説明

細胞を培養する改善された方法

【課題】生物学的物質を細胞培養からより高濃度で得ることが可能な、真核細胞を培養する方法、並びに、細胞培養及び生体物質生産が長期間にわたってできるような、真核細胞を培養する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、少なくとも1つの細胞培養液成分が細胞培養物に供給され、細胞、所望の生物学的物質、および細胞培養液を含んでなる細胞培養物がタンジェンシャルフローで、分離システム上で循環され、分離システムが、所望の生物学的物質よりも低い分子量を有する物質から所望の生物学的物質が分離されるフィルターを有し、所望の生物学的物質が反応器内に保持されまたはその中に送り戻され、上記反応器が、撹拌タンク容器、気泡ポンプ容器、または、揺動、振盪運動若しくは撹拌によって混合できる使い捨てバッグである、反応器内で細胞培養液中の懸濁状態の真核細胞を培養する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、反応器内で細胞培養液中の懸濁状態の細胞を培養する方法に関する。
【0002】
このような方法については例えば国際公開第04/099396号パンフレットから公知である。ここでは、流加工程中で生育条件を最適化することによって、どのようにして細胞培養物の細胞密度および所望の生体物質の収率を改善できるかについて記載されている。
【0003】
さらに国際公開第05/095578号パンフレットでは、細胞培養液が細胞培養物に添加され、細胞培養物が中空繊維を含んでなるフィルターモジュール上で循環されて、細胞培養物よりも低い細胞密度を有する液体の流出がもたらされ、フィルターモジュール内の流れが交互のタンジェンシャルフローであり、細胞が生物学的物質を産生する、細胞培養液および細胞を含んでなる細胞培養物の連続灌流培養によって細胞を培養する方法が開示されている。国際公開第05/095578号パンフレットの実施例では、0.9g/L/日の生成物が生じることが示され、これはおよそ0.3g/Lの流出物中の生成物濃度に相当する。
【0004】
生物学的物質を含有する液体の容積が大きいほど、生物学的物質の精製はより困難となる。国際公開第04/099396号パンフレットおよび国際公開第05/095578号パンフレットで開示されているような方法では、得られる生物学的物質の濃度はそれほど高くない。したがってさらなる精製ステップを適用する前に生物学的物質を濃縮させる必要があり、またはより大きな容積のより濃度が低い生物学的物質を精製しなくてはならないので、この生物学的物質の後処理プロセスは面倒である。さらにより低い細胞密度での細胞培養はより低い容積生産性をもたらし、したがってより大きなおよび/またはより多くの培養容器が必要であり、したがって所与の生産レベルに対してより高い設備投資が必要である。
【0005】
したがって生成物を細胞培養からより高濃度で得る方法を提供することが、本発明の目的である。
【0006】
本発明のさらなる目的は、細胞培養および生体物質生産が長期間にわたってできるようにすることである。
【0007】
これらの目的は、細胞が生物学的物質を産生し、少なくとも1つの細胞培養液成分が細胞培養物に供給され、生物学的物質および細胞培養液を含んでなる細胞培養物が分離システム上で循環され、分離システムが生物学的物質よりも低い分子量を有する物質から生物学的物質を分離して、生物学的物質が反応器内に保持されまたはその中に送り戻される、反応器内で細胞培養液中の懸濁状態の細胞を培養する方法によって達成される。
【0008】
例えば本発明は、細胞が生物学的物質を産生し、栄養素および/または細胞培養液が反応器に供給され、細胞および細胞培養液を含んでなる細胞培養物が5〜500kDの間の孔径または分画分子量を有するフィルター上で循環される、反応器内で細胞培養液中の細胞を培養する方法に関する。
【0009】
生物学的物質よりも低い分子量を有する物質から生物学的物質を分離する分離システムを使用することで、細胞培養物中に生物学的物質をより高い濃度で蓄積できることが分かった。
【0010】
したがって本発明は、先行技術で記載されている、細胞集団と共に所望の生体物質を蓄積させる細胞培養とは異なる。
【0011】
本発明の好ましい実施態様では、より低い分子量の物質の一部が細胞培養物から連続的に除去される。
【0012】
本発明の方法の追加的利点は、例えばバッチまたは流加法と比較して、より高い生存細胞密度を達成できることである。さらに例えばバッチまたは流加法と比較して、生産時間、すなわちその間に細胞が生物学的物質を産生する期間を延長できる。またバッチまたは流加法と比較して、より小型の反応器を使用することができる。より小型の反応器の使用は、装置および設備関連投資を低減させるので有利である。
【0013】
またより高濃度の生物学的物質をより短時間で得られるかもしれない。
【0014】
細胞生存度を急激に減少させることなく、したがって生産時間を制限することなしに、反応器内に高濃度の生物学的物質を得ることができることが分かった。当業者は生成物阻害、すなわち生物学的物質それ自体による生物学的物質の生成阻害、または細胞によって生成されるその他の高分子(例えば宿主細胞タンパク質、酵素または細胞残骸など)による阻害が起こり得ることを予期したであろう。さらに所望の生体物質の蓄積は、分離システムの機能を損なわないことが分かった。
【0015】
本発明の方法は、国際公開第05/095578号パンフレットおよび国際公開第04/099396号パンフレットに従った方法と比較して、細胞密度、細胞培養物中の生成物濃度、および延長された培養期間の観点からかなりの利点を提供する。その結果、本方法は、所望の生体物質の改善された生成をもたらす。
【0016】
生物学的物質を生成するのに使用できる細胞は、原則として、生物学的生成物を生成する能力を有する、当業者に知られている全ての細胞である。細胞は、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、コウジカビ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、ペニシリウム・クリソゲヌム(Penicillium chrysogenum)などの糸状菌と、例えばサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces
cerevisiae)、クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces
lactis)、ファフィア・ロドチマ(Phaffia rhodozyma)などの酵母と、例えばピチア・パストリス(Pichia pastoris)などのピチア(Pichia)属からの酵母などの真核生物、または例えば大腸菌(Escherichia coli)、例えばB.リチェニホルミス(licheniformis)、枯草菌(B.subtilis)、B.アミロリケファシエンス(amyloliquefaciens)、B.アルカロフィルス(alcalophilus)(alkalophilus)などのバシラス(Bacillus)種と、ストレプトミセス(Streptomyces)種、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、シュードモナス(Pseudomonas)種などの原核生物であってもよい。真核細胞の例についてはまた、例えばChu,L.、Robinson,D.K.(2001年)Curr.Opinion Biotechn.、第12巻、180〜187頁でも記載されている。好ましくは本発明の方法で使用される細胞は、動物細胞、特に哺乳類細胞である。哺乳類細胞の例としては、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞と、ハイブリドーマと、BHK(幼若ハムスター腎臓)細胞と、骨髄腫細胞と、例えばHEK−293細胞、ヒトリンパ芽球腫細胞、E1不死化HER細胞などのヒト細胞と、例えばNS0細胞などのマウス細胞とが挙げられる。より好ましくはE1不死化HER細胞、最も好ましくはPER.C6細胞が使用される。
【0017】
初代ヒト胚性網膜(HER)細胞は、胎児から単離できる(Byrd P、Brown
KW、Gallimore PH、1982年、「クローン化アデノウィルス12DNAによるヒト胚網膜芽細胞の悪性形質転換(Malignant transformation of human embryo retinoblasts by cloned adenovirus 12 DNA)」Nature 298:69〜71頁;Byrd PJ、Grand RJA、Gallimore PH、1988年、「アデノウィルスE1領域とE1A+rasの組み合わせとによる初代ヒト胚網膜細胞の異なる形質転換(Differential transformation of primary human embryo retinal cells by adenovirus E1 regions and combinations of E1A
+ ras)」Oncogene 2:477〜484頁)。初代細胞は、数代にわたり継代培養すると死滅する。本発明の目的のためのE1−不死化HER細胞は、アデノウィルスE1AおよびE1Bタンパク質をコードするDNAをその中で発現させて初代HER細胞から誘導することにより、不死化細胞が得られる。このような不死化細胞は、100代以上の継代培養ができる。E1−不死化HER細胞を得るための方法については、例えば次で記載されている。米国特許第5,994,128号明細書、Byrd P、Brown KW、Gallimore PH、1982年、「クローン化アデノウィルス12DNAによるヒト胚網膜芽細胞の悪性形質転換(Malignant transformation of human embryo retinoblasts by cloned adenovirus 12 DNA)」Nature 298:69〜71頁;Byrd PJ、Grand RJA、Gallimore PH、1988年、「アデノウィルスE1領域とE1A+rasの組み合わせとによる初代ヒト胚網膜細胞の異なる形質転換(Differential transformation of primary human embryo retinal cells by adenovirus E1 regions and combinations of E1A + ras)」Oncogene 2:477〜484頁;およびGallimore,P.H.、Grand,R.J.A.、およびByrd,P.J.(1986年)「シミアンウイルス40、アデノウィルス、およびras発癌遺伝子によるヒト胚網膜芽細胞の形質転換(Transformation of human embryo retinoblasts with simian virus 40,adenovirus and ras oncogenes)」AntiCancer Res.6、499〜508頁。例えばPER.C1、PER.C3、PER.C4、PER.C5、PER.C6、PER.C8、およびPER.C9細胞をはじめとする不死化HER細胞が、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(「PGK」)プロモーターの制御下にあるアデノウィルス血清型5(Ad5)E1A−およびE1B−コード配列(Ad5ヌクレオチド459〜3510)を含有するプラスミドを使用した、初代HER細胞の形質移入によって作り出された(米国特許第5,994,128号明細書参照)。
【0018】
好ましい実施態様では、本発明の方法の細胞はE1−不死化HER細胞、より好ましくはPER.C6細胞である(米国特許第5,994,128号明細書参照)。PER.C6細胞はECACC番号96022940の下に寄託された細胞によって例示される(例えば米国特許第5,994,128号明細書、欧州特許第0833934 B1号明細書参照)。
【0019】
本発明の方法では、細胞は、例えば固定化細胞、単細胞としてまたは細胞クラスター内でまたはその組み合わせとしてなどの、あらゆる形態で懸濁状態で培養してもよい。好ましくは細胞は、単細胞としておよび/または細胞100個以下の、より好ましくは細胞20個以下の小型細胞集合クラスターとして培養される。細胞は、例えばGEヘルスケア(GE Healthcare)から市販されるサイトデックス(Cytodex)などのマイクロキャリア上に固定化できる。
【0020】
ここで定義される反応器は細胞培養物を含んでなるシステムであり、次にその細胞培養物は細胞および細胞培養液を含んでなる。それは好ましくはエアフィルターなどの無菌バリアを提供して、その他の細胞が所望の細胞を汚染するのを防ぎ、それは好ましくは混合、温度、pH、酸素濃度などの適切な培養条件を提供することで、細胞のための好ましい環境を維持する。
【0021】
反応器は、例えばより恒久的な性質であることができ、例えば反応器はステンレス鋼またはガラスであることができ、または例えば使い捨ての性質であることができ、例えば反応器はプラスチックフラスコまたはバッグであることができる。本発明で使用するのに適した反応器の例としては、限定されるものではないが、撹拌タンク容器、気泡ポンプ容器、および揺動、振盪運動または撹拌によって混合できる使い捨てバッグが挙げられる。使い捨て(生物)反応器は、所要の投資費用が比較的小さく、運転上の柔軟性が大きく、納期は短く、工程に容易に合わせられるために都合が良いので、好ましくはそれらが使用される。使い捨て(生物)反応器は、例えばハイクローン(Hyclone)、ザルトリウス(Sartorius)、アプリコン(Applikon)またはウエーブ(Wave)から市販される。
【0022】
「分離システム」という用語は、本発明の枠内で、分子量に基づいて分離できるシステムと定義される。本発明の方法で使用される分離システムは、生物学的物質よりも低い分子量を有する物質から、生物学的物質を分離できる。換言すれば、分画分子量(MWCO)が、生物学的物質の分子量より小さくなり、より好ましくは少なくとも2分の1、最も好ましくは少なくとも3分の1になるように、分画分子量が選択される。典型的に、しかし、当然ながら、本発明の方法で生成される生物学的物質の分子量次第で、分離システムのMWCOは、好ましくは少なくとも5、より好ましくは少なくとも10、最も好ましくは少なくとも30kDa、および好ましくは最大限で500kDa、より好ましくは最大限で300kDa、最も好ましくは最大限で100kDaである。例えば分子量が150kDaのIgGには、最大限で50kDaまでのMWCOを有する分離システムが最も好ましい。
【0023】
分離システムの例としては、限定されるものではないが、フィルター、遠心分離、および水性二相抽出システムが挙げられる。
【0024】
「フィルター」という用語は、本願明細書での用法では、サイズまたは分子量に基づいて粒子を分離する能力がある全ての装置を含むことが意図される。原則として本発明の方法では、生物学的物質よりも低い分子量を有する物質から生物学的物質が分離されるように孔径またはMWCOを選択しさえすれば、いかなるフィルターを使用してもよく、典型的にこれは5〜500kDaの間の孔径またはMWCOになる。本発明での使用に適したフィルターの例としては、薄膜フィルター、セラミックフィルター、および金属フィルターが挙げられる。フィルターはあらゆる形状で使用されてもよく、フィルターは例えばらせん巻きまたは管状であってもよく、またはシートの形態で使用されてもよい。好ましくは本発明の方法では、使用されるフィルターは薄膜フィルター、好ましくは中空繊維フィルターである。「中空繊維」と言う用語は管状膜を意味する。管の内径は少なくとも0.1mm、より好ましくは少なくとも0.5mm、最も好ましくは少なくとも0.75mmであり、および好ましくは管の内径は最大限で10mm、より好ましくは最大限で6mm、最も好ましくは最大限で1mmである。中空繊維を含んでなるフィルターモジュールは、例えばゼネラル・エレクトリック(General Electric)(GE、以前はアマシャム(Amersham))から市販される。
【0025】
生物学的物質、細胞、および細胞培養液を含んでなる細胞培養物を分離システム上で循環させることで、生物学的物質および細胞は反応器内に保持され、したがって液体流出物は細胞培養物よりも低い生物学的物質濃度と低い細胞密度を有する。通常、本発明の方法では液体流出物は、いかなる生物学的物質および細胞も含有しないか、またはほとんど含有しない。通常、液体流出物は、本質的に生物学的物質よりも低い分子量を有する成分のみを含有する。したがって本質的に全ての細胞および本質的に全ての生物学的物質は、通常、反応器内に保持される。
【0026】
好ましくは、フィルターの孔径またはMWCOが生成物の直径または分子量よりも小さくなり、より好ましくは少なくとも2分の1、最も好ましくは少なくとも3分の1になるように、フィルターの孔径またはMWCOを選択して、生成物の高保持率を確実にする。典型的に、しかし、当然ながら、生成物、すなわち本発明の方法で生成される生物学的物質のサイズまたは分子量次第で、フィルターの孔径またはMWCOは、好ましくは少なくとも5、より好ましくは少なくとも10、最も好ましくは少なくとも30kDaであり、および/またはフィルター/膜の孔径またはMWCOは、好ましくは最大限で500kDa、より好ましくは最大限で300kDa、最も好ましくは最大限で100kDaである。
【0027】
分画分子量(MWCO)とは、それを超えると少なくとも90%の粒子が分離システムによって保持される分子量を意味する。
【0028】
例えばフィルターなどの分離システム上での細胞培養物の循環とは、例えばフィルターなどの分離システムに細胞培養物を通過させて、液体流出およびその内容物が反応器内に保持されまたはその中に送り戻される流れをもたらすことを意味する。その内容物が反応器内に保持されまたはその中に送り戻される流れは、通常本質的に、生物学的物質の分子量と少なくとも等しいかそれ以上の分子量を有する成分のみを含有し、したがって前記流れは、液体流出物よりも多くの生物学的物質を含んでなる。
【0029】
原則として本発明の方法において、分離システム上で細胞培養物の循環をいつ開始するかは重要でない。細胞培養物の循環は、例えば方法の最初から直ちに、または細胞の生存細胞密度が特定レベルに達した時点で開始してもよい。
【0030】
フィルター上の細胞培養物の循環は、デッドエンドフローとしても知られている、フィルター表面に対して実質的に垂直の流れであっても、または例えば一方向タンジェンシャルフロー(TFF)またはクロスフローなどのタンジェンシャルフローとしても知られている、実質的にフィルター表面に平行な流れであってもよい。ATFでは非常に高い細胞密度であっても、フィルター目詰まりが(すぐに)起きないことが分かったので、クロスフローの好ましい例は交互のタンジェンシャルフロー(ATF)である。深層濾過では、粗い前置フィルターによって最終小孔フィルターを目詰まりから保護する必要があることが、一般常識である。この慣習は、より小さい孔のまたはより小さいMWCOのフィルターはより目詰まりしやすく、それによって生産時間が制限されるという一般常識に基づく。ATFを使用すれば前置フィルターの使用は不要になる。
【0031】
流れは、細胞培養物を動かすことで、フィルターを動かすことで、または双方によって誘導してもよい。フィルターは、例えば回転(回転フィルター)または振動(振動フィルター)によって動かしてもよい。代案としては、細胞培養物のみを動かすことで流れを誘導する場合、フィルターは静止させて、細胞培養物を例えばポンプまたは圧力によって動かしてもよい。
【0032】
「交互のタンジェンシャルフロー」とは、フィルター表面と同一方向(すなわち接線方向)の行ったり来たりする1つの流れがあり、そして前記フィルター表面に実質的に垂直な方向の別の流れがあることを意味する。交互のタンジェンシャルフローは(例えば米国特許第6,544,424号明細書で記載されているように)当業者に知られている方法に従って達成できる。
【0033】
細胞を培養する間に、例えば1つ以上の栄養素および/または細胞培養液などの少なくとも1つの細胞培養液成分を細胞に供給してもよい。本発明に従った方法では、枯渇栄養素または栄養素群を反応器へ供給する手段によって、枯渇栄養素の少なくとも1つを部分的にまたは好ましくは全体的に補給することが有利である。例えば完全な細胞培養液を反応器に供給してもよく、これは別の供給を別個に調製する必要がないので有利である。細胞培養液はまた、例えばより濃縮された形態で細胞に供給してもよく、これはより小さな容積は取り扱いがより容易なことから有利である。また1つ以上の栄養素を反応器に供給してもよい。例えばグルコースまたはフルクトースなどの炭水化物、グルタミンなどのアミノ酸および/またはペプチドを有利に反応器に供給してもよい。
【0034】
本発明の好ましい実施態様では、細胞培養条件は、細胞生育速度および/または細胞比生産性が制限されないように、より好ましくは細胞培養液の成分の少なくとも1つの濃度が本質的に一定のままであるように選択される。細胞培養条件の制限の例は、栄養素制限と、アンモニア、二酸化炭素および乳酸などの阻害性代謝産物の形成である。例えば供給などの細胞培養条件は、例えば十分な栄養素を供給することによって、枯渇を代償し、および/または乳酸またはアンモニアなどの阻害代謝産物の生成を避けて、細胞生育速度が制限されないように選択してもよい。例えば曝気条件は、二酸化炭素形成が細胞生育速度を制限しないように選択してもよい。非制限条件下で細胞を生育させることは、1)定常的細胞培養環境を提供するかもしれず、それは多くの場合定常的で良好な生成物品質もまた提供するかもしれない、2)高い細胞生存度、場合によっては98%を超える細胞生存度をもたらすかもしれないため、優良製造規範(GMP)の観点から極めて有利である。高い細胞生存度は、宿主細胞タンパク質などの細胞関連汚染物質の放出を低下させ、それは生成物の精製を容易にする。さらに無制限の細胞生育速度および/または無制限の比生産性で細胞を生育させることは、工程のより初期により高い細胞密度に達するため、さらに短時間でより多くの生物学的物質を生成できるという商業的利点を有する。
【0035】
細胞の「比生産性」は、単位時間あたり細胞毎に生成される所与の生物学的物質の質量であり、通常pg.細胞−1−1で表現される。
【0036】
例えば栄養素および/または細胞培養液などの少なくとも1つの細胞培養液成分の細胞培養物への添加速度(流入速度または灌流速度)は、細胞の生存度および密度に影響する。本発明の方法では、栄養素および/または細胞培養液などの細胞培養液成分は、例えば連続流と、例えば段階的流れまたは時差的流れなどの半連続流とで供給されてもよい。好ましくは例えば栄養素および/または細胞培養液などの細胞培養液成分は、連続流で添加される。
【0037】
完全な細胞培養液および/または栄養素などの細胞培養液成分は、原則として工程内のいかなる時点で反応器に供給してもよい。好ましくは供給は、グルタミンおよびグルコースなどの基質が低レベルに達して細胞生育の停止を引き起こす前に、または例えば乳酸または、アンモニアなどの阻害性代謝産物が高レベルに達して生育が停止する前に、開始される。この時点以降、栄養素および/または完全な細胞培養液などの細胞培養液成分が、好ましくは基質要求を満たすような速度で反応器に供給される。
【0038】
本発明の一実施態様では、細胞培養液は、式(1)、
供給速度=SFR×(総細胞培養物容積)×(生存細胞密度) (1)に従った供給速度で添加され、供給速度は一日当たりリットル数で表現されて、SFRは比供給速度、すなわち単位時間あたり生存細胞毎に添加される培地の容積として表現される細胞培養液が細胞培養物に供給される速度であり、生存細胞密度は単位容積あたりの生存細胞数である。生存細胞数は、例えばトリパンブルー排除法を通じて、当業者によって判定されることができる。比供給速度は、好ましくは0.01〜0.3nL/細胞/日の間、より好ましくは0.01〜0.2nL/細胞/日の間で選択される。
【0039】
供給速度を調節する際に、例えば培養物に供給されるグルコース量および/または酸素取り込み速度などの追加的パラメーターを考慮することが有利かもしれない。例えばPER.C6では、細胞培養液および/または栄養素の供給速度は、好ましくはグルコース濃度が3〜20mmol/Lの間、より好ましくは5〜15mmol/Lの間に保たれるように選択される。好ましくはグルコース濃度は、少なくとも3mmol/L、より好ましくは少なくとも5mmol/L、および好ましくは最大限で20mmol/L、より好ましくは最大限で15mmol/Lである。
【0040】
本発明の特定の実施態様では、(細胞、生物学的物質、および細胞培養液を含んでなる)細胞培養物が、反応器および液体から少なくとも1回除去され、例えば細胞培養液または栄養素供給が反応器に添加されて、細胞培養物の除去を代償する。細胞培養物の除去は、高細胞生存度と組み合わさった高細胞密度でのより長いプロセス時間をもたらしてもよく、より高い生産性が得られる。細胞培養物は、連続的にまたは段階的に除去されてもよい。
【0041】
好ましい本発明の実施態様では、例えば少なくとも10.10個の生存細胞/ml、好ましくは少なくとも20.10個の生存細胞/ml、より好ましくは少なくとも30.10個の生存細胞/mlの細胞密度、例えば最大限で200.10個の生存細胞/mlの細胞密度の所望の細胞密度に達したらすぐに(細胞、細胞培養液、および生物学的物質を含んでなる)細胞培養物を反応器から除去し、例えば細胞培養液または栄養素供給などの液体を反応器に添加して、細胞培養物の除去を代償する。好ましくは細胞培養物は、細胞密度が所望の細胞密度範囲内で一定であるような速度で除去される。本発明のこの実施態様は、本発明の方法の利点と、より長く維持できる高い生存度とを組み合わせるので、従来のバッチまたは流加法と比較して極めて有利であり、さらにより高い総容積生産性が実現できるようになる。「容積生産性」とは、単位時間あたり単位反応器容積毎に生成される生物学的物質の量を意味し、通常g.L−1.日−1で表現される。本発明のこの実施態様は、本発明の方法の利点と、高濃度の生物学的物質を有する細胞培養物除去流とを組み合わせるので、従来の灌流方法と比較してもまた、極めて有利である。細胞培養物除去流中の高濃度の生物学的物質は、それからの生物学的物質の収集を商業的に興味深いものにする。細胞培養物が除去される従来の灌流方法では、細胞培養物除去流は、それを、生物学的物質を収集するのに商業的に価値あるものにする十分な生物学的物質を含有せず、したがって細胞培養物除去流は通常無駄と見なされる。したがって本発明のこの実施態様では、理論上は、生成される全ての生物学的物質を単純明快で経済的に実行可能な簡単な様式で収集できる。
【0042】
本発明の特に好ましい実施態様では、細胞培養条件は、細胞生育速度および/または細胞の比生産性が制限されないように、より好ましくはまた、グルコースまたはグルタミンなどの細胞培養液の成分の少なくとも1つの濃度が一定のままであるように選択され、所望の細胞密度に達したらすぐに、細胞培養物が少なくとも1回反応器から除去されて、例えば細胞培養液などの液体が反応器に添加されて細胞培養物の除去を代償する。
【0043】
好ましくは流出速度は、例えば栄養素および/または細胞培養液などの少なくとも1つの細胞培養液成分の添加速度から、任意の細胞培養物の除去速度を差し引いたものと実質的に等しくなるように選択される。
【0044】
生物学的物質を産生する細胞は、例えば生物学的物質をコードする遺伝子を発現できる細胞である。生物学的物質をコードする遺伝子を発現できる細胞は、例えば生物学的物質をコードする遺伝子、および例えばネオマイシン抵抗性をコードする遺伝子(Neoマーカー遺伝子)などの適切な選択マーカーをコードする遺伝子を含有するプラスミドで、細胞を形質移入して調製してもよい。次に例えばNeoマーカー遺伝子の場合はG418(ジェネティシン(Geneticin))存在下で形質移入された細胞を培養して、即時に高レベルの生物学的物質発現を示す細胞について細胞をスクリーニングすることで、淘汰圧によって安定形質移入細胞を選択してもよい。タンパク質を発現するE1−不死化HER細胞のクローンを調製する方法、およびこのような細胞を培養してタンパク質を生成する方法については当業者によく知られており、例えば米国特許第6,855,544号明細書にある。
【0045】
したがって例えば(組み換え)コード遺伝子を発現することで、細胞によって産生されてもよい生物学的物質は、例えば特に受容体、酵素、融合タンパク質などの(組み換え)タンパク質と、血液凝固カスケードからのタンパク質などの血液タンパク質と、例えばエリスロポエチンなどの多機能性タンパク質と、例えばワクチンで使用するためのウイルスまたは細菌タンパク質と、例えばIgGまたはIgMなどの抗体などの免疫グロブリンである。好ましくはタンパク質、より好ましくは抗体が細胞によって生成される。好ましくは細胞によって産生されるタンパク質またはワクチンなどの生物学的物質は、医薬品中の活性成分として使用できる。本発明の文脈で「生成物」および「生物学的物質」という用語は同義である。
【0046】
本発明の枠組みの中で、医薬品とは、薬剤として、特にヒトにおける薬剤として使用できるあらゆる調製品を意味する。このような薬剤は、例えば診断のため、または例えばワクチンなどの予防目的のため、および/または例えば患者に不足している酵素またはタンパク質、または望ましくない細胞を殺傷する抗体などの治療目的のために使用してもよい。医薬品は薬学的に許容可能なキャリアまたは賦形剤をさらに含有してもよく、その例は当業者によく知られている。
【0047】
PER.C6細胞系は、E1−消去アデノウィルス(例えば米国特許第6,994,128号明細書;Curiel D、Douglas JT編「遺伝子療法のためのアデノウイルスベクター(Adenoviral vectors for gene therapy)よりNicholsら、2002年「アデノウイルスベクターの増殖:PER.C6細胞の使用(Propagation of adenoviral vectors:use of PER.C6 cells)」San Diego:Elsevier、129〜167頁を参照されたい)、その他のウイルス(例えば国際公開第01/38362号パンフレットを参照されたい)、または組み換えタンパク質(例えば米国特許第6,855,544号明細書;Joerg Knaeblein(編)「現代生物医薬品:デザイン、開発、および最適化(Modern Biopharmaceuticals:Design,Development and Optimization)全4巻よりYallopら、2005年「生物医薬品タンパク質の製造のためのPER.C6細胞(PER.C6 cells for the manufacture of
biopharmaceutical proteins)」779〜807頁を参照されたい)などの生物学的物質を生成するために使用できる。
【0048】
医薬品中で活性成分として使用できるタンパク質(括弧内は商品名)の例としては、テネクテプラーゼ(TNKアーゼ(TNKase)(商標))、(組み換え)抗血友病因子(レファクト(ReFacto)(商標))、リンパ芽球腫インターフェロンα−n1(ウェルフェロン(Wellferon)(商標))、(組み換え)凝固因子(ノボセブン(NovoSeven)(商標))、エタネルセプト、(エンブレル(Enbrel)(商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(商標))、インフリキシマブ(レミケード(Remicade)(商標))、パリビズマブ(Synagis(商標))、バシリキシマブ(シムレクト(Simulect)(商標))、ダクリズマブ(ゼナパックス(Zenapax)(商標))、リツキシマブ(リツキサン(Rituxan)(商標))、(組み換え)凝固因子IX(Benefix(商標))およびインターフェロンβ−1a(アボネックス(Avonex)(商標))が挙げられる。
【0049】
医薬品中で活性成分として使用できるワクチンの例としては、単離タンパク質抗原が挙げられ、その例としては、限定されるものではないが、経口性の四価ロタウイルスワクチン(ロタシールド(RotaShield)(商標))、狂犬病ワクチン((RabAvert)(商標))、インフルエンザワクチンおよび不活性化肝炎Aワクチン(バクタ(VAQTA)(商標))が挙げられる。
【0050】
細胞培養液のpH、温度、溶存酸素濃度および容積モル浸透圧濃度は原則として重要でなく、選択した細胞タイプに左右される。好ましくはpH、温度、溶存酸素濃度、および容積モル浸透圧濃度は、それが細胞の生育および生産性に最適であるように選択される。当業者は、どのようにして培養のための最適pH、温度、溶存酸素濃度および容積モル浸透圧濃度を見いだすかを知っている(例えば国際公開第2004/099396号パンフレットを参照されたい)。好ましくは本発明の方法のために、E1不死化HER細胞を使用する場合、pHは6.6〜7.6間で選択され、および/または温度は30〜39℃の間で選択され、および/または容積モル浸透圧濃度は260〜400mOsm/kgの間で選択される。最適工程条件を維持するために、工程条件を制御する自動化が望ましい。例えば培養中に細胞生産性増大のために成長停止を得るためなど、工程条件を最適化するために、培養条件のシフトを適用できる。これは例えば温度シフト(37〜32℃など)、pHシフトまたは容積モル浸透圧濃度シフトによって確立されてもよい。
【0051】
本発明の方法は、原則として細胞の培養に適したいかなるタイプの細胞培養液内でも実施できる。細胞培養液および細胞培養条件を選択するガイドラインについてはよく知られており、例えばFreshney,R.I.「動物細胞の培養(基礎技術マニュアル)(Culture of animal cells (a manual of basic techniques))」第4版、2000年、Wiley−Lissの第8および9章;およびDoyle,A.、Griffiths,J.B.、Newell,D.G.「細胞および組織培養:実験室手順(Cell&Tissue culture:Laboratory Procedures)」1993年、John Wiley&Sonsで提供される。
【0052】
例えば細胞培養液は、例えば細胞培養液成分として、炭水化物源、塩および/またはアミノ酸および/またはビタミンおよび/または脂質および/または界面活性剤および/または緩衝液および/または成長因子および/またはホルモンおよび/またはサイトカインおよび/または微量元素を含んでなってもよい。炭水化物源の例としては、グルコース、フルクトース、ガラクトースおよびピルビン酸が挙げられる。塩の例としては、例えばMgCl.6HO、MgSO、およびMgSO・7HOなどのマグネシウム塩、例えばFeSO・7HOなどの鉄塩、例えばKHPO、KClなどのカリウム塩、例えばNaHPO、NaHPOなどのナトリウム塩、および例えばCaCl・2HOなどのカルシウム塩が挙げられる。アミノ酸の例としては、例えばヒスチジン(hystidine)、グルタミン、スレオニン、セリン、メチオニンなどの全ての既知のタンパク新生有機アミノ酸が挙げられる。ビタミンの例としては、アスコルビン酸、ビオチン、コリンCl、ミオ−イノシトール、D−パントテン酸、リボフラビンが挙げられる。脂質の例としては、例えばリノール酸およびオレイン酸などの脂肪酸が挙げられる。界面活性剤の例としては、ツイーン(Tween)(登録商標)80およびプルロニック(Pluronic)(登録商標)F68が挙げられる。緩衝液の例としては、HEPESおよびNaCOが挙げられる。成長因子/ホルモン/サイトカインの例としては、IGF(インシュリン様成長因子)、ヒドロコルチゾンおよび(組み換え)インシュリンが挙げられる。微量元素の例は当業者に知られており、Zn、Mg、およびSeが挙げられる。細胞培養液は、例えばダイズペプトンまたはエタノールアミンなどのその他の細胞培養液成分もまた含んでなってもよい。
【0053】
本発明に従った生物学的物質の生成では、特に生物学的物質が医薬品中で活性成分として使用される場合は、血清源を含有する培地よりも血清を含まない培地が好ましい。この理由は、血清源培地がウイルスで汚染されているかもしれず、プリオン感染症の危険性をもたらし、生物医薬品の後処理プロセス(すなわち細胞培養物からの生物学的物質のさらなる精製)において重大な障害になり得るためである。したがって本発明の方法は、好ましくはヒトをはじめとする動物起源の血清を含まない細胞培養液中で実施される。哺乳類起源の化合物はまた、感染症の危険性ももたらすので、好ましくは細胞培養液は哺乳類起源でない(すなわち細胞培養液は哺乳類起源の血清または成分を含まない)。より好ましくは細胞培養液は動物起源でない(すなわち細胞培養液はヒトをはじめとする動物起源の血清または成分を含まない。PER.C6細胞を培養するのに使用できる血清を含まない培地の例としては、例えばSAFCからのEX−Cell(商標)VPRO培地、ハイクローンからのHyQ(登録商標)CDM4Retino(商標)、アーバイン・サイエンティフィック(Irvine scientific)からのIS ProVec CD、インビトロジェン(invitrogen)からの293−SFM IIなどの市販の培地が挙げられる。
【0054】
好ましい実施態様では、本発明の方法で生成される生物学的物質は、その内容物が反応器内に保持されまたは好ましくはその中に送り戻される流れから、または反応器から除去される細胞培養物から、または双方から収集される。本発明の方法で生成される生物学的物質は、生物学的物質に左右される方法を使用して、いわゆる後処理プロセスにおいて細胞培養物からさらに収集でき、その方法は当業者によく知られている。後処理プロセスは、通常、様々な組み合わせと順序でいくつかの精製ステップを含んでなる。後処理プロセス中の精製ステップの例は、分離ステップ(例えば親和クロマトグラフィーおよび/またはイオン交換クロマトグラフィーによる、および/または水性二相システムによる抽出および/または例えば硫酸アンモニウムによる沈殿)、生物学的物質の濃縮ステップ(例えば限外濾過またはダイアフィルトレーションによる)、緩衝液交換ステップ、および/またはウイルスを除去または不活性化するステップ(例えばウイルス濾過、pHシフトまたは溶媒界面活性剤処理による)である。
【0055】
一態様では、本発明は、少なくとも50.10個の細胞/mL、好ましくは少なくとも60.10個の細胞/mL、特に少なくとも90.10個の細胞/mLの生存細胞密度、および少なくとも5g/L、より好ましくは少なくとも10g/L、特に少なくとも11g/Lの生物学的物質濃度を有する、哺乳類細胞、好ましくはE1−不死化HER細胞、より好ましくはPER.C6細胞を含んでなる細胞培養物に関する。原則として生物学的物質濃度は、生物学的物質の溶解度が許す程度に高くあることができる。生存細胞密度は典型的に200.10個の細胞/mL以下、好ましくは80〜150.10個の細胞/mLの範囲内である。
【0056】
生存細胞密度は、例えばイノバティス(Innovatis)から市販される細胞計数器(セデックス(Cedex)細胞計数器)を使用して、例えばトリパンブルー(tryptan blue)排除法を使用して判定できる。
【0057】
細胞培養物とは、細胞培養液、細胞、および生物学的物質を含んでなる液体を意味し、その液体は、反応器内において細胞培養液中で細胞を培養する工程の結果であり、その中で細胞は生物学的物質を産生する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】工程A(バッチ)、B(流加)、およびC1(本発明の工程)について、プロセス時間X(日間)に対してプロットした生存細胞密度Y(10.ml−1)を示す。
【図2】工程A(バッチ)、B(流加)、およびC1(本発明の工程)について、反応器Z内のIgG濃度(工程AのIgG濃度と比較した%)をプロセス時間X(日間)に対して示す。
【図3】工程A(バッチ)、B(流加)、C2(本発明の工程)について、プロセス時間X(日間)に対してプロットした生存細胞密度Y(10.ml−1)を示す。
【図4】工程A(バッチ)、B(流加)、およびC2(本発明の工程)について、反応器Z内のIgG濃度(工程AのIgG濃度と比較した%)をプロセス時間X(日間)に対して示す。
【図5】工程A(バッチ)、B(流加)、C3(本発明の工程)について、プロセス時間X(日間)に対してプロットした生存細胞密度Y(10.ml−1)を示す。
【図6】工程A、およびC3について、反応器Z内のIgG濃度(工程A3のIgG濃度と比較した%)をプロセス時間X(日間)に対して示す。
【図7】工程A、B、およびC3について、プロセス時間X(日間)に対してプロットした累積収率Qを示す(工程Aの反応器容積1Lあたりの収率と比較した%)。
【図8】C4(本発明の工程)について、プロセス時間X(日間)に対してプロットした細胞数Y(10.ml−1)を示す。
【図9】工程C4(本発明の工程の一実施態様)について、反応器Z中のIgG濃度(最大達成IgG濃度と比較した%)をプロセス時間X(日間)に対して示す。
【0059】
ここで限定を意図しない以下の実施例によって、本発明を解明する。
【0060】
[実施例]
[実施例1:バッチ工程、流加工程、および本発明に従った工程間の比較]
この実施例では、本発明に従った方法の性能をバッチおよび流加工程と比較した。
【0061】
図1は、工程A(バッチ)、B(流加)、およびC1(本発明の工程)について、プロセス時間X(日間)に対してプロットした生存細胞密度Y(10.ml−1)を示す。
【0062】
図2は、工程A(バッチ)、B(流加)、およびC1(本発明の工程)について、反応器Z内のIgG濃度(工程AのIgG濃度と比較した%)をプロセス時間X(日間)に対して示す。
【0063】
全ての発酵は、ザルトリウスバイオスタット(Biostat)Bコントローラーを使用して、温度を36.5℃に、pHを7.2〜6.8の間に、およびDOを50%空気飽和率に調節して、200rpmで実施した。同一のIgG産生PER.C6細胞系(国際公開第2004/099396号パンフレット参照)を全ての実験で使用した。
【0064】
[バッチ工程A]
ザルトリウスB5容器内で、4Lの作業容積でバッチ工程を実行した。6mMのL−グルタミン(glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地に細胞を3×10e5細胞/mLで接種し、続いて17日間培養した。
【0065】
[流加工程B]
ザルトリウスB5容器内で、4Lの作業容積で流加工程を実行した。6mMのL−グルタミン(Glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地に細胞を3×10e5細胞/mLで接種した。培養中にグルコースおよびグルタミンを添加して、上の濃度をそれぞれ15mMおよび1mMに保った。5日目からアミノ酸およびペプチドを添加して、消費されたアミノ酸を補給した。
【0066】
[本発明の方法C1]
2Lアプリコン容器内で、本発明の工程を実施した。Refine TechnologyからのATF−2システムを用いて、ATFフローモードで操作される、ゼネラル・エレクトリック(GE)から得られた分画分子量(MWCO)100kDaの中空繊維膜を使用して、細胞およびIgG生成物を保持した。6mMのL−グルタミン(Glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地中で、3×10e5細胞/mLで培養を開始した。0.05〜0.2nL/細胞/日の間の比流速(SFR)を使用して、懸濁細胞培養物を通して、6mMのL−グルタミン(Glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地を灌流した。得られた最大生成物濃度は1.4g/Lであった。
【0067】
下の図1および図2から分かるように、本発明の工程は、言及される培養様式と比較して、より短時間で、生存細胞密度の増大および生成物濃度の増大をもたらした。
【0068】
[実施例2:バッチ工程、流加工程、および本発明に従った工程間の比較]
この実施例では、本発明に従った方法を再度バッチおよび流加工程と比較し、工程C2ではCO2圧力を制御して50kDa分離システムを使用した。
【0069】
図3は、工程A(バッチ)、B(流加)、C2(本発明の工程)について、プロセス時間X(日間)に対してプロットした生存細胞密度Y(10.ml−1)を示す。
【0070】
図4は、工程A(バッチ)、B(流加)、およびC2(本発明の工程)について、反応器Z内のIgG濃度(工程AのIgG濃度と比較した%)をプロセス時間X(日間)に対して示す。
【0071】
全ての発酵は、ザルトリウスバイオスタットBコントローラーを使用して、温度を36.5℃に、pHを7.2〜6.8の間に、およびDOを50%空気飽和率に調節して、200rpmで実施した。同一のIgG(およそ150kDa)産生PER.C6細胞系(国際公開第2004/099396号パンフレット参照)を全ての実験で使用した。
【0072】
[バッチ工程A]
ザルトリウスB5容器内で、4Lの作業容積でバッチ工程を実行した。6mMのL−グルタミン(glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地に細胞を3.105細胞.mL−1で接種し、続いて17日間培養した。
【0073】
[流加工程B]
ザルトリウスB5容器内で、4Lの作業容積で流加工程を実行した。6mMのL−グルタミン(Glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地に細胞を3.10細胞.mL−1で接種した。培養中にグルコースおよびグルタミンを添加して、上の濃度をそれぞれ15mMおよび1mMに保った。5日目からアミノ酸およびペプチドを添加して、消費されたアミノ酸を補給した。
【0074】
[本発明の工程C2]
2Lアプリコン容器内で、本発明の工程を実施した。Refine TechnologyからのATF−2システムを用いて、ATFフローモード内で操作される、GEからの分画分子量(MWCO)50kDaの中空繊維膜を使用して、細胞およびIgG生成物を保持した。6mMのL−グルタミン(Glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地中で、3×10e5細胞/mLで培養を開始した。0.05〜0.2nL.細胞−1.日−1の間のSPRを使用して、懸濁細胞培養物を通して、6mMのL−グルタミン(Glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地を灌流した。CO圧力を15%未満に制御した。
【0075】
[結果]
図3および図4から分かるように、本発明に従った工程は、等しいかそれ以下の時間で(バッチ時間の100%;流加時間の81%)、顕著な生存細胞密度の増大および生成物濃度の増大をもたらした(2415%×バッチ収率;690%×流加収率)。
【0076】
本発明の工程のg.L−1.日−1の総体的生産性増大は、g.L−1.日−1のバッチ生産性の23.9倍、およびg.L−1.日−1の流加生産性の8.5倍である。本発明の工程C2では、11.1gの生成物/Lが生じた。細胞密度が非常に高くても、保持装置の目詰まりは17日間の間に起きなかった。
【0077】
[実施例3:バッチ工程、流加工程、および本発明に従った工程間の比較]
この実施例では、細胞培養物除去を伴う本発明に従った方法の性能を再度バッチおよび流加工程と比較する。工程C3では細胞培養物が除去された。
【0078】
図5は、工程A(バッチ)、B(流加)、C3(本発明の工程)について、プロセス時間X(日間)に対してプロットした生存細胞密度Y(10.ml−1)を示す。
【0079】
図6は、反応器Z中のIgG濃度(工程A3のIgG濃度と比較した%)を、工程A、およびC3のプロセス時間X(日間)に対して示す。
【0080】
図7は、工程A、BおよびC3について、プロセス時間X(日間)に対してプロットした累積収率Q(工程Aの反応器容積1Lあたり収率と比較した%)を示す。
【0081】
全ての発酵は、ザルトリウスバイオスタットBコントローラーを使用して、温度を36.5℃に、pHを7.2〜6.8の間に、およびDOを50%空気飽和率に調節して、200rpmで実施した。同一のIgG(およそ150kDa)産生PER.C6細胞系(国際公開第2004/099396号パンフレット参照)を全ての実験で使用した。
【0082】
[バッチ工程A]
ザルトリウスB5容器内で、4Lの作業容積でバッチ工程を実行した。6mMのL−グルタミン(glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地に細胞を3.105細胞.mL−1で接種し、続いて17日間培養した。
【0083】
[流加工程B]
ザルトリウスB5容器内で、4Lの作業容積で流加工程を実行した。6mMのL−グルタミン(Glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地に細胞を3.10細胞.mL−1で接種した。培養中にグルコースおよびグルタミンを添加して、上の濃度をそれぞれ15mMおよび1mMに保った。5日目からアミノ酸およびペプチドを添加して、消費されたアミノ酸を補給した。
【0084】
[本発明の工程C3]
2Lアプリコン容器内で、本発明の工程を実施した。Refine TechnologyからのATF−2システムを用いて、ATFフローモード内で操作される、GEからの分画分子量(MWCO)100kDaの中空繊維膜を使用して、細胞およびIgG生成物を保持した。6mMのL−グルタミン(Glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地中で、3×10e5細胞/mLで培養を開始した。0.05〜0.2nL.細胞−1.日−1の間のSPRを使用して、懸濁細胞培養物を通して、6mMのL−グルタミン(Glutamin)を添加したSAFCからのVPRO培地を灌流した。10.10細胞.mL−1を超えたら1日あたり作業容積の10%、生存細胞密度が30.10細胞.mL−1を超えたらそれ以降は1日あたり作業容積の30%の細胞培養を除去する。
【0085】
[結果]
図5から分かるように、本発明の工程によってより高い生存細胞密度が迅速に達成される。さらに細胞密度が非常に高くても保持装置の目詰まりが起こらなかったため、工程C3は40日間近い期間にわたり作動を維持されたので、図5はまた、本発明の工程によって細胞生存度がより長く維持できることも示す。
【0086】
図6は、本発明の方法では、生成物濃度がバッチ工程の生成物濃度よりもはるかに高いことを示す。生成物を含有する生成物流は、バッチ工程Aの最終濃度のおよそ200%〜250%で工程C3から収集された。
【0087】
図7は、ほとんどの生成物が本発明の方法によって形成され、本発明の工程がバッチ工程Aまたは流加工程Bよりも長く維持できることを示す。17日目には、工程C3の累積収率はバッチ工程(A3)の累積収率の8.1倍であり、流加工程(B)の累積収率の2.1倍である。また17日目には、バッチ工程が終了した。21日目には、工程C3の累積収率は流加工程Bの累積収率の3.0倍である。21日目には、流加工程が終了した。39日後には、工程C3の総累積収率はバッチ工程Aの累積収率の25倍、および流加工程Bの収率の6倍である。
【0088】
この実験から、本発明に従った方法における所望の生体物質の総収率は、細胞密度が特定の高レベルを超えた場合、細胞培養物をブリードすることでさらに改善できると結論できる。
【0089】
[実施例4:CHO細胞の培養およびそれによる生成]
この実施例では、IgG産生CHO細胞系に、本発明に従った方法を実施して温度低下を含めて細胞生育を低下させた。
【0090】
図8は、C4(本発明の工程)について、プロセス時間X(日間)に対してプロットした細胞数Y(10.ml−1)を示す。
【0091】
図9は、工程C4(本発明の工程の一実施態様)について、反応器Z内のIgG濃度(最大達成IgG濃度と比較した%)をプロセス時間X(日間)に対して示す。
【0092】
発酵は、ザルトリウスバイオスタットBコントローラーを使用して、温度を36.5℃に、pHを7.1〜6.9の間に、およびDOを40%空気飽和率に調節して、100rpmで実施した。温度は5日目に32℃に低下させた。
【0093】
[本発明の工程C4]
2Lアプリコン容器内で、本発明の工程を実施した。細胞および生成物保持装置は、Refine TechnologyからのATF−2システムを用いて、ATFフローモードで操作されるゼネラル・エレクトリックからの50kD分画分子量(MWCO)中空繊維膜である。ハイクローンからのMTCM−49培地中で、5.106細胞.mL−1で培養を開始した。0.1〜0.4nL.細胞−1.日−1の間のSPRを使用して、懸濁細胞培養物を通して培地を灌流した。CO圧力は15%未満に制御された。
【0094】
[結果]
データは、本発明の工程が、タンパク質産生CHO細胞系を使用した場合にも機能することを示す。達成された細胞密度および生成物濃度は、バッチ培養と比較して増大する。データはまた、本発明に従った方法で(例えば温度低下によって)細胞生育を抑止できる一方、培養システム中の生成物蓄積が継続することも示す。
【0095】
[実施例5:骨髄腫細胞系で実施された本発明の工程]
本発明に従った方法はまた、骨髄腫細胞系にも適用できる。この目的でザルトリウスバイオスタットBコントローラーを使用して、温度を36.5℃に、pHを7.2〜6.8の間に、およびDOを40%空気飽和率に調節して、100rpmで発酵を実施する。5Lザルトリウス容器内のハイクローンからのSFM4Mab培地に、骨髄腫細胞を3×10e5細胞/mlで接種して細胞培養を開始する。細胞および生成物保持装置は、Refine TechnologyからのATF−4システムを用いて、ATFフローモード内で操作されるゼネラル・エレクトリックからの30kD分画分子量(MWCO)中空繊維膜である。0.1〜0.4nL.細胞−1.日−1の間のSPRを使用し、懸濁細胞培養物を通して、ハイクローンからのSFM4Mab培地を灌流させる。CO圧力は15%未満に制御される。
【0096】
[実施例6:MDCK細胞系で実施された本発明の工程]
本発明に従った方法はまた、懸濁状態の形質転換MDCK細胞系に適用できる。この目的でザルトリウスバイオスタットBコントローラーを使用して、温度を36.5℃に、pHを7.2〜6.8の間に、およびDOを40%空気飽和率に調節して、100rpmで発酵を実施する。5Lザルトリウス容器内のインビトロジェンからのVP−SFM培地に、形質転換MDCK細胞を3×10e5細胞/mlで接種して細胞培養を開始する。細胞および生成物保持装置は、Refine TechnologyからのATF−4システムを用いて、ATFフローモード内で操作されるゼネラル・エレクトリックからの30kD分画分子量(MWCO)中空繊維膜である。0.1〜0.4nL.細胞−1.日−1の間のSPRを使用し、懸濁細胞培養物を通して、インビトロジェンからのVP−SFM培地を灌流させる。CO圧力は15%未満に制御される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞が、形質移入された少なくとも1つの遺伝子によってコードされる所望の生物学的物質を産生することができ、少なくとも1つの細胞培養液成分が細胞培養物に供給され、
細胞、所望の生物学的物質、および細胞培養液を含んでなる細胞培養物がタンジェンシャルフローで、分離システム上で循環され、
分離システムが、所望の生物学的物質よりも低い分子量を有する物質から所望の生物学的物質が分離されるフィルターを有し、
フィルターからの液体流出物は、本質的に所望の生物学的物質よりも低い分子量の成分のみを含み、
所望の生物学的物質が反応器内に保持されまたはその中に送り戻され、
前記反応器が、撹拌タンク容器、気泡ポンプ容器、または、揺動、振盪運動若しくは撹拌によって混合できる使い捨てバッグである、反応器内で細胞培養液中の懸濁状態の真核細胞を培養する方法。
【請求項2】
前記フィルターが、前記生物学的物質の分子量の2分の1以下の分画分子量を有するフィルターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フィルターが、30kDa〜100kDaの分画分子量を有するフィルターである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
所望の生物学的物質よりも低い分子量の物質の一部が細胞培養物から連続的に除去される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
所望の生物学的物質が組み換えタンパク質である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
所望の生物学的物質が抗体である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
分離システムが薄膜フィルターである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分離システムが中空繊維フィルターである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
細胞培養物が交互のタンジェンシャルフローで、フィルター上で循環される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
細胞培養物が反応器から少なくとも1回除去され、液体が反応器に添加されて細胞培養物の除去を代償する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
細胞培養物が反応器から少なくとも1回除去され、細胞培養液が反応器に添加されて細胞培養物の除去を代償する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
細胞培養条件が、細胞培養液成分の少なくとも1つの濃度が一定のままであるように選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
枯渇栄養素を反応器に供給することで、これらの栄養素が少なくとも部分的に補給される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
所望の生物学的物質が細胞からおよび/または細胞培養物から収集される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−165764(P2012−165764A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−133156(P2012−133156)
【出願日】平成24年6月12日(2012.6.12)
【分割の表示】特願2011−2379(P2011−2379)の分割
【原出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】