説明

細胞を培養するための合成マイクロキャリア

細胞を培養するための被覆マイクロキャリアは、マイクロキャリア基材および重合開始剤を通じて基材にグラフト化された高分子被覆を含む。この被覆マイクロキャリアを形成する方法は、(i)重合開始剤をマイクロキャリア基材に結合させて、開始剤結合マイクロキャリア基材を形成し、(ii)開始剤結合マイクロキャリア基材をモノマーと接触させ、(iii)開始剤を活性化させて、重合を開始し、高分子を基材にグラフト化させる各工程を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2009年7月28日に出願された米国仮特許出願第61/229114号、および2010年2月25日に出願された米国仮特許出願第61/308123号の恩恵を主張するものである。この文献の内容とその中に挙げられた刊行物、特許および特許文献の全ての開示が引用される。
【技術分野】
【0002】
本開示は、細胞培養用マイクロキャリアに関し、より詳しくは、合成された既知組成マイクロキャリアに関する。
【背景技術】
【0003】
付着依存性細胞を高収率で提供する目的のために、細胞培養においてマイクロキャリアが利用されてきた。マイクロキャリアは、一般に、細胞培養用培地中で撹拌されまたはかき混ぜられ、従来の培養器具と比べて非常に大きい、付着および増殖のための表面積対容積比を提供する。
【0004】
ごく最近入手できるマイクロキャリアでは、細胞増殖のためのキャリアに対して細胞が非特異的に付着する。そのようなマイクロキャリアは、有用であるが、生物特異的な細胞接着が可能ではなく、それゆえ、培養された細胞の特徴を容易に調整することができない。例えば、非特異的相互作用のために、幹細胞などの細胞を特定の分化状態に維持することや、細胞を特定の様式で分化するようにし向けることが難しいであろう。
【0005】
現在入手できるマイクロキャリアのあるものは、生物特異的接着を提供するが、コラーゲンまたはゼラチンなどの動物由来被覆を利用している。そのような動物由来被覆は、細胞を潜在的に有害なウイルスや他の病原菌に曝露し得る。この細胞が治療目的で使用された場合、それらのウイルスや他の病原菌が患者に移り得る。その上、そのようなウイルスや他の病原菌は、培養される細胞の一般的な培養および維持を損なうかもしれない。さらに、そのような生物学的製剤は、バッチのばらつき、免疫応答および限られた貯蔵寿命を被りやすい。
【0006】
いくつかの合成の既知組成表面が、既知組成培地中で胚性幹細胞などの細胞を培養するのに効果的であることが示されてきた。しかしながら、そのような表面のマイクロキャリア上で3D培養を支持する能力は、まだ報告されておらず、そのような表面をマイクロキャリアに施す方法も記載されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
中でも、本開示は、細胞の培養に有用な、合成の既知組成マイクロキャリアを記載する。マイクロキャリアは、様々な実施の形態において、架橋した膨潤性(メタ)アクリレート表面により被覆される。本開示は、その架橋した膨潤性(メタ)アクリレート表面などの被覆をマイクロキャリアにグラフト化させるプロセスも記載する。
【0008】
様々な実施の形態において、マイクロキャリアは、マイクロキャリア基材および重合開始剤を通じてその基材にグラフト化された架橋高分子被覆を含む。このマイクロキャリアは、被覆に結合したポリペプチドをさらに含んでもよい。このマイクロキャリアは、(i)重合開始剤をマイクロキャリア基材に結合させて、開始剤結合マイクロキャリア基材を形成し、(ii)この開始剤結合マイクロキャリア基材をモノマーと接触させ、(iii)開始剤を活性化させて、重合を開始し、高分子を基材にグラフト化させることによって、形成してもよい。
【0009】
溶液相へのラジカルの移行は、開始剤の活性化後に制限される。高分子表面は架橋されている(すなわち、少なくとも1種類の二官能性またはより高次の官能性モノマーから形成されている)ので、所望の個別の被覆されたマイクロキャリアではなく、マイクロキャリア塊の凝集様形成を避けるために、マイクロキャリアの表面への重合またはマイクロキャリア上の高分子形成を制限することが望ましい。基材のビーズにグラフト化されていないバルク溶液中の架橋高分子が、不溶性のために、個別に被覆されたビーズから分離するのに難題であろう。
【0010】
ここに提示された様々な実施の形態の1つ以上は、細胞を培養するための従来の物品およびシステムより優れた1つ以上の利点を提供する。例えば、ここに記載された合成マイクロキャリアは、動物由来のバイオコーティングを必要としない細胞接着を支持することが示されており、これにより病原体汚染の虞が制限される。このことは、細胞が細胞療法に特別に使用される場合に特に該当する。さらに、ヒト胚性幹細胞(hESC)を含む細胞の大規模培養が、ここに記載されたマイクロキャリアにより可能である。そのようなマイクロキャリアは、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチンなどの動物由来生成物が望ましくないまたは禁止されている場合、幹細胞以外の細胞を培養するのに都合よく使用されるであろう。ここに記載された方法により、剛性、湿潤性、密度、および表面の化学的性質などの幅広い性質を有するマイクロキャリアの調製が可能になる。これらと他の利点は、添付の図面と共に読んだときに以下の詳細な説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】被覆マイクロキャリアのある実施の形態の断面図
【図2】結合したポリペプチドを有する被覆マイクロキャリアのある実施の形態の断面図
【図3】被覆マイクロキャリアを形成する方法のある実施の形態の流れ図
【図4】被覆マイクロキャリアを形成する方法のある実施の形態の反応スキームを集合的に示す説明図
【図5】被覆マイクロキャリアを形成する方法のある実施の形態の反応スキームを集合的に示す説明図
【図6】被覆マイクロキャリアを形成する方法のある実施の形態の流れ図
【図7】A)供給メーカーから入手した状態のPS−NH2、B)PSに共有結合したABCA、およびC)PS−ABCA上にグラフト化されたHG02の走査型電子顕微鏡写真
【図8】ローダミン標識ビトロネクチン−結合被覆微小球の蛍光画像
【図9A】異なる溶媒(水、水/メタノール、およびメタノール)を使用した被覆がその場で形成された、ビトロネクチン(VN)−結合被覆微小球の推測したポリペプチド密度を示す棒グラフ
【図9B】増大する量のVNペプチドと結合した後の1×1時間および3×1時間のPS−ABCA−HG02グラフト化ビーズ上の推測したペプチド密度を示すグラフ
【図10】異なる溶媒、詳しくは、水(A)、水/メタノール(B)、およびメタノール(C)を使用して被覆がその場で形成された、ビトロネクチン(VN)−結合被覆微小球へと、被覆ビトロネクチンのない(D)被覆微小球へのHT1080細胞接着の明視野画像
【図11】マイクロビーズ基材(下のパネル)、開始剤結合ビーズ(真ん中のパネル)、およびビーズに被覆がグラフト化されたマイクロビーズ(上のパネル)のオン・ビーズFTIR分析の波数に亘る吸光度のグラフ
【図12】クリスタル・バイオレット染色された開始剤結合マイクロビーズ(左のパネル)およびクリスタル・バイオレット染色された、ビーズに被覆がグラフト化されたマイクロビーズ(右のパネル)の画像
【図13】被覆微小球に結合したローダミン結合ポリペプチドの明視野(右)および蛍光(左)の画像
【図14】被覆マイクロビーズに結合したビトロネクチンペプチド(左)およびビトロネクチンRGDスクランブルペプチド(右)へのHT1080細胞接着の明視野画像
【図15】Aが明視野画像であり、Bが蛍光FITC画像である、播種から5日後のビトロネクチンペプチドグラフト化PS−ABCA−HG02上でのBG01V/hOG細胞の増殖を示す顕微鏡画像
【図16】ペプチドグラフト化PS−ABCA−HG02マイクロキャリア(PS−ABCA−VNまたはPS−ABCA−VN−SCR)上、比較例としてのMatrigel被覆ビーズ(Matrigel(商標)CM)およびCytodex(商標)3上で行った2日後と5日後の培養のBG01V/hOG細胞の数量化を示すグラフ 図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれていない。図面に使用した同様の数は、同様の構成要素、工程などを示す。しかしながら、所定の図面におけるある構成要素を称するためにある数の使用は、同じ数で標識された別の図面におけるその構成要素を制限することを意図するものではないことが理解されよう。その上、構成要素を称するために異なる数の仕様は、異なる数がふられた構成要素が同じまたは同様であり得ないことを示すことを意図したものではない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な説明において、その一部を形成し、例示により、デバイス、システムおよび方法のいくつかの特定の実施の形態が示されている、添付の図面が参照されている。他の実施の形態が考えられ、本開示の範囲または精神から逸脱せずに、実施してもよいことが理解されよう。したがって、以下の詳細な説明は、制限の意味で解釈すべきではない。
【0013】
ここに使用した全ての科学用語および技術用語は、他に別記しない限り、当該技術分野で一般に使用されている意味を有する。ここに与えられる定義は、ここに頻繁に使用されている特定の用語の理解を容易にするためであり、本開示の範囲を制限することを意味するものではない。
【0014】
本明細書および添付の特許請求の範囲に用いられるように、文脈がそうではないと明白に示していない限り、単数形は、複数の対象を有する実施の形態を包含する。本明細書および添付の特許請求の範囲に用いられるように、文脈がそうではないと明白に示していない限り、「または」という用語は、「および/または」を含む意味で一般に使用されている。
【0015】
ポリペプチド配列は、ここでは、一文字のアミノ酸コードおよび三文字のアミノ酸コードにより称される。これのらコードは相互に交換可能に使用してよい。
【0016】
ここに用いたように、「モノマー」は、別のモノマーと重合できる化合物を意味し(その「モノマー」が他のモノマーと同じまたは異なる化合物のものであるか否かにかかわらず)、その化合物は、約1000ダルトン未満の分子量を有する。多くの場合、モノマーは、約400ダルトン未満の分子量を有する。
【0017】
ここに用いたように、「マイクロキャリア」は、細胞を培養するのに使用され、細胞がそこに付着できる小さな別個の粒子を意味する。マイクロキャリアは、ロッド、球体などのどのような適切な形状にあってもよい。多くの実施の形態において、マイクロキャリアは、細胞培養に適した表面を提供するように被覆されたマイクロキャリア基材を含む。ポリペプチドが、表面被覆に、結合、グラフト化または他の様式で付着してもよい。
【0018】
ここに用いたように、「ペプチド」および「ポリペプチド」は、化学合成されても、または組換え誘導されてもよいが、動物源から全タンパク質として単離されていない、アミノ酸配列を意味する。本開示の目的について、ペプチドおよびポリペプチドは全タンパク質ではない。ペプチドおよびポリペプチドは、タンパク質の断片であるアミノ酸配列を含んでもよい。例えば、ペプチドおよびポリペプチドは、RGDなどの細胞接着配列として知られている配列を含んでもよい。ポリペプチドは、3および30のアミノ酸の間の長さなどの、どのような適切な長さのものであってよい。ポリペプチドは、例えば、エクソペプチダーゼによって、それらが分解されるのを保護するために、アセチル化(例えば、Ac−LysGlyGly)またはアミド化(例えば、SerLysSer−NH2)されてもよい。これらの修飾は、配列が開示されている場合に考えられることが理解されよう。
【0019】
ここに用いたように、「平衡含水量」は、高分子材料の水吸収特徴を称し、式1により示されるような平衡含水量(EWC)により定義され測定される:
式1: EWC(%)=[(Wゲル−W乾燥)/(Wゲル)]×100
【0020】
ここに用いたように、重合開始剤の「残余(remnant)」は、フリーラジカルを生成するための開始剤の活性化により生じた開始剤の一部分を意味する。例えば、重合開始剤は、熱、光分解または触媒活性化の後にフリーラジカル含有残余を形成するかもしれず、これらの活性化により、分子間または分子内結合の解離、抽出または他の公知の開始剤の機構をもたらす。
【0021】
ここに用いたように、「有する(have)」、「有している(having)」「含む(include)」、「含んでいる(including)」、「含む(comprise)」、「含んでいる(comprising)」などは、限定を設定しない意味で使用されており、一般に、「含んでいるが、それに制限されない」ことを意味する。「から実質的になる(consisting essentially of)」、「からなる(consisting of)」などは、「含んでいる(comprising)」などに包含されると理解されよう。したがって、マイクロキャリア基材および被覆を含むマイクロキャリアは、マイクロキャリア基材および被覆から実質的になる、またはからなるマイクロキャリアを含む。
【0022】
本開示は、特に、細胞を培養するための合成マイクロキャリアを記載する。様々な実施の形態において、マイクロキャリアは、既知組成培地中の未分化幹細胞の増殖および維持を支持するように構成されている。
【0023】
1. マイクロキャリア
図1および図2を参照すると、マイクロキャリア100は、基材10および被覆20を含み、結合したポリペプチド30を含んでもよい。被覆20のみ、または被覆20とポリペプチド30は共に、細胞培養の目的のために細胞が付着できる表面を提供する。様々な実施の形態において、被覆層20は、直接、または1つ以上の追加の中間層(図示せず)を介してのいずれかで、共有または非共有相互作用により、基材10と関連する中間層の表面上に堆積されるか、または形成される。そのような場合、本開示の目的に関して、中間層は、マイクロキャリア基材10の一部であると考えられる。
【0024】
マイクロキャリアは、どのような適切な密度を有しても差し支えない。しかしながら、マイクロキャリアが、それらが中に懸濁される細胞培養用培地よりもわずかに大きい密度を有し、よって周囲の培地からマイクロキャリアが容易に分離されることが好ましい。様々な実施の形態において、マイクロキャリアは、立方センチメートル当たり約1.01から1.10グラムの密度を有する。そのような密度を有するマイクロキャリアは、穏やかな撹拌によって、細胞培養用培地内に懸濁状態で容易に維持されるはずである。
【0025】
マイクロキャリアのサイズのばらつきは、マイクロキャリアの全てではなくともほとんどが、穏やかな撹拌により懸濁できることを確実にするように小さいことも好ましい。一例として、マイクロキャリアの幾何学径分布は、約1と1.4の間にあるであろう。マイクロキャリアは、どのような適切なサイズのものであってもよい。例えば、マイクロキャリアは、約20マイクロメートルと1000マイクロメートルの間の直径を有してよい。そのような直径を有する球状マイクロキャリアは、マイクロキャリア当たり数百から数千の細胞の付着を支持できる。マイクロキャリア基材のサイズ、およびそれゆえ、マイクロキャリア全体のサイズは、公知の技法によって容易に調節できる。一例として、油中水共重合技法により形成されたマイクロキャリア基材は、撹拌速度または使用した乳化剤のタイプを変えることによって、容易に調節できる。例えば、より速い撹拌速度によって、より小さな粒径が形成される傾向にある。その上、エチルセルロースなどの高分子乳化剤を使用すると、より小さい分子量の乳化剤と比べて、より大きい粒子が得られると考えられる。したがって、所望の粒径のマイクロキャリア基材を得るために、撹拌速度または揺動程度および乳化剤を容易に変えることができる。
【0026】
マイクロキャリアは、多孔質でも非多孔質でも差し支えない。ここに用いたように、「非多孔質」は、細孔を有さないこと、またはマイクロキャリアで培養される細胞よりも小さい、例えば、約0.5〜1マイクロメートル未満の平均サイズの細孔を有することを意味する。マクロ多孔質マイクロキャリアの細孔に進入する細胞は除去するのが難しいので、マイクロキャリアが分解可能ではない場合、非多孔質微小球が望ましい。しかしながら、マイクロキャリアが分解可能である場合、例えば、それらが酵素的にまたは他の様式で分解可能な架橋剤を含む場合、マイクロキャリアがマクロ多孔質であることが望ましいかもしれない。
【0027】
2. マイクロキャリア基材
どのような適切なマイクロキャリア基材を使用してもよい。様々な実施の形態において、マイクロキャリア基材は、ガラス、セラミック、金属または高分子材料から形成される。マイクロキャリアを形成するのに使用できる高分子材料の例としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどのアクリレート、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、ゼラチン、ラテックスなどが挙げられる。マイクロキャリア基材は、バルク媒質からの分離を容易にするために磁性であることなどの特別な特徴を有してもよい。ある実施の形態において、マイクロキャリアは微小球であり、多くの微小球が市販されている。微小球は、どのような適切な方法によって製造しても差し支えなく、一般に、「油中水」タイプの乳化の懸濁重合によって製造される。
【0028】
3. 被覆
マイクロキャリア基材は、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、ポリホスファゼン、ポリプロピルフマレート、合成ポリ(アミノ酸)、ポリエーテル、ポリアセタール、ポリシアノアクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ無水物、ポリ(オルトエステル)、ポリヒドロキシ酸、ポリエステル、エチレン−酢酸ビニルポリマー、酢酸セルロース、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリ(ビニルアルコール)、クロロ硫酸ポリオレフィン、およびそれらの組合せなどの生体適合性ポリマーのどの適切な部類からのポリマーで被覆してもよい。
【0029】
「被覆」、「層」、「表面」、「材料」などは、マイクロキャリア基材上に配置されるポリマーの文脈において、ここで交換可能に使用される。被覆は、動物由来成分は時折、ウイルスまたは他の病原菌を含有するかもしれず、または高レベルのバッチ間のばらつきを提供するかもしれないので、動物由来成分を含まない合成ポリマー被覆であることが好ましい。様々な実施の形態において、被覆は、例えば、SYNTHETIC SURFACES FOR CULTURING CELLS IN CHEMICALLY DEFINED MEDIAと題する、2009年1月30日に出願され、2009年7月30日に米国特許出願公開第2009/0191627号として発行された、米国特許出願第12/362924号明細書;およびSWELLABLE (METH)ACRYLATE SURFACES FOR CULTURING CELLS IN CHEMICALLY DEFINED MEDIAと題する、2009年1月30日に出願され、2009年7月30日に米国特許公開第2009/0191632号として発行された、米国特許出願第12/362974号明細書に記載されているような、ヒドロゲル被覆または膨潤性(メタ)アクリレート被覆である。これらの出願は、ここに提示された開示に抵触しない程度まで、それぞれ全てをここに引用する。
【0030】
ここに用いたように、「膨潤性(メタ)アクリレート」または「SA」は、少なくともある程度の架橋性を有し、水吸収または水膨潤特徴も有する、少なくとも1種類のエチレン性不飽和モノマー(アクリレートまたはメタクリレートモノマー)から製造されたポリマーマトリクスを意味する。ここに用いたように、「SAP」は、ポリペプチドまたはタンパク質に結合したSAを意味する。実施の形態において、「膨潤性(メタ)アクリレート」は、水を吸収し、水中で膨潤し、水中に溶解しない、様々な架橋アクリレートまたはメタクリレート材料を表す。
【0031】
様々な実施の形態において、SA被覆は、1種類以上の親水性(メタ)アクリレートモノマー、1種類以上のジまたは高次の官能性(メタ)アクリレートモノマー(「架橋性」(メタ)アクリレートモノマー)、および1種類以上のカルボキシル基含有モノマーを含む、から実質的になる、またはからなる。どのような適切な親水性(メタ)アクリレートモノマーを使用してもよい。適切な親水性(メタ)アクリレートモノマーの例としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ジ(エチレングリコール)エチルエーテルメタクリレート、エチレングリコールメチルエーテルメタクリレートなどが挙げられる。様々な実施の形態において、(メタ)アクリレート以外の親水性モノマーを使用して、SA被覆を形成してもよい。親水性(メタ)アクリレートモノマーに加え、またはその代わりに、これらの他の親水性モノマーを含んでもよい。そのような他の親水性モノマーは、膨潤性(メタ)アクリレート層を形成するために使用される混合物中の(メタ)アクリレートモノマーと重合できるべきである。SA被覆を形成するために使用してよい他の親水性モノマーの例としては、1−ビニル−2−ピロリドン、アクリルアミド、3−スルホプロピルジメチル−3−メチルアクリルアミドプロピル−アンモニウムなどが挙げられる。(メタ)アクリレートモノマーまたは他のモノマーが使用されるか否かにかかわらず、様々な実施の形態において、親水性モノマーは、100グラムの水中に1グラム以上のモノマーの水溶性を有する。テトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートまたはテトラ(エチレングリコール)ジアクリレートなどの、どのような適切なジまたは高次の官能性(メタ)アクリレートモノマーを架橋性モノマーとして使用してもよい。重合によってSA被覆中にモノマーが組み込まれた後に、ポリペプチドと結合するのに利用できるカルボキシル官能基を有するどのような適切な(メタ)アクリレートモノマーを使用してもよい。カルボキシル官能基は、NHS/EDC化学成分を使用したペプチドまたはポリペプチドの結合を可能にする。適切なカルボキシル基含有(メタ)アクリレートの例としては、2−カルボキシルエチルアクリレート、アクリル酸およびモノ−(2−メタクリロイルオキシ)−エチルコハク酸塩が挙げられる。
【0032】
様々な実施の形態において、SA層は、それぞれ、親水性(メタ)アクリレートモノマー(約60〜90)、カルボキシル基含有(メタ)アクリレートモノマー(約10〜40)、および架橋性(メタ)アクリレートモノマー(約1〜10)を含む(体積パーセント)モノマーから形成される。SA層の平衡含水量(EWC)は、SA層を形成するのに選択されたモノマーによって調節してもよいことが理解されよう。例えば、より高度の親水性およびより高い比率の親水性モノマーにより、より大きいEWCを有するより膨潤性のSA層が得られるはずである。しかしながら、このことは、SA層の膨潤するまたはEWCを減少させる能力を減少させる、架橋性モノマーの割合を増加させることにより、または官能性を増加させることによって、弱まるであろう。
【0033】
様々な実施の形態において、SA層を形成するために用いられる特定のモノマーおよびそれぞれの質量または体積パーセントは、結果として形成されるSA層が約5%と約70%の間のEWCを有するように選択される。一部には、ここに記載された様々な実施の形態のSA中のカルボキシル基含有モノマーを使用するために、EWCはpH依存性であろう。例えば、特定のSAのEWCは、蒸留された脱イオン水中(pH約5)におけるよりもリン酸緩衝液中(pH7.4)中におけるほうが高いであろう。様々な実施の形態において、蒸留された脱イオン水中のSA層のEWCは、本発明のSAのEWC(水中)は、水中において5%と70%の間、5%と60%の間、5%と50%の間、5%と40%の間、5%と35%の間、10%と70%の間、10%と50%の間、10%と40%の間、5%と35%の間、10%と35%の間、または15%と35%の間に及ぶであろう。さらに別の実施の形態において、膨潤性(メタ)アクリレートがペプチド(SAP)と結合した後、SAPの実施の形態のEWCは、例えば、水中において10〜40%の間にあるであろう。
【0034】
細胞培養において、調製した表面は、長期間に亘り水性環境に曝露される。極めてヒドロゲル状の表面である、著しい量の水を吸収する表面は、水性環境に曝露されたときに、基体から剥離する傾向にある。このことは、これらの材料が、5日間以上の細胞培養に亘るなどの、長期間に亘り水性環境に曝露される場合に、特に当てはまるであろう。したがって、SAおよびSAP層は、剥離の可能性を減少させるために、多くの水を吸収しないように、より低いEWC測定値を有することが望ましいであろう。例えば、40%未満のEWCを有するSA表面は、ヒト胚性幹細胞を含む、培養中の細胞を支持するのに特に適しているであろう。
【0035】
ポリペプチドのSA層への結合は、SA層の湿潤性および平衡含水量(EWC)に影響を与え、一般に、EWCを増加させると理解されるであろう。SA層に結合したポリペプチドの量は、可変性である傾向にあり、SA層の厚さに応じて変わり得る。したがって、標準プロトコルにしたがって調製されたSA−ポリペプチド層のEWCは、可変性であろう。再現性の目的に関して、ポリペプチドとの結合前に、SA層のEWCを測定することが望ましいであろう。このことに留意して、ある実施の形態において、SAにポリペプチドを結合させた(SA−ポリペプチド)後、SA−ポリペプチド層の実施の形態のEWCは、水中において約10%と約40%の間にあるであろう。
【0036】
様々な実施の形態において、SA層は、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−カルボキシエチルアクリレート、およびテトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートを含む混合物から形成された重合済み(メタ)アクリレートモノマーを含む。数多くの実施の形態において、SA層を形成するために使用されるヒドロキシエチルメタクリレート、2−カルボキシエチルアクリレート、およびテトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートの比(体積)は、それぞれ、約80/20/3(v/v/v)である。ある実施の形態において、SAは、モノマーの以下の液体アリコート(体積)を使用して配合される:それぞれ、ヒドロキシエチルメタクリレート(約60〜90)、2−カルボキシエチルアクリレート(約10〜40)、およびテトラ(エチレングリコール)ジメタクリレート(約1〜10)。数多くの実施の形態において、SA層は、重合されたヒドロキシエチルメタクリレート、2−カルボキシエチルアクリレート、およびテトラ(エチレングリコール)ジメタクリレートのモノマーから実質的になる。様々な実施の形態において、SA層はポリペプチド架橋剤を実質的に含まない。
【0037】
使用してもよいいくつかの代表的な膨潤性(メタ)アクリレート配合物が表1に示されている。
【表1】

【0038】
高分子被覆層はどのような望ましい厚さを有していてもよい。様々な実施の形態において、被覆層の平均厚さは約100マイクロメートル未満である。例えば、平均厚さは、約50マイクロメートル未満、約20マイクロメートル未満、約10マイクロメートル未満、約5マイクロメートル未満、約2マイクロメートル未満、約1マイクロメートル未満、約0.5マイクロメートル未満、約50nmと約300nmの間、または約0.1マイクロメートルであってよい。被覆厚は、使用したグラフト化技法、反応条件、反応時間、および被覆厚を測定するのに使用した技法を含むいくつかの変量に依存することが理解されるであろう。例えば、乾燥状態でSEMによって測定された被覆厚は、緩衝液中の共焦点顕微鏡などの技法を使用して水和状態で測定したものとは異なるであろう。
【0039】
4. 高分子によりマイクロキャリア基材の被覆
高分子層は、どのような公知のまたは将来開発されるプロセスによってマイクロキャリア基材の表面に堆積させてもよい。被覆が、典型的な細胞培養条件中で剥離しない均一な層を提供することが好ましい。被覆層は、共有または非共有相互作用によってマイクロキャリア基材に結合させてもよい。合成SA表面を基体に結合させる非共有結合相互作用の例としては、化学吸着、水素結合、表面相互浸透、イオン結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用、双極子間相互作用、機械的連結、およびそれらの組合せが挙げられる。共有相互作用の例としては、フリーラジカルを生成するように開裂できる基である、重合性基(例えば、アクリレート)、または連鎖移動剤いずれかを含有するマイクロキャリア基材と、(メタ)アクリレートモノマーとの共重合、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0040】
数多くの実施の形態において、モノマーは、マイクロキャリア基材の表面と接触させられ、その場で重合される。そのような実施の形態において、基材は、ここで、高分子がその上に堆積されるまたは形成される「基体」として称される。重合は、液相またはバルク相中で行ってよい。基体はモノマー混合物中に懸濁され、基体の表面で重合が開始される。モノマーは粘性であろうから、マイクロキャリア基材の基体を懸濁させる前に、粘度を減少させるためにモノマーを適切な溶媒で希釈することが望ましいであろう。粘度を減少させることにより、形成すべき被覆材料をより薄く、より均一な層にすることができるであろう。溶媒はマイクロキャリア基材の材料およびモノマーと相溶性であることが好ましい。培養すべき細胞に対して非毒性であり、重合反応と干渉しない溶媒を選択することが望ましいであろう。代わりに、またはそれに加え、実質的に完全に除去できる、もしくは非毒性であるかまたはもはや重合と干渉しない程度まで除去できる溶媒を選択することが望ましいであろう。そのような状況において、溶媒が、真空または極端な熱などの過酷な条件を用いずに容易に除去できることが望ましいであろう。そのような容易に除去できる溶媒の例に、揮発性溶媒がある。
【0041】
ここに記載されたような物品を被覆するために様々な状況において適しているであろう溶媒の例としては、メタノール、エタノール、アセトン、ブタノン、アセトニトリル、2−ブタノール、イソブタノール、酢酸アセチル、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水またはそれらの組合せが挙げられる。
【0042】
モノマーは、所望の粘度およびモノマー濃度を達成するために、どのような適切な量で溶媒により希釈してもよい。例えば、モノマー組成物は、約0.1%から約99%のモノマーを含有してよい。一例として、モノマーは、約0.1体積%と約50体積%の間のモノマー、または約0.1体積%から約10体積%のモノマー、または約0.1体積%から約1体積%のモノマーを有する組成物を提供するためにエタノールまたは他の溶媒で希釈してもよい。モノマーは、被覆層が所望の厚さを達成するように溶媒で希釈してもよい。層厚は、重合反応時間、モノマー対開始剤の濃度比などによって調節してもよい。
【0043】
被覆層を形成するモノマーに加え、層を形成する組成物は、界面活性剤、湿潤剤、重合開始剤、触媒または活性化剤などの追加の化合物を1種類以上含んでもよい。
【0044】
バルク相(実質的に無溶媒)または液相中で重合されていようとなかろうと、モノマーは、適切な開始機構を通じて重合される。そのような機構の多くが当該技術分野で公知である。例えば、熱開始剤を活性化させるために温度を上昇させてもよく、適切な光の波長への曝露によって光開始剤を活性化させてもよく、酸化還元化学開始剤の組合せによってレドックス系を活性化させてもよい。重合は、酸素阻害を防ぐために、窒素保護などの不活性ガス保護下で行ってもよい。
【0045】
固定化できるどのような適切な重合開始剤を使用してもよい。当業者は、モノマーに使用するのに適した適切な開始剤、例えば、ラジカル開始剤またはカチオン開始剤を容易に選択できるであろう。重合開始剤の例としては、有機過酸化物、アゾ化合物、キノン、ニトロソ化合物、ハロゲン化アシル、ヒドラゾン、メルカプト化合物、ピリリウム化合物、イミダゾール、クロロトリアジン、ベンゾイン、ベンゾイルアルキルエーテル、ジケトン、フェノン、ジエチルジチオカルバミン酸塩、ブロモまたはヒドロキシ酸もしくは酸ハロゲン化物、またはそれらの混合物が挙げられる。開始剤が、形成している高分子の表面開始グラフト化(すなわち、表面からのグラフト化)を提供でき、溶液中のグラフト化を最少にすることが好ましい。形成している高分子が架橋される(すなわち、1種類以上のジまたは高次の官能性モノマーから形成される)場合、表面からのグラフト化が望ましい。表面から離れたラジカルの移動が最少であるまたはない、表面からグラフト化できるモノマーの非限定的例としては、4,4’−アゾビス−(4−シアノペンタン酸)(ABCA)、4−(3−ヒドリドジエチルシリル)プロピルオキシベンゾフェノン、(3−(2−ブロモイソブチリル)プロピル)ジエチルヒドリドシラン、および臭化2−ブロモ−イソブチリルが挙げられる。分解して2つのラジカルを形成する、ABCAなどのある種の開始剤について、開始剤が、各ラジカル含有部分が表面に結合したままであり、表面から離れて移動しないように、2つの固定基を通じて表面に固定されることが好ましい。
【0046】
開始剤は、どのような適切な方法を通じてマイクロキャリア基材に結合または固定化(すなわち、共有結合)されてもよい。マイクロキャリア基材の表面への開始剤の結合を容易にするために、マイクロキャリア基材は、開始剤との反応に適した官能基を含んでもよい。マイクロキャリア基材は、どのような適切な官能基を含んでもよく、その官能基の適性は、使用する開始剤に依存するであろう。例えば、重合開始剤またはマイクロキャリア基材の官能基のいずれか一方が、利用できるカルボン酸基を有する場合、そのカルボン酸基のヒドロキシル基は、アミンの窒素(アミド化反応を通じて)またはアルコールの酸素(エステル化反応を通じて)などの適切な求核原子によって置換されてもよい。さらに別の例として、マイクロキャリアはガラスであっても(または利用できるシラノール基を含有しても)よく、重合開始剤は、利用できるシランカップリング基(またはアルコキシ、アシルオキシ、またはハロゲンなどの加水分解性基)を有してもよい。理論により拘束するものではないが、重合開始剤の加水分解性基が最初に加水分解し、シラノールオリゴマーに縮合し(水の損失)、次いで、ガラスのOH基に水素結合すると考えられる。次いで、熱を加えて縮合を促進し、開始剤とガラス製マイクロキャリアにより形成された共有結合が結果として生じる。これらの上述した反応は、加水分解性基の最初の加水分解後に、全て同時に生じてもよい。
【0047】
表面ヒドロキシルの初期濃度、表面ヒドロキシルのタイプ、形成される結合の安定性および基体の寸法/特徴などの要因が、開始剤のカップリングの有効性に影響するであろう。開始剤のカップリングを最大にするために、ガラス製マイクロキャリア上に最大数のアクセスできる反応性部位を有することがしばしば望ましい。シラン−開始剤と相互作用するかもしれないより反応性のシラノール基を取り除くおよび/または曝露するためのガラス製マイクロキャリアを前処理する工程として、酸または塩基エッチング(例えば、1Mの水酸化ナトリウム、アンモニア、塩化水素酸)、UV−オゾン、またはプラズマ処理を含めてもよい。ガラスの代わりに、シリカ、石英、アルミニウム、アルミノケイ酸塩、銅無機酸化物などの他のヒドロキシ含有基体を使用してもよい。
【0048】
ある実施の形態において、開始剤は、溶液中の重合が最初となり、マイクロキャリア基材の表面が、重合が行われるように選択され、固定化され、このことは、バルク重合混合物から除去するのが難しくなり得る、不溶性架橋ポリマーがグラフト化される状況において、望ましいであろう。表面開始剤としては、可逆性付加開裂型連鎖移動(RAFT)、原子移動ラジカル重合(ATRP)、または他の表面開始剤が挙げられる。当該技術分野において容易に特定できる適切な活性化剤を使用して、そのような反応を促進してもよい。
【0049】
適切な反応の例としては、EDC/NHS活性化、HATU/DIEA、EEDQおよび他のアミド結合形成反応を使用したアミド結合形成が挙げられるであろう。イソチオシアネート、イソシアネート、ハロゲン化アシル、アルデヒド、エポキシ、無水物、または他のアミン反応性基を含有する開始剤を、アミン含有マイクロキャリア基材の支持体上に固定化してもよい。マレイミド、チオールなどを含有する開始剤は、マイケル付加またはジスルフィド形成反応によって、チオールマイクロキャリア基材の支持体上に固定化してもよい。ヒドロキシル基またはアミン基を含有する開始剤は、求核的開環機構によって、エポキシドまたはオキシランマイクロキャリア基材の支持体上に固定化することができる。クリックケミストリーであるディールス・アルダー反応などのシクロ付加反応を固定化方法として利用してもよい。ビオチン/ストレプトアビジンなどの親和性反応、またはタンパク質A/イミノグロブリンG相互作用を、開始剤の固定化に使用してもよい。支持体または開始剤が、固定化を促進するための適切な官能基を含有してもよい。例えば、ここに記載するように、カルボン酸含有開始剤は、COOH−含有開始剤のEEDQ活性化を使用して、アミン含有マイクロキャリア基材の支持体上に固定化してもよい。逆のシナリオ、すなわち、COOHマイクロキャリア基材の支持体に固定化されているアミン含有開始剤も考えられる。文献に記載された他の表面結合技法を、開始剤の固定化に適用してもよい。そのような技法は、文献において十分に検討されてきた(Hermanson, G.T. Bioconjugate Techniques. Second Edition; Academic Press; Elsevier Inc. 2008)。
【0050】
一例として、利用できるカルボン酸基を有する重合開始剤としては、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(ABCA)、および4−ベンゾイル安息香酸が挙げられる。利用できるヒドロキシル基を有する重合開始剤の非限定的例としては、それぞれ、商標名VA−086およびVA−080でWako Specialty Chemialsから入手できる、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]および2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}が挙げられる。シラン基を含有する光分解性またはATRP開始剤の例としては、それぞれ、4−(3−ヒドリドジエチルシリル)プロピルオキシベンゾフェノンまたは(3−(2−ブロモイソブチリル)プロピル)ジエチルヒドリドシランが挙げられる。アミン反応性ATRP開始剤の例に、Sigmaから入手できる臭化2−ブロモ−イソブチリルがある。求核性連鎖移動光開始剤の例に、GangFu Fine Chemicalsから入手できるジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム塩がある。
【0051】
上述したように、シランカップリング基を含有する光開始剤は、ガラス(または他の水酸化物含有基体;例えば、ほとんどの無機物質)に容易に結合されるであろう。例えば、そのような開始剤は、例えば、先に記載したように、開始剤をマイクロキャリアに接触させ、その後、熱促進縮合工程を行うことによって、ガラス製マイクロキャリアまたは利用できるヒドロキシル基を有するマイクロキャリアに結合されるであろう。
【0052】
どのような適切な開始剤をシリルエーテルに形成してもよい。様々な実施の形態において、シリルエーテル開始剤は、以下の式:
【化1】

【0053】
のものである。
【0054】
様々な実施の形態において、R1、R2、およびR3の各々は独立して、置換または未置換C1〜C3アルキル、アルコキシ、または水素であり;XはC1〜C6直鎖または分岐鎖置換または未置換アルキルであり、存在してもしなくてもよい。一例として、シリルエーテル開始剤は、米国特許第4495360号および同第4278804号の各明細書に記載されたものなどのアルコキシ置換シリルベンゾフェノンである。適切なアルコキシ置換シリルベンゾフェノンの1つは、2−ヒドロキシ−4(3−トリエトキシシリルプロポキシ)−ジフェニルケトン(HDPK−Si)である。
【0055】
一般に、固定化された開始剤の量は、マイクロキャリア基材の支持体の官能基添加量に依存する。典型的に、架橋ポリスチレンについて、ビーズg当たり0.1から2ミリモルの官能基が、ヒドロキシル、アミノおよびカルボン酸などの様々な官能基に利用できる。ある実施の形態において、開始剤は、溶液中の重合を最少にして、マイクロキャリア基材の表面で重合が行われるような様式で固定化され、このことは、不溶性の架橋ポリマーがグラフト化される状況において望ましいであろう。様々な実施の形態において、開始剤の固定化レベルは、初期の反応性官能基の添加量の約100%未満である。例えば、開始剤の固定化レベルは、初期の反応性官能基の添加量の約75%未満、初期の反応性官能基の添加量の約50%未満、初期の反応性官能基の添加量の約25%未満、初期の反応性官能基の添加量の約10%未満、初期の反応性官能基の添加量の約5%未満、または初期の反応性官能基の添加量の約1%未満であってよい。一例として、重合開始剤の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(ABCA)は、全てのカルボン酸基がマイクロキャリア基材の支持体の表面に結合されるように固定化される。アゾ開始剤が開裂する場合、両方のフリーラジカル基が表面に結合されたままであり、バルク溶液中のラジカルは最少である。同様に、2−ヒドロキシ−4(3−トリエトキシシリルプロポキシ)−ジフェニルケトン(HDPK−Si)からのベンゾフェノンのガラス製マイクロキャリアの表面への結合により、分子間水素引抜きによって、開始剤を表面に結合したままにする。フリーラジカル基の両方を基材に固定化することによって、溶液中のバルク重合を制限することができる。
【0056】
光増感剤も適切な開始剤系に含めてもよい。代表的な光増感剤は、カルボニル基または第三級アミノ基もしくはそれらの混合物を有する。カルボニル基を有する光増感剤としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンジル、ベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、キサントン、チオキサントン、9,10−アントラキノン、および他の芳香族ケトンが挙げられる。第三級アミンを有する光増感剤としては、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニルメチルエタノールアミン、および安息香酸ジメチルアミノエチルが挙げられる。市販されている光増感剤としては、Biddle Sawyer Corp.からのQUANTICURE ITX、QUANTICURE QTX、QUANTICURE PTX、QUANTICURE EPDが挙げられる。しかしながら、光増感剤を使用する場合、溶液中の重合を最少にすることが好ましい。
【0057】
未反応モノマーまたは低分子量ポリマー種などの不純物を除去するために、硬化した被覆層を溶媒で1回以上洗浄してもよい。様々な実施の形態において、この層は、エタノールまたはエタノール/水溶液、例えば、50%エタノール、70%エタノール、90%超エタノール、95%超エタノールまたは約99%超エタノールで洗浄される。マイクロキャリア基材の支持体のサイズと形状により、被覆されたマイクロキャリア基体の容易かつ十分な洗浄が可能にできる。どのような適切なフィルタ装置を組み込んで、洗浄溶媒を除去してもよい。フィルタシステムの例は、真空フィルタを備えたペプチド合成容器またはより高温での洗浄のためのソックスレー装置である。
【0058】
ここで、図3を参照して、高分子層を、マイクロキャリア基材と接触している間にその場で形成されながら、マイクロキャリアにグラフト化(例えば、共有結合)してもよい。図3に示されるように、様々な実施の形態において、被覆層をマイクロキャリアにグラフト化させる方法は、(i)重合開始剤をマイクロキャリア基材に結合させる工程(200)、および(ii)基材と接触している間に、被覆を重合させ、その場でマイクロキャリア基材にグラフト化させる工程(210)を含む。この方法は、例えば、以下に詳しく記載するように、ポリペプチドを被覆層に結合させる工程(220)をさらに含んでもよい。
【0059】
多くの適切な官能基マイクロキャリア基体が、供給メーカーから入手できる。例えば、COOH、SH、NH2、およびCHO官能化ポリスチレン樹脂および微小球が、Rapp Polymere GMBHから入手できる;アミノ、カルボキシレート、カルボキシ−スルフェート、ヒドロキシレート、およびスルフェート官能化ポリスチレンビーズが、Polysciences, Inc.から入手できる;アミン官能化ガラスビーズが、Polysciences, Inc.から入手できる。カルボキシレート官能化デキストランビーズが、GE Healthcare、Hyclone、およびSigma-Aldrichから入手できる。アズラクトン官能化ビーズがPierceから入手できる。未官能化磁気ビーズがMerckから入手できる。
【0060】
もちろん、当該技術分野に公知の技法を通じて、官能基をマイクロキャリアに容易に加えられる。例えば、ガラス製キャリアは、適切な有機シランにより容易に官能化できるであろう。表面積を増加させるために、官能化前にガラス製キャリアの表面を処理またはエッチングすることが望ましいであろう。官能化エポキシ樹脂を用いて、ガラスまたは他の適切なマイクロキャリアを官能化してもよい。ポリスチレンまたは他の適切なマイクロキャリアも、公知の技法を使用して容易に官能化できる。例えば、マイクロキャリア基材は、クロロメチルスチレンまたは4−t−BOC−ヒドロキシスチレンなどのモノマーの重合によって調製してもよい。他の適切なモノマーは、スチレン、α−メチルスチレン、または他の置換スチレンもしくは重合後に、クロロメチル化して、官能化マイクロキャリアにその後転化できる反応性マイクロキャリア中間体を製造できるビニル芳香族モノマーである。もちろん、反応性基を担持しないモノマー(架橋剤を含む)をマイクロキャリアに含ませても差し支えない。反応性マイクロキャリア中間体の化学修飾は、様々な従来の方法によって行ってよい。
【0061】
ここで図4を参照すると、重合開始剤をマイクロキャリア上に固定化するための適切な反応スキームの一例が示されている。図4Aに示されたスキームにおいて、シリルエーテル官能基を有するシロキサン修飾光開始剤のHDPK−Siが加熱下でガラス製マイクロキャリア(ガラスビーズ)に結合され、ビーズに、エーテル結合を通じて結合したヒドロキシルジフェニルケトン(HDPK)が残る。ここで図4Bを参照すると、開始剤と結合したマイクロキャリアが、適切な溶媒(例えば、メタノール)中の適切なモノマー(この場合、2−カルボキシエチルアクリレート「CEA」、2−ヒドロキシエチルアクリレート「HEMA」、テトラエチレングリコールジメタクリレート「TEGDMA」)と共に溶液中に入れられ、UV照射が施されて、重合を開始して、被覆マイクロキャリアが生成される。この場合、マイクロキャリア被覆は、CEAから生じた自由なカルボン酸基を有し、これが、例えば、以下に詳しく記載するように、ポリペプチドの容易な結合を提供する。
【0062】
ここで図5を参照すると、重合開始剤をマイクロキャリア上に固定化するための適切な反応スキームの一例が示されている。図5Aに示されたスキームにおいて、カルボン酸官能基(この場合、2つのカルボン酸官能基)を有する熱開始剤であるABCAが、2−エトキシ−1−エトキシカルボニル−1,2−ジヒドロキノリン(EEDQ)活性化を使用して、アミン官能化マイクロキャリア(アミンビーズ)に結合される。
【0063】
ここで図5Bを参照すると、開始剤と結合したマイクロキャリアが、適切な溶媒(この場合、メタノール)中の適切なモノマー(この場合、2−カルボキシエチルアクリレート「CEA」、2−ヒドロキシエチルアクリレート「HEMA」、テトラエチレングリコールジメタクリレート「TEGDMA」)と共に溶液中に入れられ、加熱されて、重合を開始して、被覆マイクロキャリアが生成される。この場合、マイクロキャリア被覆は、CEAから生じた自由なカルボン酸基を有し、これが、例えば、以下に詳しく記載するように、ポリペプチドの容易な結合を提供する。
【0064】
図4〜5に示された反応スキームは、被覆をマイクロキャリア基材にグラフト化するのに使用してよい反応スキームの一例であること、およびマイクロキャリア基材および開始剤上で利用できる官能基に応じて、どのような適切な反応スキームを使用してもよいことが理解されよう。さらに、図4〜5のスキームは、光開始剤、および熱開始剤の使用を示しているが、RAFT(可逆性付加開裂型連鎖移動)開始剤、ATRP(原子移動ラジカル重合)開始剤、または他の表面開始剤を使用して、高分子をグラフト化してもよいことが理解されよう。
【0065】
ここで図6を参照すると、被覆マイクロキャリアを形成する方法の概要が示されている。この方法は、重合開始剤をマイクロキャリア基材に結合させる工程(300)および開始剤結合マイクロキャリア基材を、モノマーを含有する溶液に導入する工程(310)を含む。「溶液」は、懸濁液、分散などであってもよいことが理解されよう。次いで、重合を開始して、被覆をマイクロキャリア基材にグラフト化させる(320)。
【0066】
図3〜6に概要を示した方法を使用することによって、被覆が重合開始剤を通じてマイクロキャリア基材にグラフト化された被覆マイクロキャリアが生成される。被覆のそのようなグラフト化により、被覆の健全性が改善され、細胞培養中の剥離が減少するであろう。
【0067】
マイクロキャリアに関して記載したが、ここに記載された方法は、どのような細胞培養物品の表面に高分子被覆をその場でグラフト化するために使用しても差し支えないことが理解されよう。例えば、高分子層は、マルチウェルプレート、瓶、ペトリ皿、フラスコ、多層式フラスコ、ビーカー、プレート、ローラーボトル、区画および多区画スライドなどのスライド、試験管、カバーガラス、バッグ、膜、中空ファイバ、カップ、スピナーボトル、潅流チャンバ、バイオリアクタ、および発酵槽の1つ以上の表面にグラフト化してもよい。そのような細胞培養物品の基体または基材は、金属表面、セラミック物質、ガラス、プラスチック、ポリマーまたはコポリマー、それらの任意の組合せ、もしくはある材料の別の材料上の被覆などのどのような適切な材料から形成されてもよい。例えば、基体または基材としては、ソーダ石灰ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、Vycorガラス、石英ガラス;シリコン;ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(ジメチルシロキサン)モノメタクリレート、環状オレフィンポリマー、フルオロカーボンポリマー、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンイミンなどの樹状ポリマーを含むプラスチックまたはポリマー;酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸重合体またはこれらの誘導体などの共重合体が挙げられるであろう。そのような材料は、ここに記載されたように、または当該技術分野で公知のように、容易に官能化されるであろう。
【0068】
5. ポリペプチド
どのような適切なポリペプチドを被覆マイクロキャリアに結合させてもよい。様々な実施の形態において、ポリペプチドまたはタンパク質は、組換え技法を通じて合成され、または得られ、それにより、それらが合成非動物由来材料となる。ポリペプチドが、例えば、被覆を形成するために使用されるモノマーから形成された自由なカルボキシル基を介して、被覆に結合できるアミノ酸を含むことが好ましい。一例として、例えば、アミド結合の形成により、求核付加反応を可能にする官能性を有する天然またはバイオミメティックのアミノ酸を、被覆に結合する目的のためにポリペプチドに含ませてもよい。リシン、ホモリシン、オルニチン、ジアミノプロピオン酸、およびジアミノブタン酸が、マイクロキャリアのカルボキシル基に結合するための適切な性質を有するアミノ酸の例である。それに加え、N末端アミンがキャッピングされていない場合、ポリペプチドのN末端のアルファアミンを、カルボキシル基に結合するために使用してもよい。様々な実施の形態において、被覆と結合するポリペプチドのアミノ酸は、ポリペプチドのカルボキシ末端位置またはアミノ末端位置にある。
【0069】
数多くの実施の形態において、ポリペプチドまたはその一部分は、細胞接着活性を有する;すなわち、ポリペプチドが被覆マイクロキャリアに結合される場合、ポリペプチドにより、細胞が、ペプチド含有被覆マイクロキャリアの表面に接着することができる。一例として、ポリペプチドは、インテグリンの部類のタンパク質により認識される、または細胞接着を維持することのできる細胞分子との相互作用をもたらす、アミノ酸配列、またはその細胞接着部分を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは、コラーゲン、ケラチン、ゼラチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、骨シアロタンパク質(BSP)など、またはその部分由来のアミノ酸配列を含んでよい。様々な実施の形態において、ポリペプチドは、ArgGlyAsp(RGD)のアミノ酸配列を含む。
【0070】
ここに記載されたマイクロキャリアは、どのような適切な接着性ポリペプチドまたはポリペプチドの組合せも結合され得る合成表面を提供し、未知の成分を有する生物学的基質または血清の代替案を提供する。現行の細胞培養慣例において、ある細胞タイプには、細胞が表面に接着し持続可能に培養されるために、培養表面上に生物学的ポリペプチドまたはペプチドの組合せが存在する必要があることが知られている。例えば、HepG2/C3A肝細胞は、血清の存在下でプラスチック製培養器具に付着できる。しかしながら、生物学的に誘導された基質および血清は、未知の成分を含有している。細胞付着を生じる血清または生物学的に誘導された基質の特定の成分または成分(ペプチド)の組合せが公知である細胞について、それらの公知のポリペプチドは、合成でき、ここに記載したようなマイクロキャリアに施して、未知の起源または組成の成分を全くまたはごくわずかしか持たない合成表面上で細胞を培養することができる。
【0071】
ここに論じられたポリペプチドのいずれについても、具体的に特定されたまたは公知のアミノ酸の代わりに、保存アミノ酸を使用してもよいことが理解されよう。ここに用いたように、「保存アミノ酸」は、第2のアミノ酸と機能的に類似のアミノ酸を称する。そのようなアミノ酸は、よく知られた技法に従ってポリペプチドの構造または機能への障害を最少にして、ポリペプチド内で互いに置き換えられてもよい。以下の5つの群の各々は、互いに同類置換基であるアミノ酸を含有する:脂肪族:グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、イソロイシン(I);芳香族:フェニルアラニン(F)、チロシン(T)、トリプトファン(W);硫黄含有:メチオニン(M)、システイン(C);塩基性:アルギニン(R)、リシン(K)、ヒスチジン(H);酸性:アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)。
【0072】
反復ポリ(エチレングリコール)リンカーまたは任意の他の適切なリンカーなどのリンカーまたはスペーサを使用して、ポリペプチドから被覆マイクロキャリアの表面までの距離を増加させてもよい。リンカーは、どのような適切な長さのものであってもよい。例えば、リンカーが反復ポリ(エチレングリコール)リンカーである場合、そのリンカーは、2および10の間の反復エチレングリコール単位を含有してもよい。ある実施の形態において、リンカーは、約4の反復エチレングリコール単位を有する反復ポリ(エチレングリコール)リンカーである。ポリペプチドの全て、いくつかが、リンカーを介して被覆マイクロキャリアに結合されていても、全くされていなくてもよい。利用してよい他の潜在的なリンカーとしては、ポリ(グリシン)またはポリ(β−アラニン)などのポリペプチドリンカーが挙げられる。
【0073】
ポリペプチドは、どの密度で被覆マイクロキャリアに結合してもよく、未分化幹細胞または他の細胞タイプの培養を支持するのに適した密度が好ましい。ポリペプチドは、マイクロキャリアの表面mm2当たり約1ピコモルと約50ピコモルの間の密度でマイクロキャリアに結合されていてもよい。例えば、ポリペプチドは、被覆マイクロキャリアの表面の5ピコモル/mm2超、6ピコモル/mm2超、7ピコモル/mm2超、8ピコモル/mm2超、9ピコモル/mm2超、10ピコモル/mm2超、12ピコモル/mm2超、15ピコモル/mm2超、または20ピコモル/mm2超の密度で存在してよい。被覆が厚い(例えば、<1μm)場合、あるポリペプチドは結合表面下であり、単位表面積当たりのポリペプチド密度を推測することが難しくなるかもしれない。この場合、ポリペプチド密度は、マイクロキャリアの嵩密度が1.01と1.10cm2/gの間にあるとすると、0.1ミリモル/mgと約1ミリモル/mgの間の密度で結合されるであろう。標準BCA比色技法を使用して、ペプチド密度を推測してもよい。存在するポリペプチドの量は、マイクロキャリアの被覆の組成、マイクロキャリア基材のサイズおよびポリペプチド自体の性質に応じて様々であり得ることが理解されよう。
【0074】
ポリペプチドは、どのような適切な技法によって被覆マイクロキャリアに結合されてもよい。ポリペプチドは、アミノ末端アミノ酸、カルボキシ末端アミノ酸、または内部アミノ酸により、高分子マイクロキャリアに結合されてもよい。ある適切な技法としては、一般に当該技術分野に知られている、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)/N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)化学反応が挙げられる。EDCおよびNHSまたはN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ−NHS)は、湿潤性(メタ)アクリレート層のカルボキシル基と反応して、アミン反応性NHSエステルを生成できる。EDCは、被覆層のカルボキシル基と反応して、加水分解を受けやすいアミン反応性O−アシルイソ尿素中間体を生成する。NHSまたはスルホ−NHSの添加により、アミン反応性O−アシルイソ尿素中間体をアミン反応性NHSまたはスルホ−NHSエステルに転化することによって、その中間体が安定化され、二段階手法が可能になる。次いで、被覆の活性化後、ポリペプチドを加えてよく、ポリペプチドの末端アミンが、アミン反応性エステルと反応して、安定なアミド結合を形成し、よって、ポリペプチドを被覆に結合させることができる。EDC/NHS化学反応を用いて、ポリペプチドを被覆に結合させる場合、N−末端アミノ酸は、リシン、オルニチン、ジアミノ酪酸、またはジアミノプロピオン酸などのアミノ酸を含有するアミンであることが好ましい。もちろん、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、ヒドロキシルなどの、どのような許容される求核試薬を使用してもよい。
【0075】
EDC/NHS化学反応により、ポリペプチドのマイクロキャリアに対するゼロの長さの架橋が生じる。末端アミンを有するポリ(エチレングリコール)リンカー(例えば、Quanta BioDesign, Ltd.から入手できる)などのリンカーまたはスペーサを、ポリペプチドのN末端アミノ酸に加えてもよい。リンカーをN末端アミノ酸に加える場合、そのリンカーは、PGが、Fmoc基、BOC基、CBZ基またはペプチド合成に敏感に反応する任意の他の基などの保護基であり、Xが、利用してよい,4,6,8,12,24または任意の他の別個の利用可能なPEGである、N−PG−アミド−PEGx−酸であることが好ましい。
【0076】
様々な実施の形態において、溶液、懸濁液などの、1μM〜10mMのポリペプチド流体組成物を、活性化された被覆マイクロキャリアと接触させて、ポリペプチドを結合させる。例えば、ポリペプチド濃度は、約100μMと約2mMの間、約500μMと約1.5mMの間、または約1mMであってよい。ポリペプチド組成物の体積と濃度は、マイクロキャリアに結合されるポリペプチドの所望の濃度を達成させるために変えてもよい。
【0077】
ポリペプチドは、環化されていても、環状部分を含んでいてもよい。環状ポリペプチドを形成するどのような適切な方法を使用してもよい。例えば、アミド結合は、適切なアミノ酸側鎖にある自由なアミノ官能基と、適切なアミノ酸側鎖の自由なカルボキシル基とを環化させることによって形成してもよい。また、ペプチド配列における適切なアミノ酸側鎖の自由なスルフヒドリル基の間に、ジスルフィド結合が形成されてもよい。どのような適切な技法を使用して、環状ポリペプチド(またはその部分)を形成してもよい。一例として、例えば、国際公開第1989/005150号パンフレットに記載された方法を使用して、環状ポリペプチドを形成してもよい。ポリペプチドが、カルボキシ末端とアミノ末端との間にアミド結合を有する、頭−尾環状ポリペプチドを使用してもよい。ジスルフィド結合に代わる代替案は、例えば、Koide et al, 1993, Chem. Pharm. Bull. 41(3):502-6; Koide et al.,1993, Chem. Pharm. Bull. 41(9):1596-1600; またはBesse and Moroder, 1997, Journal of Peptide Science, vol. 3, 442-453に記載されているような、2つのセレノシステインを使用したジセレニド結合または混合セレニド/スルフィド結合であろう。
【0078】
ポリペプチドは、当該技術分野で公知のように合成しても(あるいは分子生物学技法により生成しても)、またはAmerican Peptide Company、CEM Corporation、またはGenScript Corporationなどの、供給メーカーから得てもよい。リンカーは、当該技術分野で公知のように合成しても、またはQuanta BioDesign, Ltd.から入手できる個別(discrete)ポリエチレングリコール(dPEG)などの、供給メーカーから得たものであってもよい。あるいは、ポリペプチドは、当該技術分野に公知の標準的なFmoc/Bocペプチド合成プロトコルを使用して、マイクロキャリア支持体の表面上に直接合成してもよい。
【0079】
マイクロキャリアに結合されるポリペプチドの例に、KGGNGEPRGDTYRAY (配列番号1)を含むポリペプチドがあり、この配列は、N末端に追加の「KGG」配列が加えられた骨シアロタンパク質からのRGD含有配列である。リシン(K)は、化学結合のための適切な求核基として働き、2つのグリシンアミノ酸(GG)はスペーサとして働く。あるいは、使用する結合方法に応じて、シスチン(C)、または別の適切なアミノ酸を化学結合に使用してもよい。もちろん、結合またはスペーサ配列(例えば、KGGまたはCGG)は存在してもしなくてもよい。マイクロキャリアとの結合のための(結合またはスペーサ配列の有無にかかわらず)適切なポリペプチドの追加の例に、NGEPRGDTYRAY, (配列番号2), GRGDSPK (配列番号3) (短いフィブロネクチン) AVTGRGDSPASS (配列番号4) (長いFN), PQVTRGDVFTMP (配列番号5) (ビトロネクチン), RNIAEIIKDI (配列番号6) (ラミニンβ1), KYGRKRLQVQLSIRT (配列番号7) (mLMα1 res 2719-2730), NGEPRGDTRAY (配列番号8) (BSP-Y), NGEPRGDTYRAY (配列番号9) (BSP), KYGAASIKVAVSADR (配列番号10) (mLMα1 res2122-2132), KYGKAFDITYVRLKF (配列番号11) (mLMγ1 res 139-150), KYGSETTVKYIFRLHE (配列番号12) (mLMγ1 res 615-627), KYGTDIRVTLNRLNTF (配列番号13) (mLMγ1 res 245-257), TSIKIRGTYSER (配列番号14) (mLMγ1 res 650-261), TWYKIAFQRNRK (配列番号15) (mLMα1 res 2370-2381), SINNNRWHSIYITRFGNMGS (配列番号16) (mLMα1 res 2179-2198), KYGLALERKDHSG (配列番号17) (tsp1 RES 87-96), またはGQKCIVQTTSWSQCSKS (配列番号18) (Cyr61 res 224-240)を含むポリペプチドがある。
【0080】
ある実施の形態において、ペプチドは、KGGK4DGEPRGDTYRATD17 (配列番号19)、ここで、Lys4およびAsp17は、共にアミド結合を形成して、ポリペプチドの一部を環化させる;KGGL4EPRGDTYRD13 (配列番号20)、ここで、Lys4およびAsp13は、共にアミド結合を形成して、ポリペプチドの一部を環化させる;KGGC4NGEPRGDTYRATC17 (配列番号21)、ここで、Cys4およびCys17は、共にジスルフィド結合を形成して、ポリペプチドの一部を環化させる;KGGC4EPRGDTYRC13 (配列番号22)、ここで、Cys4およびCys13は、共にジスルフィド結合を形成して、ポリペプチドの一部を環化させる;またはKGGAVTGDGNSPASS (配列番号23)を含む。
【0081】
実施の形態において、ポリペプチドは、アセチル化またはアミド化されていても、もしくはその両方であってもよい。これらの実施の形態を提供したが、当業者には、ここに記載したように、どのようなペプチドまたはポリペプチド配列をマイクロキャリアに結合してもよいことが理解されよう。
【0082】
6. マイクロキャリアを有する培地中での細胞の培養
ここに記載されたマイクロキャリアは、どのような適切な細胞培養システムに使用してもよい。一般に、マイクロキャリアおよび細胞培養用培地は適切な細胞培養物品内に入れられ、この培地内でマイクロキャリアは撹拌または混合される。適切な細胞培養物品としては、WAVE BIOREACTOR(登録商標)(Invitrogen)などのバイオリアクタ、6,12,96,384,および1536ウェルプレートなどのシングルおよびマルチウェルプレート、瓶、ペトリ皿、フラスコ、多層式フラスコ、ビーカー、プレート、ローラーボトル、試験管、バッグ、膜、カップ、スピナーボトル、潅流チャンバ、バイオリアクタ、CellSTACK(登録商標)培養チャンバ(Corning Incorporated)および発酵槽が挙げられる。
【0083】
上述したようにマイクロキャリアを含有する培地を収容する細胞培養物品に細胞を播種してよい。使用したマイクロキャリアは、培養されている細胞のタイプに基づいて選択されるであろう。細胞はどのような細胞タイプのものであってもよい。例えば、細胞は、結合組織細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、骨格筋または平滑筋細胞、心筋細胞、腸細胞、腎細胞、または他の臓器からの細胞、幹細胞、島細胞、血管細胞、リンパ球、癌細胞、初代細胞、細胞株などであってよい。細胞は、哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞であってよいが、細菌、酵母、または植物細胞などの非哺乳類細胞であってもよい。
【0084】
数多くの実施の形態において、幹細胞は、当該技術分野において一般に理解されているように、連続的に分裂する(自己再生する)能力を有し、様々な範囲の特殊化した細胞に分化することのできる細胞を称する。ある実施の形態において、幹細胞は、被験者の臓器または組織から単離されるであろう、多能性(multipotent)、全能性、または多能性(pluripotent)の幹細胞である。そのような細胞は、完全に分化したまたは成熟細胞タイプを産生することできる。幹細胞は、骨髄由来幹細胞、自己または他の、神経幹細胞、または胚性幹細胞であってよい。幹細胞はネスチン陽性であってよい。幹細胞は造血幹細胞であってよい。幹細胞は、上皮および脂肪組織、臍の緒血液、肝臓、脳または他の臓器由来の多系統細胞であってもよい。様々な実施の形態において、幹細胞は、哺乳類から単離された多能性胚性幹細胞などの多能性幹細胞である。適切な哺乳類としては、マウスまたはラットなどの齧歯類、ヒトを含む霊長類および非ヒト霊長類が挙げられる。様々な実施の形態において、結合したポリペプチドを有するマイクロキャリアは、5継代以上、7継代以上、または10継代以上に亘り、胚性幹細胞の未分化培養を支持する。一般に、幹細胞は、約75%の培養密度(confluency)に到達した後に、新しい表面に継代培養される。細胞が75%の培養密度に到達する時間は、培地、播種密度および当該技術分野に公知の他の要因に依存する。
【0085】
ヒト胚性幹細胞(hESC)は、未分化状態で培養中に連続的に増殖する能力を有するので、ここに記載されたマイクロキャリアに使用するためのhESCは、株化細胞から得てもよい。株化されたヒト胚性幹細胞株の例としては、以下に限られないが、BG01V/hOG細胞(Invitrogenから入手でき、ここに記載される)、H1、H7、H9、H13またはH14(ウィスコンシン大学により株化されたWiCellから得られる)(Thompson (1998) Science 282:1145 );hESBGN−01、hESBGN−02、hESBGN−03(ジョージア州、アセンズ所在のBresaGen,Inc.);HES−1、HES−2、HES−3、HES−4、HES−5、HES−6(シンガポール国のES Cell International, Inc.から);HSF−1、HSF−6(カリフォルニア大学サンフランシスコ校から);I3、I3.2、I3.3、I4、I6、I6.2、J3、J3.2(イスラエル国、ハイファ所在のイスラエル工科大学で誘導された);UCSF−1およびUCSF−2(Genbacev et al., Fertil. Steril. 83(5):1517-29, 2005);HUES1−17株(Cowan et al., NEJM 350(13):1353-56, 2004);およびACT−14株(Klimanskaya et al., Lancet, 365(9471):1636-41, 2005)が挙げられる。胚性幹細胞は、初代胚組織から直接得てもよい。一般に、このことは、そうでなければ廃棄されるであろう、胚盤胞段階での凍結したインビトロ受精卵を使用して行われる。
【0086】
多能性幹細胞の他の供給源としては、人工霊長類多能性幹(iPS)細胞が挙げられる。iPS細胞は、hESCなどの多能性幹細胞の表現型を獲得するように再プログラム化されるように、例えば、1つ以上の適切なベクターのトランスフェクションにより、遺伝子組み換えされた、ヒトなどの若いまたは成体の哺乳類から得られる、細胞を称する。これらの再プログラム化された細胞により獲得された表現型形質としては、胚盤胞から単離された幹細胞に似た形態、並びに胚盤胞由来の胚性幹細胞に似た表面抗原発現、遺伝子発現およびテロメラーゼ活性が挙げられる。iPS細胞は、典型的に、初代胚葉:内胚葉、外胚葉および中胚葉の各々からの少なくとも1つの細胞タイプに分化する能力を有する。hESCのようなiPS細胞は、免疫不全マウス、例えば、SCIDマウスに注入されたときに、奇形種を形成する(Takahashi et al., (2007) Cell 131(5):861; Yu et al., (2007) Science318:5858)。
【0087】
幹細胞を未分化状態に維持するために、表面に付着したポリペプチドに対する選択的付着を得ながら、マイクロキャリアの表面との細胞の非特異的相互作用または付着を最少にすることが望ましいであろう。結合したポリペプチドを有さないマイクロキャリアの表面に幹細胞が付着する能力を、ポリペプチドを結合させる前に試験して、そのマイクロキャリアが幹細胞の非特異的相互作用または付着をわずかしかまたは全く与えないか否かを判定することができる。一度、適切なマイクロキャリアが選択されたら、そのマイクロキャリアを含有する培地中に細胞を播種してよい。
【0088】
細胞の播種前に、細胞のタイプに関係なく、細胞を収穫し、一度播種したら細胞を培養すべき増殖用培地などの適切な培地内に細胞を懸濁させてもよい。例えば、細胞は、血清含有培地、条件培地、または既知組成培地中に懸濁させ、培養してもよい。ここに用いたように、「既知組成培地」は、未知の組成の成分を含有しない細胞培養用培地を意味する。既知組成細胞培養用培地は、様々な実施の形態において、未知の組成のタンパク質、加水分解物、またはペプチドを含まないであろう。ある実施の形態において、既知組成培地は、遺伝子組換え型成長ホルモンなどの、公知の組成のポリペプチドまたはタンパク質を含有する。既知組成培地の全ての成分が公知の化学構造を有するので、培養条件におけるばらつき、それゆえ、細胞応答におけるばらつきを減少させ、再現性を増大させることができる。その上、汚染の可能性が減少する。さらに、規模展開能力が、少なくとも一部には、先に論じられた要因のために、より容易になる。既知組成細胞培養用培地は、胚性幹細胞の増殖および展開から特別に構成された完全無血清および無支持細胞培地(SFM)である、STEM PROとしてInvitrogen(Invitrogen Corporation, 1600 Faraday Avenue, PO Box 6482, Carlsbad, California 92008)から、Xvivo(Lonza)から、およびヒト胚性幹細胞のためのmTeSR(商標)1維持培地としてStem Cell Technologies,Inc.から、市販されている。
【0089】
ポリペプチドに結合したマイクロキャリアと共に細胞が培養される培地に、1種類以上の増殖因子または他の因子を加えてもよい。それらの要因は、細胞増殖、接着、自己再生、分化などを促進するであろう。培地に加えてもよい、または培地に含まれてもよい因子の例としては、筋肉形態形成因子(muscle morphogenic factor:MMF)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン、血小板由来成長因子(PDGF)、表皮成長因子(EGF)、アクチビンAなどのアクチビン(ACT)、造血成長因子、レチノイン酸(RA)、インターフェロン、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)などの線維芽細胞増殖因子、骨形成タンパク質(BMP)、ペプチド性細胞増殖因子、ヘパリン結合性増殖因子(HBGF)、肝細胞成長因子、腫瘍壊死因子、インスリン様成長因子(IGF)IおよびII、形質転換成長因子−β1(TGFβ1)などの形質転換成長因子、およびコロニー刺激因子が挙げられる。
【0090】
細胞は、どのような適切な濃度で播種してもよい。一般に、細胞は、約10,000細胞/マイクロキャリアのcm2から約500,000細胞/マイクロキャリアのcm2で播種される。例えば、細胞は、約50,000細胞/基体のcm2から約150,000細胞/基体のcm2で播種してよい。しかしながら、より高いおよびより低い濃度が容易に使用されるであろう。培養時間および温度、CO2とO2のレベル、増殖用培地などの条件は、培養されている細胞の性質に依存し、容易に変更することができる。マイクロキャリアで細胞を培養する時間は、所望の細胞応答に応じて様々であろう。
【0091】
培養した細胞は、(i)調査研究に使用するため、または治療法を開発するために、既知組成培地内の合成表面上で培養される未分化幹細胞を十分な量で得ること、(ii)培養されている細胞の調査研究のため、(iii)治療法を開発するため、(iv)治療目的のため、(v)例えば、cDNAライブラリを作成することにより、遺伝子発現を研究するため、(vi)薬物と毒性のスクリーニングを研究するため、および(vii)その他の同種類のことなどを含むどのような適切な目的に使用してもよい。
【0092】
細胞が未分化であるか否かを判定するための1つの適切な方法は、OCT4マーカーの存在を測定することである。様々な実施の形態において、ここに記載されたマイクロキャリア上で、5,7また10継代以上に亘り培養された未分化幹細胞は、分化される能力を維持する。
【0093】
以下に、先に論じられたマイクロキャリアおよび方法の様々な非限定的実施の形態を記載する、非限定的実施例が提示されている。
【実施例】
【0094】
実施例1: マイクロキャリア基材の表面上への開始剤の固定化
光開始剤の2−ヒドロキシ−ジフェニルケトン(HDPK)を以下のようにガラスビーズの表面に共有結合させた。手短に言えば、1000mgの乾燥した200マイクロメートルの低密度ガラスビーズ(立方センチメートル当たり1.04グラム)を15mLの遠心分離管内に移し、それに、エタノール中の5%の(2−ヒドロキシ−4(3−トリエトキシシリルプロポキシ)−ジフェニルケトン)(HDPK−Si)を15mL加え、1時間に亘りオービタル・シェーカー上で揺り動かした。HDPK溶液を吸引により除去し、ビーズをエタノール(5×各10mL)で洗浄し、最後の洗浄の際に残留エタノールの大半を吸引した。次いで、ビーズを25℃で一晩、真空乾燥させ、1.5時間に亘り、125℃に設定した真空乾燥器内で硬化させた(例えば、図4A参照のこと)。
【0095】
実施例2: 開始剤結合マイクロキャリア基材への合成高分子のグラフト化
合成高分子層を、実施例1に記載したHDPK−結合微小球にグラフト化させた。手短に言えば、100mgのHDPKガラスビーズを5mLの水、メタノール、または水/メタノール(1:1の体積比)中に懸濁させ、この溶液に、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEMA、80μL)、カルボキシエチルアクリレート(CEA、20μL)、および水中の10%のテトラエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA、30μL)を加え、電磁撹拌機を備えたシンチレーションバイアルに入れた(正確な配合については下記の表を参照)。反応混合物を、30分間に亘り低窒素流下でパージし、10分間に亘りキセノン600Wパルス式UV硬化システムにより350nmで照射した。被覆ガラス製マイクロキャリアをエタノール、水(3×各5mL)で吸引洗浄し、15mLの遠心分離管に移し、オービタル・シェーカー上で一晩、10mLのエタノール/水1:1で洗浄した。最後に、マイクロキャリアをエタノール(3×各5mL)で濯ぎ、一晩、空気乾燥した。クリスタル・バイオレット染色により、カルボキシレートのグラフト化が確認されたのに対し、未硬化の対照ビーズにおいては、クリスタル・バイオレット染色は観察されなかった。硬化および未硬化のビーズを先に記載したように調製し、それが、下記の表1Aおよび1Bに示されている。
【表1A】

【表1B】

【0096】
クリスタル・バイオレット染色を以下のように行った。手短に言えば、乾燥したCOOH官能化微小球の少量のサンプルを2mLの遠心分離管内に入れた。この遠心分離管に、水中のクリスタル・バイオレット・ブルーの1:5の希釈物500μLを加えた。5分後に、上部の溶液が無色透明となるまで、サンプルをDI水で吸引洗浄した。光学顕微鏡を使用して、微小球の染色を評価した。均一な染色が観察された。
【0097】
水/メタノール溶媒を使用して形成した被覆マイクロキャリア(表1B、15112−114Eを参照)が、最も均一であり(N2パージと照射後に、わずかな濁りの凝集もない)、良好なクリスタル・バイオレット染色であるようであった。水中で形成された被覆マイクロキャリア(表1B、15112−114Dを参照)は、N2パージと照射と洗浄後の分離後に、ある程度の凝集と濁りを示したが、良好なクリスタル・バイオレット染色を示した。メタノール中で形成された被覆マイクロキャリア(表1B、15112−114Eを参照)は、凝集も濁りも示さなかったが、N2パージと照射後に、50%超の溶媒の損失が観察された。他のマイクロキャリアのように、メタノール中で形成された被覆マイクロキャリアは、良好なクリスタル・バイオレット染色を示した。
【0098】
結果として得られたマイクロキャリアを走査型電子顕微鏡により観察した(図7参照)。アミン官能化ポリスチレン(PS−NH2、図7A)およびABCA−誘導体化PS(PS−ABCA、図7B)は、おおよそ同じ表面テキスチャーを有した(両方とも100×および1000×の倍率で観察した)。おそらくABCAの付着中の溶媒により誘発された膨潤および潰れのために、PS−ABCAの表面にわずかな変形が見られた。PS−ABCA表面をHG02でグラフト化したときに(図7C)、その表面に無作為な窪みパターンが観察された。「HG02」は、それぞれ、80:20:3の体積比を有するHEMA、CEAおよびTEGDMAの重合から形成された膨潤性(メタ)アクリレート被覆を称する(例えば、表1B参照)。水溶液中にビーズを懸濁させ、ポリマーが膨潤した場合、これらの窪みは、光学顕微鏡で明白ではなかった。乾燥ビーズでSEM画像を捕らえたら、ポリマーの潰れのために、窪みがあるであろう。
【0099】
実施例3: 被覆マイクロキャリアへのポリペプチドのグラフト化
実施例2に記載された被覆マイクロキャリアにポリペプチドをグラフト化させた。手短に言えば、50mgの乾燥した低密度ガラス(1dg)−HDPK−HG02ビーズ(15112−114D,E,F)を2mLの遠心分離管内に移した。EDC/NHS(200/50mM)水溶液1mLをビーズに加え、60分間に亘りオービタル・シェーカー上で混合した。溶液を遠沈し、吸引し、水で一度洗浄し、回転/吸引した。0.25%のローダミン標識ペプチド配列(5/6TAMRA-Gly-Arg-Gly-Asp-Ser-Pro-Ile-Ile-Lys-NH2 (配列番号25))(下記参照)を添加した、1mLの1から10mMのビトロネクチン(Ac-KGGPQVTRGDVFTMP-NH2, 配列番号5)を加え、60分間に亘り混ぜ合わせた。このペプチド溶液を回転/吸引により除去し、ビーズを30分間に亘り1.5mLの1Mエタノールアミン、pH8で処理し、その後、PBS(1.5mL×5)、1%のSDS(1×1.5mL×15分間)、およびDI水とエタノール(1.5mL×5)で洗浄し、一晩、空気乾燥させた。
【0100】
実施例4: 被覆へのポリペプチドの結合を確認するためのローダミン蛍光発光
ポリペプチドが結合した被覆微小球(実施例3)においてローダミン励起蛍光を観察した。手短に言えば、蛍光を、HB100蛍光ランプ付属品を備えたZeiss Axiovert 200M倒立顕微鏡で評価した。5から100ミリ秒の露光時間によるローダミン励起を使用して、テトラメチルローダミン蛍光体を励起した。AxioVision 4.62ソフトウェアにより、明視野画像と蛍光画像を加工処理した。結果として得られた蛍光画像が図8に示されている。均一な蛍光が観察され、ポリペプチドがうまく被覆に結合したことを示唆している。対照表面(EDC/NHS活性化を行わないビトロネクチンポリペプチド)は、同じ露光下で分析したときに、非常に低い蛍光を生じた。
【0101】
実施例5: ペプチド密度の予測
被覆マイクロキャリアに結合したポリペプチドの密度は、Interchem(211 Bis, ケネディー通り, BP 1140, 03103 モンリュソン, 仏国)ビシンコニン酸(BCA)アッセイによって予測した。手短に言えば、BCA試薬を、50mLの遠心分離管内において1部の試薬Bを50部の試薬Aに添加することによって調製した。標準溶液を、10mMのビトロネクチン溶液を1μMまでの一連の希釈により調製した。10mgの乾燥VN修飾マイクロキャリアをCorning超低接着表面(ULA)24ウェルプレートの個別のウェルに加えた。各標準溶液25μLもULA24ウェルプレートの個別のウェルに導入した。各標準溶液とサンプルに、試験ウェル当たり800μLのBCA試薬を加え、プレートを25℃で2時間に亘り培養した(マイクロキャリアを再懸濁させるために、30分毎にプレートを穏やかに混ぜた)。750μLのBCA発色標準およびサンプル溶液を除去し(ウェルの角にピペットの先端を配置して、サンプルウェルからのビーズの移動を最少にする)、光吸収を562nmで読んだ(PBSでブランクにした機器)。ペプチド密度を予測するために、ブランクの吸収を、他の全てから除算して、正味の吸収を得て、VN濃度の関数としての正味の吸収の標準曲線を作成した。5mMまでの直線近似を使用して、校正式を作成した。基本ビーズ(15112−114F、VNなし)の吸収をVN−サンプル吸収から除算して、サンプルの正味吸収を得た。次いで、校正式を使用して、ナノモル/mgおよびピコモル/mm2のペプチド密度を予測した。その結果が図9Aに示されている。
【0102】
BCA分析も使用して、全てのVN投与濃度で「3×1時間」HG02被覆(15112−131C 3×)および「1×1時間」被覆(15112−131B 1×)上でのペプチド密度を予測した。BCA分析により、「1×1時間」被覆と比べて「3×1時間」HG02被覆上ではわずかに高いペプチド密度が判明し、これは、ペプチドの一部が表面下にあると考えられるので、被覆厚の差に関連するであろう(図9B参照)。全体的に、両表面は、ペプチド密度とVN投与濃度との間に明らかな関連性を示した(1から10mMのVN投与について0.4から0.8ナノモル/mgの範囲において)。結合効率は、1mMの結合について約3%であり、VN投与濃度が増加するにつれて、減少した。ポリスチレンコアを取り囲む蛍光殻が、共焦点顕微鏡により観察され、さらにHG02被覆とペプチド結合を確認した。
【0103】
実施例6: 細胞接着アッセイ
HT1080細胞をトリプシン処理し、37℃、5%のCO2で30分間に亘り、10%のウシ胎仔血清(FBS)を含むイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)中において回復させた。回復後、細胞を洗浄し、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)中の0.1%のウシ血清アルブミン(BSA)中に再度懸濁させた。約3mgのビトロネクチン誘導体化マイクロキャリアを2mLの遠心分離管に移し、室温で1時間に亘りD−リン酸緩衝食塩水(D−PBS)中1%のBSA、2mLで遮断した。次いで、この微小球を、2mLのD−PBSで洗浄し、細胞播種前に、IMDM中0.1%のBSA、200μL中に再懸濁させ、24ウェルのCorning超低接着表面マイクロプレート内に入れた。24ウェルのCorning超低接着表面マイクロプレートの各ウェルに、200μLの再懸濁細胞を入れた。ビーズ/細胞懸濁液を37℃、5%のCO2で1時間に亘り培養した。培地を除去し、ビーズをD−PBS(2×2mL)によりウェル内で洗浄した。細胞付着および伸展を、Ziess Axiovert 200M倒立顕微鏡を使用して評価した。マイクロキャリアに接着した細胞の画像が図10に示されている。
【0104】
図10Aは、被覆が水中で形成された、VN結合被覆ガラス微小球で培養した細胞の画像である。図10Bは、被覆が水/エタノール溶媒中で形成された、VN結合被覆ガラス微小球で培養した細胞の画像である。図10Cは、被覆がエタノール中で形成された、VN結合被覆ガラス微小球で培養した細胞の画像である。図10Dは、被覆がエタノール中で形成され、VNが被覆に結合されていない、被覆ガラス微小球で培養した細胞の画像である。VN結合被覆ガラス微小球の各々は、HT1080細胞の接着を支持した(図10A〜C)。反対に、VNポリペプチドを有さないマイクロキャリアには細胞付着は観察されなかった(図10D)。
【0105】
実施例7: マイクロキャリア基材の表面上への開始剤の固定化
熱開始剤の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(ABCA)を以下のようにアミンビーズの表面に共有結合させた。手短に言えば、ABCA(112mg、280g/モル、0.4ミリモル)および2−エトキシ−1−エトキシカルボニル−1,2−ジヒドロキシキノリン(EEDQ)(197mg、247g/モル、0.8ミリモル)を5mLのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中に溶解させ、ペプチド合成容器に加え、10分間に亘り窒素ガスで泡立てた。官能基として、
【化2】

【0106】
を有する、乾燥したアミン官能化ポリスチレン微小球(ポリスチレンAM−NH2、Rapp Polymere GMBH、粒径250〜315μm、1.09ミリモルNH2/g)、1gをその容器に加えた。アミン官能化ビーズを24時間に亘り窒素泡立てによって混合した。微小球を濾過し、DMFおよびエタノール(5×各10mL)で洗浄し、真空下で一晩乾燥させた。
【0107】
実施例8: 開始剤結合マイクロキャリア基材への合成高分子のグラフト化
合成高分子層を、実施例7に記載したABCA−結合微小球にグラフト化させた。手短に言えば、100mgのABCA固定化微小球を、電磁撹拌機を備えたガラス製シンチレーションバイアル内で5mLのメタノール中の2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEMA、160μL)、2−カルボキシエチルアクリレート(CEA、40μL)、およびテトラエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA、6μL)と混合した。懸濁液を、室温で1時間に亘り、次いで、80℃で30分間から3時間に亘り、窒素で脱気した。高分子グラフト化微小球をエタノールおよびDMF(2×10mL)で吸引洗浄し、15mLの遠心分離管に移し、オービタル・シェーカー上で一晩、10mLのエタノール/水1:1で洗浄した。次いで、ビーズをエタノール(3×各5mL)で洗浄し、一晩、真空乾燥した。
【0108】
実施例9: 被覆マイクロキャリアへのポリペプチドのグラフト化
実施例8に記載された被覆マイクロキャリアにポリペプチドをグラフト化させた。手短に言えば、50mgの乾燥した被覆微小球(約300μmの粒径)を2mLの遠心分離管内に移した。94mgの1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)(12当量、191.70g/モル、492μモル)および14mgのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(3当量、115g/モル、123μモル)を1.5mLのDMF中に溶解させ、ビーズに加え、60分間に亘りオービタル・シェーカー上で混合した。溶液を吸引し、DMFで一度濯ぎ、吸引し、次いで、0.25%のローダミンペプチド(5/6TAMRA-Gly-Arg-Gly-Asp-Ser-Pro-Ile-Ile-Lys-NH2 (配列番号25))(下記参照)を添加した、1mLのビトロネクチン(Ac-KGGPQVTRGDVFTMP-NH2, 配列番号5)またはビトロネクチンRGDスクランブル(Ac-KGGPQVTGRDVFTMP-NH2, 配列番号24)を加え、60分間に亘り混ぜ合わせた。このペプチド溶液を吸引により除去し、ビーズを10分間に亘り1.5mLの1Mエタノールアミン、pH8で処理し、その後、PBS(1.5mL×5)、1%のSDS(1×1.5mL×15分間)、およびDI水とエタノール(1.5mL×5)で洗浄し、窒素を穏やかに流しながら乾燥させた。
【0109】
実施例10: ABCA結合および被覆層の熱グラフト化のFTIR確認
フーリエ変換赤外(FTIR)分光法を使用して、ABCAがビーズ上にうまく固定化されたことを確認し、被覆がビーズにグラフト化されたことを確認した。手短に言えば、ビーズサンプルを、50走査および解像度4に機器を設定したOmniSampler ATR付属品(一回反射ゲルマニウム結晶)を使用したThermo Electron Corporation(マサチューセッツ州、ウォルサム所在)のNicolet Avatarで分析した。ビーズの小さなサンプルを、分析前にネジ・プレスを使用して、ゲルマニウム結晶の表面上で穏やかにプレスした。図11に示されるように、C=Oアミドに相当する1667cm-1でのピークが、ABCA結合ビーズ(真ん中のパネル)に見られ、ABCAがアミンの窒素を通じてビーズに共有的に付着したことを示唆している。実施例8に記載したように被覆したビーズは、ヒドロキシル基に相当する3000〜3700cm-1でのピークを生じ、これは、HEMAモノマーの結果としてポリマー中に存在すると予測されるであろう。さらに、結果として得られた被覆(アクリレートモノマーからの)における予測されるC=Oエステルに相当する1724cm-1でのピークが観察され(図11、上のパネル)、被覆が微小球にグラフト化されたことを示唆している。
【0110】
実施例11: マイクロビーズの被覆を確認するためのクリスタル・バイオレット染色
ABCA結合マイクロビーズ(実施例7)および高分子被覆マイクロビーズ(実施例8)のクリスタル・バイオレット染色を行って、高分子層がビーズにグラフト化されたことを確認した。手短に言えば、乾燥したマイクロビーズの少量のサンプルを2mLの遠心分離管内に入れた。遠心分離管に、水中のクリスタル・バイオレット・ブルーの1:5の希釈液500μLを加えた。5分後、サンプルを、上部の溶液が無色透明になるまで、DI水で吸引洗浄した。微小球の染色を光学顕微鏡で評価し、代表的な画像が図12に示されている。図12に示されるように、被覆微小球は均一に染色されているのに対し、未被覆微小球は染色されておらず、その場重合の被覆プロセスにより、被覆微小球がうまく得られたことを示唆している。
【0111】
実施例12: 被覆へのポリペプチド結合を確認するためのローダミン蛍光発光
ポリペプチドが結合した被覆微小球(実施例9)においてローダミン励起蛍光を観察した。手短に言えば、蛍光発光を、HB100蛍光ランプ付属品を備えたZeiss Axiovert 200M倒立顕微鏡で評価した。5から100ミリ秒の露光時間によるローダミン励起を使用して、テトラメチルローダミン蛍光体を励起した。AxioVision 4.62ソフトウェアにより、明視野画像と蛍光画像を加工処理した。結果として得られた明視野画像と蛍光画像が図13に示されている。均一な蛍光が観察され、ポリペプチドがうまく被覆に結合したことを示唆している。対照表面(EDC/NHS活性化を行わないビトロネクチンポリペプチド)は、同じ露光下で分析したときに、非常にわずかな蛍光しか生じなかった。
【0112】
実施例13: 細胞接着アッセイ
細胞をトリプシン処理し、37℃、5%のCO2で30分間に亘り、10%のウシ胎仔血清(FBS)を含むイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)中において回復させた。回復後、細胞を洗浄し、IMDM中の0.1%のウシ血清アルブミン(BSA)中に再度懸濁させた。約3mgのビトロネクチン誘導体化マイクロキャリア(Ac-KGGPQVTRGDVFTMP-NH2, 配列番号5)を2mLの遠心分離管に移し、室温で1時間に亘りD−PBS中1%のBSA、2mLで遮断した。次いで、この微小球を、2mLのD−PBSで洗浄し、細胞播種前に、IMDM中0.1%のBSA、200μL中に再懸濁させ、24ウェルのCorning超低接着表面マイクロプレート内に入れた。24ウェルのCorning超低接着表面マイクロプレートの各ウェルに、200μLの再懸濁細胞を入れた。ビーズ/細胞懸濁液を37℃、5%のCO2で1時間に亘り培養した。培地を除去し、ビーズをD−PBS(2×2mL)によりウェル内で洗浄した。細胞付着および伸展を、Ziess Axiovert 200M倒立顕微鏡を使用して評価した。マイクロキャリアに接着した細胞の画像が図14に示されている。マイクロキャリアをビトロネクチンスクランブル配列(Ac-KGGPQVTGRDVFTMP-NH2, 配列番号24)と結合したときに、図14に示されるように、マイクロキャリアに細胞は接着しなかった。
【0113】
実施例14: ヒト胚性幹細胞(hESC)接着および展開
標準として、ポリスチレンビーズ(Sigma)を、一定に撹拌しながら4℃で一晩、GFR−Matrigelで被覆した。アッセイ前に、ビーズをデカンテーションし、溶液中のMatrigelを除去した。次いで、ビーズをmTERS1培地中に再懸濁した。
【0114】
BG01V/hOGヒト胚性幹細胞(Invitrogen)を、50μg/mlのHygromycin B(STEMCELL Technologie)を含有する無血清mTERS1培地中においてMatrigel被覆TCT75フラスコ(Corning)上で維持した。培養において最初の48時間後に、毎日の培地の交換を開始した。細胞は、コラゲナーゼIV(Invitrogen)および機械的こすり取りを使用して、5から6日毎に継代培養した。アッセイのために、凝集コロニーを収穫し、新たなmTERS1培地中に再懸濁させた。細胞は、本発明のマイクロキャリアまたは比較例としてGE Healthcaerから入手できるCytodex(商標)3マイクロキャリアを含有する24ウェルのCorning超低接着表面マイクロプレートに播種した。その容積は、培地で600マイクロリットルに調節した。細胞は、撹拌せずに、48時間に亘りマイクロキャリアに付着させた。播種して2日後に、細胞付着および伸展を、Ziess Axiovert 200M倒立顕微鏡を使用して評価した。定量分析を以下のように行った。培地を除去し、ビーズをD−PBS(2×3mL)でウェル内において洗浄した。D−PBSを除去し、200マイクロリットルのCellTiter−Glo試薬(Promega)と置き換えた。マイクロプレートを室温で10分間に亘りシェーカー内に置き、発光を測定した。細胞伸展アッセイのために、同じ播種プロトコルを使用し、細胞を、細胞伸展の過程に亘り静止条件に維持した。細胞付着の48時間後、細胞とビーズが沈降した後、培地を毎日交換した。5日後に、細胞の伸展および細胞の数量化を、上述したのと同じ方法を使用して評価した。
【0115】
図15は、播種から5日後のビトロネクチンペプチドグラフト化PS−ABCA−HG02マイクロキャリア上でのBG01V/hOG細胞増殖を示す顕微鏡画像である。図15Aは明視野画像であり、図15Bは蛍光FITC画像である。図15Bに示されるように、hESCはOct4陽性であり、したがって、多能性状態に維持された。図16は、ペプチドグラフト化PS−ABCA−HG02マイクロキャリア(PS−ABCA−VNまたはPA−ABCA−VN−SCRと示される)、比較例としてのMatrigel被覆ビーズ(Matrigel(商標)CM)およびCytodex(商標)3上で行った培養の2日後と5日後のBG01V/hOG細胞の数量化を示すグラフである。このグラフは、従来技術からのコラーゲン被覆マイクロキャリアより優れた、培養の5日後のVN−膨潤性(メタ)アクリレートマイクロキャリアにより提供される利点を明らかに示している。さらに、このグラフは、VN−膨潤性(メタ)アクリレートマイクロキャリアが、これまではヒト胚性幹細胞の培養にとっての価値の基準であると考えられてきた従来技術に記載されたMatrigel被覆ビーズと同様に働くことも示している。
【0116】
それゆえ、細胞を培養するための合成マイクロキャリアの実施の形態が開示される。当業者には、ここに記載されたマイクロキャリアおよび方法が、開示されたもの以外の実施の形態で実施できることが認識されよう。開示された実施の形態は、制限ではなく、説明の目的で提示されている。
【符号の説明】
【0117】
10 基材
20 被覆
30 ポリペプチド
100 マイクロキャリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養に使用するための被覆物品を形成する方法において、
重合開始剤を基材の表面に結合させて、開始剤結合表面を形成する工程、
該開始剤結合表面をモノマーと接触させる工程、および
前記重合開始剤を活性化させて、前記モノマーの重合を開始させ、該開始剤またはその残りを通じて前記基材の表面にグラフト化された高分子を形成する工程、
を有してなる方法。
【請求項2】
前記物品の表面がシラノール基を含み、前記重合開始剤が式:
【化1】

を有する、ここで、
1、R2、およびR3の各々は独立して、C1〜C3アルキル、アルコキシ、または水素であり;
XはC1〜C6直鎖または分岐鎖アルキルであり、存在するかまたはしない、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記物品の表面がアミン基またはカルボキシル基またはヒドロキシル基を含み、
前記物品がアミン基を含む場合、前記重合開始剤がカルボキシル基またはヒドロキシル基を含み、
前記物品がカルボキシル基またはヒドロキシル基を含む場合、前記重合開始剤がアミン基を含み、
該重合開始剤がアミド結合の形成を通じて前記物品の表面に結合されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記重合開始剤が、アルコキシ置換シリルベンゾフェノン;4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸);4−ベンゾイル安息香酸;2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド];および2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}からなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項記載の方法にしたがって製造された細胞培養物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A)】
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【図10B)】
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【図10C)】
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【図10D)】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【公表番号】特表2013−500717(P2013−500717A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522935(P2012−522935)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/043229
【国際公開番号】WO2011/017050
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】