説明

細胞の低温保存

本発明は、形質転換細胞および非形質転換細胞の低温保存のための方法に関する。低温保存された細胞を回収する方法もまた本発明によって提供される。低温保存から首尾よく回収された細胞の培養物もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本願は、2004年11月5日出願の米国仮出願第60/625,401号の恩典を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、形質転換細胞および非形質転換細胞の低温保存のための方法に関する。低温保存された細胞を回収する方法もまた本発明によって提供される。低温保存から首尾よく回収された細胞の培養物もまた提供される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
バイオ医薬およびバイオ農芸化学品生産のための「マスターシード(master seed)」原理は、生きた生物を製造手順の一部として利用し、以下のいくつかの基本的信条に依存する:1)規定された起源および継代履歴の単一培養物が、細胞表現型および所望の製造特性の規定された特徴を有して保存され;2)保存、代表的には低温保存は、長期にわたり(数年以上にわたり);3)細胞は「ワーキングシード(working seed)」へ無限に回収、拡大、継代され、そして別の低温保存期間に供され(細胞の頑強さを必要とする原理);そして4)細胞は規定された継代数の後に、最初の低温状態より前に見出された細胞の表現型および所望の製造特性の規定された特徴を失わない。
【0004】
植物細胞の低温保存に関する技術は、バイオ医薬製造環境における生物学的物質の使用のために必要とされる特性に関する教示を欠いている。詳細には、生存生物学的物質の延長された貯蔵のために案出される任意の技術は、好ましくは以下の基準を満たすべきである:1)貯蔵方法は、長期間(数年)にわたって安定な生物学的物質を提供しなければならず、2)貯蔵条件は、製造プロセスに必要とされる生物学的物質を変化させるべきでなく、そして3)一旦貯蔵から取り出すと当該物質は容易に再増殖のために利用可能であり、再増殖させられ得るワーキングシードへ拡大可能であるべきである。
【0005】
低温保存の長さ(しばしば月でまたは時間でさえも測定される)に関する先行技術において、情報はほとんど入手可能でなく、通常の培養条件下で無限にまたは少なくとも所望の継代数まで細胞が増殖させられ得るかどうかについての限られた情報が存在する。さらに、1次マスターシードストックおよび拡大され再低温保存されたワーキングシードストックの両方由来の、貯蔵からの取り出し後の延長された貯蔵または延長された培養の間での標的遺伝子または標的産物の遺伝子および産物安定性は、非常に少しのデータによってしか明らかにされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、当該分野はマスターシード原理下でのバイオ製造標的成分の長期間増殖、再低温保存および安定性を提供する植物細胞の長期間貯蔵用の処理の方法またはセットを必要としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明は、形質転換細胞および非形質転換細胞の低温保存のための方法に関する。低温保存された細胞を回収する方法もまた本発明によって提供される。低温保存から首尾よく回収された細胞の培養物もまた提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
発明の詳細な説明
本発明は、形質転換または非形質転換細胞の低温保存のための方法を提供する。本発明の特定の実施態様において、方法は低温保存組成物の形成、および形質転換または非形質転換真核生物細胞を低温保存する方法を提供する。
【0009】
従って、本発明の1つの実施態様は、形質転換(または非形質転換)真核生物細胞を含む低温保存組成物の形成方法を提供する。この方法は、以下の工程を包含する:
a)選択可能培地の上/中で、形質転換(または非形質転換)細胞を増殖させる工程;
b)培養培地を含む培養フラスコに細胞を接種して、液体培養物を形成し、そして形質転換(または非形質転換)細胞の液体培養物を、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回継代する工程;
c)継代された細胞を回収する工程;および
d)回収された細胞を低温保存培地に添加して、低温保存組成物を形成する工程。
【0010】
本発明の別の実施態様は、以下の工程を包含する、形質転換(または非形質転換)真核生物細胞の低温保存方法を提供する:
a)選択可能培地の上/中で、形質転換(または非形質転換)細胞を増殖させる工程;
b)培養培地を含む培養フラスコに細胞を接種して、液体培養物を形成し、そして形質転換(または非形質転換)細胞の液体培養物を、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回継代する工程;
c)継代された細胞を回収する工程;
d)回収された形質転換(または非形質転換)細胞を低温保存培地に添加して、低温保存組成物を形成する工程;および
e)低温保存組成物を低温保存する工程。
【0011】
さらに別の実施態様は、以下の工程を包含する、形質転換(または非形質転換)細胞の低温保存方法を提供する:
a)選択可能培地の上/中で、形質転換(または非形質転換)細胞を1〜10日間増殖させる工程;
b)培養培地を含む培養フラスコに細胞を接種して、液体培養物を形成する工程;
c)液体培養物を、およそ対数増殖期中期まで培養する工程;
d)液体培養物の第1の容量(VOL1)を抜き取り、そしてそれを培養培地の第2の容量(VOL2)を含む培養フラスコ中に接種する工程;
e)工程d)を少なくともさらに1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回繰り返す(細胞を継代する)工程;
f)継代された細胞を回収する工程;
g)継代された細胞を、第2の培地の1容量中に懸濁する工程;
h)低温保存培地を、工程g)において提供された懸濁された細胞に添加して、低温保存組成物を形成する工程;
i)低温保存組成物を冷却する工程;および
j)低温保存組成物を凍結する工程。
【0012】
本発明によれば、1つの実施態様は植物細胞の低温保存を提供する。単子葉植物または双子葉植物由来の細胞は、本発明に従って低温保存され得る。従って、形質転換および非形質転換単子葉植物または双子葉植物細胞は、本明細書において教示される種々の方法を使用して低温保存され得る。本明細書において教示される発明の種々の実施態様において、トランスジェニックおよび非トランスジェニックタバコおよびイネ細胞は低温保存、貯蔵および回収されて、もとの培養物の遺伝子型および表現型を保持した、増殖細胞培養物を確立する。
【0013】
従って、本発明は、形質転換植物細胞の低温保存(所望によりマスターシード原理下での)のための方法を提供する。本発明の特定の実施態様において、方法はマスターシード原理下で、ニコチナ・タバカム(Nicotina tabacum)(NT−1およびBY−2)細胞ならびにT309イネ細胞の低温保存のための方法に適用される。Biotechnology in Agriculture and Forestry, Eds. T. Nagata, S. Hasezawa, and D. Inze; Springer−Verlag; Heidelberg, Germany; 2004を参照のこと。
【0014】
T309イネ細胞株は、標準的な植物組織培養技術を使用して、市販のイネT309変種から調製された。本発明の実施に適切なさらなる形質転換および非形質転換植物細胞は、表1において提供される。
【0015】
本発明の別の実施態様は、形質転換植物細胞を含む低温保存組成物の形成方法を提供する。この方法は、以下の工程を包含する:
a)選択可能培地上で、カルス上の形質転換植物細胞を増殖させる工程;
b)培養培地を含む培養フラスコにカルス由来の植物細胞を接種して、液体培養物を形成し、そして形質転換植物細胞の液体培養物を少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回継代する工程;
c)継代された植物細胞を回収する工程;および
d)回収された形質転換植物細胞を低温保存培地に添加して、低温保存組成物を形成する工程。
【0016】
本発明の別の実施態様は、形質転換植物細胞の低温保存方法を提供する。この方法は、以下の工程を包含する;
a)選択可能培地上で、カルス上の形質転換植物細胞を増殖させる工程;
b)培養培地を含む培養フラスコにカルス由来の植物細胞を接種して、液体培養物を形成し、そして形質転換植物細胞の液体培養物を少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回継代する工程;
c)継代された植物細胞を回収する工程;
d)回収された形質転換植物細胞を低温保存培地に添加して、低温保存組成物を形成する工程;および
e)低温保存組成物を低温保存する工程。
【0017】
さらに別の形質転換植物細胞の低温保存方法は、以下の工程を包含する:
a)選択可能培地上で、カルス上の形質転換植物細胞を1〜10日間増殖させる工程;
b)培養培地を含む培養フラスコにカルス由来の植物細胞を接種して、液体培養物を形成する工程;
c)液体培養物をおよそ対数増殖期中期まで培養する工程;
d)およそ対数増殖期中期まで増殖した液体培養物の第1の容量(VOL1)を抜き取り、培養培地の第2の容量(VOL2)を含む培養フラスコ中に第1の容量を接種して、継代培養物を形成し、そして継代培養物をおよそ対数増殖期中期まで培養する工程;
e)所望により、工程d)を少なくともさらに1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回繰り返す工程;
f)継代培養物から、植物細胞を回収する工程;
g)植物細胞を第2の培地の容量(CULT)中に懸濁する工程;
h)低温保存培地の容量(CRYO)を、工程g)において提供された懸濁された植物細胞に添加して、低温保存組成物を形成する工程;
i)低温保存組成物を冷却する工程;および
j)低温保存組成物を凍結する工程。
【0018】
用語「継代」は、用語「短周期条件(short cycle condition)」と互換的に使用され得る。継代または短周期条件は、指数(対数)増殖期中期の間に細胞を収集する(抜き取る)こと;指数増殖期中期の細胞を新鮮な培養培地で希釈または分割すること、および希釈(分割)された細胞培養物を指数増殖期中期まで培養することとして記載される。
【0019】
本発明の目的のために、用語「対数増殖期中期」および「指数増殖期中期」が指数増殖期の厳密な中間点をいうのではなく、むしろ数学的な中間点の周辺の範囲をいうことを、当業者は理解する。指数増殖期中期までの培養の各回は、1細胞継代と考えられる。懸濁物から低温保存されるべき細胞は、1短周期(継代)のみまたは20短周期までで首尾よく低温保存され得る。3〜6短周期が好ましく、そして6短周期が最も好ましい。本発明者らは、6短周期(継代)が再培養のために低温保存された状態からの細胞の格別な回収を可能にすることを示している。さらに、1〜6回の短周期条件下で細胞が懸濁物中に置かれる限り、細胞は培養後複数回低温保存され得る。希釈または分割する工程において、新鮮な培地の容量(VOL2)に添加される細胞の容量(VOL1)は、VOL2に対するVOL1の比率において変動し得る。ここで、VOL1およびVOL2は独立して、1〜少なくとも20;1〜少なくとも10;または1〜少なくとも5(任意のこれらの値の間の端数値を含む)の範囲である。1つの実施態様において、VOL1:VOL2は1:3である。
【0020】
以下で教示する各方法がさらなる方法工程を包含し得ることにさらに留意するべきである。例えば、低温保存された形質転換植物細胞を融解し、低温保存された細胞を培養培地中に懸濁し(または、固形選択可能培地上で細胞を増殖させてカルスを形成させ)、そしてバイオ製造プロセスにおける使用のためにそれを増殖させる(例えば、増殖容器(例えば、発酵槽、撹拌タンク反応器など)において細胞を培養する)ことが可能である。バイオ製造プロセス由来の細胞は、本発明の低温保存方法に供され得、そしてマスターシード原理に従って貯蔵され得る。
【0021】
非形質転換および形質転換単子葉植物および双子葉植物細胞の増殖に適切な選択可能培地および培養培地は、当業者に公知であり、そして当業者により容易に利用可能である(例えば、Difco(登録商標)& BBL(登録商標)Manual, Manual of Microbiological Culture Mediaを参照のこと)。
【0022】
低温保存組成物が形成されるべき場合、再懸濁された細胞を含む培養培地の種々の容量(CULT)は、低温保存培地の種々の容量(CRYO)と混合され得る。これら混合物は、CULT:CRYOの比率で混合され、ここでCULTは1〜100(その端数値を含む)の範囲であり、そしてCRYOは1〜100(その端数値を含む)の範囲である。いくつかの実施態様において、CULTおよびCRYOは、1〜10の範囲である。他の実施態様において、等容量のCULTおよびCRYOが混合されて、低温保存組成物が形成される。
【0023】
本発明はまた、前記低温保存方法のいずれかによって作製される低温保存された細胞または細胞株を提供する。
【0024】
本発明の種々の実施態様において、低温保存されるべき細胞は薬剤(例えば、米国特許第5,965,438号または同第6,127,181号(その開示の全体を出典明示で援用する、特に米国特許第5,965,438号の第6欄16行目から第7欄34行目および米国特許第6,127,181号の第6欄60行目から第9欄22行目)の教示に記載されるように、細胞によって培養培地中に分泌される有害物質を除去することによって、細胞の生存率を増加させる、安定剤)で「前処理」または「前培養」されない。’438特許において考察されるように、安定剤前処理は、増殖または細胞死の間に細胞によって分泌される有害物質の除去に関する。さらに、本発明は、培養条件下で細胞に添加される1つ以上の「浸透圧剤」、エチレン阻害剤および/または膜安定剤での前処理の使用を排除し得る。特に、安定剤、浸透圧剤、エチレン阻害剤および/または膜安定剤は、細胞が培養されている間に、前処理プロトコルにおいて本発明の既に調製された培養培地には添加されないが、’438または’181特許において同定される物質は、本発明による細胞の培養のために事前に調製された培地の成分であり得る。従って、安定剤、浸透圧剤、エチレン阻害剤および/または膜安定剤は、細胞の培養の間、’438または’181特許に記載されるようには培養培地に添加されない(必要応じて補充されない)(例えば、米国特許第5,965,438号の第7欄7〜16行目および米国特許第6,127,181号の第9欄36〜47行目を参照のこと)。
【0025】
従って、細胞が培養されている時に、以下の物質は培養培地に添加されず、また必要に応じて補充されない:安定剤(例えば、還元グルタチオン、1,1,3,3−テトラメチル尿素、1,1,3,3−テトラメチル−2−チオ尿素、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸銀、ベタイン、n,n−ジメチルホルムアミド、n−(2−メルカプトプロピオニル)グリシン、β−メルカプトエチルアミン、セレノメチオニン、チオ尿素、プロピルガレート、ジメルカプトプロパノール、アスコルビン酸、システイン、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(sodium diethyl dithiocarbomate)、スペルミン、スペルミジン、フェルラ酸、セサモール、レゾルシノール、プロピルガレート、mdl−71,897、カダベリン、プトレシン、1,3−および1,2−ジアミノプロパン、デオキシグルコース、尿酸、サリチル酸、3−および4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、安息香酸、ヒドロキシルアミンならびにそのような薬剤の組み合わせおよび誘導体);エチレン生合成および/またはエチレン作用を妨げるかまたは実質的に防止する薬剤(例えば:リゾビトキシン、メトキシルアミンHCl、ヒドロキシルアミンアナログ、α−カナリン、DNP(2,4−ジニトロフェノール)、SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)、Triton X−100、Tween 20、スペルミン、スペルミジン、ACCアナログ、α−アミノイソ酪酸、n−プロピルガレート、安息香酸およびその誘導体、フェルラ酸、サリチル酸およびその誘導体、サリチル酸、セサモール、カダベリン、ヒドロキノン、エイラー(alar)、アモ−1618(amo-1618)、BHA(ブチル化ヒドロキシアニソール)、フェニルエチルアミン、ブラシノステロイド、p−クロロ第二水銀安息香酸、n−エチルマレイミド、ヨード酢酸、塩化コバルトおよび他のコバルト塩、ビピリジル、アミノオキシ酢酸、塩化第二水銀および他の第二水銀塩、サリチルアルコール、サリシン、塩化ニッケルおよび他のニッケル塩、カテコール、フロログルシノール(pffloroglucinol)、1,2−ジアミノプロパン、デスフェリオキサミン、インドメタシン、1,3−ジアミノプロパン、ベンジルイソチオシアネート、硫酸8−ヒドロキシキノリン、クエン酸8−ヒドロキシキノリン,2,5−ノルボルナジエン、n−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリン、trans−シクロオクテン(trans-cyclootene)、7−ブロモ−5−クロロ−8−ヒドロキシキノリン、cis−プロペニルホスホン酸、ジアゾシクロペンタジエン、メチルシクロプロパン、2−メチルシクロプロパン、カルボン酸、メチルシクロプロパンカルボキシレート、シクロオクタジエン、シクロオクトジン(cyclooctodine)(クロロメチル)シクロプロパンならびに/または銀塩(例えば、チオ硫酸銀、硝酸銀、塩化銀、酢酸銀、リン酸銀、クエン酸三銀塩、安息香酸銀、硫酸銀、酸化銀、亜硝酸銀、シアン酸銀、乳酸銀塩、ペンタフルオロプロピオン酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀、トルエンスルホン酸の銀塩およびその組み合わせ));膜安定剤(例えば、脂質二重層中にインターカレートする化合物(例えば、ステロール、リン脂質、糖脂質、糖タンパク質)または二価カチオン)。
【実施例】
【0026】
実施例1:低温保存
本実施例において使用した培地および成分を、表2〜4に記載する。成分を供給する業者もまた示す。低温保存されるべき細胞を、NT1培地を含む25℃の振盪フラスコ中で増殖させ;細胞を対数(指数)増殖期中期(培養フラスコの接種の後3〜4日)において、1:3分割(または30%接種)で少なくとも1〜10継代(1つの実施態様は、少なくとも6継代を意図する)継代する。フラスコの外側を、無菌バイオセーフティーキャビネット(biosafety cabinet)へ移す前に1%次亜塩素酸ナトリウム(sodium hyperchlorite)溶液を用いて浄化し、次いで細胞を無菌の225ml遠心チューブへ移す前に、フラスコの外側を無菌アルコールパッドを用いてぬぐう。細胞を1000RPMで1分間、4℃で遠心分離し、そして上清を無菌ピペットを用いて除去する。細胞を適切な培養培地を用いて開始容量に再懸濁し、無菌の1リットル三角フラスコへ移し、ここで等容量の低温保存培地を懸濁物に添加し、穏やかに回旋する。
【0027】
次いで、軌道振盪機中2〜7℃で1時間細胞懸濁物を穏やかに振盪(130RPM)することによって細胞を低温保存し、次いで氷上でバイオセーフティーキャビネットへ移し、無菌アルコールパッドを用いてぬぐう。細胞を直ちに無菌条件下で自動ピペッターを使用してクリオバイアル(cryovial)へ分注する。各バイアルに2.5mlの細胞懸濁物を入れ、そして直ちに液体窒素中での貯蔵に使用すべきケイン(cane)中に入れる;ロードしたケインを凍結時まで2〜7℃で保持すべきである。次いで、ケインを速度制御フリーザーに移す。凍結プロセスを4℃、15分で開始し、−0.5℃/分の速度で4℃から−40℃までの温度の連続的な降下がそれに続く。次いで、ケインを取り出し、ドライアイス上で予備冷却した貯蔵ラックに入れ;全てのケインが貯蔵ラックにロードされるとすぐに、ラックを直ちに気相を使用する液体窒素貯蔵タンクに入れる。
【0028】
種々のバイオプロセスにおける使用のために低温保存から細胞を回収するために、クリオバイアルを液体窒素貯蔵から取り出し、迅速に貯蔵ケインから取り出し、そして45℃の水浴中に入れる。バイアルを約2.5分間回旋し、そしてバイアルを反転させることによって細胞を懸濁する。細胞が完全に懸濁されたら、バイアルをバイオハザードキャビネットに移し、無菌アルコールパッドを用いてバイアルをぬぐい、ペトリ皿中の10枚の無菌Whatmanペーパーを積み重ねたものの上に内容物を注ぎ;ペトリ皿を覆い、そして少なくとも2分間低温保存培地を細胞外に吸収させる。上部フィルターを、ふた付きのNT1寒天培地を含むペトリ皿へ移し(Whatmanペーパーと寒天との間に泡がないことを確実にする)、NT1寒天プレートに3M外科用テープを1回巻き付け、そして容器を25℃で保持する。カルスの最小の増殖は、4〜5日後に検出可能であるはずである。表1は、ニューカッスル病ウイルス(NDV)由来の赤血球凝集素/ノイラミニダーゼ(HN)タンパク質、トリインフルエンザ(AIV)の赤血球凝集素(HA)、大腸菌の易熱性毒素および伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス(IBDV)のVP2タンパク質を発現するNT1細胞のいくつかの異なるトランスジェニック細胞株を示す。発現される遺伝子または利用されるプロモーター系に関わらず、全てが成功した。さらに、プラスチックテープまたはフィルム(例えば、NESCOフィルム)の使用と比較して、3M外科用テープを使用することが、NT1細胞の増殖に対して有意なインパクトを有することをデータが示した。
【0029】
実施例2−低温保存されたタバコ細胞の融解
細胞を、個々のチューブまたはチューブのプールとして融解し得る。バイアルを貯蔵ユニットから取り出し、そしてドライアイス上に置く。それらを45℃の水浴に浸し、浴中でチューブラックを穏やかに動かして、バイアルの迅速かつ均一な融解を補助、促進することによって融解する。〜2.5分後に(ちょうど融解されるまで)、バイアルを3回穏やかに反転して、チューブの底に沈んだ細胞を混合する。層流フードにおいて、プールされたバイアルまたは個々のチューブ由来の2mlの細胞を無菌ペトリ皿中の8〜10枚の無菌70mm #4Whatmanろ紙を積み重ねたものの上にピペッティングし、覆いそして2分間排液させる。
【0030】
TTC生存性染色を少量の細胞(〜0.5ml)に対してこの時点で行う。2分間排液した後、細胞を含む上部フィルターを半流動性NTB1培地(ビアラホス選択無し)へ移す。次いで、培地プレートに3Mテープを巻き付け、そして暗所において25℃で3日間インキュベートする。3日後に、3MテープをNescoフィルムに交換する。7日目に、細胞を含むフィルターを新たなNT1培地プレートに移し、そしてNescoフィルムを巻き付ける。細胞増殖は、約7日のうちに明らかになる。さらなる7日の後、細胞をフィルターからビアラホス選択薬剤を含む新たな半流動性NT1プレート上に移す。一旦十分量の細胞が蓄積したら、必要に応じて懸濁を開始する。
【0031】
第1セットの実験は、低温保存および最良融解後処理の後の細胞プレーティングの再現性を試験した。再現性を試験するために、8つのチューブの3つの反復を融解し、細胞を合し、そして8枚のプレート上にプレーティングした。試験した他のパラメーターは、細胞を含むフィルターの新鮮なプレートへの移行の頻度であった。参考文献は、より高頻度の移行が細胞の回収を増強し得る(抗凍結剤中の成分を除去することによって)ことを示唆している;しかし、抗凍結剤のいくつかの成分によって提供される保護効果も存在する。試験した3つの移行スキームは、「1日移行」(最初の3日間は毎日移し、3日後次いで週に1度移す)、「3日移行」(3日間隔で2回移し、それ以降は週に1度)、および「7日移行」(週に1度移す)を含んだ。実験の結果は、回収のレベルおよび2週間後の細胞の色に基づいて評価した(図1)。
【0032】
異なる回数の排液を試験した全ての処理由来の細胞は、非常に迅速に回収された(5日)。プレートの主観的評価は、1または2分間排液した細胞が、差異は大きくなかったが、他の処理よりも良好に回収されたことを示した。
【0033】
スケールアップのプロトコル
スケールアップを試験するために、手順中の工程を比例してスケールアップした。小スケールと大スケールとの間の主な差異は、抗凍結剤中の細胞の大容量、空気交換の制限の可能性、およびプロセス中の各工程のために必要とされるより長い時間である。スケールアップ実験において、短周期および長周期両方の細胞を試験した。細胞は、5つのチューブから融解およびプールし、そして5枚のプレート上にプレーティングするかまたは15本のチューブを融解し、そして個別にプレーティングするかのいずれかであった。短周期細胞は、100%の回収率で5日以内に回収された。回収するのにかなりより長くかかったが(2週間)、長周期細胞由来の全てのプレートが回収された。低温保存溶液中で延長した時間の間維持された細胞に対する可能な効果(多数のチューブに分注するために必要とされる時間に起因する)もまた試験した。この実験において、細胞をチューブ移し、サンプルの第1のセットの約2時間後に凍結した。2つの凍結由来の細胞の回収において、明らかな差異はなかった。
【0034】
【表1−1】

【0035】
【表1−2】

【0036】
【表1−3】

【0037】
【表2−1】

【0038】
【表2−2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1A〜2B。回収割合(図1B)および健康なカルスの割合(黄色カルス;図1A)に対する細胞移入頻度の効果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を包含する、低温保存された植物細胞の作製方法:
a)少なくとも1継代、細胞をおよそ対数増殖期中期まで継代する工程;
b)継代された細胞を濃縮する工程;および
c)濃縮、継代された細胞に低温保存培地を添加して、低温保存組成物を形成する工程。
【請求項2】
低温保存組成物を冷却する工程をさらに包含する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
低温保存組成物を凍結する工程をさらに包含する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
低温保存組成物を凍結する工程をさらに包含する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
細胞が形質転換されている、請求項1記載の方法。
【請求項6】
細胞が表1中の細胞からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
以下の工程を包含する、低温保存組成物の形成方法:
a)選択可能培地の中または上で、形質転換または非形質転換細胞を増殖させる工程;
b)培養培地を含む培養フラスコに細胞を接種して、液体培養物を形成し、そして形質転換または非形質転換細胞の液体培養物を、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回継代する工程;
c)継代された細胞を回収する工程;および
d)回収された細胞を低温保存培地に添加して、低温保存組成物を形成する工程。
【請求項8】
細胞が単子葉植物または双子葉植物細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
細胞が形質転換されている、請求項8記載の方法。
【請求項10】
細胞が植物細胞である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
細胞がタバコ細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
細胞がイネ細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
低温保存培地が水中に処方され、そしてスクロース342.27g/L、グリセロール46.06g/L、DMSO 35.5mL/LおよびNT1 VP培地、VP培地またはT309培地から選択される群より選択される培地226.64mLを含む、請求項7記載の方法。
【請求項14】
以下の工程を包含する、形質転換植物細胞の低温保存方法:
a)選択可能培地上で、カルス上の形質転換植物細胞を増殖させる工程;
b)培養培地を含む培養フラスコに、カルス由来の植物細胞を接種して、液体培養物を形成する工程;
c)液体培養物を、およそ対数増殖期中期まで培養する工程;
d)およそ対数増殖期中期まで増殖した液体培養物の第1の容量(VOL1)を抜き取り、培養培地の第2の容量(VOL2)を含む培養フラスコ中に第1の容量を接種して、継代培養物を形成し、そして継代培養物をおよそ対数増殖期中期まで培養する工程;
e)工程d)を少なくともさらに1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回繰り返してもよい工程;
f)継代培養物から植物細胞を回収する工程;
g)植物細胞を第2の培地の容量(CULT)中に懸濁する工程;
h)低温保存培地の容量(CRYO)を、工程g)において提供された懸濁された植物細胞に添加して、低温保存組成物を形成する工程;
i)低温保存組成物を冷却する工程;および
j)低温保存組成物を凍結する工程。
【請求項15】
工程d)を少なくともさらに1、2、3、4、5、6、7、8、9または10回繰り返す、請求項14記載の方法。
【請求項16】
植物細胞がタバコまたはイネである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
植物細胞がタバコまたはイネである、請求項15記載の方法。
【請求項18】
VOL1およびVOL2が独立して1〜少なくとも20;1〜少なくとも10;または1〜少なくとも5(任意のこれらの値の間の端数値を含む)の範囲である、請求項14、15、16または17記載の方法。
【請求項19】
VOL1:VOL2が1:3である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
CULT:CRYOの比率を一緒にまとめて、CULTが1〜100の範囲でありそしてCRYOが1〜100の範囲である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
CULT:CRYOが1:1である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
CULT:CRYOの比率を一緒にまとめて、CULTが1〜100の範囲でありそしてCRYOが1〜100の範囲である、請求項15記載の方法。
【請求項23】
CULT:CRYOが1:1である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
低温保存組成物を融解する工程をさらに包含する、請求項14記載の方法。
【請求項25】
低温保存組成物から細胞を回収しそして培養する工程をさらに包含する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
低温保存組成物を融解する工程をさらに包含する、請求項18記載の方法。
【請求項27】
低温保存組成物から細胞を回収しそして培養する工程をさらに包含する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
低温保存組成物を融解する工程をさらに包含する、請求項20記載の方法。
【請求項29】
低温保存組成物から細胞を回収しそして培養する工程をさらに包含する、請求項28記載の方法。
【請求項30】
低温保存組成物を融解する工程をさらに包含する、請求項22記載の方法。
【請求項31】
低温保存組成物から細胞を回収しそして培養する工程をさらに包含する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
工程d)を6回繰り返す、請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−518625(P2008−518625A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540110(P2007−540110)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/040183
【国際公開番号】WO2006/052835
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(390039192)ダウ・アグロサイエンス・エル・エル・シー (20)
【氏名又は名称原語表記】Dow AgroSciences LLC
【Fターム(参考)】