説明

細胞を用いた変性椎間板の自家移植処置

【課題】 椎間板変性症に対する従来の処置法は、移植を行う前に細胞を培養する必要があり、患者の変性椎間板の処置が遅れた。
【解決手段】 椎間板変性症を処置するための製剤であって、未培養の自己由来間葉幹細胞と、追加治療薬とを含有しており、しかも、前記製剤は、変性椎間板の中に投与するのに適した量で存在している、製剤。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔関連出願〕
本出願は、出願日2003年11月13日の米国出願第10/714,559号の一部継続出願である、出願日2003年11月14日の米国出願第10/714,594号の継続出願である。上記の諸出願による教示は全て、言及されることによって、本明細書に組み入れられる。
【0002】
〔発明の背景〕
正常な椎間板は、線維輪(fibrous annulus fibrosus)で囲まれたゼリー状髄核(nucleus pulposus)を有している。軸方向荷重(axial load)の下、髄核は、その荷重を線維輪に押し付けて半径方向に移動させる。線維輪は積層されている状態になっているため、線維輪に高引張り強度が提供され、そのため、線維輪は、この押し付けられた荷重に応じて、半径方向に延びることが可能となる。
【0003】
健全な椎間板では、髄核内の細胞は、椎間板の組織のわずか約1体積%を形成する。これらの細胞は、高率でプロテオグリカン(proteoglycans:ムコ多糖タンパク質)を含有する細胞外基質(ECM)を産生する。これらのプロテオグリカンは、水を保持し、そうすることによって、髄核にそれのクッション性を提供する硫酸化官能基を含有している。髄核細胞は、サイトカインだけでなくマトリックス金属タンパク質分解酵素(matrix metalloproteinases)(MMPs)をも少量分泌する。これらのサイトカインおよびマトリックス金属タンパク質分解酵素は、髄核細胞の物質代謝を調整するのに役立つ。
【0004】
椎間板変性症(DDD)の幾つかの例において、椎間板の漸進的変性は、脊柱の他の部分における物理的不安定(mechanical instabilities)によって引き起こされる。これらの例において、髄核上への荷重および圧力が増大することによって、椎間板内部の細胞(または、侵入してくるマクロファージ)は、上述のサイトカインの通常の量よりも多くのサイトカインを放出する。椎間板変性症の他の例において、遺伝因子またはアポトーシスもまた、椎間板細胞の数の減少化、および/または、これらのサイトカインとマトリックス金属タンパク質分解酵素との毒性量の放出を引き起こすことがある。場合によっては、椎間板のポンプ作用(pumping action)が、(例えば、髄核内のプロテオグリカン濃度の低下に起因して)機能不全となり、それによって、椎間板の中への栄養物の流れだけでなく、椎間板からの老廃物の流れをも遅らせることがある。この椎間板の、該細胞に栄養物を提供しかつ廃物を除去する能力が低下することによって、結果的に細胞の生存能力と物質代謝とが低下し、その結果、神経の過敏状態および疼痛(pain)を引き起こすことのある高濃度毒素が蓄積されると共に、細胞外基質が更に劣化することになる。
【0005】
椎間板変性症が進行するにつれて、髄核中に存在するサイトカインとマトリックス金属タンパク質分解酵素との毒性濃度によって、細胞外基質は劣化し始める。とりわけ、(サイトカインによって影響を受ける)細胞外基質は、プロテオグリカンの保水部分に付着し始め、それによって、それの保水能力(water-retaining capabilities)を低下させる。この劣化によって、髄核の柔軟性が低下することとなり、そのために、椎間板内部の負荷パターンが変化し、それによって、線維輪の層間剥離が引き起こされる可能性がある。これらの変化は、更なる物理的不安定を引き起こし、それによって、それらの細胞は、更により多くのサイトカインを放出し、それによって、通常は、マトリックス金属タンパク質分解酵素は上方制御される。この破壊的カスケード(cascade)が続いて、椎間板変性症が更に進行するにつれて、椎間板は隆起し始め(椎間板ヘルニア)、その結果、最終的に破裂して、髄核は脊椎と接触するようになり、疼痛が生じる。
【0006】
米国特許第6,352,557号明細書(フェリー(Ferree))には、ドナーから得られたモーセライズド(morselized)細胞外基質に髄核細胞等の治療物質を添加し、次いで、その組み合せを椎間板に注入することが教示されている。しかし、それらの細胞は先ず、培養し、次いで、罹病椎間板の中に注入する前、ドナー基質(donor matrix)に添加する必要がある。このプロセスは、患者に2つの別々の処置を行うことに加えて、患者に対する治療の遅延を余儀なくされる。第1の処置は、それらの細胞を摘出することである。次いで、該細胞は、培養する必要がある。その培養の後、該細胞は、患者に注入される。
【0007】
米国特許第6,340,369号明細書(フェリー(Ferree)II)には、患者から生きた椎間板細胞を摘出し、該細胞を培養し、次いで、それらの細胞を、患った椎間板の中に移植することが教示されている。フェリーIIは、それらの細胞が髄核(NP)から摘出されるか、または線維輪(AF)から摘出されるかによって決まるが、該細胞は、II型コラーゲン−グリコサミノグリカン(collagen-glycosaminoglycan)・マトリックス、またはI型コラーゲン−グリコサミノグリカン・マトリックスと混ぜ合わせることができることを更に教示する。また、フェリーIIは、移植を行う前、1種以上の治療物質を細胞に添加することを提案している。細胞を得るための代わりの源として、フェリーは、髄核細胞もしくは線維輪細胞の前駆細胞(precursor cells)、軟骨細胞、または、髄核細胞もしくは線維輪細胞のように作用する他の生きた細胞、または、髄核細胞もしくは線維輪細胞に分化することのできる他の生きた細胞を使用することを提案している。フェリーは全体に渡って、摘出した細胞は、移植を行う前、培養されることを教示する。
【0008】
アリーニ(Alini):Eur. Spine J., 11(増補2),第215頁〜220頁(2002)は、細胞で取り囲まれた生体マトリックス(biomatrix)を注入すれば、椎間板の機能性が回復する可能性があることを示唆している。アリーニの実験は、髄核から細胞を分離して、該細胞を培養することに向けられている。アリーニは更に、同種ドナー(allogenic donor)由来の椎間板細胞と、自己由来の幹細胞とを包含する他の細胞源を提案している。アリーニの教示は、幹細胞は理想的な源であるが、それらの幹細胞が、移植される前に髄核細胞に分化するようなやり方で、該幹細胞を培養するための既知の方法は存在しないことを示唆している。本質的にアリーニは、移植を行う前、細胞を培養することを必要としている。
【0009】
ラッセル(Russell)(Abstract 27,ISSLS,2003)は、間葉幹細胞(MSCs)が椎間板軟骨細胞の表現型を提供するように誘導され得るか否かを決定する実験を行うことを報告している。ラッセルは、成人ヒト間葉幹細胞が、培養条件によって影響を受けるとき、また、TGF−B1を添加することによっても影響を受けるとき、軟骨細胞の表現型に沿って分化が誘導されることを見出だした。
【0010】
サカイ(Sakai)(Abstract 24,ISSLS,2003)は、間葉幹細胞を椎間板に自己移植すれば、椎間板変性が防止されるか否かを評価することを報告している。ウサギを用いて、間葉幹細胞が、骨髄から分離され、次いで、移植が行われる前、2週間培養された。結果として、椎間板がかなり保護されることが分かった。
【0011】
サカイ:バイオマテリアルズ(Biomaterials),24,第3531頁〜3541頁(2003)には、1×106個細胞/mlの最終細胞密度を用いて、自己培養された間葉幹細胞が植え込まれた溶液0.04mlを、27−ゲージ・インシュリン注射器によって各々の椎間板に注入することが記述されている。移植後の細胞の増殖は、うまくいっていることが分かった。
【0012】
ソバジマ(Sobajima)(Abstract 43,ISSLS,2002)は、椎間板変性症に対する幹細胞療法の実現可能性を研究した。ヒト髄核細胞が、椎間板手術を受けている患者から分離され、次いで、股関節部(hip)手術を受けている患者からの間葉幹細胞、またはマウス幹細胞由来の筋肉と共培養した。それらのデータによって、幹細胞と髄核細胞との間に相乗効果があり、結果的に生体内で上方調整されたプロテオグリカンが合成されることが実証された。
【0013】
ゲーニー(Ganey):Eur Spine J, 11(増補2),第206頁〜214頁(2002)には、椎間板除去手術の後、患者の椎間板の部分から細胞が摘出された、ドイツ国で行われた手術について報告されている。それらの細胞は、次いで、培養されて、後日、該患者に移植によって戻された。
【0014】
出願人、サンダー(Sander)等の、米国特許出願公開第2003/0069639号明細書には、変性椎間板の中に注入するための細胞を摘出するための源として、患者由来の組織バイオプシー(tissue biopsies)を用いることが教示されている。
【0015】
上記で引用した教示は全て、移植を行う前に細胞を培養する必要があり、そのことは、換言すると、患者の変性椎間板を処置するのが遅れるという結果を必然的に伴う。
【0016】
〔発明の概要〕
本発明者らは、未培養の自己由来細胞(例えば、間葉幹細胞または軟骨細胞または線維芽細胞)を患者の椎間板の中に導くことによって、椎間板変性症を効果的に処置するための外科手術方法を開発した。この方法によって、患者のためのケア処置が即時に行われる。
【0017】
本発明の1つの具体例によると、本発明者らは、椎間板を処置する方法であって、患者の骨髄から摘出された細胞が、続いて、変性椎間板の中に導かれて、該椎間板中に存在する髄核細胞および/または線維輪細胞に分化させ、それによって、該椎間板中に存在するそれらの細胞の数を増加させる、方法を開発した。幾つかの具体例において、該椎間板の中に該細胞を移植する段階は、該細胞を摘出した後、直ちに行うことができ、そのため、患者は、該細胞を摘出するための第1の処置を受けること、該細胞が培養されるのを待つこと(これは、数週間かかることがある)、次いで、培養された細胞を該椎間板の中に移植する第2の処置に戻ることを回避することができる。
【0018】
細胞を標的椎間板へ導くことに対する幾つかの利点が存在するものと思われる。該細胞の一次機能は、細胞外基質を産生することである。上述のように、結果的に細胞の死または機能不全を引き起こす幾つかの因子が存在する。これらの因子は次には、この基質(matrix)の悪化を引き起こす。該細胞外基質を回復させるかまたは再生するための1つの方法は、該基質を産生する、生存能力のある機能性椎間板細胞の数を増加させることである。本発明者らは、間葉幹細胞(MSCs)の形成性現象(plasticity phenomenon)によって、該細胞は、標的椎間板の中に移植された後、椎間板細胞に分化するための細胞種の理想的な選択を行うものと信じる。該間葉幹細胞は、該椎間板内部で、必要な細胞外基質を産生することのできる髄核(NP)および/または線維輪(AF)になることが可能である。加えて、注入時に、該間葉幹細胞は、該椎間板内部に一旦注入されれば該細胞が生き残るのを助ける成長因子のような他の治療薬と混ぜ合わせることができる。
【0019】
したがって、本発明の1つの面において、椎間板の椎間板変性症を処置する方法であって、患者から間葉幹細胞を摘出する段階と、それらを培養する必要性なしで、生存能力のある該間葉幹細胞を同一患者の変性椎間板の中に導く段階とを有し、しかも、該細胞は、増殖して髄核細胞および/または線維輪細胞に分化する、方法が提供される。
【0020】
幾つかの具体例において、前記細胞は、単独でまたはキャリアを媒介して配送される。他の具体例において、該細胞は、追加治療薬、または成長因子等の物質と一緒に前記椎間板に配送される。
【0021】
〔発明の詳細な記述〕
椎間板変性症は連続プロセスであるので、細胞が投与される変性椎間板は、多くの変性状態のいずれか1つの状態である場合がある。したがって、変性椎間板は、無傷の椎間板である場合がある。変性椎間板は、椎間板ヘルニアである場合(即ち、線維輪の一部分が出っ張り部分(bulge)を有している場合)がある。変性椎間板は、椎間板破裂(ruptured disc)である場合(即ち、線維輪が破裂して、大量の髄核が滲み出ている場合)がある。変性椎間板は、剥離している場合(即ち、線維輪の隣接層が剥離している場合)がある。変性椎間板は、裂溝(fissures)を有する場合(即ち、線維輪が、小さい割れ目または裂け目であって、それらを通って、髄核からの選択分子(selected molecules)が漏出することのある割れ目または裂け目を有している場合)がある。これらの変性状態の全てにおいては、線維輪または髄核の細胞外基質もまた変性している。
【0022】
本発明は、患者の変性椎間板に、健全で生存能力のある自己の間葉幹細胞(MSCs)を外科手術によって提供することに向けられている。それらの細胞を、髄核または線維輪またはそれらの両方に配送して、各々の細胞外基質の修復および回復を行うことができる。
【0023】
本発明者らは、間葉幹細胞が、変性椎間板中に存在する比較的過酷な環境により容易に耐えるように該間葉幹細胞を助ける性質を有しているので、間葉幹細胞が、変性椎間板に投与されるための特別な利点を提供するものと思う。とりわけ、間葉幹細胞は、増殖して髄核細胞または線維輪細胞に分化する能力をそれらの間葉幹細胞に与える所望レベルの形成性(plasticity)を有する。
【0024】
1つの具体例において、間葉幹細胞は、患者自身の骨髄から得られる。他の具体例において、脂肪組織または筋肉組織は、間葉幹細胞の源となる場合がある。幾つかの具体例において、椎間板に投与されるべき間葉幹細胞は、濃縮された形態で供給される。それらの細胞は、濃縮された形態で供給される場合、培養されていなくてもよい。未培養の濃縮された間葉幹細胞は、遠心分離法、濾過(選択的保持(selective retention))、または免疫吸着(immunoabsorption)によって容易に得ることができる。濾過を選定する場合、米国特許第6,049,026号明細書(ムシュラー(Muschler))に開示されている方法を使用することができる。その米国特許明細書の内容は、言及されることによって、そっくりそのまま組み入れられる。例えば、骨髄の吸引懸濁液(aspirate suspension)は、多孔質で生体適合性の移植可能な基体(substrate)を通過して、組織前駆細胞(tissue progenitor cells)の濃縮個体数を有する複合移植骨片(composite bone graft)を提供する。幾つかの具体例において、間葉幹細胞を濾過して濃縮するのに使用されるマトリックスはまた、治療薬として髄核または線維輪の中に共投与される。このマトリックスが適切な機械的特性を有するならば、該マトリックスは、劣化プロセス(degradation process)の間に喪失した椎間板の空間の高さを修復するのに使用することができる。該細胞は、椎間板の標的領域に、該マトリックスと同時にまたは該マトリックスと一緒に注入することができる。
【0025】
間葉幹細胞を摘出するために得られる吸引骨髄の容積は、約5cc〜約100ccの間であるのが好ましい。この容積は、次いで、該間葉幹細胞を濃縮するための濃縮プロセスの間、使用される。
【0026】
遠心分離法を選定する場合、コナリー(Connolly)等によって開示されている方法を使用することができる。「骨形成性骨髄製剤の開発(Development of an Osteogenic Bone Marrow Preparation)」,JBJS 71−A(第5号)(1989年6月)は、言及されることによって、そっくりそのまま組み入れられる。このウサギの研究において、コナリーは、7〜10mlの骨髄を遠心分離することによって、最終細胞懸濁液1ml当り平均3.6×106個の有核細胞が産生されたことを報告した。
【0027】
前記細胞が、遠心分離法を用いて濃縮される場合、それらの細胞は、懸濁しているペレット形態で椎間板へ配送することができる。もう1つの具体例において、該細胞は、キャリアを用いて配送される。該キャリアは、ビーズ(beads)、マイクロスフェア(microspheres)、ナノスフェア(nanospheres)、ヒドロゲル、ゲル、ポリマー、セラミックス、コラーゲンおよび血小板ゲル(platelet gels)から成る群を包含するか、またはその群から選定することができる。
【0028】
前記キャリアは、固体形態または流体形態であるが、幾つかの異なる方法で前記細胞を運搬することができる。該細胞は、植え込むか、被包する(encapsulated)か、懸濁させるか(suspended)、または該キャリアの表面に付着させることができる。1つの具体例において、該キャリアは、該細胞を被包し、栄養物を提供し、しかも、該細胞が椎間板内部に配送されるとき、該細胞を保護する。該椎間板内部において一定時間の後、該キャリアは、分解して該細胞を放出する。様々なキャリアのうち特定のタイプを、以下に記述する。
【0029】
幾つかの具体例において、前記の間葉幹細胞は、持効性デバイス(sustained release device)(即ち、徐放性デバイス(sustained delivery device))内に供給される。前記の投与される製剤は、該持効性デバイスを有することができる。該持効性デバイスは、椎間板内部に長期間残存して、その中に入っている該間葉幹細胞を周囲環境に徐々に放出するのに適合している。この配送方式によって、該間葉幹細胞を治療有効量で椎間板内部に長期間残存させることが可能となる。1種以上の追加治療薬もまた、徐放性デバイスによって配送することができる。
【0030】
幾種類かの細胞の魅力を考慮するために、また、所望の領域でそれらの細胞が分化するように指示するために、フマル酸ベース足場のような合成足場(synthetic scaffolds)が設計され、適応させられてきた。それらの細胞はまた、該足場の中に埋め込み、次いで、該細胞の生存能力にも増殖にも悪影響を及ぼすことなく、標的領域の中に注入することもできる。フマル酸ベース足場を移植した後、該足場は時間が経てば分解するので、該足場を除去するための更なる手術は全く必要でない。
【0031】
キャリアは、ヒドロゲルを含有してもよい。前記細胞は、ゲル化された後、ヒドロゲルのポリマー鎖の中に被包される。ヒドロゲルは、標的領域へ注射する等の低侵襲的方法(minimally invasive manner)で配送することができる。ヒドロゲルはまた、身体によって再び吸収される。分解時間、細胞付着挙動、および細胞外基質の空間集積(spatial accumulation)のようなヒドロゲルの特性は、化学的および加工処理修飾(chemical and processing modifications)によって変更することができる。
【0032】
本発明で用いるのに適したヒドロゲルには、含水ゲル(即ち、親水性および水不溶性によって特徴付けられるポリマー)が包含される。例えば、マーク(Mark)等、編集:ポリマーの理工学の簡明百科事典(Concise Encyclopedia of Polymer Science and Engineering)の中のウィリー(Wiley)およびサンズ(Sons)「ヒドロゲル(Hydrogels)」,第458頁〜459頁(1990)を参照されたい。それの開示内容は、言及されることによって、そっくりそのまま本明細書に組み入れられる。それらのヒドロゲルを用いることは、本発明では任意的であるが、該ヒドロゲルは多くの望ましい性質を有する傾向があるので、該ヒドロゲルを含有すれば、非常に好都合である場合がある。該ヒドロゲルは、親水性であり、水を含有する性質があるので、該ヒドロゲルは、間葉幹細胞等の生存能力のある細胞を収容することができ、しかも、椎間板の支持能力(load bearing capabilities)を助けることができる。
【0033】
1つの具体例において、前記ヒドロゲルは、微粉状の合成ヒドロゲルである。適切なヒドロゲルは、一般に好まれるマトリックスポリマーとの適合性、および生体適合性(biocompatibility)のような特性の最適な組み合せを示す。該ヒドロゲルは、下記:多糖類、タンパク質、ポリホスファゼン、ポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ブロックポリマー、エチレンジアミンのポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ブロックポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、ポリ(酢酸ビニル)、およびスルホン化ポリマー、のいずれか1種以上を含有することができる。
【0034】
これらのポリマーは一般的に、水溶液(例えば、水、または荷電側基(charged side groups)もしくはそれらの一価イオン塩を含有するアルコール水溶液)に少なくとも部分的に溶解できる。カチオンと反応し得る酸性側基を含有するポリマーの多くの例、例えば、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(アクリル酸)、およびポリ(メタクリル酸)が存在する。酸性基の例には、カルボン酸基、スルホン酸基、およびハロゲン化アルコール基(好ましくは、フッ素化アルコール基)が包含される。アニオンと反応し得る塩基性側基を含有するポリマーの例は、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(ビニルピリジン)およびポリ(ビニルイミダゾール)である。
【0035】
本発明によって、髄核を有する椎間板の椎間板変性症を処置する方法であって、変性椎間板の中に未培養の自己由来間葉幹細胞を投与する段階を含む、方法が提供される。
【0036】
1つの具体例において、前記自己由来間葉幹細胞を前記椎間板の中に投与する前、該幹細胞を摘出する。
【0037】
本発明のもう1つの面によると、前記間葉幹細胞は、該細胞の増殖および分化を助ける作用物質のような少なくとも1種の追加治療薬と一緒に、前記椎間板の空間の中に配送することができる。例えば、1種の追加治療薬(即ち、第2の治療薬)である場合があり、または、複数種の追加治療薬(例えば、第2および第3の治療薬)である場合がある。該追加治療薬は、該間葉幹細胞と一緒に配送することができる。もう1つの具体例において、該追加治療薬は、該間葉幹細胞を椎間板に投与した後、配送する。更にもう1つの具体例において、該追加治療薬は、最初に配送する、即ち、該間葉幹細胞を椎間板に投与する前に配送する。
【0038】
同一のキャリアを用いて、前記細胞および前記追加治療薬を配送することができる。幾つかの具体例において、該細胞は該キャリアの表面に配置され、該追加治療薬は該キャリアの内部に置かれる。他の具体例において、該細胞および該追加治療薬は、別々のキャリアを用いて配送することができる。
【0039】
前記椎間板に添加することのできる他の追加治療薬は、ビタミンおよび他の栄養補給剤、ホルモン、糖タンパク質、フィブロネクチン、ペプチドおよびタンパク質、炭水化物(単純炭水化物および/または複合炭水化物)、プロテオグリカン、オリゴヌクレオチド(センスDNAおよび/またはアンチセンスDNA、センスRNAおよび/またはアンチセンスRNA)、骨形態形成タンパク質(BMPs)、分化因子、抗体(例えば、感染物質、腫瘍、薬物またはホルモンに対する抗体)、遺伝子治療試薬、ならびに抗がん剤を包含するが、それらに限定されない。遺伝学的に改変された細胞および/または他の細胞もまた、本発明のマトリックスの中に含有させることができる。所望により、痛みを和らげる薬(即ち、鎮痛剤)および麻酔薬のような物質もまた、椎間板の空間に配送し放出するためのキャリアと混合することができる。
【0040】
幾つかの具体例において、成長因子が追加治療薬である。本明細書および特許請求の範囲で用いる用語「成長因子(growth factor)」は、他の細胞(とりわけ、結合組織の前駆細胞)の成長または分化を調整するあらゆる細胞産生物(cellular product)を包含する。本発明に従って用いることのできる成長因子は、酸性線維芽細胞成長因子および塩基性線維芽細胞成長因子(FGF−1およびFGF−2)およびFGF−4を包含する線維芽細胞成長因子類の諸メンバー、PDGF(血小板由来成長因子)−AB、PDGF−BBおよびPDGF−AAを包含するPDGF類の諸メンバー、上皮細胞成長因子類(EGFs)、インシュリン様成長因子(IGF)−IおよびIGF−IIを包含するIGF類の諸メンバー、(MP−52を包含する)TGF−β1,2および3を包含するTGF−β科、類骨誘発因子(osteoid-inducing factor)(OIF)、アンギオジェニン類(angiogenin(s))、エンドセリン類(endothelins)、肝細胞成長因子およびケラチノサイト成長因子、骨形成タンパク質(BMP)−1、BMP−3、BMP−2、OP−1、BMP−2A、BMP−2B、BMP−4、BMP−7およびBMP−14を包含するBMP類の諸メンバー、HBGF−1およびHBGF−2、成長分化因子類(GDFs)、インディアン・ヘッジホッグ(indian hedgehog)、ソニック(sonic)・ヘッジホッグおよびデザート(desert)・ヘッジホッグを包含する、タンパク質のヘッジホッグ類の諸メンバー、ADMP−1、GDF−5、コロニー刺激因子(CSF)−1、G−CSFおよびGM−CSFを包含するCSF類、ならびにそれらのイソ型(isoforms)を包含するが、それらに限定されない。該成長因子は、血小板に富む血漿に含有されている成長因子、または商業的に得られる成長因子のように自己由来である場合がある。1つの具体例において、該成長因子は、椎間板組織を修復するための有効量で投与する。
【0041】
幾つかの具体例において、前記成長因子は、TGF−β、bFGF、およびIGF−1から成る群から選ばれる。これらの成長因子は、髄核の再生を促進するものと思われ、あるいは、軟骨細胞の増殖および/もしくは分化だけでなく細胞外基質の分泌をも促すものと思われる。1つの具体例において、該成長因子は、TGF−βである。TGF−βは、より好ましくは、約10ng/ml〜約5000ng/mlの間、例えば、約50ng/ml〜約500ng/mlの間、例えば、約100ng/ml〜約300ng/mlの間の量で投与される。
【0042】
1つの具体例において、前記追加治療薬の少なくとも1種は、TGF−β1である。1つの具体例において、もう1つの追加治療薬は、FGFである。
【0043】
幾つかの具体例において、血小板濃縮物は、追加治療薬として供給される。1つの具体例において、該血小板によって放出される前記成長因子は、該血小板が採取された血液中に見出だされる量よりも少なくとも2倍(例えば、4倍)大きい量で存在する。幾つかの具体例において、該血小板濃縮物は、自己由来である。幾つかの具体例において、該血小板濃縮物は、血小板に富む血漿(PRP)である。血小板に富む血漿が、細胞外基質の成長を再び刺激することのできる成長因子を含有するため、また、血小板に富む血漿のフィブリンマトリックス(fibrin matrix)が、組織を新たに成長させるのに適した足場(scaffold)を提供するため、前記の血小板に富む血漿は好都合である。
【0044】
したがって、本発明によると、髄核を有する椎間板の椎間板変性症を処置する方法であって、
a)未培養の自己由来間葉肝細胞を該変性椎間板の中に投与する段階と、
b)少なくとも1種の治療薬を前記変性椎間板の中にトランスディスカルに(transdiscally)投与する段階と、
方法が提供される。
【0045】
本発明の目的のための「トランスディスカル投与(transdiscal administration)」は、
a)比較的無傷の変性椎間板のような変性椎間板の髄核の中に製剤を注入すること、
b)比較的無傷の変性椎間板のような変性椎間板の線維輪の中に製剤を注入すること、
c)前記線維輪の外壁に付着したパッチ(patch)の中に製剤を供給すること、
d)前記線維輪の外壁の外側の位置であるが、接近して隣接する位置の貯留所(depot)の中に製剤を供給すること(トランス・アニュラー投与(trans-annular administration))、および
e)隣接する椎体の終板(endplate:エンドプレート)の外側の位置であるが、接近して隣接する位置の貯留所の中に製剤を供給すること(トランス・エンドプレート投与(trans-endplate administration))、
を包含するが、それらに限定されない。
【0046】
更に、本発明によると、椎間板変性症を処置するための製剤であって、
a)未培養の自己由来間葉幹細胞と、
b)少なくとも1種の追加治療薬と、
を含有しており、しかも、前記製剤は、変性椎間板の中に投与するのに適した量で存在している、製剤が提供される。
【0047】
また、本発明によると、椎間板変性症を処置するための製剤を該椎間板に配送するための装置であって、
a)未培養の自己由来間葉肝細胞と少なくとも1種の追加治療薬とを含有する製剤の入っている前記製剤が入っている室と、
b)前記室と流体連通し、かつ、前記製剤を前記椎間板に投与するのに適した配送用開口部(delivery port)と、
を備えている、装置が提供される。
【0048】
幾つかの具体例において、どの細胞外基質を修復する必要があるかによって決まるが、前記細胞は、髄核または線維輪の中に導く(即ち、投与する)ことができる。他の具体例において、該細胞は、椎間板の両方の領域の中に導くことができる。該細胞が配送されようとしている椎間板の領域に応じて、特定の治療薬を選定することができる。
【0049】
幾つかの具体例において、小さい穿孔針のような針によって、前記細胞のみを椎間板の中に投与する(例えば、注射する)。代替的に、前記製剤はまた、同一の小さい穿孔針を使用して、椎間板の中に注射することもできる。幾つかの具体例において、該針は、約22ゲージ以下の内径を有し、そのため、ヘルニア形成を生じる可能性は軽減される。例えば、該針は、約24ゲージ以下の内径を有することができるので、ヘルニア形成を生じる可能性はよりいっそう軽減される。
【0050】
前記の細胞または製剤を直接注入する容積が十分に大きくて、髄核に過度の圧力をかける懸念を生じさせるならば、前記間葉幹細胞を投与する(即ち、直接注入を行う)前、該髄核の少なくとも一部分を除去することが好ましい。幾つかの具体例において、除去される髄核の容積は、注入すべき製剤の容積に実質的に類似する。例えば、除去される髄核の容積は、注入すべき製剤の容積の約80〜120%以内である場合がある。加えて、この処置は、幾らかの変性椎間板が患者から少なくとも部分的に除去されるという追加の利点を有する。
【0051】
前記間葉幹細胞を前記髄核の中に注入する場合、配送される薬物(即ち、成長媒体(growth medium)またはキャリアの中に懸濁している細胞の製剤)の容積は、成長媒体またはキャリアの中に懸濁している細胞を含み約0.5ml〜約3.0mlの間であるのが望ましい。これらより少ない量で注入される場合、添加された容量または置換された量では、該髄核中に適切な圧力増大が生じないものと思われる。配送されるべき薬物の容積を決定する場合に考慮される因子には、椎間板の大きさ、除去される椎間板の量、および成長媒体またはキャリアの中の間葉幹細胞の濃度が包含される。
【0052】
本発明は、それの好ましい具体例を参照しながら詳細に示し記述してきたが、当業者は、添付の特許請求の範囲に含まれる本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の形態と細部とにおける様々な変更を行うことができるものと思われる。
【0053】
〔実施の態様〕
(1)髄核を有する椎間板の椎間板変性症を処置する方法であって、
変性椎間板の中に未培養の自己由来細胞を投与する段階を含む、方法。
(2)実施態様1記載の方法であって、
前記細胞は、前記椎間板の中に投与する前、濃縮する、方法。
(3)実施態様2記載の方法であって、
前記細胞は、遠心分離法によって濃縮する、方法。
(4)実施態様2記載の方法であって、
前記細胞は、濾過によって濃縮する、方法。
(5)実施態様1記載の方法であって、
前記細胞は、キャリアを用いて、前記椎間板の中に投与する、方法。
(6)実施態様5記載の方法であって、
前記キャリアは、ビーズ、マイクロスフェア、ナノスフェア、ヒドロゲル、ゲル、ポリマー、セラミックス、コラーゲンおよび血小板ゲルから成る群から選ぶ、方法。
(7)実施態様1記載の方法であって、
追加治療薬を、前記椎間板の中に投与する、方法。
(8)実施態様7記載の方法であって、
前記追加治療薬は、成長因子、分化因子および栄養補給剤から成る群から選ぶ、方法。
(9)実施態様8記載の方法であって、
前記追加治療薬は成長因子である、方法。
(10)実施態様7記載の方法であって、
キヤリアを用いて、前記追加治療薬と前記細胞とを前記椎間板の中に投与する、方法。
(11)実施態様10記載の方法であって、
前記キヤリアは、ビーズ、マイクロスフェア、ナノスフェア、ヒドロゲル、ゲル、ポリマー、セラミックス、コラーゲンおよび血小板ゲルから成る群から選ぶ、方法。
(12)実施態様7記載の方法であって、
前記細胞を前記椎間板の中に投与するのと同時に、前記追加治療薬を投与する、方法。
(13)実施態様7記載の方法であって、
前記細胞を前記椎間板の中に投与する前に、前記追加治療薬を投与する、方法。
(14)実施態様7記載の方法であって、
前記細胞を前記椎間板の中に投与した後に、前記追加治療薬を投与する、方法。
(15)実施態様1記載の方法であって、
前記細胞は、約0.5ml〜約10mlの間の容量を有する製剤にして、前記椎間板の中に投与する、方法。
(16)実施態様10記載の方法であって、
前記キヤリアは、ヒドロゲルを含有する、方法。
(17)実施態様10記載の方法であって、
前記キヤリアは、マイクロスフェアを含有する、方法。
(18)実施態様1記載の方法であって、
前記追加治療薬はTGF−βである、方法。
(19)実施態様1記載の方法であって、
前記追加治療薬は血小板濃縮物である、方法。
(20)実施態様1記載の方法であって、
前記細胞は、前記椎間板の髄核の中に投与する、方法。
(21)実施態様1記載の方法であって、
前記細胞は、前記椎間板の線維輪の中に投与する、方法。
(22)実施態様1記載の方法であって、
前記細胞を前記椎間板の中に投与する前、前記髄核の一部分を除去する、方法。
(23)実施態様1記載の方法であって、
前記細胞は、針を通して投与する、方法。
(24)実施態様23記載の方法であって、
前記針は、約24ゲージの最大ゲージを有する、方法。
(25)実施態様1記載の方法であって、
前記細胞は、間葉幹細胞、軟骨細胞および線維芽細胞から成る群から選ぶ、方法。
(26)実施態様1記載の方法であって、
前記細胞は、間葉幹細胞を含有する、方法。
(27)椎間板変性症を処置するための製剤であって、
a)未培養の自己由来間葉幹細胞と、
b)追加治療薬と、
を含み、
前記製剤は、変性椎間板の中に投与するのに適した量で存在している、製剤。
(28)実施態様27記載の製剤であって、
前記間葉幹細胞は、濃縮された形態で提供されている、製剤。
(29)実施態様27記載の製剤であって、
前記追加治療薬は、成長因子である、製剤。
(30)実施態様27記載の製剤を変性椎間板に投与するための装置であって、
a)前記製剤が入っている室と、
b)前記製剤を前記椎間板に投与するように構成された配送用開口部と、
を備えている、装置。
(31)実施態様1記載の方法であって、
前記製剤は、約1ml未満の量で投与する、方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎間板変性症を処置するための製剤であって、
a)未培養の自己由来間葉幹細胞と、
b)追加治療薬と、
を含み、
前記製剤は、変性椎間板の中に投与するのに適した量で存在している、製剤。
【請求項2】
請求項1記載の製剤であって、
前記間葉幹細胞は、濃縮された形態で提供されている、製剤。
【請求項3】
請求項1記載の製剤であって、
前記追加治療薬は、成長因子である、製剤。
【請求項4】
請求項1記載の製剤を変性椎間板に投与するための装置であって、
a)前記製剤が入っている室と、
b)前記製剤を前記椎間板に投与するように構成された配送用開口部と、
を備えている、装置。
【請求項5】
髄核を有する椎間板の椎間板変性症を処置する方法であって、
変性椎間板の中に未培養の自己由来細胞を投与する段階を含む、方法。

【公表番号】特表2007−511515(P2007−511515A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539804(P2006−539804)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【国際出願番号】PCT/US2004/037500
【国際公開番号】WO2005/049055
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(504003396)デピュイ・スパイン・インコーポレイテッド (75)
【氏名又は名称原語表記】DePuy Spine,Inc.
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive,Raynham,MA 02767,U.S.A.
【Fターム(参考)】