説明

細胞傷害性T細胞誘導用組成物

【課題】任意の抗原について、簡便に抗原特異的なCTL誘導を行うことができる新規技術を開発する。
【解決手段】本発明は、抗CD28抗体と、該抗CD28抗体が固相化された固体支持体と、MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドとを含む、細胞傷害性T細胞誘導用組成物を提供する。本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物において、前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、患者のHLA適合型のHLA複合体によって抗原として提示され、前記細胞傷害性T細胞に認識される場合がある。本発明は腫瘍治療用医薬品組成物を提供する。本発明の腫瘍治療用医薬品組成物は、本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物を含み、前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、腫瘍細胞の特異的抗原タンパク質のアミノ酸配列の一部を含み、前記細胞傷害性T細胞は前記腫瘍細胞を認識する。前記腫瘍細胞の特異的抗原タンパク質はWT−1の場合がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞傷害性T細胞誘導用組成物と、該細胞傷害性T細胞誘導用組成物を曝露して得られる細胞傷害性T細胞を含む医薬品組成物と、該医薬品組成物の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
生体内において、抗原特異的な細胞傷害性T細胞(以下、「CTL」ともいう。)は、造血幹細胞由来のCD8陽性細胞が樹状細胞との相互作用によって誘導される。前記相互作用には、抗原分子の断片と樹状細胞の表面のHLAクラスI分子との複合体と、CD8陽性細胞の表面のTCR/CD3/CD8複合体との会合が関与する。そして、前記相互作用の結果、前記CD8陽性細胞は、前記HLAクラスI分子の適合型と一致するHLAクラスI分子が前記抗原分子の断片と複合体を形成している細胞を特異的に認識して攻撃する細胞になる。前記相互作用は、他に、CD8陽性細胞の表面のCD28分子と、樹状細胞の表面のCD80/86分子との会合によって促進される。
【0003】
ウイルス感染の場合には、ウイルス抗原を特異的に認識する細胞傷害性T細胞がウイルス感染細胞を攻撃する。腫瘍細胞の場合には、腫瘍特異的な抗原を認識する細胞傷害性T細胞が腫瘍細胞を攻撃する。そこで、腫瘍の免疫療法では、細胞傷害性T細胞を如何にして効率的に誘導するかが問題となる。
【0004】
サイトカインの研究の進歩によって、臍帯血、末梢血、骨髄等の造血幹細胞から細胞傷害性T細胞の前駆細胞であるCD8陽性細胞を分化・増殖させる技術は比較的容易になった。しかし、樹状細胞を生体から大量に単離精製することは困難である。そこで、人工的に樹状細胞の機能を模倣する技術が開発されてきた。かかる人工抗原提示細胞の例には、線維芽細胞のような培養細胞に、HLAクラスI分子、抗原分子、CD80/86分子等の遺伝子をトランスフェクションさせて、樹状細胞の代行をさせる技術がある。また、MHCクラスI分子4量体と抗原ペプチドとの複合体(以下、「抗原テトラマー」という。)は、同一細胞表面の複数のT細胞レセプターと結合できるので、解離定数が高く、特定の抗原を認識するT細胞を検出する(非特許文献1)他、抗原特異的なT細胞活性化に用いられている(非特許文献2)。そして、フィコエリスリン(以下、「PE」という。)で標識された抗原テトラマーと、PEで標識された抗CD28抗体とが、ビオチン化された抗PE抗体とアビジンとを介して結合された蛍光標識常磁性ビーズ粒子は、細胞傷害性T細胞を誘導できる(非特許文献3)。これは生物とはいえないが、人工抗原提示細胞の一種とされる。
【0005】
ビーズ、微粒子等の表面に、CD8陽性細胞で発現する分子に対する抗体を結合させて、樹状細胞の代わりにCD8陽性細胞を刺激する技術もある。かかる固相化抗体による技術では、アゴニスト活性を有する抗CD3抗体及び抗CD28抗体を同一のビーズ粒子に結合させた、抗CD3/CD28ビーズが知られている(特許文献1)。CTLを誘導する相互作用のうち、抗原分子の断片と樹状細胞の表面のHLAクラスI分子との複合体と、CD8陽性細胞の表面のTCR/CD3/CD8複合体との会合については、抗原分子の断片と樹状細胞の表面のHLAクラスI分子との複合体の代わりに、アゴニスト活性を有する抗CD3抗体を用いることによって、CD8陽性細胞を刺激することができる。また、CD8陽性細胞の表面のCD28分子と、樹状細胞の表面のCD80/86分子との会合については、樹状細胞の表面のCD80/86分子の代わりに、アゴニスト活性を有する抗CD28抗体を用いることによって、CD8陽性細胞を刺激することができる。しかしながら、抗CD3/CD28ビーズだけでは抗原特異的なCTL誘導はできず、抗原特異的なCTL誘導を行うためには、生体由来の抗原提示細胞か、人工抗原提示細胞かを併用する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2004/104185号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Altman、J.D.ら、Science、274:94(1996)
【非特許文献2】Daniels、M.A.及びJameson、S.C.、J.Exp.Med.、191:335(2000)
【非特許文献3】Oelke、M.ら、Nature Medicine、9:619(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の抗原提示細胞又は人工抗原提示細胞を作成するのは、時間及び労力を要する。したがって、任意の抗原について、簡便に抗原特異的なCTL誘導を行うことができる新規技術を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、抗CD28抗体と、該抗CD28抗体が固相化された固体支持体と、MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドとを含む、細胞傷害性T細胞誘導用組成物を提供する。
【0010】
本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物は、抗CD28抗体と、該抗CD28抗体が固相化された固体支持体と、MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドとからなる場合がある。
【0011】
本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物において、前記固体支持体は、前記CD8陽性細胞を含む細胞培養に用いられる培養容器か、マイクロビーズかの場合がある。
【0012】
本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物において、前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、患者のHLA適合型のHLA複合体によって抗原として提示され、前記細胞傷害性T細胞に認識される場合がある。
【0013】
本発明は腫瘍治療用医薬品組成物を提供する。本発明の腫瘍治療用医薬品組成物は、本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物を含み、前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、腫瘍細胞の特異的抗原タンパク質のアミノ酸配列の一部を含み、前記細胞傷害性T細胞は前記腫瘍細胞を認識する。
【0014】
本発明の腫瘍治療用医薬品組成物において、前記腫瘍細胞の特異的抗原タンパク質はWT−1の場合がある。
【0015】
本発明はウイルス疾患治療用医薬品組成物を提供する。本発明のウイルス疾患治療用医薬品組成物は、本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物を含み、前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、ウイルスの特異的抗原タンパク質のアミノ酸配列の一部を含み、前記細胞傷害性T細胞は前記腫瘍細胞を認識する。
【0016】
本発明のウイルス疾患治療用医薬品組成物において、前記ウイルスの特異的抗原タンパク質はサイトメガロウイルスのpp65タンパク質の場合がある。
【0017】
本発明は医薬品組成物を提供する。本発明の医薬品組成物は、造血幹細胞由来のCD8陽性細胞に本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物を曝露して得られ、前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドを認識する細胞傷害性T細胞を含む。
【0018】
本発明の医薬品組成物において、前記造血幹細胞は、胚性幹細胞、成体幹細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞からなるグループから選択されるいずれかの幹細胞由来の造血幹細胞と、臍帯血由来の造血幹細胞と、末梢血由来の造血幹細胞と、骨髄血由来の造血幹細胞とからなるグループから選択される場合がある。
【0019】
本発明は、細胞傷害性T細胞を含む医薬品組成物の製造方法を提供する。本発明の細胞傷害性T細胞を含む医薬品組成物の製造方法は、(1)胚性幹細胞、成体幹細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞からなるグループから選択されるいずれかの幹細胞由来の造血幹細胞と、臍帯血由来の造血幹細胞と、末梢血由来の造血幹細胞と、骨髄血由来の造血幹細胞とからなるグループから選択される少なくとも1種類の造血幹細胞からCD8陽性細胞を優占的に増殖させるステップと、(2)前記CD8陽性細胞に、請求項1に記載の細胞傷害性T細胞誘導用組成物を曝露させるステップと、(3)前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドを認識する細胞傷害性T細胞を培養するステップとを含む。
【0020】
本発明の細胞傷害性T細胞を含む医薬品組成物の製造方法において、前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、ヒトWT−1タンパク質か、サイトメガロウイルスのpp65タンパク質かのアミノ酸配列を含む場合がある。
【0021】
本発明は、本発明の細胞傷害性T細胞を含む医薬品組成物を移植するステップを含む、免疫療法を提供する。
【0022】
本発明の免疫療法は、患者の末梢血及び骨髄を含むが、これらに限定されない造血幹細胞を採取して得られるCD8陽性細胞か、あるいは、得られた造血幹細胞から分化及び/又は増幅されるCD8陽性細胞かを、試験管内で本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物に曝露するステップと、誘導された細胞傷害性T細胞を患者に再移植するステップとを含む場合がある。
【0023】
本発明の免疫療法は、患者の体細胞由来の成体幹細胞か、患者の体細胞由来の人工多能性幹細胞かから分化されるCD8陽性細胞を、試験管内で本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物に曝露するステップと、誘導された細胞傷害性T細胞を患者に再移植するステップとを含む場合がある。
【0024】
本発明のCD8陽性細胞の出所は、末梢血と骨髄とリンパ節と臍帯血とを含むが、これらに限定されない組織の場合がある。本発明の樹状細胞又はその前駆細胞は末梢血から調製されることが好ましい。しかし、胚性幹細胞、成体幹細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞から生成される造血幹細胞から調製されてもかまわない。
【0025】
CD8陽性細胞が細胞傷害性T細胞に誘導されるためには、CD8陽性細胞上のCD28を刺激するのと同時に、MHCクラスI分子及び抗原エピトープ分子との複合体と、T細胞レセプター/CD3/CD8複合体との会合による抗原提示が起こる必要がある。本発明によると、固相化された抗CD28抗体と、可溶性抗原ペプチドとだけを用いて、樹状細胞を用いないで、CD8陽性細胞が細胞傷害性T細胞に誘導される。その作用機序について理論的に拘泥するわけではないが、CD8陽性細胞の培養に含まれるHLAクラスI分子を発現する細胞の関与を想定することによって本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物の作用機序は合理的に説明することができる。図1は本発明の作用機序を説明するための模式図である。図1を参照して、CD8陽性細胞1は、可溶性ペプチド2と、磁気ビーズのような固体支持体3に固定化された抗CD28抗体4とによるCTL誘導に供される。ここで固体支持体3に固定化された抗CD28抗体4は、CD8陽性細胞1上のCD28分子5と反応して、CD28分子5が樹状細胞上のCD80/86と相互作用したのと同じ刺激をCD8陽性細胞1に与える。一方、可溶性ペプチド2だけでは、CD8陽性細胞1上のT細胞レセプター/CD3/CD8複合体6に認識されない。しかし可溶性ペプチド2は、前記CD8陽性細胞1の培養中のHLAクラスI分子を発現する細胞8上のHLAクラスI分子7と結合すると、CD8陽性細胞1上のT細胞レセプター/CD3/CD8複合体6に抗原として提示される。こうして、可溶性ペプチド2と、固体支持体3に固定化された抗CD28抗体とをCD8陽性細胞1に添加するだけで、HLAクラスI分子7で制限された可溶性ペプチド2を認識する細胞傷害性T細胞9がCD8陽性細胞1から誘導される。本発明の方法によると、可溶性ペプチドを取り替えるだけで、異なる種類の抗原に対するCTL誘導を行うことができる。また、同時に2種類又は3種類以上の抗原に対するCTL誘導を行うこともできる。
【0026】
本発明のMHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、本明細書に添付される配列表の配列番号1ないし5に列挙されるアミノ酸配列からなる場合がある。本発明のMHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、HLA−A拘束性エピトープに限定されない。試験管内でその他の抗原に特異的な細胞傷害性T細胞を増幅できること、及び、かかる細胞傷害性T細胞を患者に移植すると臨床効果が得られることは従来から知られている。例えば、Godet、Y.ら、(Cancer Immunol. Immunother.、58: 271−280(2009))は、メラノーマに特異的な癌抗原チロシナーゼ由来のHLA−B拘束性ペプチドに特異的な細胞傷害性T細胞を得た。Straathof、K. C. M.ら、(Blood、105: 1898−1904(2005))は、EBウイルス関連抗原LMP2のHLA−B拘束性エピトープ、EBウイルス関連抗原EBNA1のHLA−B拘束性エピトープ、EBウイルス関連抗原EBNA3のHLA−B拘束性エピトープ、EBウイルス関連抗原BZLF1のHLA−B拘束性エピトープ等に特異的なCTLを、EBウイルス関連鼻咽頭癌患者に移植して臨床効果を得た。Walter、E. A. ら、(N. Engl. J. Med.、333: 1038−44(1995))はサイトメガロウイルス(CMV)特異的CTLを、白血病治療のためにCMV陽性血縁者から骨髄移植を受けた後、免疫抑制剤を投与されている間にCMVが再活性化した患者に移植して臨床効果を得た。なお、Bioley G.ら(Clin. Cancer Res. 15: 299−306(2009))によると、癌抗原NY−ESO−1をワクチン接種した患者から当該抗原由来のHLA−B又はHLA−C拘束性ペプチドに特異的な細胞傷害性T細胞が得られた。そこで、本発明のMHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、WT−1タンパク質由来のペプチドのようなHLA−A拘束性エピトープだけでなく、HLA−B又はHLA−C拘束性エピトープであってもよい。
【0027】
患者の細胞が発現する疾患関連抗原は、WT−1、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、チロシナーゼ、NY−ESO−1、CEA、NSE、PSA、gp100、MART−1及びMAGE−3を含むが、これらに限られない腫瘍関連抗原と、EBER、LMP−1等のEBウイルス関連抗原のように癌細胞で(過剰に)発現する抗原の場合と、サイトメガロウイルスpp65(CMVpp65)タンパク質等のサイトメガロウイルス特異抗原、HIVgp160等のエイズウイルス特異抗原を含むが、これらに限られないウイルス特異抗原のように感染細胞で発現する抗原の場合とがある。したがって本発明の医薬品組成物は、癌治療に用いられる場合と、感染症治療に用いられる場合とがある。本発明のMHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドはこれらの抗原のエピトープであってもよい。
【0028】
本発明のMHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、天然のタンパク質と同一のアミノ酸配列か、天然のタンパク質のアミノ酸とは一部異なるアミノ酸配列かからなる場合がある。あるいは、天然のタンパク質と同一のアミノ酸配列か、天然のタンパク質のアミノ酸とは一部異なるアミノ酸配列かを含むペプチドの場合がある。例えば、前記可溶性ペプチドは、WT−1タンパク質の第126番目から第134番目までのアミノ酸配列(配列番号1)と、WT−1タンパク質の第235番目から第243番目までのアミノ酸配列のうち、第236番目のメチオニン残基がチロシン残基に置換された突然変異体型アミノ酸配列(配列番号2)と、hTERTの第461番目から第469番目までのアミノ酸配列(配列番号3)と、サバイビンのスプライシングバリアント2Bの第80番目から第88番目までのアミノ酸配列(配列番号4)と、CMVpp65の第341番目から第349番目までのアミノ酸配列(配列番号5)とからなるグループから選択されるアミノ酸配列からなるか、あるいは、該グループから選択されるアミノ酸配列を含む場合がある。
【0029】
本発明の固相化された抗CD28抗体は、CD28に対してアゴニスト活性を有するいずれかの抗体であればよい。固相化には、培養CD8陽性細胞の表面にアクセスして、有効なCTL誘導を行うことができるいずれかの固体支持体が用いられる。本発明において好ましい固体支持体は、ラテックスその他の商業的に入手可能な微粒子及び培養容器を含むが、これらに限定されない。前記培養容器は、ディッシュ、フラスコ、プレート、マルチウェルプレートを含むが、これらに限定されない。本発明の抗CD28抗体は、本発明の固体支持体に直接的に結合されてもよいが、アビジン−ビオチンのような特異的相互作用を行う特異的結合パートナーを介して結合されてもよい。ストレプトアビジンが固定化されたマイクロビーズと、ビオチン化された抗CD28抗体とが用いられる場合がある。前記マイクロビーズは、磁性を有する場合がある。以下では、ビオチンとストレプトアビジンとの特異的相互作用によりマイクロビーズに固定化された抗CD28抗体を抗CD28免疫ビーズという場合がある。
【0030】
本発明の医薬品組成物は、医薬品として許容される担体を含む場合がある。生細胞を懸濁することができるいずれかの溶液、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地、血清等が代表例である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物の作用機序に関する仮説を示す模式図。
【図2A】CTL誘導処理を施さないで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、フルオレセイン・イソチオシアネート(FITC)標識抗CD3抗体及びアロフィコシアニン(APC)標識抗CD8抗体で染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図2B】CTL誘導処理を施さないで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図2C】可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導を行った後、培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図2D】可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導を行った後、培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図2E】WT−1変異ペプチド添加同種末梢血由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導を行った後、培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図2F】WT−1変異ペプチド添加同種末梢血由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導を行った後、培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図2G】WT−1変異ペプチド添加自家臍帯血単球由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導を行った後、培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図2H】WT−1変異ペプチド添加自家臍帯血単球由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導を行った後、培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図3】可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによってWT−1ペプチド特異的CTLの誘導処理が施された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図4A】CTL誘導処理を施さないで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図4B】CTL誘導処理を施さないで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図4C】hTERT可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって刺激された後、培養された末梢血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02hTERT−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図4D】PE標識hTERTペプチド−テトラマーを混合しないで、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とを混合して染色されたサンプルで、CD3ゲートを通過した細胞のPE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図5A】CTL誘導処理を施さないで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図5B】CTL誘導処理を施さないで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02サバイビン(survivin)−2B−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図5C】HLA−A24:02 survivin−2B AYACNTSTL可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって刺激された後、培養された末梢血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02hTERT−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図5D】PE標識survivin−2Bペプチド−テトラマーを混合しないで、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とを混合して染色されたサンプルで、CD3ゲートを通過した細胞のPE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図6A】WT−1変異ペプチド、CMVpp65ペプチド、hTERT可溶性ペプチド、survivin−2B可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって刺激された後、培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図6B】WT−1変異ペプチド、CMVpp65ペプチド、hTERT可溶性ペプチド、survivin−2B可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって刺激された後、培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02CMVpp65−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図6C】WT−1変異ペプチド、CMVpp65ペプチド、hTERT可溶性ペプチド、survivin−2B可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって刺激された後、培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02hTERT−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図6D】WT−1変異ペプチド、CMVpp65ペプチド、hTERT可溶性ペプチド、survivin−2B可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって刺激された後、培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02survivin−2B−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図6E】CTL誘導が施されなかった対照実験の臍帯血由来CD8陽性細胞についてFITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色され、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【図6F】FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とを混合して染色されたサンプルで、CD3ゲートを通過した細胞のPE及びAPCの蛍光波長での強度が測定された2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図。
【符号の説明】
【0032】
1 CD8陽性細胞
2 可溶性ペプチド
3 固体支持体
4 抗CD28抗体
5 CD28分子
6 T細胞レセプター/CD3/CD8複合体
7 HLAクラスI分子
8 HLAクラスI分子を発現する細胞
9 HLAクラスI分子7で制限された可溶性ペプチド2を認識する細胞傷害性T細胞
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例1】
【0034】
臍帯血からのWT−1ペプチド特異的CTL誘導(1)
1.材料及び方法
(1)ヒト臍帯血
ヒト臍帯血試料は、母親のインフォームド・コンセント署名を得た後に採血され、理化学研究所バイオリソースセンター内の液体窒素システムで凍結保存された。採血方法はRubinstein,P.ら(Blood,81:1679−1690(1993))に説明され、凍結保存方法はRubinstein,P.ら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:10119−10122(1995))に説明される。
【0035】
(2)培地及び試薬
培地としてX−VIVO(商標)15(タカラバイオ株式会社、滋賀)が使用された。一部の実験では最終濃度0ないし5%のヒトAB型血清(Lonza、ロンザジャパン株式会社)が添加された。組換えヒトIL−7(Peprotech、東洋紡績株式会社)と、IL−15(Peprotech、東洋紡績株式会社)とが、それぞれ、0ないし10ng/mLと、0ないし300ng/mLとの最終濃度で添加された。可溶性ペプチドとしては、HLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNLが用いられた。当該ペプチドのアミノ酸配列(CYTWNQMNL)は、添付される配列表に配列番号2として列挙される。固相化された抗CD28抗体としては、ビオチン化抗ヒトCD28マウスモノクローナル抗体(クローンCD28.2、BioLegend Japan株式会社)が磁気ビーズ(Dynabeads(商標) M−280 ストレプトアビジン、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)と室温で30分間インキュベーションされ、ビオチン・アビジン反応により結合されてから用いられた。前記磁気ビーズに結合された抗CD28抗体は、以下、ビオチン化CD28抗体とビーズとの複合体、又は、固相化抗CD28抗体という。
【0036】
(3)自家臍帯血由来樹状細胞の精製及び増幅
理化学研究所から入手した臍帯血(ID番号:HCB00747、HLA−A遺伝子座の適合型:24:02及び02:06)25mLは37°Cの温水浴で解凍され、終濃度5%デキストセラン40(テルモ・ジャパン社)と終濃度2.5%ヒト血清アルブミン(日本赤十字社)が添加されたPBS中に浮遊された。得られた白血球は、5mM EDTA及び2%ヒト血清アルブミンが添加されたPBSでさらに3回洗浄された。その後、前記白血球懸濁液に細胞10個あたり25μLのDynal(商標)免疫磁気ビーズCD14(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)が添加され、室温20°Cで10分間以上攪拌された。CD14陽性細胞と、ビーズを貪食した単球マクロファージとが磁気粒子分離器(DynaMag−15、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて分離された。CD14陰性細胞の分画は以下の(4)節のとおり、CD3/CD28陽性細胞の精製及び増幅に用いられた。分離されたCD14陽性単球は、5%ヒトAB型血清が添加されたX−VIVO(商標)15培地に10個/mLの濃度で浮遊され、35mmシャーレ(EZ−BindShut(商標)、旭硝子株式会社)に移された後に、50ng/mLの組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF、Peprotech)と、50ng/mLの組換えヒトインターロイキン−4(IL−4、Peprotech)とが添加され、培養された。培養6日目に、50ng/mLのプロスタグランジンE2(第一化学)と、終濃度10μg/mLのピシバニル(OK432、ロシュ中外製薬)とが添加された。さらに1日間培養され、成熟樹状細胞が得られた。
【0037】
(4)臍帯血由来CD3/CD28陽性細胞の精製及び増幅
(3)節で分離されたCD14陰性細胞分画からさらにCD4陽性細胞を除去するため、細胞2×10個あたり25μLのDynal(商標)免疫磁気ビーズCD4(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)が添加され、室温20°Cで10分間以上攪拌された。CD4陽性細胞が磁気粒子分離器(DynaMag−15)を用いて除去された後、新たにDynabeads(商標)、Tcell Expander CD3/CD28(商標、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)が単核球10個あたり25μL添加され、氷上又は4°Cで30分間攪拌された後、CD3/CD28陽性細胞が磁気粒子分離器(DynaMag−15)を用いて濃縮された。前記CD8陽性細胞は、5%ヒトAB型血清と、300ng/mL組換えヒトIL−15(Peprotech)とが添加されたX−VIVO(商標)15培地に10個/mLの濃度で浮遊培養された。培養開始後2ないし3日毎にサイトカインが添加された培地の交換が行われた。その際には、トリパンブルー染色を用いて生細胞数が測定され、10個/mLの細胞濃度になるように、IL−15が300ng/mL添加された新鮮な培地が添加された。前記CD3/CD28陽性細胞は、総細胞数が1×10個に達した段階で以下に説明する手順で可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズにより刺激された。
【0038】
なお、CD3/CD28陽性細胞の増殖が速い場合には、最初の1週間は、5%ヒトAB型血清と、10ng/mL組換えヒトIL−7(Peprotech)とが添加されたX−VIVO(商標)15培地で培養された。7日目以降は、IL−7を300ng/mL組換えヒトIL−15(Peprotech)に切り替えて、最短19日間の培養でも同様の結果が得られた。
【0039】
(5)可溶性WT−1ペプチド及び固相化抗CD28抗体によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導
CD3/CD28陽性細胞が総細胞数1×10個に達した段階で、初回刺激が固相化抗CD28抗体及び可溶性ペプチドにより実施され、2回目の刺激は初回刺激から7日目に実施された。5%ヒトAB型血清と300ng/mL組換えヒトIL−15とが添加されたX−VIVO(商標)15培地に、最終濃度10μg/mLの可溶性ペプチドHLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNLと、固相化抗CD28抗体とが添加された培地がCTL誘導のために用いられた。この際、磁気免疫ビーズ数とT細胞との比が4:1になるようビーズ濃度が調整され、その後の培地交換の際にビーズは細胞とともに希釈された。
【0040】
(6)WT−1ペプチド特異的CTL誘導後の増幅
前記CTL誘導以後の培地交換には、終濃度10μg/mLとなるよう可溶性ペプチドと、5%ヒトAB型血清と、300ng/mL組換えヒトIL−15とが添加されたX−VIVO(商標)15培地が用いられた。CTLの増幅のためには、最短で19日間、長い場合40日間を要した。
【0041】
(7)同種HLA一致末梢血由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導
(7.1)末梢血の採血
健康なボランティア被検者2名(HLA−A遺伝子座の適合型:HLA−A24:02及び02:07、HLA-A24:02及び26:01)から末梢血が採取された。本実験は、東京大学医科学研究所倫理審査委員会の承認(承認番号20−56−0210、初回承認日:平成21年2月10日、変更承認日:平成22年11月19日)を得て実施され、前記ボランティア被検者からは書面による同意が得られている。採血には、21〜22G針を取り付けた真空採血管(TERUMO ベノジェクトII EDTA−2Na)が用いられた。
【0042】
(7.2)末梢血からの樹状細胞の調製
得られた血液は、常温に保たれた希釈液(PBS)で2倍希釈され、各遠心管に、希釈血20ないし35mLが、10ないし15mLのFicoll Paque(比重1.077、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)に重層された。遠心は、500×g、室温で30分間行われ、ブレーキをかけずに停止された。遠心上清(血漿部分)は数mLを残して除去され、中間層が回収された。遠心管1ないし2本から回収された前記中間層が1本の新たな遠心管に集められ、前記希釈液により体積が50mLに調製された。2回目の遠心は、500×g、室温、5分間の条件で行われた。上清は除去され、ペレットが、前記希釈液30mLに懸濁された。3回目の遠心は、500×g、室温、5分間の条件で行われた。上清は除去され、ペレットは、細胞濃度が1×10個/mLになるように、2mM EDTAと、0.1%ヒト血清アルブミンとが添加されたPBSに懸濁された(以下、「単核球懸濁液」という。)。前記単核球懸濁液にDynal(商標)免疫磁気ビーズCD14(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を単核球10個あたり25μLずつ添加し、4°Cにて30分間撹拌した。反応後、磁気粒子分離器(DynaMag−15)を用いてCD14陽性単球が分離され、この単球は、50ng/mLのGM−CSFと、50ng/mLのIL−4と、5%ヒトAB型血清とが添加されたX−VIVO(商標)15培地にて培養された。6日間の培養期間中、培地交換は行われなかった。培養6日目に50ng/mLのプロスタグランジンE2と、10μg/mLのピシバニルとが添加された後さらに1日間培養され、成熟樹状細胞が得られた。
【0043】
(7.3)ヒト末梢血由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTLの誘導
(4)節で説明された手順で精製及び増幅された臍帯血由来CD3/CD28陽性細胞は、5%ヒトAB型血清と、300ng/mLのヒトIL−15とが添加されたX−VIVO(商標)15培地中で、37°C、5%COの条件下培養された。CTL誘導は、総細胞数1×10個に達した段階での初回刺激と、初回刺激から7日目の第2回刺激との2回行われた。(7.2)節に記載の手順で調製された末梢血由来の成熟樹状細胞の培養液に、10μg/mLの可溶性ペプチドHLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNL(HLA−A24:02ドナーの場合)又はHLA−A02:01WT−1 RMFPNAPYL(HLA−A02:01ドナーの場合)が添加され、37°Cで3時間撹拌され、前記ペプチドが前記樹状細胞上のHLAクラスI分子上に結合された。その後、前記成熟樹状細胞と前記CD8陽性細胞とが、1:5ないし1:6.7の比で12穴プレートに混合されて、さらに初回刺激後12日間共培養された。
【0044】
(8)蛍光標識テトラマー試薬の信頼性の検証
誘導された細胞傷害性T細胞のうちWT−1ペプチド抗原を認識する細胞の割合を測定するために、HLA−A24:02分子上に突然変異型アミノ酸配列からなるWT−1ペプチド分子4個が固相化され、PEで蛍光標識されたビーズ(以下、「PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマー」という。)が用いられた。しかし、このビーズはアビジンが共有結合により結合されており、ビオチン化されたPE標識WT−1ペプチドのテトラマーとは、アビジン−ビオチンの特異的相互作用によって結合されている。一方、誘導に用いた抗CD28抗体もビオチン化され、アビジン結合ビーズに固相化されている。そこで、誘導に用いられた固相化抗CD28抗体が、WT−1ペプチド特異的CTLの検出のためのフロー・サイトメトリー解析のサンプルに残存していると、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーのビーズの一部でビオチン化されたPE標識WT−1ペプチドのテトラマーが脱落して、ビオチン化された抗CD28抗体に置換される可能性がある。かかる脱落・置換が起こると、WT−1ペプチド特異的CTLの検出の際に、CD28を発現する細胞も反応してしまう。そこで、以下の実験によって、かかる脱落・置換の可能性を検証した。
【0045】
HLA−A24:02陽性の臍帯血2検体から、(4)節で説明された手順でCD3/CD28陽性細胞が得られた。前記細胞が、1,500 IU/mLのIL−2と、300ng/mLのIL−15と、5%ヒトAB型血清とが添加されたX−VIVO(商標)15にて42日間培養された。またHLA−A0201陽性健常人ボランティアから(7.3)節で説明された手順に従ってCD3/CD28陽性細胞が分離され、300 IU/mLのIL−2と、300ng/mLのIL−15と、5%ヒトAB型血清とが添加されたX−VIVO(商標)15で21日間培養された。前記ヒト臍帯血又は健常人末梢血由来CD3/CD28陽性細胞にビオチン化抗ヒトCD28マウスモノクローナル抗体(クローンCD28.2、BioLegend Japan株式会社)が細胞10個あたり20μLずつ添加され、0°Cないし4°Cにて30分間撹拌された。その後、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNLテトラマー(HLA−A24:02ドナーの場合)か、PE標識HLA−A02:01WT−1 RMFPNAPYLテトラマー(HLA−A02:01ドナーの場合)かが添加され、室温で20分間インキュベーションされ、テトラマーが前記細胞のT細胞受容体上に結合された。その後、抗ヒトCD28マウスモノクローナル抗体が細胞表面に結合したことを検証するための2次抗体である、APC標識抗マウスIgGロバモノクローナル抗体(eBioscience社)が20μL添加され、0°Cないし4°Cで20分間撹拌され、フロー・サイトメトリー法で細胞上のビオチン化CD28抗体の結合が検証された。
【0046】
(9)WT−1ペプチド特異的CTLの検出
前記3種類の手順のいずれかでWT−1ペプチド特異的CTLの誘導処理が総細胞数1×10個に達した段階での初回刺激と、初回刺激から7日目の第2回刺激と2回施された臍帯血由来CD3/CD28陽性細胞は、初回刺激後12日目に回収され、FITC標識抗ヒトCD3モノクローナルマウスIgG2a抗体(クローンHIT3a、BioLegend Japan株式会社)と、APC標識抗CD8抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーとで三重染色され、フロー・サイトメトリー解析が行われた。
【0047】
2.結果
図2AないしHは、前記3種類の手順のいずれかで総細胞数1×10個に達した段階での初回刺激と、初回刺激から7日目の第2回刺激と2回WT−1ペプチド特異的CTLの誘導処理が施された臍帯血由来CD8陽性細胞について、初回刺激後12日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーを特異的に認識する細胞(以下、「テトラマー陽性細胞」という。)の2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図である。図2AないしHの結果図の縦軸はPE標識の蛍光強度で、横軸はAPC標識の蛍光強度である。図2A及びBのサンプルは、前記3種類のいずれの誘導処理も行わずに、5%ヒトAB型血清と、300ng/mL組換えヒトIL−15とを添加したX−VIVO(商標)15培地だけで培地交換して図2Cおよび図2Dの実験と同じ日数培養された臍帯血由来CD8陽性細胞である。図2C及びDのサンプルは、可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導を総細胞数1×10個に達した段階での初回刺激と、初回刺激後7日目の第2回刺激との2回行った後、初回刺激後12日目まで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞である。図2E及びFは、WT−1変異ペプチド添加同種末梢血由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導を総細胞数1×10個に達した段階での初回刺激と、初回刺激後7日目の第2回刺激との2回行った後、初回刺激後12日目まで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞である。図2G及びHは、WT−1変異ペプチド添加自家臍帯血単球由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導を総細胞数1×10個に達した段階での初回刺激と、初回刺激後7日目の第2回刺激との2回行った後、初回刺激後12日目まで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞である。図2A、C、E及びGの結果図のサンプルは、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とを混合して染色された。図2B、D、F及びHの結果図のサンプルは、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーとを混合して染色された。
【0048】
図2Dに示すとおり、可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導が施された臍帯血由来CD3/CD28陽性細胞のうちCD3ゲートを通過した細胞の約8.21%は、テトラマー陽性、すなわち、HLA−A24:02アリルのコンテキストで癌抗原であるWT−1由来ペプチドを特異的に認識した。WT−1特異的な細胞傷害性T細胞は、リンパ腫その他のWT−1を過剰発現する悪性細胞とは反応するが、WT−1を比較的少量しか発現しない正常細胞を攻撃しないことが知られている(Gao,L.ら、Blood、95:2198−2203(2000)、Oka、Y.ら、Curr. Op. in Immunol.、20:211−220(2008))。これに対し、図2Fに示すとおり、WT−1変異ペプチド添加同種末梢血由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導が施された臍帯血由来CD8陽性細胞のうちCD3ゲートを通過した細胞の約0.22%しか、HLA−A24:02アリルのコンテキストで癌抗原であるペプチドHLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNLを特異的に認識しなかった。また、図2Hに示すとおり、WT−1変異ペプチド添加自家臍帯血単球由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導が施された臍帯血由来CD3陽性細胞のうちCD3ゲートを通過した細胞の約0.55%しか、HLA−A24:02アリルのコンテキストで癌抗原であるペプチドHLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNLを特異的に認識しなかった。なお、図2Bに示すとおり、WT−1ペプチド特異的CTL誘導が施されなかった対照実験の臍帯血由来CD8陽性細胞では、CD3ゲートを通過した細胞の約1.28%しか、HLA−A24:02アリルのコンテキストで癌抗原であるペプチドHLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNLを特異的に認識しなかった。図2A、C、E及びGの結果図に示すとおり、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーを混合しないで、APC標識抗CD8抗体のみと混合して染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの発光波長での蛍光を示す細胞は0.1%以下であった。以上のとおり、図2AないしHの結果から、前記3種類のWT−1ペプチド特異的CTLの誘導処理のうち、可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導処理は、他の2種類の樹状細胞を用いた誘導処理に比べて、WT−1ペプチドを認識するCTLをはるかに多く誘導した。なお、(8)の実験の結果、ビオチン化CD28抗体を添加しても添加しなくてもテトラマー陽性細胞は出現せず、テトラマーが脱ビオチン・アビジン結合により偽陽性となる可能性は極めて低いことが確認された。
【実施例2】
【0049】
臍帯血からのWT−1ペプチド特異的CTL誘導(2)
1.材料及び方法
実施例1と異なる臍帯血(ID番号:HCB00751、HLA−A遺伝子座の適合型:24:02及び33:03)由来CD8陽性細胞が、実施例1と同じ3種類の誘導処理を施され、テトラマー陽性細胞のフロー・サイトメトリー解析に供された。
【0050】
2.結果
図3は、可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって総細胞数1×10個に達した段階での初回刺激と、初回刺激から7日目の第2回刺激と2回WT−1ペプチド特異的CTLの誘導処理が施された臍帯血由来CD8陽性細胞について、初回刺激後12日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、テトラマー陽性細胞の2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図である。図3の結果図の縦軸はPE標識の蛍光強度で、横軸はAPC標識の蛍光強度である。図3のサンプルは、可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導を総細胞数1×10個に達した段階での初回刺激と、初回刺激から7日目の第2回刺激との2回行った後、初回刺激後12日目まで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞であり、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーとを混合して染色された。
【0051】
図3に示すとおり、実施例1と異なる臍帯血由来のCD8陽性細胞においても、可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導が施された臍帯血由来CD3/CD28陽性細胞のうちCD3ゲートを通過した細胞の約9.43%は、テトラマー陽性であった。これに対し、同じ臍帯血について、自家臍帯血由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導が施された場合と、同種HLA一致末梢血由来樹状細胞によるWT−1ペプチド特異的CTL誘導が施された場合とでは、CD3ゲートを通過した細胞のうちテトラマー陽性細胞は、それぞれ、0.36%と、0.33%とであった(図示されない)。WT−1ペプチド特異的CTL誘導が施されなかった対照実験の臍帯血由来CD3/CD28陽性細胞では、CD3ゲートを通過した細胞の約0.52%しか、HLA−A24:02アリルのコンテキストで癌抗原であるWT−1由来ペプチドを特異的に認識しなかった。PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーを混合しないで、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とを混合して染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの蛍光波長での蛍光を示す細胞は0.05%以下であった。
【0052】
以上の結果から、複数の臍帯血を使った実験で、可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導処理は、他の2種類の誘導処理に比べて、WT−1ペプチドを認識するCTLをはるかに多く誘導することが示された。ペプチドワクチンによる癌治療法の臨床試験では、患者体内でワクチン感作を行った場合のテトラマー陽性細胞の比率が報告されている。例えば、Oka Yら(Proc Natl Acad Sci USA、101:13885(2004))の報告によると、乳癌2名、肺癌10名、白血病等14名に対して、野生型又は突然変異型のHLA−A24:02制限WT−1ペプチド(0.3mg−30mg)がフロイント不完全アジュバントとともに2週間間隔で3回感作されたとき、感作前のWT−1テトラマー陽性CD8陽性細胞の比率が中央値0.245%(範囲:0.08−1.21%)で、感作後のWT−1テトラマー陽性CD8陽性細胞の比率は中央値0.34%(範囲0.11−6.61%)であった。また、Van Tendeloo VFら(Proc Natl Acad Sci USA、107:13824(2010))の報告によると、寛解期急性骨髄性白血病(AML)患者にWT−1タンパク質のmRNAが遺伝子導入された自家樹状細胞を皮下接種する臨床試験において、末梢血で検出されたテトラマー陽性細胞は1%未満であった。HLAクラスI分子で制限されたペプチド抗原の用いる試験管内での感作実験でテトラマー陽性細胞の比率が明示された報告は見あたらなかった。
【実施例3】
【0053】
臍帯血からの単回CTL誘導
1.材料及び方法
実施例1で説明された手順にしたがって、HLA−A24:02陽性であることが確認できた異なる臍帯血(ID番号:HCB00756、HLA−A遺伝子座の適合型:24:02及び33:03)からCD14陰性CD4陰性CD3/CD28陽性細胞が分離された。前記細胞は最初の1週間は10ng/mLのIL−7と、5%ヒトAB型血清とが添加されたX−VIVO(商標)15培地中で37°C、5%COで増幅され、その後、300ng/mLのIL−15と、5%ヒトAB型血清とが添加されたX−VIVO(商標)15培地が至適細胞濃度10個/mLとなるよう2〜3日に1回ずつ追加され、さらに28日間増幅された。その後前記細胞は、セルバンカー(商標)(十慈フィールド株式会社)に浮遊されて液体窒素中に凍結保存され、用時解凍して以下の実験に用いられた。5%ヒトAB型血清と、300ng/mLのIL−15とが添加されたX−VIVO(商標)15培地に、さらに、ビオチン化CD28抗体とビーズとの複合体と、癌抗原WT−1特異的変異可溶性ペプチドHLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNL又はCMVpp65特異的ペプチドHLA−A24:02CMVpp65 QYDPVAALF(配列番号5)とが添加された培地中で、解凍されたCD3/CD28陽性細胞が10日間培養された。10日目に前記細胞はPBSで回収され、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNLテトラマーか、PE標識HLA−A24:02CMVpp65 QYDPVAALFテトラマーかが細胞10個あたり20μL添加され、室温で20分間静置された後、FITC標識抗ヒトCD3モノクローナルマウスIgG2a抗体(クローンHIT3a、BioLegend Japan株式会社)と、APC標識抗CD8抗体(クローンRPA−T8、BioLegend Japan株式会社)とが20μLずつ添加され、0°Cないし4°Cで20分間撹拌されてから、フロー・サイトメトリー解析に供された。
【0054】
2.結果
実施例1及び2と同様のフロー・サイトメトリー解析の結果、最初の培養後1度凍結された臍帯血由来CD8陽性細胞について、再解凍後総細胞数1×10個に調製した段階で癌抗原WT−1特異的変異可溶性ペプチドHLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNLか、CMVpp65特異的可溶性ペプチドHLA−A24:02QYDPVAALFかと、CD28免疫ビーズとが添加された培地にて1回刺激が行われた後、刺激後10日目まで培養された細胞では、CD3ゲートを通過した細胞のうち、WT−1ペプチドテトラマー陽性細胞は約2.72%であった(図示されない)。同様に、CMVpp65特異的可溶性ペプチドHLA−A24:02QYDPVAALF及びCD28免疫ビーズが添加された培地にて1回刺激が行われた後、刺激後10日目まで培養された細胞では、CD3ゲートを通過した細胞のうち、CMVpp65ペプチドテトラマー陽性細胞は約3.39%であった(図示されない)。ペプチド特異的CTL誘導が施されなかった対照実験の臍帯血由来CD3陽性細胞が、PE標識WT−1ペプチドテトラマーと、PE標識CMVpp65ペプチドテトラマーとを混合して染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの蛍光波長での蛍光を示す細胞は0.77%であった(図示されない)。WT−1ペプチド特異的CTL誘導が施された臍帯血由来CD3陽性細胞が、PE標識WT−1ペプチドテトラマーを混合しないで、APC標識抗CD8抗体のみと混合して染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの蛍光波長での蛍光を示す細胞は0.19%であった(図示されない)。CMVpp65ペプチド特異的CTL誘導が施された臍帯血由来CD3陽性細胞が、PE標識CMVpp65ペプチドテトラマーを混合しないで、APC標識抗CD8抗体のみと混合して染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの蛍光波長での蛍光を示す細胞は0.27%であった(図示されない)。ペプチド特異的CTL誘導が施されなかった対照実験の臍帯血由来CD3陽性細胞が、PE標識WT−1ペプチドテトラマー又はPE標識CMVpp65ペプチドテトラマーを混合しないで、APC標識抗CD8抗体のみと混合して染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの蛍光波長での蛍光を示す細胞は0.14%であった(図示されない)。
【0055】
本実施例の結果から、可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導の処理工程は、1回だけでも有効であることが示された。また、可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるペプチド特異的CTL誘導は、WT−1ペプチドに限定されるものではなく、CMVpp65ペプチドでも有効であることが示された。そこで、可溶性ペプチドと抗CD28免疫ビーズとを併用する本発明のペプチド特異的CTL誘導法は、ペプチド抗原の種類の如何に関わらず、実施可能であることが示唆される。これは、患者のHLA適合型に応じて、抗原として提示されるペプチドのアミノ酸配列が決定されていれば、腫瘍抗原か、ウイルス抗原かに関わらず、細胞傷害性T細胞を多数誘導して治療することを可能にするものである。また、ペプチド抗原として可溶性ペプチドを使うことにより、腫瘍細胞なり、ウイルスなりが変異して、ワクチン耐性を獲得するエスケープ変異を起こした場合にも、容易に抗原を変更することができる。また、本実施例において1回のCTL誘導でも有効であったことから、従来のCTL誘導法より簡便な培養プロトコールで実施できることが期待される。
【実施例4】
【0056】
末梢血からのWT−1ペプチド特異的CTL誘導
1.材料及び方法
実施例1(7.1)と同一の健康なボランティア被検者(HLA−A遺伝子座の適合型:HLA-A24:02及び26:01)から末梢血が採取された。実施例1(7.1)と同じ手順で採血が行われ、実施例1(7.2)と同じ手順で単核球懸濁液が調製され、前記単核球懸濁液からCD14陽性単球が除去された。残りのCD14陰性分画から、フローコンプCD8キット(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いてCD8陽性細胞が精製された。具体的にはビオチン化抗CD8抗体とヒト末梢血単核球懸濁液CD14陰性分画とを氷上(0°Cないし4°C)で10分間反応させた後、アビジン結合磁気免疫ビーズと氷上(0°Cないし4°C)で15分間反応させ、磁気粒子分離器(DynaMag−15)を用いてCD8陽性細胞が分離された。その後、室温でリリースバッファーが添加されて10分間インキュベーションされて、前記アビジン結合磁気免疫ビーズがCD8陽性リンパ球から遊離された。回収されたCD8陽性細胞は、5%ヒトAB型血清と300ng/mL IL−15とが添加されたX−VIVO(商標)15培地中で37°C、5%CO条件下培養された。総細胞数1×10個に調製後、癌抗原WT−1特異的変異可溶性ペプチドHLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNLか、CMVpp65特異的ペプチドHLA−A24:02 QYDPVAALFかと、CD28免疫ビーズとが添加された培地にて初回刺激、さらに初回刺激後7日目に同様の刺激が行われた後、初回刺激後11日目まで培養された。2〜3日毎に、IL−15が添加された新鮮な培地で細胞濃度が10個/mLとなるように希釈された。初回刺激後11日目にフロー・サイトメトリーによるテトラマー陽性率の解析が行われた。
【0057】
2.結果
実施例1ないし3と同様のフロー・サイトメトリー解析の結果、癌抗原WT−1特異的変異可溶性ペプチドHLA−A24:02WT−1(mu)CYTWNQMNL及びCD28免疫ビーズが添加された培地にて総細胞数1×10個に達した段階で初回刺激、さらに初回刺激後7日目に同様の刺激を行った後、初回刺激後11日目までペプチド特異的CTLの誘導処理が施された末梢血由来CD8陽性細胞について、培養開始11日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、WT−1ペプチドテトラマー陽性細胞は約5.13%であった(図示されない)。ペプチド特異的CTL誘導が施されなかった対照実験の末梢血由来CD3陽性細胞では、培養開始11日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、WT−1ペプチドテトラマー陽性細胞は約0.15%であった(図示されない)。同様に末梢血由来CD8陽性細胞が、CMVpp65可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって培養開始初日と7日目との2回刺激された場合には、培養開始11日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、WT−1ペプチドテトラマー陽性細胞は約4.53%であった(図示されない)。PE標識WT−1ペプチド−テトラマーを混合しないで、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とを混合して染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの蛍光波長での蛍光を示す細胞は0.13%以下であった(図示されない)。
【実施例5】
【0058】
臍帯血からのヒトテロメラーゼhTERT由来ペプチド特異的CTL誘導
1.材料及び方法
HLA−A24:02陽性であることが確認できた異なる臍帯血(ID番号:HCB01100、HLA−A遺伝子座の適合型:24:02及び26:01)から、実施例1(3)で説明された手順に従って、磁気免疫ビーズを用いてCD14陰性CD4陰性CD3/CD28陽性細胞が分離された。前記細胞は、10個/mLの濃度に希釈され、10ng/mLのIL−7と、5%ヒトAB型血清とが添加されたX−VIVO(商標)15培地中で37°C、5%CO濃度で培養開始後最初の1週間増幅され、その後7日目から、300ng/mLのIL−15と5%ヒトAB型血清とが添加されたX−VIVO(商標)15培地で、至適細胞濃度が10個/mLとなるよう2〜3日に1回ずつ希釈された。総細胞数1×10個に達した段階でhTERT由来可溶性ペプチドHLA−A24:02 VYGFVRACL(配列番号3)及びCD28免疫ビーズが添加された培地にて初回刺激、さらに初回刺激後7日目に同様の刺激を行った後、初回刺激後14日目まで培養された。刺激時には、ビオチン化CD28抗体とビーズとの複合体は、ビーズ:細胞の比が4:1の濃度で添加された。初回刺激後14日目に細胞がPBSで回収され、細胞10個あたり20μLのPE標識HLA−A24:02hTERT VYGFVRACLテトラマーが添加され、室温で20分間静置された後、FITC標識抗ヒトCD3モノクローナルマウスIgG2a抗体(クローンHIT3a、BioLegend Japan株式会社)と、APC標識抗CD8抗体(クローンRPA−T8、BioLegend Japan株式会社)とが20μLずつ添加され、0°Cないし4°Cで20分間撹拌され、フロー・サイトメトリー解析に供された。
【0059】
2.結果
図4AないしDは、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02hTERT VYGFVRACLテトラマーと、APC標識ヒト抗CD8抗体とを用いる2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図である。図4AないしDの結果図の縦軸はPE標識の蛍光強度で、横軸はAPC標識の蛍光強度である。hTERT可溶性ペプチドHLA−A24:02VYGFVRACL及びCD28免疫ビーズが添加された培地にてhTERT由来ペプチド特異的CTLの誘導処理が施された臍帯血由来CD8陽性細胞について、初回刺激後14日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、hTERTペプチドテトラマー陽性細胞は約0.74%であった(図4C)。ペプチド特異的CTL誘導が施されなかった対照実験の臍帯血由来CD3陽性細胞では、培養開始11日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、hTERTペプチドテトラマー陽性細胞は約0.06%であった(図4B)。hTERT可溶性ペプチドHLA−A24:02VYGFVRACL及びCD28免疫ビーズが添加された培地にてhTERT由来ペプチド特異的CTLの誘導処理が施された臍帯血由来CD8陽性細胞にPE標識hTERTペプチド−テトラマーを混合しないで、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とを混合して染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの発光波長での発蛍光を示す細胞は0.08%以下であった(図4D)。ペプチド特異的CTL誘導が施されなかった対照実験の臍帯血由来CD3陽性細胞では、PE標識hTERTペプチド−テトラマーを混合しないで、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とで染色されたサンプル中のCD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの蛍光波長での蛍光を示す細胞は0.02%であった(図4A)。
【実施例6】
【0060】
臍帯血からのsurvivin−2B特異的ペプチド特異的CTL誘導
1.材料及び方法
HLA−A24:02陽性であることが確認できた異なる臍帯血(ID番号:HCB01100、HLA−A遺伝子座の適合型:24:02及び26:01)から、実施例1(3)で説明された手順に従って、磁気免疫ビーズを用いてCD14陰性CD4陰性CD3/CD28陽性細胞が分離された。前記細胞は10個/mLの濃度に希釈され、10ng/mLのIL−7と、5%ヒトAB型血清とが添加されたX−VIVO(商標)15培地中で37°C、5%CO濃度で培養開始後最初の1週間増幅され、その後7日目から、300ng/mLのIL−15と5%ヒトAB型血清とが添加されたX−VIVO(商標)15培地で、至適細胞濃度10個/mLとなるよう2〜3日に1回ずつ希釈された。総細胞数1×10個に達した段階でsurvivin−2B由来可溶性ペプチドHLA−A24:02 survivin−2B AYACNTSTL(配列番号4)及びCD28免疫ビーズが添加された培地にて初回刺激、さらに初回刺激後7日目に同様の刺激を行った後、初回刺激後10日目まで培養された。刺激時には、ビオチン化CD28抗体とビーズとの複合体が、ビーズ:細胞の比が4:1の濃度で添加された。刺激後10日目に前記細胞がPBSで回収され、細胞10個あたり20μLのPE標識HLA−A24:02 survivin−2B AYACNTSTLテトラマーが添加され、室温で20分間静置された後、FITC標識抗ヒトCD3モノクローナルマウスIgG2a抗体(クローンHIT3a、BioLegend Japan株式会社)と、APC標識抗CD8抗体(クローンRPA−T8、BioLegend Japan株式会社)とが20μLずつ添加され、0°Cないし4°Cで20分間撹拌され、フロー・サイトメトリー解析に供された。
【0061】
2.結果
図5AないしDは、FITC標識抗CD3抗体、PE標識HLA−A24:02survivin−2B AYACNTSTLテトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色し、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCによる2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図である。図5AないしDの結果図の縦軸はPE標識の蛍光強度で、横軸はAPC標識の蛍光強度である。HLA−A24:02 survivin−2B AYACNTSTL可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって総細胞数1×10個に達した段階で初回刺激、さらに初回刺激後7日目に同様の刺激を行った後、初回刺激後10日目まで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02hTERT−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色し、CD3ゲートを通過した細胞のうち、survivin−2Bペプチドテトラマー陽性細胞は約1.16%であった(図5C)。PE標識survivin−2Bペプチド−テトラマーを混合しないで、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とで染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの蛍光波長での蛍光を示す細胞は0.00%以下であった(図5D)。ペプチド特異的CTL誘導が施されなかった対照実験の臍帯血由来CD3陽性細胞では、培養開始10日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、survivin−2Bペプチドテトラマー陽性細胞は約0.03%であった(図5B)。PE標識survivin−2Bペプチド−テトラマーを混合しないで、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とを混合して染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの蛍光波長での蛍光を示す細胞は0.03%であった(図5A)。
【実施例7】
【0062】
4種類のペプチドに特異的なCTLの臍帯血からの同時誘導
1.材料及び方法
HLA−A24:02陽性であることが確認できた異なる臍帯血(ID番号:RC2R10010、HLA−A遺伝子座の適合型:24:02/ブランクおそらく24:02ホモザイゴート)から単球が貼り付き法にて除去された後、実施例1で説明された手順にしたがって、磁気免疫ビーズを用いてCD4陰性CD8陽性細胞が分離された。前記細胞は10個/mLの濃度で300ng/mLIL−15と5%ヒトAB型血清とが添加されたX−VIVO(商標)15培地で培養が開始され、総細胞数1×10個に調製後、HLA−A24:02拘束性の以下の4種のペプチド及びCD28免疫ビーズが添加された培地にて初回刺激が行われた。添加されたペプチドは、(1)WT−1特異的変異型ペプチド CYTWNQMNL、(2)CMVpp65ペプチド QYDPVAALF、(3)hTERT特異的ペプチド VYGFVRACL、及び、(4)survivin−2B特異的ペプチド AYACNTSTLの4種類であった。さらに初回刺激後7日目に同様の刺激を行った後、初回刺激後12日目まで培養された。刺激時には、ペプチドに加えて、ビオチン化CD28抗体とビーズとの複合体がビーズ:細胞比4:1の濃度で添加された。前記細胞は、至適細胞濃度10個/mLとなるよう2〜3日に1回ずつ希釈されながら、初回刺激から12日間培養増幅された。
【0063】
12日目に前記細胞はPBSで回収され、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーか、PE標識HLA−A24:02CMVpp65テトラマーか、PE標識HLA−A24:02hTERTテトラマーか、PE標識HLA−A24:02survivin−2Bテトラマーかが、細胞10個あたり20μL添加され、室温で20分間静置された後、FITC標識抗ヒトCD3モノクローナルマウスIgG2a抗体(クローンHIT3a、BioLegend Japan株式会社)と、APC標識抗CD8抗体(クローンRPA−T8、BioLegend Japan株式会社)とが20μLずつ添加され、0°Cないし4°Cで20分間撹拌されフロー・サイトメトリー解析に供された。
【0064】
2.結果
図6AないしDは、FITC標識抗CD3抗体と、PE標識HLA−A24:02WT−1(mu)−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色し、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PE及びAPCによる2次元フロー・サイトメトリー解析の結果図である。図6AないしDの結果図の縦軸はPE標識の蛍光強度で、横軸はAPC標識の蛍光強度である。総細胞数が1×10個に調製された後、WT−1特異的変異型ペプチド CYTWNQMNL及び抗CD28免疫ビーズによって初回刺激が行われ、さらに初回刺激後7日目に同様の刺激を行い、初回刺激後12日目まで培養された臍帯血由来CD8陽性細胞について、FITC標識抗CD3抗体由来、PE標識HLA−AWT−1−テトラマーと、APC標識抗CD8抗体とで染色が行われた。CD3ゲートを通過した細胞のうち、WT−1ペプチド特異的テトラマー陽性細胞は約0.89%であった(図6A)。HLA−A24:02CMVpp65ペプチドと抗CD28免疫ビーズとによって図6Aの実験と同じ日数培養され、染色された臍帯血由来CD8陽性細胞について、初回刺激後12日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、CMVpp65特異的テトラマー陽性細胞は約0.66%であった(図6B)。hTERT由来ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって図6Aの実験と同じ日数培養され、染色された臍帯血由来CD8陽性細胞について、初回刺激後12日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、hTERT特異的テトラマー陽性細胞は約0.95%であった(図6C)。survivin−2B由来可溶性ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによって図6Aの実験と同じ日数培養され、染色された臍帯末梢血由来CD8陽性細胞について、培養開始12日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、survivin−2B特異的テトラマー陽性細胞は約1.19%であった(図6D)。ペプチド特異的CTL誘導処理が施されずに図6Aないし図6Dの実験と同じ日数培養され、染色された臍帯血由来CD8陽性細胞では、初回刺激後12日目にCD3ゲートを通過した細胞のうち、WT1ペプチド特異的テトラマー陽性細胞は約0.58%であった(図6E)。PE標識ペプチド−テトラマーを混合しないで、FITC標識抗CD3抗体と、APC標識抗CD8抗体とを混合して染色されたサンプルでは、CD3ゲートを通過した細胞のうち、PEの発光波長での蛍光を示す細胞は0.05%であった(図6F)。
【0065】
実施例の結果から、可溶性WT−1ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導は、臍帯血由来のCD8陽性細胞に限らず、少なくとも末梢血由来のCD8陽性細胞にも適用できることが示された。同様に、可溶性CMVpp65ペプチド及び抗CD28免疫ビーズによるWT−1ペプチド特異的CTL誘導は、臍帯血由来のCD8陽性細胞に限らず、少なくとも末梢血由来のCD8陽性細胞にも適用できることが示された。さらにWT−1やCMVpp65に限定されず、hTERTやsurvivin−2B等他の幅広い癌抗原にもこの手法が利用可能であることが示された。そこで、可溶性ペプチドと固定化抗CD28抗体とを併用する本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物は、いかなる造血幹細胞由来のCD8陽性細胞についても適用可能であることが示唆される。すると、本発明の細胞傷害性T細胞誘導用組成物は、末梢血以外の生体内の造血幹細胞、例えば、骨髄、リンパ節その他の組織由来の造血幹細胞由来のCD8陽性細胞や、胚性幹細胞、成体幹細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞から分化した造血幹細胞に由来するCD8陽性細胞にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD28抗体と、該抗CD28抗体が固相化された固体支持体と、MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドとを含むことを特徴とする、細胞傷害性T細胞誘導用組成物。
【請求項2】
前記固体支持体は細胞培養容器であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞傷害性T細胞誘導用組成物。
【請求項3】
前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、患者のHLA適合型のHLA複合体によって抗原として提示され、前記細胞傷害性T細胞に認識されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の細胞傷害性T細胞誘導用組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の細胞傷害性T細胞誘導用組成物を含み、前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、腫瘍細胞の特異的抗原タンパク質のアミノ酸配列の一部を含み、前記細胞傷害性T細胞は前記腫瘍細胞を認識することを特徴とする、腫瘍治療用医薬品組成物。
【請求項5】
前記腫瘍細胞の特異的抗原タンパク質はWT−1であることを特徴とする、請求項4に記載の腫瘍治療用医薬品組成物。
【請求項6】
請求項3に記載の細胞傷害性T細胞誘導用組成物を含み、前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、ウイルスの特異的抗原タンパク質のアミノ酸配列の一部を含み、前記細胞傷害性T細胞は前記ウイルス感染細胞を認識することを特徴とする、ウイルス疾患治療用医薬品組成物。
【請求項7】
前記ウイルスの特異的抗原タンパク質はサイトメガロウイルスのpp65タンパク質であることを特徴とする、請求項6に記載のウイルス疾患治療用医薬品組成物。
【請求項8】
造血幹細胞由来のCD8陽性細胞に請求項1又は2に記載の細胞傷害性T細胞誘導用組成物を曝露して得られる、前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドを認識する細胞傷害性T細胞を含むことを特徴とする、医薬品組成物。
【請求項9】
前記造血幹細胞は、胚性幹細胞、成体幹細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞からなるグループから選択されるいずれかの幹細胞由来の造血幹細胞と、臍帯血由来の造血幹細胞と、末梢血由来の造血幹細胞と、骨髄血由来の造血幹細胞とからなるグループから選択されることを特徴とする、請求項8に記載の医薬品組成物。
【請求項10】
(1)胚性幹細胞、成体幹細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞からなるグループから選択されるいずれかの幹細胞由来の造血幹細胞と、臍帯血由来の造血幹細胞と、末梢血由来の造血幹細胞と、骨髄血由来の造血幹細胞とからなるグループから選択される少なくとも1種類の造血幹細胞からCD8陽性細胞を優占的に増殖させるステップと、
(2)前記CD8陽性細胞に、請求項1又は2に記載の細胞傷害性T細胞誘導用組成物を曝露させるステップと、
(3)前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドを認識する細胞傷害性T細胞を培養するステップとを含むことを特徴とする、細胞傷害性T細胞を含む医薬品組成物の製造方法。
【請求項11】
前記MHCクラスI分子と結合可能な可溶性ペプチドは、ヒトWT−1タンパク質か、サイトメガロウイルスのpp65タンパク質かのアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項10に記載の細胞傷害性T細胞を含む医薬品組成物の製造方法。

【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図2H】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図1】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【公開番号】特開2012−219062(P2012−219062A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86625(P2011−86625)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(510134938)テラ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】