細胞の運命を変化させる方法
【課題】細胞の特徴または機能を変える方法を提供する。
【解決手段】細胞の発現プロファイルを変化させて、細胞をある細胞型から所望の細胞型へ変える方法。このように再プログラムされた細胞は、特定の細胞型を必要とする哺乳類を治療する、さまざまな医学的応用に使用することができる。
【解決手段】細胞の発現プロファイルを変化させて、細胞をある細胞型から所望の細胞型へ変える方法。このように再プログラムされた細胞は、特定の細胞型を必要とする哺乳類を治療する、さまざまな医学的応用に使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
一般に本発明は、細胞を所望の細胞型に変える方法、およびこのように再プログラムされた細胞を、疾患の治療または予防を目的として哺乳類に投与する方法を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
本質的に同じゲノムをもつにもかかわらず、特定の哺乳類の異なるクラスの体細胞は、発現する遺伝子群の組み合わせが異なるために、特徴的な表現型を示す。発現プロファイルが多様なことから、細胞は、ホルモンや軟骨の分泌といった特定の機能を発揮することができる。
【0003】
多くの疾患および外傷は特定のクラスの細胞に対する損傷によって生じるので、このような損傷を受けた細胞の代わりに使用可能な所望の細胞型の細胞を産生させる方法が求められる。好ましくは、このような代替的な細胞は、損傷を受けた細胞と同じ遺伝子型を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の概要
本発明の目的は、細胞の特徴または機能を変える方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
特に、このような方法には、核成分もしくは細胞質成分(転写因子など)が核もしくは染色質塊に添加されたり、核もしくは染色質塊から除去されたりすることを可能とする条件下で、ドナー細胞の核または染色質塊を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)とインキュベートする段階が含まれる。好ましくは、添加される転写因子は、所望の細胞型の細胞中に存在するmRNA分子もしくはタンパク質分子の発現を促進し、またドナー細胞中に存在するmRNA分子もしくはタンパク質分子の発現を促進する転写因子の除去を促進する。望ましいならば、染色質塊は次に、間期再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)中でインキュベートして、いずれかの再プログラム用培地に由来する所望の因子群を取込む核を再形成する。次に核または染色質塊をレシピエントの細胞または細胞質体に導入し、所望の細胞型の再プログラムされた細胞を形成させる。関連する方法では、浸透化細胞を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)とインキュベートすることで、細胞に由来する諸因子の付加もしくは除去を可能とした後に、浸透化細胞の形質膜を再び閉じて所望の因子を包み込み、また細胞の膜の完全性を回復させる。望ましいならば、これらの任意の方法の段階は1回もしくは複数回繰返して行うことができるほか、異なる再プログラム法を連続的に行うことで再プログラムの程度を高めて、結果として、再プログラムされた細胞におけるmRNAおよびタンパク質の発現プロファイルの変化を大きくすることができる。さらに再プログラム用培地を、細胞の機能(例えば複数の細胞型に由来する抽出物もしくは因子群を含む培地)を組み合わせて作製して、複数の細胞型の特徴を有する独特の再プログラムされた細胞を作製することができる。
【0006】
したがって第一の局面では、本発明は細胞を再プログラムする方法を提供する。この方法には、核を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、核からの因子の除去、または核へ因子の付加を可能とする条件下でインキュベートする段階が含まれる。次に、再プログラム用培地中における核のインキュベーションによって形成された核または染色質塊をレシピエントの細胞または細胞質体に導入することで、再プログラムされた細胞を形成させる。一つの好ましい態様では、核を間期用再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)とインキュベートする。好ましくは、間期用再プログラム用培地とのインキュベーション中に、核は膜に結合した状態で留まり、また核内の染色体は凝縮しない。別の好ましい態様では、染色質塊は、有糸分裂用再プログラム用培地(例えば有糸分裂抽出物)中で核とインキュベートすることで形成させる。好ましくは、このような染色質塊は次に間期用再プログラム用培地と、核が再形成し、また再形成した核をレシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入可能な条件下でインキュベートする。
【0007】
関連する局面では、本発明は、細胞を再プログラムする別の方法を提供する。この方法には、染色質塊を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、染色質塊からの因子の除去、または染色質塊への因子の付加を可能とする条件下でインキュベートする段階が含まれる。次に、再プログラム用培地(例えば間期抽出物)中における染色質塊のインキュベーションによって形成された染色質塊もしくは核を、レシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入することで、再プログラムされた細胞を形成させる。一つの好ましい態様では、染色質塊は、ドナー細胞の核を界面活性剤および塩溶液中で、プロテインキナーゼ中で、または有糸分裂用再プログラム用培地中において、NuMAもしくは核の他のタンパク質に対する抗体の存在下もしくは非存在下でインキュベートすることで作製される。別の好ましい態様では、染色質塊は、有糸分裂細胞から単離される。
【0008】
別の関連する局面では、本発明は、細胞を再プログラムするさらに別の方法を提供する。この方法には、浸透化細胞を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、浸透化細胞の核もしくは染色質塊からの因子の除去、または核もしくは染色質塊への因子の付加により再プログラムされた細胞を作製することを可能とする条件下でインキュベートする段階が含まれる。一つの好ましい態様では、浸透化細胞を間期用再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)とインキュベートする。好ましくは、浸透化細胞中の核は、間期用再プログラム用培地とのインキュベーション中に膜に結合した状態で留まり、また核内の染色体は凝縮しない。別の好ましい態様では、染色質塊は、浸透化細胞を有糸分裂用再プログラム用培地中でインキュベートすることで形成される。さらに別の好ましい態様では、再プログラムされた細胞を、再プログラムされた細胞の膜が再び閉じる条件下でインキュベートする。望ましいならば、浸透化細胞は、完全な細胞をジギトニンなどの界面活性剤、またはストレプトリシンOなどの細菌毒素とインキュベートすることで形成することができる。
【0009】
本発明は、本発明の任意の方法で、または本発明の方法の組み合わせで作製された再プログラムされた細胞も提供する。このような細胞は、特定の細胞型を欠くことを原因とする疾患の治療または予防に有用である。また、それぞれ特定の細胞型に特異的な2種またはこれ以上のmRNA分子もしくはタンパク質を発現する再プログラムされた細胞は、疾患の治療に有用な表現型と活性の新しい組み合わせを有する場合がある。例えば、ドナー細胞の分裂能力を維持し、また機能性T細胞受容体もしくは機能性ニューロフィラメントの形成能力を獲得する細胞は、治療的応用のための複数のT細胞またはニューロンの作製に有用である。被験者に移植後は、このような細胞は分裂能力を維持する可能性があるので。疾患の治療、予防、または安定化に必要な移植用細胞の用量または投与頻度を減少させることができる。このような細胞の特性解析により、遺伝子発現の調製に関与するタンパク質が同定されることもある。
【0010】
このような局面の一つでは、本発明は、2種またはこれ以上の、天然の細胞では発現されない内因性mRNA分子もしくは内因性タンパク質の組み合わせを発現する細胞を特徴とする。関連する局面では、本発明は2種もしくはこれ以上の内因性mRNA分子または内因性タンパク質の組み合わせを、任意の天然の細胞内における対応するmRNA分子またはタンパク質の発現レベルより少なくとも10倍、20倍、50倍、75倍、もしくは100倍大きいレベルで発現する細胞を特徴とする。上記の局面の好ましい態様では、細胞は、天然の細胞では発現されない5種、10種、25種、50種、75種、100種、150種、300種、またはこれ以上の内因性mRNA分子もしくは内因性タンパク質の組み合わせを発現する。別の好ましい態様では、このような細胞は、ある細胞型に特異的な1種、3種、5種、10種、25種、50種、100種、またはこれ以上の内因性mRNA分子もしくは内因性タンパク質を発現し、また別の細胞型に特異的な1種、3種、5種、10種、25種、50種、100種、またはこれ以上の内因性mRNA分子もしくは内因性タンパク質を発現する。他の好ましい態様では、このような細胞は、天然では発現されない2種、5種、10種、25種、50種、75種、100種、150種、300種、またはこれ以上の活性もしくは表現型の組み合わせを有する。さらに他の好ましい態様では、細胞は分裂可能であり、または不死化され、またNF200ニューロフィラメントタンパク質、または分化したニューロンによって発現される他の任意のタンパク質などのニューロンタンパク質を発現する。さらに他の好ましい態様では、細胞は分裂させたり不死化させることが可能であり、またIL-2、IL-2受容体、T細胞受容体、CD3、CD4およびCD8、CD45チロシンホスファターゼ、または造血細胞で発現される他の任意のタンパク質を発現する。さらに別の態様では、細胞は、ドナーの線維芽細胞、核、もしくは染色質塊の再プログラムによって形成され、再プログラムされた細胞は、1種もしくは複数の細胞骨格タンパク質(インテグリンなど)を、同じ条件下のドナー線維芽細胞中における対応するレベルより少なくとも25%、50%、75%、90%、もしくは95%低いレベルで発現する。別の態様では、ドナーの線維芽細胞または肝細胞(例えば肝実質細胞)から形成された再プログラムされた細胞は、IL-2、ニューロフィラメントタンパク質、T細胞受容体、Oct4、またはインスリンを発現する。
【0011】
関連する局面では、本発明は、T細胞特異的タンパク質(例えばT細胞受容体タンパク質、IL-2受容体、CD3、CD4、もしくはCD8)、および1種もしくは複数の線維芽細胞特異的タンパク質を発現する細胞を提供する。好ましくは、このような細胞を抗原または抗CD3抗体で刺激するとIL-2受容体のα鎖の発現が誘導される。別の局面では、本発明は、造血細胞特異的タンパク質(例えばCD45チロシンホスファターゼ)、および1種または複数の線維芽細胞特異的タンパク質を発現する細胞を提供する。別の関連する局面では、本発明はニューロン特異的タンパク質(例えばNF200などのニューロフィラメントタンパク質)を発現したり、神経突起を形成したりする細胞、また1種もしくは複数の線維芽細胞特異的タンパク質を発現する細胞を提供する。さらに別の局面では、本発明はニューロフィラメントタンパク質(例えばNF200)を発現したり神経突起を形成したりする細胞、また不死化された細胞を提供する。さらに別の局面では、本発明は幹細胞特異的タンパク質(例えばOct4)、またはアルカリホスファターゼ、および1種もしくは複数の線維芽細胞特異的タンパク質を発現する細胞を提供する。さらに別の局面では、本発明は1種もしくは複数の線維芽細胞特異的タンパク質を発現して凝集状態で成長する細胞、コロニーを形成する細胞、または胚様体を形成する細胞を提供する。好ましい線維芽細胞特異的タンパク質には、例えば1種もしくは複数の再プログラムされた細胞の、宿主患者の対象部位への結合を促す細胞接着分子などがある。線維芽細胞特異的成長因子(例えばFGFファミリーのタンパク質)は、他の例示的な線維芽細胞特異的タンパク質である。
【0012】
細胞を再プログラムする以上の方法は、例えば医学的応用の効く所望の細胞型の細胞の作製に有用である。したがって本発明は、再プログラムされた細胞を哺乳類に投与する段階を含む哺乳類の疾患の治療法または予防法も提供する。
【0013】
このような方法の一つでは、本発明は、哺乳類の疾患、障害、もしくは状態の治療または予防の手順を特徴とする。この方法には、ドナー細胞の核を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、核からの因子の除去、または核への因子の付加を可能とする条件下でインキュベートする段階が含まれる。核または核から形成される染色質塊をレシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入することで、再プログラムされた細胞が形成される。再プログラムされた細胞を次に、対象細胞型を必要とする哺乳類に投与する。一つの好ましい態様では核を、間期用再プログラム用培地でインキュベートする。好ましくは、間期用再プログラム用培地とのインキュベーション中に、核は膜に結合した状態で留まり、また核内の染色体は凝縮しない。別の好ましい態様では、染色質塊は有糸分裂用再プログラム用培地中における核のインキュベーションによって形成される。好ましくは、この染色質塊を次に間期用再プログラム用培地中で、核が染色質塊から形成されうる条件下でインキュベートし、再形成された核をレシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入する。好ましくは、ドナー細胞は、このような細胞型を必要とする哺乳類(例えばヒト)に由来する。治療または予防の対象となる可能性のある疾患、障害、もしくは状態の例には、神経、内分泌、構造、骨格、血管、尿、消化器、外皮、血液、免疫、自己免疫、炎症、内分泌、腎臓、膀胱、心血管、癌、循環器、消化器、造血系、および筋肉の疾患、障害、ならびに状態などがある。また再プログラムされた細胞は、組織または臓器の修復または交換などの再建的応用に使用することができる。
【0014】
関連する局面では、本発明は、哺乳類(例えばヒト)の疾患、障害、もしくは状態の別の治療法または予防法を提供する。この方法には、ドナー細胞の染色質塊を、再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、染色質塊からの因子の除去、または染色質塊への因子の付加を可能とする条件下でインキュベートする段階が含まれる。染色質塊を間期用再プログラム用培地中でインキュベートすることで形成される染色質塊または核を、レシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入することで、再プログラムされた細胞が形成される。一つの好ましい態様では、この方法で使用される染色質塊は、ドナー細胞の核を界面活性剤および塩溶液中で、プロテインキナーゼ溶液中で、または有糸分裂用再プログラム用培地中で、NuMAに対する抗体の存在下もしくは非存在下でインキュベートすることで作製される。別の好ましい態様では、染色質塊は有糸分裂細胞から単離される。再プログラムされた細胞を次に、対象細胞型を必要とする哺乳類に投与する。好ましくは、ドナー細胞はレシピエントの哺乳類に由来する。治療および予防の対象となる疾患、障害、または状態の例には、神経、内分泌、構造、骨格、血管、尿、消化器、外皮、血液、免疫、自己免疫、炎症、内分泌、腎臓、膀胱、心血管、癌、循環器、消化器、造血系、および筋肉の疾患、障害、ならびに状態などが含まれる。また再プログラムされた細胞は、組織または器官の修復または交換などの再建的応用に使用することができる。
【0015】
さらに別の関連する局面では、本発明は、浸透化細胞を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、浸透化細胞の核もしくは染色質塊からの因子の除去、または核もしくは染色質塊への因子の付加を可能とする条件下でインキュベートする段階を含む、哺乳類(例えばヒト)の疾患、障害、または状態の別の治療法または予防法を提供する。このような段階で作製された再プログラムされた細胞を、細胞型を必要とする哺乳類に投与する。一つの好ましい態様では、浸透化細胞を間期用再プログラム用培地とインキュベートする。好ましくは、間期用再プログラム用培地とのインキュベーション中に、浸透化細胞の核は膜に結合した状態で留まり、また核内の染色体は凝縮しない。別の好ましい態様では、染色質塊は、有糸分裂用再プログラム用培地中で浸透化細胞をインキュベートすることで形成される。さらに別の好ましい態様では、再プログラムされた細胞を、再プログラムされた細胞の膜が、哺乳類への投与前に再び閉じられる条件下でインキュベートする。好ましくは浸透化細胞は、対象細胞型を必要とする哺乳類に由来する。別の好ましい態様では、浸透化細胞は、完全な細胞をジギトニンなどの界面活性剤、またはストレプトリシンOなどの細菌毒素とインキュベートすることで形成される。治療または予防の対象となる疾患、障害、または状態の例には、神経、内分泌、構造、骨格、血管、尿、消化器、外皮、血液、免疫、自己免疫、炎症、内分泌、腎臓、膀胱、心血管、癌、循環器、消化器、造血系、および筋肉の疾患、障害、および状態などがある。また再プログラムされた細胞は、組織または器官の修復または交換などの再建的応用に使用することができる。
【0016】
本発明は、内因性活性(例えば内因性酵素活性)、もしくは細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、またはインビトロ試料に含まれる内因性タンパク質の測定法も提供する。このような一つの局面では、この方法は、細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、またはインビトロ試料に由来する被験試料を、また標準試料を固相支持体に接触させる段階を含む。被験試料は、被験試料に天然に存在する対象内因性活性(例えばルシフェラーゼ活性もしくはホスファターゼ活性、例えばアルカリホスファターゼ活性)を有し、また被験試料は既知のタンパク質濃度を有するか、または既知の数の細胞に由来する。標準試料は既知レベルの対象活性(例えばルシフェラーゼ活性もしくはホスファターゼ活性)、または活性を有する既知量の天然タンパク質もしくは組換えタンパク質を有する。被験試料のルシフェラーゼ活性もしくはホスファターゼ活性のレベルを測定し、標準試料のルシフェラーゼ活性もしくはホスファターゼ活性のレベルと比較することにより、細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、もしくはインビトロ試料のルシフェラーゼもしくはホスファターゼ活性のレベルを決定する。一つの好ましい態様では、ルシフェラーゼ活性もしくはホスファターゼ活性は、内因性プロモーターの制御下にある内因性核酸にコードされる天然タンパク質によって発揮される。この方法は、他の任意の対象となる内因性活性の測定に使用される場合もある。別の好ましい態様では、このような活性は、ある細胞型に特異的であるか、または関連細胞型のファミリーに特異的である。さまざまな態様では、対象となる活性は、産物を生成する1種もしくは複数の基質の化学的変化である。好ましくは、基質の1種もしくは産物の1種が検出可能である。検出可能な標識は当技術分野で周知であり、放射性標識(例えば32Pもしくは35Sなどの同位元素)、および非放射性標識(例えば化学発光標識もしくは蛍光標識、例えばフルオレセイン)を含むがこれらに限定されない。
【0017】
関連する局面では、本発明は細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、もしくはインビトロ試料中の内因性タンパク質のレベルの測定法を提供する。この方法には、細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、もしくはインビトロ試料に由来する被験試料を、また標準試料を固相支持体に接触させる段階が含まれる。被験試料は、被験試料に天然に存在する内因性の検出可能な対象タンパク質(例えばルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、もしくはOct4)を有し、また被験試料は既知のタンパク質濃度を有するか、または既知の数の細胞に由来する。標準試料は、既知量の対象タンパク質、例えば天然もしくは組換え型のルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、もしくはOct4タンパク質を含む。被験試料中のルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、もしくはOct4タンパク質に由来するシグナルを測定し、標準試料中の対応タンパク質に由来するシグナルと比較することで、細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、もしくはインビトロ試料中のルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、もしくはOct4タンパク質の量を決定する。この方法は、他の任意の内因性対象タンパク質のレベルの測定に使用される場合もある。一つの好ましい態様では、対象タンパク質は、内因性プロモーターの制御下にある内因性核酸にコードされる。好ましい態様では、対象タンパク質はある細胞型に特異的であるか、または関連細胞型ファミリーに特異的である。さまざまな態様では、対象タンパク質は検出可能な標識を有するか、または検出可能な標識を有する別の分子(例えば抗体)に結合する。例示的な検出可能な標識には、放射性標識(例えば32Pや35Sなどの同位元素)、および非放射性標識(例えば化学発光標識もしくは蛍光標識、例えばフルオレセイン)などがある。
【0018】
対象となる活性もしくはタンパク質のレベルを測定する上記の方法の好ましい態様では、固相支持体に、それぞれ異なるレベルの活性または異なる量の対象タンパク質の多数の標準試料を接触させる。この態様では、標準曲線が標準試料から作成されて、被験試料に含まれる対象タンパク質の活性レベルまたは量の決定に用いられる場合がある。さまざまな態様では、細胞は、胚幹細胞または脳、血液、骨髄、膵臓、肝臓、皮膚、または他の任意の器官もしくは組織に由来する成体幹細胞などの幹細胞である。他の態様では、幹細胞に由来する抽出物に細胞を曝露する。さらに他の態様では、被験試料は、核または細胞質の細胞抽出物に由来する。有用な固相支持体には、試料と接触可能な任意の剛性表面または半剛性表面がある。支持体は、膜、フィルター、チップ、スライド、ファイバー、ビーズ、ゲル、チューブ、ストライプ、プレート、ロッド、重合体、粒子、微粒子、キャピラリ、およびプラスチック表面を含むがこれらに限定されない、任意の多孔性または非多孔性の水に不溶性の材料の場合がある。望ましいならば、支持体は、試料が接触するウェル、トレンチ、ピン、チャネル、および孔などのさまざまな表面形状をとりうる。
【0019】
本発明のさまざまな局面の好ましい態様では、ドナーもしくは浸透化細胞で発現されない少なくとも1種、5種、10種、15種、20種、25種、50種、75種、100種、150種、200種、300種、またはこれ以上のmRNA分子またはタンパク質分子を、再プログラムされた細胞中で発現させる。別の好ましい態様では、再プログラムされた細胞で発現されるが、ドナー細胞もしくは浸透化細胞で発現されないmRNA分子またはタンパク質分子の数は、1種以上5種以下、5種以上10種以下、10種以上25種以下、25種以上50種以下、50種以上75種以下、75種以上100種以下、100種以上150種以下、150種以上200種以下、または200種以上300種以下である。好ましくは、再プログラムされた細胞では発現されない少なくとも1種、5種、10種、15種、20種、25種、50種、75種、100種、150種、200種、300種、またはこれ以上のmRNA分子またはタンパク質分子を、ドナー細胞もしくは浸透化細胞で発現させる。さらに別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞中で発現されるが、再プログラムされた細胞では発現されないmRNA分子またはタンパク質分子の数は、1種以上5種以下、5種以上10種以下、10種以上25種以下、25種以上50種以下、50種以上75種以下、75種以上100種以下、100種以上150種以下、150種以上200種以下、または200種以上300種以下である。好ましくは、mRNA分子またはタンパク質分子は、分子が特定の細胞型の細胞でのみ発現されるように、ドナー細胞、浸透化細胞、または再プログラムされた細胞の細胞型に特異的である。さらに別の好ましい態様では、このようなmRNA分子またはタンパク質分子は、ドナー細胞(すなわちドナー細胞もしくは浸透化された出発細胞)と、再プログラムされた細胞の両方で発現されるが、これらの細胞内における発現レベルは、標準的なアッセイ法で測定時に少なくとも2倍、5倍、10倍、または20倍異なる(例えばAusubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York、2000を参照)。他の態様では、インテグリンなどの1種または複数の細胞骨格タンパク質の発現は、ドナーの線維芽細胞と比べて少なくとも少なくとも2倍、5倍、10倍、もしくは20倍低い。さらに他の態様では、再プログラムされた細胞は、ニューロフィラメントタンパク質、T細胞受容体タンパク質、IL-2、IL-2受容体、インスリン、もしくはOct4を、ドナー細胞もしくは浸透化細胞中における対応するレベルより少なくとも2倍、5倍、10倍、もしくは20倍大きなレベルで発現する。
【0020】
他の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞の大きさは、再プログラムされた細胞と、標準的な方法で測定時に少なくとも10%、20%、30%、50%、75%、もしくは100%異なる。別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞の細胞質容積は、標準的な方法によれば、再プログラムされた細胞と少なくとも10%、20%、30%、50%、75%、もしくは100%異なる。さらに別の好ましい態様では、再プログラムされた細胞は、特定のホルモン、細胞外マトリックス成分、または抗体の分泌などの活性を、ドナー細胞もしくは浸透化細胞に対して、獲得したり失ったりする。別の態様では、再プログラムされた細胞は、IL-2などのインターロイキンの産生能力および分泌能力を獲得し、ニューロフィラメント、神経突起、もしくは軸索の形成能力を獲得し、または胚様体の形成能力を獲得する。別の態様では、細胞は、T細胞受容体もしくはIL-2受容体を発現する能力、またはインスリンを産生する能力を獲得する。好ましくは、IL-2受容体のβ鎖は構成的に発現され、またα鎖は、(例えば抗CD3抗体による刺激により、または抗原の提示により)活性化させることによって発現される。他の態様では、幹細胞もしくは線維芽細胞などの再プログラムされた細胞は、収縮性筋細胞もしくは拍動性心臓細胞のような収縮能力を獲得する。
【0021】
さらに他の好ましい態様では、再プログラム用培地は、細胞周期のG0期、G1期、S期、もしくはG2期の一つまたは複数の相に同期させた細胞から形成される抽出物などの、間期用再プログラム用培地である。別の好ましい態様では、再プログラム用培地は、有糸分裂中に同期させた細胞に由来する細胞、または非同期細胞から形成される抽出物である。好ましくは、再プログラム用培地は、ドナー細胞もしくは浸透化細胞になることが望まれる細胞型に由来する抽出物であり、または再プログラム用培地は、ドナー細胞もしくは浸透化細胞になることが望まれる細胞型に特異的な因子群を含む溶液である。細胞を、再プログラムして幹細胞にするために使用可能な細胞の例には、胚幹細胞、および脳、血液、骨髄、膵臓、肝臓、皮膚、または他の任意の器官もしくは組織に由来する成体幹細胞などがある。好ましくは、ドナー細胞もしくは浸透化細胞は、間期もしくは有糸分裂期の体細胞である。別の好ましい態様では、再プログラム用培地は、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、転写因子、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、もしくはサイトカインなどの因子の強化または枯渇によって修飾される。再プログラム用培地は、外因性ヌクレオチドを含む場合もあれば含まない場合もある。他の好ましい態様では、再プログラム用培地に含まれる染色質塊、または浸透化細胞中で形成される染色質塊に、対象遺伝子をコードする核酸を有するベクターを、ベクター内の核酸と、染色質塊のゲノム中の対応核酸との間における相同組換えが起きることを可能とする条件下で接触させることで染色質塊のゲノムを変化させる。完全な形質膜がないため、また核膜がないため、浸透化細胞に含まれる染色質塊は天然の細胞とは異なり、容易に遺伝的に修飾することができる。好ましくは染色質塊もしくは核は、レシピエントの細胞もしくは細胞質体への導入に先立って再プログラム用培地から精製するか、または再プログラムされた細胞を、哺乳類への投与前に精製する。好ましくはドナーもしくは浸透化細胞は一倍体(DNA量がn)、二倍体(2n)、もしくは四倍体(4n)であり、またレシピエント細胞は低二倍体(DNA量が2n未満)、半数体、または除核状態である。
【0022】
好ましいドナー細胞、浸透化細胞、レシピエント細胞、再プログラムされた細胞、および細胞質体供給源には、上皮細胞、神経細胞、表皮細胞、角質細胞、造血細胞、メラニン形成細胞、軟骨細胞、B細胞、T細胞、赤血球、マクロファージ、単球、線維芽細胞、および筋細胞などの分化細胞;および胚幹細胞もしくは成体幹細胞などの未分化細胞などが含まれる。別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞は分化細胞であり、また再プログラムされた細胞は別の細胞型の分化細胞である。さらに別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞は未分化細胞であり、また再プログラムされた細胞は分化細胞である。さらに別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞は分化細胞であり、また再プログラムされた細胞は未分化細胞である。望ましいならば、特定の成長因子、ホルモン、インターロイキン、サイトカイン、もしくは他の細胞への曝露などの標準的な方法で、未分化の再プログラムされた細胞を誘導して、所望の細胞型にインビトロで分化させることができる。別の好ましい態様では、未分化の再プログラムされた細胞は、哺乳類への投与後に所望の細胞型にインビボで分化する。さらに別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞はB細胞、ジャーカット細胞、内皮細胞、上皮細胞、もしくは線維芽細胞であり、また再プログラムされた細胞はT細胞である。核もしくは染色質塊が、所望の細胞型、またはドナー細胞もしくは浸透化細胞と同じ細胞型のレシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入される場合があることも対象となる。さらに別の好ましい態様では、ドナー細胞、浸透化細胞、レシピエント細胞、もしくはレシピエント細胞質体は、ヒトもしくは非ヒト哺乳類に由来する。さらに別の好ましい態様では、ドナーの核もしくは染色質塊は、トランスジェニックの細胞もしくは哺乳類に由来するか、またはドナー細胞には存在しない変異、もしくは天然の細胞には存在しない変異を含む。ドナー細胞もしくは浸透化細胞は、不死化されていない状態の場合があるほか、天然の状態で自然に、もしくは遺伝的に不死化される場合がある。ドナー細胞、浸透化細胞、レシピエントの細胞または細胞質体は、胚、胎児、若齢成体、または成体哺乳類などの任意齢の供給源に由来する場合がある。若齢供給源の細胞は、自発的な変異を獲得することがほとんどない場合があり、またインビトロで、または移植後にインビボで長寿命を示す場合がある。
【0023】
好ましくは、ドナーの核もしくは染色質塊に含まれる遺伝子の調節領域、プロモーター、未翻訳領域、もしくはコード領域における疾患の原因となる変異を修飾して、変異配列を疾患に関連しない配列と交換する。あるいは、疾患関連変異を含まない遺伝子の配列に動作可能に連結されたプロモーターを含むドナーの核もしくは染色質塊に核酸を導入する。好ましくは、このような遺伝子の配列は、疾患に関連した多型または変異を含まない天然遺伝子と実質的に同一である。以上の方法で救済される可能性のある変異の例には、嚢胞性線維症遺伝子の変異;ダニガン(Dunnigan)病に関連する変異(ラミンA遺伝子のR482W変異、R482Q変異、およびR584H変異);ならびに常染色体優性型のエメリー・ドレイフアス(Emery-Dreifuss)型筋ジストロフィー症に関連する変異(ラミンA遺伝子のR249Q変異、R453W変異、およびQ6STOP変異など)などがある。Q6STOP変異の場合、Gln6のコドンが変異によって終止コドンに変化する。
【0024】
好ましいトランスジェニックのドナーの核、染色体、または染色質塊は、再プログラムされた細胞を治療的応用のために投与する哺乳類に存在するMHCクラスIタンパク質の配列と実質的に同一なアミノ酸配列を有する異種MHCクラスIタンパク質をコードする。あるいは、ドナーの核もしくは染色質塊は、レシピエントの哺乳類と同じ属もしくは種の別の哺乳類に存在するMHCクラス1タンパク質の配列と実質的に同一なアミノ酸配列を有する異種MHCクラス1タンパク質をコードする場合がある。このようなMHCタンパク質を発現する再プログラムされた細胞は、哺乳類に投与された場合に有害な免疫応答を誘導する可能性が低い。他の好ましいドナーの核もしくは染色質塊は、ヒト補体インヒビターCD59、もしくはヒト補体調節因子崩壊加速因子(h-DAF)などの、レシピエント哺乳類の補体経路を抑制する異種タンパク質を発現するように修飾される(例えばRamirezら、Transplantation 15:989〜998、2000;Costaら、Xenotransplantation 6:6〜16、1999を参照)。さらに別の好ましい態様では、ドナーの核もしくは染色質塊は、アルファ(1,3)-ガラクトシルトランスフェラーゼなどのガラクトシルトランスフェラーゼの発現もしくは活性を低下させたり消失させたりする変異を有する(Tearleら、Transplantation 61:13〜19、1996;Sandrin、Immunol.Rev. 141:169〜190、1994;Costaら、Xenotransplantation 6:6〜16、1999)。この酵素は、ガラクトースアルファ(1,3)-ガラクトースエピトープを発現する細胞がヒトに投与された場合に、有害な免疫応答を誘導する糖質で細胞表面分子を修飾する。したがって、このエピトープの発現が低レベルの再プログラムされた細胞は、レシピエント哺乳類による拒絶率が低い。
【0025】
本発明の治療法に関しては、再プログラムされた細胞の哺乳類への投与が、特定の投与様式、用量、または投与頻度に制限されることは意図されず;本発明は、疾患の予防もしくは治療に適した用量を十分提供する筋肉内、静脈内、関節内、病巣内、皮下、または他の任意の経路を含む、あらゆる投与様式を対象とする。好ましくは、このような細胞は、ドナーもしくは浸透化細胞を得る哺乳類に投与される。あるいは、ドナー細胞もしくは浸透化細胞は、レシピエント哺乳類と同じ、もしくは異なる属もしくは種の異なるドナー哺乳類から得られる場合がある。好ましいドナー哺乳類の例には、ヒト、雌ウシ、ヒツジ、オオツノヒツジ、ヤギ、バッファロー、アンテロープ、雄ウシ、ウマ、ロバ、ラバ、シカ、オオジカ、カリブー、スイギュウ、ラクダ、リャマ、アルパカ、ウサギ、ブタ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ、およびサルなどの霊長類などが含まれる。細胞は哺乳類に1回もしくは複数回投与することができる。複数回の投与が行われる場合は、用量は例えば1週間、1か月、1年、または10年に相互に分割することができる。1種または複数の成長因子、ホルモン、インターロイキン、サイトカイン、もしくは他の細胞も、細胞の投与前、投与中、もしくは投与後に投与して、特定の細胞型に対してさらにバイアスをかけることができる。またシクロスポリンなどの1種または複数の免疫抑制剤を投与して、移植細胞の拒絶を抑えることができる。任意の特定の被験者について、特定の投与法が、組成物投与の実施もしくは管理を行う者によって、個々のニーズおよび専門的判断にしたがって時間的に調節されることは言うまでもない。
【0026】
本明細書で用いられる「染色質塊」は、膜に囲まれていない1種より多い染色体を意味する。好ましくは本発明の染色質塊は、細胞のすべての染色体を含む。凝縮した染色体を含む染色質塊は、有糸分裂用再プログラム用培地(例えば有糸分裂抽出物)に核を曝露することで形成される場合があり、または染色質塊は、本明細書に記載される手順で有糸分裂細胞から単離することができる。あるいは脱凝縮した染色体、または部分的に凝縮した染色体を含む染色質塊は、本明細書に記載された以下の一つに核を曝露することで作ることができる:抗NuMA抗体、界面活性剤および塩溶液の存在下における有糸分裂用再プログラム用培地(例えば有糸分裂抽出物)、またはプロテインキナーゼ溶液。
【0027】
染色質塊は天然に誘導できるほか、人工的に誘導することもできる。例示的な天然染色質塊には、膜に囲まれておらず、また有糸分裂細胞中に存在したり、または有糸分裂細胞から単離される、部分的もしくは最大限に凝縮した染色体である一連の中期染色体などがある。好ましくは、中期の染色体は、相互に物理的に接していない離散型の染色体である。例示的な人工的に誘導された染色質塊は、染色体の凝縮を促進する因子群を含む溶液、有糸分裂抽出物、界面活性剤および塩溶液、またはプロテインキナーゼ溶液などの再プログラム用培地に曝露することで形成される。人工的に誘導された染色質塊は、相互に物理的に接していない離散型の染色体を含む場合があるほか、物理的に接触した2種もしくはこれ以上の染色体を含む場合がある。
【0028】
望ましいならば、染色体の凝縮のレベルは、DNA染色剤DAPIによる染色強度を測定する標準的な方法で決定することができる。染色体が凝縮すると染色強度は上昇する。したがって染色体の染色強度は、間期の脱凝縮状態の染色体の染色強度(凝縮率0%と表記)と、有糸分裂時に最大限に凝縮した染色体(凝縮率100%と表記)と比較することができる。このような比較に基づき、最大凝縮のパーセントを決定することができる。好ましい凝縮状態の染色質塊は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、もしくは100%凝縮している。好ましい脱凝縮した染色質塊、または部分的に凝縮した染色質塊は、凝縮率が50%、40%、30%、20%、もしくは10%未満である。
【0029】
「核」は、細胞のDNAの大部分もしくはすべてを含む膜に結合した状態のオルガネラを意味する。このDNAは、脱凝縮状態の染色体中に密にまとまっている。好ましくはDNAを包む膜は、1枚または2枚の脂質二重層を含むほか、ヌクレオポリンを含む。
【0030】
「ドナー細胞」は、核もしくは染色質塊を抽出する対象の細胞を意味する。
【0031】
「細胞質体」は、膜に包まれた細胞質を意味する。好ましくは細胞質体は、核、染色質塊、または染色体を含まない。細胞質体は、標準的な手順で形成することができる。例えば細胞質体は、有核細胞または除核細胞から抽出することができる。あるいは細胞質体は、細胞質の供給源として、または膜の供給源として使用される完全な細胞を必要としない方法で作製することができる。このような方法の一つでは、細胞質体は、膜による細胞質の封入を可能とする条件下で、細胞質の存在下で膜を形成することで作られる。
【0032】
「浸透化」は、形質膜中における孔の形成、または形質膜の部分的もしくは完全な除去を意味する。
【0033】
「再プログラム用培地」は、核、染色質塊、もしくは染色体からの因子の除去を可能とする溶液、または溶液から核、染色質塊、もしくは染色体に因子を付加することが可能な溶液を意味する。好ましくは、因子の付加もしくは除去は、ドナー細胞、染色質塊、もしくは核における、または再プログラムされた染色質塊、もしくは核を含む細胞におけるmRNAもしくはタンパク質の発現レベルを上昇させたり低下させたりする。別の態様では、浸透化細胞、染色質塊、または核を再プログラム用培地中でインキュベートすることで、浸透化細胞、または再プログラムされた染色質塊もしくは核を含む細胞の表現型が、ドナー細胞の表現型に対して変化する。さらに別の態様では、浸透化細胞、染色質塊、もしくは核を再プログラム用培地中でインキュベートすることで、浸透化細胞、または再プログラム染色質塊もしくは核を含む細胞が、ドナー細胞に対する活性を獲得したり失ったりする。
【0034】
例示的な再プログラム用培地には、タンパク質や核酸などの生体分子を含まない緩衝液などの溶液がある。このような溶液は、核、染色質塊、もしくは染色体からの1種もしくは複数の因子の除去に有用である。他の好ましい再プログラム用培地は、細胞核、細胞質、またはこれらの組み合わせに由来する細胞抽出物などの抽出物である。さらに他の再プログラム用培地は、1種または複数の天然もしくは組換え型の因子(例えば核酸、またはDNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、転写因子、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、もしくはサイトカインなどのタンパク質)が添加された溶液もしくは抽出物、または1種もしくは複数の因子が除去された抽出物である。さらに他の再プログラム用培地は、界面活性剤および塩溶液、ならびにプロテインキナーゼ溶液を含む。いくつかの態様では、再プログラム用培地は抗NuMA抗体を含む。「間期用再プログラム用培地」は、染色質の脱凝縮および核エンベロープの形成を誘導する培地(例えば間期細胞抽出物)を意味する。「有糸分裂用再プログラム用培地」は、染色質の凝縮および核エンベロープの崩壊を誘導する培地(例えば有糸分裂細胞抽出物)を意味する。望ましいならば、複数の再プログラム用培地を同時に、または連続的に使用して、ドナーの細胞、核、もしくは染色質塊を再プログラムすることができる。
【0035】
「因子の付加」とは、染色質、染色体、または核エンベロープ成分(核膜もしくは核マトリックスなど)に対する因子の結合を意味する。あるいは、因子は核内に輸送されて、核エンベロープに結合したり包まれたりする。好ましくは、染色体に結合する因子、または核内に位置する因子の数は、少なくとも25%、50%、75%、100%、200%、もしくは500%増加する。
【0036】
「因子の除去」とは、染色質、染色体、もしくは核エンベロープ成分(核膜もしくは核マトリックスなど)から因子を解離させることを意味する。あるいは因子は核外に輸送され、核エンベロープに結合しなくなったり包まれなくなったりする。好ましくは、染色体に結合する因子、または核内に位置する因子の数は、少なくとも25%、50%、75%、100%、200%、もしくは500%減少する。
【0037】
「因子の強化または枯渇」とは、天然の因子もしくは組換え型因子の、再プログラム用培地中に当初存在する因子の量の少なくとも20%、40%、60%、80%、もしくは100%の付加または除去を意味する。あるいは、再プログラム用培地中に天然に存在しない天然の因子もしくは組換え型因子が添加される場合がある。好ましい因子には、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、転写因子、活性化因子、抑制因子、成長因子、サイトカイン、およびホルモンなどのタンパク質;膜小胞;および細胞小器官などが含まれる。一つの好ましい態様では因子は、後述するように、再プログラム用培地に添加する前に精製される。あるいは後述する精製法の一つは、望ましくない因子を再プログラム用培地から除去する際に実施することができる。
【0038】
「精製された」とは、天然の状態ではともに存在する他の成分から分離された状態を意味する。典型的には因子は、少なくとも重量比で50%が、天然の状態では結合した状態にあるタンパク質、抗体、および天然有機分子を含まない場合に実質的に精製された状態にある。好ましくは、因子は重量比で少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、また最も好ましくは少なくとも99%純粋である。実質的に純粋な因子は、化学合成、天然供給源からの因子の分離、または天然の状態では因子を産生しない組換え宿主細胞中における因子の産生によって得られる場合がある。タンパク質、小胞、染色体、核、および他の細胞小器官を、当業者であればAusubelら(「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York、2000)に記載されているような標準的な方法で精製することができる。因子は好ましくは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、カラムクロマトグラフィー、光学密度、HPLC解析、もしくはウエスタン解析(Ausubelら、前出)で測定時に、出発材料に対して少なくとも2倍、5倍、または10倍純粋である。好ましい精製法には、免疫沈殿法、イムノアフィニティクロマトグラフィー、磁気ビーズイムノアフィニティ精製などのカラムクロマトグラフィー、およびプレートに結合させた抗体を使用するパニング法などがある。
【0039】
「ある細胞型に特異的なmRNAまたはタンパク質」とは、1種の細胞型で、他のあらゆる細胞型における発現レベルより少なくとも10倍、20倍、50倍、75倍、もしくは100倍大きいレベルで発現されるmRNAまたはタンパク質を意味する。好ましくは、mRNAまたはタンパク質は1種の細胞型でのみ発現される。
【0040】
「変異」とは、挿入、欠失、フレームシフト変異、サイレント変異、ナンセンス変異、もしくはミスセンス変異などの、天然の核酸配列または標準核酸配列の変化を意味する。好ましくは、核酸配列にコードされたアミノ酸配列は、天然配列と少なくとも1か所が異なるのアミノ酸変化を有する。細胞、胚、胎児、もしくは哺乳類のゲノム配列を変化させる組換えDNA手法の例には、別の生物(例えばヒト)のDNA配列のゲノムへの挿入、1か所または複数のDNA配列の欠失、および1か所もしくは複数の塩基変異(例えば部位特異的変異またはランダム変異)の標的DNA配列への導入などがある。このような修飾を作る方法の例には、レトロウイルスを用いた挿入、人工染色体法、遺伝子挿入、組織特異的プロモーターのランダム挿入、相同組換え、遺伝子ターゲティング、転移因子、および外来DNAを導入する他の任意の方法などがある。以上の手法はいずれも分子生物学分野の当業者に周知である(例えばAusubelらの前出文献を参照)。修飾されたDNAを含むトランスジェニックの細胞、組織、器官、もしくは哺乳類に由来する染色質塊、染色体、および核は、本発明の方法に使用することができる。
【0041】
「実質的に同一である」とは、別の配列、もしくは天然配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、もしくは100%同一な配列を有することを意味する。配列同一性は通常、配列解析ソフトウェアを用いて、ソフトウェアで指定されたデフォルトのパラメータを用いて測定される(例えば、Genetics Computer Group、University of Wisconsin Biotechnology Center、1710 University Avenue、Madison、WI 53705の「Sequence Analysis Software Package」)。このソフトウェアプログラムは、相同性の程度を、さまざまな置換、欠失、および他の修飾に割り当てることで類似の配列をマッチさせる。
【0042】
「不死化された」とは、不死化細胞と同じ細胞型、属、および種の天然の対照細胞より、または不死化細胞が由来するドナー細胞より少なくとも25%、50%、75%、90%、もしくは95%多く細胞分裂が進む能力を意味する。好ましくは、不死化細胞は、対照細胞より、少なくとも2倍、5倍、10倍、もしくは20倍多い細胞分裂が起きることがありうる。より好ましくは、不死化細胞は無限に細胞分裂することができる。不死化細胞の例には、正常な成長調節過程を変化させる変異をインビボもしくはインビトロで天然に獲得する細胞などがある。他の好ましい不死化細胞には、ミエローマとB細胞を融合させる標準的な方法で作製されるハイブリドーマ細胞などがある(Mocikat、J.Immunol.Methods 225:185〜189、1999;Jonakら、Hum.Antibodies Hybridomas 3:177〜185、1992;Srikumaranら、Science 220:522、1983)。さらに他の好ましい不死化細胞には、ras、myc、abl、bcl2、もしくはneuなどの癌遺伝子を発現するように遺伝的に修飾された細胞、またはエプスタイン・バーウイルスやSV40ウイルスなどの形質転換能をもつDNAウイルスもしくは受容体ウイルスを感染させた細胞がある(Kumarら、Immunol.Lett. 65:153〜159、1999;Knightら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 85:3130〜3134、1988;Shammahら、J.Immunol. Methods 160-19-25、1993;GustafssonおよびHinkula、Hum.Antibodies Hybridomas 5:98〜104、1994;Kataokaら、Differentiation 62:201〜211、1997;Chatelutら、Scand.J.Immunol. 48:659〜666、1998)。細胞は、テロメラーゼ遺伝子を発現するように遺伝的に修飾することもできる(Roquesら、Cancer Res. 61:8405〜8507、2001)。
【0043】
「不死化されていない」とは、上述したように不死化されていない状態を意味する。
【0044】
本発明は、細胞の運命の変化に関連したいくつかの利点を提供する。例えば、このような方法は一般に、任意の所望の細胞型の細胞を作製する際に応用することができる。このような方法には、核、染色質塊、または浸透化細胞を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)中でインキュベートして、再プログラムを可能とする段階が含まれるので、再プログラム効率は、再プログラムを促す因子群を再プログラム用培地に付加することによって、または再プログラムを抑える因子群を除去することによって上昇させることができる。再プログラムされた細胞は、特定の細胞型の損傷もしくは欠損が関与する状態の治療または予防を目的として哺乳類に移植することができる。望ましいならば、再プログラムされた細胞は、標準的な分子生物学的手法で操作することで、細胞をレシピエント哺乳類に投与する前に、疾患の原因となる変異を修正することができる。
【0045】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかになる。
【0046】
アプリケーションファイルには、カラー出力された図表が含まれる(図13、14A、14B、14C、15、および17A)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
詳細な説明
発明者らは、細胞または細胞の遺伝的材料を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)に曝露する、新しい再プログラム法を開発した。ここで言う再プログラム処理とは、ドナー細胞に特異的な遺伝子群の発現を低下させたり除去したりすること、または他の細胞型に特異的な遺伝子群の発現を上昇させることを意味する。例えば発明者らは、刺激T細胞抽出物中で休止期T細胞、B細胞、または線維芽細胞の核をインキュベートすると、T細胞特異的転写因子が抽出物から核内へ移行することを既に報告している。また休止期T細胞、線維芽細胞、内皮細胞(HUVEC)、分化上皮細胞(HeLa)、およびニューロン前駆細胞(NT2)の核の再プログラムにより、核で通常抑制されているIL-2遺伝子の発現が誘導された。休止期T細胞および線維芽細胞の核が再プログラムされると、IL-2遺伝子の過剰なアセチル化、および染色質リモデリング複合体の核内結合も誘導された。したがって抽出物などの再プログラム用培地を使用することで、再プログラム用培地の調製に使用される細胞の発現プロファイルに似せるように、ドナー細胞の遺伝的材料の発現プロファイルを変化させることができる。
【0048】
本明細書に記載されている、細胞を再プログラムする方法により、細胞を、起源または特徴が密接に関連した別の細胞型に変換することができる。例えば結合組織ファミリーの細胞(線維芽細胞、平滑筋細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞など)は、このような方法で相互変換することができる。また肝実質細胞は、インスリン産生B細胞に変換することができる。これは、これら両細胞型が多くの同じ遺伝子群を発現するためである。あるいは、細胞をドナー細胞と遠縁の所望の細胞型に変換すると、ドナー細胞と特徴もしくは機能をほとんど共有しないか全く共有しない場合がある。
【0049】
このような再プログラム法の一つでは、間期のドナー細胞の核を、間期細胞から調製した再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)中で、転写調節因子などの因子の核からの輸送、および再プログラム用培地から核への因子の輸送を可能とする条件下でインキュベートする。次に核を、レシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入することで、再プログラムされた細胞が形成する。好ましくは、間期用再プログラム用培地の調製に使用される細胞は、再プログラムされる細胞になることが望まれる細胞型である。ドナー細胞と比較して、再プログラムされた細胞の核にはさまざまな因子が存在するので、再プログラムされた細胞は、異なる一連のmRNA分子およびタンパク質分子を発現し、このためドナー細胞とは異なる表現型を示す。最適な再プログラム効率を達成するためには、2回、3回、5回、またはこれ以上の再プログラム処理を行うとよい。再プログラムされた細胞は、細胞機能の持続的な変化を促す条件下で培養することもできる。例えば、このような細胞は、抗原、インターロイキン、成長因子、サイトカイン、または他の細胞などの別の成分を追加して培養することができる。再プログラムされた細胞は、細胞が機能すると考えられる、宿主動物または患者の臓器内に移植することもできる。局所的な環境的刺激は、再プログラムを促進する場合がある。
【0050】
関連する方法では、ドナー間期細胞の核を、有糸分裂用再プログラム用培地(例えば有糸分裂細胞抽出物)、界面活性剤および塩溶液、またはプロテインキナーゼ溶液中でインキュベートして、核エンベロープの解離、またおそらくは染色質の凝縮を促して染色質塊を形成させる。核エンベロープの崩壊および染色質の凝縮は、染色質塊からの因子群の放出を促す。あるいは染色質塊は、ドナーの有糸分裂細胞から単離することができる。このような方法の一つの態様では、染色質塊を、所望の細胞型のレシピエントの細胞または細胞質体に導入する。核輸送後に、ドナーの染色質塊から核が再形成される。また、レシピエントの細胞もしくは細胞質体の細胞質に由来する所望の因子群は核内へ移行して外因性染色体に結合し、再プログラムされた細胞による所望の遺伝子群の発現が誘導される。所望の遺伝子群の持続的な発現を促進させるために、2回、3回、5回、もしくはこれを上回る再プログラム過程を行い、再プログラムされた細胞を、抗原、インターロイキン、成長因子、サイトカイン、もしくは他の細胞などの成分をさらに追加して培養することができる。
【0051】
この方法の別の態様では、最初に染色質塊を間期用再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)中で、上述の手順でインキュベートして、望ましくない因子群の染色質塊からの放出、および所望の因子群の、間期用再プログラム用培地から染色質塊への結合をさらに促す。間期用再プログラム用培地中でインキュベートすることで、核膜形成も誘導され、染色質塊および再プログラム用培地に由来する所望の因子群が封入される。再形成された核を次に、所望の細胞型の、もしくは他の任意の細胞型のレシピエントの細胞、または細胞質体に導入する。
【0052】
再プログラム用培地中で後にインキュベートするための、核または染色質塊をドナー細胞から単離する別の方法では、ドナー細胞を穏やかに浸透化処理し、再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)中でインキュベートすることができる。形質膜を浸透化処理することで、因子群が細胞内外を移動可能となる。このような細胞は、間期用再プログラム用培地中でインキュベートして、核を膜に結合した状態で留めるか、または有糸分裂用再プログラム用培地中でインキュベートすることで核膜を解離させて、染色質塊を形成させることができる。再プログラム用培地中でインキュベートすることで、形質膜が再び閉じられ、再プログラム用培地に由来する所望の因子が細胞内に捕捉される場合がある。望ましいならば、この再プログラム法は1回、2回、3回、4回、5回、またはこれ以上の回数を繰返すことができる。例えば再び閉じられた細胞を、再プログラムを促す抗原、インターロイキン、成長因子、サイトカイン、もしくは他の細胞などの因子の存在下または非存在下で一定期間(例えば2日、7日、14日、3週、4週、8週、またはこれ以上)培養すると、細胞が浸透性をもち、さらに再プログラムの程度が進む。再プログラムのサイクルを追加することで、より安定で遺伝性の後成的な変化、および再プログラムされた細胞に由来する表現型または対象タンパク質の長期発現が生じる場合がある。
【0053】
このような全細胞を対象とした再プログラム法で、リンパ芽球性白血病細胞系列であるジャーカットTAg(本明細書ではジャーカットと表記)の抽出物を用いて、浸透化されたヒト線維芽細胞を再プログラムして、染色質のリモデリング、リンパ球特異的遺伝子群の活性化、およびT細胞特異的活性の確立を誘導した。例えばCD3-T細胞受容体(TCR)複合体などのT細胞特異的抗原が、再プログラムされた細胞で発現され、これらの細胞をCD3-TCRで刺激することでIL-2受容体が形成された。NT2ニューロン前駆細胞抽出物に曝露後、浸透化された線維芽細胞は、培養物中でニューロフィラメントタンパク質を発現し、神経突起様伸長が延長した。線維芽細胞も、胚幹細胞に似た細胞に再プログラムされた。
【0054】
このような方法で作られた再プログラムされた細胞を用いて、特定の細胞型を必要とする哺乳類における細胞を交換することができる。この再プログラム法により、所望の細胞型の細胞を直接作ることができるほか、後に所望の細胞型に分化する可能性のある未分化細胞を作ることができる。例えば幹細胞は、適切な条件で培養することでインビトロで分化させることができるほか、哺乳類の適切な領域に投与後にインビボで分化させることができる。表現型および機能の変化を最適化するために、再プログラムされた細胞を、動物モデルもしくはヒト患者で、再プログラム直後(例えば1日後、2日後、3日後、5日後、7日後、もしくはそれ以降)に機能させることを意図する臓器(例えば心臓)に移植することができる。臓器に移植された再プログラムされた細胞は、移植前の培養物中において成長させた細胞より大規模に再プログラムされる場合がある。動物の臓器に移植された細胞は、臓器から除去してレシピエント哺乳類(ヒトなど)に移植することができるほか、動物の臓器をレシピエントに移植することができる。
【0055】
細胞、核、または染色質塊が、疾患の治療目的で哺乳類への投与に先立ってインビトロで再プログラムされる時間を延長するためには、ドナー細胞を、Creリコンビナーゼ用のloxP部位が隣接した癌遺伝子を含むプラスミド、および誘導性プロモーターの制御下にあるCreリコンビナーゼをコードする核酸を含むプラスミドを一過的にトランスフェクトすることで任意選択で修飾するとよい(Chengら、Nucleic Acids Res. 28(24):E108、2000)。このようなプラスミドを導入することで細胞の不死化が制御される。細胞が所望の細胞型に再プログラムされ、哺乳類に投与する準備が整ったら、部位特異的な組換え、およびプラスミドからのカセットの欠損を引き起すCreリコンビナーゼを誘導してloxP-癌遺伝子-loxPカセットをプラスミドから除去することができる。癌遺伝子を含むカセットが除去されると、細胞はもはや不死化されなくなり、癌性腫瘍の形成を引き起すことなく哺乳類に投与することができる。
【0056】
このように再プログラムされた細胞の医学的応用の例には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、もしくはALS;または脊髄損傷などの神経疾患の治療、予防、または安定化を目的とした、ヒト神経系の適切な領域へのニューロン細胞の投与が含まれる。特に変性したり損傷を受けたりしたニューロン細胞は、哺乳類の対応する細胞と交換することができる。このような移植法は、インスリン依存性糖尿病、慢性関節リウマチ、尋常性天疱瘡、多発性硬化症、および重症筋無力症を含むがこれらに限定されない自己免疫疾患の治療、予防、または安定化に使用することもできる。このような方法では、レシピエント自身の免疫系によって攻撃される細胞を移植細胞と交換することができる。特にインスリン産生細胞は糖尿病の治療または予防を目的として哺乳類に投与することが可能であり、オリゴデンドログリア前駆細胞は多発性硬化症の治療または予防を目的として移植することが可能である。内分泌疾患の治療または予防には、成長因子、甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン、ステロイド、セロトニン、エピネフリン、またはノルエピネフリンなどのホルモンを産生する再プログラムされた細胞を哺乳類に投与することができる。あるいは、再プログラムされた上皮細胞を投与して、体腔または臓器(肺、腸、外分泌腺、または泌尿生殖器など)の内壁の損傷を修復することができる。再プログラムされた細胞が、膀胱、脳、食道、ファロピウス管、心臓、腸、胆嚢、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、前立腺、脊髄、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、気管、輸尿管、尿道、または子宮などの臓器の細胞の損傷または欠損の治療を目的として哺乳類に投与される場合があることも対象となる。
【0057】
再プログラムされた細胞は、マトリックスと混合して、レシピエント哺乳類の組織もしくは臓器の修復もしくは交換に使用可能な組織もしくは臓器をインビトロもしくはインビボで形成させることもできる。例えば、再プログラムされた細胞は、マトリックスの存在下でインビトロで培養して、膀胱、陰核、陰茎海綿体、腎臓、睾丸、輸尿管、尿管弁、または尿道などの泌尿生殖器系の組織もしくは臓器を作ることができる(これらは後に哺乳類に移植することができる)(Atala、Curr.Opin.Urol. 9(6):517〜526、1999)。別の移植的応用では、再プログラムされた細胞を適切なマトリックスの存在下で培養して合成血管をインビトロで形成させた後に、心血管系または循環器の疾患の治療もしくは予防を目的として、血管を哺乳類に移植する。ドナーの軟骨または骨組織を作る際には、軟骨細胞もしくは骨細胞などの再プログラムされた細胞を、軟骨もしくは骨の形成を可能とする条件下で、マトリックスの存在下でインビトロで培養した後に、ドナー組織を含むマトリックスを哺乳類に投与する。あるいは、細胞とマトリックスの混合物を、所望の組織をインビボで形成するために哺乳類に投与することができる。好ましくは細胞をマトリックス表面に結合させるか、マトリックス内に封入する。ドナーの組織または臓器の形成に使用可能なマトリックスの例には、コラーゲンマトリックス、炭素繊維、ポリビニルアルコールスポンジ、アクリルアミドスポンジ、フィブリン-トロンビンゲル、ヒアルロン酸ベースの重合体、およびポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリグリコール酸、またはこれらの組み合わせを含む合成重合体マトリックス(例えば米国特許第4,846,835号;第4,642,120号;第5,786,217号;および第5,041,138号を参照)などが含まれる。
【0058】
以上の方法について詳述する。後述する任意の方法が、細胞抽出物ではなく再プログラム用培地を用いて実施できる点は重要である。例えば再プログラム用培地は、1種もしくは複数の天然もしくは組換え型の因子(例えば核酸、またはDNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、転写因子、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、もしくはサイトカインなどのタンパク質)を緩衝液などの溶液に添加して作製できる。好ましくは1種もしくは複数の因子は、ドナー細胞になることが望まれる細胞型に特異的である。
【実施例】
【0059】
実施例1:1段階インビトロ再プログラム法
細胞を再プログラムする以下の方法では、核を間期細胞から単離し、間期用再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)中で、再プログラム用培地に由来する因子の核への付加、または核からの因子の除去を可能とする条件下でインキュベートする。好ましくは核は、インキュベーション中に膜に結合した状態で留まる。再プログラムされた核を、次に再プログラム用培地から単離し、レシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入する。
【0060】
核の単離
好ましくは、再プログラムされた細胞が投与される被験者の細胞をドナー核の供給源として使用する。一方で、同じ種の他の細胞、または異なる種もしくは属の細胞を使用することができる。数百万個もの核を、培養中に同期させた細胞集団、または非同期細胞集団から単離することができる。このような細胞集団は、天然の状態で同期させたり化学的に同期させたりすることができる。好ましくは、集団中の少なくとも40%、60%、80%、90%、または100%の細胞を、標準的な手順で、細胞周期(G0、G1、S、またはG2など)の一つもしくは複数の相の間期で停止させる。
【0061】
これを達成するためには、細胞を例えば低濃度血清(例えば5%、2%、または0%)中で、1日、2日、3日、またはこれ以上の期間インキュベートすることで、G0期の細胞のパーセンテージを高めることができる。細胞をG1期に同期させるためには、接着状態の細胞としてコンフルエントに細胞を成長させた後に、0.5〜1 μg/mlのノコダゾール(Sigma Chemicals、St.Louis、MO)中で、上述のように17〜20時間インキュベートすることができる(例えばCollasら、1999、およびそれに含まれる参考文献を参照)。接着状態の細胞を含むフラスコを、その一端を繰返し叩くことで激しく振盪することで、有糸分裂細胞とG1期ダブレットを剥がすことができる。G1期ダブレットは、薄い架橋によって未だ結合状態にある分裂過程の終了時において伸長した細胞の対である。剥がれたG1期ダブレットは、特徴的なダブレット構造に基づいて培地から単離することができる。G1期ダブレットは結合状態で留まる場合があるほか、単離後に2個の異なる細胞に分裂する場合がある。
【0062】
S期の細胞のパーセンテージを高めるためには、DNAポリメラーゼαを阻害することでDNA合成を抑制して細胞をS期で停止させるアフィジコリンの存在下で細胞を培養するとよい。あるいは、過剰なチミジンの存在下で細胞をインキュベートする。結果として他のヌクレオチドに対して細胞内のチミジンが濃度が高くなることによっても、DNAポリメラーゼが阻害される。
【0063】
細胞は、アフィジコリンの存在下で細胞をインキュベートしてS期で停止させた後に、遠心を繰返して細胞を3回洗浄し、本明細書に記載されているようにリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁することでG2に同期させることができる。この細胞を次に、細胞がG2期に進む十分な時間インキュベートする。例えば倍加時間が約24時間の細胞は6〜12時間インキュベートするとG2期に進む。倍加時間がこれより短い、または長い細胞の場合は、インキュベーション時間を相応に調節するとよい。
【0064】
同期細胞または非同期細胞を標準的な手順でPBS中に回収し、数回の洗浄を行い、細胞を元の培地から低浸透圧緩衝液(10 mM Hepes、pH 7.5、2 mM MgCl2、25 mM KCl、1 mM DTT、10 μM アプロチニン、10 μM ロイペプチン、10 μM ペプスタチンA、10 μM ダイズトリプシンインヒビター、および100 μM PMSF)に移す。例えば細胞を50 mlのPBSで洗浄して500×gで4℃で10分間遠心する。PBS上清を捨て、ペレット状の細胞を50 mlのPBSに再懸濁して上述のように遠心する。遠心後、ペレット状の細胞を、20〜50倍容の氷冷低浸透圧緩衝液に再懸濁し、500×gで4℃で10分間遠心する。上清を再び捨て、約20倍容の低浸透圧緩衝液を細胞ペレットに添加する。細胞を緩衝液に慎重に再懸濁し、氷上で少なくとも1時間インキュベートすることで細胞が次第に膨潤する。
【0065】
細胞から核の単離を可能とするために、標準的な手順で細胞を溶解する。例えば2〜5 mlの細胞懸濁物をガラス製ホモジナイザーに移して、サイズの合った内筒を用いて10〜20回の初期ストロークでダウンス(Dounce)装置でホモジナイズすることができる。あるいは細胞懸濁物を、モーター付きのミキサー(例えばUltraturrax)でホモジナイズする。望ましいならば、細胞の溶解は、位相差顕微鏡を用いて40倍の倍率でモニタリングするとよい。ホモジナイズ中、核は完全な状態を維持し、当初結合状態の細胞質成分(小胞、細胞小器官、およびタンパク質など)の大部分もしくは好ましくは全体が核から放出されるはずである。必要であれば、1〜20 μg/mlの細胞骨格インヒビターであるサイトカラシンBもしくはサイトカラシンDを上述の低浸透圧緩衝液に添加して同過程を促進することができる。ホモジナイズは、細胞を溶解して、細胞質成分を核から放出させるまで必要に応じて長期間続ける。一部の細胞型では、100回、150回、もしくはこれ以上のストロークが必要な場合がある。次に溶解物を氷上で15 mlの円錐管に移し、細胞溶解の手順を、膨張細胞の懸濁物の残分を対象に繰返して行う。低浸透圧緩衝液で作製した2 Mのストック溶液からショ糖を細胞溶解物に添加し、最終濃度が250 mMのショ糖を得る。この溶液を反転して混合し、スイング式のローターで400×gで4℃で10〜40分間遠心して核のペレットを得る。上清は捨て、ペレット状の核を10〜20倍容の緩衝液(10 mM Hepes、pH 7.5、2 mM MgCl2、250 mM ショ糖、25 mM KCl、1 mM DTT、10 μM アプロチニン、10 μM ロイペプチン、10 μM ペプスタチンA、10 μM ダイズトリプシンインヒビター、および100 μM PMSF)に再懸濁する。核を沈降させ、1〜2倍容の核用緩衝液に上述のように再懸濁する。単離直後の核は、後述するようにインビトロにおける再プログラムに、またレシピエントの細胞もしくは細胞質体への核輸送に直ちに使用することができるほか、後に使用するために保存することができる。保存する場合は、核を核用緩衝液で希釈して濃度を約106/mlとする。グリセロール(2.4倍容の100%グリセロール)を添加し、穏やかにピペッティングして十分混合する。この懸濁物を1.5 mlのチューブ内に100〜500 μlになるように氷上で小分けし、メタノール-ドライアイス氷浴中で直ちに凍結して-80℃で保存する。使用前に核のアリコートを氷上または室温で解凍する。1倍量の氷冷核用緩衝液を添加し、同溶液をスイング式ローターを用いて1,000×gで15分間遠心する。ペレット状の細胞を100〜500 μlの核用緩衝液に再懸濁して上述のように遠心する。次にペレット状の核を最小量の核用緩衝液中に再懸濁し、使用するまで氷上で保存する。
【0066】
再プログラム処理用抽出物の調製
間期培養細胞を標準的な方法で回収し、10 mlの円錐管中で500×gで4℃で10分間遠心して洗浄する。この細胞は好ましくは、レシピエントの細胞または細胞質体になることが望まれる所望の細胞型である。上清を捨て、細胞のペレットを総容積50 mlの冷PBSに再懸濁する。細胞を500×gで4℃で10分間遠心する。この洗浄段階を繰返し、細胞ペレットを約20倍容の氷冷間期用細胞溶解用緩衝液(20 mM Hepes、pH 8.2、5 mM MgCl2、1 mM DTT、10 μM アプロチニン、10 μM ロイペプチン、10 μM ペプスタチンA、10 μM ダイズトリプシンインヒビター、100 μM PMSF、また任意選択で20 μg/ml サイトカラシンB)に再懸濁する。細胞を800×gで4℃で10分間遠心して沈降させる。上清を捨て、細胞ペレットをわずか1倍容の間期細胞用溶解緩用衝液中に慎重に再懸濁する。この細胞を氷上で1時間インキュベートして細胞を膨潤させる。この細胞を、先端超音波処理装置を用いた超音波処理により、またはガラス製のモルタルおよび内筒を用いたダウンスホモジナイザーで溶解させる。細胞溶解は、少なくとも90%の細胞および核が溶解するまで続ける(溶解程度は位相差顕微鏡で評価できる)。少なくとも90%の細胞および核を溶解するのに要する超音波処理時間は、抽出物の調製に使用される細胞の種類によって変動する。
【0067】
細胞溶解物を1.5 mlの遠心管に移し、卓上型遠心機を用いて10,000〜15,000×gで4℃で15分間遠心する。遠心管を遠心機から取り出して氷上に直ちに移す。200 μlのピペットチップ用いて上清を慎重に回収し、複数の遠心管から回収した上清をプールして氷上に置く。この上清が「間期細胞質」抽出物または「IS15」抽出物となる。この細胞抽出物を、1本の遠心管につき20 μl容の抽出物となるように小分けにし、直ちに液体窒素中で瞬間凍結し、使用時まで-80℃で保存する。あるいは、細胞抽出物を氷上の超遠心管(例えばBeckman製SW55Tiローター用)内に入れる。必要であれば遠心管内に鉱油を重層する。抽出物を200,000×gで4℃で3時間遠心し、IS15抽出物に含まれる膜小胞を沈降させる。鉱油は遠心後に捨てる。上清を慎重に回収し、必要に応じてプールし、冷えた1.5 mlの遠心管内に氷上で移す。上清は「IS200」抽出物、または「間期細胞質ゾル」抽出物と呼ぶことにする。抽出物を小分けにして、IS15抽出物について説明した通りに凍結させる。
【0068】
望ましいならば、さらに核因子群を加えることで抽出物を強化することができる。例えば核は、再プログラム用抽出物を抽出する細胞型の細胞から精製して、上述した超音波処理によって溶解することができる。核因子群は、NaClまたはKClを0.15〜800 mMの濃度で含む核用緩衝液中で攪拌しながら10〜60分間インキュベートすることで抽出する。この溶解物を遠心し、抽出不可能な成分を沈降させる。抽出された対象因子を含む上清を透析してNaClまたはKClを除去する。透析後の核抽出物を小分けにして凍結保存する。この核抽出物を、上述の全細胞抽出物にさまざまな濃度で添加後に、再プログラム用の核に添加する。
【0069】
細胞抽出物に代わるものとして、1種もしくは複数の天然もしくは組換え型の因子(例えば核酸、またはDNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、転写因子、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、またはサイトカインなどのタンパク質)を緩衝液などの溶液に添加することで再プログラム用培地を作ることもできる。好ましくは、1種もしくは複数の因子は、ドナー細胞になることが望まれる細胞型に特異的である。
【0070】
抽出物中の核の再プログラム
単離直後の精製核、または解凍後の精製核のいずれかを、上記セクションに記載された再プログラム用培地に、4,000〜5,000 核/μlの濃度になるように再懸濁する。ATP産生系(1 mM ATP、10 mM クレアチンリン酸、25 μg/ml クレアチンキナーゼ)、および100 μMのGTPを間期抽出物に添加して、外因性の核による核成分の活発な取込みを促す。この反応物は30℃で最長2時間インキュベートする。特定の核成分の取込みは、図3Aおよび図6A示されるように、核の免疫蛍光解析でモニタリングすることができる。
【0071】
再プログラムされた核の抽出物からの精製
再プログラムされた核を、核用緩衝液中で4℃で調製した1 M ショ糖クッションを用いて1,000×gで10〜30分遠心する。核を500 μlの冷核用緩衝液に再懸濁し、1,000×gで4℃で10分間心して洗浄する。核を核用緩衝液中で再懸濁し、レシピエントの細胞の細胞質もしくは細胞質体に核を輸送するまで氷上に置く。
【0072】
レシピエント細胞の除核
好ましくは、レシピエント細胞に含まれるDNAの一部もしくは全体を除去するか、または不活性化する。レシピエント細胞のDNAを破壊もしくは除去することで、細胞の遺伝的材料が、再プログラムされた細胞の特徴および機能に寄与しなくなる。細胞の核を破壊する方法の一つでは紫外光を照射する(Gurdon、「Methods in Cell Biology、Xenopus Laevis:Practical Uses in cell and Molecular Biology」、KayおよびPeng編、Academic Press、California、第36巻:299〜309、1991)。あるいは、核を任意の標準的な手法で外科的に除去することができる(例えばMcGrathおよびSolter、Science 220:1300〜1319、1983を参照)。一つの可能な方法では、ニードルを細胞内に刺し、核をニードル内の空間に吸引する。次にニードルを、形質膜を破裂することなく細胞から除くことができる(米国特許第4,994,384号および第5,057,420号)。
【0073】
再プログラムされた核のレシピエントの細胞または細胞質体への導入
核を所望の細胞型、または他の任意の細胞型のレシピエントの細胞または細胞質体に、微量注入法や電気融合法などの標準的な方法で導入する(例えば米国特許第4,997,384号および第5,945,577号を参照)。再構成された細胞を培養物中に戻し、回復させ、分裂させ、また再プログラム経路にしたがって分化させる。再プログラムされた細胞の遺伝子発現は、標準的なノーザン解析でモニタリングすることでmRNA分子、好ましくはドナー細胞、レシピエント細胞、または所望の細胞型に特異的なmRNA分子の発現を測定することができる(Ausubelら、前出)。特異的なmRNA分子の発現は、対象となるmRNA分子に特異的に結合するように作製されたプライマーを用いた標準的な逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイ法でも検出できる。あるいは複数の細胞特異的mRNA分子の発現は、cDNAアレイを用いた標準的なDNAチップ技術でモニタリングすることができる(Marrackら、Current Opinion in Immunology 12、206〜209、2000;Harkin、Oncologist. 5:501〜507、2000;Pelizzariら、Nucleic Acids Res. 2;28(22):4577〜4581、2000;Marx、Science 289 (5485):1670〜1672、2000)。この細胞をドナー細胞、レシピエント細胞、またはレシピエント細胞質体の細胞型に特異的な遺伝子群の発現低下について解析することができる。また細胞を、所望の細胞型に特異的な遺伝子群の発現上昇について評価することができる。幹細胞を産生する再プログラムの指標となるmRNA分子の例には、H-19、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、GCTM-2、Oct-4、Genesis、GCNF、GDF-3、およびTDGF-1などがある。神経細胞に特異的なmRNA分子には、NGF、NF-H、NeuN、NSE、およびCD11bなどがあるがこれらに限定されない。脂肪細胞の細胞運命への変換を解析する際には、レプチン、PPARλ1、PPARλ2、SREBP1C、IR、およびTNFαなどのmRNA分子の発現をモニタリングするとよい。IGF-1およびIRは、インスリン産生細胞の指標となる。また、このような細胞は、標準的なウエスタン解析もしくは免疫蛍光解析で特定のタンパク質の発現について解析することができる(Ausubelら、前出)。
【0074】
所望の細胞型に変換されているか否かを判定するために解析可能な再プログラムされた細胞の他の特徴の例には、細胞の大きさ、細胞の形態、接着性細胞としての成長能力、接着した細胞としての成長能力、細胞質の容積、および中心体の位置などがある。再プログラムされた細胞の機能は、赤血球によるO2およびCO2輸送能力、B細胞による抗体産生能力、ならびに抗中球による侵入細菌の食作用能力および破壊能力などとして検討することもできる。また、脂肪細胞による脂質の産生は、標準的な顕微鏡を用いて細胞内の脂質滴を可視化することで判定することができる。
【0075】
実施例2:2段階インビトロ再プログラム法
細胞を再プログラムする別の方法では、核を間期細胞から単離し、有糸分裂抽出物中、界面活性剤および塩溶液中、またはプロテインキナーゼ溶液中でインキュベートして、核エンベロープの崩壊および染色質塊の形成を誘導する。インキュベーションによって、染色質塊から因子群が放出される。あるいは染色質塊は、有糸分裂細胞から単離することができる。好ましくは染色質塊は次に間期用再プログラム用抽出物中でインキュベートして、核膜の形成、および所望の因子の抽出物から休止期の核への付加を促進させる。再プログラムされた核を次に抽出物から単離し、所望の細胞型もしくは他の任意の細胞型のレシピエントの細胞または細胞質体に導入する。
【0076】
あるいは染色質塊を、核の再形成を最初に誘導することなく、レシピエントの細胞内もしくは細胞質体に直接導入することができる。この態様では、所望の細胞型のレシピエントの細胞もしくは細胞質体を使用して、レシピエント細胞の細胞質もしくは細胞質体の所望の因子が、ドナー染色質塊に由来する外因性染色体に結合して、さらに所望のmRNA分子およびタンパク質分子の発現を促進させる。
【0077】
有糸分裂細胞抽出物の調製
有糸分裂細胞質(MS15)抽出物、もしくは有糸分裂細胞質ゾル(MS200)抽出物は、間期IS15抽出物またはIS200抽出物に対する上述の手順で調製することができる(ただし有糸分裂細胞を間期細胞の代わりに使用し、10 mM EDTAを細胞溶解用緩衝液に添加する)。望ましいならば、この抽出物は、実施例1に記載したように核因子群をさらに加えて強化することができる。有糸分裂細胞を単離する場合は、0.5〜1 μg/mlのノコダゾール中で17〜20時間インキュベートすることで体細胞を有糸分裂中に同期させ、上述したように激しく浸透することで有糸分裂細胞を剥離させる。剥離したG1期ダブレットは捨てるか、または剥離した細胞の大部分(80%をこえる)を含む有糸分裂細胞とともに残してもよい。回収した剥離細胞を、10 mlの円錐管中で500×gで4℃で10分間遠心する。
【0078】
内因性核成分を除去するための有糸分裂抽出物中における染色体凝縮反応
MS15抽出物またはMS200抽出物のアリコートを氷上で解凍する。ATP産生系(0.6 μl)およびGTPを20 μlの抽出物に添加し、ボルテックスミキサーで混合する。最終濃度は、1 mM ATP、10 mM クレアチンリン酸、25 μg/ml クレアチンキナーゼ、および100 μM GTPとなる。
【0079】
核をドナー細胞から上述の手順で単離する。核懸濁物を、10 μlの抽出物あたり1 μlの核の濃度になるように抽出物に添加し、ピペッティングでよく混合し、30℃、33℃、35℃、37℃、もしくは39℃の水浴でインキュベートする。混合物を含むチューブを一定間隔で軽く叩いてチューブの底で染色体がからまるのを防ぐ。核エンベロープの崩壊および染色体の凝縮を一定間隔で(例えば15分毎に)顕微鏡下でモニタリングする。核エンベロープが崩壊して、染色体が凝縮を開始したら、抽出物から染色質塊を回収する手順を始める。
【0080】
有糸分裂抽出物および抗NuMA抗体に核を曝露することによる脱凝縮染色質塊の形成
あるいは、凝縮していない染色質塊、または部分的にしか凝縮していない染色質塊は、核マトリックスタンパク質NuMAに対する抗体と単離核のプレローディング後に、上述の手順で形成される場合がある(Steenら、J.Cell Biol. 149、531〜536、2000)。この手順により、ドナー核の周囲の核膜を解離させることで、核成分を染色質から除去できるが、抗NuMA抗体が添加されることで凝縮段階は抑制される。染色体の凝縮を妨げると、染色体を有糸分裂抽出物中でインキュベーション中に、染色体が切断されて失われるリスクが低下する場合がある。
【0081】
この手順では、精製細胞核(2,000 核/μl)を、0.75 μg/mlのリゾレシチンを含む500 μlの核用緩衝液中で室温で15分間静置することで浸透化状態とする。過剰なリゾレシチンは、核用緩衝液を溶媒とする3% BSAを1 ml添加して、氷上で5分間インキュベートすると消失する。次に核を沈降させ、核用緩衝液中で1回洗浄する。核を、抗NuMA抗体(希釈率1:40;Transduction Laboratories)を含む100 μlの核用緩衝液中に2,000 核/μlとなるように再懸濁する。氷上で穏やかに振盪しながら1時間インキュベートした後、1 M ショ糖を用いて核を500×gで20分間遠心して沈降させる。次に核を核用緩衝液中に再懸濁し、上のセクションで説明したATP再生系を含む有糸分裂抽出物に添加する。任意選択で抗NuMA抗体を抽出物に添加することで、染色体の凝縮をさらに防ぐことができる。
【0082】
界面活性剤またはプロテインキナーゼに対する核の曝露による脱凝縮した染色質塊の形成
凝縮しない染色質塊、または部分的に凝縮した染色質塊は、界面活性剤またはプロテインキナーゼに曝露することで形成される場合もある。界面活性剤は、核内の染色体に結合していない状態、または緩く結合した状態の核成分を可溶化するために使用することが可能であり、結果として核エンベロープが除去される。この手順では、精製された細胞核(2,000〜10,000 核/μl)を、0.1〜0.5%のTriton X-100もしくはNP-40などの界面活性剤を添加した核用緩衝液中でインキュベートする。核エンベロープの除去を促進するために、NaClなどの塩類を追加的に緩衝液に約0.1 M、0.15 M、0.25 M、0.5 M、0.75 M、もしくは1 Mの濃度になるように添加する。穏やかに振盪しながら氷上で30〜60分間インキュベートした後、スイング式ローターを用いて1,000×gで10〜30分間(総容量を考慮して調節する)遠心して核を沈降させる。ペレット状の核を0.5〜1 mlの核用緩衝液に再懸濁し、上述の手順で沈降させる。この洗浄処理を2回繰返して行い、界面活性剤および余分な塩類を完全に除去するようにする。
【0083】
あるいは核エンベロープは、組換え型プロテインキナーゼもしくは天然のプロテインキナーゼを単独で、もしくは組み合わせて用いることで除去することができる。好ましくは、プロテインキナーゼは標準的な方法で精製するか、または市販品を入手する。キナーゼは、核膜、核マトリックス、もしくは染色質の成分をリン酸化することで、結果的に核エンベロープを除去することができる(例えばCollasおよびCourvalin、Trends Cell Biol. 10:5〜8、2000を参照)。好ましいキナーゼには、サイクリン依存性キナーゼ1 (CDK1)、プロテインキナーゼC (PKC)、プロテインキナーゼA (PKA)、MAPキナーゼ、およびカルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼ(CamKII)などがある。この方法では約20,000個の精製核を、1.5 mlの遠心管内で20 μlのリン酸化用緩衝液中で室温でインキュベートする。CDK1用の好ましいリン酸化用緩衝液(Upstate Biotechnology)は、200 mM NaCl、50 mM Tris-HCl (pH 7.2〜7.6)、10 mM MgSO4、80 mM β-グリセロリン酸、5 mM EGTA、100 μM ATP、および1 mM DTTを含む。PKCの場合は、好ましい緩衝液は200 mM NaCl、50 mM Tris-HCl (pH 7.2〜7.6)、10 mM MgSO4、100 μM CaCl2、40 μg/ml ホスファチジルセリン、20 μM ジアシルグリセロール100 μM ATP、および1 mM DTTを含む。PKCとCDK1の両方を同時に使用する場合は、40 μg/ml ホスファチジルセリン、および20 μM ジアシルグリセロールを添加したCDK1リン酸化用緩衝液を使用する。PKA用の好ましいリン酸化用緩衝液は、200 mM NaCl、10 mM MgSO4、10 mM Tris、pH 7.0、1 mM EDTA、および100 μM ATPを含む。MAPキナーゼの場合は、10 mM CaCl2、および1 mM DTTを添加したPKAリン酸化用緩衝液を使用することができる。CamKIIの場合は、1 mM DTTを添加したPKA緩衝液、またはUpstate Biotechnology製のCam Kinaseアッセイ法キットを使用する(Venemaら、J.Biol.Chem 272:28187〜90、1997)。
【0084】
リン酸化反応は、プロテインキナーゼを最終量25〜100 ngになるように添加して開始する。反応物は室温で最長1時間インキュベートする。核エンベロープの崩壊は、このインキュベーション中に顕微鏡で例えば15分間隔でモニタリングすることができる。核エンベロープが崩壊したら上述の手順で核を3回洗浄し、界面活性剤溶液を除去する。
【0085】
抽出物、界面活性剤および塩溶液、またはプロテインキナーゼ溶液からの染色質塊の回収
凝縮した染色質塊、部分的に凝縮した染色質塊、もしくは凝縮していない染色質塊を含む抽出物もしくは溶液を、核用緩衝液を溶媒として作製した等量の1 M ショ糖溶液下に置く。染色質塊を、スイング式ローターを用いて、1,000×gで4℃で10〜30分間(試料容積に応じて調節)遠心して沈降させる。上清を捨て、ペレット状の染色質塊を0.1〜1.0 mlの核用緩衝液中にピペッティング操作により慎重に再懸濁し、1,000×gで10〜30分遠心する。上清を捨て、ペレット状の染色質塊を核用緩衝液中に再懸濁し、使用するまで氷上で保存する。
【0086】
有糸分裂細胞からの染色質塊の単離
有糸分裂抽出物、界面活性剤および塩溶液、またはプロテインキナーゼ溶液に核を曝露することで染色質塊を得る代わりに、有糸分裂中に同期させた細胞を溶解して、上述の手順で細胞溶解物を遠心して染色質塊を得ることができる。
【0087】
インビトロにおける核再形成用の膜小胞の調製
MS2000有糸分裂抽出物の調製中で200,000×gの遠心で得たペレットを、有糸分裂の膜小胞の供給源として使用する。このペレットを膜洗浄用緩衝液(250 mM ショ糖、50 mM KCl、2.5 mM MgCl2、50 mM Hepes、pH 7.5、1 mM DTT、1 mM ATP、10 μM アプロチニン、10 μM ロイペプチン、10 μM ペプスタチンA、10 μM ダイズトリプシンインヒビター、および100 μM PMSF)に再懸濁し、100,000×gで30分間遠心し、小分けして液体窒素で凍結して-80℃で保存する。
【0088】
核再形成アッセイ法
望ましいならば、凝縮した状態の染色質塊から、部分的に凝縮した状態の染色質塊から、または脱凝縮状態の染色質塊から、後述する手順で核を再形成させることができる。染色体の周囲の核膜の再形成は、再形成された核をレシピエントの細胞もしくは細胞質体の一部としての輸送を可能とする再形成に使用される抽出物に由来する因子群を封入することができる。染色質塊を1 M ショ糖クッションを通して沈降させて回収し、間期抽出物中に4,000〜5,000 染色質塊/μlの濃度となるように再懸濁する。好ましくは間期抽出物は、所望の細胞型の細胞から上述の手順で作製する。この抽出物に、上述の手順で調製した膜小胞を添加し、核エンベロープの形成に必用な膜を得る。この膜を1 μlの解凍された膜/10 μlの抽出物の濃度になるように添加し、ボルテックスミキサーで混合する。ATP産生系(2 mM ATP、20 mM クレアチンリン酸、50 μg/ml クレアチンキナーゼ)、および100 μM GTPを間期抽出物に添加し、染色質の脱凝縮、核膜小胞と染色質との結合、および完全な核膜を形成する小胞融合を促進する。この反応物を30℃で最長2時間インキュベートし、核の再形成を位相差顕微鏡でモニタリングする。
【0089】
再プログラムされた核の抽出物からの精製
再プログラムされた核を、核用緩衝液で調製した1 Mのショ糖クッション通して4℃で1,000×gで10〜30分間遠心する。この核を、500 μlの冷核用緩衝液に再懸濁し、4℃で1,000×gで10分間遠心して沈降させて洗浄する。次に核を核用緩衝液に再懸濁し、レシピエントの細胞の細胞質もしくは細胞質体に核を輸送するまで氷上に置く。
【0090】
再プログラムされた核または染色質塊のレシピエントの細胞または細胞質体の導入
染色質塊から形成された染色質塊または核を、レシピエントの細胞または細胞質体に標準的な方法で導入し、上述の手順で遺伝子発現をモニタリングする。
【0091】
実施例3:核輸送を伴わない浸透化細胞の再プログラム
細胞は、核もしくは染色質塊を細胞から単離する必要なく再プログラムすることができる。この方法では、間期細胞または有糸分裂細胞を浸透化した後に、間期または有糸分裂用の再プログラム用抽出物中で、抽出物と細胞間における因子群の交換を可能とする条件下でインキュベートする。間期の抽出物を使用する場合は、細胞の核は膜に結合した状態で留まる。また有糸分裂の抽出物を使用する場合は、核エンベロープの崩壊および染色質の凝縮が生じることがある。この抽出物中におけるインキュベーションによって核が再プログラムされた後に、形質膜は好ましくは再び閉じられ、抽出物に由来する所望の因子を含む完全な再プログラムされた細胞が形成される。望ましいならば、抽出物は実施例1に記載されているように、さらに核因子群を添加することで強化することができる。
【0092】
細胞の浸透化
上記の手順で再プログラムされる細胞は、非同期細胞、およびG0期、G1期、S期、G2期、またはM期に同期した細胞、またはこれらの周期の組み合わせに同期した細胞を含む。細胞は、ジギトニンまたはストレプトリシンOによる浸透化処理などの任意の標準的な方法で浸透化状態となる。簡単に説明すると、細胞を標準的な手順で回収してPBSで洗浄する。ジギトニンで浸透化する場合は、細胞を約0.001〜0.1%の濃度でジギトニンを含む培地に再懸濁し、氷上で10分間インキュベートする。ストレプトリシンOで浸透化する場合は、細胞をストレプトリシンO溶液(例えばMaghazachiら、1997、およびその参考文献を参照)中で室温で15〜30分間かけてインキュベートする。いずれかのインキュベーションの後、細胞を400×gで10分間遠心して洗浄する。この洗浄過程を、PBSに再懸濁して沈降させて2回繰返す。細胞は、使用するまでPBS中で室温で保持する。あるいは細胞を、実施例6に記載されているようにカバーガラス上に置いて浸透化することで、細胞の取り扱いを可能な限り少なくして、細胞の遠心過程をスキップすることで細胞の生存能を最大化することができる。好ましくは、後述するように細胞を再プログラム処理用の間期抽出物または有糸分裂抽出物に直ちに添加する。
【0093】
抽出物中における細胞の再プログラム
間期抽出物または有糸分裂抽出物を上述の手順で、好ましくは、浸透化細胞となることが望まれる細胞型の細胞を用いて調製する。浸透化細胞を、再プログラム用抽出物中に約100〜1,000細胞/μlの濃度となるように懸濁する。ATP産生系およびGTPを上述したように抽出物に添加し、反応物を30〜37℃で最長2時間インキュベートして、抽出物から細胞内への因子の移行、および核への活発な取込み、または因子と染色体との結合を促進する。再プログラムされた細胞を800×gで遠心し、再懸濁して洗浄し、PBS中で400×gで遠心する。この細胞を、20〜30%のウシ胎児血清(FCS)を含む培地に再懸濁し、通常の細胞培養インキュベーター内で37℃で1〜3時間インキュベートすることで細胞膜を再び閉じることができる。次に細胞を通常の温培地(10% FCS)で洗浄し、標準的な培養条件でさらに培養する。
【0094】
実施例4:活性化T細胞抽出物を用いる再プログラム処理
活性化T細胞抽出物を用いるこの再プログラム処理試験は、休止期T細胞と活性化T細胞との間に機能上の差があることを元にしている。T細胞抗原受容体-CD3 (TCR-CD3)複合体、およびCD28同時刺激受容体を刺激して、休止期の末梢血T細胞を抗原で活性化すると、染色質のリモデリング、および数多くの遺伝子の活性化が誘導される。このような遺伝子の一つがT細胞特異的成長因子であるインターロイキン-2 (IL-2)遺伝子である。IL-2の調節には、刺激依存性の活性化因子NFAT、NFκB、AP-1、構成的転写因子Oct-1、および分裂促進因子によって活性化されるプロテインキナーゼErkが関与する。
【0095】
活性化ヒトT細胞の細胞抽出物を用いることで、非活性化ヒトT細胞、B細胞、ヒト線維芽細胞、およびHeLa細胞における転写因子の核内局在化が誘導された。またインキュベーションにより、染色質リモデリングSWI/SNF複合体とDNAの結合、IL-2遺伝子およびプロモーターの過剰なアセチル化、ならびに非活性化T細胞におけるIL-2 mRNAの発現が促進された。IL-2の発現は、一次血管内皮細胞、上皮細胞、およびニューロン前駆細胞でも誘導された。
【0096】
完全なT細胞の活性化がIL-2発現を誘導することを示すために、ヒトT細胞を末梢血から精製して一晩培養し、抗CD3抗体(クローンSpvT3dはA.M.Rasmussen氏、Norwegian Radium Hospital、Montebello、Norwayから入手)で刺激した。特にT細胞は健康なドナーの末梢血から精製した(Skalheggら、Science 263:84〜87、1994)。細胞を20時間培養し、RPMI1640 (Gibco BRL)中で5〜10×107細胞/mlで氷上で15分間インキュベートした。TCR-CD3複合体を5 μg/mlの抗CD3抗体で刺激し、細胞を氷上で30分間インキュベートした。細胞を4℃で400×gで7分間遠心して沈降させ、洗浄し、氷冷したRPMI1600中に5×107細胞/mlになるように再懸濁した。抗マウスFab断片(10 μg/ml)を架橋リンカーとして添加し、細胞を37℃でインキュベートした(t=0分、刺激後)。指定時間点において、細胞を氷冷PBSで希釈し、液体窒素で瞬間凍結し、解凍してPBSで洗浄した。全RNAを単離し、IL-2特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。図1に示すようにIL-2 mRNAは活性化T細胞では発現されるが、擬似処理したT細胞(「30c」、「60c」、および「120c」は擬似処理細胞を意味する)では発現されない。
【0097】
活性化T細胞に由来する抽出物が、他の細胞の転写因子群の核内局在化を高めるか否かを判定するために、抗CD3抗体(Skalheggら、Science 263:84〜87、1994)の存在下におけるインキュベーションと、続く細胞の洗浄による未結合抗体の除去によってT細胞を活性化した。刺激T細胞抽出物(SE)は、抗CD3刺激(IL-2遺伝子の転写開始の2時間前)後に5〜10分間かけて調製した。抽出物を調製するこのタイミングにより、再プログラムされた核におけるIL-2転写の明確な検出が可能となった。というのは、刺激抽出物は内因性のIL-2 mRNAを含まないためである。すべての反応を停止させるために、刺激から5〜10分後に細胞を液体窒素で瞬間凍結し、解凍し、氷冷PBSおよび溶解用緩衝液(10 mM Hepes、pH 8.2、50 mM NaCl、5 mM MgCl2、1 mM DTT、およびプロテアーゼインヒビター)で洗浄して沈降させた。このペレットを2倍容の溶解用緩衝液に再懸濁した。
【0098】
刺激T細胞抽出物は、T細胞を溶解し、15,000×gで遠心し、上清を単離し、ATP産生系を上清に添加することで調製した。特に細胞は、先端超音波処理装置を用いて、90%をこえる細胞および核が溶解するまで分解した。この溶解物を15,000×gで15分かけて4℃で遠心して清澄化した。上清は新鮮な状態で使用するか、または小分けにして凍結して-80℃で保存した。この単純な方法では透析の必要がないので、抽出物は濃縮されたままであり(約25 mg/ml タンパク質)、この手順ではタンパク質分解が起こるリスクが極めて小さくなる。非刺激T細胞の抽出物(USE)は、擬似(H2O)刺激T細胞から調製した。再プログラム反応物は、20 μlまたはこの倍数の刺激抽出物、もしくは105個の核およびATP産生系(1 mM ATP、10 mM クレアチンリン酸、25 μg/ml クレアチンキナーゼ、および100 μM GTP)を含む非刺激抽出物を含むようにした。
【0099】
ドナー核を作製するために、休止期末梢血T細胞を洗浄し、20倍容の氷冷低浸透圧核用緩衝液(10 mM Hepes、pH 7.5、2 mM MgCl2、25 mM KCl、1 mM DTT、およびプロテアーゼインヒビター)に再懸濁した。核をダウンスホモジナイザーで慎重にホモジナイズして単離し、400×gで沈降させ、核用緩衝液(低浸透圧核用緩衝液/250 mM ショ糖)で洗浄した。HUVEC、HeLa、およびNT2の核は同様に単離した。抽出物中におけるインキュベーション前、およびインキュベーション後における核の完全性は、位相差顕微鏡を用いて、また10 μg/mlの脂溶性色素DiOC6用いた核膜標識によりモニタリングした(図8A)。休止期T細胞、B細胞系列Reh、293T線維芽細胞、またはHeLa細胞から精製した核を、この抽出物中で、特に明記しない限り1 μlの抽出物あたり約5,000個の濃度で30℃で30分間インキュベートした。次に核を、1 Mのショ糖クッションを通して10分間沈降させて精製した。あるいは反応混合物からRNAを抽出してRT-PCRに使用した。免疫蛍光解析から明らかなように、T細胞特異的転写因子NFATは、刺激抽出物に曝露した核内に輸送された(図3Aおよび6A)。
【0100】
抽出物に由来する他の転写因子のもつ、T細胞、B細胞、線維芽細胞、およびHeLa細胞の核内へ移行する能力の判定も行った。このアッセイ法では、非刺激T細胞に由来する入力ドナー核(「入力」)を、刺激抽出物(「SE」)、非刺激T細胞から調製した対照抽出物(非刺激抽出物を意味する「USE」と表記)、または核内移行を立体的に阻害するヌクレオポリンに対するモノクローナル抗体を含む刺激抽出物(「SE+mAb414」)のいずれかでインキュベートした。核を次に遠心して再懸濁することで抽出物から精製した。全細胞抽出物に関して予想されるように、NFAT、AP-1、もしくはNFκB、Oct-1、およびErk(1および2)が、核のインキュベーションに先立つ入力刺激抽出物を対象としたウエスタンブロットで検出された(図8B)。入力非刺激抽出物中にAP-1は実質的に認められなかった。これは複合体が、非刺激T細胞中では形成されないためである。また入力核内でNFAT、AP-1、NFκBは検出されず、Erkはわずかに検出された(図8B)。図3Bおよび図8Bからわかるように、刺激抽出物でインキュベートしたT細胞の核では、抗ヒストンH4抗体をローディング用対照として使用し、各因子に対する抗体を使用した標準的なウエスタンブロット解析で測定したところ、NFAT、c-Jun/AP1、NFκB、およびMAPキナーゼ(Erk1およびErk2)のレベルは高かった(例えば抗Erk抗体はJ.Kubiak博士、CNRS、Paris、Franceから入手した)。AP-1転写複合体は、おそらくJun-Fos結合の結果として核内で形成された(図8B)。またErkは、刺激抽出物に曝露した核内に輸送された(図8B)。全因子の核内移行は免疫蛍光解析で検証した。これらの因子群の休止期T細胞の核による取込みは核孔複合体を通して活発に認められた。というのは、ATPもしくはGTPを抽出物中でATPγS、AMP-PNP、またはGTPγSと交換すると、または核孔の機能を M. Rout 氏(Rockefeller University、New York)から入手した、複数のヌクレオポリンに対する抗体mAb414で阻害すると核内移行が阻害されたためである(図8B、SE+414)(DaviesおよびBlobel、Cell 45:699〜709、1986)。普遍的に存在する転写因子Oct-1は、同等量が入力核で、また刺激抽出物もしくは非刺激抽出物に曝露した核内で検出された(図8B、Oct-1)。非刺激抽出物中で核をインキュベートしても、上記の転写因子のレベルに影響はほとんど認められなかった。
【0101】
またNFAT、c-Jun/AP1、およびNFκBのレベルは、RehB細胞、293T線維芽細胞、およびHeLa細胞の核内では刺激T細胞抽出物中におけるインキュベーション後に上昇した(図6A)。例えば、精製293T線維芽細胞核を対象とした免疫学的解析から、刺激T細胞抽出物が、NFAT、NFκBの核への取込み、およびAP-1転写複合体の形成を支持することがわかったが、対照となる非刺激T細胞抽出物ではこれらは認められなかった(図11Aおよび11B)。特に非刺激抽出物は、核局在シグナルを結合したBSAの核内移行を、休止期T細胞の核および線維芽細胞の核で、刺激抽出物と同程度に支持し(図8B BSA-NLS、および11B)、IL-2遺伝子の転写活性化因子の核内移行および形成が、刺激抽出物に対して特異的であることがわかった。
【0102】
刺激抽出物または非刺激抽出物のいずれかに曝露したT細胞核の場合、転写因子とDNAとの結合は、標準的な核保持アッセイ法で評価した。このアッセイ法では、核膜を溶解するために0.1% Triton X-100により核を抽出し、15,000×gで沈降させるか、または0.5% Triton X-100で1時間かけて抽出し、また10,000×gで10分間遠心して沈降させる(Zhaoら、Cell 95:625〜636、1998)。可溶性の染色質分画は、ミクロコッカルヌクレアーゼによる消化およびEDTAによる抽出により精製核から調製した(O'NeillおよびTurner、Methods Enzymol. 274:189〜197、1996)。Triton X-100、DNAse、およびRNAse抽出による耐性構造で定義される核マトリックスは、文献に記載された方法で単離した(Steenら、J.Cell Biol. 149:531〜536、2000)。イムノブロット解析は、DNAに結合する転写因子を含むペレットを対象に、および未結合状態の転写因子を含む上清を対象に行った。特に不溶性の材料はSDSに溶解させ、また可溶性フラクションに含まれるタンパク質は沈殿後にSDSに溶解させた。両フラクションの等量のタンパク質(30 μg)をイムノブロット法で解析した。DNAが結合した転写因子のパーセンテージは、2回のブロットの濃度測定解析で決定した。得られたデータは平均±標準偏差で表す(図3C)。
【0103】
核保持アッセイ法の結果も、再プログラムされたT細胞核におけるNFAT、c-Jun/AP1、NFκB、およびMAPキナーゼ転写因子の核内移行およびDNA結合の上昇を支持する。例えば、核内で結合した状態にあるNFAT、AP-1、およびNFκBの最大8.5倍の上昇が、非刺激抽出物に曝露した核と比較して刺激抽出物に曝露した核で検出された(図8C)。結合状態のOct-1は、非刺激抽出物または刺激抽出物に曝露した核で検出され(図8C)、T細胞および非T細胞の核におけるDNA結合能力に矛盾しなかった。結合状態のErkの2倍の上昇も、刺激抽出物に曝露した核で認められた(図8C)。刺激抽出物に曝露した核から調製した可溶性染色質フラクションおよび核マトリックスフラクションのイムノブロット解析から、NFAT、AP-1、NFκB、およびOct-1が主に染色質に結合する一方で、不溶性Erkの大部分がマトリックスと結合することがわかった(図8D)。
【0104】
T細胞の核の刺激抽出物に対する曝露が、染色質モデリングSWI/SNF複合体のDNA結合に及ぼす作用を示すために、休止期T細胞核を細胞溶解用緩衝液中、非刺激抽出物中、または刺激抽出物(それぞれATP産生系を含む)中で30分間インキュベートし、ショ糖中を沈降させた。さまざまなインキュベーション時間後におけるDNAと結合した、または結合していないヒトSWI/SNFのパーセンテージは、SWI/SNF複合体を可視化する、抗BRG1抗体を用いた上記の核保持アッセイ法で評価した(図4B、4C、9A)(Collasら、J.Cell Biol. 147:1167〜1180、1999)。特にBRG1は、抗BRG1抗体の1:40の希釈率のウサギIgGで事前に2.5時間かけて清澄化したミクロコッカルヌクレアーゼ可溶性染色質から免疫沈殿を生じた。免疫複合体は、プロテインA-セファロースビーズを用いて沈殿させ、免疫沈殿緩衝液中で洗浄し、SDS試料緩衝液に溶解させた(Collasら、J.Cell Biol. 147:1167〜1180、1999)。核を刺激抽出物に曝露したところ、DNAが結合したSWI/SNFの量が増加し、核の再プログラムが起こっていることがわかった。例えばSWI/SNF複合体のマーカーの一つであるBRG1 (Zhaoら、Cell 95:625〜636、1998)に対する抗体を用いたブロットの濃度測定解析の結果、80%を越えるSWI/SNFが、刺激抽出物に曝露した核内で不溶性(結合)状態である一方で、入力核内、または非刺激抽出物に曝露した核内では、SWI/SNFは大部分が可溶性状態が維持されることがわかった(図9Aおよび9B)。SWI/SNFの核内結合は30分以内に生じた(図9B)。インビトロにおけるSWI/SNF結合の生理的意味は、SWI/SNFが、ヒト末梢血T細胞の抗CD3による刺激から30分以内に核内に結合されることからわかる(図9C)。
【0105】
SWI/SNFの潜在活性は、入力核、および刺激抽出物または非刺激抽出物に曝露した核における相対ATPase活性を測定することで評価した。同等量のSWI/SNFは、抗BRG1抗体を用いたところ、精製核溶解液から免疫沈殿を生じた(図9D)。個々の免疫沈殿(「BRG1-IP」)による1 nMの外因性ATPの加水分解は、ルシフェリン-ルシフェラーゼアッセイ法で決定した。免疫前IgGを用いた対照沈殿を標準として使用した(図9D、Pre-I IgG)。このアッセイ法では、ATPase活性は、免疫前IgGの標準値(2,700)を差引いた後の相対発光量で表した。入力核、または非刺激抽出物に曝露した核から精製したBRG1-IPは、ATPase活性を全く、またはほとんど示さなかった。しかし、刺激抽出物に曝露した核から単離されたBRG1-IPでは、入力核と比較して8倍のATPase活性の上昇が認められた(図9D)。また、刺激抽出物誘導性のATPase活性は、アッセイ法を行う前にBRG1-IPをDNAse Iで処理すると基礎レベル近くまで低下した(図9D)。以上の結果から、核内で結合状態にあるSWI/SNP複合体が、刺激T細胞抽出物に特異的なDNA依存性のATPase活性を示すことがわかる。
【0106】
インビボおよびインビトロにおけるT細胞核のIL-2遺伝子の過剰なアセチル化を測定するために、ミクロコッカルヌクレアーゼで、休止期T細胞、抗CD3刺激T細胞、非刺激抽出物に曝露したT細胞の核、および刺激抽出物に曝露したT細胞核に由来する染色質を消化して、可溶性染色質断片を形成させた。アセチル化されたヒストンH4(「H4ac」)は、可溶性染色質フラクションから免疫沈殿を生じ、DNAを免疫沈殿(「結合」)フラクションと上清(「未結合」)フラクションから単離した。このDNAを対象に、Hybon Nフィルター上で2回のドットブロットを行い、IL-2コード領域に対する、フルオレセインを結合したIL-2プローブ、またはコイのβ-アクチンプローブのいずれかとハイブリッドを形成させた。ハイブリダイゼーションは、アルカリホスファターゼを結合した抗フルオレセイン抗体を用いて検出した。IL-2遺伝子の過剰なアセチル化は、刺激抽出物に曝露した核で認められたが、対照のβ-アクチン遺伝子では認められなかったことから、核が、核で通常抑制されている遺伝子群を発現するように再プログラムされていることも示唆された。
【0107】
非刺激抽出物または刺激抽出物に曝露した培養物、および休止期T細胞核のT細胞刺激後におけるIL-2プロモーターのヒストンH4のアセチル化も、抗H4抗体および抗H4ac抗体(Serotec)を用いた染色質免疫沈殿解析で測定した。IL-2プロモーターの過剰なアセチル化は、0.1 Uのミクロコッカルヌクレアーゼ/μg DNAによる可溶化後における擬似(H2O)刺激T細胞および抗CD3刺激T細胞に由来する染色質免疫沈殿により、モノヌクレオソームおよびジヌクレオソームを形成させて調べた。抗pan-アセチル化ヒストンH4(acH4)抗体を用いて、アセチル化されたヒストンを検出した(O'NeillおよびTurner、Methods Enzymol. 274:189〜197、1996)。入力染色質フラクション、抗体-結合染色質フラクション、および未結合染色質フラクションからフェノール-クロロホルム抽出法でDNAを単離し、IL-2プローブを用いたドットブロット解析法でIL-2遺伝子を同定した。IL-2プロモーター用プローブは、テンプレートとして、開始部位の近位のプロモーター/エンハンサー領域の360塩基対に、およびIL-2コード領域(第1エキソン)の先頭の70塩基対に対応するクローン化された430塩基対の挿入配列を用いて、フルオレセインを結合させたヌクレオチド(Gene Images CDP-Star、Amersham)によるランダムプライムラベリング法で合成した。使用したプライマーはプロモーター領域とハイブリッドを形成する5'-GCTATTCACATGTTCAGTGTAG-3'(配列番号:1)と、第1エキソンとハイブリッドを形成する5'-GACAGGAGTTGCATCCTGTACA-3'(配列番号:2)とした。β-アクチン用プローブは上述の手順にしたがって、テンプレートとしてβ-アクチンの第1イントロンのクローン化されたSalI〜NcoIの1.3 kbの挿入配列を用いて合成した(Collasら、J.Cell Sci. 112:1045〜1054、1999b)。ハイブリダイゼーションは、アルカリホスファターゼを結合した抗フルオレセイン抗体を用いた化学発光法で検出した(Collasら、J.Cell Sci. 112:1045〜1054、1999b)。
【0108】
非刺激T細胞では、抗acH4未結合フラクションでIL-2プロモーターが全体的に検出されたことから、IL-2プロモーターの低アセチル化、またはH4アセチル化の不在が示唆される(図9E、「培養」)。しかし、抗acH4結合フラクションにおける高度の強化によって示されるように、T細胞刺激により、IL-2プロモーターの過剰なアセチル化が誘導された(図9E、「培養」)。IL-2プロモーターも、刺激抽出物中における核のインキュベーション後にH4過剰アセチル化染色質中に高度に強化されたことは注目に値する。これは非刺激抽出物(図9E、「インビトロ」)中では認められなかった。以上の結果は、T細胞の活性化に伴うIL-2プロモーターで生じる染色質の構造変化が、-300塩基対〜転写開始コドンの極めて短いエンハンサー領域に限定されるという報告と矛盾しない(Wardら、Nucleic.Acids.Res. 26:2923〜2934、1998;Raoら、J.Immunol. 167:4494〜4503、2001)。総合すると、以上のデータは、刺激T細胞抽出物に曝露した休止期T細胞核におけるIL-2の近位プロモーター領域で染色質モデリングが起こることを示す強い証拠である。
【0109】
刺激抽出物がIL-2発現を誘導する能力をもつこと示すために、休止期T細胞核を、非刺激抽出物中または刺激抽出物中で30℃で30分間インキュベートした。対照として100 μg/mlのRNAse A、100 μg/mlのDNAse I、mAb414抗体、もしくはレクチンWGAのいずれかを含む刺激抽出物中で核をインキュベートした。30℃で30分後、超音波処理を行って抽出物中で核を溶解し、3 μlの抽出物のアリコートを除去して、IL-2特異的プライマーを用いたRT-PCR解析に使用した。特に全RNAはQiagen RNeasyキットで単離し、15 ngのRNAをPromega Access RT-PCR SystemによるRT-PCRのテンプレートとして用いた。467 bpのIL-2 cDNAをIL-2特異的プライマー5'-ATGTACAGGATGCAACTCCTGTCTT-3'(配列番号3)および5'-GTTAGTGTTGAGATGATGCTTTGAC-3(配列番号4)で増幅した。PCR条件は、94℃における1分間の変性、60℃における2分間のアニーリング、および72℃における3分間の伸長の30サイクルとした。入力刺激抽出物、およびIL-2産生T細胞から単離された1.2 μgの全RNAを含む対照刺激抽出物を解析した(図5Aおよび10A)。以上の結果は、IL-2の発現が、刺激抽出物中におけるT細胞核のインキュベーションにより誘導されたが、いずれの対照抽出物中におけるインキュベーションでも誘導されなかったことを意味する。予想される大きさ(467塩基対)のPCR産物は、入力核および入力刺激抽出物(図7から推定)、非刺激抽出物に曝露した核(核-USE)、および刺激抽出物に曝露後に100 μg/mlのDNAse Iではなく100 μg/mlのRNAse Aで処理してからRT-PCRを行った際には認められなかった。したがってIL-2 mRNAの検出はIL-2転写の結果であり、入力核または抽出物中へのRNAの混入によるものではなかった。IL-2転写には活発な核内移行が必要であった。というのは、IL-2の転写は、mAb414抗体、または0.5 mg/mlのコムギ胚芽凝集素で、刺激抽出物中で核孔の機能を阻害すると認められなくなったためである(図10A)。
【0110】
図5Bおよび図10Bからわかるように、インビトロにおけるIL-2 mRNAの産生はPolIIによる転写に依存する。このアッセイ法では、濃度を漸次上昇させたRNA PolIIインヒビターアクチノマイシンD (0 nM、5 nM、10 nM、50 nM、100 nMおよび500 nM)を含む刺激抽出物に核を30分間曝露し、IL-2 mRNAの合成をRT-PCRで解析した。対照として、IL-2を発現しない抗CD3で刺激したB細胞、線維芽細胞、およびHeLa細胞の抽出物を対象に、休止期T細胞の核内におけるIL-2発現の誘導能力を検討した。予想通り、これらの抽出物はIL-2の発現を誘導しなかった。図5A〜図5Cの矢印は、458塩基対のIL-2 RT-PCR産物を示す。
【0111】
核の再プログラムを示す厳密な指標として、IL-2遺伝子の活性化を、初代ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)、NT2ニューロン前駆細胞、およびHeLa細胞から、刺激抽出物中におけるインキュベーションの2時間後に精製した核でモニタリングした。RT-PCR解析から、刺激抽出物が、すべての細胞型の核内のIL-2遺伝子を活性化することがわかった。これとは対照的に、非刺激抽出物はIL-2転写の誘導に無効であった(図10C)。IL-2の活性化は、それぞれ50 nM アクチノマイシンDおよびmAb414使用時には失われることから、RNA PolII活性および核内移行に依存していた(図10C)。また最後に、刺激抽出物に対するIL-2誘導の特異性の存在は、T細胞刺激を模した抗CD3抗体および架橋抗体で処理した293T線維芽細胞、HeLa内皮細胞、またはBjab B細胞の対照抽出物に曝露した休止期T細胞の核でIL-2が抑制されたままであることから明らかであった(図10D)。
【0112】
要約すると、以上の結果から、サイレント遺伝子の転写活性化から明らかな核の再プログラムが、精製された完全な核で誘導可能であることがわかる。IL-2遺伝子の発現は、生理的な核の取込み、および転写調節タンパク質の形成と一致した。NFAT、NFκB、およびAP-1が、分化反応そのものではなく増殖反応を反映する転写因子であることは注目に値する。染色質がリモデリングを受けることは、SWI/SNF複合体が核内で結合されること、またDNA依存性のATPの加水分解活性をもつことから明らかであった。SWI/SNF複合体はATP加水分解のエネルギーを用いてヌクレオソーム構造を変化させる。特に刺激抽出物は、同等量の免疫沈殿BRG1に由来する入力休止期T細胞核のATPase活性に対して同活性を8倍に強化した。したがってATPase活性の上昇は、刺激抽出物に曝露した核に含まれる沈殿したBRG1が大量である結果ではなく、SWI/SNFが活性化した結果である。アセチルトランスフェラーゼをその作用部位に標的化させる複合体が関与するIL-2の近位プロモーター領域のヒストンH4の過剰なアセチル化は、染色質モデリングが活発であることをさらに意味する。任意の特定の機構を制限する意図はないが、IL-2プロモーターのH4のアセチル化が、抑制状態の染色質から通常除外される転写活性化因子の結合を促進する場合があったり、転写因子の結合が染色質構造の変化を促す可能性があったりする。本明細書に記載された結果は、核の再プログラムが完全な核内でインビトロで生じる場合があることを意味する。以上の結果は、この過程に、染色質を再モデル化するタンパク質複合体の核内における活発な形成、ならびに転写調節因子の結合が関与することも意味する。
【0113】
実施例5:活性化T細胞抽出物を用いた線維芽細胞の再プログラム処理
実施例4に示すように、刺激T細胞抽出物は、293T線維芽細胞におけるT細胞特異的転写因子の核内局在を高めた。線維芽細胞をT細胞に再プログラムする能力について以下に詳述する。
【0114】
この試験では、実施例4に記載されるようにT細胞を健康なドナーの末梢血から精製した(Skalheggら、Science 263:84〜87、1994)。刺激T細胞から再プログラム用抽出物を調製するために、刺激後に細胞を液体窒素中で5〜10分かけて凍結させ、解凍し、氷冷溶解用緩衝液で洗浄し(Collasら、J.Cell Bio. 147:1167〜1180、1999)、400×gで沈降させた。ペレットは2倍容の溶解用緩衝液に再懸濁した。細胞および核は、先端超音波処理装置で破壊し、4℃で15,000×gで15分間遠心して溶解物を清澄化にした。上清は直ちに使用するか、または液体窒素で凍結させて-80℃で保存する。非刺激T細胞抽出物は、擬似(H2O)刺激T細胞から調製した。
【0115】
核の再プログラム反応は、100,000個の核、およびATP産生系(1 mM ATP、10 mM クレアチンリン酸、25 μg/ml クレアチンキナーゼ、および100 μM GTP)を含む20 μl、またはこの倍数の刺激T細胞抽出物、もしくは非刺激T細胞抽出物を含む。反応物は、特に明記しない限り30℃で30分間インキュベートした。インキュベーション完了後に、核を1 M ショ糖中に沈降させて精製した。あるいは、全RNAを反応混合物から抽出してRT-PCRに使用した。
【0116】
刺激T細胞抽出物に曝露した線維芽細胞核による転写因子群の活発な取込みは、ヌクレオポリンに反応して核孔の機能を阻害するモノクローナル抗体(M.Rout、Rockefeller University、New York、NY、USAから入手)が、転写因子群を核内に移行させる能力を低下させたことからさらに明らかであった(図11B、mAb414)。Oct-1は、293T入力核、および刺激T細胞抽出物または対照の非刺激T細胞抽出物に曝露した核で検出され(図11B)、複数の細胞型におけるDNA結合特性と一致した。刺激T細胞抽出物で処理した293Tの核の染色質および核マトリックスを対象としたイムノブロッティングの結果、NFAT、AP-1、NFκB、およびOct-1が染色質に主に結合することがことがわかった(図11C)。総合すると、以上のデータから、線維芽細胞の核によって転写調節因子が抽出物から生理的に取込まれることがわかる。
【0117】
ヒトヌクレオソームのリモデリング複合体SWI/SNFの核内結合についても調べた。T細胞を抗CD3抗体で刺激すると、SWI/SNF複合体の核内結合が誘導されることが、SWI/SNF複合体のマーカーであるBRG1に対する抗体を用いたTriton X-100可溶性および不溶性の核フラクションのイムノブロッティングによって確認された(図12A)。特にBRG1は、抗BRG1抗体(dilunstimulated T細胞抽出物、1:40)を用いて2.5時間かけてウサギIgGで事前に清澄化したミクロコッカルヌクレアーゼ(MNase)可溶性染色質から免疫沈殿を生じた。この免疫複合体をプロテインA-セファロースビーズを用いて沈殿させ、免疫沈殿緩衝液(Collasら、J.Cell Bio. 147:1167〜1180、1999)で3回洗浄し、SDS試料緩衝液に溶解した。ウエスタンブロットを抗体希釈率1:500で行った(Collasら、J.Cell Bio. 147:1167〜1180、1999)。80%を越えるSWI/SNFは結合状態で20分以内に、刺激T細胞抽出物で処理した293Tの核内に認められた。これとは対照的にSWI/SNFは、非刺激T細胞抽出物に曝露した核内に溶解したままであった(図12A)。
【0118】
またSWI/SNF複合体のATPase活性は、抗BRG1抗体を用いた複合体の免疫沈殿後に標準的なルシフェリン-ルシフェラーゼアッセイ法で決定した。293T入力核から、または非刺激T細胞抽出物で処理した核から精製したBRG1免疫沈殿物(「BRG1-IPs」)では、同アッセイ法におけるATPレベルの上昇をみる限り、ATPaseは全くみられないか、またはわずかに認められた(図12B)。しかし、刺激T細胞抽出物で処理した核から単離されたBRG1-IPは、ATPase活性の約8倍の上昇がみられ、同アッセイ法におけるATPレベルは2,500 RLUから300 RLUに低下した。免疫前IgGを用いた対照沈殿では活性は検出されなかった(図12B)。以上の結果は、刺激T細胞抽出物が、SWI/SNPヌクレオソームリモデリング複合体の核内結合を促進すること、また293Tの核内の結合状態の複合体のATPase活性を高めることを示している。
【0119】
遺伝子発現能力は、ヒストンH4の過剰なアセチル化と相関する場合が多い。核の再プログラムを示す別のマーカーとして、刺激T細胞抽出物および非刺激T細胞抽出物で処理した293Tの核のIL-2座位におけるH4アセチル化の変化を測定した。染色質免疫沈殿(ChIP)実験を、すべての状態のアセチル化H4に対する抗体を用いて行った(「acH4」、図12C)。特に完全な核を293T細胞、NT2細胞、および非刺激末梢血T細胞から、ダウンスホモジナイザーで単離して凍結保存した(Collasら、J.Cell Bio. 147:1167〜1180、1999)。可溶性染色質は、MNaseで消化で精製した核から調製し(O'NeillおよびTurner、Methods Enzymol. 274:189〜197、1996)、Triton X-100、DNAse、およびRNAse抽出による耐性構造で決定される核マトリックスは、文献に記載された方法で単離した(Steenら、J.Cell Biol. 149:531〜536、2000)。ChIPは、抗pan-アセチル化ヒストンH4抗体を用いた、0.1 U MNase/μg DNAによる染色質の可溶化後に行った(O'NeillおよびTurner、Methods Enzymol. 274:189〜197、1996)。抗体結合フラクションおよび未結合フラクションからフェノール-クロロホルム抽出法でDNAを単離し、IL-2座位をドットブロット解析で同定した。IL-2用プローブは、テンプレートとして、上述の手順でゲノムDNAからPCR増幅された467 bpのIL-2 PCR産物を用いてランダムプライミング(Amersham)で合成してフルオレセインを結合させた。ハイブリダイゼーションは化学発光法で検出した(Collasら、J.Cell Sci. 112:1045〜1054、1999)。β-アクチン用プローブは、文献の方法で合成して標識した(Collasら、J.Cell Sci. 112:1045〜1054、1999)。
【0120】
入力核、および非刺激T細胞抽出物中でインキュベートした核では、IL-2は抗acH4非結合染色質中でのみ検出され、IL-2座位のH4がわずかにアセチル化されていることがわかる(図12C)。これとは対照的にIL-2は、刺激T細胞抽出物で処理した核の抗acH4が結合する染色質で検出された。この結果は、これらの核内でIL-2座位におけるH4のアセチル化が強化されることを反映している(図12C)。予想されるように、構成的に発現されるβ-アクチン遺伝子用プローブで再びフィルターを選択すると、β-アクチン座位でH4が過剰にアセチル化されていることがわかった(図12C)。したがって刺激T細胞抽出物は、293Tの核内のIL-2座位におけるH4アセチル化の強化を招く。これは、生理的な染色質モデリングの証拠となる。
【0121】
核の再プログラムの、より厳密な別の指標が、刺激T細胞抽出物に曝露した293T線維芽細胞核におけるIL-2転写の誘導である(図12D)。Qiagen RNeasyキットで総RNAを単離し、15 ngのRNAをPromega Access RT-PCR Systemを用いたRT-PCRのテンプレートとして用いた。467 bpの産物をIL-2特異的プライマー5'-ATGTACAGGATGCAACTCCTGTCTT-3'(配列番号5)および5'-GTTAGTGTTGAGATGATGCTTTGAC-3'(配列番号6)を用いて、94℃における30秒間の変性、60℃における1分間のアニーリング、および72℃における1分間の伸長を30サイクル行って増幅した。RT-PCR解析の結果、IL-2遺伝子は、刺激T細胞抽出物では活性化されるが、非刺激T細胞抽出物では活性化されないことがわかった。上記の結果から予想されるように、IL-2転写物は、入力核、入力刺激T細胞抽出物、および100 μg/mlのRNAse A、mAb414、もしくは50 nMのRNA ポリメラーゼII (PolII)インヒビターであるアクチノマイシンDのいずれかを含む刺激T細胞抽出物に曝露した核では認められなかった(図12D)。同様の結果は、ニューロン前駆細胞NT2の核および休止期T細胞の核で得られた(図12D)。総合すると以上のデータは、刺激T細胞抽出物が、T細胞および非T細胞の核における染色質リモデリング、ならびに抑制状態のIL-2遺伝子のRNA PolII依存性の活性化を支持することを意味する。
【0122】
実施例6:浸透化細胞の再プログラム
精製核に加えて、細胞全体を再プログラムする能力は後述する手順で証明した。カバーガラス上で成長させた293T線維芽細胞を、細菌毒素ストレプトリシンOで可逆的に浸透化し、入手が容易な刺激されたジャーカット細胞、またはニューロン前駆細胞の抽出物に曝露し、2 mM CaCl2で再び閉じ、また培養して増殖させた。T細胞への再プログラムは、再プログラムされた293T線維芽細胞における遺伝子発現の変化、T細胞特異的タンパク質の発現、およびT細胞特異的機能の誘導によって評価した。ニューロン抽出物に曝露した、再プログラムされた293T線維芽細胞は、ニューロンタンパク質の発現について解析を行った。
【0123】
以上の試験では、293T線維芽細胞を、ポリ-L-リシンでコーティングされた16 mmのカバーガラス上で、RPMI1640中で、12ウェルプレート中で100,000細胞/カバーガラスとなるまで成長させた。細胞は、Ca2+を含まないハンクス平衡塩溶液(Gibco-BRL)を溶媒とする200 ng/mlのストレプトリシンOで、通常大気中で37℃で50分間かけて浸透化した。以上の条件で80%を越える293T細胞が浸透化したことが、ヨウ化プロピジウムの取込みによって判定された。ストレプトリシンOを吸引し、カバーガラス上に80 μlの293T抽出物、ジャーカットTAg抽出物、もしくはNT2抽出物のいずれかを重層し、CO2雰囲気下で37℃で1時間インキュベートした。各抽出物は、ATP産生系および各1 mMのATP、CTP、GTP、およびUTPを含むようにした。ジャーカットTAg細胞の抽出物は、40 ng/mlの抗CD3抗体(A.M.Rasmussen氏、Norwegian Radium Hospital、Montebello、Norwayから入手したクローンSpvT3d)および0.1 μMのPMAとの1〜2時間の同時刺激後に上述の方法で調製した。ニューロン前駆細胞NT2の抽出物は、コンフルエントなNT2細胞(Stratagene)から、上述した超音波処理および沈降法で調製した。形質膜を再び閉じるために、2 mMのCaCl2 (溶媒をH2Oとする1 Mストックから添加)を含むRPMI1640をウェルに添加し、細胞を37℃で2時間インキュベートした。この処理で約100%の浸透化細胞が再び閉じられた。Ca2+を含むRPMIをRPMIに交換したところ、細胞は数週間膨張した。
【0124】
ジャーカット抽出物に曝露した再プログラムされた線維芽細胞における転写レベルを、293T抽出物に曝露した293T細胞(「対照細胞」)における転写レベルと、再プログラム反応の10日後に比較した。375種のcDNAを含むヒトサイトカイン発現アレイを用いて、遺伝子発現の変化をモニタリングした。特にmRNAを、再プログラム処理後の10日目に液体窒素で凍結させた「再プログラム」された細胞ペレットおよび対照細胞ペレットから単離した(mRNA Direct(商標)、Dynal)。1 μgのmRNAを、製造業者のプロトコルによる、α-33P-dCTPおよびサイトカイン特異的プライマー(R&D Systems)を用いたcDNA合成(cDNA LabelingおよびHybridization Kit、R&D Systems)のテンプレートとして使用した。精製プローブは、「Human Cytokine Expression Arrays」(R&D Systems)と推奨条件下でハイブリッドを形成した。アレイでホスホスクリーンを6日間感光した。ハイブリダイゼーションをホスホイメージャーで定量し、Phoretix Array V.2解析ソフトウェアで解析した。
【0125】
再プログラムの結果、120種を越える遺伝子が上方制御または下方制御されていた(図13;2倍より大きく上方制御または下方制御された転写物のみを示す)。造血細胞の表面抗原、インターロイキンおよびインターロイキン受容体、サイトカインおよびサイトカイン受容体、ケモカインおよびケモカイン受容体、表皮成長因子、ならびにオーファン受容体をコードする遺伝子群が上方制御された。FGFファミリー、接着分子ファミリー、およびインテグリンファミリーの複数の遺伝子群は下方制御された。TGFβファミリーおよびTNFファミリーの複数の遺伝子群は、上方制御されるものもあれば下方制御されるものもあった。神経栄養因子の転写物は影響を受けず、ハウスキーピング遺伝子の発現も影響を受けなかった(図13)。同様の結果は、再プログラムの13日後に調べた別の反応の2枚のアレイで得られた。したがって造血系遺伝子群は、ジャーカット抽出物に曝露した293T細胞で発現されるか、または上方制御されるが、FGF、接着分子、および細胞骨格成分の遺伝子群は下方制御されるか抑制される。
【0126】
再プログラムされた線維芽細胞における造血系細胞特異的表面抗原の発現の評価も行った。IL-2RαおよびIL-2Rβの免疫蛍光解析を文献に記載された手順で行った(Collasら、J.Cell Bio. 147:1167〜1180、1999;抗IL-2Rα抗体およびIL-2Rβ抗体はR&D Systemsから入手した)。他の表面抗原の解析は、FITC結合一次抗体またはTRITC結合一次抗体を用いて行った(FITCを結合した抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、および抗CD45抗体はDiatecから入手し、FITCを結合した抗TCRαβ抗体はPharmingenから入手した)。免疫蛍光解析の結果、大部分の再プログラムされた細胞で、再プログラムの4日後までにCD3、CD4、およびCD8が検出され、またCD45チロシンホスファターゼは再プログラムの11日後まで検出されたが、対照細胞では検出されなかった(図14A)。またTCR複合体のα鎖およびβ鎖は、再プログラムされた線維芽細胞で発現されることが、TCRαβに対する抗体を用いた蛍光抗体法標識法でわかった(図14B)。
【0127】
再プログラムされた線維芽細胞で免疫細胞の表面受容体が発現されたことから、再プログラムの機能面を調べることとした。非刺激T細胞は、低親和性のIL-2受容体β(IL-2Rβ)を発現する。高親和性のIL-2Rは、TCR-CD3複合体刺激によるIL-2Rαの誘導を必要とする。IL-2RαのTCR-CD3依存性の誘導は、正常なTCR機能の指標となる。図14Cは、再プログラムされた線維芽細胞が、刺激の非存在下でIL-2Rβを発現し、IL-2Rαを発現しなかったことを示す。また再プログラムされた細胞では、オーバーレイ像からわかるように、抗CD3および酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)による刺激が、IL-2Rβと共存するIL-2Rαの発現を誘導した(図14C、「+刺激」)。同様の結果は、抽出物の調製に使用されたジャーカット細胞で得られた(図14C)。予想されるように、対照線維芽細胞を刺激してもIL-2Rαは有意に誘導されなかった。総合すると、以上の結果から、再プログラムされた細胞では、機能性の免疫特異的受容体が発現することがわかる。
【0128】
インビトロにおける細胞の再プログラム処理を一般的に応用できることを示すため、浸透化された線維芽細胞を、ジャーカット抽出物について既に説明したように、NT2の細胞質抽出物および核抽出物に37℃で1時間曝露した。細胞を再び閉じ、RPMI1640中で低コンフルエンシーで15日間培養した。次に、ニューロフィラメントタンパク質NF200 (Debusら、Differentiation 25:193〜203、1983)の発現を免疫蛍光法で調べた。NF200は、NT2抽出物に曝露した線維芽細胞では強く発現されたが、対照となる293T線維芽細胞抽出物に曝露した細胞では発現されなかった(図15)。またNF200は、培養中に近傍の細胞と接触することのある伸長途上の神経突起に似た、線維芽細胞に由来する、極性をもつ成長に制限されるようであった。以上のデータは、ニューロン特異的タンパク質が、このような再プログラム条件下で線維芽細胞で発現可能であることを意味する。
【0129】
要約すると、以上の結果は、別の体細胞型の核抽出物および細胞質抽出物を用いると、体細胞が機能的に再プログラムグされることを意味する。以上の実験から、異種体細胞型の抽出物に曝露することで、体細胞の線維芽細胞において、抑制された遺伝子群および他の細胞型に特異的なタンパク質の合成が活性化されることがわかる。線維芽細胞のゲノム機能が、T細胞またはジャーカットTAgの抽出物で再プログラムされることは、核の生理的な取込み、転写調節タンパク質の形成、染色質のリモデリング、リンパ系特異的遺伝子群の活性化、一部の遺伝子群の下方制御、CD3およびTCRを含むT細胞特異的抗原の発現、ならびにCD3-TCR刺激に応じたIL-2R形成経路の確立によって明らかである。またニューロフィラメントタンパク質は、ニューロン前駆細胞抽出物に曝露した線維芽細胞で発現された。一次培養物に由来する分化した体細胞のインビトロにおける再プログラムは、同質遺伝子的な、または実質的に同質遺伝子的な交換用細胞を治療目的で作製する可能性を広げる。
【0130】
実施例7:幹細胞を作るための再プログラム
後述するように、胚幹細胞抽出物を用いて、浸透化されたマウス線維芽細胞を再プログラムした。同様の方法で、他の線維芽細胞(例えばヒトの皮膚線維芽細胞)などの他の細胞を再プログラムすることができる。
【0131】
簡単に説明すると、マウスの胚幹細胞を、白血病抑制因子(LIF)の存在下で、フィーダー層を用いることなく標準的な手順で培養した。胚幹細胞用の再プログラム用抽出物は以下の手順で調製した。胚幹細胞を回収し、PBSで3回洗浄し、上述の氷冷した細胞溶解用緩衝液で1回洗浄し、細胞ペレットを等容量の細胞溶解用緩衝液に再懸濁した。懸濁液を、すべての細胞および核が破壊されるまで氷上で超音波処理した。結果として得られた溶解物を4℃で15,000×gで15分間遠心した。上清(「再プログラム用抽出物」)は新鮮な状態で使用するか、または小分けして、液体窒素で瞬間凍結して使用時まで-80℃で保存した。
【0132】
形質転換した線維芽細胞系列であるマウスのNIH3T3細胞を、ポリ-L-リシンでコーティングした12 mmの円形のカバーガラス上で、約50,000細胞/カバーガラスの密度になるまで成長させた。細胞を上記の手順でストレプトリシンOにより浸透化した。ストレプトリシンOを穏やかに吸引して除去し、ATP産生系およびヌクレオチドを含む80 μlのマウス胚幹細胞抽出物と交換した。細胞は、通常大気圧下で抽出物中で37℃で1時間インキュベートした。2 mMのCaCl2を含む培地(500 μl)を細胞に直接添加し、続けてCO2インキュベーター内で37℃で2時間かけて再び閉じた。CaCl2を含む培地を除去し、LIFを含む通常の胚幹用培地と交換した。
【0133】
再プログラムされたNIH3T3細胞を培養し、再プログラム処理後の4日目に調べた。位相差顕微鏡解析の結果、細胞が凝集状態で成長し、胚幹細胞によって形成されるものに似た「コロニー」を形成することがわかった(図16Aと図16Bを比較されたい)。図16Bに示したような大きなコロニーの一部は培養ディッシュから浮き上がり、胚様体を形成した。これとは対照的に、ストレプトリシンOで浸透化されて、対照NIH3T3抽出物に曝露した対照線維芽細胞はコロニーを形成せず、典型的な線維芽細胞の表現型を維持した(図16Bと図16Aの入力NIH3T3細胞を比較されたい)。同様に、胚細胞抽出物に曝露した、対照の完全(浸透化されていない)NIH3T3細胞は、胚細胞の表現型を獲得しなかった(図16B)。再プログラムされた細胞の胚幹細胞の形態は培養中で少なくとも10日間みられた。
【0134】
再プログラム用の分子マーカーとして、再プログラムされた細胞を対象に、Oct4遺伝子産物であるOct4の発現を調べた。Oct4の発現は生殖細胞、幹細胞、着床前の胚、および初期着床後胚のエピブラストに特有である。したがってOct4の発現は、多能性細胞または全能性細胞を同定するための有用なマーカーとなる。Oct4発現を、再プログラムの4日後に、市販の抗Oct4抗体(Santa Cruz Biotechnology)を用いた免疫蛍光法でモニタリングした。図17Aは、入力胚幹細胞が明瞭に抗Oct4抗体で標識されたことを示している。予想されるように、NIH3T3線維芽細胞は標識されなかった(図17A)。胚幹細胞抽出物で再プログラムされたNIH3T3細胞は抗Oct4抗体で標識された。これとは対照的に、対照NIH3T3抽出物に曝露したNIH3T3細胞、または胚幹細胞抽出物に曝露した完全なNIH3T3細胞(図17A)は抗Oct4抗体で標識されなかった。この結果から、再プログラムされた細胞が、胚幹細胞特異的転写因子であるOct4を発現することがわかる。
【0135】
免疫蛍光法で得られた結果はウエスタンブロッティング解析で検証した。図17Bは、入力NIH3T3細胞(「NIH」)がOct4を発現しない一方で、胚幹細胞抽出物に曝露したNIH3T3細胞(「NIH/ES ext.」)は高レベルのOct4を発現したことを示す。発現レベルは、抽出物の調製に使用した胚幹細胞(図17B、「ES」)のレベルと同等であった。NTH3T3細胞抽出物に曝露した対照NIH3T3細胞は、予想通りOct4を発現しなかった(図17B)。50,000個のNIH3T3細胞、および10,000個の胚幹細胞、ならびに再プログラムされた細胞を図17Bに示すようにイムノブロットに使用した。
【0136】
新規の迅速で高感度の半定量的アッセイ法を開発して、胚幹細胞および再プログラムされた細胞における別の胚幹細胞マーカーであるアルカリホスファターゼを測定した。このアッセイ法は、胚幹細胞、NIH3T3抽出物に曝露したNIH3T3細胞、胚幹細胞抽出物に曝露した完全NIH3T3細胞、またはニトロセルロースメンブレン、もしくは他の任意の適切な固相支持体上で任意に選択される細胞の1〜2 μlのTriton X-100可溶性溶解物のスポッティングに基づく。被験スポットは、他のスポットとの比較を可能とするために既知のタンパク質濃度であるか、または既知の細胞数に由来する。望ましいならば、既知量のアルカリホスファターゼを含むアリコート、または既知レベルのアルカリホスファターゼ活性を有するアリコートもフィルター上にスポットして標準スポットとすることができる。このようなメンブレンはTris緩衝食塩水で湿らせて乾燥させた。アルカリホスファターゼを結合したDNAプローブをサザンブロット上で検出するように通常通りに設計した検出用溶液をアプライして、アルカリホスファターゼを検出した(Alk-Phos Direct検出用溶液、Amersham)。アルカリホスファターゼは、検出用溶液に含まれる基質を脱リン酸化して光を放出する。メンブレンの水分を除去し、フィルムを感光させた。被験試料を、メンブレン以外の固相支持体(96ウェルプレートなど)にアプライする場合は、96ウェルプレートでフィルムを感光させるか、またはアルカリ性リン酸検出反応による放出光をCCDカメラで測定する。胚幹細胞溶解物のアルカリホスファターゼは、フィルム上で検出される光のスポットを出現させたが、NIH3T3細胞溶解物のアルカリホスファターゼは出現させなかった(図18)。また、胚幹細胞抽出物で再プログラムされた浸透化NIH3T3細胞はアルカリホスファターゼを有していたが、対照細胞は有していなかった(図19)。
【0137】
被験スポット中のアルカリホスファターゼの量は、被験スポットのシグナルを、標準スポットのシグナルと、またはアルカリホスファターゼのレベルを上昇させていった一連の標準スポットのシグナル(例えば標準曲線となる)と比較することで決定することができる。被験スポットを得る際に使用されるタンパク質の濃度または細胞数(例えばアルカリホスファターゼタンパク質のmg単位)は、元の被験細胞または試料のアルカリホスファターゼのレベルの推定に使用することができる。
【0138】
再プログラムされた細胞を、標準的な胚幹培養法でLIF添加培地を用いて継代して4日目にプレートを交換した。しかし、再プログラムの10日後に、Oct4の発現レベルは再プログラムされた細胞で大きく低下した。この細胞は、再プログラム反応後に獲得した典型的な胚幹細胞のコロニーの形態も失った。この結果は、(i)細胞が一過的な再プログラムを受けたこと、すなわち再プログラム因子群が、再プログラムされた細胞の分裂に伴い希釈されて活性をもたなくなったこと、(ii)再プログラムされた胚幹細胞が線維芽細胞に自発的に分化したこと、または(iii)真に再プログラムされた胚幹細胞が喪失し、混入した再プログラムされていない線維芽細胞が胚幹細胞の成長を上回って培養物中に留まったこと、のいずれかの結果である可能性がある。望ましいならば、Oct4および他の幹細胞特異的タンパク質の発現は、複数回の再プログラムを行うことで、再プログラムされた細胞で長期間維持される場合がある。また浸透化細胞を、再プログラムの各ラウンド中に幹細胞抽出物に長期間曝露することができる。別の核因子を上述のように幹細胞抽出物に加えることで再プログラムを最大化することもできる。
【0139】
総合すると以上のデータは、胚幹細胞抽出物に曝露したNIH3T3細胞が胚幹細胞の表現型を獲得し、Oct4を発現し、またアルカリホスファターゼを発現することを意味する。
【0140】
他の態様
以上の説明から、さまざまな用途および条件に採用するため、本明細書に記載された本発明の変更および変形がなされる場合があることは明らかである。このような態様も特許請求の範囲に含まれる。
【0141】
本明細書で言及されたすべての出版物は、個々の独立した出版物または特許出願が、具体的かつ個別に参照として組み入れられると指定されるのと同程度に参照として組み入れられる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、細胞の運命の変化に関連したいくつかの利点を提供する。例えば、このような方法は一般に、任意の所望の細胞型の細胞を作製する際に応用することができる。このような方法には、核、染色質塊、または浸透化細胞を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)中でインキュベートして、再プログラムを可能とする段階が含まれるので、再プログラム効率は、再プログラムを促す因子群を再プログラム用培地に付加することによって、または再プログラムを抑える因子群を除去することによって上昇させることができる。再プログラムされた細胞は、特定の細胞型の損傷もしくは欠損が関与する状態の治療または予防を目的として哺乳類に移植することができる。望ましいならば、再プログラムされた細胞は、標準的な分子生物学的手法で操作することで、細胞をレシピエント哺乳類に投与する前に、疾患の原因となる変異を修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】抗CD3抗体で記載の時間刺激したヒトT細胞によって合成されたIL-2のmRNA量を示すゲル。レーン「30c」、「60c」、および「120c」は、擬似刺激T細胞を意味する。
【図2】休止期T細胞から精製した核。
【図3】図3Aは、無細胞再プログラム用抽出物中における核の取込み、およびT細胞特異的転写因子NFATの結合の免疫蛍光解析。このアッセイ法では、休止期T細胞(「入力」核)から精製した核を、刺激T細胞に由来する再プログラム用抽出物と30分間インキュベートした。図3Bは、NFAT、c-Jun/AP1、NFκB、Oct1、およびMAPキナーゼ(Erk1およびErk2)の核への取込みを示すイムノブロット。刺激抽出物(「SE」)、非刺激T細胞から調製した対照抽出物(非刺激抽出物「USE」と表記)、またはヌクレオポリンに対するモノクローナル抗体を含む刺激抽出物(「SE+mAb414」)のいずれかでインキュベートした入力核(「入力」)および核を解析した。図3Cは、DNAに結合した転写因子のパーセンテージを示す棒グラフ(平均±標準偏差)。
【図4】図4Aは、緩衝液対照、非刺激抽出物、または刺激抽出物に30分間曝露して、ショ糖で沈降させたT細胞の核内における、染色質リモデリングSWI/SNF複合体とDNAの結合を示すイムノブロット。図4Bは、核保持アッセイ法で評価した、抽出物中で指定時間インキュベートした核内における、DNA結合状態のSWI/SNF複合体とDNA非結合状態のSWI/SNF複合体のパーセンテージを示すグラフ。SWI/SNF複合体は、抗BRG1抗体を用いたウエスタンブロットで可視化した。図4Cは、インビボにおける刺激T細胞中でSWI/SNF複合体が核に保持されることを示すイムノブロット。このアッセイ法では、T細胞を抗CD3抗体で30分間刺激し、可溶性でDNA結合状態のSWI/SNF複合体のフラクションを、図4Aに記載した手順で評価した。図4Dは、T細胞核のIL-2遺伝子がインビボおよびインビトロで過剰にアセチル化されていることを示すイムノブロット。MNAse可溶性染色質フラクションは、休止期T細胞および抗CD3で刺激したT細胞から調製した。このイムノブロットから、IL-2プローブおよび対照β-アクチンプローブが、抗アセチル化ヒストンH4(H4ac)プローブによる染色質フラクション(「結合」)の免疫沈殿に由来するDNAと結合すること、ならびに上清(「未結合」)フラクションに含まれるDNAと結合することがわかる。
【図5】図5Aは、無細胞抽出物中におけるIL-2 mRNAの合成を示すゲル。休止期T細胞核(「入力核」)を、非刺激抽出物、または刺激抽出物中で30℃で30分間インキュベートした。対照として、100 μg/ml RNAse A、100 μg/ml DNAse I、mAb414抗体、またはレクチンWGAのいずれかを含む刺激抽出物中で核をインキュベートした。図5Bは、インビトロにおけるIL-2 mRNAの産生がPolIIによる転写に依存することを示すゲル。RNA PolIIインヒビターであるアクチノマイシンDを次第に高濃度になるように(0 nM、5 nM、10 nM、50 nM、100 nM、および500 nM)含む刺激抽出物に核を30分間曝露し、IL-2 mRNAの合成を転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で解析した。図5Cは、IL-2 mRNAの産生が、抗CD3抗体で処理したT細胞抽出物に曝露した核では誘導されたが、B細胞系列Reh、ヒト293T線維芽細胞、もしくはHeLa細胞に由来する抗CD3抗体処理抽出物に曝露しても誘導されなかったことを示すゲル。図中の矢印は、467塩基対のIL-2 RT-PCR産物を示す。
【図6】図6Aは、図3Aで説明したように、刺激T細胞抽出物とインキュベートしたB細胞系列Reh、293T線維芽細胞、もしくはHeLa細胞の核に、T細胞特異的転写因子NFATが取込まれること、また結合することを示す免疫蛍光解析。図6Bは、図3Bで説明したように、これらの核によるNFAT、c-Jun/AP1、およびNFκBの核への取込みを示すイムノブロット。
【図7】抗CD3抗体で刺激したヒト末梢血T細胞中におけるIL-2 mRNA合成のRT-PCR解析を示すゲルの写真。指定時間で細胞を溶解して全RNAを単離し、IL-2特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。擬似(H2O)刺激細胞は、30分、60分、および120分の時点(「30c」、「60c」、「120c」)で解析した。
【図8】図8A〜図8Dは、刺激T細胞抽出物中におけるIL-2遺伝子の転写活性化因子の核への取込み、および染色質結合を示す写真およびグラフ。図8Aは、休止期T細胞(「入力核」)から精製し、刺激抽出物中で30分間インキュベートした核の写真。核の完全性は、位相差顕微鏡と、10 μg/mlの脂質親和性色素DiOC6による膜標識法で評価した(バー、10 μm)。図8Bは、入力休止期T細胞の核(「入力核」)、入力非刺激抽出物、および入力刺激抽出物中におけるNFAT、AP-1、NFκB、Oct-1、Erk、および外因性BSA-NLSコンジュゲートの相対レベルを示すイムノブロットの写真。これらの因子の核への取込みは、刺激抽出物、非刺激抽出物、または核孔阻止抗体mAb414を含む刺激抽出物に曝露した核内で調べた。ブロットは、ゲルローディング用対照として抗ヒストンH4抗体をプローブとした処理も行った。図8Cは、非刺激抽出物または刺激抽出物に曝露した核内に輸送された転写因子が核内で結合することを示すイムノブロット解析のグラフ。核内における結合は、Triton X-100不溶性(「結合」)フラクションを対象とした核保持アッセイ法、およびイムノブロット解析で評価した。結合状態の因子群のパーセンテージ(平均±SD)は、2回のブロットを対象とした濃度測定解析で決定した。図8Dは、刺激抽出物に曝露した核から調製した核マトリックス(「Mtx」)フラクションおよび染色質(「Chr」)フラクションのイムノブロット解析の写真。NuMAおよびRNA PolIIoを、それぞれ核マトリックスと染色質のマーカーとして使用した。抗NuMA抗体および抗PolIIo mAb CC3は、それぞれコンプトン(D.Compton)氏(Dartmouth Medical School、Hanover、NH、USA)およびビンセント(M.Vincent)氏(Universite Laval、Quebec、Canada)から供与された。
【図9】図9A〜図9Eは、刺激T細胞抽出物に曝露した休止期T細胞核における染色質リモデリング。図9Aは、刺激抽出物に曝露した核内に染色質リモデリング複合体SWI/SNFが結合することを示すゲル。精製した休止期T細胞核(「入力核」)を、細胞溶解用緩衝液(「緩衝液」)中、非刺激抽出物中、または刺激抽出物中で30分間インキュベートし、ショ糖で沈降させた。遊離状態および結合状態のSWI/SNFフラクションを対象に、抗BRG1抗体を使用した核保持アッセイ法、およびイムノブロッティング法で評価した。図9Bは、刺激抽出物または非刺激抽出物中における核のインキュベーション中に核保持アッセイ法で決定した結合状態のSWI/SNFのパーセンテージのグラフ。図9Cは、培養刺激T細胞中におけるSWI/SNFの核保持を示すゲル。T細胞を抗CD3抗体で刺激し、30分後に、SWI/SNFの核内結合フラクションおよび遊離フラクションを図9Aと同様に評価した。図9Dは、SWI/SNF複合体のATPase活性のグラフ。刺激抽出物または非刺激抽出物中における休止期T細胞核の30分間のインキュベーション後に、SWI/SNFを、抗BRG1抗体を用いて核溶解液から免疫沈殿させ、免疫沈殿(「BRG1-IP」)による1 nMの外因性ATP (「ATP+」)の加水分解を発光測定アッセイ法で決定した。対照沈殿生成は、免疫前IgG(「Pre-I IgG」)を用いて実施した。最上列はBRG1-IPの抗BRG1イムノブロットを示す。図に示すように、BRG1-IPは、100 μg/ml DNAse Iで15分間処理した後にアッセイ法を行った(「DNAse+」)。相対的なATPase活性を、対照の免疫前沈殿物のRLU (RLU=2,700、これを0とする)を差引いたアッセイ法における相対発光量(RLU)の平均(±SD)で表す。図9Eは、培養時およびインビトロにおいて、T細胞核中のIL-2プロモーターが過剰にアセチル化されることを示すゲル。ミクロコッカルヌクレアーゼ可溶性染色質(「入力」)は、非刺激(「非刺激」)T細胞、および抗CD3刺激(「刺激」)T細胞から調製した。AcH4を免疫沈殿させ、抗acH4沈殿物(「結合」)フラクションおよび上清(「非結合」)フラクションからDNAを単離した。DNAはドットブロットを行い、IL-2のプロモーターに特異的なプローブ、および対照β-アクチンプローブとハイブリッドを形成させた。
【図10】図10A〜図10Dは、無細胞抽出物中におけるT細胞および非T細胞の核によるIL-2 mRNAの転写を示すゲル。図10Aは、刺激抽出物(「核-SE」)中、または非刺激抽出物(「核-USE」)中でインキュベートした休止期T細胞核(「入力核」)による転写を示すゲル。対照として、100 μg/ml RNAse A、100 μg/ml DNAse I、mAb414、またはコムギ胚芽凝集素(「WGA」)のいずれかを含む刺激抽出物中で核をインキュベートした。インキュベーション終了時に、反応混合物から全RNAを単離し、15 ngを、IL-2特異的プライマーを用いたRT-PCRのテンプレートとして用いた。入力用刺激抽出物、およびIL-2産生T細胞から単離された1.2 μgの全RNAを含む刺激抽出物(「Pos. control SE」)を対照として解析した。図10Bは、インビトロにおけるIL-2 mRNAの合成がRNA PolIIに依存することを示すゲルの写真。休止期T細胞核を、0 nM、5 nM、10 nM、50 nM、100 nM、または500 nMのRNA PolIIインヒビターであるアクチノマイシンDを含む刺激抽出物に曝露した。IL-2 mRNAの合成は、インキュベーション完了後にRT-PCRで解析した。図10Cは、刺激抽出物中または非刺激抽出物中で2時間にわたって再プログラムされた初代HUVEC細胞、NT2細胞、およびHeLa細胞に由来する核による転写を示すゲル。対照として、100 μg/mlのRNAse A、mAb414、もしくは50 nMのアクチノマイシンD (「ActD」)のいずれかを含む刺激抽出物中で核をインキュベートした。全RNAを単離し、IL-2 RNA合成をRT-PCRで調べた。図10Dは、刺激抽出物中で、または293T細胞、HeLa細胞、もしくはBjab細胞の抽出物(いずれもT細胞刺激を模して各細胞型を抗CD3抗体および架橋抗体で処理後に調製)中で2時間インキュベートした休止期T細胞核による転写を示すゲルの写真。各抽出物中におけるIL-2 mRNAの合成はRT-PCRで解析した。
【図11】図11A〜図11Cは、刺激T細胞抽出物に曝露した293T線維芽細胞核中におけるIL-2遺伝子の転写活性化因子の核内移行および染色質結合。図11Aは、293T線維芽細胞(0分)から精製し、刺激T細胞抽出物中でインキュベートした核の写真。NFATの取込みは蛍光抗体法で調べた(バー、10 μm)。図11Bは、刺激T細胞抽出物、非刺激T細胞抽出物、または刺激T細胞抽出物およびmAb414のいずれかに曝露した入力293Tの核および293Tの核によるNFAT、AP-1、NFκB、Oct-1、およびBSA-NLSの取込みを示すイムノブロット解析の図。抗ヒストンH4抗体をローディング用対照として使用した。図11Cは、刺激T細胞抽出物で処理した293Tの核から調製した核マトリックス(「Mtx」)フラクションおよび染色質(「Chr」)フラクションを示すイムノブロットの写真。
【図12】図12A〜図12Eは、刺激T細胞抽出物における染色質リモデリングおよびIL-2遺伝子の活性化。図12Aは、ヒトSWI/SNF複合体が核内に結合されることを示すゲル。イムノブロットの左側では、休止期(「-」)T細胞または抗CD3刺激(「α-CD3」)T細胞から核を単離し、核内で遊離状態および結合状態のSWI/SNFは、抗BRG1抗体を用いた、界面活性剤に可溶性および不溶性の核フラクションのイムノブロッティングで評価した。イムノブロットの右側では、遊離状態のSWI/SNFフラクションおよび結合状態のSWI/SNFフラクションを、刺激T細胞抽出物中でインキュベートしてショ糖で沈降させた293Tの核中で可視化した。図12Bは、2回のブロットを対象とした濃度測定解析に基づく、刺激T細胞抽出物または非刺激T細胞抽出物に曝露した293Tの核に含まれる結合状態のSWI/SNFの割合(%)を示すグラフ。図12Cは、SWI/SNF複合体のATPase活性のグラフ。293Tの核を、刺激T細胞抽出物または非刺激T細胞抽出物に曝露後、抗BRG1抗体を用いて核溶解液からSWI/SNFを免疫沈殿させ、免疫沈殿(「BRG1-IP」)による1 nMの外因性ATP(「ATP+」)の加水分解を発光測定アッセイ法で決定した。対照沈殿化は、免疫前IgG(「Pre-I IgG」)を用いて実施した。ATPレベルは平均(±SD)の相対発光量(RLU)で表す。ATPレベルの上昇は、BRG1-IPのATPase活性が低いことを反映している。図12Dは、293T核中においてIL-2座位が過剰にアセチル化されていることを示すイムノブロット。MNase可溶性染色質を入力293Tの核(「入力N」)から調製し、また核は非刺激T細胞抽出物または刺激T細胞抽出物に曝露した。アセチル化されたH4を免疫沈殿させ、DNAを抗acH4沈殿物(「結合状態」)フラクション、および上清(「非結合」)フラクションから単離した。DNAのドットブロットを行い、IL-2プローブ(上)と、また対照β-アクチンプローブ(下)とハイブリッドを形成させた。図12Eは、IL-2遺伝子の転写を示す一連のゲルの写真。293T細胞、NT2細胞、および休止期T細胞の核を、非刺激T細胞抽出物(「核/UTE」)、または刺激T細胞抽出物(「核/STE」)中で2時間インキュベートした。対照として、核を、100 μg/ml RNAse A、mAb414、または50 nMのアクチノマイシンD (「ActD」)のいずれかを含む刺激T細胞抽出物中でインキュベートした。RNAを反応混合物から単離し、IL-2の転写をRT-PCRで調べた。
【図13】ジャーカットTAg抽出物中で再プログラムされた293T線維芽細胞の遺伝子発現が変化することを示すグラフ。刺激ジャーカットTAg抽出物中、または対照293T抽出物中でインキュベートした293T細胞中における相対的なmRNAレベルを、サイトカイン遺伝子発現アレイで比較した。バーは、再プログラム/対照プローブハイブリダイゼーションシグナル強度の比として測定した、ジャーカット抽出物で処理した細胞中における指定遺伝子群の転写の上昇倍率または低下倍率を示す。発現レベルが2倍以上に上昇した遺伝子、または低下した遺伝子を示す。異なる色背景は遺伝子群が異なることを意味する。
【図14】図14A〜図14Cは、ジャーカットTAg抽出物中で再プログラムされた293T線維芽細胞が、造血細胞のマーカーおよび機能を発現することを示す。図14Aは、対照293T抽出物(上段)、または刺激ジャーカットTAg抽出物(中段)、およびジャーカットTAg細胞(下段)に曝露し、指定のFITC結合抗体を用いた蛍光抗体法で解析した293T細胞の写真。CD3、CD4、CD8は、再プログラム処理後の4日目に検出され;CD45は、再プログラム処理後の11日目に検出された。PKAのCγサブユニット(「PKA-Cγ」)を正の対照として調べた。図14Bは、再プログラム処理後の11日目における抗TCRαβ抗体を用いた細胞の免疫蛍光解析の写真。DNAは、ヨウ化プロピジウムで標識した。図14Cは、再プログラム処理後の2日目に開始した、抗CD3抗体およびPMAで24時間刺激した各細胞型の写真。刺激細胞および非刺激細胞を、抗IL-2Rβ抗体(緑)および抗IL-2Rα抗体(赤)を用いた免疫蛍光法で解析した。ジャーカット細胞およびジャーカット細胞抽出物で処理した293T線維芽細胞の刺激では、IL-2-Rαの合成が誘導された。DNA(青)は、Hoechst 33342で標識した。合成後の像を示す(バー、10 μm)。
【図15】再プログラムされた細胞がニューロフィラメントタンパク質NF-200を発現することを示す、NT2抽出物中で再プログラムされた293T線維芽細胞の免疫蛍光解析の写真。NT2または対照293T抽出物で処理した線維芽細胞を、抗NF200抗体を用いた免疫蛍光法で再プログラム処理後の15日目に調べた。DNAはHoechst 33342で標識した(バー、10 μm)。
【図16】図16Aは、NIH3T3線維芽細胞およびマウスES細胞の形態を示す一連の写真。図16Bは、マウス胚幹細胞抽出物中で再プログラムされたNIH3T3線維芽細胞、NIH3T3抽出物中で擬似再プログラムされた線維芽細胞、およびES細胞抽出物に曝露した完全なNIH3T3細胞の形態を示す一連の写真。位相差顕微鏡で撮影した写真を示す(バー、20 μm)。
【図17A】図17A〜図17Bは、胚幹細胞抽出物中(「NIH/ES抽出物」;再プログラム処理後の4日目)で再プログラムされたNIH3T3細胞、胚幹細胞、およびNIH3T3線維芽細胞中におけるOct4のぞれぞれ免疫蛍光法およびイムノブロット解析の写真。対照NIH3T3細胞抽出物に曝露したNIH3T3細胞はOct4を発現していない(「NIH/NIH ext.」)。
【図17B】図17A〜図17Bは、胚幹細胞抽出物中(「NIH/ES抽出物」;再プログラム処理後の4日目)で再プログラムされたNIH3T3細胞、胚幹細胞、およびNIH3T3線維芽細胞中におけるOct4のぞれぞれ免疫蛍光法およびイムノブロット解析の写真。
【図18】マウス胚幹細胞中におけるアルカリホスファターゼ活性の検出を示す膜の写真。上段は、NIH3T3細胞の溶解物を含み、下段は胚幹細胞の溶解物を含む。2 μlおよび6 μlの溶解物をメンブレン上にアプライした(タンパク質濃度は約20 μg/μl)。
【図19】胚幹細胞抽出物中で再プログラムされたNIH3T3細胞中におけるアルカリホスファターゼ活性の検出を示すメンブレンの写真。
【技術分野】
【0001】
発明の背景
一般に本発明は、細胞を所望の細胞型に変える方法、およびこのように再プログラムされた細胞を、疾患の治療または予防を目的として哺乳類に投与する方法を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
本質的に同じゲノムをもつにもかかわらず、特定の哺乳類の異なるクラスの体細胞は、発現する遺伝子群の組み合わせが異なるために、特徴的な表現型を示す。発現プロファイルが多様なことから、細胞は、ホルモンや軟骨の分泌といった特定の機能を発揮することができる。
【0003】
多くの疾患および外傷は特定のクラスの細胞に対する損傷によって生じるので、このような損傷を受けた細胞の代わりに使用可能な所望の細胞型の細胞を産生させる方法が求められる。好ましくは、このような代替的な細胞は、損傷を受けた細胞と同じ遺伝子型を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の概要
本発明の目的は、細胞の特徴または機能を変える方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
特に、このような方法には、核成分もしくは細胞質成分(転写因子など)が核もしくは染色質塊に添加されたり、核もしくは染色質塊から除去されたりすることを可能とする条件下で、ドナー細胞の核または染色質塊を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)とインキュベートする段階が含まれる。好ましくは、添加される転写因子は、所望の細胞型の細胞中に存在するmRNA分子もしくはタンパク質分子の発現を促進し、またドナー細胞中に存在するmRNA分子もしくはタンパク質分子の発現を促進する転写因子の除去を促進する。望ましいならば、染色質塊は次に、間期再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)中でインキュベートして、いずれかの再プログラム用培地に由来する所望の因子群を取込む核を再形成する。次に核または染色質塊をレシピエントの細胞または細胞質体に導入し、所望の細胞型の再プログラムされた細胞を形成させる。関連する方法では、浸透化細胞を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)とインキュベートすることで、細胞に由来する諸因子の付加もしくは除去を可能とした後に、浸透化細胞の形質膜を再び閉じて所望の因子を包み込み、また細胞の膜の完全性を回復させる。望ましいならば、これらの任意の方法の段階は1回もしくは複数回繰返して行うことができるほか、異なる再プログラム法を連続的に行うことで再プログラムの程度を高めて、結果として、再プログラムされた細胞におけるmRNAおよびタンパク質の発現プロファイルの変化を大きくすることができる。さらに再プログラム用培地を、細胞の機能(例えば複数の細胞型に由来する抽出物もしくは因子群を含む培地)を組み合わせて作製して、複数の細胞型の特徴を有する独特の再プログラムされた細胞を作製することができる。
【0006】
したがって第一の局面では、本発明は細胞を再プログラムする方法を提供する。この方法には、核を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、核からの因子の除去、または核へ因子の付加を可能とする条件下でインキュベートする段階が含まれる。次に、再プログラム用培地中における核のインキュベーションによって形成された核または染色質塊をレシピエントの細胞または細胞質体に導入することで、再プログラムされた細胞を形成させる。一つの好ましい態様では、核を間期用再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)とインキュベートする。好ましくは、間期用再プログラム用培地とのインキュベーション中に、核は膜に結合した状態で留まり、また核内の染色体は凝縮しない。別の好ましい態様では、染色質塊は、有糸分裂用再プログラム用培地(例えば有糸分裂抽出物)中で核とインキュベートすることで形成させる。好ましくは、このような染色質塊は次に間期用再プログラム用培地と、核が再形成し、また再形成した核をレシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入可能な条件下でインキュベートする。
【0007】
関連する局面では、本発明は、細胞を再プログラムする別の方法を提供する。この方法には、染色質塊を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、染色質塊からの因子の除去、または染色質塊への因子の付加を可能とする条件下でインキュベートする段階が含まれる。次に、再プログラム用培地(例えば間期抽出物)中における染色質塊のインキュベーションによって形成された染色質塊もしくは核を、レシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入することで、再プログラムされた細胞を形成させる。一つの好ましい態様では、染色質塊は、ドナー細胞の核を界面活性剤および塩溶液中で、プロテインキナーゼ中で、または有糸分裂用再プログラム用培地中において、NuMAもしくは核の他のタンパク質に対する抗体の存在下もしくは非存在下でインキュベートすることで作製される。別の好ましい態様では、染色質塊は、有糸分裂細胞から単離される。
【0008】
別の関連する局面では、本発明は、細胞を再プログラムするさらに別の方法を提供する。この方法には、浸透化細胞を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、浸透化細胞の核もしくは染色質塊からの因子の除去、または核もしくは染色質塊への因子の付加により再プログラムされた細胞を作製することを可能とする条件下でインキュベートする段階が含まれる。一つの好ましい態様では、浸透化細胞を間期用再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)とインキュベートする。好ましくは、浸透化細胞中の核は、間期用再プログラム用培地とのインキュベーション中に膜に結合した状態で留まり、また核内の染色体は凝縮しない。別の好ましい態様では、染色質塊は、浸透化細胞を有糸分裂用再プログラム用培地中でインキュベートすることで形成される。さらに別の好ましい態様では、再プログラムされた細胞を、再プログラムされた細胞の膜が再び閉じる条件下でインキュベートする。望ましいならば、浸透化細胞は、完全な細胞をジギトニンなどの界面活性剤、またはストレプトリシンOなどの細菌毒素とインキュベートすることで形成することができる。
【0009】
本発明は、本発明の任意の方法で、または本発明の方法の組み合わせで作製された再プログラムされた細胞も提供する。このような細胞は、特定の細胞型を欠くことを原因とする疾患の治療または予防に有用である。また、それぞれ特定の細胞型に特異的な2種またはこれ以上のmRNA分子もしくはタンパク質を発現する再プログラムされた細胞は、疾患の治療に有用な表現型と活性の新しい組み合わせを有する場合がある。例えば、ドナー細胞の分裂能力を維持し、また機能性T細胞受容体もしくは機能性ニューロフィラメントの形成能力を獲得する細胞は、治療的応用のための複数のT細胞またはニューロンの作製に有用である。被験者に移植後は、このような細胞は分裂能力を維持する可能性があるので。疾患の治療、予防、または安定化に必要な移植用細胞の用量または投与頻度を減少させることができる。このような細胞の特性解析により、遺伝子発現の調製に関与するタンパク質が同定されることもある。
【0010】
このような局面の一つでは、本発明は、2種またはこれ以上の、天然の細胞では発現されない内因性mRNA分子もしくは内因性タンパク質の組み合わせを発現する細胞を特徴とする。関連する局面では、本発明は2種もしくはこれ以上の内因性mRNA分子または内因性タンパク質の組み合わせを、任意の天然の細胞内における対応するmRNA分子またはタンパク質の発現レベルより少なくとも10倍、20倍、50倍、75倍、もしくは100倍大きいレベルで発現する細胞を特徴とする。上記の局面の好ましい態様では、細胞は、天然の細胞では発現されない5種、10種、25種、50種、75種、100種、150種、300種、またはこれ以上の内因性mRNA分子もしくは内因性タンパク質の組み合わせを発現する。別の好ましい態様では、このような細胞は、ある細胞型に特異的な1種、3種、5種、10種、25種、50種、100種、またはこれ以上の内因性mRNA分子もしくは内因性タンパク質を発現し、また別の細胞型に特異的な1種、3種、5種、10種、25種、50種、100種、またはこれ以上の内因性mRNA分子もしくは内因性タンパク質を発現する。他の好ましい態様では、このような細胞は、天然では発現されない2種、5種、10種、25種、50種、75種、100種、150種、300種、またはこれ以上の活性もしくは表現型の組み合わせを有する。さらに他の好ましい態様では、細胞は分裂可能であり、または不死化され、またNF200ニューロフィラメントタンパク質、または分化したニューロンによって発現される他の任意のタンパク質などのニューロンタンパク質を発現する。さらに他の好ましい態様では、細胞は分裂させたり不死化させることが可能であり、またIL-2、IL-2受容体、T細胞受容体、CD3、CD4およびCD8、CD45チロシンホスファターゼ、または造血細胞で発現される他の任意のタンパク質を発現する。さらに別の態様では、細胞は、ドナーの線維芽細胞、核、もしくは染色質塊の再プログラムによって形成され、再プログラムされた細胞は、1種もしくは複数の細胞骨格タンパク質(インテグリンなど)を、同じ条件下のドナー線維芽細胞中における対応するレベルより少なくとも25%、50%、75%、90%、もしくは95%低いレベルで発現する。別の態様では、ドナーの線維芽細胞または肝細胞(例えば肝実質細胞)から形成された再プログラムされた細胞は、IL-2、ニューロフィラメントタンパク質、T細胞受容体、Oct4、またはインスリンを発現する。
【0011】
関連する局面では、本発明は、T細胞特異的タンパク質(例えばT細胞受容体タンパク質、IL-2受容体、CD3、CD4、もしくはCD8)、および1種もしくは複数の線維芽細胞特異的タンパク質を発現する細胞を提供する。好ましくは、このような細胞を抗原または抗CD3抗体で刺激するとIL-2受容体のα鎖の発現が誘導される。別の局面では、本発明は、造血細胞特異的タンパク質(例えばCD45チロシンホスファターゼ)、および1種または複数の線維芽細胞特異的タンパク質を発現する細胞を提供する。別の関連する局面では、本発明はニューロン特異的タンパク質(例えばNF200などのニューロフィラメントタンパク質)を発現したり、神経突起を形成したりする細胞、また1種もしくは複数の線維芽細胞特異的タンパク質を発現する細胞を提供する。さらに別の局面では、本発明はニューロフィラメントタンパク質(例えばNF200)を発現したり神経突起を形成したりする細胞、また不死化された細胞を提供する。さらに別の局面では、本発明は幹細胞特異的タンパク質(例えばOct4)、またはアルカリホスファターゼ、および1種もしくは複数の線維芽細胞特異的タンパク質を発現する細胞を提供する。さらに別の局面では、本発明は1種もしくは複数の線維芽細胞特異的タンパク質を発現して凝集状態で成長する細胞、コロニーを形成する細胞、または胚様体を形成する細胞を提供する。好ましい線維芽細胞特異的タンパク質には、例えば1種もしくは複数の再プログラムされた細胞の、宿主患者の対象部位への結合を促す細胞接着分子などがある。線維芽細胞特異的成長因子(例えばFGFファミリーのタンパク質)は、他の例示的な線維芽細胞特異的タンパク質である。
【0012】
細胞を再プログラムする以上の方法は、例えば医学的応用の効く所望の細胞型の細胞の作製に有用である。したがって本発明は、再プログラムされた細胞を哺乳類に投与する段階を含む哺乳類の疾患の治療法または予防法も提供する。
【0013】
このような方法の一つでは、本発明は、哺乳類の疾患、障害、もしくは状態の治療または予防の手順を特徴とする。この方法には、ドナー細胞の核を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、核からの因子の除去、または核への因子の付加を可能とする条件下でインキュベートする段階が含まれる。核または核から形成される染色質塊をレシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入することで、再プログラムされた細胞が形成される。再プログラムされた細胞を次に、対象細胞型を必要とする哺乳類に投与する。一つの好ましい態様では核を、間期用再プログラム用培地でインキュベートする。好ましくは、間期用再プログラム用培地とのインキュベーション中に、核は膜に結合した状態で留まり、また核内の染色体は凝縮しない。別の好ましい態様では、染色質塊は有糸分裂用再プログラム用培地中における核のインキュベーションによって形成される。好ましくは、この染色質塊を次に間期用再プログラム用培地中で、核が染色質塊から形成されうる条件下でインキュベートし、再形成された核をレシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入する。好ましくは、ドナー細胞は、このような細胞型を必要とする哺乳類(例えばヒト)に由来する。治療または予防の対象となる可能性のある疾患、障害、もしくは状態の例には、神経、内分泌、構造、骨格、血管、尿、消化器、外皮、血液、免疫、自己免疫、炎症、内分泌、腎臓、膀胱、心血管、癌、循環器、消化器、造血系、および筋肉の疾患、障害、ならびに状態などがある。また再プログラムされた細胞は、組織または臓器の修復または交換などの再建的応用に使用することができる。
【0014】
関連する局面では、本発明は、哺乳類(例えばヒト)の疾患、障害、もしくは状態の別の治療法または予防法を提供する。この方法には、ドナー細胞の染色質塊を、再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、染色質塊からの因子の除去、または染色質塊への因子の付加を可能とする条件下でインキュベートする段階が含まれる。染色質塊を間期用再プログラム用培地中でインキュベートすることで形成される染色質塊または核を、レシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入することで、再プログラムされた細胞が形成される。一つの好ましい態様では、この方法で使用される染色質塊は、ドナー細胞の核を界面活性剤および塩溶液中で、プロテインキナーゼ溶液中で、または有糸分裂用再プログラム用培地中で、NuMAに対する抗体の存在下もしくは非存在下でインキュベートすることで作製される。別の好ましい態様では、染色質塊は有糸分裂細胞から単離される。再プログラムされた細胞を次に、対象細胞型を必要とする哺乳類に投与する。好ましくは、ドナー細胞はレシピエントの哺乳類に由来する。治療および予防の対象となる疾患、障害、または状態の例には、神経、内分泌、構造、骨格、血管、尿、消化器、外皮、血液、免疫、自己免疫、炎症、内分泌、腎臓、膀胱、心血管、癌、循環器、消化器、造血系、および筋肉の疾患、障害、ならびに状態などが含まれる。また再プログラムされた細胞は、組織または器官の修復または交換などの再建的応用に使用することができる。
【0015】
さらに別の関連する局面では、本発明は、浸透化細胞を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)と、浸透化細胞の核もしくは染色質塊からの因子の除去、または核もしくは染色質塊への因子の付加を可能とする条件下でインキュベートする段階を含む、哺乳類(例えばヒト)の疾患、障害、または状態の別の治療法または予防法を提供する。このような段階で作製された再プログラムされた細胞を、細胞型を必要とする哺乳類に投与する。一つの好ましい態様では、浸透化細胞を間期用再プログラム用培地とインキュベートする。好ましくは、間期用再プログラム用培地とのインキュベーション中に、浸透化細胞の核は膜に結合した状態で留まり、また核内の染色体は凝縮しない。別の好ましい態様では、染色質塊は、有糸分裂用再プログラム用培地中で浸透化細胞をインキュベートすることで形成される。さらに別の好ましい態様では、再プログラムされた細胞を、再プログラムされた細胞の膜が、哺乳類への投与前に再び閉じられる条件下でインキュベートする。好ましくは浸透化細胞は、対象細胞型を必要とする哺乳類に由来する。別の好ましい態様では、浸透化細胞は、完全な細胞をジギトニンなどの界面活性剤、またはストレプトリシンOなどの細菌毒素とインキュベートすることで形成される。治療または予防の対象となる疾患、障害、または状態の例には、神経、内分泌、構造、骨格、血管、尿、消化器、外皮、血液、免疫、自己免疫、炎症、内分泌、腎臓、膀胱、心血管、癌、循環器、消化器、造血系、および筋肉の疾患、障害、および状態などがある。また再プログラムされた細胞は、組織または器官の修復または交換などの再建的応用に使用することができる。
【0016】
本発明は、内因性活性(例えば内因性酵素活性)、もしくは細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、またはインビトロ試料に含まれる内因性タンパク質の測定法も提供する。このような一つの局面では、この方法は、細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、またはインビトロ試料に由来する被験試料を、また標準試料を固相支持体に接触させる段階を含む。被験試料は、被験試料に天然に存在する対象内因性活性(例えばルシフェラーゼ活性もしくはホスファターゼ活性、例えばアルカリホスファターゼ活性)を有し、また被験試料は既知のタンパク質濃度を有するか、または既知の数の細胞に由来する。標準試料は既知レベルの対象活性(例えばルシフェラーゼ活性もしくはホスファターゼ活性)、または活性を有する既知量の天然タンパク質もしくは組換えタンパク質を有する。被験試料のルシフェラーゼ活性もしくはホスファターゼ活性のレベルを測定し、標準試料のルシフェラーゼ活性もしくはホスファターゼ活性のレベルと比較することにより、細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、もしくはインビトロ試料のルシフェラーゼもしくはホスファターゼ活性のレベルを決定する。一つの好ましい態様では、ルシフェラーゼ活性もしくはホスファターゼ活性は、内因性プロモーターの制御下にある内因性核酸にコードされる天然タンパク質によって発揮される。この方法は、他の任意の対象となる内因性活性の測定に使用される場合もある。別の好ましい態様では、このような活性は、ある細胞型に特異的であるか、または関連細胞型のファミリーに特異的である。さまざまな態様では、対象となる活性は、産物を生成する1種もしくは複数の基質の化学的変化である。好ましくは、基質の1種もしくは産物の1種が検出可能である。検出可能な標識は当技術分野で周知であり、放射性標識(例えば32Pもしくは35Sなどの同位元素)、および非放射性標識(例えば化学発光標識もしくは蛍光標識、例えばフルオレセイン)を含むがこれらに限定されない。
【0017】
関連する局面では、本発明は細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、もしくはインビトロ試料中の内因性タンパク質のレベルの測定法を提供する。この方法には、細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、もしくはインビトロ試料に由来する被験試料を、また標準試料を固相支持体に接触させる段階が含まれる。被験試料は、被験試料に天然に存在する内因性の検出可能な対象タンパク質(例えばルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、もしくはOct4)を有し、また被験試料は既知のタンパク質濃度を有するか、または既知の数の細胞に由来する。標準試料は、既知量の対象タンパク質、例えば天然もしくは組換え型のルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、もしくはOct4タンパク質を含む。被験試料中のルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、もしくはOct4タンパク質に由来するシグナルを測定し、標準試料中の対応タンパク質に由来するシグナルと比較することで、細胞、核、染色質塊、細胞溶解物、もしくはインビトロ試料中のルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、もしくはOct4タンパク質の量を決定する。この方法は、他の任意の内因性対象タンパク質のレベルの測定に使用される場合もある。一つの好ましい態様では、対象タンパク質は、内因性プロモーターの制御下にある内因性核酸にコードされる。好ましい態様では、対象タンパク質はある細胞型に特異的であるか、または関連細胞型ファミリーに特異的である。さまざまな態様では、対象タンパク質は検出可能な標識を有するか、または検出可能な標識を有する別の分子(例えば抗体)に結合する。例示的な検出可能な標識には、放射性標識(例えば32Pや35Sなどの同位元素)、および非放射性標識(例えば化学発光標識もしくは蛍光標識、例えばフルオレセイン)などがある。
【0018】
対象となる活性もしくはタンパク質のレベルを測定する上記の方法の好ましい態様では、固相支持体に、それぞれ異なるレベルの活性または異なる量の対象タンパク質の多数の標準試料を接触させる。この態様では、標準曲線が標準試料から作成されて、被験試料に含まれる対象タンパク質の活性レベルまたは量の決定に用いられる場合がある。さまざまな態様では、細胞は、胚幹細胞または脳、血液、骨髄、膵臓、肝臓、皮膚、または他の任意の器官もしくは組織に由来する成体幹細胞などの幹細胞である。他の態様では、幹細胞に由来する抽出物に細胞を曝露する。さらに他の態様では、被験試料は、核または細胞質の細胞抽出物に由来する。有用な固相支持体には、試料と接触可能な任意の剛性表面または半剛性表面がある。支持体は、膜、フィルター、チップ、スライド、ファイバー、ビーズ、ゲル、チューブ、ストライプ、プレート、ロッド、重合体、粒子、微粒子、キャピラリ、およびプラスチック表面を含むがこれらに限定されない、任意の多孔性または非多孔性の水に不溶性の材料の場合がある。望ましいならば、支持体は、試料が接触するウェル、トレンチ、ピン、チャネル、および孔などのさまざまな表面形状をとりうる。
【0019】
本発明のさまざまな局面の好ましい態様では、ドナーもしくは浸透化細胞で発現されない少なくとも1種、5種、10種、15種、20種、25種、50種、75種、100種、150種、200種、300種、またはこれ以上のmRNA分子またはタンパク質分子を、再プログラムされた細胞中で発現させる。別の好ましい態様では、再プログラムされた細胞で発現されるが、ドナー細胞もしくは浸透化細胞で発現されないmRNA分子またはタンパク質分子の数は、1種以上5種以下、5種以上10種以下、10種以上25種以下、25種以上50種以下、50種以上75種以下、75種以上100種以下、100種以上150種以下、150種以上200種以下、または200種以上300種以下である。好ましくは、再プログラムされた細胞では発現されない少なくとも1種、5種、10種、15種、20種、25種、50種、75種、100種、150種、200種、300種、またはこれ以上のmRNA分子またはタンパク質分子を、ドナー細胞もしくは浸透化細胞で発現させる。さらに別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞中で発現されるが、再プログラムされた細胞では発現されないmRNA分子またはタンパク質分子の数は、1種以上5種以下、5種以上10種以下、10種以上25種以下、25種以上50種以下、50種以上75種以下、75種以上100種以下、100種以上150種以下、150種以上200種以下、または200種以上300種以下である。好ましくは、mRNA分子またはタンパク質分子は、分子が特定の細胞型の細胞でのみ発現されるように、ドナー細胞、浸透化細胞、または再プログラムされた細胞の細胞型に特異的である。さらに別の好ましい態様では、このようなmRNA分子またはタンパク質分子は、ドナー細胞(すなわちドナー細胞もしくは浸透化された出発細胞)と、再プログラムされた細胞の両方で発現されるが、これらの細胞内における発現レベルは、標準的なアッセイ法で測定時に少なくとも2倍、5倍、10倍、または20倍異なる(例えばAusubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York、2000を参照)。他の態様では、インテグリンなどの1種または複数の細胞骨格タンパク質の発現は、ドナーの線維芽細胞と比べて少なくとも少なくとも2倍、5倍、10倍、もしくは20倍低い。さらに他の態様では、再プログラムされた細胞は、ニューロフィラメントタンパク質、T細胞受容体タンパク質、IL-2、IL-2受容体、インスリン、もしくはOct4を、ドナー細胞もしくは浸透化細胞中における対応するレベルより少なくとも2倍、5倍、10倍、もしくは20倍大きなレベルで発現する。
【0020】
他の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞の大きさは、再プログラムされた細胞と、標準的な方法で測定時に少なくとも10%、20%、30%、50%、75%、もしくは100%異なる。別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞の細胞質容積は、標準的な方法によれば、再プログラムされた細胞と少なくとも10%、20%、30%、50%、75%、もしくは100%異なる。さらに別の好ましい態様では、再プログラムされた細胞は、特定のホルモン、細胞外マトリックス成分、または抗体の分泌などの活性を、ドナー細胞もしくは浸透化細胞に対して、獲得したり失ったりする。別の態様では、再プログラムされた細胞は、IL-2などのインターロイキンの産生能力および分泌能力を獲得し、ニューロフィラメント、神経突起、もしくは軸索の形成能力を獲得し、または胚様体の形成能力を獲得する。別の態様では、細胞は、T細胞受容体もしくはIL-2受容体を発現する能力、またはインスリンを産生する能力を獲得する。好ましくは、IL-2受容体のβ鎖は構成的に発現され、またα鎖は、(例えば抗CD3抗体による刺激により、または抗原の提示により)活性化させることによって発現される。他の態様では、幹細胞もしくは線維芽細胞などの再プログラムされた細胞は、収縮性筋細胞もしくは拍動性心臓細胞のような収縮能力を獲得する。
【0021】
さらに他の好ましい態様では、再プログラム用培地は、細胞周期のG0期、G1期、S期、もしくはG2期の一つまたは複数の相に同期させた細胞から形成される抽出物などの、間期用再プログラム用培地である。別の好ましい態様では、再プログラム用培地は、有糸分裂中に同期させた細胞に由来する細胞、または非同期細胞から形成される抽出物である。好ましくは、再プログラム用培地は、ドナー細胞もしくは浸透化細胞になることが望まれる細胞型に由来する抽出物であり、または再プログラム用培地は、ドナー細胞もしくは浸透化細胞になることが望まれる細胞型に特異的な因子群を含む溶液である。細胞を、再プログラムして幹細胞にするために使用可能な細胞の例には、胚幹細胞、および脳、血液、骨髄、膵臓、肝臓、皮膚、または他の任意の器官もしくは組織に由来する成体幹細胞などがある。好ましくは、ドナー細胞もしくは浸透化細胞は、間期もしくは有糸分裂期の体細胞である。別の好ましい態様では、再プログラム用培地は、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、転写因子、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、もしくはサイトカインなどの因子の強化または枯渇によって修飾される。再プログラム用培地は、外因性ヌクレオチドを含む場合もあれば含まない場合もある。他の好ましい態様では、再プログラム用培地に含まれる染色質塊、または浸透化細胞中で形成される染色質塊に、対象遺伝子をコードする核酸を有するベクターを、ベクター内の核酸と、染色質塊のゲノム中の対応核酸との間における相同組換えが起きることを可能とする条件下で接触させることで染色質塊のゲノムを変化させる。完全な形質膜がないため、また核膜がないため、浸透化細胞に含まれる染色質塊は天然の細胞とは異なり、容易に遺伝的に修飾することができる。好ましくは染色質塊もしくは核は、レシピエントの細胞もしくは細胞質体への導入に先立って再プログラム用培地から精製するか、または再プログラムされた細胞を、哺乳類への投与前に精製する。好ましくはドナーもしくは浸透化細胞は一倍体(DNA量がn)、二倍体(2n)、もしくは四倍体(4n)であり、またレシピエント細胞は低二倍体(DNA量が2n未満)、半数体、または除核状態である。
【0022】
好ましいドナー細胞、浸透化細胞、レシピエント細胞、再プログラムされた細胞、および細胞質体供給源には、上皮細胞、神経細胞、表皮細胞、角質細胞、造血細胞、メラニン形成細胞、軟骨細胞、B細胞、T細胞、赤血球、マクロファージ、単球、線維芽細胞、および筋細胞などの分化細胞;および胚幹細胞もしくは成体幹細胞などの未分化細胞などが含まれる。別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞は分化細胞であり、また再プログラムされた細胞は別の細胞型の分化細胞である。さらに別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞は未分化細胞であり、また再プログラムされた細胞は分化細胞である。さらに別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞は分化細胞であり、また再プログラムされた細胞は未分化細胞である。望ましいならば、特定の成長因子、ホルモン、インターロイキン、サイトカイン、もしくは他の細胞への曝露などの標準的な方法で、未分化の再プログラムされた細胞を誘導して、所望の細胞型にインビトロで分化させることができる。別の好ましい態様では、未分化の再プログラムされた細胞は、哺乳類への投与後に所望の細胞型にインビボで分化する。さらに別の好ましい態様では、ドナー細胞もしくは浸透化細胞はB細胞、ジャーカット細胞、内皮細胞、上皮細胞、もしくは線維芽細胞であり、また再プログラムされた細胞はT細胞である。核もしくは染色質塊が、所望の細胞型、またはドナー細胞もしくは浸透化細胞と同じ細胞型のレシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入される場合があることも対象となる。さらに別の好ましい態様では、ドナー細胞、浸透化細胞、レシピエント細胞、もしくはレシピエント細胞質体は、ヒトもしくは非ヒト哺乳類に由来する。さらに別の好ましい態様では、ドナーの核もしくは染色質塊は、トランスジェニックの細胞もしくは哺乳類に由来するか、またはドナー細胞には存在しない変異、もしくは天然の細胞には存在しない変異を含む。ドナー細胞もしくは浸透化細胞は、不死化されていない状態の場合があるほか、天然の状態で自然に、もしくは遺伝的に不死化される場合がある。ドナー細胞、浸透化細胞、レシピエントの細胞または細胞質体は、胚、胎児、若齢成体、または成体哺乳類などの任意齢の供給源に由来する場合がある。若齢供給源の細胞は、自発的な変異を獲得することがほとんどない場合があり、またインビトロで、または移植後にインビボで長寿命を示す場合がある。
【0023】
好ましくは、ドナーの核もしくは染色質塊に含まれる遺伝子の調節領域、プロモーター、未翻訳領域、もしくはコード領域における疾患の原因となる変異を修飾して、変異配列を疾患に関連しない配列と交換する。あるいは、疾患関連変異を含まない遺伝子の配列に動作可能に連結されたプロモーターを含むドナーの核もしくは染色質塊に核酸を導入する。好ましくは、このような遺伝子の配列は、疾患に関連した多型または変異を含まない天然遺伝子と実質的に同一である。以上の方法で救済される可能性のある変異の例には、嚢胞性線維症遺伝子の変異;ダニガン(Dunnigan)病に関連する変異(ラミンA遺伝子のR482W変異、R482Q変異、およびR584H変異);ならびに常染色体優性型のエメリー・ドレイフアス(Emery-Dreifuss)型筋ジストロフィー症に関連する変異(ラミンA遺伝子のR249Q変異、R453W変異、およびQ6STOP変異など)などがある。Q6STOP変異の場合、Gln6のコドンが変異によって終止コドンに変化する。
【0024】
好ましいトランスジェニックのドナーの核、染色体、または染色質塊は、再プログラムされた細胞を治療的応用のために投与する哺乳類に存在するMHCクラスIタンパク質の配列と実質的に同一なアミノ酸配列を有する異種MHCクラスIタンパク質をコードする。あるいは、ドナーの核もしくは染色質塊は、レシピエントの哺乳類と同じ属もしくは種の別の哺乳類に存在するMHCクラス1タンパク質の配列と実質的に同一なアミノ酸配列を有する異種MHCクラス1タンパク質をコードする場合がある。このようなMHCタンパク質を発現する再プログラムされた細胞は、哺乳類に投与された場合に有害な免疫応答を誘導する可能性が低い。他の好ましいドナーの核もしくは染色質塊は、ヒト補体インヒビターCD59、もしくはヒト補体調節因子崩壊加速因子(h-DAF)などの、レシピエント哺乳類の補体経路を抑制する異種タンパク質を発現するように修飾される(例えばRamirezら、Transplantation 15:989〜998、2000;Costaら、Xenotransplantation 6:6〜16、1999を参照)。さらに別の好ましい態様では、ドナーの核もしくは染色質塊は、アルファ(1,3)-ガラクトシルトランスフェラーゼなどのガラクトシルトランスフェラーゼの発現もしくは活性を低下させたり消失させたりする変異を有する(Tearleら、Transplantation 61:13〜19、1996;Sandrin、Immunol.Rev. 141:169〜190、1994;Costaら、Xenotransplantation 6:6〜16、1999)。この酵素は、ガラクトースアルファ(1,3)-ガラクトースエピトープを発現する細胞がヒトに投与された場合に、有害な免疫応答を誘導する糖質で細胞表面分子を修飾する。したがって、このエピトープの発現が低レベルの再プログラムされた細胞は、レシピエント哺乳類による拒絶率が低い。
【0025】
本発明の治療法に関しては、再プログラムされた細胞の哺乳類への投与が、特定の投与様式、用量、または投与頻度に制限されることは意図されず;本発明は、疾患の予防もしくは治療に適した用量を十分提供する筋肉内、静脈内、関節内、病巣内、皮下、または他の任意の経路を含む、あらゆる投与様式を対象とする。好ましくは、このような細胞は、ドナーもしくは浸透化細胞を得る哺乳類に投与される。あるいは、ドナー細胞もしくは浸透化細胞は、レシピエント哺乳類と同じ、もしくは異なる属もしくは種の異なるドナー哺乳類から得られる場合がある。好ましいドナー哺乳類の例には、ヒト、雌ウシ、ヒツジ、オオツノヒツジ、ヤギ、バッファロー、アンテロープ、雄ウシ、ウマ、ロバ、ラバ、シカ、オオジカ、カリブー、スイギュウ、ラクダ、リャマ、アルパカ、ウサギ、ブタ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ、およびサルなどの霊長類などが含まれる。細胞は哺乳類に1回もしくは複数回投与することができる。複数回の投与が行われる場合は、用量は例えば1週間、1か月、1年、または10年に相互に分割することができる。1種または複数の成長因子、ホルモン、インターロイキン、サイトカイン、もしくは他の細胞も、細胞の投与前、投与中、もしくは投与後に投与して、特定の細胞型に対してさらにバイアスをかけることができる。またシクロスポリンなどの1種または複数の免疫抑制剤を投与して、移植細胞の拒絶を抑えることができる。任意の特定の被験者について、特定の投与法が、組成物投与の実施もしくは管理を行う者によって、個々のニーズおよび専門的判断にしたがって時間的に調節されることは言うまでもない。
【0026】
本明細書で用いられる「染色質塊」は、膜に囲まれていない1種より多い染色体を意味する。好ましくは本発明の染色質塊は、細胞のすべての染色体を含む。凝縮した染色体を含む染色質塊は、有糸分裂用再プログラム用培地(例えば有糸分裂抽出物)に核を曝露することで形成される場合があり、または染色質塊は、本明細書に記載される手順で有糸分裂細胞から単離することができる。あるいは脱凝縮した染色体、または部分的に凝縮した染色体を含む染色質塊は、本明細書に記載された以下の一つに核を曝露することで作ることができる:抗NuMA抗体、界面活性剤および塩溶液の存在下における有糸分裂用再プログラム用培地(例えば有糸分裂抽出物)、またはプロテインキナーゼ溶液。
【0027】
染色質塊は天然に誘導できるほか、人工的に誘導することもできる。例示的な天然染色質塊には、膜に囲まれておらず、また有糸分裂細胞中に存在したり、または有糸分裂細胞から単離される、部分的もしくは最大限に凝縮した染色体である一連の中期染色体などがある。好ましくは、中期の染色体は、相互に物理的に接していない離散型の染色体である。例示的な人工的に誘導された染色質塊は、染色体の凝縮を促進する因子群を含む溶液、有糸分裂抽出物、界面活性剤および塩溶液、またはプロテインキナーゼ溶液などの再プログラム用培地に曝露することで形成される。人工的に誘導された染色質塊は、相互に物理的に接していない離散型の染色体を含む場合があるほか、物理的に接触した2種もしくはこれ以上の染色体を含む場合がある。
【0028】
望ましいならば、染色体の凝縮のレベルは、DNA染色剤DAPIによる染色強度を測定する標準的な方法で決定することができる。染色体が凝縮すると染色強度は上昇する。したがって染色体の染色強度は、間期の脱凝縮状態の染色体の染色強度(凝縮率0%と表記)と、有糸分裂時に最大限に凝縮した染色体(凝縮率100%と表記)と比較することができる。このような比較に基づき、最大凝縮のパーセントを決定することができる。好ましい凝縮状態の染色質塊は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、もしくは100%凝縮している。好ましい脱凝縮した染色質塊、または部分的に凝縮した染色質塊は、凝縮率が50%、40%、30%、20%、もしくは10%未満である。
【0029】
「核」は、細胞のDNAの大部分もしくはすべてを含む膜に結合した状態のオルガネラを意味する。このDNAは、脱凝縮状態の染色体中に密にまとまっている。好ましくはDNAを包む膜は、1枚または2枚の脂質二重層を含むほか、ヌクレオポリンを含む。
【0030】
「ドナー細胞」は、核もしくは染色質塊を抽出する対象の細胞を意味する。
【0031】
「細胞質体」は、膜に包まれた細胞質を意味する。好ましくは細胞質体は、核、染色質塊、または染色体を含まない。細胞質体は、標準的な手順で形成することができる。例えば細胞質体は、有核細胞または除核細胞から抽出することができる。あるいは細胞質体は、細胞質の供給源として、または膜の供給源として使用される完全な細胞を必要としない方法で作製することができる。このような方法の一つでは、細胞質体は、膜による細胞質の封入を可能とする条件下で、細胞質の存在下で膜を形成することで作られる。
【0032】
「浸透化」は、形質膜中における孔の形成、または形質膜の部分的もしくは完全な除去を意味する。
【0033】
「再プログラム用培地」は、核、染色質塊、もしくは染色体からの因子の除去を可能とする溶液、または溶液から核、染色質塊、もしくは染色体に因子を付加することが可能な溶液を意味する。好ましくは、因子の付加もしくは除去は、ドナー細胞、染色質塊、もしくは核における、または再プログラムされた染色質塊、もしくは核を含む細胞におけるmRNAもしくはタンパク質の発現レベルを上昇させたり低下させたりする。別の態様では、浸透化細胞、染色質塊、または核を再プログラム用培地中でインキュベートすることで、浸透化細胞、または再プログラムされた染色質塊もしくは核を含む細胞の表現型が、ドナー細胞の表現型に対して変化する。さらに別の態様では、浸透化細胞、染色質塊、もしくは核を再プログラム用培地中でインキュベートすることで、浸透化細胞、または再プログラム染色質塊もしくは核を含む細胞が、ドナー細胞に対する活性を獲得したり失ったりする。
【0034】
例示的な再プログラム用培地には、タンパク質や核酸などの生体分子を含まない緩衝液などの溶液がある。このような溶液は、核、染色質塊、もしくは染色体からの1種もしくは複数の因子の除去に有用である。他の好ましい再プログラム用培地は、細胞核、細胞質、またはこれらの組み合わせに由来する細胞抽出物などの抽出物である。さらに他の再プログラム用培地は、1種または複数の天然もしくは組換え型の因子(例えば核酸、またはDNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、転写因子、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、もしくはサイトカインなどのタンパク質)が添加された溶液もしくは抽出物、または1種もしくは複数の因子が除去された抽出物である。さらに他の再プログラム用培地は、界面活性剤および塩溶液、ならびにプロテインキナーゼ溶液を含む。いくつかの態様では、再プログラム用培地は抗NuMA抗体を含む。「間期用再プログラム用培地」は、染色質の脱凝縮および核エンベロープの形成を誘導する培地(例えば間期細胞抽出物)を意味する。「有糸分裂用再プログラム用培地」は、染色質の凝縮および核エンベロープの崩壊を誘導する培地(例えば有糸分裂細胞抽出物)を意味する。望ましいならば、複数の再プログラム用培地を同時に、または連続的に使用して、ドナーの細胞、核、もしくは染色質塊を再プログラムすることができる。
【0035】
「因子の付加」とは、染色質、染色体、または核エンベロープ成分(核膜もしくは核マトリックスなど)に対する因子の結合を意味する。あるいは、因子は核内に輸送されて、核エンベロープに結合したり包まれたりする。好ましくは、染色体に結合する因子、または核内に位置する因子の数は、少なくとも25%、50%、75%、100%、200%、もしくは500%増加する。
【0036】
「因子の除去」とは、染色質、染色体、もしくは核エンベロープ成分(核膜もしくは核マトリックスなど)から因子を解離させることを意味する。あるいは因子は核外に輸送され、核エンベロープに結合しなくなったり包まれなくなったりする。好ましくは、染色体に結合する因子、または核内に位置する因子の数は、少なくとも25%、50%、75%、100%、200%、もしくは500%減少する。
【0037】
「因子の強化または枯渇」とは、天然の因子もしくは組換え型因子の、再プログラム用培地中に当初存在する因子の量の少なくとも20%、40%、60%、80%、もしくは100%の付加または除去を意味する。あるいは、再プログラム用培地中に天然に存在しない天然の因子もしくは組換え型因子が添加される場合がある。好ましい因子には、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、転写因子、活性化因子、抑制因子、成長因子、サイトカイン、およびホルモンなどのタンパク質;膜小胞;および細胞小器官などが含まれる。一つの好ましい態様では因子は、後述するように、再プログラム用培地に添加する前に精製される。あるいは後述する精製法の一つは、望ましくない因子を再プログラム用培地から除去する際に実施することができる。
【0038】
「精製された」とは、天然の状態ではともに存在する他の成分から分離された状態を意味する。典型的には因子は、少なくとも重量比で50%が、天然の状態では結合した状態にあるタンパク質、抗体、および天然有機分子を含まない場合に実質的に精製された状態にある。好ましくは、因子は重量比で少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、また最も好ましくは少なくとも99%純粋である。実質的に純粋な因子は、化学合成、天然供給源からの因子の分離、または天然の状態では因子を産生しない組換え宿主細胞中における因子の産生によって得られる場合がある。タンパク質、小胞、染色体、核、および他の細胞小器官を、当業者であればAusubelら(「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York、2000)に記載されているような標準的な方法で精製することができる。因子は好ましくは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、カラムクロマトグラフィー、光学密度、HPLC解析、もしくはウエスタン解析(Ausubelら、前出)で測定時に、出発材料に対して少なくとも2倍、5倍、または10倍純粋である。好ましい精製法には、免疫沈殿法、イムノアフィニティクロマトグラフィー、磁気ビーズイムノアフィニティ精製などのカラムクロマトグラフィー、およびプレートに結合させた抗体を使用するパニング法などがある。
【0039】
「ある細胞型に特異的なmRNAまたはタンパク質」とは、1種の細胞型で、他のあらゆる細胞型における発現レベルより少なくとも10倍、20倍、50倍、75倍、もしくは100倍大きいレベルで発現されるmRNAまたはタンパク質を意味する。好ましくは、mRNAまたはタンパク質は1種の細胞型でのみ発現される。
【0040】
「変異」とは、挿入、欠失、フレームシフト変異、サイレント変異、ナンセンス変異、もしくはミスセンス変異などの、天然の核酸配列または標準核酸配列の変化を意味する。好ましくは、核酸配列にコードされたアミノ酸配列は、天然配列と少なくとも1か所が異なるのアミノ酸変化を有する。細胞、胚、胎児、もしくは哺乳類のゲノム配列を変化させる組換えDNA手法の例には、別の生物(例えばヒト)のDNA配列のゲノムへの挿入、1か所または複数のDNA配列の欠失、および1か所もしくは複数の塩基変異(例えば部位特異的変異またはランダム変異)の標的DNA配列への導入などがある。このような修飾を作る方法の例には、レトロウイルスを用いた挿入、人工染色体法、遺伝子挿入、組織特異的プロモーターのランダム挿入、相同組換え、遺伝子ターゲティング、転移因子、および外来DNAを導入する他の任意の方法などがある。以上の手法はいずれも分子生物学分野の当業者に周知である(例えばAusubelらの前出文献を参照)。修飾されたDNAを含むトランスジェニックの細胞、組織、器官、もしくは哺乳類に由来する染色質塊、染色体、および核は、本発明の方法に使用することができる。
【0041】
「実質的に同一である」とは、別の配列、もしくは天然配列と少なくとも60%、70%、80%、90%、もしくは100%同一な配列を有することを意味する。配列同一性は通常、配列解析ソフトウェアを用いて、ソフトウェアで指定されたデフォルトのパラメータを用いて測定される(例えば、Genetics Computer Group、University of Wisconsin Biotechnology Center、1710 University Avenue、Madison、WI 53705の「Sequence Analysis Software Package」)。このソフトウェアプログラムは、相同性の程度を、さまざまな置換、欠失、および他の修飾に割り当てることで類似の配列をマッチさせる。
【0042】
「不死化された」とは、不死化細胞と同じ細胞型、属、および種の天然の対照細胞より、または不死化細胞が由来するドナー細胞より少なくとも25%、50%、75%、90%、もしくは95%多く細胞分裂が進む能力を意味する。好ましくは、不死化細胞は、対照細胞より、少なくとも2倍、5倍、10倍、もしくは20倍多い細胞分裂が起きることがありうる。より好ましくは、不死化細胞は無限に細胞分裂することができる。不死化細胞の例には、正常な成長調節過程を変化させる変異をインビボもしくはインビトロで天然に獲得する細胞などがある。他の好ましい不死化細胞には、ミエローマとB細胞を融合させる標準的な方法で作製されるハイブリドーマ細胞などがある(Mocikat、J.Immunol.Methods 225:185〜189、1999;Jonakら、Hum.Antibodies Hybridomas 3:177〜185、1992;Srikumaranら、Science 220:522、1983)。さらに他の好ましい不死化細胞には、ras、myc、abl、bcl2、もしくはneuなどの癌遺伝子を発現するように遺伝的に修飾された細胞、またはエプスタイン・バーウイルスやSV40ウイルスなどの形質転換能をもつDNAウイルスもしくは受容体ウイルスを感染させた細胞がある(Kumarら、Immunol.Lett. 65:153〜159、1999;Knightら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA 85:3130〜3134、1988;Shammahら、J.Immunol. Methods 160-19-25、1993;GustafssonおよびHinkula、Hum.Antibodies Hybridomas 5:98〜104、1994;Kataokaら、Differentiation 62:201〜211、1997;Chatelutら、Scand.J.Immunol. 48:659〜666、1998)。細胞は、テロメラーゼ遺伝子を発現するように遺伝的に修飾することもできる(Roquesら、Cancer Res. 61:8405〜8507、2001)。
【0043】
「不死化されていない」とは、上述したように不死化されていない状態を意味する。
【0044】
本発明は、細胞の運命の変化に関連したいくつかの利点を提供する。例えば、このような方法は一般に、任意の所望の細胞型の細胞を作製する際に応用することができる。このような方法には、核、染色質塊、または浸透化細胞を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)中でインキュベートして、再プログラムを可能とする段階が含まれるので、再プログラム効率は、再プログラムを促す因子群を再プログラム用培地に付加することによって、または再プログラムを抑える因子群を除去することによって上昇させることができる。再プログラムされた細胞は、特定の細胞型の損傷もしくは欠損が関与する状態の治療または予防を目的として哺乳類に移植することができる。望ましいならば、再プログラムされた細胞は、標準的な分子生物学的手法で操作することで、細胞をレシピエント哺乳類に投与する前に、疾患の原因となる変異を修正することができる。
【0045】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかになる。
【0046】
アプリケーションファイルには、カラー出力された図表が含まれる(図13、14A、14B、14C、15、および17A)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
詳細な説明
発明者らは、細胞または細胞の遺伝的材料を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)に曝露する、新しい再プログラム法を開発した。ここで言う再プログラム処理とは、ドナー細胞に特異的な遺伝子群の発現を低下させたり除去したりすること、または他の細胞型に特異的な遺伝子群の発現を上昇させることを意味する。例えば発明者らは、刺激T細胞抽出物中で休止期T細胞、B細胞、または線維芽細胞の核をインキュベートすると、T細胞特異的転写因子が抽出物から核内へ移行することを既に報告している。また休止期T細胞、線維芽細胞、内皮細胞(HUVEC)、分化上皮細胞(HeLa)、およびニューロン前駆細胞(NT2)の核の再プログラムにより、核で通常抑制されているIL-2遺伝子の発現が誘導された。休止期T細胞および線維芽細胞の核が再プログラムされると、IL-2遺伝子の過剰なアセチル化、および染色質リモデリング複合体の核内結合も誘導された。したがって抽出物などの再プログラム用培地を使用することで、再プログラム用培地の調製に使用される細胞の発現プロファイルに似せるように、ドナー細胞の遺伝的材料の発現プロファイルを変化させることができる。
【0048】
本明細書に記載されている、細胞を再プログラムする方法により、細胞を、起源または特徴が密接に関連した別の細胞型に変換することができる。例えば結合組織ファミリーの細胞(線維芽細胞、平滑筋細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞など)は、このような方法で相互変換することができる。また肝実質細胞は、インスリン産生B細胞に変換することができる。これは、これら両細胞型が多くの同じ遺伝子群を発現するためである。あるいは、細胞をドナー細胞と遠縁の所望の細胞型に変換すると、ドナー細胞と特徴もしくは機能をほとんど共有しないか全く共有しない場合がある。
【0049】
このような再プログラム法の一つでは、間期のドナー細胞の核を、間期細胞から調製した再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)中で、転写調節因子などの因子の核からの輸送、および再プログラム用培地から核への因子の輸送を可能とする条件下でインキュベートする。次に核を、レシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入することで、再プログラムされた細胞が形成する。好ましくは、間期用再プログラム用培地の調製に使用される細胞は、再プログラムされる細胞になることが望まれる細胞型である。ドナー細胞と比較して、再プログラムされた細胞の核にはさまざまな因子が存在するので、再プログラムされた細胞は、異なる一連のmRNA分子およびタンパク質分子を発現し、このためドナー細胞とは異なる表現型を示す。最適な再プログラム効率を達成するためには、2回、3回、5回、またはこれ以上の再プログラム処理を行うとよい。再プログラムされた細胞は、細胞機能の持続的な変化を促す条件下で培養することもできる。例えば、このような細胞は、抗原、インターロイキン、成長因子、サイトカイン、または他の細胞などの別の成分を追加して培養することができる。再プログラムされた細胞は、細胞が機能すると考えられる、宿主動物または患者の臓器内に移植することもできる。局所的な環境的刺激は、再プログラムを促進する場合がある。
【0050】
関連する方法では、ドナー間期細胞の核を、有糸分裂用再プログラム用培地(例えば有糸分裂細胞抽出物)、界面活性剤および塩溶液、またはプロテインキナーゼ溶液中でインキュベートして、核エンベロープの解離、またおそらくは染色質の凝縮を促して染色質塊を形成させる。核エンベロープの崩壊および染色質の凝縮は、染色質塊からの因子群の放出を促す。あるいは染色質塊は、ドナーの有糸分裂細胞から単離することができる。このような方法の一つの態様では、染色質塊を、所望の細胞型のレシピエントの細胞または細胞質体に導入する。核輸送後に、ドナーの染色質塊から核が再形成される。また、レシピエントの細胞もしくは細胞質体の細胞質に由来する所望の因子群は核内へ移行して外因性染色体に結合し、再プログラムされた細胞による所望の遺伝子群の発現が誘導される。所望の遺伝子群の持続的な発現を促進させるために、2回、3回、5回、もしくはこれを上回る再プログラム過程を行い、再プログラムされた細胞を、抗原、インターロイキン、成長因子、サイトカイン、もしくは他の細胞などの成分をさらに追加して培養することができる。
【0051】
この方法の別の態様では、最初に染色質塊を間期用再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)中で、上述の手順でインキュベートして、望ましくない因子群の染色質塊からの放出、および所望の因子群の、間期用再プログラム用培地から染色質塊への結合をさらに促す。間期用再プログラム用培地中でインキュベートすることで、核膜形成も誘導され、染色質塊および再プログラム用培地に由来する所望の因子群が封入される。再形成された核を次に、所望の細胞型の、もしくは他の任意の細胞型のレシピエントの細胞、または細胞質体に導入する。
【0052】
再プログラム用培地中で後にインキュベートするための、核または染色質塊をドナー細胞から単離する別の方法では、ドナー細胞を穏やかに浸透化処理し、再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)中でインキュベートすることができる。形質膜を浸透化処理することで、因子群が細胞内外を移動可能となる。このような細胞は、間期用再プログラム用培地中でインキュベートして、核を膜に結合した状態で留めるか、または有糸分裂用再プログラム用培地中でインキュベートすることで核膜を解離させて、染色質塊を形成させることができる。再プログラム用培地中でインキュベートすることで、形質膜が再び閉じられ、再プログラム用培地に由来する所望の因子が細胞内に捕捉される場合がある。望ましいならば、この再プログラム法は1回、2回、3回、4回、5回、またはこれ以上の回数を繰返すことができる。例えば再び閉じられた細胞を、再プログラムを促す抗原、インターロイキン、成長因子、サイトカイン、もしくは他の細胞などの因子の存在下または非存在下で一定期間(例えば2日、7日、14日、3週、4週、8週、またはこれ以上)培養すると、細胞が浸透性をもち、さらに再プログラムの程度が進む。再プログラムのサイクルを追加することで、より安定で遺伝性の後成的な変化、および再プログラムされた細胞に由来する表現型または対象タンパク質の長期発現が生じる場合がある。
【0053】
このような全細胞を対象とした再プログラム法で、リンパ芽球性白血病細胞系列であるジャーカットTAg(本明細書ではジャーカットと表記)の抽出物を用いて、浸透化されたヒト線維芽細胞を再プログラムして、染色質のリモデリング、リンパ球特異的遺伝子群の活性化、およびT細胞特異的活性の確立を誘導した。例えばCD3-T細胞受容体(TCR)複合体などのT細胞特異的抗原が、再プログラムされた細胞で発現され、これらの細胞をCD3-TCRで刺激することでIL-2受容体が形成された。NT2ニューロン前駆細胞抽出物に曝露後、浸透化された線維芽細胞は、培養物中でニューロフィラメントタンパク質を発現し、神経突起様伸長が延長した。線維芽細胞も、胚幹細胞に似た細胞に再プログラムされた。
【0054】
このような方法で作られた再プログラムされた細胞を用いて、特定の細胞型を必要とする哺乳類における細胞を交換することができる。この再プログラム法により、所望の細胞型の細胞を直接作ることができるほか、後に所望の細胞型に分化する可能性のある未分化細胞を作ることができる。例えば幹細胞は、適切な条件で培養することでインビトロで分化させることができるほか、哺乳類の適切な領域に投与後にインビボで分化させることができる。表現型および機能の変化を最適化するために、再プログラムされた細胞を、動物モデルもしくはヒト患者で、再プログラム直後(例えば1日後、2日後、3日後、5日後、7日後、もしくはそれ以降)に機能させることを意図する臓器(例えば心臓)に移植することができる。臓器に移植された再プログラムされた細胞は、移植前の培養物中において成長させた細胞より大規模に再プログラムされる場合がある。動物の臓器に移植された細胞は、臓器から除去してレシピエント哺乳類(ヒトなど)に移植することができるほか、動物の臓器をレシピエントに移植することができる。
【0055】
細胞、核、または染色質塊が、疾患の治療目的で哺乳類への投与に先立ってインビトロで再プログラムされる時間を延長するためには、ドナー細胞を、Creリコンビナーゼ用のloxP部位が隣接した癌遺伝子を含むプラスミド、および誘導性プロモーターの制御下にあるCreリコンビナーゼをコードする核酸を含むプラスミドを一過的にトランスフェクトすることで任意選択で修飾するとよい(Chengら、Nucleic Acids Res. 28(24):E108、2000)。このようなプラスミドを導入することで細胞の不死化が制御される。細胞が所望の細胞型に再プログラムされ、哺乳類に投与する準備が整ったら、部位特異的な組換え、およびプラスミドからのカセットの欠損を引き起すCreリコンビナーゼを誘導してloxP-癌遺伝子-loxPカセットをプラスミドから除去することができる。癌遺伝子を含むカセットが除去されると、細胞はもはや不死化されなくなり、癌性腫瘍の形成を引き起すことなく哺乳類に投与することができる。
【0056】
このように再プログラムされた細胞の医学的応用の例には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、もしくはALS;または脊髄損傷などの神経疾患の治療、予防、または安定化を目的とした、ヒト神経系の適切な領域へのニューロン細胞の投与が含まれる。特に変性したり損傷を受けたりしたニューロン細胞は、哺乳類の対応する細胞と交換することができる。このような移植法は、インスリン依存性糖尿病、慢性関節リウマチ、尋常性天疱瘡、多発性硬化症、および重症筋無力症を含むがこれらに限定されない自己免疫疾患の治療、予防、または安定化に使用することもできる。このような方法では、レシピエント自身の免疫系によって攻撃される細胞を移植細胞と交換することができる。特にインスリン産生細胞は糖尿病の治療または予防を目的として哺乳類に投与することが可能であり、オリゴデンドログリア前駆細胞は多発性硬化症の治療または予防を目的として移植することが可能である。内分泌疾患の治療または予防には、成長因子、甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン、ステロイド、セロトニン、エピネフリン、またはノルエピネフリンなどのホルモンを産生する再プログラムされた細胞を哺乳類に投与することができる。あるいは、再プログラムされた上皮細胞を投与して、体腔または臓器(肺、腸、外分泌腺、または泌尿生殖器など)の内壁の損傷を修復することができる。再プログラムされた細胞が、膀胱、脳、食道、ファロピウス管、心臓、腸、胆嚢、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、前立腺、脊髄、脾臓、胃、精巣、胸腺、甲状腺、気管、輸尿管、尿道、または子宮などの臓器の細胞の損傷または欠損の治療を目的として哺乳類に投与される場合があることも対象となる。
【0057】
再プログラムされた細胞は、マトリックスと混合して、レシピエント哺乳類の組織もしくは臓器の修復もしくは交換に使用可能な組織もしくは臓器をインビトロもしくはインビボで形成させることもできる。例えば、再プログラムされた細胞は、マトリックスの存在下でインビトロで培養して、膀胱、陰核、陰茎海綿体、腎臓、睾丸、輸尿管、尿管弁、または尿道などの泌尿生殖器系の組織もしくは臓器を作ることができる(これらは後に哺乳類に移植することができる)(Atala、Curr.Opin.Urol. 9(6):517〜526、1999)。別の移植的応用では、再プログラムされた細胞を適切なマトリックスの存在下で培養して合成血管をインビトロで形成させた後に、心血管系または循環器の疾患の治療もしくは予防を目的として、血管を哺乳類に移植する。ドナーの軟骨または骨組織を作る際には、軟骨細胞もしくは骨細胞などの再プログラムされた細胞を、軟骨もしくは骨の形成を可能とする条件下で、マトリックスの存在下でインビトロで培養した後に、ドナー組織を含むマトリックスを哺乳類に投与する。あるいは、細胞とマトリックスの混合物を、所望の組織をインビボで形成するために哺乳類に投与することができる。好ましくは細胞をマトリックス表面に結合させるか、マトリックス内に封入する。ドナーの組織または臓器の形成に使用可能なマトリックスの例には、コラーゲンマトリックス、炭素繊維、ポリビニルアルコールスポンジ、アクリルアミドスポンジ、フィブリン-トロンビンゲル、ヒアルロン酸ベースの重合体、およびポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリグリコール酸、またはこれらの組み合わせを含む合成重合体マトリックス(例えば米国特許第4,846,835号;第4,642,120号;第5,786,217号;および第5,041,138号を参照)などが含まれる。
【0058】
以上の方法について詳述する。後述する任意の方法が、細胞抽出物ではなく再プログラム用培地を用いて実施できる点は重要である。例えば再プログラム用培地は、1種もしくは複数の天然もしくは組換え型の因子(例えば核酸、またはDNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、転写因子、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、もしくはサイトカインなどのタンパク質)を緩衝液などの溶液に添加して作製できる。好ましくは1種もしくは複数の因子は、ドナー細胞になることが望まれる細胞型に特異的である。
【実施例】
【0059】
実施例1:1段階インビトロ再プログラム法
細胞を再プログラムする以下の方法では、核を間期細胞から単離し、間期用再プログラム用培地(例えば間期細胞抽出物)中で、再プログラム用培地に由来する因子の核への付加、または核からの因子の除去を可能とする条件下でインキュベートする。好ましくは核は、インキュベーション中に膜に結合した状態で留まる。再プログラムされた核を、次に再プログラム用培地から単離し、レシピエントの細胞もしくは細胞質体に導入する。
【0060】
核の単離
好ましくは、再プログラムされた細胞が投与される被験者の細胞をドナー核の供給源として使用する。一方で、同じ種の他の細胞、または異なる種もしくは属の細胞を使用することができる。数百万個もの核を、培養中に同期させた細胞集団、または非同期細胞集団から単離することができる。このような細胞集団は、天然の状態で同期させたり化学的に同期させたりすることができる。好ましくは、集団中の少なくとも40%、60%、80%、90%、または100%の細胞を、標準的な手順で、細胞周期(G0、G1、S、またはG2など)の一つもしくは複数の相の間期で停止させる。
【0061】
これを達成するためには、細胞を例えば低濃度血清(例えば5%、2%、または0%)中で、1日、2日、3日、またはこれ以上の期間インキュベートすることで、G0期の細胞のパーセンテージを高めることができる。細胞をG1期に同期させるためには、接着状態の細胞としてコンフルエントに細胞を成長させた後に、0.5〜1 μg/mlのノコダゾール(Sigma Chemicals、St.Louis、MO)中で、上述のように17〜20時間インキュベートすることができる(例えばCollasら、1999、およびそれに含まれる参考文献を参照)。接着状態の細胞を含むフラスコを、その一端を繰返し叩くことで激しく振盪することで、有糸分裂細胞とG1期ダブレットを剥がすことができる。G1期ダブレットは、薄い架橋によって未だ結合状態にある分裂過程の終了時において伸長した細胞の対である。剥がれたG1期ダブレットは、特徴的なダブレット構造に基づいて培地から単離することができる。G1期ダブレットは結合状態で留まる場合があるほか、単離後に2個の異なる細胞に分裂する場合がある。
【0062】
S期の細胞のパーセンテージを高めるためには、DNAポリメラーゼαを阻害することでDNA合成を抑制して細胞をS期で停止させるアフィジコリンの存在下で細胞を培養するとよい。あるいは、過剰なチミジンの存在下で細胞をインキュベートする。結果として他のヌクレオチドに対して細胞内のチミジンが濃度が高くなることによっても、DNAポリメラーゼが阻害される。
【0063】
細胞は、アフィジコリンの存在下で細胞をインキュベートしてS期で停止させた後に、遠心を繰返して細胞を3回洗浄し、本明細書に記載されているようにリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁することでG2に同期させることができる。この細胞を次に、細胞がG2期に進む十分な時間インキュベートする。例えば倍加時間が約24時間の細胞は6〜12時間インキュベートするとG2期に進む。倍加時間がこれより短い、または長い細胞の場合は、インキュベーション時間を相応に調節するとよい。
【0064】
同期細胞または非同期細胞を標準的な手順でPBS中に回収し、数回の洗浄を行い、細胞を元の培地から低浸透圧緩衝液(10 mM Hepes、pH 7.5、2 mM MgCl2、25 mM KCl、1 mM DTT、10 μM アプロチニン、10 μM ロイペプチン、10 μM ペプスタチンA、10 μM ダイズトリプシンインヒビター、および100 μM PMSF)に移す。例えば細胞を50 mlのPBSで洗浄して500×gで4℃で10分間遠心する。PBS上清を捨て、ペレット状の細胞を50 mlのPBSに再懸濁して上述のように遠心する。遠心後、ペレット状の細胞を、20〜50倍容の氷冷低浸透圧緩衝液に再懸濁し、500×gで4℃で10分間遠心する。上清を再び捨て、約20倍容の低浸透圧緩衝液を細胞ペレットに添加する。細胞を緩衝液に慎重に再懸濁し、氷上で少なくとも1時間インキュベートすることで細胞が次第に膨潤する。
【0065】
細胞から核の単離を可能とするために、標準的な手順で細胞を溶解する。例えば2〜5 mlの細胞懸濁物をガラス製ホモジナイザーに移して、サイズの合った内筒を用いて10〜20回の初期ストロークでダウンス(Dounce)装置でホモジナイズすることができる。あるいは細胞懸濁物を、モーター付きのミキサー(例えばUltraturrax)でホモジナイズする。望ましいならば、細胞の溶解は、位相差顕微鏡を用いて40倍の倍率でモニタリングするとよい。ホモジナイズ中、核は完全な状態を維持し、当初結合状態の細胞質成分(小胞、細胞小器官、およびタンパク質など)の大部分もしくは好ましくは全体が核から放出されるはずである。必要であれば、1〜20 μg/mlの細胞骨格インヒビターであるサイトカラシンBもしくはサイトカラシンDを上述の低浸透圧緩衝液に添加して同過程を促進することができる。ホモジナイズは、細胞を溶解して、細胞質成分を核から放出させるまで必要に応じて長期間続ける。一部の細胞型では、100回、150回、もしくはこれ以上のストロークが必要な場合がある。次に溶解物を氷上で15 mlの円錐管に移し、細胞溶解の手順を、膨張細胞の懸濁物の残分を対象に繰返して行う。低浸透圧緩衝液で作製した2 Mのストック溶液からショ糖を細胞溶解物に添加し、最終濃度が250 mMのショ糖を得る。この溶液を反転して混合し、スイング式のローターで400×gで4℃で10〜40分間遠心して核のペレットを得る。上清は捨て、ペレット状の核を10〜20倍容の緩衝液(10 mM Hepes、pH 7.5、2 mM MgCl2、250 mM ショ糖、25 mM KCl、1 mM DTT、10 μM アプロチニン、10 μM ロイペプチン、10 μM ペプスタチンA、10 μM ダイズトリプシンインヒビター、および100 μM PMSF)に再懸濁する。核を沈降させ、1〜2倍容の核用緩衝液に上述のように再懸濁する。単離直後の核は、後述するようにインビトロにおける再プログラムに、またレシピエントの細胞もしくは細胞質体への核輸送に直ちに使用することができるほか、後に使用するために保存することができる。保存する場合は、核を核用緩衝液で希釈して濃度を約106/mlとする。グリセロール(2.4倍容の100%グリセロール)を添加し、穏やかにピペッティングして十分混合する。この懸濁物を1.5 mlのチューブ内に100〜500 μlになるように氷上で小分けし、メタノール-ドライアイス氷浴中で直ちに凍結して-80℃で保存する。使用前に核のアリコートを氷上または室温で解凍する。1倍量の氷冷核用緩衝液を添加し、同溶液をスイング式ローターを用いて1,000×gで15分間遠心する。ペレット状の細胞を100〜500 μlの核用緩衝液に再懸濁して上述のように遠心する。次にペレット状の核を最小量の核用緩衝液中に再懸濁し、使用するまで氷上で保存する。
【0066】
再プログラム処理用抽出物の調製
間期培養細胞を標準的な方法で回収し、10 mlの円錐管中で500×gで4℃で10分間遠心して洗浄する。この細胞は好ましくは、レシピエントの細胞または細胞質体になることが望まれる所望の細胞型である。上清を捨て、細胞のペレットを総容積50 mlの冷PBSに再懸濁する。細胞を500×gで4℃で10分間遠心する。この洗浄段階を繰返し、細胞ペレットを約20倍容の氷冷間期用細胞溶解用緩衝液(20 mM Hepes、pH 8.2、5 mM MgCl2、1 mM DTT、10 μM アプロチニン、10 μM ロイペプチン、10 μM ペプスタチンA、10 μM ダイズトリプシンインヒビター、100 μM PMSF、また任意選択で20 μg/ml サイトカラシンB)に再懸濁する。細胞を800×gで4℃で10分間遠心して沈降させる。上清を捨て、細胞ペレットをわずか1倍容の間期細胞用溶解緩用衝液中に慎重に再懸濁する。この細胞を氷上で1時間インキュベートして細胞を膨潤させる。この細胞を、先端超音波処理装置を用いた超音波処理により、またはガラス製のモルタルおよび内筒を用いたダウンスホモジナイザーで溶解させる。細胞溶解は、少なくとも90%の細胞および核が溶解するまで続ける(溶解程度は位相差顕微鏡で評価できる)。少なくとも90%の細胞および核を溶解するのに要する超音波処理時間は、抽出物の調製に使用される細胞の種類によって変動する。
【0067】
細胞溶解物を1.5 mlの遠心管に移し、卓上型遠心機を用いて10,000〜15,000×gで4℃で15分間遠心する。遠心管を遠心機から取り出して氷上に直ちに移す。200 μlのピペットチップ用いて上清を慎重に回収し、複数の遠心管から回収した上清をプールして氷上に置く。この上清が「間期細胞質」抽出物または「IS15」抽出物となる。この細胞抽出物を、1本の遠心管につき20 μl容の抽出物となるように小分けにし、直ちに液体窒素中で瞬間凍結し、使用時まで-80℃で保存する。あるいは、細胞抽出物を氷上の超遠心管(例えばBeckman製SW55Tiローター用)内に入れる。必要であれば遠心管内に鉱油を重層する。抽出物を200,000×gで4℃で3時間遠心し、IS15抽出物に含まれる膜小胞を沈降させる。鉱油は遠心後に捨てる。上清を慎重に回収し、必要に応じてプールし、冷えた1.5 mlの遠心管内に氷上で移す。上清は「IS200」抽出物、または「間期細胞質ゾル」抽出物と呼ぶことにする。抽出物を小分けにして、IS15抽出物について説明した通りに凍結させる。
【0068】
望ましいならば、さらに核因子群を加えることで抽出物を強化することができる。例えば核は、再プログラム用抽出物を抽出する細胞型の細胞から精製して、上述した超音波処理によって溶解することができる。核因子群は、NaClまたはKClを0.15〜800 mMの濃度で含む核用緩衝液中で攪拌しながら10〜60分間インキュベートすることで抽出する。この溶解物を遠心し、抽出不可能な成分を沈降させる。抽出された対象因子を含む上清を透析してNaClまたはKClを除去する。透析後の核抽出物を小分けにして凍結保存する。この核抽出物を、上述の全細胞抽出物にさまざまな濃度で添加後に、再プログラム用の核に添加する。
【0069】
細胞抽出物に代わるものとして、1種もしくは複数の天然もしくは組換え型の因子(例えば核酸、またはDNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、転写因子、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモン、またはサイトカインなどのタンパク質)を緩衝液などの溶液に添加することで再プログラム用培地を作ることもできる。好ましくは、1種もしくは複数の因子は、ドナー細胞になることが望まれる細胞型に特異的である。
【0070】
抽出物中の核の再プログラム
単離直後の精製核、または解凍後の精製核のいずれかを、上記セクションに記載された再プログラム用培地に、4,000〜5,000 核/μlの濃度になるように再懸濁する。ATP産生系(1 mM ATP、10 mM クレアチンリン酸、25 μg/ml クレアチンキナーゼ)、および100 μMのGTPを間期抽出物に添加して、外因性の核による核成分の活発な取込みを促す。この反応物は30℃で最長2時間インキュベートする。特定の核成分の取込みは、図3Aおよび図6A示されるように、核の免疫蛍光解析でモニタリングすることができる。
【0071】
再プログラムされた核の抽出物からの精製
再プログラムされた核を、核用緩衝液中で4℃で調製した1 M ショ糖クッションを用いて1,000×gで10〜30分遠心する。核を500 μlの冷核用緩衝液に再懸濁し、1,000×gで4℃で10分間心して洗浄する。核を核用緩衝液中で再懸濁し、レシピエントの細胞の細胞質もしくは細胞質体に核を輸送するまで氷上に置く。
【0072】
レシピエント細胞の除核
好ましくは、レシピエント細胞に含まれるDNAの一部もしくは全体を除去するか、または不活性化する。レシピエント細胞のDNAを破壊もしくは除去することで、細胞の遺伝的材料が、再プログラムされた細胞の特徴および機能に寄与しなくなる。細胞の核を破壊する方法の一つでは紫外光を照射する(Gurdon、「Methods in Cell Biology、Xenopus Laevis:Practical Uses in cell and Molecular Biology」、KayおよびPeng編、Academic Press、California、第36巻:299〜309、1991)。あるいは、核を任意の標準的な手法で外科的に除去することができる(例えばMcGrathおよびSolter、Science 220:1300〜1319、1983を参照)。一つの可能な方法では、ニードルを細胞内に刺し、核をニードル内の空間に吸引する。次にニードルを、形質膜を破裂することなく細胞から除くことができる(米国特許第4,994,384号および第5,057,420号)。
【0073】
再プログラムされた核のレシピエントの細胞または細胞質体への導入
核を所望の細胞型、または他の任意の細胞型のレシピエントの細胞または細胞質体に、微量注入法や電気融合法などの標準的な方法で導入する(例えば米国特許第4,997,384号および第5,945,577号を参照)。再構成された細胞を培養物中に戻し、回復させ、分裂させ、また再プログラム経路にしたがって分化させる。再プログラムされた細胞の遺伝子発現は、標準的なノーザン解析でモニタリングすることでmRNA分子、好ましくはドナー細胞、レシピエント細胞、または所望の細胞型に特異的なmRNA分子の発現を測定することができる(Ausubelら、前出)。特異的なmRNA分子の発現は、対象となるmRNA分子に特異的に結合するように作製されたプライマーを用いた標準的な逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイ法でも検出できる。あるいは複数の細胞特異的mRNA分子の発現は、cDNAアレイを用いた標準的なDNAチップ技術でモニタリングすることができる(Marrackら、Current Opinion in Immunology 12、206〜209、2000;Harkin、Oncologist. 5:501〜507、2000;Pelizzariら、Nucleic Acids Res. 2;28(22):4577〜4581、2000;Marx、Science 289 (5485):1670〜1672、2000)。この細胞をドナー細胞、レシピエント細胞、またはレシピエント細胞質体の細胞型に特異的な遺伝子群の発現低下について解析することができる。また細胞を、所望の細胞型に特異的な遺伝子群の発現上昇について評価することができる。幹細胞を産生する再プログラムの指標となるmRNA分子の例には、H-19、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、GCTM-2、Oct-4、Genesis、GCNF、GDF-3、およびTDGF-1などがある。神経細胞に特異的なmRNA分子には、NGF、NF-H、NeuN、NSE、およびCD11bなどがあるがこれらに限定されない。脂肪細胞の細胞運命への変換を解析する際には、レプチン、PPARλ1、PPARλ2、SREBP1C、IR、およびTNFαなどのmRNA分子の発現をモニタリングするとよい。IGF-1およびIRは、インスリン産生細胞の指標となる。また、このような細胞は、標準的なウエスタン解析もしくは免疫蛍光解析で特定のタンパク質の発現について解析することができる(Ausubelら、前出)。
【0074】
所望の細胞型に変換されているか否かを判定するために解析可能な再プログラムされた細胞の他の特徴の例には、細胞の大きさ、細胞の形態、接着性細胞としての成長能力、接着した細胞としての成長能力、細胞質の容積、および中心体の位置などがある。再プログラムされた細胞の機能は、赤血球によるO2およびCO2輸送能力、B細胞による抗体産生能力、ならびに抗中球による侵入細菌の食作用能力および破壊能力などとして検討することもできる。また、脂肪細胞による脂質の産生は、標準的な顕微鏡を用いて細胞内の脂質滴を可視化することで判定することができる。
【0075】
実施例2:2段階インビトロ再プログラム法
細胞を再プログラムする別の方法では、核を間期細胞から単離し、有糸分裂抽出物中、界面活性剤および塩溶液中、またはプロテインキナーゼ溶液中でインキュベートして、核エンベロープの崩壊および染色質塊の形成を誘導する。インキュベーションによって、染色質塊から因子群が放出される。あるいは染色質塊は、有糸分裂細胞から単離することができる。好ましくは染色質塊は次に間期用再プログラム用抽出物中でインキュベートして、核膜の形成、および所望の因子の抽出物から休止期の核への付加を促進させる。再プログラムされた核を次に抽出物から単離し、所望の細胞型もしくは他の任意の細胞型のレシピエントの細胞または細胞質体に導入する。
【0076】
あるいは染色質塊を、核の再形成を最初に誘導することなく、レシピエントの細胞内もしくは細胞質体に直接導入することができる。この態様では、所望の細胞型のレシピエントの細胞もしくは細胞質体を使用して、レシピエント細胞の細胞質もしくは細胞質体の所望の因子が、ドナー染色質塊に由来する外因性染色体に結合して、さらに所望のmRNA分子およびタンパク質分子の発現を促進させる。
【0077】
有糸分裂細胞抽出物の調製
有糸分裂細胞質(MS15)抽出物、もしくは有糸分裂細胞質ゾル(MS200)抽出物は、間期IS15抽出物またはIS200抽出物に対する上述の手順で調製することができる(ただし有糸分裂細胞を間期細胞の代わりに使用し、10 mM EDTAを細胞溶解用緩衝液に添加する)。望ましいならば、この抽出物は、実施例1に記載したように核因子群をさらに加えて強化することができる。有糸分裂細胞を単離する場合は、0.5〜1 μg/mlのノコダゾール中で17〜20時間インキュベートすることで体細胞を有糸分裂中に同期させ、上述したように激しく浸透することで有糸分裂細胞を剥離させる。剥離したG1期ダブレットは捨てるか、または剥離した細胞の大部分(80%をこえる)を含む有糸分裂細胞とともに残してもよい。回収した剥離細胞を、10 mlの円錐管中で500×gで4℃で10分間遠心する。
【0078】
内因性核成分を除去するための有糸分裂抽出物中における染色体凝縮反応
MS15抽出物またはMS200抽出物のアリコートを氷上で解凍する。ATP産生系(0.6 μl)およびGTPを20 μlの抽出物に添加し、ボルテックスミキサーで混合する。最終濃度は、1 mM ATP、10 mM クレアチンリン酸、25 μg/ml クレアチンキナーゼ、および100 μM GTPとなる。
【0079】
核をドナー細胞から上述の手順で単離する。核懸濁物を、10 μlの抽出物あたり1 μlの核の濃度になるように抽出物に添加し、ピペッティングでよく混合し、30℃、33℃、35℃、37℃、もしくは39℃の水浴でインキュベートする。混合物を含むチューブを一定間隔で軽く叩いてチューブの底で染色体がからまるのを防ぐ。核エンベロープの崩壊および染色体の凝縮を一定間隔で(例えば15分毎に)顕微鏡下でモニタリングする。核エンベロープが崩壊して、染色体が凝縮を開始したら、抽出物から染色質塊を回収する手順を始める。
【0080】
有糸分裂抽出物および抗NuMA抗体に核を曝露することによる脱凝縮染色質塊の形成
あるいは、凝縮していない染色質塊、または部分的にしか凝縮していない染色質塊は、核マトリックスタンパク質NuMAに対する抗体と単離核のプレローディング後に、上述の手順で形成される場合がある(Steenら、J.Cell Biol. 149、531〜536、2000)。この手順により、ドナー核の周囲の核膜を解離させることで、核成分を染色質から除去できるが、抗NuMA抗体が添加されることで凝縮段階は抑制される。染色体の凝縮を妨げると、染色体を有糸分裂抽出物中でインキュベーション中に、染色体が切断されて失われるリスクが低下する場合がある。
【0081】
この手順では、精製細胞核(2,000 核/μl)を、0.75 μg/mlのリゾレシチンを含む500 μlの核用緩衝液中で室温で15分間静置することで浸透化状態とする。過剰なリゾレシチンは、核用緩衝液を溶媒とする3% BSAを1 ml添加して、氷上で5分間インキュベートすると消失する。次に核を沈降させ、核用緩衝液中で1回洗浄する。核を、抗NuMA抗体(希釈率1:40;Transduction Laboratories)を含む100 μlの核用緩衝液中に2,000 核/μlとなるように再懸濁する。氷上で穏やかに振盪しながら1時間インキュベートした後、1 M ショ糖を用いて核を500×gで20分間遠心して沈降させる。次に核を核用緩衝液中に再懸濁し、上のセクションで説明したATP再生系を含む有糸分裂抽出物に添加する。任意選択で抗NuMA抗体を抽出物に添加することで、染色体の凝縮をさらに防ぐことができる。
【0082】
界面活性剤またはプロテインキナーゼに対する核の曝露による脱凝縮した染色質塊の形成
凝縮しない染色質塊、または部分的に凝縮した染色質塊は、界面活性剤またはプロテインキナーゼに曝露することで形成される場合もある。界面活性剤は、核内の染色体に結合していない状態、または緩く結合した状態の核成分を可溶化するために使用することが可能であり、結果として核エンベロープが除去される。この手順では、精製された細胞核(2,000〜10,000 核/μl)を、0.1〜0.5%のTriton X-100もしくはNP-40などの界面活性剤を添加した核用緩衝液中でインキュベートする。核エンベロープの除去を促進するために、NaClなどの塩類を追加的に緩衝液に約0.1 M、0.15 M、0.25 M、0.5 M、0.75 M、もしくは1 Mの濃度になるように添加する。穏やかに振盪しながら氷上で30〜60分間インキュベートした後、スイング式ローターを用いて1,000×gで10〜30分間(総容量を考慮して調節する)遠心して核を沈降させる。ペレット状の核を0.5〜1 mlの核用緩衝液に再懸濁し、上述の手順で沈降させる。この洗浄処理を2回繰返して行い、界面活性剤および余分な塩類を完全に除去するようにする。
【0083】
あるいは核エンベロープは、組換え型プロテインキナーゼもしくは天然のプロテインキナーゼを単独で、もしくは組み合わせて用いることで除去することができる。好ましくは、プロテインキナーゼは標準的な方法で精製するか、または市販品を入手する。キナーゼは、核膜、核マトリックス、もしくは染色質の成分をリン酸化することで、結果的に核エンベロープを除去することができる(例えばCollasおよびCourvalin、Trends Cell Biol. 10:5〜8、2000を参照)。好ましいキナーゼには、サイクリン依存性キナーゼ1 (CDK1)、プロテインキナーゼC (PKC)、プロテインキナーゼA (PKA)、MAPキナーゼ、およびカルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼ(CamKII)などがある。この方法では約20,000個の精製核を、1.5 mlの遠心管内で20 μlのリン酸化用緩衝液中で室温でインキュベートする。CDK1用の好ましいリン酸化用緩衝液(Upstate Biotechnology)は、200 mM NaCl、50 mM Tris-HCl (pH 7.2〜7.6)、10 mM MgSO4、80 mM β-グリセロリン酸、5 mM EGTA、100 μM ATP、および1 mM DTTを含む。PKCの場合は、好ましい緩衝液は200 mM NaCl、50 mM Tris-HCl (pH 7.2〜7.6)、10 mM MgSO4、100 μM CaCl2、40 μg/ml ホスファチジルセリン、20 μM ジアシルグリセロール100 μM ATP、および1 mM DTTを含む。PKCとCDK1の両方を同時に使用する場合は、40 μg/ml ホスファチジルセリン、および20 μM ジアシルグリセロールを添加したCDK1リン酸化用緩衝液を使用する。PKA用の好ましいリン酸化用緩衝液は、200 mM NaCl、10 mM MgSO4、10 mM Tris、pH 7.0、1 mM EDTA、および100 μM ATPを含む。MAPキナーゼの場合は、10 mM CaCl2、および1 mM DTTを添加したPKAリン酸化用緩衝液を使用することができる。CamKIIの場合は、1 mM DTTを添加したPKA緩衝液、またはUpstate Biotechnology製のCam Kinaseアッセイ法キットを使用する(Venemaら、J.Biol.Chem 272:28187〜90、1997)。
【0084】
リン酸化反応は、プロテインキナーゼを最終量25〜100 ngになるように添加して開始する。反応物は室温で最長1時間インキュベートする。核エンベロープの崩壊は、このインキュベーション中に顕微鏡で例えば15分間隔でモニタリングすることができる。核エンベロープが崩壊したら上述の手順で核を3回洗浄し、界面活性剤溶液を除去する。
【0085】
抽出物、界面活性剤および塩溶液、またはプロテインキナーゼ溶液からの染色質塊の回収
凝縮した染色質塊、部分的に凝縮した染色質塊、もしくは凝縮していない染色質塊を含む抽出物もしくは溶液を、核用緩衝液を溶媒として作製した等量の1 M ショ糖溶液下に置く。染色質塊を、スイング式ローターを用いて、1,000×gで4℃で10〜30分間(試料容積に応じて調節)遠心して沈降させる。上清を捨て、ペレット状の染色質塊を0.1〜1.0 mlの核用緩衝液中にピペッティング操作により慎重に再懸濁し、1,000×gで10〜30分遠心する。上清を捨て、ペレット状の染色質塊を核用緩衝液中に再懸濁し、使用するまで氷上で保存する。
【0086】
有糸分裂細胞からの染色質塊の単離
有糸分裂抽出物、界面活性剤および塩溶液、またはプロテインキナーゼ溶液に核を曝露することで染色質塊を得る代わりに、有糸分裂中に同期させた細胞を溶解して、上述の手順で細胞溶解物を遠心して染色質塊を得ることができる。
【0087】
インビトロにおける核再形成用の膜小胞の調製
MS2000有糸分裂抽出物の調製中で200,000×gの遠心で得たペレットを、有糸分裂の膜小胞の供給源として使用する。このペレットを膜洗浄用緩衝液(250 mM ショ糖、50 mM KCl、2.5 mM MgCl2、50 mM Hepes、pH 7.5、1 mM DTT、1 mM ATP、10 μM アプロチニン、10 μM ロイペプチン、10 μM ペプスタチンA、10 μM ダイズトリプシンインヒビター、および100 μM PMSF)に再懸濁し、100,000×gで30分間遠心し、小分けして液体窒素で凍結して-80℃で保存する。
【0088】
核再形成アッセイ法
望ましいならば、凝縮した状態の染色質塊から、部分的に凝縮した状態の染色質塊から、または脱凝縮状態の染色質塊から、後述する手順で核を再形成させることができる。染色体の周囲の核膜の再形成は、再形成された核をレシピエントの細胞もしくは細胞質体の一部としての輸送を可能とする再形成に使用される抽出物に由来する因子群を封入することができる。染色質塊を1 M ショ糖クッションを通して沈降させて回収し、間期抽出物中に4,000〜5,000 染色質塊/μlの濃度となるように再懸濁する。好ましくは間期抽出物は、所望の細胞型の細胞から上述の手順で作製する。この抽出物に、上述の手順で調製した膜小胞を添加し、核エンベロープの形成に必用な膜を得る。この膜を1 μlの解凍された膜/10 μlの抽出物の濃度になるように添加し、ボルテックスミキサーで混合する。ATP産生系(2 mM ATP、20 mM クレアチンリン酸、50 μg/ml クレアチンキナーゼ)、および100 μM GTPを間期抽出物に添加し、染色質の脱凝縮、核膜小胞と染色質との結合、および完全な核膜を形成する小胞融合を促進する。この反応物を30℃で最長2時間インキュベートし、核の再形成を位相差顕微鏡でモニタリングする。
【0089】
再プログラムされた核の抽出物からの精製
再プログラムされた核を、核用緩衝液で調製した1 Mのショ糖クッション通して4℃で1,000×gで10〜30分間遠心する。この核を、500 μlの冷核用緩衝液に再懸濁し、4℃で1,000×gで10分間遠心して沈降させて洗浄する。次に核を核用緩衝液に再懸濁し、レシピエントの細胞の細胞質もしくは細胞質体に核を輸送するまで氷上に置く。
【0090】
再プログラムされた核または染色質塊のレシピエントの細胞または細胞質体の導入
染色質塊から形成された染色質塊または核を、レシピエントの細胞または細胞質体に標準的な方法で導入し、上述の手順で遺伝子発現をモニタリングする。
【0091】
実施例3:核輸送を伴わない浸透化細胞の再プログラム
細胞は、核もしくは染色質塊を細胞から単離する必要なく再プログラムすることができる。この方法では、間期細胞または有糸分裂細胞を浸透化した後に、間期または有糸分裂用の再プログラム用抽出物中で、抽出物と細胞間における因子群の交換を可能とする条件下でインキュベートする。間期の抽出物を使用する場合は、細胞の核は膜に結合した状態で留まる。また有糸分裂の抽出物を使用する場合は、核エンベロープの崩壊および染色質の凝縮が生じることがある。この抽出物中におけるインキュベーションによって核が再プログラムされた後に、形質膜は好ましくは再び閉じられ、抽出物に由来する所望の因子を含む完全な再プログラムされた細胞が形成される。望ましいならば、抽出物は実施例1に記載されているように、さらに核因子群を添加することで強化することができる。
【0092】
細胞の浸透化
上記の手順で再プログラムされる細胞は、非同期細胞、およびG0期、G1期、S期、G2期、またはM期に同期した細胞、またはこれらの周期の組み合わせに同期した細胞を含む。細胞は、ジギトニンまたはストレプトリシンOによる浸透化処理などの任意の標準的な方法で浸透化状態となる。簡単に説明すると、細胞を標準的な手順で回収してPBSで洗浄する。ジギトニンで浸透化する場合は、細胞を約0.001〜0.1%の濃度でジギトニンを含む培地に再懸濁し、氷上で10分間インキュベートする。ストレプトリシンOで浸透化する場合は、細胞をストレプトリシンO溶液(例えばMaghazachiら、1997、およびその参考文献を参照)中で室温で15〜30分間かけてインキュベートする。いずれかのインキュベーションの後、細胞を400×gで10分間遠心して洗浄する。この洗浄過程を、PBSに再懸濁して沈降させて2回繰返す。細胞は、使用するまでPBS中で室温で保持する。あるいは細胞を、実施例6に記載されているようにカバーガラス上に置いて浸透化することで、細胞の取り扱いを可能な限り少なくして、細胞の遠心過程をスキップすることで細胞の生存能を最大化することができる。好ましくは、後述するように細胞を再プログラム処理用の間期抽出物または有糸分裂抽出物に直ちに添加する。
【0093】
抽出物中における細胞の再プログラム
間期抽出物または有糸分裂抽出物を上述の手順で、好ましくは、浸透化細胞となることが望まれる細胞型の細胞を用いて調製する。浸透化細胞を、再プログラム用抽出物中に約100〜1,000細胞/μlの濃度となるように懸濁する。ATP産生系およびGTPを上述したように抽出物に添加し、反応物を30〜37℃で最長2時間インキュベートして、抽出物から細胞内への因子の移行、および核への活発な取込み、または因子と染色体との結合を促進する。再プログラムされた細胞を800×gで遠心し、再懸濁して洗浄し、PBS中で400×gで遠心する。この細胞を、20〜30%のウシ胎児血清(FCS)を含む培地に再懸濁し、通常の細胞培養インキュベーター内で37℃で1〜3時間インキュベートすることで細胞膜を再び閉じることができる。次に細胞を通常の温培地(10% FCS)で洗浄し、標準的な培養条件でさらに培養する。
【0094】
実施例4:活性化T細胞抽出物を用いる再プログラム処理
活性化T細胞抽出物を用いるこの再プログラム処理試験は、休止期T細胞と活性化T細胞との間に機能上の差があることを元にしている。T細胞抗原受容体-CD3 (TCR-CD3)複合体、およびCD28同時刺激受容体を刺激して、休止期の末梢血T細胞を抗原で活性化すると、染色質のリモデリング、および数多くの遺伝子の活性化が誘導される。このような遺伝子の一つがT細胞特異的成長因子であるインターロイキン-2 (IL-2)遺伝子である。IL-2の調節には、刺激依存性の活性化因子NFAT、NFκB、AP-1、構成的転写因子Oct-1、および分裂促進因子によって活性化されるプロテインキナーゼErkが関与する。
【0095】
活性化ヒトT細胞の細胞抽出物を用いることで、非活性化ヒトT細胞、B細胞、ヒト線維芽細胞、およびHeLa細胞における転写因子の核内局在化が誘導された。またインキュベーションにより、染色質リモデリングSWI/SNF複合体とDNAの結合、IL-2遺伝子およびプロモーターの過剰なアセチル化、ならびに非活性化T細胞におけるIL-2 mRNAの発現が促進された。IL-2の発現は、一次血管内皮細胞、上皮細胞、およびニューロン前駆細胞でも誘導された。
【0096】
完全なT細胞の活性化がIL-2発現を誘導することを示すために、ヒトT細胞を末梢血から精製して一晩培養し、抗CD3抗体(クローンSpvT3dはA.M.Rasmussen氏、Norwegian Radium Hospital、Montebello、Norwayから入手)で刺激した。特にT細胞は健康なドナーの末梢血から精製した(Skalheggら、Science 263:84〜87、1994)。細胞を20時間培養し、RPMI1640 (Gibco BRL)中で5〜10×107細胞/mlで氷上で15分間インキュベートした。TCR-CD3複合体を5 μg/mlの抗CD3抗体で刺激し、細胞を氷上で30分間インキュベートした。細胞を4℃で400×gで7分間遠心して沈降させ、洗浄し、氷冷したRPMI1600中に5×107細胞/mlになるように再懸濁した。抗マウスFab断片(10 μg/ml)を架橋リンカーとして添加し、細胞を37℃でインキュベートした(t=0分、刺激後)。指定時間点において、細胞を氷冷PBSで希釈し、液体窒素で瞬間凍結し、解凍してPBSで洗浄した。全RNAを単離し、IL-2特異的プライマーを用いてRT-PCRを行った。図1に示すようにIL-2 mRNAは活性化T細胞では発現されるが、擬似処理したT細胞(「30c」、「60c」、および「120c」は擬似処理細胞を意味する)では発現されない。
【0097】
活性化T細胞に由来する抽出物が、他の細胞の転写因子群の核内局在化を高めるか否かを判定するために、抗CD3抗体(Skalheggら、Science 263:84〜87、1994)の存在下におけるインキュベーションと、続く細胞の洗浄による未結合抗体の除去によってT細胞を活性化した。刺激T細胞抽出物(SE)は、抗CD3刺激(IL-2遺伝子の転写開始の2時間前)後に5〜10分間かけて調製した。抽出物を調製するこのタイミングにより、再プログラムされた核におけるIL-2転写の明確な検出が可能となった。というのは、刺激抽出物は内因性のIL-2 mRNAを含まないためである。すべての反応を停止させるために、刺激から5〜10分後に細胞を液体窒素で瞬間凍結し、解凍し、氷冷PBSおよび溶解用緩衝液(10 mM Hepes、pH 8.2、50 mM NaCl、5 mM MgCl2、1 mM DTT、およびプロテアーゼインヒビター)で洗浄して沈降させた。このペレットを2倍容の溶解用緩衝液に再懸濁した。
【0098】
刺激T細胞抽出物は、T細胞を溶解し、15,000×gで遠心し、上清を単離し、ATP産生系を上清に添加することで調製した。特に細胞は、先端超音波処理装置を用いて、90%をこえる細胞および核が溶解するまで分解した。この溶解物を15,000×gで15分かけて4℃で遠心して清澄化した。上清は新鮮な状態で使用するか、または小分けにして凍結して-80℃で保存した。この単純な方法では透析の必要がないので、抽出物は濃縮されたままであり(約25 mg/ml タンパク質)、この手順ではタンパク質分解が起こるリスクが極めて小さくなる。非刺激T細胞の抽出物(USE)は、擬似(H2O)刺激T細胞から調製した。再プログラム反応物は、20 μlまたはこの倍数の刺激抽出物、もしくは105個の核およびATP産生系(1 mM ATP、10 mM クレアチンリン酸、25 μg/ml クレアチンキナーゼ、および100 μM GTP)を含む非刺激抽出物を含むようにした。
【0099】
ドナー核を作製するために、休止期末梢血T細胞を洗浄し、20倍容の氷冷低浸透圧核用緩衝液(10 mM Hepes、pH 7.5、2 mM MgCl2、25 mM KCl、1 mM DTT、およびプロテアーゼインヒビター)に再懸濁した。核をダウンスホモジナイザーで慎重にホモジナイズして単離し、400×gで沈降させ、核用緩衝液(低浸透圧核用緩衝液/250 mM ショ糖)で洗浄した。HUVEC、HeLa、およびNT2の核は同様に単離した。抽出物中におけるインキュベーション前、およびインキュベーション後における核の完全性は、位相差顕微鏡を用いて、また10 μg/mlの脂溶性色素DiOC6用いた核膜標識によりモニタリングした(図8A)。休止期T細胞、B細胞系列Reh、293T線維芽細胞、またはHeLa細胞から精製した核を、この抽出物中で、特に明記しない限り1 μlの抽出物あたり約5,000個の濃度で30℃で30分間インキュベートした。次に核を、1 Mのショ糖クッションを通して10分間沈降させて精製した。あるいは反応混合物からRNAを抽出してRT-PCRに使用した。免疫蛍光解析から明らかなように、T細胞特異的転写因子NFATは、刺激抽出物に曝露した核内に輸送された(図3Aおよび6A)。
【0100】
抽出物に由来する他の転写因子のもつ、T細胞、B細胞、線維芽細胞、およびHeLa細胞の核内へ移行する能力の判定も行った。このアッセイ法では、非刺激T細胞に由来する入力ドナー核(「入力」)を、刺激抽出物(「SE」)、非刺激T細胞から調製した対照抽出物(非刺激抽出物を意味する「USE」と表記)、または核内移行を立体的に阻害するヌクレオポリンに対するモノクローナル抗体を含む刺激抽出物(「SE+mAb414」)のいずれかでインキュベートした。核を次に遠心して再懸濁することで抽出物から精製した。全細胞抽出物に関して予想されるように、NFAT、AP-1、もしくはNFκB、Oct-1、およびErk(1および2)が、核のインキュベーションに先立つ入力刺激抽出物を対象としたウエスタンブロットで検出された(図8B)。入力非刺激抽出物中にAP-1は実質的に認められなかった。これは複合体が、非刺激T細胞中では形成されないためである。また入力核内でNFAT、AP-1、NFκBは検出されず、Erkはわずかに検出された(図8B)。図3Bおよび図8Bからわかるように、刺激抽出物でインキュベートしたT細胞の核では、抗ヒストンH4抗体をローディング用対照として使用し、各因子に対する抗体を使用した標準的なウエスタンブロット解析で測定したところ、NFAT、c-Jun/AP1、NFκB、およびMAPキナーゼ(Erk1およびErk2)のレベルは高かった(例えば抗Erk抗体はJ.Kubiak博士、CNRS、Paris、Franceから入手した)。AP-1転写複合体は、おそらくJun-Fos結合の結果として核内で形成された(図8B)。またErkは、刺激抽出物に曝露した核内に輸送された(図8B)。全因子の核内移行は免疫蛍光解析で検証した。これらの因子群の休止期T細胞の核による取込みは核孔複合体を通して活発に認められた。というのは、ATPもしくはGTPを抽出物中でATPγS、AMP-PNP、またはGTPγSと交換すると、または核孔の機能を M. Rout 氏(Rockefeller University、New York)から入手した、複数のヌクレオポリンに対する抗体mAb414で阻害すると核内移行が阻害されたためである(図8B、SE+414)(DaviesおよびBlobel、Cell 45:699〜709、1986)。普遍的に存在する転写因子Oct-1は、同等量が入力核で、また刺激抽出物もしくは非刺激抽出物に曝露した核内で検出された(図8B、Oct-1)。非刺激抽出物中で核をインキュベートしても、上記の転写因子のレベルに影響はほとんど認められなかった。
【0101】
またNFAT、c-Jun/AP1、およびNFκBのレベルは、RehB細胞、293T線維芽細胞、およびHeLa細胞の核内では刺激T細胞抽出物中におけるインキュベーション後に上昇した(図6A)。例えば、精製293T線維芽細胞核を対象とした免疫学的解析から、刺激T細胞抽出物が、NFAT、NFκBの核への取込み、およびAP-1転写複合体の形成を支持することがわかったが、対照となる非刺激T細胞抽出物ではこれらは認められなかった(図11Aおよび11B)。特に非刺激抽出物は、核局在シグナルを結合したBSAの核内移行を、休止期T細胞の核および線維芽細胞の核で、刺激抽出物と同程度に支持し(図8B BSA-NLS、および11B)、IL-2遺伝子の転写活性化因子の核内移行および形成が、刺激抽出物に対して特異的であることがわかった。
【0102】
刺激抽出物または非刺激抽出物のいずれかに曝露したT細胞核の場合、転写因子とDNAとの結合は、標準的な核保持アッセイ法で評価した。このアッセイ法では、核膜を溶解するために0.1% Triton X-100により核を抽出し、15,000×gで沈降させるか、または0.5% Triton X-100で1時間かけて抽出し、また10,000×gで10分間遠心して沈降させる(Zhaoら、Cell 95:625〜636、1998)。可溶性の染色質分画は、ミクロコッカルヌクレアーゼによる消化およびEDTAによる抽出により精製核から調製した(O'NeillおよびTurner、Methods Enzymol. 274:189〜197、1996)。Triton X-100、DNAse、およびRNAse抽出による耐性構造で定義される核マトリックスは、文献に記載された方法で単離した(Steenら、J.Cell Biol. 149:531〜536、2000)。イムノブロット解析は、DNAに結合する転写因子を含むペレットを対象に、および未結合状態の転写因子を含む上清を対象に行った。特に不溶性の材料はSDSに溶解させ、また可溶性フラクションに含まれるタンパク質は沈殿後にSDSに溶解させた。両フラクションの等量のタンパク質(30 μg)をイムノブロット法で解析した。DNAが結合した転写因子のパーセンテージは、2回のブロットの濃度測定解析で決定した。得られたデータは平均±標準偏差で表す(図3C)。
【0103】
核保持アッセイ法の結果も、再プログラムされたT細胞核におけるNFAT、c-Jun/AP1、NFκB、およびMAPキナーゼ転写因子の核内移行およびDNA結合の上昇を支持する。例えば、核内で結合した状態にあるNFAT、AP-1、およびNFκBの最大8.5倍の上昇が、非刺激抽出物に曝露した核と比較して刺激抽出物に曝露した核で検出された(図8C)。結合状態のOct-1は、非刺激抽出物または刺激抽出物に曝露した核で検出され(図8C)、T細胞および非T細胞の核におけるDNA結合能力に矛盾しなかった。結合状態のErkの2倍の上昇も、刺激抽出物に曝露した核で認められた(図8C)。刺激抽出物に曝露した核から調製した可溶性染色質フラクションおよび核マトリックスフラクションのイムノブロット解析から、NFAT、AP-1、NFκB、およびOct-1が主に染色質に結合する一方で、不溶性Erkの大部分がマトリックスと結合することがわかった(図8D)。
【0104】
T細胞の核の刺激抽出物に対する曝露が、染色質モデリングSWI/SNF複合体のDNA結合に及ぼす作用を示すために、休止期T細胞核を細胞溶解用緩衝液中、非刺激抽出物中、または刺激抽出物(それぞれATP産生系を含む)中で30分間インキュベートし、ショ糖中を沈降させた。さまざまなインキュベーション時間後におけるDNAと結合した、または結合していないヒトSWI/SNFのパーセンテージは、SWI/SNF複合体を可視化する、抗BRG1抗体を用いた上記の核保持アッセイ法で評価した(図4B、4C、9A)(Collasら、J.Cell Biol. 147:1167〜1180、1999)。特にBRG1は、抗BRG1抗体の1:40の希釈率のウサギIgGで事前に2.5時間かけて清澄化したミクロコッカルヌクレアーゼ可溶性染色質から免疫沈殿を生じた。免疫複合体は、プロテインA-セファロースビーズを用いて沈殿させ、免疫沈殿緩衝液中で洗浄し、SDS試料緩衝液に溶解させた(Collasら、J.Cell Biol. 147:1167〜1180、1999)。核を刺激抽出物に曝露したところ、DNAが結合したSWI/SNFの量が増加し、核の再プログラムが起こっていることがわかった。例えばSWI/SNF複合体のマーカーの一つであるBRG1 (Zhaoら、Cell 95:625〜636、1998)に対する抗体を用いたブロットの濃度測定解析の結果、80%を越えるSWI/SNFが、刺激抽出物に曝露した核内で不溶性(結合)状態である一方で、入力核内、または非刺激抽出物に曝露した核内では、SWI/SNFは大部分が可溶性状態が維持されることがわかった(図9Aおよび9B)。SWI/SNFの核内結合は30分以内に生じた(図9B)。インビトロにおけるSWI/SNF結合の生理的意味は、SWI/SNFが、ヒト末梢血T細胞の抗CD3による刺激から30分以内に核内に結合されることからわかる(図9C)。
【0105】
SWI/SNFの潜在活性は、入力核、および刺激抽出物または非刺激抽出物に曝露した核における相対ATPase活性を測定することで評価した。同等量のSWI/SNFは、抗BRG1抗体を用いたところ、精製核溶解液から免疫沈殿を生じた(図9D)。個々の免疫沈殿(「BRG1-IP」)による1 nMの外因性ATPの加水分解は、ルシフェリン-ルシフェラーゼアッセイ法で決定した。免疫前IgGを用いた対照沈殿を標準として使用した(図9D、Pre-I IgG)。このアッセイ法では、ATPase活性は、免疫前IgGの標準値(2,700)を差引いた後の相対発光量で表した。入力核、または非刺激抽出物に曝露した核から精製したBRG1-IPは、ATPase活性を全く、またはほとんど示さなかった。しかし、刺激抽出物に曝露した核から単離されたBRG1-IPでは、入力核と比較して8倍のATPase活性の上昇が認められた(図9D)。また、刺激抽出物誘導性のATPase活性は、アッセイ法を行う前にBRG1-IPをDNAse Iで処理すると基礎レベル近くまで低下した(図9D)。以上の結果から、核内で結合状態にあるSWI/SNP複合体が、刺激T細胞抽出物に特異的なDNA依存性のATPase活性を示すことがわかる。
【0106】
インビボおよびインビトロにおけるT細胞核のIL-2遺伝子の過剰なアセチル化を測定するために、ミクロコッカルヌクレアーゼで、休止期T細胞、抗CD3刺激T細胞、非刺激抽出物に曝露したT細胞の核、および刺激抽出物に曝露したT細胞核に由来する染色質を消化して、可溶性染色質断片を形成させた。アセチル化されたヒストンH4(「H4ac」)は、可溶性染色質フラクションから免疫沈殿を生じ、DNAを免疫沈殿(「結合」)フラクションと上清(「未結合」)フラクションから単離した。このDNAを対象に、Hybon Nフィルター上で2回のドットブロットを行い、IL-2コード領域に対する、フルオレセインを結合したIL-2プローブ、またはコイのβ-アクチンプローブのいずれかとハイブリッドを形成させた。ハイブリダイゼーションは、アルカリホスファターゼを結合した抗フルオレセイン抗体を用いて検出した。IL-2遺伝子の過剰なアセチル化は、刺激抽出物に曝露した核で認められたが、対照のβ-アクチン遺伝子では認められなかったことから、核が、核で通常抑制されている遺伝子群を発現するように再プログラムされていることも示唆された。
【0107】
非刺激抽出物または刺激抽出物に曝露した培養物、および休止期T細胞核のT細胞刺激後におけるIL-2プロモーターのヒストンH4のアセチル化も、抗H4抗体および抗H4ac抗体(Serotec)を用いた染色質免疫沈殿解析で測定した。IL-2プロモーターの過剰なアセチル化は、0.1 Uのミクロコッカルヌクレアーゼ/μg DNAによる可溶化後における擬似(H2O)刺激T細胞および抗CD3刺激T細胞に由来する染色質免疫沈殿により、モノヌクレオソームおよびジヌクレオソームを形成させて調べた。抗pan-アセチル化ヒストンH4(acH4)抗体を用いて、アセチル化されたヒストンを検出した(O'NeillおよびTurner、Methods Enzymol. 274:189〜197、1996)。入力染色質フラクション、抗体-結合染色質フラクション、および未結合染色質フラクションからフェノール-クロロホルム抽出法でDNAを単離し、IL-2プローブを用いたドットブロット解析法でIL-2遺伝子を同定した。IL-2プロモーター用プローブは、テンプレートとして、開始部位の近位のプロモーター/エンハンサー領域の360塩基対に、およびIL-2コード領域(第1エキソン)の先頭の70塩基対に対応するクローン化された430塩基対の挿入配列を用いて、フルオレセインを結合させたヌクレオチド(Gene Images CDP-Star、Amersham)によるランダムプライムラベリング法で合成した。使用したプライマーはプロモーター領域とハイブリッドを形成する5'-GCTATTCACATGTTCAGTGTAG-3'(配列番号:1)と、第1エキソンとハイブリッドを形成する5'-GACAGGAGTTGCATCCTGTACA-3'(配列番号:2)とした。β-アクチン用プローブは上述の手順にしたがって、テンプレートとしてβ-アクチンの第1イントロンのクローン化されたSalI〜NcoIの1.3 kbの挿入配列を用いて合成した(Collasら、J.Cell Sci. 112:1045〜1054、1999b)。ハイブリダイゼーションは、アルカリホスファターゼを結合した抗フルオレセイン抗体を用いた化学発光法で検出した(Collasら、J.Cell Sci. 112:1045〜1054、1999b)。
【0108】
非刺激T細胞では、抗acH4未結合フラクションでIL-2プロモーターが全体的に検出されたことから、IL-2プロモーターの低アセチル化、またはH4アセチル化の不在が示唆される(図9E、「培養」)。しかし、抗acH4結合フラクションにおける高度の強化によって示されるように、T細胞刺激により、IL-2プロモーターの過剰なアセチル化が誘導された(図9E、「培養」)。IL-2プロモーターも、刺激抽出物中における核のインキュベーション後にH4過剰アセチル化染色質中に高度に強化されたことは注目に値する。これは非刺激抽出物(図9E、「インビトロ」)中では認められなかった。以上の結果は、T細胞の活性化に伴うIL-2プロモーターで生じる染色質の構造変化が、-300塩基対〜転写開始コドンの極めて短いエンハンサー領域に限定されるという報告と矛盾しない(Wardら、Nucleic.Acids.Res. 26:2923〜2934、1998;Raoら、J.Immunol. 167:4494〜4503、2001)。総合すると、以上のデータは、刺激T細胞抽出物に曝露した休止期T細胞核におけるIL-2の近位プロモーター領域で染色質モデリングが起こることを示す強い証拠である。
【0109】
刺激抽出物がIL-2発現を誘導する能力をもつこと示すために、休止期T細胞核を、非刺激抽出物中または刺激抽出物中で30℃で30分間インキュベートした。対照として100 μg/mlのRNAse A、100 μg/mlのDNAse I、mAb414抗体、もしくはレクチンWGAのいずれかを含む刺激抽出物中で核をインキュベートした。30℃で30分後、超音波処理を行って抽出物中で核を溶解し、3 μlの抽出物のアリコートを除去して、IL-2特異的プライマーを用いたRT-PCR解析に使用した。特に全RNAはQiagen RNeasyキットで単離し、15 ngのRNAをPromega Access RT-PCR SystemによるRT-PCRのテンプレートとして用いた。467 bpのIL-2 cDNAをIL-2特異的プライマー5'-ATGTACAGGATGCAACTCCTGTCTT-3'(配列番号3)および5'-GTTAGTGTTGAGATGATGCTTTGAC-3(配列番号4)で増幅した。PCR条件は、94℃における1分間の変性、60℃における2分間のアニーリング、および72℃における3分間の伸長の30サイクルとした。入力刺激抽出物、およびIL-2産生T細胞から単離された1.2 μgの全RNAを含む対照刺激抽出物を解析した(図5Aおよび10A)。以上の結果は、IL-2の発現が、刺激抽出物中におけるT細胞核のインキュベーションにより誘導されたが、いずれの対照抽出物中におけるインキュベーションでも誘導されなかったことを意味する。予想される大きさ(467塩基対)のPCR産物は、入力核および入力刺激抽出物(図7から推定)、非刺激抽出物に曝露した核(核-USE)、および刺激抽出物に曝露後に100 μg/mlのDNAse Iではなく100 μg/mlのRNAse Aで処理してからRT-PCRを行った際には認められなかった。したがってIL-2 mRNAの検出はIL-2転写の結果であり、入力核または抽出物中へのRNAの混入によるものではなかった。IL-2転写には活発な核内移行が必要であった。というのは、IL-2の転写は、mAb414抗体、または0.5 mg/mlのコムギ胚芽凝集素で、刺激抽出物中で核孔の機能を阻害すると認められなくなったためである(図10A)。
【0110】
図5Bおよび図10Bからわかるように、インビトロにおけるIL-2 mRNAの産生はPolIIによる転写に依存する。このアッセイ法では、濃度を漸次上昇させたRNA PolIIインヒビターアクチノマイシンD (0 nM、5 nM、10 nM、50 nM、100 nMおよび500 nM)を含む刺激抽出物に核を30分間曝露し、IL-2 mRNAの合成をRT-PCRで解析した。対照として、IL-2を発現しない抗CD3で刺激したB細胞、線維芽細胞、およびHeLa細胞の抽出物を対象に、休止期T細胞の核内におけるIL-2発現の誘導能力を検討した。予想通り、これらの抽出物はIL-2の発現を誘導しなかった。図5A〜図5Cの矢印は、458塩基対のIL-2 RT-PCR産物を示す。
【0111】
核の再プログラムを示す厳密な指標として、IL-2遺伝子の活性化を、初代ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)、NT2ニューロン前駆細胞、およびHeLa細胞から、刺激抽出物中におけるインキュベーションの2時間後に精製した核でモニタリングした。RT-PCR解析から、刺激抽出物が、すべての細胞型の核内のIL-2遺伝子を活性化することがわかった。これとは対照的に、非刺激抽出物はIL-2転写の誘導に無効であった(図10C)。IL-2の活性化は、それぞれ50 nM アクチノマイシンDおよびmAb414使用時には失われることから、RNA PolII活性および核内移行に依存していた(図10C)。また最後に、刺激抽出物に対するIL-2誘導の特異性の存在は、T細胞刺激を模した抗CD3抗体および架橋抗体で処理した293T線維芽細胞、HeLa内皮細胞、またはBjab B細胞の対照抽出物に曝露した休止期T細胞の核でIL-2が抑制されたままであることから明らかであった(図10D)。
【0112】
要約すると、以上の結果から、サイレント遺伝子の転写活性化から明らかな核の再プログラムが、精製された完全な核で誘導可能であることがわかる。IL-2遺伝子の発現は、生理的な核の取込み、および転写調節タンパク質の形成と一致した。NFAT、NFκB、およびAP-1が、分化反応そのものではなく増殖反応を反映する転写因子であることは注目に値する。染色質がリモデリングを受けることは、SWI/SNF複合体が核内で結合されること、またDNA依存性のATPの加水分解活性をもつことから明らかであった。SWI/SNF複合体はATP加水分解のエネルギーを用いてヌクレオソーム構造を変化させる。特に刺激抽出物は、同等量の免疫沈殿BRG1に由来する入力休止期T細胞核のATPase活性に対して同活性を8倍に強化した。したがってATPase活性の上昇は、刺激抽出物に曝露した核に含まれる沈殿したBRG1が大量である結果ではなく、SWI/SNFが活性化した結果である。アセチルトランスフェラーゼをその作用部位に標的化させる複合体が関与するIL-2の近位プロモーター領域のヒストンH4の過剰なアセチル化は、染色質モデリングが活発であることをさらに意味する。任意の特定の機構を制限する意図はないが、IL-2プロモーターのH4のアセチル化が、抑制状態の染色質から通常除外される転写活性化因子の結合を促進する場合があったり、転写因子の結合が染色質構造の変化を促す可能性があったりする。本明細書に記載された結果は、核の再プログラムが完全な核内でインビトロで生じる場合があることを意味する。以上の結果は、この過程に、染色質を再モデル化するタンパク質複合体の核内における活発な形成、ならびに転写調節因子の結合が関与することも意味する。
【0113】
実施例5:活性化T細胞抽出物を用いた線維芽細胞の再プログラム処理
実施例4に示すように、刺激T細胞抽出物は、293T線維芽細胞におけるT細胞特異的転写因子の核内局在を高めた。線維芽細胞をT細胞に再プログラムする能力について以下に詳述する。
【0114】
この試験では、実施例4に記載されるようにT細胞を健康なドナーの末梢血から精製した(Skalheggら、Science 263:84〜87、1994)。刺激T細胞から再プログラム用抽出物を調製するために、刺激後に細胞を液体窒素中で5〜10分かけて凍結させ、解凍し、氷冷溶解用緩衝液で洗浄し(Collasら、J.Cell Bio. 147:1167〜1180、1999)、400×gで沈降させた。ペレットは2倍容の溶解用緩衝液に再懸濁した。細胞および核は、先端超音波処理装置で破壊し、4℃で15,000×gで15分間遠心して溶解物を清澄化にした。上清は直ちに使用するか、または液体窒素で凍結させて-80℃で保存する。非刺激T細胞抽出物は、擬似(H2O)刺激T細胞から調製した。
【0115】
核の再プログラム反応は、100,000個の核、およびATP産生系(1 mM ATP、10 mM クレアチンリン酸、25 μg/ml クレアチンキナーゼ、および100 μM GTP)を含む20 μl、またはこの倍数の刺激T細胞抽出物、もしくは非刺激T細胞抽出物を含む。反応物は、特に明記しない限り30℃で30分間インキュベートした。インキュベーション完了後に、核を1 M ショ糖中に沈降させて精製した。あるいは、全RNAを反応混合物から抽出してRT-PCRに使用した。
【0116】
刺激T細胞抽出物に曝露した線維芽細胞核による転写因子群の活発な取込みは、ヌクレオポリンに反応して核孔の機能を阻害するモノクローナル抗体(M.Rout、Rockefeller University、New York、NY、USAから入手)が、転写因子群を核内に移行させる能力を低下させたことからさらに明らかであった(図11B、mAb414)。Oct-1は、293T入力核、および刺激T細胞抽出物または対照の非刺激T細胞抽出物に曝露した核で検出され(図11B)、複数の細胞型におけるDNA結合特性と一致した。刺激T細胞抽出物で処理した293Tの核の染色質および核マトリックスを対象としたイムノブロッティングの結果、NFAT、AP-1、NFκB、およびOct-1が染色質に主に結合することがことがわかった(図11C)。総合すると、以上のデータから、線維芽細胞の核によって転写調節因子が抽出物から生理的に取込まれることがわかる。
【0117】
ヒトヌクレオソームのリモデリング複合体SWI/SNFの核内結合についても調べた。T細胞を抗CD3抗体で刺激すると、SWI/SNF複合体の核内結合が誘導されることが、SWI/SNF複合体のマーカーであるBRG1に対する抗体を用いたTriton X-100可溶性および不溶性の核フラクションのイムノブロッティングによって確認された(図12A)。特にBRG1は、抗BRG1抗体(dilunstimulated T細胞抽出物、1:40)を用いて2.5時間かけてウサギIgGで事前に清澄化したミクロコッカルヌクレアーゼ(MNase)可溶性染色質から免疫沈殿を生じた。この免疫複合体をプロテインA-セファロースビーズを用いて沈殿させ、免疫沈殿緩衝液(Collasら、J.Cell Bio. 147:1167〜1180、1999)で3回洗浄し、SDS試料緩衝液に溶解した。ウエスタンブロットを抗体希釈率1:500で行った(Collasら、J.Cell Bio. 147:1167〜1180、1999)。80%を越えるSWI/SNFは結合状態で20分以内に、刺激T細胞抽出物で処理した293Tの核内に認められた。これとは対照的にSWI/SNFは、非刺激T細胞抽出物に曝露した核内に溶解したままであった(図12A)。
【0118】
またSWI/SNF複合体のATPase活性は、抗BRG1抗体を用いた複合体の免疫沈殿後に標準的なルシフェリン-ルシフェラーゼアッセイ法で決定した。293T入力核から、または非刺激T細胞抽出物で処理した核から精製したBRG1免疫沈殿物(「BRG1-IPs」)では、同アッセイ法におけるATPレベルの上昇をみる限り、ATPaseは全くみられないか、またはわずかに認められた(図12B)。しかし、刺激T細胞抽出物で処理した核から単離されたBRG1-IPは、ATPase活性の約8倍の上昇がみられ、同アッセイ法におけるATPレベルは2,500 RLUから300 RLUに低下した。免疫前IgGを用いた対照沈殿では活性は検出されなかった(図12B)。以上の結果は、刺激T細胞抽出物が、SWI/SNPヌクレオソームリモデリング複合体の核内結合を促進すること、また293Tの核内の結合状態の複合体のATPase活性を高めることを示している。
【0119】
遺伝子発現能力は、ヒストンH4の過剰なアセチル化と相関する場合が多い。核の再プログラムを示す別のマーカーとして、刺激T細胞抽出物および非刺激T細胞抽出物で処理した293Tの核のIL-2座位におけるH4アセチル化の変化を測定した。染色質免疫沈殿(ChIP)実験を、すべての状態のアセチル化H4に対する抗体を用いて行った(「acH4」、図12C)。特に完全な核を293T細胞、NT2細胞、および非刺激末梢血T細胞から、ダウンスホモジナイザーで単離して凍結保存した(Collasら、J.Cell Bio. 147:1167〜1180、1999)。可溶性染色質は、MNaseで消化で精製した核から調製し(O'NeillおよびTurner、Methods Enzymol. 274:189〜197、1996)、Triton X-100、DNAse、およびRNAse抽出による耐性構造で決定される核マトリックスは、文献に記載された方法で単離した(Steenら、J.Cell Biol. 149:531〜536、2000)。ChIPは、抗pan-アセチル化ヒストンH4抗体を用いた、0.1 U MNase/μg DNAによる染色質の可溶化後に行った(O'NeillおよびTurner、Methods Enzymol. 274:189〜197、1996)。抗体結合フラクションおよび未結合フラクションからフェノール-クロロホルム抽出法でDNAを単離し、IL-2座位をドットブロット解析で同定した。IL-2用プローブは、テンプレートとして、上述の手順でゲノムDNAからPCR増幅された467 bpのIL-2 PCR産物を用いてランダムプライミング(Amersham)で合成してフルオレセインを結合させた。ハイブリダイゼーションは化学発光法で検出した(Collasら、J.Cell Sci. 112:1045〜1054、1999)。β-アクチン用プローブは、文献の方法で合成して標識した(Collasら、J.Cell Sci. 112:1045〜1054、1999)。
【0120】
入力核、および非刺激T細胞抽出物中でインキュベートした核では、IL-2は抗acH4非結合染色質中でのみ検出され、IL-2座位のH4がわずかにアセチル化されていることがわかる(図12C)。これとは対照的にIL-2は、刺激T細胞抽出物で処理した核の抗acH4が結合する染色質で検出された。この結果は、これらの核内でIL-2座位におけるH4のアセチル化が強化されることを反映している(図12C)。予想されるように、構成的に発現されるβ-アクチン遺伝子用プローブで再びフィルターを選択すると、β-アクチン座位でH4が過剰にアセチル化されていることがわかった(図12C)。したがって刺激T細胞抽出物は、293Tの核内のIL-2座位におけるH4アセチル化の強化を招く。これは、生理的な染色質モデリングの証拠となる。
【0121】
核の再プログラムの、より厳密な別の指標が、刺激T細胞抽出物に曝露した293T線維芽細胞核におけるIL-2転写の誘導である(図12D)。Qiagen RNeasyキットで総RNAを単離し、15 ngのRNAをPromega Access RT-PCR Systemを用いたRT-PCRのテンプレートとして用いた。467 bpの産物をIL-2特異的プライマー5'-ATGTACAGGATGCAACTCCTGTCTT-3'(配列番号5)および5'-GTTAGTGTTGAGATGATGCTTTGAC-3'(配列番号6)を用いて、94℃における30秒間の変性、60℃における1分間のアニーリング、および72℃における1分間の伸長を30サイクル行って増幅した。RT-PCR解析の結果、IL-2遺伝子は、刺激T細胞抽出物では活性化されるが、非刺激T細胞抽出物では活性化されないことがわかった。上記の結果から予想されるように、IL-2転写物は、入力核、入力刺激T細胞抽出物、および100 μg/mlのRNAse A、mAb414、もしくは50 nMのRNA ポリメラーゼII (PolII)インヒビターであるアクチノマイシンDのいずれかを含む刺激T細胞抽出物に曝露した核では認められなかった(図12D)。同様の結果は、ニューロン前駆細胞NT2の核および休止期T細胞の核で得られた(図12D)。総合すると以上のデータは、刺激T細胞抽出物が、T細胞および非T細胞の核における染色質リモデリング、ならびに抑制状態のIL-2遺伝子のRNA PolII依存性の活性化を支持することを意味する。
【0122】
実施例6:浸透化細胞の再プログラム
精製核に加えて、細胞全体を再プログラムする能力は後述する手順で証明した。カバーガラス上で成長させた293T線維芽細胞を、細菌毒素ストレプトリシンOで可逆的に浸透化し、入手が容易な刺激されたジャーカット細胞、またはニューロン前駆細胞の抽出物に曝露し、2 mM CaCl2で再び閉じ、また培養して増殖させた。T細胞への再プログラムは、再プログラムされた293T線維芽細胞における遺伝子発現の変化、T細胞特異的タンパク質の発現、およびT細胞特異的機能の誘導によって評価した。ニューロン抽出物に曝露した、再プログラムされた293T線維芽細胞は、ニューロンタンパク質の発現について解析を行った。
【0123】
以上の試験では、293T線維芽細胞を、ポリ-L-リシンでコーティングされた16 mmのカバーガラス上で、RPMI1640中で、12ウェルプレート中で100,000細胞/カバーガラスとなるまで成長させた。細胞は、Ca2+を含まないハンクス平衡塩溶液(Gibco-BRL)を溶媒とする200 ng/mlのストレプトリシンOで、通常大気中で37℃で50分間かけて浸透化した。以上の条件で80%を越える293T細胞が浸透化したことが、ヨウ化プロピジウムの取込みによって判定された。ストレプトリシンOを吸引し、カバーガラス上に80 μlの293T抽出物、ジャーカットTAg抽出物、もしくはNT2抽出物のいずれかを重層し、CO2雰囲気下で37℃で1時間インキュベートした。各抽出物は、ATP産生系および各1 mMのATP、CTP、GTP、およびUTPを含むようにした。ジャーカットTAg細胞の抽出物は、40 ng/mlの抗CD3抗体(A.M.Rasmussen氏、Norwegian Radium Hospital、Montebello、Norwayから入手したクローンSpvT3d)および0.1 μMのPMAとの1〜2時間の同時刺激後に上述の方法で調製した。ニューロン前駆細胞NT2の抽出物は、コンフルエントなNT2細胞(Stratagene)から、上述した超音波処理および沈降法で調製した。形質膜を再び閉じるために、2 mMのCaCl2 (溶媒をH2Oとする1 Mストックから添加)を含むRPMI1640をウェルに添加し、細胞を37℃で2時間インキュベートした。この処理で約100%の浸透化細胞が再び閉じられた。Ca2+を含むRPMIをRPMIに交換したところ、細胞は数週間膨張した。
【0124】
ジャーカット抽出物に曝露した再プログラムされた線維芽細胞における転写レベルを、293T抽出物に曝露した293T細胞(「対照細胞」)における転写レベルと、再プログラム反応の10日後に比較した。375種のcDNAを含むヒトサイトカイン発現アレイを用いて、遺伝子発現の変化をモニタリングした。特にmRNAを、再プログラム処理後の10日目に液体窒素で凍結させた「再プログラム」された細胞ペレットおよび対照細胞ペレットから単離した(mRNA Direct(商標)、Dynal)。1 μgのmRNAを、製造業者のプロトコルによる、α-33P-dCTPおよびサイトカイン特異的プライマー(R&D Systems)を用いたcDNA合成(cDNA LabelingおよびHybridization Kit、R&D Systems)のテンプレートとして使用した。精製プローブは、「Human Cytokine Expression Arrays」(R&D Systems)と推奨条件下でハイブリッドを形成した。アレイでホスホスクリーンを6日間感光した。ハイブリダイゼーションをホスホイメージャーで定量し、Phoretix Array V.2解析ソフトウェアで解析した。
【0125】
再プログラムの結果、120種を越える遺伝子が上方制御または下方制御されていた(図13;2倍より大きく上方制御または下方制御された転写物のみを示す)。造血細胞の表面抗原、インターロイキンおよびインターロイキン受容体、サイトカインおよびサイトカイン受容体、ケモカインおよびケモカイン受容体、表皮成長因子、ならびにオーファン受容体をコードする遺伝子群が上方制御された。FGFファミリー、接着分子ファミリー、およびインテグリンファミリーの複数の遺伝子群は下方制御された。TGFβファミリーおよびTNFファミリーの複数の遺伝子群は、上方制御されるものもあれば下方制御されるものもあった。神経栄養因子の転写物は影響を受けず、ハウスキーピング遺伝子の発現も影響を受けなかった(図13)。同様の結果は、再プログラムの13日後に調べた別の反応の2枚のアレイで得られた。したがって造血系遺伝子群は、ジャーカット抽出物に曝露した293T細胞で発現されるか、または上方制御されるが、FGF、接着分子、および細胞骨格成分の遺伝子群は下方制御されるか抑制される。
【0126】
再プログラムされた線維芽細胞における造血系細胞特異的表面抗原の発現の評価も行った。IL-2RαおよびIL-2Rβの免疫蛍光解析を文献に記載された手順で行った(Collasら、J.Cell Bio. 147:1167〜1180、1999;抗IL-2Rα抗体およびIL-2Rβ抗体はR&D Systemsから入手した)。他の表面抗原の解析は、FITC結合一次抗体またはTRITC結合一次抗体を用いて行った(FITCを結合した抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、および抗CD45抗体はDiatecから入手し、FITCを結合した抗TCRαβ抗体はPharmingenから入手した)。免疫蛍光解析の結果、大部分の再プログラムされた細胞で、再プログラムの4日後までにCD3、CD4、およびCD8が検出され、またCD45チロシンホスファターゼは再プログラムの11日後まで検出されたが、対照細胞では検出されなかった(図14A)。またTCR複合体のα鎖およびβ鎖は、再プログラムされた線維芽細胞で発現されることが、TCRαβに対する抗体を用いた蛍光抗体法標識法でわかった(図14B)。
【0127】
再プログラムされた線維芽細胞で免疫細胞の表面受容体が発現されたことから、再プログラムの機能面を調べることとした。非刺激T細胞は、低親和性のIL-2受容体β(IL-2Rβ)を発現する。高親和性のIL-2Rは、TCR-CD3複合体刺激によるIL-2Rαの誘導を必要とする。IL-2RαのTCR-CD3依存性の誘導は、正常なTCR機能の指標となる。図14Cは、再プログラムされた線維芽細胞が、刺激の非存在下でIL-2Rβを発現し、IL-2Rαを発現しなかったことを示す。また再プログラムされた細胞では、オーバーレイ像からわかるように、抗CD3および酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)による刺激が、IL-2Rβと共存するIL-2Rαの発現を誘導した(図14C、「+刺激」)。同様の結果は、抽出物の調製に使用されたジャーカット細胞で得られた(図14C)。予想されるように、対照線維芽細胞を刺激してもIL-2Rαは有意に誘導されなかった。総合すると、以上の結果から、再プログラムされた細胞では、機能性の免疫特異的受容体が発現することがわかる。
【0128】
インビトロにおける細胞の再プログラム処理を一般的に応用できることを示すため、浸透化された線維芽細胞を、ジャーカット抽出物について既に説明したように、NT2の細胞質抽出物および核抽出物に37℃で1時間曝露した。細胞を再び閉じ、RPMI1640中で低コンフルエンシーで15日間培養した。次に、ニューロフィラメントタンパク質NF200 (Debusら、Differentiation 25:193〜203、1983)の発現を免疫蛍光法で調べた。NF200は、NT2抽出物に曝露した線維芽細胞では強く発現されたが、対照となる293T線維芽細胞抽出物に曝露した細胞では発現されなかった(図15)。またNF200は、培養中に近傍の細胞と接触することのある伸長途上の神経突起に似た、線維芽細胞に由来する、極性をもつ成長に制限されるようであった。以上のデータは、ニューロン特異的タンパク質が、このような再プログラム条件下で線維芽細胞で発現可能であることを意味する。
【0129】
要約すると、以上の結果は、別の体細胞型の核抽出物および細胞質抽出物を用いると、体細胞が機能的に再プログラムグされることを意味する。以上の実験から、異種体細胞型の抽出物に曝露することで、体細胞の線維芽細胞において、抑制された遺伝子群および他の細胞型に特異的なタンパク質の合成が活性化されることがわかる。線維芽細胞のゲノム機能が、T細胞またはジャーカットTAgの抽出物で再プログラムされることは、核の生理的な取込み、転写調節タンパク質の形成、染色質のリモデリング、リンパ系特異的遺伝子群の活性化、一部の遺伝子群の下方制御、CD3およびTCRを含むT細胞特異的抗原の発現、ならびにCD3-TCR刺激に応じたIL-2R形成経路の確立によって明らかである。またニューロフィラメントタンパク質は、ニューロン前駆細胞抽出物に曝露した線維芽細胞で発現された。一次培養物に由来する分化した体細胞のインビトロにおける再プログラムは、同質遺伝子的な、または実質的に同質遺伝子的な交換用細胞を治療目的で作製する可能性を広げる。
【0130】
実施例7:幹細胞を作るための再プログラム
後述するように、胚幹細胞抽出物を用いて、浸透化されたマウス線維芽細胞を再プログラムした。同様の方法で、他の線維芽細胞(例えばヒトの皮膚線維芽細胞)などの他の細胞を再プログラムすることができる。
【0131】
簡単に説明すると、マウスの胚幹細胞を、白血病抑制因子(LIF)の存在下で、フィーダー層を用いることなく標準的な手順で培養した。胚幹細胞用の再プログラム用抽出物は以下の手順で調製した。胚幹細胞を回収し、PBSで3回洗浄し、上述の氷冷した細胞溶解用緩衝液で1回洗浄し、細胞ペレットを等容量の細胞溶解用緩衝液に再懸濁した。懸濁液を、すべての細胞および核が破壊されるまで氷上で超音波処理した。結果として得られた溶解物を4℃で15,000×gで15分間遠心した。上清(「再プログラム用抽出物」)は新鮮な状態で使用するか、または小分けして、液体窒素で瞬間凍結して使用時まで-80℃で保存した。
【0132】
形質転換した線維芽細胞系列であるマウスのNIH3T3細胞を、ポリ-L-リシンでコーティングした12 mmの円形のカバーガラス上で、約50,000細胞/カバーガラスの密度になるまで成長させた。細胞を上記の手順でストレプトリシンOにより浸透化した。ストレプトリシンOを穏やかに吸引して除去し、ATP産生系およびヌクレオチドを含む80 μlのマウス胚幹細胞抽出物と交換した。細胞は、通常大気圧下で抽出物中で37℃で1時間インキュベートした。2 mMのCaCl2を含む培地(500 μl)を細胞に直接添加し、続けてCO2インキュベーター内で37℃で2時間かけて再び閉じた。CaCl2を含む培地を除去し、LIFを含む通常の胚幹用培地と交換した。
【0133】
再プログラムされたNIH3T3細胞を培養し、再プログラム処理後の4日目に調べた。位相差顕微鏡解析の結果、細胞が凝集状態で成長し、胚幹細胞によって形成されるものに似た「コロニー」を形成することがわかった(図16Aと図16Bを比較されたい)。図16Bに示したような大きなコロニーの一部は培養ディッシュから浮き上がり、胚様体を形成した。これとは対照的に、ストレプトリシンOで浸透化されて、対照NIH3T3抽出物に曝露した対照線維芽細胞はコロニーを形成せず、典型的な線維芽細胞の表現型を維持した(図16Bと図16Aの入力NIH3T3細胞を比較されたい)。同様に、胚細胞抽出物に曝露した、対照の完全(浸透化されていない)NIH3T3細胞は、胚細胞の表現型を獲得しなかった(図16B)。再プログラムされた細胞の胚幹細胞の形態は培養中で少なくとも10日間みられた。
【0134】
再プログラム用の分子マーカーとして、再プログラムされた細胞を対象に、Oct4遺伝子産物であるOct4の発現を調べた。Oct4の発現は生殖細胞、幹細胞、着床前の胚、および初期着床後胚のエピブラストに特有である。したがってOct4の発現は、多能性細胞または全能性細胞を同定するための有用なマーカーとなる。Oct4発現を、再プログラムの4日後に、市販の抗Oct4抗体(Santa Cruz Biotechnology)を用いた免疫蛍光法でモニタリングした。図17Aは、入力胚幹細胞が明瞭に抗Oct4抗体で標識されたことを示している。予想されるように、NIH3T3線維芽細胞は標識されなかった(図17A)。胚幹細胞抽出物で再プログラムされたNIH3T3細胞は抗Oct4抗体で標識された。これとは対照的に、対照NIH3T3抽出物に曝露したNIH3T3細胞、または胚幹細胞抽出物に曝露した完全なNIH3T3細胞(図17A)は抗Oct4抗体で標識されなかった。この結果から、再プログラムされた細胞が、胚幹細胞特異的転写因子であるOct4を発現することがわかる。
【0135】
免疫蛍光法で得られた結果はウエスタンブロッティング解析で検証した。図17Bは、入力NIH3T3細胞(「NIH」)がOct4を発現しない一方で、胚幹細胞抽出物に曝露したNIH3T3細胞(「NIH/ES ext.」)は高レベルのOct4を発現したことを示す。発現レベルは、抽出物の調製に使用した胚幹細胞(図17B、「ES」)のレベルと同等であった。NTH3T3細胞抽出物に曝露した対照NIH3T3細胞は、予想通りOct4を発現しなかった(図17B)。50,000個のNIH3T3細胞、および10,000個の胚幹細胞、ならびに再プログラムされた細胞を図17Bに示すようにイムノブロットに使用した。
【0136】
新規の迅速で高感度の半定量的アッセイ法を開発して、胚幹細胞および再プログラムされた細胞における別の胚幹細胞マーカーであるアルカリホスファターゼを測定した。このアッセイ法は、胚幹細胞、NIH3T3抽出物に曝露したNIH3T3細胞、胚幹細胞抽出物に曝露した完全NIH3T3細胞、またはニトロセルロースメンブレン、もしくは他の任意の適切な固相支持体上で任意に選択される細胞の1〜2 μlのTriton X-100可溶性溶解物のスポッティングに基づく。被験スポットは、他のスポットとの比較を可能とするために既知のタンパク質濃度であるか、または既知の細胞数に由来する。望ましいならば、既知量のアルカリホスファターゼを含むアリコート、または既知レベルのアルカリホスファターゼ活性を有するアリコートもフィルター上にスポットして標準スポットとすることができる。このようなメンブレンはTris緩衝食塩水で湿らせて乾燥させた。アルカリホスファターゼを結合したDNAプローブをサザンブロット上で検出するように通常通りに設計した検出用溶液をアプライして、アルカリホスファターゼを検出した(Alk-Phos Direct検出用溶液、Amersham)。アルカリホスファターゼは、検出用溶液に含まれる基質を脱リン酸化して光を放出する。メンブレンの水分を除去し、フィルムを感光させた。被験試料を、メンブレン以外の固相支持体(96ウェルプレートなど)にアプライする場合は、96ウェルプレートでフィルムを感光させるか、またはアルカリ性リン酸検出反応による放出光をCCDカメラで測定する。胚幹細胞溶解物のアルカリホスファターゼは、フィルム上で検出される光のスポットを出現させたが、NIH3T3細胞溶解物のアルカリホスファターゼは出現させなかった(図18)。また、胚幹細胞抽出物で再プログラムされた浸透化NIH3T3細胞はアルカリホスファターゼを有していたが、対照細胞は有していなかった(図19)。
【0137】
被験スポット中のアルカリホスファターゼの量は、被験スポットのシグナルを、標準スポットのシグナルと、またはアルカリホスファターゼのレベルを上昇させていった一連の標準スポットのシグナル(例えば標準曲線となる)と比較することで決定することができる。被験スポットを得る際に使用されるタンパク質の濃度または細胞数(例えばアルカリホスファターゼタンパク質のmg単位)は、元の被験細胞または試料のアルカリホスファターゼのレベルの推定に使用することができる。
【0138】
再プログラムされた細胞を、標準的な胚幹培養法でLIF添加培地を用いて継代して4日目にプレートを交換した。しかし、再プログラムの10日後に、Oct4の発現レベルは再プログラムされた細胞で大きく低下した。この細胞は、再プログラム反応後に獲得した典型的な胚幹細胞のコロニーの形態も失った。この結果は、(i)細胞が一過的な再プログラムを受けたこと、すなわち再プログラム因子群が、再プログラムされた細胞の分裂に伴い希釈されて活性をもたなくなったこと、(ii)再プログラムされた胚幹細胞が線維芽細胞に自発的に分化したこと、または(iii)真に再プログラムされた胚幹細胞が喪失し、混入した再プログラムされていない線維芽細胞が胚幹細胞の成長を上回って培養物中に留まったこと、のいずれかの結果である可能性がある。望ましいならば、Oct4および他の幹細胞特異的タンパク質の発現は、複数回の再プログラムを行うことで、再プログラムされた細胞で長期間維持される場合がある。また浸透化細胞を、再プログラムの各ラウンド中に幹細胞抽出物に長期間曝露することができる。別の核因子を上述のように幹細胞抽出物に加えることで再プログラムを最大化することもできる。
【0139】
総合すると以上のデータは、胚幹細胞抽出物に曝露したNIH3T3細胞が胚幹細胞の表現型を獲得し、Oct4を発現し、またアルカリホスファターゼを発現することを意味する。
【0140】
他の態様
以上の説明から、さまざまな用途および条件に採用するため、本明細書に記載された本発明の変更および変形がなされる場合があることは明らかである。このような態様も特許請求の範囲に含まれる。
【0141】
本明細書で言及されたすべての出版物は、個々の独立した出版物または特許出願が、具体的かつ個別に参照として組み入れられると指定されるのと同程度に参照として組み入れられる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、細胞の運命の変化に関連したいくつかの利点を提供する。例えば、このような方法は一般に、任意の所望の細胞型の細胞を作製する際に応用することができる。このような方法には、核、染色質塊、または浸透化細胞を再プログラム用培地(例えば細胞抽出物)中でインキュベートして、再プログラムを可能とする段階が含まれるので、再プログラム効率は、再プログラムを促す因子群を再プログラム用培地に付加することによって、または再プログラムを抑える因子群を除去することによって上昇させることができる。再プログラムされた細胞は、特定の細胞型の損傷もしくは欠損が関与する状態の治療または予防を目的として哺乳類に移植することができる。望ましいならば、再プログラムされた細胞は、標準的な分子生物学的手法で操作することで、細胞をレシピエント哺乳類に投与する前に、疾患の原因となる変異を修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】抗CD3抗体で記載の時間刺激したヒトT細胞によって合成されたIL-2のmRNA量を示すゲル。レーン「30c」、「60c」、および「120c」は、擬似刺激T細胞を意味する。
【図2】休止期T細胞から精製した核。
【図3】図3Aは、無細胞再プログラム用抽出物中における核の取込み、およびT細胞特異的転写因子NFATの結合の免疫蛍光解析。このアッセイ法では、休止期T細胞(「入力」核)から精製した核を、刺激T細胞に由来する再プログラム用抽出物と30分間インキュベートした。図3Bは、NFAT、c-Jun/AP1、NFκB、Oct1、およびMAPキナーゼ(Erk1およびErk2)の核への取込みを示すイムノブロット。刺激抽出物(「SE」)、非刺激T細胞から調製した対照抽出物(非刺激抽出物「USE」と表記)、またはヌクレオポリンに対するモノクローナル抗体を含む刺激抽出物(「SE+mAb414」)のいずれかでインキュベートした入力核(「入力」)および核を解析した。図3Cは、DNAに結合した転写因子のパーセンテージを示す棒グラフ(平均±標準偏差)。
【図4】図4Aは、緩衝液対照、非刺激抽出物、または刺激抽出物に30分間曝露して、ショ糖で沈降させたT細胞の核内における、染色質リモデリングSWI/SNF複合体とDNAの結合を示すイムノブロット。図4Bは、核保持アッセイ法で評価した、抽出物中で指定時間インキュベートした核内における、DNA結合状態のSWI/SNF複合体とDNA非結合状態のSWI/SNF複合体のパーセンテージを示すグラフ。SWI/SNF複合体は、抗BRG1抗体を用いたウエスタンブロットで可視化した。図4Cは、インビボにおける刺激T細胞中でSWI/SNF複合体が核に保持されることを示すイムノブロット。このアッセイ法では、T細胞を抗CD3抗体で30分間刺激し、可溶性でDNA結合状態のSWI/SNF複合体のフラクションを、図4Aに記載した手順で評価した。図4Dは、T細胞核のIL-2遺伝子がインビボおよびインビトロで過剰にアセチル化されていることを示すイムノブロット。MNAse可溶性染色質フラクションは、休止期T細胞および抗CD3で刺激したT細胞から調製した。このイムノブロットから、IL-2プローブおよび対照β-アクチンプローブが、抗アセチル化ヒストンH4(H4ac)プローブによる染色質フラクション(「結合」)の免疫沈殿に由来するDNAと結合すること、ならびに上清(「未結合」)フラクションに含まれるDNAと結合することがわかる。
【図5】図5Aは、無細胞抽出物中におけるIL-2 mRNAの合成を示すゲル。休止期T細胞核(「入力核」)を、非刺激抽出物、または刺激抽出物中で30℃で30分間インキュベートした。対照として、100 μg/ml RNAse A、100 μg/ml DNAse I、mAb414抗体、またはレクチンWGAのいずれかを含む刺激抽出物中で核をインキュベートした。図5Bは、インビトロにおけるIL-2 mRNAの産生がPolIIによる転写に依存することを示すゲル。RNA PolIIインヒビターであるアクチノマイシンDを次第に高濃度になるように(0 nM、5 nM、10 nM、50 nM、100 nM、および500 nM)含む刺激抽出物に核を30分間曝露し、IL-2 mRNAの合成を転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で解析した。図5Cは、IL-2 mRNAの産生が、抗CD3抗体で処理したT細胞抽出物に曝露した核では誘導されたが、B細胞系列Reh、ヒト293T線維芽細胞、もしくはHeLa細胞に由来する抗CD3抗体処理抽出物に曝露しても誘導されなかったことを示すゲル。図中の矢印は、467塩基対のIL-2 RT-PCR産物を示す。
【図6】図6Aは、図3Aで説明したように、刺激T細胞抽出物とインキュベートしたB細胞系列Reh、293T線維芽細胞、もしくはHeLa細胞の核に、T細胞特異的転写因子NFATが取込まれること、また結合することを示す免疫蛍光解析。図6Bは、図3Bで説明したように、これらの核によるNFAT、c-Jun/AP1、およびNFκBの核への取込みを示すイムノブロット。
【図7】抗CD3抗体で刺激したヒト末梢血T細胞中におけるIL-2 mRNA合成のRT-PCR解析を示すゲルの写真。指定時間で細胞を溶解して全RNAを単離し、IL-2特異的プライマーを用いてRT-PCR解析を行った。擬似(H2O)刺激細胞は、30分、60分、および120分の時点(「30c」、「60c」、「120c」)で解析した。
【図8】図8A〜図8Dは、刺激T細胞抽出物中におけるIL-2遺伝子の転写活性化因子の核への取込み、および染色質結合を示す写真およびグラフ。図8Aは、休止期T細胞(「入力核」)から精製し、刺激抽出物中で30分間インキュベートした核の写真。核の完全性は、位相差顕微鏡と、10 μg/mlの脂質親和性色素DiOC6による膜標識法で評価した(バー、10 μm)。図8Bは、入力休止期T細胞の核(「入力核」)、入力非刺激抽出物、および入力刺激抽出物中におけるNFAT、AP-1、NFκB、Oct-1、Erk、および外因性BSA-NLSコンジュゲートの相対レベルを示すイムノブロットの写真。これらの因子の核への取込みは、刺激抽出物、非刺激抽出物、または核孔阻止抗体mAb414を含む刺激抽出物に曝露した核内で調べた。ブロットは、ゲルローディング用対照として抗ヒストンH4抗体をプローブとした処理も行った。図8Cは、非刺激抽出物または刺激抽出物に曝露した核内に輸送された転写因子が核内で結合することを示すイムノブロット解析のグラフ。核内における結合は、Triton X-100不溶性(「結合」)フラクションを対象とした核保持アッセイ法、およびイムノブロット解析で評価した。結合状態の因子群のパーセンテージ(平均±SD)は、2回のブロットを対象とした濃度測定解析で決定した。図8Dは、刺激抽出物に曝露した核から調製した核マトリックス(「Mtx」)フラクションおよび染色質(「Chr」)フラクションのイムノブロット解析の写真。NuMAおよびRNA PolIIoを、それぞれ核マトリックスと染色質のマーカーとして使用した。抗NuMA抗体および抗PolIIo mAb CC3は、それぞれコンプトン(D.Compton)氏(Dartmouth Medical School、Hanover、NH、USA)およびビンセント(M.Vincent)氏(Universite Laval、Quebec、Canada)から供与された。
【図9】図9A〜図9Eは、刺激T細胞抽出物に曝露した休止期T細胞核における染色質リモデリング。図9Aは、刺激抽出物に曝露した核内に染色質リモデリング複合体SWI/SNFが結合することを示すゲル。精製した休止期T細胞核(「入力核」)を、細胞溶解用緩衝液(「緩衝液」)中、非刺激抽出物中、または刺激抽出物中で30分間インキュベートし、ショ糖で沈降させた。遊離状態および結合状態のSWI/SNFフラクションを対象に、抗BRG1抗体を使用した核保持アッセイ法、およびイムノブロッティング法で評価した。図9Bは、刺激抽出物または非刺激抽出物中における核のインキュベーション中に核保持アッセイ法で決定した結合状態のSWI/SNFのパーセンテージのグラフ。図9Cは、培養刺激T細胞中におけるSWI/SNFの核保持を示すゲル。T細胞を抗CD3抗体で刺激し、30分後に、SWI/SNFの核内結合フラクションおよび遊離フラクションを図9Aと同様に評価した。図9Dは、SWI/SNF複合体のATPase活性のグラフ。刺激抽出物または非刺激抽出物中における休止期T細胞核の30分間のインキュベーション後に、SWI/SNFを、抗BRG1抗体を用いて核溶解液から免疫沈殿させ、免疫沈殿(「BRG1-IP」)による1 nMの外因性ATP (「ATP+」)の加水分解を発光測定アッセイ法で決定した。対照沈殿生成は、免疫前IgG(「Pre-I IgG」)を用いて実施した。最上列はBRG1-IPの抗BRG1イムノブロットを示す。図に示すように、BRG1-IPは、100 μg/ml DNAse Iで15分間処理した後にアッセイ法を行った(「DNAse+」)。相対的なATPase活性を、対照の免疫前沈殿物のRLU (RLU=2,700、これを0とする)を差引いたアッセイ法における相対発光量(RLU)の平均(±SD)で表す。図9Eは、培養時およびインビトロにおいて、T細胞核中のIL-2プロモーターが過剰にアセチル化されることを示すゲル。ミクロコッカルヌクレアーゼ可溶性染色質(「入力」)は、非刺激(「非刺激」)T細胞、および抗CD3刺激(「刺激」)T細胞から調製した。AcH4を免疫沈殿させ、抗acH4沈殿物(「結合」)フラクションおよび上清(「非結合」)フラクションからDNAを単離した。DNAはドットブロットを行い、IL-2のプロモーターに特異的なプローブ、および対照β-アクチンプローブとハイブリッドを形成させた。
【図10】図10A〜図10Dは、無細胞抽出物中におけるT細胞および非T細胞の核によるIL-2 mRNAの転写を示すゲル。図10Aは、刺激抽出物(「核-SE」)中、または非刺激抽出物(「核-USE」)中でインキュベートした休止期T細胞核(「入力核」)による転写を示すゲル。対照として、100 μg/ml RNAse A、100 μg/ml DNAse I、mAb414、またはコムギ胚芽凝集素(「WGA」)のいずれかを含む刺激抽出物中で核をインキュベートした。インキュベーション終了時に、反応混合物から全RNAを単離し、15 ngを、IL-2特異的プライマーを用いたRT-PCRのテンプレートとして用いた。入力用刺激抽出物、およびIL-2産生T細胞から単離された1.2 μgの全RNAを含む刺激抽出物(「Pos. control SE」)を対照として解析した。図10Bは、インビトロにおけるIL-2 mRNAの合成がRNA PolIIに依存することを示すゲルの写真。休止期T細胞核を、0 nM、5 nM、10 nM、50 nM、100 nM、または500 nMのRNA PolIIインヒビターであるアクチノマイシンDを含む刺激抽出物に曝露した。IL-2 mRNAの合成は、インキュベーション完了後にRT-PCRで解析した。図10Cは、刺激抽出物中または非刺激抽出物中で2時間にわたって再プログラムされた初代HUVEC細胞、NT2細胞、およびHeLa細胞に由来する核による転写を示すゲル。対照として、100 μg/mlのRNAse A、mAb414、もしくは50 nMのアクチノマイシンD (「ActD」)のいずれかを含む刺激抽出物中で核をインキュベートした。全RNAを単離し、IL-2 RNA合成をRT-PCRで調べた。図10Dは、刺激抽出物中で、または293T細胞、HeLa細胞、もしくはBjab細胞の抽出物(いずれもT細胞刺激を模して各細胞型を抗CD3抗体および架橋抗体で処理後に調製)中で2時間インキュベートした休止期T細胞核による転写を示すゲルの写真。各抽出物中におけるIL-2 mRNAの合成はRT-PCRで解析した。
【図11】図11A〜図11Cは、刺激T細胞抽出物に曝露した293T線維芽細胞核中におけるIL-2遺伝子の転写活性化因子の核内移行および染色質結合。図11Aは、293T線維芽細胞(0分)から精製し、刺激T細胞抽出物中でインキュベートした核の写真。NFATの取込みは蛍光抗体法で調べた(バー、10 μm)。図11Bは、刺激T細胞抽出物、非刺激T細胞抽出物、または刺激T細胞抽出物およびmAb414のいずれかに曝露した入力293Tの核および293Tの核によるNFAT、AP-1、NFκB、Oct-1、およびBSA-NLSの取込みを示すイムノブロット解析の図。抗ヒストンH4抗体をローディング用対照として使用した。図11Cは、刺激T細胞抽出物で処理した293Tの核から調製した核マトリックス(「Mtx」)フラクションおよび染色質(「Chr」)フラクションを示すイムノブロットの写真。
【図12】図12A〜図12Eは、刺激T細胞抽出物における染色質リモデリングおよびIL-2遺伝子の活性化。図12Aは、ヒトSWI/SNF複合体が核内に結合されることを示すゲル。イムノブロットの左側では、休止期(「-」)T細胞または抗CD3刺激(「α-CD3」)T細胞から核を単離し、核内で遊離状態および結合状態のSWI/SNFは、抗BRG1抗体を用いた、界面活性剤に可溶性および不溶性の核フラクションのイムノブロッティングで評価した。イムノブロットの右側では、遊離状態のSWI/SNFフラクションおよび結合状態のSWI/SNFフラクションを、刺激T細胞抽出物中でインキュベートしてショ糖で沈降させた293Tの核中で可視化した。図12Bは、2回のブロットを対象とした濃度測定解析に基づく、刺激T細胞抽出物または非刺激T細胞抽出物に曝露した293Tの核に含まれる結合状態のSWI/SNFの割合(%)を示すグラフ。図12Cは、SWI/SNF複合体のATPase活性のグラフ。293Tの核を、刺激T細胞抽出物または非刺激T細胞抽出物に曝露後、抗BRG1抗体を用いて核溶解液からSWI/SNFを免疫沈殿させ、免疫沈殿(「BRG1-IP」)による1 nMの外因性ATP(「ATP+」)の加水分解を発光測定アッセイ法で決定した。対照沈殿化は、免疫前IgG(「Pre-I IgG」)を用いて実施した。ATPレベルは平均(±SD)の相対発光量(RLU)で表す。ATPレベルの上昇は、BRG1-IPのATPase活性が低いことを反映している。図12Dは、293T核中においてIL-2座位が過剰にアセチル化されていることを示すイムノブロット。MNase可溶性染色質を入力293Tの核(「入力N」)から調製し、また核は非刺激T細胞抽出物または刺激T細胞抽出物に曝露した。アセチル化されたH4を免疫沈殿させ、DNAを抗acH4沈殿物(「結合状態」)フラクション、および上清(「非結合」)フラクションから単離した。DNAのドットブロットを行い、IL-2プローブ(上)と、また対照β-アクチンプローブ(下)とハイブリッドを形成させた。図12Eは、IL-2遺伝子の転写を示す一連のゲルの写真。293T細胞、NT2細胞、および休止期T細胞の核を、非刺激T細胞抽出物(「核/UTE」)、または刺激T細胞抽出物(「核/STE」)中で2時間インキュベートした。対照として、核を、100 μg/ml RNAse A、mAb414、または50 nMのアクチノマイシンD (「ActD」)のいずれかを含む刺激T細胞抽出物中でインキュベートした。RNAを反応混合物から単離し、IL-2の転写をRT-PCRで調べた。
【図13】ジャーカットTAg抽出物中で再プログラムされた293T線維芽細胞の遺伝子発現が変化することを示すグラフ。刺激ジャーカットTAg抽出物中、または対照293T抽出物中でインキュベートした293T細胞中における相対的なmRNAレベルを、サイトカイン遺伝子発現アレイで比較した。バーは、再プログラム/対照プローブハイブリダイゼーションシグナル強度の比として測定した、ジャーカット抽出物で処理した細胞中における指定遺伝子群の転写の上昇倍率または低下倍率を示す。発現レベルが2倍以上に上昇した遺伝子、または低下した遺伝子を示す。異なる色背景は遺伝子群が異なることを意味する。
【図14】図14A〜図14Cは、ジャーカットTAg抽出物中で再プログラムされた293T線維芽細胞が、造血細胞のマーカーおよび機能を発現することを示す。図14Aは、対照293T抽出物(上段)、または刺激ジャーカットTAg抽出物(中段)、およびジャーカットTAg細胞(下段)に曝露し、指定のFITC結合抗体を用いた蛍光抗体法で解析した293T細胞の写真。CD3、CD4、CD8は、再プログラム処理後の4日目に検出され;CD45は、再プログラム処理後の11日目に検出された。PKAのCγサブユニット(「PKA-Cγ」)を正の対照として調べた。図14Bは、再プログラム処理後の11日目における抗TCRαβ抗体を用いた細胞の免疫蛍光解析の写真。DNAは、ヨウ化プロピジウムで標識した。図14Cは、再プログラム処理後の2日目に開始した、抗CD3抗体およびPMAで24時間刺激した各細胞型の写真。刺激細胞および非刺激細胞を、抗IL-2Rβ抗体(緑)および抗IL-2Rα抗体(赤)を用いた免疫蛍光法で解析した。ジャーカット細胞およびジャーカット細胞抽出物で処理した293T線維芽細胞の刺激では、IL-2-Rαの合成が誘導された。DNA(青)は、Hoechst 33342で標識した。合成後の像を示す(バー、10 μm)。
【図15】再プログラムされた細胞がニューロフィラメントタンパク質NF-200を発現することを示す、NT2抽出物中で再プログラムされた293T線維芽細胞の免疫蛍光解析の写真。NT2または対照293T抽出物で処理した線維芽細胞を、抗NF200抗体を用いた免疫蛍光法で再プログラム処理後の15日目に調べた。DNAはHoechst 33342で標識した(バー、10 μm)。
【図16】図16Aは、NIH3T3線維芽細胞およびマウスES細胞の形態を示す一連の写真。図16Bは、マウス胚幹細胞抽出物中で再プログラムされたNIH3T3線維芽細胞、NIH3T3抽出物中で擬似再プログラムされた線維芽細胞、およびES細胞抽出物に曝露した完全なNIH3T3細胞の形態を示す一連の写真。位相差顕微鏡で撮影した写真を示す(バー、20 μm)。
【図17A】図17A〜図17Bは、胚幹細胞抽出物中(「NIH/ES抽出物」;再プログラム処理後の4日目)で再プログラムされたNIH3T3細胞、胚幹細胞、およびNIH3T3線維芽細胞中におけるOct4のぞれぞれ免疫蛍光法およびイムノブロット解析の写真。対照NIH3T3細胞抽出物に曝露したNIH3T3細胞はOct4を発現していない(「NIH/NIH ext.」)。
【図17B】図17A〜図17Bは、胚幹細胞抽出物中(「NIH/ES抽出物」;再プログラム処理後の4日目)で再プログラムされたNIH3T3細胞、胚幹細胞、およびNIH3T3線維芽細胞中におけるOct4のぞれぞれ免疫蛍光法およびイムノブロット解析の写真。
【図18】マウス胚幹細胞中におけるアルカリホスファターゼ活性の検出を示す膜の写真。上段は、NIH3T3細胞の溶解物を含み、下段は胚幹細胞の溶解物を含む。2 μlおよび6 μlの溶解物をメンブレン上にアプライした(タンパク質濃度は約20 μg/μl)。
【図19】胚幹細胞抽出物中で再プログラムされたNIH3T3細胞中におけるアルカリホスファターゼ活性の検出を示すメンブレンの写真。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子発現が変化した細胞の作製方法であって、
(a)浸透化第1体細胞を、第2体細胞由来の間期細胞抽出物または有糸分裂細胞抽出物と一緒にインキュベートし、これによって、第1体細胞に遺伝子発現の変化が生じるステップであって、第2体細胞が第1体細胞と異なる細胞であり、該浸透化第1体細胞がその形質膜もしくはその形質膜の一部に複数の孔を有する細胞である、上記ステップ、および
(b)遺伝子発現の変化が生じた細胞を増殖させるステップ
を含む前記方法。
【請求項2】
前記遺伝子発現が変化した細胞を、該細胞の膜が再び閉じる条件下でインキュベートすることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記浸透化第1体細胞中で発現されない少なくとも5種のmRNAまたはタンパク質分子が、前記遺伝子発現が変化した細胞中で発現されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子発現が変化した細胞中で発現されない少なくとも5種のmRNAまたはタンパク質分子が、前記浸透化第1体細胞中で発現されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
第2体細胞が、上皮細胞、神経細胞、表皮細胞、角質細胞、造血細胞、メラニン形成細胞、軟骨細胞、B細胞、ジャーカット細胞、T細胞、赤血球、マクロファージ、単球、線維芽細胞または筋細胞であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第1体細胞を、界面活性剤または細菌毒素と一緒に完全細胞をインキュベートすることによって浸透化させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記細菌毒素がストレプトリシンO(Streptolysin O)であることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
第1体細胞または第2体細胞がヒト細胞であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記浸透化第1体細胞が間期細胞または有糸分裂細胞であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記浸透化第1体細胞または前記遺伝子発現が変化した細胞が未分化細胞であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記浸透化第1体細胞または前記遺伝子発現が変化した細胞が、上皮細胞、神経細胞、表皮細胞、角質細胞、造血細胞、メラニン形成細胞、軟骨細胞、B細胞、ジャーカット細胞、T細胞、赤血球、マクロファージ、単球、線維芽細胞、筋細胞、胚幹細胞または成体幹細胞であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子発現の変化が、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモンまたはサイトカインと関わることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
遺伝子発現が変化した細胞の作製方法であって、
(a)浸透化哺乳動物体細胞を、幹細胞由来の間期細胞抽出物と一緒にインキュベートし、これによって、該哺乳動物体細胞に遺伝子発現の変化が生じるステップであって、該浸透化哺乳動物体細胞がその形質膜もしくはその形質膜の一部に複数の孔を有する細胞である、上記ステップ、および
(b)遺伝子発現の変化が生じた細胞を増殖させるステップ
を含む前記方法。
【請求項14】
前記幹細胞が胚幹細胞であることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記幹細胞が、脳、血液、骨髄、膵臓または皮膚由来の成体幹細胞であることを特徴とする、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
前記哺乳動物体細胞が線維芽細胞であることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳動物体細胞または前記幹細胞がヒト細胞であることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記遺伝子発現が変化した細胞がアルカリホスファターゼを発現することを特徴とする、請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記遺伝子発現が変化した細胞がOct4を発現することを特徴とする、請求項13〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記遺伝子発現が変化した細胞が、胚幹細胞様コロニーを形成することを特徴とする、請求項13〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記遺伝子発現が変化した細胞が、胚様体を形成することを特徴とする、請求項13〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記遺伝子発現が変化した細胞を、該細胞の膜が再び閉じる条件下でインキュベートすることを特徴とする、請求項13〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記哺乳動物体細胞を、界面活性剤または細菌毒素と一緒に完全細胞をインキュベートすることによって浸透化させることを特徴とする、請求項13〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記細菌毒素がストレプトリシンO(Streptolysin O)であることを特徴とする、請求項23記載の方法。
【請求項25】
ステップ(b)においてインビトロでの培養によって細胞を増殖させることを特徴とする、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
細胞を細胞機能の持続的な変化を促す条件下で培養することを特徴とする、請求項25記載の方法。
【請求項27】
細胞を、抗原、インターロイキン、成長因子、サイトカイン、または他の細胞と共に培養することを特徴とする、請求項25または26記載の方法。
【請求項28】
細胞をマトリックスの存在下で培養することを特徴とする、請求項25〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
細胞をマトリックス表面に結合させるまたはマトリックス内に封入することを特徴とする、請求項28記載の方法。
【請求項30】
マトリックスが、コラーゲンマトリックス、炭素繊維、ポリビニルアルコールスポンジ、アクリルアミドスポンジ、フィブリン-トロンビンゲル、ヒアルロン酸ベースの重合体、または、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリグリコール酸もしくはこれらの組み合わせを含む合成重合体マトリックスであることを特徴とする、請求項28または29記載の方法。
【請求項1】
遺伝子発現が変化した細胞の作製方法であって、
(a)浸透化第1体細胞を、第2体細胞由来の間期細胞抽出物または有糸分裂細胞抽出物と一緒にインキュベートし、これによって、第1体細胞に遺伝子発現の変化が生じるステップであって、第2体細胞が第1体細胞と異なる細胞であり、該浸透化第1体細胞がその形質膜もしくはその形質膜の一部に複数の孔を有する細胞である、上記ステップ、および
(b)遺伝子発現の変化が生じた細胞を増殖させるステップ
を含む前記方法。
【請求項2】
前記遺伝子発現が変化した細胞を、該細胞の膜が再び閉じる条件下でインキュベートすることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記浸透化第1体細胞中で発現されない少なくとも5種のmRNAまたはタンパク質分子が、前記遺伝子発現が変化した細胞中で発現されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子発現が変化した細胞中で発現されない少なくとも5種のmRNAまたはタンパク質分子が、前記浸透化第1体細胞中で発現されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
第2体細胞が、上皮細胞、神経細胞、表皮細胞、角質細胞、造血細胞、メラニン形成細胞、軟骨細胞、B細胞、ジャーカット細胞、T細胞、赤血球、マクロファージ、単球、線維芽細胞または筋細胞であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第1体細胞を、界面活性剤または細菌毒素と一緒に完全細胞をインキュベートすることによって浸透化させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記細菌毒素がストレプトリシンO(Streptolysin O)であることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
第1体細胞または第2体細胞がヒト細胞であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記浸透化第1体細胞が間期細胞または有糸分裂細胞であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記浸透化第1体細胞または前記遺伝子発現が変化した細胞が未分化細胞であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記浸透化第1体細胞または前記遺伝子発現が変化した細胞が、上皮細胞、神経細胞、表皮細胞、角質細胞、造血細胞、メラニン形成細胞、軟骨細胞、B細胞、ジャーカット細胞、T細胞、赤血球、マクロファージ、単球、線維芽細胞、筋細胞、胚幹細胞または成体幹細胞であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子発現の変化が、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストン、核ラミン、活性化因子、抑制因子、成長因子、ホルモンまたはサイトカインと関わることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
遺伝子発現が変化した細胞の作製方法であって、
(a)浸透化哺乳動物体細胞を、幹細胞由来の間期細胞抽出物と一緒にインキュベートし、これによって、該哺乳動物体細胞に遺伝子発現の変化が生じるステップであって、該浸透化哺乳動物体細胞がその形質膜もしくはその形質膜の一部に複数の孔を有する細胞である、上記ステップ、および
(b)遺伝子発現の変化が生じた細胞を増殖させるステップ
を含む前記方法。
【請求項14】
前記幹細胞が胚幹細胞であることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記幹細胞が、脳、血液、骨髄、膵臓または皮膚由来の成体幹細胞であることを特徴とする、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
前記哺乳動物体細胞が線維芽細胞であることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳動物体細胞または前記幹細胞がヒト細胞であることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記遺伝子発現が変化した細胞がアルカリホスファターゼを発現することを特徴とする、請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記遺伝子発現が変化した細胞がOct4を発現することを特徴とする、請求項13〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記遺伝子発現が変化した細胞が、胚幹細胞様コロニーを形成することを特徴とする、請求項13〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記遺伝子発現が変化した細胞が、胚様体を形成することを特徴とする、請求項13〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記遺伝子発現が変化した細胞を、該細胞の膜が再び閉じる条件下でインキュベートすることを特徴とする、請求項13〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記哺乳動物体細胞を、界面活性剤または細菌毒素と一緒に完全細胞をインキュベートすることによって浸透化させることを特徴とする、請求項13〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記細菌毒素がストレプトリシンO(Streptolysin O)であることを特徴とする、請求項23記載の方法。
【請求項25】
ステップ(b)においてインビトロでの培養によって細胞を増殖させることを特徴とする、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
細胞を細胞機能の持続的な変化を促す条件下で培養することを特徴とする、請求項25記載の方法。
【請求項27】
細胞を、抗原、インターロイキン、成長因子、サイトカイン、または他の細胞と共に培養することを特徴とする、請求項25または26記載の方法。
【請求項28】
細胞をマトリックスの存在下で培養することを特徴とする、請求項25〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
細胞をマトリックス表面に結合させるまたはマトリックス内に封入することを特徴とする、請求項28記載の方法。
【請求項30】
マトリックスが、コラーゲンマトリックス、炭素繊維、ポリビニルアルコールスポンジ、アクリルアミドスポンジ、フィブリン-トロンビンゲル、ヒアルロン酸ベースの重合体、または、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリグリコール酸もしくはこれらの組み合わせを含む合成重合体マトリックスであることを特徴とする、請求項28または29記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−142278(P2009−142278A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316566(P2008−316566)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【分割の表示】特願2002−558469(P2002−558469)の分割
【原出願日】平成13年12月11日(2001.12.11)
【出願人】(000001029)協和発酵キリン株式会社 (276)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【分割の表示】特願2002−558469(P2002−558469)の分割
【原出願日】平成13年12月11日(2001.12.11)
【出願人】(000001029)協和発酵キリン株式会社 (276)
【Fターム(参考)】
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