説明

細胞アッセイ用流路チップ及び検査装置

【課題】細胞にストレスを付与することなく、培養することのできる細胞アッセイ用流路チップ及びその検査装置を提供する。
【解決手段】細胞培養が可能な細胞アッセイ用流路チップであって、当該細胞アッセイ用流路チップ本体3の上面に溶液の注入口5と排出口7とを備え、前記注入口5と排出口7とを連通した流路11中に、前記注入口5から注入された溶液内の細胞19をせき止めするためのせき止め部21を備え、当該せき止め部21の上流側に培養室25を備えると共に、前記せき止め部21の下流側に、前記せき止め部21を流れる溶液の流速を低速に抑制するために、細胞培養時には前記せき止め部よりも液面高さを高く保持する液溜室27を備え、前記注入口5及び排出口7に、溶液を所定高さに保持する溶液保持カップ17を備え、かつ前記培養室25の容積よりも前記液溜室27の容積を小さく構成し、かつ前記培養室25の上部壁又は下部壁の少なくとも一方の壁は透明である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養が可能な細胞アッセイ用流路チップに係り、さらに詳細には、培養中の細胞に対するストレスの付与を抑制することの可能な細胞アッセイ用流路チップ、及び当該細胞アッセイ用流路チップを使用して細胞の生理活性を評価することが可能な検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の生理活性を測定するには、先ず、例えば細胞接着性のプラスチック製ウエル(数100μL程度)内に細胞を植付け、次に細胞と反応させる試薬の存在下で細胞を培養し、最後に発色/発光染色処理をして、光学的検出をすることにより、行っている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−39541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述したように、プラスチック製ウエル内に細胞を植付けてから細胞の生理活性を測定するまでの一連の工程において、培地の交換、試薬の注入、ウエル内の洗浄などの操作は、人の手によるピペット操作によって実施されている。したがって、操作工数が多く煩雑である。例えば、ピペット操作による溶液の交換時には、ウエル内の溶液を攪拌し、細胞を舞上げることがあり、培養中の細胞にストレスを付与することが多い、という問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前述のごとき問題に鑑みてなされたもので、細胞培養が可能な細胞アッセイ用流路チップであって、当該細胞アッセイ用流路チップ本体の上面に溶液の注入口と排出口とを備え、前記注入口と排出口とを連通した流路中に、前記注入口から注入された溶液内の細胞をせき止めするためのせき止め部を備え、当該せき止め部の上流側に培養室を備えると共に、前記せき止め部の下流側に、前記せき止め部を流れる溶液の流速を低速に抑制するために、細胞培養時には前記せき止め部よりも液面高さを高く保持する液溜室を備えていることを特徴とするものである。
【0006】
また、前記細胞アッセイ用流路チップにおいて、前記注入口及び排出口に、溶液を所定高さに保持する溶液保持カップを備えていることを特徴とするものである。
【0007】
また、前記細胞アッセイ用流路チップにおいて、前記培養室の容積よりも前記液溜室の容積を小さく構成し、かつ前記培養室の上部壁又は下部壁の少なくとも一方の壁は透明であることを特徴とするものである。
【0008】
また、前記細胞アッセイ用流路チップにおいて、前記せき止め部に、前記培養室と前記液溜室とを連通した複数の微細連通路を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
また、前記細胞アッセイ用流路チップにおいて、前記細胞アッセイ用流路チップ本体は、ベース本体と当該ベース本体に一体的に接合した上部プレートを備え、前記培養室及び前記液溜室は前記ベース本体に備え、前記注入口及び排出口は前記上部プレートに備えられており、前記せき止め部における堰部材(堰部)は前記ベース本体又は前記上部プレートの適宜一方或は両方に備えていることを特徴とするものである。
【0010】
また、前記細胞アッセイ用流路チップを使用した検査装置であって、複数の細胞アッセイ用流路チップを並列して支持したチップホルダを出入自在のCOインキユベータと、当該COインキユベータの前側に備えられ、前記チップホルダの大きさに対応した開口部を備えると共に前記COインキユベータに対して出し入れされるチップホルダを支持するホルダ支持プレートと、当該ホルダ支持プレートの前記開口部に対応した位置に配置されたチップホルダに支持されている全ての細胞アッセイ用流路チップを、前記開口部を介して下側から撮像するための撮像手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細胞アッセイ用流路チップにおける培養室内での溶液の流れは一方向の流れになると共に、急速な流れを抑制することができる。したがって、例えば、培養室内の細胞が舞上るようなことがなく、細胞にストレスを付与するようなことがないものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る細胞アッセイ用流路チップの平面説明図である。
【図2】図1におけるII−II線に沿った拡大断面説明図である。
【図3】細胞アッセイ用流路チップの主要部を示す拡大平面説明図である。
【図4】チップホルダに複数の細胞アッセイ用流路チップを収容した状態の説明図である。
【図5】検査装置の構成を概念的、概略的に示した斜視説明図である。
【図6】検査装置の構成を示す平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態に係る細胞アッセイ用流路チップについて説明するに、細胞アッセイ用流路チップ1は、図1に概念的、概略的に示すように、平面視したときに矩形状を呈する細胞アッセイ用流路チップ本体3を備えている。そして、この細胞アッセイ用流路チップ本体3の上面には複数の注入口5が備えられていると共に、各注入口5と対をなす複数の排出口7が備えられている。さらに、前記細胞アッセイ用流路チップ本体3には、前記各注入口5、排出口7のX,Y軸方向の基準位置となる矩形状の切欠部9が適宜位置の角部に備えられている。
【0014】
前記細胞アッセイ用流路チップ本体3に備えた前記注入口5と前記排出口7は、図2に示すように、流路11を介して連通してある。より詳細には、前記細胞アッセイ用流路チップ本体3は、透明なベース本体(下部壁)13の上面に透明な上部プレート(上部壁)15を一体的に接合した構成であって、前記上部プレート15に前記注入口5及び排出口7が形成してあり、かつ上部プレート15の上面には、前記注入口5、排出口7に対応して溶液保持カップ17がそれぞれ備えられている。
【0015】
該ベース本体13の素材は、光の透過性に優れた素材であれば特に限定はされないが、蛍光検出を行う場合は、例えば低自家蛍光ポリスチレン、紫外線透過ガラス、及びシクロオレフィン等の、自家蛍光が低い素材が好ましい。
【0016】
前記ベース本体13には、前記注入口5と前記排出口7とを連通した前記流路(接続路)11が形成してあり、この接続路(流路)11の途中には、前記注入口5から注入された溶液の流れは許容するが、溶液中の細胞19をせき止めるためのせき止め部21を構成する堰部23が備えられている。すなわち、前記流路11中に前記せき止め部21を備えたことにより、前記流路11は、前記注入口5に連通した上流側の培養室25と前記排出口7に連通した下流側の液溜室27とに区画してある。本実施例では、多くの細胞が培養可能なように、前記培養室25の容積は前記液溜室27の容積より大きく構成してある。
【0017】
前記せき止め部21における前記堰部23の上面には、前記培養室25と前記液溜室27とを連通した複数の微細連通路29を備えている。この微細連通路29は、溶液の流れは許容するが、溶液内の前記細胞19をせき止める作用をなすものであって、例えば深さは20μm以下であり、幅は200μm以下に形成してある。したがって、前記注入口5から細胞19を含む溶液を注入すると、溶液中の細胞19がせき止められて、前記培養室25内に定着又は浮遊した状態となるものである。この際、前記培養室25及び液溜室27内の溶液の液面31は前記せき止め部21よりも常に高く保持されるものである。
【0018】
換言すれば、前記せき止め部21は常に溶液内に没入した状態に保持されるものであって、前記微細連通路29の流出側(前記液溜室27側の出口)が溶液の液面31よりも高くなるようなことがなく、微細連通路29の出口側には前記溶液溜室27の液面31が高いことに起因する液圧が、常に背圧として作用しているものである。よって、前記液溜室27は一種の背圧付与室を構成するものである。
【0019】
前記構成により、前記培養室25に対する培地や試薬溶液などの溶液の注入は注入口5側から行われ、溶液の排出は排出口7側で行われるものである。細胞培養用の培地は、細胞アッセイに使用する細胞の生育に適した液体培地である限り、特に限定はされない。したがって、溶液の交換を行うときは、前記注入口5から新しい溶液を注入し、排出口7側において排出することにより容易に行い得るものである。この際、溶液の流れは注入口5側から排出口7側への一定方向の流れであり、かつ前記培養室25及び液溜室27の液面31を前記せき止め部21よりも高く保持して溶液の交換を行うことが可能である。
【0020】
よって、前記せき止め部21における前記微細連通路29の出口側には、前記液溜室27内の液圧が背圧として作用するので、前記微細連通路29における溶液の流速が低速に保持されるものである。したがって、例えば、前記培養室25内における溶液の交換による乱流等の発生が抑制されるため、前記培養室25内で培養されている細胞19に物理的なストレス等を付与することなく、溶液の交換を行い得るものである。
【0021】
なお、前記構成においては、前記せき止め部21の堰部23をベース本体13に備えた場合について例示したが、前記堰部23は上部プレート15に備えた構成とすることも可能である。この場合、せき止め部21における前記微細連通路29は、堰部23の下面に備えた構成となるものである。また、ベース本体13及び上部プレート15にそれぞれ中間高さの堰部23を備え、この上下の堰部23の間に微細通路29を形成することも可能である。
【0022】
前記細胞アッセイ用流路チップ1をCOインキユベータ内に収納して細胞19の培養を行うために、細胞アッセイ用流路チップ1を保持するチップホルダ33が備えられている。チップホルダ33は、図4に示すように、複数の細胞アッセイ用流路チップ1を並列した状態に収容保持するための複数の収容部35を備えている。上記各収容部35は、収容した細胞アッセイ用流路チップ1を下側から観察可能に構成してあり、かつ各収容部35には、細胞アッセイ用流路チップ1における前記切欠部9と係合して位置決めを行う位置決め突出部37が備えられている。
【0023】
したがって、前記チップホルダ33における各収容部35に細胞アッセイ用流路チップ1をそれぞれ収容すると、複数の細胞アッセイ用流路チップ1は、前記位置決め突出部37に切欠部9を係合して位置決めされることになる。よって、各細胞アッセイ用流路チップ1の方向性は全て同一方向性に揃えられた状態にあるものである。
【0024】
前記細胞アッセイ用流路チップ1を用いて培養した細胞19の検査を行うための検査装置は、次のごとき構成である。すなわち、図5、図6に概念的、概略的に示すように、検査装置39は箱状に構成してあって、前記チップホルダ33を出入自在のCOインキユベータ41を備えている。そして、前記COインキユベータ41の前側には、前記チップホルダ33を支持するホルダ支持プレート43が備えられている。このホルダ支持プレート43には、前記チップホルダ33の大きさに対応した開口部45が備えられている。そして、前記ホルダ支持プレート43の下方位置には、前記開口部45に対応して位置決めしたチップホルダ33に支持されている全ての細胞アッセイ用流路チップ1の照明を行うための適数の光源47が備えられていると共に、前記開口部45を介して全ての細胞アッセイ用流路チップ1を下側から撮像するCCDカメラなどの撮像手段49が備えられている。
【0025】
したがって、前記COインキユベータ41において培養した後に、チップホルダ33に保持されている全てのチップホルダ33を撮像手段49によって撮像し、細胞の生理活性の観察のための光学的検出を行うことができるものである。なお、撮像手段49によって細胞アッセイ用流路チップ1の撮像を行う際には、全ての細胞アッセイ用流路チップ1を同時に撮像することが望ましい。しかし、個別に又は連続的に撮像することも可能である。
【0026】
該光学的検出の例としては、蛍光検出等の発光検出、吸光度検出などが挙げられる。
【0027】
本発明において細胞は、付着性細胞等の任意の細胞でよい。細胞の具体的な例としては、癌細胞、神経細胞、肝細胞、繊維芽細胞、筋芽細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、幹細胞、中胚葉系幹細胞、胚性幹細胞、グリア細胞、胎性幹細胞、造血幹細胞、肥満細胞、脂肪細胞、神経幹細胞、及び血球細胞などが挙げられる。
【0028】
また、細胞アッセイには、細胞の生理活性等、細胞の種々の特性の測定を包含する。細胞アッセイの具体的な例としては、エストロゲン応答アッセイ、アセチルコリンステラーゼアッセイ等の神経細胞分化アッセイ、乳酸デヒドロゲナーゼアッセイ、DNA細分化アッセイ等のアポトーシスアッセイ、抗アレルギーアッセイ、HSP47細胞アッセイ等のストレス応答・回復アッセイ、神経細胞保護アッセイ等の抗アルツハイマー症アッセイ、α―グルコシダーゼ阻害アッセイ等の糖吸収抑制アッセイ、MTTアッセイ等の抗腫瘍アッセイ、ニュートラルレッドアッセイ等の細胞毒性アッセイ、PC12細胞等を用いる神経細胞伸張アッセイ、アルカリフォスファターゼ活性化アッセイ、脂肪細胞分化アッセイ等の脂肪生成アッセイ、毛乳頭細胞成長アッセイ、及びメラニン生成抑制アッセイ等の皮膚美白アッセイなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0029】
1 細胞アッセイ用流路チップ
3 細胞アッセイ用流路チップ本体
5 注入口
7 排出口
9 切欠部
11 流路
13 ベース本体
15 上部プレート
17 溶液保持カップ
19 細胞
21 せき止め部
23 堰部
25 培養室
27 液溜室
29 微細連通路
33 チップホルダ
35 収容部
39 検査装置
43 ホルダ支持プレート
45 開口部
49 撮像手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養が可能な細胞アッセイ用流路チップであって、当該細胞アッセイ用流路チップ本体の上面に溶液の注入口と排出口とを備え、前記注入口と排出口とを連通した流路中に、前記注入口から注入された溶液内の細胞をせき止めするためのせき止め部を備え、当該せき止め部の上流側に培養室を備えると共に、前記せき止め部の下流側に、前記せき止め部を流れる溶液の流速を低速に抑制するために、細胞培養時には前記せき止め部よりも液面高さを高く保持する液溜室を備えていることを特徴とする細胞アッセイ用流路チップ。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞アッセイ用流路チップにおいて、前記注入口及び排出口に、溶液を所定高さに保持する溶液保持カップを備えていることを特徴とする細胞アッセイ用流路チップ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の細胞アッセイ用流路チップにおいて、前記培養室の容積よりも前記液溜室の容積を小さく構成し、かつ前記培養室の上部壁又は下部壁の少なくとも一方の壁は透明であることを特徴とする細胞アッセイ用流路チップ。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の細胞アッセイ用流路チップにおいて、前記せき止め部に、前記培養室と前記液溜室とを連通した複数の微細連通路を備えていることを特徴とする細胞アッセイ用流路チップ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の細胞アッセイ用流路チップにおいて、前記細胞アッセイ用流路チップ本体は、ベース本体と当該ベース本体に一体的に接合した上部プレートを備え、前記培養室及び前記液溜室は前記ベース本体に備え、前記注入口及び排出口は前記上部プレートに備えられており、前記せき止め部における堰部材は前記ベース本体又は前記上部プレートの適宜一方或は両方に備えていることを特徴とする細胞アッセイ用流路チップ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の細胞アッセイ用流路チップを使用した検査装置であって、複数の細胞アッセイ用流路チップを並列して支持したチップホルダを出入自在のCOインキユベータと、当該COインキユベータの前側に備えられ、前記チップホルダの大きさに対応した開口部を備えると共に前記COインキユベータに対して出し入れされるチップホルダを支持するホルダ支持プレートと、当該ホルダ支持プレートの前記開口部に対応した位置に配置されたチップホルダに支持されている全ての細胞アッセイ用流路チップを、前記開口部を介して下側から撮像するための撮像手段と、を備えていることを特徴とする検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−185008(P2012−185008A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47678(P2011−47678)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501131302)株式会社生体分子計測研究所 (15)
【Fターム(参考)】