細胞に基づくVEGF送達
虚血損傷組織の幹細胞分化を刺激する方法は、虚血損傷組織でVEGFの濃度を高めるステップと、虚血損傷組織のVEGFの濃度を高める一方で、虚血損傷組織での幹細胞の濃度を高めるステップとを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞分化を刺激する方法に関し、特に細胞に基づくVEGF送達を用いて幹細胞分化を刺激する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療的血管新生によって、虚心型心筋症および他の虚血性症候群の治療に対する可能性が得られる。虚血性心疾患を処置するための治療的血管新生は、いくつかの動物モデルと冠動脈血管再生術に不適な患者でのヒト試行治験とで有効性が示された。ヒト治験で試験される血管新生因子として、FGF-1、FGF-2、およびFGF-4と、VEGFのいくつかの多様なイソ型とが挙げられる(非特許文献1)。血管新生因子処置のための最適送達方法は、まだ決定されていない。持続的かつ無秩序な血管内皮増殖因子(VEGF)の生産は、動物モデルでは望ましくない悪影響があるため、局所かつ一時的な発現は、全身効果を最小化する試みとして好ましい(非特許文献2)。
【0003】
血管新生因子の送達のために臨床集団で検討される戦略として、静脈内または冠内注射を通してのタンパク質の送達、アデノウイルスの冠内注射、あるいはタンパク質、裸のDNA、または血管新生遺伝子産物をコードするアデノウイルスの心筋内直接注射が挙げられた(非特許文献3−8)。
【0004】
VEGFタンパク質の冠内送達戦略は、充分な心筋血管再生を得る上で要求される高用量に反応して生ずる低血圧等の全身毒性によって制限される(非特許文献9−10)。裸のDNAは、循環ヌクレアーゼによる急速な分解のため、心筋への直接注射を必要とする。
【非特許文献1】Freedman, S. B. & Isner, J. M., Ann Intern Med 2002; 136 (1): 54-71
【非特許文献2】Lee et al., Circulation 2000; 102 (8): 898-901
【非特許文献3】Udelson, J. E., et al., Circulation 2000; 102 (14): 1605-1610
【非特許文献4】Simons, M., et al., Chronos NA. Circulation 2002; 105 (7): 788-793
【非特許文献5】Grines, C. L., et al. Circulation 2002; 105 (11): 1291-1297
【非特許文献6】Laham, R. J., et al., Circulation 1999; 100 (18): 1865-1871
【非特許文献7】Vale, P. R., et al., Circulation 2001; 103 (17): 2138-2143
【非特許文献8】Rosengart T. K., et al. Circulation 1999; 100 (5): 468-474
【非特許文献9】Hariawala M. D., et al., J. Surg. Res. 1996; 63 (1): 77-82
【非特許文献10】Lopez, J. J., et al. Am. J. Physiol. 1997; 273 (3 Pt 2): H1317-H1323
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、虚血損傷組織の幹細胞分化を刺激する方法に関する。虚血損傷組織は、第1の濃度の幹細胞と、第1の濃度のVEGFとを含む。この方法では、虚血損傷組織中のVEGFの濃度を第1の濃度から第2の濃度へ高めることができる。虚血損傷組織中の幹細胞の濃度を第1の濃度から第2の濃度へ高めることができる。虚血損傷組織中のVEGFの濃度を増加させながら、幹細胞の濃度を増加させることができる。
【0006】
本発明の別の態様によれば、幹細胞数の増加は、骨髄から虚血損傷組織の末梢血への幹細胞の動員を引き起こす薬剤を投与することによって、あるいは末梢血に幹細胞を注射することによって、おこなわれる。本発明の好ましい態様では、骨髄から虚血損傷組織の末梢血への幹細胞の動員を引き起こす薬剤を、サイトカイン、ケモカイン、および化学療法薬からなる群から選択することができる。本発明のより好ましい態様では、上記薬剤は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を含む。
【0007】
本発明の別の態様では、VEGFの濃度を高めるステップは、細胞に影響を及ぼして虚血損傷組織でVEGFを発現させることを含む。遺伝子治療を用いることで、細胞に影響を与えてVEGFを発現させることができる。遺伝子治療の好ましい方法は、発現ベクターを細胞に形質移入することを含む。発現ベクターは、VEGFをコードしている核酸を含むことができる。
【0008】
本発明のさらにもう一つの態様によれば、VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、生体外で培養されて虚血損傷組織に導入された細胞を含む。培養細胞は、培養に先立って、処置される被験体から収集された自己由来の細胞を含むことができる。もう一つの態様において、VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、虚血損傷組織由来の自生細胞を含むことができる。
【0009】
本発明のもう一つの態様によれば、虚血損傷組織は第1の濃度のSDF-1を含むことができる。虚血損傷組織中のVEGFの濃度を増加させながら、虚血損傷組織のSDF-1の濃度を第1の濃度から第2の濃度まで高めることができる。虚血損傷組織中のSDF-1濃度は、虚血損傷組織内の細胞に影響を及ぼしてSDF-1を発現させることで、高めることができる。
【0010】
本発明のもう一つの態様によれば、発現ベクターを細胞に導入することによって細胞に影響を及ぼしてSDF-1を発現させることができる。発現ベクターは、SDF-1をコードする核酸を含むことができる。SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、生体外で培養されて虚血損傷組織に導入された細胞を含むことができる。SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、培養に先だって、処置される被験体から収集された自己由来の細胞をさらに含むことができる。あるいは、SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、虚血損傷組織由来の自生細胞を含むことができる。
【0011】
本発明のさらにもう一つの態様によれば、虚血損傷組織でVEGFを発現するために影響を受ける細胞は、虚血損傷組織でSDF-1を発現するために、さらに影響を受けることができる。細胞は、SDF-1を発現するために発現ベクターを細胞に導入することによって影響を受けることができる。発現ベクターは、VEGFをコードする核酸を含むことができる。
【0012】
本発明のもう一つの態様は、梗塞を起こした心筋層で幹細胞分化を刺激する方法に関する。この方法では、梗塞を起こした心筋層に細胞を導入することができる。細胞に影響を及ぼすことで、梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現させることができる。骨髄から梗塞を起こした心筋層の末梢血まで幹細胞を動員する薬剤を、投与することができる。梗塞を起こした心筋層でVEGFが発現されている間、幹細胞は骨髄から末梢血まで移動することができる。
【0013】
本発明の別の態様では、骨髄から梗塞を起こした心筋層の末梢血への幹細胞の動員を生じうる薬剤は、サイトカイン、ケモカイン、および化学療法薬からなる群から選択できる。好ましくは、上記薬剤は、顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF)を含むことができる。
【0014】
本発明の別の態様によれば、梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現させるために、遺伝子治療を使用して細胞が影響を受けることができる。遺伝子治療は、VEGFを発現させるために発現ベクターで細胞に影響を与えることを含むことができる。発現ベクターは、VEGFをコードする核酸配列を含むことができる。
【0015】
本発明のさらに別の態様によれば、梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現する細胞は、その梗塞を起こした心筋層への導入に先立って、生体外で培養された細胞を含む。さらなる態様では、VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、培養に先立って、処置される被験体から収集した自己由来の細胞を含むことができる。
【0016】
本発明の別の態様では、梗塞を起こした心筋層は、第1の濃度のVEGFを含むことができる。VEGFを発現するために影響を受けた細胞は、虚血損傷組織中のVEGFの濃度を第1の濃度から第2の濃度に高めることがきる。
【0017】
本発明のさらにもう一つの態様によれば、梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現するために影響を受けた細胞は、梗塞を起こした心筋層でSDF-1を発現するためにさらに影響を受けることができる。細胞に発現ベクターを導入することで、細胞が影響を受けてSDF-1を発現することができる。発現ベクターは、SDF-1をコードする核酸を含むことができる。
【0018】
本発明のさらなる態様は、梗塞を起こした心筋層の組織再生を促進するために、梗塞を起こした心筋層の幹細胞分化を刺激する方法に関する。本方法では、梗塞を起こした心筋層に骨格筋芽細胞を導入することができる。骨格筋芽細胞に発現ベクターを形質移入することで、梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現させることができる。骨髄から梗塞を起こした心筋層の末梢血まで前記幹細胞を動員するコロニー刺激因子を、投与することができる。VEGFが梗塞を起こした心筋層で発現されている間、幹細胞を骨髄から末梢血に動員することができる。骨髄から動員される幹細胞は、心筋細胞に分化しうる。
【0019】
本発明のさらなる特徴は、添付する図面を参照にして以下の説明を読むことによって、本発明に関連する当業者にとって、明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
特に定義しない限り、本明細書中に使用される全ての専門用語は、この発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を持つ。分子生物学の一般によく理解されている定義を、例えば、Rieger et al., Glossary of Genetics: Classical and Molecular, 5th edition, Springer-Verlag : New York, 1991; およびLewin, Genes V, Oxford University Press: New York, 1994に見いだすことができる。
【0021】
従来の分子生物学技術に関連する方法が、本明細書中に記載されている。そのような技術は周知であって、方法論に関する学術論文に詳述されており、そのような学術論文として、例えば、Molecular Cloning : A Laboratory Manual, 2nd ed., vol. 1-3, ed. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. , 1989; およびCurrent Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al., Greene Publishing and Wiley-interscience, New York, 1992 (定期的改訂あり)が挙げられる。核酸の化学合成法が、例えばBeaucage and Carruthers, Tetra. Letts. 22: 1859-1862,1981, およびMatteucci et al., J. Am. Chem. Soc. 103: 3185, 1981で議論されている。核酸の化学合成は、例えば、市販の自動オリゴヌクレオチド合成装置でおこなうことができる。免疫学的方法(例えば、抗原特異的抗体、免疫沈降、およびイムノブロッティング)は、例えば、Current Protocols in Immunology, ed. Coligan et al., John Wiley & Sons, New York, 1991; および Methods of Immunological Analysis, ed. Masseyeff et al., John Wiley & Sons, New York, 1992に記載されている。従来の遺伝子導入法および遺伝子治療法もまた、本発明での使用に適用することができる。例えば、Gene Therapy: Principles and Applications, ed. T. Blackenstein, Springer Verlag, 1999; Gene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), ed. P. D. Robbins, Humana Press, 1997; およびRetro-vector for Human Gene Therapy, ed. C. P. Hodgson, Springer Verlag, 1996を参照すること。
【0022】
本発明は、虚血損傷組織を再生させるために虚血損傷組織の幹細胞分化を刺激する方法に関する。本発明の方法は、虚血から(例えば、数週間)時間の経過した時点で虚血損傷組織を処置するのに用いることができる。
【0023】
上記方法は、哺乳類被験体内の虚血損傷組織に対して多能性幹細胞の遊走を動員することを含む。本発明に記載される多能性幹細胞は、本発明の方法によって刺激されて別の細胞に分化しうる任意の細胞である。多能性幹細胞の一例として、心筋細胞に分化しうる造血幹細胞が挙げられる。
【0024】
哺乳類被験体として、ヒト、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、サル、類人猿、ウサギ、牛等の任意の哺乳類が挙げられる。哺乳類被験体は、成体、幼若動物、および新生仔(児)を含む発生の任意の段階にあり得る。また、哺乳類被験体は発生の胎児段階にあるものも含むことができる。
【0025】
虚血損傷組織として、組織への血液供給が不足することで損傷を受けたいずれかの組織を挙げることができる。血液供給の不足は、血液を供給している動脈の閉塞もしくは狭窄に、または組織から還流する静脈の閉塞もしくは狭窄に起因する可能性がある。
【0026】
本発明の一態様では、虚血損傷組織として、梗塞を起こした心筋層が挙げられる。本発明で用いられる梗塞を起こした心筋層とは、梗塞性の心筋組織、梗塞性の心筋組織の末梢組織(例えば、末梢血管組織の場合、骨格筋組織)、ならびに梗塞性の心筋組織および梗塞性の心筋組織の末梢組織の両方をいう。
【0027】
虚血から時間が経過した時点で、第1の数の多能性幹細胞は虚血損傷組織を通行する。より多くの幹細胞が虚血傷害を通行するように、幹細胞のこの第の一数を増加させることができる。虚血損傷組織を通行する幹細胞数を増加させることによって、虚血損傷組織は再生することができる。なぜなら、虚血損傷組織にあるより多くの多能性幹細胞が、虚血損傷組織を再び埋めて(すなわち、移植)部分的にまたは完全に正常機能を修復することができる細胞に分化することができるからである。
【0028】
本発明の別の態様では、上記方法は、虚血損傷組織内の血管内皮増殖因子(VEGF)の濃度を、第1の濃度から該第1の濃度よりも十分に高い第2の濃度へ高めるステップを含む。虚血損傷組織内でのVEGFの第1の濃度は、虚血から時間の経過した時点(すなわち、数週間)での虚血性傷害組織で一般に認められるVEGF濃度である。VEGF濃度は、虚血から時間の経過した時点に虚血傷害組織で一般に発現されるVEGFの量から、虚血損傷組織でのVEGFの発現を上方制御することによって、虚血性傷害組織で増加させることができる。
【0029】
虚血損傷組織での血管内皮増殖因子の濃度を増加させると、生理的食塩水を用いた対照と比較して虚血損傷組織中の血管密度が増加する。虚血損傷組織で発現されるVEGFが、虚血損傷組織の幹細胞分化および再生を刺激するという知見も得られた。例えば、梗塞を起こした心筋層で発現したVEGFが、動員された幹細胞を心筋細胞に分化させるという知見が得られた。
【0030】
本発明の方法は、虚血損傷組織の末梢血での多能性幹細胞の濃度(すなわち、数)が第1の濃度から第1の濃度より十分に大きな第2の濃度まで増加するように、虚血損傷組織に幹細胞を動員するステップをさらに含む。第1の濃度の幹細胞は、虚血から時間が経過した時点で末梢血で典型的に見いだされる幹細胞の濃度となりうる。虚血損傷組織中のVEGFの濃度が増加する間に末梢血での幹細胞の濃度が増加する限りにおいて、VEGFの濃度が虚血損傷組織で上方制御される前に、または、その後に、末梢血での幹細胞の濃度を増加させることができる。
【0031】
本発明のもう一つの態様によれば、本方法は虚血損傷組織に向かうように多能性幹細胞を誘発することを含むことができる。虚血損傷組織でのSDF-1タンパク質の濃度を、第1の濃度から該第1の濃度よりも十分に高い第2の濃度へ増加させることによって、多能性幹細胞を虚血損傷組織へ向かわすことができる。SDF-1タンパク質の第1の濃度は、虚血(例えば、心筋梗塞)から時間の経過した時点(すなわち、数週間)で、虚血損傷組織(例えば、梗塞を起こした心筋層)で典型的に見られるSDF-1タンパク質の濃度である。SDF-1タンパク質の第2の濃度は、第1の濃度のSDF-1タンパク質より十分に大きくなりうる。
【0032】
SDF-1タンパク質の濃度は、虚血損傷組織でのSDF-1タンパク質の発現を上方制御することにより、心筋梗塞から時間の経過した時点で虚血損傷組織にて典型的に発現されるSDF-1タンパク質の量から増加させることができる。虚血損傷組織のVEGF-1の濃度が増加し、その一方で虚血損傷組織中のSDF-1濃度が増加するとともに末梢血での幹細胞の濃度が増加する。
【0033】
VEGF
本発明の1つの態様によれば、虚血損傷組織で発現されるVEGFは、新しい側副血管の成長を誘発することができる血管内皮増殖因子のファミリーのうちの1つである。VEGFは、血管透過性活性を持つ特異的血管新生成長因子であり、表皮細胞をほぼ排他的に標的にする。
【0034】
虚血損傷組織で発現されるVEGFは、VEGF遺伝子の発現産物である。本発明にもとづいて使用される好ましいVEGFとして、VEGF-1(別名VEGF-A)および他の構造的に相同なVEGF、例えばVEGF-2(VEGF-C)、VEGF-3(VEGF-B)、VEGF-D、VEGF-E、および胎盤成長因子が挙げられる。VEGF-1の既知のイソ型は、例えば、121、138、162、165、182,189、および206アミノ酸を含むことができる。これらのイソ型は、それぞれ、VEGF-121、VEGF-165、VEGF-162、VEGF-182、VEGF-189、およびVEGF-206と同定されている。これらのイソ型の分裂促進およびヘパリン結合活性は異なる。本発明にもとづいて使用されるVEGF-1の好ましいイソ型は、VEGF-165である。列挙されていないVEGF-1の他のイソ型およびVEGFの他のホモログもまた、本発明にもとづいて使用することができる。
【0035】
本発明のVEGFは、上記VEGFのうちの1つと同一のアミノ酸配列を持つことができる。本発明のVEGFは、上記VEGF(例えばVEGFのフラグメント、類似体、および誘導体)のうちの1つの変異体であってもよい。そのような変異体として、例えば天然VEGF遺伝子(すなわち、天然に生ずる哺乳類VEGFをコードする天然に生ずる核酸)から天然に生ずる対立遺伝子変異体によってコードされるポリペプチド、VEGF遺伝子の選択的スプライシング型によってコードされるポリペプチド、および天然VEGF遺伝子の非自然的に生ずる変異体によってコードされるポリペプチドが挙げられる。
【0036】
VEGF変異体は、天然VEGFと1つ以上のアミノ酸において異なるペプチド配列を持つ。そのような変異体のペプチド配列は、天然VEGFの1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、または置換を特徴とすることができる。アミノ酸の挿入は、好ましくは約1ないし4個の連続したアミノ酸からなり、欠失は好ましくは約1ないし10個の連続したアミノ酸からなる。本発明にもとづく変異体VEGFは、実質的に天然VEGFの機能的作用を維持している。好ましいVEGFタンパク質変異体は、サイレントまたは保存的変異を特徴とする本発明の範囲内で核酸分子を発現することによって作られることができる。
【0037】
1種類以上の特定のモチーフおよび/またはドメイン、または任意のサイズに対応しているVEGFフラグメントは、本発明の対象とする範囲内である。VEGFの単離ペプチジル部分は、そのようなペプチドをコードしている核酸の対応するフラグメントから組換えによって生産されるペプチドをスクリーニングすることによって得られる。加えて、フラグメントは従来のメリーフィールド固相f-Mocまたはt-Bocケミストリーのような公知技術を使用して、化学的に合成することができる。
【0038】
VEGFの変異体は、VEGFの組換え型を含むこともできる。本発明によって好まれる組換えポリペプチドは、VEGFに加えて、哺乳類VEGFをコードする遺伝子の核酸配列と少なくとも85%の配列同一性を持つ核酸によってコードされる。
【0039】
VEGF変異体は、天然VEGFの機能的作用を恒常的に発現するタンパク質のアゴニスト型を含むことができる。他のVEGF変異体として、例えば、プロテアーゼ標的配列を変える突然変異によるタンパク質分解的切断に対して耐性を有するものを挙げることができる。ペプチドのアミノ酸配列の変化が、VEGFの1種類以上の機能的作用を持っている変異体に帰着するかどうかは、変異体をVEGF機能的な活性用に試験することによって、直ちに決定することができる。
【0040】
VEGF核酸
本発明のもう一つの態様は、VEGFをコードする核酸分子と哺乳類のVEGFをコードする非天然の核酸に関する。そのような核酸分子は、RNAの形でまたはDNA(例えば、相補DNA、ゲノムDNA、および合成DNA)の形であってもよい。DNAは、二重鎖または単鎖であってもよく、単鎖である場合、コード(センス)鎖または非コード(アンチセンス)鎖であってもよい。
【0041】
本発明の範囲内の他の核酸分子は、天然VEGF遺伝子の変異体(例えば、天然VEGFのフラグメント、類似体、および誘導体をコードするもの)である。そのような変異体は、例えば、VEGF遺伝子の天然に生ずる対立遺伝子変異体、天然VEGF遺伝子のホモログ、または天然VEGF遺伝子の非天然に生じる変異体であってもよい。これらの変異体は、天然VEGF遺伝子と1種類以上の塩基が異なる核酸配列を持つ。例えば、そのような変異体の核酸配列は、天然VEGF遺伝子の1つ以上のヌクレオチドの欠失、付加、または置換を特徴とすることができる。核酸の挿入は、好ましくは約1ないし10個の連続したヌクレオチドからなり、欠失は、好ましくは約1ないし30個の連続したヌクレオチドからなる。
【0042】
他の適用では、コードされたポリペプチドに保存的とはいえないほどの変化を引き起こすヌクレオチド置換を作ることで、実質的な構造変化を示す変異体VEGF を生成することができる。そのようなヌクレオチド置換の例として、(a)ポリペプチド主鎖構造;(b)ポリペプチドの電荷または疎水性;あるいは(c)アミノ酸側鎖の大部分(バルク)、における変化を引き起こすようなものが挙げられる。通常、タンパク質特性で最も大きな変化を生ずると思われるヌクレオチド置換は、コドンで非保存的変化を引き起こす。タンパク質構造の大きな変化が起きる可能性があるコドン変化の実施例は、(a)疎水性残基(例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、またはアラニン)に対して(またはそれによって)、親水性残基(例えば、セリンまたはスレオニン);(b)任意の他の残基に対して(またはそれによって)、システインまたはプロリン;(c)負に帯電した残基(例えば、グルタミンまたはアスパラギン)に対する(またはそれによって)、正に帯電した側鎖を持つ残基(例えば、リジン、アルギニン、またはヒスチジン);あるいは(d)側鎖を持たない残基(例えば、グリシン)に対して(またはそれによって)かさばった側鎖を持つ残基(例えば、フェニルアラニン)の、それぞれ置換を引き起こすものである。
【0043】
本発明の範囲内のVEGF遺伝子の天然に生ずる対立遺伝子変異体は、天然VEGF遺伝子と少なくとも75%配列同一性を持つ哺乳類組織から単離された核酸であって、天然VEGFに構造類似性があるポリペプチドをコードする。本発明の範囲内の天然VEGFのホモログは、天然の遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を持つ他の種から単離される核酸であって、天然VEGFに構造類似性があるポリペプチドをコードする。公的な、および/または私有の核酸データベースを、天然VEGF遺伝子に高いパーセント配列同一性を持つ他の核酸分子を同定するために、検索することができる。
【0044】
非自然的に生ずるVEGF変異体は、自然界で生ずることのない核酸(例えば、ヒトの手によって作られたもの)であり、天然VEGF遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を持ち、天然VEGFに構造類似性があるポリペプチドをコードする。非自然的に生ずるVEGF遺伝子変異体の例として、天然VEGFのフラグメントをコードするもの、厳密な条件下で天然VEGF遺伝子または天然VEGF遺伝子の相補体にハイブリダイズするもの、天然VEGF遺伝子または該天然VEGF遺伝子の相補体と少なくとも65%の配列同一性を共有するもの、さらにVEGFをコードするものが挙げられる。
【0045】
本発明の範囲内のVEGFのフラグメントをコードする核酸は、天然VEGFのアミノ酸残基をコードする。天然VEGFのフラグメントをコードする核酸をコードまたは該核酸とハイブリダイズする短いオリゴヌクレオチドを、プローブ、プライマー、またはアンチセンス分子として使用することができる。天然VEGFのフラグメントをコードする核酸または該核酸とハイブリダイズする長いポリヌクレオチドもまた、本発明の種々の態様で用いることができる。天然VEGFのフラグメントをコードする核酸は、完全長の天然VEGF遺伝子またはその変異体の酵素的消化(例えば、制限酵素を用いて)または化学的分解によって、作製することができる。
【0046】
上記の核酸のうちの1つに厳密な条件下でハイブリダイズする核酸を、本発明で用いることもできる。例えば、そのような核酸は、厳密さが低い条件、厳密さが中程度の条件、または厳密さが高い条件の下で、上記の核酸のうちの1つにハイブリダイズすることができる。
【0047】
VEGF融合タンパク質をコードしている核酸分子を、本発明で使うことも可能である。そのような核酸は、適当な標的細胞に導入された時にVEGF融合タンパク質を発現するような構築物(例えば、発現ベクター)を調製することによって作られる。例えばそのような構築物は、適当な発現系での構築物の発現が融合タンパク質を産生するように、VEGFをコードする第1のポリヌクレオチドをもう一つのタンパク質をコードしている第2のポリヌクレオチドとインフレームで連結することによって作られる。
【0048】
本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAもしくはRNA、またはそれらのキメラ混合物、誘導体、または修飾変異体であってよく、単鎖または二重鎖であってよい。そのようなオリゴヌクレオチドを、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格において修飾することができ、それによって、例えば、分子の安定性やハイブリダイゼーション等を改善する。本発明に包含されるオリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えば、生体内で細胞受容体を標的にするため)等の他の付加基、または細胞膜を越える輸送を促進する作用物質を、付加的に含むものであってもよい。このために、オリゴヌクレオチドを、もう一つの分子(例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋因子、輸送因子、またはハイブリダイゼーション誘発切断因子)と結合させることが可能である。
【0049】
VEGF発現
本発明の別の態様によれば、標的細胞へVEGFの発現を高める作用因子を導入することで、虚血損傷組織でのVEGFの発現を増加させることができる。標的細胞として、虚血損傷組織にあるそれらの細胞または作用因子の導入後に虚血損傷組織に移植される生体外細胞が挙げられる。
【0050】
生体外細胞は、該細胞が移植されるべき組織と生体適合性がある任意の細胞である。これらの細胞は好ましくは、処置すべき被験体から収集される細胞(すなわち、自己由来細胞)であり、移植に先立って培養される。自己由来細胞が好ましい理由は、移植に対する細胞の生体適合性を増加させて、拒絶反応の可能性を最小化することにある。
【0051】
虚血損傷組織が梗塞を起こした心筋層を含む場合、梗塞を起こした心筋層に移植される細胞として、例えば、自己由来細胞、培養骨格筋芽細胞、繊維芽細胞、平滑筋細胞、および骨髄由来細胞が挙げられる。梗塞を起こした心筋層への移植にとって好ましい細胞は、骨格筋芽細胞である。筋芽細胞は、骨格筋の再生能を維持し、ストレス期間中に増殖して筋管に分化することで、最終的に収縮可能な筋繊維を形成する。心筋に移植される筋芽細胞は、筋管形成を起こし、細胞周期から脱して生き残る。機能的な研究によって、心筋に筋芽細胞を移植した後での局所収縮性および伸展性の改善が示された。骨格筋芽細胞は、筋繊維基底膜下で容易に収集でき、培養して細胞系を増大させた後、梗塞を起こした心筋層に移植することができる。例えば、マウスを被験体として用いた場合、該被験体の後脚から骨格筋芽細胞を収集して培養した後、その被験体の梗塞を起こした心筋層へ移植することができる。
【0052】
VEGFの発現を増加させるために標的細胞に導入される作用因子は、細胞への導入と該細胞での複製が可能で、かつ組換え核酸構築物(概してDNA構築物)に組み込み可能な天然または合成のVEGF核酸を含むことができる。そのような構築物は、好ましくは、所定の標的細胞でポリペプチドをコードする配列の転写および翻訳ができる複製系および配列を含む。
【0053】
他の作用因子を標的細胞に導入にして、標的細胞のVEGFレベルを高めることもできる。例えば、VEGFをコードしている遺伝子の転写を増加させる作用因子、VEGFをコードしているmRNAの翻訳を増加させる作用因子、および/またはVEGFをコードしているmRNAの分解を減少させる作用因子を使用して、VEGFレベルを増加させることが可能である。細胞内の遺伝子からの転写率の増大は、VEGFをコードしている遺伝子の上流に外来のプロモータを導入することによって達成される。異種遺伝子の発現を促進するエンハンサの使用も可能である。
【0054】
作用因子を所定の標的細胞に導入する好ましい方法として、遺伝子治療が包含される。遺伝子治療とは、生体内またはインビトロで細胞から治療用産物を発現するための遺伝子移入をいう。本発明にもとづく遺伝子治療は、生体内またはインビトロで所定の標的細胞からVEGFを発現させるために用いられる。
【0055】
遺伝子治療の1つの方法は、VEGFをコードしているヌクレオチドを含むベクターを使用する。「ベクター」(時に遺伝子送達または遺伝子移入用「運搬体」と呼ばれる」)とは、インビトロまたは生体内で、所定の標的細胞に送達されるポリヌクレオチドを含んでいる巨大分子または分子の複合体のことをいう。送達されるポリヌクレオチドは、遺伝子治療で重要なコード配列を含むことができる。ベクターとして、例えば、ウイルス・ベクター(例えば、アデノウイルス(「Ad」)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、およびレトロウイルス)、リポソームおよび他の脂質を含有する複合体、さらに所定の標的細胞へのポリヌクレオチド送達の媒介となることができるその他の巨大分子複合体が挙げられる。
【0056】
ベクターは、さらに遺伝子送達および/または遺伝子発現を調整、さもなければ標的細胞に有益な性質を提供する他の構成要素または機能性を含むこともできる。他の構成要素として、例えば、細胞への結合または標的化に影響を及ぼす構成要素(細胞型または組織特異的結合を調節する構成要素を含む);細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を及ぼす構成要素;取り込みの後、細胞内でポリヌクレオチドの局在化に影響する構成要素(例えば核移行を調節する作用因子);およびポリヌクレオチドの発現に影響する構成要素、が挙げられる。そのような構成要素は、マーカー(例えば、ベクターによって送達された核酸を取り込んで発現している細胞の検出または選択に使用しうる検出可能および/または選択可能なマーカー)を含む場合もあり得る。そのような構成要素は、ベクターの本来の特徴(例えば、結合および取り込みを媒介する構成要素または機能性を持つ一定のウイルス性ベクターの使用)として提供されることができ、またはベクターを修飾することでそのような機能性を提供することができる。
【0057】
選択マーカーは、ポジティブ(正)の作用性、ネガティブ(負)の作用性、または二作用性である。ポジティブ選択マーカーは、マーカーを担持する細胞を選択可能とし、一方ネガティブ選択マーカーは、マーカーを担持する細胞を選択的に除去することを可能にする。二作用性(すなわち、ポジティブ/ネガティブ)を含むそのような様々なマーカー遺伝子が記述されている(例えば、Lupton, S., WO 92/08796(1992年5月29日公開); およびLupton, S., WO 94/28143(1994年12月8日公開)を参照すること)。そのようなマーカー遺伝子は、遺伝子治療の状況で有利でありえる付加的な制御の手段を提供することができる。そのようなベクターは多くの種類が公知であり、一般に利用可能である。
【0058】
本発明で用いるベクターとして、ウイルス・ベクター、脂質をベースとしたベクター、および標的細胞に対して本発明におけるヌクレオチドを送達することができる他のベクターが挙げられる。上記ベクターは、標的ベクター、特に標的細胞(例えば、心筋細胞)に優先して結合する標的ベクターである。本発明で使用するための好ましいベクターは、所定の標的細胞に対する毒性が低く、組織または細胞特異的なかたちで治療に有効な量からなるVEGFの産生を誘導するウイルス・ベクターである。
【0059】
現在好ましいウイルス・ベクターは、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来する。ヒトおよび非ヒト・ウイルス・ベクターが使われてはいるが、好ましくは組換え型のウイルス・ベクターはヒトで複製不能である。ベクターがアデノウイルスである場合、好ましくはVEGFをコードしている遺伝子に操作可能な状態で連結されたプロモータを有するポリヌクレオチドを含み、かつヒトで複製不能である。
【0060】
アデノウイルス・ベクターは、本発明での使用にとって好ましい。なぜなら、アデノウイルス・ベクターは(1)標的細胞で効率の高い遺伝子発現をおこなう能力があること、(2)比較的多量の異種(非ウイルス)DNAに対応することができるからである。組換えアデノウイルスの好ましい形態は、「無気力な(gutless)」、「高容量の」、および「ヘルパー依存性の」アデノウイルス・ベクターである。そのようなベクターの特徴は、例えば、(1)ウイルスをコードしているすべてまたはほとんどの配列(ウイルスタンパク質をコードしている配列)の欠失、(2)ウイルスのDNA複製に必要なウイルス逆方向末端反復(ITR)、(3)最大で28〜32kbの「外来性」または「異種」の配列(例えば、SDF-1タンパク質をコードする配列)、および(4)感染性カプシドにウイルス・ゲノムをパッケージングするのに必要であるウイルスDNAパッケージング配列、である。特に心筋細胞に関しては、そのような組換えアデノウイルス・ベクターの好ましい変異体は、組織(例えば心筋細胞)特異的エンハンサを含み、またプロモータがVEGF遺伝子に操作可能な状態で連結されている。
【0061】
AAVをベースとするベクターは、所定の標的細胞に対する高い形質導入効率を示し、部位特異的なかたちで標的ゲノムに統合されることから、有利である。組換えAAVベクターの使用については、Tal, J. , J. Biomed. Sci. 7: 279-291,2000 ならびにMonahan and Samulski, 遺伝子治療 7: 24-30,2000に、詳しく記載されている。好ましいAAVベクターは、VEGF核酸に操作可能な状態で連結された組織(例えば、心筋)または細胞(例えば、心筋細胞)特異的プロモータを含む少なくとも1つのカセットに隣接する一対のAAV逆方向末端反復を含む。ITR、プロモータ、およびVEGF遺伝子を含むAAVベクターのDNA配列は、標的ゲノムに組み込まれることが可能である。
【0062】
本発明にもとづいて使用しうる他のウイルス・ベクターとして、単純ヘルペスウイルス(HSV)をベースとしたベクターが挙げられる。1種類以上の即初期遺伝子(IE)が欠失したHSVベクターが有利である。なぜなら、HSVベクターは一般に無細胞毒性であり、標的細胞での潜伏期に類似した状態を持続し、所定標的細胞の効率的な形質導入をもたらすからである。組換えHSVベクターは、約30kbの異種核酸を組み込むことができる。好ましいHSVベクターは、(1)HSV1型から設計され、(2)IE遺伝子が欠失し、(3)VEGF核酸に操作可能な状態で連結した組織(例えば、心筋)特異的プロモータを含む、HSVベクターである。HSV単位複製配列ベクターも、本発明の種々の方法で有用であると思われる。典型的には、HSV単位複製配列ベクターは長さが約15kbであり、ウイルス複製開始点およびパッケージング配列を有する。
【0063】
レトロウイルス(例えばC型レトロウイルスおよびレンチウイルス)も本発明でも使用可能であると考えられる。例えば、レトロウイルス・ベクターがマウス白血病ウイルス(MLV)に基づくものであってもよい。例えば、Hu and Pathak, Pharmacol. Rev. 52: 493-511, 2000 およびFong et al., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 17: 1-60,2000を参照すること。MLVをベースとするベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに最大で8kbの異種(治療用)DNAを含むことが可能である。異種DNAは、組織特異的プロモータとSDF-1核酸とを含むことが可能である。梗塞を起こした心筋層に対する送達の方法では、それが心筋特異的受容体に対するリガンドをコードすることも可能である。
【0064】
使用する可能性のある追加のレトロウイルス・ベクターは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)をベースとしたベクターを含む複製不能なレンチウイルスをベースとしたベクターである。例えば、Vigna and Naldini, J. Gene Med. 5: 308-316,2000 およびMiyoshi et al., J. Virol. 72: 8150-8157,1998を参照すること。 レンチウイルス・ベクターは、活発に分裂している細胞と分裂していない細胞との両方に感染する能力を有する点で、有利である。また、レンチウイルス・ベクターによって、ヒト上皮細胞も効率高く形質導入される。
【0065】
本発明で用いるレンチウイルス・ベクターは、ヒトおよび非ヒト(SIVを含む)レンチウイルスに由来するものであってもよい。好ましいレンチウイルス・ベクターは、VEGF遺伝子に操作可能な状態で連結した組織特異的プロモータ(例えば、心筋)と同様にベクター増殖のために必要な核酸配列を含む。これらの元のベクターは、ウイルス末端反復配列、プライマー結合部位、ポリプリン配列、att部位、およびキャプシド形成部位を含むものであってもよい。
【0066】
レンチウイルス・ベクターを任意の適当なレンチウイルス・カプシドにパッケージングすることが可能である。一つの粒状タンパク質を、異なるウイルス由来の別のものに置き換えることを、「シュードタイピング(pseudotyping)」という。ベクター・カプシドは、マウス白血病ウイルス(MLV)または水疱性口炎ウイルス(VSV)を含む他のウイルスに由来するウイルスエンベロープ・タンパク質を含むものであってもよい。VSVのGTP結合タンパク質を使用することで、高いベクター力価が得られ、ベクター・ウイルス粒子の安定性がより高くなる。
【0067】
アルファ・ウイルスをベースとするベクター(例えば、セムリキ森林ウイルス(SFV)とシンドビス・ウイルス(SIN)とから作られるベクター)が、本発明でも使用することが可能であると考えられる。アルファ・ウイルスの使用については、Lundstrom, K., Intervirology 43: 247-257,2000 and Perri et al., Journal of Virology 74: 9802-9807,2000に記載されている。アルファウイルス・ベクターは、一般にレプリコンとして知られている形態で構築される。レプリコンは、(1)RNA複製のために必要なアルファ・ウイルス遺伝因子と(2)異種核酸(例えば、VEGF核酸をコードしているもの)とを含むものであってもよい。アルファウィルス・レプリコン内で、異種核酸と組織特異的(例えば、心筋)プロモータまたはエンハンサとを操作可能な状態で連結することが可能である。
【0068】
組換え体複製不能アルファウイルス・ベクターは、有利である。なぜなら、それらは高レベルの異種(治療用)遺伝子発現の能力を有し、また幅広い範囲の所定の標的細胞に感染することができるからである。アルファウイルス・レプリコンは、ビリオン表面に、同族の結合相手を発現する所定の標的細胞に選択的に結する機能的異種リガンドまたは結合ドメインを提示することにより、特定の細胞型(例えば、心筋細胞)を標的とすることが可能である。アルファウイルス・レプリコンは、潜伏期を確立することで、所定の標的細胞において長期にわたる異種核酸発現を確立することが可能である。レプリコンは、標的細胞で一時的な異種核酸発現を示すことも可能である。好ましいアルファウイルス・ベクターまたはレプリコンは、非細胞壊死性である。
【0069】
本発明の方法と互換性を持つウイルス・ベクターの多くにおいて、複数のプロモータをベクターに取り込むことで、該ベクターによって複数の異種遺伝子を発現させられることができる。さらに、ベクターは標的細胞からVEGF遺伝子産物の発現を容易にするシグナル・ペプチドまたは他の部分をコードする配列を含むことができる。
【0070】
2つのウイルス・ベクター系の有利な性質を組合せるために、ハイブリッド・ウイルス・ベクターを用いてVEGF核酸を標的組織(例えば、心筋)へ送達させることが可能である。ハイブリッド・ベクターを構築するための標準的な技術は、当業者に周知である。そのような技術は、例えば、Sambrook, et al., In Molecular Cloning : A laboratory manual. Cold Spring Harbor, N. Y. または組換え体DNA技術について述べている多くの実験マニュアルに見いだすことができる。AAVとアデノウイルスITRとの組合せを含むアデノウイルス・カプシド内の二重鎖AAVゲノムを用いて、細胞に形質導入をおこなうことが可能である。別の変異体では、AAVベクターを「無気力な」、「ヘルパー依存性」、または「高容量」型アデノウイルス・ベクターに入れることが可能である。アデノウイルス/AAVハイブリッド・ベクターは、Lieber et al., J. Virol. 73: 9314- 9324,1999で議論されている。レトロウイルス/アデノウイルス・ハイブリッド・ベクターは、Zheng et al., Nature Biotechnol. 18: 176-186,2000で議論されている。アデノウイルスに含まれるレトロウイルス・ゲノムを、標的細胞ゲノムに組み込んで、安定なVEGF遺伝子発現をもたらすことが可能である。
【0071】
VEGF遺伝子の発現とベクターのクローン化とを容易にする他の核酸配列要素について、さらに考察する。例えば、プロモータの上流にエンハンサが存在すること、またはコード領域の下流にターミネーターが存在することで、発現を促進することができる。
【0072】
本発明は、細胞標的化のために組織特異的プロモータを用いることも検討する。例えば、虚血損傷組織が梗塞を起こした心筋層を含む場合、左室ミオシンL鎖-2(MLC2v)またはミオシン重鎖(MHC)の組織特異的転写制御配列を導入遺伝子(例えばアデノウイルス構築物内のVEGF-165遺伝子)に融合させることができる。導入遺伝子にそのような組織特異的転写制御配列を融合させることによって、導入遺伝子発現を心室性心筋細胞に限定することができる。MLCzvまたはMHCプロモータを使用して、生体内で導入遺伝子を送達することによって、心筋細胞(心臓内での内皮細胞、平滑筋細胞、および繊維芽細胞で付随する発現無し)単独が血管新生タンパク質(例えば血管形成を促進するVEGF-165)の十分な発現を提供すると考えられている。
【0073】
発現を心筋細胞に限定することもまた、うっ血性心不全を処置するための遺伝子移入の有用性に関して、利点がある。発現を心臓に限定することによって、非心臓性の組織での血管形成の潜在的に有害な効果を回避する。加えて、心臓の細胞のうち筋細胞は、急激な代謝回転を受けないことから、最も長い導入遺伝子発現をおこなう可能性がある。それ故に、内皮細胞で起こるように、細胞分裂および細胞死により発現が減少することはないだろう。内皮特異的なプロモータは、この目的のためにすでに利用できる。
【0074】
ウイルス・ベクターをベースとする方法に加えて、非ウイルス性の方法はVEGF遺伝子を所定の標的細胞に導入する際に用いられることが可能である。本発明にもとづく好ましい非ウイルス性遺伝子送達法は、VEGF核酸を細胞に導入するためにプラスミドDNAを使用する。プラスミドをベースとした遺伝子送達方法は、周知である。
【0075】
合成遺伝子導入分子を、プラスミドDNA(たとえば心筋特異的プロモータに操作可能な状態で連結したVEGFコード配列)とともに多分子凝集体が形成されるように、設計することができる。これらの凝集体は、所定の標的細胞(例えば、心筋細胞)と結合するように設計される。
【0076】
陽イオン両親媒性物質(リポ・ポリアミンおよび陽イオン脂質を含む)は、所定の標的細胞(例えば、心筋細胞)への受容体非依存的なVEGF核酸導入を与えるために用いられてもよい。また、事前に形成された陽イオン・リポソームまたは陽イオン脂質をプラスミドDNAと混合して、細胞形質移入複合体を形成することもできる。陽イオン脂質形成を伴う方法は、Felgner et al., Ann. N. Y. Acad. Sci. 772: 126-139,1995 およびLasic and Templeton, Adv. Drug Delivery Rev. 20: 221-266,1996に概説されている。遺伝子送達のために、 DNAは、両親媒性陽イオン・ペプチドに連結することもできる(Fominaya et al., J. Gene Med. 2: 455-464,2000)。
【0077】
ウイルスをベースにした構成要素および非ウイルスをベースとした構成要素の両方を伴う方法を、本発明にもとづいて用いることも可能である。例えば、治療用遺伝子送達のためのエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)をベースとしたプラスミドが、Cui et al., Gene Therapy 8: 1508-1513,2001に記載されている。その上、アデノウイルスに連結するDNA/リガンド/ポリカチオン添加剤を伴う方法が、Curiel, D. T., Nat. Immun. 13: 141-164,1994に記載されている。
【0078】
VEGFの発現をコードするベクターを、必要に応じて医薬的に許容される担体(例えば生理食塩水)を含む注射可能な製剤の形で、標的細胞に送達することができる。他の医薬用担体、製剤形態、および投薬量を本発明にもとづいて用いることもできる。
【0079】
標的細胞が虚血損傷組織の細胞を含む場合、ベクターの送達は、幹細胞分化の効果的刺激を可能にする程度のVEGFの発現に充分な量で、蛍光透視による誘導下、ツベルクリン・シリンジを用いた直接注射によって、おこなわれる。ベクターを直接、虚血損傷組織に注射することによって、むしろ効果的に遺伝子を標的とすることができ、また組換え体ベクターの損失を最小にすることが可能である。
【0080】
この種の注射は、所望の数の細胞(特に梗塞を起こした心筋層の心筋細胞)の局所的形質移入を可能にすることで、遺伝子導入の治療効力を最大にし、またウイルスタンパク質に対する炎症反応の可能性を最小化する。虚血損傷組織は梗塞を起こした心筋層を含む場合、例えば心筋細胞特異的プロモータを用いることで、心筋細胞に限局した発現を安全に可能にする。したがって、このことでの導入遺伝子の送達は、例えば、左心室(LV)の細胞で、標的遺伝子発現を結果として生ずることができる。周知の他の技術を、梗塞を起こした心筋層の標的細胞にベクターを移植するために、用いることもできる。
【0081】
標的細胞が、虚血損傷組織に後で移植される培養細胞である場合、培地に対して直接注射することでベクターを送達することができる。細胞に形質移入されたVEGFをコードする核酸は、組織特異的プロモータとエンハンサを含む任意の適当な調節配列に対して操作可能状態で、連結することができる。続いて形質移入された所定の標的細胞を、周知の移植技術、例えばツベルクリン・シリンジを用いて直接的に冠内注射することで、虚血損傷組織に移植することができる。
【0082】
虚血損傷組織が梗塞を起こした心筋層を含む場合、標的細胞は、好ましくは、処置される被験体から収集されて、生体外で培養される自己由来細胞である。梗塞を起こした心筋層に対して、最初に標的細胞を生体外で形質移入し、続いて形質移入した所定の標的細胞を梗塞を起こした心筋層に対して移植することで、梗塞を起こした心筋層の炎症反応の可能性が最小化され、また左心系性の機能が、梗塞を起こした心筋層にベクターを直接注射する方法と比較して、改良されたことが判明した。この改善がアデノウイルス注射と典型的に関係している炎症反応の欠如から生じると考えられている。
【0083】
本発明のVEGFは、任意の適当な長さの時間にわたって標的細胞内で発現することが可能であり、このような発現には一時的な発現と、安定で長期にわたる発現とが含まれる。好ましい実施形態では、VEGF核酸が適当かつ所定の時間にわたって治療量で発現される。
【0084】
治療量とは、医学的に望ましい結果を、治療をうけている動物またはヒトで得ることができる量である。医学分野で周知のように、任意の一匹の動物または1人のヒトに対する投薬量は、被験体のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の組成物、性、投与の時間および経路、健康状態、および並列して投与される他の薬物等、多くの因子に依存する。タンパク質、核酸、または小分子の特異的な投薬量は、後述する実験的方法を使用している当業者によって容易に決定される。
【0085】
VEGF発現が一時的または長期であるとなかろうと、虚血損傷組織で発現されたVEGFの濃度を制限して、血管腫または血管内皮細胞から派生した血管内腫瘍の形成を予防することが求められる。
【0086】
幹細胞の動員
本発明のもう一つの態様によれば、被験体の虚血損傷組織の末梢血にある幹細胞の濃度は、末梢血への幹細胞の動員を誘導する薬剤を投与することによって増加させることができる。幹細胞は、末梢血で幹細胞濃度を増加させるために、多数の作用因子を用いて被験体の末梢血に動員させることができる。例えば、哺乳類被験体の末梢血で幹細胞数を増加させるために、多能性幹細胞を骨髄から動員させる薬剤を、被験体に投与することができる。そのような作用因子は数多く知られており、例として、サイトカイン、例えば顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球−マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン(IL)-7、IL-3、IL-12、幹細胞因子(SCF)、およびflt-3リガンド;ケモカイン、例えばIL-8、IL-10、Mip-1a、およびGroβ、ならびにサイクロホスアミド(Cy)およびパクリタキセルの化学療法薬が挙げられる。これらの作用因子は、幹細胞動員を達成する時間枠、動員された幹細胞のタイプ、および効率が異なる。
【0087】
動員因子は、被験体に動員因子を直接注射することによって投与される。好ましくは、VEGF発現が虚血損傷組織で上方制御された後、動員因子が投与される。しかし、VEGF発現が上方制御される前に、動員因子を投与することができる。
【0088】
好ましい動員因子は、コロニー刺激因子(例えばG-CSF)である。マウス被験体のG-CSFの典型的投薬量は、約5日ないし約10日間にわたって1日あたり約125μg/kgである。VEGF発現が上方制御された後、G-CSF因子を投与することができる。
【0089】
あるいは、当技術分野で周知であるように、末梢血に特定幹細胞(すなわち、MAPC)を注射することによって、末梢血での幹細胞の濃度を増加させることができる。
【0090】
SDF−1タンパク質
本発明のもう一つの態様によれば、虚血損傷組織で発現されるSDF-1タンパク質(またはSDF-1ポリペプチド)は、SDF-1遺伝子の発現産物である。いくつかの異なる哺乳類(例えば、ヒト、ラット、マウス、およびネコ)のSDF-1タンパク質のアミノ酸配列が知られている。SDF-1タンパク質は、上記した天然の哺乳類SDF-1タンパク質のうちの1つと同一のアミノ酸配列を持つことができる。
【0091】
本発明のSDF-1タンパク質を、哺乳類SDF-1タンパク質の変異体(例えば哺乳類SDF-1遺伝子のフラグメント、アナログ、および誘導体)とすることもできる。そのような変異体として、例えば、天然SDF-1遺伝子(すなわち、天然に生ずる哺乳類SDF-1タンパク質をコードする天然に生ずる核酸)の天然に生ずる対立遺伝子変異体によってコードされるポリペプチド、天然SDF-1遺伝子の選択的スプライス型によってコードされるポリペプチド、天然SDF-1遺伝子のホモログによってコードされるポリペプチド、および天然SDF-1遺伝子の非天然の変異体によってコードされるポリペプチド、が挙げられる。
【0092】
SDF-1タンパク質変異体は、天然SDF-1タンパク質と1つ以上のアミノ酸において異なるペプチド配列を持つ。そのような変異体のペプチド配列は、SDF-1タンパク質の1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、または置換を特徴とすることができる。アミノ酸挿入は、好ましくは約1ないし4個の連続したアミノ酸からなり、欠失は好ましくは約1ないし10個の連続したアミノ酸からなる。変異体DF-1タンパク質は、実質的に天然SDF-1タンパク質機能的作用を維持する。好ましいSDF-1タンパク質変異体は、サイレントまたは保存的変化を特徴とする本発明の範囲内で核酸分子を発現することによって作られる。
【0093】
1種類以上の特定のモチーフおよび/またはドメインにまたは任意のサイズに対応しているSDF-1タンパク質フラグメントは、本発明の範囲内である。SDF-1タンパク質の単離されたペプチジル部分は、そのようなペプチドをコードしている核酸の対応するフラグメントから組換え的に生産されるペプチドをスクリーニングすることによって得られる。また、従来のメリーフィールド固相f-Mocまたはt-Bocケミストリーのような公知技術を使用して、そのようなフラグメントを化学的に合成することができる。例えば、本発明のSDF-1タンパク質は、フラグメントの重なりなしで所望の長さのフラグメントに任意に分けられるか、あるいは好ましくは所望の長さの重なり合うフラグメントに分けることが可能である。フラグメントを組換え的に生産することができ、また試験することで、天然SDF-1タンパク質のアゴニストとして機能することができるそれらのペプチジル・フラグメントを同定することができる。
【0094】
SDF-1タンパク質の変異体は、SDF-1タンパク質の組換え型を含むこともできる。本発明によって好まれる組換えポリペプチドは、SDF-1タンパク質に加えて、哺乳類SDF-1をコードする遺伝子の核酸配列と少なくとも85%の配列同一性を持つことができる核酸によってコードされる。
【0095】
SDF-1タンパク質変異体は、天然SDF-1タンパク質の機能的作用を恒常的に発現するタンパク質のアゴニスト型を含むことができる。他のSDF-1タンパク質変異体は、例えば、プロテアーゼ標的配列を変える突然変異によってタンパク質分解的切断に対して抵抗性を持つものを含むことができる。ペプチドのアミノ酸配列の変化が天然SDF-1タンパク質の1種類以上の機能的作用を持っている変異体に帰着するかどうかは、変異体を天然SDF-1タンパク質機能的作用について試験することによって、容易に決定することができる。
【0096】
SDF−1核酸
本発明のもう一つの態様は、SDF-1タンパク質をコードする核酸分子とSDF-1タンパク質をコードする非天然核酸とに関する。そのような核酸分子が、RNAの形またはDNA(例えば相補DNA、ゲノムDNAと合成DNA)の形をとることができる。DNAは二重鎖または一本鎖でよく、もしも一本鎖である場合はコード(センス)鎖または非コード(アンチセンス)鎖でよい。SDF-1タンパク質をコードするコード配列は、ジェンバンク寄託番号(GenBank Accession No.)AF189724、ジェンバンク寄託番号AF209976、ジェンバンク寄託番号L120029、およびジェンバンク寄託番号NM022177に示される核酸配列と同一であると考えられる。それは、遺伝暗号(遺伝コード)の冗長性または縮退の結果として、そのようなポリヌクレオチドと同じポリペプチドをコードする、異なるコード配列であってもよい。
【0097】
本発明の範囲内で、SDF-1をコードする他の核酸分子は、天然SDF-1の変異体(例えば天然SDF-1タンパク質のフラグメント、アナログ、および誘導体をコードするもの)である。そのような変異体を、例えば、天然SDF-1遺伝子の天然に生ずる対立遺伝子変異体、天然SDF-1遺伝子のホモログ、または天然SDF-1遺伝子の人工的な変異体とすることができる。これらの変異体は、天然SDF-1遺伝子と1つ以上の塩基において異なるヌクレオチド配列とを持つ。例えば、そのような変異体のヌクレオチド配列は、天然SDF-1遺伝子の1つ以上のヌクレオチドの欠失、付加、または置換を特徴とすることができる。核酸挿入は、好ましくは約1ないし10個の連続したヌクレオチドからなり、欠失は好ましくは約1ないし10個の連続したヌクレオチドからなる。
【0098】
他のアプリケーションでは、コードされたポリペプチドに保存的とはいえないほどのヌクレオチド置換を作ることで、実質的な構造変化を示す変異体SDF-1タンパク質を生成することができる。そのようなヌクレオチド置換の例として、(a)ポリペプチド主鎖構造;(b)ポリペプチドの電荷または疎水性;あるいは(c)アミノ酸側鎖の大部分(バルク)、での変化を引き起こすヌクレオチド置換が挙げられる。通常、タンパク質特性で最も大きな変化を生ずると思われるヌクレオチド置換は、コドンで非保存的変化を引き起こす。タンパク質構造の大きな変化が起きる可能性があるコドン変化の実施例は、(a)疎水性残基(例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、またはアラニン)に対して(またはそれによって)、親水性残基(例えば、セリンまたはスレオニン);(b)任意の他の残基に対して(またはそれによって)、システインまたはプロリン;(c)負に帯電した残基(例えば、グルタミンまたはアスパラギン)に対する(またはそれによって)、正に帯電した側鎖を持つ残基(例えば、リジン、アルギニン、またはヒスチジン);あるいは(d)側鎖を持たない残基(例えば、グリシン)に対して(またはそれによって)かさばった側鎖を持つ残基(例えば、フェニルアラニン)の、それぞれ置換を引き起こすものである。
【0099】
本発明の範囲内の天然SDF-1遺伝子の天然に生ずる対立遺伝子変異体は、天然SDF-1遺伝子と少なくとも75%配列同一性を持つ哺乳類組織から単離された核酸であって、天然SDF-1タンパク質に構造類似性があるポリペプチドをコードする。本発明の範囲内の天然SDF-1遺伝子のホモログは、天然の遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を持つ他の種から単離される核酸であって、天然SDF-1タンパク質に構造類似性があるポリペプチドをコードする。公的な、および/または私有の核酸データベースを、天然SDF-1遺伝子に高いパーセント配列同一性(例えば、70%またはそれ以上)を持つ他の核酸分子を同定するために、検索することができる。
【0100】
非自然的に生ずるSDF-1変異体は、自然界で生ずることのない核酸(例えば、ヒトの手によって作られたもの)であり、天然SDF-1遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を持ち、天然SDF-1タンパク質に構造類似性があるポリペプチドをコードする。非自然的に生ずるSDF-1遺伝子変異体の例として、天然SDF-1タンパク質のフラグメントをコードするもの、厳密な条件下で天然SDF-1遺伝子または天然SDF-1遺伝子の相補体にハイブリダイズするもの、天然SDF-1遺伝子または該天然SDF-1遺伝子の相補体と少なくとも65%の配列同一性を共有するもの、さらにSDF-1融合タンパク質をコードするものが挙げられる。
【0101】
本発明の範囲内の天然SDF-1タンパク質のフラグメントをコードする核酸は、天然SDF-1タンパク質のアミノ酸残基をコードする。天然SDF-1タンパク質のフラグメントをコードする核酸またはより短いオリゴヌクレオチドを、プローブ、プライマー、またはアンチセンス分子として、使用することができる。天然SDF-1タンパク質のフラグメントをコードする核酸または該核酸とハイブリダイズする長いポリヌクレオチドもまた、本発明の種々の態様で用いることができる。天然SDF-1のフラグメントをコードする核酸の作製を、完全長の天然SDF-1遺伝子またはその変異体の酵素的消化(例えば、制限酵素を用いて)または化学的分解によって、おこなうことができる。
【0102】
上記の核酸のうちの1つに厳密な条件下でハイブリダイズする核酸を、本発明で用いることもできる。例えば、そのような核酸は、厳密さが低い条件、厳密さが中程度の条件、または厳密さが高い条件の下で、上記の核酸のうちの1つにハイブリダイズすることができ、それらは本発明の範囲内である。
【0103】
SDF-1融合タンパク質をコードしている核酸分子を、本発明で使うことも可能である。そのような核酸は、適当な標的細胞に導入された時にSDF-1融合タンパク質を発現するような構築物(例えば、発現ベクター)を調製することによって作られる。例えばそのような構築物は、適当な発現系での構築物の発現が融合タンパク質を産生するように、SDF-1タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドをもう一つのタンパク質をコードしている第2のポリヌクレオチドとインフレームで連結することによって作られる。
【0104】
本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAもしくはRNA、またはそれらのキメラ混合物、誘導体、または修飾変異体であってもよく、単鎖または二重鎖であってよい。そのようなオリゴヌクレオチドを、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格の部分で修飾することができ、それによって、例えば、分子の安定性やハイブリダイゼーション等を改善する。本発明に包含されるオリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えば、生体内で細胞受容体を標的にするため)等の他の付加基、または細胞膜を越える輸送を促進する作用物質を、付加的に含むものであってもよい。このために、オリゴヌクレオチドを、もう一つの分子(例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋因子、輸送因子、またはハイブリダイゼーション誘発切断因子)と結合させることが可能である。
【0105】
SDF−1発現
本発明のもう一つの態様によれば、虚血損傷組織のSDF-1の発現を、虚血損傷組織への導入細胞によって、上方制御することができる。虚血損傷組織への細胞の導入は、虚血損傷組織でのSDF-1タンパク質の発現を上方制御する。例えば、マウス被験体の梗塞を起こした心筋層に移植された骨格筋芽細胞は、梗塞を起こした心筋層への骨格筋芽細胞移植後の約1時間から移植後約7日未満までに、梗塞を起こした心筋層でSDF-1タンパク質の発現を上方制御する。
【0106】
虚血損傷組織に移植することができる細胞の種類は、細胞が移植されることになっている組織で生体適合性を示す任意の細胞である。これらの細胞は、好ましくは処置を受ける被験体から収集されて(すなわち、自己由来細胞)、移植に先だって培養される。自己由来細胞は、移植に際して細胞の生体適合性を増加させて拒絶反応の可能性を最小化するために好ましい。
【0107】
虚血損傷組織が梗塞を起こした心筋層を含む場合、梗塞を起こした心筋層に移植される細胞として、例えば、自己由来細胞、培養骨格筋芽細胞、繊維芽細胞、平滑筋細胞、および骨髄由来細胞が挙げられる。梗塞を起こした心筋層への移植にとって好ましい細胞は、骨格筋芽細胞である。
【0108】
SDF-1タンパク質の発現を上方制御するために虚血損傷組織に導入される細胞は、VEGFを発現するために虚血損傷組織に導入される細胞と同一であるか、または異なる細胞であってよい。VEGFを発現する虚血損傷組織細胞に導入されることでVEGF濃度が上昇する場合、VEGFを発現する細胞は、好ましくは虚血損傷組織でのSDF-1タンパク質発現を上方制御するのに用いられる細胞と同一である。例えば、マウスの梗塞を起こした心筋層に移植された場合にVEGFを発現する移植された骨格筋細胞は、梗塞を起こした心筋層への骨格筋芽細胞の移植後約1時間から移植後約7日未満までに、梗塞を起こした心筋層でSDF-1タンパク質の一時的発現を生ずる。
【0109】
本発明の別の態様において、標的細胞でSDF-1タンパク質の発現を増加させる作用因子を所定の標的細胞に導入することによって、SDF-1タンパク質の発現は上方制御される。標的細胞として、虚血損傷組織内の細胞、または被験体から収集して培養した自己由来細胞といった生体外細胞を挙げることができる。例えば、生体外細胞を、VEGFを発現するために虚血損傷組織に導入される細胞および/またはSDF-1の一時的発現を生ずるために虚血損傷組織に導入される細胞とすることができる。
【0110】
本発明および上記にもとづいて、作用因子は、細胞内への導入および複製をおこなうことが可能な組換え核酸構築物(概してDNA構築物)に組み込まれる天然の核酸または合成された核酸を含むことができる。そのような構築物は、好ましくは、所定の標的細胞内でポリペプチドをコードする配列の転写および翻訳がでる複製系と配列とを有する。
【0111】
標的組織でSDF-1タンパク質レベルを増加させるために、他の作用因子を標的細胞に導入することもできる。例えば、SDF-1タンパク質をコードする遺伝子の転写を増加させる作用因子は、SDF-1タンパク質をコードするmRNAの翻訳を増加させ、および/またはSDF-1タンパク質をコードするmRNAの分解を減少させる作用因子は、SDF-1タンパク質レベルを増加させるために用いることが可能である。細胞内での遺伝子からの転写率を増やすことは、SDF-1タンパク質をコードする遺伝子の上流に外来性のプロモータを導入することによって達成することができる。異種遺伝子の発現を促進するエンハンサを用いることも可能である。
【0112】
作用因子を所定の標的細胞に導入する好ましい方法は、遺伝子治療の使用を伴う。本発明にもとづく遺伝子治療を用いて、生体内または生体外で所定の標的細胞からSDF-1タンパク質を発現することができる。好ましい遺伝子治療方法は、SDF-1をコードするヌクレオチドを含むベクターの使用を伴う。使用することができるベクターの実施例として、ウイルス・ベクター(例えばアデノウイルス(Ad)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、およびレトロウイルス)、リポソーム、ならびに他の脂質含有複合体、さらに所定の標的細胞へのポリヌクレオチドの送達の媒介となることができるその他の高分子複合体が挙げられる。
【0113】
ベクターは、さらに遺伝子送達および/または遺伝子発現を調整する構成要素または機能性、またはさもなければ標的細胞に有益な性質を提供する他の構成要素または機能性を含むこともできる。そういった他の構成要素は、上で記載される。
【0114】
SDF-1タンパク質を発現するためのベクターとして、本発明にもとづくヌクレオチドを標的細胞に送達することができるウイルス・ベクター、脂質ベースのベクター、および他のベクターが挙げられる。ベクターは、標的ベクター、特に優先して特異的な細胞種と結合する標的ベクターであってよい。本発明の好ましいウイルス・ベクターは、低い毒性を標的細胞に示して、組織特異的方法でSDF-1タンパク質の治療的に有用な量の生産を誘導するものである。
【0115】
現在のところ、好ましいウイルス・ベクターは、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来する。ヒトおよび非ヒト・ウイルス・ベクターの両方を使用することができる、しかし、好ましくは、組換え体ウイルス・ベクターはヒトで複製欠損である。ベクターがアデノウイルスである場合、該ベクターは好ましくは、SDF-1タンパク質をコードしている遺伝子にプロモータを操作可能な状態で連結させたポリヌクレオチドを含むとともに、ヒトでは複製欠損である。当技術分野で周知の、上記したウイルスおよび非ウイルス・ベクターを含む他のベクターもまた、用いることができる。
【0116】
本発明の方法と互換性を持つ多くのウイルス・ベクターで、2つ以上のプロモータをベクターが含むことで、複数の異種遺伝子をベクターによって発現させることができる。さらに、ベクターはシグナル・ペプチドまたは標的細胞からSDF-1遺伝子産物の分泌を促進する他の部分をコードする配列を含むことができる。
【0117】
2つのウイルス・ベクター系の有利な特性を組合せるために、ハイブリッド・ウイルス・ベクターを用いて標的組織(例えば、心筋)にSDF-1核酸を送達してもよい。ハイブリッド・ベクターを構築するための標準技術は、当業者に周知である。例えば、プロモータの上流にエンハンサが、または翻訳領域の下流にターミネーターが存在することで、発現を促進することができる。
【0118】
本発明の別の態様によれば、組織特異的または薬物調節可能なプロモータは、SDF-1遺伝子に融合することができる。そのような組織特異的プロモータをアデノウイルス・構築物に融合させることで、導入遺伝子の発現が特定の細胞種に限定されるか(例えば、心室性心筋細胞)、または特定の薬物(例えば、テトラサイクリン)に反応する。遺伝子発現の有効性と組織特異的プロモータとによって提供される特異性の程度を、本発明の組換えアデノウイルス系を用いて判断することができる。
【0119】
虚血損傷組織が梗塞を起こした心筋層である場合、SDF-1遺伝子の生体内送達の際に、心筋細胞にのみに向けられた(すなわち、心臓内の血管内皮細胞、平滑筋細胞、および繊維芽細胞の同時発現無し)組織特異的プロモータの使用は、治療的な処置のためのSDF-1タンパク質の十分な発現が与えられる。発現を心筋細胞に限定することはまた、CHFの治療のための遺伝子導入の有用性に関しても、利点を有する。加えて、心筋細胞は急速な代謝回転を受けないことから、心筋細胞によって最も長い導入遺伝子発現が与えられる可能性があり、従って血管内皮細胞で起こるような細胞分裂および細胞死による発現の減少は起こらないと思われる。
【0120】
ウイルス・ベクターをベースとする方法に加えて、SDF-1遺伝子を所定の標的細胞に導入する際に、ウイルスに基づかない方法を用いることが可能である。本発明にもとづくウイルスに基づかない好ましい遺伝子送達法では、SDF-1核酸を細胞に導入するために、プラスミドDNAが使用される。プラスミド・ベースの遺伝子送達方法は、周知である。
【0121】
ウイルス・ベースおよび非ウイルス・ベースの構成要素の両方を含む方法を、本発明にもとづいて使用することが可能である。例えば、治療的な遺伝子送達のためのエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)をベースとしたプラスミドが、Cui et al., Gene Therapy 8: 1508-1513,2001に記載されている。加えて、アデノウイルスに連結するDNA/リガンド/ポリカチオン添加剤を必要とする方法が、Curiel, D. T. , Nat. Immun. 13: 141-164,1994に記載されている。
【0122】
SDF-1の発現をコードするベクターを、必要に応じて医薬的に許容される担体(例えば生理食塩水)を含む注射可能な製剤の形で、標的細胞に送達することができる。他の医薬用担体、製剤形態、および投薬量を本発明にもとづいて用いることもできる。
【0123】
ベクターの送達は、有効性の高い治療を可能とする程度のSDF-1タンパク質の発現に充分な量で、蛍光透視による誘導下、ツベルクリン・シリンジを用いた直接注射によって、おこなわれる。虚血損傷組織にベクターを直接注射することによって、むしろ効果的に遺伝子を標的とすることができ、組換え体ベクターの損失を最小化することが可能である。この種の注射も、所望の数の細胞の局所的形質移入を可能にすることで、遺伝子導入の治療効力を最大にし、またウイルスタンパク質に対する炎症反応の可能性を最小化する。
【0124】
虚血損傷組織は梗塞を起こした心筋層を含む場合、心筋細胞特異的プロモータを用いて、例えば、心筋細胞に限られている発現を安全に可能にすることが可能である。したがって、例えば、このことでの導入遺伝子の送達は、左心室の細胞で、標的遺伝子発現を結果として生ずることができる。周知の他の技術を、梗塞を起こした心筋層の標的細胞にベクターを移植するために、用いることもできる。
【0125】
標的細胞が、虚血損傷組織に後で移植される培養細胞である場合、培地に対して直接注射することでベクターを送達することができる。細胞に形質移入されるSDF-1をコードする核酸を、心筋特異的プロモータとエンハンサとを含む任意の適当な調節配列に対して操作可能状態で、連結することができる。
【0126】
続いて形質移入された所定の標的細胞を周知の移植技術、例えばツベルクリン・シリンジを用いた直接注射で、虚血損傷組織に移植することができる。インビトロで標的細胞を最初に形質移入し、続いて形質移入された所定の標的細胞を、梗塞を起こした心筋層に移植することより、虚血損傷組織にベクターを直接注射した場合と比較して、梗塞を起こした心筋層の炎症反応の可能性が最小化される。
【0127】
本発明のSDF-1核酸は、任意の適当な長さの時間にわたって標的細胞内で発現することが可能であり、このような発現には一時的な発現と、安定で長期にわたる発現とが含まれる。好ましい実施形態では、SDF-1核酸が適当かつ所定の時間にわたって治療量で発現される。タンパク質、核酸、または小分子の特異的な投薬量を、以下に説明する実験方法を用いて当業者により、決定することができる。
【0128】
SDF-1タンパク質をコードするベクターによる形質移入がなされていない細胞が、梗塞を起こした心筋層に移植される場合と同様に、SDF-1発現は一時的であってもよい。一方、梗塞を起こした心筋層がSDF-1タンパク質コード化ベクターによって形質移入されるか、あるいはSDF-1タンパク質コード化ベクターにより形質移入された細胞が梗塞を起こした心筋層に移植される場合と同様に、SDF-1タンパク質発現が長期であってもよい。
【0129】
長期のSDF-1発現は有利である。その理由は、G-CSFまたは他のいくつかの動員作用因子により、細胞を移植した手術または処置から離れた時点で、幹細胞の濃度の増加を可能とすることである。G-CSFが動員因子である場合、好中球数の著しい増加が起こり、数日または数週間後ではないが、手術の前後の期間では負の効果を生ずる。さらに、長期または慢性的な上方制御SDF-1タンパク質発現は、幹細胞動員で多数の試みを可能にさせると思われる。また、SDF-1タンパク質での慢性的上方制御によって、幹細胞の動員を必要とすることなく、末梢血から虚血損傷組織に対して幹細胞が長期にわたって誘導(ホーミング)される。
【0130】
[実施例]
以下の一連の実施例によって、本発明をさらに例証する。これらの実施例は、例証するために提供されるものであって、いかなる形であれ本発明の範囲または内容を制限するものとして解釈されることはない。
【0131】
第1の一連の実施例
−−MI後の8週間のG-CSFによる幹細胞動員の効果−−
確立された虚心型心筋症のラットでG-CSFによる幹細胞動員が心筋再生を導くかどうか確認するために、MI後8週目のラットに対して、組換えヒトG-CSF(腹腔内注射を介して125μg/kg/日を5日間)または生理食塩水のいずれかをランダムに与えた。骨髄刺激を検査するために、G-CSF療法を開始して5日後に採血したところ、生理食塩水(11.8+4.0細胞/μl)療法と比較して、G-CSF(37.3+5.3細胞/μl)による白血球数が3倍になった。5-ブロモ2'-デオキシウリジン(BrdU)を、心筋内の任意の増殖細胞を標識するためにG-CSF投与後の最終日から初めて全体で14日間にわたって投与した。
【0132】
図1(aおよびb)は、それぞれ、生理食塩水またはG-CSF(LADライゲーション後の12週間)投与4週間後の梗塞領域(a)と短化分画(b)とにおけるBrU陽性細胞の数を示す。細胞数は、1mm2あたりの細胞である。データは、平均値±標準偏差(s.d) n=6〜8/群を表す。
【0133】
LADライゲーション後2ヶ月間のG-CSF投与は、梗塞領域(図1a)内でのBrdU陽性細胞数の増加には至らないか、または梗塞領域(データ不図示)中での血管形成の欠如または心筋ミオシン陽性細胞によって決定される有意な心筋層の再生をもたらすことはなかった。LADライゲーション後12週間、これらの動物は約10%未満(標準>60%)の有意の対照動物での短絡分画による顕著な心筋疾患を示した。LADライゲーション後8週間、G-CSFに応答した著しい心筋再生の組織学的根拠の欠如に合致して、G-CSFによる収縮期機能の有意性のある回復は、見られなかった(図1b)。
【0134】
−−幹細胞動員に先立つSKMB移植の虚血損傷組織に対する効果−−
心筋梗塞時と時間的にかけ離れた心筋層は、幹細胞動員に応じて心筋再生のために最適化されるという仮説を検証するために、骨格筋芽細胞移植をLADライゲーション後8週で実行した。動物に対して、梗塞境界領域内に200,000SKMB/注射を投与した。初期の仮説は、幹細胞誘導(ホーミング)に関与する遺伝子発現に対する戦略として、移植されたSKMBを用いることが可能であるというものであったので、対照として、SKMBに対して、ルシフェラーゼをコードするアデノウイルスを形質移入した。
【0135】
図2(aおよびb)は、細胞移植後4週間(LADライゲーション後12週)での梗塞領域におけるBrdU+細胞数に対する骨格筋芽細胞(SKMB)移植の効果を示す。データは、平均値±標準偏差(s.d)n=6〜8/群を表す。
【0136】
G-CSFが存在しない場合、梗塞性の心臓へのSKMBの導入は、梗塞領域へのBrdU-陽性細胞の取り込みを有意に増加させるものではなかった。しかし、SKMB移植とG-CSFとを組合せることで、4週後の梗塞領域におけるBrdU陽性細胞の著しい増加をもたらした(図2a)。また、G-CSFまたはSKMB移植のいずれか一方のみを受けた動物と比較して、併用療法を受けた動物は、生理的食塩水の対照に比べて短化分画(図2b)において著しい増加を経験した。
【0137】
梗塞領域のBrdU-陽性細胞が骨髄から生じたか、心筋層からの分裂した内生細胞であったかどうか決定するために、LADライゲーション後8週で、SKMBの移植およびG-CSFの開始に先立つ6日前から始めて5日間にわたってBrDUが投与された。
【0138】
図3aは、BrdUで染色された骨髄(BM)が、複数の動物から培養されたBM細胞のほぼ100%染色であることが認められたことを示している。図3bでは、BrdU投与後5日目に未処理の心筋層で、なんら有意なBrdU+細胞は見られないことを示している。データは、各動物(1群あたりn=6〜8)の身元を隠された2人の観測者によって、定量化された陽性細胞の平均値±標準偏差(s.d)を表している。スケール・バーは、25μMを表す。これによって、心筋層になんらかの有意のBrdU標識を行うこと無しに、骨髄内の細胞に対する標識をもたらした(17.5±2.9陽性細胞/mm2)。
【0139】
図3cは、本発明にもとづく治療法で評価される梗塞領域内で増加したBrdU+細胞を示す。
これらの実験において、SKMBとG-CSFを受けたそれらの動物だけは、梗塞領域内でのBrdU陽性細胞数が著しく増加した。これらのデータは、BrdU陽性細胞が骨髄に起因して、併用療法の後で梗塞領域に戻った(ホーミング)という概念と整合している。また、データはSKMB移植が心筋層への幹細胞のホーミングのために必要なシグナルを再確立することもサポートする。
【0140】
−−梗塞組織に誘導される幹細胞にかかわるシグナル伝達分子−−
SKMB移植によって組織の「刺激」によるMIの8週間後に循環細胞が梗塞組織に移植されるという観察は、幹細胞誘導(ホーミング)の潜在的な媒介因子の評価を促した。間質細胞由来因子1(SDF-1)が骨髄における造血性輸送および幹細胞誘導を媒介し、骨髄で帰っている造血輸送と幹細胞の媒介となることが知られている。したがって、MIでの幹細胞移植およびSKMB移植に応じる潜在的シグナル分子としてのその役割が評価された。
【0141】
図4は、心筋梗塞後での時間の関数として間質細胞由来因子1(SDF-1)発現を現しているRT-PCRを示している写真である。基線ではSDF-1発現がなく、MIの後で1ないし24時間目で増加した。SDF-1発現は、MI後24時間ないし7日間の間にその存在が認められない状態に戻り、MI後30日、存在しないままである。SDF-1発現は、MI後30日(30+)で実行されるSKMB移植の72時間後に繰り返される。
【0142】
したがって、RT-PCRによって、SDF-1発現が1ないし24時間観察されたが、LADライゲーション後、0、7または30日では認められなかった。SDF-1発現はSKMBによって誘発されて、移植の72時間後に観察されたが、偽の手術を施された動物では観察されなかった(データ示さず)。同じ試料のGAPDHのためのPCRは、相補DNAが全ての試料で完全なことを証明した(データ示さず)。SKMB移植に応じてのSDF-1発現の増加は、リアルタイムPCR(データ示さず)によって確認された。リアルタイムPCRは、GAPDHレベルが群間で同程度のことを明らかにした。
【0143】
SDF-1が梗塞領域へのBrdU陽性細胞の移植の媒介となったかどうか評価するために、対照心臓繊維芽細胞またはSDF-1発現ベクターによって安定して形質移入された心臓繊維芽細胞がLADライゲーションの後4週目に心筋層に移植された。10日後、内生SDF-1の遺伝子発現の下方制御を可能とするために、G-SCF投与の最終日に開始して、G-CSFを5日間投与し、同様にBrdUを5日間投与した。
【0144】
図5(aおよびb)は、心臓繊維芽細胞移植後5日間にわたるG-CSF投与の存在下または非存在下でSDF-1発現ベクターの存在または非存在下で安定して形質移入された心臓繊維芽細胞の移植後4週間、梗塞領域内の(a)BrdU+細胞および(b)CD117+細胞の数を示すものである。データは、各動物の身元を隠された2人の観測者によって、定量化された陽性細胞の平均値±標準偏差(s.d)を表している。1群あたりn=3〜5。
【0145】
図5cは、SDF-1/G-CSF処理してCD117+で染色した動物の写真である。スケール・バーは、25μMを示す。
【0146】
SDF-1がG-CSFに応答して傷ついた心筋層に誘導される幹細胞を誘発するのに十分であることと整合して、心臓繊維芽細胞を発現するSDF-1が移植された心臓は、梗塞領域全体に及ぶBrdU-陽性細胞の数の3倍を超える増加があることを明らかにした。対照心臓繊維芽細胞を受けた動物は、対照との違いがないBrdUシグナルを示した。
【0147】
−−BrdU陽性細胞の同定−−
我々は、梗塞領域の中でBrdU細胞のアイデンティティを決定するために、免疫蛍光法を実行した。CD45の抗体染色は、細胞移植およびG-CSF投与に応答して、BrdU陽性細胞の5%未満が白血球であることをそれぞれ示している。心臓ミオシンBrdU陽性細胞は、SKMB存在下または非存在下でG-CSFにより処理、または心臓繊維芽細胞移植によって処理された動物の梗塞領域で観察されなかった。
【0148】
−−MIに続く心血管新生およびLV機能遅延に対するVEGF発現SKMBおよびG-CSFの効果−−
SKMB移植およびG-CSFによる骨髄刺激の組合せを受け取った動物でのBrdU-陽性細胞の増加数にもかかわらず、梗塞領域にある血管密度の増加または心筋細胞数の増加は、観察されなかった。したがって、我々はSKMB移植およびG-CSF投与へのVEGF過剰発現の付加的効果を検討した。
【0149】
図6(aおよびb)は、(a)SKMBまたは(b)VEGF発現SKMBの細胞移植によるLADライゲーションとそれに続くG-CSFを用いた幹細胞の動員後、12週目に、梗塞領域の免疫組織化学がBrdU+細胞(白抜き矢印)と心筋ミオシン発現細胞(ベタ矢印)との両方を明らかにしたことを示す。
【0150】
図6cは、非処置対照に対比してLV機能の改善を示す。データは、平均値±標準偏差(s.d) n=6〜8/群を表す。スケール・バーは10μMを表す。
【0151】
VEGF165発現SKMBの移植は、MI後8週目におこなわれ、生理食塩水対照と比較した梗塞領域での血管密度の増加をもたらした(それぞれ44.1± 5.2対17.7±2.8血管/mm2;VEGF-165 対 生理食塩水)。さらにまた、VEGF-165の発現とG-CSFによる幹細胞動員の組合せは、心筋再生と整合した、心臓ミオシン発現細胞による梗塞領域の再増殖を導いた(図6a)。短化分画で測定されるように、VEGF-165発現のSKMBへの追加は有意にLV機能も増加させた(図6b)。VEGF-165発現SKMBの移植と、G-CSFの投与と組み合わせたSKMB移植という、処置戦略の間の短化分画での有意差は認められなかった(データ示さず)。
【0152】
[方 法]
−−LADライゲーション−−
全ての動物のプロトコルは、動物研究委員会の承認を得て、全ての動物をクリーブランド・クリニック財団のAAALAC動物施設に収容した。動物をペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)で麻酔し、挿管し、圧力循環された齧歯動物換気装置(ケント・サイエンティフィック社、RSP1002)を使用して、1分につき80の呼吸で、大気で通気した。前壁MIの誘発は、外科用顕微鏡(ライカM500)を用いて、左前下行枝(LAD)動脈のライゲーションによって、ルイス・ラット(150-175gのオス)でおこなった。
【0153】
−−二次元超音波心臓検査−−
二次元超音波心臓検査は、LADライゲーション後、5〜7日、および8週目、またSKMB移植後4週目に、セコイア(Sequoia)C256(アキューソン(Acuson))を入出力として15MHzの一次元配列トランスデューサーを用いておこなった。ラットを、各々の心エコー図のためにケタミン(50mg/kg)で、軽く鎮静させた。LV寸法と肉厚の定量化のために、我々は異なるラットで同じ解剖学的位置から一貫した測定ができるよう、乳頭筋の直下で、中央LVから短軸表示でデジタル的に二次元クリップとm-モード画像とを記録した。測定は、オフラインでプロソルブ(ProSolve)を使用し、目隠しした2人の観察者を別々にしておこなった。各々の動物に対して各々の測定を6回繰り返し、無作為に選択された3つから、mモードが、処置腕に対して目隠しされた観察者によって記録された5つを切り取る。LV機能の測定として、短化分画をM-Mode記録から算出した。短化分画(%)=(LVEDD-LVESD)/LVEDD*100、式中、LVEDDは左室拡張末期径、LVESDは左室収縮末期径である。寸法は、乳頭筋の直下のレベルで、短軸表示から前壁と後壁との間で測定された。加えて、前壁肉厚は、拡張終期で測定された。
【0154】
−−細胞調製ならびに細胞およびウイルス送達−−
骨格筋芽細胞を数匹のルイス・ラット(ハーラン・ラボ)の後脚から収集し、175ml培養瓶(ファルコン)で平板培養し、10%のウシ胎仔血清、300mg/lの ECGS、ならびに抗生物質であるペニシリン、ストレプトマイシンおよびオフロキサシンを含むDMEM中で増殖させた。一旦75%の集密が達成されると、分化を回避するために細胞の継代をおこなった。細胞移植より前の日に、精製された筋芽細胞は、サイトメガロウイルス・プロモータの制御下のVEGF-165またはルシフェラーゼ(対照)を発現している複製欠損のアデノウイルスによって108pfu/mlで形質移入された。移植当日に、筋芽細胞をトリプシンで収集し、遊離しているウイルス粒子のすべてを除去するためしっかりとPBSで洗浄し、移植直前に再構成された。つぎに、動物を麻酔し、通気し、梗塞領域を直接視覚化するために、側方胸壁切開を施した。約1x106細胞が一匹の動物あたり、5カ所に注射された。
【0155】
心臓繊維芽細胞を、数匹の成体ラット心臓から収集して、SKMBと同様に平板培養した。心筋梗塞の24時間後に心臓から取り出された全RNAからSDF-1を、発現ベクターPCDNA3.1にクローニングした(順方向-(NOT-1)-AATAAGAAATGCGGCCGCATGGACGCCAAGGTCGTCGCTGTGCTGGCC;逆方向-(Xba-1)-TCTAGACTTGTTTAAGGCTTTGTCCAGGTACTCTTGGA。SDF-1 PCDNA3.1発現ベクターで安定に形質移入された心臓繊維芽細胞は、ネオマイシンで選択された。
【0156】
−−幹細胞動員−−
組換え体ヒトG-CSF(125ug/kg)の投与は、骨格筋芽細胞移植日から開始して5日間、腹膜内(i. p.)注射によっておこなった。完全血球算定と差分データ(バイエル、ADVIA)は、移植後の第0日、5日、14日、および21日目に得られた。細胞増殖の累積的な範囲を測定するために、第5日目から開始して14日間、50mg/kgのBrdUを腹膜内(i. p.)注射し、G-CSFによって誘発されるいかなる増殖性幹細胞のBrdU標識をも可能にした。
【0157】
−−組織学的分析−−
細胞移植をおこなった4週間にラットを安楽死させて該ラットの心臓を収集して、ヒスト・チョイス (Amresco Inc., Solon, OH)による潅流固定法の後にLV長軸に対して垂直な3つの等分画に区分した。中央心室および先端部分をパラフィンに包埋し、いくつかの6μm厚切片は免疫組織化学のために利用された。心筋ミオシン(ケミコン)、CD45(ケミコン)、Factor VIll(ケミコン)、CD117(サンタクルス・バイオテクノロジー)、およびBrdU(ベクター・ラボ)に対するモノクローナル抗体を利用した。FITCまたはビオチンによる標識をつけた二次抗体が、使われた。定量化のために、梗塞領域内の5つの切片は、陽性細胞および血管密度ついて分析した。BrdU抗原提示についての我々のプロトコルのHCI処置が3つの異なるCD117抗体が認識する核抗原決定基の発現に帰着したので、我々はCD117とBrdUとの二重標識を実行することができなかった。
【0158】
−−PCR分析−−
RT-PCR分析は、時間の関数としてLADライゲーション後およびSKMB移植後に、ラット心臓から単離された全RNAに対しておこなった。全RNAを、グアニジン・イソチオシアネート-セシウム・クロライド法によって、組織から抽出した。ラットSDF-1に対して特異的なプライマー(順方:TTGCCAGCACAAAGACACTCC;逆方向:CTCCAAAGCAAACCGAA TACAG、予想される産物243塩基対、40サイクル)を用い、GAPDH(順方向:CCCCTGGCCAAGGTCATCCA;逆方向:CGGAAGGCCATGCCAGTGAG、予想される産物238塩基対、20サイクル)。リアルタイムPCR(パーキン・エルマー、ABIプリズム7700)を用いて、PCR産物SDF-1(順方向:ATGCCCCTGCCGATTCTTTG; 逆方向:TGTTGTTGCTTTTCAGCCTTGC(予想される産物116塩基対))および上記のGAPDHへのSYBR-グリーンの取り込みを用いて、梗塞および移植心臓内での発現増加を確認した。
【0159】
−−アデノウイルス構築物−−
VEGF-165をコードするアデノウイルス構築物は、ゲン・ベック社(Gen Vec(Inc)(Gaithersburg博士))から寛容にいただいた。手短に言うと、293細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC CRL. 1573)から入手し、10%のウシ血清を加えたダルベッコの改質イーグル培地(DMEM)で維持した。E1-およびE3-アデノウイルス・ベクターAdVEGF-165は、左端逆転末端反復(ITR)に隣接したユニーク制限部位でシャトルベクター・プラスミドを直線化することによって得られ、Clal消化されたH5dl324 DNAと同時に293細胞に形質移入させた。2度の連続したプラーク精製の後、ベクター・ストックを293細胞上で増殖させ、塩化セシウム勾配上で3度の連続したバンド形成を通して精製した。精製ウイルスを、10mMのTris、pH 7.8、150mMのNaCl、10mMのMgC12、および3%のスクロースを含む緩衝液に対して透析し、使用まで−80℃で保存した。導入遺伝子発現は、サイトメガロウイルス最初期プロモータの制御下にある。
【0160】
−−統計的解析−−
データは、平均値±標準誤差(SEM)として示される。群の間の比較は、Student t検定によってなされた。
【0161】
第2の一連の実施例
−−左心室機能に対する骨格筋芽細胞移植の効果−−
血管密度とLV機能へのSKMB自家移植の効果は、SKMB発現VEGF-165が梗塞領域の有意な新血管新生と左心室機能の改良に導いたかどうか決定するために検討された。
【0162】
LADライゲーションによって誘発される心筋梗塞後8週で、周囲梗塞領域に対して、100万SKMB(n=6)または生理食塩水(n=7)のいずれかを均等に5回に分けて注射した。4週後に、LV機能を心エコー図によって短化分画として定量化し、心臓を収集した。脈管構造を第VIII因子免疫組織化学によって同定し、血管密度を梗塞領域の全体を通じて定量化した。
【0163】
図7(aおよびb)は、この実験から得たデータをグラフ表示したものである。データは、平均値±標準偏差(s.d.)を表す。*P < 0.01.
【0164】
データは、LADライゲーションによって誘発される心筋梗塞の8週間後に周囲梗塞領域へのSKMBの移植が梗塞領域の新血管新生を結果として生じなかったことを示している(7a)。しかし、SKMB移植の結果として、、LV機能の、僅かではあるが(〜20%)統計学的に有意の増加が、乳頭筋のレベルでの短化分画として測定された(6.8±1.0% 対8.1±1. 1%, P < 0.01) (7b)。
【0165】
−−細胞をベースとしたおよび直接的なアデノウイルスVEGF送達に応じた新血管新生−−
直接的なウイルス注射間の血管新生反応を、ウイルスによる形質移入がおこなわれたSKMBの移植と比較した。各々の事例(LADライゲーションによって誘発される心筋梗塞8週後)で周囲梗塞領域に対して、1x107 pfuのAdVEGF-165 (n=4)、もしくは、AdLuc(n=3)またはAdVEGF-165(n=6)で形質移入された100万のSKMBのいずれかを均等に5回に分けて注射した。脈管構造は第VIII因子免疫組織化学によって同定され、血管密度の定量は、乳頭筋のレベル以下でちょうど得られる組織切片の染色された第VIII因子染色血管を計数することによっておこなった。
【0166】
図8は、VEGF-165を発現する細胞の移植による血管密度と比較して、直接アデノウイルス注射による梗塞領域内の血管密度を表す。データは、平均値±標準偏差(s.d.)を表す。 *P < 0. 05。
【0167】
血管密度の著しい増加は、VEGF-165のアデノウイルス注射またはVEGF-165発現SKMBによる細胞移植のいずれかを受けた動物で観察された。血管腫形成について、いずれの処置戦略によっても著しい肉眼的または組織学的所見がなかった。直接ウイルス注射と比較して、細胞移植で治療された動物の血管密度の有意により大きな増加も観察された。
【0168】
図9(a〜f)は、AdLUCで形質移入された100万SKMB(A、D)、1x107pfu AdVEGF-165(B、E)、またはAdVEGF-165で形質移入された100万SKMB(C、F)を周囲梗塞領域に均等に5回に分けて注射した4週後の、梗塞領域の代表的な切片の写真である。(A-C) H & E 染色および (D-F) 第VIII因子の免疫組織学的化学。
【0169】
図9(a〜f)の中の写真は、SKMB移植後の梗塞領域が比較的に無血管性であることを示す(図9(aおよびd))。増加した血管密度の発現のいずれのモダリティー結果にもよるVEGF-165治療後の新血管新生は、毛細管と小さい細動脈の数の増加によって特徴づけられた(図9(b、c、e、およびf))。
【0170】
図10(aおよびb)は、 (a) 1x107 pfu AdVEGF-165または(b)1x107 pfu AdVEGF-165 で形質移入された100万SKMBを等しく5回に分けて注射した4週後の、周囲梗塞領域の代表的なH&E染色片を表す。
【0171】
処置4週後、アデノウイルスを注射された動物の周囲梗塞領域は、一貫して炎症性浸潤(図10a)であることが示された。このような炎症は、VEGF-165発現SKMBによる移植を受けたいずれの動物でも認められなかった(図10b)。
【0172】
−−改良された左心室機能をもたらすVEGFの細胞をベースとする送達−−
直接的なウイルス注射または細胞をベースとするVEGF-165の発現が、改良されたLV機能を導くかどうか決定するために、心筋梗塞8週後、生理食塩水、1x107pfuのAdVEGF-165(n=4)、AdLuc(n=3)またはAdVEGF-165(n=6)で形質移入された100万のSKMBのいずれかを周囲梗塞領域に均等に5回に分けて注射した。LV機能を、心エコー図によって4週後に定量化した。
【0173】
図11(aおよびb)は、(A)短化分画(%)または(B)生理食塩水対照との対比として表したLV機能を表す。データは、平均値±標準偏差(s.d.)を現す。 *P<0.01。
【0174】
本研究のために使用されるLADライゲーション・モデルは、短化分画で著しい減少をもたらした。VEGF-165をコードするアデノウイルスの直接注射をで受けた心臓と比較して、VEGF-165を発現する細胞による移植を受けた心臓で、LV機能の著しい増加が認められた(図11a)。さらにまた、VEGF-165発現SKMBの移植で見られるLV機能の改善は、SKMB単独の移植で見られるより、有意に大きいかった(図11b)。VEGF-165コード化アデノウイルスの直接注射による血管密度の著しい増加にもかかわらず、生理食塩水注射単独と比較したLV機能の改善は、この処置戦略では認められなかった(図11b)。
【0175】
これらの第2シリーズの実験からのデータは、アデノウイルスおよび細胞をベースとするVEGF-165送達の両方が梗塞領域内で新血管新生(それぞれのSKMB単独と比較した血管密度の増加が50±7%および145±29%である)を誘発することを証明する。細胞をベースとするVEGF-165送達では、たとえSKMB送達単独(19.1±10.7%)と比較しても、心機能の顕著な増加が得られたが、アデノウイルスによる送達ではそうではなかった(生理的食塩水からなる対照と比較して短化分画でそれぞれ69.1±8.2%および1.5±5.8%の増加)。これらの第2シリーズの実験からのデータは、さらにVEGFの細胞をベースとする送達が直接的なアデノウイルス注射よりも改善された処置効果を導くことを証明しており、SKMB移植を考慮するとき、すでに発達したアデノウイルス・ベクターが補助的療法として潜在的に使われることができたことを示唆する。
【0176】
これらのアプローチの両方ともVEGFの局所一時的発現をもたらし、本研究の全ての動物はVEGFコード化アデノウイルスを1x107pfu用いることで最終的に治療された。
【0177】
著しい新血管新生が、両方のVEGF送達戦略で梗塞領域の全体を通じて見られ、左心室機能のわずかな増加は、SKMB単独で治療した動物に観察された。VEGF-165発現SKMBの移植は、有意により大きな血管密度の増加と、短化分画によって定量化されたLV機能の〜70%増加をもたらした。一方では、アデノウイルス・コード化VEGF-165の注射により、梗塞領域の範囲内の血管密度が増加したにもかかわらず、この治療は、LV機能の改善をもたらすことはなかった。
【0178】
並列的にSKMBとVEGFとを使用することで観察されるLV機能の相乗的な改善のための潜在的機構は、骨髄からの血液幹細胞(HSC)放出を誘導するVEGFの能力に関するものであると考えられる。血管内皮増殖因子(VEGF)投与は、マウスでCD34+造血性幹細胞を動員することが示され、新血管新生の増強をもたらした。両方の送達戦略がHSC放出に類似している可能性がある。しかし、アデノウイルス注射に典型的に伴う(そしてVEGF-165発現SKMBの移植には伴わない)炎症反応がない場合、心筋層に入るHSCは、心臓筋細胞に分化する可能性が高い。
【0179】
[方 法]
−−LADライゲーション−−
全ての動物のプロトコルは、動物研究委員会の承認を得て、全ての動物をクリーブランド・クリニック財団のAAALAC動物施設に収容した。動物をペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)で麻酔し、挿管し、圧力循環された齧歯動物換気装置(ケント・サイエンティフィック社、RSP1002)を使用して、1分につき80の呼吸で、大気で通気した。前壁MIの誘発は、外科用顕微鏡(ライカM500)を用いて、左前下行枝(LAD)動脈のライゲーションによって、ルイス・ラット(150-175gのオス)でおこなった。
【0180】
−−二次元超音波心臓検査−−
二次元超音波心臓検査は、LADライゲーション後、5〜7日、および8週目、またSKMB移植後、4週目に、またセコイア(Sequoia)C256(アキューソン(Acuson))を入出力として15MHzの一次元配列トランスデューサーを用いておこなった。ラットを、各々の心エコー図のためにケタミン(50mg/kg)で、軽く鎮静させた。LV寸法と肉厚の定量化のために、我々は異なるラットで同じ解剖学的位置から一貫した測定ができるよう、乳頭筋の直下で、中央LVから短軸表示でデジタル的に二次元クリップとm-モード画像とを記録した。測定は、オフラインでプロソルブ(ProSolve)を使用し、目隠しした2人の観察者を別々にしておこなった。各々の動物に対して各々の測定を6回繰り返し、無作為に選択された3つから、mモードが、処置腕に対して目隠しされた観察者によって記録された5つを切り取る。LV機能の測定として、短化分画をM-Mode記録から算出した。短化分画(%)=(LVEDD-LVESD)/LVEDD*100、式中、LVEDDは左室拡張末期径、LVESDは左室収縮末期径である。乳頭筋の直下のレベルで、短軸表示から前壁と後壁との間で寸法が測定された。加えて、前壁肉厚は、拡張終期で測定された。
【0181】
−−細胞調製ならびに細胞およびウイルス送達−−
骨格筋芽細胞を数匹のルイス・ラット(ハーラン・ラボ)の後脚から収集し、175ml培養瓶(ファルコン)で平板培養し、10%のウシ胎仔血清、300mg/i ECGS、ならびに抗生物質であるペニシリン、ストレプトマイシンおよびオフロキサシンを含むDMEM中で増殖させた。一旦75%の集密が達成されると、分化を回避するために細胞の継代をおこなった。
【0182】
細胞移植前日に、精製された筋芽細胞を、CMVプロモータによる制御下でVEGF-165またはルシフェラーゼ(対照)を発現する1x107 pfu/mlの複製欠損、E1、E3欠失アデノウイルスで形質移入した。移植当日に、筋芽細胞をトリプシンで収集し、いっさいの遊離ウイルス粒子を除去するためにしっかりとPBSで洗浄して、移植直前に再構成した。つぎに、動物を麻酔し、通気し、梗塞領域を直接視覚化するために、側方胸壁切開を施した。約1x106細胞が一匹の動物あたり、5カ所に注射された。同様に、周囲梗塞への直接的なウイルス注射は、5回に分けて各々0.2x107pfu注射することによって達成した。各々の注射のボリュームは、100μlであった。全ての実験では、周囲梗塞領域の左側の境界に沿って注射を2回、右側の境界に沿って2回おこなった。周囲梗塞領域のLV頂点で5回目の注射がおこなわれた。
【0183】
−−アデノウイルス構築物−−
VEGF-165をコードするアデノウイルス構築物は、ゲン・ベック社(Gen Vec(Inc)(Gaithersburg医学博士))から寛容にもいただいた。手短に言うと、293細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC CRL. 1573)から入手し、10%のウシ血清を加えたダルベッコの改質イーグル培地(DMEM)で維持した。E1-およびE3-欠失アデノウイルス・ベクターAdVEGF-165は、左端逆転末端反復(ITR)に隣接したユニーク制限部位でシャトルベクター・プラスミドを直線化することによって得られ、Clal消化されたH5dl324 DNAと同時に293細胞に形質移入させた。2度の連続したプラーク精製の後、ベクター・ストックを293細胞上で増殖させ、塩化セシウム勾配上で3度の連続したバンド形成を通して精製した。精製ウイルスを、10mMのTris、pH 7.8、150mMのNaCl、10mMのMgC12、および3%のスクロースを含む緩衝液に対して透析し、使用まで−80℃で保存した。導入遺伝子発現は、サイトメガロウイルス最初期プロモータの制御下にある。
【0184】
−−組織学的分析−−
細胞移植の4週間後に、ラットを安楽死させて該ラットの心臓を収集して、ヒスト・チョイス (Amresco Inc., Solon, OH)による潅流固定法の後に、LV長軸に対して垂直な3つの等分画に区分した。中央心室の部分をパラフィンに包埋し、乳頭筋の直下で6μm厚の切片を分析のために得た。切片を、組織学分析のためにヘモトキシリンおよびエオシンで染色した。血管識別を助けるために、切片を第VIII因子(サンタクルス・バイオテクノロジー)に対する抗体およびHRP標識ヤギ抗マウス二次抗体を用いて染色した。これらの切片を、ヘマトキシリンで対比染色した。血管は、各々の動物の身元を隠された熟練した観察者によって、各々の動物の梗塞領域の全体を通じて計数された。
【0185】
−−統計分析−−
データは、平均値±標準偏差(s.d.)で表した。群間の比較は、Student t−検定によっておこなった。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】図1(aおよびb)は、生理的食塩水またはG-CSFを投与して4週間後(LADライゲーション後12週間)に梗塞領域(a)および短化分画(b)内でのBrdU陽性細胞の数をそれぞれ示すグラフである。
【図2】図2(aおよびb)は、細胞移植4週間後(LADライゲーション後12週間)の梗塞領域内でのBrdU+細胞計数に対する骨格筋芽細胞(SKMB)移植の効果を示すグラフである。
【図3】図3(aおよびb)は、BrdU投与5日後の(a)BrdU染色された骨髄と(b)未処理の心筋層とを示す写真である。図3cは、本発明にもとづく治療によって評価される梗塞領域内で増加したBrdU+細胞を示すグラフである。
【図4】図4は、心筋梗塞後の時間の関数としての間質由来因子(SDF-1)発現を示すRT−PCRの写真である。
【図5】図5(aおよびb)は、心臓繊維芽細胞移植後5日間にわたるG-CSF投与の存在下または非存在下で、SDF-1発現ベクターの存在または非存在下で安定的に形質移入された心臓繊維芽細胞を移植した4週間後における、梗塞領域内の(a)BrdU+細胞および(b)CD117+細胞の数を示すグラフである。 図5cは、SDF-1/G-CSF処理動物のCD117+染色の写真である。
【図6】図6(aおよびb)は、G-CSFを用いた細胞動員に続く(a)SKMBまたは(b)VEGF発現SKMBの細胞移植によるLADライゲーション2週間後のBrU+細胞と心臓ミオシン発現細胞とを現す梗塞領域の免疫組織化学を示す写真である。図6cは、VEGF過剰発現なしで左心室機能関連細胞療法の改善を示しているグラフである。
【図7】図7(aおよびb)は、SKMB移植の前後に血管密度(a)と左心室機能(b)とを比較しているグラフである。
【図8】図8は、直接的なアデノウイルス注射とVEGF-165を発現する細胞の移植との後で血管密度を比較しているグラフである。
【図9】図9(a〜f)は、周囲梗塞領域へ、AdLUC(a、d)、lx107 pfuのAdVEGF-165(b、e)、AdVEGF-165で形質移入された100万SKMB(c、f)、を均等に5回に分けて注射した4週間後の、梗塞領域の代表的セクションを示す写真である。
【図10】図10(aおよびb)は、均等に5回に分けて注射した(a) 1 pfu AdVEGF-165 および(b) lx107 pfu AdVEGF-165によって形質移入された100万SKMBの注射4週間後に、周囲梗塞領域での炎症性浸潤を示す写真である。
【図11】図11(aおよびb)は、(a)短化分画(%)および(b)生理的食塩水対照との対比として表される、左心室(LV)機能に対するVEGF-165発現SKMBの移植の効果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞分化を刺激する方法に関し、特に細胞に基づくVEGF送達を用いて幹細胞分化を刺激する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療的血管新生によって、虚心型心筋症および他の虚血性症候群の治療に対する可能性が得られる。虚血性心疾患を処置するための治療的血管新生は、いくつかの動物モデルと冠動脈血管再生術に不適な患者でのヒト試行治験とで有効性が示された。ヒト治験で試験される血管新生因子として、FGF-1、FGF-2、およびFGF-4と、VEGFのいくつかの多様なイソ型とが挙げられる(非特許文献1)。血管新生因子処置のための最適送達方法は、まだ決定されていない。持続的かつ無秩序な血管内皮増殖因子(VEGF)の生産は、動物モデルでは望ましくない悪影響があるため、局所かつ一時的な発現は、全身効果を最小化する試みとして好ましい(非特許文献2)。
【0003】
血管新生因子の送達のために臨床集団で検討される戦略として、静脈内または冠内注射を通してのタンパク質の送達、アデノウイルスの冠内注射、あるいはタンパク質、裸のDNA、または血管新生遺伝子産物をコードするアデノウイルスの心筋内直接注射が挙げられた(非特許文献3−8)。
【0004】
VEGFタンパク質の冠内送達戦略は、充分な心筋血管再生を得る上で要求される高用量に反応して生ずる低血圧等の全身毒性によって制限される(非特許文献9−10)。裸のDNAは、循環ヌクレアーゼによる急速な分解のため、心筋への直接注射を必要とする。
【非特許文献1】Freedman, S. B. & Isner, J. M., Ann Intern Med 2002; 136 (1): 54-71
【非特許文献2】Lee et al., Circulation 2000; 102 (8): 898-901
【非特許文献3】Udelson, J. E., et al., Circulation 2000; 102 (14): 1605-1610
【非特許文献4】Simons, M., et al., Chronos NA. Circulation 2002; 105 (7): 788-793
【非特許文献5】Grines, C. L., et al. Circulation 2002; 105 (11): 1291-1297
【非特許文献6】Laham, R. J., et al., Circulation 1999; 100 (18): 1865-1871
【非特許文献7】Vale, P. R., et al., Circulation 2001; 103 (17): 2138-2143
【非特許文献8】Rosengart T. K., et al. Circulation 1999; 100 (5): 468-474
【非特許文献9】Hariawala M. D., et al., J. Surg. Res. 1996; 63 (1): 77-82
【非特許文献10】Lopez, J. J., et al. Am. J. Physiol. 1997; 273 (3 Pt 2): H1317-H1323
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、虚血損傷組織の幹細胞分化を刺激する方法に関する。虚血損傷組織は、第1の濃度の幹細胞と、第1の濃度のVEGFとを含む。この方法では、虚血損傷組織中のVEGFの濃度を第1の濃度から第2の濃度へ高めることができる。虚血損傷組織中の幹細胞の濃度を第1の濃度から第2の濃度へ高めることができる。虚血損傷組織中のVEGFの濃度を増加させながら、幹細胞の濃度を増加させることができる。
【0006】
本発明の別の態様によれば、幹細胞数の増加は、骨髄から虚血損傷組織の末梢血への幹細胞の動員を引き起こす薬剤を投与することによって、あるいは末梢血に幹細胞を注射することによって、おこなわれる。本発明の好ましい態様では、骨髄から虚血損傷組織の末梢血への幹細胞の動員を引き起こす薬剤を、サイトカイン、ケモカイン、および化学療法薬からなる群から選択することができる。本発明のより好ましい態様では、上記薬剤は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を含む。
【0007】
本発明の別の態様では、VEGFの濃度を高めるステップは、細胞に影響を及ぼして虚血損傷組織でVEGFを発現させることを含む。遺伝子治療を用いることで、細胞に影響を与えてVEGFを発現させることができる。遺伝子治療の好ましい方法は、発現ベクターを細胞に形質移入することを含む。発現ベクターは、VEGFをコードしている核酸を含むことができる。
【0008】
本発明のさらにもう一つの態様によれば、VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、生体外で培養されて虚血損傷組織に導入された細胞を含む。培養細胞は、培養に先立って、処置される被験体から収集された自己由来の細胞を含むことができる。もう一つの態様において、VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、虚血損傷組織由来の自生細胞を含むことができる。
【0009】
本発明のもう一つの態様によれば、虚血損傷組織は第1の濃度のSDF-1を含むことができる。虚血損傷組織中のVEGFの濃度を増加させながら、虚血損傷組織のSDF-1の濃度を第1の濃度から第2の濃度まで高めることができる。虚血損傷組織中のSDF-1濃度は、虚血損傷組織内の細胞に影響を及ぼしてSDF-1を発現させることで、高めることができる。
【0010】
本発明のもう一つの態様によれば、発現ベクターを細胞に導入することによって細胞に影響を及ぼしてSDF-1を発現させることができる。発現ベクターは、SDF-1をコードする核酸を含むことができる。SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、生体外で培養されて虚血損傷組織に導入された細胞を含むことができる。SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、培養に先だって、処置される被験体から収集された自己由来の細胞をさらに含むことができる。あるいは、SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、虚血損傷組織由来の自生細胞を含むことができる。
【0011】
本発明のさらにもう一つの態様によれば、虚血損傷組織でVEGFを発現するために影響を受ける細胞は、虚血損傷組織でSDF-1を発現するために、さらに影響を受けることができる。細胞は、SDF-1を発現するために発現ベクターを細胞に導入することによって影響を受けることができる。発現ベクターは、VEGFをコードする核酸を含むことができる。
【0012】
本発明のもう一つの態様は、梗塞を起こした心筋層で幹細胞分化を刺激する方法に関する。この方法では、梗塞を起こした心筋層に細胞を導入することができる。細胞に影響を及ぼすことで、梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現させることができる。骨髄から梗塞を起こした心筋層の末梢血まで幹細胞を動員する薬剤を、投与することができる。梗塞を起こした心筋層でVEGFが発現されている間、幹細胞は骨髄から末梢血まで移動することができる。
【0013】
本発明の別の態様では、骨髄から梗塞を起こした心筋層の末梢血への幹細胞の動員を生じうる薬剤は、サイトカイン、ケモカイン、および化学療法薬からなる群から選択できる。好ましくは、上記薬剤は、顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF)を含むことができる。
【0014】
本発明の別の態様によれば、梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現させるために、遺伝子治療を使用して細胞が影響を受けることができる。遺伝子治療は、VEGFを発現させるために発現ベクターで細胞に影響を与えることを含むことができる。発現ベクターは、VEGFをコードする核酸配列を含むことができる。
【0015】
本発明のさらに別の態様によれば、梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現する細胞は、その梗塞を起こした心筋層への導入に先立って、生体外で培養された細胞を含む。さらなる態様では、VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、培養に先立って、処置される被験体から収集した自己由来の細胞を含むことができる。
【0016】
本発明の別の態様では、梗塞を起こした心筋層は、第1の濃度のVEGFを含むことができる。VEGFを発現するために影響を受けた細胞は、虚血損傷組織中のVEGFの濃度を第1の濃度から第2の濃度に高めることがきる。
【0017】
本発明のさらにもう一つの態様によれば、梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現するために影響を受けた細胞は、梗塞を起こした心筋層でSDF-1を発現するためにさらに影響を受けることができる。細胞に発現ベクターを導入することで、細胞が影響を受けてSDF-1を発現することができる。発現ベクターは、SDF-1をコードする核酸を含むことができる。
【0018】
本発明のさらなる態様は、梗塞を起こした心筋層の組織再生を促進するために、梗塞を起こした心筋層の幹細胞分化を刺激する方法に関する。本方法では、梗塞を起こした心筋層に骨格筋芽細胞を導入することができる。骨格筋芽細胞に発現ベクターを形質移入することで、梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現させることができる。骨髄から梗塞を起こした心筋層の末梢血まで前記幹細胞を動員するコロニー刺激因子を、投与することができる。VEGFが梗塞を起こした心筋層で発現されている間、幹細胞を骨髄から末梢血に動員することができる。骨髄から動員される幹細胞は、心筋細胞に分化しうる。
【0019】
本発明のさらなる特徴は、添付する図面を参照にして以下の説明を読むことによって、本発明に関連する当業者にとって、明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
特に定義しない限り、本明細書中に使用される全ての専門用語は、この発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を持つ。分子生物学の一般によく理解されている定義を、例えば、Rieger et al., Glossary of Genetics: Classical and Molecular, 5th edition, Springer-Verlag : New York, 1991; およびLewin, Genes V, Oxford University Press: New York, 1994に見いだすことができる。
【0021】
従来の分子生物学技術に関連する方法が、本明細書中に記載されている。そのような技術は周知であって、方法論に関する学術論文に詳述されており、そのような学術論文として、例えば、Molecular Cloning : A Laboratory Manual, 2nd ed., vol. 1-3, ed. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. , 1989; およびCurrent Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al., Greene Publishing and Wiley-interscience, New York, 1992 (定期的改訂あり)が挙げられる。核酸の化学合成法が、例えばBeaucage and Carruthers, Tetra. Letts. 22: 1859-1862,1981, およびMatteucci et al., J. Am. Chem. Soc. 103: 3185, 1981で議論されている。核酸の化学合成は、例えば、市販の自動オリゴヌクレオチド合成装置でおこなうことができる。免疫学的方法(例えば、抗原特異的抗体、免疫沈降、およびイムノブロッティング)は、例えば、Current Protocols in Immunology, ed. Coligan et al., John Wiley & Sons, New York, 1991; および Methods of Immunological Analysis, ed. Masseyeff et al., John Wiley & Sons, New York, 1992に記載されている。従来の遺伝子導入法および遺伝子治療法もまた、本発明での使用に適用することができる。例えば、Gene Therapy: Principles and Applications, ed. T. Blackenstein, Springer Verlag, 1999; Gene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), ed. P. D. Robbins, Humana Press, 1997; およびRetro-vector for Human Gene Therapy, ed. C. P. Hodgson, Springer Verlag, 1996を参照すること。
【0022】
本発明は、虚血損傷組織を再生させるために虚血損傷組織の幹細胞分化を刺激する方法に関する。本発明の方法は、虚血から(例えば、数週間)時間の経過した時点で虚血損傷組織を処置するのに用いることができる。
【0023】
上記方法は、哺乳類被験体内の虚血損傷組織に対して多能性幹細胞の遊走を動員することを含む。本発明に記載される多能性幹細胞は、本発明の方法によって刺激されて別の細胞に分化しうる任意の細胞である。多能性幹細胞の一例として、心筋細胞に分化しうる造血幹細胞が挙げられる。
【0024】
哺乳類被験体として、ヒト、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、サル、類人猿、ウサギ、牛等の任意の哺乳類が挙げられる。哺乳類被験体は、成体、幼若動物、および新生仔(児)を含む発生の任意の段階にあり得る。また、哺乳類被験体は発生の胎児段階にあるものも含むことができる。
【0025】
虚血損傷組織として、組織への血液供給が不足することで損傷を受けたいずれかの組織を挙げることができる。血液供給の不足は、血液を供給している動脈の閉塞もしくは狭窄に、または組織から還流する静脈の閉塞もしくは狭窄に起因する可能性がある。
【0026】
本発明の一態様では、虚血損傷組織として、梗塞を起こした心筋層が挙げられる。本発明で用いられる梗塞を起こした心筋層とは、梗塞性の心筋組織、梗塞性の心筋組織の末梢組織(例えば、末梢血管組織の場合、骨格筋組織)、ならびに梗塞性の心筋組織および梗塞性の心筋組織の末梢組織の両方をいう。
【0027】
虚血から時間が経過した時点で、第1の数の多能性幹細胞は虚血損傷組織を通行する。より多くの幹細胞が虚血傷害を通行するように、幹細胞のこの第の一数を増加させることができる。虚血損傷組織を通行する幹細胞数を増加させることによって、虚血損傷組織は再生することができる。なぜなら、虚血損傷組織にあるより多くの多能性幹細胞が、虚血損傷組織を再び埋めて(すなわち、移植)部分的にまたは完全に正常機能を修復することができる細胞に分化することができるからである。
【0028】
本発明の別の態様では、上記方法は、虚血損傷組織内の血管内皮増殖因子(VEGF)の濃度を、第1の濃度から該第1の濃度よりも十分に高い第2の濃度へ高めるステップを含む。虚血損傷組織内でのVEGFの第1の濃度は、虚血から時間の経過した時点(すなわち、数週間)での虚血性傷害組織で一般に認められるVEGF濃度である。VEGF濃度は、虚血から時間の経過した時点に虚血傷害組織で一般に発現されるVEGFの量から、虚血損傷組織でのVEGFの発現を上方制御することによって、虚血性傷害組織で増加させることができる。
【0029】
虚血損傷組織での血管内皮増殖因子の濃度を増加させると、生理的食塩水を用いた対照と比較して虚血損傷組織中の血管密度が増加する。虚血損傷組織で発現されるVEGFが、虚血損傷組織の幹細胞分化および再生を刺激するという知見も得られた。例えば、梗塞を起こした心筋層で発現したVEGFが、動員された幹細胞を心筋細胞に分化させるという知見が得られた。
【0030】
本発明の方法は、虚血損傷組織の末梢血での多能性幹細胞の濃度(すなわち、数)が第1の濃度から第1の濃度より十分に大きな第2の濃度まで増加するように、虚血損傷組織に幹細胞を動員するステップをさらに含む。第1の濃度の幹細胞は、虚血から時間が経過した時点で末梢血で典型的に見いだされる幹細胞の濃度となりうる。虚血損傷組織中のVEGFの濃度が増加する間に末梢血での幹細胞の濃度が増加する限りにおいて、VEGFの濃度が虚血損傷組織で上方制御される前に、または、その後に、末梢血での幹細胞の濃度を増加させることができる。
【0031】
本発明のもう一つの態様によれば、本方法は虚血損傷組織に向かうように多能性幹細胞を誘発することを含むことができる。虚血損傷組織でのSDF-1タンパク質の濃度を、第1の濃度から該第1の濃度よりも十分に高い第2の濃度へ増加させることによって、多能性幹細胞を虚血損傷組織へ向かわすことができる。SDF-1タンパク質の第1の濃度は、虚血(例えば、心筋梗塞)から時間の経過した時点(すなわち、数週間)で、虚血損傷組織(例えば、梗塞を起こした心筋層)で典型的に見られるSDF-1タンパク質の濃度である。SDF-1タンパク質の第2の濃度は、第1の濃度のSDF-1タンパク質より十分に大きくなりうる。
【0032】
SDF-1タンパク質の濃度は、虚血損傷組織でのSDF-1タンパク質の発現を上方制御することにより、心筋梗塞から時間の経過した時点で虚血損傷組織にて典型的に発現されるSDF-1タンパク質の量から増加させることができる。虚血損傷組織のVEGF-1の濃度が増加し、その一方で虚血損傷組織中のSDF-1濃度が増加するとともに末梢血での幹細胞の濃度が増加する。
【0033】
VEGF
本発明の1つの態様によれば、虚血損傷組織で発現されるVEGFは、新しい側副血管の成長を誘発することができる血管内皮増殖因子のファミリーのうちの1つである。VEGFは、血管透過性活性を持つ特異的血管新生成長因子であり、表皮細胞をほぼ排他的に標的にする。
【0034】
虚血損傷組織で発現されるVEGFは、VEGF遺伝子の発現産物である。本発明にもとづいて使用される好ましいVEGFとして、VEGF-1(別名VEGF-A)および他の構造的に相同なVEGF、例えばVEGF-2(VEGF-C)、VEGF-3(VEGF-B)、VEGF-D、VEGF-E、および胎盤成長因子が挙げられる。VEGF-1の既知のイソ型は、例えば、121、138、162、165、182,189、および206アミノ酸を含むことができる。これらのイソ型は、それぞれ、VEGF-121、VEGF-165、VEGF-162、VEGF-182、VEGF-189、およびVEGF-206と同定されている。これらのイソ型の分裂促進およびヘパリン結合活性は異なる。本発明にもとづいて使用されるVEGF-1の好ましいイソ型は、VEGF-165である。列挙されていないVEGF-1の他のイソ型およびVEGFの他のホモログもまた、本発明にもとづいて使用することができる。
【0035】
本発明のVEGFは、上記VEGFのうちの1つと同一のアミノ酸配列を持つことができる。本発明のVEGFは、上記VEGF(例えばVEGFのフラグメント、類似体、および誘導体)のうちの1つの変異体であってもよい。そのような変異体として、例えば天然VEGF遺伝子(すなわち、天然に生ずる哺乳類VEGFをコードする天然に生ずる核酸)から天然に生ずる対立遺伝子変異体によってコードされるポリペプチド、VEGF遺伝子の選択的スプライシング型によってコードされるポリペプチド、および天然VEGF遺伝子の非自然的に生ずる変異体によってコードされるポリペプチドが挙げられる。
【0036】
VEGF変異体は、天然VEGFと1つ以上のアミノ酸において異なるペプチド配列を持つ。そのような変異体のペプチド配列は、天然VEGFの1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、または置換を特徴とすることができる。アミノ酸の挿入は、好ましくは約1ないし4個の連続したアミノ酸からなり、欠失は好ましくは約1ないし10個の連続したアミノ酸からなる。本発明にもとづく変異体VEGFは、実質的に天然VEGFの機能的作用を維持している。好ましいVEGFタンパク質変異体は、サイレントまたは保存的変異を特徴とする本発明の範囲内で核酸分子を発現することによって作られることができる。
【0037】
1種類以上の特定のモチーフおよび/またはドメイン、または任意のサイズに対応しているVEGFフラグメントは、本発明の対象とする範囲内である。VEGFの単離ペプチジル部分は、そのようなペプチドをコードしている核酸の対応するフラグメントから組換えによって生産されるペプチドをスクリーニングすることによって得られる。加えて、フラグメントは従来のメリーフィールド固相f-Mocまたはt-Bocケミストリーのような公知技術を使用して、化学的に合成することができる。
【0038】
VEGFの変異体は、VEGFの組換え型を含むこともできる。本発明によって好まれる組換えポリペプチドは、VEGFに加えて、哺乳類VEGFをコードする遺伝子の核酸配列と少なくとも85%の配列同一性を持つ核酸によってコードされる。
【0039】
VEGF変異体は、天然VEGFの機能的作用を恒常的に発現するタンパク質のアゴニスト型を含むことができる。他のVEGF変異体として、例えば、プロテアーゼ標的配列を変える突然変異によるタンパク質分解的切断に対して耐性を有するものを挙げることができる。ペプチドのアミノ酸配列の変化が、VEGFの1種類以上の機能的作用を持っている変異体に帰着するかどうかは、変異体をVEGF機能的な活性用に試験することによって、直ちに決定することができる。
【0040】
VEGF核酸
本発明のもう一つの態様は、VEGFをコードする核酸分子と哺乳類のVEGFをコードする非天然の核酸に関する。そのような核酸分子は、RNAの形でまたはDNA(例えば、相補DNA、ゲノムDNA、および合成DNA)の形であってもよい。DNAは、二重鎖または単鎖であってもよく、単鎖である場合、コード(センス)鎖または非コード(アンチセンス)鎖であってもよい。
【0041】
本発明の範囲内の他の核酸分子は、天然VEGF遺伝子の変異体(例えば、天然VEGFのフラグメント、類似体、および誘導体をコードするもの)である。そのような変異体は、例えば、VEGF遺伝子の天然に生ずる対立遺伝子変異体、天然VEGF遺伝子のホモログ、または天然VEGF遺伝子の非天然に生じる変異体であってもよい。これらの変異体は、天然VEGF遺伝子と1種類以上の塩基が異なる核酸配列を持つ。例えば、そのような変異体の核酸配列は、天然VEGF遺伝子の1つ以上のヌクレオチドの欠失、付加、または置換を特徴とすることができる。核酸の挿入は、好ましくは約1ないし10個の連続したヌクレオチドからなり、欠失は、好ましくは約1ないし30個の連続したヌクレオチドからなる。
【0042】
他の適用では、コードされたポリペプチドに保存的とはいえないほどの変化を引き起こすヌクレオチド置換を作ることで、実質的な構造変化を示す変異体VEGF を生成することができる。そのようなヌクレオチド置換の例として、(a)ポリペプチド主鎖構造;(b)ポリペプチドの電荷または疎水性;あるいは(c)アミノ酸側鎖の大部分(バルク)、における変化を引き起こすようなものが挙げられる。通常、タンパク質特性で最も大きな変化を生ずると思われるヌクレオチド置換は、コドンで非保存的変化を引き起こす。タンパク質構造の大きな変化が起きる可能性があるコドン変化の実施例は、(a)疎水性残基(例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、またはアラニン)に対して(またはそれによって)、親水性残基(例えば、セリンまたはスレオニン);(b)任意の他の残基に対して(またはそれによって)、システインまたはプロリン;(c)負に帯電した残基(例えば、グルタミンまたはアスパラギン)に対する(またはそれによって)、正に帯電した側鎖を持つ残基(例えば、リジン、アルギニン、またはヒスチジン);あるいは(d)側鎖を持たない残基(例えば、グリシン)に対して(またはそれによって)かさばった側鎖を持つ残基(例えば、フェニルアラニン)の、それぞれ置換を引き起こすものである。
【0043】
本発明の範囲内のVEGF遺伝子の天然に生ずる対立遺伝子変異体は、天然VEGF遺伝子と少なくとも75%配列同一性を持つ哺乳類組織から単離された核酸であって、天然VEGFに構造類似性があるポリペプチドをコードする。本発明の範囲内の天然VEGFのホモログは、天然の遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を持つ他の種から単離される核酸であって、天然VEGFに構造類似性があるポリペプチドをコードする。公的な、および/または私有の核酸データベースを、天然VEGF遺伝子に高いパーセント配列同一性を持つ他の核酸分子を同定するために、検索することができる。
【0044】
非自然的に生ずるVEGF変異体は、自然界で生ずることのない核酸(例えば、ヒトの手によって作られたもの)であり、天然VEGF遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を持ち、天然VEGFに構造類似性があるポリペプチドをコードする。非自然的に生ずるVEGF遺伝子変異体の例として、天然VEGFのフラグメントをコードするもの、厳密な条件下で天然VEGF遺伝子または天然VEGF遺伝子の相補体にハイブリダイズするもの、天然VEGF遺伝子または該天然VEGF遺伝子の相補体と少なくとも65%の配列同一性を共有するもの、さらにVEGFをコードするものが挙げられる。
【0045】
本発明の範囲内のVEGFのフラグメントをコードする核酸は、天然VEGFのアミノ酸残基をコードする。天然VEGFのフラグメントをコードする核酸をコードまたは該核酸とハイブリダイズする短いオリゴヌクレオチドを、プローブ、プライマー、またはアンチセンス分子として使用することができる。天然VEGFのフラグメントをコードする核酸または該核酸とハイブリダイズする長いポリヌクレオチドもまた、本発明の種々の態様で用いることができる。天然VEGFのフラグメントをコードする核酸は、完全長の天然VEGF遺伝子またはその変異体の酵素的消化(例えば、制限酵素を用いて)または化学的分解によって、作製することができる。
【0046】
上記の核酸のうちの1つに厳密な条件下でハイブリダイズする核酸を、本発明で用いることもできる。例えば、そのような核酸は、厳密さが低い条件、厳密さが中程度の条件、または厳密さが高い条件の下で、上記の核酸のうちの1つにハイブリダイズすることができる。
【0047】
VEGF融合タンパク質をコードしている核酸分子を、本発明で使うことも可能である。そのような核酸は、適当な標的細胞に導入された時にVEGF融合タンパク質を発現するような構築物(例えば、発現ベクター)を調製することによって作られる。例えばそのような構築物は、適当な発現系での構築物の発現が融合タンパク質を産生するように、VEGFをコードする第1のポリヌクレオチドをもう一つのタンパク質をコードしている第2のポリヌクレオチドとインフレームで連結することによって作られる。
【0048】
本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAもしくはRNA、またはそれらのキメラ混合物、誘導体、または修飾変異体であってよく、単鎖または二重鎖であってよい。そのようなオリゴヌクレオチドを、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格において修飾することができ、それによって、例えば、分子の安定性やハイブリダイゼーション等を改善する。本発明に包含されるオリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えば、生体内で細胞受容体を標的にするため)等の他の付加基、または細胞膜を越える輸送を促進する作用物質を、付加的に含むものであってもよい。このために、オリゴヌクレオチドを、もう一つの分子(例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋因子、輸送因子、またはハイブリダイゼーション誘発切断因子)と結合させることが可能である。
【0049】
VEGF発現
本発明の別の態様によれば、標的細胞へVEGFの発現を高める作用因子を導入することで、虚血損傷組織でのVEGFの発現を増加させることができる。標的細胞として、虚血損傷組織にあるそれらの細胞または作用因子の導入後に虚血損傷組織に移植される生体外細胞が挙げられる。
【0050】
生体外細胞は、該細胞が移植されるべき組織と生体適合性がある任意の細胞である。これらの細胞は好ましくは、処置すべき被験体から収集される細胞(すなわち、自己由来細胞)であり、移植に先立って培養される。自己由来細胞が好ましい理由は、移植に対する細胞の生体適合性を増加させて、拒絶反応の可能性を最小化することにある。
【0051】
虚血損傷組織が梗塞を起こした心筋層を含む場合、梗塞を起こした心筋層に移植される細胞として、例えば、自己由来細胞、培養骨格筋芽細胞、繊維芽細胞、平滑筋細胞、および骨髄由来細胞が挙げられる。梗塞を起こした心筋層への移植にとって好ましい細胞は、骨格筋芽細胞である。筋芽細胞は、骨格筋の再生能を維持し、ストレス期間中に増殖して筋管に分化することで、最終的に収縮可能な筋繊維を形成する。心筋に移植される筋芽細胞は、筋管形成を起こし、細胞周期から脱して生き残る。機能的な研究によって、心筋に筋芽細胞を移植した後での局所収縮性および伸展性の改善が示された。骨格筋芽細胞は、筋繊維基底膜下で容易に収集でき、培養して細胞系を増大させた後、梗塞を起こした心筋層に移植することができる。例えば、マウスを被験体として用いた場合、該被験体の後脚から骨格筋芽細胞を収集して培養した後、その被験体の梗塞を起こした心筋層へ移植することができる。
【0052】
VEGFの発現を増加させるために標的細胞に導入される作用因子は、細胞への導入と該細胞での複製が可能で、かつ組換え核酸構築物(概してDNA構築物)に組み込み可能な天然または合成のVEGF核酸を含むことができる。そのような構築物は、好ましくは、所定の標的細胞でポリペプチドをコードする配列の転写および翻訳ができる複製系および配列を含む。
【0053】
他の作用因子を標的細胞に導入にして、標的細胞のVEGFレベルを高めることもできる。例えば、VEGFをコードしている遺伝子の転写を増加させる作用因子、VEGFをコードしているmRNAの翻訳を増加させる作用因子、および/またはVEGFをコードしているmRNAの分解を減少させる作用因子を使用して、VEGFレベルを増加させることが可能である。細胞内の遺伝子からの転写率の増大は、VEGFをコードしている遺伝子の上流に外来のプロモータを導入することによって達成される。異種遺伝子の発現を促進するエンハンサの使用も可能である。
【0054】
作用因子を所定の標的細胞に導入する好ましい方法として、遺伝子治療が包含される。遺伝子治療とは、生体内またはインビトロで細胞から治療用産物を発現するための遺伝子移入をいう。本発明にもとづく遺伝子治療は、生体内またはインビトロで所定の標的細胞からVEGFを発現させるために用いられる。
【0055】
遺伝子治療の1つの方法は、VEGFをコードしているヌクレオチドを含むベクターを使用する。「ベクター」(時に遺伝子送達または遺伝子移入用「運搬体」と呼ばれる」)とは、インビトロまたは生体内で、所定の標的細胞に送達されるポリヌクレオチドを含んでいる巨大分子または分子の複合体のことをいう。送達されるポリヌクレオチドは、遺伝子治療で重要なコード配列を含むことができる。ベクターとして、例えば、ウイルス・ベクター(例えば、アデノウイルス(「Ad」)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、およびレトロウイルス)、リポソームおよび他の脂質を含有する複合体、さらに所定の標的細胞へのポリヌクレオチド送達の媒介となることができるその他の巨大分子複合体が挙げられる。
【0056】
ベクターは、さらに遺伝子送達および/または遺伝子発現を調整、さもなければ標的細胞に有益な性質を提供する他の構成要素または機能性を含むこともできる。他の構成要素として、例えば、細胞への結合または標的化に影響を及ぼす構成要素(細胞型または組織特異的結合を調節する構成要素を含む);細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を及ぼす構成要素;取り込みの後、細胞内でポリヌクレオチドの局在化に影響する構成要素(例えば核移行を調節する作用因子);およびポリヌクレオチドの発現に影響する構成要素、が挙げられる。そのような構成要素は、マーカー(例えば、ベクターによって送達された核酸を取り込んで発現している細胞の検出または選択に使用しうる検出可能および/または選択可能なマーカー)を含む場合もあり得る。そのような構成要素は、ベクターの本来の特徴(例えば、結合および取り込みを媒介する構成要素または機能性を持つ一定のウイルス性ベクターの使用)として提供されることができ、またはベクターを修飾することでそのような機能性を提供することができる。
【0057】
選択マーカーは、ポジティブ(正)の作用性、ネガティブ(負)の作用性、または二作用性である。ポジティブ選択マーカーは、マーカーを担持する細胞を選択可能とし、一方ネガティブ選択マーカーは、マーカーを担持する細胞を選択的に除去することを可能にする。二作用性(すなわち、ポジティブ/ネガティブ)を含むそのような様々なマーカー遺伝子が記述されている(例えば、Lupton, S., WO 92/08796(1992年5月29日公開); およびLupton, S., WO 94/28143(1994年12月8日公開)を参照すること)。そのようなマーカー遺伝子は、遺伝子治療の状況で有利でありえる付加的な制御の手段を提供することができる。そのようなベクターは多くの種類が公知であり、一般に利用可能である。
【0058】
本発明で用いるベクターとして、ウイルス・ベクター、脂質をベースとしたベクター、および標的細胞に対して本発明におけるヌクレオチドを送達することができる他のベクターが挙げられる。上記ベクターは、標的ベクター、特に標的細胞(例えば、心筋細胞)に優先して結合する標的ベクターである。本発明で使用するための好ましいベクターは、所定の標的細胞に対する毒性が低く、組織または細胞特異的なかたちで治療に有効な量からなるVEGFの産生を誘導するウイルス・ベクターである。
【0059】
現在好ましいウイルス・ベクターは、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来する。ヒトおよび非ヒト・ウイルス・ベクターが使われてはいるが、好ましくは組換え型のウイルス・ベクターはヒトで複製不能である。ベクターがアデノウイルスである場合、好ましくはVEGFをコードしている遺伝子に操作可能な状態で連結されたプロモータを有するポリヌクレオチドを含み、かつヒトで複製不能である。
【0060】
アデノウイルス・ベクターは、本発明での使用にとって好ましい。なぜなら、アデノウイルス・ベクターは(1)標的細胞で効率の高い遺伝子発現をおこなう能力があること、(2)比較的多量の異種(非ウイルス)DNAに対応することができるからである。組換えアデノウイルスの好ましい形態は、「無気力な(gutless)」、「高容量の」、および「ヘルパー依存性の」アデノウイルス・ベクターである。そのようなベクターの特徴は、例えば、(1)ウイルスをコードしているすべてまたはほとんどの配列(ウイルスタンパク質をコードしている配列)の欠失、(2)ウイルスのDNA複製に必要なウイルス逆方向末端反復(ITR)、(3)最大で28〜32kbの「外来性」または「異種」の配列(例えば、SDF-1タンパク質をコードする配列)、および(4)感染性カプシドにウイルス・ゲノムをパッケージングするのに必要であるウイルスDNAパッケージング配列、である。特に心筋細胞に関しては、そのような組換えアデノウイルス・ベクターの好ましい変異体は、組織(例えば心筋細胞)特異的エンハンサを含み、またプロモータがVEGF遺伝子に操作可能な状態で連結されている。
【0061】
AAVをベースとするベクターは、所定の標的細胞に対する高い形質導入効率を示し、部位特異的なかたちで標的ゲノムに統合されることから、有利である。組換えAAVベクターの使用については、Tal, J. , J. Biomed. Sci. 7: 279-291,2000 ならびにMonahan and Samulski, 遺伝子治療 7: 24-30,2000に、詳しく記載されている。好ましいAAVベクターは、VEGF核酸に操作可能な状態で連結された組織(例えば、心筋)または細胞(例えば、心筋細胞)特異的プロモータを含む少なくとも1つのカセットに隣接する一対のAAV逆方向末端反復を含む。ITR、プロモータ、およびVEGF遺伝子を含むAAVベクターのDNA配列は、標的ゲノムに組み込まれることが可能である。
【0062】
本発明にもとづいて使用しうる他のウイルス・ベクターとして、単純ヘルペスウイルス(HSV)をベースとしたベクターが挙げられる。1種類以上の即初期遺伝子(IE)が欠失したHSVベクターが有利である。なぜなら、HSVベクターは一般に無細胞毒性であり、標的細胞での潜伏期に類似した状態を持続し、所定標的細胞の効率的な形質導入をもたらすからである。組換えHSVベクターは、約30kbの異種核酸を組み込むことができる。好ましいHSVベクターは、(1)HSV1型から設計され、(2)IE遺伝子が欠失し、(3)VEGF核酸に操作可能な状態で連結した組織(例えば、心筋)特異的プロモータを含む、HSVベクターである。HSV単位複製配列ベクターも、本発明の種々の方法で有用であると思われる。典型的には、HSV単位複製配列ベクターは長さが約15kbであり、ウイルス複製開始点およびパッケージング配列を有する。
【0063】
レトロウイルス(例えばC型レトロウイルスおよびレンチウイルス)も本発明でも使用可能であると考えられる。例えば、レトロウイルス・ベクターがマウス白血病ウイルス(MLV)に基づくものであってもよい。例えば、Hu and Pathak, Pharmacol. Rev. 52: 493-511, 2000 およびFong et al., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 17: 1-60,2000を参照すること。MLVをベースとするベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに最大で8kbの異種(治療用)DNAを含むことが可能である。異種DNAは、組織特異的プロモータとSDF-1核酸とを含むことが可能である。梗塞を起こした心筋層に対する送達の方法では、それが心筋特異的受容体に対するリガンドをコードすることも可能である。
【0064】
使用する可能性のある追加のレトロウイルス・ベクターは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)をベースとしたベクターを含む複製不能なレンチウイルスをベースとしたベクターである。例えば、Vigna and Naldini, J. Gene Med. 5: 308-316,2000 およびMiyoshi et al., J. Virol. 72: 8150-8157,1998を参照すること。 レンチウイルス・ベクターは、活発に分裂している細胞と分裂していない細胞との両方に感染する能力を有する点で、有利である。また、レンチウイルス・ベクターによって、ヒト上皮細胞も効率高く形質導入される。
【0065】
本発明で用いるレンチウイルス・ベクターは、ヒトおよび非ヒト(SIVを含む)レンチウイルスに由来するものであってもよい。好ましいレンチウイルス・ベクターは、VEGF遺伝子に操作可能な状態で連結した組織特異的プロモータ(例えば、心筋)と同様にベクター増殖のために必要な核酸配列を含む。これらの元のベクターは、ウイルス末端反復配列、プライマー結合部位、ポリプリン配列、att部位、およびキャプシド形成部位を含むものであってもよい。
【0066】
レンチウイルス・ベクターを任意の適当なレンチウイルス・カプシドにパッケージングすることが可能である。一つの粒状タンパク質を、異なるウイルス由来の別のものに置き換えることを、「シュードタイピング(pseudotyping)」という。ベクター・カプシドは、マウス白血病ウイルス(MLV)または水疱性口炎ウイルス(VSV)を含む他のウイルスに由来するウイルスエンベロープ・タンパク質を含むものであってもよい。VSVのGTP結合タンパク質を使用することで、高いベクター力価が得られ、ベクター・ウイルス粒子の安定性がより高くなる。
【0067】
アルファ・ウイルスをベースとするベクター(例えば、セムリキ森林ウイルス(SFV)とシンドビス・ウイルス(SIN)とから作られるベクター)が、本発明でも使用することが可能であると考えられる。アルファ・ウイルスの使用については、Lundstrom, K., Intervirology 43: 247-257,2000 and Perri et al., Journal of Virology 74: 9802-9807,2000に記載されている。アルファウイルス・ベクターは、一般にレプリコンとして知られている形態で構築される。レプリコンは、(1)RNA複製のために必要なアルファ・ウイルス遺伝因子と(2)異種核酸(例えば、VEGF核酸をコードしているもの)とを含むものであってもよい。アルファウィルス・レプリコン内で、異種核酸と組織特異的(例えば、心筋)プロモータまたはエンハンサとを操作可能な状態で連結することが可能である。
【0068】
組換え体複製不能アルファウイルス・ベクターは、有利である。なぜなら、それらは高レベルの異種(治療用)遺伝子発現の能力を有し、また幅広い範囲の所定の標的細胞に感染することができるからである。アルファウイルス・レプリコンは、ビリオン表面に、同族の結合相手を発現する所定の標的細胞に選択的に結する機能的異種リガンドまたは結合ドメインを提示することにより、特定の細胞型(例えば、心筋細胞)を標的とすることが可能である。アルファウイルス・レプリコンは、潜伏期を確立することで、所定の標的細胞において長期にわたる異種核酸発現を確立することが可能である。レプリコンは、標的細胞で一時的な異種核酸発現を示すことも可能である。好ましいアルファウイルス・ベクターまたはレプリコンは、非細胞壊死性である。
【0069】
本発明の方法と互換性を持つウイルス・ベクターの多くにおいて、複数のプロモータをベクターに取り込むことで、該ベクターによって複数の異種遺伝子を発現させられることができる。さらに、ベクターは標的細胞からVEGF遺伝子産物の発現を容易にするシグナル・ペプチドまたは他の部分をコードする配列を含むことができる。
【0070】
2つのウイルス・ベクター系の有利な性質を組合せるために、ハイブリッド・ウイルス・ベクターを用いてVEGF核酸を標的組織(例えば、心筋)へ送達させることが可能である。ハイブリッド・ベクターを構築するための標準的な技術は、当業者に周知である。そのような技術は、例えば、Sambrook, et al., In Molecular Cloning : A laboratory manual. Cold Spring Harbor, N. Y. または組換え体DNA技術について述べている多くの実験マニュアルに見いだすことができる。AAVとアデノウイルスITRとの組合せを含むアデノウイルス・カプシド内の二重鎖AAVゲノムを用いて、細胞に形質導入をおこなうことが可能である。別の変異体では、AAVベクターを「無気力な」、「ヘルパー依存性」、または「高容量」型アデノウイルス・ベクターに入れることが可能である。アデノウイルス/AAVハイブリッド・ベクターは、Lieber et al., J. Virol. 73: 9314- 9324,1999で議論されている。レトロウイルス/アデノウイルス・ハイブリッド・ベクターは、Zheng et al., Nature Biotechnol. 18: 176-186,2000で議論されている。アデノウイルスに含まれるレトロウイルス・ゲノムを、標的細胞ゲノムに組み込んで、安定なVEGF遺伝子発現をもたらすことが可能である。
【0071】
VEGF遺伝子の発現とベクターのクローン化とを容易にする他の核酸配列要素について、さらに考察する。例えば、プロモータの上流にエンハンサが存在すること、またはコード領域の下流にターミネーターが存在することで、発現を促進することができる。
【0072】
本発明は、細胞標的化のために組織特異的プロモータを用いることも検討する。例えば、虚血損傷組織が梗塞を起こした心筋層を含む場合、左室ミオシンL鎖-2(MLC2v)またはミオシン重鎖(MHC)の組織特異的転写制御配列を導入遺伝子(例えばアデノウイルス構築物内のVEGF-165遺伝子)に融合させることができる。導入遺伝子にそのような組織特異的転写制御配列を融合させることによって、導入遺伝子発現を心室性心筋細胞に限定することができる。MLCzvまたはMHCプロモータを使用して、生体内で導入遺伝子を送達することによって、心筋細胞(心臓内での内皮細胞、平滑筋細胞、および繊維芽細胞で付随する発現無し)単独が血管新生タンパク質(例えば血管形成を促進するVEGF-165)の十分な発現を提供すると考えられている。
【0073】
発現を心筋細胞に限定することもまた、うっ血性心不全を処置するための遺伝子移入の有用性に関して、利点がある。発現を心臓に限定することによって、非心臓性の組織での血管形成の潜在的に有害な効果を回避する。加えて、心臓の細胞のうち筋細胞は、急激な代謝回転を受けないことから、最も長い導入遺伝子発現をおこなう可能性がある。それ故に、内皮細胞で起こるように、細胞分裂および細胞死により発現が減少することはないだろう。内皮特異的なプロモータは、この目的のためにすでに利用できる。
【0074】
ウイルス・ベクターをベースとする方法に加えて、非ウイルス性の方法はVEGF遺伝子を所定の標的細胞に導入する際に用いられることが可能である。本発明にもとづく好ましい非ウイルス性遺伝子送達法は、VEGF核酸を細胞に導入するためにプラスミドDNAを使用する。プラスミドをベースとした遺伝子送達方法は、周知である。
【0075】
合成遺伝子導入分子を、プラスミドDNA(たとえば心筋特異的プロモータに操作可能な状態で連結したVEGFコード配列)とともに多分子凝集体が形成されるように、設計することができる。これらの凝集体は、所定の標的細胞(例えば、心筋細胞)と結合するように設計される。
【0076】
陽イオン両親媒性物質(リポ・ポリアミンおよび陽イオン脂質を含む)は、所定の標的細胞(例えば、心筋細胞)への受容体非依存的なVEGF核酸導入を与えるために用いられてもよい。また、事前に形成された陽イオン・リポソームまたは陽イオン脂質をプラスミドDNAと混合して、細胞形質移入複合体を形成することもできる。陽イオン脂質形成を伴う方法は、Felgner et al., Ann. N. Y. Acad. Sci. 772: 126-139,1995 およびLasic and Templeton, Adv. Drug Delivery Rev. 20: 221-266,1996に概説されている。遺伝子送達のために、 DNAは、両親媒性陽イオン・ペプチドに連結することもできる(Fominaya et al., J. Gene Med. 2: 455-464,2000)。
【0077】
ウイルスをベースにした構成要素および非ウイルスをベースとした構成要素の両方を伴う方法を、本発明にもとづいて用いることも可能である。例えば、治療用遺伝子送達のためのエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)をベースとしたプラスミドが、Cui et al., Gene Therapy 8: 1508-1513,2001に記載されている。その上、アデノウイルスに連結するDNA/リガンド/ポリカチオン添加剤を伴う方法が、Curiel, D. T., Nat. Immun. 13: 141-164,1994に記載されている。
【0078】
VEGFの発現をコードするベクターを、必要に応じて医薬的に許容される担体(例えば生理食塩水)を含む注射可能な製剤の形で、標的細胞に送達することができる。他の医薬用担体、製剤形態、および投薬量を本発明にもとづいて用いることもできる。
【0079】
標的細胞が虚血損傷組織の細胞を含む場合、ベクターの送達は、幹細胞分化の効果的刺激を可能にする程度のVEGFの発現に充分な量で、蛍光透視による誘導下、ツベルクリン・シリンジを用いた直接注射によって、おこなわれる。ベクターを直接、虚血損傷組織に注射することによって、むしろ効果的に遺伝子を標的とすることができ、また組換え体ベクターの損失を最小にすることが可能である。
【0080】
この種の注射は、所望の数の細胞(特に梗塞を起こした心筋層の心筋細胞)の局所的形質移入を可能にすることで、遺伝子導入の治療効力を最大にし、またウイルスタンパク質に対する炎症反応の可能性を最小化する。虚血損傷組織は梗塞を起こした心筋層を含む場合、例えば心筋細胞特異的プロモータを用いることで、心筋細胞に限局した発現を安全に可能にする。したがって、このことでの導入遺伝子の送達は、例えば、左心室(LV)の細胞で、標的遺伝子発現を結果として生ずることができる。周知の他の技術を、梗塞を起こした心筋層の標的細胞にベクターを移植するために、用いることもできる。
【0081】
標的細胞が、虚血損傷組織に後で移植される培養細胞である場合、培地に対して直接注射することでベクターを送達することができる。細胞に形質移入されたVEGFをコードする核酸は、組織特異的プロモータとエンハンサを含む任意の適当な調節配列に対して操作可能状態で、連結することができる。続いて形質移入された所定の標的細胞を、周知の移植技術、例えばツベルクリン・シリンジを用いて直接的に冠内注射することで、虚血損傷組織に移植することができる。
【0082】
虚血損傷組織が梗塞を起こした心筋層を含む場合、標的細胞は、好ましくは、処置される被験体から収集されて、生体外で培養される自己由来細胞である。梗塞を起こした心筋層に対して、最初に標的細胞を生体外で形質移入し、続いて形質移入した所定の標的細胞を梗塞を起こした心筋層に対して移植することで、梗塞を起こした心筋層の炎症反応の可能性が最小化され、また左心系性の機能が、梗塞を起こした心筋層にベクターを直接注射する方法と比較して、改良されたことが判明した。この改善がアデノウイルス注射と典型的に関係している炎症反応の欠如から生じると考えられている。
【0083】
本発明のVEGFは、任意の適当な長さの時間にわたって標的細胞内で発現することが可能であり、このような発現には一時的な発現と、安定で長期にわたる発現とが含まれる。好ましい実施形態では、VEGF核酸が適当かつ所定の時間にわたって治療量で発現される。
【0084】
治療量とは、医学的に望ましい結果を、治療をうけている動物またはヒトで得ることができる量である。医学分野で周知のように、任意の一匹の動物または1人のヒトに対する投薬量は、被験体のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の組成物、性、投与の時間および経路、健康状態、および並列して投与される他の薬物等、多くの因子に依存する。タンパク質、核酸、または小分子の特異的な投薬量は、後述する実験的方法を使用している当業者によって容易に決定される。
【0085】
VEGF発現が一時的または長期であるとなかろうと、虚血損傷組織で発現されたVEGFの濃度を制限して、血管腫または血管内皮細胞から派生した血管内腫瘍の形成を予防することが求められる。
【0086】
幹細胞の動員
本発明のもう一つの態様によれば、被験体の虚血損傷組織の末梢血にある幹細胞の濃度は、末梢血への幹細胞の動員を誘導する薬剤を投与することによって増加させることができる。幹細胞は、末梢血で幹細胞濃度を増加させるために、多数の作用因子を用いて被験体の末梢血に動員させることができる。例えば、哺乳類被験体の末梢血で幹細胞数を増加させるために、多能性幹細胞を骨髄から動員させる薬剤を、被験体に投与することができる。そのような作用因子は数多く知られており、例として、サイトカイン、例えば顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球−マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン(IL)-7、IL-3、IL-12、幹細胞因子(SCF)、およびflt-3リガンド;ケモカイン、例えばIL-8、IL-10、Mip-1a、およびGroβ、ならびにサイクロホスアミド(Cy)およびパクリタキセルの化学療法薬が挙げられる。これらの作用因子は、幹細胞動員を達成する時間枠、動員された幹細胞のタイプ、および効率が異なる。
【0087】
動員因子は、被験体に動員因子を直接注射することによって投与される。好ましくは、VEGF発現が虚血損傷組織で上方制御された後、動員因子が投与される。しかし、VEGF発現が上方制御される前に、動員因子を投与することができる。
【0088】
好ましい動員因子は、コロニー刺激因子(例えばG-CSF)である。マウス被験体のG-CSFの典型的投薬量は、約5日ないし約10日間にわたって1日あたり約125μg/kgである。VEGF発現が上方制御された後、G-CSF因子を投与することができる。
【0089】
あるいは、当技術分野で周知であるように、末梢血に特定幹細胞(すなわち、MAPC)を注射することによって、末梢血での幹細胞の濃度を増加させることができる。
【0090】
SDF−1タンパク質
本発明のもう一つの態様によれば、虚血損傷組織で発現されるSDF-1タンパク質(またはSDF-1ポリペプチド)は、SDF-1遺伝子の発現産物である。いくつかの異なる哺乳類(例えば、ヒト、ラット、マウス、およびネコ)のSDF-1タンパク質のアミノ酸配列が知られている。SDF-1タンパク質は、上記した天然の哺乳類SDF-1タンパク質のうちの1つと同一のアミノ酸配列を持つことができる。
【0091】
本発明のSDF-1タンパク質を、哺乳類SDF-1タンパク質の変異体(例えば哺乳類SDF-1遺伝子のフラグメント、アナログ、および誘導体)とすることもできる。そのような変異体として、例えば、天然SDF-1遺伝子(すなわち、天然に生ずる哺乳類SDF-1タンパク質をコードする天然に生ずる核酸)の天然に生ずる対立遺伝子変異体によってコードされるポリペプチド、天然SDF-1遺伝子の選択的スプライス型によってコードされるポリペプチド、天然SDF-1遺伝子のホモログによってコードされるポリペプチド、および天然SDF-1遺伝子の非天然の変異体によってコードされるポリペプチド、が挙げられる。
【0092】
SDF-1タンパク質変異体は、天然SDF-1タンパク質と1つ以上のアミノ酸において異なるペプチド配列を持つ。そのような変異体のペプチド配列は、SDF-1タンパク質の1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、または置換を特徴とすることができる。アミノ酸挿入は、好ましくは約1ないし4個の連続したアミノ酸からなり、欠失は好ましくは約1ないし10個の連続したアミノ酸からなる。変異体DF-1タンパク質は、実質的に天然SDF-1タンパク質機能的作用を維持する。好ましいSDF-1タンパク質変異体は、サイレントまたは保存的変化を特徴とする本発明の範囲内で核酸分子を発現することによって作られる。
【0093】
1種類以上の特定のモチーフおよび/またはドメインにまたは任意のサイズに対応しているSDF-1タンパク質フラグメントは、本発明の範囲内である。SDF-1タンパク質の単離されたペプチジル部分は、そのようなペプチドをコードしている核酸の対応するフラグメントから組換え的に生産されるペプチドをスクリーニングすることによって得られる。また、従来のメリーフィールド固相f-Mocまたはt-Bocケミストリーのような公知技術を使用して、そのようなフラグメントを化学的に合成することができる。例えば、本発明のSDF-1タンパク質は、フラグメントの重なりなしで所望の長さのフラグメントに任意に分けられるか、あるいは好ましくは所望の長さの重なり合うフラグメントに分けることが可能である。フラグメントを組換え的に生産することができ、また試験することで、天然SDF-1タンパク質のアゴニストとして機能することができるそれらのペプチジル・フラグメントを同定することができる。
【0094】
SDF-1タンパク質の変異体は、SDF-1タンパク質の組換え型を含むこともできる。本発明によって好まれる組換えポリペプチドは、SDF-1タンパク質に加えて、哺乳類SDF-1をコードする遺伝子の核酸配列と少なくとも85%の配列同一性を持つことができる核酸によってコードされる。
【0095】
SDF-1タンパク質変異体は、天然SDF-1タンパク質の機能的作用を恒常的に発現するタンパク質のアゴニスト型を含むことができる。他のSDF-1タンパク質変異体は、例えば、プロテアーゼ標的配列を変える突然変異によってタンパク質分解的切断に対して抵抗性を持つものを含むことができる。ペプチドのアミノ酸配列の変化が天然SDF-1タンパク質の1種類以上の機能的作用を持っている変異体に帰着するかどうかは、変異体を天然SDF-1タンパク質機能的作用について試験することによって、容易に決定することができる。
【0096】
SDF−1核酸
本発明のもう一つの態様は、SDF-1タンパク質をコードする核酸分子とSDF-1タンパク質をコードする非天然核酸とに関する。そのような核酸分子が、RNAの形またはDNA(例えば相補DNA、ゲノムDNAと合成DNA)の形をとることができる。DNAは二重鎖または一本鎖でよく、もしも一本鎖である場合はコード(センス)鎖または非コード(アンチセンス)鎖でよい。SDF-1タンパク質をコードするコード配列は、ジェンバンク寄託番号(GenBank Accession No.)AF189724、ジェンバンク寄託番号AF209976、ジェンバンク寄託番号L120029、およびジェンバンク寄託番号NM022177に示される核酸配列と同一であると考えられる。それは、遺伝暗号(遺伝コード)の冗長性または縮退の結果として、そのようなポリヌクレオチドと同じポリペプチドをコードする、異なるコード配列であってもよい。
【0097】
本発明の範囲内で、SDF-1をコードする他の核酸分子は、天然SDF-1の変異体(例えば天然SDF-1タンパク質のフラグメント、アナログ、および誘導体をコードするもの)である。そのような変異体を、例えば、天然SDF-1遺伝子の天然に生ずる対立遺伝子変異体、天然SDF-1遺伝子のホモログ、または天然SDF-1遺伝子の人工的な変異体とすることができる。これらの変異体は、天然SDF-1遺伝子と1つ以上の塩基において異なるヌクレオチド配列とを持つ。例えば、そのような変異体のヌクレオチド配列は、天然SDF-1遺伝子の1つ以上のヌクレオチドの欠失、付加、または置換を特徴とすることができる。核酸挿入は、好ましくは約1ないし10個の連続したヌクレオチドからなり、欠失は好ましくは約1ないし10個の連続したヌクレオチドからなる。
【0098】
他のアプリケーションでは、コードされたポリペプチドに保存的とはいえないほどのヌクレオチド置換を作ることで、実質的な構造変化を示す変異体SDF-1タンパク質を生成することができる。そのようなヌクレオチド置換の例として、(a)ポリペプチド主鎖構造;(b)ポリペプチドの電荷または疎水性;あるいは(c)アミノ酸側鎖の大部分(バルク)、での変化を引き起こすヌクレオチド置換が挙げられる。通常、タンパク質特性で最も大きな変化を生ずると思われるヌクレオチド置換は、コドンで非保存的変化を引き起こす。タンパク質構造の大きな変化が起きる可能性があるコドン変化の実施例は、(a)疎水性残基(例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、またはアラニン)に対して(またはそれによって)、親水性残基(例えば、セリンまたはスレオニン);(b)任意の他の残基に対して(またはそれによって)、システインまたはプロリン;(c)負に帯電した残基(例えば、グルタミンまたはアスパラギン)に対する(またはそれによって)、正に帯電した側鎖を持つ残基(例えば、リジン、アルギニン、またはヒスチジン);あるいは(d)側鎖を持たない残基(例えば、グリシン)に対して(またはそれによって)かさばった側鎖を持つ残基(例えば、フェニルアラニン)の、それぞれ置換を引き起こすものである。
【0099】
本発明の範囲内の天然SDF-1遺伝子の天然に生ずる対立遺伝子変異体は、天然SDF-1遺伝子と少なくとも75%配列同一性を持つ哺乳類組織から単離された核酸であって、天然SDF-1タンパク質に構造類似性があるポリペプチドをコードする。本発明の範囲内の天然SDF-1遺伝子のホモログは、天然の遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を持つ他の種から単離される核酸であって、天然SDF-1タンパク質に構造類似性があるポリペプチドをコードする。公的な、および/または私有の核酸データベースを、天然SDF-1遺伝子に高いパーセント配列同一性(例えば、70%またはそれ以上)を持つ他の核酸分子を同定するために、検索することができる。
【0100】
非自然的に生ずるSDF-1変異体は、自然界で生ずることのない核酸(例えば、ヒトの手によって作られたもの)であり、天然SDF-1遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を持ち、天然SDF-1タンパク質に構造類似性があるポリペプチドをコードする。非自然的に生ずるSDF-1遺伝子変異体の例として、天然SDF-1タンパク質のフラグメントをコードするもの、厳密な条件下で天然SDF-1遺伝子または天然SDF-1遺伝子の相補体にハイブリダイズするもの、天然SDF-1遺伝子または該天然SDF-1遺伝子の相補体と少なくとも65%の配列同一性を共有するもの、さらにSDF-1融合タンパク質をコードするものが挙げられる。
【0101】
本発明の範囲内の天然SDF-1タンパク質のフラグメントをコードする核酸は、天然SDF-1タンパク質のアミノ酸残基をコードする。天然SDF-1タンパク質のフラグメントをコードする核酸またはより短いオリゴヌクレオチドを、プローブ、プライマー、またはアンチセンス分子として、使用することができる。天然SDF-1タンパク質のフラグメントをコードする核酸または該核酸とハイブリダイズする長いポリヌクレオチドもまた、本発明の種々の態様で用いることができる。天然SDF-1のフラグメントをコードする核酸の作製を、完全長の天然SDF-1遺伝子またはその変異体の酵素的消化(例えば、制限酵素を用いて)または化学的分解によって、おこなうことができる。
【0102】
上記の核酸のうちの1つに厳密な条件下でハイブリダイズする核酸を、本発明で用いることもできる。例えば、そのような核酸は、厳密さが低い条件、厳密さが中程度の条件、または厳密さが高い条件の下で、上記の核酸のうちの1つにハイブリダイズすることができ、それらは本発明の範囲内である。
【0103】
SDF-1融合タンパク質をコードしている核酸分子を、本発明で使うことも可能である。そのような核酸は、適当な標的細胞に導入された時にSDF-1融合タンパク質を発現するような構築物(例えば、発現ベクター)を調製することによって作られる。例えばそのような構築物は、適当な発現系での構築物の発現が融合タンパク質を産生するように、SDF-1タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドをもう一つのタンパク質をコードしている第2のポリヌクレオチドとインフレームで連結することによって作られる。
【0104】
本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAもしくはRNA、またはそれらのキメラ混合物、誘導体、または修飾変異体であってもよく、単鎖または二重鎖であってよい。そのようなオリゴヌクレオチドを、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格の部分で修飾することができ、それによって、例えば、分子の安定性やハイブリダイゼーション等を改善する。本発明に包含されるオリゴヌクレオチドは、ペプチド(例えば、生体内で細胞受容体を標的にするため)等の他の付加基、または細胞膜を越える輸送を促進する作用物質を、付加的に含むものであってもよい。このために、オリゴヌクレオチドを、もう一つの分子(例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋因子、輸送因子、またはハイブリダイゼーション誘発切断因子)と結合させることが可能である。
【0105】
SDF−1発現
本発明のもう一つの態様によれば、虚血損傷組織のSDF-1の発現を、虚血損傷組織への導入細胞によって、上方制御することができる。虚血損傷組織への細胞の導入は、虚血損傷組織でのSDF-1タンパク質の発現を上方制御する。例えば、マウス被験体の梗塞を起こした心筋層に移植された骨格筋芽細胞は、梗塞を起こした心筋層への骨格筋芽細胞移植後の約1時間から移植後約7日未満までに、梗塞を起こした心筋層でSDF-1タンパク質の発現を上方制御する。
【0106】
虚血損傷組織に移植することができる細胞の種類は、細胞が移植されることになっている組織で生体適合性を示す任意の細胞である。これらの細胞は、好ましくは処置を受ける被験体から収集されて(すなわち、自己由来細胞)、移植に先だって培養される。自己由来細胞は、移植に際して細胞の生体適合性を増加させて拒絶反応の可能性を最小化するために好ましい。
【0107】
虚血損傷組織が梗塞を起こした心筋層を含む場合、梗塞を起こした心筋層に移植される細胞として、例えば、自己由来細胞、培養骨格筋芽細胞、繊維芽細胞、平滑筋細胞、および骨髄由来細胞が挙げられる。梗塞を起こした心筋層への移植にとって好ましい細胞は、骨格筋芽細胞である。
【0108】
SDF-1タンパク質の発現を上方制御するために虚血損傷組織に導入される細胞は、VEGFを発現するために虚血損傷組織に導入される細胞と同一であるか、または異なる細胞であってよい。VEGFを発現する虚血損傷組織細胞に導入されることでVEGF濃度が上昇する場合、VEGFを発現する細胞は、好ましくは虚血損傷組織でのSDF-1タンパク質発現を上方制御するのに用いられる細胞と同一である。例えば、マウスの梗塞を起こした心筋層に移植された場合にVEGFを発現する移植された骨格筋細胞は、梗塞を起こした心筋層への骨格筋芽細胞の移植後約1時間から移植後約7日未満までに、梗塞を起こした心筋層でSDF-1タンパク質の一時的発現を生ずる。
【0109】
本発明の別の態様において、標的細胞でSDF-1タンパク質の発現を増加させる作用因子を所定の標的細胞に導入することによって、SDF-1タンパク質の発現は上方制御される。標的細胞として、虚血損傷組織内の細胞、または被験体から収集して培養した自己由来細胞といった生体外細胞を挙げることができる。例えば、生体外細胞を、VEGFを発現するために虚血損傷組織に導入される細胞および/またはSDF-1の一時的発現を生ずるために虚血損傷組織に導入される細胞とすることができる。
【0110】
本発明および上記にもとづいて、作用因子は、細胞内への導入および複製をおこなうことが可能な組換え核酸構築物(概してDNA構築物)に組み込まれる天然の核酸または合成された核酸を含むことができる。そのような構築物は、好ましくは、所定の標的細胞内でポリペプチドをコードする配列の転写および翻訳がでる複製系と配列とを有する。
【0111】
標的組織でSDF-1タンパク質レベルを増加させるために、他の作用因子を標的細胞に導入することもできる。例えば、SDF-1タンパク質をコードする遺伝子の転写を増加させる作用因子は、SDF-1タンパク質をコードするmRNAの翻訳を増加させ、および/またはSDF-1タンパク質をコードするmRNAの分解を減少させる作用因子は、SDF-1タンパク質レベルを増加させるために用いることが可能である。細胞内での遺伝子からの転写率を増やすことは、SDF-1タンパク質をコードする遺伝子の上流に外来性のプロモータを導入することによって達成することができる。異種遺伝子の発現を促進するエンハンサを用いることも可能である。
【0112】
作用因子を所定の標的細胞に導入する好ましい方法は、遺伝子治療の使用を伴う。本発明にもとづく遺伝子治療を用いて、生体内または生体外で所定の標的細胞からSDF-1タンパク質を発現することができる。好ましい遺伝子治療方法は、SDF-1をコードするヌクレオチドを含むベクターの使用を伴う。使用することができるベクターの実施例として、ウイルス・ベクター(例えばアデノウイルス(Ad)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、およびレトロウイルス)、リポソーム、ならびに他の脂質含有複合体、さらに所定の標的細胞へのポリヌクレオチドの送達の媒介となることができるその他の高分子複合体が挙げられる。
【0113】
ベクターは、さらに遺伝子送達および/または遺伝子発現を調整する構成要素または機能性、またはさもなければ標的細胞に有益な性質を提供する他の構成要素または機能性を含むこともできる。そういった他の構成要素は、上で記載される。
【0114】
SDF-1タンパク質を発現するためのベクターとして、本発明にもとづくヌクレオチドを標的細胞に送達することができるウイルス・ベクター、脂質ベースのベクター、および他のベクターが挙げられる。ベクターは、標的ベクター、特に優先して特異的な細胞種と結合する標的ベクターであってよい。本発明の好ましいウイルス・ベクターは、低い毒性を標的細胞に示して、組織特異的方法でSDF-1タンパク質の治療的に有用な量の生産を誘導するものである。
【0115】
現在のところ、好ましいウイルス・ベクターは、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)に由来する。ヒトおよび非ヒト・ウイルス・ベクターの両方を使用することができる、しかし、好ましくは、組換え体ウイルス・ベクターはヒトで複製欠損である。ベクターがアデノウイルスである場合、該ベクターは好ましくは、SDF-1タンパク質をコードしている遺伝子にプロモータを操作可能な状態で連結させたポリヌクレオチドを含むとともに、ヒトでは複製欠損である。当技術分野で周知の、上記したウイルスおよび非ウイルス・ベクターを含む他のベクターもまた、用いることができる。
【0116】
本発明の方法と互換性を持つ多くのウイルス・ベクターで、2つ以上のプロモータをベクターが含むことで、複数の異種遺伝子をベクターによって発現させることができる。さらに、ベクターはシグナル・ペプチドまたは標的細胞からSDF-1遺伝子産物の分泌を促進する他の部分をコードする配列を含むことができる。
【0117】
2つのウイルス・ベクター系の有利な特性を組合せるために、ハイブリッド・ウイルス・ベクターを用いて標的組織(例えば、心筋)にSDF-1核酸を送達してもよい。ハイブリッド・ベクターを構築するための標準技術は、当業者に周知である。例えば、プロモータの上流にエンハンサが、または翻訳領域の下流にターミネーターが存在することで、発現を促進することができる。
【0118】
本発明の別の態様によれば、組織特異的または薬物調節可能なプロモータは、SDF-1遺伝子に融合することができる。そのような組織特異的プロモータをアデノウイルス・構築物に融合させることで、導入遺伝子の発現が特定の細胞種に限定されるか(例えば、心室性心筋細胞)、または特定の薬物(例えば、テトラサイクリン)に反応する。遺伝子発現の有効性と組織特異的プロモータとによって提供される特異性の程度を、本発明の組換えアデノウイルス系を用いて判断することができる。
【0119】
虚血損傷組織が梗塞を起こした心筋層である場合、SDF-1遺伝子の生体内送達の際に、心筋細胞にのみに向けられた(すなわち、心臓内の血管内皮細胞、平滑筋細胞、および繊維芽細胞の同時発現無し)組織特異的プロモータの使用は、治療的な処置のためのSDF-1タンパク質の十分な発現が与えられる。発現を心筋細胞に限定することはまた、CHFの治療のための遺伝子導入の有用性に関しても、利点を有する。加えて、心筋細胞は急速な代謝回転を受けないことから、心筋細胞によって最も長い導入遺伝子発現が与えられる可能性があり、従って血管内皮細胞で起こるような細胞分裂および細胞死による発現の減少は起こらないと思われる。
【0120】
ウイルス・ベクターをベースとする方法に加えて、SDF-1遺伝子を所定の標的細胞に導入する際に、ウイルスに基づかない方法を用いることが可能である。本発明にもとづくウイルスに基づかない好ましい遺伝子送達法では、SDF-1核酸を細胞に導入するために、プラスミドDNAが使用される。プラスミド・ベースの遺伝子送達方法は、周知である。
【0121】
ウイルス・ベースおよび非ウイルス・ベースの構成要素の両方を含む方法を、本発明にもとづいて使用することが可能である。例えば、治療的な遺伝子送達のためのエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)をベースとしたプラスミドが、Cui et al., Gene Therapy 8: 1508-1513,2001に記載されている。加えて、アデノウイルスに連結するDNA/リガンド/ポリカチオン添加剤を必要とする方法が、Curiel, D. T. , Nat. Immun. 13: 141-164,1994に記載されている。
【0122】
SDF-1の発現をコードするベクターを、必要に応じて医薬的に許容される担体(例えば生理食塩水)を含む注射可能な製剤の形で、標的細胞に送達することができる。他の医薬用担体、製剤形態、および投薬量を本発明にもとづいて用いることもできる。
【0123】
ベクターの送達は、有効性の高い治療を可能とする程度のSDF-1タンパク質の発現に充分な量で、蛍光透視による誘導下、ツベルクリン・シリンジを用いた直接注射によって、おこなわれる。虚血損傷組織にベクターを直接注射することによって、むしろ効果的に遺伝子を標的とすることができ、組換え体ベクターの損失を最小化することが可能である。この種の注射も、所望の数の細胞の局所的形質移入を可能にすることで、遺伝子導入の治療効力を最大にし、またウイルスタンパク質に対する炎症反応の可能性を最小化する。
【0124】
虚血損傷組織は梗塞を起こした心筋層を含む場合、心筋細胞特異的プロモータを用いて、例えば、心筋細胞に限られている発現を安全に可能にすることが可能である。したがって、例えば、このことでの導入遺伝子の送達は、左心室の細胞で、標的遺伝子発現を結果として生ずることができる。周知の他の技術を、梗塞を起こした心筋層の標的細胞にベクターを移植するために、用いることもできる。
【0125】
標的細胞が、虚血損傷組織に後で移植される培養細胞である場合、培地に対して直接注射することでベクターを送達することができる。細胞に形質移入されるSDF-1をコードする核酸を、心筋特異的プロモータとエンハンサとを含む任意の適当な調節配列に対して操作可能状態で、連結することができる。
【0126】
続いて形質移入された所定の標的細胞を周知の移植技術、例えばツベルクリン・シリンジを用いた直接注射で、虚血損傷組織に移植することができる。インビトロで標的細胞を最初に形質移入し、続いて形質移入された所定の標的細胞を、梗塞を起こした心筋層に移植することより、虚血損傷組織にベクターを直接注射した場合と比較して、梗塞を起こした心筋層の炎症反応の可能性が最小化される。
【0127】
本発明のSDF-1核酸は、任意の適当な長さの時間にわたって標的細胞内で発現することが可能であり、このような発現には一時的な発現と、安定で長期にわたる発現とが含まれる。好ましい実施形態では、SDF-1核酸が適当かつ所定の時間にわたって治療量で発現される。タンパク質、核酸、または小分子の特異的な投薬量を、以下に説明する実験方法を用いて当業者により、決定することができる。
【0128】
SDF-1タンパク質をコードするベクターによる形質移入がなされていない細胞が、梗塞を起こした心筋層に移植される場合と同様に、SDF-1発現は一時的であってもよい。一方、梗塞を起こした心筋層がSDF-1タンパク質コード化ベクターによって形質移入されるか、あるいはSDF-1タンパク質コード化ベクターにより形質移入された細胞が梗塞を起こした心筋層に移植される場合と同様に、SDF-1タンパク質発現が長期であってもよい。
【0129】
長期のSDF-1発現は有利である。その理由は、G-CSFまたは他のいくつかの動員作用因子により、細胞を移植した手術または処置から離れた時点で、幹細胞の濃度の増加を可能とすることである。G-CSFが動員因子である場合、好中球数の著しい増加が起こり、数日または数週間後ではないが、手術の前後の期間では負の効果を生ずる。さらに、長期または慢性的な上方制御SDF-1タンパク質発現は、幹細胞動員で多数の試みを可能にさせると思われる。また、SDF-1タンパク質での慢性的上方制御によって、幹細胞の動員を必要とすることなく、末梢血から虚血損傷組織に対して幹細胞が長期にわたって誘導(ホーミング)される。
【0130】
[実施例]
以下の一連の実施例によって、本発明をさらに例証する。これらの実施例は、例証するために提供されるものであって、いかなる形であれ本発明の範囲または内容を制限するものとして解釈されることはない。
【0131】
第1の一連の実施例
−−MI後の8週間のG-CSFによる幹細胞動員の効果−−
確立された虚心型心筋症のラットでG-CSFによる幹細胞動員が心筋再生を導くかどうか確認するために、MI後8週目のラットに対して、組換えヒトG-CSF(腹腔内注射を介して125μg/kg/日を5日間)または生理食塩水のいずれかをランダムに与えた。骨髄刺激を検査するために、G-CSF療法を開始して5日後に採血したところ、生理食塩水(11.8+4.0細胞/μl)療法と比較して、G-CSF(37.3+5.3細胞/μl)による白血球数が3倍になった。5-ブロモ2'-デオキシウリジン(BrdU)を、心筋内の任意の増殖細胞を標識するためにG-CSF投与後の最終日から初めて全体で14日間にわたって投与した。
【0132】
図1(aおよびb)は、それぞれ、生理食塩水またはG-CSF(LADライゲーション後の12週間)投与4週間後の梗塞領域(a)と短化分画(b)とにおけるBrU陽性細胞の数を示す。細胞数は、1mm2あたりの細胞である。データは、平均値±標準偏差(s.d) n=6〜8/群を表す。
【0133】
LADライゲーション後2ヶ月間のG-CSF投与は、梗塞領域(図1a)内でのBrdU陽性細胞数の増加には至らないか、または梗塞領域(データ不図示)中での血管形成の欠如または心筋ミオシン陽性細胞によって決定される有意な心筋層の再生をもたらすことはなかった。LADライゲーション後12週間、これらの動物は約10%未満(標準>60%)の有意の対照動物での短絡分画による顕著な心筋疾患を示した。LADライゲーション後8週間、G-CSFに応答した著しい心筋再生の組織学的根拠の欠如に合致して、G-CSFによる収縮期機能の有意性のある回復は、見られなかった(図1b)。
【0134】
−−幹細胞動員に先立つSKMB移植の虚血損傷組織に対する効果−−
心筋梗塞時と時間的にかけ離れた心筋層は、幹細胞動員に応じて心筋再生のために最適化されるという仮説を検証するために、骨格筋芽細胞移植をLADライゲーション後8週で実行した。動物に対して、梗塞境界領域内に200,000SKMB/注射を投与した。初期の仮説は、幹細胞誘導(ホーミング)に関与する遺伝子発現に対する戦略として、移植されたSKMBを用いることが可能であるというものであったので、対照として、SKMBに対して、ルシフェラーゼをコードするアデノウイルスを形質移入した。
【0135】
図2(aおよびb)は、細胞移植後4週間(LADライゲーション後12週)での梗塞領域におけるBrdU+細胞数に対する骨格筋芽細胞(SKMB)移植の効果を示す。データは、平均値±標準偏差(s.d)n=6〜8/群を表す。
【0136】
G-CSFが存在しない場合、梗塞性の心臓へのSKMBの導入は、梗塞領域へのBrdU-陽性細胞の取り込みを有意に増加させるものではなかった。しかし、SKMB移植とG-CSFとを組合せることで、4週後の梗塞領域におけるBrdU陽性細胞の著しい増加をもたらした(図2a)。また、G-CSFまたはSKMB移植のいずれか一方のみを受けた動物と比較して、併用療法を受けた動物は、生理的食塩水の対照に比べて短化分画(図2b)において著しい増加を経験した。
【0137】
梗塞領域のBrdU-陽性細胞が骨髄から生じたか、心筋層からの分裂した内生細胞であったかどうか決定するために、LADライゲーション後8週で、SKMBの移植およびG-CSFの開始に先立つ6日前から始めて5日間にわたってBrDUが投与された。
【0138】
図3aは、BrdUで染色された骨髄(BM)が、複数の動物から培養されたBM細胞のほぼ100%染色であることが認められたことを示している。図3bでは、BrdU投与後5日目に未処理の心筋層で、なんら有意なBrdU+細胞は見られないことを示している。データは、各動物(1群あたりn=6〜8)の身元を隠された2人の観測者によって、定量化された陽性細胞の平均値±標準偏差(s.d)を表している。スケール・バーは、25μMを表す。これによって、心筋層になんらかの有意のBrdU標識を行うこと無しに、骨髄内の細胞に対する標識をもたらした(17.5±2.9陽性細胞/mm2)。
【0139】
図3cは、本発明にもとづく治療法で評価される梗塞領域内で増加したBrdU+細胞を示す。
これらの実験において、SKMBとG-CSFを受けたそれらの動物だけは、梗塞領域内でのBrdU陽性細胞数が著しく増加した。これらのデータは、BrdU陽性細胞が骨髄に起因して、併用療法の後で梗塞領域に戻った(ホーミング)という概念と整合している。また、データはSKMB移植が心筋層への幹細胞のホーミングのために必要なシグナルを再確立することもサポートする。
【0140】
−−梗塞組織に誘導される幹細胞にかかわるシグナル伝達分子−−
SKMB移植によって組織の「刺激」によるMIの8週間後に循環細胞が梗塞組織に移植されるという観察は、幹細胞誘導(ホーミング)の潜在的な媒介因子の評価を促した。間質細胞由来因子1(SDF-1)が骨髄における造血性輸送および幹細胞誘導を媒介し、骨髄で帰っている造血輸送と幹細胞の媒介となることが知られている。したがって、MIでの幹細胞移植およびSKMB移植に応じる潜在的シグナル分子としてのその役割が評価された。
【0141】
図4は、心筋梗塞後での時間の関数として間質細胞由来因子1(SDF-1)発現を現しているRT-PCRを示している写真である。基線ではSDF-1発現がなく、MIの後で1ないし24時間目で増加した。SDF-1発現は、MI後24時間ないし7日間の間にその存在が認められない状態に戻り、MI後30日、存在しないままである。SDF-1発現は、MI後30日(30+)で実行されるSKMB移植の72時間後に繰り返される。
【0142】
したがって、RT-PCRによって、SDF-1発現が1ないし24時間観察されたが、LADライゲーション後、0、7または30日では認められなかった。SDF-1発現はSKMBによって誘発されて、移植の72時間後に観察されたが、偽の手術を施された動物では観察されなかった(データ示さず)。同じ試料のGAPDHのためのPCRは、相補DNAが全ての試料で完全なことを証明した(データ示さず)。SKMB移植に応じてのSDF-1発現の増加は、リアルタイムPCR(データ示さず)によって確認された。リアルタイムPCRは、GAPDHレベルが群間で同程度のことを明らかにした。
【0143】
SDF-1が梗塞領域へのBrdU陽性細胞の移植の媒介となったかどうか評価するために、対照心臓繊維芽細胞またはSDF-1発現ベクターによって安定して形質移入された心臓繊維芽細胞がLADライゲーションの後4週目に心筋層に移植された。10日後、内生SDF-1の遺伝子発現の下方制御を可能とするために、G-SCF投与の最終日に開始して、G-CSFを5日間投与し、同様にBrdUを5日間投与した。
【0144】
図5(aおよびb)は、心臓繊維芽細胞移植後5日間にわたるG-CSF投与の存在下または非存在下でSDF-1発現ベクターの存在または非存在下で安定して形質移入された心臓繊維芽細胞の移植後4週間、梗塞領域内の(a)BrdU+細胞および(b)CD117+細胞の数を示すものである。データは、各動物の身元を隠された2人の観測者によって、定量化された陽性細胞の平均値±標準偏差(s.d)を表している。1群あたりn=3〜5。
【0145】
図5cは、SDF-1/G-CSF処理してCD117+で染色した動物の写真である。スケール・バーは、25μMを示す。
【0146】
SDF-1がG-CSFに応答して傷ついた心筋層に誘導される幹細胞を誘発するのに十分であることと整合して、心臓繊維芽細胞を発現するSDF-1が移植された心臓は、梗塞領域全体に及ぶBrdU-陽性細胞の数の3倍を超える増加があることを明らかにした。対照心臓繊維芽細胞を受けた動物は、対照との違いがないBrdUシグナルを示した。
【0147】
−−BrdU陽性細胞の同定−−
我々は、梗塞領域の中でBrdU細胞のアイデンティティを決定するために、免疫蛍光法を実行した。CD45の抗体染色は、細胞移植およびG-CSF投与に応答して、BrdU陽性細胞の5%未満が白血球であることをそれぞれ示している。心臓ミオシンBrdU陽性細胞は、SKMB存在下または非存在下でG-CSFにより処理、または心臓繊維芽細胞移植によって処理された動物の梗塞領域で観察されなかった。
【0148】
−−MIに続く心血管新生およびLV機能遅延に対するVEGF発現SKMBおよびG-CSFの効果−−
SKMB移植およびG-CSFによる骨髄刺激の組合せを受け取った動物でのBrdU-陽性細胞の増加数にもかかわらず、梗塞領域にある血管密度の増加または心筋細胞数の増加は、観察されなかった。したがって、我々はSKMB移植およびG-CSF投与へのVEGF過剰発現の付加的効果を検討した。
【0149】
図6(aおよびb)は、(a)SKMBまたは(b)VEGF発現SKMBの細胞移植によるLADライゲーションとそれに続くG-CSFを用いた幹細胞の動員後、12週目に、梗塞領域の免疫組織化学がBrdU+細胞(白抜き矢印)と心筋ミオシン発現細胞(ベタ矢印)との両方を明らかにしたことを示す。
【0150】
図6cは、非処置対照に対比してLV機能の改善を示す。データは、平均値±標準偏差(s.d) n=6〜8/群を表す。スケール・バーは10μMを表す。
【0151】
VEGF165発現SKMBの移植は、MI後8週目におこなわれ、生理食塩水対照と比較した梗塞領域での血管密度の増加をもたらした(それぞれ44.1± 5.2対17.7±2.8血管/mm2;VEGF-165 対 生理食塩水)。さらにまた、VEGF-165の発現とG-CSFによる幹細胞動員の組合せは、心筋再生と整合した、心臓ミオシン発現細胞による梗塞領域の再増殖を導いた(図6a)。短化分画で測定されるように、VEGF-165発現のSKMBへの追加は有意にLV機能も増加させた(図6b)。VEGF-165発現SKMBの移植と、G-CSFの投与と組み合わせたSKMB移植という、処置戦略の間の短化分画での有意差は認められなかった(データ示さず)。
【0152】
[方 法]
−−LADライゲーション−−
全ての動物のプロトコルは、動物研究委員会の承認を得て、全ての動物をクリーブランド・クリニック財団のAAALAC動物施設に収容した。動物をペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)で麻酔し、挿管し、圧力循環された齧歯動物換気装置(ケント・サイエンティフィック社、RSP1002)を使用して、1分につき80の呼吸で、大気で通気した。前壁MIの誘発は、外科用顕微鏡(ライカM500)を用いて、左前下行枝(LAD)動脈のライゲーションによって、ルイス・ラット(150-175gのオス)でおこなった。
【0153】
−−二次元超音波心臓検査−−
二次元超音波心臓検査は、LADライゲーション後、5〜7日、および8週目、またSKMB移植後4週目に、セコイア(Sequoia)C256(アキューソン(Acuson))を入出力として15MHzの一次元配列トランスデューサーを用いておこなった。ラットを、各々の心エコー図のためにケタミン(50mg/kg)で、軽く鎮静させた。LV寸法と肉厚の定量化のために、我々は異なるラットで同じ解剖学的位置から一貫した測定ができるよう、乳頭筋の直下で、中央LVから短軸表示でデジタル的に二次元クリップとm-モード画像とを記録した。測定は、オフラインでプロソルブ(ProSolve)を使用し、目隠しした2人の観察者を別々にしておこなった。各々の動物に対して各々の測定を6回繰り返し、無作為に選択された3つから、mモードが、処置腕に対して目隠しされた観察者によって記録された5つを切り取る。LV機能の測定として、短化分画をM-Mode記録から算出した。短化分画(%)=(LVEDD-LVESD)/LVEDD*100、式中、LVEDDは左室拡張末期径、LVESDは左室収縮末期径である。寸法は、乳頭筋の直下のレベルで、短軸表示から前壁と後壁との間で測定された。加えて、前壁肉厚は、拡張終期で測定された。
【0154】
−−細胞調製ならびに細胞およびウイルス送達−−
骨格筋芽細胞を数匹のルイス・ラット(ハーラン・ラボ)の後脚から収集し、175ml培養瓶(ファルコン)で平板培養し、10%のウシ胎仔血清、300mg/lの ECGS、ならびに抗生物質であるペニシリン、ストレプトマイシンおよびオフロキサシンを含むDMEM中で増殖させた。一旦75%の集密が達成されると、分化を回避するために細胞の継代をおこなった。細胞移植より前の日に、精製された筋芽細胞は、サイトメガロウイルス・プロモータの制御下のVEGF-165またはルシフェラーゼ(対照)を発現している複製欠損のアデノウイルスによって108pfu/mlで形質移入された。移植当日に、筋芽細胞をトリプシンで収集し、遊離しているウイルス粒子のすべてを除去するためしっかりとPBSで洗浄し、移植直前に再構成された。つぎに、動物を麻酔し、通気し、梗塞領域を直接視覚化するために、側方胸壁切開を施した。約1x106細胞が一匹の動物あたり、5カ所に注射された。
【0155】
心臓繊維芽細胞を、数匹の成体ラット心臓から収集して、SKMBと同様に平板培養した。心筋梗塞の24時間後に心臓から取り出された全RNAからSDF-1を、発現ベクターPCDNA3.1にクローニングした(順方向-(NOT-1)-AATAAGAAATGCGGCCGCATGGACGCCAAGGTCGTCGCTGTGCTGGCC;逆方向-(Xba-1)-TCTAGACTTGTTTAAGGCTTTGTCCAGGTACTCTTGGA。SDF-1 PCDNA3.1発現ベクターで安定に形質移入された心臓繊維芽細胞は、ネオマイシンで選択された。
【0156】
−−幹細胞動員−−
組換え体ヒトG-CSF(125ug/kg)の投与は、骨格筋芽細胞移植日から開始して5日間、腹膜内(i. p.)注射によっておこなった。完全血球算定と差分データ(バイエル、ADVIA)は、移植後の第0日、5日、14日、および21日目に得られた。細胞増殖の累積的な範囲を測定するために、第5日目から開始して14日間、50mg/kgのBrdUを腹膜内(i. p.)注射し、G-CSFによって誘発されるいかなる増殖性幹細胞のBrdU標識をも可能にした。
【0157】
−−組織学的分析−−
細胞移植をおこなった4週間にラットを安楽死させて該ラットの心臓を収集して、ヒスト・チョイス (Amresco Inc., Solon, OH)による潅流固定法の後にLV長軸に対して垂直な3つの等分画に区分した。中央心室および先端部分をパラフィンに包埋し、いくつかの6μm厚切片は免疫組織化学のために利用された。心筋ミオシン(ケミコン)、CD45(ケミコン)、Factor VIll(ケミコン)、CD117(サンタクルス・バイオテクノロジー)、およびBrdU(ベクター・ラボ)に対するモノクローナル抗体を利用した。FITCまたはビオチンによる標識をつけた二次抗体が、使われた。定量化のために、梗塞領域内の5つの切片は、陽性細胞および血管密度ついて分析した。BrdU抗原提示についての我々のプロトコルのHCI処置が3つの異なるCD117抗体が認識する核抗原決定基の発現に帰着したので、我々はCD117とBrdUとの二重標識を実行することができなかった。
【0158】
−−PCR分析−−
RT-PCR分析は、時間の関数としてLADライゲーション後およびSKMB移植後に、ラット心臓から単離された全RNAに対しておこなった。全RNAを、グアニジン・イソチオシアネート-セシウム・クロライド法によって、組織から抽出した。ラットSDF-1に対して特異的なプライマー(順方:TTGCCAGCACAAAGACACTCC;逆方向:CTCCAAAGCAAACCGAA TACAG、予想される産物243塩基対、40サイクル)を用い、GAPDH(順方向:CCCCTGGCCAAGGTCATCCA;逆方向:CGGAAGGCCATGCCAGTGAG、予想される産物238塩基対、20サイクル)。リアルタイムPCR(パーキン・エルマー、ABIプリズム7700)を用いて、PCR産物SDF-1(順方向:ATGCCCCTGCCGATTCTTTG; 逆方向:TGTTGTTGCTTTTCAGCCTTGC(予想される産物116塩基対))および上記のGAPDHへのSYBR-グリーンの取り込みを用いて、梗塞および移植心臓内での発現増加を確認した。
【0159】
−−アデノウイルス構築物−−
VEGF-165をコードするアデノウイルス構築物は、ゲン・ベック社(Gen Vec(Inc)(Gaithersburg博士))から寛容にいただいた。手短に言うと、293細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC CRL. 1573)から入手し、10%のウシ血清を加えたダルベッコの改質イーグル培地(DMEM)で維持した。E1-およびE3-アデノウイルス・ベクターAdVEGF-165は、左端逆転末端反復(ITR)に隣接したユニーク制限部位でシャトルベクター・プラスミドを直線化することによって得られ、Clal消化されたH5dl324 DNAと同時に293細胞に形質移入させた。2度の連続したプラーク精製の後、ベクター・ストックを293細胞上で増殖させ、塩化セシウム勾配上で3度の連続したバンド形成を通して精製した。精製ウイルスを、10mMのTris、pH 7.8、150mMのNaCl、10mMのMgC12、および3%のスクロースを含む緩衝液に対して透析し、使用まで−80℃で保存した。導入遺伝子発現は、サイトメガロウイルス最初期プロモータの制御下にある。
【0160】
−−統計的解析−−
データは、平均値±標準誤差(SEM)として示される。群の間の比較は、Student t検定によってなされた。
【0161】
第2の一連の実施例
−−左心室機能に対する骨格筋芽細胞移植の効果−−
血管密度とLV機能へのSKMB自家移植の効果は、SKMB発現VEGF-165が梗塞領域の有意な新血管新生と左心室機能の改良に導いたかどうか決定するために検討された。
【0162】
LADライゲーションによって誘発される心筋梗塞後8週で、周囲梗塞領域に対して、100万SKMB(n=6)または生理食塩水(n=7)のいずれかを均等に5回に分けて注射した。4週後に、LV機能を心エコー図によって短化分画として定量化し、心臓を収集した。脈管構造を第VIII因子免疫組織化学によって同定し、血管密度を梗塞領域の全体を通じて定量化した。
【0163】
図7(aおよびb)は、この実験から得たデータをグラフ表示したものである。データは、平均値±標準偏差(s.d.)を表す。*P < 0.01.
【0164】
データは、LADライゲーションによって誘発される心筋梗塞の8週間後に周囲梗塞領域へのSKMBの移植が梗塞領域の新血管新生を結果として生じなかったことを示している(7a)。しかし、SKMB移植の結果として、、LV機能の、僅かではあるが(〜20%)統計学的に有意の増加が、乳頭筋のレベルでの短化分画として測定された(6.8±1.0% 対8.1±1. 1%, P < 0.01) (7b)。
【0165】
−−細胞をベースとしたおよび直接的なアデノウイルスVEGF送達に応じた新血管新生−−
直接的なウイルス注射間の血管新生反応を、ウイルスによる形質移入がおこなわれたSKMBの移植と比較した。各々の事例(LADライゲーションによって誘発される心筋梗塞8週後)で周囲梗塞領域に対して、1x107 pfuのAdVEGF-165 (n=4)、もしくは、AdLuc(n=3)またはAdVEGF-165(n=6)で形質移入された100万のSKMBのいずれかを均等に5回に分けて注射した。脈管構造は第VIII因子免疫組織化学によって同定され、血管密度の定量は、乳頭筋のレベル以下でちょうど得られる組織切片の染色された第VIII因子染色血管を計数することによっておこなった。
【0166】
図8は、VEGF-165を発現する細胞の移植による血管密度と比較して、直接アデノウイルス注射による梗塞領域内の血管密度を表す。データは、平均値±標準偏差(s.d.)を表す。 *P < 0. 05。
【0167】
血管密度の著しい増加は、VEGF-165のアデノウイルス注射またはVEGF-165発現SKMBによる細胞移植のいずれかを受けた動物で観察された。血管腫形成について、いずれの処置戦略によっても著しい肉眼的または組織学的所見がなかった。直接ウイルス注射と比較して、細胞移植で治療された動物の血管密度の有意により大きな増加も観察された。
【0168】
図9(a〜f)は、AdLUCで形質移入された100万SKMB(A、D)、1x107pfu AdVEGF-165(B、E)、またはAdVEGF-165で形質移入された100万SKMB(C、F)を周囲梗塞領域に均等に5回に分けて注射した4週後の、梗塞領域の代表的な切片の写真である。(A-C) H & E 染色および (D-F) 第VIII因子の免疫組織学的化学。
【0169】
図9(a〜f)の中の写真は、SKMB移植後の梗塞領域が比較的に無血管性であることを示す(図9(aおよびd))。増加した血管密度の発現のいずれのモダリティー結果にもよるVEGF-165治療後の新血管新生は、毛細管と小さい細動脈の数の増加によって特徴づけられた(図9(b、c、e、およびf))。
【0170】
図10(aおよびb)は、 (a) 1x107 pfu AdVEGF-165または(b)1x107 pfu AdVEGF-165 で形質移入された100万SKMBを等しく5回に分けて注射した4週後の、周囲梗塞領域の代表的なH&E染色片を表す。
【0171】
処置4週後、アデノウイルスを注射された動物の周囲梗塞領域は、一貫して炎症性浸潤(図10a)であることが示された。このような炎症は、VEGF-165発現SKMBによる移植を受けたいずれの動物でも認められなかった(図10b)。
【0172】
−−改良された左心室機能をもたらすVEGFの細胞をベースとする送達−−
直接的なウイルス注射または細胞をベースとするVEGF-165の発現が、改良されたLV機能を導くかどうか決定するために、心筋梗塞8週後、生理食塩水、1x107pfuのAdVEGF-165(n=4)、AdLuc(n=3)またはAdVEGF-165(n=6)で形質移入された100万のSKMBのいずれかを周囲梗塞領域に均等に5回に分けて注射した。LV機能を、心エコー図によって4週後に定量化した。
【0173】
図11(aおよびb)は、(A)短化分画(%)または(B)生理食塩水対照との対比として表したLV機能を表す。データは、平均値±標準偏差(s.d.)を現す。 *P<0.01。
【0174】
本研究のために使用されるLADライゲーション・モデルは、短化分画で著しい減少をもたらした。VEGF-165をコードするアデノウイルスの直接注射をで受けた心臓と比較して、VEGF-165を発現する細胞による移植を受けた心臓で、LV機能の著しい増加が認められた(図11a)。さらにまた、VEGF-165発現SKMBの移植で見られるLV機能の改善は、SKMB単独の移植で見られるより、有意に大きいかった(図11b)。VEGF-165コード化アデノウイルスの直接注射による血管密度の著しい増加にもかかわらず、生理食塩水注射単独と比較したLV機能の改善は、この処置戦略では認められなかった(図11b)。
【0175】
これらの第2シリーズの実験からのデータは、アデノウイルスおよび細胞をベースとするVEGF-165送達の両方が梗塞領域内で新血管新生(それぞれのSKMB単独と比較した血管密度の増加が50±7%および145±29%である)を誘発することを証明する。細胞をベースとするVEGF-165送達では、たとえSKMB送達単独(19.1±10.7%)と比較しても、心機能の顕著な増加が得られたが、アデノウイルスによる送達ではそうではなかった(生理的食塩水からなる対照と比較して短化分画でそれぞれ69.1±8.2%および1.5±5.8%の増加)。これらの第2シリーズの実験からのデータは、さらにVEGFの細胞をベースとする送達が直接的なアデノウイルス注射よりも改善された処置効果を導くことを証明しており、SKMB移植を考慮するとき、すでに発達したアデノウイルス・ベクターが補助的療法として潜在的に使われることができたことを示唆する。
【0176】
これらのアプローチの両方ともVEGFの局所一時的発現をもたらし、本研究の全ての動物はVEGFコード化アデノウイルスを1x107pfu用いることで最終的に治療された。
【0177】
著しい新血管新生が、両方のVEGF送達戦略で梗塞領域の全体を通じて見られ、左心室機能のわずかな増加は、SKMB単独で治療した動物に観察された。VEGF-165発現SKMBの移植は、有意により大きな血管密度の増加と、短化分画によって定量化されたLV機能の〜70%増加をもたらした。一方では、アデノウイルス・コード化VEGF-165の注射により、梗塞領域の範囲内の血管密度が増加したにもかかわらず、この治療は、LV機能の改善をもたらすことはなかった。
【0178】
並列的にSKMBとVEGFとを使用することで観察されるLV機能の相乗的な改善のための潜在的機構は、骨髄からの血液幹細胞(HSC)放出を誘導するVEGFの能力に関するものであると考えられる。血管内皮増殖因子(VEGF)投与は、マウスでCD34+造血性幹細胞を動員することが示され、新血管新生の増強をもたらした。両方の送達戦略がHSC放出に類似している可能性がある。しかし、アデノウイルス注射に典型的に伴う(そしてVEGF-165発現SKMBの移植には伴わない)炎症反応がない場合、心筋層に入るHSCは、心臓筋細胞に分化する可能性が高い。
【0179】
[方 法]
−−LADライゲーション−−
全ての動物のプロトコルは、動物研究委員会の承認を得て、全ての動物をクリーブランド・クリニック財団のAAALAC動物施設に収容した。動物をペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)で麻酔し、挿管し、圧力循環された齧歯動物換気装置(ケント・サイエンティフィック社、RSP1002)を使用して、1分につき80の呼吸で、大気で通気した。前壁MIの誘発は、外科用顕微鏡(ライカM500)を用いて、左前下行枝(LAD)動脈のライゲーションによって、ルイス・ラット(150-175gのオス)でおこなった。
【0180】
−−二次元超音波心臓検査−−
二次元超音波心臓検査は、LADライゲーション後、5〜7日、および8週目、またSKMB移植後、4週目に、またセコイア(Sequoia)C256(アキューソン(Acuson))を入出力として15MHzの一次元配列トランスデューサーを用いておこなった。ラットを、各々の心エコー図のためにケタミン(50mg/kg)で、軽く鎮静させた。LV寸法と肉厚の定量化のために、我々は異なるラットで同じ解剖学的位置から一貫した測定ができるよう、乳頭筋の直下で、中央LVから短軸表示でデジタル的に二次元クリップとm-モード画像とを記録した。測定は、オフラインでプロソルブ(ProSolve)を使用し、目隠しした2人の観察者を別々にしておこなった。各々の動物に対して各々の測定を6回繰り返し、無作為に選択された3つから、mモードが、処置腕に対して目隠しされた観察者によって記録された5つを切り取る。LV機能の測定として、短化分画をM-Mode記録から算出した。短化分画(%)=(LVEDD-LVESD)/LVEDD*100、式中、LVEDDは左室拡張末期径、LVESDは左室収縮末期径である。乳頭筋の直下のレベルで、短軸表示から前壁と後壁との間で寸法が測定された。加えて、前壁肉厚は、拡張終期で測定された。
【0181】
−−細胞調製ならびに細胞およびウイルス送達−−
骨格筋芽細胞を数匹のルイス・ラット(ハーラン・ラボ)の後脚から収集し、175ml培養瓶(ファルコン)で平板培養し、10%のウシ胎仔血清、300mg/i ECGS、ならびに抗生物質であるペニシリン、ストレプトマイシンおよびオフロキサシンを含むDMEM中で増殖させた。一旦75%の集密が達成されると、分化を回避するために細胞の継代をおこなった。
【0182】
細胞移植前日に、精製された筋芽細胞を、CMVプロモータによる制御下でVEGF-165またはルシフェラーゼ(対照)を発現する1x107 pfu/mlの複製欠損、E1、E3欠失アデノウイルスで形質移入した。移植当日に、筋芽細胞をトリプシンで収集し、いっさいの遊離ウイルス粒子を除去するためにしっかりとPBSで洗浄して、移植直前に再構成した。つぎに、動物を麻酔し、通気し、梗塞領域を直接視覚化するために、側方胸壁切開を施した。約1x106細胞が一匹の動物あたり、5カ所に注射された。同様に、周囲梗塞への直接的なウイルス注射は、5回に分けて各々0.2x107pfu注射することによって達成した。各々の注射のボリュームは、100μlであった。全ての実験では、周囲梗塞領域の左側の境界に沿って注射を2回、右側の境界に沿って2回おこなった。周囲梗塞領域のLV頂点で5回目の注射がおこなわれた。
【0183】
−−アデノウイルス構築物−−
VEGF-165をコードするアデノウイルス構築物は、ゲン・ベック社(Gen Vec(Inc)(Gaithersburg医学博士))から寛容にもいただいた。手短に言うと、293細胞をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC CRL. 1573)から入手し、10%のウシ血清を加えたダルベッコの改質イーグル培地(DMEM)で維持した。E1-およびE3-欠失アデノウイルス・ベクターAdVEGF-165は、左端逆転末端反復(ITR)に隣接したユニーク制限部位でシャトルベクター・プラスミドを直線化することによって得られ、Clal消化されたH5dl324 DNAと同時に293細胞に形質移入させた。2度の連続したプラーク精製の後、ベクター・ストックを293細胞上で増殖させ、塩化セシウム勾配上で3度の連続したバンド形成を通して精製した。精製ウイルスを、10mMのTris、pH 7.8、150mMのNaCl、10mMのMgC12、および3%のスクロースを含む緩衝液に対して透析し、使用まで−80℃で保存した。導入遺伝子発現は、サイトメガロウイルス最初期プロモータの制御下にある。
【0184】
−−組織学的分析−−
細胞移植の4週間後に、ラットを安楽死させて該ラットの心臓を収集して、ヒスト・チョイス (Amresco Inc., Solon, OH)による潅流固定法の後に、LV長軸に対して垂直な3つの等分画に区分した。中央心室の部分をパラフィンに包埋し、乳頭筋の直下で6μm厚の切片を分析のために得た。切片を、組織学分析のためにヘモトキシリンおよびエオシンで染色した。血管識別を助けるために、切片を第VIII因子(サンタクルス・バイオテクノロジー)に対する抗体およびHRP標識ヤギ抗マウス二次抗体を用いて染色した。これらの切片を、ヘマトキシリンで対比染色した。血管は、各々の動物の身元を隠された熟練した観察者によって、各々の動物の梗塞領域の全体を通じて計数された。
【0185】
−−統計分析−−
データは、平均値±標準偏差(s.d.)で表した。群間の比較は、Student t−検定によっておこなった。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】図1(aおよびb)は、生理的食塩水またはG-CSFを投与して4週間後(LADライゲーション後12週間)に梗塞領域(a)および短化分画(b)内でのBrdU陽性細胞の数をそれぞれ示すグラフである。
【図2】図2(aおよびb)は、細胞移植4週間後(LADライゲーション後12週間)の梗塞領域内でのBrdU+細胞計数に対する骨格筋芽細胞(SKMB)移植の効果を示すグラフである。
【図3】図3(aおよびb)は、BrdU投与5日後の(a)BrdU染色された骨髄と(b)未処理の心筋層とを示す写真である。図3cは、本発明にもとづく治療によって評価される梗塞領域内で増加したBrdU+細胞を示すグラフである。
【図4】図4は、心筋梗塞後の時間の関数としての間質由来因子(SDF-1)発現を示すRT−PCRの写真である。
【図5】図5(aおよびb)は、心臓繊維芽細胞移植後5日間にわたるG-CSF投与の存在下または非存在下で、SDF-1発現ベクターの存在または非存在下で安定的に形質移入された心臓繊維芽細胞を移植した4週間後における、梗塞領域内の(a)BrdU+細胞および(b)CD117+細胞の数を示すグラフである。 図5cは、SDF-1/G-CSF処理動物のCD117+染色の写真である。
【図6】図6(aおよびb)は、G-CSFを用いた細胞動員に続く(a)SKMBまたは(b)VEGF発現SKMBの細胞移植によるLADライゲーション2週間後のBrU+細胞と心臓ミオシン発現細胞とを現す梗塞領域の免疫組織化学を示す写真である。図6cは、VEGF過剰発現なしで左心室機能関連細胞療法の改善を示しているグラフである。
【図7】図7(aおよびb)は、SKMB移植の前後に血管密度(a)と左心室機能(b)とを比較しているグラフである。
【図8】図8は、直接的なアデノウイルス注射とVEGF-165を発現する細胞の移植との後で血管密度を比較しているグラフである。
【図9】図9(a〜f)は、周囲梗塞領域へ、AdLUC(a、d)、lx107 pfuのAdVEGF-165(b、e)、AdVEGF-165で形質移入された100万SKMB(c、f)、を均等に5回に分けて注射した4週間後の、梗塞領域の代表的セクションを示す写真である。
【図10】図10(aおよびb)は、均等に5回に分けて注射した(a) 1 pfu AdVEGF-165 および(b) lx107 pfu AdVEGF-165によって形質移入された100万SKMBの注射4週間後に、周囲梗塞領域での炎症性浸潤を示す写真である。
【図11】図11(aおよびb)は、(a)短化分画(%)および(b)生理的食塩水対照との対比として表される、左心室(LV)機能に対するVEGF-165発現SKMBの移植の効果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血損傷組織の幹細胞分化を刺激する方法であって、
前記虚血損傷組織は、第1の濃度の幹細胞と第1の濃度のVEGFとを含み、前記方法は、
前記第1の濃度から第2の濃度へ前記虚血損傷組織内のVEGF濃度を増加させるステップと、
前記第1の濃度から第2の濃度へ前記虚血損傷組織内の幹細胞の濃度を増加させるステップとを有し、前記虚血損傷組織内の前記VEGFの濃度が高くなる間に、前記幹細胞の濃度が高くなることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記幹細胞の濃度を増加させるステップが、前記幹細胞を骨髄から前記虚血損傷組織の末梢血へ動員する作用因子の投与を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記幹細胞を骨髄から前記虚血損傷組織の末梢血へ動員する作用因子が、サイトカイン、ケモカイン、および化学療法薬からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記作用因子がG-CSFを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
幹細胞数を増加させるステップが、幹細胞を末梢血に注射することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
VEGFの濃度を増加させるステップが、細胞に影響を及ぼして虚血損傷組織でVEGFを発現させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞が、遺伝子治療を用いてVEGF発現に影響を及ぼされる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、生体外で培養され、虚血損傷組織に導入された細胞を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、培養する前に、処置を受ける被験体から収集された自己由来細胞を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、虚血損傷組織の細胞を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
虚血損傷組織は、第1の濃度のSDF-1を含み、さらに、
虚血損傷組織中のVEGFの濃度が増加する間、第2の濃度に虚血損傷組織中のSDF-1濃度を第1の濃度から増やすステップを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
虚血損傷組織中のSDF-1濃度は、SDF-1を発現するために虚血損傷組織で細胞に影響を及ぼすことによって増加する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細胞は、発現ベクターを細胞に導入することによってSDF-1を発現するために影響を受け、前記発現ベクターがSDF-1をコードする核酸を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、生体外で培養され、虚血損傷組織に導入された細胞を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、培養する前に、処置を受ける被験体から収集された自己由来細胞を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、前記虚血損傷組織の自生細胞を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項17】
梗塞を起こした心筋層で幹細胞の分化を刺激する方法であって、
前記梗塞を起こした心筋層に、前記梗塞を起こした心筋層内でVEGFを発現するために影響を受けた細胞を導入するステップと、
前記幹細胞を骨髄から前記梗塞を起こした心筋層の末梢血に動員する作用因子を投与し、前記VEGFが前記梗塞を起こした心筋層で発現される間、前記骨髄から前記末梢血へ前記幹細胞が動員されるステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項18】
骨髄から虚血損傷組織の末梢血への幹細胞の動員を引き起こす作用因子は、サイトカイン、ケモカイン、および化学療法薬からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記作用因子がG-CSFを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が、VEGF発現のために遺伝子治療を用いて影響を及ぼされる、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
VEGFを発現するために影響を及ぼされる前記細胞が、発現ベクターによる形質移入を受け、前記発現ベクターはVEGFをコードする核酸を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
VEGFを発現するために前記細胞に影響を及ぼす前に、生体外で細胞を培養するステップを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、培養に先だって、処置を受ける被験体から収集された自己由来細胞を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記梗塞を起こした心筋層は、第1の濃度のVEGFを含み、VEGFを発現するために影響を受ける前記細胞は、第1の濃度から第2の濃度へ、虚血損傷組織でVEGFの濃度を高める、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記梗塞を起こした心筋層内のVEGFを発現するために影響を受ける前記細胞が、前記虚血損傷組織でSDF-1を発現するためにさらに影響を受ける、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が、発現ベクターを生体外で前記細胞に導入されることで、SDF-1を発現するために影響を受けており、前記発現ベクターがSDF-1をコードする核酸を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
梗塞を起こした心筋層での幹細胞分化を刺激する方法であって、
て前記梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現するために発現ベクターによって形質移入された骨格筋芽細胞を、前記梗塞を起こした心筋層に導入するステップと、
前記幹細胞を骨髄から前記梗塞を起こした心筋層の末梢血へ動員するコロニー刺激因子を投与し、前記VEGFが前記梗塞を起こした心筋層で発現されている間、前記幹細胞が前記骨髄から前記末梢血へ動員されるステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項28】
前記骨髄から動員された前記幹細胞が、心筋細胞に分化する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記幹細胞分化が、前記梗塞を起こした心筋層での組織再生を促進する、請求項27に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血損傷組織を治療するための薬物であって、
虚血損傷組織でVEGFを発現するように影響を受けた細胞と、
虚血損傷組織でVEGFが発現している間に虚血損傷組織での幹細胞濃度を増大させるための作用因子と、
を含む薬物。
【請求項2】
前記細胞が梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現するよう影響を受けている間に前記作用因子が幹細胞を骨髄から末梢血へ動員することを特徴とする、請求項1に記載の薬物。
【請求項3】
前記因子が、虚血損傷組織の末梢血に注入された成体多能性幹細胞を含むことを特徴とする、請求項1に記載の薬物。
【請求項4】
前記梗塞を起こした心筋層が第1の濃度のVEGFを含み、VEGFを発現するように影響を受けた前記細胞がVEGFの濃度を前記第1の濃度から第2の濃度へと上昇させることを特徴とする、請求項1に記載の薬物。
【請求項1】
虚血損傷組織の幹細胞分化を刺激する方法であって、
前記虚血損傷組織は、第1の濃度の幹細胞と第1の濃度のVEGFとを含み、前記方法は、
前記第1の濃度から第2の濃度へ前記虚血損傷組織内のVEGF濃度を増加させるステップと、
前記第1の濃度から第2の濃度へ前記虚血損傷組織内の幹細胞の濃度を増加させるステップとを有し、前記虚血損傷組織内の前記VEGFの濃度が高くなる間に、前記幹細胞の濃度が高くなることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記幹細胞の濃度を増加させるステップが、前記幹細胞を骨髄から前記虚血損傷組織の末梢血へ動員する作用因子の投与を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記幹細胞を骨髄から前記虚血損傷組織の末梢血へ動員する作用因子が、サイトカイン、ケモカイン、および化学療法薬からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記作用因子がG-CSFを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
幹細胞数を増加させるステップが、幹細胞を末梢血に注射することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
VEGFの濃度を増加させるステップが、細胞に影響を及ぼして虚血損傷組織でVEGFを発現させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞が、遺伝子治療を用いてVEGF発現に影響を及ぼされる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、生体外で培養され、虚血損傷組織に導入された細胞を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、培養する前に、処置を受ける被験体から収集された自己由来細胞を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、虚血損傷組織の細胞を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
虚血損傷組織は、第1の濃度のSDF-1を含み、さらに、
虚血損傷組織中のVEGFの濃度が増加する間、第2の濃度に虚血損傷組織中のSDF-1濃度を第1の濃度から増やすステップを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
虚血損傷組織中のSDF-1濃度は、SDF-1を発現するために虚血損傷組織で細胞に影響を及ぼすことによって増加する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
細胞は、発現ベクターを細胞に導入することによってSDF-1を発現するために影響を受け、前記発現ベクターがSDF-1をコードする核酸を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、生体外で培養され、虚血損傷組織に導入された細胞を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、培養する前に、処置を受ける被験体から収集された自己由来細胞を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
SDF-1を発現するために影響を受ける細胞は、前記虚血損傷組織の自生細胞を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項17】
梗塞を起こした心筋層で幹細胞の分化を刺激する方法であって、
前記梗塞を起こした心筋層に、前記梗塞を起こした心筋層内でVEGFを発現するために影響を受けた細胞を導入するステップと、
前記幹細胞を骨髄から前記梗塞を起こした心筋層の末梢血に動員する作用因子を投与し、前記VEGFが前記梗塞を起こした心筋層で発現される間、前記骨髄から前記末梢血へ前記幹細胞が動員されるステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項18】
骨髄から虚血損傷組織の末梢血への幹細胞の動員を引き起こす作用因子は、サイトカイン、ケモカイン、および化学療法薬からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記作用因子がG-CSFを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が、VEGF発現のために遺伝子治療を用いて影響を及ぼされる、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
VEGFを発現するために影響を及ぼされる前記細胞が、発現ベクターによる形質移入を受け、前記発現ベクターはVEGFをコードする核酸を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
VEGFを発現するために前記細胞に影響を及ぼす前に、生体外で細胞を培養するステップを更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
VEGFを発現するために影響を受ける細胞は、培養に先だって、処置を受ける被験体から収集された自己由来細胞を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記梗塞を起こした心筋層は、第1の濃度のVEGFを含み、VEGFを発現するために影響を受ける前記細胞は、第1の濃度から第2の濃度へ、虚血損傷組織でVEGFの濃度を高める、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記梗塞を起こした心筋層内のVEGFを発現するために影響を受ける前記細胞が、前記虚血損傷組織でSDF-1を発現するためにさらに影響を受ける、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が、発現ベクターを生体外で前記細胞に導入されることで、SDF-1を発現するために影響を受けており、前記発現ベクターがSDF-1をコードする核酸を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
梗塞を起こした心筋層での幹細胞分化を刺激する方法であって、
て前記梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現するために発現ベクターによって形質移入された骨格筋芽細胞を、前記梗塞を起こした心筋層に導入するステップと、
前記幹細胞を骨髄から前記梗塞を起こした心筋層の末梢血へ動員するコロニー刺激因子を投与し、前記VEGFが前記梗塞を起こした心筋層で発現されている間、前記幹細胞が前記骨髄から前記末梢血へ動員されるステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項28】
前記骨髄から動員された前記幹細胞が、心筋細胞に分化する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記幹細胞分化が、前記梗塞を起こした心筋層での組織再生を促進する、請求項27に記載の方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血損傷組織を治療するための薬物であって、
虚血損傷組織でVEGFを発現するように影響を受けた細胞と、
虚血損傷組織でVEGFが発現している間に虚血損傷組織での幹細胞濃度を増大させるための作用因子と、
を含む薬物。
【請求項2】
前記細胞が梗塞を起こした心筋層でVEGFを発現するよう影響を受けている間に前記作用因子が幹細胞を骨髄から末梢血へ動員することを特徴とする、請求項1に記載の薬物。
【請求項3】
前記因子が、虚血損傷組織の末梢血に注入された成体多能性幹細胞を含むことを特徴とする、請求項1に記載の薬物。
【請求項4】
前記梗塞を起こした心筋層が第1の濃度のVEGFを含み、VEGFを発現するように影響を受けた前記細胞がVEGFの濃度を前記第1の濃度から第2の濃度へと上昇させることを特徴とする、請求項1に記載の薬物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2006−509043(P2006−509043A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502632(P2005−502632)
【出願日】平成15年10月29日(2003.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2003/034411
【国際公開番号】WO2004/056186
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(500205378)ザ クリーブランド クリニック ファウンデーション (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年10月29日(2003.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2003/034411
【国際公開番号】WO2004/056186
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(500205378)ザ クリーブランド クリニック ファウンデーション (9)
【Fターム(参考)】
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