細胞内ユビキチン化の検出方法
【課題】細胞内の標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を定量的に検出する方法を提供する。
【解決手段】標的タンパク質の細胞内でのポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を検出する方法であって、以下の工程を含む:1)標的タンパク質(A)とタグ(T1)との融合タンパク質(X)およびユビキチン(B)とタグ(T2)との融合タンパク質(Y)をともに発現する形質転換細胞であって、該融合タンパク質(X)は蛍光色素(D1)で標識され、かつ、該融合タンパク質(Y)は蛍光色素(D2)で標識されている形質転換細胞を準備し、2)該標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化が行われる条件で該形質転換細胞をインキュベートし、3)該形質転換細胞にレーザ光を照射し、4)該形質転換細胞が発する蛍光の蛍光寿命を計測する。
【解決手段】標的タンパク質の細胞内でのポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を検出する方法であって、以下の工程を含む:1)標的タンパク質(A)とタグ(T1)との融合タンパク質(X)およびユビキチン(B)とタグ(T2)との融合タンパク質(Y)をともに発現する形質転換細胞であって、該融合タンパク質(X)は蛍光色素(D1)で標識され、かつ、該融合タンパク質(Y)は蛍光色素(D2)で標識されている形質転換細胞を準備し、2)該標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化が行われる条件で該形質転換細胞をインキュベートし、3)該形質転換細胞にレーザ光を照射し、4)該形質転換細胞が発する蛍光の蛍光寿命を計測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞内ユビキチン化の検出方法に関する。より詳細には、本発明は、細胞内ユビキチン化の蛍光寿命を用いる検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキチンは、76個のアミノ酸からなる、分子量約8.6kDaの低分子タンパク質であり、あらゆる真核細胞に存在する。しかも、ユビキチンの一次構造は進化的によく保存されており、例えば、ヒトとパン酵母との間では、約96%のホモロジーがある。
【0003】
ユビキチンは、C末のグリシン残基でAPT依存性にE1(ユビキチン活性化酵素)のシステイン残基と結合した後、E1からE2(ユビキチン結合酵素)に転移され、E3(ユビキチンリガーゼ)によって認識される標的タンパク質のリシン側鎖のε−アミノ基にイソペプチド結合し、ポリユビキチン化されたタンパク質の機能を制御する。標的タンパク質は、多くの場合、それに連続的にユビキチンが結合したポリユビキチン鎖によって、その機能が制御される。
【0004】
タンパク質分解へと至る場合には、標的タンパク質のリシン残基に結合したユビキチンの48番目のリシン残基にユビキチンのC末端がイソペプチド結合を繰り返すことにより、ポリユビキチン鎖が形成される。このリシン48(K48)を介して形成されたポリユビキチン鎖が26Sプロテアソームの調節サブユニットによる認識シグナルとして機能し、ポリユビキチン化されたタンパク質はプロテアソームにより分解される。
【0005】
ユビキチンを基質タンパク質から取り除く脱ユビキチン化酵素も数多く同定されていることや、ユビキチン修飾が成長因子受容体などのリガンド依存的な内在化シグナル、タンパク質の局在化シグナルとして機能することなど、ユビキチン修飾系のタンパク質分解以外の新たな生理的機能が続々と明らかとなりつつある。そのため、現在ではユビキチン修飾系はタンパク質分解のみならず、広くタンパク質機能を制御する可逆的なタンパク質修飾システムとして位置付けられている。
【0006】
ポリユビキチン化を触媒するユビキチンシステムと、分解マシンであるプロテアソームとからなるユビキチン−プロテアソームシステムは、細胞周期の進行、シグナル伝達、遺伝子発現制御、タンパク質の品質管理など、多様な生命現象に関与している。したがって、この分解系の破綻は疾病につながり、また一方では、この分解系が創薬の標的となる。そのため、生命科学の分野においてはユビキチン−プロテアソームシステムの機構に関する研究が活発に行われている。
【0007】
標的タンパク質のポリユビキチン化を検出する方法としては、従来、組織または細胞をすり潰して組織ホモジェネートまたは細胞ライセートとし、タンパク質を緩衝液に溶解後、SDS−PAGEで展開のうえ、ニトロセルロース等の膜に転写し、この膜に対して免疫染色を行うことでポリユビキチン化された標的タンパク質を検出すること(ウェスタンブロッティング)が一般的であった。しかし、この方法は、手順が煩雑でスループットが低く、細胞ごとのポリユビキチン化の検出をすることもできなかった。
【0008】
近年では、フローサイトメトリ(FCM, Flow Cytometry; FACS, Fluorescence-Activated Cell Sorting)によってスループットを向上させ、細胞ごとにポリユビキチン化を検出できるようになった。FCM法では、ポリユビキチン化、つまりの標的タンパク質とユビキチンとの相互作用の検出方法としては、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)を検出する方法、BiFC(Bimolecular Fluorescence Complementation:蛍光タンパク質再構成)法等が使用される。
【0009】
FRETとは、2種類の蛍光分子ペア(ドナーとアクセプター)が10nm以下の距離に接近したときにおこる現象で、ドナーがレーザから受けた励起エネルギーの一部を、蛍光を介在することなくアクセプターに受け渡す現象をいう。FRETの発生により、ドナー蛍光強度の減少とアクセプター蛍光強度の増加が起こる。
【0010】
蛍光強度を計測してFRETを検出する方法では、通常、ドナー蛍光強度とアクセプター蛍光強度との蛍光強度比がFRETの指標として用いられる。このとき、アクセプターを検出する蛍光チャネルでは、FRET由来のアクセプター蛍光のほかに、ドナー蛍光の漏れ込みと、レーザにより直接励起されたアクセプター蛍光が計測される。また、このとき計測される蛍光強度は発現している蛍光タンパク質の分子数に依存するため、複雑な補正が必要となる。そのため、細胞内のタンパク質のポリユビキチン化を定量的に計測することが困難であり、細胞ごとのポリユビキチン化の違いを比較することもできない。
【0011】
また、FRETとTRF(Time-Resolved Fluorescence:時間分解蛍光)とを組み合わせたTR−FRET法もFRETの検出に用いられる。ドナー蛍光とアクセプター蛍光との蛍光強度比に基いてFRETを検出する点は上記したFRET法と同じである。TR−FRET法では、蛍光寿命が非常に長い蛍光物質であるランタノイド錯体をドナーとして、フルオレセインやGFPなどのフルオロフォアをアクセプターとして用いる点に特徴がある。この両者が近接している場合、ランタノイド錯体の光吸収により励起されたエネルギーは、共鳴エネルギー転移によりアクセプターフルオロフォアに転移する。ここでランタノイド錯体は蛍光寿命が非常に長い蛍光物質であり、時間分解能を有するため、FRETによるシグナルを検出する前に、励起光による試料中の他の化合物やアクセプターからの短寿命蛍光のバックグラウンドを抑えることが可能となる。TR−FRET法は、高感度(低バックグランド)で細胞内のポリユビキチン化を検出することができる。
【0012】
例えば、特許文献1では、細胞内で発現したGFPとIκBαとの融合タンパク質のポリユビキチン化を、テルビウム(Tb)標識抗(ポリ)ユビキチン抗体をユビキチンに結合させてTbとGFPとの間でFRETを発生させ、マイクロプレート上で、TR−FRET法によってポリユビキチン化の検出を行っている(実施例23、図29等)。
【0013】
しかし、TR−FRET法は、蛍光強度を計測することには違いなく、ドナー、アクセプターの標識量が異なる場合や、モル吸光係数が変化する場合には、その影響を直接受け、定量的な計測が困難となる。また、ドナー蛍光がいわゆるレア・メタルであるテルビウムやユウロピウム等のランタノイドの錯体に限定されるため、取扱いに注意を要し、容易に実施することができないという問題もある。さらに、TR−FRET法は、蛍光強度の減衰した時間領域で検出を行うため、蛍光色素の標識量や検出対象の量が少ない場合には、計測に十分な蛍光量を得ることが困難となり、検出可能な範囲が限られるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2009−513681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、細胞内の標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を定量的に検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、形質転換細胞内で標的タンパク質とタンパク質タグとの融合タンパク質およびユビキチンとタンパク質タグとの融合タンパク質をともに発現させ、これらは蛍光色素で標識されているものであり、細胞にレーザ光を照射し、蛍光寿命を測定すると、細胞内の標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を定量的に検出することができることを知得した。
すなわち、本発明は以下に掲げるものである。
【0017】
(1)標的タンパク質の細胞内でのポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を検出する方法であって、以下の工程を含む:
1)標的タンパク質(A)とタグ(T1)との融合タンパク質(X)およびユビキチン(B)とタグ(T2)との融合タンパク質(Y)をともに発現する形質転換細胞であって、該融合タンパク質(X)は蛍光色素(D1)で標識され、かつ、該融合タンパク質(Y)は蛍光色素(D2)で標識されている形質転換細胞を準備し、
2)当該標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化が行われる条件で当該形質転換細胞をインキュベートし、
3)当該形質転換細胞にレーザ光を照射し
4)当該形質転換細胞が発する蛍光の蛍光寿命を計測する。
【0018】
(2)上記蛍光寿命を計測する工程において、蛍光強度を同時に計測する、上記(1)に記載の方法。
【0019】
(3)上記レーザ光を照射する工程および蛍光寿命を計測する工程が、フローサイトメーターを用いて行われる、上記(1)または(2)に記載の方法。
【0020】
(4)上記蛍光色素(D1)と上記蛍光色素(D2)との間で蛍光エネルギー移動(FRET)が起こる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0021】
(5)上記蛍光色素(D1)がドナーであり、かつ、上記蛍光色素(D2)がアクセプターである、上記(4)に記載の方法。
【0022】
(6)上記タグ(T1)がアフィニティタグ(AT1)であり、かつ、上記蛍光色素(D1)が当該アフィニティタグ(AT1)に結合している、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0023】
(7)上記タグ(T2)がアフィニティタグ(AT2)であり、かつ、上記蛍光色素(D2)が当該アフィニティタグ(AT2)に結合している、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0024】
(8)上記タグ(T1)および上記タグ(T2)が、それぞれ、アフィニティタグ(AT1)およびアフィニティタグ(AT2)であり、かつ、上記蛍光色素(D1)および上記蛍光色素(D2)が、それぞれ、当該アフィニティタグ質(AT1)および当該アフィニティタグ質(AT2)に結合している、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0025】
(9)上記蛍光色素(D1)が有機合成蛍光色素(C1)もしくは蛍光タンパク質(P1)である、および/または上記蛍光色素(D2)が有機合成色素(C2)もしくは蛍光タンパク質(P2)である、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
【0026】
(10)上記蛍光色素(D1)が蛍光タンパク質(P1)であり、かつ、上記タグ(T2)が当該蛍光タンパク質(P1)を含む蛍光タンパク質タグ(PT1)である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0027】
(11)上記蛍光色素(D2)が蛍光タンパク質(P2)であり、かつ、上記タグ(T2)が当該蛍光タンパク質(P2)を含む蛍光タンパク質タグ(PT2)である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0028】
(12)上記蛍光色素(D1)および上記蛍光色素(D2)が、それぞれ、蛍光タンパク質(P1)および蛍光タンパク質(P2)であり、かつ、上記タグ(T1)および上記タグ(T2)が、それぞれ、当該蛍光タンパク質(P1)を含む蛍光タンパク質タグ(PT1)および当該蛍光タンパク質(P2)を含む蛍光タンパク質タグ(PT2)である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0029】
(13)上記標的タンパク質が、カルバモイルリン酸シンターゼI(CPSI)、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、フルクトース−1、6−ビスリン酸アルドラーゼ、電子伝達フラボプロテインアルファサブユニット、中鎖脂肪酸アシルCoAデヒドロゲナーゼ、長鎖アシルCoAシンテターゼ、TBP関連因子(TAFs)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、インポーチンα、DNA2ヘリカーゼ、リボソームタンパク質L7、フォン・ウィルブランド因子(vWF)、N−エチルマレイミド感受性因子(NSF)、S−アデノシルホモシステインヒドロラーゼ、セリンプロテアーゼ、非対称性アセチルコリンエステラーゼのコラーゲン様尾部サブユニット(ColQ)、セリンカルボキシペプチダーゼ1(SCEP1)、ヒストンクラスタ1、Δ3,Δ2−エノイル−CoAイソメラーゼ、アクロシン結合タンパク質(ACRPB)、セマフォリン5A、オーロラ−A−キナーゼ相互作用タンパク質1、p53、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)p85サブユニット、β−カテニン、Zap−70、T細胞受容体(TCR)、Fynチロシンキナーゼ、成長因子結合タンパク質結合タンパク質2(Grb2)、Sosタンパク質、DNA修復キナーゼKu70・Ku80複合体(Ku70/80)、Crk様タンパク質(Crkl)、ホスホリパーゼC−γ(PLCγ)、プロテインキナーゼCθ(PKCθ)、エストロゲンレセプター結合タンパク質(ERBP)、ユビキチンリガーゼCHIP、サイクリン(Cdc13)、低酸素誘導因子1α(HIF−1α)、ミトコンドリア関連タンパク質(Drp1)、ヒストンH2B、H2AX複合体(ヒストン)、IκBα、IκB p100、TNF受容体関連因子6(TRAF−6)およびNF−kB p−105からなる群から選択される1つである、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の方法。
【0030】
(14)上記標的タンパク質(A)がユビキチンである、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の方法。
【0031】
(15)上記標的タンパク質(A)のプロテアソームによる分解の阻害物質をスクリーニングするための方法である、上記(1)〜(14)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、細胞内の標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を定量的に検出する方法を提供することができる。
【0033】
また、本発明によれば、細胞ごとのポリユビキチン化の違いを比較することができる。
また、本発明によれば、容易に、高スループットで、短時間で、大量のサンプルを計測することができる。
また、本発明によれば、生きた細胞内のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化をリアルタイムで検出することができる。
さらに、本発明によれば、蛍光強度のみを計測するよりも、融合タンパク質発現量が少ない場合であっても、ポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化の検出をすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、「標的タンパク質の細胞内でのポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を検出する方法であって、以下の工程を含む、
1)標的タンパク質(A)とタグ(T1)との融合タンパク質(X)およびユビキチン(B)とタグ(T2)との融合タンパク質(Y)をともに発現する形質転換細胞であって、当該融合タンパク質(X)は蛍光色素(D1)で標識され、かつ、当該融合タンパク質(Y)は蛍光色素(D2)で標識されている形質転換細胞を準備し、
2)当該標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化が行われる条件で当該形質転換細胞をインキュベートし、
3)当該形質転換細胞にレーザ光を照射し
4)当該形質転換細胞が発する蛍光の蛍光寿命を計測する。」である。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0035】
〈標的タンパク質(A)〉
標的タンパク質(A)は、特に限定されないが、ユビキチン−プロテアソームシステム(ユビキチンにより標識されたタンパク質をプロテアソームで分解する系をいう。)によって分解されるタンパク質またはユビキチンであることが好ましい。
【0036】
ユビキチン−プロテアソームシステムによって分解されるタンパク質としては、特に限定されないが、以下に掲げるタンパク質からなる群から選択される1つであることが好ましい:カルバモイルリン酸シンターゼI(CPSI)、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、フルクトース−1、6−ビスリン酸アルドラーゼ、電子伝達フラボプロテインアルファサブユニット、中鎖脂肪酸アシルCoAデヒドロゲナーゼ、長鎖アシルCoAシンテターゼ、TBP関連因子(TAFs)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、インポーチンα、DNA2ヘリカーゼ、リボソームタンパク質L7、フォン・ウィルブランド因子(vWF)、N−エチルマレイミド感受性因子(NSF)、S−アデノシルホモシステインヒドロラーゼ、セリンプロテアーゼ、非対称性アセチルコリンエステラーゼのコラーゲン様尾部サブユニット(ColQ)、セリンカルボキシペプチダーゼ1(SCEP1)、ヒストンクラスタ1、Δ3,Δ2−エノイル−CoAイソメラーゼ、アクロシン結合タンパク質(ACRPB)、セマフォリン5A、オーロラ−A−キナーゼ相互作用タンパク質1、p53、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)p85サブユニット、β−カテニン、Zap−70、T細胞受容体(TCR)、Fynチロシンキナーゼ、成長因子結合タンパク質結合タンパク質2(Grb2)、Sosタンパク質、DNA修復キナーゼKu70・Ku80複合体(Ku70/80)、Crk様タンパク質(Crkl)、ホスホリパーゼC−γ(PLCγ)、プロテインキナーゼCθ(PKCθ)、エストロゲンレセプター結合タンパク質(ERBP)、ユビキチンリガーゼCHIP、サイクリン(Cdc13)、低酸素誘導因子1α(HIF−1α)、ミトコンドリア関連タンパク質(Drp1)、ヒストンH2B、H2AX複合体(ヒストン)、IκBα、IκB p100、TNF受容体関連因子6(TRAF−6)およびNF−kB p−105。
【0037】
〈ユビキチン(B)〉
ユビキチン(B)は特に限定されないが、形質転換細胞中でユビキチンとしての機能を有することが好ましい。例えば、ヒト由来細胞を用いて形質転換細胞を調製する場合では、ヒトのユビキチンを用いることが好ましい。
【0038】
〈ポリユビキチン化/脱ユビキチン化〉
ポリユビキチン化とは、標的タンパク質にユビキチンを付加する反応をいう。この反応系にはユビキチン活性化酵素(El)、ユビキチン結合酵素(E2)、およびユビキチンリガーゼ(E3)の複合酵素反応系が関与する。この複合酵素反応系により標的タンパク質の特定のリシン残基にイソペプチド結合し、ユビキチン分子間でも同じ結合を繰り返して複数の(ポリ)ユビキチン鎖が形成される。
脱ユビキチン化とは、ポリユビキチン化された標的タンパク質から(ポリ)ユビキチン鎖を除去する反応をいう。この反応系には脱ユビキチン化酵素(DUBs)が関与する。
【0039】
〈タグ(T1)/タグ(T2)〉
タグ(「タンパク質タグ」または「ペプチドタグ」をいう。)は、標的タンパク質(A)またはユビキチン(B)の目印となるタンパク質またはペプチドである。本発明では、タグの付いた標的タンパク質またはユビキチンは、融合タンパク質として発現する。本発明では、標的タンパク質に付けるタグをタグ(T1)といい、ユビキチンに付けるタグをタグ(T2)といい、区別する場合がある。また、タグ(T1)とタグ(T2)とは相違するものであることが好ましい。タグ(T1)は、標的タンパク質の機能、構造等によりそのN末端および/またはC末端に付けることが好ましく、タグ(T2)は、ユビキチンのN末端でもC末端のいずれでもよいが、N末端に付けることが好ましい。
本発明では、タグは蛍光標識に係るタグであることが好ましく、アフィニティタグまたは蛍光タンパク質であることがより好ましい。
【0040】
《蛍光標識に係るタグ》
蛍光標識に係るタグとは、蛍光色素を直接またはリガンドを介して結合するためのタグまたはそれ自体が蛍光標識であるタグをいう。蛍光標識を結合するためのタグとしては、アフィニティタグが例示され、それ自体が蛍光標識であるタグとしては、蛍光タンパク質タグが挙げられる。
なお、本発明において、タグ(T1)および/またはタグ(T2)がアフィニティタグであるとき、それぞれ、アフィニティタグ(AT1)および/またはアフィニティタグ(AT2)という場合がある。
【0041】
《アフィニティタグ》
アフィニティタグは他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用するタグである。なお、蛍光タンパク質であるものは後記する。
アフィニティタグとしては、具体的には、例えば、Hisタグ,HQタグ,HNタグ,HATタグ,GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)タグ,MBP(マルトース結合タンパク質)タグ,FLAGタグ、HAタグ、c−Mycタグ,TC(テトラシステイン)タグ,SNAPタグ,CLIPタグ,Haloタグ,BCCP(ビオチン化ペプチド)タグ等が挙げられる。
蛍光色素は、これらのアフィニティタグに、共有結合、水素結合等の結合を介して、直接的にまたは間接的に結合することが好ましい。
標的タンパク質(A)と融合するアフィニティタグ(AT1)と、ユビキチン(B)と融合するアフィニティタグ(AT2)とは、相違するタグであり、かつ、異なる化学物質と特異的親和性を有するものであることが好ましい。また、それぞれのタグを蛍光標識する蛍光色素(D1)と蛍光色素(D2)とは、相違する蛍光色素であることが好ましい。蛍光色素はアフィニティタグと、直接的な相互作用によって、または抗体等のアフィニティタグと親和性を有する部分を介して結合することが好ましい。
【0042】
《蛍光タンパク質タグ》
下記する蛍光タンパク質をタグとするものである。このとき、融合タンパク質(X)または融合タンパク質(Y)は、それぞれ、標的タンパク質(A)のN末端もしくはC末端に蛍光タンパク質が直接もしくはリンカーペプチドを介して結合したもの、またはユビキチン(B)のN末端もしくはC末端に蛍光タンパク質が直接もしくはリンカーペプチドを介して結合されたものであることが好ましい。
本発明において、タグ(T1)および/またはタグ(T2)が、それぞれ、蛍光タンパク質(P1)を含むタンパク質タグおよび/または蛍光タンパク質(P2)を含むタンパク質タグであるとき、それぞれ、蛍光タンパク質タグ(PT1)および/または蛍光タンパク質タグ(PT2)という場合がある。
蛍光タンパク質タグ(PT1)と、蛍光タンパク質タグ(PT2)とは、異なる蛍光タンパク質によるタグであることが好ましい。
【0043】
《蛍光色素(D1)/蛍光色素(D2)》
蛍光色素は特に限定されないが、有機合成蛍光色素および/または蛍光タンパク質が好ましい。
なお、本発明においては、標的タンパク質を標識する蛍光色素、有機合成蛍光色素および蛍光タンパク質を、それぞれ、蛍光色素(D1)、有機合成蛍光色素(C1)および蛍光タンパク質(P1)といい、ユビキチンを標識する蛍光色素、有機合成蛍光色素および蛍光タンパク質を、それぞれ、蛍光色素(D2)、有機合成蛍光色素(C2)および蛍光タンパク質(P2)という場合がある。また、蛍光色素(D1)と蛍光色素(D2)とは、相違するものであることが好ましく、蛍光色素(D1)と蛍光色素(D2)との間で蛍光エネルギー移動(FRET)が起こること(FRETペアであること)が好ましい。
【0044】
(有機合成蛍光色素)
有機合成蛍光色素は、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシクマリン,6−メチルクマリン,4−メトキシクマリン,7−メトキシクマリン,7−アミノクマリンなどのクマリン系色素;ローダミンB,ローダミン6G,ローダミン123,スルホローダミン101,Texas Red(スルホローダミン101酸クロリド),5−TAMRA(5−カルボキシテトラメチルローダミン),6−TAMRA、TMR(テトラメチルローダミン),TRITC(テトラメチルローダミン−5(6)−イソチオシアナート),5−ROX(5−カルボキシ−X−ローダミン)、6−ROX(6−カルボキシ−X−ローダミン)などのローダミン系色素;フルオレセイン、5−FAM(5−カルボキシフルオレセイン),6−FAM(6−カルボキシフルオレセイン),5−HEX(5−カルボキシ−2’,4,4’,5’,7,7’−ヘキサクロロフルオレセイン),6−HEX(6−カルボキシ−2’,4,4’,5’,7,7’−ヘキサクロロフルオレセイン),5−TET(5−カルボキシ−2’,4,7,7’−テトラクロロフルオレセイン),6−TET(6−カルボキシ−2’,4,7,7’−テトラクロロフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチアシアナート)、FlAsH(Fluorescein Arsenical Hairpin)などのフルオレセイン系色素;Cy3,Cy5などのシアニン系色素;レゾルフィン,ReAsH(Resorufin Arsenical Hairpin)などのレゾルフィン系色素;Alexa Fluor(R) 350,Alexa Fluor 405,Alexa Fluor 430,Alexa Fluor 488,Alexa Fluor 532,Alexa Fluor 546,Alexa Fluor 555,Alexa Fluor 568,Alexa Fluor 594,Alexa Fluor 633,Alexa Fluor 647,Alexa Fluor 680,Alexa Fluor 700,Alexa Fluor 750,Alexa Fluor 790などのAlexa Fluor色素シリーズ(ライフテクノロジーズ社製);DyLight 350,DyLight 405,DyLight 488,DyLight 549,DyLight 594,DyLight 633,DyLight 649,DyLight 680,DyLight 750,DyLight 800などのDyLight色素シリーズ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製);Oyster−500,Oyster−550P,Oyster−556,Oyster−645,Oyster−650P,Oyster−656などのOyster色素シリーズ(デノボバイオラベルズ社製);等が挙げられる。
【0045】
有機合成蛍光色素は、タグにアフィニティをもつリガンドを介して、修飾されたタグにアフィニティをもつリガンドを介して、タグにアフィニティをもつ抗体を介して、または標的タンパク質もしくはユビキチンにアフィニティをもつ抗体を介して、融合タンパク質(Y)または融合タンパク質(X)に結合することが好ましい。
【0046】
FRETペアとして好ましい有機合成蛍光色素の組合せとしては、ドナーから発せられる蛍光のスペクトルがアクセプターの励起スペクトルと重なっている組合せであれば特に限定されないが、例えば、Alexa Fluor 430とCy3、FITCとAlexa Fluor 532、Cy3とTAMRA等が挙げられる(左側がドナー、右側がアクセプターとなる)。
【0047】
また、FRETペアの場合には、標的タンパク質を標識する有機合成蛍光色素とユビキチンを標識する有機合成蛍光色素とは、一方がドナーとなり、他方がアクセプターとなればよいが、標的タンパク質を標識する有機合成蛍光色素がドナーとなり、ユビキチンを標識する有機合成蛍光色素がアクセプターとなることが好ましい。なお、標的タンパク質がユビキチンである場合には、標的タンパク質を標識する有機合成蛍光色素とユビキチンを標識する有機合成蛍光色素とは、一方がドナーとなり、他方がアクセプターとなればよい。
【0048】
(蛍光タンパク質)
蛍光タンパク質は、特に限定されないが、Sirius,EBFP,SBP2,EBP2,Azurite,mKalama1,TagBFP,mBlueberry,mTurquoise,ECFP,Cerulean,TagCFP,AmCyan,mTP1,MiCy(Midoriishi Cyan),TurboGFP,CFP,AcGFP,TagGFP,AG (Azami−Green),mAG1,ZsGreen,EmGFP(Emerald),EGFP,GP2,T−Sapphire,HyPerなどの青色蛍光タンパク質;TagYFP,mAmetrine,EYFP,YFP,Venus,Citrine,PhiYFP,PhiYFP−m,turboYFP,ZsYellow,mBananaなどの黄色蛍光タンパク質;mKO1,KO(Kusabira Orange),mOrange,mOrange2,mKO2などの橙色蛍光タンパク質;Keima570,TurboRFP,DsRed−Express,DsRed,DsRed2,TagRFP,TagRFP−T,DsRed−Monomer,mApple,AsRed2,mStrawberry,TurboFP602,mRP1,JRed,KillerRed,mCherry,KeimaRed,HcRed,mRasberry,mKate2,TagFP635,mPlum,egFP650,Neptune,mNeptune,egFP670などの赤色蛍光タンパク質;Medium−FT,Slow−FT,Fast−FTなどの蛍光タイマー;等が挙げられる。
【0049】
FRETペアとして好ましい蛍光タンパク質の組合せとしては、ドナーから発せられる蛍光のスペクトルがアクセプターの励起スペクトルと重なっている組合せであれば特に限定されないが、例えば、CFPとYFP、AGとKO、EGFPとVenus等の組合せが挙げられる(左側がドナー、右側がアクセプターとなる)。
【0050】
また、FRETペアの場合には、標的タンパク質を標識する蛍光タンパク質とユビキチンを標識する蛍光タンパク質とは、一方がドナーとなり、他方がアクセプターとなればよいが、標的タンパク質を標識する蛍光タンパク質がドナーとなり、ユビキチンを標識する蛍光タンパク質がアクセプターとなることが好ましい。なお、標的タンパク質がユビキチンである場合には、標的タンパク質を標識する蛍光タンパク質とユビキチンを標識する蛍光タンパク質とは、一方がドナーとなり、他方がアクセプターとなればよい。
【0051】
蛍光タンパク質は、タグにアフィニティをもつリガンドを介して、修飾されたタグにアフィニティをもつリガンドを介して、タグにアフィニティをもつ抗体を介して、または標的タンパク質もしくはユビキチンにアフィニティをもつ抗体を介して、融合タンパク質(Y)または融合タンパク質(X)に結合するか、それ自体タグとして、標的タンパク質もしくはユビキチンとの融合タンパク質として細胞内で発現することが好ましい。
【0052】
標的タンパク質(A)およびユビキチン(B)の蛍光標識は、両方を蛍光タンパク質で標識してもよいし、両方を有機合成蛍光色素で標識してもよいし、一方を蛍光タンパク質で標識し、他方を有機合成蛍光色素で標識してもよい。
【0053】
〈形質転換細胞〉
形質転換細胞は、融合タンパク質(Y)および融合タンパク質(X)を細胞内で発現するように形質転換された細胞をいう。好ましくは、融合タンパク質(Y)をコードする遺伝子および融合タンパク質(X)をコードする遺伝子を組み込んだ細胞をいう。より好ましくは、融合タンパク質(Y)をコードするベクタおよび融合タンパク質(X)をコードするベクタを二重トランスフェクトした細胞をいう。
【0054】
細胞は、ヒト、マウス等の動物に由来する細胞であってもよいし、昆虫細胞であってもよいし、酵母等であってもよい。
ヒト由来細胞としては、具体的には、例えば、HEK293、HeLaなどの付着系の細胞;293−F、293−FT、Jurkatなどの浮遊系の細胞;等を利用することができる。また、各種組織から確立した初代細胞や幹細胞を用いることもできる。
ヒト以外の哺乳類由来細胞としては、例えば、マウス由来のMC系、チャイニーズハムスター由来のCHO等の細胞を用いることができる。
昆虫培養細胞としては、例えば、Sf−9、Sf−21などのスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)から確立されたSf株等が挙げられる。
【0055】
〈インキュベート〉
インキュベートは、ポリユビキチン化を誘導することができる条件を、細胞の種類に依存して適宜定めることができる。例えば、ヒト由来の293−F遊離細胞であれば、37℃、5〜10%の炭酸ガス雰囲気下で振盪しながら培養することが好ましい。また、HeLa等の付着系細胞では、37℃、5%の炭酸ガス雰囲気下で静止状態で培養することが好ましい。
【0056】
〈レーザ光〉
レーザ光の波長は、使用する蛍光色素の励起波長によって適宜定めることができるが、細胞に対する刺激が比較的少ないという観点から、可視光域波長とすることが好ましい。
【0057】
〈蛍光寿命・蛍光強度〉
蛍光寿命とは、蛍光強度が1/eに低下するのに要する時間である。蛍光寿命は分子構造や特性、分子の置かれている状態に依存する。
本発明の方法では、蛍光寿命を計測するとき、同時に、蛍光強度を計測してもよい。
【0058】
〈フローサイトメーター〉
本発明の方法では、スループットを高くするという観点から、フローサイトメーターを用いることが好ましい。フローサイトメーターとしては、蛍光寿命と蛍光強度との同時計測をすることができるものが好ましく、具体的には、例えば、Flicyme(R) 300(三井造船社製)が挙げられる。フローサイトメーターを用いると、1細胞ごとに計測することができ、より多くの情報を得ることができる。
なお、フローサイトメーターを用いる場合には、細胞は浮遊系細胞を用いることが好ましいが、付着系細胞をトリプシン処理等することによって浮遊状態にして用いることもできる。
【0059】
〈蛍光エネルギー移動(FRET)〉
FRETとは、2種類の蛍光分子ペア(ドナーとアクセプター)が10nm以下の距離に接近したときにおこる現象で、ドナーがレーザから受けた励起エネルギーの一部を、蛍光を介在することなくアクセプターに受け渡す現象をいう。FRETの発生により、ドナー蛍光強度の減少とアクセプター蛍光強度の増加が起こる。
【0060】
本発明においては、上記蛍光色素(D1)と上記蛍光色素(D2)との間で蛍光エネルギー移動(FRET)が発生すればよく、どちらがドナーで、どちらがアクセプターであってもよいが、標的タンパク質を標識する蛍光色素がドナーであり、ユビキチンを標識する蛍光色素がアクセプターであることが好ましい。
【0061】
[スクリーニング方法]
本発明は、また、標的タンパク質のプロテアソームによる分解の阻害物質をスクリーニングするための方法を提供する。
標的タンパク質はユビキチン−プロテアソーム系で分解されるタンパク質であるので、ポリユビキチン化を阻害する物質は、そのタンパク質の分解の阻害物質ともなり得るからである。
【実施例】
【0062】
[IκBαのポリユビキチン化の検出]
〈NF−κBの特徴〉
NF−κBは免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの数多くの生理現象に関与している。NF−κBはストレスやサイトカイン、紫外線等の刺激により活性化される。NF−κB活性制御の不良はクローン病や関節リウマチなどの炎症性疾患をはじめとし、癌や敗血症性ショックなどの原因となり、特に悪性腫瘍では多くの場合NF−κBの恒常的活性化が認められる。さらに、NF−κBはサイトメガロウイルス(CMV)やヒト免疫不全ウイルス(HIV)の増殖にも関与している。
【0063】
NF−κBは、細胞質内ではホモまたはヘテロ二量体を形成し、そのインヒビターであるIκBと結合して不活性な状態で存在している。NF−κBは、Relファミリーに属し、その構造により、RelA(p65)、RelB、c−Rel、NF−κB1(p105/p50)、NF−κB2(p100/p52)の5種類に分類される。これらのうち、p50およびp52は、p105とp100の前駆体として産生され、プロテアソームにより限定分解されて生じる。これらは互いに共通の領域としてRelホモロジードメイン(RHD)というアミノ酸配列を持っていて、この領域に核内への移行シグナル(NLS)も存在する。
【0064】
〈IκBの特徴〉
IκBは核内因子κB1(NF−κB)の抑制因子である。IκBには、7種類のファミリー(IκBα/β/γ/ε、Bcl3、p105,p100)がある。これらの分子はアンキリンリピートと呼ばれるアミノ酸の繰り返し配列を有し、これによってNF−κBのRHDと会合し、NF−κBに存在するNLSをマスクすることでNF−κBの核内への移行をブロックしている。
【0065】
〈NF−κBの活性化〉
通常の細胞内ではNF−κBはIκBαやp100などの阻害タンパク質と会合した不活性型として細胞質に存在するが、活性化シグナルを受容すると阻害タンパク質は分解されNF−κBは核内に移行して活性化される。現在のところ、NF−κBの活性化の経路は以下の3経路があることが知られている(Tsuchiya, Yoshihiro、外5名,「Nuclear IKKbeta is an adaptor protein for IkappaBalpha ubiquitination and degradation in UV-induced NF-kappaB activation.」,Molecular Cell,2010年8月27日,第39巻,第4号,p.570−582)。
【0066】
NF−κB活性化の第1経路(古典的経路)は、腫瘍壊死因子α(TNFα)などの炎症性サイトカインがIKKβを活性化してIκBαの分解を誘導する経路である。活性化されたIKKβはIκBαのN末端に存在する2つのセリン残基をリン酸化し、リン酸化されたIκBαはユビキチンリガーゼβ−TrCPによりポリユビキチン化をうけてプロテアソームによって分解される。最終的に、RelAとp50とから構成されるNF−κBが核内に移行して遺伝子発現を誘導する。通常、活性化されたNF−κBは、IκBαなどの阻害タンパク質の発現やA20などの活性化抑制タンパク質の発現を誘導するため、NF−κBはすみやかに不活性化される。
【0067】
NF−κB活性化の第2経路は、CD40などに代表されるリンパ球制御関連因子がIKKαを活性化する経路である。活性化されたIKKαはp100をリン酸化し、リン酸化されたp100はβ−TrCPによるポリユビキチン化を介した限定分解によりp52に変換され、最終的にRelBとp52とから構成されるNF−κBが活性化される。
IKKαまたはIKKβによりリン酸化された阻害タンパク質にβ−TrCPが直接に会合してポリユビキチン化を誘導する点が、第1経路と第2経路との共通点である。
【0068】
一方、NF−κB活性化の第3経路は、リン酸化を介さずにIκBが誘導性に分解される経路である。この経路ではIKKβはキナーゼとして機能するのではなく、β−TrCPとIκBとの会合を介在するアダプタータンパク質として機能する。細胞を紫外線照射するとIκBαは核内に移行してIKKβと会合する。IKKβにはβ−TrCPが会合しており、この複合体上でIκBαはポリユビキチン化をうけて最終的にプロテアソームにより分解される。カゼインキナーゼ2やp38 MAPキナーゼもIKKβを介してIκBαの分解を促進する。
【0069】
本実施例では、可視光レーザを照射し、IκBαのポリユビキチン化を検出することから、第1経路における阻害タンパク質IκBαのポリユビキチン化を検出することができる。
【0070】
[実施例1]形質転換細胞での融合タンパク質のポリユビキチン化の検出
〈方法〉
《IκBαとGSTタグとの融合タンパク質の発現コンストラクト》
(エントリークローンの構築)
pENTR/D−TOPO(R)クローニングキット(ライフテクノロジーズ社製)を用いて、Directional TOPOクローニングにより、配列番号1に示す塩基配列を有するDNA断片をpENTR/D−TOPO(R)エントリーベクタに組み込んで組換えベクタを得る。さらに、この組換えベクタを大腸菌(OneShot(R) OmniMaxTM2T1細胞,ライフテクノロジーズ社製)にトランスフェクトし、カナマイシン含有培地で培養し、組換えベクタを分離・精製して、エントリークローンを得る。
【0071】
(発現クローンの構築)
構築したエントリークローンと、哺乳類細胞用Gateway(R)発現ベクタ(pDESTTM27,ライフテクノロジーズ社製;N末端GSTタグ,ネオマイシン耐性)と、Gateway(R) LRクロナーゼTMII酵素ミックス(ライフテクノロジーズ社製)とを混合してインキュベートし、LRリコンビネーション反応を行い、組換えベクタを得る。さらに、この組換えベクタを大腸菌(OneShot(R) TOP10細胞,ライフテクノロジーズ社製)にトランスフェクトし、カナマイシン含有培地で培養し、組換えベクタを分離・精製して、発現クローン(以下、実施例1において「発現クローン1」という。)を得る。
【0072】
《ユビキチンとTCタグとの融合タンパク質の発現コンストラクト》
(エントリークローンの構築)
pENTR/D−TOPO(R)クローニングキット(ライフテクノロジーズ社製)を用いて、配列番号3に示す塩基配列を有するDNA断片をpENTR/D−TOPO(R)エントリーベクタに組み込んで組換えベクタを得る。さらに、このベクタを大腸菌(OneShot(R) OmniMaxTM2T1細胞,ライフテクノロジーズ社製)にトランスフェクトし、カナマイシン含有培地で培養し、組換えベクタを分離・精製して、エントリークローンを得る。
【0073】
(発現クローンの構築)
構築したエントリークローンと、発現ベクタ(pcDNATM6.2/nTC−Tag−DEST,ライフテクノロジーズ社製;N末端TCタグ,ブラスチジン耐性)と、LRクロナーゼTMII酵素ミックス(ライフテクノロジーズ社製)とを混合してインキュベートし、LRリコンビネーション反応を行い、組換えベクタを得る。さらに、大腸菌(OneShot(R) TOP10細胞,ライフテクノロジーズ社製)にトランスフェクトし、カナマイシン含有培地で培養し、組換えベクタを分離・精製して、発現クローン(以下、実施例1において「発現クローン2」という。)を得る。
【0074】
《トランスフェクション》
発現クローン1および発現クローン2を、定法により、293−F浮遊細胞(FreeStyleTM 293−F細胞;ライフテクノロジーズ社製)に二重トランスフェクトする。ネオマイシン硫酸塩およびブラスチジンS塩酸塩を含有する培地で、37℃、48時間、8%二酸化炭素雰囲気で、振盪しながら培養し、GSTタグとIκBαとの融合タンパク質と、TCタグとユビキチンとの融合タンパク質を発現させる。
【0075】
《蛍光標識》
GSTタグに結合する、Alexa Fluor(R) 488色素で標識した抗グルタチオン−S−トランスフェラーゼ抗体(最大励起波長495nm,最大蛍光波長520nm;ライフテクノロジーズ社製)と、TCタグに結合する、ReAsH−EDT2標識試薬(最大励起波長593nm,最大蛍光波長608nm;ライフテクノロジーズ社製)とを用いて蛍光標識する。
【0076】
《蛍光寿命計測》
フローサイトメーターFlicyme(R) 300(三井造船社製)を用いて、形質転換細胞について、各10万個のデータを計測する。ドナー用として中心波長494nm・半値幅41nmのバンドパスフィルタを、アクセプター用としてカットオン波長600nmのロングパスフィルタを、それぞれ使用する。
【0077】
〈結果〉
FRETの発生が検出される。また、細胞内でのポリユビキチン化を定量的に計測することができ、さらに、細胞ごとのポリユビキチン化の違いを比較することもできる。そして、ドナー領域の蛍光寿命の短縮が認められる。
【0078】
[比較例1]非形質転換細胞での計測
〈方法〉
形質転換を行わない293−F浮遊細胞を使用する。計測その他は実施例1と同様に行う。
〈結果〉
FRETの発生は検出されない。
【0079】
[比較例2]形質転換細胞での融合タンパク質のポリユビキチン化の蛍光強度による検出
〈方法〉
Flicyme-300 を用いて蛍光強度の計測を行うが、蛍光寿命の計測は行わず、蛍光強度比をFRETの指標とした点を除き、実施例1と同様に行う。
〈結果〉
FRETの発生が検出される。しかし、バックグラウンドが高く、細胞内ポリユビキチン化を定量的に計測することができない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
標的タンパク質のポリユビキチン化を阻害または促進する物質のスクリーニングを高スループットで行うことができ、医薬品探索・開発のための細胞アッセイ技術として利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞内ユビキチン化の検出方法に関する。より詳細には、本発明は、細胞内ユビキチン化の蛍光寿命を用いる検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキチンは、76個のアミノ酸からなる、分子量約8.6kDaの低分子タンパク質であり、あらゆる真核細胞に存在する。しかも、ユビキチンの一次構造は進化的によく保存されており、例えば、ヒトとパン酵母との間では、約96%のホモロジーがある。
【0003】
ユビキチンは、C末のグリシン残基でAPT依存性にE1(ユビキチン活性化酵素)のシステイン残基と結合した後、E1からE2(ユビキチン結合酵素)に転移され、E3(ユビキチンリガーゼ)によって認識される標的タンパク質のリシン側鎖のε−アミノ基にイソペプチド結合し、ポリユビキチン化されたタンパク質の機能を制御する。標的タンパク質は、多くの場合、それに連続的にユビキチンが結合したポリユビキチン鎖によって、その機能が制御される。
【0004】
タンパク質分解へと至る場合には、標的タンパク質のリシン残基に結合したユビキチンの48番目のリシン残基にユビキチンのC末端がイソペプチド結合を繰り返すことにより、ポリユビキチン鎖が形成される。このリシン48(K48)を介して形成されたポリユビキチン鎖が26Sプロテアソームの調節サブユニットによる認識シグナルとして機能し、ポリユビキチン化されたタンパク質はプロテアソームにより分解される。
【0005】
ユビキチンを基質タンパク質から取り除く脱ユビキチン化酵素も数多く同定されていることや、ユビキチン修飾が成長因子受容体などのリガンド依存的な内在化シグナル、タンパク質の局在化シグナルとして機能することなど、ユビキチン修飾系のタンパク質分解以外の新たな生理的機能が続々と明らかとなりつつある。そのため、現在ではユビキチン修飾系はタンパク質分解のみならず、広くタンパク質機能を制御する可逆的なタンパク質修飾システムとして位置付けられている。
【0006】
ポリユビキチン化を触媒するユビキチンシステムと、分解マシンであるプロテアソームとからなるユビキチン−プロテアソームシステムは、細胞周期の進行、シグナル伝達、遺伝子発現制御、タンパク質の品質管理など、多様な生命現象に関与している。したがって、この分解系の破綻は疾病につながり、また一方では、この分解系が創薬の標的となる。そのため、生命科学の分野においてはユビキチン−プロテアソームシステムの機構に関する研究が活発に行われている。
【0007】
標的タンパク質のポリユビキチン化を検出する方法としては、従来、組織または細胞をすり潰して組織ホモジェネートまたは細胞ライセートとし、タンパク質を緩衝液に溶解後、SDS−PAGEで展開のうえ、ニトロセルロース等の膜に転写し、この膜に対して免疫染色を行うことでポリユビキチン化された標的タンパク質を検出すること(ウェスタンブロッティング)が一般的であった。しかし、この方法は、手順が煩雑でスループットが低く、細胞ごとのポリユビキチン化の検出をすることもできなかった。
【0008】
近年では、フローサイトメトリ(FCM, Flow Cytometry; FACS, Fluorescence-Activated Cell Sorting)によってスループットを向上させ、細胞ごとにポリユビキチン化を検出できるようになった。FCM法では、ポリユビキチン化、つまりの標的タンパク質とユビキチンとの相互作用の検出方法としては、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer:蛍光共鳴エネルギー移動)を検出する方法、BiFC(Bimolecular Fluorescence Complementation:蛍光タンパク質再構成)法等が使用される。
【0009】
FRETとは、2種類の蛍光分子ペア(ドナーとアクセプター)が10nm以下の距離に接近したときにおこる現象で、ドナーがレーザから受けた励起エネルギーの一部を、蛍光を介在することなくアクセプターに受け渡す現象をいう。FRETの発生により、ドナー蛍光強度の減少とアクセプター蛍光強度の増加が起こる。
【0010】
蛍光強度を計測してFRETを検出する方法では、通常、ドナー蛍光強度とアクセプター蛍光強度との蛍光強度比がFRETの指標として用いられる。このとき、アクセプターを検出する蛍光チャネルでは、FRET由来のアクセプター蛍光のほかに、ドナー蛍光の漏れ込みと、レーザにより直接励起されたアクセプター蛍光が計測される。また、このとき計測される蛍光強度は発現している蛍光タンパク質の分子数に依存するため、複雑な補正が必要となる。そのため、細胞内のタンパク質のポリユビキチン化を定量的に計測することが困難であり、細胞ごとのポリユビキチン化の違いを比較することもできない。
【0011】
また、FRETとTRF(Time-Resolved Fluorescence:時間分解蛍光)とを組み合わせたTR−FRET法もFRETの検出に用いられる。ドナー蛍光とアクセプター蛍光との蛍光強度比に基いてFRETを検出する点は上記したFRET法と同じである。TR−FRET法では、蛍光寿命が非常に長い蛍光物質であるランタノイド錯体をドナーとして、フルオレセインやGFPなどのフルオロフォアをアクセプターとして用いる点に特徴がある。この両者が近接している場合、ランタノイド錯体の光吸収により励起されたエネルギーは、共鳴エネルギー転移によりアクセプターフルオロフォアに転移する。ここでランタノイド錯体は蛍光寿命が非常に長い蛍光物質であり、時間分解能を有するため、FRETによるシグナルを検出する前に、励起光による試料中の他の化合物やアクセプターからの短寿命蛍光のバックグラウンドを抑えることが可能となる。TR−FRET法は、高感度(低バックグランド)で細胞内のポリユビキチン化を検出することができる。
【0012】
例えば、特許文献1では、細胞内で発現したGFPとIκBαとの融合タンパク質のポリユビキチン化を、テルビウム(Tb)標識抗(ポリ)ユビキチン抗体をユビキチンに結合させてTbとGFPとの間でFRETを発生させ、マイクロプレート上で、TR−FRET法によってポリユビキチン化の検出を行っている(実施例23、図29等)。
【0013】
しかし、TR−FRET法は、蛍光強度を計測することには違いなく、ドナー、アクセプターの標識量が異なる場合や、モル吸光係数が変化する場合には、その影響を直接受け、定量的な計測が困難となる。また、ドナー蛍光がいわゆるレア・メタルであるテルビウムやユウロピウム等のランタノイドの錯体に限定されるため、取扱いに注意を要し、容易に実施することができないという問題もある。さらに、TR−FRET法は、蛍光強度の減衰した時間領域で検出を行うため、蛍光色素の標識量や検出対象の量が少ない場合には、計測に十分な蛍光量を得ることが困難となり、検出可能な範囲が限られるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2009−513681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、細胞内の標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を定量的に検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、形質転換細胞内で標的タンパク質とタンパク質タグとの融合タンパク質およびユビキチンとタンパク質タグとの融合タンパク質をともに発現させ、これらは蛍光色素で標識されているものであり、細胞にレーザ光を照射し、蛍光寿命を測定すると、細胞内の標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を定量的に検出することができることを知得した。
すなわち、本発明は以下に掲げるものである。
【0017】
(1)標的タンパク質の細胞内でのポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を検出する方法であって、以下の工程を含む:
1)標的タンパク質(A)とタグ(T1)との融合タンパク質(X)およびユビキチン(B)とタグ(T2)との融合タンパク質(Y)をともに発現する形質転換細胞であって、該融合タンパク質(X)は蛍光色素(D1)で標識され、かつ、該融合タンパク質(Y)は蛍光色素(D2)で標識されている形質転換細胞を準備し、
2)当該標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化が行われる条件で当該形質転換細胞をインキュベートし、
3)当該形質転換細胞にレーザ光を照射し
4)当該形質転換細胞が発する蛍光の蛍光寿命を計測する。
【0018】
(2)上記蛍光寿命を計測する工程において、蛍光強度を同時に計測する、上記(1)に記載の方法。
【0019】
(3)上記レーザ光を照射する工程および蛍光寿命を計測する工程が、フローサイトメーターを用いて行われる、上記(1)または(2)に記載の方法。
【0020】
(4)上記蛍光色素(D1)と上記蛍光色素(D2)との間で蛍光エネルギー移動(FRET)が起こる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0021】
(5)上記蛍光色素(D1)がドナーであり、かつ、上記蛍光色素(D2)がアクセプターである、上記(4)に記載の方法。
【0022】
(6)上記タグ(T1)がアフィニティタグ(AT1)であり、かつ、上記蛍光色素(D1)が当該アフィニティタグ(AT1)に結合している、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0023】
(7)上記タグ(T2)がアフィニティタグ(AT2)であり、かつ、上記蛍光色素(D2)が当該アフィニティタグ(AT2)に結合している、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0024】
(8)上記タグ(T1)および上記タグ(T2)が、それぞれ、アフィニティタグ(AT1)およびアフィニティタグ(AT2)であり、かつ、上記蛍光色素(D1)および上記蛍光色素(D2)が、それぞれ、当該アフィニティタグ質(AT1)および当該アフィニティタグ質(AT2)に結合している、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0025】
(9)上記蛍光色素(D1)が有機合成蛍光色素(C1)もしくは蛍光タンパク質(P1)である、および/または上記蛍光色素(D2)が有機合成色素(C2)もしくは蛍光タンパク質(P2)である、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
【0026】
(10)上記蛍光色素(D1)が蛍光タンパク質(P1)であり、かつ、上記タグ(T2)が当該蛍光タンパク質(P1)を含む蛍光タンパク質タグ(PT1)である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0027】
(11)上記蛍光色素(D2)が蛍光タンパク質(P2)であり、かつ、上記タグ(T2)が当該蛍光タンパク質(P2)を含む蛍光タンパク質タグ(PT2)である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0028】
(12)上記蛍光色素(D1)および上記蛍光色素(D2)が、それぞれ、蛍光タンパク質(P1)および蛍光タンパク質(P2)であり、かつ、上記タグ(T1)および上記タグ(T2)が、それぞれ、当該蛍光タンパク質(P1)を含む蛍光タンパク質タグ(PT1)および当該蛍光タンパク質(P2)を含む蛍光タンパク質タグ(PT2)である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0029】
(13)上記標的タンパク質が、カルバモイルリン酸シンターゼI(CPSI)、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、フルクトース−1、6−ビスリン酸アルドラーゼ、電子伝達フラボプロテインアルファサブユニット、中鎖脂肪酸アシルCoAデヒドロゲナーゼ、長鎖アシルCoAシンテターゼ、TBP関連因子(TAFs)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、インポーチンα、DNA2ヘリカーゼ、リボソームタンパク質L7、フォン・ウィルブランド因子(vWF)、N−エチルマレイミド感受性因子(NSF)、S−アデノシルホモシステインヒドロラーゼ、セリンプロテアーゼ、非対称性アセチルコリンエステラーゼのコラーゲン様尾部サブユニット(ColQ)、セリンカルボキシペプチダーゼ1(SCEP1)、ヒストンクラスタ1、Δ3,Δ2−エノイル−CoAイソメラーゼ、アクロシン結合タンパク質(ACRPB)、セマフォリン5A、オーロラ−A−キナーゼ相互作用タンパク質1、p53、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)p85サブユニット、β−カテニン、Zap−70、T細胞受容体(TCR)、Fynチロシンキナーゼ、成長因子結合タンパク質結合タンパク質2(Grb2)、Sosタンパク質、DNA修復キナーゼKu70・Ku80複合体(Ku70/80)、Crk様タンパク質(Crkl)、ホスホリパーゼC−γ(PLCγ)、プロテインキナーゼCθ(PKCθ)、エストロゲンレセプター結合タンパク質(ERBP)、ユビキチンリガーゼCHIP、サイクリン(Cdc13)、低酸素誘導因子1α(HIF−1α)、ミトコンドリア関連タンパク質(Drp1)、ヒストンH2B、H2AX複合体(ヒストン)、IκBα、IκB p100、TNF受容体関連因子6(TRAF−6)およびNF−kB p−105からなる群から選択される1つである、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の方法。
【0030】
(14)上記標的タンパク質(A)がユビキチンである、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の方法。
【0031】
(15)上記標的タンパク質(A)のプロテアソームによる分解の阻害物質をスクリーニングするための方法である、上記(1)〜(14)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、細胞内の標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を定量的に検出する方法を提供することができる。
【0033】
また、本発明によれば、細胞ごとのポリユビキチン化の違いを比較することができる。
また、本発明によれば、容易に、高スループットで、短時間で、大量のサンプルを計測することができる。
また、本発明によれば、生きた細胞内のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化をリアルタイムで検出することができる。
さらに、本発明によれば、蛍光強度のみを計測するよりも、融合タンパク質発現量が少ない場合であっても、ポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化の検出をすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、「標的タンパク質の細胞内でのポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を検出する方法であって、以下の工程を含む、
1)標的タンパク質(A)とタグ(T1)との融合タンパク質(X)およびユビキチン(B)とタグ(T2)との融合タンパク質(Y)をともに発現する形質転換細胞であって、当該融合タンパク質(X)は蛍光色素(D1)で標識され、かつ、当該融合タンパク質(Y)は蛍光色素(D2)で標識されている形質転換細胞を準備し、
2)当該標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化が行われる条件で当該形質転換細胞をインキュベートし、
3)当該形質転換細胞にレーザ光を照射し
4)当該形質転換細胞が発する蛍光の蛍光寿命を計測する。」である。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0035】
〈標的タンパク質(A)〉
標的タンパク質(A)は、特に限定されないが、ユビキチン−プロテアソームシステム(ユビキチンにより標識されたタンパク質をプロテアソームで分解する系をいう。)によって分解されるタンパク質またはユビキチンであることが好ましい。
【0036】
ユビキチン−プロテアソームシステムによって分解されるタンパク質としては、特に限定されないが、以下に掲げるタンパク質からなる群から選択される1つであることが好ましい:カルバモイルリン酸シンターゼI(CPSI)、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、フルクトース−1、6−ビスリン酸アルドラーゼ、電子伝達フラボプロテインアルファサブユニット、中鎖脂肪酸アシルCoAデヒドロゲナーゼ、長鎖アシルCoAシンテターゼ、TBP関連因子(TAFs)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、インポーチンα、DNA2ヘリカーゼ、リボソームタンパク質L7、フォン・ウィルブランド因子(vWF)、N−エチルマレイミド感受性因子(NSF)、S−アデノシルホモシステインヒドロラーゼ、セリンプロテアーゼ、非対称性アセチルコリンエステラーゼのコラーゲン様尾部サブユニット(ColQ)、セリンカルボキシペプチダーゼ1(SCEP1)、ヒストンクラスタ1、Δ3,Δ2−エノイル−CoAイソメラーゼ、アクロシン結合タンパク質(ACRPB)、セマフォリン5A、オーロラ−A−キナーゼ相互作用タンパク質1、p53、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)p85サブユニット、β−カテニン、Zap−70、T細胞受容体(TCR)、Fynチロシンキナーゼ、成長因子結合タンパク質結合タンパク質2(Grb2)、Sosタンパク質、DNA修復キナーゼKu70・Ku80複合体(Ku70/80)、Crk様タンパク質(Crkl)、ホスホリパーゼC−γ(PLCγ)、プロテインキナーゼCθ(PKCθ)、エストロゲンレセプター結合タンパク質(ERBP)、ユビキチンリガーゼCHIP、サイクリン(Cdc13)、低酸素誘導因子1α(HIF−1α)、ミトコンドリア関連タンパク質(Drp1)、ヒストンH2B、H2AX複合体(ヒストン)、IκBα、IκB p100、TNF受容体関連因子6(TRAF−6)およびNF−kB p−105。
【0037】
〈ユビキチン(B)〉
ユビキチン(B)は特に限定されないが、形質転換細胞中でユビキチンとしての機能を有することが好ましい。例えば、ヒト由来細胞を用いて形質転換細胞を調製する場合では、ヒトのユビキチンを用いることが好ましい。
【0038】
〈ポリユビキチン化/脱ユビキチン化〉
ポリユビキチン化とは、標的タンパク質にユビキチンを付加する反応をいう。この反応系にはユビキチン活性化酵素(El)、ユビキチン結合酵素(E2)、およびユビキチンリガーゼ(E3)の複合酵素反応系が関与する。この複合酵素反応系により標的タンパク質の特定のリシン残基にイソペプチド結合し、ユビキチン分子間でも同じ結合を繰り返して複数の(ポリ)ユビキチン鎖が形成される。
脱ユビキチン化とは、ポリユビキチン化された標的タンパク質から(ポリ)ユビキチン鎖を除去する反応をいう。この反応系には脱ユビキチン化酵素(DUBs)が関与する。
【0039】
〈タグ(T1)/タグ(T2)〉
タグ(「タンパク質タグ」または「ペプチドタグ」をいう。)は、標的タンパク質(A)またはユビキチン(B)の目印となるタンパク質またはペプチドである。本発明では、タグの付いた標的タンパク質またはユビキチンは、融合タンパク質として発現する。本発明では、標的タンパク質に付けるタグをタグ(T1)といい、ユビキチンに付けるタグをタグ(T2)といい、区別する場合がある。また、タグ(T1)とタグ(T2)とは相違するものであることが好ましい。タグ(T1)は、標的タンパク質の機能、構造等によりそのN末端および/またはC末端に付けることが好ましく、タグ(T2)は、ユビキチンのN末端でもC末端のいずれでもよいが、N末端に付けることが好ましい。
本発明では、タグは蛍光標識に係るタグであることが好ましく、アフィニティタグまたは蛍光タンパク質であることがより好ましい。
【0040】
《蛍光標識に係るタグ》
蛍光標識に係るタグとは、蛍光色素を直接またはリガンドを介して結合するためのタグまたはそれ自体が蛍光標識であるタグをいう。蛍光標識を結合するためのタグとしては、アフィニティタグが例示され、それ自体が蛍光標識であるタグとしては、蛍光タンパク質タグが挙げられる。
なお、本発明において、タグ(T1)および/またはタグ(T2)がアフィニティタグであるとき、それぞれ、アフィニティタグ(AT1)および/またはアフィニティタグ(AT2)という場合がある。
【0041】
《アフィニティタグ》
アフィニティタグは他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用するタグである。なお、蛍光タンパク質であるものは後記する。
アフィニティタグとしては、具体的には、例えば、Hisタグ,HQタグ,HNタグ,HATタグ,GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)タグ,MBP(マルトース結合タンパク質)タグ,FLAGタグ、HAタグ、c−Mycタグ,TC(テトラシステイン)タグ,SNAPタグ,CLIPタグ,Haloタグ,BCCP(ビオチン化ペプチド)タグ等が挙げられる。
蛍光色素は、これらのアフィニティタグに、共有結合、水素結合等の結合を介して、直接的にまたは間接的に結合することが好ましい。
標的タンパク質(A)と融合するアフィニティタグ(AT1)と、ユビキチン(B)と融合するアフィニティタグ(AT2)とは、相違するタグであり、かつ、異なる化学物質と特異的親和性を有するものであることが好ましい。また、それぞれのタグを蛍光標識する蛍光色素(D1)と蛍光色素(D2)とは、相違する蛍光色素であることが好ましい。蛍光色素はアフィニティタグと、直接的な相互作用によって、または抗体等のアフィニティタグと親和性を有する部分を介して結合することが好ましい。
【0042】
《蛍光タンパク質タグ》
下記する蛍光タンパク質をタグとするものである。このとき、融合タンパク質(X)または融合タンパク質(Y)は、それぞれ、標的タンパク質(A)のN末端もしくはC末端に蛍光タンパク質が直接もしくはリンカーペプチドを介して結合したもの、またはユビキチン(B)のN末端もしくはC末端に蛍光タンパク質が直接もしくはリンカーペプチドを介して結合されたものであることが好ましい。
本発明において、タグ(T1)および/またはタグ(T2)が、それぞれ、蛍光タンパク質(P1)を含むタンパク質タグおよび/または蛍光タンパク質(P2)を含むタンパク質タグであるとき、それぞれ、蛍光タンパク質タグ(PT1)および/または蛍光タンパク質タグ(PT2)という場合がある。
蛍光タンパク質タグ(PT1)と、蛍光タンパク質タグ(PT2)とは、異なる蛍光タンパク質によるタグであることが好ましい。
【0043】
《蛍光色素(D1)/蛍光色素(D2)》
蛍光色素は特に限定されないが、有機合成蛍光色素および/または蛍光タンパク質が好ましい。
なお、本発明においては、標的タンパク質を標識する蛍光色素、有機合成蛍光色素および蛍光タンパク質を、それぞれ、蛍光色素(D1)、有機合成蛍光色素(C1)および蛍光タンパク質(P1)といい、ユビキチンを標識する蛍光色素、有機合成蛍光色素および蛍光タンパク質を、それぞれ、蛍光色素(D2)、有機合成蛍光色素(C2)および蛍光タンパク質(P2)という場合がある。また、蛍光色素(D1)と蛍光色素(D2)とは、相違するものであることが好ましく、蛍光色素(D1)と蛍光色素(D2)との間で蛍光エネルギー移動(FRET)が起こること(FRETペアであること)が好ましい。
【0044】
(有機合成蛍光色素)
有機合成蛍光色素は、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシクマリン,6−メチルクマリン,4−メトキシクマリン,7−メトキシクマリン,7−アミノクマリンなどのクマリン系色素;ローダミンB,ローダミン6G,ローダミン123,スルホローダミン101,Texas Red(スルホローダミン101酸クロリド),5−TAMRA(5−カルボキシテトラメチルローダミン),6−TAMRA、TMR(テトラメチルローダミン),TRITC(テトラメチルローダミン−5(6)−イソチオシアナート),5−ROX(5−カルボキシ−X−ローダミン)、6−ROX(6−カルボキシ−X−ローダミン)などのローダミン系色素;フルオレセイン、5−FAM(5−カルボキシフルオレセイン),6−FAM(6−カルボキシフルオレセイン),5−HEX(5−カルボキシ−2’,4,4’,5’,7,7’−ヘキサクロロフルオレセイン),6−HEX(6−カルボキシ−2’,4,4’,5’,7,7’−ヘキサクロロフルオレセイン),5−TET(5−カルボキシ−2’,4,7,7’−テトラクロロフルオレセイン),6−TET(6−カルボキシ−2’,4,7,7’−テトラクロロフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチアシアナート)、FlAsH(Fluorescein Arsenical Hairpin)などのフルオレセイン系色素;Cy3,Cy5などのシアニン系色素;レゾルフィン,ReAsH(Resorufin Arsenical Hairpin)などのレゾルフィン系色素;Alexa Fluor(R) 350,Alexa Fluor 405,Alexa Fluor 430,Alexa Fluor 488,Alexa Fluor 532,Alexa Fluor 546,Alexa Fluor 555,Alexa Fluor 568,Alexa Fluor 594,Alexa Fluor 633,Alexa Fluor 647,Alexa Fluor 680,Alexa Fluor 700,Alexa Fluor 750,Alexa Fluor 790などのAlexa Fluor色素シリーズ(ライフテクノロジーズ社製);DyLight 350,DyLight 405,DyLight 488,DyLight 549,DyLight 594,DyLight 633,DyLight 649,DyLight 680,DyLight 750,DyLight 800などのDyLight色素シリーズ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製);Oyster−500,Oyster−550P,Oyster−556,Oyster−645,Oyster−650P,Oyster−656などのOyster色素シリーズ(デノボバイオラベルズ社製);等が挙げられる。
【0045】
有機合成蛍光色素は、タグにアフィニティをもつリガンドを介して、修飾されたタグにアフィニティをもつリガンドを介して、タグにアフィニティをもつ抗体を介して、または標的タンパク質もしくはユビキチンにアフィニティをもつ抗体を介して、融合タンパク質(Y)または融合タンパク質(X)に結合することが好ましい。
【0046】
FRETペアとして好ましい有機合成蛍光色素の組合せとしては、ドナーから発せられる蛍光のスペクトルがアクセプターの励起スペクトルと重なっている組合せであれば特に限定されないが、例えば、Alexa Fluor 430とCy3、FITCとAlexa Fluor 532、Cy3とTAMRA等が挙げられる(左側がドナー、右側がアクセプターとなる)。
【0047】
また、FRETペアの場合には、標的タンパク質を標識する有機合成蛍光色素とユビキチンを標識する有機合成蛍光色素とは、一方がドナーとなり、他方がアクセプターとなればよいが、標的タンパク質を標識する有機合成蛍光色素がドナーとなり、ユビキチンを標識する有機合成蛍光色素がアクセプターとなることが好ましい。なお、標的タンパク質がユビキチンである場合には、標的タンパク質を標識する有機合成蛍光色素とユビキチンを標識する有機合成蛍光色素とは、一方がドナーとなり、他方がアクセプターとなればよい。
【0048】
(蛍光タンパク質)
蛍光タンパク質は、特に限定されないが、Sirius,EBFP,SBP2,EBP2,Azurite,mKalama1,TagBFP,mBlueberry,mTurquoise,ECFP,Cerulean,TagCFP,AmCyan,mTP1,MiCy(Midoriishi Cyan),TurboGFP,CFP,AcGFP,TagGFP,AG (Azami−Green),mAG1,ZsGreen,EmGFP(Emerald),EGFP,GP2,T−Sapphire,HyPerなどの青色蛍光タンパク質;TagYFP,mAmetrine,EYFP,YFP,Venus,Citrine,PhiYFP,PhiYFP−m,turboYFP,ZsYellow,mBananaなどの黄色蛍光タンパク質;mKO1,KO(Kusabira Orange),mOrange,mOrange2,mKO2などの橙色蛍光タンパク質;Keima570,TurboRFP,DsRed−Express,DsRed,DsRed2,TagRFP,TagRFP−T,DsRed−Monomer,mApple,AsRed2,mStrawberry,TurboFP602,mRP1,JRed,KillerRed,mCherry,KeimaRed,HcRed,mRasberry,mKate2,TagFP635,mPlum,egFP650,Neptune,mNeptune,egFP670などの赤色蛍光タンパク質;Medium−FT,Slow−FT,Fast−FTなどの蛍光タイマー;等が挙げられる。
【0049】
FRETペアとして好ましい蛍光タンパク質の組合せとしては、ドナーから発せられる蛍光のスペクトルがアクセプターの励起スペクトルと重なっている組合せであれば特に限定されないが、例えば、CFPとYFP、AGとKO、EGFPとVenus等の組合せが挙げられる(左側がドナー、右側がアクセプターとなる)。
【0050】
また、FRETペアの場合には、標的タンパク質を標識する蛍光タンパク質とユビキチンを標識する蛍光タンパク質とは、一方がドナーとなり、他方がアクセプターとなればよいが、標的タンパク質を標識する蛍光タンパク質がドナーとなり、ユビキチンを標識する蛍光タンパク質がアクセプターとなることが好ましい。なお、標的タンパク質がユビキチンである場合には、標的タンパク質を標識する蛍光タンパク質とユビキチンを標識する蛍光タンパク質とは、一方がドナーとなり、他方がアクセプターとなればよい。
【0051】
蛍光タンパク質は、タグにアフィニティをもつリガンドを介して、修飾されたタグにアフィニティをもつリガンドを介して、タグにアフィニティをもつ抗体を介して、または標的タンパク質もしくはユビキチンにアフィニティをもつ抗体を介して、融合タンパク質(Y)または融合タンパク質(X)に結合するか、それ自体タグとして、標的タンパク質もしくはユビキチンとの融合タンパク質として細胞内で発現することが好ましい。
【0052】
標的タンパク質(A)およびユビキチン(B)の蛍光標識は、両方を蛍光タンパク質で標識してもよいし、両方を有機合成蛍光色素で標識してもよいし、一方を蛍光タンパク質で標識し、他方を有機合成蛍光色素で標識してもよい。
【0053】
〈形質転換細胞〉
形質転換細胞は、融合タンパク質(Y)および融合タンパク質(X)を細胞内で発現するように形質転換された細胞をいう。好ましくは、融合タンパク質(Y)をコードする遺伝子および融合タンパク質(X)をコードする遺伝子を組み込んだ細胞をいう。より好ましくは、融合タンパク質(Y)をコードするベクタおよび融合タンパク質(X)をコードするベクタを二重トランスフェクトした細胞をいう。
【0054】
細胞は、ヒト、マウス等の動物に由来する細胞であってもよいし、昆虫細胞であってもよいし、酵母等であってもよい。
ヒト由来細胞としては、具体的には、例えば、HEK293、HeLaなどの付着系の細胞;293−F、293−FT、Jurkatなどの浮遊系の細胞;等を利用することができる。また、各種組織から確立した初代細胞や幹細胞を用いることもできる。
ヒト以外の哺乳類由来細胞としては、例えば、マウス由来のMC系、チャイニーズハムスター由来のCHO等の細胞を用いることができる。
昆虫培養細胞としては、例えば、Sf−9、Sf−21などのスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)から確立されたSf株等が挙げられる。
【0055】
〈インキュベート〉
インキュベートは、ポリユビキチン化を誘導することができる条件を、細胞の種類に依存して適宜定めることができる。例えば、ヒト由来の293−F遊離細胞であれば、37℃、5〜10%の炭酸ガス雰囲気下で振盪しながら培養することが好ましい。また、HeLa等の付着系細胞では、37℃、5%の炭酸ガス雰囲気下で静止状態で培養することが好ましい。
【0056】
〈レーザ光〉
レーザ光の波長は、使用する蛍光色素の励起波長によって適宜定めることができるが、細胞に対する刺激が比較的少ないという観点から、可視光域波長とすることが好ましい。
【0057】
〈蛍光寿命・蛍光強度〉
蛍光寿命とは、蛍光強度が1/eに低下するのに要する時間である。蛍光寿命は分子構造や特性、分子の置かれている状態に依存する。
本発明の方法では、蛍光寿命を計測するとき、同時に、蛍光強度を計測してもよい。
【0058】
〈フローサイトメーター〉
本発明の方法では、スループットを高くするという観点から、フローサイトメーターを用いることが好ましい。フローサイトメーターとしては、蛍光寿命と蛍光強度との同時計測をすることができるものが好ましく、具体的には、例えば、Flicyme(R) 300(三井造船社製)が挙げられる。フローサイトメーターを用いると、1細胞ごとに計測することができ、より多くの情報を得ることができる。
なお、フローサイトメーターを用いる場合には、細胞は浮遊系細胞を用いることが好ましいが、付着系細胞をトリプシン処理等することによって浮遊状態にして用いることもできる。
【0059】
〈蛍光エネルギー移動(FRET)〉
FRETとは、2種類の蛍光分子ペア(ドナーとアクセプター)が10nm以下の距離に接近したときにおこる現象で、ドナーがレーザから受けた励起エネルギーの一部を、蛍光を介在することなくアクセプターに受け渡す現象をいう。FRETの発生により、ドナー蛍光強度の減少とアクセプター蛍光強度の増加が起こる。
【0060】
本発明においては、上記蛍光色素(D1)と上記蛍光色素(D2)との間で蛍光エネルギー移動(FRET)が発生すればよく、どちらがドナーで、どちらがアクセプターであってもよいが、標的タンパク質を標識する蛍光色素がドナーであり、ユビキチンを標識する蛍光色素がアクセプターであることが好ましい。
【0061】
[スクリーニング方法]
本発明は、また、標的タンパク質のプロテアソームによる分解の阻害物質をスクリーニングするための方法を提供する。
標的タンパク質はユビキチン−プロテアソーム系で分解されるタンパク質であるので、ポリユビキチン化を阻害する物質は、そのタンパク質の分解の阻害物質ともなり得るからである。
【実施例】
【0062】
[IκBαのポリユビキチン化の検出]
〈NF−κBの特徴〉
NF−κBは免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、急性および慢性炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの数多くの生理現象に関与している。NF−κBはストレスやサイトカイン、紫外線等の刺激により活性化される。NF−κB活性制御の不良はクローン病や関節リウマチなどの炎症性疾患をはじめとし、癌や敗血症性ショックなどの原因となり、特に悪性腫瘍では多くの場合NF−κBの恒常的活性化が認められる。さらに、NF−κBはサイトメガロウイルス(CMV)やヒト免疫不全ウイルス(HIV)の増殖にも関与している。
【0063】
NF−κBは、細胞質内ではホモまたはヘテロ二量体を形成し、そのインヒビターであるIκBと結合して不活性な状態で存在している。NF−κBは、Relファミリーに属し、その構造により、RelA(p65)、RelB、c−Rel、NF−κB1(p105/p50)、NF−κB2(p100/p52)の5種類に分類される。これらのうち、p50およびp52は、p105とp100の前駆体として産生され、プロテアソームにより限定分解されて生じる。これらは互いに共通の領域としてRelホモロジードメイン(RHD)というアミノ酸配列を持っていて、この領域に核内への移行シグナル(NLS)も存在する。
【0064】
〈IκBの特徴〉
IκBは核内因子κB1(NF−κB)の抑制因子である。IκBには、7種類のファミリー(IκBα/β/γ/ε、Bcl3、p105,p100)がある。これらの分子はアンキリンリピートと呼ばれるアミノ酸の繰り返し配列を有し、これによってNF−κBのRHDと会合し、NF−κBに存在するNLSをマスクすることでNF−κBの核内への移行をブロックしている。
【0065】
〈NF−κBの活性化〉
通常の細胞内ではNF−κBはIκBαやp100などの阻害タンパク質と会合した不活性型として細胞質に存在するが、活性化シグナルを受容すると阻害タンパク質は分解されNF−κBは核内に移行して活性化される。現在のところ、NF−κBの活性化の経路は以下の3経路があることが知られている(Tsuchiya, Yoshihiro、外5名,「Nuclear IKKbeta is an adaptor protein for IkappaBalpha ubiquitination and degradation in UV-induced NF-kappaB activation.」,Molecular Cell,2010年8月27日,第39巻,第4号,p.570−582)。
【0066】
NF−κB活性化の第1経路(古典的経路)は、腫瘍壊死因子α(TNFα)などの炎症性サイトカインがIKKβを活性化してIκBαの分解を誘導する経路である。活性化されたIKKβはIκBαのN末端に存在する2つのセリン残基をリン酸化し、リン酸化されたIκBαはユビキチンリガーゼβ−TrCPによりポリユビキチン化をうけてプロテアソームによって分解される。最終的に、RelAとp50とから構成されるNF−κBが核内に移行して遺伝子発現を誘導する。通常、活性化されたNF−κBは、IκBαなどの阻害タンパク質の発現やA20などの活性化抑制タンパク質の発現を誘導するため、NF−κBはすみやかに不活性化される。
【0067】
NF−κB活性化の第2経路は、CD40などに代表されるリンパ球制御関連因子がIKKαを活性化する経路である。活性化されたIKKαはp100をリン酸化し、リン酸化されたp100はβ−TrCPによるポリユビキチン化を介した限定分解によりp52に変換され、最終的にRelBとp52とから構成されるNF−κBが活性化される。
IKKαまたはIKKβによりリン酸化された阻害タンパク質にβ−TrCPが直接に会合してポリユビキチン化を誘導する点が、第1経路と第2経路との共通点である。
【0068】
一方、NF−κB活性化の第3経路は、リン酸化を介さずにIκBが誘導性に分解される経路である。この経路ではIKKβはキナーゼとして機能するのではなく、β−TrCPとIκBとの会合を介在するアダプタータンパク質として機能する。細胞を紫外線照射するとIκBαは核内に移行してIKKβと会合する。IKKβにはβ−TrCPが会合しており、この複合体上でIκBαはポリユビキチン化をうけて最終的にプロテアソームにより分解される。カゼインキナーゼ2やp38 MAPキナーゼもIKKβを介してIκBαの分解を促進する。
【0069】
本実施例では、可視光レーザを照射し、IκBαのポリユビキチン化を検出することから、第1経路における阻害タンパク質IκBαのポリユビキチン化を検出することができる。
【0070】
[実施例1]形質転換細胞での融合タンパク質のポリユビキチン化の検出
〈方法〉
《IκBαとGSTタグとの融合タンパク質の発現コンストラクト》
(エントリークローンの構築)
pENTR/D−TOPO(R)クローニングキット(ライフテクノロジーズ社製)を用いて、Directional TOPOクローニングにより、配列番号1に示す塩基配列を有するDNA断片をpENTR/D−TOPO(R)エントリーベクタに組み込んで組換えベクタを得る。さらに、この組換えベクタを大腸菌(OneShot(R) OmniMaxTM2T1細胞,ライフテクノロジーズ社製)にトランスフェクトし、カナマイシン含有培地で培養し、組換えベクタを分離・精製して、エントリークローンを得る。
【0071】
(発現クローンの構築)
構築したエントリークローンと、哺乳類細胞用Gateway(R)発現ベクタ(pDESTTM27,ライフテクノロジーズ社製;N末端GSTタグ,ネオマイシン耐性)と、Gateway(R) LRクロナーゼTMII酵素ミックス(ライフテクノロジーズ社製)とを混合してインキュベートし、LRリコンビネーション反応を行い、組換えベクタを得る。さらに、この組換えベクタを大腸菌(OneShot(R) TOP10細胞,ライフテクノロジーズ社製)にトランスフェクトし、カナマイシン含有培地で培養し、組換えベクタを分離・精製して、発現クローン(以下、実施例1において「発現クローン1」という。)を得る。
【0072】
《ユビキチンとTCタグとの融合タンパク質の発現コンストラクト》
(エントリークローンの構築)
pENTR/D−TOPO(R)クローニングキット(ライフテクノロジーズ社製)を用いて、配列番号3に示す塩基配列を有するDNA断片をpENTR/D−TOPO(R)エントリーベクタに組み込んで組換えベクタを得る。さらに、このベクタを大腸菌(OneShot(R) OmniMaxTM2T1細胞,ライフテクノロジーズ社製)にトランスフェクトし、カナマイシン含有培地で培養し、組換えベクタを分離・精製して、エントリークローンを得る。
【0073】
(発現クローンの構築)
構築したエントリークローンと、発現ベクタ(pcDNATM6.2/nTC−Tag−DEST,ライフテクノロジーズ社製;N末端TCタグ,ブラスチジン耐性)と、LRクロナーゼTMII酵素ミックス(ライフテクノロジーズ社製)とを混合してインキュベートし、LRリコンビネーション反応を行い、組換えベクタを得る。さらに、大腸菌(OneShot(R) TOP10細胞,ライフテクノロジーズ社製)にトランスフェクトし、カナマイシン含有培地で培養し、組換えベクタを分離・精製して、発現クローン(以下、実施例1において「発現クローン2」という。)を得る。
【0074】
《トランスフェクション》
発現クローン1および発現クローン2を、定法により、293−F浮遊細胞(FreeStyleTM 293−F細胞;ライフテクノロジーズ社製)に二重トランスフェクトする。ネオマイシン硫酸塩およびブラスチジンS塩酸塩を含有する培地で、37℃、48時間、8%二酸化炭素雰囲気で、振盪しながら培養し、GSTタグとIκBαとの融合タンパク質と、TCタグとユビキチンとの融合タンパク質を発現させる。
【0075】
《蛍光標識》
GSTタグに結合する、Alexa Fluor(R) 488色素で標識した抗グルタチオン−S−トランスフェラーゼ抗体(最大励起波長495nm,最大蛍光波長520nm;ライフテクノロジーズ社製)と、TCタグに結合する、ReAsH−EDT2標識試薬(最大励起波長593nm,最大蛍光波長608nm;ライフテクノロジーズ社製)とを用いて蛍光標識する。
【0076】
《蛍光寿命計測》
フローサイトメーターFlicyme(R) 300(三井造船社製)を用いて、形質転換細胞について、各10万個のデータを計測する。ドナー用として中心波長494nm・半値幅41nmのバンドパスフィルタを、アクセプター用としてカットオン波長600nmのロングパスフィルタを、それぞれ使用する。
【0077】
〈結果〉
FRETの発生が検出される。また、細胞内でのポリユビキチン化を定量的に計測することができ、さらに、細胞ごとのポリユビキチン化の違いを比較することもできる。そして、ドナー領域の蛍光寿命の短縮が認められる。
【0078】
[比較例1]非形質転換細胞での計測
〈方法〉
形質転換を行わない293−F浮遊細胞を使用する。計測その他は実施例1と同様に行う。
〈結果〉
FRETの発生は検出されない。
【0079】
[比較例2]形質転換細胞での融合タンパク質のポリユビキチン化の蛍光強度による検出
〈方法〉
Flicyme-300 を用いて蛍光強度の計測を行うが、蛍光寿命の計測は行わず、蛍光強度比をFRETの指標とした点を除き、実施例1と同様に行う。
〈結果〉
FRETの発生が検出される。しかし、バックグラウンドが高く、細胞内ポリユビキチン化を定量的に計測することができない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
標的タンパク質のポリユビキチン化を阻害または促進する物質のスクリーニングを高スループットで行うことができ、医薬品探索・開発のための細胞アッセイ技術として利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的タンパク質の細胞内でのポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を検出する方法であって、以下の工程を含む:
1)標的タンパク質(A)とタグ(T1)との融合タンパク質(X)およびユビキチン(B)とタグ(T2)との融合タンパク質(Y)をともに発現する形質転換細胞であって、該融合タンパク質(X)は蛍光色素(D1)で標識され、かつ、該融合タンパク質(Y)は蛍光色素(D2)で標識されている形質転換細胞を準備し、
2)該標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化が行われる条件で該形質転換細胞をインキュベートし、
3)該形質転換細胞にレーザ光を照射し、
4)該形質転換細胞が発する蛍光の蛍光寿命を計測する。
【請求項2】
前記蛍光寿命を計測する工程において、蛍光強度を同時に計測する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザ光を照射する工程および蛍光寿命を計測する工程が、フローサイトメーターを用いて行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光色素(D1)と前記蛍光色素(D2)との間で蛍光エネルギー移動(FRET)が起こる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記蛍光色素(D1)がドナーであり、かつ、前記蛍光色素(D2)がアクセプターである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記タグ(T1)がアフィニティタグ(AT1)であり、かつ、前記蛍光色素(D1)が該アフィニティタグ(AT1)に結合している、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記タグ(T2)がアフィニティタグ(AT2)であり、かつ、前記蛍光色素(D2)が該アフィニティタグ(AT2)に結合している、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記タグ(T1)および前記タグ(T2)が、それぞれ、アフィニティタグ(AT1)およびアフィニティタグ(AT2)であり、かつ、前記蛍光色素(D1)および前記蛍光色素(D2)が、それぞれ、該アフィニティタグ(AT1)および該アフィニティタグ質(AT2)に結合している、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記蛍光色素(D1)が有機合成蛍光色素(C1)もしくは蛍光タンパク質(P1)である、および/または前記蛍光色素(D2)が有機合成色素(C2)もしくは蛍光タンパク質(P2)である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記蛍光色素(D1)が蛍光タンパク質(P1)であり、かつ、前記タグ(T1)が該蛍光タンパク質(P1)を含む蛍光タンパク質タグ(PT1)である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記蛍光色素(D2)が蛍光タンパク質(P2)であり、かつ、前記タグ(T2)が該蛍光タンパク質(P2)を含む蛍光タンパク質タグ(PT2)である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光色素(D1)および前記蛍光色素(D2)が、それぞれ、蛍光タンパク質(P1)および蛍光タンパク質(P2)であり、かつ、前記タグ(T1)および前記タグ(T2)が、それぞれ、該蛍光タンパク質(P1)を含む蛍光タンパク質タグ(PT1)および該蛍光タンパク質(P2)を含む蛍光タンパク質タグ(PT2)である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記標的タンパク質が、カルバモイルリン酸シンターゼI(CPSI)、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、フルクトース−1、6−ビスリン酸アルドラーゼ、電子伝達フラボプロテインアルファサブユニット、中鎖脂肪酸アシルCoAデヒドロゲナーゼ、長鎖アシルCoAシンテターゼ、TBP関連因子(TAFs)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、インポーチンα、DNA2ヘリカーゼ、リボソームタンパク質L7、フォン・ウィルブランド因子(vWF)、N−エチルマレイミド感受性因子(NSF)、S−アデノシルホモシステインヒドロラーゼ、セリンプロテアーゼ、非対称性アセチルコリンエステラーゼのコラーゲン様尾部サブユニット(ColQ)、セリンカルボキシペプチダーゼ1(SCEP1)、ヒストンクラスタ1、Δ3,Δ2−エノイル−CoAイソメラーゼ、アクロシン結合タンパク質(ACRPB)、セマフォリン5A、オーロラ−A−キナーゼ相互作用タンパク質1、p53、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)p85サブユニット、β−カテニン、Zap−70、T細胞受容体(TCR)、Fynチロシンキナーゼ、成長因子結合タンパク質結合タンパク質2(Grb2)、Sosタンパク質、DNA修復キナーゼKu70・Ku80複合体(Ku70/80)、Crk様タンパク質(Crkl)、ホスホリパーゼC−γ(PLCγ)、プロテインキナーゼCθ(PKCθ)、エストロゲンレセプター結合タンパク質(ERBP)、ユビキチンリガーゼCHIP、サイクリン(Cdc13)、低酸素誘導因子1α(HIF−1α)、ミトコンドリア関連タンパク質(Drp1)、ヒストンH2B、H2AX複合体(ヒストン)、IκBα、IκB p100、TNF受容体関連因子6(TRAF−6)およびNF−kB p−105からなる群から選択される1つである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記標的タンパク質(A)がユビキチンである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記標的タンパク質のプロテアソームによる分解の阻害物質をスクリーニングするための方法である、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
標的タンパク質の細胞内でのポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化を検出する方法であって、以下の工程を含む:
1)標的タンパク質(A)とタグ(T1)との融合タンパク質(X)およびユビキチン(B)とタグ(T2)との融合タンパク質(Y)をともに発現する形質転換細胞であって、該融合タンパク質(X)は蛍光色素(D1)で標識され、かつ、該融合タンパク質(Y)は蛍光色素(D2)で標識されている形質転換細胞を準備し、
2)該標的タンパク質のポリユビキチン化および/または脱ユビキチン化が行われる条件で該形質転換細胞をインキュベートし、
3)該形質転換細胞にレーザ光を照射し、
4)該形質転換細胞が発する蛍光の蛍光寿命を計測する。
【請求項2】
前記蛍光寿命を計測する工程において、蛍光強度を同時に計測する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザ光を照射する工程および蛍光寿命を計測する工程が、フローサイトメーターを用いて行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光色素(D1)と前記蛍光色素(D2)との間で蛍光エネルギー移動(FRET)が起こる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記蛍光色素(D1)がドナーであり、かつ、前記蛍光色素(D2)がアクセプターである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記タグ(T1)がアフィニティタグ(AT1)であり、かつ、前記蛍光色素(D1)が該アフィニティタグ(AT1)に結合している、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記タグ(T2)がアフィニティタグ(AT2)であり、かつ、前記蛍光色素(D2)が該アフィニティタグ(AT2)に結合している、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記タグ(T1)および前記タグ(T2)が、それぞれ、アフィニティタグ(AT1)およびアフィニティタグ(AT2)であり、かつ、前記蛍光色素(D1)および前記蛍光色素(D2)が、それぞれ、該アフィニティタグ(AT1)および該アフィニティタグ質(AT2)に結合している、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記蛍光色素(D1)が有機合成蛍光色素(C1)もしくは蛍光タンパク質(P1)である、および/または前記蛍光色素(D2)が有機合成色素(C2)もしくは蛍光タンパク質(P2)である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記蛍光色素(D1)が蛍光タンパク質(P1)であり、かつ、前記タグ(T1)が該蛍光タンパク質(P1)を含む蛍光タンパク質タグ(PT1)である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記蛍光色素(D2)が蛍光タンパク質(P2)であり、かつ、前記タグ(T2)が該蛍光タンパク質(P2)を含む蛍光タンパク質タグ(PT2)である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光色素(D1)および前記蛍光色素(D2)が、それぞれ、蛍光タンパク質(P1)および蛍光タンパク質(P2)であり、かつ、前記タグ(T1)および前記タグ(T2)が、それぞれ、該蛍光タンパク質(P1)を含む蛍光タンパク質タグ(PT1)および該蛍光タンパク質(P2)を含む蛍光タンパク質タグ(PT2)である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記標的タンパク質が、カルバモイルリン酸シンターゼI(CPSI)、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、フルクトース−1、6−ビスリン酸アルドラーゼ、電子伝達フラボプロテインアルファサブユニット、中鎖脂肪酸アシルCoAデヒドロゲナーゼ、長鎖アシルCoAシンテターゼ、TBP関連因子(TAFs)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、インポーチンα、DNA2ヘリカーゼ、リボソームタンパク質L7、フォン・ウィルブランド因子(vWF)、N−エチルマレイミド感受性因子(NSF)、S−アデノシルホモシステインヒドロラーゼ、セリンプロテアーゼ、非対称性アセチルコリンエステラーゼのコラーゲン様尾部サブユニット(ColQ)、セリンカルボキシペプチダーゼ1(SCEP1)、ヒストンクラスタ1、Δ3,Δ2−エノイル−CoAイソメラーゼ、アクロシン結合タンパク質(ACRPB)、セマフォリン5A、オーロラ−A−キナーゼ相互作用タンパク質1、p53、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)、ホスホイノシチド3−キナーゼ(PI3K)p85サブユニット、β−カテニン、Zap−70、T細胞受容体(TCR)、Fynチロシンキナーゼ、成長因子結合タンパク質結合タンパク質2(Grb2)、Sosタンパク質、DNA修復キナーゼKu70・Ku80複合体(Ku70/80)、Crk様タンパク質(Crkl)、ホスホリパーゼC−γ(PLCγ)、プロテインキナーゼCθ(PKCθ)、エストロゲンレセプター結合タンパク質(ERBP)、ユビキチンリガーゼCHIP、サイクリン(Cdc13)、低酸素誘導因子1α(HIF−1α)、ミトコンドリア関連タンパク質(Drp1)、ヒストンH2B、H2AX複合体(ヒストン)、IκBα、IκB p100、TNF受容体関連因子6(TRAF−6)およびNF−kB p−105からなる群から選択される1つである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記標的タンパク質(A)がユビキチンである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記標的タンパク質のプロテアソームによる分解の阻害物質をスクリーニングするための方法である、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【公開番号】特開2012−127694(P2012−127694A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277312(P2010−277312)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】
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