説明

細胞傷害性T細胞の誘導方法、細胞傷害性T細胞の誘導剤、およびそれを用いた医薬組成物およびワクチン

【課題】C型肝炎ウイルス用ワクチンの提供。
【解決手段】配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるペプチド、またはその前駆体由来のペプチドを、細胞傷害性T細胞の標的となる細胞の表面のHLA分子に結合させることを含むことを特徴とする細胞傷害性T細胞の誘導方法、およびそれを用いた医薬組成物およびワクチン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞傷害性T細胞の誘導方法、細胞傷害性T細胞の誘導剤、およびそれを用いた医薬組成物およびワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(HCV)などのウイルスに感染すると、自然免疫によるウイルス排除反応が起こり、次いで、特異的免疫応答が誘導され、ウイルスの排除反応が起こる。
【0003】
特異的免疫応答では、体液中のウイルスが中和抗体により排除され、細胞内のウイルスが細胞傷害性T細胞(CTL)により排除される。すなわち、CTLは、感染細胞表面のHLAクラスI分子に提示された、8〜11のアミノ酸からなるウイルス抗原(CTLエピトープ)を特異的に認識し、感染細胞を傷害することによりウイルスを排除する。したがって、このようなウイルスに特異的なCTLエピトープを同定することは、特異的免疫応答について調査する上で重要である。
【0004】
このCTLエピトープの同定、および免疫誘導能の確認方法については、非特許文献1〜4に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Battergay, M., J. Fikes, et al. (1995). Patients with Chronic Hepatitis C Have Circulating Cytotoxic T Cells Which Recognize Hepatitis C Virus−Encoded Peptides Binding to HLA−A2.1 Molecules. J Virol 69: pp2462−2470
【非特許文献2】Cerny, A., J. McHutchinson, et al. (1995). Cytotoxic T Lymphocyte Response to Hepatitis C Virus−derived Peptides Containing the HLA A2.1 Binding Motif. J Clin Invest 95: pp521−530
【非特許文献3】Kurokohchi, K., K. Arima, et al. (2001). A novel cytotoxic T−cell epitope presented by HLA−A24 molecule in hepatitis C virus infection. J Hepatolory 34: pp930−935
【非特許文献4】Nakamoto, Y., S. Kaneko, et al. (2003). Analysis of the CD8−Positive T Cell Response in Japanese Patients With Chronic Hepatitis C Using HLA−A*2402 Peptide Tetramers. J Med Virol 70: pp51−61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記文献では2〜5配列のHLA結合性ペプチドであって、細胞傷害性T細胞を誘導するものが挙げられている。一方で、C型肝炎ウイルスは非常に変異しやすいことが知られており、一度人体に入ってからも変異する。したがって、上記文献に記載された配列のみでは変異したC型肝炎ウイルスに依存した疾病の治療には対応できないことがある。そこで、C型肝炎ウイルスに依存した疾病の治療および予防のためには、使用できるアミノ酸配列の候補を増やすべく、さらに細胞傷害性T細胞の誘導能を有するペプチド配列を同定することが望まれている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、C型肝炎ウイルスに依存した疾病の治療および予防を有効に行うことを可能にする細胞傷害性T細胞の誘導方法、細胞傷害性T細胞の誘導剤、およびこれを用いた医薬組成物およびワクチンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるペプチド、またはその前駆体由来のペプチドを、細胞傷害性T細胞の標的となる細胞の表面のHLA分子に結合させることを含むことを特徴とする細胞傷害性T細胞の誘導方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるとともに、細胞傷害性T細胞の標的となる細胞の表面のHLA分子に結合するペプチド、またはその前駆体の少なくとも一つを含むことを特徴とする細胞傷害性T細胞の誘導剤が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるとともに、C型肝炎ウイルスに感染した細胞の表面のHLA分子に結合するペプチド、またはその前駆体の少なくとも一つを含むことを特徴とするC型肝炎ウイルスに依存した疾病治療用の医薬組成物が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるとともに、C型肝炎ウイルスに感染した細胞の表面のHLA分子に結合するペプチド、またはその前駆体の少なくとも一つを含むことを特徴とするC型肝炎ウイルスに依存した疾病の予防または治療に用いられるワクチンが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細胞傷害性T細胞を有効に誘導することができるため、特にC型肝炎ウイルスに依存した疾病の治療または予防に有用な医薬組成物およびワクチンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0014】
【図1】実施例で用いた能動学習実験計画を説明する模式図である。
【図2】実施例にて、細胞傷害性T細胞の誘導能を調べた結果を示すグラフである。
【図3】実施例にて、細胞傷害性T細胞の誘導能を調べた結果を示すグラフである。
【図4】実施例にて、C型肝炎ウイルス発現細胞の傷害を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
<実施形態1>
本実施形態にかかる細胞傷害性T細胞の誘導方法では、配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるペプチド、またはその前駆体由来のペプチド(以下、「HLA結合性ペプチド」という)を、細胞傷害性T細胞の標的となる細胞の表面のHLA分子に結合させることを含むことを特徴としている。
【0017】
配列番号1〜13に示されるアミノ酸配列は、いずれも配列番号15および16に示したC型肝炎ウイルス(HCV)の所定のゲノムタンパク質に含まれる9アミノ酸残基からなる配列である。
【0018】
また、これらアミノ酸配列は、能動学習実験法(特開平11−316754号公報)を用いて得られる仮説により予測された、HLA分子との結合性が、−logKd値に換算して3以上であるアミノ酸配列の中から、HLA分子との結合実験により、実際にHLA結合性を示すことが確認され、かつ、細胞傷害性T細胞の誘導能が示されたものである。
【0019】
なお、候補の選定にあたり、HLA分子との結合性が−logKd値に換算して3以上であるアミノ酸配列としたのは、生化学の分野では、−logKd値に換算しておおよそ結合能の3前後が、実際にペプチドがHLAをはじめとするMHCに結合するかしないかのしきい値として取り扱うことができるという観点からである。
【0020】
すなわち、配列番号1から13に示されるアミノ酸配列を有するペプチドは、C型肝炎ウイルスに感染した細胞により表面のHLA分子に提示される抗原ペプチドのエピトープに相当する。
【0021】
配列番号1から13に示されるアミノ酸配列を有するペプチドは、遺伝子Aの対立遺伝子型のひとつであるHLA−A*2402遺伝子の産物(HLA−A24型分子)に結合することが確認されており、日本人種の約50%がこのサブクラスのHLA−A24型分子を持つ。
【0022】
ここで、配列番号1から13、およびこれらと比較するための配列番号14の配列を、下記の表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
配列番号1から14の配列のうち、配列名に「D90」が付されたものは、後述するHCVのD90208株の所定のゲノムタンパク質(配列番号:15)に含まれる9アミノ酸残基からなる配列を表す。また、配列名に「D89」が付されたものは、後述するHCVのD89815株の所定のゲノムタンパク質(配列番号:16)に含まれる9アミノ酸残基からなる配列を表す。さらに、「D90D89」が付されたものは、前述の両方に共通して含まれる配列を表す。また、表中には、各配列のHLA−A24型分子との結合性に関する予測スコアおよび結合実験データが、−logKd値で示されている。このように予測スコアと結合実験データとの間には関連性が存在している。
【0025】
従来は、このように実験計画法を活用してHLA結合性ペプチドを見出す手法は採られていなかったために、実験的にHLA結合性が確認された極少数のHLA結合性ペプチドが知られていたに過ぎなかった。そのため、従来の手法で全くランダムに9アミノ酸残基からなるペプチドを合成し、HLA分子との結合実験を行っても、結合性が−logKd値に換算して6を超えるものは、確率的には約100個に1個しかなかった。
【0026】
また、さらに、後述するように能動学習実験法にて予測された候補の中で、配列番号14のアミノ酸配列を有するペプチドは、HLA分子との結合実験において高い結合性を示したものの、細胞傷害性T細胞の誘導能を示さなかった。一方で、配列番号1〜13のアミノ酸配列を有するペプチドは、細胞傷害性T細胞の誘導能を示した。
【0027】
このように、細胞傷害性T細胞を誘導するためには、能動学習実験法にてHLA結合性ペプチドの配列予測をするだけではなく、それらの予測された候補の中から、特定のアミノ酸配列を選択することは重要なファクターとなる。
【0028】
本実施形態において、配列番号1から13のアミノ酸配列を有するペプチドは、細胞傷害性T細胞(CTL)の標的となる細胞を含む系に導入されて、この細胞の表面のHLAクラスI分子に結合し、抗原ペプチドとして細胞傷害性T細胞に提示される。細胞傷害性T細胞は、これを特異的に認識し、誘導される。また、誘導された細胞傷害性T細胞は、前記抗原ペプチドを提示している細胞を傷害する。このようにして、配列番号1から13のアミノ酸配列を有するペプチドは、細胞傷害性T細胞を誘導するためのウイルス抗原(CTLエピトープ)として作用する。
【0029】
ここで、「誘導する」とは、ある活性もしくは作用をほとんど有さないものまたは状態から、活性もしくは作用を発生させることを意味する。特に、「細胞傷害性T細胞を誘導する」とは、インビトロあるいはインビボにおいて、ある抗原を特異的に認識する細胞傷害性T細胞を、標的細胞を殺傷する能力を持つエフェクター細胞に分化させる、および/または増殖させることを意味する。
【0030】
したがって、別の観点によれば、配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるとともに、細胞傷害性T細胞の標的となる細胞の表面のHLA分子に結合するペプチド、またはその前駆体の少なくとも一つを含むことにより、細胞傷害性T細胞の誘導剤を得ることができる。
【0031】
「細胞傷害性T細胞の誘導剤」とは、ある抗原を特異的に認識するCD8陽性T細胞が存在しないかあるいは非常に低い割合でしか存在しない状態から、この抗原を認識する細胞傷害性T細胞が非常に多い割合で存在するような状態へと変化させる作用、および個々の細胞傷害性T細胞の標的殺傷能力を高める作用を示す薬剤を意味する。
【0032】
また、能動学習実験法にて予測され、結合実験により実際に結合することが確認されたアミノ酸配列を含むHLA結合性ペプチドのうち、一部のもののみに細胞傷害性T細胞が誘導されたということから、細胞傷害性T細胞を誘導するためには、ペプチドが細胞表面のHLA分子に結合することが重要であることには変わりないが、個人ごとのT細胞レパートリーの違いなど、さらに別の要因が作用しているものと考えられる。
【0033】
なお、本実施形態にて用いるHLA結合性ペプチドには、配列番号1から13の配列を有するペプチドにおいて、HLA分子への結合能に影響を及ぼさない配列または部位を、化学的な修飾、HCVのゲノムタンパク質で使用されるアミノ酸とは異なる立体異性体への置換など、修飾を入れたものも含まれる。また、このようなHLAペプチドは、上述のようなアミノ酸残基のみからなるペプチドであってもよいが、特に限定するものではない。例えば、必要に応じて本発明の作用効果を阻害しない範囲で糖鎖または脂肪酸基などの修飾を受けているHLA結合性ペプチド前駆体であってもよい。このような前駆体が、人体の消化器官などのほ乳類の生体内において、消化酵素などにより消化されるなどの変化を受けて、HLA結合性ペプチドとなることによっても、上記のHLA結合性ペプチドにおいて結合性ペプチドと同様の作用効果が得られる。
【0034】
本実施形態では、日本人種を含むアジア人種に多いHLA−A24型分子に対して結合するペプチドにより細胞傷害性T細胞を誘導することができるため、これを利用して日本人種を含むアジア人種に特に効果的な治療薬、予防薬などの開発に利用できる。欧米では、HLA−A24型分子を持つヒトの割合は十数%と低下するが、それでも主だったHLA遺伝子型のひとつであることには変わりはなく、免疫治療薬の対象分子として重要である。
【0035】
また、本実施形態で使用されるHLA結合性ペプチドは、いずれも当業者に公知の手法を用いて製造可能である。例えば、固相法または液相法により人工合成してもよい。また、これらのHLA結合性ペプチドをコードするDNA断片または組み換えベクターから発現することにより、これらのHLA結合性ペプチドを製造してもよい。また、こうして得られたHLA結合性ペプチドは、いずれも当業者に公知の手法を用いて同定可能である。例えば、エドマン分解法や質量分析法などを用いて同定可能である。
【0036】
<実施形態2>
本実施形態にかかる医薬組成物は、実施形態1にて説明した細胞傷害性T細胞の誘導剤を含む。すなわち、この医薬組成物は、配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるとともに、C型肝炎ウイルスを発現した細胞(以下、「発現細胞」という)の表面のHLA分子に結合するペプチド、またはその前駆体の少なくとも一つを含むことを特徴とするC型肝炎ウイルスに依存した疾病治療用の医薬組成物である。
【0037】
配列番号1〜13のアミノ酸配列を有するペプチドは、実施形態1で説明したように、HLA結合性を有し、かつ、細胞傷害性T細胞を誘導することができる。
【0038】
そこで、実施形態1の説明において、細胞傷害性T細胞の標的細胞として発現細胞を用いることで、細胞傷害性T細胞を誘導することができ、この誘導された細胞傷害性T細胞により、発現細胞が傷害される。
【0039】
すなわち、本実施形態の医薬組成物をC型肝炎ウイルスに依存した疾病の患者に投与することにより、組成物中に含まれるペプチドが、患者の体内で細胞の表面のHLAクラスI分子に結合し、抗原ペプチドとして細胞傷害性T細胞に提示される。細胞傷害性T細胞は、これを特異的に認識し、活性化する。これにより、細胞傷害性T細胞が誘導される。また、誘導された細胞傷害性T細胞は、前記抗原ペプチドを提示している感染細胞を傷害して、この働きによりC型肝炎の治療に寄与することができる。
【0040】
なお、本実施形態に含まれるHLA結合性ペプチドは、上述のようにアミノ酸残基のみからなるペプチドであってもよいが、特に限定するものではない。例えば、必要に応じて本発明の作用効果を阻害しない範囲で糖鎖または脂肪酸基などの修飾を受けているHLA結合性ペプチド前駆体であってもよい。このような前駆体が、人体の消化器官などのほ乳類の生体内において、消化酵素などにより消化されるなどの変化を受けて、HLA結合性ペプチドとなることによっても、上記のHLA結合性ペプチドにおいて結合性ペプチドと同様の作用効果が得られる。また、このようなHLA結合性ペプチドは、いずれも当業者に公知の手法を用いて製造可能である。例えば、固相法または液相法により人工合成してもよい。
【0041】
本実施形態の医薬組成物は、水溶性溶剤に溶かして、製薬上許容される塩の形態で製剤にして、患者に投与することができる。
【0042】
このような製薬上許容される塩の形態としては、生理的に受け入れられる水溶性の塩、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、などの塩の形で生理的なpHにて緩衝させた形態が挙げられる。また、水溶性溶剤の他に、非水溶性溶剤を用いることもでき、このような非水溶性溶剤としては、例えばアルコール、例えばエタノール、プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0043】
また、本実施形態の医薬組成物を含む製剤には、様々な目的に対する薬剤を含めてもよく、このような薬剤としては、例えば保存剤、緩衝剤などが挙げられる。
【0044】
保存剤としては、ナトリウム重亜硫酸、ナトリウム重硫酸、ナトリウムチオ硫酸塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、メチルパラベン、ポリビニルアルコール、フェニルエチルアルコール、アンモニア、ジチオスレイトール、ベータメルカプトエタノールなどが挙げられる。また、緩衝剤としては、炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが挙げられる。これら薬剤は、系のpHを2〜9、好ましくは4〜8の間で維持することできる量で存在することができる。
【0045】
<実施形態3>
本実施形態にかかるワクチンは、実施形態2にて説明した医薬組成物を含む。すなわち、このワクチンは、配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるとともに、C型肝炎ウイルスを発現した細胞(以下、「発現細胞」という)の表面のHLA分子に結合するペプチド、またはその前駆体の少なくとも一つを含むことを特徴とするC型肝炎ウイルスに依存した疾病の予防または治療に用いられるワクチンである。
【0046】
前記医薬組成物に含まれる配列番号1から13のアミノ酸配列を有するペプチドは、実施形態1で説明したように、HLA結合性を有し、かつ、細胞傷害性T細胞を誘導することができる。
【0047】
そこで、実施形態2と同様に、実施形態1の説明において、細胞傷害性T細胞の標的細胞としてHCV発現細胞を用いることで、細胞傷害性T細胞を誘導することができ、この誘導された細胞傷害性T細胞により、HCV発現細胞が傷害される。
【0048】
すなわち、本実施形態のワクチンをC型肝炎患者に投与することにより、組成物中に含まれるペプチドが、注射部位に常在する樹状細胞をはじめとする患者の組織細胞表面のHLA−A24型分子に結合する。これを、このペプチドに特異的な細胞傷害性T細胞が認識すると活性化し、増殖して全身循環に回る。ペプチドに特異的な細胞傷害性T細胞が発現肝組織に侵入すると、C型肝炎ウイルス発現肝細胞の表面にあるHLA−A24型分子に自然に結合しているウイルス由来の同一ペプチドを認識して、その発現細胞を殺傷し、ウイルスの発生源が断たれる。この働きによりC型肝炎ウイルスに依存した疾病の治療に寄与することができる。
【0049】
あるいは、本実施形態のワクチンを健康な人体に投与することにより、細胞傷害性T細胞が誘導され、誘導された細胞傷害性T細胞が体内で留まるため、C型肝炎ウイルスが侵入したときに、このC型肝炎ウイルスを発現する細胞を傷害することができる。この働きによりC型肝炎ウイルスに依存した疾病の予防に寄与することができる。
【0050】
なお、本実施形態に含まれるHLA結合性ペプチドは、上述のようにアミノ酸残基のみからなるペプチドであってもよいが、特に限定するものではない。例えば、必要に応じて本発明の作用効果を阻害しない範囲で糖鎖または脂肪酸基などの修飾を受けているHLA結合性ペプチド前駆体であってもよい。このような前駆体が、人体の消化器官などのほ乳類の生体内において、消化酵素などにより消化されるなどの変化を受けて、HLA結合性ペプチドとなることによっても、上記のHLA結合性ペプチドにおいて結合性ペプチドと同様の作用効果が得られる。また、このようなHLA結合性ペプチドは、いずれも当業者に公知の手法を用いて製造可能である。例えば、固相法または液相法により人工合成してもよい。
【0051】
また、本実施形態のワクチンは、医薬組成物以外の成分であり、それ自身には活性がなく、医薬組成物のワクチンとしての効果をより一層高める効果のある成分を含んだ不活性成分含有ワクチンの剤型で使用することができる。不活性成分としては、アジュバント、トキソイドなどが挙げられる。
【0052】
実施形態2の医薬組成物、実施形態3のワクチンは、皮下、静脈内、筋肉内投与などによる注射または注入、または経皮、または鼻、咽などの粘膜からの吸入などにより、体内に投与される。
その一回投与量は、細胞傷害性T細胞を有意に誘導できる量から有意な数の非感染細胞が傷害を受けない量の間にて設定することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例1】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
具体的に、本実施例における予測・実験・評価の手順は、WO2006/004182号公報に記載された能動学習実験計画に基づいて行い、全体として次のステップを繰り返してルールを構築した。ここで用いた能動学習実験計画の模式図を図1に示す。
【0056】
(1)後述する下位学習アルゴリズムの試行1回分を行う。すなわち、蓄積データのランダムリサンプリングから複数の仮説を発現し、ランダムに発現された質問候補点(ペプチド)に対する予測値の分散が最も大きい点を、実験すべき質問点として選ぶ。
【0057】
(2)選ばれた質問点のペプチドを、後述する合成・精製法により製造し、実際の結合能を後述する実験により測定して蓄積データに加える。
【0058】
このような能動学習法を行うことにより、本来ならば、9アミノ酸残基からなるペプチドについて、HLA結合性ペプチドの全候補物質5000億(=20)通り以上について行う必要のある結合実験の数を削減できた。
【0059】
以上説明したようなルールにより、配列番号1〜14に示したアミノ酸配列を抽出した。
【0060】
<ペプチド合成と精製>
配列番号1から14のアミノ酸配列を有するペプチドは、Fmocアミノ酸を用い、Merrifieldの固相法にて、マニュアル合成をした。脱保護の後、C18カラムを用いて逆相HPLC精製をし、95%以上の純度にした。ペプチドの同定と純度の確認は、MALDI−TOF質量分析にて行った(Voyager DE RP、PerSeptive)。ペプチドの定量は、BSAを標準蛋白質としてMicro BCAアッセイ(Pierce社)にて行った。
【0061】
<ペプチドのHLA−A24型分子への結合実験>
HLA−A*2402遺伝子の産物であるHLA−A24型分子への、配列番号1から14のアミノ酸配列を有するペプチドの結合能の測定は、HLA−A24型分子を発現するC1R−A24細胞(熊本大学、滝口雅文教授作成のものを、許可を得て愛媛大学、安川正貴助教授から供与いただいた。)を用いて行った。
【0062】
まず、C1R−A24細胞をpH3.3の酸性条件に30秒曝し、HLA−A*2402分子に元来結合している内因性ペプチドと、HLAクラスI分子に共通して会合している軽鎖β2mを解離、除去した。中和後、C1R−A24細胞に精製β2mを添加し、ペプチドの希釈列に加えて、氷上4時間インキュベートした。この間に再会合したHLA−A*2402分子、ペプチド、β2mの3者の会合体(MHC−pep)を認識する蛍光標識モノクローナル抗体17A12を用いて染色した。
【0063】
その後、個々のC1R−A24細胞当たりのMHC−pep数(上記蛍光抗体の蛍光強度に比例する)を、蛍光細胞解析装置FACScan(Becton−Dickinson社)を用いて定量測定した。1細胞当たりの平均蛍光強度から、論文(Udaka et al., Immunogenetics, 51、 816−828、 2000)に発表した方法にて、HLA−A24型分子とペプチド間の結合解離定数Kd値を算出した。
【0064】
<結合実験の評価結果>
その結果、上記表1に示した予測結果および実験結果が得られた。
【0065】
表1の配列番号1から3の配列、配列番号8の配列および配列番号11から14の配列は、GENBANKに登録されているHCVのD90208株の所定のゲノムタンパク質の全長配列(配列番号15)および同じくGENBANKに登録されているHCVのD89815株の所定のゲノムタンパク質の全長配列(配列番号16)の両方に共通して含まれる9アミノ酸残基からなる配列である。
【0066】
また、配列番号4から7の配列および配列番号9の配列は、前記HCVのD90208株の所定のゲノムタンパク質の全長配列(配列番号15)にのみ含まれる9アミノ酸残基からなる配列である。また、配列番号10は、前記HCVのD89815株の所定のゲノムタンパク質の全長配列(配列番号16)にのみ含まれる9アミノ酸残基からなる配列である。
【0067】
なお、HCVのD90208株の所定のゲノムタンパク質の全長アミノ酸配列を、配列番号15(MSTNPKPQRKTKRNTNRRPQDVKFPGGGQIVGGVYLLPRRGPRLGVRATRKTSERSQPRGRRQPIPKARRPEGRTWAQPGYPWPLYGNEGMGWAGWLLSPRGSRPSWGPTDPRRRSRNLGKVIDTLTCGFADLMGYIPLVGAPLGGAARALAHGVRVLEDGVNYATGNLPGCSFSIFLLALLSCLTIPASAYEVRNVSGIYHVTNDCSNSSIVYEAADMIMHTPGCVPCVRESNFSRCWVALTPTLAARNSSIPTTTIRRHVDLLVGAAALCSAMYVGDLCGSVFLVSQLFTFSPRRYETVQDCNCSIYPGHVSGHRMAWDMMMNWSPTTALVVSQLLRIPQAVVDMVAGAHWGVLAGLAYYSMVGNWAKVLIVMLLFAGVDGHTHVTGGRVASSTQSLVSWLSQGPSQKIQLVNTNGSWHINRTALNCNDSLQTGFIAALFYAHRFNASGCPERMASCRPIDEFAQGWGPITHDMPESSDQRPYCWHYAPRPCGIVPASQVCGPVYCFTPSPVVVGTTDRFGAPTYSWGENETDVLLLSNTRPPQGNWFGCTWMNSTGFTKTCGGPPCNIGGVGNNTLVCPTDCFRKHPEATYTKCGSGPWLTPRCMVDYPYRLWHYPCTVNFTVFKVRMYVGGVEHRLNAACNWTRGERCDLEDRDRSELSPLLLSTTEWQILPCSFTTLPALSTGLIHLHRNIVDVQYLYGIGSAVVSFAIKWEYILLLFLLLADARVCACLWMMLLIAQAEATLENLVVLNAASVAGAHGLLSFLVFFCAAWYIKGRLVPGAAYALYGVWPLLLLLLALPPRAYAMDREMAASCGGAVFVGLVLLTLSPYYKVFLARLIWWLQYFITRAEAHLQVWVPPLNVRGGRDAIILLTCAVHPELIFDITKLLLAILGPLMVLQAGITRVPYFVRAQGLIRACMLVRKVAGGHYVQMAFMKLAALTGTYVYDHLTPLRDWAHAGLRDLAVAVEPVVFSDMETKLITWGADTAACGDIISGLPVSARRGKEILLGPADSFGEQGWRLLAPITAYSQQTRGLLGCIITSLTGRDKNQVDGEVQVLSTATQSFLATCVNGVCWTVYHGAGSKTLAGPKGPITQMYTNVDQDLVGWPAPPGARSMTPCTCGSSDLYLVTRHADVVPVRRRGDSRGSLLSPRPISYLKGSSGGPLLCPSGHVVGIFRAAVCTRGVAKAVDFIPVESMETTMRSPVFTDNSSPPAVPQTFQVAHLHAPTGSGKSTKVPAAYAAQGYKVLVLNPSVAATLGFGAYMSKAHGIEPNIRTGVRTITTGGPITYSTYCKFLADGGCSGGAYDIIICDECHSTDSTTILGIGTVLDQAETAGARLVVLATATPPGSITVPHPNIEEVALSNTGEIPFYGKAIPIEAIKGGRHLIFCHSKKKCDELAAKLTGLGLNAVAYYRGLDVSVIPTSGDVVVVATDALMTGFTGDFDSVIDCNTCVTQTVDFSLDPTFTIETTTLPQDAVSRAQRRGRTGRGRSGIYRFVTPGERPSGMFDSSVLCECYDAGCAWYELTPAETSVRLRAYLNTPGLPVCQDHLEFWESVFTGLTHIDAHFLSQTKQAGDNLPYLVAYQATVCARAQAPPPSWDQMWKCLIRLKPTLHGPTPLLYRLGAVQNEVTLTHPITKYIMACMSADLEVVTSTWVLVGGVLAALAAYCLTTGSVVIVGRIILSGRPAVIPDREVLYQEFDEMEECASHLPYIEQGMQLAEQFKQKALGLLQTATKQAEAAAPVVESKWRALEVFWAKHMWNFISGIQYLAGLSTLPGNPAIASLMAFTASITSPLTTQNTLLFNILGGWVAAQLAPPSAASAFVGAGIAGAAVGSIGLGKVLVDILAGYGAGVAGALVAFKVMSGEMPSTEDLVNLLPAILSPGALVVGVVCAAILRRHVGPGEGAVQWMNRLIAFASRGNHVSPTHYVPESDAAARVTQILSSLTITQLLKRLHQWINEDCSTPCSGSWLKDVWDWICTVLSDFKTWLQSKLLPRLPGLPFLSCQRGYKGVWRGDGIMQTTCPCGAQITGHVKNGSMRIVGPKTCSNTWHGTFPINAYTTGPCTPSPAPNYSRALWRVAAEEYVEVTRVGDFHYVTGMTTDNVKCPCQVPAPEFFTEVDGVRLHRYAPVCKPLLREEVVFQVGLNQYLVGSQLPCEPEPDVAVLTSMLTDPSHITAETAKRRLARGSPPSLASSSASQLSAPSLKATCTTHHDSPDADLIEANLLWRQEMGGNITRVESENKVVILDSFDPIRAVEDEREISVPAEILRKPRKFPPALPIWARPDYNPPLLESWKDPDYVPPVVHGCPLPSTKAPPIPPPRRKRTVVLTESTVSSALAELATKTFGSSGSSAVDSGTATGPPDQASDDGDKGSDVESYSSMPPLEGEPGDPDLSDGSWSTVSGEAGEDVVCCSMSYTWTGALITPCAAEESKLPINPLSNSLLRHHSMVYSTTSRSASLRQKKVTFDRLQVLDDHYRDVLKEMKAKASTVKARLLSIEEACKLTPPHSAKSKFGYGAKDVRSLSSRAVNHIRSVWEDLLEDTETPIDTTIMAKNEVFCVQPEKGGRKPARLIVFPDLGVRVCEKMALYDVVSTLPQAVMGPSYGFQYSPGQRVEFLVNTWKSKKCPMGFSYDTRCFDSTVTENDIRTEESIYQCCDLAPEARQAIRSLTERLYVGGPLTNSKGQNCGYRRCRASGVLTTSCGNTLTCYLKATAACRAAKLQDCTMLVNGDDLVVICESAGTQEDAAALRAFTEAMTRYSAPPGDPPQPEYDLELITSCSSNVSVAHDASGKRVYYLTRDPTTPLARAAWETVRHTPVNSWLGNIIMYAPTLWARMILMTHFFSILLAQEQLEKALDCQIYGACYSIEPLDLPQIIERLHGLSAFSLHSYSPGEINRVASCLRKLGVPPLRVWRHRARSVRAKLLSQGGRAATCGKYLFNWAVKTKLKLTPIPAASQLDLSGWFVAGYNGGDIYHSLSRARPRWFMLCLLLLSVGVGIYLLPNR)に示す。
【0068】
また、HCVのD89815株の所定のゲノムタンパク質の全長アミノ酸配列を、配列番号16(MSTNPKPQRKTKRNTNRRPQDVKFPGGGQIVGGVYLLPRRGPRLGVRATRKTSERSQPRGRRQPIPKARRPEGRTWAQPGYPWPLYGNEGLGWAGWLLSPRGSRPSWGPNDPRRRSRNLGKVIDTLTCGFADLMGYIPLVGAPLGGAARALAHGVRVLEDGVNYATGNLPGCSFSIFLLALLSCLTIPASAYEVRNVSGIYHVTNDCSNSSIVYEAADVIMHAPGCVPCVRENNSSRCWVALTPTLAARNASVPTTTLRRHVDLLVGTAAFCSAMYVGDLCGSVFLISQLFTFSPRRHETVQDCNCSIYPGHVSGHRMAWDMMMNWSPTAALVVSQLLRIPQAVMDMVAGAHWGVLAGLAYYSMVGNWAKVLIVMLLFAGVDGHTRVTGGVQGHVTSTLTSLFRPGASQKIQLVNTNGSWHINRTALNCNDSLKTGFLAALFYTHKFNASGCPERMASCRSIDKFDQGWGPITYAQPDNSDQRPYCWHYAPRQCGIVPASQVCGPVYCFTPSPVVVGTTDRFGAPTYNWGDNETDVLLLNNTRPPHGNWFGCTWMNSTGFTKTCGGPPCNIRGVGNNTLTCPTDCFRKHPDATYTKCGSGPWLTPRCLVDYPYRLWHYPCTVNFTIFKVRMYVGGVEHRLDAACNWTRGERCDLEDRDRAELSPLLLSTTEWQILPCSYTTLPALSTGLIHLHQNIVDIQYLYGIGSAVVSIAIKWEYVVLLFLLLADARVCACLWMMLLIAQAEAALENLVVLNAASVVGAHGMLPFFMFFCAAWYMKGRLVPGAAYAFYGVWPLLLLLLALPPRAYAMDREMVASCGGGVFVGLALLTLSPYCKVFLARLIWWLQYFITKAEAHLQVSLPPLNVRGGRDAIILLMCAVHPELIFDITKLLLSILGPLMVLQASLIRVPYFVRAQGLIRACMLVRKAAGGHYVQMAFVKLAALTGTYVYDHLTPLQDWAHVGLRDLAVAVEPVVFSAMETKVITWGADTAACGDIISGLPVSARRGKEILLGPADSFEGQGWRLLAPITAYSQQTRGLLGCIITSLTGRDKNQVEGEVQVVSTAKQSFLATCVNGACWTVFHGAGSKTLAAAKGPITQMYTNVDQDLVGWPAPPGARSLTPCTCGSSDLYLVTRHADVIPVRRRGDSRGSLLSPRPISYLKGSSGGPLLCPSGHVVGIFRAAVCTRGVAKAVDFIPVESMETTMRSPVFTDNSTPPAVPQTFQVAHLHAPTGSGKSTKVPAAYAAQGYMVLVLNPSVAATLGFGAYMSKAHGIDPNIRTGVRTITTGAPITYSTYGKFLADGGCSGGAYDIIICDECHSTDSTSILGIGTVLDQAETVGARFVVLATATPPGSITFPHPNIEEVPLANTGEIPFYAKTIPIEVIRGGRHLIFCHSKKKCDELPAKLSALGLNAVAYYRGLDVSVIPASGDVVVVATDALMTGFTGDFDSVIDCNTCVTQTVDFSLDPTFTIETTTVPQDAVSRTQRRGRTGRGRRGIYRFVTPGERPSAMFDSSVLCECYDAGCAWYELTPAETSVRLRAYLNTPGLPVCQDHLEFWESVFTGLTHIDAHFLSQTKQAGDNFPYLVAYQATVCARAKAPPPSWDQMWKCLIRLKPTLHGPTPLLYRLGAVQNEVTLTHPITKYIMACMSADLEVVTSTWVLVGGVLAALAAYCLTTGSVVIVGRIILSGRPAVIPDREVLYQEFDEMEECASHLPYIEQGMQLAEQFKQKALGLLQTATKQAEAAAPVVESKWRALETFWAKHMWNFISGIQYLAGLSTLPGNPAIASLMAFTASITSPLATQYTLLFNILGGWVAAQLAPPSAASAFVGAGIAGAAVGSIGLGKVLVDILAGYGAGVAGALVAFKVMSGDMPSTEDLVNLLPAILSPGALVVGVVCAAILRRHVGPGEGAVQWMNRLIAFASRGNHVSPTHYVPESDAAARVTQILSNLTITQLLKRLHQWINEDCSTPCSGSWLRDVWDWICTVLADFKTWLQSKLLPRLPGVPFFSCQRGYKGVWRGDGIMYTTCPCGAQITGHVKNGSMRIVGPRTCSNTWHGTFPINAYTTGPCTPSPAPNYSRALWRVAAEEYVEVTRVGDFHYVTGMTTDNVKCPCQVPAPEFFTELDGVRLHRYAPACKPLLRDEVTFQVGLNQYTVGSQLPCEPEPDVTVVTSMLTDPSHITAEAARRRLARGSPPSLAGSSASQLSALSLKATCTTHHGAPDTDLIEANLLWRQEMGGNITRVESENKIVILDSFEPLRAEEDEREVSAAAEILRKTRKFPAAMPVWARPDYNPPLLESWKNPDYVPPVVHGCPLPPTKAPPIPPPRRKRTVVLTESTVSSALAELATKTFGGSGSSAVDSGTATGPPDQASAEGDAGSDAESYSSMPPLEGEPGDPDLSDGSWSTVSEEASEDVVCCSMSYTWTGALITPCAAEESKLPINALSNPLLRHHNMVYSTTSRSASLRQKKVTFDRMQVLDDHYRDVLKEMKAKASTVKAKLLSVEEACKLTPPHSAKSKFGYGAKDVRSLSSRAVNHIRSVWKDLLEDTDTPIQTTIMAKNEVFCVQPEKGGRKPARLIVFPDLGVRVCEKMALYDVVSTLPQAVMGSSYGFQYSPKQRVEFLVNTWKAKKCPMGFSYDTRCFDSTVTENDIRVEESIYQCCDLAPEARQAIRSLTERLYIGGPMTNSKGQNCGYRRCRASGVLTTSCGNTLTCYLKAAAACRAAKLQDCTMLVCGDDLVVICDSAGTQEDAASLRVFTEAMTRYSAPPGDPPQPEYDLELITSCSSNVSVAHDASGKRVYYLTRDPTTPLARAAWETARHTPVNSWLGNIIMYAPTLWARMILMTHFFSILLAQEQLEKALDCQIYGATYSIEPLDLPQIIQRLHGLSAFSLHSYSPGEINRVASCLRKLGVPPLRVWRHRARSVRAKLLSQGGRAATCGKYLFNWAVKTKLKLTPIPEASQLDLSGWFVAGYSGGDIYHSLSRARPRWFMWCLLLLSVGVGIYLLPNR)に示す。
【0069】
<細胞傷害性T細胞の誘導実験>
以下の実験を、ヒトの採取血液を用いて行った。
(1)細胞傷害性T細胞の活性化
あらかじめインフォームドコンセントを得たC型肝炎患者または健常人から血液を採取した。
96ウェルプレートにまいた血液細胞(Peripheral blood mononuclear cells:PBMCs)に対し、配列番号1から14のペプチドを1μMの最終濃度となるように1週間ごとに5回添加し、10%FCSと5ng/mlのIL−2を添加した培地中で細胞傷害性T細胞を活性化させて、T細胞サンプルとした。
【0070】
(2)51Cr標識した細胞の処理
C1R−A24細胞、およびT2−A24細胞(TAPペプチドトランスポーターを持たず、HLA−A*2402遺伝子を発現させたヒトB/T培養細胞株:大阪大学医学部坪井博士より供与いただいた)に対し、51Crのナトリウム塩(sodium chromate)を37℃あるいは26℃で1時間添加することにより、細胞を51Crで標識した。そこに、配列番号1から14のペプチドを、1μMの最終濃度となるように添加し、細胞表面に各ペプチドを結合した標的細胞を作成した。
【0071】
(3)標識細胞の傷害
上記で調製した細胞傷害性T細胞と標的細胞とを、E/T比(effecter to target)が10〜20となるように混合して37℃で3.5時間静置したのち、培養上清中に遊離した51Crの放射活性を測定した。細胞傷害性T細胞の作用に依存しない非特異的な活性の影響を除き、標識細胞の傷害活性として算出した。
【0072】
<誘導実験の結果>
図2、図3に、それぞれ別々の培地で培養されたT細胞サンプルでの、各アミノ酸配列のペプチドの細胞傷害性T細胞の誘導実験の結果を示す。図中、8人(または7人)のそれぞれ由来の血液についてのデータを「系列1」から「系列8(または系列7)」にて示している。
配列番号1から13の配列については、8人のうち、いずれかの者由来の血液について、細胞傷害性T細胞の誘導能が示された。逆に、配列番号14の配列については、いずれの血液についても細胞傷害性T細胞の誘導能が示されなかった。この傾向は、図2、図3の両方において共通していた。
【0073】
図2、図3ともに、配列番号1から13のアミノ酸配列が、8人全ての血液について、同じような細胞傷害性T細胞の誘導能が示されなかった理由としては、HLA分子の結合には個人間で差がないが、個人ごとのT細胞レパートリーが、個人の遺伝背景や過去の感染履歴によって異なるため、ペプチド反応性に個人差が出た可能性などが考えられる。
したがって、図2、図3により、多くの患者に対応するためという観点からは、複数種類のアミノ酸を一度に使用することが好ましいということが示唆される。
【実施例2】
【0074】
<HCV発現細胞を標的とした傷害活性>
(1)HCVゲノム発現細胞の準備
RzM6細胞は、HCV1bのフルゲノム(AY045702)の発現をCreの存在下でコンディショナルに誘導できるように改変したHCV遺伝子を、ヒト肝細胞株であるHepG2にトランスフェクトさせたものである(Activation of the CK1−CDK−Rb−E2F pathway in full genome hepatitis C virus−expressing cells. Tsukiyama−Kohara et al.、J.Biol.Chem.279、14531−14541、2004、RzM6は都臨床研小原道法先生より供与を受けた)。
HCVの発現方法は、同じRzM6細胞にCre遺伝子をTamoxifen誘導性プロモーターの下流に配したconditional発現カセットを重複してトランスフェクトさせてあるので、タモキシフェンを添加することにより、Creの発現を誘導し、その結果、HCV遺伝子の発現が誘導できるようになっている。HCV遺伝子を発現誘導したRzM6細胞をC1R−A24細胞と同様の方法により51Crで標識し、標的細胞を作成した。
【0075】
(2)HCVゲノム発現細胞の傷害
上記で調整した細胞傷害性T細胞と、RzM6標的細胞あるいはHCVを導入していないHepG2細胞をコントロールとして、E/T比が10となるように混合して37℃で3時間静置したのち、培養上清中に遊離した51Crの放射活性を測定した。細胞傷害性T細胞の作用に依存しない非特異的な活性の影響を除き、標的細胞の傷害活性として算出した。
【0076】
<HCVゲノム発現細胞に対する傷害実験の結果>
図4に、別々の人から末梢血T細胞を取り、各アミノ酸配列のペプチドで刺激して反応性T細胞を増やした細胞株の、HCVゲノム発現細胞RzM6に対する細胞傷害実験の結果を示す。グラフのそれぞれの棒は、異なる人から取った細胞株の傷害活性を示す。
配列番号1、2、4、5、7、8、9、10、12、13の配列については、いずれかの患者由来の血液について、細胞傷害性T細胞によるHCV発現細胞特異的な傷害活性が示された。
【実施例3】
【0077】
<用いる動物モデル>
HCVは、ヒト及びチンパンジー以外では複製しないという性質を持つ。しかし動物モデルとしてチンパンジーを用いた場合には、一部が慢性肝炎に移行するものの、急性肝炎で治癒する傾向があり、ヒトと同じ病態を示すわけではない。さらに、膨大な費用を必要とし慢性肝炎の発症までに1年以上がかかる上に、使用後のチンパンジーは倫理的に屠殺処理が難しく、通常の研究機関における感染実験は事実上不可能である。そこで、代わりとなる動物モデルとして、HCV遺伝子が発現するように改良を加えた発現ベクターを用いて、マウスなどの小動物に感染させる系が利用されている。
【0078】
<実験材料>
(1)HCVトランスジェニックマウス(CN2−29)
東京都臨床医学総合研究所の小原道法先生が作成された、HCVゲノムの前3分の1に当たる部分(nt:294−3435)だけをコンディショナルに発現するトランスジェニックマウスを用いる(参考論文:Efficient conditional transgene expression in Hepatitis C virus cDNA transgenic mice mediated by the Cre/loxP system. Wakita et al., J.Biol.Chem. 273, 9001−9006, 1998.)。
【0079】
(2)T細胞誘導が良好に起こるマウス(CBF1)
CN2−29マウスはBALB/cマウス(H−2)背景であり、K, D, L結合性ペプチドが標的エピトープとなる。これらの結合性ペプチドを用いてマウスを免疫しT細胞の誘導を試みたが、弱い細胞傷害活性が誘導されるのみであった。D結合性ペプチドには良好にT細胞を誘導するものが見つかったので、CN2−29マウスをC57BL/6(B6と略、H−2)マウスとかけ合わせて作製したF1マウス(CBF1)をホストとすれば、in vivoでの細胞傷害活性を調べることが可能である。
【0080】
(3)EGFPトランスジェニックマウス
B6マウスの遺伝背景を持ち、全身にEGFP(クラゲ由来の蛍光遺伝子)を発現するトランスジェニックマウスである。
【0081】
(4)Cre発現ベクター(BCre)
BCMGSneoというウシpapilloma virusを基盤にした発現ベクター(参考文献:Establishment of mouse cell lines which constitutively secrete large quantities of interleukin 2,3,4 or 5, using modified cDNA expression vectors. Karasuyama, et al. Eur J Immunol 18,97−104,1988)にCre遺伝子を組み込んだ発現ベクターである。このベクターは細胞内でエピソームとしてマルチコピーで存在するので、1細胞あたりのCre遺伝子のコピー数を高くすることが可能になる。また、エピソームとして増えるので、クロマチン構造に影響されずに発現する。
【0082】
(5)マウスのHCV特異的T細胞抗原ペプチド
高知大学の宇高らが開発したマウスMHC class I結合性ペプチド予測プログラム(参考論文:An automated prediction of MHC class I−binding peptides based on positional scanning with peptide libraries. Udaka, et al. Immunogenetics.51,816−828,2000.)を用いて、HCV特異的なD結合性ペプチドを探索したところ、CD649 (log Kd =−7.58)がCBF1マウスにおいて良好に細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導した。
【0083】
(6)百日咳菌全菌体ワクチン
ヒト向けとして用いられている百日咳菌ワクチンには、菌体の精製品と全菌体ワクチンがあるが、このうち全菌体ワクチンについてはインドネシアのBio farma社から入手可能であるが、この全菌体ワクチンをペプチドと同時に投与すると、マウスの免疫誘導能が格段に上昇することを確認している。
(7)hydrodynamic injection(HDI)法
麻酔したマウスへ、プラスミドDNAを溶かした大容量の生理的溶液(1.5mL程度)を5秒程度で静脈注射することにより、一時的に高い静脈圧にしてプラスミドの取り込み効率を上昇させる方法である。肝臓や脾臓のように静脈血が鬱滞しやすい組織では静脈圧が特に高くなり、物理的に細胞膜が一部破れるため、あるいはピノサイトーシスで外からの溶液の取り込みが盛んになるため、肝細胞の細胞質にプラスミドが効率よく取り込まれる。
【0084】
<肝炎発症実験>
CBF1マウスをCD649と百日咳菌全菌体ワクチンで毎週1回、合計4回皮内注射し、細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導をはかった後、HDI法を用いてCre遺伝子の発現を行い、CBF1マウスが持つHCV遺伝子の発現誘導を起こさせる。このマウスにて、肝臓組織の観察と血清AST、ALT酵素(壊された肝臓細胞から遊離される酵素群)値を測定することにより、自然に肝炎が発症しているかどうかを調べる。また組織検査をしてリンパ球浸潤や組織破壊の程度を調べる。
【0085】
<in vivo CTL浸潤実験>
EGFPトランスジェニックマウスをCD649と百日咳菌全菌体ワクチンで毎週1回、合計4回皮内注射し、細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導をはかった後、脾臓から免疫細胞を取り出して、in vitroで2回ペプチド刺激をしてCD649特異的なCTLの割合を増やす。上記の肝炎発症実験の方法によりHCV遺伝子を発現誘導させたCBF1マウスに対してこのCTLを静脈注射し、数日後に肝臓を蛍光顕微鏡で観察し、EGFP陽性細胞が肝臓に浸潤している数を、空ベクターを静脈注射したマウスと比較する。
【0086】
<in vivo組織傷害の観察実験>
Cre遺伝子とともにEGFPを同時発現するベクターを作成し、HCV遺伝子を発現誘導した肝細胞のみがEGFPの蛍光を発するよう準備する。上記の肝炎発症実験においてこのCre−EGFP発現ベクターを用いることにより、細胞傷害性T細胞(CTL)の肝臓内への浸潤とともに、EGFP発現細胞(すなわちHCV遺伝子発現細胞)が優先的に破壊されている組織像などを観察する。
【0087】
<ペプチド免疫治療の安全性の確認>
マウスをCD649ペプチドと百日咳菌全菌体で過免疫した場合でも、正常組織への攻撃が起こらないことの確認をする。次に、HCVの発現誘導をしたCN2−29マウスにおいて、CTLによる攻撃が肝不全を来たさないかを調べる。
【0088】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるペプチド、またはその前駆体由来のペプチドを、細胞傷害性T細胞の標的となる細胞の表面のHLA分子に結合させることを含むことを特徴とする細胞傷害性T細胞の誘導方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記ペプチド、および前駆体由来のペプチドは、前記標的となる細胞表面のヒトHLA−A24型分子に結合することを特徴とする方法。
【請求項3】
配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるとともに、細胞傷害性T細胞の標的となる細胞の表面のHLA分子に結合するペプチド、またはその前駆体の少なくとも一つを含むことを特徴とする細胞傷害性T細胞の誘導剤。
【請求項4】
配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるとともに、C型肝炎ウイルスに感染した細胞の表面のHLA分子に結合するペプチド、またはその前駆体の少なくとも一つを含むことを特徴とするC型肝炎ウイルスに依存した疾病治療用の医薬組成物。
【請求項5】
配列番号1から13よりなる群より選ばれる1種以上のアミノ酸配列を含み、かつ、8以上11以下のアミノ酸残基からなるとともに、C型肝炎ウイルスに感染した細胞の表面のHLA分子に結合するペプチド、またはその前駆体の少なくとも一つを含むことを特徴とするC型肝炎ウイルスに依存した疾病の予防または治療に用いられるワクチン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−28606(P2013−28606A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−174408(P2012−174408)
【出願日】平成24年8月6日(2012.8.6)
【分割の表示】特願2008−500416(P2008−500416)の分割
【原出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年1月16日 Springer発行の「「Immunogenetics」第59巻」に発表
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】