説明

細胞を単離する方法

本発明は、細胞の試料からの単離のための方法およびキットに関する。試料を、少なくともMgClを含む抽出溶液および/または好ましくは生存細胞の単離をもたらすイオン性液体で処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料からの細胞単離のための方法およびキットに関する。試料を、好ましくは生存細胞(viable cells)の単離をもたらす、少なくともMgClを含む抽出溶液および/またはイオン性液体で処理する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
細胞の同定もしくは特徴づけのための、または単にさらなるプロセシングのための複合試料(complex samples)からの細胞の単離は、ますます重要になっており、それは、特に、試料、例えば食物試料または血液、組織もしくは糞便のような臨床的試料のような試料における病原体の同定である。しかし、試料中に含まれる細胞を明確に同定するため、また任意に定量するためには、それらの単離のための方法を提供しなければならない。
【0003】
リアルタイムPCRは、一般的に分子生物学における定量的手段としての、ならびに微生物、特に病原体の定量および同定のためのPCRの適用分野を大幅に増強した。リアルタイムPCRによって、PCR反応あたり1種まで低減された単一の核酸標的の信頼可能な検出および定量が可能になるが、高度に精製された鋳型DNAが必要である。特に、食物のような複雑な環境における細菌の常習的な診断および定量的検出であった場合には、これら環境の構成要素によって引き起こされた阻害効果が、PCR反応に影響するかまたはさらに阻害し得るため、これらの必要条件は重要な役割を果たす。
【0004】
さらに、複合試料、例えば食物からの標的生物の単離に用いる、信頼可能で、効率的な回収方法を用いることが、重大である。食物のような試料は一般的に大きい試料容積を含むため、通常は微生物学的方法を、微生物の単離および濃縮のために用いる。これらの方法は、「絶対的標準(golden standard)」方法を表し、それらと比較して新たな代替の技術を評価しなければならない。
【0005】
リアルタイムPCRおよび微生物の下流解析(downstream analysis)のための他の分子的方法の厳しい必要条件を満たす、食物からの微生物、例えば細菌の分離のための方法を確立する主要な努力がなされた。
【0006】
また、DNAの食物からの直接的な単離が、分子生物学において一般的に用いられているDNA単離方法を用いて試行された。他の方法は、生体分子の微生物の表面構造に対する親和性を利用し、これによって前記生体分子は、任意に磁気ビーズ、シラン化(silanized)ガラススライドまたは直接的コロニーブロットと組み合わせた、例えば抗体、ファージからの細菌結合タンパク質および抗菌ペプチド(AMP)であり得る。例えば、リステリア菌(Listeria monocytogenes)の直接的検出のために、水性二相分離系を用いることができる(Lantz et al. Appl Environ Microbiol. (1994) 60:3416-3418)。
【0007】
浮遊密度勾配遠心分離が、細菌の食物マトリックスからの分離のための手段として報告されている(Wolffs P . et al .Appl Environ Microbiol. (2005) 71:5759-5764)。他の方法は、物理的分離、例えば単なる遠心分離および濾過に基づく。プロテイナーゼKおよびプロナーゼを用いた食物マトリックスの酵素的消化ならびに/またはグアニジンチオシアネート/フェノール/クロロホルム、ジエチルエーテル/クロロホルムおよびクエン酸ナトリウム/ポリエチレングリコールを用いた、食物からの細菌の化学的抽出を適用する方法もまた、記載されている。細胞、特に微生物を複合試料から単離するための現行の方法は、例えばStevens KA and Jaykus L-A (Crit Rev Microbiol (2004) 30:7-24)に記載されている。
【0008】
これらの方法のほとんどは、処理された試料容積の不適切な大きさ、高い検出限界、低い回収率、生存細胞の定量的でない単離、時間を消費する手順および高いコストのような欠点を有する。さらに、これらの方法の適用は、ほとんどの場合において1種、または限定された数の異なる食物マトリックスのみに限定されている。(i)大きい試料容積、(ii)広範囲の標的濃度にわたる再現可能な回収率および(iii)下流解析のための代替の分子的方法を補助するための阻害剤の除去である、食物中の細菌の直接的な定量のための必要条件に基づいて、細胞および微生物、例えば食物病原体であるリステリア菌の分離のための新たなプロトコルを、提供しなければならない。
【0009】
WO 2008/017097には、細胞を食料のような複合マトリックスから単離する方法が開示されている。この方法は、カオトロピック剤を界面活性剤と組み合わせて含む抽出緩衝液を用いる。
【0010】
食物分析における他の重要な問題は、汚染細菌の生存能力の決定である。現在まで、ほとんどの方法は、生存可能な細菌細胞と死滅した細菌細胞とを区別することができない。多くの場合における食物試料の複合マトリックスを溶解することに加えて、そのような試料から単離するべき細胞の生存能力に対して負の影響を及ぼす溶解条件が必要とされる。この問題によって、例えば食物分析における常習的なモニタリングのためのPCR方法を用いる利点が低減される。一方で、数種の細胞は抽出中に死滅し、他方抽出の前に試料中にすでに存在していた、代謝的に傷害を受けたか、または生存可能ではない細胞もまた抽出され、決定されるが、それらは、試料の質に対してさらなる影響を有しない。
【0011】
O.F. D’Urso et al., Food Microbiology 26 (2009) 311-316は、生存細胞を単離するための濾過に基づく方法を開発した。この方法において用いられる緩衝液は、大量のカオトロープグアニジンチオシアネートを含み、それが、下流のプロセスをしばしば妨げ、したがって複雑な洗浄手順を伴って除去しなければならない。
【0012】
したがって、生存細胞を単離する可能性を有し、複合マトリックス、例えば食物および血液からの細胞単離のための、定量的であり、再現可能な方法について明確な必要性が存在する。
【発明の概要】
【0013】
発明の簡単な説明
細胞状汚染物、例えば細菌を複合マトリックスから、少なくとも塩化マグネシウム(MgCl)および/またはイオン性液体を含む緩衝液を用いて、容易に、かつ極めて有効に単離することができることが見出された。さらに、この方法によって、極めて穏やかであるが有効な抽出条件のために、生存細胞の単離が可能になる。
【0014】
したがって、本発明は、細胞を複合試料から単離する方法であって、以下のステップ:
a)複合試料を提供すること、
b)前記試料を、少なくともMgClおよび/またはイオン性液体を含む抽出溶液と共にインキュベートすること、
c)前記細胞をステップb)の混合物から、好ましくは遠心分離、アフィニティー結合および/または濾過によって単離すること
を含む、前記方法に関する。
【0015】
本発明はまた、細胞を複合試料から単離するためのキットであって、
・少なくともMgClおよび/またはイオン性液体を含む抽出溶液ならびに
・少なくとも1種の生分解(biodegrading)酵素
を含む、前記キットに関する。
【0016】
発明の説明
驚くべきことに、複合試料を、少なくともMgClおよび/またはイオン性液体を含む抽出溶液と共にインキュベートする結果、試料の分解(dissolution)が、前記試料中に含まれる細胞壁を含むか、またはそれに囲まれる細胞に影響せずにもたらされることが判明した。したがって、本発明の方法を、そのような細胞の単離のために好適に用いることができる。
【0017】
本発明において、当該方法を、好ましくは細胞壁によって囲まれた細胞を単離するために用いてもよく、それによって用語「細胞壁によって囲まれた細胞」は、細胞壁を環境に対する障壁として有するかまたは含む既知のすべての細胞を指す。細胞壁を有する生物または細胞についての例は、細菌、古細菌、菌類、植物および藻類である。それに対して、動物およびほとんどの他の原生生物は、囲んでいる細胞壁を有せずに細胞膜を有する。
【0018】
用語「複合試料」は、主として有機的な起源のより多数種の、またはより少数種の異なる化合物を含む試料または試料マトリックスを指し、その数種は液体であり、他のものは固体である。本発明の複合試料は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質(また酵素を含む)、炭水化物(複合糖質および単炭水化物)、脂質、脂肪酸、脂肪、核酸などを含むマトリックスを含み得る。本発明の試料は、好ましくは少量の繊維/デンプンを含む。
【0019】
本明細書中で用いる用語「少量の繊維/デンプンを有する試料」を、広い意味において用い、それは、細胞を含むかまたは含み得る様々な試料を含むことを意図する。
【0020】
好ましい試料は、20%(w/w)より少量、より好ましくは10%より少量、さらにより好ましくは5%より少量、特に好ましくは1%より少量の繊維/デンプンを含み、特に繊維/デンプンを含まない(検出限界より低い、またはその前後)。本明細書中で用いる「繊維」は、植物起源の、および動物起源の(例えば膠原線維)繊維を含む。
【0021】
例示的な試料は、食物(例えば雌ウシ、ヒツジ、雌ヤギ、ウマ、ロバ、ラクダ、ヤク、水牛およびトナカイの乳、乳製品、ウシ、ヤギ、子羊、マトン、ブタ、カエル脚、子牛、げっ歯動物、ウマ、カンガルー、ニワトリ、七面鳥、アヒル、ガチョウ、ハト(pigeon)またはハト(dove)、ダチョウ、エミューを含む家禽の肉、魚(finfish)、例えばサケおよびテラピア、ならびに甲殻類(shellfish)、例えば軟体動物および甲殻類(crusta cean)および巻貝(snail)を含む海産食品、肉製品、植物製品、種子、トウモロコシ、小麦、米、大麦、ソルガムおよびキビを含むイネ科植物からの穀物、ソバ、アマランスおよびキノアを含む非イネ科植物からの穀物、
【0022】
マメ、ピーナッツ、エンドウおよびレンティルを含むマメ科植物、アーモンド、クルミおよび松の実を含むナッツ、 ヒマワリ、セイヨウアブラナおよびゴマを含む油糧種子、野菜、例えばジャガイモ、キャッサバおよびカブを含む根菜、アマランス、ホウレンソウおよびケールを含む葉菜、ダルス、コンブおよびバダーロックスを含む海草、タケノコ、ノパレスおよびアスパラガスを含む茎菜、グローブアーティチョーク(globe artichoke)、ブロッコリーおよび萱草を含む花序野菜、ならびにカボチャ、オクラおよびナスを含む果菜、果実、薬草および香辛料、全血、尿、痰、唾液、羊水、血漿、血清、肺洗浄および肝臓、脾臓、腎臓、肺、腸、脳、心臓、筋肉、膵臓などを含むがこれらに限定されない組織を含むが、これらには限定されない。
【0023】
当業者は、さらに、上記の例示的な試料または前記例示的な試料の混合物または前記例示的な試料の1種または2種以上を含む組成物のいずれかから得られた溶解物、抽出物または(ホモジナイズされた)材料がまた、本発明の範囲内の試料であることを認識する。
【0024】
本明細書中で用いる用語「緩衝液」は、酸または塩基を溶液または組成物に加えた場合にpHの変化に抵抗する水溶液または組成物を指す。pH変化に対するこの耐性は、そのような溶液の緩衝特性のためである。したがって、緩衝活性を示す溶液または組成物は、緩衝液または緩衝溶液と呼ばれる。緩衝液は、一般的に溶液または組成物のpHを維持する無制限の能力を有しない。むしろ、それらは、典型的には、ある範囲内のpH、例えばpH7〜pH9を維持することが可能である。
【0025】
典型的には、緩衝液は、それらのpKaより1対数高い、および低い範囲内のpHを維持することが可能である(例えば、C . Mohan, Buffers, A guide for the preparation and use of buffers in biological systems, CALBIOCHEM, 1999を参照)。緩衝液および緩衝溶液は、典型的には緩衝塩から、または好ましくは非イオン性緩衝構成成分、例えばTRISおよびHEPESから作製される。抽出溶液に加えられた緩衝液は、マトリックス分解の間のpH値が安定化されることを保証する。安定化されたpH値は、単離された細胞の再現可能な結果、効率的な溶解および保存に寄与する。
【0026】
本発明の好ましい態様において、単離された細胞は生存細胞である。
驚くべきことに、本発明の方法で単離された細胞は、生存可能であり(単離された合計の未変化の細胞の少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも90%)、好適な培養培地上で培養することができることが見出された。
【0027】
本明細書中で用いる「生存細胞」は、好ましくは繁殖可能な活性な代謝を有する細胞、特に増殖することが可能である細胞を含む。
本発明の方法で単離するべき細胞は、細菌細胞、好ましくはグラム陽性またはグラム陰性の細菌細胞、真菌の細胞、古細菌細胞、藻類細胞または植物細胞である。特に好ましい細胞は、リステリア菌種(Listeria spp.)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、P. paratuberculosis、サルモネラ菌種(Salmonella spp.)、カンピロバクター・ジェジュニ(C. jejuni)およびPenicillum roquefortiiからなる群から選択される。
【0028】
本発明の方法によって、細胞壁を有するかまたは含む細胞の単離が可能になる。
本発明は特に、一般的に微生物細胞、好ましくは食物および病原体微生物、特にヒトに関連するもの、例えばヒト食物または病原体中に臨床的関連を伴って潜在的に存在するものの単離を可能にする。したがって、本発明の方法によって、細菌細胞、真菌の細胞、古細菌細胞、藻類細胞および植物細胞を、高度に複合試料(例えば食物)から単離することが可能になる。
【0029】
本発明の好ましい態様において、試料は、食物試料、体液、特に血液、血漿または血清、水または組織試料である。
特に好ましい試料は、複合マトリックス(即ちタンパク質、脂質、炭水化物などをとりわけ含む)および/または高い粘度を有する試料である。
【0030】
食物試料は、好ましくは乳製品、好ましくは牛乳、特に生乳、粉乳、ヨーグルト、チーズまたはアイスクリーム、魚加工品、好ましくは生魚、肉製品、好ましくは生肉、肉リンスまたはソーセージ、サラダリンス、チョコレート、卵または卵製品、例えばマヨネーズである。
【0031】
本発明の方法において用いる特に好ましい食物試料は、通常潜在的に病原性の生物(例えばリステリア菌)を含むことが知られており、それから細胞が、複合マトリックスのために、当該分野において知られている方法でほとんど抽出可能ではない試料である。特に、チーズは、複合マトリックスおよび高い粘性を有する食物として知られている。
【0032】
本発明において、マトリックス溶解系として用いる抽出溶液は、MgClおよび/またはイオン性液体を含む。MgClは(存在する場合には)典型的には0.5〜3M、好ましくは0.5〜2M、より好ましくは1〜2Mの濃度において存在する。
【0033】
イオン液体は(存在する場合には)典型的には、混合物の重量を基準として0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の濃度において存在する。イオン性液体は、1種のイオン性液体または2種もしくは3種以上のイオン性液体の混合物であり得る。
【0034】
MgClおよび/またはイオン性液体の最良の濃度は、主として溶解するべき試料および単離するべき細胞種に依存する。これらのパラメーターは、当業者によって容易に試験され得る。
好ましい態様において、抽出溶液は、MgClまたはイオン性液体のいずれかを含む。
【0035】
本発明の抽出溶液は、水溶液または緩衝溶液である。それは、典型的には5より高く9より低い、好ましくは6より高く8より低い、より好ましくは6.5〜7.5のpH値を有する。抽出溶液は、さらに20%までの1種または2種以上の水混和性有機溶媒を含んでもよい。
【0036】
本発明の方法において用いてもよい緩衝液は、好ましくはリン酸緩衝液、リン酸緩衝食塩水緩衝液(PBS)、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(TRIS)緩衝液、TRIS食塩水緩衝液(TBS)およびTRIS/EDTA(TE)の群から選択される。
【0037】
既知の方法とは対照的に、本発明の方法において、好ましくは、界面活性剤を抽出溶液に加えず、それは、アニオン性、両性イオン性または非イオン性界面活性剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム、CHAPS、Lutensol AO-7を加えないことを意味する。
【0038】
1種または2種以上の追加の物質、例えば特定の試料中に存在する物質を分解するのを補助する不安定化剤またはバイオポリマー分解酵素を抽出溶液に加えることが、当然可能である。以下に検討するように、1つの例は、大量のコラーゲンおよび/またはデンプンを含む食物試料のためのデンプン分解酵素を加えることである。
【0039】
インキュベーションを、典型的には18℃〜50℃の温度にて、好ましくは25℃〜45℃にて、より好ましくは30℃〜42℃にて行う。
試料を、典型的には10分〜6時間、好ましくは20分〜1時間の時間にわたり抽出溶液と共にインキュベートする。
【0040】
試料をさらにより効率的に、かつ低減された時間において溶解するために、インキュベーションを高温にて行うことが、有利である。しかし、所望により、高温が単離するべき細胞の生存能力に影響し得ないように、注意しなければならない。
【0041】
試料を抽出溶液と共にインキュベートし、したがって試料マトリックスを分解し、溶解した(lysis)後に、細胞を任意の既知の方法、例えば遠心分離、濾過、誘電泳動および超音波またはアフィニティー結合によって、例えば好ましくはビーズ上に固定化した抗体、レクチン、ウイルス結合性タンパク質、アプタマーまたは抗菌ペプチド(AMP)を用いて単離することができる。好ましくは、細胞を、濾過または遠心分離によって、最も好ましくは遠心分離によって単離する。
【0042】
遠心分離を、典型的には500〜10000gにて、より好ましくは1500〜6000gにて、さらにより好ましくは2000〜5000gにて行う。遠心分離ステップの後、細胞をペレットにおいて見出すことができ、上清を廃棄することができる。
【0043】
試料/抽出溶液混合物を濾過する場合には、フィルターの孔のサイズを分離するべき細胞のサイズに適合させる際に、細胞を、前記フィルターの表面上に保持する。当然、また、変動する孔のサイズを有する様々なフィルターを用いた1または2以上の濾過ステップを適用することが可能である。濾過ステップの後に、細胞を、フィルター表面から洗浄することができる(例えばStevens KA and Jaykus L-A, Crit Rev Microbiol (2004) 30:7-24を参照)。溶解した試料の濾過は、特に複合試料が本発明の方法を用いてほとんど溶解されないかまたは溶解されない材料を含む場合に必要である。
典型的に、これらの材料は、デンプンおよび/または繊維を含む。
【0044】
しかし、細胞を溶解混合物から単離するための好ましい方法は、遠心分離である。
【0045】
当然、また、細胞を遠心分離ステップの後に生成した溶解したペレットから、抗体、特に単離される細胞上に存在するエピトープに対する抗体であって、ビーズ、好ましくは磁気ビーズ上に固定した抗体を伴う免疫学的方法によって単離することが可能である。細胞を単離するための抗体ビーズを用いると、いくつかの場合において低下した回収率がもたらされるため、そのような方法を、好ましくは、主として定性的単離のために用いてもよい。
【0046】
試料の分解を促進するために、前記試料を、例えばストマッカーを用いて、それを抽出溶液と共にインキュベーションする前にホモジナイズすることができる。当該分解をさらに、試料/抽出溶液混合物をインキュベーションの間に撹拌する場合にさらに支持および/または促進する。
【0047】
インキュベーションステップを−試料マトリックスに依存して−1回または数回、例えば2回、3回、4回、5回または10回繰り返してもよい。これらのインキュベーションステップの間に、細胞および残部試料マトリックスを上清から、例えば遠心分離によって分離してもよい。
【0048】
本発明の方法を用いて単離した細胞を、試料中の細胞を定量的に、または定性的に決定するために用いてもよい。これを、例えば、細胞計数によって、PCR方法によって、特にリアルタイムPCRによって、レクチンを用いることによって、または前記細胞の表面構造に向けられた抗体、ウイルス結合性タンパク質、アプタマーもしくは抗菌ペプチド(AMP)を伴う方法(例えば細胞特異性ELISAもしくはRIA)によって達成することができる。
【0049】
単離ステップの後に、細胞を、好ましくは水、緩衝溶液および/または界面活性剤含有溶液で洗浄する。しかし、洗浄緩衝液に、1種または2種以上の追加の物質を加えることは、当然可能である。洗浄ステップを、数回(例えば2回、3回、4回、5回もしくは10回)または1回のみ繰り返してもよい。洗浄ステップの間に、細胞を、典型的には緩衝液中に再懸濁させ、次に濾過するかまたは遠心分離する。不溶性粒子が溶解した試料中に存在する場合には(例えばチーズのリン酸カルシウム粒子)、前記粒子を、より低い回転速度における遠心分離によって、または粒子を長時間にわたって沈降させることによって除去することができる(細胞は、両方の場合において上清中に残留する)。
【0050】
細胞をまた、界面活性剤含有溶液で洗浄してもよい。これによって、細胞懸濁液中に潜在的に含まれる脂肪残部をさらに除去することが可能になる。この方法ステップにおいて用いるべき好ましい界面活性剤は、脂肪除去のために通常用いられる界面活性剤である。
【0051】
本発明の方法の1つの利点は、抽出溶液がMgClおよび/またはイオン性液体を適度な濃度において含むのみであるが界面活性剤を含まないことである。結果として、抽出緩衝液が典型的には界面活性剤および大量のカオトロープを含む既知の方法とは対照的に、洗浄ステップを省略するかまたは顕著に低減させることを、試料マトリックスが可能とする場合には、それは可能であって、例えば界面活性剤含有洗浄緩衝液で除去することが必要である脂肪残部を含まない場合を意味する。本方法のこの特徴によって、抽出時間を低減させること、および1または2の洗浄ステップのみの後に、カオトロピック物質または界面活性剤の存在によってさもなければ妨げられる方法(例えばELISA)で、細胞を直接的に、または少なくともほぼ直接的に分析することが可能になる。
【0052】
好ましくは界面活性剤が抽出溶液中に存在しないという事実により、好ましくは固体担体(例えばビーズ、特に磁気ビーズ)に結合した抗体を用いて細胞を直接単離することもまた、可能である。細胞の抗体への結合によって、あるタイプの細胞を特定的に単離することが可能になる。これは、試料が1種より多い細胞種を含む場合に特に興味深い。
【0053】
本発明の好ましい態様において、細胞の試料中の量を決定する。
細胞の試料中の量を、当該分野において知られている任意の方法によって、特に微生物学的方法(例えば希釈系列)、細胞計数、FACS分析、リアルタイムPCRなどによって決定することができる。
本発明の他の好ましい態様において、細胞のDNAまたはRNAを単離する。
【0054】
細胞に依存して、様々な方法を用いて、DNA(例えばゲノムDNA、プラスミド)またはRNA(例えばmRNA)を抽出してもよい。すべてのこれらの方法は、当該分野において知られており、単一のプロトコルは、主として溶解するべき細胞に依存する。当該単離は、さらに酵素、例えばリゾチームを加えることを必要としてもよい。
【0055】
試料、特に高い粘性を有する試料(例えばチーズ)の溶解を増強するために、前記試料を、抽出溶液と共にインキュベーションする前にストマッカーまたはミキサーによってプロセシングする。
【0056】
単離手順の効率を決定するかまたはモニタリングするために、試料に、定められた量の対照細胞を添加することができる。対照細胞は、典型的には細菌細胞、好ましくはグラム陽性またはグラム陰性の細菌細胞、真菌の細胞、古細菌細胞、藻類細胞または植物細胞である。好ましくは、それらは、試料中に存在すると推測される細胞に類似するが、それらは、好ましくは試料中に存在すると推測される細胞と同一ではない。回収した添加した対照細胞の量によって、本発明の方法の効率を決定することが可能になり、また最初の試料中に存在する、単離し、決定するべき細胞の量が示され得る。
【0057】
また、試料を、細胞に対する浸透圧保護特性を示す化合物と共にプレインキュベートすることが可能である。
細胞の浸透圧に対する耐性を増大させるために、単離するべき細胞を(潜在的に)含む試料を、前記細胞において浸透保護応答を誘発することが可能である少なくとも1種の化合物と共にインキュベートしてもよい。
【0058】
そのような特性を示し、好ましくは本発明の方法において用いる化合物は、グリシンベタインおよび/またはベータリジンである。
本発明の1つの態様において、試料を、少なくとも1種のバイオポリマー分解酵素と共にさらにインキュベートする。
【0059】
細胞を単離する数種の試料は、抽出溶液を加えることによって溶解され得ないかまたは非効率的な方式で溶解され得るに過ぎないバイオポリマーの構造を含む。試料、特に食物試料が、例えばコラーゲンおよび/またはデンプンを、例えば10%を上回る量において含む場合には、前記試料を、それを本発明のマトリックス溶解系と共にインキュベートする前に、コラーゲンおよびデンプン内容物を少なくとも部分的に分解することが可能である物質で処理してもよい。
【0060】
したがって、試料を、好ましくは少なくとも1種のバイオポリマー分解酵素と共にさらにインキュベートする。好ましくはバイオポリマー分解酵素と共にインキュベートする試料は、例えば肉、魚などである。アイスクリーム、卵、血液、牛乳、乳製品などは、通常はバイオポリマー分解酵素を加えることを必要としない。驚くべきことに、酵素を用いることのみによって、細胞の単離は可能にならないことが判明した。
【0061】
本明細書中で用いる用語「バイオポリマー」は、タンパク質、ポリペプチド、核酸、多糖類、例えばセルロース、デンプンおよびグリコーゲンなどを指す。したがって、「バイオポリマー分解酵素」は、水性緩衝液に不溶であり得るバイオポリマー(例えばデンプン、セルロース)を、低分子量の物質に、またはさらにモノマーに分解することができる酵素である。
【0062】
バイオポリマー分解酵素が、特定のpHおよび温度条件下で活性であり得るため(特定の緩衝液の使用はまた、役割を果たし得る)、任意の条件下で前記酵素と共にインキュベートすることを行うことが、有利である。これらの条件は、用いる酵素に依存し、当該分野において知られている。また、インキュベーション時間は、外因性要因、例えばpHおよび温度に依存する。したがって、インキュベーション時間は、10秒から6時間まで、好ましくは30秒から2時間まで変動し得る。
【0063】
バイオポリマー分解酵素は、好ましくはプロテアーゼ、セルラーゼおよびアミラーゼからなる群から選択される。これらの酵素の例は、Savinase 24 GTT(Subtilin)、Carenzyme 900T、Stainzyme GTである。デンプン分解酵素は、例えばシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ、アルファ−アミラーゼ、ベータ−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼおよびイソアミラーゼ、特にα−アミラーゼである。
【0064】
カオトロピック剤および界面活性剤を含む緩衝液を用いる既知の方法において、カオトロープおよび界面活性剤が酵素活性に悪影響を及ぼし得、したがってバイオポリマーが断片またはモノマーに効率的に分解されないため、バイオポリマー分解酵素を、マトリックス溶解ステップの間に加えることはできない。
【0065】
これとは対照的に、本発明の方法において、バイオポリマー分解酵素を、ステップb)の前に、および/またはステップb)の間に、および/またはステップc)の後に、試料と共にインキュベートすることができる(ステップb)は、試料を抽出溶液と共にインキュベートする溶解ステップであり、ステップc)は、単離ステップである)。
【0066】
本発明の方法を、数時間以内に、典型的には1〜6時間以内に行うことができる。
本発明において用いるイオン性液体または液体塩は、有機カチオンおよび一般的には無機のアニオンからなるイオン性種である。それらは、いかなる中性分子をも含まず、通常373Kより低い融点を有する。
【0067】
イオン性液体の分野は、潜在的な適用が多種多様であるため、現在集中的に研究されている。イオン性液体に関する総説は、例えばR. Sheldon "Catalytic reactions in ionic liquids", Chem. Commun., 2001, 2399-2407;M.J. Earle, K.R. Seddon "Ionic liquids. Green solvent for the future”, Pure Appl. Chem., 72 (2000), 1391-1398;P. Wasserscheid, W. Keim "Ionische Fluessigkeiten - neue Loesungen fuer die Uebergangsmetallkatalyse" [Ionic Liquids - Novel Solutions for Transition-Metal Catalysis], Angew. Chem., 112 (2000), 3926-3945;T. Welton "Room temperature ionic liquids. Solvents for synthesis and catalysis”, Chem. Rev., 92 (1999), 2071-2083またはR. Hagiwara, Ya. Ito "Room temperature ionic liquids of alkylimidazolium cations and fluoroanions”, J. Fluorine Chem., 105 (2000), 221-227)である。
【0068】
一般的に、当業者に知られている一般式Kで表されるすべてのイオン性液体、特に水と混和性であるものは、本発明の方法において好適である。
【0069】
イオン性液体のアニオンAは、好ましくは一般式[N(Rで表される、または一般式[N(XRで表されるハロゲン化物、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、シアナミド、チオシアネートまたはイミドを含む群から選択され、ここでRは、1〜8個のC原子を有する部分的に、または完全にフッ素置換されたアルキルを示し、Xは、SOまたはCOを示す。ここでのハロゲン化物アニオンは、塩化物、臭化物およびヨウ化物アニオンから、好ましくは塩化物および臭化物アニオンから選択され得る。イオン性液体のアニオンAは、好ましくはハロゲン化物アニオン、特に臭化物もしくはヨウ化物アニオン、またはテトラフルオロボレートもしくはシアナミドもしくはチオシアネートである。
【0070】
イオン性液体のカチオンKの選択に関しては、制限自体ない。しかし、好ましいのは、有機カチオン、特に好ましくはアンモニウム、ホスホニウム、ウロニウム、チオウロニウム、グアニジニウムカチオンまたは複素環式カチオンである。
【0071】
アンモニウムカチオンを、例えば式(1)
[NR (1)
によって記載することができ、ここで
Rは、各々の場合において、互いに独立して以下のものを示す、
H、ここですべての置換基Rは、同時にはHではない、
OR’、NR’、ただし、式(1)中の置換基Rは、最大で1つのOR’、NR’である、
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状アルキニル、
【0072】
1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、3〜7個のC原子を有する飽和の、部分的に、または完全に不飽和のシクロアルキル、ここで1つまたは2つ以上のRは、ハロゲンによって、特に−Fおよび/もしくは−Clによって部分的に、もしくは完全に、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に置換されていてもよく、またここで、α位にはないR中の1つまたは2つの隣接していない炭素原子は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−の群から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここで−R’は、=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルであり得、Xは、=ハロゲンであり得る。
【0073】
ホスホニウムカチオンを、例えば式(2)
[PR (2)
によって記載することができ、ここで
Rは、各々の場合において、互いに独立して以下のものを示す、
H、OR’またはNR’を示し、
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状アルキニル、
【0074】
1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、3〜7個のC原子を有する飽和の、部分的に、または完全に不飽和のシクロアルキル、ここで1つまたは2つ以上のRは、ハロゲンによって、特に−Fおよび/もしくは−Clによって部分的に、もしくは完全に、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に置換されていてもよく、またここで、α位にはないR中の1つまたは2つの隣接していない炭素原子は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−の群から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここで−R’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルであり、X=ハロゲンである。
【0075】
しかし、すべての4つまたは3つの置換基RおよびRがハロゲンによって完全に置換されている、式(1)および(2)で表されるカチオン、例えばトリス(トリフルオロメチル)メチルアンモニウムカチオン、テトラ(トリフルオロメチル)アンモニウムカチオンまたはテトラ(ノナフルオロブチル)アンモニウムカチオンは、除外される。
【0076】
ウロニウムカチオンを、例えば式(3)
[(RN)−C(=OR)(NR)] (3)
によって記載することができ、チオウロニウムカチオンを、式(4)
[(RN)−C(=SR)(NR)] (4)
によって記載することができ、ここで
〜Rは、各々、互いに独立して以下のものを示す、
水素、ここで水素は、Rについては除外される、
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状アルキニル、
【0077】
1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、3〜7個のC原子を有する飽和の、部分的に、または完全に不飽和のシクロアルキル、ここで1つまたは2つ以上の置換基R〜Rは、ハロゲンによって、特に−Fおよび/もしくは−Clによって部分的に、もしくは完全に、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に置換されていてもよく、またここで、α位にはないR〜R中の1つまたは2つの隣接していない炭素原子は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−の群から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここで−R’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルであり、X=ハロゲンである。
【0078】
グアニジニウムカチオンを、式(5)
[C(NR)(NR1011)(NR1213)] (5)
によって記載することができ、ここで
〜R13は、各々、互いに独立して以下のものを示す、
水素、−CN、NR’、−OR’
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状アルキニル、
【0079】
1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、3〜7個のC原子を有する飽和の、部分的に、または完全に不飽和のシクロアルキル、ここで1つまたは2つ以上の置換基R〜R13は、ハロゲンによって、特に−Fおよび/もしくは−Clによって部分的に、もしくは完全に、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に置換されていてもよく、またここで、α位にはないR〜R13中の1つまたは2つの隣接していない炭素原子は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−の群から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここで−R’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルであり、X=ハロゲンである。
【0080】
さらに、一般式(6)
[HetN] (6)、
式中
HetNは、以下の群
【化1】

【0081】
【化2】

から選択された複素環式カチオンを示す、
で表されるカチオンを用いることが可能であり、
【0082】
ここで、置換基
1’〜R4’は、各々、互いに独立して
水素、−CN、−OR’、−NR’、−P(O)R’、−P(O)(OR’)、−P(O)(NR’、−C(O)R’、−C(O)OR’、
1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の二重結合を有する直鎖状または分枝状アルケニル、
2〜20個のC原子および1つまたは2つ以上の三重結合を有する直鎖状または分枝状アルキニル、
3〜7個のC原子を有し、1〜6個のC原子を有するアルキル基によって置換されていてもよい、飽和の、部分的に、または完全に不飽和のシクロアルキル、
飽和の、部分的に、または完全に不飽和のヘテロアリール、ヘテロアリール−C〜Cアルキルまたはアリール−C〜Cアルキル
を示し、
【0083】
ここで、置換基R1’、R2’、R3’および/またはR4’は、一緒にまた環系を形成してもよく、
ここで、1つまたは2つ以上の置換基R1’〜R4’は、ハロゲン、特に−Fおよび/もしくは−Cl、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に、または完全に置換されていてもよいが、ここでR1’およびR4’は、同時にはハロゲンによって完全には置換され得ず、またここで、置換基R1’〜R4’において、ヘテロ原子に結合していない1個または2個の隣接していない炭素原子は、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここでR’=H、フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルであり、X=ハロゲンである。
【0084】
本発明の目的のために、完全に不飽和の置換基はまた、芳香族置換基を意味するものと解釈される。
本発明において、式(1)〜(5)で表される化合物の好適な置換基RおよびR〜R13は、水素以外には、好ましくは以下のものである:C〜C20、特にC〜C14アルキル基、およびC〜Cアルキル基によって置換されていてもよい飽和の、または不飽和の、即ちまた芳香族のC〜Cシクロアルキル基、特にフェニル。
【0085】
式(1)または(2)で表される化合物中の置換基RおよびRは、ここで同一であっても異なっていてもよい。置換基RおよびRは、好ましくは異なっている。
置換基RおよびRは、特に好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシルまたはテトラデシルである。
【0086】
グアニジニウムカチオン[C(NR)(NR1011)(NR1213)]の4つまでの置換基はまた、単環式、二環式または多環式カチオンが形成するように、対に結合していてもよい。
【0087】
一般性を制限せずに、そのようなグアニジニウムカチオンの例は、以下のものであり:
【化3】

式中、置換基R〜R10およびR13は、上記に示した意味または特に好ましい意味を有することができる。
【0088】
所望により、上記に示したグアニジニウムカチオンの炭素環式または複素環式環はまた、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SONR’、SOX’またはSOHによって置換されていてもよく、ここでXおよびR’は、上記に示した意味、置換されたか、もしくは非置換のフェニルまたは非置換の、もしくは置換された複素環を有する。
【0089】
ウロニウムカチオン[(RN)−C(=OR)(NR)]またはチオウロニウムカチオン[(RN)−C(=SR)(NR)]の4つまでの置換基はまた、単環式、二環式または多環式カチオンが形成するように、対に結合していてもよい。
【0090】
一般性を制限せずに、そのようなカチオンの例を、以下に示し、式中Y=OまたはSであり:
【化4】

式中、置換基R、RおよびRは、上記に示した意味または特に好ましい意味を有することができる。
【0091】
所望により、上記に示したカチオンの炭素環式または複素環式環はまた、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SONR’、SOX’もしくはSOHまたは置換された、もしくは非置換のフェニル、または非置換の、もしくは置換された複素環によって置換されていてもよく、ここでXおよびR’は、上記に示した意味を有する。
【0092】
置換基R〜R13は、各々、互いに独立して、好ましくは1〜10個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキル基である。式(3)〜(5)で表される化合物中の置換基RおよびR、RおよびR、RおよびR、R10およびR11ならびにR12およびR13は、同一であっても異なっていてもよい。R〜R13は、特に好ましくは、各々、互いに独立してメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、フェニルまたはシクロヘキシル、極めて特に好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルまたはn−ブチルである。
【0093】
本発明において、式(6)で表される化合物の好適な置換基R1’〜R4’は、水素以外には、好ましくは以下のものである:C〜C20、特にC〜C12アルキル基、およびC〜Cアルキル基によって置換されていてもよい飽和の、または不飽和の、即ちまた芳香族のC〜Cシクロアルキル基、特にフェニル。
【0094】
置換基R1’〜R4’は、各々、互いに独立して、特に好ましくはメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニルまたはベンジルである。それらは、極めて特に好ましくはメチル、エチル、n−ブチルまたはヘキシルである。ピロリジニウム、ピペリジニウムまたはインドリニウム化合物中で、2つの置換基R1’およびR4’は、好ましくは異なっている。
【0095】
置換基R2’またはR3’は、各々の場合において、互いに独立して、特に水素、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、シクロヘキシル、フェニルまたはベンジルである。R2’は、特に好ましくは水素、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチルまたはsec−ブチルである。R2’およびR3’は、極めて特に好ましくは水素である。
【0096】
〜C12アルキル基は、例えばメチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチル、sec−ブチルまたはtert−ブチル、さらにまたペンチル、1−、2−もしくは3−メチルブチル、1,1−、1,2−もしくは2,2−ジメチルプロピル、1−エチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルまたはドデシルである。任意にジフルオロメチル、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピルまたはノナフルオロブチルである。
【0097】
複数の二重結合がまた存在してもよい、2〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルケニルは、例えばアリル、2−または3−ブテニル、イソブテニル、sec−ブテニル、さらに4−ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、−C17、−C1019〜−C2039;好ましくはアリル、2−または3−ブテニル、イソブテニル、sec−ブテニル、さらに好ましくは4−ペンテニル、イソペンテニルまたはヘキセニルである。
【0098】
複数の三重結合がまた存在してもよい、2〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキニルは、例えばエチニル、1−または2−プロピニル、2−または3−ブチニル、さらに4−ペンチニル、3−ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、−C15、−C1017〜−C2037、好ましくはエチニル、1−もしくは2−プロピニル、2−もしくは3−ブチニル、4−ペンチニル、3−ペンチニルまたはヘキシニルである。
【0099】
アリール−C〜Cアルキルは、例えばベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、フェニルペンチルまたはフェニルヘキシルを示し、ここでフェニル環およびまたアルキレン鎖は共に、上記のようにハロゲン、特に−Fおよび/もしくは−Clによって部分的にもしくは完全に、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって部分的に置換されていてもよい。
【0100】
3〜7個のC原子を有する、非置換の飽和の、または部分的に、もしくは完全に不飽和のシクロアルキル基は、したがってシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロペンタ−1,3−ジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサ−1,3−ジエニル、シクロヘキサ−1,4−ジエニル、フェニル、シクロヘプテニル、シクロヘプタ−1,3−ジエニル、シクロヘプタ−1,4−ジエニルまたはシクロヘプタ−1,5−ジエニルであり、その各々は、C〜Cアルキル基によって置換されていてもよく、ここでシクロアルキル基またはC〜Cアルキル基によって置換されたシクロアルキル基は、同様にまたハロゲン原子、例えばF、Cl、BrもしくはI、特にFもしくはClによって、または−OH、−OR’、−CN、−C(O)OH、−C(O)NR’、−SONR’、−C(O)X、−SOOH、−SOX、−NOによって置換されていてもよい。
【0101】
置換基R、R〜R13またはR1’〜R4’において、ヘテロ原子に対してα位において結合していない1つまたは2つの隣接していない炭素原子はまた、−O−、−S−、−S(O)−、−SO−、−SOO−、−C(O)−、−C(O)O−、−NR’−、−P(O)R’O−、−C(O)NR’−、−SONR’−、−OP(O)R’O−、−P(O)(NR’)NR’−、−PR’=N−または−P(O)R’−の群から選択された原子および/または原子団によって置き換えられていてもよく、ここでR’=フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルである。
【0102】
一般性を制限せずに、このようにして修飾された置換基R、R〜R13およびR1’〜R4’の例は、以下のものである:
−OCH、−OCH(CH、−CHOCH、−CH−CH−O−CH、−COCH(CH、−CSC、−CSCH(CH、−S(O)CH、−SOCH、−SO、−SO、−SOCH(CH、−SOCHCF、−CHSOCH、−O−C−O−C、−CF、−C、−C、−C、−C(CF、−CFSOCF、−CN(C)C、−CHF、−CHCF、−C、−CFH、−CH、−C(CFH、−CHC(O)OH、−CH、−C(O)CまたはP(O)(C
【0103】
R’において、C〜Cシクロアルキルは、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロヘプチルである。
【0104】
R’において、置換フェニルは、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SOX’、SONR’’またはSOHによって置換されているフェニルを示し、ここでX’は、F、ClまたはBrを示し、R’’は、R’について定義したようにフッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜CアルキルまたはC〜Cシクロアルキル、例えばo−、m−またはp−メチルフェニル、o−、m−またはp−エチルフェニル、o−、m−またはp−プロピルフェニル、o−、m−またはp−イソプロピルフェニル、o−、m−またはp−tert−ブチルフェニル、o−、m−またはp−ニトロフェニル、o−、m−またはp−ヒドロキシフェニル、o−、m−またはp−メトキシフェニル、o−、m−またはp−エトキシフェニル、o−、m−、p−(トリフルオロメチル)フェニル、o−、m−、p−(トリフルオロメトキシ)フェニル、o−、m−、p−(トリフルオロメチルスルホニル)フェニル、o−、m−またはp−フルオロフェニル、o−、m−またはp−クロロフェニル、o−、m−またはp−ブロモフェニル、o−、m−またはp−ヨードフェニル、
【0105】
さらに好ましくは2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジメチルフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジヒドロキシフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジフルオロフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジクロロフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジブロモフェニル、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−もしくは3,5−ジメトキシフェニル、5−フルオロ−2−メチルフェニル、3,4,5−トリメトキシフェニルまたは2,4,5−トリメチルフェニルを示す。
【0106】
1’〜R4’において、ヘテロアリールは、5〜13個の環要素を有する飽和の、または不飽和の単環式の、または二環式の複素環式ラジカルを意味するものと解釈され、ここで1個、2個もしくは3個のNおよび/または1個もしくは2個のSもしくはO原子が、存在してもよく、複素環式ラジカルは、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、NO、F、Cl、Br、I、OH、C〜Cアルコキシ、SCF、SOCF、COOH、SOX’、SONR’’またはSOHによって単置換または多置されていてもよく、ここでX’およびR’’は、上記に示した意味を有する。
【0107】
複素環式ラジカルは、好ましくは置換されているか、または非置換の2−または3−フリル、2−または3−チエニル、1−、2−または3−ピロリル、1−、2−、4−または5−イミダゾリル、3−、4−または5−ピラゾリル、2−、4−または5−オキサゾリル、3−、4−または5−イソキサゾリル、2−、4−または5−チアゾリル、3−、4−または5−イソチアゾリル、2−、3−または4−ピリジル、2−、4−、5−または6−ピリミジニル、
【0108】
さらに好ましくは1,2,3−トリアゾール−1−、−4−もしくは−5−イル、1,2,4−トリアゾール−1−、−4−もしくは−5−イル、1−もしくは5−テトラゾリル、1,2,3−オキサジアゾール−4−もしくは−5−イル、1,2,4−オキサジアゾール−3−もしくは−5−イル、1,3,4−チアジアゾール−2−もしくは−5−イル、1,2,4−チアジアゾール−3−もしくは−5−イル、1,2,3−チアジアゾール−4−もしくは−5−イル、2−、3−、4−、5−もしくは6−2H−チオピラニル、2−、3−もしくは4−4H−チオピラニル、3−もしくは4−ピリダジニル、ピラジニル、2−、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾフリル、2−、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾチエニル、1−、2−、3−、4−、5−、6−もしくは7−1H−インドリル、1−、2−、4−もしくは5−ベンズイミダゾリル、1−、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾピラゾリル、2−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾキサゾリル、3−、4−、5−、6−もしくは7−ベンズイソキサゾリル、2−、4−、5−、6−もしくは7−ベンゾチアゾリル、2−、4−、5−、6−もしくは7−ベンズイソチアゾリル、4−、5−、6−もしくは7−ベンズ−2,1,3−オキサジアゾリル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、7−もしくは8−キノリニル、1−、3−、4−、5−、6−、7−もしくは8−イソキノリニル、1−、2−、3−、4−もしくは9−カルバゾリル、1−、2−、3−、4−、5−、6−、7−、8−もしくは9−アクリジニル、3−、4−、5−、6−、7−もしくは8−シンノリニル、2−、4−、5−、6−、7−もしくは8−キナゾリニルまたは1−、2−もしくは3−ピロリジニルである。
【0109】
ヘテロアリール−C〜Cアルキルは、アリール−C〜Cアルキルと同様に、例えばピリジニルメチル、ピリジニルエチル、ピリジニルプロピル、ピリジニルブチル、ピリジニルペンチル、ピリジニルヘキシルを意味するものと解釈され、ここで上記の複素環式ラジカルは、さらにこのようにしてアルキレン鎖に結合していてもよい。
【0110】
HetNは、好ましくは
【化5】

であり、
【0111】
ここで置換基R1’〜R4’は、各々、互いに独立して上記の意味を有する。モルホリニウムおよびイミダゾリウムカチオンは、本発明において特に好ましく、ここで前記カチオン中のR1’〜R4’は、特に、各々の場合において互いに独立して、水素、1〜20個のC原子を有する直鎖状または分枝状アルキルを示し、ここで1つまたは2つ以上の置換基R1’〜R4’は、−OHまたは−OR’によって部分的に置換されていてもよく、ここでR1’=フッ素化されていない、部分的にフッ素化された、またはパーフルオロ化されたC〜Cアルキル、C〜Cシクロアルキル、非置換の、または置換されたフェニルである。
【0112】
本発明のイオン性液体のカチオンは、好ましくはアンモニウム、ホスホニウム、イミダゾリウムまたはモルホリニウムカチオンであり、最も好ましいのはイミダゾリウムカチオンである。
【0113】
好ましいアンモニウム、ホスホニウム、イミダゾリウムまたはモルホリニウムカチオンの極めて特に好ましい置換基R、R、R1’〜R4’は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、デシル、ドデシル、オクタデシル、エトキシエチル、メトキシエチル、ヒドロキシエチルまたはヒドロキシプロピル基から選択される。
【0114】
イミダゾリウムカチオンが、官能基によって、例えば、様々な酸化状態が可能である窒素、硫黄および/またはリンを含む基によってそれら自体置換されていてもよいアルキル、アルケニル、アリールおよび/またはアラルキル基によって置換されているのが好ましい。本発明のこれらの官能基の好ましい例は、以下のものである:アミン、カルボキシル、カルボニル、アルデヒド、ヒドロキシ、サルフェート、スルホネートおよび/またはホスフェート基。
【0115】
イミダゾリウム環のN原子の一方または両方は、同一であるかまたは異なる置換基によって置換され得る。好ましくは、イミダゾリウム環の両方の窒素原子は、同一であるかまたは異なる置換基によって置換されている。
また、本発明において、イミダゾリウム塩が、1個または2個以上のイミダゾリウム環の炭素原子にてさらに、またはもっぱら置換されているのが、可能であるかまたは好ましい。
【0116】
置換基として好ましいのは、C〜Cアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよび/またはイソブチル基である。また好ましい置換基は、C〜Cアルケニル基、例えばエチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、n−ブチレンおよび/またはイソブチレンであり、また4個より多いC原子を有するアルキルおよびアルケニル置換基が含まれ、ここで例えばまたC〜C10アルキルまたはアルケニル置換基が、尚好ましい。イオン性液体の可溶性のために、これらのC〜C10アルキルまたはアルケニル基が、1つまたは2つ以上の他の置換基、例えばホスフェート、スルホネート、アミノおよび/またはホスフェート基を、それらのアルキルおよび/またはアルケニル基にて有することが、好ましい場合がある。
【0117】
アリール置換基として、本発明において、単環式および/または二環式アリール基、フェニル、ビフェニルおよび/またはナフタレン、ならびにヒドロキシ、スルホネート、サルフェート、アミノ、アルデヒド、カルボニルおよび/またはカルボキシ基を担持するこれらの化合物の誘導体が好ましい。好ましいアリール置換基の例は、フェノール、ビフェニル、ビフェノール、ナフタレン、ナフタレンカルボン酸、ナフタレンスルホン酸、ビフェニロール(biphenylol)、ビフェニルカルボン酸、フェノール、フェニルスルホネートおよび/またはフェノールスルホン酸である。
【0118】
イミダゾリウムチオシアネート、ジシアナミド、テトラフルオロボレート、ヨウ化物、塩化物、臭化物またはヘキサフルオロホスフェートは、本発明の方法において極めて特に好ましく用いられ、ここで1−デシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、
【0119】
1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、
【0120】
1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミドは、本発明の方法において特に好ましい。
【0121】
最も好ましいのは、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミドである。
【0122】
本発明において用いるイオン性液体は、好ましくは液体であり、即ち、好ましくは、それらは、室温(約25℃)にてイオン性である液体である。しかし、また室温にて液体でないが、一方で液体形態において存在しなければならないか、または本発明の方法を行う温度にて抽出溶液に可溶でなければならないイオン性液体を用いることができる。
【0123】
本発明の他の側面は、細胞を複合マトリックスから単離するための抽出溶液であって、少なくとも:
・MgClおよび/またはイオン性液体
を典型的には水または水性緩衝液中に含む、前記抽出溶液に関する。
【0124】
MgClは−存在する場合には−典型的に、0.5〜3M、好ましくは0.5〜2M、より好ましくは1〜2Mの濃度において、抽出溶液中に存在する。
【0125】
イオン性液体は−存在する場合には−典型的に、混合物を基準として0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の濃度において存在する。
【0126】
本発明の好ましい態様において、抽出溶液は、5より大きく9より小さい、好ましくは6より大きく8より小さい、より好ましくは6.5〜7.5のpH値を有する。
【0127】
本発明の緩衝液は、リン酸緩衝液、リン酸緩衝食塩水緩衝液(PBS)、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−l,3−プロパンジオール(TRIS)緩衝液、TRIS緩衝食塩水緩衝液(TBS)およびTRIS/EDTA(TE)の群から選択される。
【0128】
さらに、本発明の他の側面は、細胞を複合マトリックスから単離するためのキットであって、以下のもの:
・本発明の抽出溶液および
・少なくとも1種のバイオポリマー分解酵素(上記を参照)
を含む、前記キットに関する。
【0129】
本発明の好ましい態様において、少なくとも1種のバイオポリマー分解酵素は、プロテアーゼ、セルラーゼおよびアミラーゼ、好ましくはα−アミラーゼからなる群から選択される。
【0130】
本発明の方法およびキットは、極めて穏やかであり、有効なマトリックス溶解系を提供する。抽出溶液は、標的の細胞に影響せず、したがって生存可能のままである一方で、例えば食物分析において典型的な、ほとんどの複合試料のマトリックスを有効に溶解する。極めて穏やかなマトリックス溶解条件のために、細胞の表面構造さえも、典型的には未変化であり、影響されないままである。マトリックス溶解の前に試料中に存在する死滅した細胞を、所要に応じて細胞の検出前に除去することができる。したがって、本発明の方法およびキットは、細胞、好ましくは生存細胞を複合試料から単離する単純かつ迅速な方法を提供し、これと組み合わせて高感度の検出方法、例えばリアルタイムPCRによって−食物および他の複合試料中の病原体の迅速かつ高感度の検出が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0131】
本発明を、以下の図面および例によってさらに例示するが、それには限定されない。
【図1】図1は、本発明の方法を、複合試料、例えば食物試料中の病原性細菌細胞を(定性的に、および/または定量的に)検出するために用いる場合に行わなければならない手順のステップについて、1つの例示的なフロースキームを示す。
【図2】図2は、適用例5において調査したリステリア菌およびネズミチフス菌(S. Typhimurium)のプレート計数定量化の結果を示す。
【0132】
本明細書中で引用したすべての出願、特許明細書および刊行物、ならびに2009年6月18日に出願した対応するEP出願EP 09007959.1の開示全体は、本出願中に参照によって組込まれる。
【0133】

以下の例は、本発明の実際の適用を表す。
1.菌株および培養条件
リステリア菌EGDe(1/2a、内部数2964)を、グラム陽性細菌についてのモデル生物として、およびリアルタイムPCRについてのDNA定量基準として用いる。Salmonella enterica血清型Typhimurium(NCTC 12023)を、グラム陰性細菌についてのモデル生物として、およびリアルタイムPCRについてのDNA定量基準として用いる。細菌を、MicroBank(登録商標)技術(Pro-Lab Diagnostics, Richmont Hill, Canada)を用いて−80℃にて維持し、Institute of Milk Hygiene, Milk Technology and Food Science, University of Veterinary Medicine, Vienna, Austriaにおける菌種コレクションの一部である。すべての菌種を、0.6%(w/v)酵母エキス(TSB-Y; Oxoid, Hampshire, United Kingdom)を有するトリプトン大豆ブロス中で、それぞれの最適生育温度(リステリア菌を37℃、およびネズミチフス菌(S. Typhimurium)を42℃、)にてオーバーナイトで生育させる。
【0134】
2.顕微鏡的調査
生存能力染色を、1μlの構成成分Aおよび1μlのLive/Dead(登録商標)BacLight(登録商標)Bacterial Viability Kit (Molecular Probes, Willow Creek, OR, USA)の構成成分Bを濾過滅菌されたリンゲル液(Merck, Darmstadt, Germany)中の細菌培養物の適切な希釈1mlに加えることにより行う。試料を、暗中で15分間(min)インキュベートし、400μlを、0.22μmの孔サイズを有する13mmの黒色ポリカーボネートフィルター(Millipore, Billerica, MA, USA)上に、5mlのシリンジおよびSwinnexフィルターホルダー(Millipore)を用いて濾過する。
【0135】
抗生物質を試験するための12.7mmのフィルターディスク(Schleicher & Schuell GmbH, Dassel, Germany)を、支持のためのフィルターホルダー中のポリカーボネートフィルターの下方に配置する。フィルターあたり15の領域を、各々の試料について分析する。以下の式を用いて、試料1mlあたりの染色された細胞の数を計算する:N=領域あたりの細胞の平均数×(有効濾過面積/領域面積)×(1/希釈係数)×(1/濾過された容積、単位ml)。470nmのフィルターを備えたLeitz Laborlux 8蛍光顕微鏡(Leitz, Germany, Wetzlar)を、1000倍の拡大にて顕微鏡的分析のために用いる。
【0136】
3.食物への植菌
食物の人為的な汚染のために、1ミリリットルのオーバーナイトの培養物を、1ミリリットルの新鮮な培地に移し、それぞれの最適生育温度にて3時間インキュベートする。その後、PBS(リン酸緩衝食塩水)中の適切な希釈100μlを、試料に加える。プレート計数方法および0.6%(w/v)の酵母エキス(TSA-Y; Oxoid, Hampshire, United Kingdom)を補充したトリプトン大豆の寒天プレートを、用いたすべての菌種の定量のために用いる。寒天プレートを、それぞれの最適生育温度にて24時間インキュベートする。すべての試料マトリックスを、その地域のスーパーマーケットから購入する。人為的な汚染のために用いたすべての試料を、以下に記載するように、マトリックス溶解プロトコルおよびそれぞれのリアルタイムPCRアッセイを用いて、リステリア菌およびネズミチフス菌陰性であると試験する。すべての植菌実験を、2組で(in duplicate)行う。
【0137】
4A.イオン性液体を含む抽出溶液でのマトリックス溶解
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート([emim]SCN;Merck KGaA, Darmstadt, Germany)の5%(v/v)水溶液を、アイスクリームおよび卵について用いる。[emim]SCNの7.5%(v/v)水溶液を、超高温熱処理(UHT)牛乳について用いる。他に示さない場合には、マトリックス溶解を、以下のように行う:12.5gの液体または6.25gの固体の食料を、10mlの溶解緩衝液と混合し、各々2回、Stomacher 400 (Seward, London, UK)実験室ブレンダー中で、各々3分間ホモジナイズする。ホモジネートを、50mlのポリプロピレンチューブ(Corning, NY, USA)に移す。溶解緩衝液を加えて、容積を45mlとする。
【0138】
試料を、水浴中で水平にしてインキュベートし(それぞれリステリア菌について37℃またはネズミチフス菌について42℃にて)、200rpmにて30分間振盪する。試料を、次に3,220×gにて30分間、室温にて遠心分離する。ペレットを、40mlの洗浄緩衝液(1%のLutensol AO-07およびPBS)に再懸濁させ、水浴中で水平にインキュベートし、200rpmにて30分間、溶解ステップの間に用いた温度にて振盪する。その後、試料を、3,220×gにて30分間、室温にて遠心分離し、上清をそっと捨てる。ペレットを、500μlのPBSに再懸濁させ、1.5mlのプラスチックチューブ(Eppendorf, Hamburg, Germany)に移し、1mlのPBS中で2回洗浄し、これと共に5,000×gにて5分間追加的に遠心分離する。
【0139】
4B.MgClを含む抽出溶液でのマトリックス溶解
溶解緩衝液(=抽出溶液)は、0.5〜3MのMgCl、1×Tris緩衝液、pH5〜7を含む。
【0140】
12gの液体または6gの固体の食料を、10mlの溶解緩衝液と混合し、各々2回、Stomacher 400 (Seward, London, UK)実験室ブレンダー中で、各々3分間ホモジナイズする。ホモジネートを、50mlのポリプロピレンチューブ(Corning, NY, USA)に移す。溶解緩衝液を加えて、容積を45mlとする。試料を、水浴中で水平にインキュベートし(それぞれリステリア菌について37℃またはネズミチフス菌について42℃にて)、200rpmにて30分間振盪する。試料を、次に3,220×gにて30分間、室温にて遠心分離する。
【0141】
上清を、注意深く除去し、約500μlの試料をチューブ中に残留させる。残余の試料およびペレットを、40mlの洗浄緩衝液(1%のLutensol AO-07および1×PBS)に再懸濁させ、水浴中で水平にインキュベートし、200rpmにて30分間、溶解ステップの間に用いた温度にて振盪する。その後、試料を、3,220×gにて30分間、室温にて遠心分離し、上清をそっと捨てて、約250μlの試料をチューブ中に残留させる。残余の試料およびペレットを、500μlの1×PBSに再懸濁させ、1.5mlのプラスチックチューブ(Eppendorf, Hamburg, Germany)に移す。その後、試料を、5,000×gにて5分間、室温にて遠心分離し、上清をそっと捨てる。残余のペレットを、1mlのPBS中で2回洗浄し、これと共に5,000×gにて5分間追加的に遠心分離する。
【0142】
5.DNA単離
マトリックス溶解に続く残留する細菌ペレットからのDNA単離を、NucleoSpin(登録商標)tissue kit(Machery-Nagel, Dueren, Germany)およびグラム陽性細菌についての支持プロトコルを用いて行う。プロトコルの最終ステップを修正し、したがって、2回の50μlの2回蒸留水を用いて、DNAをカラムから溶出させる。
【0143】
6.生存細胞の定量
残留する細菌ペレットからの、マトリックス溶解に続く生存細胞の定量を、プレート計数方法(PCM)を用いて、0.6%(w/v)酵母エキス(TSA-Y; Oxoid, Hampshire, United Kingdom)を補充した非選択性トリプトン大豆の両方の寒天プレートで行う。選択性キシロースリジンデオキシコール酸塩培地(XLD; Oxoid, Hampshire, United Kingdom)を、ネズミチフス菌のために用い、Oxoid Chromogenic Listeria Agar (OCLA; Oxoid, Hampshire, United Kingdom)を、リステリア菌のために用いる。
【0144】
7.リアルタイムPCR定量のためのDNA基準
リステリア菌の1ミリリットルのオーバーナイトの培養物のゲノムDNAを、NucleoSpin(登録商標)tissue kit(Macherey - Nagel)およびグラム陽性細菌についての支持プロトコルを用いることにより、抽出する。DNA濃度を、Hoefer DyNA Quant200装置(Pharmacia Biotech, San Francisco, CA, USA)および8452A Diode Array Spectrophotometer (Hewlett Packard, Palo Alto, CA, USA)を用いて、蛍光的測定によって分析的に決定する。prfA遺伝子のコピー数を、リステリア菌のゲノムの分子量を基準として、1ngのDNAがゲノム全体の3.1×10のコピーと等しいこと、およびprfA遺伝子が単一コピー遺伝子であることを推測することにより、決定する。Salmonella標的のコピー数を、1ngのDNAあたりのネズミチフス菌ゲノム全体の1.9×10のコピーを推測することにより、同様に決定した。
【0145】
8.リアルタイムPCR
prfA遺伝子の274bp断片を標的とすることによるリステリア菌のリアルタイムPCR検出を、以前に公表された様式(P. Rossmanith et al., Research in Microbiology, 157 (2006) 763-771))に従って行う。ネズミチフス菌を、SureFood(登録商標)kit(R-Biofarm, Darmstadt, Germany)を用いて、取扱説明書に従って検出する。リアルタイムPCRを、Mx3000pリアルタイムPCRサーモサイクラー(thermocycler)(Stratagene, La Jolla, CA, USA)中で行う。25μlの容積は、5μlのDNA鋳型を含む。リアルタイムPCR結果を、細菌細胞等価物(BCE)として表す。すべてのリアルタイムPCR反応を、複製において行う。
【0146】
適用例
1.マトリックス溶解に続くアイスクリームおよび卵からのネズミチフス菌のリアルタイムPCR
6.25gの試料あたり6.67×10CFU(標準偏差(SD):±2.54×10)にて開始したネズミチフス菌の4段階10進法希釈系列(a 4-step decimal dilution series)を含む、人為的に汚染されたアイスクリームおよび卵に、マトリックス溶解の後に、DNA単離およびリアルタイムPCRを施す。リアルタイムPCRによってアイスクリームから得られた試料あたりのBCEの平均数は、6.67×10CFUで植菌した細胞について、卵から3.31×10(SD:±4.00×10)および5.02×10(SD:±2.87×10)、6.67×10CFUで植菌した細胞について、卵から3.34×10(SD:±4.57×10)および9.23×10(SD±6.26×10)、6.67×10CFUで植菌した細胞について、卵から2.68×10(SD:±4.73×10)および1.30×10(SD:±2.73×10)および6.67×10CFUで植菌した細胞について、卵から2.74×10(SD:±1.46×10)および8.11×10(SD:±4.82×10)である(表1)。
【0147】
マトリックス溶解の前のDNA単離効率性制御試料について達成されたBCEの平均数は、6.67×10CFUで植菌した細胞について3.06×10(SD:±3.06×10)である。顕微鏡的細胞計数によって計数した、植菌した細菌細胞のそれぞれの平均量は、1.84×10(SD:±4.97×10)である(表4)。
【0148】
2.マトリックス溶解に続くUHT牛乳からのリステリア菌のリアルタイムPCR
12.5mlの試料あたり1.14×10CFU(SD:±2.28×10)にて開始したリステリア菌の4段階10進法希釈系列を含む、人為的に汚染したUHT牛乳に、マトリックス溶解の後に、DNA単離およびリアルタイムPCRを施す。リアルタイムPCRによってUHT牛乳から得られた試料あたりのBCEの平均数は、1.14×10CFUで植菌した細胞について1.70×10(SD:±1.90×10)、1.14×10CFUで植菌した細胞について1.49×10(SD:±2.22×10)、1.14×10CFUで植菌した細胞について1.60×10(SD:±3.27×10)および1.14×10CFUで植菌した細胞について1.97×10(SD:±7.09×10)である(表1)。
【0149】
マトリックス溶解の前のDNA単離効率性制御試料について達成されたBCEの平均数は、1.14×10CFUで植菌した細胞について1.48×10(SD:±1.93×10)である。顕微鏡的細胞計数によって計数した、植菌した細菌細胞のそれぞれの平均量は、2.94×10(SD:±7.64×10)である(表4)。
【0150】
適用例1および2において示したプロトコルにおいて、少なくとも1種のイオン性液体を含む抽出溶液を用いたマトリックス溶解プロトコルを、リアルタイムPCRと組み合わせて試験して、UHT牛乳からのリステリア菌ならびにアイスクリームおよび卵からのネズミチフス菌の直接的な定量についての能力を例証する。マトリックス溶解前に植菌したもののCFUと比較して、12.5mlのUHT牛乳からのリステリア菌についての190%、ならびに6.25gのアイスクリームおよび卵からのネズミチフス菌についての298%の細菌細胞等価物(BCE)回収率が、マトリックス溶解の後に得られる(表4)。これらの回収率は、PCMを適用することによる試料あたりの実際の細胞計数の過小評価の結果である。
【0151】
この結論は、マトリックス溶解の後のBCE計数が、マトリックス溶解前に植菌したものを計数するために行った顕微鏡的調査の細胞計数およびリアルタイムPCR対照結果より、はるかに優れて相関しているという事実によって立証される(表4)。マトリックス溶解前の植菌したものの顕微鏡的調査による細胞計数と比較して、リステリア菌は、牛乳から75%で回収され、ネズミチフス菌は、108%で回収される。マトリックス溶解前のリアルタイムPCR対照と比較して、リステリア菌は、牛乳から114%で回収され、ネズミチフス菌は、65%で回収される(表4)。リステリア菌およびネズミチフス菌についての回収率は、試験したすべての植菌レベルおよびすべての食料について整合している(表1)。これは、少なくとも1種のイオン性液体を含む抽出溶液を用いたマトリックス溶解プロトコルによって、適切な汚染物の区別が対数尺度基準において可能になることを例証した。
【0152】
【表1】

【0153】
3.マトリックス溶解に続く食料からのリステリア菌およびネズミチフス菌のプレート計数定量
リステリア菌またはネズミチフス菌のいずれかの4段階10進法希釈系列を含む人為的に汚染した食料に、マトリックス溶解後にプレート計数の定量を施す。12.5mlの試料からのリステリア菌の平均回収は、TSA−Y寒天プレートに関して、対照試料と比較して108%である。ネズミチフス菌は、6.25gの試料から、卵から平均60%で、TSA−Y寒天プレートで回収される。
【0154】
アイスクリームからのTSA−Y寒天培地でのネズミチフス菌の定量は、食料の微生物学的バックグラウンドの細菌叢のために可能ではない。選択的XLD寒天培地を用いた場合に、36%の平均回収が達成される(表2)。
【0155】
選択的寒天プレートに関して、回収率は、非選択的寒天プレートと比較して低減される。それぞれ、リステリア菌を、12.5mlのUHT牛乳から定量し、平均回収は、OCLA寒天培地で68%であり、ネズミチフス菌は、XLD寒天培地で6.25gの卵から34%である(表3)。これらの結果は、選択的寒天プレートでの細菌の生育が、非選択的寒天プレートでの生育と比較して低減され得るという既知の事実と相関する。
【0156】
両方の生物についての回収率は、すべての植菌レベルについて整合しており、それは、マトリックス溶解プロトコルによって、対数尺度基準における適切な汚染物の区別が可能になることを示す。しかし、実際の細胞計数の高い標準偏差および観察された過小評価を考慮すると(表4)、PCMは、リアルタイムPCRと比較して、定量目的のためには、より適切でないと見られる。
【0157】
【表2】

【0158】
4.UHT牛乳からのリステリア菌および卵からのネズミチフス菌の、マトリックス溶解に続く非選択的および選択的寒天プレートでのプレート計数定量の比較。
6.85×10CFU/ml(相対的標準偏差(RSD):18.5%)を有するネズミチフス菌の4段階10進法希釈系列を含む、6.25gの人為的に汚染した卵について、マトリックス溶解後にTSA−YおよびXLD寒天プレートでのプレート計数の定量を施す。PCMによって卵から得られた試料あたりのCFUの平均数は、TSA−Y寒天プレートで4.14×10(RSD:37.4%)およびXLD寒天プレートで2.33×10(RSD:12.5%)である。ネズミチフス菌の卵からの回収率は、選択的寒天培地に関して34%および非選択的寒天培地に関して60%である(表3)。
【0159】
4.30×10CFU/ml(RSD:26.4%)を有するリステリア菌の4段階10進法希釈系列を含む、12.5mlの人為的に汚染したUHT牛乳について、マトリックス溶解後にTSA−YおよびOCLA寒天プレートでのプレート計数の定量を施す。PCMによってUHT牛乳から得られた試料あたりのCFUの平均数は、TSA−Y寒天プレートで4.65×10(RSD:36.8%)およびOCLA寒天プレートで2.90×10(RSD:37.9%)である。リステリア菌のUHT牛乳からの回収率は、選択的寒天培地に関して67%および非選択的寒天培地に関して108%である(表3)。
【0160】
【表3】

【0161】
【表4】

【0162】
5.リステリア菌およびネズミチフス菌のプレート計数定量
リステリア菌およびネズミチフス菌の生存能力に対する様々なMgCl濃度の影響を調べる。標的の生物を、3種の異なる濃度のMgCl(1M、2Mおよび3M)と共に、3種の異なる温度(35℃、38℃および45℃)にて30分間インキュベートし、処理後のTSA−Y寒天プレートでのCFUを、対照試料と比較する。
【0163】
2.78×10CFU/ml(相対的標準偏差(RSD):23%)のリステリア菌細胞を、様々な濃度のMgClに、様々な温度にて曝露する。35℃のインキュベーション温度について、CFU/1mlのリステリア菌は、1MのMgClについて3.86×10CFU/ml(RSD:22%)、2MのMgClについて3.10×10CFU/ml(RSD:23%)および3MのMgClについて1.76×10CFU/ml(RSD:21%)である。38℃のインキュベーション温度について、CFU/1mlのリステリア菌は、1MのMgClについて4.06×10CFU/ml(RSD:31%)、2MのMgClについて3.64×10CFU/ml(RSD:21%)および3MのMgClについて8.5×10CFU/ml(RSD:34%)である。45℃のインキュベーション温度について、CFU/1mlのリステリア菌は、1MのMgClについて4.39×10CFU/ml(RSD:23%)、2MのMgClについて1.68×10CFU/ml(RSD:14%)および3MのMgClについて1.5×10CFU/ml(RSD:15%)である。
【0164】
2.22×10CFU/ml(RSD:18%)のネズミチフス菌細胞を、様々な濃度のMgClに、様々な温度にて曝露する。35℃のインキュベーション温度について、CFU/1mlのネズミチフス菌は、1MのMgClについて1.15×10CFU/ml(RSD:37%)、2MのMgClについて2.3×10CFU/ml(RSD:41%)および3MのMgClについて5.75×10CFU/ml(RSD:36%)である。38℃のインキュベーション温度について、CFU/1mlのネズミチフス菌は、1MのMgClについて8.33×10CFU/ml(RSD:22%)、2MのMgClについて1.35×10CFU/ml(RSD:69%)および3MのMgClについて2.0×10CFU/ml(RSD:50%)である。45℃のインキュベーション温度について、CFU/1mlのネズミチフス菌は、1MのMgClについて4.1×10CFU/ml(RSD:23%)である。結果を、図2に視覚化する。
【0165】
6.マトリックス溶解後の人為的に汚染したアイスクリームのネズミチフス菌生存細胞計数
ネズミチフス菌の4段階10進法希釈系列を含む人為的に汚染した食料に、マトリックス溶解後にプレート計数の定量を施す。0.5MのMgClを用いたマトリックス溶解プロトコルを、キシロースリジンデオキシコール酸塩培地で試験して、アイスクリームからのネズミチフス菌の効率的な直接的定量を例証する。ネズミチフス菌を、6.5gのアイスクリームから、平均38%で回収する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を複合試料から単離する方法であって、以下のステップ:
a)複合試料を提供すること、
b)前記試料を、少なくともMgClおよび/またはイオン性液体を含む抽出溶液と共にインキュベートすること、
c)前記細胞をステップb)の混合物から単離すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
ステップc)において単離した細胞の少なくとも30%が生存細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複合試料が食物または臨床的試料であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
抽出溶液がMgClを0.5〜3Mの濃度において含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
細胞が細菌細胞であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
抽出溶液が界面活性剤を含まないことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
試料に、定められた量の対照細胞をステップb)の前に添加することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
試料を、細胞に対する浸透圧保護特性を示す化合物と共にプレインキュベートすることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
試料を、少なくとも1種のバイオポリマー分解酵素と共にさらにインキュベートすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
さらなるステップd)において、細胞を、細胞計数、PCR方法によって、レクチンを用いることによって、または前記細胞の表面構造に対する、抗体、抗菌ペプチド(AMP)、アプタマーもしくはウイルス結合ドメインを伴う方法によって分析することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
細胞を複合試料から単離するためのキットであって、
・少なくともMgClおよび/またはイオン性液体を含む抽出溶液ならびに
・少なくとも1種の生分解酵素
を含む、前記キット。
【請求項12】
生分解酵素が、プロテアーゼ、セルラーゼおよびアミラーゼからなる群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−529894(P2012−529894A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515373(P2012−515373)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003295
【国際公開番号】WO2010/145754
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】