膜を横断して構造A-X-B-Cの積荷部を輸送するための分子であって、式中、
Cは積荷部を含む部分であり、
Bは、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチド部分であり、細胞取り込みに適しており、部分Cに共有結合しており、かつ細胞膜を横断した積荷部分Cの輸送を向上させる効果があり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチド部分であり、部分Bと連結している時には、B-Cの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとB-Cをつなぐ約2〜約100個の原子の切断可能なリンカーである、分子。
【請求項12】
ペプチド部分Aが、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる酸性アミノ酸の群より選択されるアミノ酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項13】
ペプチド部分Bが、アルギニンおよびヒスチジンからなる塩基性アミノ酸の群より選択されるアミノ酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項14】
積荷部分Cが、蛍光部、蛍光消光部、放射性部、放射線不透過性部、常磁性部、ナノ粒子、小胞、分子ビーコン、マーカー、マーカー酵素、造影剤、化学療法剤、および放射線増感剤からなる積荷部の群より選択される、請求項11記載の分子。
【請求項15】
積荷部分Cが画像診断用の造影剤を含む、請求項14記載の分子。
【請求項16】
積荷部分Cが放射線療法用の放射線増感剤を含む、請求項14記載の分子。
【請求項17】
ペプチド部分Aが約5〜約9個のグルタミン酸およびアスパラギン酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項18】
ペプチド部分Aが約5〜約9個の連続したグルタミン酸およびアスパラギン酸を含む、請求項17記載の分子。
【請求項19】
ペプチド部分Bが約9〜約16個のアルギニンを含む、請求項11記載の分子。
【請求項20】
ペプチド部分Bが約9〜約16個の連続したアルギニンを含む、請求項19記載の分子。
【請求項21】
ペプチド部分AがD-アミノ酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項22】
ペプチド部分BがD-アミノ酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項23】
ペプチド部分AがD-アミノ酸からなる、請求項11記載の分子。
【請求項24】
ペプチド部分BがD-アミノ酸からなる、請求項11記載の分子。
【請求項25】
ペプチド部分AおよびBがD-アミノ酸からなる、請求項11記載の分子。
【請求項26】
ペプチド部分BがD-アルギニンアミノ酸からなる、請求項25記載の分子。
【請求項27】
ペプチド部分Aが、B-Cを含むポリペプチド鎖の末端に位置する、請求項11記載の分子。
【請求項28】
ペプチド部分Aが、B-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端に位置する、請求項11記載の分子。
【請求項29】
ペプチド部分Aが、B-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端の近くに連結されるか、またはB-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端に連結される、請求項11記載の分子。
【請求項30】
ペプチド部分Aが、B-Cを含むポリペプチド鎖のカルボキシ末端の近くに連結されるか、またはB-Cを含むポリペプチド鎖のカルボキシ末端に連結される、請求項11記載の分子。
【請求項31】
B-Cが、B側末端およびC側末端からなる末端を有するポリペプチド鎖を含み、切断可能なリンカーXが該B側末端の近くに配置されるか、または該B側末端に配置される、請求項11記載の分子。
【請求項32】
B-Cが、B側末端およびC側末端からなる末端を有するポリペプチド鎖を含み、切断可能なリンカーXが該C側末端の近くに配置されるか、または該C側末端に配置される、請求項11記載の分子。
【請求項33】
切断可能なリンカーXが可撓性リンカーである、請求項11記載の分子。
【請求項34】
切断可能なリンカーXが、長さが約6〜約30個の原子の可撓性リンカーである、請求項11記載の分子。
【請求項35】
酸性環境において切断可能なリンカーXを切断することができる、請求項11記載の分子。
【請求項36】
切断可能なリンカーXがペプチド結合を含む、請求項11記載の分子。
【請求項37】
切断可能なリンカーXがアミノカプロン酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項38】
切断可能なリンカーXが細胞外で切断されるような構成をしている、請求項11記載の分子。
【請求項39】
切断可能なリンカーXが酵素によって切断されるような構成をしている、請求項11記載の分子。
【請求項40】
酵素がマトリックスメタロプロテアーゼである、請求項38記載の分子。
【請求項41】
切断可能なリンカーXがアミノ酸配列PLGLAG(配列番号:1)を含む、請求項35記載の分子。
【請求項42】
切断可能なリンカーXがアミノ酸配列EDDDDKA(配列番号:2)を含む、請求項35記載の分子。
【請求項43】
切断可能なリンカーXがS-S結合を含む、請求項34記載の分子。
【請求項44】
切断可能なリンカーXが遷移金属錯体を含み、金属が還元されると遷移金属錯体リンカーが切断される、請求項34記載の分子。
【請求項45】
部分Aと構造B-Cを連結する複数の切断可能なリンカーXを含む、請求項11記載の分子。
【請求項46】
構造A-X-Bの分子であって、式中、
Bは、細胞取り込みに適した、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチド部分であり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチド部分であり、部分Bと連結している時には、部分Bの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとBをつなぐ約3〜約30個の原子の切断可能なリンカーである、分子と、
薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項47】
切断可能なリンカーXが、長さが約6〜約30個の原子の切断可能なリンカーであり、部分Aが約5〜約9個の酸性アミノ酸残基を有し、部分Bが約9〜約16個の塩基性アミノ酸残を有する、請求項46記載の薬学的組成物。
【請求項48】
部分Bに共有結合し、かつ積荷部を含む部分Cをさらに含む、請求項46または47記載の薬学的組成物。
【請求項49】
細胞取り込みに適した、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチドBの細胞取り込みを調節する方法であって、以下の工程を含む方法:
該ペプチドBを、生理学的条件下で切断することができる約3〜約30個の原子の切断可能なリンカーXを有する約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチドAに連結する工程、および
分子AからペプチドBを分離する効果のある該切断可能なリンカーXを切断する工程。
【請求項50】
積荷部Cの細胞取り込みを調節する方法であって、以下の工程を含む方法:
積荷部Cを、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチドBに共有結合させて、分子B-Cを得る工程、
該分子B-Cを、約3〜約30個の原子の切断可能なリンカーXを有する約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチドAに連結する工程、および
該ペプチドAからB-Cを分離する効果のある該切断可能なリンカーXを切断する工程。
【請求項51】
構造A-X-Bの分子であって、式中、
Bは、細胞取り込みに適した、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチドであり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチドであり、部分Bと連結している時には、ペプチドBの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとBをつなぐ1〜10個のアミノ酸残基の切断可能なリンカー部分である、分子をコードする核酸。
【請求項52】
構造A-X-B-Cの分子であって、式中、
Cはペプチド積荷部であり、
Bは、細胞取り込みに適した、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチドであり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチドであり、ペプチドBと連結している時には、B-Cの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとB-Cをつなぐ1〜10個のアミノ酸残基の切断可能なリンカー部分である、分子をコードする核酸。
【請求項53】
細胞膜を横断して構造Q-A-X-B-Cの蛍光積荷部を輸送するための分子であって、式中、
Cは蛍光積荷部を含む部分であり、
Bは、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチド部分であり、細胞取り込みに適しており、部分Cに共有結合されており、かつ細胞膜を横断した積荷部分Cの輸送を向上させる効果があり、
Qは、Aに取り付けられ、かつ蛍光積荷Cからの蛍光を消光する効果のあるクエンチャー部であり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチド部分であり、部分Bと連結している時には、B-Cの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとB-Cをつなぐ約2〜約100個の原子の切断可能なリンカーである、分子。
【請求項54】
酵素がプロテアーゼである、請求項39記載の分子。
【請求項55】
リンカーXが切断されると、該リンカーXがC末端を有し、部分BがN末端を有し、これによって、リンカーXが切断されると、部分BのN末端が生理学的条件下で部分Bにさらなる正電荷を加えることができる、請求項54記載の分子。
【請求項56】
1個の積荷部分Cが複数の部分Bに連結しており、それぞれの部分Bが切断可能なリンカー部分Xに連結しており、切断可能なリンカー部分Xが酸性部分Aに連結している、請求項11記載の分子。
【請求項1】
構造A-X-Bの分子であって、式中、
Bは、細胞取り込みに適した、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチド部分であり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチド部分であり、部分Bと連結している時には、部分Bの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとBをつなぐ約2〜約100個の原子のリンカーである、分子。
【請求項2】
ペプチド部分Aが約5〜約9個のグルタミン酸またはアスパラギン酸を含む、請求項1記載の分子。
【請求項3】
ペプチド部分Aが約5〜約9個の連続したグルタミン酸またはアスパラギン酸を含む、請求項2記載の分子。
【請求項4】
ペプチド部分Bが約9〜約16個のアルギニンを含む、請求項1記載の分子。
【請求項5】
ペプチド部分Bが約9〜約16個の連続したアルギニンを含む、請求項4記載の分子。
【請求項6】
ペプチド部分AがD-アミノ酸を含む、請求項1記載の分子。
【請求項7】
ペプチド部分BがD-アミノ酸を含む、請求項1記載の分子。
【請求項8】
ペプチド部分AがD-アミノ酸からなる、請求項1記載の分子。
【請求項9】
ペプチド部分BがD-アミノ酸からなる、請求項1記載の分子。
【請求項10】
ペプチド部分AおよびBがD-アミノ酸からなる、請求項1記載の分子。
【請求項11】
細胞膜を横断して構造A-X-B-Cの積荷部を輸送するための分子であって、式中、
Cは積荷部を含む部分であり、
Bは、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチド部分であり、細胞取り込みに適しており、部分Cに共有結合しており、かつ細胞膜を横断した積荷部分Cの輸送を向上させる効果があり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチド部分であり、部分Bと連結している時には、B-Cの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとB-Cをつなぐ約2〜約100個の原子の切断可能なリンカーである、分子。
【請求項12】
ペプチド部分Aが、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる酸性アミノ酸の群より選択されるアミノ酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項13】
ペプチド部分Bが、アルギニンおよびヒスチジンからなる塩基性アミノ酸の群より選択されるアミノ酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項14】
積荷部分Cが、蛍光部、蛍光消光部、放射性部、放射線不透過性部、常磁性部、ナノ粒子、小胞、分子ビーコン、マーカー、マーカー酵素、造影剤、化学療法剤、および放射線増感剤からなる積荷部の群より選択される、請求項11記載の分子。
【請求項15】
積荷部分Cが画像診断用の造影剤を含む、請求項14記載の分子。
【請求項16】
積荷部分Cが放射線療法用の放射線増感剤を含む、請求項14記載の分子。
【請求項17】
ペプチド部分Aが約5〜約9個のグルタミン酸およびアスパラギン酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項18】
ペプチド部分Aが約5〜約9個の連続したグルタミン酸およびアスパラギン酸を含む、請求項17記載の分子。
【請求項19】
ペプチド部分Bが約9〜約16個のアルギニンを含む、請求項11記載の分子。
【請求項20】
ペプチド部分Bが約9〜約16個の連続したアルギニンを含む、請求項19記載の分子。
【請求項21】
ペプチド部分AがD-アミノ酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項22】
ペプチド部分BがD-アミノ酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項23】
ペプチド部分AがD-アミノ酸からなる、請求項11記載の分子。
【請求項24】
ペプチド部分BがD-アミノ酸からなる、請求項11記載の分子。
【請求項25】
ペプチド部分AおよびBがD-アミノ酸からなる、請求項11記載の分子。
【請求項26】
ペプチド部分BがD-アルギニンアミノ酸からなる、請求項25記載の分子。
【請求項27】
ペプチド部分Aが、B-Cを含むポリペプチド鎖の末端に位置する、請求項11記載の分子。
【請求項28】
ペプチド部分Aが、B-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端に位置する、請求項11記載の分子。
【請求項29】
ペプチド部分Aが、B-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端の近くに連結されるか、またはB-Cを含むポリペプチド鎖のアミノ末端に連結される、請求項11記載の分子。
【請求項30】
ペプチド部分Aが、B-Cを含むポリペプチド鎖のカルボキシ末端の近くに連結されるか、またはB-Cを含むポリペプチド鎖のカルボキシ末端に連結される、請求項11記載の分子。
【請求項31】
B-Cが、B側末端およびC側末端からなる末端を有するポリペプチド鎖を含み、切断可能なリンカーXが該B側末端の近くに配置されるか、または該B側末端に配置される、請求項11記載の分子。
【請求項32】
B-Cが、B側末端およびC側末端からなる末端を有するポリペプチド鎖を含み、切断可能なリンカーXが該C側末端の近くに配置されるか、または該C側末端に配置される、請求項11記載の分子。
【請求項33】
切断可能なリンカーXが可撓性リンカーである、請求項11記載の分子。
【請求項34】
切断可能なリンカーXが、長さが約6〜約30個の原子の可撓性リンカーである、請求項11記載の分子。
【請求項35】
酸性環境において切断可能なリンカーXを切断することができる、請求項11記載の分子。
【請求項36】
切断可能なリンカーXがペプチド結合を含む、請求項11記載の分子。
【請求項37】
切断可能なリンカーXがアミノカプロン酸を含む、請求項11記載の分子。
【請求項38】
切断可能なリンカーXが細胞外で切断されるような構成をしている、請求項11記載の分子。
【請求項39】
切断可能なリンカーXが酵素によって切断されるような構成をしている、請求項11記載の分子。
【請求項40】
酵素がマトリックスメタロプロテアーゼである、請求項38記載の分子。
【請求項41】
切断可能なリンカーXがアミノ酸配列PLGLAG(配列番号:1)を含む、請求項35記載の分子。
【請求項42】
切断可能なリンカーXがアミノ酸配列EDDDDKA(配列番号:2)を含む、請求項35記載の分子。
【請求項43】
切断可能なリンカーXがS-S結合を含む、請求項34記載の分子。
【請求項44】
切断可能なリンカーXが遷移金属錯体を含み、金属が還元されると遷移金属錯体リンカーが切断される、請求項34記載の分子。
【請求項45】
部分Aと構造B-Cを連結する複数の切断可能なリンカーXを含む、請求項11記載の分子。
【請求項46】
構造A-X-Bの分子であって、式中、
Bは、細胞取り込みに適した、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチド部分であり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチド部分であり、部分Bと連結している時には、部分Bの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとBをつなぐ約3〜約30個の原子の切断可能なリンカーである、分子と、
薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項47】
切断可能なリンカーXが、長さが約6〜約30個の原子の切断可能なリンカーであり、部分Aが約5〜約9個の酸性アミノ酸残基を有し、部分Bが約9〜約16個の塩基性アミノ酸残を有する、請求項46記載の薬学的組成物。
【請求項48】
部分Bに共有結合し、かつ積荷部を含む部分Cをさらに含む、請求項46または47記載の薬学的組成物。
【請求項49】
細胞取り込みに適した、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチドBの細胞取り込みを調節する方法であって、以下の工程を含む方法:
該ペプチドBを、生理学的条件下で切断することができる約3〜約30個の原子の切断可能なリンカーXを有する約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチドAに連結する工程、および
分子AからペプチドBを分離する効果のある該切断可能なリンカーXを切断する工程。
【請求項50】
積荷部Cの細胞取り込みを調節する方法であって、以下の工程を含む方法:
積荷部Cを、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチドBに共有結合させて、分子B-Cを得る工程、
該分子B-Cを、約3〜約30個の原子の切断可能なリンカーXを有する約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチドAに連結する工程、および
該ペプチドAからB-Cを分離する効果のある該切断可能なリンカーXを切断する工程。
【請求項51】
構造A-X-Bの分子であって、式中、
Bは、細胞取り込みに適した、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチドであり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチドであり、部分Bと連結している時には、ペプチドBの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとBをつなぐ1〜10個のアミノ酸残基の切断可能なリンカー部分である、分子をコードする核酸。
【請求項52】
構造A-X-B-Cの分子であって、式中、
Cはペプチド積荷部であり、
Bは、細胞取り込みに適した、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチドであり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチドであり、ペプチドBと連結している時には、B-Cの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとB-Cをつなぐ1〜10個のアミノ酸残基の切断可能なリンカー部分である、分子をコードする核酸。
【請求項53】
細胞膜を横断して構造Q-A-X-B-Cの蛍光積荷部を輸送するための分子であって、式中、
Cは蛍光積荷部を含む部分であり、
Bは、約5〜約20個の塩基性アミノ酸残基のペプチド部分であり、細胞取り込みに適しており、部分Cに共有結合されており、かつ細胞膜を横断した積荷部分Cの輸送を向上させる効果があり、
Qは、Aに取り付けられ、かつ蛍光積荷Cからの蛍光を消光する効果のあるクエンチャー部であり、
Aは、約2〜約20個の酸性アミノ酸残基のペプチド部分であり、部分Bと連結している時には、B-Cの細胞取り込みを阻害または阻止する効果があり、
Xは、生理学的条件下で切断することができる、AとB-Cをつなぐ約2〜約100個の原子の切断可能なリンカーである、分子。
【請求項54】
酵素がプロテアーゼである、請求項39記載の分子。
【請求項55】
リンカーXが切断されると、該リンカーXがC末端を有し、部分BがN末端を有し、これによって、リンカーXが切断されると、部分BのN末端が生理学的条件下で部分Bにさらなる正電荷を加えることができる、請求項54記載の分子。
【請求項56】
1個の積荷部分Cが複数の部分Bに連結しており、それぞれの部分Bが切断可能なリンカー部分Xに連結しており、切断可能なリンカー部分Xが酸性部分Aに連結している、請求項11記載の分子。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図14d】
【図14e】
【図14f】
【図14g】
【図14h】
【図14i】
【図14j】
【図14k】
【図14l】
【図14m】
【図14n】
【図15a】
【図15b】
【図15c】
【図15d】
【図15e】
【図15f】
【図15g】
【図15h】
【図15i】
【図15j】
【図15k】
【図15l】
【図15m】
【図15n】
【図15o】
【図15p】
【図15q】
【図15r】
【図15s】
【図16a】
【図16b】
【図16c】
【図16d】
【図16e】
【図16f】
【図16g】
【図17a】
【図17b】
【図17c】
【図17d】
【図17e】
【図17f】
【図17g】
【図17h】
【図17i】
【図17j】
【図17k】
【図17l】
【図17m】
【図17n】
【図17o】
【図18】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図14d】
【図14e】
【図14f】
【図14g】
【図14h】
【図14i】
【図14j】
【図14k】
【図14l】
【図14m】
【図14n】
【図15a】
【図15b】
【図15c】
【図15d】
【図15e】
【図15f】
【図15g】
【図15h】
【図15i】
【図15j】
【図15k】
【図15l】
【図15m】
【図15n】
【図15o】
【図15p】
【図15q】
【図15r】
【図15s】
【図16a】
【図16b】
【図16c】
【図16d】
【図16e】
【図16f】
【図16g】
【図17a】
【図17b】
【図17c】
【図17d】
【図17e】
【図17f】
【図17g】
【図17h】
【図17i】
【図17j】
【図17k】
【図17l】
【図17m】
【図17n】
【図17o】
【図18】
【公開番号】特開2012−228255(P2012−228255A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−151153(P2012−151153)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【分割の表示】特願2006−538106(P2006−538106)の分割
【原出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151153(P2012−151153)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【分割の表示】特願2006−538106(P2006−538106)の分割
【原出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【Fターム(参考)】
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