説明

細胞を精製する方法

【課題】幹細胞及びその前駆体即ち前駆細胞の実質的に均一な集団の精製に関し、具体的には、神経幹細胞(NSC)の集団を提供し、哺乳動物を含む動物における中枢神経系と関連する組織などの組織の修復又は再生のためのNSC及び/又は前駆細胞の使用を意図する細胞の精製方法を提供する。
【解決手段】組織破砕処理にかけてNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲のサイズに収まる細胞の集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を幹細胞表面マーカー識別処理にかけて、表現型がPNAloHSAloである実質的に均一な神経幹細胞の集団を作成する工程を含む方法により調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に均一な未分化細胞集団を生産する方法に関する。より具体的には、本発明は幹細胞及びその前駆体即ち前駆細胞の実質的に均一な集団の精製に関する。更に具体的には、本発明は神経幹細胞(NSC)の集団を提供する。本発明は、哺乳動物などの動物における中枢神経系の発生、維持又は修復に必要な細胞及び細胞系統に分化する能力を持つNSC及び前駆細胞に特に向けられている。本発明は更に、増殖でき、ニューロン、希突起神経膠細胞、グリア並びに星状細胞など、これらに限定されないが、の多数の細胞系統に増殖及び分化できる、NSC及び前駆体及び/又は前駆細胞に向けられている。本発明は更に、哺乳動物を含む動物における中枢神経系と関連する組織などの組織の修復又は再生のためのNSC及び/又は前駆細胞の使用を意図する。本発明のNSCは、サイトカインなどの自然発生する分子、並びに自然産物のスクリーニング又はNCSの増殖を誘発する化合物ライブラリーのスクリーニングから得られる分子を同定するのに用いても良い。このような分子は治療法の開発に有益である。
【背景技術】
【0002】
本明細書における先行技術の参照は、その先行技術がどの国においても共通する一般知識の一部を形成することを認識、又は示唆するものではなく、そのように解釈されるべきでもない。
【0003】
幹細胞は、増殖及び自己維持ができ、広範囲の機能的な分化した子孫を形成する能力及び可能性を有し、傷害後に組織の再生を開始する刺激に応答することができる未分化の細胞である。胚形成の間及び誕生後、幹細胞は血球及び皮膚細胞などの最終にまで分化した細胞の高い代謝回転率を持つ組織に存在する。幹細胞はまた、代謝回転率が小さい分化細胞を持つ組織にも存在することも分かっている。低い代謝回転率を示す哺乳動物組織の1例は、成熟哺乳動物の中枢神経系又は中枢神経系(CNS)である[非特許文献1〜4]。
【0004】
成熟した動物又はヒトでの幹細胞の推定上の役割は、自然な細胞死、傷害又は疾病によって失われる細胞を補充することである。今日まで、欠損した又は損傷を受けた器官又は組織を修復する処置は主に、同種移植及び、同種移植した( allographed)物質が移植者に適合しなかった場合に生じる免疫反応を低減するために医薬化合物を投与することにより実現されてきた。近年、組織移植という概念は多くの疾患の治療に適用されている。同種移植の工程において、器官はまるごと取替えるか移植するか、皮膚移植などのように組織の小片を移植するかのいずれかであって良い。より最近では、多能性幹細胞を同種移植に使用することが提案されている。この種の同種移植戦略では、特定の組織型に分化する能力を有する幹細胞が受容者に移植される。
【0005】
一般的に、幹細胞は次いで、周囲の組織からのシグナル又はその他の形の刺激を受けて最終的に成熟細胞に分化する。このような工程では、特定の経路に沿って所望の成熟細胞に発達する能力を持つ幹細胞を単離する必要がある。これを達成するためには、多数の胚幹細胞を単離する必要がある。一般的に大量の幹細胞が必要である。十分な数の幹細胞の適切な供給源は、胚及び/又は成熟体の供給源から取得できる。しかしながら、現在の幹細胞の培養プロトコルは厄介で、組織の交換療法で求められる十分な数の肝細胞を調達できないことがしばしばある。実際、造血性肝細胞は培養で増やすことができない。NSCは確かに培養で増える能力があるが、本発明が登場するまではNSCの均一集団を用いて培 養を開始することはできなかった。こうして、幹細胞による組織交換療法の発展には、既知の経路に沿って分化する幹細胞を適当な量で単離し培養する能力が求められる。
【0006】
受精卵はそこから他の全ての細胞系統が派生する究極の幹細胞である。発生が進行するにつれ、初期の胚細胞は細胞が発生的成熟に達するまで細胞の発生能力を徐々に狭める成長シグナル及び分化シグナルに反応し、最終分化型となる。これらの最終分化細胞は特化した機能及び特性を有し、ある特定の細胞への前駆細胞分化の多段階工程の最終段階を表す。細胞分化のある段階から次の段階への移行は、成熟に達するまで細胞分化の進行を徐々に制御する特異的な生化学的メカニズムによって支配される。組織及び細胞の分化が、最終分化状態に達するまで特殊な段階をたどる段階的な過程であることは明らかである。従って幹細胞は、通常な生命過程であろうと傷害若しくは損傷に応答してであろうと、組織の維持に使用できる未分化細胞の供給源を表している。
【0007】
幹細胞及び前駆細胞並びに所望の分化表現型を供給できるであろう最終まで分化していない分化細胞の拡大貯蔵は、組織置換を含む療法において大きな価値があるであろう。細胞置換療法を臨床分野で広く適用できるようにするためには、相当な努力で特定の細胞型に分化できる補充幹細胞に適切な量の供給という問題に取り組まなければならない。
【0008】
CNSの発生の間、多能性前駆細胞、即ちNSCは増殖し、成熟脳を構成する細胞型に最終的に分化する前駆細胞の一時的な分裂を生じる。一部のNSCも造血細胞及び筋細胞を生じる能力を有することが示された(非特許文献5〜6)。NSCは古典的には自己再生能力、増殖能力を持つと定義され、ニューロン、星状細胞、及び希突起神経膠細胞を含む複数の異なる表現型系統に分化することが示された。NSC活性は、マウス、ラット、非ヒト霊長類及びヒトを含む今日までに研究された哺乳動物種全てから検出された。
【0009】
多能性NSCを取得し培養する方法は以前に記載されているが、その結果得られた細胞集団についての主な問題は、それらから得られるNSCのパーセンテージが極めて低いことである。重要なことは、得られた細胞集団は混合物であり、他の細胞型を含んでいることである。このような細胞集団は、移植に用いられるのであればNSCの割合を増やすために複雑な濃縮を行う必要があるであろう。しかしながら、このような培養手順は多様な分化特性を有する集団中で混ざった細胞に異質性が存在するものを扱わない。通常は、神経組織から得られる細胞の0 .1%未満が多能性幹細胞である。従って、均一性に向けてこれらの多様性幹細胞の精製を可能にする方法が明らかに必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】レイノルズ,B.A.及びワイス,S., Science 255: 1707-1710,1992。
【非特許文献2】リチャーズら, Natl. Acad. Sci. USA89: 8591-8595,1992。
【非特許文献3】マッケイ,R., Science 276: 66-71,1997。
【非特許文献4】ゲージ,F.H., Science 287: 1433-1438,2000。
【非特許文献5】クラーク,D.L., Science 288: 1660-1663,2000。
【非特許文献6】ビョーンソンら、 Science 283: 534-537,1999。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明に至るまでの研究では、本発明者らは未分化細胞、特に幹細胞、更に具体的にはNSCの実質的に均一な集団を単離する方法を提供しようと努力した。本発明者らは、NS Cの集団を実質的に均一なものに精製するために、細胞の大きさに基づいて細胞を分類する方法と組み合わせて細胞表面マーカーを利用した。驚いたことに、本発明者らは極めて均一なNSCの集団が哺乳動物脳組織から単離できることを確定した。更に、本発明者らはNSCを増殖させそして成熟した細胞系統に分化する能力を保持するNSCの高度に均一な集団を形成させるプロトコル及び方法を開発した。従って、本発明は精製した形で未分化細胞を生産するという困難さを克服する。本発明の均一な細胞集団は、損傷及び/又は機能障害を受けた組織の修復及び置換による治療上のアプローチにおける移植方法、組織の増強、治療用サイトカインの送達を含む遺伝子分子及びタンパク質性分子の送達、その阻害因子を含む分化及び/又は増殖を制御する因子の同定、及び診断上及び治療上のマーカーの同定を含む様々な状況に有用である。更に、NSC集団を同定し精製することにより、どの因子(単数又は複数)が生体位でNSCの増殖特性、自己維持特性及び分化特性を調節し、それによりドナー細胞の移植の必要性を克服するかを判断できる。NSCの生体位での活性化は、大手術及び組織拒絶の問題を回避するという点で、移植療法に優る大きな利点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本明細書を通じて、論旨が別意を要求しない限り、語「含む( comprise)」、又はその変化形である「含む( comprises)若しくは「含む( comprising)」などは、述べられた要素若しくは整数又は要素若しくは整数の群を含むことを意味するが他の如何なる要素若しくは整数又は要素若しくは整数の群の排除を意味するものではないと解する。
【0013】
ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は配列同定子の番号(配列番号:)により引用する。配列番号:は配列同定子<400>1(配列番号:1)、<400>2(配列番号:2)などに数字で対応する。配列表は特許請求の範囲の後に添付する。
【0014】
本発明は、複数の成熟細胞系統に分化できる幹細胞などの未分化細胞の実質的に均一な集団の精製に関する。とりわけ、本発明は変性した組織の置換又は修復のための移植戦略に用いられるNSCを提供する。均一な幹細胞集団を今生産することができることは更に、インビボで幹細胞の増殖、分化及び自己維持を刺激するのに用いられうる因子の同定を可能にする。本発明は特に、動物、哺乳動物及びヒトの中枢神経系と関連する組織の発生、維持又は修復に必要な細胞及び細胞系統に分化する能力を持つNSC及び神経前駆体及び神経前駆細胞に向けられている。本発明は更に、CNSの機能細胞を構成する別々の機能を持つ子孫に増殖及び分化できるNSCの精製法を供する。本発明のNSCに由来する細胞型はニューロン、希突起神経膠細胞、グリア及び星状細胞を含むがこれらに限定されない。細胞型はまた、他の非神経細胞の中でも骨髄細胞を含む。本発明は更に、CNSと関連する組織の修復又は再生のためのNSCの使用、並びに組織の増強、動物又はヒトを対象とした遺伝子治療及び治療のための薬物標的化におけるNSCの使用を意図する。本発明のNSC及びその前駆体又先駆物質は更に、動物又は人などの哺乳動物の組織の修復及び/又は再生のための方法において有用である。本発明は更に、動物又はヒトなどの哺乳動物におけるNSCの移植及び分化に有用である。本発明は、神経変性障害の予防及び治療のための方法、及び神経性機能障害及び/又は外傷を矯正する方法を供する。更に、本発明に従って調製したNSC培養は、幹細胞の発育及び分化に影響を与え得る分子のスクリーニングに有用である。このような分子を内因性活性化因子と称する。内因性活性化因子を使用すると、幹細胞を被験体に移植する必要性が回避される。
【0015】
従って、本発明は部分的に、実質的に均一な未分化細胞の集団を作成する方法の開発に基づいている。未分化細胞には、複数の細胞系統に分化及び増殖でき、自己再生できる神経組織から単離できる始原細胞が含まれる。
【0016】
従って、本発明は生体試料から実質的に均一な未分化細胞の集団を作成する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織破壊処理にかけて精製対象の未分化細胞を含む混合集団を得る工程、該細胞混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が特定範囲の大きさに収まる細胞集団を形成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて未分化細胞の実質的に均一な集団を作る工程を含む方法を意図する。
【0017】
より具体的には、本発明は生体試料から多能性NSCの実質的に均一な集団を作成する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織破壊処理にかけて精製対象のNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が特定範囲の大きさに収まる細胞集団を形成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて未分化細胞の実質的に均一な集団を作る工程を含む方法を供する。
【0018】
本発明の別の一側面は、NSCを含んでも含まなくてもよい特定の細胞集団を特徴付け及び/又は選択するために、細胞表面タンパク質及び内部タンパク質及び核酸マーカーを用いる。本質的に、これらの三つの細胞集団は、熱安定性抗原(HSA)及びピーナッツ凝集素(PNA)のレベルに基づいて特徴付けられる。低レベルのHSA及びPNA(即ち、HSAloPNAlo)を持つ集団は本質的に全てのNSCを含む。高レベルのHSAと低レベルのPNA(即ち、HSAhiPNAlo)を含む集団は一部の前駆細胞を含む。表現型がHSAloPNAhi又はHSAhiPNAhiである集団は分化した細胞を含む。
【0019】
実質的に均一なNSC集団(即ち表現型としてはHSAloPNAlo)は、EphA4、TrkA、TrkC、LIFRβ、ζ1、SOCS2、SOCS3、Pax6、Tbr1、Plx2、SCL、Bcrp1及びSca−1を欠いたものとして、且つ低減したレベルのp75及びTrbβを持つものとして、及びDCC、ネオゲニン、Notch1、2、3、Dlx1及びSox2を発現するものとして、更に特徴付けられることがある。
【0020】
細胞のレベルが低いときに表現型がHSAloPNAloである他の有益なHSAloPNAlo マーカーには、CD3e、CD4、CD8a、CD11b、CD19、CD24(HSAと等価)、mcD30.1、CD1、CD34、CD41、CD45RA、CD45RB 、CD45RC、CD45RO、CD89、CD90.2、CD99R、CD117、C D135、H−2Kb及びSca−1が含まれる。
【0021】
本発明は、ニューロンなどの神経細胞になる定めにあるNSCを同定する。従って本発明は、本NSCに作用して特定の神経細胞への増殖及び/又は分化を容易にする、如何なる薬物即ち自然に生ずる分子又は自然に生じない分子にも及ぶ。
【0022】
本明細書で用いられる省略形の一覧を表1に挙げる。
【0023】
【表1】

【0024】
本明細書を通して用いられる配列同定子を表2に掲載する。
【0025】
【表2】

【0026】
【表2−1】

【0027】
【表2−2】

【0028】
【表2−3】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1A】図1Aは、前方散乱光(<7μm、7〜12μm、及び>12μm)及びPNA発現(PNAloボックス、PNAmidボックス及びPNAhiボックス)による生細胞のFACS選別を示すドットプロットのグラフ表示である。
【図1B】図1Bは、PNA発現及びHSA発現による生細胞のFACS選別(>12μm又は90単位)を示すドットプロットのグラフ表示である。ゲート領域はPSAloHSAlo細胞を示す。
【図1C】図1Cは、図1Bで示したゲート領域のPSAloHSAlo細胞のFACS等高線プロットを示すグラフ表示である。
【図2A】図2Aは、PNA発現及びHSA発現による生細胞のFACS選別(>12μm又は90単位)を示すドットプロットのグラフ表示である。これらの細胞は、図2Bで用いたクエルコフ(querkoph)突然変異マウスと比較して個々の野生型の同腹子対象マウスから採取した。ゲート領域内の値は、全体の生細胞数に対するこの領域内に含まれる細胞のパーセンテージを示す。例えば、PNAloHSAlo細胞は生細胞全体の0 .28%を示すが、PNAloHSAmid-hi細胞は1.43%を示す。
【図2B】図2Bは、PNA発現及びHSA発現による生細胞のFACS選別(>12μm又は90単位)を示すドットプロットのグラフ表示である。これらの細胞は個々のクエルコフ突然変異マウスから採取した。ゲート領域内の値は、全体の生細胞数に対するこの領域内に含まれる細胞のパーセンテージを示す。例えば、PNAloHSAlo細胞は全体の生細胞の0.05%を表すが、一方PNAloHSAmid-hi細胞は1.21%を示す。
【図3A】図3は、未分化神経細胞型(神経球)及び分化神経細胞型及び筋細胞型を生じるPNAloHSAlo成体NSCの写真表示である。単一のPNAloHSAlo細胞は、増殖して神経球[3A]を形成する。その子孫には、分化条件[3B]に移された場合、ニューロン(赤色、β−III −チューブリン)及び星状細胞(青色、GFAP)及び希突起神経膠細胞(緑色、04)が含まれる。C2C12細胞と共培養した場合、新たに単離したGFP+vePNAloHSAloのNSCは、紡錘様の形態をとり[3C〜D]、しばしば筋細胞を連想させる多数のDAPI+ve核を所有する([3D]矢印)。NSCの筋原性への転換は、GFP+ve核及び細胞質を含む抗MyHC発達性−([3E]赤)、抗−α−アクチニン2−([3F]赤)及び抗2型高速MyHC−([3G、H]赤)免疫反応性細胞により確認した。殆どの場合、免疫染色法は細胞質GFPの強度を検出可能レベル以下に減少させ、従ってGFP発現は主に核内で見られた。バー:(a)=80μm、(b、c、g)=40μm、(d)=20μm、(e、h)=10μm及び(f)=15μm。この写真のカラー版は特許権者から入手できる。
【図3B】図3は、未分化神経細胞型(神経球)及び分化神経細胞型及び筋細胞型を生じるPNAloHSAlo成体NSCの写真表示である。単一のPNAloHSAlo細胞は、増殖して神経球[3A]を形成する。その子孫には、分化条件[3B]に移された場合、ニューロン(赤色、β−III −チューブリン)及び星状細胞(青色、GFAP)及び希突起神経膠細胞(緑色、04)が含まれる。C2C12細胞と共培養した場合、新たに単離したGFP+ve PNAloHSAloのNSCは、紡錘様の形態をとり[3C〜D]、しばしば筋細胞を連想させる多数のDAPI+ve核を所有する([3D]矢印)。NSCの筋原性への転換は、GFP+ve核及び細胞質を含む抗MyHC発達性−([3E]赤)、抗−α−アクチニン2−([3F]赤)及び抗2型高速MyHC−([3G、H]赤)免疫反応性細胞により確認した。殆どの場合、免疫染色法は細胞質GFPの強度を検出可能レベル以下に減少させ、従ってGFP発現は主に核内で見られた。バー:(a)=80μm、(b、c、g)=40μm、(d)=20μm、(e、h)=10μm及び(f)=15μm。この写真のカラー版は特許権者から入手できる。
【図3C】図3は、未分化神経細胞型(神経球)及び分化神経細胞型及び筋細胞型を生じるPNAloHSAlo成体NSCの写真表示である。単一のPNAloHSAlo細胞は、増殖して神経球[3A]を形成する。その子孫には、分化条件[3B]に移された場合、ニューロン(赤色、β−III −チューブリン)及び星状細胞(青色、GFAP)及び希突起神経膠細胞(緑色、04)が含まれる。C2C12細胞と共培養した場合、新たに単離したGFP+ve PNAloHSAloのNSCは、紡錘様の形態をとり[3C〜D]、しばしば筋細胞を連想させる多数のDAPI+ve核を所有する([3D]矢印)。NSCの筋原性への転換は、GFP+ve核及び細胞質を含む抗MyHC発達性−([3E]赤)、抗−α−アクチニン2−([3F]赤)及び抗2型高速MyHC−([3G、H]赤)免疫反応性細胞により確認した。殆どの場合、免疫染色法は細胞質GFPの強度を検出可能レベル以下に減少させ、従ってGFP発現は主に核内で見られた。バー:(a)=80μm、(b、c、g)=40μm、(d)=20μm、(e、h)=10μm及び(f)=15μm。この写真のカラー版は特許権者から入手できる。
【図3D】図3は、未分化神経細胞型(神経球)及び分化神経細胞型及び筋細胞型を生じるPNAloHSAlo成体NSCの写真表示である。単一のPNAloHSAlo細胞は、増殖して神経球[3A]を形成する。その子孫には、分化条件[3B]に移された場合、ニューロン(赤色、β−III −チューブリン)及び星状細胞(青色、GFAP)及び希突起神経膠細胞(緑色、04)が含まれる。C2C12細胞と共培養した場合、新たに単離したGFP+ve PNAloHSAloのNSCは、紡錘様の形態をとり[3C〜D]、しばしば筋細胞を連想させる多数のDAPI+ve核を所有する([3D]矢印)。NSCの筋原性への転換は、GFP+ve核及び細胞質を含む抗MyHC発達性−([3E]赤)、抗−α−アクチニン2−([3F]赤)及び抗2型高速MyHC−([3G、H]赤)免疫反応性細胞により確認した。殆どの場合、免疫染色法は細胞質GFPの強度を検出可能レベル以下に減少させ、従ってGFP発現は主に核内で見られた。バー:(a)=80μm、(b、c、g)=40μm、(d)=20μm、(e、h)=10μm及び(f)=15μm。この写真のカラー版は特許権者から入手できる。
【図3E】図3は、未分化神経細胞型(神経球)及び分化神経細胞型及び筋細胞型を生じるPNAloHSAlo成体NSCの写真表示である。単一のPNAloHSAlo細胞は、増殖して神経球[3A]を形成する。その子孫には、分化条件[3B]に移された場合、ニューロン(赤色、β−III −チューブリン)及び星状細胞(青色、GFAP)及び希突起神経膠細胞(緑色、04)が含まれる。C2C12細胞と共培養した場合、新たに単離したGFP+ve PNAloHSAloのNSCは、紡錘様の形態をとり[3C〜D]、しばしば筋細胞を連想させる多数のDAPI+ve核を所有する([3D]矢印)。NSCの筋原性への転換は、GFP+ve核及び細胞質を含む抗MyHC発達性−([3E]赤)、抗−α−アクチニン2−([3F]赤)及び抗2型高速MyHC−([3G、H]赤)免疫反応性細胞により確認した。殆どの場合、免疫染色法は細胞質GFPの強度を検出可能レベル以下に減少させ、従ってGFP発現は主に核内で見られた。バー:(a)=80μm、(b、c、g)=40μm、(d)=20μm、(e、h)=10μm及び(f)=15μm。この写真のカラー版は特許権者から入手できる。
【図3F】図3は、未分化神経細胞型(神経球)及び分化神経細胞型及び筋細胞型を生じるPNAloHSAlo成体NSCの写真表示である。単一のPNAloHSAlo細胞は、増殖して神経球[3A]を形成する。その子孫には、分化条件[3B]に移された場合、ニューロン(赤色、β−III −チューブリン)及び星状細胞(青色、GFAP)及び希突起神経膠細胞(緑色、04)が含まれる。C2C12細胞と共培養した場合、新たに単離したGFP+ve PNAloHSAloのNSCは、紡錘様の形態をとり[3C〜D]、しばしば筋細胞を連想させる多数のDAPI+ve核を所有する([3D]矢印)。NSCの筋原性への転換は、GFP+ve核及び細胞質を含む抗MyHC発達性−([3E]赤)、抗−α−アクチニン2−([3F]赤)及び抗2型高速MyHC−([3G、H]赤)免疫反応性細胞により確認した。殆どの場合、免疫染色法は細胞質GFPの強度を検出可能レベル以下に減少させ、従ってGFP発現は主に核内で見られた。バー:(a)=80μm、(b、c、g)=40μm、(d)=20μm、(e、h)=10μm及び(f)=15μm。この写真のカラー版は特許権者から入手できる。
【図3G】図3は、未分化神経細胞型(神経球)及び分化神経細胞型及び筋細胞型を生じるPNAloHSAlo成体NSCの写真表示である。単一のPNAloHSAlo細胞は、増殖して神経球[3A]を形成する。その子孫には、分化条件[3B]に移された場合、ニューロン(赤色、β−III −チューブリン)及び星状細胞(青色、GFAP)及び希突起神経膠細胞(緑色、04)が含まれる。C2C12細胞と共培養した場合、新たに単離したGFP+ve PNAloHSAloのNSCは、紡錘様の形態をとり[3C〜D]、しばしば筋細胞を連想させる多数のDAPI+ve核を所有する([3D]矢印)。NSCの筋原性への転換は、GFP+ve核及び細胞質を含む抗MyHC発達性−([3E]赤)、抗−α−アクチニン2−([3F]赤)及び抗2型高速MyHC−([3G、H]赤)免疫反応性細胞により確認した。殆どの場合、免疫染色法は細胞質GFPの強度を検出可能レベル以下に減少させ、従ってGFP発現は主に核内で見られた。バー:(a)=80μm、(b、c、g)=40μm、(d)=20μm、(e、h)=10μm及び(f)=15μm。この写真のカラー版は特許権者から入手できる。
【図3H】図3は、未分化神経細胞型(神経球)及び分化神経細胞型及び筋細胞型を生じるPNAloHSAlo成体NSCの写真表示である。単一のPNAloHSAlo細胞は、増殖して神経球[3A]を形成する。その子孫には、分化条件[3B]に移された場合、ニューロン(赤色、β−III −チューブリン)及び星状細胞(青色、GFAP)及び希突起神経膠細胞(緑色、04)が含まれる。C2C12細胞と共培養した場合、新たに単離したGFP+ve PNAloHSAloのNSCは、紡錘様の形態をとり[3C〜D]、しばしば筋細胞を連想させる多数のDAPI+ve核を所有する([3D]矢印)。NSCの筋原性への転換は、GFP+ve核及び細胞質を含む抗MyHC発達性−([3E]赤)、抗−α−アクチニン2−([3F]赤)及び抗2型高速MyHC−([3G、H]赤)免疫反応性細胞により確認した。殆どの場合、免疫染色法は細胞質GFPの強度を検出可能レベル以下に減少させ、従ってGFP発現は主に核内で見られた。バー:(a)=80μm、(b、c、g)=40μm、(d)=20μm、(e、h)=10μm及び(f)=15μm。この写真のカラー版は特許権者から入手できる。
【図4】図4は成人の脳室周囲領域から採取したCNS細胞のFACS選別を示すドットプロットのグラフ表示である。細胞は前方散乱光(0〜80、80〜120、>120単位)に基づいて選別する。幹細胞活性はR3(領域3)に限定される。総細胞のパーセンテージを下に記す。
【図5A】図5は成人の脳室周囲領域から採取した生CNS細胞のFACS選別を表すドットプロットのグラフ表示である。(A)相棒は前方散乱光(>100単位)及びPNA結合能力に基づいて選別する。マウス幹細胞とは異なり、成人の幹細胞活性はR2(領域2)に限定される。>100単位である生細胞を選別する場合FSCはPNA結合及びHSA発現に基づいている。
【図5B】図5は成人の脳室周囲領域から採取した生CNS細胞のFACS選別を表すドットプロットのグラフ表示である。(B)本発明者らはR5から採取することにより幹細胞活性を濃縮できる。R3の細胞は幹細胞活性がなく、一方、R4の細胞は殆どが分化した神経細胞型を含む。総細胞のパーセンテージを下に記す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、部分的に未分化細胞の実質的に均一な集団を生産する方法の開発に基づいている。未分化細胞には、自己再生だけでなく複数の細胞型又は複数の細胞系統に分化及び増殖できる少能性( oligopotent)細胞又は多能性( pluripotent)細胞が含まれる。好ましい未分化細胞はNSCである。
【0031】
本発明は、動物又はヒトなどの哺乳動物において組織の修復、再生及び/又は増強する方法におけるNSC及びその子孫の使用を更に意図する。このようなアプローチには、細胞の変性及び老化の遅延が含まれる。本発明は更に、神経変性障害を予防及び治療するため、及び神経性機能障害及び/又は外傷を矯正するための、動物又はヒトなどの哺乳動物におけるNSCの移植又は分化に向けられている。幹細胞又はその前駆物質の精製された標品を生産できれば、細胞の増殖及び/又は分化に影響を与え又はそうでなければ容易にする分子及び化合物及び遺伝子因子をスクリーニングできるようになる。とりわけ本発明は、幹細胞の成長、増殖及び/又は分化に影響を与えることができる分子をスクリーニングするための、精製した幹細胞の使用を提供する。このような分子は幹細胞の増殖及び分化を可能にし、それにより培養中に細胞を増殖しそれを被験体に移植する必要性を回避する。更に、精製した幹細胞は抗体を含むリガンドと相互作用できる細胞表面マーカーの同定を可能にする。このようなマーカーは、幹細胞及び/又は治療プロトコルの有効性をモニターするのに有益である。重要なことには、本発明は神経細胞になる定めにあるNSCの集団を同定する。従って本発明は、これらの細胞に作用して増殖及び/又は更なる分化を容易にする何らかの薬物又は物質に及ぶ。
【0032】
本明細書で言う細胞の「集団」とは二つ以上の細胞を意味する。「均一な細胞」とは実質的に一つの細胞型のみを含む集団を意味する。「細胞型」とは同じ系統の又は実質的に同じ生理学的状態を有する亜類型の細胞であっても良い。
【0033】
従って、本発明は生体試料から未分化細胞の実質的に均一な集団を産生する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて精製対象の未分化細胞を含む混合集団を得る工程、該細胞混合集団をサイズ識別処理にかけ、実質的に全ての細胞が特定範囲の大きさに収まる細胞集団を形成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて未分化細胞の実質的に均一な集団を作成する工程を含む方法を意図する。
【0034】
これらの未分化細胞は神経幹細胞(NSC)であることが好ましい。
【0035】
本明細書の「実質的に均一な集団」とは、細胞総集団のうちの相当の数が同じタイプ及び/又は同じ分化状態にある細胞集団を指す。未分化細胞の「実質的に均一な集団」は、少なくとも約50%が同じ細胞型である細胞集団を含むのが好ましく、少なくとも約75% が同じ細胞型であるのが更に好ましく、85%が同じ細胞型であるのがさらに好ましく、細胞の少なくとも95%が同じ型であるのがもっと好ましく、97%(例えば、98%、99%又は100%)が同じ細胞型であるのが更にもっと好ましい。
【0036】
用語「組織破砕処理」は、組織の結合細胞外基質(ECM)からの個々の細胞の解離を含む。単一細胞の懸濁液を作成することが好ましい。個々の細胞は最小サイズが約5から約50ミクロンまで又は約7から約30ミクロンまで又は約7から約20ミクロンまでであるのことが好ましい。該細胞は約12ミクロンより大きいことが最も好ましい。
【0037】
「未分化」とは、分化及び増殖して生理学的、生化学的、形態学的、解剖学的、免疫学的、生理学的又は遺伝的に原始状態とは異なり得る子孫細胞を生産できる単一又は複数の細胞の始原状態を意味する。上で述べたとおり、好ましい未分化細胞は幹細胞であり、複数の細胞系統を生ずることができ、分化及び増殖でき、自己再生できるNSCsは更に好ましい。最も好ましいNSCは神経細胞を生ずる。NSCは、多能性NSC、又は非多能性NSC、又はその両者の混合であって良い。
【0038】
「生体試料」は、上皮組織、肝臓組織、筋組織、脂肪組織、結合組織、骨髄、血液又は神経組織などの組織または器官であるが、これらに限定しない。「部分試料」とは、生体組織検査、又は器官若しくは組織の一部分などの、組織の一部である場合がある。細胞のインビトロ培養も生体試料とみなされる。
【0039】
本発明の別の実施態様では、生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて未分化細胞を含む混合集団を得る工程、該細胞混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が特定範囲の大きさに収まる細胞集団を形成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を未分化細胞表面マーカー識別処理にかけて未分化細胞の実質的に均一な集団を生産する工程を含む方法によって調製した未分化細胞の実質的に均一な集団を提供する。
【0040】
上で用いた及び本明細書の他の箇所で用いる用語「含む」は、細胞の混合集団が、他の潜在能力のある細胞型の中でも特に、未分化細胞を含むことを意味する。
【0041】
逐次的及び/又は同時とは、同じ時に(即ち、同時)又は数マイクロセカンド、数秒、数分、数時間又は数日内(即ち、逐次的)を意味する。従って、サイズ識別及び細胞表面マーカー識別は、互いに同時又は数秒、数分、数時間又は数日内に行うことができる。
【0042】
本発明の別の実施態様では、生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけてNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲の大きさに収まる細胞集団を生産する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に実質的に均一なNSC集団を産生するために該集団を幹細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に均一なNSC集団を生産する工程を含む方法によって調製した実質的に均一なNSC集団を提供する。
【0043】
従って本発明は、複数の細胞系統を生じることができる均一なNSC集団を生産する方法を供する。これは遺伝子治療、増強療法、及び老化した神経組織及び非神経組織の修復、補充療法、及び老化遅延療法のための手段を提供する。これは、成長因子、及び内因性細胞の増殖及び/又は分化を促進できる他の物質の同定をも可能にする。
【0044】
従って本発明は、一つの実施態様では、動物における細胞置換療法のための方法であって、生体試料から実質的に均一なNSC集団を産生する工程を含み、且つ、該生体試料若しくはその部分試料を組織破砕処理にかけてNSCを含む混合集団を得る抗体、該細胞混合 集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲の大きさに収まるNSC集団を生産する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に均一なNSC集団を生産する工程、次いで該均一な細胞集団を上述の同じ動物又は該NSCを受容できる動物に導入する工程を含む方法を提供する。
【0045】
本明細書で言う「細胞置換療法」は、未分化細胞を戦略的にインビボ又はインビトロに配置してある特定の細胞系統又は複数の細胞系統に分化させ増殖させるプロセスを一つの形で含む。従って、細胞置換療法では、未分化細胞が器官若しくは組織の置換を含め細胞機能の修復、再生及び置換を提供するために適切に分化することが求められる。「細胞置換療法」には増強療法も含まれる。後者には既存の細胞又は組織を取り出し、培養で増殖させ、次いで置換する工程を含む。これは、1個又は少数のNSCが培養で多数のNSCに増殖できる本発明の格別の利点である。これは培養で増殖できない造血幹細胞の特性ではない。精製した幹細胞又はその子孫が「細胞置換療法」又は組織の修復の目的で移植される被験体、又は幹細胞がそれに由来する被験体は、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどを含む動物であるのが好ましいがこれらに限定するものではなく、霊長類などの哺乳動物であるのが好ましく、ヒトが最も好ましい。
【0046】
「組織」とは、類似構造又は類似機能を有する多くの細胞から成る生体の一部を意味する。例えば神経組織は、ニューロン、グリア、希突起神経膠細胞、星状細胞、及び上衣細胞を含むがこれらに限定されない一つ以上の細胞型を含む多数の細胞から成る。本明細書で器官とは組織を含むことを意図し、脳は器官という用語に包含され、部分−試料は神経組織であるがこれに限定されない組織又は脳などであるがこれに限定されない器官の生検材料を含む。
【0047】
本明細書で言う「動物」は、哺乳動物、爬虫類、両生類、魚類又は鳥類、又は家畜動物を指す。この動物は、ヒト又は霊長類などの哺乳動物であることがより好ましい。
【0048】
本発明は実質的に均一なNSC集団を含む、細胞置換療法のための組成物を提供する。
【0049】
NSCは多能性又は少能性であって良く、神経細胞発生に委ねられても良く、又は上記の二つ以上の組み合わせであっても良い。
【0050】
この実施態様では、本発明は細胞置換療法に使用するための組成物であって、該組成物が実質的に均一なNSC集団を生体試料から作成する方法によって調製した実質的に均一なNSCの集団を含み、該方法が該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけてNSCの混合集団を得る工程、該細胞混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲の大きさに収まる細胞集団を生産する工程、サイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を未分化細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に均一なNSC集団を作成する工程を含むものである組成物を提供する。
【0051】
本発明は、細胞の増殖能力を破壊せず、細胞の分化を抑制しないように、最終分化していない細胞又は未分化細胞を精製する方法に向けられている。本明細書で用いるとき、「多能性細胞」とは最終分化していない全ての細胞を意味する。未分化細胞はNSCであることが好ましい。
【0052】
「幹細胞」は、より多くの幹細胞又はより多くの分化した子孫又はより多くの成熟した細胞型を含む(これらに限定されないが)が、一方で親の発生能力( parental development al potential)を持つ一つ以上の細胞をも保持する子孫の増殖及び形成を誘発できる未分化細胞である。言い換えれば、幹細胞は自己再生でき且つ複数の細胞系統に分化できる多 能性細胞である。多くの生物学的事例では、幹細胞は二つ以上の異なる組織型の子孫を生産できるので多能性であると考えられてもいる。幹細胞が自身を自己再生する能力は、本明細書で用いる幹細胞の定義の本質的な側面である。幹細胞は非対称的に分裂して、幹細胞状態を保持する一方の娘細胞と、最初に述べた娘細胞とは異なる特異的な機能及び/又は表現型を発現するもう一方の娘細胞となる。また、集団内の幹細胞の一部は二つの幹細胞に対照的に分裂でき、従って全体としてその集団で同じ幹細胞を維持することができ、一方この集団の他の細胞は分化した子孫のみを生じる。幹細胞として始まった細胞は分化した表現型に進むかも知れないが、次いで逆転して幹細胞表現系を発現することが可能である。幹細胞は、複数の特有の分化経路に沿って分化できる細胞だけでなく、分裂して別の幹細胞を生産できる(即ち、自己再生能力を有する)細胞をも意味する機能上の用語である。分化系統を持つある特定の細胞がより分化程度の少ない親から派生し、さらに分裂してより分化程度の高い細胞子孫を生じ得るということがよくある。本発明の好ましい実施態様では、未分化細胞の集団は幹細胞であり、より好ましくは多能性NSCである。
【0053】
本発明の均一集団内のNSCは生存可能な状態であり、従って様々な治療プロトコル、特にCNS障害の治療において可能性がある。
【0054】
CNS障害は、神経変性病(例えば、アルツハイマー病及びパーキンソン病)、急性脳傷害(例えば、脳卒中、頭部外傷、脳性麻痺)及び多くのCNS機能不全(例えば、鬱病、癲癇、精神分裂)などの多数の苦悩を包含する。近年、神経変性病は、これらの障害の最大のリスクを持つ高齢人口の増加のため、重要な問題となってきた。アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、ハンチントン舞踏症、筋萎縮性側索硬化症及びパーキンソン病を含むこれらの疾病は、これらの細胞又は脳領域が意図する機能を実行できないようにするCNSの特定部位にある神経細胞の変性に結びつけられている。脳幹神経節として知られる脳領域における変性は、正確な部位に応じて、様々な認知症状及び運動症状を持つ疾病を引き起こし得る。脳幹神経節は、線条体 (尾状核及び果核から成る )、淡蒼球、黒質、無名質、腹部淡蒼球、マイネルトの基底核、腹部被蓋野及び視床下部核を含む、多くの別々の領域から成る。NSCの分化は神経組織及び/又は非神経組織の損傷を修復できることが好ましい。多能性NSCは、数ある方法論の中でも、細胞置換療法、組織増強療法、遺伝子治療で用いられることが好ましい。また、NSCの精製培養を用いて同定された成長因子は、インビボで細胞のNSCの増殖及び/又は分化を刺激するために用いられる。
【0055】
従って本発明は、一つの実施態様で、生体試料から実質的に均一なNSC集団を作成する工程を含む、動物の神経組織又は非神経組織を置換する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて該細胞を含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団を細胞サイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲の大きさに収まる細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に均一なNSC集団を生産する工程、次いで該細胞の該実質的に均一な集団を上記の同じ動物か又は該細胞を受容できる動物に導入する工程を含む方法を提供する。
【0056】
用語「動物」は数ある動物の中でも、ヒト、霊長類、家畜動物、実験動物、鳥類及び魚類を含む。
【0057】
好ましい実施態様では、本発明は神経組織置換療法に使用する組成物であって、該組成物が生体試料から実質的に均一なNSC集団を生産する方法によって調製した実質的に均一なNSC集団を含むものであり、該方法が該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて該細胞を含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団を細胞サイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲の大きさに収まる細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に 均一なNSC集団を作成する工程を含むものである組成物を提供する。
【0058】
異なる集団の細胞を含む懸濁液から細胞を精製又は取り出すための細胞単離、細胞分離及び細胞除去(cell purging)戦略は知られている。細胞分離方法は、細胞を単離するため又は細胞懸濁液若しくは細胞集団を浄化するために用いられ、通常三つの広いカテゴリーの一つに分類される。物理的な分離方法は、通常は細胞の大きさや密度など細胞種間の物理的特性上の差異を利用する(例えば、遠心分離法又は懸濁分離法)。化学物質に基づく方法は、通常は一つ以上の望ましくない細胞型を選択的に死滅させ又は取り除く薬物を利用する。親和性に基づく方法は、通常は所望の若しくは望ましくない細胞型の細胞膜表面のマーカーリガンドに選択的に結合する選択結合能力を持つ抗体若しくは分子を利用する。この抗体はその後、細胞を懸濁液から単離又は取り除くことができるものである。NSCの細胞精製法を一つの方法に限定することは意図しないが、しかしながら、物理的分離法は所望の細胞に過度の損傷を与えることなく、ある特定の特性の細胞を分離できるという点で有利である。この点では、実質的に均一な未分化細胞集団が直径約12ミクロン以上のNSCを含むよう、実質的に均一なNSC集団をサイズ識別処理にかけることが好ましい。
【0059】
従って本発明は、生体試料から直径が約12ミクロンより大きな未分化細胞の実質的に均一な集団を産生する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて精製対象の細胞を含む混合集団を得る工程、該細胞混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでである細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を未分化細胞表面マーカー識別処理にかけて直系が約5から約50ミクロンまでである実質的に均一な未分化細胞の集団を作成する工程を含む方法を意図する。
【0060】
未分化細胞の集団は幹細胞を含むのが好ましく、NSCであれば更に好ましい。
【0061】
従って本発明の好ましい実施態様では、生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけてNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでの細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団をNSC表面マーカー識別処理にかけて直系約5から約50ミクロンまでである実質的に均一なNSC集団を生産する工程を含む方法により調製した、直径約5から約50ミクロンまでの実質的に均一なNSCの集団を提供する。
【0062】
神経組織の置換又は修復に用いるNSCの集団は直径約5から約50ミクロンまでであることが好ましい。
【0063】
従って、本発明は、生体試料から直径約5から約50ミクロンまでの実質的に均一なNSC集団を作成する工程を含む、動物における神経組織を置換する方法であって、生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけてNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでである細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて直系約5から約50ミクロンまでである実質的に均一なNSC集団を作成する工程、そして次いで直系約5から約50ミクロンまでである実質的に均一な該NSC集団を該同一動物若しくは該NSCを受容できる動物に導入する工程を含む方法を提供する。
【0064】
本発明の組成物は、神経組織で増殖及び/又は分化できる直径約5から約50ミクロンまでであるNSCを含むことが好ましい。
【0065】
この実施態様では、本発明は神経組織置換療法で使用する組成物であって、該組成物が生体試料から直径約5から約50ミクロンまでであるNSCの実質的に均一な集団を作成する方法により調製された直径約5から約50ミクロンまでである実質的に均一なNSC集団を含むものであり、該方法が生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけてNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでである細胞集団を生産する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に均一なNSC集団を作成する工程を含むものである組成物を提供する。
【0066】
本明細書で言う「約」は、+/−3ミクロンの値を指す。細胞の大きさは約7から約30ミクロンであるのが好ましく、約7から約20ミクロンであるのが更に好ましい。一般的に、約12ミクロン以上の大きさが特に有用である。
【0067】
神経細胞の混合集団の分離の目的が実質的に均一なNSC集団を生産することである場合、抗体及び、NSC上に存在する細胞固有の表面マーカーは成熟した細胞型に分化できるNSC集団を同定及び分類するのに使用できる。このような未分化又は部分的に分化したNSCを分離及び精製した後、該細胞は生理学的緩衝液又は培養培地中で培養でき、適切な因子の存在下で培養して分化を誘発することができる。例えば、塩基性線維芽細胞増殖因子を添加してNSCを分裂及び増殖及び/又は分化させることができる。このような増殖因子はNSC分化のパターンを変える能力がある。細胞を、例えば緩衝化食塩水で洗浄し、再懸濁し、好ましくは静脈内投与により患者に再び導入することができる。該細胞はまた、内因性幹細胞の増殖、分化及び/又は維持を誘発するために使用できる新しい増殖因子(被験体で自然発生するか又は自然産物のスクリーニング若しくは化学ライブラリーのスクリーニングの後に得られるかのいずれか)を同定するのにも使用できる。
【0068】
NSCを含む神経細胞の集団からインビトロでNSCを分離及び精製する分離技術が利用できる。NSCは治療される動物又は患者に内生しても良く、非内因性の供給源から誘導しても良い。神経組織から誘導された細胞集団などの細胞集団を含む最初のNSCは、当業者らに良く知られる標準的な手法を用いて得ることができる。NSCの特に有用な供給源は、霊長類、ヒト、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタなど)及び実験動物(例えばマウス、ラット)などのある範囲の動物由来の脳又はCNS、ブタ及びウシの脳を含むがこれらに限定されず、NSC精製のための潜在的な出発材料として利用できる。この集団は多能性NSC、又は多能性NSC若しくは非多能性NSCの混合物を含んでも良く、又は実質的にコミットされたNSCすべてを含んでも良い。
【0069】
神経組織の出発材料を取得するとすぐ、NSCを例えば抗体及び細胞表面マーカーを利用する様々な方法によって取り出すことができ、こうして選択的に分離及び精製できる。これらの方法においては、抗体又は分子は目的のNSC集団上に存在する特異的マーカー分子に選択的に結合するが、出発材料内の他の細胞には結合しない。この結合した分子は次いで適切なNSCタイプの同定を表す付箋として作用する。このような技術には、例えば、蛍光標示式細胞分取法(FACS)及び特異的な蛍光色素を用いたフローサイトメトリー、細胞表面マーカー特異的抗体に結合させたビオチンとアフィニティー・カラム・マトリックス又はプラスチック表面などの固形の支持体に結合したアビジン又はストレプトアビジンを用いたビオチン−アビジン若しくはビオチン−ストレプトアビジンン分離、又は抗体で被覆された磁気ビーズを用いた磁気分離が含まれる。
【0070】
別の方法では、これは特に本発明の実施に有効であるが、ネガティブ選択プロトコルを採用する。ネガティブ選択ではマーカーはNSC以外の細胞型上にある。結果的に非NSCが除去される。
【0071】
従って細胞表面マーカー識別による分離では、選択的に特定のマーカーを結合する抗体又はその他の分子を利用し、ネガティブ選択若しくはポジティブ選択手法によって達成できる。ネガティブ分離では所望しない細胞上にあるマーカーに特異的な抗体が用いられる。例えば、非多能性NSCの数を減少させることが望ましいと思われる多能性NSC集団の場合である。この場合、抗体は多能性NSC上には存在しない細胞外領域のタンパク質に向けられるであろう。このような細胞表面識別法に適した細胞表面マーカーには、他にも多くある中でも(下記参照)、S100、III型β−チューブリン及びO4などが含まれるがこれらに限定されない。また、神経細胞集団から多能性若しくは非多能性NSCを直接選択することも望ましいであろう。この場合、細胞表面タンパク質の外部領域に選択的に結合する抗体又は他の分子を用いることができる。このような細胞表面マーカーに対するこのような抗体が結合した細胞は選別でき、残りの細胞は除去し、所望の混合物を残すことができる。
【0072】
細胞識別処理に用いる細胞表面マーカーは、蛍光性化合物で標識しても良い。選択結合能力を持つ蛍光で標識した抗体又は分子は適切な波長の光に当てると、蛍光によってその存在が検出できる。最も一般的に用いられる蛍光標識化合物は、イソチオシアン酸フルオレスセイン、ローダミン、イソチオシアン酸、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド、及びフルオレサミンである。選択的結合能力を有する抗体又は分子はまた、152Eu又は他のランタン系列などの蛍光発光金属を用いて検出できるよう標識することもできる。これらの金属は、選択的結合能力を有する抗体又は分子に、ジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)又はエチレンジアミン4酢酸(EDTA)などの金属キレート基を用いて付着できる。抗体は化学発光化合物に結合することにより、検出できるように標識することもできる。化学発光で標識した選択結合能力のある抗体又は分子の存在は、次いで化学反応の過程の間に生じる発光の存在を検出することによって測定できる。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、テロマティック・アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びシュウ酸エステルである。同様に、生物発光化合物が選択結合能力を持つ本発明の抗体又は分子を標識するのに使用できる。生物発光は、触媒タンパク質が化学発光反応の効率を上昇させる、生物系で見られる化学発光の一つのタイプである。生物発光性タンパク質の存在は発光の存在を検出することにより測定される。標識のための重要な生物発光化合物は、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、及びエクオリンである。選択結合能力のある抗体又は分子を標識するこのような方法は全て、本発明により意図される。
【0073】
増殖及び/又は分化できるNSCはサイズ識別された細胞集団から選択しても良い。サイズ選択は細胞表面識別処理と同時又は逐次的に行なってもよい。細胞表面識別に有用な特に好ましい細胞表面マーカーには、PNA及びHSAが含まれるがこれらに限定されない。約5から約50ミクロンまでのサイズ識別されたNSCは、同時に又は逐次的に細胞表面マーカー識別処理にかけるのが好ましい。直径約5から約50ミクロンまでのNSCはまた、表現型的にPNAloHSAloでもある。
【0074】
特に、本発明者らは三つの細胞集団を同定した。その一つはNSCが実質的に均一であり、もう一つは一部前駆細胞を含み、三つめは実質的に全て分化した細胞を含む、
【0075】
その集団は、表現型的に次のように表される:

HSAloPNAloの細胞集団は、更に表3に挙げる低レベルのマーカーを持つという特徴を有する。低レベルの細胞内マーカーには、III型β−チューブリン及び04が含まれる。
【0076】
【表3】

【0077】
従って本発明は、直径が約5から約50ミクロンまでで、表現型的にPNAloHSAloである実質的に均一なNSC集団を生体試料から作成する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて精製対象のNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでである細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団をNSC表面マーカー識別処理にかけて直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一なNSC集団を作成する工程を含む方法を意図する。
【0078】
表3に挙げたような他のマーカーもまた、NSCを特徴付けるため又はNSCを精製するためのいずれかに用いられる。加えて、表現型がHSAloPNAloである細胞は、DCC、ネオゲニン、Notch1、2、3、Plx1及びSox2を発現する。これらの細胞は減少したレベルのp75とTrkβを有し、これらの細胞はEphA4、TrkA、TrkC、LIFRβ、gp130、ζ1、SOCS2、Pax6、Tbr1、Dlx2、SCL、Burp1及びSca−1を発現しないか又は極めて低レベルで発現する。
【0079】
本明細書で言う「表現型的に」とは、その遺伝子構成要素と環境との相互作用により決まる生物又は細胞の物理的な構成を指す。「表現型的」特性は検出可能であり、類似の特性を持つ細胞又は生物の同定と分類を可能にする。本発明では、NSCの細胞表面特性の表現型はNSCを更に分化した又はコミットした細胞型から識別するのに用いられる。
【0080】
本明細書で言うPNAlo及び/又はHSAloは、表面PNA及び/又は表面HSAが少ないか又は存在しない表現型を持つNSCを指す。
【0081】
本発明の別の実施態様では、生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけてNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでである細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団をNSC表面マーカー識別処理にかけて直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一なNCS集団を作成する工程を含む方法で調製された、直径が約5から50ミクロンで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一なNSC集団が提供される。
【0082】
神経組織又は非神経組織を置換または修復するのに用いられるNSC集団は、直径が約5から約50ミクロンまでで、表現型がPNAloHSAloであるものが好ましい。
【0083】
従って本発明は、直径が約5から約50ミクロンまでで表現型的にPNAloHSAloである実質的に均一なNSC集団を生体試料から作成する工程を含む、動物における神経組織又は非神経組織を置換する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけてNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでである細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて表現型がPNAloHSAloである直径が約5から約50ミクロンまでの実質的に均一なNSC集団を作成する工程、次いで直径が約5から約50ミクロンまでで表現型的にPNAloHSAloである該同種なNSC集団を、上記の同じ動物又は該NSCを受容できる動物に導入する工程を含む方法を意図する。
【0084】
ここでも、「動物」は中でもヒト又は霊長類を含む。
【0085】
神経変性疾患及び急性脳傷害は、神経細胞の損失、影響を受けた脳領域の不適切な働き、及びその結果生じた行動異常を結果として生ずることが多い。恐らくCNS機能障害の最大の領域は(障害を受けた人々の数に関して)、神経細胞の喪失によってではなく、むしろ存在する神経細胞の異常な働きによって特徴付けられるであろう。これは、ニューロンの不適切な刺激伝導、又は神経伝達物質の異常な合成、放出、及び処理のせいである場合 がある。これらの機能障害は、鬱病及び癲癇などの良く研究され特徴付けられた障害、又は神経症及び精神病などのあまり良く分かっていない障害の結果であることもある。本発明は、神経組織を置換するためのNSCを含む組成物を意図する。好ましくは、神経系に分化し、直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloであるNSCを再生する細胞の組成物である。
【0086】
この実施態様では、本発明は神経組織置換療法で用いる組成物であって、該組成物が生体試料から直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一なNSCの集団を作成する方法によって調製された直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一なNSCの集団を含むものであり、該方法が該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけてNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでである細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一なNSCの集団を作成する工程を含むものである組成物を提供する。
【0087】
損傷を受けた組織又は機能障害を持つ神経組織は、NSCの適切な増殖及び/又は分化及び/又は自己再生により置換又は再生できる。損傷を受けた神経組織の面積が増加するとそれを置換又は修復するためには、ますます多くのNSCなどの未分化細胞が必要となる。本発明のこの側面では、遺伝子改変されたNSCには、薬物耐性としての付加的な遺伝子特性又は増幅の間に細胞の寿命を延ばす特性が与えられる。従って本発明は、直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである遺伝子改変されたNSCの実質的に均一な集団の作成を意図する。
【0088】
従って本発明は、生体試料から直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一な遺伝子改変NSCの集団を作成する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて精製すべき遺伝子改変NSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団を細胞サイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでである細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団をNSC表面マーカー識別処理にかけて直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一なNSC集団を作成する工程を含む方法を意図する。
【0089】
本明細書で用いる用語「遺伝子改変NSC」は、その中に外来性(即ち、自然に発生したものではない)核酸、例えば、DNAが導入されるNSCを指す。外来性核酸は、リン酸カルシウムで媒介したトランスフェクション、DEAEで媒介したトランスフェクション、ミクロインジェクション、レトロウイルスによる形質転換、プロトプラスト融合及びリポフェクションを含むが、これらに限定しない様々な技術で導入して良い。遺伝子改変した細胞は、一時的または長期的のいずれかで外来性核酸を発現しうる。一般的に、一時的な発現は外来性DNAがトランスフェクトされた細胞の染色体DNAに安定して組み込まれない場合に発生する。対照的に、外来性DNAの長期間発現は、外来性DNAがトランスフェクトされた細胞の染色体DNAに安定して組み込まれた場合に発生する。
【0090】
好ましい側面では、NSCは表現型がPNAloHSAloである。
【0091】
本発明の別の実施態様では、生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて遺伝子改変NSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団を細胞サイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでである細胞の集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団をNSC表面マーカー識別処理にかけて直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一な遺伝子改変NSC集団を作成する工程を含む方法で調製した、直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一な遺伝子改変NSCを提供する。
【0092】
関連する実施態様では、本発明は、直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一な遺伝子改変NSC集団を生体試料から作成する工程を含む、動物における神経組織を置換する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて遺伝子改変NSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団を細胞サイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞が直径約5から約50ミクロンまでである細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時にまたは逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである実質的に均一な遺伝子改変NSCを作成する工程、次いで直径が約5から約50ミクロンまでで表現型がPNAloHSAloである該同種な遺伝子改変NSC集団を、上記の同じ動物又は該NSCを受容できる動物に導入する工程を含む方法を提供する。
【0093】
上述のとおり、12ミクロンより大きなサイズが特に有用であるが、約7から約30ミクロンまでのサイズが好ましい。
【0094】
本明細書に記載の実質的に均一なNSC集団は、神経組織の修復又は置換を含む神経系の障害の治療又は改善のために、治療上効果的な用量で患者に投与できる。治療上効果的な量とは、神経系障害の症状の改善をもたらすのに十分な実質的に均一なNSC集団の量を指す。
【0095】
実質的に均一なNSC集団の毒性及び治療上の効力は、細胞培養又は実験動物における標準的及び改良された薬学的手法により、例えば、LD50(集団の50%に対する致死的な用量)及びED50(集団の50%に治療上効果的な用量)の測定などで測定できる。毒性と治療効果の間の用量比は治療係数であり、比率LD50/ED50で表される。大きな治療係数を示す実質的に均一なNSC集団が好ましい。NSCが免疫反応を誘発して毒性のある副作用を示す可能性があることは当然であり、有害な免疫反応を防ぐ送達システムを設計するよう気をつけなければならない。
【0096】
細胞培養検定及び動物研究で得られたデータをヒトに使用する際の用量範囲を設定するのに用いることができる。このような実質的に均一な多能性NCS集団の用量は毒性が殆どないか全くないEC50を含む濃度範囲内であることが好ましい。この投与量は採用する投与剤形(dosage) 及び利用する投与経路に応じて、この範囲内で変化できる。本発明の方法で用いられる実質的に均一なNSC集団のいずれについても、治療上効果的な用量は最初は細胞培養検定から見積もることができる。
【0097】
本発明に基づいて用いる医薬組成物は、一つ以上の薬学的に許容できる担体又は賦形剤を用いて従来の方法で処方できる。従って、実質的に均一なNSC集団及びその薬学的に許容できる塩及び溶媒は注射又は経口投与を含む様々な経路で投与するために処方できる。
【0098】
本明細書に記載するように、本方法で作成したNSC集団は様々な用途がある。本発明で意図する他の用途には、NSC上又はNSC内にマーカーを置き、次いでこれを用いて身体中でNSC及び/又はその子孫を追跡しその生理学的変化を監視する方法が含まれる。これにより複数の標的に対して治療を行なう能力が与えられる。精製したNSC集団は、遺伝子及びタンパク質の発見、特に分化及び増殖に関わるメカニズムの発見にも有用である。これは様々な疾病状態において治療のための新しいニューロンの生産を可能にする。
【0099】
更に本発明のNSCは、例えば内因性幹細胞活性化を介したサイトカイン送達、及びNSCの選択的移動及びその傷害部位への進行に有用である。
【0100】
本NSCのこのような使用は全て、本発明により意図される。
【0101】
精製した幹細胞はまた、幹細胞の成長、増殖及び/又は分化に影響を与えることができる分子のスクリーニングにも用いられることがある。このような因子の重要性は、
1.「純粋でない」集団では、その効果が幹細胞に直接的なものであって他の分子を介していないことを確定できない、
2.この情報により、内因性幹細胞が新しいニューロン又はグリアなどに分化するよう活性化するために使用できる治療法の発展が可能になる、
ことである。
【0102】
従って、本発明のこの側面は移植を行なう必要がない。しかしながら、このような分子は移植療法の成功後に重要となるであろう。
【0103】
従って、本発明は更にNSCの成長、増殖及び/又は分化を促進する成長因子であって、本明細書で記載した方法に基づいて調製した均一なNSC集団から得られ得る成長因子の単離に向けられる。
【0104】
更に、本発明は神経細胞になるNSCの集団を同定する。従って、本発明は自然発生するアゴニスト(例えばサイトカイン)又は自然産物スクリーニングにより又は細胞の本集団に作用する化学ライブラリーのスクリーニングによって見つかる分子を包含する。
【実施例】
【0105】
本発明は更に、次の限定的でない実施例により説明する。
【実施例1】
【0106】
組織の調製
成体のマウス(生後8〜10週)を頸部転位で犠牲にし、CNS組織をロイス及びアルバレス−バイラに完全に従ってヘペス緩衝化イーグル培地(HEM)中で切り割いた( Proc . Natl. Acad. Sci. USA 90: 2074-2077, 1993)。成体CBAマウスの側脳室壁の脳室ゾーン及び副脳室ゾーンの両方をNSC源として用いた。CNS組織を賽の目に切り、Mg++/Ca++を含まないHBSS(10mMのヘペス、200g/mlのEDTA、0.5mMのトリプシン、0.001%w/vのDNアーゼを含む)に移しpH7.6,37℃で10分間放置した。HEM+5%v/vのウシ胎児血清(FCS)を6ml添加し、その組織片を遠心分離(100xgで7分)で採取した。上清は除去し、PBS(pH7.4)中でペレット粉砕して単細胞懸濁液を作成し、続いて70μMの細胞ストレーナー(ファルコン)を通して組織片を除去した。
【0107】
酵素による解離に続いて、単細胞懸濁液を様々な抗体及びレクチンで染色し、次いでFACSII(ベクトン−ディキンソン、米国)フローサイトメーターを用いて分類した。
【実施例2】
【0108】
FACS分析
免疫染色のため、結果的に得られた懸濁液を20分間4℃でFITC結合PNA(1:200、ヴェクタ、バーリンゲーム、カリフォルニア州)、又はPE結合mCD24aと混合したPNA−FITC(1:200、クローンM1/69、ファーミンゲン)と共にインキュベートした。インキュベーションに続き、細胞懸濁液を遠心分離によりPBSで2度すすぎ、死滅細胞を標識するため、最後にPBS+1%v/vFCSヨウ化プロピジウム(P.I.、100pg/ml、モレキュラープローブ)ですすいだ後、GACS分析を行なった。細胞生存能力は通常は95%より大きく、全てのFACSゲートは未標識細胞を用いて設定した。
【0109】
最初のNSC濃縮工程は前方散乱光(FSC)[図1A]で評価した大きさに基づいて生存可能な細胞を選別して行った。選別していない集団に存在する総NSCの>80%が直径>12μmの細胞に含まれる(>90単位FSC)ことが分かった。次にレクチン、ピーナッツ凝集素(PNA)の差別的結合を用いてNSCを選択的に濃縮した。細胞の直径(FSC)を比較するFACSプロファイル及びPNA染色強度から、NSCの含量を査定するために三つの集団、PNAhi、PNAlo及びPNAmid画分が選択された[図1A]。>12μmのPNAlo画分は、約2%の未選別集団を表し、NSC1につき約1:7の細胞という最大のNSC活性を含んでいた。
【0110】
最終の濃縮工程は、PNAlo細胞の部分集団で効果的にNSCを濃縮するため、熱安定性抗原[HSA](mCD24a)を用いた。PNAloHSAlo部分集団[図1B及び図1C]、即ち未選別集団の0.27±0.07%(平均SE、n=3)を表す別の集団が、殆ど排他的にNSCを含むことが分かった。
【実施例3】
【0111】
PNAloHSAloのNSCのFACS分析及び特性決定
PNAloHSAloのNSCの表現型をより詳細に検討するため、選別した細胞は他の神経性マーカーについて免疫染色した。PNAloHSAloのNSCは、推定上の神経幹細胞及び神経前駆細胞のマーカーであるネスチンを発現したが(カラオラら、 Neuroscience 73:581-594 1996)、しかしながら、これらのNSCは細胞型に特異的な神経マーカー( III型βチューブリン、04又はGFAP)は発現しなかった。
【実施例4】
【0112】
形態学的分析
PNAloHSAloNSCは、以前はNSCの起源と考えられた上衣細胞の繊毛形態を持たなかった。更に、上衣細胞は以前に高レベルのHSAを発現することが示されていたため、大部分の幹細胞がSVZに残留するという他の研究者らの結論(トロペペら、 J. Neuro sci. 17: 7850-7859, 1997)を有利にする。
【実施例5】
【0113】
この段落は欠落している。
【実施例6】
【0114】
神経球の作成
CNS組織から収穫した選別された細胞の幹のような性質を評価するため、神経球を以前に記載されたように作成した(グリッティら、 J. Neurosci. 19: 3287-3297, 1999)。本質的に、選別された細胞は、FGF−2(ウシ20組換え体の10ng/ml、ボーリンジャー マンハイム)及びEGF(受容体グレードの20ng/ml、コラボラティブ・リサーチ)をNSCの頻度と濃縮を確かめるために10生細胞/cm2の濃度で、又は正確なNSC頻度を測定するために1ウェルにつき1細胞のいずれかで含む、成長因子を含まないと定義されたNS−A培地(基本培地、ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)と栄養補給剤F12(ギブコ)(1;1)から成り、0.6%のグルコース、3mMのNaHCO3、5mMのHEPES、及び2mMのL−グルタミン、0.1mg/mlのアポ−トランスフェリン、25μg/mlのインスリン、60μMのプトレッシン(putres cene)、30μMの亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)及び20nMのプロゲステロン(シグマ)を含む)(1、10)中で培養した。培養された細胞の数と比較してイン・ビトロで7日(7DIV)後に形成された球体の数を数えるとNSC頻度が得られた。
【0115】
1ウェルにつきPNAloHSAlo細胞を1つ入れると、約80%の細胞(1:1.28)が神経球を生じた。更に、PNAloHSAlo集団は未選別集団に存在するNSC活性の>63%を含み{回収率%=細胞総数の%(未選別NSC頻度=選別NSC頻度)}、成体マウスの脳室ゾーン中のNSCの大多数がこの表現型であることを強く示唆した。
【0116】
続く一次球体の継代は、収穫した球体を機械的に解離させて単細胞懸濁液とし(100xgで10分遠心分離)、レイノルズら、 1992(再掲。グリッティら、J . Neurosci. 16: 1091-1100)で記載されたように、EGF+EGF−2(完全培地)を含む基礎培地で再培養することにより実施した。
【実施例7】
【0117】
PNAloHSAlo細胞の神経細胞ポテンシャル
PNAloHSAlo細胞からクローンとして誘導された球体[図3A]は、基礎培地で1日、次に基礎培地+1%v/vのFCSで5〜6日間、ポリ−L−オルニチンで被覆したカバーガラスへ移動して分化させ、次いでニューロン及びグリアの存在を免疫細胞化学(ICC)により評価した。100%のケースで、クローンとして誘導された球体はグリア繊維状酸性タンパク質に陽性(GFAP+ve)の星状細胞及び(III型β−チューブリンに陽性(β−tub+ve)のニューロン及び04+veのオリゴヌクレオチドを含んでいた[図3B]。
【0118】
PNAloHSAlo細胞からクローンとして誘導された球体が、連続した増殖後にこのポテンシャルを維持するかどうかを判定するため、二次球体を3ヶ月間5〜7DIVごとに継代し、次に分化する条件に移した。再度、GFAP+VE及び3−チューブリン+ve細胞及び04+VE細胞は検討した全ての球体に存在した。
【実施例8】
【0119】
細胞の特性決定
新たに単離したPNAloHSAloNSCが非神経細胞型を生じる可能性があるかどうかを判定するため、個々のNSCの筋を生ずる能力の定量的評価を可能にする最近開発された検定システムを用いた(ガリら、 Nature Neuroscience 3: 2000)。C2C12細胞中のNSCを容易に同定するため、PNAloHSAloNSCを、常にlacZ(22)及び増大したGFPの両方を発現するBU5X形質転換マウスから単離した(ハジャントナキスら、 Mech. Dev. 76: 79-90, 1998)。BU5Xマウスから得られたPNAloHSAloNSCは、CBAから得たものと同じ特性を示した。
【0120】
新たに単離したNSCは、クローン濃度(clonal density)でインビトロで2日間、20%v/vの熱不活性化FCSを含むDME培地(ギブコ)中でC2C12筋原細胞(5×103細胞/cm2)と共培養し、次に1%v/vの正常なウマの血清(CSL、オーストラリア)を補充したDME中で更に2〜4DIV共培養してその筋原能力を評価した。次いで培地を4%v/vのパラホルムアルデヒドで5分間固定し、その後GFP+ve細胞の表現型を評価した。
【0121】
神経由来の筋細胞は、高速MyHC又は発達性MyHC(それぞれNCL−MHCf又はNCL−MHCd、共に1:10、ノボカストララブズリミティッド)、又はα−アクチニン−225(1:750、E.ハーデマン)に対するマウス単クローン抗体で同定した内因性GFP及び筋細胞型の同時検出により同定した。これらの抗原は、適切なTRITC結合IgG二次抗体(1:200、サザンバイオテック)で検出した。筋細胞に分化した神経細胞の割合は、筋原性マーカーを発現するGFP+veの数を培養したNSCの数(培養後6時間後に数えた)で割った値を計算することにより求めた。
【0122】
GFPを発現する細胞は、紡錘形、筋細胞様の形であり[図3C〜D、しばしば筋管に特徴的な複数核を含む[図3D、矢印]。これらの細胞の筋表現型は、<99%の紡錘形細胞及び筋管を、α−アクチン−2[図3F)]及びMyHCの2つのイソ型[図3E、G及びH]に対する筋原性特異的抗体で染色することにより確認した。GFPは筋原性マーカー[図3E−H]で標識された細胞中で共発現されることが見出されたことは最も重要である。筋管の場合、輝GFP+ve核が一つだけがいくつかの非GFP+ve核の中にあったことがしばしばある[図3(h)]、これはPNAloHSAloのNSCの一部が筋細胞に分化したか又はC2C12細胞と融合して筋管を形成したことを明確に示すものである。
【0123】
選別したPNAloHSAloNSCの培養後に発生した有意な細胞分裂(GFP+ive細胞を蛍光顕微鏡観察で絶えず監視して確認した)の証拠がないため、筋原性の能力を持つNSCの頻度は直接測定できた。培養したPNAloHSAloGFP+veNSCの57±5.67%(平均±SE、n=3)が、紡錘型、MHC+ve筋細胞、又は筋管(筋管中のGFP+veを数えて測定)に分化したことが分かった。
【実施例9】
【0124】
機能的幹細胞
下の例は、単離された細胞がインビボで機能的NSCとして作用することを示す。その結果は表4に示す。これらのデータは、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子に突然変異を有する突然変異マウス、クエルコフ(querkopf)を採用して引き出した(トーマスら、 Development 127: 2537, 2000)。この研究の対象となる観察は、出生以降の野生型と比較した場合のクエルコフの嗅球の大きさにおける進行性の欠陥である。嗅球は、最終的に嗅小球及び糸球体周辺のニューロンに分化する副脳質領域幹細胞から誘導された細胞の連続的な移動のため、出生後一貫して成長することを思い出されたい。従って、本発明者らはクエルコフにおける欠陥が脳室周囲の領域での幹細胞の損失を反映するものかどうか、そしてもしそうであれば、どの選別集団にそれらが存在するのかを検討した。本発明者らはFACS分析により、突然変異及び野生型プロフィールがPNAloHSAlo集団における約6倍の減少を除き、全く同じであることを発見した(図2)。野生型PNAloHSAlo集団及び突然変異PNAloHSAlo集団の両方における幹細胞活性の頻度には有意な程の差がなく、PNAloHSAlo幹細胞の機能的能力には本質的な差はないがその全体的な数には劇的な減少があることを示した。更に、他の選別集団では幹細胞活性における変化が見られなかったので、これは幹細胞表現型における変化では説明できなかった。従ってこれらのデータは、クエルコフマウスにおける生後の嗅球ニューロンの形成における欠陥がPNAloHSAlo集団の特異的な欠乏のためであることを強く示唆し、これらの細胞の生体位での機能的役割を更に支持する。
【0125】
【表4】

【0126】
これらの細胞は回収し、神経球を生産することで知られている培養条件に移した。NSC頻度*は培養した生細胞につき7回分裂した後に形成された神経球の数を表し、生細胞は4時間培養の後に数えた。
【実施例10】
【0127】
細胞集団を規定するマーカー
様々なマーカー(外部及び内部)を定義する広範囲のプライマーを用いて、細胞の集団を評価し細胞集団を表現型により特徴付けた。マーカー及び使用したプライマーのヌクレオチド配列は表5に示す。
【0128】
三つの細胞集団はHSA及びPNAの発現に基づき同定する。各集団は次いで表5に挙げたマーカーについて評価する。その結果を表6に示す。
【0129】
表現型がPNAloHSAloである細胞はNSCの均一集団であることの特徴であるマーカーを示す(表6)。表現型がPNAloHSAloである細胞はいくつかの前駆体を含むが、一方でHSAloPNAhi/HSAhiPNAhiである細胞は実質的に全て分化した細胞である(表6)。
【0130】
【表5】

【0131】
【表5−1】

【0132】
【表5−2】

【0133】
【表5−3】

【0134】
【表6】

【0135】
【表6−1】

【0136】
当業者らは、本明細書に記載された発明が特に記載されたもの以外のものに変形及び改良が可能であることを認めるであろう。本発明はそのような全ての変形及び改良を含むことを理解されるべきである。本発明はまた、本明細書で個々に又は集合的に言及し又は示した全ての工程、特性、組成物及び化合物、そして該工程又は特性のいずれか二つ以上の組み合わせのいずれか及び全てを含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料から実質的に均一な未分化細胞の集団を作成する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織分裂処理にかけて精製対象の未分化細胞を含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲の大きさである細胞の集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に均一な未分化細胞の集団を作成する工程を含む方法。
【請求項2】
未分化細胞が未分化又は半未分化な神経幹細胞(NSC)である請求項1記載の方法。
【請求項3】
実質的に均一な細胞集団が同じ型のNSCである細胞を少なくとも約50%含むものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
組織破砕処理が結合している細胞外基質(ECM)組織から個々の細胞を分離する工程を含むものである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
約5から約50ミクロンまでの細胞が懸濁液中で得られるものである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
約12ミクロンより大きな細胞が懸濁液中で得られるものである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
該細胞の表現型がPNAloHSAloである、請求項1又は請求項5又は請求項6記載の方法。
【請求項8】
生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて未分化細胞を含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲の大きさに収まる細胞集団を得る工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を未分化細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に均一な未分化細胞集団を作成する工程を含む方法により調製された、実質的に均一な未分化細胞集団。
【請求項9】
該細胞がNSCである、請求項8記載の実質的に均一な未分化細胞集団。
【請求項10】
該細胞の少なくとも約50%が同じ型である、請求項9記載の実質的に均一な未分化細胞集団。
【請求項11】
該細胞の少なくとも約80%が同じ型である、請求項10記載の実質的に均一な未分化細胞集団。
【請求項12】
該組織破砕処理が個々の細胞をECMから解離させる工程を含むものである、請求項8記載の実質的に均一な未分化細胞集団。
【請求項13】
該細胞が約5から約50ミクロンまでのサイズのものである、請求項12記載の実質的に均一な未分化細胞集団。
【請求項14】
該細胞が約12ミクロンより大きいサイズのものである、請求項12記載の実質的に均一な未分化細胞集団。
【請求項15】
該細胞の表現型がPNAloHSAloである、請求項9又は請求項13又は請求項14記載の実質的に均一な未分化細胞集団。
【請求項16】
生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけてNSCを含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲のサイズに収まる細胞の集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を幹細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に均一なNSCの集団を作成する工程を含む方法により調製された実質的に均一なNSC集団。
【請求項17】
該動物が哺乳動物である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
該哺乳動物がヒトである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
細胞置換療法が脳に関するものである、請求項16又は請求項17又は請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞置換療法が器官に関するものである、請求項16又は請求項17又は請求項18記載の方法。
【請求項21】
細胞置換療法が神経系に関するものである、請求項16又は請求項17又は請求項18記載の方法。
【請求項22】
該神経幹細胞の表現型がPNAloHSAloである、請求項16記載の方法。
【請求項23】
該神経系が中枢神経系(CNS)である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
該治療法がアルツハイマー病、パーキンソン病、急性脳傷害及びCNS機能不全から選択されるCNS障害に関するものである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
生体試料から実質的に均一なNCS集団を作成する方法により調製した実質的に均一なNSC集団を含む、細胞置換療法に用いる組成物であって、該方法が該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて幹細胞を含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団をサイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲の大きさに収まる細胞の集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を未分化細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に均一な幹細胞集団を作成する工程を含むものである、組成物。
【請求項26】
該細胞がPNAloHSAloの表現型である、請求項25記載の組成物。
【請求項27】
生体試料から実質的に均一なNSC集団を作成する工程を含む、動物の神経組織又は非神経組織を置換する方法であって、該生体試料又はその部分試料を組織破砕処理にかけて該細胞を含む混合集団を得る工程、該細胞の混合集団を細胞サイズ識別処理にかけて実質的に全ての細胞がある特定範囲の大きさに収まる細胞集団を作成する工程、このサイズ識別工程と同時に又は逐次的に該集団を細胞表面マーカー識別処理にかけて実質的に均一なNSC集団を得る工程、次いで該細胞の該実質的に均一な集団を上記の同じ動物又は該細胞を受容できる動物に導入する工程を含む方法。
【請求項28】
該動物が哺乳動物である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
該哺乳動物がヒトである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
該NSCがPNAloHSAloの表現型である、請求項27記載の方法。
【請求項31】
請求項16記載の方法に従って作成した均一なNSC集団を用いて同定された成長因子を含む組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2012−120545(P2012−120545A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−70492(P2012−70492)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【分割の表示】特願2008−271668(P2008−271668)の分割
【原出願日】平成14年5月31日(2002.5.31)
【出願人】(503319102)ザ ユニバーシティ オブ クィーンズランド (4)
【Fターム(参考)】