説明

細胞内および核内輸送に使用しうるイムノベクター

【課題】生物学的に活性な成分とイムノベクターとのカップリング生成物の提供。
【解決手段】イムノベクターが生物学的に活性な成分に真核細胞にインターナリゼーションする能力を付与でき、前記イムノベクターが細胞核内又は細胞核の間近に該生物学的に活性な成分を導入することができる程度に細胞のDNAに対して親和性を有する、生成物。該イムノベクターが、核酸に対する親和性を有する抗体または前記親和性を保持するこの抗体の断片よりなる、生成物。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、真核細胞の核内へのハプテン、タンパク質、核酸および他の分子の能動的導入に関する。本発明は、種々の分野、特に遺伝子治療およびワクチンの分野に適用することができるため、非常に重要である。
【0002】
遺伝子治療は、依然として非常に多数のパラメーターに左右され、そのようなパラメーターとしては、宿主生物のこれらの細胞の細胞質を経由して前もって決定された特定の性質を有する活性成分を該生物の細胞核内へ輸送しうるベクターであって、これらのベクターの使用に関連した遺伝的改変を伴うことのないベクターを開発すること、および導入する活性成分の生物活性を低下させないことが挙げられる。現在知られている限りにおいては、これらのすべての条件が満たされているとは到底言うことができない(1)。
【0003】
実際、細胞内にDNAを導入するために現在一般的に使用されている方法としては、DNAがリン酸カルシウムまたはDEAE−デキストランと共沈する性質を利用する一般的な非選択的方法、又はこのほかには、電場の影響下で細胞内へDNAを直接導入する(エレクトロポレーション)方法が挙げられる。これらの方法は、細胞に非常に有毒であり、用いる細胞によっては高い死亡率および高い変異性につながる。他の方法は、細胞膜上に存在する受容体による細胞内への該遺伝子の進入のターゲッティングを利用する。ついでDNAは、これらの受容体に特異的なリガンド[アシアロオロソムコイド(2)、インスリン(3)またはトランスフェリン(4)]または膜構成成分に特異的な抗体(5)のいずれかを介して細胞内に浸透する。このDNA/リガンドコンプレックスは、エンドサイトーシスの過程により細胞内に浸透する。したがって、このトランスフェクションは、リソソーム小胞中での該コンプレックスの実質的な分解により制限されてしまう。これらの欠点を克服するために種々の方法が提案されており、特に、クロロキンによりリソソーム画分を遮断する方法、あるいは該エンドサイトーシス小胞の膜を分解することによりエンドソーム画分から逃れるアデノウイルスを同時に加える方法が挙げられる(6)。
【0004】
本発明の目的は、現在までにその用途が考えられているウイルスベクターより効率的かつ安全な新しいタイプのベクターを提供することである。
【0005】
したがって、本発明は、生物学的に活性な成分とこれらの新規ベクター(以下「イムノベクター」と称する)の1つとの間のカップリング生成物であって、前記カップリング生成物が、これらのイムノベクターに共有結合または非共有結合された前記の生物学的に活性な成分の真核細胞内でのインターナリゼーションを可能にするイムノベクターの能力によって、及び、前記イムノベクターが、これらの細胞の核の間近またはこれらの細胞の核内に前記の生物学的に活性な成分を導入しうる程度までの、これらの細胞のDNAに対する親和性によって特徴づけられるカップリング生成物に関する。
【0006】
好ましくは、これらのイムノベクターは、これらの細胞内のDNA配列を認識しうる抗体または抗体の断片であり、これに生物学的に活性な成分が共有結合または非共有結合していてもよく、更に、これらの抗体又は抗体断片は、これらの生物学的に活性な成分をこれらの細胞の膜または細胞質を経由してインビトロおよびインビボで輸送し、該成分をこれらの細胞の核の付近または更にその内部にさえも輸送しうる。
【0007】
本明細書中では、「生物学的に活性な成分」なる語は、問題となっている生物活性型を有する任意の分子、高分子または分子群に関するものであると理解される。
【0008】
本発明はまた、特にハプテン、タンパク質および/または核酸を細胞、特に真核細胞の核内に導入する方法であって、この方法が前記イムノベクターの特性の利用に基づく方法に関する。
【0009】
播種状エリテマトーデス(DLE)の患者から得た血清を含有する培地中でインビトロでヒトリンパ球細胞をインキュベートした場合にヒトリンパ球の核内に浸透しうる抗体の存在は、1978年にAlarcon-Segoviaらにより初めて報告された(7)。その後、同じチームにより、これらの抗体がIgGアイソタイプの抗体であり、遊離のまたはタンパク質とコンプレックスを形成したリボ核酸と反応しうることが示された(8)。最近、この型の抗体が、MRL lpr/lpr狼瘡マウスで検出されたが、さらに、溶血性自己免疫疾患症候群のNZBマウスおよび正常なBALB/cマウスにおいても検出されている。これらのマウスの脾臓から調製されたいくつかのモノクローナル抗体は、培養中に維持された細胞の核内にインビトロで浸透しうることが判明している(10〜13)。ヒトの場合と同様に、これらのモノクローナル抗体は、核酸を認識しうることが認められた。さらに、これらの抗体はまた、マウスに注射されると、いくつかの型の細胞内に、そして最終的にはそれらの核内に浸透しうることが示された(11)。
【0010】
本発明は、この型の抗体またはこれらの抗体の断片が、対応する細胞の膜および細胞質を経由して、ハプテン、タンパク質、核酸などの生物学的に活性な成分を輸送し、前記細胞の核内への該成分の導入を保証しうるベクター(以下、「イムノベクター」と称する)としても使用することができるという知見に由来するものである。
【0011】
これらの抗体は、血清(特に、対応するエピトープを有する核酸断片に対して前もって免疫された動物からのもの)からのポリクローナル形態またはモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマからのモノクローナル形態として得てもよい。
【0012】
任意の型の結合、即ち化学結合又はその他の結合を用いて、核酸に親和性を有する抗体または抗体断片型のイムノベクターを、例えばハプテンまたは核酸のような生物学的に活性な成分へカップリングさせること(これは、該成分を細胞の膜および細胞質を経由して輸送する事を目的とする。)を保証し、これらの活性成分を核内へ導入することを保証することができる。
【0013】
好ましくは、共有結合または非共有結合の形成を可能にする化学的カップリング様式を用いる。
【0014】
好ましいカップリング生成物は、イムノベクターが、細胞透過試験により選別可能なものである。該細胞透過試験は、該イムノベクターと結合しうる活性成分が輸送されるべき該細胞の核内において、培養中の細胞の存在下で、関心のあるイムノベクターを第1インキュベーションに付し、ついで、該細胞を固定し透過可能とした後、標識された抗イムノベクター抗体と共に更にインキュベートし、最後に、該核の間近または該核の内部においてさえも、該イムノベクターと該抗イムノベクター抗体との抗原−抗体免疫反応を検出することを具備する。
【0015】
本発明の好ましいイムノベクターとしては、核酸に対して親和性を有する抗体またはこの親和性を保持するその断片が挙げられる。
【0016】
また、細胞、特にリンパ球様細胞に対する結合能を有する抗体を使用することもできる。また、後者の部類のイムノベクターは、さらに、関心のあるイムノベクターをリンパ球様細胞と共にインキュベートし、該リンパ球様細胞を洗浄し、標識された抗イムノベクター抗体と共に該細胞をインキュベートし、各集団内の陽性細胞の数を測定することを具備する試験により選択されうる。
【0017】
1つの実施態様では、用いるリンパ球様細胞は、狼瘡症候群が現れている自己免疫マウス脾細胞である。
【0018】
該カップリング生成物のための好ましいイムノベクターは、モノクローナルIgG、(Fab’)2または(Fab’)断片、または対応する核酸の認識に関与する抗体の部位に対応する任意のポリペプチドから選ばれる。
【0019】
好ましくは、このイムノベクターは、抗DNA活性を保持し、正常な個体から得られる免疫グロブリン、特にIgGである。
【0020】
さらに、このイムノベクターは、抗DNA活性を保持し、自己免疫症候群、特に播種状エリテマトーデス症候群を現している個体から得られるIgGであってもよい。
【0021】
本発明の特定の実施態様では、活性成分にカップリングするイムノベクターは、一方ではDNAを、他方ではHIVレトロウイルスのTat、Revなどのタンパク質、およびCD3、CD4、CD8、CD19、CD34などの表面マーカーを認識する二重特異性抗体である。
【0022】
好ましくは、イムノベクターにカップリングする生物学的に活性な成分は、特に、核酸、タンパク質、特に酵素、例えばペルオキシダーゼ、ハプテン、特にビオチンまたはフルオレセイン、酵素活性化剤または阻害剤および医薬から選ばれる分子である。
【0023】
好ましい実施態様では、カップリングされる核酸はポリヌクレオチドであり、イムノベクターはIgGであり、該カップリングは、ポリヌクレオチド4分子当たりイムノベクター1分子の割合でp−ベンゾキノンを介して行なわれる。
【0024】
好ましく使用される生物学的に活性な成分は、プラスミドに含有される遺伝子にコードされるタンパク質の発現のために標的細胞の核内に組込むことが意図される該プラスミドよりなる。そのようなプラスミドを、DNAに対して親和性を有する抗体型のイムノベクターにカップリングさせる場合には、好ましくは、このイムノベクターを、DNAに対する圧縮効果を誘導しうる物質(この物質は、好ましくは、ポリリジンである。)に前もってカップリングさせる。
【0025】
実際に、ポリリジンは、そのカチオン性によりDNAを圧縮する能力を有し、細胞のトランスフェクションを促進する。カップリング剤(特に、EDC(1−(3−ジメチルアミノプロピル)−1’−エチルカルボジイミド)のようなカルボジイミド)の助けによりポリリジンをイムノベクターにカップリングさせることにより、該DNAをこれと反応させることが可能となる。これは、プラスミドのサイズの活性成分に抗体をカップリングさせる場合にマスクされることがある抗体の活性部位の遊離を誘導する効果を有する。
【0026】
また、これらのカチオン性によりDNAに対する圧縮効果を有しうる他の物質を(2−6)イムノベクターにカップリングさせて、そのような機能を達成させてもよい。
【0027】
さらに詳しくは、好ましく使用される生物学的に活性な成分は、標的細胞のゲノム中に、特に相同的組換えにより組込むことを意図した遺伝子、特に、細菌または真核細胞、真菌細胞またはウイルスに由来するポリペプチド(このペプチドはワクチン特性を有する。)をコードする核酸配列を含有する「裸」のDNAよりなる。
【0028】
有利には、この活性成分は、選択された細胞型、特にマクロファージ、樹状細胞、BおよびT細胞、および造血細胞、特にヒト由来のものの不死化を可能とする。
【0029】
さらにより好ましくは、この生物学的に活性な成分は、例えばHIVレトロウイルスが感染しうる細胞または腫瘍細胞において、タンパク質またはヌクレオチドの合成を抑制しうるアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0030】
したがって、本発明者らは一方では、狼瘡症候群の自己免疫マウス(NZB×NZW)F1の脾臓から、DNAと反応する能力および細胞核まで浸透する能力に関して選択されたIgGモノクローナル抗体を得ることを試みた。同時に、DNAと反応し細胞核内に浸透しうるポリクローナル抗体をアフィニティークロマトグラフィーにより単離した。このクロマトグラフィーは、正常患者の血清の「貯蔵物(pool)」または正常な個体の血清、好ましくは感染症に罹患した患者から得た血清、特にDLEに罹患した正常患者の血清またはマウス(NZB×NZW)F1血清に適用した。
【0031】
本発明のイムノベクターの選択方法では、イムノベクターの細胞浸透の試験は、該イムノベクターを含む培地中で真核細胞系を第1インキュベーション(好ましくは次第に濃度を増加させる)に付し、ついで固定し、必要な場合にはこれらの細胞を透過可能とし(その逆もある)、ついで該細胞系を抗イムノベクター抗体(好ましくはフルオレセインまたはペルオキシダーゼで標識されているもの)とインキュベートし、このように標識された抗体を該細胞の核付近へ、より好ましくは核内へ局在化させることを具備する。該細胞系は、特に、繊維芽細胞、胸腺細胞または脾細胞から選択される。
【0032】
第1インキュベーションは、しばしば、5×103から5×106細胞/mlの濃度で接種された細胞系について、約1〜70μg/mlのイムノベクター濃度で37℃で約2から8時間行なうが、これらの反応条件は限定的なものではない。
【0033】
該方法の実施態様の1つでは、該細胞系は、2×104細胞/mlの濃度で接種された指数増殖中の繊維芽細胞系、または約106細胞/mlの割合で懸濁されたBALB/cマウスの胸腺細胞または脾細胞である。
【0034】
さらに、本発明は、イムノベクター−分子カップリング生成物の製造法であって、該イムノベクターが、抗体、特に、選択方法により得られたIgG、(Fab’)2または(Fab’)断片、または該分子の輸送に関与する抗体または抗体断片の部位に対応する任意のポリペプチドから選択される製造法に関する。
【0035】
本発明のカップリング生成物の製造法においては、生物学的に活性な生成物の少なくとも1つの分子が各イムノベクターにカップリングされることが保証され、前記分子は該イムノベクターに好ましくは共有結合で結合する。
【0036】
以下の具体例においては、ハプテン、例えばフルオレセインおよびビオチン、小分子、例えばホルモン、タンパク質、好ましくは酵素、酵素阻害剤または活性化剤および医薬、例えば抗ウイルス剤、例えばアシクロビルまたはAZTが、処理された細胞の細胞質を経由して能動輸送され、該細胞の核内へ導入されうる条件を例示する。特に、活性イソチオシアネート基を介してフルオレセインを、そして活性スクシンイミドエステルを介してビオチンを、イムノベクターの遊離アミノ基にカップリングさせる。イムノベクターへのハプテンなどのカップリングは、例えば、優先的に反応するアルキル、ハロアリール、ハロアセチルおよびピリジルジスルフィド基の誘導体、マレイミドなどの、該アミノ基と反応しうるイミドエステルおよびN−ヒドロキシスクシンイミジルエステルなどの文献公知の他のホモまたはヘテロ二官能性架橋基または試薬を用いて、あるいはスルフヒドリル基、カルボジイミド、並びに光活性化されうる基を有する分子、例えばアジドベンゾイルヒドラジドによって行なってもよい(13)。
【0037】
さらに、本発明者らは、イムノベクターが標的抗原に対する二重特異性抗体であるカップリング生成物を製造し、化学的ルートまたは遺伝子工学的ルートのいずれかにより該カップリング生成物を構築し、同時に、前記標的抗原で個体(例えばマウス)を免疫し、好ましくは前記標的抗原と反応する二重特異性抗体であるイムノベクターを選択して、イムノベクターの作用を特異的に方向づけした。
【0038】
二重特異性抗体の合成に関する技術は、特に、Porstmannら(1984、(16))(「分子ハイブリダイゼーションで使用するための二重特異性モノクローナル抗体の開発(Development of a bispecific monoclonal antibody for use in molecular hybridisation)」と題されている研究)に記載されており、さらに、Auriolら(17)により1984年に公開されている。
【0039】
有利には、この方法で使用する二重特異性抗体は、とりわけ、HIVレトロウイルスのタンパク質Tat、Revおよび表面マーカーCD3、CD4、CD8、CD19およびCD34を認識する。
【0040】
さらに、本発明は、選択された真核細胞の核に活性成分を導入する方法であって、この活性成分とイムノベクターとをカップリングによって特徴づけられ、該イムノベクターがこれらの真核細胞内のこの活性成分のインターナリゼーションを可能にする能力を有し、かつ、前記イムノベクターがこれらの細胞の間近、又は核内においてこの生物学的に活性な成分を輸送することができる程度にまでこれらの細胞のDNAに親和性を有する方法に関する。
【0041】
この生物学的に活性な成分は、イムノベクターに共有結合で、または非共有結合でカップリングしていてもよい。
【0042】
好ましくは、この導入方法は、この生成物の組成物中に含まれるイムノベクターが、該イムノベクターと結合しうる活性成分の輸送標的となる核を有する培養中の細胞の存在下で、関心のあるイムノベクターを第1インキュベーションに付し、ついで、これらの細胞を固定し透過可能とした後、標識された抗イムノベクター抗体と共に更にインキュベートし、最後に、該核の間近または更に該核の内部において、該イムノベクターと該抗イムノベクター抗体との抗原−抗体免疫反応を検出することを具備する細胞浸透試験により選択可能なものから選ばれることを特徴とする。
【0043】
本発明の導入方法の好ましい実施態様では、用いるイムノベクターは、核酸に対する親和性を有する抗体、またはこの親和性を保持するこの抗体の断片よりなる。
【0044】
好ましくは、この方法で用いるイムノベクターは、抗体、好ましくはモノクローナルIgG、(Fab’)2または(Fab’)断片、または対応する核酸の認識に関与する抗体の部位に対応する任意のポリペプチドから選ばれる。
【0045】
有利には、イムノベクター/活性成分のカップリング生成物を調製したら、それを、他の分子の核内導入に使用してもよい。例えば、試験するフルオレセイン/イムノベクター複合体(conjugate)を、第3の分子とカップリングした抗フルオレセイン抗体と結合させ、それにより、その第3の分子を該細胞の核内に導入してもよい。同様に、ビオチン/イムノベクター複合体により、抗ビオチン抗体の結合または核内に導入されるべき第3の分子とカップリングしたアビジン−ストレプトアビジンの結合が可能となりうる。
【0046】
本発明では、ホースラディッシュペルオキシダーゼなどの酵素を核内に導入したが、種々の生物活性を有する他のタンパク質を使用してもよい。また、グルタルアルデヒドを介してイムノベクターにカップリングさせたペルオキシダーゼを使用してもよい。しかしながら、文献公知の他の方法(例えば、ハプテンの場合に記載したもの)を用いてもよい。
【0047】
ハプテン/イムノベクター複合体の場合と同様、タンパク質/イムノベクター複合体と共に、第3の分子とカップリングさせた抗タンパク質抗体を使用して、該分子を核内導入してもよい。
【0048】
本明細書に記載している本発明では、ポリヌクレオチドを核内に導入したが、適切な生物活性を有する多種多様な核酸を核内レベルで能動的に導入してもよい。
【0049】
したがって、本発明の活性成分の導入方法により、特に、標的細胞のゲノム内に特に相同的組換えにより組込もうとする遺伝子の導入、より詳しくは「裸」のDNAの導入が可能となる。特に後者を「DNAワクチン」として使用することが可能である。
【0050】
可能な相同的組換え技術の1つは、Mouellicら(18)により1990年に記載されているものである。
【0051】
Whalen, R.G.らが行なった最近の研究で、DNA導入後の免疫応答の存在を示すことが可能となった。これらの研究は、特許出願第WO95/11307号の主題であり、特に、IL2サイトカイン型のモノクローナル抗体の発現に適用されている(19)。
【0052】
さらに、この導入方法は、種々の細胞型、特にマクロファージ、樹状細胞、BおよびT細胞ならびに造血細胞、特にヒト由来のものの不死化に関与するヌクレオチド配列の導入を可能とする。ヌクレオチド配列としては、細胞トランスフォーメーション現象に関連した腫瘍形成性配列またはウイルス配列が挙げられる。
【0053】
また、それは、例えば、HIVなどのレトロウイルスが感染しうる細胞または腫瘍細胞において、タンパク質またはヌクレオチドの合成を抑制しうるアンチセンスオリゴヌクレオチドの導入を可能とする。
【0054】
本発明では、p−ベンゾキノンを介してポリヌクレオチドをイムノベクターにカップリングさせたが、文献公知の他の方法を使用してもよい。
【0055】
さらに、本発明はまた、活性分子を好ましくは核レベルで含有する真核細胞であって、前記分子が前記細胞の核内に天然では取込まれることがないか、あるいは前記細胞中で低い発現レベルを有することを特徴とする真核細胞に関する。これらの分子は、これらの細胞内でそれらの核の間近またはそれらの核内で見出され、本発明のカップリング生成物の形態のこれらの細胞のDNAに対するその親和性により特徴づけられるイムノベクターにカップリングされている。
【0056】
本発明に関連した細胞としては、特に、ウイルスにより感染されうる細胞または腫瘍細胞が挙げられる。
【0057】
CNCMに1995年6月30日に第I-1605号、第I-1606号および第I-1607号として寄託されている、本発明の抗体を産生するハイブリドーマも本発明の範囲内に含まれる。
【0058】
さらに、本発明は、本発明のカップリング生成物と、生理学的に許容しうる賦形剤(vehicle)とを含有することを特徴とする薬学的組成物であって、生物学的に活性な成分が医薬またはワクチン活性成分であり、イムノベクターが、該医薬が向けられている宿主生物に適合性であることを特徴とする薬学的組成物に関する。
【0059】
また、本発明の範囲内には、宿主のDNAに対して異種であるヌクレオチド配列の受容細胞における発現のための、本発明のカップリング生成物の使用も含まれる。
【0060】

1.イムノベクターの調製
A)ポリクローナルイムノベクター
まず、播種状エリテマトーデスに罹患した個体から−、または狼瘡マウス(NZB×NZW)F1から−得た血清の混合物を、セファロース上に固定化されたプロテインA上に通すことにより、ヒトまたはネズミIgGを単離する(14)。
【0061】
その単離されたIgGを、セルロース上に固定化されたDNAのカラムに通す。これらのIgG中に存在する特異的抗DNA抗体を、このDNA−セルロース免疫吸着剤に結合させ、5%ジメチルスルホキシドを含有する20μM炭酸ナトリウム−重炭酸ナトリウム緩衝液(pH10)で溶出した(15)。ついで、10mgのIgGから1から2mgの抗体を単離する。溶出した抗体を透析し、濃縮し、これを使用するまで+4℃で保存する。
【0062】
B)ネズミモノクローナルイムノベクター
狼瘡マウス(NZB×NZW)F1から得られた脾細胞を、KohlerおよびMilsteinの方法により、X63メラノーマと融合させる。得られたハイブリドーマを、IgGの分泌および抗DNA活性に関してELISAにより試験する。抗DNA IgGを分泌するハイブリドーマを少なくとも2回サブクローニングし、依然として二重陽性(IgG+抗DNA)のクローンをバルク培養するか、又はそのほかの方法として、マウスにおいてこれらのクローンから腹水を調製する。典型的な実験では、マウス(NZB×NZW)F1の脾臓から出発して、IgGを分泌する約300個の陽性ウェルを得た。そのうちの60個は、DNAと反応する能力を有していた。クローニングの後、20個のクローンが、DNAを認識するIgGを分泌した。これら20個のクローンのうちの約半数が、該細胞の核内に浸透する能力を有する抗体を分泌したが、残りはこの能力を有していなかった(C:「イムノベクターの核内浸透試験」を参照)。45%硫酸アンモニウムで沈殿させ、ついで透析した後、セファロース上に固定化されたプロテインA上に通すことにより、培養上清または腹水から該モノクローナルIgGを単離する。溶出したIgGを中和した後、該調製物を透析し、濃縮し、使用するまで−20℃で保存する。
【0063】
ついで前記のマウス抗体を、公知技術の1つ(例えば、Riechmannらにより記載されているもの(20))を用いてヒト化する。
【0064】
C)イムノベクターの選択
1)イムノベクターの核内浸透試験
2つの繊維芽細胞系(カンガルーネズミの腎臓から得たPtK2およびハムスターの腎臓から得たGMA-32)を主として使用した。24時間前に2×104細胞/mlで接種し、RPMI 1640またはMEM培地(10%ウシ胎児血清、2mM L−グルタミンおよび1%ピルビン酸ナトリウムを含有するもの)中で培養した指数増殖期の繊維芽細胞を保持するスライドを、選択された量のイムノベクター(1から70μg/ml)を含有する新たに取り換えられた培地中37℃でインキュベートする。2から4時間インキュベートした後、該細胞をPBSで洗浄し、エタノールで−20℃で10分間またはPBS中0.2%グルタルアルデヒドおよび2%ホルムアルデヒドで20分間固定する。PBSで3回洗浄した後、0.2%ウシ血清アルブミンおよび0.5%サポニンを含有するPBS中で20分間、該細胞を透過可能とした。
【0065】
ついで、該細胞調製物をPBSで洗浄し、フルオレセインまたはペルオキシダーゼで標識された抗マウス免疫グロブリン(または抗ヒト免疫グロブリン)ウサギまたはヒツジ抗体(20μg/ml)と共に24℃で45分間インキュベートする。洗浄後、蛍光抗体とインキュベートした細胞調製物を、蛍光顕微鏡下で検査する。ペルオキシダーゼ標識抗体とインキュベートした細胞調製物をまず、ペルオキシダーゼの細胞化学的基質(ジアミノベンジジン(DAB)+H2O2)中でインキュベートし、洗浄後、該調製物を光学顕微鏡下で検査する(14)。陽性細胞の数を計数する。
【0066】
また、前述のとおり、マウス胸腺細胞を使用して、核内へのイムノベクターの浸透を調べた。BALB/cマウス胸腺から、胸腺細胞の懸濁液を調製した。1×106細胞/mlの濃度で胸腺細胞を、次第に増加する量(1から70μ/ml)のイムノベクターを含有する培地中37℃で3時間インキュベートする。洗浄および固定後、前記繊維芽細胞の調製の場合と同様にして、抗体の核内検出のために該リンパ球を処理する。
【0067】
2)リンパ球様細胞に対する抗DNA抗体の結合の試験
該細胞膜との反応を確認するために、106個のマウス胸腺細胞または脾細胞を、0.2%アジ化ナトリウムを含有する0.1%のウシアルブミン溶液中に希釈した種々のモノクローナル抗体の0.1mlと低温で45分間インキュベートした。洗浄後、蛍光抗マウスIgG抗体と共に該細胞を低温で45分間インキュベートする。洗浄後、該細胞をFACSにより調べ、各集団内の陽性細胞の数を測定する。
【0068】
調べた20個のモノクローナル抗体のうちの約半数が、該細胞の核内に浸透する能力を有する抗体を分泌し、一方、残りの半分はこの能力を有していない。該細胞の核内に高い効率で浸透するモノクローナル抗体(標識細胞の数、標識を得るための限界希釈)と、それらが胸腺細胞および脾細胞を標識する能力との間の相関を確認することができた。
【0069】
II.ハプテン、タンパク質または核酸を保持するイムノベクターの調製
A)イムノベクターのF(ab’)2およびFab’断片の調製
ペプシンでタンパク質分解し、ついでシステインで還元してFab’断片を得ることを含む、開示されている方法により(14)、イムノベクターのF(ab’)2断片を調製する。ついで、イムノベクター5mgを含有する0.1Mクエン酸塩−クエン酸緩衝液(pH3.5)の5mlに、150μgのペプシンを加え、該混合物を37℃で2時間インキュベートする。該培地をpH8に調整し、該調製物をプロテインA−セファロースカラム上で濾過して、未消化のIgGを除去する。PBSに対して透析した後、使用するまでこのF(ab’)2調製物を−20℃で保存する。Fab’断片を得るために、該F(ab’)2調製物にシステインを最終濃度が0.02Mになるまで加える。37℃で10分間インキュベートした後、0.04Mヨードアセトアミドを加え、該混合物を30分間インキュベートする。このFab’調製物をPBSに対して透析し、使用するまで−20℃で保存する。
【0070】
B)イムノベクター/ハプテン
ビオチンへのカップリング
ジメチルホルムアミド中のd−ビオチン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルの0.1M溶液2μl(ジメチルホルムアミドの30μl中の活性エステルの1mg)を、抗体1mgを含有する0.1Mリン酸緩衝液(pH7)0.5mlに加える。該溶液を室温で1時間放置し、PBSに対して+4℃で一晩透析する。
【0071】
フルオレセインとのカップリング
抗体1mgを含有する炭酸ナトリウムの0.1M溶液1mlに、ジメチルスルホキシド中のフルオレセインイソチオシアネートの溶液(10mg/ml)20μlを加える。該溶液を実験室温度で3時間放置し、PBSに対して+4℃で透析する。
【0072】
C)イムノベクター/タンパク質
ペルオキシダーゼとのカップリング
0.1Mリン酸塩緩衝液(pH6.8)中の1%グルタルアルデヒド0.2mlに10ミリグラムのペルオキシダーゼを溶解する。実験室温度で18時間インキュベートした後、0.15M NaClで平衡化させたセファデックスG25カラム(0.9×60cm)上で該溶液を濾過して、過剰なグルタルアルデヒドを除去する。この活性化されたペルオキシダーゼ溶液に、抗体5mgを含有する0.15M NaCl溶液1mlおよび1M炭酸塩−炭酸水素塩緩衝液(pH9.5)0.2mlを加える。該溶液を+4℃で24時間保存し、ついでリジンで最終濃度が0.1Mになるまで補足し、ついでPBSに対して4℃で透析する。
【0073】
D)イムノベクター/核酸
ポリヌクレオチド
使用するポリヌクレオチドは15個のヌクレオチドよりなり、5’側にフルオレセインを、3’側に遊離NH2基を保持していた。これは、核酸合成の通常の方法により調製した。このヌクレオチドを、p−ベンゾキノンを介してイムノベクターにカップリングさせた(14)。p−ベンゾキノン3mgを含有するエタノール0.1mlを、イムノベクター(全分子、F(ab’)2またはFab’)1mgを含有する0.1Mリン酸塩緩衝液(pH6)0.4mlに加える。実験室温度で1時間インキュベートした後、該調製物をセファデックスG-25カラム上で濾過する。活性化されたイムノベクターを含有する画分を、ポリヌクレオチド4分子に対してイムノベクター1分子の割合にてポリヌクレオチドで補足し、該溶液を炭酸塩−炭酸水素塩緩衝液でpH9.2に調整する。実験室温度で18時間インキュベーションした後、リジンを最終濃度が0.1Mになるまで加えることにより該反応を停止させ、ついでPBSに対して透析する。この調製物を、使用するまで+4℃で保存する。
【0074】
プラスミド
2つのプラスミドを試験した。第1プラスミドは、SV40 T、t抗原をコードする遺伝子の上流にビメンチンプロモーターを保持し(pHuVim 830 T, t)(21)、第2プラスミドは、サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でルシフェラーゼ遺伝子(22)を保持する(pCMV-Luc)(5)。
【0075】
これらのプラスミドをE. coli株中で維持し、アルカリ培地中デタージェントの存在下で標準的な溶解方法により細菌培養の後で調製する。ついで樹脂カラム(Qiagen Plasmid Kits)上のクロマトグラフィーにより該プラスミドを精製する。
【0076】
この研究では、イムノベクターJ-20.8およびF-14.6を使用する。これらの抗体は、第I.B/節に既に記載したモノクローナルイムノベクターの調製方法により調製する。該抗体を、カップリング剤、特にカルボジイミド、例えばEDC(1−(3−ジメチルアミノプロピル)−1’−エチルカルボジイミド)の助けによりポリ−L−リジンにカップリングさせる。幾つかの場合には、ポリクローナルIgGを抗DNA抗体に10:1の割合で加えて培地中のIgGの濃度を増加させ、それによりポリリジンとのカップリングを促進させる。
【0077】
PBS1ml中のモノクローナル抗体(J-20.8またはF-14.6)または濃縮ポリクローナルIgG(20mg/ml)の2mgを10mM MES緩衝液(pH5)に対して一晩透析する。ポリ−L−リジン(分子量18,000)2mgを、この同じ緩衝液の1mlに溶解し、ついで0.2mgのEDC(MES緩衝液50μl中)で30秒間補足する。ついで該ポリ−L−リジン溶液を該抗体/EDC混合物に加え、インキュベーションを2時間続ける。
【0078】
ついで、該調製物をプロテインA−セファロースカラム上で濾過して、ポリリジンと複合体形成した抗体から過剰のポリ−L−リジンを分離し、該抗体を通常の条件下pH3で溶出し、中和し、PBSに対して透析する。
【0079】
III.物質に結合したイムノベクターによる細胞核内への該物質の導入の例
A)フルオレセインのインビトロでの導入
ガラスカバーグラス上の培養中のGM A-32系の繊維芽細胞を、フルオレセインで標識した次第に増加する量のモノクローナルイムノベクター(J-20.8抗体またはFab’2断片)を含有するRPMI培地中、37℃で2から4時間インキュベートする。この時間の終了時に、IC1に記載されているとおりに、該細胞を洗浄し、固定する。それらを、Mowiol培地に加えた後、蛍光顕微鏡下で検査する。事実上、該繊維芽細胞のすべての核が蛍光標識を示す。一方、核へ浸透しない抗DNA活性を有さない対照モノクローナル抗体Ig 2aと共にインキュベートした繊維芽細胞の核は、蛍光を全く示さない(図1および2)。
【0080】
B)マウス末梢リンパ球内へのフルオレセインのインビボでの導入
1mgのイムノベクター(モノクローナル抗体C-2.1またはF-4.1)または対照抗体(モノクローナル抗体G-14)(フルオレセインで標識されているもの)を、0.2mlの量にて静脈内に、0.3mlの量にて腹腔内に2匹のマウスに注射する。5時間後、該マウスを出血させ犠牲にし、循環血リンパ球をFACSにより分析する。イムノベクターを注射したマウスから得た末梢血リンパ球の60%が蛍光性であり、一方、対照動物からのリンパ球はいずれも蛍光性でないことが認められる(図3)。顕微鏡検査は、該細胞の大多数において核のレベルで蛍光を示す。
【0081】
C)ビオチンの導入
前もって24時間培養したPtK2系の繊維芽細胞(105/ml)を、ビオチンで標識された次第に増加する量のヒト抗DNAポリクローナルIgG(5〜100μg)と共に完全RPMI培地中でインキュベートする。3時間後、ICに記載されているとおりに、該細胞を洗浄し、固定し、透過可能とする。ついで該細胞を、ペルオキシダーゼで標識されたストレプトアビジン1μg/mlを含有するRPMIと共にインキュベートする。1時間後、該細胞をPBSで3回洗浄し、DAB+H2O2培地を用いて、該細胞に結合したペルオキシダーゼを表示させた。該調製物をMowiolに加え、光学顕微鏡下で検査した。抗DNA IgGと共にインキュベートした繊維芽細胞の多数の核は陽性であり、一方、正常な個体から得、ビオチンで標識したIgGと共にインキュベートした細胞は陰性である。
【0082】
D)ペルオキシダーゼの導入
第IIIC節で定義した条件下、ペルオキシダーゼで標識した次第に増加する量のイムノベクター(抗体J-20.8)のFab’断片と共に、PtK2繊維芽細胞をインキュベートする。3時間後、該細胞をPBSで3回洗浄し、PBS中の0.2%グルタルアルデヒドおよび2%ホルムアルデヒドで20分間固定する。洗浄後、着色DAB+H2O2試験により該ペルオキシダーゼ活性を表示させ、該調製物を光学顕微鏡下で検査する。J-20.8抗体のFab’断片と共にインキュベートした繊維芽細胞の核の大部分はペルオキシダーゼに関して陽性であり、一方、対照抗体48.9と共にインキュベートしたものは陰性である。
【0083】
E)フルオレセインで標識したポリヌクレオチドの導入
BALB/cマウス脾臓から調製した3×106個の脾細胞を、イムノベクター(J-20.8)またはそのFab’断片(ポリヌクレオチドに共有結合でカップリングしているもの)の40μg/mlを含有するRPMIの1ml中でインキュベートする。37℃で3時間インキュベートした後、該細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で固定し、顕微鏡下で検査する。8から10%の細胞が、核内蛍光を示す(図4)。
【0084】
F)プラスミドの導入
ペルオキシダーゼにカップリングした抗T抗原抗体の助けによりこれらの遺伝子にコードされるタンパク質の合成を確認することにより、あるいはルシフェラーゼの基質(ルシフェリン)上のルシフェラーゼの活性の発光測定アッセイにより、トランスフェクション効率を評価した。
【0085】
使用する細胞は、GMA-32系の繊維芽細胞およびHep2カルチノーマ細胞である。それらを完全培地(10%ウシ胎児血清、2mM L−グルタミン、1%ピルビン酸ナトリウムおよび抗生物質を含有するRPMI 1640培地)中、5%CO2、37℃で培養する。
【0086】
プラスミドpHuVim 830T,t
前日にHep2細胞を、24ウェルプレートの1ウェル当たり完全培地0.5ml中2×104細胞の量で接種する。トランスフェクションのために、該培地を除去し、20μgの抗体−ポリ−L−リジンおよび2μgのプラスミド、または20μgの天然抗体および2μgのプラスミド、または2μgのプラスミドのみを含有する0.3mlの完全培地と取り換える。6時間後に培地を変え、必要であれば、2日毎に培地を変え細胞を2つに細分することにより、該培養を続ける。種々の時点でトランスフェクション効率を調べる。
【0087】
プラスミドpCMV-Luc
前日にGMA-32細胞を、完全培地の24ウェルプレートの1ウェル当たり7から10×104細胞/完全培地0.5mlの量で接種する。トランスフェクションのために、該培地を除去し、8μgのJ-20.8/ポリリジンまたはF-14.6/ポリリジン、または20μgのJ-20.8ポリクローナルIgGおよび2μgのプラスミド、または2μgのプラスミドのみを含有する0.5mlの完全培地と取り換える。6時間後に培地を変える。トランスフェクション開始の24時間後に、トランスフェクション効率を調べる。
【0088】
トランスフェクションの対照
プラスミドpHuVim 830 T,t
トランスフェクションされた細胞の核内でのT抗原の合成を、免疫細胞化学的方法により確認する。該細胞をPBSで3回洗浄し、ついでメタノール中、−20℃で10分間固定する。ついで、ペルオキシダーゼにカップリングされた抗T抗原抗体と共にそれらを1時間インキュベートする。洗浄後、該ペルオキシダーゼを、DAB+H2O2混合物で表示させる。J-20.8ポリリジンおよびプラスミドコンプレックスと共にインキュベートしたウェルでは、単離された細胞および細胞の数個のクラスターが、48時間後および2週間後に褐色に強く着色された核を有する。天然抗体による対照または該プラスミド単独の場合は、陰性である。
【0089】
プラスミドpCMV-Luc
トランスフェクションされた細胞の溶解物中で検出可能なルシフェラーゼ合成により、トランスフェクション効率を確認する。この酵素は、ルシフェリンの酸化を触媒し、それにより、ルミノメーターで検出可能な生成物が生じる。培養後、該細胞をPBS中で洗浄し、ついで8mM MgCl2、1mM DTT、1%トリトンX100、1%BSAおよび15%グリセロールを含有する25mMトリス−リン酸塩緩衝液(pH7.8)中で溶解する。ルシフェリン(0.25mM)およびATP(1mM)の溶液の自動添加により、該溶解物をルミノメーター中でアッセイする。同じ溶解物のアリコートを、Coomassie(Bio-Rad Protein Assay)試薬を用いて、そのタンパク質濃度に関してアッセイする。その結果を、タンパク質1mg当たりの単位(RLU)で表す。表に示されているとおり、抗体調製物J-20.8/ポリリジンおよびF-14.6/ポリリジンの存在下では遺伝子導入が起こるが、IgG/ポリリジン調製物は何ら影響を及ぼさない。
【0090】
同じ抗体/プラスミド比率の場合のトランスフェクション効率は、J-20.8調製物ではF-14.6より10倍高い。さらに、J-20.8-IgG/ポリリジン調製物のJ-20.8(コンプレックス20:0.5)の2μgは、J-20.8/ポリリジン調製物の8μg(コンプレックス8:0.5)と同程度の結果を与えるため、ポリリジンにカップリングされている間に濃縮ポリクローナルIgGを加えることにより、トランスフェクション効率が増加するようである。
【0091】
得られたすべての結果を、以下の表に要約する。
【表1】

【0092】
これまでの説明では、好ましいイムノベクターは、抗DNA抗体またはこれらの抗体の断片(ただし、これらの断片は全DNAに対する認識部位を保持するものである)より本質的になるものであった。勿論、言うまでもないことであるが、本発明の範囲内で使用することができるイムノベクターは、それが、これらの細胞の膜およびそれらの細胞質を経由して、それと結合する生物学的に活性な成分の輸送、および該細胞の核の間近またはこの核の内部へのその導入を可能にする限り、他の任意の方法により調製してもよい。
【0093】
このようなイムノベクターの例示として、核タンパク質(例えば、ヒストン、タンパク質hnRNP、ポリメラーゼまたはこのポリメラーゼに結合した因子)と活性な生成物との複合体が挙げられる。この場合、この核タンパク質自体は(それが、単独で、インターナリゼーションおよび細胞核内への生物学的に活性な成分の導入を引き起こす能力を有さない限り)、抗細胞膜受容体抗体またはこのようにして得られる複合体の細胞内へのインターナリゼーションを可能にする他の任意の分子と複合体形成している。この複合体が細胞核まで拡散する能力を有し、さらに、前記のとおり、それが今度は、この複合体にカップリングする生物学的に活性な成分を輸送し導入しうる限り、それは、本発明の範囲内に含まれるイムノベクターを構成する。
【0094】
細胞の核内へ活性成分を導入するための効率的なイムノベクターの選択に関して前記した選択技術は、前記複合体の選択に同等に適用することができる。
【0095】
当業者であれば、使用する複合体の少なくともいくつかに関しては、選択の追加的な基準は、これが細胞機能と共に含むその望ましくない作用を伴わないと理解することができるであろう。実際、対応するDNAの認識部位を保持する核内タンパク質の一部のみが、本発明の実施態様に必須であることに注目すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1−1】フルオレセインの「インビトロ」での導入 AおよびB:フルオレセインで標識されたイムノベクター(抗体J-20.8)によるGMA32繊維芽細胞の核の標識(倍率100倍)。
【図1−2】フルオレセインの「インビトロ」での導入 C:蛍光対照抗体の場合には標識が存在しない(100倍)。
【0097】
D:低倍率で観察したもう1つの視域(40倍)。
【図2】図1Aの場合と同じ調製物の共焦点顕微鏡下での分析。GMA32繊維芽細胞を本質的に核内で標識する。図2Aでは、全蛍光が認められる。図2Bは、蛍光強度の分析に対応する。
【図3】フルオレセインの「インビボ」での導入 図3Aでは蛍光対照抗体を、図3Bでは蛍光イムノベクター[抗体(J-20.8)]を5時間前に注入したマウス末梢血細胞のFACS分析。ヒストグラムは、x軸上に蛍光強度(単位は任意)を、y軸上に細胞数を表す。
【図4】末梢血細胞(図3のもの)の共焦点顕微鏡による分析。図4Aでは、全蛍光が認められる。図4Bは、蛍光強度の分析に対応する。
【図5】ヌクレオチドの「インビトロ」での導入 蛍光ヌクレオチドにカップリングされたイムノベクター(抗体J-20.8)のFab’断片が浸透したマウス脾細胞の共焦点顕微鏡検査。図5Aでは、全蛍光が認められる。図5Bは、蛍光強度の分析に対応する。
【0098】
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(22) S.K. Nordeen. Luciferase reporter gene vectors for analysis of promoters and enhancers. Bio Techniques, 8:454 (1988).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的に活性な成分とイムノベクターとの間のカップリング生成物であって、前記カップリング生成物が、真核細胞内での前記の生物学的に活性な成分のインターナリゼーションを可能にする能力によって、及び前記イムノベクターが、これらの細胞の核の間近または前記核内に前記の生物学的に活性な成分を導入できる程度の、これらの細胞のDNAに対する前記イムノベクターの親和性によって特徴づけられるカップリング生成物。
【請求項2】
前記の生物学的に活性な成分と該イムノベクターとの間のカップリングが共有結合または非共有結合を含むことを特徴とする、請求の範囲第1項に記載の生成物。
【請求項3】
前記生成物の組成物中に含まれるイムノベクターが、細胞透過試験であって、前記イムノベクターと結合しうる活性成分が進入しなければならない核において、細胞の存在下で、関心のあるイムノベクターを第1インキュベーションに付し、ついで、前記細胞を固定し透過可能とした後、標識された抗イムノベクター抗体と共に更にインキュベートし、最後に、該核の間近または該核内においてさえも、前記イムノベクターと前記抗イムノベクター抗体との抗原−抗体免疫反応を検出することを具備した細胞透過試験により選択可能なものから選ばれることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の生成物。
【請求項4】
該イムノベクターが、核酸に対する親和性を有する抗体または前記親和性を保持するこの抗体の断片よりなることを特徴とする請求の範囲第1項から第3項のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項5】
該イムノベクターが、モノクローナルIgG、(Fab’)2または(Fab’)断片、または対応する核酸の認識に関与する抗体の部位に対応する何れかのポリペプチドから選ばれることを特徴とする請求の範囲第4項に記載の生成物。
【請求項6】
前記イムノベクターが、正常な個体から得られ抗DNA活性を保持する免疫グロブリン、特にIgGであることを特徴とする請求の範囲第4項または第5項に記載の生成物。
【請求項7】
前記イムノベクターが、抗DNA活性を保持する免疫グロブリン、特にIgGであり、自己免疫症候群、特に播種状エリテマトーデス症候群を現している個体から得られることを特徴とする請求の範囲第4項または第5項に記載の生成物。
【請求項8】
請求の範囲第4項から第7項のいずれか1項に記載の生成物であって、これが、一方では該DNAを、他方ではHIVレトロウイルスのTat、Revのようなタンパク質を、他方ではCD3、CD4、CD8、CD19、CD34のような表面マーカーを認識する二重特異性抗体であることを特徴とする生成物。
【請求項9】
該イムノベクターにカップリングされた活性成分が、核酸、タンパク質またはハプテンから選ばれる分子であることを特徴とする請求の範囲第1項から第8項のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項10】
該イムノベクターにカップリングされた活性成分が、プラスミドであって、前記プラスミドに含まれる遺伝子にコードされるタンパク質の発現を可能にするものよりなることを特徴とする請求の範囲第1項から第8項のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項11】
該イムノベクターが抗体または抗体の断片である場合、後者をまず、該DNAに対する圧縮効果を誘導しうる物質とカップリングさせることを特徴とし、該物質が好ましくはポリリジンである請求の範囲第10項に記載の生成物。
【請求項12】
該活性成分が、標的細胞のゲノム中に、特に相同的組換えにより組込むことを意図した遺伝子、特に、細菌または真核細胞、真菌細胞またはウイルスに由来するポリペプチドであって、前記ポリペプチドがワクチン特性を有するものをコードする核酸配列を含有する「裸」のDNAよりなることを特徴とする請求の範囲第1項から第8項のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項13】
該活性成分が、選択された細胞型、特にマクロファージ、樹状細胞、BおよびT細胞および造血細胞、特にヒト由来のものを不死化しうることを特徴とする請求の範囲第1項から第8項のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項14】
前記活性成分が、例えばHIVレトロウイルスに感染した細胞または腫瘍細胞において、タンパク質またはヌクレオチドの合成を抑制しうるアンチセンスオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求の範囲第1項から第8項のいずれか1項に記載の生成物。
【請求項15】
好ましくは核で活性な分子を含有する真核細胞であって、前記分子が前記細胞の核内に天然では取込まれることがないか、または前記細胞中で低い発現レベルを有し、該分子が、これらの細胞内でそれらの核の間近またはそれらの核内で見出され、請求の範囲第1項から第12項のいずれか1項に記載の生成物に対応するこれらの細胞のDNAに対する親和性により特徴づけられるイムノベクターにカップリングされていることを特徴とする真核細胞。
【請求項16】
請求の範囲第15項に記載の細胞であって、これらがウイルスまたは腫瘍細胞に感染しうることを特徴とする細胞。
【請求項17】
CNCMに1995年6月30日に受託番号第I-1605号、第I-1606号および第I-1607号として寄託されているハイブリドーマ。
【請求項18】
選択された真核細胞の核内に該活性成分をインビトロで導入する方法であって、前記活性成分をイムノベクターにカップリングすることによって特徴づけられ、該イムノベクターがこれらの真核細胞における前記の生物学的に活性な成分のインターナリゼーションを可能にする能力を有し、かつ、前記イムノベクターがこれらの細胞の核の間近または該核内に前記の生物学的に活性な成分を輸送できる程度に該細胞のDNAに対して親和性を有する方法。
【請求項19】
該生物学的に活性な成分が、該イムノベクターに共有結合でまたは非共有結合でカップリングされていることを特徴とする請求の範囲第18項に記載の方法。
【請求項20】
該生成物の組成物中に含まれるイムノベクターが、前記イムノベクターと結合しうる活性成分が進入しなければならない核において、細胞の存在下で、関心のあるイムノベクターを第1インキュベーションに付し、ついで、該細胞を固定し透過可能とした後、標識された抗イムノベクター抗体と共に更にインキュベートし、最後に、該核の間近または該核内においてさえも、該イムノベクターと該抗イムノベクター抗体との抗原−抗体免疫反応を検出することを具備する細胞透過試験により選択可能なものから選ばれることを特徴とする請求の範囲第18項または第19項に記載の方法。
【請求項21】
該イムノベクターが、核酸に対する親和性を有する抗体または前記親和性を保持するこの抗体の断片より形成されることを特徴とする請求の範囲第16項に記載の方法。
【請求項22】
前記イムノベクターが、モノクローナルIgG、(Fab’)2または(Fab’)断片、または対応する核酸の認識に関与する抗体の部位に対応する何れかのポリペプチドから選ばれることを特徴とする請求の範囲第19項に記載の方法。
【請求項23】
生理学的に許容しうる賦形剤と組み合わせて請求の範囲第1項から第9項のいずれか1項に記載の生成物を含有することを特徴とする薬学的組成物であって、該生物学的に活性な成分が医薬またはワクチン活性成分であり、該イムノベクターが、該医薬が向けられた宿主生物と適合しうることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項24】
受容細胞における、前記宿主のDNAに対して異種であるヌクレオチド配列のインビトロでの発現のための、請求の範囲第1項に記載の生成物の使用。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−115202(P2010−115202A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288101(P2009−288101)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【分割の表示】特願平9−504635の分割
【原出願日】平成8年7月10日(1996.7.10)
【出願人】(596009674)アンスティテュ・パストゥール (23)
【出願人】(502381140)ユニベルシテ ピエール エ マリー キュリー(パリ シジェム) (3)
【Fターム(参考)】