説明

細胞のレーザー活性化ナノ熱分解

【課題】癌細胞といった生体に対して、選択的熱機械的損傷を増大させるための方法および系を提供する。
【解決手段】生体または癌細胞は、一つ以上のターゲッティング部分を含みおよび生体または細胞上またはその内部でナノ微粒子クラスターを形成するのに有効なナノ微粒子で特異的にターゲッティングされる。ナノ微粒子のピーク吸収波長に近いかまたは一致するピーク波長を選択された波長スペクトルを持つパルス電磁放射が、ナノ微粒子を選択的に加熱し、周囲媒質または正常細胞または組織のいずれにも影響せずに、生物体または細胞に対する選択的なおよび増大した熱機械的損傷を結果として生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁放射を用いる治療の、およびナノ粒子の分野に関する。より具体的には、本発明は、バイオ複合体化ナノ粒子を利用する、異常生体または構造の、電磁放射に誘導される選択的破壊のための方法および系に関する。
【背景技術】
【0002】
関連する技術の説明
さまざまな医療応用において、正常および健康な細胞を保存する一方で、異常細胞を不
性化、除去、またはその破壊および消失を達成することが望ましい。異常細胞の例は、癌(腫瘍)細胞、ヒトに対して有害な微生物(細菌)および動脈硬化性プラークを含むがそれらに限定されない。生物医用光学およびナノテクノロジーにおける近年の進歩は、癌またはアテローム性動脈硬化症といったヒト疾患のための有効な治療法の開発に確固とした基礎を築いている。この分野での主な画期的進歩は、分子特異性を有する特定種類の細胞を選択的に標的とする治療剤の可能性である。さらに、異常細胞および組織を可視化するだけでなく、治療手順を監視および誘導しそれらをさらに効果的および安全にするために、新しい画像処理様式が開発されている。先行技術は治療のレーザー(光学)法を開示し、これは原理的に、光学コントラストに基づく画像処理に導かれうるか、でなければ、光学的活性化によって可能になる。
【0003】
光学的方法を用いる細胞の選択的および特異的不活性化、すなわち損傷または破壊は、標的細胞とすべての非標的正常細胞との間の相当な光学コントラストを必要とする。細胞不活性化を達成するために一般的な手法は、細胞との高強度パルスレーザー相互作用による熱機械的損傷、温熱療法および凝集に用いられるような連続波ハイパワー相互作用による熱損傷、および分子との光子の相対的に低いパワーの相互作用により結果としてイオン、ラジカルおよび準安定励起状態といった化学的に活性な種の発生に繋がる生化学的損傷を含む(1)。同様に、これらの種類の相互作用は、さまざまな波長の電磁放射の、たとえば、X線、UV、可視光、近赤外、赤外光子、マイクロ波、およびラジオ波量子、およびまた高強度音波の相互作用の結果でありうる。他の種類の放射は作製が非常に高価であり、および、したがって、非実用的である。
【0004】
レーザーアブレーションは、高強度レーザーパルスの吸収によって細胞に引き起こされる熱作用および機械的作用に基づく(2)。レーザーアブレーションの先進概念の一つである、選択的光熱分解は、20年以上前に紹介された(3)。選択的光熱分解は、吸収する組織微細構造との短レーザーパルス相互作用を利用し、沈着レーザーエネルギーの熱拡散を回避することによる局所物理損傷を誘導する。周囲組織への付随的熱損傷が限定される精密レーザーアブレーションの他の先進概念は、短パルスレーザー照射に際して、引張波を発生し100℃未満の温度でキャビテーションバブルを生じる圧力閉じ込めの条件(4)、または非線形吸収および熱拡散前に起こる迅速な微小爆発を生じる超短レーザーパルス(5)を用いる。電磁放射の長パルスを用いる緩徐な加熱もまた、細胞の選択的損傷に使用されうるが、しかし、熱拡散が原因で、特異性を達成しおよび損傷隣接する細胞または組織を損傷しないためにははるかに強い光学コントラストを必要とする(6)。標的細胞の瞬間的な熱機械的破壊の代替として、光線力学療法は、たとえばラジカルおよび一重項酸素といった光化学的に生じる毒性種によって引き起こされる遅延損傷機構を通じて壊死およびアポトーシスを生じるために低強度レーザー照射を用いる(7)。
【0005】
細胞とのレーザー放射の高強度および低強度相互作用の両方を、標的細胞に対して選択的および特異的にすることができる。そのような選択性は、可視および近赤外において、すなわち組織成分の大部分が吸収しない範囲の波長において、レーザースペクトルの特定の色を強く吸収する内因性または外因性の発色団の利用を必要とする。赤色および近赤外において強く吸収する内因性組織発色団はヘモグロビンおよびメラニンに限られるため、天然コントラスト剤の医療応用は、血管および網膜色素上皮に限定される(8、9)。白血病および他の癌細胞の選択的損傷は、外因性コントラスト剤を必要とする。近赤外線の非常に強い吸収を有する光学コントラスト剤が研究者に注目されるが、なぜなら、正常細胞および組織はこのスペクトル域において透明であり、そのため、そのコントラスト剤によって細胞損傷の卓越した選択性を達成する大きな潜在性があるので、研究者に注目される。発色団補助レーザー不活性化(CALI)は、赤色レーザーパルスを強く吸収する分子色素で染色された細胞のレーザー照射を用いる、細胞膜の特定タンパク質の選択的不活性化を記載する用語である(10)。
【0006】
金ナノ粒子は、シリカ核上の金外被の厚みを変化(11)または、金ナノロッド、すなわち、楕円または一軸の長い他の角柱の縦横比を変化(12)することによって、任意の目的の色の近赤外線を吸収するように設計されうることが近年明らかになった。金ナノ粒子および特に銀ナノ粒子は、有機色素のナノ粒子よりもはるかに強く近赤外光を吸収し、そのことによって、組織深部の癌細胞の小クラスターを画像化するための優れたコントラスト剤となる(13)。光学吸収ナノ粒子を細胞表面受容体へターゲッティングし、およびそれらをレーザーパルスで過熱することによって、細胞のナノ粒子支援選択的レーザー熱分解が近年実証された(14)。微粒子について得られた実験結果に基づいて、先行技術は、特定の光学フルエンスを有するレーザー照射後の、結果として細胞不活性化を生じるキャビテーションバブル発生は、粒子サイズに依存しうると推測した。一方、先行技術は、基礎となる物理現象の説明も与えず、電磁放射のフルエンス低閾値を用いた高度に有効な細胞損傷を達成するための方法も提供しない。
【0007】
特許文献1は、治療方法および診断方法に使用されうる光学活性なナノ粒子を教示する。しかし、Westらによって開示された治療応用は、温熱療法の方法、すなわち通常は連続波レーザーおよび他の光源を用いる緩徐な加熱に限定される。ナノ粒子は、血管壁が多孔性の増大を有するかまたは微小血管表面変化を有する場所、特に腫瘍部位に、優先的に遊出する。O'Nealらは、近赤外スペクトル域にて強く吸収するナノ粒子である金ナノシェルのマウスへの静脈注射が、移植された腫瘍の非特異的であるが効果的なターゲッティングを結果として生じたことを実証した。さらにそれは、腫瘍領域の連続波レーザー照射によって周囲組織の温度よりも数度高い温度へナノシェルを加熱することによる、腫瘍の加温損傷を可能にした(15)。特許文献2は、放射およびナノ粒子またはマイクロ粒子の組合せが、固形腫瘍への薬剤のより良好な透過を可能にするために、癌細胞膜および血管に一時的に孔を開けるのに使用されうることを教示した。
【0008】
特許文献3および特許文献4は、近赤外光を放出するナノ粒子、すなわちナノドット、または近赤外赤色光を吸収するナノ粒子、すなわちナノシェルの光学診断使用を開示する。Sokolovらは、金ナノ粒子が光を強く反射しおよびそれによってモノクローナル抗体と複合体化したナノ粒子で特異的にターゲッティングされた異常組織または癌組織のコントラストを増大する能力を利用した(16)。Oraevskyら(17,18)は、さまざまなナノ粒子が組織における光学吸収を促進および熱音響波を放出でき、それが今度は組織の光音響画像処理に利用されうることを予測した。特許文献5は、非球状ナノ粒子および、電磁放射によって貫通されうる、体内の1mmの小ささの対象物の存在を光音響的に検出する方法を記載した。非球状になるように加工または操作された、少なくとも部分的に金属性のナノ微粒子は、体内への放射のより深い貫通に適するように光学吸収スペクトルを近赤外範囲へシフトするだけでなく、吸収帯を狭めおよび同時に、一部の場合には一桁を超えて、有効吸収を増大する。このことはナノ微粒子の光音響効力を大幅に高め、加工ナノ微粒子を非常な高コントラスト光音響造影剤にする。
【0009】
特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、および特許文献16は、治療剤または造影コントラスト剤としての使用のためのさまざまな電磁的に活性なナノ粒子を開示する。抗体を用いる特異的ターゲッティングは抗癌治療の効力を高めることが多数のグループによって確立された(19)。IgG型抗体に加えて、低分子ペプチドがターゲッティングベクターとして使用されうる(20)。
【0010】
侵襲性が最小である治療法はどれも、治療手順を正確に案内できる造影方法から利益を受けうることがよく認識されている。Lapotkoらは、パルスレーザー 照射に際して、個々の細胞、および細胞で起こる熱機械的過程を可視化できるようにする光熱検出および造影の方法を開発している(21−22)。特許文献17および特許文献18は、正常組織の深部における異常組織の検出、位置測定およびリアルタイム監視を助ける光音響造影の方法および系を教示した。
【0011】
化学療法および放射線療法は、白血病のような血液悪性腫瘍を含むヒト癌の治療にしばしば無効である。最先端の治療方法および系は、顕著な治療毒性および薬剤耐性腫瘍細胞の発生に伴う重大な制限を有する(24−27)。残存細胞は、したがって、血液または骨髄移植片から、一般的に「パージング」と呼ばれる方法によって除去されなければならない。利用可能なパージング方法は、薬物処理および光化学的(PDT)処理、キュベット中でのその底部に付加したモノクローナル抗体への吸着による磁性および蛍光に基づく選別(sorting)および除去を用いる。これらの方法は、癌患者に支援および緩和を提供するが、しかし十分な効力、すなわち100%除去、または適当な速度の細胞除去は提供しない(28)。したがって、これらの問題を克服するためには、より有効な、より迅速なおよびより安価な新しい処理戦略が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6,530,944号明細書
【特許文献2】米国特許第6,165,440号明細書
【特許文献3】米国特許第6,530,944号明細書
【特許文献4】米国特許第6,699,724号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第20050175540号明細書
【特許文献6】米国特許第5,427,767号明細書
【特許文献7】米国特許第5,411,730号明細書
【特許文献8】米国特許第5,427,767号明細書
【特許文献9】米国特許第5,521,289号明細書
【特許文献10】米国特許第6,048515号明細書
【特許文献11】米国特許第6,068,857号明細書
【特許文献12】米国特許第6,165,440号明細書
【特許文献13】米国特許第6,180,415号明細書
【特許文献14】米国特許第6,344,272号明細書
【特許文献15】米国特許第6,423,056号明細書
【特許文献16】米国特許第6,428,811号明細書
【特許文献17】米国特許第5,840,023号明細書
【特許文献18】米国特許第6,309,352号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、電磁放射を用いる、標的とされた異常細胞および他の微小構造または微小体の選択的溶解、すなわち破壊を提供する一方で、すべての正常細胞を未変化で残す、効果的および安全な方法および系の必要が本分野で認識されている。具体的には、先行技術は、ナノ微粒子コントラスト剤を利用する治療用レーザー方法および系が欠けている。より具体的には、先行技術は、癌のレーザー治療のための金属ナノ粒子を利用するレーザー活性化ナノ熱分解細胞除去技術(LANTCET)の方法および系が欠けている。本発明は本分野のこの長年にわたる必要を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、治療のための選択的な熱機械的に誘導される生体への損傷を増大させるための方法に関する。本方法は、それぞれ少なくとも一つのターゲッティング部分と複合体化された複数のナノ微粒子を含む媒質を含む生体を特異的にターゲッティングすることを含む。ナノ微粒子は、生体上または生体内で、生体へのターゲッティングに際して、一つ以上のナノ微粒子クラスターを形成するのに有効である。生体は、ナノ微粒子のピーク吸収波長に近いかまたは一致するピーク波長を有するように選択された波長のスペクトルを持つ電磁放射の少なくとも一つのパルスを照射される。その後、ナノ微粒子への電磁放射の吸収によって発生した熱からマイクロバブルが生成し、マイクロバブルが選択的なおよび増大した熱機械的損傷を、ターゲッティングされた生体に引き起こす。関連する発明では、本方法はさらに、熱機械的損傷の産物を媒質から選別(filtering out)することを含みうる。別の関連する発明では、本方法はさらに、光熱シグナルを受信または熱機械的作用の光学像を生成して、生体に対する選択的熱機械的損傷を監視および導くことを含みうる。
【0015】
本発明はまた、癌細胞に対する選択的な治療用熱機械的損傷を増大させるための系に関する。その系は、癌細胞を含む媒質の入ったチャンバー、細胞チャンバーに流路接続され、癌細胞を特異的にターゲッティングするように適合されたナノ微粒子源、細胞チャンバーに流路接続され、癌細胞が入るように適合された光学チャンバー、および細胞チャンバーに流路接続され、ピーク波長で放射される電磁放射の吸収の結果として生じた熱機械的作用によって損傷した細胞を選び出すための手段を含む。電磁放射のパルス源は、光学チャンバー内のターゲッティングされた癌細胞に向けられ、そこでパルス源は、ナノ微粒子のピーク吸収波長に近いかまたは一致するピーク波長を有するように選択された波長のスペクトルを放射するように設定されている。関連する発明では、系はさらに、光熱シグナルを受信するため、または熱機械的作用の光学像を生成するための手段を含む。
【0016】
本発明はさらに、個体において白血病を治療するための方法に関する。本方法は、当該個体から正常細胞および白血病細胞を含む試料を得ること、および試料をここで記載する系の細胞チャンバーに配置することを含む。試料中の癌細胞は、ここで記載のナノ微粒子を用いてターゲッティングされ、およびターゲッティングされた癌細胞は、系を構成するパルス源から放射された電磁放射を照射される。電磁放射はナノ微粒子に吸収され、それによって選択的なおよび増大した熱機械的作用を引き起こし、ターゲッティングされた癌細胞を損傷する。損傷した細胞は、試料から選別され、および試料中に残る正常細胞は当該個体に戻され、それによって白血病を治療する。方法段階はゼロ回以上反復されうる。関連する発明において本方法はさらに、光熱シグナルを受信または熱機械的作用の光学像を生成して、生体に対する選択的熱機械的損傷を監視および導くことを含みうる。本発明のその他の態様、特性、利益、および長所は、開示の目的で与えられる、本発明の現在好ましい実施形態の下記の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
付属の図面は、発明の上記の特性、長所および目的が明らかになりおよび詳細に理解されうるように含められている。これらの図面は本明細書の一部を成す。しかし、付属の図面は本発明の好ましい実施形態を説明しおよび本発明の範囲を限定しないと考えるべきであることに注意する。
【図1】図1A〜1Bは、金(図1A)および銀(図1B)ナノロッドの計算光学吸収スペクトルを示す。縦横比の漸増に伴い、プラズモン共鳴吸収のピークは次第に、 近赤外の長波長へシフトする。
【図2】図2A〜2Cは、直径15nmおよび2つの異なる縦横比3:2および6:9を有する、スライドグラスの表面に置かれた金ナノロッドの電子顕微鏡写真(図2A〜2B)、および、PEGと複合体化されおよび水に懸濁されたこれらの金ナノロッドの、実験的に測定された光学吸収スペクトル(図2C)を示す。最大値から逸脱しない縦横比を有する、相対的に単分散のナノロッドの、制御された作製が達成されうることがわかるさらに、PEGとの複合体化はスペクトル幅およびピーク吸収位置をわずかに変化させる。
【図3】図3は、直径100nmの球状金ナノ粒子の懸濁液へのレーザーフルエンス入射の関数としての光音響シグナルを示す。これらのナノ粒子の吸収断面積、σa= 1.4x10−9cm。シグナルの急激な増大が約1J/cmに起こり、光音響シグナルへの蒸気バブルの寄与を示す。熱弾性膨張の線形曲線からの光音響シグナルの逸脱の閾値は、水の臨界温度374℃に対応するフルエンスF=0.0026J/cmよりもはるかに大きいフルエンスであることに注意する。
【図4】図4は、標的細胞内部でクラスターを形成する金ナノ粒子でターゲッティングされた腫瘍細胞のレーザー損傷のための閾値フルエンスを示す。
【図5】図5A〜5Bは、血液透析系から改変したLANTCET系の略図(図5A)および光熱顕微鏡による同時監視および誘導を伴うLANTCETの模式図(図5 B)を示す。
【図6A】ナノ粒子無しのK562細胞対照細胞の電子顕微鏡像を示す。小さな黒い点は単一ナノ粒子であり、およびより大きい黒い点はナノ粒子のクラスターである。
【図6B】一次K562特異的抗体および二次モノクローナル抗体と複合体化した直径30nm球状金ナノ粒子を用いて選択的にターゲッティングされたK562細胞の電子顕微鏡像を示す。小さな黒い点は単一ナノ粒子であり、およびより大きい黒い点はナノ粒子のクラスターである。
【図7A】波長532nm、および持続時間10nsにて1回のレーザーパルス照射後に得られた光熱応答シグナルを示し、図7Aはナノ粒子で直接ターゲッティングされた単一のK−562細胞であり、バブル無しおよび光学フルエンス35J/cmにて損傷無しである。図7Bは光学フルエンス35J/cm2での直径30nm単一金ナノ粒子の懸濁液である。
【図7B】波長532nm、および持続時間10nsにて1回のレーザーパルス照射後に得られた光熱応答シグナルを示し、図7Bは光学フルエンス35J/cm2での直径30nm単一金ナノ粒子の懸濁液である。
【図7C】波長532nm、および持続時間10nsにて1回のレーザーパルス照射後に得られた光熱応答シグナルを示し、図7Cは細胞選択的にターゲッティングされた単一K−562細胞であり、NPのクラスターが細胞内で形成され、光学フルエンス5J/cmである。
【図8】図8は、細胞中でナノ粒子のクラスターを形成した金バイオ複合体で選択的にターゲッティングされたK562白血病細胞、および非特異的mabと複合体化されたナノ粒子とインキュベートされた主対照細胞について損傷確率を示す。
【図9A】光学フルエンス5J/cm2の単一広レーザーパルスでの照射後の、10mmキュベット中のK−562細胞の光学顕微鏡像であり、図9Aは、損傷しなかった主対照細胞を示し、すなわち、マイクロバブルに関連する光熱応答シグナルはこれらの細胞から検出されなかった。
【図9B】光学フルエンス5J/cm2の単一広レーザーパルスでの照射後の、10mmキュベット中のK−562細胞の光学顕微鏡像であり、図9Bは、重度に損傷された、選択的にターゲッティングされた細胞を示し、すなわち、細胞断片だけが見られた。
【図10】図10A〜10Cは、LANTCET中の正常細胞および腫瘍細胞上でのバイオ複合体化ナノ微粒子の作用を示す。
【図11】図11A〜11Fは、ヒト白血病細胞(Bリンパ球)の光学像(図11A〜11B)および蛍光像(図11C〜11D)像、およびそれらの像について4℃(図11A、11C、11E)および37℃(図11B、11D、11F)でのインキュベート後に得られた蛍光シグナルプロファイル(図11E〜11F)を示す。細胞像の白線は、細胞の核のおよび外膜の境界を示す。
【図12】図12A〜12Bは、蛍光像パラメーターのヒストグラムであり、ピークの蛍光シグナル最大値Max(図12A)および蛍光ピークの空間分布Mir(図12C)を示す。
【図13】図13A〜13Bは、正常骨髄細胞(図13A)および腫瘍細胞(図13B)における4℃および37℃での細胞インキュベートの第二段階中の、ナノ粒子のクラスター化の動力学を示す(O=37℃、膜でのピーク、●=37℃、細胞内のピーク;△−4℃、膜でのピーク、▲−4℃、細胞内のピーク。
【図14】図14A〜14Cは、単一レーザーパルス後の腫瘍細胞について得られた典型的なバブル特異的光熱応答(図14A)、光熱像(図14B)および照射前の同 一細胞の光学像(図14C)を示し、インキュベート条件は37℃、2hである。
【図15】図15は、細胞ターゲッティングNPSの第一段階中に4℃および37℃にて用いられたさまざまな一次MABについて、単一レーザーパルス(532nm、0.6J/cm)後に実験的に得られた生存腫瘍細胞LLCのレベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態では、ナノ微粒子が、生体上または生体内で、生体へのターゲッティングに際して、一つ以上のナノ微粒子クラスターを形成するのに有効であり;生体が、ナノ微粒子のピーク吸収波長に近いかまたは一致するピーク波長を有するように選択された波長のスペクトルを持つ電磁放射の少なくとも一つのパルスを照射され;およびナノ微粒子への電磁放射の吸収によって発生した熱からマイクロバブルを生成し、マイクロバブルが選択的なおよび増大した熱機械的損傷を、ターゲッティングされた生体に引き起こす、それぞれ少なくとも一つのターゲッティング部分と複合体化された複数のナノ微粒子を含む媒質を含む生体を特異的にターゲッティングすることを含む、治療のための選択的な熱機械的に誘導される生体への損傷を増大させるための方法が提供される。
【0019】
この実施形態に加えて、本方法は、熱機械的損傷の産物を媒質から選別することを含みうる。さらに別の一実施形態では、本方法は、光熱シグナルを受信または熱機械的作用の光学像を生成して、生体に対する選択的熱機械的損傷を監視および導くことを含みうる。すべての実施形態で、生体は異常細胞、細菌またはウイルスでありうる。これらの実施形態では、ナノ微粒子は約1nmから約1000nmの寸法を有しうる。また、ナノ微粒子はナノ粒子の凝集体でありうる。ナノ粒子凝集体の一例は、球状ナノ粒子を含む。さらに、ナノ微粒子は、一つ以上のナノ微粒子クラスターを形成しうる。また、すべての実施形態で、ナノ微粒子は、少なくとも部分的に金属性のナノ粒子、ナノロッドまたはナノシェルから形成されうるか、またはカーボンナノチューブでありうる。一態様では、ナノ微粒子は、電磁放射のプラズモン共鳴吸収を有する、部分的に金属性のナノ粒子から形成される。別の一態様では、ナノ微粒子は、細長い少なくとも部分的に金属性のナノ粒子である。すべての実施形態で、金属は金または銀でありうる。
【0020】
さらに、すべての実施形態で、ナノ微粒子は、生体上の受容体部位へ特異的にターゲッティングされるモノクローナル抗体またはペプチドであるターゲッティング部分を含む。一態様では、受容体部位はさらに、それに結合された、ターゲッティングされたモノクローナル抗体に特異的である別のモノクローナル抗体またはペプチドを含む。すべての実施形態についてさらに、ナノ微粒子は、界面活性剤、またはナノ微粒子に複合体化された核酸の相補鎖、またはその組合せを含みうる。すべての実施形態で、電磁放射のパルスの波長スペクトルは、約300nmから約300mmの波長範囲を有しうる。一態様では、電磁放射のパルスは光放射である。この光放射は、500nmないし1150nmの範囲の波長を有しうる。すべての実施形態で、電磁放射のパルスは約1nsから約100nsである。
【0021】
本発明の別の一実施形態では、癌細胞を含む媒質の入ったチャンバー;細胞チャンバーに流路接続され、癌細胞を特異的にターゲッティングするように適合されたナノ微粒子源;細胞チャンバーに流路接続され、ターゲッティングされた癌細胞が入るように適合された光学チャンバー;ナノ微粒子のピーク吸収波長に近いかまたは一致するピーク波長を有するように選択された波長のスペクトルを放射するように設定された、光学チャンバー内のターゲッティングされた癌細胞に向けられる電磁放射のパルス源;および細胞チャンバーに流路接続され、ピーク波長で放射される電磁放射の吸収の結果として生じた熱機械的作用によって損傷した細胞を選び出すための手段を含む、癌細胞に対する選択的な治療用熱機械的損傷を増大させるための系が提供される。別の一実施形態では、系は、光熱シグナルを受信するため、または熱機械的作用の光学像を生成するための手段を含む。
【0022】
これらの実施形態では、ナノ微粒子はそれぞれ、癌細胞上の受容体部位に特異的にターゲッティングされた少なくとも一つのターゲッティング部分を含む。さらに、受容体部位は、それに結合された、ナノ微粒子上のターゲッティング部分に特異的である別のターゲッティング部分を含みうる。ターゲッティング部分の例は、モノクローナル抗体またはペプチドである。さらに別の一実施形態では、ナノ微粒子はさらに、界面活性剤、またはナノ微粒子に複合体化された核酸の相補鎖、またはその組合せを含みうる
すべての実施形態で、癌細胞は白血病癌細胞でありうる。また、すべての実施形態で、ナノ微粒子、ナノ粒子の凝集体またはナノ微粒子クラスターの寸法、形状、または金属または炭素組成は、上に記載の通りである。さらに、電磁放射のスペクトル波長および種類およびパルス持続の時間は上に記載の通りである。
【0023】
本発明のさらに別の一実施形態では、個体から正常細胞および白血病細胞を含む試料を得ること;試料を上に記載した系の細胞チャンバーに配置すること;試料中の癌細胞を、系を構成するナノ微粒子を用いてターゲッティングすること;ターゲッティングされた癌細胞に、系を構成するパルス源から放射された電磁放射を照射し、ここでナノ微粒子に吸収された電磁放射が、ターゲッティングされた癌細胞を損傷する選択的なおよび増大した熱機械的作用を引き起こすこと;損傷した細胞を試料から選別すること;試料中に残る正常細胞を当該個体に戻し、それによって白血病を治療すること;および方法段階をゼロ回以上反復することを含む、個体において白血病を治療するための方法が提供される。
【0024】
別の一実施形態では、本方法は、光熱シグナルを受信または熱機械的作用の光学像を生成して、癌細胞に対する選択的熱機械的損傷を監視および導くことを含む。両方の実施形態で、熱機械的作用は、癌細胞においてマイクロバブルを生成するのに十分な、吸収された電磁放射から、ナノ微粒子内で発生した熱によって引き起こされる。
【0025】
ここでは、「a」または「an」の語は、一つ以上を意味しうる。本明細書において請求項では、「含む」の語と併せて用いられる場合、「a」または「an」の語は、一または一より大を意味しうる。ここでは「もう一つの」または「別の」は、少なくとも二つめ以上の、同一のまたは異なる請求項要素またはその構成要素を意味しうる。ここでは、「ナノ熱分解」の語は、ナノ粒子によって支援されおよび可能になる標的生物細胞の損傷、除去、破壊をいう。ここでは、「レーザー活性化ナノ熱分解」の語句は、癌細胞で発現されるがしかし正常細胞では発現されない特異的受容体へターゲッティングされたナノ粒子(ナノ粒子)を用いる細胞の選択的損傷をいう。ここでは、「細胞除去」の語句は、成功する処理手順をいう。したがって、ここでは、「レーザー活性化ナノ熱分解細胞除去技術」または「LANTCET」の語句は、バイオ複合体化ナノ粒子を利用する、組織、細胞、細菌およびウイルスといった、異常生物構造の、電磁放射に誘導される選択的破壊のための方法および系をいう。ここでは、「ナノ微粒子」の語は、単一のナノ粒子、ナノ粒子の集合、またはナノ粒子凝集体をいう。ここでは、「ナノ微粒子クラスター」の語は、ナノ粒子が互いに接触しうるかまたは互いに近接しうる、そのためレーザーパルスまたは他の電磁エネルギーのパルスを照射された際に、ナノ粒子が熱エネルギーの単一の分解されない起源として現れる、ナノ粒子の特異的凝集を表す。ここでは、「少なくとも部分的に金属性の」の語句は、非常に強い吸収係数を与えることが知られている、プラズモン共鳴機構による電磁放射を吸収するのに有効な好ましいナノ微粒子をいう。
【0026】
組織、細胞、細菌およびウイルスといった異常生物構造の、電磁放射に誘導される選択的破壊および除去のための、レーザー活性化ナノ熱分解細胞除去技術すなわちLANTCETを用いる方法および系が提供される。LANTCETは、表1に示す通り、除去の現行方法より有利である:
【0027】
【表1】

【0028】
磁性除去は正常細胞に対して有害でないが、その主な短所は、標的細胞と結合した小さい鉄ビーズを、ターゲッティングされていない正常細胞から分離する強い磁性を欠くため、この方法の効力が、残存癌細胞を除去するのに十分でないことである。フローサイトメトリーの主な長所は、細胞選別の高い効率であるが、しかし、この方法の処理量の低さは制限因子である。光線力学療法は、有機色素によって与えられるコントラストの低さのため、標的細胞に対する十分な特異性を欠く。全体として、これらの方法および系は、有効で、標的細胞に特異的で、および安全な、高処理量のための手段を欠く。
【0029】
LANTCET法では、強力に吸収するナノ粒子が、他のどのコントラスト剤も及ばない、ターゲッティングされていない細胞に対するコントラストを提供する。さらに、細胞におけるナノ粒子のクラスターの形成は、マイクロバブルによる標的細胞のレーザー熱分解を、ターゲッティングされていない正常細胞に対して無害である、非常に有効で、閾値の低い過程にする。選択性は、バイオ複合体化ナノ粒子を用いて異常生物構造をターゲッティングすることによって与えられる。これらのナノ粒子は、細胞におけるナノ粒子蓄積の選択性を達成するのを助ける、抗体、たとえば免疫グロブリン型タンパク質または低分子ペプチドを用いて、標的細胞の表面上の分子受容体へターゲッティングされる。
【0030】
ターゲッティング手順は、ナノ粒子との電磁放射の熱機械的相互作用の効力を高めるために、細胞の表面上および/または異常細胞の内部にナノ粒子のクラスターを生じるように設計される。そのような促進は、異常細胞損傷を達成するのに必要なフルエンスまたは力の、閾値の相当な低下を結果として生じる。これは今度は、特異性および、ターゲッティングされた細胞損傷に対する損傷の確率および、正常細胞および組織に対する安全性を高める。ここで記載される方法および系は、初期表面下腫瘍を組織から除去、および白血病細胞を骨髄移植片または血液から除去することといった、癌の侵襲最小の治療法を含むがそれらに限定されないさまざまな用途を有する。
【0031】
一般的に、ここで記載される方法および系は、生物細胞、細菌、またはウイルスといった、しかしそれらに限定されない、生体または微小体または微小構造に対する、ナノ粒子によって吸収された電磁放射のパルスの結果として生じる熱機械的損傷を顕著に増大させるのに、および周囲の正常体への損傷を低減するのに有効である。より詳しくは、ここに記載の方法および系は、下記の構成要素および段階を含む。
【0032】
ナノ粒子
ここで提供されるナノ微粒子は、体を透過するのに有効な波長の電磁放射を吸収するが、体の分子内容によって吸収されない、最大の能力で設計される。すなわち、ナノ微粒子は、有意でない周囲物質の直接加熱が生じるフルエンスのエネルギーで、周囲の生物媒質、たとえば、水または水様の媒質の沸点よりはるか上へ加熱するのに吸収が十分であるように、電磁放射を非常に強力に吸収しなければならない。生物細胞および組織の分子成分が吸収をまったくまたは最小しか持たない、近赤外スペクトル域の電磁放射を強く吸収するナノ粒子が用いられる。好ましくは、ナノ粒子は、少なくとも部分的に金属ナノシェル、金属ナノロッドまたはカーボンナノチューブでありうる。
【0033】
当業者は、本分野で公知であるナノ粒子の基本的性質に基づいて、多くの組合せおよび複雑な構造を予測しうる。有機色素を詰めたカーボンナノチューブおよびリポソームといった他のナノ粒子のクラスターがLANTCETに利用されうると考えられており、なぜならこれらの粒子のクラスターは近赤外線を強く吸収できるからである。本分野で公知であることに基づいて近赤外スペクトル域が好ましい範囲であると思われるが、ナノ粒子は、X線、マイクロ波(RF)放射または可視光を吸収するように設計されうる。与えられた波長の電磁放射についての吸収係数の絶対値は、ナノ微粒子と、前記ナノ微粒子でターゲッティングされなかったバックグラウンド周囲媒質または体との間のコントラストの、すなわち差の比ほどは重要でない。
【0034】
ナノ微粒子組成物のために最も好ましい材料は金および銀であり、およびナノ微粒子の最も好ましい形状は、ナノロッドのような細長い非対称形状、またはナノスターおよびナノウーチンのようなナノロッドを含むより複雑な構造である。しかし、球状といった対称組成物粒子は除外されない。たとえば、縦横比が1に近いナノロッドは球であり、緑色スペクトル域にピーク光学吸収を有する。形成されたナノ微粒子クラスターは三次元空間において球状または非球状である可能性があり、形成された形状はフラクタルまたは無秩序である可能性があり、およびさまざまな凝集体形状および構造の組合せでありうる。
【0035】
近赤外スペクトル域における最大吸収に関して最適なナノ粒子は、銀ナノロッドである。また、銀ナノロッドまたはより複雑な細長い銀ナノ構造は、近赤外を非常に強く吸収するように、すなわち、物理断面積の最大100倍の吸収断面積で設計されうる。しかし、銀は完全に不活性な金属ではなく、および高濃度で使用される場合は正常細胞に対して毒性でありうる。放射の比存在下での最小毒性に関して最適なナノ粒子は、金ナノ粒子である。さらに、金ナノロッド、または金ナノスターまたはナノウーチンといった金ナノロッドを包含するより複雑な構造は、近赤外を非常に強く吸収するように設計されうるので、吸収断面積は断面積を数倍上回り、それに優るのは銀ナノ構造だけである。
【0036】
ナノ微粒子の寸法は、ナノ微粒子が組織を通って拡散できおよび細胞によって積極的に飲食作用を受けるように、および細胞受容体に対するナノ粒子の積極的ターゲッティングが達成されうるように、生物組織および血管の孔と比較して、適当な界面活性剤たとえばPEGの水溶液中に懸濁されるのに十分小さくなければならないサイズから決定される。ナノ粒子のサイズは、プラズモン共鳴のため、選択された波長の電磁放射を吸収するのに有効でなければならず、これはナノ微粒子の最大代表長さがその波長よりも小となることを要する。半導体カーボンナノチューブといった一部の非金属ナノ粒子は、吸収についてサイズの限界を有しないが、しかし放射吸収の当業者は誰でも、それを上回ると放射の吸収の有効性が低くなりおよび粒子内部がより均一性が低くなる至適サイズが存在すると結論できる。したがって、ナノ微粒子は1−2nm以上および1000ナノメートル以下でなければならない。本発明によってまた提供されるナノ微粒子クラスターは、単一ナノ微粒子より大きい可能性がある、すなわち最大数ミクロンの寸法を有しうる。
【0037】
好ましいナノ微粒子は、細長い形状を有する、すなわち1より大の縦横比を有する、部分的に金属性のナノ微粒子であり、これはナノ粒子の集合でありうる。ナノ粒子凝集体を含む非球状ナノ微粒子は、凝集体のナノ粒子が非球状であることを要しない。凝集体のナノ粒子は、ここで開示されるナノ微粒子の特性を有するように構造に配列された球状ナノ粒子を含みうる。
【0038】
特に、ナノ微粒子凝集体はそのように配列され、およびそのナノ粒子は、そのような配列につくように互いに高い親和性を有する相補性分子を適当に含む有機材料で、少なくとも部分的にコーティングされる。たとえば、球状ナノ粒子の集合は、細長いナノ微粒子として凝集でき、光学吸収を縦横比、すなわち短軸長さの長軸長さに対する比の関数としてシフトする。細長いナノ微粒子の一例は、金または銀ナノロッドである。当業者は、これらの型のナノ微粒子が電磁放射の近赤外スペクトルに整調可能な吸収を有すること、およびそれらの吸収ピークが狭くおよび非常に強い、すなわち、生物分子のものよりもはるかに強いことを理解できる。これらの特性は、レーザー活性化ナノ熱分解細胞除去技術における応用に有益である。本発明で用いられるナノ微粒子は、選択された特定の波長または波長範囲を吸収およびさらにナノ微粒子クラスターを形成するのに有効であり、それがマイクロバブルを標的細胞内で発生するのを助け、今度はそれがレーザーまたは他の電磁パルスによる最大の熱機械的損傷を生じるナノ微粒子構造を形成するための、ある形状のナノ粒子と別の形状のナノ粒子との組合せでありうる。したがって、医療応用または生物学的応用のためには、寸法および形状の両方の詳細がLANTCETにとって重要であり、なぜならこれらのパラメーターは、異常生物細胞といった標的体におけるナノ微粒子クラスターの効率的な蓄積を可能にするからである。
【0039】
ナノ微粒子は、少なくとも部分的に金属性、およびプラズモン共鳴機構によって電磁放射を吸収するのに有効でありうる。代替的に、本発明は、半導体の特性を有しおよびなお電磁放射のさまざま波長にて非常に強い光学吸収を有する、カーボンナノチューブといったナノ粒子を包含する。どちらも、ここに記載されるLANTCET方法および系において有効である。
【0040】
バイオ複合体化
本発明は、生物材料、すなわち有機材料と複合体化されたナノ粒子またはナノ粒子の凝集体の使用を包含する。そのようなバイオ複合体化の目的は、(i)水に良好に懸濁されるナノ微粒子を作製すること、(ii)異常細胞中の特異的受容体をターゲッティングすること、および(iii)細胞内部または細胞表面上にて、しかし細胞外で懸濁液中にではなく、ナノ粒子のクラスターを形成することである。粒子の生物学的および化学的性質を最適化するため、および標的細胞内部でのクラスターの望ましい形成を最大化するため、しかし細胞外で凝集体を形成しないために、ナノ粒子は表面に複合体化された複数の分子を有することが望ましい。レーザー活性化ナノ熱分解、すなわち標的異常細胞に対する選択的熱機械的損傷のためのコントラスト剤として、コーティングされた金属、部分的に金属および非金属のナノ粒子またはこれらのナノ粒子の凝集体が使用されうる。
【0041】
複合体化ナノ粒子は、粒子の表面に共有結合したコーティングおよび/または粒子の表面に物理的に付着したコーティングを有しうる。生物分子への金および他の金属の複合体化に最も頻用される結合は、チオール−SH基またはスルフヒドリル基によって提供される供与S=結合である。米国特許第6,821,730号、第6,689,338号および第6,315,978号明細書および他(29−34)は、さまざまな生物医用応用のためのナノ粒子バイオ複合体化の方法を教示する。当業者は、ナノ微粒子のin vitroおよびin vivo投与に際してそのような複合体化が化学的に安定であるように、ナノ粒子を生物分子と複合体化するための多数の方法を予測しうる。そのような複合体化されたナノ微粒子はまた、放射の非存在下で無毒性でなければならず、および、標的体に到達する前に免疫系によって除去されることから保護するため、ヒト(または動物)免疫系によって異物と認識不能でなければならない。
【0042】
加えて、タンパク質または他の生物分子は、界面活性剤として使用されうる。特に望ましい界面活性剤は、ブロック共重合体、特に一つのブロックがポリエチレングリコール(PEG)であるブロック共重合体である(35)。PEGは、ポリマーの両側で二官能性に標識化されうる。片側は通常はチオールまたはSH基を用いて、金属、特に金に対して強い親和性を持つように標識化される。反対側は通常は、モノクローナル抗体といったタンパク質の便利な複合体化を可能にするNH2基を用いて標識化される。PEGは、ポリマーの外側に親水基を有することで、ナノ粒子が循環中または血球の混合物中の好中球、マクロファージおよび他のスカベンジャーによって認識されることを防ぐ。本発明はさらに、適当な界面活性剤または他の粒子コーティングを用いて、細網内皮系による取り込みに対して安定化されたナノ粒子を含むナノ微粒子の使用を包含する。
【0043】
界面活性剤、または粒子をコーティングするために用いられる他の物質のもう一つの目的は、標的細胞外での粒子凝集を防ぐことである。個々の粒子の凝集は、どの複合体処方の保存期間も縮める、粒子成長および懸濁液からの粒子の沈澱に繋がる。本発明は、界面活性剤または他の粒子コーティングの使用によって、粒子凝集および沈澱に対して安定化されたバイオ複合体の使用を包含する。必要に応じて、界面活性剤は、標的細胞内部でのナノ粒子のクラスター形成を補助しうる、望ましい生物学的または化学的性質を有する他の化学種の結合のための基盤として作用しうる。この目的のためには、反応性官能基を有する界面活性剤または他の表面活性物質が望ましい。結果として、界面活性剤および結合部位の両方が、反応性官能基を有するべきである。随意的なスペーサーまたはリンカーもまた、一対の反応性官能基を有するべきである。
【0044】
ナノ微粒子バイオ複合体を有効にする成分は、ターゲッティングベクターまたは部分である。ターゲッティングベクターまたは部分は、標的受容体に対する強いまたは高い親和性を有し、および周囲の媒質または体の表面または内部の他の生物分子をターゲッティングする親和性がまったくまたはほとんど無い、抗体タンパク質、タンパク質断片、低分子ペプチドまたは他の分子でありうる。ターゲッティングベクターがナノ粒子の表面に直接付着するかまたは界面活性剤を通じて間接的に付加するかにかかわらず、ターゲッティングベクターに対する特異的受容体は、異常標的組織または細胞によって過剰発現されている、化学基、タンパク質、または他の種でありうる。一般的に、受容体は、処理および除去されるべき組織または細胞型の、任意の化学または生化学的特性でありうる。加えて、ナノ粒子は、二次ベクターまたは部分、たとえば、一次ベクターに対して高くおよび特異的な親和性を有する抗体またはペプチドと複合体化されうる。そのような二次抗体は、細胞表面上の一次ターゲッティングされたナノ粒子の周囲でナノ粒子の凝集体を生じるのに役立ちうる。
【0045】
白血病または他の腫瘍細胞を、骨髄移植片といった体からのこれらの腫瘍細胞の除去のためにターゲッティングするための特異的抗体は、ターゲッティングされる細胞の型に依存する。例は、急性骨髄性白血病(AML)についてCD33およびCD123、慢性リンパ球性白血病(CLL)についてCD20、または急性リンパ芽球性白血病(ALL)についてCD19、CD20およびCD22を含むがそれらに限定されない。
【0046】
ターゲッティングの成功に加えて、目的細胞において蓄積したナノ粒子のクラスター化が起こらなければならない。好ましいクラスターは、偶数の細長いナノ粒子を含む二次元および三次元構造、たとえば、二次元および三次元星形、角錐または他のそのような構造である。金属ナノ粒子を、凝集体の安定化したクラスターへ組織化するための方法はよく知られている。たとえば、異なる金粒子の表面をDNAの相補鎖で覆うことは、規則正しい凝集体への粒子の自己組織化を有利にする(36−38)。凝集体形成は、DNAの相補鎖間の有利な相互作用の結果として起こる。本発明は、人工または天然DNA、RNA、またはRNAまたはDNAのアナログの相補鎖で被覆された粒子の凝集体を含む、光音響画像処理用のコントラスト剤の使用を包含する。
【0047】
好ましくは、ナノ微粒子は金属粒子の凝集体を含む。そのような凝集体は、クラスターの全容積に比例して単一粒子に予測されるよりも総蓄積熱エネルギーを高める、集合的プラズモン共鳴を示す。さらに、金属ナノ粒子のクラスターは、単一粒子による光学吸収の単純加算よりも強い、集合的共鳴吸収を示すことができる(39)。たとえば、ナノロッド16個の各層4個で4層の立方体状の積み重ねは、16個ばらばらのナノロッドよりも多くの光放射を吸収する。ナノロッドの集合について集合的プラズモン共鳴の存在は、粒子濃度が上昇しおよび凝集体が形成される際の光音響シグナルの強度における非線形増加によって実験的に証明される。制御された粒子凝集を促進する有用な生化学的手段は、異なる粒子を、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドと呼ばれる、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)を含む、核酸の相補的配列でコーティングすることである。たとえば赤外光を用いたナノ微粒子の加熱(40)といった、物理的手段もまた凝集を促進するために使用されうる。温度上昇もまた、エンドサイトーシスを促進する。エンドサイトーシスは、内部移行を用いることによって促進されうる(40)。
【0048】
クラスター化刺激
膨張する蒸気バブルの発生といった局所熱機械的作用を生じるためには、強く吸収するナノ粒子のクラスターが形成されなければならない。クラスターは代表長さDを有し、代表長さdの小粒子を含む。代表長さDを有する単一の大粒子は、いくつかの制限のため、レーザー活性化標的としては有効でない。
【0049】
まず、プラズモン共鳴相互作用は、電磁放射の波長よりはるかに小さいナノ粒子に限定されるため、大きな単一の金属粒子は、より小さなナノ粒子の群ほど強くレーザー放射を吸収しない。近赤外線650〜1150nmは細胞を最小の吸収で透過し、したがって選択的レーザー処理に最も有益である。650〜1150nmよりもはるかに小さいナノ粒子は、10〜250nmの範囲にあり、粒子当たり最大吸収を有するが、しかし温度ΔT=100℃すなわち断熱気化の温度にて蒸気バブルを発生するには小さすぎる。
【0050】
有機色素、ポリマーまたは他の吸収材料製の大きい粒子は、温度100℃にて蒸気バブルを発生するのに使用されうる:
【0051】
【数1】

【0052】
ここでμaは光学吸収係数であり、Fはレーザーフルエンスであり、ρはナノ粒子密度であり、およびCはナノ粒子材料の熱容量である。しかし、これらの粒子の相対的に低い吸収が原因で、これらの粒子において100℃に達するためには非常に高いレーザーフルエンスFが必要である。そのような高いレーザーフルエンスは正常細胞にとって安全でなく、および処理の選択性は失われる。
【0053】
次に、大きいおよび強く吸収する粒子はまた、これらの粒子は細胞へ効果的にターゲッティングできないため、コントラスト剤としても有効でない。ターゲッティングの効率は、粒子サイズとおよそ反比例する。これは、大きい粒子は抗体と受容体との間に形成される単一の化学結合によって強く保持できないため、容易に説明される。また、大きい粒子は、モノクローナル抗体またはペプチドといった、異常細胞の受容体に特異的なベクター分子と有効に複合体化することができない。大きい粒子はまた、キュベットの底に沈澱無しで水懸濁液中に保つことが非常に難しい。大きい粒子はまた、標的がちょうど表面上に無い場合は、組織を通過しない。
【0054】
標的細胞上およびその中のナノ粒子のクラスター化は、特別に設計されたターゲッティング手順によって起こり、それは細胞におけるナノ粒子−ナノ粒子相互作用の確率を高めるために相補的分子および高親和性分子反応を利用する。ナノ粒子−細胞受容体相互作用の強さはまた、モノクローナル抗体の選択によって最大化される。加えて、ターゲッティングの持続時間、ターゲッティングされるべき体の温度、ナノ粒子の濃度の条件、および細胞内部移行過程またはエンドサイトーシスの条件は、ナノ粒子クラスター化の最大率を達成するために最適化されなければならない。クラスター化の効率は、これらの定量的条件のそれぞれのベル形関数として表すことができる。細胞生物学の当業者は、具体的な至適条件が具体的な医療応用に依存することを理解できる。
【0055】
本分野で公知であるさまざまな一般的方法(33−41)を、体内でのナノ微粒子のクラスター化を刺激するのに使用できる。目的の部位、たとえば、腫瘍細胞またはそれを含む組織は、第一のモノクローナル抗体に特異的な二次モノクローナル抗体と複合体化されたナノ粒子でターゲッティングされた複数の結合部位を持つモノクローナル抗体で前処理されうる。代替的に、一次抗体と複合体化されたナノ粒子は、目的の部位へターゲッティングされ、次いで、第二のモノクローナル抗体と複合体化されたナノ粒子を第一のモノクローナル抗体へターゲッティングする。
【0056】
別の代替的方法では、一次モノクローナル抗体と複合体化されおよびさらにたとえばビオチンといった第一の凝集化分子と複合体化されたナノ粒子が、目的の部位へターゲッティングされる。その後、一次モノクローナル抗体と複合体化されおよびさらにストレプトアビジンといった第二の凝集化分子と複合体化されたナノ粒子が、アビジン結合ナノ粒子へターゲッティングされる。互いへの高い親和性を有する第一のおよび第二の凝集化分子の使用は、ビオチン−ストレプトアビジン結合に限定されない。当業者は、たとえば、アデニン−チミンおよびグアニン−シトシンヌクレオチド、プロテインAまたは免疫グロブリンといった、しかしそれらに限定されない、互いへの非常に高い親和性を有するさまざまな相補的化学または生化学化合物または組成物に通じている。さらに、標的細胞内部でのクラスター化の刺激は、内部移行モノクローナル抗体を使用することによって達成されうる。
【0057】
標的細胞内部のナノ粒子のデリバリーおよびクラスター化を与える、二段階ターゲッティング方法もまた提供される。第一の段階では、高濃度のナノ粒子が細胞外膜へ、細胞内のナノ粒子のエンドサイトーシスを防ぐモノクローナル抗体および特異的染色条件を用いて与えられ、細胞は4℃の低温に維持されている。第二の段階では、エンドサイトーシスの過程を刺激するため、未結合のナノ粒子を細胞懸濁液から洗浄除去後に、温度が37℃へ至適時間間隔約30分間にわたって上昇される。ナノ粒子はそれによって細胞外膜から細胞内部へ、細胞膜での小胞の形成を含むエンドサイトーシスによって送られる。互いに近接しているいくつかのナノ粒子がその時、細胞 膜にて出現する小胞によって捕捉され、それが次いでナノ粒子を細胞内部へ送る。結果として、ナノ粒子は小胞内で空間的に濃縮され、および細胞内でのナノ粒子の空間分布が、クラスターに相当する。小胞は細胞内に長時間にわたって存在でき、そのことはLANTCETの以降の段階の実施を可能にする。また、小胞はナノ粒子を、ナノ粒子の濃縮がさらに起こりうる他の特定の細胞成分へ送ることができる。
【0058】
エンドサイトーシスは普遍的な輸送機構でありおよび小胞は任意の型の細胞で出現するため、この手順は、任意の型の細胞に適用可能である。標的細胞中でのナノ微粒子クラスターおよび単一ナノ粒子の出現は、電子顕微鏡によって可視化されうる(44)。細胞といった正常体または微小構造の非特異的ターゲッティングを回避するため、ターゲッティングチャンバー中の温度は好ましくは4℃へ低下される。使用したターゲッティングベクターに対する特異的受容体を持たない細胞では、ナノ粒子の蓄積は最小または起こらなかったことが本明細書で実証される。
【0059】
ナノ粒子の投与
ここで提供される方法および系は、癌細胞または細菌といった、動物または非動物体へ適用可能である。したがって、制限無しに、医学的意義に関しては、たとえば、体はin vivoまたはin vitro標本である可能性があり、および対照は分子またはウイルスまたは細菌でありうる。代替的に、体は、播種性癌細胞、たとえば白血病細胞といったex vivo標本でありうる。生体はヒトまたは非ヒト生体である可能性があり、および対照は生物である可能性がありおよび特定の組織、細胞または微生物を含みうる。たとえば、検出された対象は、ヒト生体中の腫瘍または、ヒトに対して有害である細胞またはウイルスでありうる。
【0060】
異常体または細胞は、除去を目的とするLANTCET処理の対象であり、異常体においてナノ微粒子のクラスターを形成するために、二次モノクローナル抗体または他のベクターの受容体としてさらに使用されうる特異的一次モノクローナル抗体または他のベクターで前処理されうる。当業者は、癌受容体に対するターゲッティングベクターが、ナノ粒子の標的体への選択的デリバリーだけでなく、直接の治療目的のためにも使用されうることを認識できる。そのような結論は、癌細胞の表面上のタンパク質受容体へ結合したモノクローナル抗体といったターゲッティングベクターは、それらの受容体の不可欠の機能を無効にしおよびそれによってそれらの癌細胞を殺す可能性があるという理解を伴う。
【0061】
そのような治療的作用の一例が、乳癌細胞および他の種類の癌で過剰発現されるHER2/neu遺伝子に随伴する受容体に対して作製された、ハーセプチンの名称で販売されるモノクローナル抗体トラスツズマブである。ハーセプチンは、転移性乳癌の治療に用いられ成功している(42)。ここで開示される通り、異常細胞のレーザー活性化ナノ熱分解は、標的細胞上の不可欠な受容体に対して作製された一次モノクローナル抗体または一次ベクターを用いた標的細胞の前処理によって促進されうる。ターゲッティングベクターの、以前に開示された治療的作用に関連して、本発明で開示されるナノ微粒子もまた抗癌剤として使用されうると考えられる。加えて、設計されたナノ微粒子は、腫瘍細胞に対するそのようなナノ微粒子の毒性を増大する薬剤分子を入れることができる。ターゲッティング手順が、正常細胞におけるナノ微粒子蓄積が無いことを可能にする場合、そのような添加が非常に望ましい。
【0062】
ヒトまたは非ヒト体を造影するためには、治療上の必要に応じて、多数の適用様式が可能である。治療剤の投与は、全身または局所でありうる。投与は、経静脈、経口、局所、または、ヒトまたは非ヒト組織または細胞への薬剤の直接投与によって実施されうる。ナノ微粒子剤の局所投与は、局所施用によって、カテーテルを使って、坐剤を用いて、またはインプラントを使って、またはナノ微粒子の標的体(細胞)とのin vitroでの混合によることができる。局所投与の他の手段は、当業者に明らかとなる。
【0063】
さらに、コントラスト剤は、温熱施用、すなわち臓器または別の体部分の局所温度の人工的上昇と組み合わせて投与されうる。温熱療法は、成長する腫瘍の脈管系の毛細管を通るナノ粒子の通過を加速する(43)。温熱療法はまた、細胞膜における孔およびチャンネルの拡大を通じて、他の種類の疾患組織および細胞によるナノ微粒子の取り込みを促進する。
【0064】
温度を上昇させる多数の異なる手段のいずれも可能である。これらは、恒温槽の適用、集束超音波、マイクロ波またはRF照射の使用を含むがそれらに限定されない。これらの加熱手順のいずれかまたはすべてが、コントラスト剤が適用される間に積極的に使用されうるか、または、代替的に、加熱はコントラスト剤の投与の最大24時間前に実施されうる。
【0065】
電磁放射
ナノ微粒子は、体の治療のために、体を取り巻く媒質へ投与される。好ましくは、ナノ微粒子は少なくとも部分的に金属性であり、約1ないし約1000ナノメートルの範囲の最小代表長さを有する成形非球形であり、および、ナノ微粒子にまたは体に、ナノ微粒子の非存在下で照射された体が生じうるよりも大きい、電磁放射を吸収および熱エネルギーを蓄積する能力のある成形組成物を有する。
【0066】
本発明にしたがって、電磁放射は体に向けられる。その電磁放射は、X線からラジオ波を包含する約1nmから約1mの範囲の特定波長または、波長のスペクトルを有する。より好ましくは、波長または波長スペクトルが、ナノ微粒子の最小代表長さより少なくとも3倍長くなるように選択された、その範囲は約300nmから約300mmである。さらにより好ましくは、スペクトル域は、市販のレーザーで発生されうる緑色(520nm)ないし赤外(1120nm)波長である。非常に好ましくは、波長の範囲は、組織および細胞が絶対的に最小の光学吸収および散乱を有し、最も好ましい金および銀ナノ粒子が最大の吸収断面積を有する、約650nmないし約900nmの近赤外にある。
【0067】
細長いナノ粒子でできたナノ微粒子は、ナノ微粒子と同一の組成を有する同一の全容積の、一つ以上の非凝集体球状粒子が吸収するよりも多く電磁放射を吸収する。そのような吸収によって、ナノ微粒子は、吸収の結果として生まれる、増大した熱機械的作用を生じる。
【0068】
最も有効および安全なLANTCET手順は、ナノ微粒子クラスター周囲にマイクロバブルを最小のフルエンス、すなわち照射面積当たりエネルギーで、ターゲッティングされた体において発生する波長の電磁照射を用いて実施できる。照射はレーザーを用いて発生されうるが、しかし本発明は、起源にかかわらず、任意の放射源の使用を包含する。代替の放射源の例は、フラッシュランプ、白熱光源、マグネトロン、放射性物質、またはX線管を含むがそれらに限定されない。本発明は、LANTCETにおける、金属粒子または金属の凝集体を含むナノ微粒子の、ナノ微粒子のピーク吸収の波長と一致する波長を有する電磁放射との使用を包含する。
【0069】
有利に、ナノ粒子は金または銀を含み、および照射のための波長は、約520ナノメートルから約1120ナノメートルである。たとえば、照射のための波長は約520ナノメートルから約1120ナノメートルであり、および集合内のナノ粒子は少なくとも部分的に金または銀であり、少なくとも一次元で細長く、および縦横比少なくとも2.0を有する。代替的に、照射のための波長は約520ナノメートルから約1120ナノメートルであり、集合内のナノ粒子は少なくとも部分的に金または銀であり、細長く、および縦横比の二峰性分布を有する。特に、縦横比の分布における一方の極大は約4であり、および縦横比の分布における他方の極大は約7である。縦横比の多峰性分布では、電磁放射は2つ以上の波長の幅を含む。細長い少なくとも部分的に金のナノ粒子の縦横比の二峰性分布についての一例では、一方の波長域は約690ナノメートルから約800ナノメートルであり、およびもう一つの波長域は約800ナノメートルから約1120ナノメートルである。代替的に、同一の波長範囲が用いられおよびナノ微粒子はカーボンナノチューブ、好ましくは単層カーボンナノチューブである。
【0070】
部分的に金属性のナノ微粒子では、その加熱は好ましくは、ナノ微粒子中の伝導性電子によるプラズモン由来共鳴吸収を通じて生じる。適切には、使用する電磁放射はパルスでありおよび近赤外スペクトル域で動作するパルスレーザーから放射される。検出される体とのナノ粒子の相互作用は、選択された波長または波長の幅について、ナノ粒子による吸収極大のシフトを生じる。
【0071】
さまざまなサイズのナノ粒子との電磁パルスの相互作用
好ましくは、LANTCETは、近赤外光に対する組織の相対透明度のために深部組織造影に最も適したスペクトル域である近赤外、すなわち620〜1120nmに吸収ピークを有する細長い金または銀ナノ粒子を利用する。NIRに吸収がある金ナノ楕円または細長いナノ角柱、ナノシェル、および他の金属ナノ粒子は、限られた量で、実験室において製造されうる(45−47)。したがって、ナノ微粒子として市販される球状ナノ粒子は、レーザー活性化ナノ熱分解を用いる腫瘍細胞の選択的アブレーションの実行可能性を示すために用いられる。ここに与えられる開示は、当業者がさまざまなナノ粒子についてその光学および熱特性、形状および寸法に基づいてLANTCETの結果における変化を予測することを可能にする。
【0072】
図1A〜1Bは、金および銀ナノ楕円(ナノロッド)について吸収断面積を、別に詳細に記載(39)される式を用いて、直径の関数として示す。当業者は、ナノ楕円によって吸収される総光学エネルギーが最初は直径の三乗と共に増加、すなわちこれらのナノ粒子の容積と比例し、およびその後、直径の二乗と共に増加、すなわちナノ粒子の面積と比例することを理解できる。
【0073】
周囲の水の層を蒸発させる、ナノ粒子の過熱は、マイクロバブルを生じうる。驚くべきことに、マイクロバブルは、約10nmから約100nmといった小さなナノ粒子の周囲には、これらのナノ粒子を最大100℃すなわち水の沸点まで、および最大374℃すなわち水の臨界温度までさえ加熱する光学フルエンスを用いて、発生できないことがここで発見された。極めて高いフルエンスのパルス電磁放射を用いてさえ、光学顕微鏡で見えないナノバブルしか発生できない。吸収されるエネルギーをさらに増加させると、その小さいナノ粒子は蒸発し、および水系懸濁液から消失する。より大きいナノ粒子(>100nm)についてさえ、可視マイクロバブルを発生するのは統計的に困難である。
【0074】
そのような現象の理由は、容積の小さいナノ粒子は、測定可能な時間にわたって懸濁液中で持続しうるマイクロバブルを生じるのに必要な量の水を蒸発させるには不十分な、限られた量の熱エネルギーしか蓄積できないことである。そのような作用には二つの主な物理的理由がある。まず、バブル半径に反比例する強い表面張力が、一定の半径より小さいバブルについて表面張力を非常に強くする。次に、水の粘度が小さいナノバブルに対して極めて強い力を与え、それによって小さいナノバブルのマイクロバブルへの成長を妨げる。したがって、ナノ微粒子クラスターが電磁放射から熱エネルギーを蓄積するのに十分なサイズおよび質量を有する場合のみ、ナノ微粒子クラスターを温度100℃ないし374℃に加熱するエネルギーフルエンスを用いて蒸気のマイクロバブルを生じることが可能である。至適実験条件下でのこのエネルギーフルエンスは、正常細胞について安全でありうる。ナノ粒子クラスターの非存在下では、必要なエネルギーフルエンスは、正常細胞について安全でない、1J/cmよりはるかに高くなる。
【0075】
さまざまな形状の加熱物体についての熱拡散モデルと共に、金ナノ粒子吸収について公知の絶対値を用いて(48)、ナノ粒子またはナノ微粒子クラスターを、水の沸点100℃、または374℃付近の水の臨界温度まで加熱するために必要な最小レーザーフルエンスについて推定できる。レーザーパルスを用いた照射に際して、金ナノ粒子内部での熱拡散がピコ秒のスケールで起こる。したがって、金ナノ粒子は、LANTCETに適した典型的なQスイッチレーザーのパルス幅5nsから50nsを用いて均一に加熱される。
【0076】
熱拡散時間とは、ナノ粒子に保存された熱エネルギーの約2/3が、周囲媒質へ移動するのに必要な時間である。ナノ粒子、またはナノ粒子のクラスターからの周囲水への熱拡散時間は、ナノ粒子のサイズdおよびその形状に応じて、ナノ秒未満ないし数十ナノ秒のスケールで起こる(48):
【0077】
【数2】

【0078】
式2a、2b、2cで、χ=1.3・10−3cm2/sは、室温での水の熱拡散率である。レーザーパルス中の、すなわち粒子が同時に光を吸収しおよび熱を放散する際の、ナノ粒子の温度上昇を説明する式は、下記の形で表すことができる(13):
【0079】
【数3】

【0080】
ここでF[mJ/cm]は入射(ナノ粒子上への)レーザーフルエンスであり、およびσaNPはレーザー照射の波長での球状金ナノ粒子によるプラズモン由来吸収であり、VNPは照射されているナノ粒子の容積であり、ρNPはナノ粒子材料の密度であり(金についてはρg=19.3g/ml)、CNPはナノ粒子材料の熱容量であり(金についてはCg=0.128J/g0K)、τHDは金から水(周囲媒質)への有効熱拡散時間である。式(3)が示す通り、電磁パルス(レーザーパルス)エネルギーの有効利用のためには、パルス持続時間は熱拡散時間τHDよりも短くなければならない。長さ10〜100nmの好ましいナノ粒子について、典型的な熱拡散時間は、ナノ秒の範囲にある。したがって、持続時間3〜10nsのQスイッチレーザーからの近赤外線の電磁パルスは、好ましいパルス持続時間の一例となりうる。
【0081】
時には、しかし、コスト削減のために、パルス光源は連続波源で置き換えられている(11,16)。腫瘍細胞と正常細胞との間のコントラストが顕著な場合には、当業者は成功する処理手順を、連続波(長さ1秒を超えるパルス)を用いてさえ設計できる。にもかかわらず、熱源から周囲組織への熱拡散の時間と等しいかまたはそれより短い持続時間を有する短パルスは、はるかに有効な熱機械的相互作用および損傷作用のはるかに良好な空間的閉じ込めを結果として生じる(2−4)。
【0082】
式(3)は温度が100℃に達するまで真である。その後、任意の追加の吸収エネルギーは、粒子周囲の水の蒸発、および粒子の100℃を上回る加熱に寄与しうる。式(1)に室温と水の沸点との間の差ΔT=800Kを用いて、吸収ナノ粒子の周囲での蒸気バブルの発生に必要な最小光学フルエンスが計算されうる。
【0083】
たとえば、球状金ナノ粒子の直径がd=200nmであるとする。この粒子から水への熱拡散時間は12.8nsに等しい。次に持続時間12.8nsの典型的なレーザーパルスについて、式(3)はF=0.6mJ/cmを与え、これはその球状金ナノ粒子を100℃へ加熱するのに必要な臨界フルエンスである。0.6mJ/cmより大の任意のフルエンスは、ナノ粒子周囲の水の過熱およびおそらく蒸発を結果として生じることが予測されうる。蒸発は少なくともナノ粒子周囲の脆弱なナノバブルの段階では、ナノ粒子がさらに加熱されるのを妨げないとすれば、直径200nmのナノ粒子における374℃への温度上昇に相当する光学フルエンスは、2.6mJ/cmに等しい。これは、水の蒸気への変換が直ちに起こる温度である。
【0084】
驚くべきことに、しかし、レーザー照射のフルエンスのこのレベルではバブルは検出されなかった。図3は、光音響シグナルの大きさを、レーザーフルエンスの関数として示す。2.6mJ/cm2にて、水の熱弾性膨張を示す典型的な線形曲線から逸脱は生じない。これは、光学フルエンスのこのレベルではマイクロバブルが生じないことを意味する。ナノバブルがもし生じる場合は、それらは光音響シグナルに、または体周囲への熱機械的損傷に寄与できない。
【0085】
図3に示す結果、および上記の計算は、マイクロバブル発生の閾値は、ナノ粒子のサイズの増大に伴って低下すべきであることを示す。一方、プラズモン共鳴による電磁放射の非常に強い吸収は、大きいナノ粒子、たとえば、マイクロ粒子によって失われうるが、なぜならプラズモン共鳴理論はナノ粒子のサイズが電磁波長より小さくなければならないことを必要とするためである。さらに、マイクロ粒子は臨床的見通しから実際的でなく、なぜならこれらの粒子は水に懸濁されるには大きすぎ(重すぎ)、および生物細胞および組織を通って伝搬できず、このことは細胞または他の生体へのこれらの型の粒子のターゲッティングを困難または不可能にするためである。これらの検討事項に基づいて、細胞を有効にターゲッティングするために、および次いで低いフルエンスレーザー放射によって蒸気マイクロバブルを有効に発生するために、ナノ粒子のクラスターが使用されうる。理想的なサイズのクラスターが標的細胞内で選択的に形成されうる場合は、細胞損傷に必要なレーザーフルエンスはわずか数mJ/cmの範囲内となり、これは正常細胞および組織について絶対的に安全である。
【0086】
図4は、金ナノ粒子のレーザー照射されたクラスターからのマイクロバブル形成の閾値を実証する。ターゲッティング手順が設計され、それは結果として、約10個の直径30nmのナノ粒子のクラスターの蓄積を、標的腫瘍細胞であるヒトB−リンパ芽球内に生じた。細胞損傷の閾値フルエンスは、光熱検出によるマイクロバブルの観察によって確認され、約100mJ/cmであったことが見出され、これは直径200nmの個別の金ナノ粒子について観察されたより50〜60倍小さく、および同じ直径30nmナノ粒子を用いて非特異的にターゲッティングされた細胞についての細胞損傷閾値より30倍低い。マイクロバブル発生閾値および細胞損傷の閾値の両方が、クラスターが細胞内に観察されなかった場合よりも常に有意に高かった。
【0087】
金および銀ナノロッドの吸収係数を示す図1A〜1Bおよび式(1)、(2b)および(3)は、ナノ回転楕円面についてナノ粒子温度の推定を可能にする。直径20nmおよび長さ100nmの金ナノロッドを仮定する。その吸収断面積は8.5x10−10cmであり、すなわち直径200nmの金ナノスフィアの吸収断面積にほぼ等しい一方で、その容積はそのナノスフィアの容積より200倍小さいだけである。等しい容積の金ナノスフィアと比較して、金ナノロッドの顕著に強い光学吸収は、蒸気バブル形成に必要な温度へナノロッドを加熱するために必要な最小レーザーフルエンスの劇的な低下を結果として生じる。したがって、近赤外線に誘導されるマイクロバブルの発生には、球状金属ナノ粒子のクラスターよりも、細長い金属ナノ粒子のクラスターが好ましい。図2は、実際の金ナノロッドの実験的に測定された光学的特性が、理論的に計算されたものと非常に近いことを示す。
【0088】
ナノテクノロジーにおける近年の発展は、さまざまな形状および寸法を有するナノ粒子の設計を可能にし、それによって造影用および治療用ナノ微粒子の開発を円滑にする。金コロイドは、治療応用に用いられてきた不活性材料であるため、特に魅力的である(49−50)。金ナノ粒子の静脈注射に際して、LANTCETのバックグラウンドノイズの起源になりうる未結合のナノ粒子は、肝臓および細網内皮系の他の器官によって循環血プールから迅速に除去されうることは特筆すべきである(51)。
【0089】
要約すると、電磁放射の総吸収エネルギーは、ナノ微粒子の容積に比例する。したがって、前記ナノ微粒子に保存される総熱エネルギーもまた、その容積に比例する。熱拡散速度は、ナノ粒子寸法の二乗に伴って低下する。マイクロバブル発生の確率は寸法に反比例する、すなわち、表面張力、およびバブル発生に強く影響する粘度は、ナノ粒子の寸法の二乗に比例する。これらの因子は、LANTCETに使用されうるナノ微粒子クラスターが形成されてマイクロバブル形成の閾値を低下させることを要する。
【0090】
リアルタイム造影および監視
Lapotkoら(21−23)は、サイズを検出するための方法を含む、マイクロバブルまたは加熱された領域といった、いくつかのサブミクロン不均一性の試験を同時に可能にする、体、たとえば細胞の像を得るための方法および装置を教示する。細胞直径よりも大きい、相対的に大きい試料表面が、ポンプレーザー放射に曝露される。表面のサイズは、使用するポンプレーザービームの波長を上回る。実際、任意のサイズの表面が照射されうるが、しかし、論理的に、そのサイズは試料自身のサイズを超えることはできず、なぜなら選択されたプローブレーザービーム直径は、ポンプレーザービーム直径より小でなくまた等しくもなく、および試料の最大全体寸法以下であるためである。
【0091】
照射ゾーン内の、たとえばバブルといった、吸収不均一性の空間分布は、プローブレーザービームの断面全体にわたる回折限界位相分布の同時測定によって決定され、位相差法によって振幅像に変換される。ポンプレーザービーム波長より大の、個々の微小不均一性のサイズは、振幅像構造を分析することによって決定される。振幅像は、ポンプレーザーによって誘導された屈折率変化分布に相当する。
【0092】
波長より小さい微小不均一性の平均サイズは、サイズに依存する、冷却の特性時間によって間接的に測定される。その測定は、異なる時点でのプローブレーザービーム断面積のさまざまな点でのそれらの微小不均一性の回折限界像の位相変化の速度測定に基づく。選択された照射期間は、観察される微小不均一性の冷却の特性時間よりもはるかに短いため、測定は、ポンプレーザー照射が行われた直後に開始する。
【0093】
短時間照射は、二つの方法によって実施されうる。第一の方法は、単一のレーザーパルスを用いる。作用の期間を決定するのは、パルスの持続時間である。通常は1より大の孔隙率で、パルス周期モードもまた、この作用を提供できる。第二の方法は、数kHzないし数百MHzの範囲の相対的に高い変調周波数で強度変調された連続レーザーポンプ放射を用いる。この場合、単一作用の持続時間は、変調半周期によって決定される。この作用は、レーザー変調周波数によって決定される頻度で反復する。冷却の時間に関する情報は、ポンプレーザービーム時間位相に関連するプローブレーザービーム時間位相によって伝えられる。
【0094】
いくつかの種類のプローブビーム作動が使用されうる。たとえば、ポンプレーザービームの一部が、プローブビームとして使用されうる。プローブビームを追加の光学遅延線を通じて伝搬することは、その遅延時間を主ビームと関連して調節する。選択されるプローブビーム強度は、測定結果に対する作用が最小となるように、主ビーム強度よりも相当に(少なくとも5〜10倍)低くするべきである。
【0095】
個別の微小不均一性のスペクトル特性に関する情報をそれらのサイズと同時に得られるように、ポンプレーザー波長の関数におけるプローブレーザービームの位相分布を測定すべきである。前記測定は、各ポンプレーザー波長におけるポンプビームパルスに関連する少なくとも二つの時間遅延によって達成されるべきであると示唆される。ポンプビームによって誘導される、微小不均一性の動的変化またはマイクロバブルは、一方がポンプパルス操作の直前に得られおよび他方がパルス操作と同時または遅延して、後で除算して得られる、少なくとも二つの位相像を変化させることによって検討される。これは、測定精度が低いため、一つの像だけを用いては確認が困難である像構造の有意でない変化が存在する場合に、特に重要である。
【0096】
LANTCET法については、位相差の追加の光学系が、プローブビーム断面における位相分布を振幅像へ変換する光学変換ユニットとして用いられる。記録ユニットは、ポンプレーザーパルス操作の時点に関連したさまざまな時点でのプローブビームの振幅像を記録するための、パルスモードの高速多チャンネル光検出器、たとえばCCDマトリクスである。他の種類の記録ユニットは、プローブビームの振幅像において一または数個のゾーンについて時間振幅変化を記録するのに用いられる、いくつかの一チャンネル光検出器である。プローブビームは、プローブビームの途中に位相差系の後に配置された鏡の半透明系のため、すべての検出器に同時に当たる。別の解決法は、追加のスイッチユニットを用いる、前記検出器の連続的な空間移動である。
【0097】
波長より相当に小さい微小不均一性の検討のためには、根本的解決法は、互いに、ポンプレーザーユニット、プローブレーザー生成ユニット、および記録ユニットと接続した同期化ユニットおよび時間遅延調節ユニットを導入することである。段階的調節された遅延は、プローブレーザーおよびポンプレーザーパルス方式を用いる場合、不均一性の平均サイズを推定するための、ポンプパルスによって加熱された吸収不均一性について冷却時間の正確な測定を提供する。プローブレーザーの連続モードを用いる場合、ポンプレーザーパルス操作の時点にてプローブビーム位相監視を切り替える同期ユニットが用いられる。
【0098】
強度変調を伴うポンプレーザーの連続モードでは、装置はポンプビーム分配の経路に設置された追加の強度変調ユニットを含む。屈折率変調によりポンプ放射によって引き起こされる連続プローブビーム変調の記録は、プローブビームの光検出器または多チャンネル光検出器に接続された同期積算ユニットによって提供される。そのユニットはまたポンプビーム変調器からのシグナルも受信する。ポンプレーザー(時間)位相についての必要な情報がそのシグナルによって運ばれる。
【0099】
ポンプ放射がプローブビーム機能を同時に達成する、一チャンネルモードもまた提供される。この場合は、ポンプビーム断面における位相分布自体が記録される。光検出器の前でポンプビームをカットするフィルターは、この体型に従うには除去されなければならない。ポンプレーザービームを主ビームおよび補助ビームに分割する系が、ポンプレーザーの一部をプローブビームとして使用するために、ポンプビームのポンプレーザーから来る経路に導入され、補助ビームがプローブビーム機能を達成する。時間遅延ユニットと接続された光学遅延線が、プローブビームの経路に導入される。
【0100】
プローブビーム生成ユニットは、同期化ユニットと接続された連続レーザーとして、および時間遅延ユニットと接続されたパルスレーザーとしての両方で実現されうる。観察される試料について三次元プローブビーム回転ユニットを、三次元断層像を得るために導入すべきである。別の形は、試料自身の回転ユニットを導入することであり、ここで回転ユニットは同期化ユニットと接続される。装置はまた、光検出器、同期化ユニット、および時間遅延ユニットと接続された、画像処理ユニットを装備されうる。その機能は、さまざまな時点での画像比較を含み、およびもう一つは光熱像および通常の光学像の比較である。
【0101】
本装置は、ポンプレーザーユニットと接続されたポンプビーム波長変化ユニットが追加で装備される。レーザー波長変化を提供するためには、さまざまな方法が使用されうる。これらの方法は、活性素子に対する温度および圧力の影響;プリズム、回折格子、干渉フィルター、または他の適用可能な素子の形で、ポンプレーザー共振器内のスペクトル素子を用いることを含む。
【0102】
LANTCETは、吸収性微小不均一性を含む物体がプローブレーザービームで照射された時に開始し、ここで選択されたプローブビーム直径は、ポンプビーム直径以上でありおよび試料の最大全長以下である。プローブビームの強度は、測定結果に及ぼす作用が最小となるように、ポンプビーム強度よりも相当に、すなわち、少なくとも5〜10倍、小さくするべきである。断面全体にわたるプローブレーザービーム位相の回折限界分布は、次いで、位相差法を用いて振幅像に変換される。像のプローブビーム位相φ0(x,y)および位相に対応する振幅I0(x',y')の得られた値は以降の分析の基礎となる。
【0103】
次の段階は、吸収性微小不均一性を含む物体の、短パルス幅および微小不均一性の吸収線に一致する波長を有する集束ポンプレーザービームによる照射である。ポンプパルスは、表面のサイズが使用されるポンプレーザーの波長よりも大きい、相対的に大きい試料表面を直ちに照射する。実際、表面は任意のサイズでありうるが、しかし論理的に、試料自身より大きくはなりえない。そのような作用が起こる場合は、試料における光エネルギー吸収は均一でない:微小不均一性が光を最も活発に吸収する。したがって、生細胞はさまざまな吸収構造、たとえば、チトクロム、オルガネラ、およびミトコンドリアを有し、そのサイズは数nmから数百nmまでさまざまであり、すなわち、細胞の平均サイズ(5〜20ミクロン)よりも相当小さい。しかし、それらが光を吸収する能力が高いため、細胞の環境の温度よりも10〜1000倍高い温度上昇を生じる熱作用を引き起こす。吸収した光エネルギーを有する構造の冷却は、ポンプパルス操作の終了後に熱拡散によって開始する。
【0104】
単一の球状物体について冷却時間は次の通りである:
【0105】
【数4】

【0106】
ここでtTはその物体の冷却の時間(秒)であり;Rは物体の半径mであり;およびKはthe温度伝導度係数(m2/c)である。
【0107】
この時間は、血球の大部分について、10−5〜10−4秒に等しい。
【0108】
一次熱応答は、x軸およびy軸にわたる温度の分布として表すことができる:
【0109】
【数5】

【0110】
ここで
ΔTはx軸およびy軸にわたる温度の分布であり、
αはその波長での光エネルギー吸収係数であり、
ρは密度kg/mであり、
εはポンプビームにおけるエネルギー密度J/mであり、
Cは熱容量J/kg℃である。
【0111】
式4および5は、全体としての対象(細胞)について、およびその構造要素すなわち吸収不均一性についての両方の、温度作用推定に役立つ。作用の強度は、特異的吸収係数および不均一性のサイズに依存する。tTは、波長(10−7〜8m)より小さいサイズのサブミクロン構造について約10−8以下である。それは、局所温度の顕著な上昇は、ポンプパルス幅または変調周期T=1/f(ここでfは変調周波数である)がtTより小かまたは少なくとも同等である場合のみ達成されうることを意味する。でなければ、局所温度作用は、屈折率の局所熱変動のまさに起源であるが、達成されない。ポンプパルス吸収によって誘導される屈折率の局所熱変動Δn(x,y)は下記の通り表すことができる:
【0112】
【数6】

【0113】
ここで
αはその波長での光エネルギー吸収係数であり、
ρは密度kg/mであり、
εはポンプビームにおけるエネルギー密度J/mであり、
Cは熱容量J/kg℃であり;および
Tは温度である。
【0114】
さらなる段階は、加熱された吸収微小不均一性を含む対象を、プローブレーザービームで照射することを含み、ここで選択されたプローブビーム直径はポンプビーム直径以上および試料の最大全長以下である。プローブビームの強度は、測定結果に及ぼす作用が最小となるように、ポンプビーム強度よりも相当に、すなわち、少なくとも5〜10倍、小さくするべきである。プローブビーム波面の位相は、プローブビームが試料を通じて伝搬する際に、屈折率の局所熱変動から歪められる。位相偏移φΔ(x,y)は下記の通り表されうる:
【0115】
【数7】

【0116】
ここで
Lは不均一性中のプローブビーム路の幾何長さであり、
nは屈折率であり、
Δnはx軸およびy軸上の屈折率変動であり、
αはその波長での光エネルギー吸収係数であり、
ρは密度kg/mであり、
εはポンプビームにおけるエネルギー密度J/mであり、
Cは熱容量J/kg℃であり;および
Tは温度である。
【0117】
さらなる段階では、断面全体にわたるプローブレーザービームの回折限界位相分布は、位相差法を用いて振幅像に変換される。非励起状態で以前に得られた値φ0(x,y)およびI0(x',y')を考慮して、励起された試料を通じて伝搬されたプローブビームの時点t0でのパラメーターは下記の通り表されうる:
【0118】
【数8】

【0119】
ここで
φ0(x,y)は、非励起物体の吸収ゾーンにおけるプローブビーム位相であり、
Δφ(x,y)は、非励起体の吸収ゾーンにおけるプローブビームの変化であり、
【0120】
【数9】

【0121】
ここで
I0(x',y')は非励起状態における光熱シグナルの振幅であり、
S(x',y')は記録および分析に供されるために必要な光熱シグナルである。
【0122】
ポンプレーザー波長より大きい個々の微小不均一性のサイズは、ポンプレーザー操作の時点に直ちに測定されおよび観測される物体中にポンプレーザーによって誘導される屈折率変化分布に対応する、振幅像の構造分析を用いて決定される。波長より小さい微小不均一性の平均サイズを決定するには、プローブビーム断面のさまざまな点での、前記微小不均一性の回折限界像の位相変化速度を、測定すべきである。測定は、ポンプパルス作用が起こった直後に開始する。これを達成するために、対象のプローブビーム照射および位相ひずみ分析が数回、たとえば2つの時点にて実施される。
【0123】
この方法の理論的限界は、光学エネルギーの熱エネルギーへの変換の終了時間によって制約され、それは濃縮された媒質について10−13秒である。この時間は1Åに相当し、およびフェムト秒レーザーを用いて達成されうる。光熱シグナル振幅Sは、吸収ゾーンにおける温度変化に比例し、および熱伝導度のために減少する。
【0124】
米国特許第5,840,023号明細書は、コントラスト剤を用いた光音響像の取得を教示する。この方法では、照射の短パルスに次いで、誘導された圧力波の検出を行い、それが次いで像の生成に用いられる。本発明の実施において、電磁放射のパルスは好ましくは約10nsから約1000nsの持続時間を有する。造影すべき組織が固形板状組織でシミュレートされる場合、板の表面の放射フルエンスは約10mJ/cmである。被験試料の他の構成について、またはヒトまたは非ヒト生体については、表面フルエンスは変動するが、しかし常に、一般的に安全と考えられる、約1から約100mJ/cmの範囲にある。
【0125】
加えて、光熱および光音響造影の両方が、同時にまたは連続的に、ナノ微粒子およびそのクラスターとのパルスレーザー相互作用をLANTCET手順の過程で監視するために利用されうる。監視方法は、ナノ微粒子の周囲に発生する熱場、熱レンズおよびバブルの光熱造影および顕微鏡、光学および光音響検出を含みうる。造影は、ナノ微粒子の投与中、投与直後、または標的細胞または他の体内でのその物質の蓄積を可能にするためにいくらか後の時間に行いうる。
【0126】
LANTCET系
図5Aは、腫瘍細胞を除去するための、レーザー活性化ナノ熱分解のLANTCET法を利用する系の設計を示す。たとえばそのような系は、バイオ複合体化ナノ粒子を含むかまたは蓄積する細胞が、体外、すなわちヒトまたは動物体の外で照射されうる、血液透析系の改変でありうる。系10の主な構成部品は、細胞チャンバー1、ターゲッティング部分源2、たとえば、モノクローナル抗体またはペプチド、およびナノ微粒子3、光学チャンバー4、たとえば光学フローキュベット、電磁放射のパルス源5、および損傷的熱機械的作用の産物の選別手段(filtering means)6および回収手段7、たとえば、血液吸着系または同様の系である。細胞チャンバー1は、ターゲッティングナノ微粒子源2、3、光学チャンバー4および選別手段および回収手段6、7と独立に流路接続されている。電磁放射のパルス源5は、光学チャンバー4内の細胞を照射するように配置される。必要に応じて、光熱シグナルを受信するためまたは光学チャンバー4内の細胞に影響を与える熱機械的作用の光学像を生成するために、造影装置8が配置される。
【0127】
系は、バイオ複合体化ナノ粒子が細胞チャンバー内の細胞を選択的にターゲッティングでき、それによってナノ微粒子クラスターが細胞内に蓄積するように構成される。ナノ微粒子クラスターを含むターゲッティングされた細胞は、光学キュベットへ流れ、そこでレーザーまたは他の電磁パルスで照射される。レーザーパルスはナノ微粒子を加熱し、その熱が後でマイクロバブル形成を誘導する。マイクロバブルの形成は、選択的な熱機械的損傷およびそのレベル上昇を引き起こす。必要に応じて、造影装置は、レーザー誘導マイクロバブルによる細胞ナノ熱分解の過程を監視および/またはターゲッティングされた細胞に対する損傷的熱機械的作用を監督しうる。
【0128】
図5Bは、光熱顕微鏡による同時監視および誘導を伴うLANTCETの模式図を示す。図中(1)細胞の混合物が、標的受容体へ選択的に結合しおよびクラスターを形成するMAB複合体化金ナノ粒子で染色される(右);(2)細胞が、ナノ粒子のクラスター周囲にバブルを誘導するレーザーパルスで照射される;(3)バブルはナノ粒子でターゲッティングされた細胞だけを破壊し、およびターゲッティングされていない細胞(左)は未変化で残る;および(4)光熱像は、ナノ粒子を負荷されたパルスレーザー照射前の腫瘍細胞、およびレーザーパルスで破壊された細胞の断片を示す。
【0129】
下記の実施例は本発明のさまざまな実施形態を説明する目的で示され、およびいかなる形でも本発明を限定しないことが意図される。
【実施例】
【0130】
実施例1
培養標的細胞のレーザー活性化ナノ熱分解
細胞の調製
いくつかのin vitroモデルが、K562細胞株の骨髄性細胞を用いて試験された。これらのモデルは、ナノ粒子を細胞へ結合するために異なる手順を使用した。被験試料は、ナノ粒子を用いた白血病細胞の選択的 ターゲッティングを用いて調製された。濃度800,000/mlのモデル白血病細胞を含む1%ウシ胎仔血清(FBS)含有リン酸緩衝液(PBS)を、一次モノクローナル抗体CD15およびグリコフォリンA(各20μl/ml)と30秒間振とうして暗所で4℃にて前インキュベートした。インキュベート後、細胞を300Gにて4分間遠心分離しおよび2回洗浄した。次いで細胞を再び1時間、二次モノクローナル抗体のヤギ抗マウスIgG(TedPella Inc,Redding,CA)と複合体化された30nm金ナノ粒子2*1010/mlとインキュベートした。次いで細胞を300gにて4分間の遠心分離によってナノ粒子から分離した。細胞の沈澱をPBS−FBS溶液に再懸濁し、および直ちにレーザー実験に使用した。
【0131】
同一の細胞を、4つの対照試料の調製に使用し、ここで対照#1は主対照試料であり、細胞は一次モノクローナル抗体で前処理されなかったがしかし二次モノクローナル抗体と複合体化したナノ粒子でターゲッティングされ、および対照#2は二次対照K562細胞であり、一次と二次モノクローナル抗体のどちらも用いずに金ナノ粒子で非特異的にターゲッティングされ(非特異的ターゲッティング)、および未変化対照#3細胞はインキュベート無しであるが、しかしナノ粒子を含む。追加の対照#4は、細胞を含まないナノ粒子の懸濁液として調製された。細胞生存度を測定するためには、レーザー処理前にストック懸濁液からの細胞の部分標本に対して、およびすべての処理試料に対してレーザー処理後に、トリパンブルー色素を通常の手順に従って使用した。対照#1〜3はナノ粒子ターゲッティングの効力の評価のために調製された。
【0132】
レーザー処理手順
LANTCETは2つの様式のレーザー照射で実験的に試験された。両方とも、図6A〜6Bに模式図で示す方法を用いる。第一の様式では、単一細胞が一つずつ照射され、および可能な損傷が直ちに検出された。金ナノ粒子とのインキュベート後、K−562細胞の試料を直ちに、顕微鏡スライドに乗せた試料チャンバー(S−24737,Molecular Probes,OR)に置き、細胞の単層を作った。個々の細胞(計150)を7分以内、長さ10nsの、532nmの単集束レーザーパルスで特異的フルエンスで照射した。この波長では、光はナノ粒子によって強く吸収されるが、しかし細胞には吸収されない。すべての試料を同一のレーザー照射条件に曝露した。
【0133】
レーザー照射されたナノ粒子周囲の蒸気バブルの可視化のために以前に開発された光熱(PT)顕微鏡を使用した。PT顕微鏡は、ナノ粒子周囲のマイクロバブルの検出だけでなく、個々の未変化の細胞の、レーザーに誘導される損傷の、ナノ秒単位の時間分解能でのリアルタイム監視にも使用されうる。いくつかの定量パラメーターを測定した:(i)DP=M/Nとして特異的レーザーフルエンスでの細胞損傷の確率、ここでNは照射された細胞の総量、Mはバブル特異的PT応答を与える細胞の数;DPレベル0.5に対応するフルエンスとして損傷閾値フルエンス。それぞれ個別(計150)の細胞を、1個ずつ532nmの単集束レーザーパルス(持続時間10ns)で照射し、および各細胞からのPT応答を、633nmにてプローブレーザーの出力変化を測定する光検出器で記録した(プローブレーザーシグナルの時間プロファイル)。その後、DPを各細胞試料について計算した。
【0134】
除去についてのLANTCETの実行可能性を、第二のレーザー照射様式を用いてさらに評価した:被験細胞および対照細胞の懸濁液を、フロー角形ガラスキュベットに注入し、および次いで、キュベット内のすべての細胞が同時に照射されるようにレーザーパルスで照射した(一度に細胞約100個)。広いレーザービーム(直径1mm)を0.4x0.1x10.0mmのキュベットに沿ってスキャンした。その手順は各試料について約1分を要した。その後、レーザーに誘導される細胞損傷を、5分間で同一のキュベット内で、光学顕微鏡およびデジタルカメラを用いて調べた。レーザー処理後の細胞生存度の追加の評価は、光学顕微鏡下で、トリパンブルー色素のキュベットへの投与後に実施され、および陽性染色された細胞を計数した。
【0135】
白血病細胞の電子顕微鏡検査
K562細胞内の金ナノ粒子を可視化および計数するために、細胞試料を透過型電子顕微鏡JEM100CX II (JEOL,Japan)を用いて調べた。細胞試料はレーザー処理の直後に固定した。それぞれ細胞の薄切片(60nm)を可視化するEM像中の粒子を計数し(各試料について計30〜40細胞像を処理した)、顕微鏡スライド4つの計数値を平均し、および得られた数字を細胞の全容積へ外挿することによって、細胞当たりナノ粒子の量を推定した。
【0136】
細胞ターゲッティングの選択性および効力の電子顕微鏡を用いた評価
K−562細胞の電子顕微鏡(EM)像(図6A〜6B)は、ナノ粒子が細胞の全容積を満たし、および標的受容体が位置する外膜だけに濃縮しないことを明らかにした。密にまとまった5〜10粒子のクラスターが、一次および二次モノクローナル抗体を用いて選択的にターゲッティングされた細胞で見出された(図6B)。EM像に対応する60nm薄切片で計数されたナノ粒子の数を外挿することによって推定された、細胞当たりナノ粒子の総平均数は、選択的にターゲッティングされた細胞において約31650であった。対照的に、対照でははるかに少ない数のナノ粒子が見出された、すなわち、金ナノ粒子でターゲッティングされたが一次モノクローナル抗体無しの細胞当たり約1500ナノ粒子、および非複合体化金ナノ粒子を用いた直接ターゲッティングについては細胞当たり約200ナノ粒子であった。どの対照試料にもクラスターは観察されなかった(図6A)。白血病細胞の選択的ターゲッティングによって達成された高いナノ粒子コントラスト(被験/対照1の比は21であり、および被験/対照2は158であった)は、高度なLANTCET選択性を約束する:レーザーパルスによってナノ粒子のクラスターを有する細胞だけが破壊されうる一方、他の細胞は損傷されずに残される。
【0137】
レーザーアブレーションによる細胞除去技術
第一の照射様式を用いて、レーザーパルス(532nm、10ns)に対する個々の細胞からの応答を試験した。細胞間の空き空間から(バックグラウンド)、ナノ粒子を負荷された個々の細胞から(被験および対照)および細胞を含まない単一ナノ粒子の懸濁液からのPT応答が得られた。マイクロバブル発生および細胞損傷は、ポンプレーザーパルスを用いて、図8に示す通りPT応答のプロファイルおよび振幅を分析することによって同時に監視された。試験したすべての試料の中で、金ナノ粒子を用いて選択的にターゲッティングされた細胞だけが、突出したバブル特異的応答を示した(図7C)。これらの細胞はまた、しばしば損傷の明らかな視覚的徴候、すなわち、単一レーザーパルスでの照射後の断片化を示した。
【0138】
持続時間1〜3.5μsのマイクロバブル(図7C)が、被験細胞だけで検出された一方、対照ではそのような長時間のマイクロバブルは、バブル発生の閾値を10倍上回る光学フルエンスでさえ決して観察されなかった。長時間のバブルは、EM像にナノ粒子のクラスターを示した細胞でだけ検出された。我々の観察に対する説明は、先に考察された、加熱されたナノ粒子周囲に発生する蒸気バブルのモデルに見出されうる。レーザー加熱されたナノ粒子の温度は、熱拡散時間とレーザーパルス持続時間の比τHD/τLに比例し、ここで球状ナノ粒子から水系媒質への熱拡散時間は、ナノ粒子直径の二乗と水中での熱拡散係数(χ=0.0013cm2/s)の比τHD=d2/24χとして得られる。熱拡散時間は、直径30nmの単一金ナノ粒子について0.3に等しく、およびこの時間はレーザーパルス長(10ns)よりはるかに短い。
【0139】
そのような迅速な熱拡散は、熱エネルギーを再分配し、および大きなマイクロバブルの発生を妨げるが、なぜならナノ粒子を加熱するためにレーザーエネルギーの0.033倍しか使用されないためである。約5〜20個のナノ粒子から成る直径約200nmのナノ粒子クラスターについては状況は異なる。この場合、レーザーパルスで送られた熱エネルギーのすべてがクラスター容積を加熱するために利用され、最大の損傷力を有するはるかに大きい蒸気マイクロバブルを結果として生じる。ナノ粒子クラスターは、ナノ粒子を金の蒸発閾値(2、600℃)を相当上回り過熱できる光学フルエンス5J/cm2を有する単一レーザーパルスによって破壊される。第一のマイクロバブル発生パルスの後のレーザーパルスはバブルを作らず、およびバブル−特異的PT応答シグナルは第二のおよび以降のパルスについて検出されなかった。
【0140】
対照試料#4(ナノ粒子の無細胞懸濁液)(図7B)および選択的にターゲッティングされた細胞(図7C)から得られたPT応答振幅および寿命(後者は最大バブル直径に対応する)の差に注意するのは重要である。小さい振幅および短い持続時間(0.3μs)のPT応答が検出され、光学フルエンス35J/cm2でさえ、非常に短命のナノバブルだけが金ナノ粒子の懸濁液中で発生したことを示した。対照的に、ナノ粒子で選択的にターゲッティングされた細胞(被験試料)は、バブルがほぼ一桁長時間でおよびしたがってサイズが大きいことを示す、はるかに強いPT応答を生じた(図7C)。バブル寿命およびサイズのそのような増加は、腫瘍細胞へのナノ粒子のクラスターの内部移行によってのみ説明されうる。
【0141】
被験試料および対照試料についての細胞損傷確率DPを、いくつかの異なるレベルのレーザーフルエンスにて分析し、主な統計値を5、35および70J/cm2にて得た(図8)。DPレベル、およびバブル発生についてのレーザーフルエンス閾値は、細胞内のナノ粒子クラスターの存在に依存する。ナノ粒子のクラスターを有しうる被験細胞については、EM検査中にクラスターが見つからなかった対照試料と比較して、DPは上昇しおよび損傷閾値は低下する。たとえば、選択的にターゲッティングされた細胞について損傷確率DPは、フルエンス5J/cm2にてその絶対最大値に達し、一方で対照#1については、同一のフルエンスでわずか0.07であり、および直接ターゲッティングされた細胞(対照#2)についてはDPははるかに高いフルエンス35J/cm2にてわずか0.09であった。選択的にターゲッティングされた細胞(被験)について損傷閾値は、約1〜3J/cmと推定され、これは粒子を含まない同一の細胞(対象#3)の完全破壊のためのフルエンスレベルより30〜100倍低い。したがって、選択的ターゲッティングは、レーザー損傷閾値の顕著な低下、すなわち、未変化のターゲッティングされていない細胞と比較してほぼ100倍、および直接ターゲッティングされたK562細胞と比較して30〜50倍の低下を提供した。PT応答の長さは、0.2μsないし3.5μsと統計的に変動した。最大マイクロバブル直径は、以前に開発された細胞損傷モデルを用いておよび実験的に測定されたバブル寿命に基づいて計算して、20μmに達した。
【0142】
個々の細胞のレーザー照射、およびPT顕微鏡を用いたそれらのリアルタイム監視に加えて、同一細胞の懸濁液全体もまたキュベット中で照射し(第二のレーザー照射様式)、除去手順に対する第一の近似をシミュレートした。この場合、多数の細胞(50〜100)が広いレーザービームで同時に照射された。単一レーザーパルスの損傷作用は、レーザー処理後にキュベット中の細胞の検鏡によって監視された。破壊の視覚的徴候、および染色陽性(トリパンブルーで)を有する細胞を計数した。レーザーフルエンス5J/cmをこの実験に使用した。このフルエンスでは、対照(非特異的にターゲッティングされた細胞)は、単一レーザーパルスで損傷されなかった(図9A)。対照的に、ほとんどすべての選択的にターゲッティングされた細胞は、断片化した標的細胞の目視検査によっておよびトリパンブルー試験によって確認された通り、単一パルス後に破壊された(図9B)。
【0143】
検出されたPT応答は、図9B〜9Cに示す通り、細胞内のバブルによって引き起こされ、および細胞損傷/破壊を示す。後者はまた、細胞崩壊の目視観察(図9B)およびまたそれらの細胞のトリパンブルーでの陽性染色によっても確認された。レーザーに誘導されるマイクロバブルおよびナノバブルが主な損傷因子である。バブル発生は、細胞容積内のいくつかの点で同時に起こりうる。寿命0.5〜10μsの、レーザーに誘導されるマイクロバブルは、サイズが細胞直径に匹敵する可能性があり、および細胞膜を機械的に損傷しそれによって壊死を引き起こしうるが、より小さいバブルもまた、膜を破裂させることなくアポトーシスを誘導しうる。また、あちこちで遊離して、すなわち細胞外で出現するマイクロバブルは、ナノ粒子はそのようなバブルの制限された直径のために、近隣の細胞を損傷できない。この試験における最も驚くべきおよび重要な知見は、同一のレーザーパルスが単一ナノ粒子を含む細胞についておよび未変化の細胞について安全であったにもかかわらず、ナノ粒子クラスターの形成がその周囲でのマイクロバブル形成および細胞破壊を引き起こしたことである。したがってLANTCETは、細胞の高度に選択的な除去を提供しうる。
【0144】
至適バイオ複合体化およびターゲッティング条件は、腫瘍細胞の表面上および内部でのナノ粒子のクラスター化を促進でき、それによって末梢血幹細胞移植片を処理するための除去方法としてのLANTCETの必要な効力および安全性を提供する。たとえば、磁性選別、薬物および光線力学作用といった、金属(磁性)粒子および腫瘍細胞特異的モノクローナル抗体もまた使用するいくつかの除去方法が存在する。現在まで、残存細胞の除去に十分な効力を提供するものは無い。特異的モノクローナル抗体と複合体化されたナノ粒子を用いる選択的細胞ターゲッティング、および光熱顕微鏡によって誘導されるスペクトル選択的パルスレーザー照射の方法の組合せは、残存細胞の高度に効率的な除去、および、それによって、自家骨髄移植の効力および安全性の改善を提供しうると考えられる。
【0145】
低濃度の単一ナノ粒子を用いた細胞の低フルエンスレーザー照射は、アポトーシスおよび遅延細胞死を引き起こしうると考えられる。また、そのような細胞のレーザー損傷閾値は、球状金ナノ粒子を近赤外スペクトル域に例外的に強い光学吸収を有する細長い金ナノ粒子(ナノロッド)または金ナノシェルで置換後に、少なくともいくつかの調整によって、さらに低下されうると考えられる。同時に、近赤外スペクトル域でのレーザー照射は、すべての種類の正常細胞についてはるかに安全である。LANTCETの効力および安全性は、白血病について診療所設定で評価されうる。
【0146】
結論として新規のレーザー活性化ナノ熱分解細胞除去技術がin vitroで、光
を吸収する球状金ナノ粒子、および特異的波長およびエネルギーのレーザーパルスで処理されたモデルK562細胞を用いて実験的に実証された。提案されたターゲッティング理論の選択性は、電子顕微鏡を用いて直接的に検証された。K562細胞の選択的ターゲッティングは、細胞内でのマイクロバブルの発生による、単一レーザーパルスでの細胞の完全破壊を結果として生じた。より低レベルのナノ粒子を含む、およびナノ粒子クラスターを含まない同一の細胞は破壊されなかった。LANTCET法は、白血病細胞のレーザー除去のための究極の選択性、安全性、および制御を提供しうると考えられる。
【0147】
実施例2
LANTCETによる骨髄移植片からのヒト白血病細胞の除去
特異的腫瘍細胞の選択的除去のための本方法は、ナノ粒子を用いる細胞ターゲッティング、および細胞混合物のレーザー照射の、二つの主な段階を含む。光吸収ナノ粒子のクラスターが、主な殺細胞(細胞除去)過程であるレーザー活性化マイクロバブルの起源である。ナノ粒子のクラスターの形成の選択性は、二段階インキュベート手順を用いることによって達成されうる。第一段階で、ナノ粒子は特異的細胞の膜に選択的に結合される。主として標的細胞によって発現される、主に膜受容体に対して特異的であるモノクローナル抗体(MAB)が使用される。それらのMABは一次MAB(MAB1)と呼ばれ、およびそれらが細胞膜の受容体へ最初に結合される。ナノ粒子はまた、MAB1との高い結合効率を有する二次MAB(MAB2)と予め複合体化される。その後、ナノ粒子−MAB2複合体が、細胞−MAB1複合体に添加され、およびインキュベートされ、その結果、最後に細胞−MAB1−MAB2−ナノ粒子のような構造が生じる。
【0148】
残念ながらナノ粒子はまた、非特異的細胞の膜にも結合しうる。まず、MAB1−特異的受容体が低レベルで非特異的細胞で発現される可能性がある。次に、MAB2は、細胞型にかかわらず、別の調節不能な機構によって細胞膜へ直接に結合しうる。結果として、そのレベルは特異的細胞のレベルと比較してはるかに低くなるが、ある量のナノ粒子が非特異的細胞の膜へ結合する(図10A)。したがって段階1の選択性は非常に低く、およびレーザー放射への曝露後に非特異的細胞において予測不能な死を引き起こしうる。
【0149】
第二のインキュベート段階は、ターゲッティングの選択性を改善するために用いられうる。この段階では、インキュベートの温度および時間は、ナノ粒子の内部移行およびエンドソーム内でのその蓄積を介する、細胞におけるナノ粒子の大クラスターの形成を刺激するように設定される。段階2の終了時に、最大のクラスターは、膜結合ナノ粒子の高い初期レベルを有する細胞でだけ(特異的細胞でだけ)形成される(図10B)。非特異的細胞におけるナノ粒子のはるかに低いレベルのため、クラスターは非特異的細胞内部では出現しないかまたははるかに小さいサイズを有する。次の段階では、特異的波長の、およびナノ粒子の最大光吸収に一致するレーザーパルス、エネルギーおよび持続時間が、細胞試料に適用される。この段階の中核概念は、細胞を損傷する蒸気バブルを誘導するための閾値レーザーエネルギーは、バブル源−ナノ粒子のクラスターのサイズに依存することである。レーザーエネルギー(フルエンス)は、最大のクラスター周囲でだけバブル発生を与え、および、より小さなクラスター周囲または単一ナノ粒子周囲ではまったくバブルを誘導しない(図10C)レベルに設定されるが、なぜならバブル発生のための閾値は、バブル源の直径が1マイクロメートル未満である場合はその直径と反比例するためである。この照射様式は、殺細胞の選択性を提供する:非特異的細胞内では、多少のナノ粒子を有しても、バブルは出現しない。記載された手順は、LANTCETの選択性(安全性)を改善しうる。
【0150】
正常および急性リンパ芽球白血病(ALL)と診断されたヒト骨髄(BM)の低温保存試料を正常および腫瘍細胞の懸濁液として使用した。正常および腫瘍細胞は別々の試料として、およびそれらを独自の方法で、ex vivoで同一のMAB1およびナノ粒子−MAB2複合体とインキュベートすることによって調製された。MAB1型は、標準のフローサイトメトリー 手順を用いて、各患者について最高レベルの発現を有する診断特異的MABとして決定された。異なる患者については異なるMABが最高発現レベルを与えたが、しかし各実験について一つだけ:CD10、CD19、およびCD20が使用された。直径30nmのおよびMAB2(ヤギ抗マウスIgG(H+L)(AH))と予め複合体化された標準金ナノ粒子がナノ粒子−MAB2複合体として使用された(#15754,Ted Pella,Inc,Redding,CA)。第一段階で、ナノ粒子は細胞へ4℃にてターゲッティングされた。この温度は、すべての内部移行過程を妨げる。第二段階で、遊離のナノ粒子が洗い流され、および次いで内部移行過程を刺激するために温度が最大37℃へ高められた。その時の細胞濃度は2*106/mlに調整され、およびレーザー処理が適用された。試料は顕微鏡スライド上の試料チャンバー(S−24737,Molecular Probes,OR)内で照射および試験された。
【0151】
個別の細胞におけるナノ粒子の造影および測定
12ビットダイナミックレンジおよびセンサーサイズ1300x1000ピクセルのCCDカメラ(型番U2C−14S415,Ormins Ltd,Minsk,Belarus)を、対物100倍の蛍光顕微鏡(Leica DML,Leica Microsystems,Wetzlar,Germany)と共に使用した。蛍光シグナル振幅は、カメラデジタイザーのカウント(0〜12000)で取得および測定された。抗ヤギIgGと複合体化されたR−フィコエリトリン(PE)蛍光色素(#P9787,Ted Pella,Inc,Redding,CA)がナノ粒子のマーカーとして用いられた。PEの至適濃度はフローサイトメトリーによって決定された。
【0152】
各細胞について光学像および蛍光像が得られた。光学像は細胞直径ならびに外膜および核膜の位置の決定に用いられた。蛍光像は、光熱顕微鏡の一部として以前に開発された特別のソフトウェアを用いて分析された。このように、最大40個のパラメーターが各蛍光像について得られた。それらのパラメーターは、個々の細胞中のナノ粒子の平均レベル、クラスター中のナノ粒子のレベル、ナノ粒子およびそのクラスターの細胞内での空間分布、およびナノ粒子の空間分布の不均一性を分析するのに用いられた。従来の(非共焦点)顕微鏡像は、対物の焦点の深さでの蛍光シグナルの三次元分布の二次元投影である。にもかかわらず、膜型蛍光は容積型蛍光から識別可能であり、および均一蛍光はクラスター型蛍光から識別可能である。
【0153】
光熱実験
光熱実験は、細胞のレーザー照射、およびレーザーに誘導されるバブルの検出を含んだ。使用した二つの実験様式は、単一細胞照射およびレーザーに誘導されるバブルのPT分析、および懸濁液中の多数の細胞の同時照射を用いる懸濁様式であった。第一の様式では、細胞内の蒸気バブルの可視化のために以前に開発された光熱(PT)顕微鏡を使用した。この様式では、単一の細胞が、レーザービームの中央への配置後に一つずつ照射され、およびそのPTシグナルが検出された。照射された細胞への生物学的損傷は、第二の様式を用いて、4000〜20000細胞の同時照射によって試験した。腫瘍および正常細胞の懸濁液を、実際の生存度レベルについてフローサイトメーターで分析し、および直径2.5mmの試料チャンバーに注入し、および次いですべての細胞が同時に照射されるように広いレーザーパルスで照射した。この実験では、広いパルスレーザービーム(直径3mm、532nm、10ns)を使用した。その後、試料をチャンバーから回収し、およびレーザー処理後の細胞生存度を測定するために分析した。
【0154】
細胞損傷検出
レーザーに誘導される損傷は、顕微鏡(血球計算盤での濃度計測)およびフローサイトメトリー(膜損傷検出)によって、レーザー処理の2時間後に測定された。前者の方法は細胞の破壊を検出し、および後者の方法は損傷したが破壊されなかった細胞の壊死を検出した。ヨウ化プロピジウム(PI)を含んだ、膜が損なわれた細胞は、損傷したとみなされた。PI陰性とされた細胞は生存した生細胞とみなされた。生存した生細胞のレベルLLCが、レーザー処理の前および後に、レーザーパルスフルエンス、レーザーパルスの数、および第二段階の細胞インキュベート中のインキュベート温度の関数として測定された。
【0155】
このパラメーターは、レーザー処理による集団中の生細胞のレベルの相対変化を表し、および破壊および細胞死による細胞損失を計測する:
【0156】
【数10】

【0157】
ここでCblはレーザー処理前の試料中の全細胞の初期濃度であり(血球計算盤で計測)、Calはレーザー処理後の試料中の全細胞の濃度であり(共に血球計算盤で計測)、CPI−はレーザー処理後のフローサイトメーターで得られたPI陰性(生)細胞のレベルである(被験細胞中のMAB1陽性細胞について、および対照中の全細胞について)。
【0158】
細胞内でのナノ粒子の蓄積
腫瘍細胞の蛍光像は、二つの型のシグナル:局所ピークおよび均一領域を示した(図11A〜11F)。局所のおよび相対的に強い蛍光ピークは、ナノ粒子と予めインキュベートされた腫瘍細胞の像の大部分に見られた。これらのピークは、細胞膜と(図11C、11E)または細胞質と(図11D、11F)関連していた。ピークにおける振幅(2000〜10000カウント;図11E〜11F)は、均一シグナル(200〜500カウント)を有する細胞領域についてよりも5〜20倍高かった。すべてのピーク関連像は同様の形状を有し、顕微鏡の回折限界に近い、直径0.4〜0.8μmの円形スポットであった。そのような形状および振幅のシグナルは、無細胞領域には決して観察されなかった。そのようなピークは、ナノ粒子のクラスターの証拠と考えられる。他の蛍光シグナル、すなわち、均一な低振幅蛍光の大きな細胞内領域は、細胞内で均一に分布している単一の非クラスター化ナノ粒子によって生じる可能性がある。ナノ粒子クラスターの実際のサイズは、回折限界未満でありうるため、測定できない。蛍光シグナルおよびクラスター関連ピークを示す正常骨髄細胞の蛍光像(記載せず)は、腫瘍細胞について得られた像(図11C)と同様であった。ナノ粒子陽性正常骨髄細胞の合計レベルは同一インキュベート条件について6%以内であったが、残りの正常細胞は、ナノ粒子特異的蛍光を生じなかった。
【0159】
ナノ粒子との細胞インキュベートの第二段階中の時間および温度の影響
インキュベート時間および温度の関数としての、腫瘍および正常細胞におけるピーク振幅および均一蛍光が、第二段階中に測定された。すべての蛍光像は二つの方法で分析された。まず、像パラメーターが各細胞について計算され、および細胞インキュベートの異なる条件についてヒストグラムとしてプロットされた(図12A〜12B)。次に、細胞計数が蛍光像の3つの分類:クラスターの無い像;細胞外膜だけに位置する周辺クラスターを有する像;および周辺および細胞内(細胞内部に位置する)クラスターを有する像(図13A〜13B)について実施された。像パラメーターおよび細胞数は、ナノ粒子の細胞における蓄積および内部移行に対する、およびナノ粒子クラスターサイズに対する、細胞ターゲッティングの第二段階中の、インキュベート温度および時間の影響を分析するのに用いられた。
【0160】
ナノ粒子の明瞭な細胞内クラスターは、最大振幅8000〜11000カウントの蛍光シグナルを有する37℃でインキュベートされた腫瘍細胞についてのみ発見された(図11D、11F)。さまざまなインキュベート条件でのクラスターサイズを比較するために、ピークの蛍光シグナルの最大値についてヒストグラムを分析した(図12A)。細胞内のナノ粒子の最大クラスターが最大のバブルを生じ、およびしたがってそのようなクラスターがその細胞についての主な死滅ナノ構造であるため、この像パラメーターは重要である。インキュベートされた細胞について4℃での最大ピーク振幅は2000〜4000カウントを示し、これは2時間インキュベート後の37℃での値より2〜4倍低い。この差はまた、振幅は1クラスター中のナノ粒子の総数に比例し、およびクラスターのサイズはその中のナノ粒子の数に比例するため、クラスターサイズの差と解釈されうる。したがって37℃にて2時間のインキュベートは、細胞内および細胞質中に局在するナノ粒子の最大クラスターを与えた。
【0161】
蛍光ピークの空間分布は、対応する像パラメーターMirによって、および細胞インキュベートの時間および温度の関数として定量された(図12B)。この像パラメーターのヒストグラム分析は、インキュベートの第二段階の温度および時間の増加に伴う、細胞の周辺部(Mir値0.6〜0.8)から内部(Mir値0.3〜0.6)へのクラスターの再局在化の明らかな傾向を示した。ナノ粒子の観察された内部移行は細胞質に閉じ込められたことに注意する;ナノ粒子は、この型の細胞にとっては非常に大きい細胞核内へ透過しなかった(図11A〜11D)。蛍光ピークのそのような空間分布は、ナノ粒子内部移行のエンドサイトーシス機構によって説明されうる。
【0162】
内部移行過程の動力学を理解するために、追加の測定が行われた。細胞は、像に細胞内ピークを有する細胞の数として、および像に膜局在ピークを有する細胞の数として、ナノ粒子を用いたターゲッティングの第二段階での細胞インキュベート時間および温度の関数として計数した(図13A〜13B)。細胞インキュベートの時間および温度にかかわらず、正常骨髄細胞の分類には変化は観察されなかった(図13A)。クラスター関連細胞の数は、どのインキュベート条件についても6%以内であった。腫瘍細胞については、状況は全く異なっていた(図13B)。37℃でのインキュベートは、細胞内クラスターを有する細胞の数の、第二段階開始時の12%から、2時間後の66%への安定した増加を引き起こした。同条件下で(37℃)、腫瘍細胞は膜局在クラスターについて細胞数の、開始時84%から、2時間後の30%への減少を与えた。4℃でインキュベートされた腫瘍細胞は、膜局在および細胞内クラスターの細胞数について全く変化を示さなかった(図13B)。
【0163】
得られた実験結果は、細胞膜および細胞内でのナノ粒子のクラスターの形成、および最大のナノ粒子クラスターはインキュベートの第二段階中だけに腫瘍細胞の細胞質へ内部移行することを実証した。正常および腫瘍細胞におけるナノ粒子レベルの差もまた、用いられたターゲッティング方法の高い選択性を証明する。
【0164】
細胞中のレーザー活性化バブル
光熱(PT)応答および像が、個別の腫瘍細胞について、異なるレーザーフルエンスで得られた。0.6J/cm、532nmの単一レーザーパルス後に、インキュベート条件37℃、2時間について得られた典型的なバブル特異的PT応答および像を図14A〜14Cに示す。PT応答の持続時間は、バブル寿命の測定を可能にし、およびしたがってその最大直径が推定されうる。腫瘍細胞のPT像におけるバブル特異的シグナルの位置(図14A)は、バブルが細胞質で発生し、およびおそらく核の領域で発生したのではないことを示す。バブル発生部位は、蛍光像に示されるナノ粒子クラスターの位置と空間的に一致する。また、1個の細胞でのバブル関連シグナルの数1ないし4は、それらの細胞でのクラスター関連ピークの数4〜20よりも小さかったことが見出された。したがって、所定のレーザーフルエンス0.6J/cmの下では、すべてのクラスターがバブルを発生はしなかった。ナノ粒子の最大のクラスターだけが細胞損傷剤である一方、残りのより小さいクラスターおよび単一ナノ粒子はバブルを発生せず、およびしたがって細胞損傷過程に寄与しない可能性が高い。
【0165】
バブルの応答(図14A)は、フルエンス0.6J/cmで得られた。個別ナノ粒子8*1011/mlの水懸濁液が照射された場合は、バブル特異的応答は同一のフルエンスで検出されなかった。また、そのようなPT応答は正常骨髄細胞については検出されなかった。この結果は、ナノ粒子の最大のクラスターだけがこのフルエンスレベルでバブルを生じたことの追加の証拠とみなされうる。蛍光像で示されたナノ粒子クラスターを有する細胞は、最大60のレーザーパルスのうちいくつかへの曝露中に反復可能なバブルを発生しうることもまた見出された。したがって、第一のパルス後に破壊される単一ナノ粒子とは異なり、ナノ粒子のクラスターは光安定な構造であり、および一より多数のレーザーパルスで照射されうる。レーザー活性化バブルのモデルを用いて、最大バブル直径はPTシグナルについて13μmと推定される(図14A)。そのようなバブルサイズは細胞直径、すなわち8〜9μmに匹敵し(図11A〜11B)、およびしたがって細胞膜を破裂させうる。
【0166】
細胞に対するレーザー誘導損傷
細胞試料を丸形2.5mmキュベット中で532nmの単一またはいくつかのレーザーパルスを照射した。細胞損傷はレーザーパラメーター(パルスフルエンスおよびパルスの数)およびインキュベートパラメーター(ナノ粒子濃度、インキュベート温度およびMAB1型)に対するLLC依存性によって分析した。細胞損傷に対するレーザーパラメーターの影響を、下記のような同一のインキュベート条件について試験した:一種類のMAB1(各患者について特異的)、インキュベート温度4℃およびインキュベートの第一段階中のナノ粒子濃度15000ナノ粒子/細胞。
【0167】
レーザーフルエンスの0.2から2J/cm2への上昇は、腫瘍細胞についてLLCの、0.2J/cmにて3.9%から、0.6J/cm2を超えるフルエンスでの1%未満への漸減を引き起こした。3名の異なるALL診断済み患者から得られた試料は、腫瘍細胞の異なる程度の損傷を示した。フルエンス0.6J/cmおよび単一パルス照射では、LLCはそれぞれ0.1%未満、1.5%、5%であることが見出された。これらの試料は、異なるMAB1で処理され、およびLLC値に検出された差は、ナノ粒子ターゲッティング効力における変動によって引き起こされた可能性がある。レーザー処理後の腫瘍細胞のLLCにおける変化は、主に細胞の濃度の低下、すなわち、初期濃度と比較して最大10倍の低下、および、より小さい程度で、細胞膜損傷が原因であった。同条件下での正常骨髄細胞についてのLLCは、77〜84%であることが見出された。1回の代わりに10回のレーザーパルスでの腫瘍細胞の照射は、顕著な作用を生じなかった;LLCが1.5%から1.2%へ低下した。これは、第一のレーザー誘導バブルが損傷を生じ、および加熱による損傷とは異なり、バブル関連損傷は蓄積的性質を持たず、および第一のバブルの膨張の直後に起こることを意味する。
【0168】
細胞損傷に及ぼすインキュベートパラメーターの影響を試験した。インキュベートの第一段階中のナノ粒子の一定濃度下で、異なる一次MABの施用は、LLCの0から67%の変動を結果として生じた。最も強い作用は、LLCが0である場合であるが、いくつかの一次モノクローナル抗体の組合せを用いることによって到達した。別のインキュベートパラメーターである、インキュベートの第二段階の温度の影響を、図15に示す。インキュベート温度の4℃から37℃への上昇は、腫瘍細胞について4℃にて3.9%から37℃にて1.5%へのLLCの2.6倍の低下、および正常細胞について4℃にて77%から37℃にて49%へのLLCの1.6倍の低下を引き起こした。したがって殺細胞の効力に関しては、37℃にての二段階インキュベートが、4℃での標準インキュベート法よりも良好な結果を生じている。しかし「加熱」インキュベートは正常BM細胞については安全性がより低かった。ナノ粒子の濃度がインキュベートの第一段階中に6000から150000ナノ粒子/細胞へ変化した際、腫瘍細胞についてLLCの顕著な変動は見られなかった。腫瘍細胞のLLCは15%(6000ナノ粒子/細胞)から10%(150000ナノ粒子/細胞)へ低下した。濃度15000ないし30000ナノ粒子/細胞は完全に飽和であると考えられるが、なぜならナノ粒子濃度のさらなる上昇は殺細胞効力に対して無作用であるからである。
【0169】
要約すると、最大直径を有しおよび最大数のナノ粒子から成るナノ粒子のクラスターが、二段階ターゲッティング、すなわち、インキュベートを用いることによって制御可能に形成されうることが実証される。記載されたナノ粒子ターゲッティングの二段階機構は普遍的であり、および腫瘍細胞に加えて異なる型の細胞に適用可能である。二段階ターゲッティングは、各段階での細胞インキュベートパラメーター時間および温度の制御によって調節されうる。段階.また、より大きい内部移行した細胞質クラスターは、レーザー誘導バブルをレーザーパルスの最低フルエンスで発生しうる。
【0170】
下記の参考文献が本明細書に引用される:
【参考文献】
【0171】






本明細書で言及されるすべての出版物または特許は、本発明が関係する当業者のレベルを示す。さらに、これらの出版物は、個別の出版物が具体的におよび個別に参照により本開示に含まれるのと同程度に、参照により本開示に含まれる。
【0172】
当業者は、本発明が言及された目的を実施し、および結果および利益、およびここに固有の目的、結果および利益を得るためによく適応されることを容易に理解する。そこでの変更および請求項の範囲によって定義される通りの本発明の精神に包含される他の使用は当業者によって考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物体に熱機械的損傷をもたらすための組成物であって:
それぞれ少なくとも一つのターゲッティング部分と複合体化された複数のナノ微粒子を含有し、該ナノ微粒子が生物体に特異的にターゲッティングされて生物体上または生物体内で一つ以上のナノ微粒子クラスターを形成し、前記ナノ微粒子のピーク吸収波長に近いかまたは一致するピーク波長を有するように選択された波長のスペクトルを持つ電磁放射の少なくとも一つのパルスが前記生物体に照射され、ナノ微粒子への電磁放射の吸収によって発生した熱により生成したマイクロバブルによって、ターゲッティングされた生物体に熱機械的損傷がもたらされることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記ナノ微粒子が、約1nmから約1000nmの寸法を有することを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ナノ微粒子クラスターが、ナノ微粒子の容積より約2から約200倍大きい全容積を有することを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記ナノ微粒子が、少なくとも部分的に金属性のナノ粒子、ナノロッドまたはナノシェルから形成されるか、またはカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項5】
ナノ微粒子が、前記電磁放射のプラズモン共鳴吸収を有する部分的に金属性のナノ粒子から形成されることを特徴とする請求項4記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも部分的に金属性のナノ粒子が、細長いことを特徴とする請求項4記載の組成物。
【請求項7】
金属が金または銀であることを特徴とする請求項4記載の組成物。
【請求項8】
各ナノ微粒子が、ナノ粒子の凝集体を構成することを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記凝集体が球状ナノ粒子を構成することを特徴とする請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記ターゲッティング部分が、生物体上の受容体部位へ特異的にターゲッティングされたモノクローナル抗体またはペプチドであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記受容体部位が、それに結合した、前記モノクローナル抗体に対して特異的な別のモノクローナル抗体またはペプチドをさらに含むことを特徴とする請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記ナノ微粒子が、ナノ微粒子に複合体化された界面活性剤または核酸の相補鎖、あるいはその組合せをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項13】
波長スペクトルが約300nmから約300mmの波長範囲であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項14】
電磁放射のパルスが光放射であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項15】
光放射のパルスが500nmから1150nmの範囲の波長を有することを特徴とする請求項14記載の組成物。
【請求項16】
電磁放射のパルスの持続時間が約1nsから約100nsであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項17】
前記生物体が、異常細胞、細菌またはウイルスであることを特徴とする請求項1記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−125592(P2012−125592A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−31064(P2012−31064)
【出願日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【分割の表示】特願2007−552313(P2007−552313)の分割
【原出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(507247047)
【氏名又は名称原語表記】ORAEVSKY, Alexander
【出願人】(507248561)
【氏名又は名称原語表記】LAPOTKO, Dmitri
【Fターム(参考)】