説明

細胞内抗体

本発明は細胞内単一ドメイン免疫グロブリンに関し、また細胞内環境で標的に結合する免疫グロブリン単一ドメインの能力を測定する方法であって、a)第1の分子および第2の分子を提供するステップであって、前記第1の分子および前記第2の分子の安定した相互作用がシグナルの生成を導くステップと;b)前記第1の分子に結合する細胞内単一免疫グロブリンドメインを提供するステップであって、前記単一免疫グロブリンドメインが相補的な免疫グロブリンドメインから遊離しているステップと;c)前記第2の分子に結合する細胞内標的を提供するステップであって、前記免疫グロブリンドメインと前記標的との結合が、前記第1の分子および前記第2の分子の安定した相互作用を導き、前記シグナルを生成するステップと;d)前記シグナルをモニターすることによって、前記免疫グロブリンドメインと前記標的との間の細胞内相互作用を評価するステップとを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内単一ドメイン抗体、細胞内単一ドメイン抗体ライブラリー、ならびにそのような抗体および抗体ライブラリーを作製して、使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内抗体またはイントラボディー(intrabody)は、高等生物の細胞内で抗原認識機能を有することが実証されている(Cattaneo,A.およびBiocca,S.(1997年)、「Intracellular Antibodies: Development and Applications.」、Landes and Springer−Verlagに総説)。この相互作用は、細胞性タンパク質の機能に影響を及ぼすことができ、細胞質、核、または分泌経路において、それらの機能を阻害することに成功している。この有効性は、植物バイオテクノロジーにおけるウイルス耐性で実証され(Tavladoraki,P.ら(1993年)、Nature、第366巻、469〜472ページ)、さらに、HIVウイルスタンパク質に結合する細胞内抗体の適用(Mhashilkar,A.M.ら(1995年)、EMBO J、第14巻、1542〜51ページ;Duan,L.およびPomerantz,R.J.(1994年)、Nucleic Acids Res、第22巻、5433〜8ページ;Maciejewski,J.P.ら(1995年)、Nat Med、第1巻、第667〜73ページ;Levy−Mintz,P.ら(1996年)、J.Virol.、第70巻、8821〜8832ページ)、および癌遺伝子産物に結合する細胞内抗体の適用(Biocca,S.、Pierandrei−Amaldi,P.、およびCattaneo,A.(1993年)、Biochem Biophys Res Commun、第197巻、、422〜7ページ;Biocca,S.、Pierandrei−Amaldi,P.,Campioni,N.、およびCattaneo,A.(1994年)、Biotechnology(N Y)、第12巻、396〜9ページ;Cochet,O.ら(1998年)、Cancer Res、第58巻、1170〜6ページ)がいくつか報告されている。後者は、腫瘍細胞において染色体転座の後に癌遺伝子の強制的な発現が起こることが多いので、重要な領域である(Rabbitts,T.H.(1994年)、Nature、第372巻、143〜149ページ)。これらのタンパク質は、したがって、細胞内抗体による結合によって不活性化できるかもしれない重要な細胞内治療標的である(Rabbitts,T.H.(1998年)、New Eng.J.Med、第338巻、192〜194ページ)。最後に、全ゲノムシーケンシングにおける国際的な活動によって、それについて何も知られていないタンパク質をコードする無数の潜在的遺伝子配列が生み出されるだろう。
【0003】
機能ゲノミクスはこれら大量のタンパク質の機能を確かめるアプローチであるが、細胞内抗体の使用は、タンパク質機能をノックアウトするのに細胞内で直接抗体を結合させるという、概念的に単純なアプローチとして、この活動における重要なツールとなることが約束されている。
【0004】
本発明者らは、細胞内環境において安定であり、正しくフォールディングされ、かつ、その環境内でそれらのリガンドに対する選択的結合に関して機能的である免疫グロブリンの選択を行う技法を最近記載した。これは、国際特許出願第WO00/54057号に記載されている。このアプローチでは、抗体−抗原相互作用法は、ベイト(bait)として、DNA結合ドメインに連結された抗原を用い、プレイ(prey)として、転写活性化ドメインに連結されたscFvを用いる。これら2つの特異的相互作用によって、選択可能なレポーター遺伝子の転写活性化が促進される。最初に行われるin vitro結合ステップでは、1レパートリーの免疫グロブリン分子に対する抗原の結合がアッセイされる。in vitroアッセイで、それらのリガンドに結合すると判明した免疫グロブリンは、次に、細胞内環境、通常は細胞質環境で、選択された抗原に結合する能力についてアッセイされる。
【0005】
本発明者らは、同時係属の国際特許出願第PCT/GB02/003512号において、コンセンサス構造に基づき、任意選択で、第WO00/54057号記載の細胞内捕捉技法を用いて、細胞内免疫グロブリンを生成する方法を記載する。
【0006】
抗体の抗原結合ドメインは、重鎖可変ドメイン(V)および軽鎖可変ドメイン(V;これはVκまたはVλのいずれかでありうる)の2つの別々の領域を含む。抗原結合部位そのものは、Vドメインから3本(H1、H2、およびH3)、そして、Vドメインから3本(L1、L2、およびL3)の6本のポリペプチドループによって形成される。VおよびVドメインをコードするV遺伝子の多様な一次レパートリー(primary repertoire)は、遺伝子セグメントの組合せによる再編成(combinatorial rearrangement)によって生成される。V遺伝子は、V、D、およびJの3個の遺伝子セグメントの組み換えによって生成される。ヒトには、ハプロタイプに応じて、およそ51個の機能的なVセグメント(CookおよびTomlinson(1995年)、Immunol Today、第16巻、237ページ)と、25個の機能的なDセグメント(Corbettら(1997年)、J.Mol.Biol.、第268巻、69ページ)と、6個の機能的なJセグメント(Ravetchら(1981年)、Cell、第27巻、583ページ)とがある。Vセグメントは、Vドメインにおける第1および第2抗原結合ループ(H1およびH2)を形成するポリペプチド鎖の領域をコードし、一方、Vドメインの第3の抗原結合ループ(H3)は、V、D、およびJセグメントが組み合わされて形成される。V遺伝子は、VおよびJの2つの遺伝子セグメントのみの組み換えによって生成される。ヒトには、ハプロタイプに応じて、およそ40個の機能的なVセグメント(SchableおよびZachau(1993年)、Biol.Chem.Hoppe−Seyler、第374巻、1001ページ)と、31個の機能的なVセグメント(Williamsら(1996年)、J.Mol.Biol.、第264巻、220ページ;Kawasakiら(1997年)、Genome Res.、第7巻、250ページ)と、5個の機能的なJκセグメント(Hieterら(1982年)、J.Biol.Chem.、第257巻、1516ページ)と、4個の機能的なJλセグメント(VasicekおよびLeder(1990年)、J.Exp.Med、第172巻、609ページ)とがある。Vセグメントは、Vドメインにおける第1および第2抗原結合ループ(L1およびL2)を形成するポリペプチド鎖の領域をコードし、一方、Vドメインの第3の抗原結合ループ(L3)は、VおよびJセグメントが組み合わされて形成される。この一次レパートリーから選択された抗体は、ほとんどすべての抗原に少なくとも中程度の親和性で結合するのに十分な多様性を有すると考えられている。高親和性抗体は、再編成された遺伝子の「親和性成熟」によって生成されるが、親和性成熟では、点突然変異が生成され、結合の改善に基づいて、免疫系によって選択される。
【0007】
抗体の構造および配列の分析によって、6本の抗原結合ループのうちの5本(H1、H2、L1、L2、L3)は、限られた数の主鎖コンフォメーション、すなわち正準構造(canonical structure)を有することが示された(ChothiaおよびLesk(1987年)、J.Mol.Biol.、第196巻、901ページ;Chothiaら(1989年)、Nature、第342巻、877ページ)。主鎖コンフォメーションは、(i)抗原結合ループの長さと、(ii)抗原結合ループおよび抗体フレームワーク中のある特定の主要位置における特定の残基または残基タイプとによって決定される。ループ長および主要残基の分析によって、ヒト抗体配列の大部分によってコードされるH1、H2、L1、L2、およびL3の主鎖コンフォメーションが予測できるようになった(Chothiaら(1992年)、J.Mol.Biol.、第227巻、799ページ;Tomlinsonら(1995年)、EMBO J.、第14巻、4628ページ;Williamsら(1996年)、J.Mol.Biol.、第264巻、220ページ)。H3領域は、配列、長さ、および構造(Dセグメントを用いることによって)においてはるかに多様であるが、またループ長が短いことにより、長さ、ならびにループおよび抗体フレームワーク中の主要位置における特定の残基または残基タイプに応じて、限られた数の主鎖コンフォメーションを形成する(Martinら(1996年)、J.Mol.Biol.、第263巻、800ページ;Shiraiら(1996年)、FEBS Letters、第399巻、1ページ)。
【0008】
単鎖可変フラグメントは、scFvとしても知られ、重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)可変ドメイン、ならびに柔軟なリンカーペプチドで構成される単一ペプチド鎖を形成するが、この単鎖可変フラグメントがICAbに最適な形態であると考えられている。これは、遊離型のH鎖およびL鎖の正常な結合が細胞において小胞体中で起こり、細胞質では起こらないだろうからである。それに対して、ScFvは単一ポリペプチドであり、VおよびVが内在的な親和性で結合し、鎖間ジスルフィド結合を必要としない。実際、本発明者らが以前に記載した技法(国際公開第WO00/54057号を参照)に従って選択を行った際、このフォーマットがin vivoで標的タンパク質に対して有効であることが実証された。しかし、scFvの不溶性、不安定性、および不正確なタンパク質フォールディングのため、還元性の環境では、比較的わずかなscFvしかICAbとして有効に機能しない。上に記載したアプローチは、この限界を克服するものであり、scFvの内在的in vivoフォールディングと、生物学的機能とに基づいた直接的スクリーニング(細胞内抗体捕獲、IAC、国際公開第WO00/54057号)は、多様なセットの抗原を認識するICAbsを選択できることが実証された。さらに、IAC技法は、細胞機能において特に有利な免疫グロブリンV領域残基の足場(scaffold)を定義するのに有用である(第PCT/GB02/003512号)。
【0009】
scFvをICAbの供給源として用いることの限界の1つは、重鎖および軽鎖の組合せ効果(combinatorial effect)であり、それによって、抗原特異的なICAbの一次スクリーニングに、多様性が必要となることである。通常のスクリーニングプロトコールでは、少数(およそ10〜50)のICAbの単離を促進するのに、10を越えた多様性のファージ抗体ライブラリーが必要である。さらに、VドメインとVドメインとの結合は弱く、scFvの解離型が、結合型と比較して、優性となりうる。解離したscFvは、細胞内におけるタンパク質分解および凝集の標的となる。V−Vヘテロ二量体の別の形態には、ジスルフィド安定化Fvフラグメント(dsFv)があるが、ジスルフィド結合は細胞内で維持されないので、これはICAbのオプションにならない。
【0010】
in vitroでの従来の使用のために、抗体フラグメントの大きさを、さらに縮小しようとする努力がいくつかなされている。免疫グロブリンに基づいた認識ユニットのうち、これまでに使用されている最小のものは、単一可変ドメインである(Wardら;Winter II REF)。これらのいわゆるドメイン抗体(Dab)は、細菌で発現され、機能的なVドメインは、免疫処置したマウスから作製されたライブラリーから単離される。
【0011】
最近、ラクダおよび近縁種で発見された、軽鎖を含まないいくつかの天然のVフラグメントおよび重鎖抗体は、有効な結合活性および特異性をin vitroで有することが実証された(REFに総説)。さらに、単一ドメインライブラリーは、ヒトVドメインREFまたはマウスVドメインREFのCDR3領域をランダム化することによって構築されたが、これらは、特に、フレームワークが細胞内での使用に適していないかもしれないので、in vitroでの適用に限定されているものである。
【発明の開示】
【0012】
本明細書において、本発明者らは、scFvのIACから得られたコンセンサスVフレームワークに基づいた細胞内Vドメイン抗体(IDab)が、哺乳類細胞中の抗原に対して、極めて効果的であることを示す。実際上の重要な部分は、高親和性の抗原特異的抗体の、酵母における直接選択を可能にするのに十分な多様性を有するIDabライブラリー(コンセンサス足場フレームワークに基づいてランダム化されたCDRを用いた)の作製にある。これらのライブラリーは、異なった抗原、すなわち、癌遺伝子RASおよびcAMP/カルシウム依存性転写因子ATF−2を用いてIDabを単離するのに適用され、成功を収めている。抗RAS IDabは、突然変異体RASで誘発されるNIH3T3細胞の形質転換を阻害できる。
【0013】
すなわち、本発明に従って、免疫グロブリン単一ドメインが細胞内環境で標的に結合する能力を測定する方法であって、
a)第1の分子と第2の分子との安定した相互作用がシグナルの生成を導く上記第1の分子および上記第2の分子を提供するステップと、
b)上記第1の分子に結合する細胞内免疫グロブリン単一ドメインを提供するステップと、
c)上記第2の分子に結合する細胞内標的を提供するステップであって、上記免疫グロブリンと上記標的との結合が、上記第1の分子と上記第2の分子との安定した相互作用を導き、上記シグナルを生成するステップと、
d)上記シグナルをモニターすることによって、上記免疫グロブリン単一ドメインと上記標的との間の細胞内相互作用を評価するするステップと、
を含む方法が提供される。
【0014】
本発明の方法の基礎となるものは、免疫グロブリン単一ドメインが細胞内環境で標的と結合することによって、第1の分子と、第2の分子との安定した相互作用がもたらされる際に、シグナルが生成することである。したがって、第1の分子および第2の分子は、相互作用することによってシグナルを生成できる、シグナル生成物質の2つの部分である。「安定した相互作用」とは、第1の分子と、第2の分子との間の相互作用を介してシグナルの生成を可能にする相互作用である。必要とされる安定性の程度は、シグナルを生成するのに必要であるそのような相互作用の程度に依存するだろう。例えば、シグナルが、転写因子の再構成、および転写誘導などの生物学的事象である場合、このような安定性は、比較的高いものである必要があろう。しかし、このシグナルがFRET相互作用などのシグナルである場合、このような安定性は、比較的低いものを必要とするのみである。本明細書において、「シグナル」は、いかなる検出可能な事象も指す。これには、例えばFRETシグナルまたはルシフェラーゼ遺伝子の誘導など、発光もしくは蛍光シグナル、または、照射の発生もしくは吸収の強度もしくは周波数のモジュレーションを含む他のシグナルも含まれうる。以下に、これらおよび他のシグナルについてさらに記載する。
【0015】
免疫グロブリン単一ドメインは、有用な単一ドメイン抗体である。本発明による抗体は、本明細書において、細胞内ドメイン抗体、すなわちIDAbを指し、好ましくは1つのVドメインまたはVドメインを含み、その構造が抗原の細胞内結合に適しており、特異性と、正しくフォールディングされた構造とを、細胞内環境でin vivoで維持できるものである。
【0016】
scFvと比較して、単一ドメイン抗体フラグメントが細胞内での使用に有利である点としては、単に大きさがより小さいことだけではなく、安定性がより高いこともある。さらに、単一ドメインのサイズがより小さいこと、そしてV−V相互作用を考慮に入れる必要がないことは、スクリーニングの全体的な複雑さがscFvより低いことを意味する。
【0017】
「細胞内」とは、細胞の内部を意味し、本発明は、細胞内で選択的に標的に結合する免疫グロブリン単一ドメインの選択を対象とする。この細胞は、いかなる原核または真核の細胞でもよく、細菌細胞、酵母細胞、および高等真核生物細胞からなる群から選択されることが好ましい。最も好ましいのは、酵母細胞および哺乳類細胞である。通常、本発明のアッセイは、細胞の細胞質または核で実行され、免疫グロブリンが細胞質中または核質中で効果的にフォールディングして標的に結合する能力を測定する。したがって、本明細書において使用する「細胞内」免疫グロブリンおよび標的は、細胞内、好ましくは細胞質に存在するか、またはそこで機能できる免疫グロブリンおよび標的である。ゴルジまたはERに分泌された抗体は、本明細書で定義する細胞内抗体ではない。
【0018】
別の実施形態では、本発明の方法は、細胞内環境に類似した、またはこれを模擬した条件下で行ってもよい。したがって、「細胞内」は、細胞の内部ではなく、in vitroの環境を指すこともある。例えば、本発明の方法は、in vitro転写システムおよび/または翻訳システムで行ってもよく、これらは、市販されているものでも、または天然のシステムに由来するものでもよい。この環境は、実際の細胞内条件で標的に選択的に結合できる免疫グロブリンの忠実な選択が可能となるように、細胞質中に存在する還元状態を再現するように調整されていることが好ましい。
【0019】
本発明の方法は、免疫グロブリン単一ドメインの機能アッセイをさらに含むと有利である。したがって、この方法は、細胞内環境でシグナルを生成する免疫グロブリンを選択して、それらの免疫グロブリンを細胞内機能アッセイに供するステップをさらに含むことが好ましい。例えば、このアッセイが、突然変異体Ras癌遺伝子の遺伝子産物など、腫瘍形成に関連した標的に結合する免疫グロブリンの選択を意図する場合、形質転換細胞の産生におけるいかなるモジュレーション活性を測定するためにでも、細胞形質転換アッセイで免疫グロブリンが試験されうる。
【0020】
第1の分子および第2の分子は、シグナルを生成するという要件を満たす分子ならいかなる分子でもよい。それらは、必ずしもポリペプチドでなければならないわけではない。例えばそれらは、蛍光色素か、または照射を発生または吸収できる他の化学基であってもよい。しかし、好ましい態様では、本発明の第1の分子および第2の分子はポリペプチドである。
【0021】
本発明によるポリペプチドは、結合することによってそれ自体でシグナルを生成できる活性レポーター分子を形成する。したがって、これらのポリペプチドは、そのようなレポーター分子のドメインであることが好ましい。
【0022】
例えば、このポリペプチドは、GFPなどの蛍光ポリペプチドのドメインであってもよく、または、活性であるときにはレポーター遺伝子からの転写をアップレギュレートする転写因子のドメインでもよい。このレポーター遺伝子は、それ自体がGFP、または、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、検出可能なエンドポイントを有する酵素反応を触媒できる酵素、または必要な栄養素の提供などによって細胞増殖を調節できる分子など、他の検出可能な分子をコードするものでもよい。
【0023】
本発明による免疫グロブリンと標的との結合は、第1の分子と、第2の分子との間の安定した連結を提供し、この連結によって、これらの分子の安定した相互作用をもたらす。「安定した相互作用」は、第1の分子および第2の分子が、使用するために選択されたシグナル伝達法に応じた検出可能な結果をもたらすために、機能的協同作用を行うのを可能にする相互作用と定義してもよい。第1の分子と、第2の分子との間の安定した相互作用は、免疫グロブリンと標的との結合を介してこれらの分子が集合させられない限り起こらないものが有利である。
【0024】
「免疫グロブリン」および「標的」という用語は、以下でさらに定義するように、それらが当技術分野で与えられている通常の意味で用いられる。「免疫グロブリン」という用語は、特に標的に結合できるいかなる部分をも指し、特に、T細胞受容体および抗体を含めた免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーを指す。「免疫グロブリン」には、標的分子に結合できる天然免疫グロブリンのいかなるフラグメント、例えばFvおよびscFvなどの抗体フラグメントも含まれる。「標的」という用語には、抗原が含まれ、この抗原は、抗体、T細胞受容体、または、他の免疫グロブリンの標的でありうる。
【0025】
免疫グロブリンは抗体であることが好ましく、また、標的は抗原であることが好ましい。「抗体」単一ドメインは、単一Vドメインまたは単一Vドメインである。「抗体」単一ドメインは、単一Vドメインであることが好ましい。
【0026】
当技術分野で公知なように、単一ドメイン抗体は、V−Vインターフェースとして特定の残基を突然変異させて、V(またはV)ドメインの「粘着性」を減少させ、それによって非特異的結合の傾向を低下させることによって、「ラクダ化された(camelised)」ものでもよい。例えば、Riechmannら(1996年)、J.Mol.Biol、第259巻、957〜969ページを参照のこと。本発明者らは、細胞内単一ドメイン抗体を「ラクダ化する」ことによって、その抗体の細胞内で結合する能力が低減または除去されるということを決定している。したがって、本発明による免疫グロブリンは、ラクダ化されていないものが有利である。
【0027】
好ましい実施形態では、免疫グロブリン単一ドメインおよび標的は、細胞内アッセイが行われる細胞の中で核酸を発現することによって提供される。シグナルを生成する分子を含めた免疫グロブリンおよび標的の構築物は、核酸から転写され、そして/または、翻訳され、例えば細胞質に局在化され、そこで細胞内アッセイが行われうる。他の有利な実施形態では、細胞内免疫グロブリンを、核に(例えば核局在化シグナルとの融合によって)、またはER保持シグナルを用いてERに、または他の位置になど、いかなる所望の亜細胞コンパートメントに局在化してもよい。
【0028】
免疫グロブリンをコードする核酸は、多数のそのような分子をコードするライブラリーから得てもよい。例えば、免疫グロブリン分子のファージディスプレイライブラリーが公知であり、この方法で用いてもよい。このライブラリーは、1レパートリーの免疫グロブリンドメインをコードするものが有利である。1「レパートリー」とは、結合特異性の多様性を提供するために、1個または複数個のテンプレート分子を核酸レベルで、ランダム、セミランダム、または部位特異的(directed)に変異させることによって生成される1セットの分子を指す。レパートリーを生み出す方法は、当技術分野で詳細に特徴付けされている。
【0029】
さらに、ライブラリーは、標的、例えば抗原に曝露された生物から単離された核酸から構築してもよい。抗原への曝露によって、通常、それぞれが抗原に結合できるが、エピトープ特異性または他の特徴において他とは異なりうる免疫グロブリンのポリクローナル集団の産生が引き起こされるだろう。生物から免疫グロブリン遺伝子をクローニングすることによって、細胞内環境での使用に適した免疫グロブリンを単離するために、本発明の方法を用いて、免疫グロブリンのポリクローナル集団の選択を行ってもよい。
【0030】
本発明による方法は、上述した方法で生成されたシグナルに基づいて、細胞内結合活性を示すことが可能な免疫グロブリンドメイン、および/またはそのような免疫グロブリンをコードする核酸の単離を可能にするものである。したがって、本発明の方法で使用される免疫グロブリンドメインおよび標的の一方または両方を、第1の分子または第2の分子と共に、転写されて上記免疫グロブリンドメインおよび/または標的を上記第1の分子または第2の分子と共に生成する核酸構築物の形態で提供する。核酸構築物は、本発明の方法が実行される細胞内で、免疫グロブリンドメインをコードする核酸の発現を指令できる発現ベクターであってもよい。
【0031】
本発明は、細胞内で標的に結合する免疫グロブリンドメイン、および/または、それらをコードする核酸の単離を可能にするものである。本発明の方法でスクリーニングされる免疫グロブリンドメインは、標的特異性に関して事前に選択されたものが有利である。したがって、本発明は、本発明による手法における使用に適した免疫グロブリン単一ドメインを調製する方法であって、
a)選択系で1レパートリーの免疫グロブリン単一ドメイン遺伝子を発現して、所望の標的に特異的な免疫グロブリンドメインをコードする遺伝子を単離するステップと、
b)上記免疫グロブリンドメインおよび第1の分子を含む融合ポリペプチドを生成するために、単離された遺伝子を、上記第1の分子をコードする核酸と作動可能に結合させるステップであって、ここで第1の分子は、第2の分子との安定した相互作用によりシグナルを生成するものである、ステップと、
を含む方法を提供する。
【0032】
上記で使用した「作動可能に結合させる」とは、免疫グロブリンドメインと、シグナルを生成する分子とを含む融合タンパク質が生成されるように、コード配列を融合または並置させることを指す。通常、標的に対する選択を行うことによって、標的特異性を共有する抗体の、さらに小さなレパートリーが生じるであろう。そのような免疫グロブリンをコードする転写ユニットは、シグナル生成分子に融合されており、細胞内で機能できる免疫グロブリンドメインを選択するために、本発明によるアッセイで用いられる。
【0033】
別の態様では、本発明は、各単一ドメインが上述のレポーターシステムの第1の分子に作動可能に結合した免疫グロブリン単一ドメインのライブラリーを提供する。このライブラリーは、抗体単一ドメインのライブラリーであることが好ましく、この抗体単一ドメインはVドメインであると有利である。
【0034】
本発明者らは、さらに、マルチドメイン細胞内抗体から得られた単一ドメインが、細胞内単一ドメイン免疫グロブリンとして、極めて効率的に機能するという結果を得た。したがって、本発明は、細胞内環境で標的に結合する細胞内単一ドメイン免疫グロブリンを調製する方法であって、
a)第1の分子と第2の分子との安定した相互作用がシグナルの生成を導く上記第1の分子および上記第2の分子を提供するステップと、
b)上記第1の分子に結合する細胞内免疫グロブリンを提供するステップと、
c)上記第2の分子に結合する細胞内標的を提供するステップであって、上記免疫グロブリンと上記標的との結合が、上記第1の分子と上記第2の分子との安定した相互作用を導き、上記シグナルを生成するステップと、
d)上記シグナルをモニターすることによって、上記免疫グロブリンと上記標的との間の細胞内相互作用を評価するするステップと、
e)上記標的と相互作用する1つまたは複数の免疫グロブリンを選択して、それから1つまたは複数の単一ドメイン免疫グロブリンを単離するステップと、
を含む方法を提供する。
【0035】
本方法が、単一ドメイン免疫グロブリンのフレームワーク領域を突然変異させて、細胞内結合および/または安定性を促進させるステップをさらに含むと有利である。
【0036】
別の態様では、細胞内単一ドメイン免疫グロブリンを提供する。細胞内単一ドメイン免疫グロブリンは、単一ドメイン抗体またはVドメインであることが好ましい。
【0037】
細胞内環境で機能する単一ドメイン抗体は、Vドメイン中に一般的に存在するドメイン内ジスルフィド結合を必要としないことを本明細書に示した。したがって、この細胞内単一ドメインは、ドメイン内ジスルフィド結合を含まないものが有利である。
【0038】
本発明の単一ドメイン抗体は、第PCT/GB02/003512号記載の細胞内VコンセンサスまたはVコンセンサスに一致したものが有利である。
【0039】
このコンセンサスは、図5aに記載され、かつ配列番号3または配列番号4として表されたコンセンサス配列のうちに少なくとも1つによって記載されたものが有利である。本発明で使用される「コンセンサス」は、図5a、および配列番号3または配列番号4に示されたコンセンサスと少なくとも85%同一であるもの、好ましくは90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一であるものが有利である。同一性の計算では、CDR3のアミノ酸残基が考慮から除かれていることが好ましい。
【0040】
本発明は、上述した通りの単一ドメイン抗体のライブラリーであって、細胞内コンセンサスに一致したVドメインからなる単一ドメイン抗体を含むライブラリーをさらに提供する。
【0041】
本発明による細胞内単一ドメイン免疫グロブリンは、細胞内治療応用に有用である。したがって、本発明は、細胞における生物学的機能をモジュレーションする方法であって、記載した細胞内単一ドメイン免疫グロブリンの有効量を細胞に投与することを含む方法を提供する。さらに、本発明は、細胞の生物学的機能をモジュレーションする組成物の製造における、本発明による細胞内単一ドメインの使用を提供する。
【0042】
この生物学的機能は、ポリペプチドまたは核酸レベルでの遺伝子発現のアップレギュレーションおよびダウンレギュレーションを含めた、所望のいかなる機能であってもよい。例えば、単一ドメイン細胞内免疫グロブリンは、特異的に癌遺伝子産物を標的にして、ポリペプチドまたはmRNAレベルで、それらの発現をダウンレギュレートしうる。例えば、この癌遺伝子は、活性化p21 Ras癌遺伝子でもよい。本発明による単一ドメイン免疫グロブリンは、Ras癌遺伝子による発癌性形質転換を防止することが示されている。
【0043】
図面の詳細な説明
図1.哺乳類細胞におけるRASタンパク質と、抗RAS scFvイントラボディーおよび単一ドメイン誘導体との相互作用
COS7細胞を、GAL4−DBDベイトプラスミドpM1−HRASG12V(黒塗りボックス)またはpM1−β−ガラクトシダーゼ(lacZ)(灰色ボックス)と共に、VP16活性化ドメインに融合したscFvまたは単一ドメイン誘導体を合成する様々なpEF−VP16発現クローンで一時的に同時トランスフェクトした。さらに、ホタルルシフェラーゼレポータープラスミドpG5−Luc、およびRenillaルシフェラーゼ内部対照プラスミドpRL−CMVを同時トランスフェクトした。ルシフェラーゼ活性はトランスフェクションの48時間後に測定した。右手のパネルに、Renillaルシフェラーゼ活性(トランスフェクション効率の内部対照として用いた)に対して正規化された、ホタルルシフェラーゼシグナルの活性を示す。中央パネルは、抗VP16(14−5、Santa Cruz Biotechnology)モノクローナル抗体と、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗マウスIgG抗体とを用いて検出された、scFv−VP16融合タンパク質の発現後における、COS7細胞抽出物のウェスタンブロットを示す。左手パネルは、様々な抗体フラグメントを発現させるのに使用した構築物を示す。
【0044】
図2.合成単一ドメインライブラリーを用いた細胞内抗体捕獲
A.2つのpVP16*−Dabライブラリー1の多様性は、I21R33由来ライブラリー1で2x10であり、コンセンサスライブラリー1が1.4x10であった(すなわち、合計の多様性3.4x10)。最初のライブラリー1プールは、方法に記載されるようにCDR1で多様化した。ライブラリー2のそれぞれの多様性は、I21R33由来ライブラリーが3.04x10であり、コンセンサス由来ライブラリーが2.215x10であった(すなわち、合計の多様性5.25x10)。12個のクローンを、各ライブラリーから無作為に選択し、CDRのインサートと正しい挿入確認するために配列決定した。酵母L40でスクリーニングされた初期のクローンの初期スクリーニングの結果と、ヒスチジン欠失プレート上で、3種のベイト(RAS、p53、およびATF−2)共に増殖しているコロニーの数とを示す。β−gal活性化を引き起こす対応する割合を右のカラムに示す。
【0045】
B.3種のベイトで得られた選択された細胞内Dabの派生するタンパク質配列のアライメント。ヌクレオチド配列を得て、派生するタンパク質翻訳(一文字コードで示す)をアライメントさせた。相補性決定領域(CDR)(Kabatら26、およびIMGT27によって定義された通り)を左のパネルに示す(CDR2のN末端における11残基のみを示す)。
【0046】
右のパネルは、Dabの抗原特異性を確かめるために、異なったベイトを用いて、酵母においてIDabの抗原抗体相互作用を再試験した結果を示す。HISカラムは、ヒスチジン非依存性増殖アッセイを示し、β−galカラムは、β−ガラクトシダーゼフィルターアッセイを示す。
【0047】
クローン1〜9、21〜30はライブラリー1(正準なコンセンサスまたはI21Rフレームワークのいずれか)に由来した。
【0048】
クローン11〜19、101〜110は、ライブラリー2(正準なコンセンサスまたはI21Rフレームワークのいずれか)に由来した。
【0049】
CON = コンセンサスフレームワーク配列のVHドメインで構成されている。
【0050】
I21R+ 抗RAS scFvI21R33フレームワークのVHドメイン。
【0051】
図3.哺乳類細胞における単一ドメインイントラボディーと抗原との相互作用
哺乳類ツーハイブリッド抗体抗原相互作用アッセイを3つの独立した方法で行った。
【0052】
A−C.ルシフェラーゼレポーターアッセイ
COS7を、pEF−IDab−VP16ベクターと、ベイトpM1−HRASG12V(黒塗りボックス)、pM1−ATF−2(白抜きボックス)、pM1−p53wt(斜線ボックス)、またはpM1−LexA(灰色ボックス)とで、pG5−lucおよびpRL−CMVと共にトランスフェクトした。ルシフェラーゼレベルは、図1の記載の通りに測定した。各ヒストグラムは、Renillaルシフェラーゼ活性(トランスフェクション効率の内部対照として用いた)に対して正規化されたホタルルシフェラーゼシグナルの活性を表す。(A)RAS抗原によるIACスクリーニングから単離されたRAS選択IDabサブグループ。右上ヒストグラムは、左ヒストグラム(フルスケールで最大1.4)の低い範囲(フルスケールで最大15x10−3までの比活性)に焦点がある。(B)ATF−2選択IDab。(C)p53選択IDab。
【0053】
D.CD4発現のFACS分析
Gal4上流活性化配列(UAS)部位14を介して調節されているCD4レポーター遺伝子を有するCHO−CD4細胞を、様々なpEF−scFv−VP16またはpEF−IDab−VP16ベクターと共に、pM1−HRASG12VまたはpM1−lacZで同時トランスフェクトした。細胞表面CD4発現の誘導は、抗ヒトCD4抗体およびFITC結合抗マウスIgを用いて、トランスフェクションの48時間後にアッセイした。示したCD4+細胞のパーセンテージは、FACSCaliburを用いて測定した。
【0054】
E.GFP発現のFACS分析
GAL4 UAS17を介して調節されているGFPレポーター遺伝子を有するCHO−GFP細胞系を、様々なpEF−scFv−VP16またはpEF−IDab−scFvベクターと共に、pM1−HRASG12VまたはpM1−lacZで同時トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、細胞質GFP発現を、FACSCaliburを用いて測定した。
【0055】
図4.RASに媒介されるNIH3T3細胞の発癌性形質転換に対する抗RAS単一ドメインイントラボディーによる阻害
突然変異体HRASG12V cDNAを哺乳類発現ベクターpZIPneoSV(X)に、そして、抗RAS scFvまたはIDabを、原形質膜ターゲティングシグナルをscFvまたはIDabのC末端に、また、FLAGタグをN末端に有するpEF−FLAG−Membベクターにサブクローニングした。100ngのpZIPneoSV(X)−HRASG12V、および2μgのpEF−Memb−scFvまたはpEF−Memb−IDabを、LipofectAMINE(商標)(Invitrogen)を用いて、継代の少ないNIH3T3細胞クローンD4に同時トランスフェクトした。2日後に、細胞を10cmプレートに移した。集密に達した後に、細胞を、5%ドナーウシ血清、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含有するダルベッコ改変イーグル培地中で14日間保持した。プレートをクリスタルバイオレットで染色して、形質転換細胞の増殖巣を定量した。
【0056】
A.増殖プレートの代表的写真。左上パネルの空ベクターは、RASを含まないpZIPneoSV(X)と、scFVまたはIDabを含まないpEF−VP16ベクターとによる同時トランスフェクションを示す(陰性対照);増殖巣の形成は観測されなかった。他のプレートは、HRASG12Vと、示されたscFvまたはIDabとによるトランスフェクションからのものであった。
【0057】
B.ヒストグラムにおける形質転換巣の相対的パーセンテージは、pZIPneoSV(X)−HRASG12VおよびpEF−VP16空ベクターによって誘導された増殖巣形成を100として、これに対して正規化した増殖巣の数として決定された。示された結果は、各トランスフェクションが二重で行われた1つの実験を表すものである(2回の追加実験は同様の結果を示す)。
【0058】
図5.細胞内scFvの派生タンパク質配列のアライメント
scFvのヌクレオチド配列を取得し、派生したタンパク質翻訳(一文字コードで示す)をアライメントさせた。相補性決定領域(CDR)には陰影をつける。配列番号1〜40におけるフレームワーク残基は下線で示したものである。特定の位置のコンセンサス配列は、出現頻度が最も高い残基に関して計算したが、その位置に5回を越えて現れた残基のみが考慮に入れられた。
【0059】
A.抗BCR(B3〜B89と命名された)および抗ABL(A5〜A32と命名された)からのVHおよびVL配列。抗BCR ICAbおよび抗ABL ICAbを合わせたコンセンサス(Con)を、カバットデータベースからのVH3とVIに関するサブグループコンセンサスとの比較において示す。
【0060】
− 細胞内抗体結合性VまたはVコンセンサス(それぞれ配列番号3および配列番号4)との配列同一性を表す。
【0061】
. アライメントを最適化するために導入されたギャップを表す。
【0062】
B.選択されなかったファージディスプレイライブラリーから無作為に取得したscFvの配列比較。無作為に単離されたscFv(rcHおよびrcL)から得られたコンセンサスを示す。
【0063】
− アライメントを最適化するために導入されたギャップを表す。
【0064】
Xは、コンセンサスを割り当てることができなかった位置を表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
定義
本発明による単一ドメイン免疫グロブリンは、標的に結合できるいかなる単一ドメイン部分も指す。詳細には、単一ドメイン免疫グロブリンには、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーに由来する単一ドメインが含まれるが、免疫グロブリンスーパーファミリーは、抗体分子の特徴である免疫グロブリンフォールドを含むポリペプチドのファミリーであり、抗体分子は、2つのβシートと、通常は、保存されたジスルフィド結合とを含有する。免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーは、免疫系における広範な役割(例えば、抗体、T細胞受容体分子、および同様のもの)、細胞接着における関与(例えば、ICAM分子)、および細胞内シグナル伝達(例えば、PDGF受容体などの受容体分子)を含めた、in vivoにおける細胞性および非細胞性の相互作用の様々な側面に関与している。本発明は、標的分子に結合できる全免疫グロブリンスーパーファミリー分子に由来する単一ドメイン分子に適用可能である。本発明は、好ましくは、抗体単一ドメイン、特に重鎖可変(V)ドメインに関する。単一ドメイン免疫グロブリンは、相補的ドメインから遊離しており、すなわち、自然の状態で、または他の方法で、この単一ドメインと結合して、標的に対する単一の複合結合部位を形成しうる他の結合ドメインと結合していない。詳細には、本発明の単一ドメインでは、Vドメインに相補的なVドメインが存在していない。しかし、抗体定常領域ドメインなどの他のドメインは、存在する必要はないが、存在していてもよい。
【0066】
ドメインは、当技術分野における通常の意味で用いられる。したがって、ドメイン(通常、ポリペプチドドメインまたはタンパク質ドメイン)は、独立した三次構造と、独立した機能的属性を有する。ドメインは、集合してマルチドメインタンパク質を形成しうる。
【0067】
本明細書において、抗体とは、選択された標的に結合でき、かつFv、ScFv、Fab’、およびF(ab’)、モノクローナルおよびポリクローナル抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、およびヒト化抗体を含めた改変抗体、そして、ファージ提示または代替技法を用いて産生され、人工的に選択された抗体を含めた完全抗体または抗体フラグメントを指す。抗体は、IgG、IgE、IgA、IgD、およびIgMを含めた、天然に存在するいかなる抗体タイプのものでも、または、そのいずれかに基づいたものでもよい。Vドメインなどの単一ドメインは、そのような抗体のいかなるものに由来するものでも良い。
【0068】
分子は、無機分子、有機分子、またはこれら2つの組合せを含めたいかなる化学構造でもありうる。通常、分子は、ポリペプチドまたは核酸であろう。ポリペプチドは、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸の鎖であり、天然もしくは合成アミノ酸、またはこれら2つの組合せを含みうる。
【0069】
活性レポーター分子は、直接的に、または化学的もしくは生物学的経路を介してシグナルを生成できる分子である。例えば、活性レポーター分子は、相互作用するとFRETを介してシグナルを生成する1対の蛍光色素;相互作用すると活性型の転写因子を形成する、転写因子の2個のドメイン;または、相互作用すると検出可能な酵素活性を再構成する、酵素のドメインであってもよい。
【0070】
重鎖可変ドメインは、免疫グロブリン分子重鎖における、その分子の抗原結合部位の一部を形成する部分を指す。Vという略語が使用されている。構造類似性に基づいて、いくつかのサブタイプが定義されており、例えば、カバットデータベースに記載されているものが挙げられる。
【0071】
軽鎖可変ドメインは、免疫グロブリン分子軽鎖における、その分子の抗原結合部位の一部を形成する部分を指す。Vという略語が使用されている。構造類似性に基づいて、いくつかのサブタイプが定義されており、例えば、カバットデータベースに記載されているものが挙げられる。
【0072】
免疫グロブリン重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域は、免疫グロブリンフォールドの存在を特徴とする、特別の3次元コンフォメーションを有する。可変ドメインに存在する特定のアミノ酸残基が、この特徴的な免疫グロブリンドメインのコア構造を維持する役割を果たしている。これらの残基は、フレームワーク残基として知られており、高度に保存される傾向を示す。フレームワークは抗体のCDRを支持する。
【0073】
免疫グロブリン分子における重鎖および軽鎖可変ドメインのCDR(相補性決定領域)は、フレームワーク領域残基ではなく、可変領域における超可変ループ内に含有されるアミノ酸残基のことをいう。これらの超可変ループは、リガンドとの免疫グロブリンの相互作用に直接関与する。これらのループ内にある残基は、フレームワーク領域に比べて、保存の程度が低い傾向にある。
【0074】
細胞内とは細胞の内部を意味し、本発明は、細胞の内部で選択的にリガンド/標的に結合する免疫グロブリンを対象とする。この細胞は、いかなる原核または真核の細胞でもよく、細菌細胞、酵母細胞、および高等真核生物細胞からなる群から選択されることが好ましい。最も好ましいのは、酵母細胞および哺乳類細胞である。したがって本明細書において、「細胞内」の免疫グロブリンおよび標的またはリガンドは、細胞の内部に存在する免疫グロブリンおよび標的/リガンドである。さらに、「細胞内」という用語は、細胞内環境に類似しているか、またはこれを模擬する環境も指す。したがって、「細胞内」は、細胞の内部ではなく、in vitroの環境を指すこともある。例えば、本発明の方法は、in vitro転写システムおよび/または翻訳システムで行ってもよく、これらは、市販されているものでも、または天然のシステムに由来するものでもよい。
【0075】
本発明の文脈において、V鎖およびV鎖のコンセンサス配列は、細胞内環境で選択的にリガンドに結合できる免疫グロブリン分子に由来するV鎖およびV鎖のコンセンサス配列を指す。細胞内で結合できる免疫グロブリンの配列を比較した際に、いずれの位置でも、所与の一箇所において最も共通する残基が、その位置のコンセンサス残基として選択される。コンセンサス配列は、細胞内で結合する全免疫グロブリンの各位置における残基を順次比較して、その後データを照合することによって作製される。
【0076】
本発明の文脈において、特異的な(抗体)結合とは、抗体とリガンドとの相互作用が選択的であること、すなわち、多数の分子が抗体に提示された場合、提示された分子のうち、1個または数個のみに、この抗体が結合するであろうことを意味する。抗体−リガンド相互作用は、高親和性であることが有利であろう。免疫グロブリンとリガンドとの相互作用は、水素結合形成およびファンデルワールス力などの非共有結合相互作用によって媒介されるだろう。
【0077】
本発明の文脈において、1レパートリーとは、結合特異性の多様性を提供するために、1個または複数個のテンプレート分子を核酸レベルで、ランダム、セミランダム、または部位特異的(directed)に変異させることによって生成された1セットの分子を指す。この場合、テンプレート分子は、本明細書に記載される1つまたは複数のVドメイン配列および/またはVドメイン配列である。レパートリーを生み出す方法は、当技術分野で詳細に特徴付けされている。
【0078】
a)単一ドメイン免疫グロブリン
単一ドメイン免疫グロブリン分子は、通常、他のドメイン、特に他の標的結合ドメインから分離した免疫グロブリンの単一標的結合ドメインである。例えば、単一ドメイン免疫グロブリンは、当技術分野においてDabとして公知である単一ドメイン抗体でもよい。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメイン(V)または軽鎖可変ドメイン(V)からなる。
【0079】
本発明による単一ドメイン免疫グロブリンは、特に診断上および治療上の適用が示される。したがってそれらは、毒素または標識などのエフェクタータンパク質を含む改変抗体でもよい。in vivoにおける抗体分布のイメージングを可能にする標識が特に好ましい。そのような標識は、放射性標識、または、金属粒子などの放射線不透性標識であってもよい。金属粒子は、患者の体内においても容易に視覚化できる。さらに、そのような標識は、患者から除去された組織試料で視覚化可能な蛍光標識または他の標識でもよい。エフェクターグループは、本発明の方法による抗体の選択の前に添加しても、または後で添加してもよい。
【0080】
単一ドメインがそれから由来しうる抗体それ自体は、動物血清から得ても良く、また、モノクローナル抗体またはそのフラグメントの場合には、細胞培養中に産生してもよい。細菌培養、または好ましくは哺乳類細胞培養において抗体を生成するために、確立した操作手順に従って、組換えDNA技術を用いてもよい。選択される細胞培養系は、抗体産物を分泌するものが好ましい。
【0081】
ハイブリドーマ細胞または哺乳類宿主細胞の増殖は、適当な培地を用いてin vitroで実行される。適当な培地は、常用的な標準培地、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)またはRPMI1640培地であり、任意選択で、例えばウシ胎児血清などの哺乳動物血清、または微量元素および成長を維持するサプリメント、例えば、正常マウス腹腔滲出細胞、脾細胞、骨髄マクロファージなどのフィーダー細胞、2‐アミノエタノール、インシュリン、トランスフェリン、低密度リポタンパク質、オレイン酸、または同様のものが添加される。宿主細胞の増殖は、宿主細胞が細菌細胞または酵母細胞である場合も同様に、当技術分野で公知の適当な培地、例えば、細菌用には、LB、NZCYM、NZYM、NZM、テリフィックブロス、SOB、SOC、2xYT、またはM9最少培地、そして、酵母用には、YPD、YEPD、最小培地、または完全最小ドロップアウト培地(Complete Minimal Dropout Medium)を用いて実行される。
【0082】
in vitro産生は、比較的純粋な抗体調製物を提供し、スケールアップして、所望の抗体を大量に提供することを可能にする。細菌細胞、酵母または哺乳動物細胞培養の技法は、当技術分野で公知であり、これらには例えば、エアリフト培養器(airlift reactor)中、もしくは定常撹拌培養器中での均質懸濁培養、または、例えば、中空繊維中、マイクロカプセル中、アガロースマイクロビーズ上、またはセラミックカートリッジ上での固定もしくは捕捉(entrapped)細胞培養が含まれる。
【0083】
所望の抗体は、哺乳類細胞をin vivoで増殖させることによっても、大量に取得できる。このような目的で、抗体産生腫瘍の増殖を引き起こすために、所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を、組織適合性の哺乳動物に注入する。任意選択で、注射前に、炭化水素、特にプリスタン(テトラメチル−ペンタデカン)などの鉱油を用いて動物に初回抗原刺激を与える。1〜3週間後に、それらの哺乳動物の体液から抗体を単離する。例えば、Balb/cマウス由来の抗体産生脾細胞と、適当な骨髄腫細胞の融合で得られたハイブリドーマ細胞、またはハイブリドーマ細胞系Sp2/0に由来の、所望の抗体を産生する形質転換細胞を、任意選択でプリスタンによる前処置を行ったBalb/cマウスに腹腔内注入して、1〜2週間後に、動物から腹水を採取する。
【0084】
上記の技法、および他の技法は、例えば、KohlerおよびMilstein(1975年)、Nature、第256巻、495〜497ページ;米国特許第4,376,110号;HarlowおよびLane、Antibodies: a Laboratory Manual、(1988年)、Cold Spring Harborで論じられており、これらを参照により本明細書に組み込む。組換え抗体分子を調製する技法は、上記の参考文献と、例えば、欧州特許第0623679号、欧州特許第0368684号、および欧州特許第0436597号とに記載されており、これらを参照により本明細書に組み込む。
【0085】
細胞培養上清は、所望の抗体について、所望の標的を発現する細胞を、免疫ブロッティングによって、例えばサンドウィッチアッセイ、またはドットアッセイ、またはラジオイムノアッセイなどの酵素免疫測定法によって免疫蛍光染色することによって、選択的にスクリーニングする。
【0086】
抗体を単離するには、培養上清中または腹水中の免疫グロブリンを、例えば、硫酸アンモニウムによる沈殿、ポリエチレングリコールなどの吸湿性物質に対する透析、選択性の膜を通した濾過などによって濃縮してもよい。必要もしくは望ましい場合には、抗体を常用的なクロマトグラフィー手法で、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、DEAE−セルロース上でのクロマトグラフィー、および/または(免疫)親和性クロマトグラフィー、例えば、標的分子もしくはプロテインAによる親和性クロマトグラフィーによって精製する。
【0087】
以上の操作手順で産生された抗体は、標準的な操作手順に従って、細胞から核酸を単離することによってクローニングしてもよい。抗体の可変ドメイン核酸を単離して、VまたはVドメインなどの単一ドメイン抗体を構築するのに使用すると有用であろう。
【0088】
したがって、本発明は、抗体重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインをコードするインサートを含む組換え型核酸を利用することが好ましい。定義上、そのような核酸には、コーディング一本鎖核酸、上記コーディング核酸およびそれに相補的な核酸からなる二本鎖核酸、またはこれら相補的な(一本鎖)核酸それ自体が含まれる。
【0089】
さらに、抗体重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインをコードする核酸は、天然に存在する重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメイン、またはその突然変異体をコードする正統的な配列を有する、酵素的または化学的に合成された核酸でありうる。正統的配列の突然変異体は、1つまたは複数のアミノ酸が欠失されているか、あるいは1つまたは複数のアミノ酸で置換されている、上述の抗体重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインをコードする核酸である。上記改変は、重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインのCDRの外であることが好ましい。そのような突然変異体核酸は、1つまたは複数のヌクレオチドが、同一のアミノ酸をコードする新規コドンを有する他のヌクレオチドで置換されているサイレント突然変異体であることも意図されている。そのような突然変異体配列は縮重配列でもある。縮重配列は、遺伝コードの意味内における縮重であり、縮重配列中では、制限のない数のヌクレオチドが、元々コードされていたアミノ酸配列を変化させることなく、他のヌクレオチドで置換される。そのような縮重配列は、それらが異なった制限部位を有することによって、かつ/または、特定の宿主、特に酵母、細菌、または哺乳類細胞にとって好ましい特定のコドンの頻度が異なることによって、重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインの最適の発現を得るのに有用であることがある。
【0090】
突然変異体という用語には、当技術分野で公知の方法による、DNAのin vitroまたはin vivo突然変異誘発で得られたDNA突然変異体が含まれることが意図されている。
【0091】
組換えDNA技法は、本発明の抗体を改善するのに用いてもよい。したがって、診断上または治療上の適用におけるそれらの免疫原性を低下させるために、キメラ抗体を構築してもよい。さらに、免疫原性は、CDR移植によって[ヨーロッパ特許出願第0239400号(Winter)に総説]、そして、任意選択でフレームワークの改変によって[国際特許出願第WO90/07861号(Protein Design Labs)に総説]、抗体をヒト化することで、最小化してもよい。
【0092】
したがって、本発明は、ヒト定常ドメインγ、例えば、γ1、γ2、γ3、γ4、好ましくはγ1またはγ4に融合した抗体重鎖可変ドメインをコードするインサートを含む組換え核酸も利用する。同様に、本発明は、ヒト定常ドメインκまたはλ、好ましくはκに融合した抗体軽鎖可変ドメインをコードするインサートを含む組換えDNAにも関する。
【0093】
本発明は、CDR移植抗体を利用することがより好ましく、CDR移植抗体は、CDR移植された、単独の軽鎖可変ドメインまたは重鎖可変ドメインであることが好ましい。
【0094】
さらに、抗体遺伝子の突然変異誘発を行って、抗体の人工的なレパートリーを生成することによって、抗体を産生してもよい。この技法は、以下でさらに論じる抗体ライブラリーの調製を可能にするものである。また、抗体ライブラリーは市販されているものを利用可能である。したがって、本発明は、単一ドメイン免疫グロブリンの人工的レパートリー、好ましくは人工的Vレパートリーを利用すると有利である。
【0095】
単一ドメイン免疫グロブリンは、いかなる適切な技法によって調製してもよい。単一ドメイン抗体の調製に関しては、Wardら(1989年)、Nature、第341巻、544〜546ページ、および欧州特許出願第0368684号(Medical Research Council)に詳細に記載されている。
【0096】
b)標的
標的は、本発明の方法によって選択された細胞内の単一ドメイン免疫グロブリンを用いることが意図されている使用に応じて選択される。したがって、ポリペプチド、亜細胞構造、または細胞内病原体などの特定された細胞成分に結合できる免疫グロブリンを選択することが望ましい場合には、上記成分またはそれに由来するエピトープの全体を標的として用いてもよい。
【0097】
潜在的標的には、ポリペプチド、特に新生ポリペプチドまたは細胞内ポリペプチド前駆体が含まれるが、これらは細胞内に存在する。標的は、点突然変異、欠失、および染色体転座を含めた遺伝子突然変異を介して生成されたポリペプチドなどの突然変異体ポリペプチドであると有利である。そのようなポリペプチドは腫瘍形成に関与していることが多い。例としては、スプライシングされたBCR−ABL遺伝子によって生成された遺伝子産物と、Ras癌遺伝子の点突然変異体によって生成された遺伝子産物とが含まれる。本発明は、さらに、全突然変異癌遺伝子産物、全染色体転座癌遺伝子産物(特に融合タンパク質)、疾患中に発現される異常タンパク質、および、感染の結果として発現されるウイルス特異的または細菌特異的タンパク質に適用可能である。
【0098】
あるいは、標的はRNA分子でもよく、例えば、前駆体RNA、または遺伝子突然変異もしくは他の方法で生成された突然変異体RNA種でもよい。
【0099】
標的は、例えば、以下に記載されるように、細胞内に挿入されてもよく、または細胞に内在するものでもよい。標的が内在性である場合には、シグナルの生成は、細胞内での標的に対するシグナル伝達分子の結合、または、シグナル生成物質の半分として機能できる標的自体に依存する。
【0100】
c)ライブラリーおよび選択系
本発明での使用に供する免疫グロブリンは、免疫グロブリンポリペプチドの人工的レパートリーを含むライブラリーから単離してもよい。任意選択で、所望の標的に対するスクリーニングによって、免疫グロブリンをあらかじめ選択して、実質上すべてが意図された標的に特異的である免疫グロブリンを用いて本発明の方法が行われるようにしてもよい。
【0101】
本発明と組み合わせて、いかなるライブラリー選択システムを用いてもよい。大規模のライブラリーから、所望のメンバーを単離するための選択プロトコールは、当技術分野で公知であり、典型的な例としてはファージ提示技法がある。そのようなシステムでは、繊維状バクテリオファージの表面に様々なペプチド配列が提示されるが(ScottおよびSmith(1990年)、Science、第249巻、386ページ)、標的抗原に結合する特異的な抗体フラグメントのin vitro選択および増幅を行うために、抗体フラグメント(およびそれらをコードするヌクレオチド配列)のライブラリーを作製するのに、そのようなシステムが有用であることが実証されている。VおよびV領域をコードするヌクレオチド配列は、それらを大腸菌(E.coli)のペリプラズム間隙へ指令するリーダーシグナルをコードする遺伝子フラグメントに連結され、その結果、得られた抗体フラグメントは、通常、バクテリオファージコートタンパク質(例えば、pIIIまたはpVIII)との融合体として、バクテリオファージの表面に提示される。別法では、λファージキャプシド(ファージボディー(phagebody))の外部に抗体フラグメントを提示する。ファージをベースにした提示システムの利点は、それらが生物学的システムであるため、選択されたライブラリーメンバーを含有するファージを、単純に細菌細胞中で増殖させることによって、選択されたライブラリーメンバーを増幅できる点にある。さらに、ポリペプチドライブラリーメンバーをコードするヌクレオチド配列がファージまたはファージミドベクターに含有されているため、配列決定、発現、および後続する遺伝操作が比較的簡単である。
【0102】
バクテリオファージ抗体提示ライブラリー、およびλファージ発現ライブラリーを構築する方法は、当技術分野で周知である(McCaffertyら(1990年)、Nature、第348巻、552ページ;Kangら(1991年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第88巻、4363ページ;Clacksonら(1991年)、Nature、第352巻、624ページ;Lowmanら(1991年)、Biochemistry、第30巻、10832ページ;Burtonら(1991年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第88巻、10134ページ;Hoogenboomら(1991年)、Nucleic Acids Res.、第19巻、4133ページ;Changら(1991年)、J.Immunol.、第147巻、3610ページ;Breitlingら(1991年)、Gene、第104巻、147ページ;Marksら(1991年)、J.Mol.Biol.、第222巻、581ページ;Barbasら(1992年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第89巻、4457ページ;HawkinsおよびWinter(1992年)、J.Immunol.、第22巻、867ページ;Marksら(1992年)、J.Biol.Chem.、第267巻、16007ページ;Lernerら(1992年)、Science、第258巻、1313ページ、これらを参照により本明細書に組み込む)。
【0103】
scFvファージライブラリーの使用は、特に有利なアプローチの1つである(Hustonら(1988年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第85巻、5879〜5883ページ;Chaudharyら(1990年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第87巻、1066〜1070ページ;McCaffertyら(1990年)、同上;Clacksonら(1991年)、Nature、第352巻、624ページ;Marksら(1991年)、同上;Chiswellら(1992年)、Trends Biotech.、第10巻、80ページ;Marksら(1992年)、J.Biol.Chem.、第267巻)。バクテリオファージコートタンパク質上に提示されたscFvライブラリーの様々な実施形態が記載されている。ファージ提示アプローチの精密化も公知であり、例えば、国際公開第WO96/06213号および第WO92/01047号(Medical Research Councilら)ならびに第WO97/08320号(Morphosys)に記載されており、これらを参照により本明細書に組み込む。scFvライブラリーの選択に適した方法を、本発明における使用に供する単一ドメイン(DAb)の前選択に適用してもよい。
【0104】
代替的なライブラリー選択技法には、バクテリオファージラムダ発現系が含まれるが、これはバクテリオファージプラークとして、または、溶原菌コロニーとして、直接スクリーニングしてもよく、両方とも以前の記載(Huseら(1989年)、Science、第246巻、1275ページ;CatonおよびKoprowski(1990年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第87巻;Mullinaxら(1990年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第87巻、8095ページ;Perssonら(1991年)、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第88巻、2432ページ)に従って行うことができ、本発明で有用である。そのような発現系は、10までの異なったメンバーを有するライブラリーのスクリーニングには使用できるが、より多数(10を越えたメンバー)のスクリーニングには実際には適さない。他のスクリーニングシステムは、例えば、ライブラリーメンバーの直接的化学合成に依存する。初期における一方法は、国際公開第WO84/03564号に記載されるように、1セットのピンまたはロッド上でペプチド合成を行うものを含む。ビーズ上でのペプチド合成を含む同様の方法では、各ビーズを個別のライブラリーメンバーとするペプチドライブラリーを形成するが、これは米国特許第4,631,211号に記載されており、関連した方法が国際公開第WO92/00091号に記載されている。ビーズベースの方法ではかなりの改善がなされており、それは、各ライブラリーメンバーのアミノ酸配列の同定を促進するためのオリゴヌクレオチドなど、各ビーズに特有の識別子タグを付けることを含む。これらの改善されたビーズベースの方法は、国際公開第WO93/06121号に記載されている。
【0105】
別の化学合成法は、異なった各ライブラリーメンバー(例えば、特有のペプチド配列)が、事前に定められたアレイ中の個別の位置に配置されるような方法で、表面に、ペプチド(またはペプチドミメティック)のアレイを合成することを含む。各ライブラリーメンバーのアイデンティティーは、アレイ中の空間的位置によって決定される。あらかじめ決められた分子(例えば受容体)と、反応性ライブラリーメンバーとの間の結合相互作用が起きたアレイの位置を決定し、それによって、空間位置に基づき反応性ライブラリーメンバーの配列を同定する。これらの方法は、米国特許第5,143,854号;国際公開第WO90/15070号、および第WO92/10092号;Fodorら(1991年)、Science、第251巻、767ページ;DowerおよびFodor(1991年)、Ann.Rep.Med.Chem.、第26巻、271ページに記載されている。
【0106】
ポリペプチドまたはヌクレオチドのライブラリーを生成する他のシステムには、ライブラリーメンバーのin vitro合成を行うための無細胞酵素機構を使用するものが含まれる。一方法では、標的リガンドに対する選択と、PCR増幅とを交互のラウンドで行って、RNA分子を選択する(TuerkおよびGold(1990年)、Science、第249巻、505ページ;EllingtonおよびSzostak(1990年)、Nature、第346巻、818ページ)。あらかじめ決められたヒト転写因子に結合するDNA塩基配列を同定するのに、同様の技法を用いてもよい(ThiesenおよびBach(1990年)、Nucleic Acids Res、第18巻、3203ページ;BeaudryおよびJoyce(1992年)、Science、第257巻、635ページ;国際公開第WO92/05258号および第WO92/14843号)。大規模のライブラリーを生成する方法として、同様の方法で、in vitro翻訳を用いてポリペプチドを合成することができる。これらの方法は、通常、安定化したポリゾーム複合体を含み、国際公開第WO88/08453号、第WO90/05785号、第WO90/07003号、第WO91/02076号、第WO91/05058号、および第WO92/02536号に、さらに詳細に記載されている。国際公開第WO95/22625号、および第WO95/11922号(Affymax)に開示されているものなど、ファージベースではない別の提示システムでは、選択用のポリペプチドをポリゾームを用いて提示する。これらの文献、および以上の全文献も参照により本明細書に組み込む。
【0107】
ファージまたは他のクローニングされたライブラリーの使用に代わる代替手段では、選択された標的で免疫処置された動物の脾臓から得た核酸、好ましくはRNAを使用する。このようにして得られたRNAは、天然の免疫グロブリンライブラリーを表すものである。V領域のmRNAを単離することによって、VまたはVなどの単一ドメイン抗体フラグメントを、本発明に従って細胞内で発現することが可能となる。
【0108】
簡潔には、免疫処置された動物の脾臓からRNAを単離し、PCRプライマーを用いて、V cDNAおよびV cDNAを選択的にRNAプールから増幅する。PCRプライマー配列は、公表されているV配列およびV配列に基づくもので、キットとして市販されているものも使用できる。
【0109】
d)細胞への免疫グロブリンおよび標的の送達
本発明は、本質的には細胞内で、または細胞内環境、好ましくは細胞質環境を模擬した条件で行われる、細胞内抗体のアッセイを提供する。さらに、本発明による免疫グロブリンは、細胞の細胞質内または核内で有用である。したがって、本発明は、細胞の内部に、免疫グロブリンおよび/または標的をコードする核酸構築物を送達する方法、およびポリペプチドを送達する方法を提供する。
【0110】
細胞内環境に免疫グロブリンおよび標的分子を導入するために、免疫グロブリンおよび/またはそれらの標的をコードする核酸で、細胞をトランスフェクトすると有利である。
【0111】
免疫グロブリンおよび/または標的をコードする核酸は、発現のためにベクターに組み込むことができる。本明細書において、ベクター(またはプラスミド)とは、異種性DNAを発現させるために、それを細胞内に導入するのに使用される個別のエレメントを指す。そのような媒体の選択および使用は、十分に当業者の技術の範囲内にある。多数のベクターが利用可能であり、適切なベクターの選択は、意図されたベクターの使用、ベクターに挿入する核酸のサイズ、およびベクターで形質転換される宿主細胞によるだろう。各ベクターは、その機能と、それと適合性のある宿主細胞に応じて様々な成分を含有する。ベクター成分には、通常、複製開始点、1つまたは複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、転写終結配列、およびシグナル配列のうちの1つまたは複数が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
さらに、本発明による免疫グロブリンおよび/または標的をコードする核酸は、一般的な操作と、核酸の増幅とを行う目的で、クローニングベクターに組み込んでもよい。
【0113】
通常、発現ベクターおよびクローニングベクターは、両方とも、ベクターが、1つまたは複数の選択された宿主細胞内で、複製するのを可能にする核酸配列を含有する。クローニングベクター中では、この配列は、通常、ベクターが宿主染色体DNAから独立して複製するのを可能にするものであり、これには複製開始点または自己複製配列が含まれる。様々な細菌、酵母、およびウイルスにおける、そのような配列は周知である。プラスミドpBR322に由来する複製開始点はほとんどのグラム陰性菌に適しており、2mプラスミドオリジンは酵母に適しており、そして、様々なウイルスオリジン(例えば、SV40、ポリオーマ、アデノウイルス)は哺乳類細胞におけるクローニングベクターに有用である。通常、複製開始点成分は、哺乳類発現ベクターでは、これらをCOS細胞など、高レベルDNA複製が可能な哺乳類細胞で用いない限り必要とされない。
【0114】
ほとんどの発現ベクターは、シャトルベクターであり、すなわち、それらのベクターは、少なくとも1クラスの生物で複製が可能であるが、発現を行うために、別の1クラスの生物にトランスフェクトすることができる。例えば、ベクターは大腸菌にクローニングされ、その後、宿主細胞の染色体から独立した複製を行えないにしても、この同じベクターが酵母または哺乳類細胞内にトランスフェクトされる。DNAは、宿主ゲノム中に挿入されることによっても複製されうる。しかし、ゲノムDNAの回収は、核酸を切り出すのに制限酵素消化が必要であるので、外在的に複製するベクターの回収より複雑である。DNAは、PCRで増幅して、いかなる複製成分もないまま宿主細胞内に直接トランスフェクトすることができる。
【0115】
発現ベクターおよびクローニングベクターは、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含有すると有利となる場合がある。この遺伝子は、形質転換された宿主細胞の選択培地における生存または増殖に必要なタンパク質をコードする。選択遺伝子を含有するベクターで形質転換されなかった宿主細胞は、培地中で生き残らないであろう。典型的な選択遺伝子は、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、またはテトラサイクリンなどの抗生物質および他の毒素に対する耐性を与えるタンパク質、栄養要求性における欠乏を補足するタンパク質、または、複合培地からは利用できない重要な栄養を提供するタンパク質をコードする。酵母に適した選択遺伝子マーカーに関しては、マーカー遺伝子の表現型発現によって、形質転換体の選択を促進するいかなるマーカー遺伝子も使用できる。酵母に適したマーカーには、例えば、抗生物質であるG418、ハイグロマイシン、またはブレオマイシンに対する耐性を与えるもの、あるいは栄養要求性の酵母突然変異体に原栄養性を与えるもの、例えば、URA3、LEU2、LYS2、TRP1、またはHIS3遺伝子がある。
【0116】
ベクターの複製は大腸菌で行うのが便利なので、大腸菌遺伝子マーカーと、大腸菌複製開始点とを含むものが有利である。これらは、大腸菌複製開始点と、アンピシリンなどの抗生物質に対する耐性を与える大腸菌遺伝子マーカーとの両方を含有するpBR322、Bluescript(著作権)ベクター、または例えばpUC18またはpUC19などのpUCプラスミドなどの大腸菌プラスミドから得ることができる。
【0117】
哺乳類細胞に適した選択マーカーは、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR、メトトレキセート耐性)、チミジンキナーゼ、またはG418もしくはハイグロマイシンに対する耐性を与える遺伝子など、望ましい核酸を発現する細胞の同定を可能にするものである。哺乳類細胞形質転換体は、マーカーを摂取して、かつ発現している形質転換体のみが、特有に適応して生存するような選択圧の下に置かれる。DHFRまたはグルタミンシンターゼ(GS)マーカーの場合には、形質転換体を、圧力が徐々に増強され、それによって、選択遺伝子と、連結した核酸との両方の増幅(染色体挿入部位での)が導かれるような条件下で培養することによって、選択圧を加えることができる。増幅は、増殖に極めて重要なタンパク質を産生するために必要性がより高い遺伝子が、所望のタンパク質をコードしうる密接に関連した遺伝子と共に、組換え体細胞の染色体内で、タンデムに反復される過程である。したがって、所望のタンパク質の増量された合成は、通常、増幅されたDNAから生じる。
【0118】
発現ベクターおよびクローニングベクターは、通常、宿主生物によって認識され、望ましい核酸と作動可能に連結したプロモーターを含有する。そのようなプロモーターは、誘導可能なものである場合も、または構成的なものである場合もある。プロモーターは、供給源のDNAからプロモーターを切り出し、単離されたプロモーター配列をベクターに挿入することによって、核酸に作動可能に連結される。天然のプロモーター配列、および多数の異種プロモーターは、両方とも、免疫グロブリンまたは標的分子をコードする核酸の増幅および/または発現を指令するのに使用してもよい。「作動可能に連結する」という用語は、記載される成分が、意図された方法で機能するのを可能にするような関係で並置されていることを指す。コード配列に「作動可能に連結した」制御配列は、コード配列の発現が制御配列に適合した条件下で実現されるように連結されている。
【0119】
原核細胞宿主での使用に適したプロモーターには、例えば、β−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーターシステム、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーターシステムおよびtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーターが含まれる。それらのヌクレオチド配列は公表されており、したがって、当業者ならば、必要とされるいかなる制限部位もリンカーまたはアダプターを用いて提供して、それらを所望の核酸と作動可能に連結させることができる。細菌システムでの使用に供するプロモーターは、通常、核酸に作動可能に連結したシャイン−ダルガノ配列も含有するであろう。
【0120】
好ましい発現ベクターは、phagexまたはT7など、細菌で機能できるバクテリオファージのプロモーターを含む細菌発現ベクターである。最も広範囲に使用されている発現系の1つでは、融合タンパク質をコードする核酸を、T7 RNAポリメラーゼによってベクターから転写することができる(Studierら、Methods in Enzymol.、第185巻、60〜89ページ、1990年)。大腸菌BL21(DE3)宿主株は、pETベクターと共に使用されるが、T7RNAポリメラーゼが宿主細菌のλ溶原菌DE3から生成され、その発現がIPTG誘導性のlac UV5プロモーターの制御下にある。このシステムは、多くのタンパク質を過剰産生するのに利用され、成功を収めている。別法として、市販されているCE6ファージ(Novagen、Madison、USA)などのintファージで感染させることによって、ポリメラーゼ遺伝子をλファージ上に導入してもよい。他のベクターには、PLEX(Invitrogen、NL)などのλPLプロモーターを含有するベクター、pTrcHisXpress(商標)(Invitrogen)またはpTrc99(Pharmacia Biotech、SE)などのtrcプロモーターを含有するベクター、または、pKK223−3(Pharmacia Biotech)もしくはPMAL(new England Biolabs、MA、USA)などのtacプロモーターを含有するベクターが含まれる。
【0121】
酵母宿主での使用に適したプロモーター配列は、調節されるものでも、構成的なものでもよく、発現の高い酵母遺伝子、特にサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)遺伝子に由来するものが好ましい。したがって、TRP1遺伝子プロモーター、ADHIまたはADHII遺伝子プロモーター、酸性ホスファターゼ(PH05)遺伝子プロモーター、a因子もしくはα因子をコードする酵母接合フェロモン遺伝子のプロモーター、または、エノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAP)、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼまたはグルコキナーゼ遺伝子のプロモーターなど、解糖系酵素をコードする遺伝子に由来するプロモーター、サッカロミセス・セレビシアエ(S.cerevisiae)GAL4遺伝子、S.pombe nmt1遺伝子、またはTATA結合タンパク質(TBP)遺伝子に由来するプロモーターを用いることができる。さらに、ある酵母遺伝子の上流域活性化配列(UAS)と、別の酵母遺伝子の機能的TATAボックスを含んだ下流プロモーターエレメントを含むハイブリッドプロモーター、例えば、酵母PH05遺伝子のUASと、酵母GAP遺伝子の機能的TATAボックスを含んだ下流プロモーターエレメントを含むハイブリッドプロモーター(PH05−GAPハイブリッドプロモーター)を使用することもできる。適当な構成的PHO5プロモーターには、例えば、PH05遺伝子のヌクレオチド−173に開始して、ヌクレオチド−9に終わるPH05(−173)プロモーターエレメントなどの上流調節エレメント(UAS)欠失した、短縮型酸性ホスファターゼPH05プロモーターである。
【0122】
哺乳類宿主でのベクターからの遺伝子転写は、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、レトロウイルス、およびシミアンウイルス40(SV40)などのウイルスゲノムに由来するプロモーター、アクチンプロモータなどの異種哺乳類プロモーター、または、例えばリボソームタンパク質プロモーターなどの極めて強力なプロモーターに由来するプロモーター、そして、通常は、免疫グロブリン配列に結合しているプロモーターに由来するプロモーターで制御してもよい。
【0123】
高等真核生物による核酸の転写は、エンハンサー配列をベクターに挿入することによって、増強されうる。エンハンサーは、配向性および位置から比較的独立している。多数のエンハンサー配列が、哺乳類遺伝子(例えば、エラスターゼおよびグロビン)で公知である。しかし、通常は、真核生物細胞ウイルスに由来するエンハンサーが利用されるであろう。その例には、複製開始点の後期側(bp100〜270)にあるSV40エンハンサーと、CMV初期プロモーターエンハンサーが含まれる。エンハンサーは、所望の核酸の5’側の位置または3’側の位置にベクター中にスプライシングして良いが、プロモーターより5’側に位置する部位が好ましい。
【0124】
真核細胞発現ベクターは、遺伝子座制御領域(LCR)を含むと有利であることがある。LCRは、宿主細胞染色質に挿入された導入遺伝子の、挿入部位に依存しない高レベル発現を指令できるものであり、染色体へのベクターの挿入が起こり、持続的にトランスフェクトされた真核細胞系の背景で、遺伝子が発現される場合に、特に重要である。
【0125】
真核細胞発現ベクターは、転写の終結、およびmRNAの安定化に必要な配列を含有するだろう。そのような配列は、通常、真核細胞またはウイルスのDNAまたはcDNAにおける5’非翻訳領域および3’非翻訳領域から得ることができる。これらの領域は、免疫グロブリンまたは標的をコードするmRNAの非翻訳部分におけるポリアデニル化フラグメントとして転写されたヌクレオチドセグメントを含有する。
【0126】
本発明の実施に特に有用なのは、哺乳類細胞における核酸の一時的発現を提供する発現ベクターである。一時的発現は、通常、宿主細胞が多コピーの発現ベクターを蓄積して、次に、所望の遺伝子産物を高レベルで合成するように宿主細胞内で効率的に複製できる発現ベクターの使用を含む。
【0127】
本発明によるベクターの構築は、従来のライゲーション技法を用いてもよい。単離されたプラスミドまたはDNA断片は、所望の形態に切断、調整、および再連結されて、必要なプラスミドを生成する。望ましい場合には、構築されたプラスミドが正しい配列を有することを確認する分析を、公知の方法で行う。発現ベクターを構築する適当な方法、in vitro転写産物を調製する適当な方法、宿主細胞にDNAを導入する適当な方法、遺伝子産物の発現および機能を評価する分析を行う適当な方法は当業者に公知である。遺伝子の存在、増幅および/または発現は、例えば、本明細書に提供した配列に基づいたものでありうる適切に標識されたプローブを用いた、従来のサザンブロット法、mRNAの転写を定量するノーザンブロット法、ドットブロット法(DNAまたはRNA分析)またはin situハイブリダイゼーションによって、試料中で直接測定してもよい。当業者ならば、望ましい場合には、これらの方法がどのように改変されうるか、容易に想定するであろう。
【0128】
免疫グロブリンおよび/または標的は、マイクロインジェクション法、または、細胞膜と融合できるリポソームなどのベシクルを用いた送達で直接、細胞に導入してもよい。ウイルス性融合誘導ペプチドは、細胞の膜融合および細胞質への送達を促進するのに用いると有利である。
【0129】
免疫グロブリンは、転移活性を有するタンパク質に由来するドメインまたは配列に融合または結合させることが好ましい。好ましい転移ドメインおよび配列には、HIV−1トランス活性化タンパク質(Tat)、ショウジョウバエ(Drosophila)Antennapediaホメオドメイン蛋白質、TLMペプチド、抗DNA抗体ペプチド技法、および単純ヘルペス−1ウイルスVP22タンパク質に由来するドメインおよび配列が含まれる。このようにして、免疫グロブリンは、細胞近傍に導入した際、細胞またはその核に侵入することができる。
【0130】
外因的に添加されたHIV−1トランス活性化タンパク質(Tat)は、原形質膜を通って転移し、核に到達して、ウイルスゲノムのトランス活性化を行うことができる。転移活性は、HIV TATのアミノ酸37〜72(Fawellら、1994年、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第91巻、664〜668ページ)、37〜62(Andersonら、1993年、Biochem.Biophys.Res.Commun.、第194巻、876〜884ページ)、および49〜58(塩基性配列RKKRRQRRRを有する)に同定されている。Vivesら(1997年)、J Biol Chem、第272巻、16010〜7ページは、アミノ酸48〜60(CGRKKRRQRRRPPQC)からなる配列を同定し、この配列が細胞性遺伝子の転移、核局在化、およびトランス活性化に重要であると考えられる。β−ガラクトシダーゼと、HIV−Tatタンパク質形質導入ドメインとからなる融合タンパク質を腹腔内注射したところ、生物学的活性な融合タンパク質がマウスの全組織に送達される結果となる(Schwarzeら、1999年、Science、第285巻、1569〜72ページ)。
【0131】
ショウジョウバエ(Drosophila)Antennapediaホメオドメインタンパク質の第3ヘリックスも、同様の特性を有することが示されている(Prochiantz、A.、1999年、Ann N Y Acad Sci、第886巻、172〜9ページに総説)。Antennapediaにおいて転移を引き起こすドメインは、RQIKIWFQNRRMKWKKという配列を有する、塩基性アミノ酸に富んだ、長さ16アミノ酸のペプチドに局在する(Derossiら、1994年、J Biol Chem、第269巻、10444〜50ページ)。このペプチドは、培養細胞の細胞質および核に生物学的に活性な物質を指向させるのに使用された(Theodoreら、1995年、J.Neurosci、第15巻、7158〜7167ページ)。Antennapediaホメオドメイン第3ヘリックスの細胞内在化は、受容体には依存していないと考えられ、転移過程には膜リン脂質との直接的な相互作用が関与すると提案されている(Derossiら、1996年、J Biol Chem、第271巻、18188〜93ページ)。
【0132】
単純ヘルペスウイルスのVP22テグメントタンパク質は、細胞間輸送を行うことができ、それによって、細胞の亜集団で発現されたVP22タンパク質は、集団内の他の細胞にも蔓延する(ElliotおよびO’Hare、1997年、Cell、第88巻、223〜33ページ)。GFP(ElliottおよびO’Hare、1999年、Gene Ther、第6巻、149〜51ページ)、チミジンキナーゼタンパク質(Dilberら、1999年、Gene Ther、第6巻、12〜21ページ)、またはp53(Phelanら、1998年、Nat Biotechnol、第16巻、440〜3ページ)とVP22とからなる融合タンパク質が、この様にして細胞に向けてターゲッティングされた。
【0133】
TLMペプチドは、HBVのプレS2ポリペプチドに由来する。Oess S、Hildt E、Gene Ther、2000年5月7日、第7巻、750〜8頁を参照のこと。抗DNA抗体ペプチド技法は、Alexandre Avrameasら(1998年5月)、PNAS、第95巻、5601〜5606ページ;Therese Ternynckら(1998年)、Journal of Autoimmunity、第11巻、511〜521ページ;およびBioconjugate Chemistry(1999年)、第10(1)巻、87〜93ページに記載されている。
【0134】
核膜および/または原形質膜を通した転移が可能なタンパク質由来の特定のドメインまたは配列は、突然変異誘発または欠失研究によっても同定されうる。別法として、候補配列を有する合成または発現されたペプチドをレポーターに連結させ、転移アッセイを行ってもよい。例えば、合成ペプチドにフルオレセインを結合させ、Vivesら(1997年)、J Biol Chem、第272巻、16010〜7ページに記載された方法によって、蛍光顕微鏡検査法で転移をモニターしてもよい。別法として、緑色蛍光タンパク質をレポーターとして用いてもよい(Phelanら、1998年、Nat Biotechnol、第16巻、440〜3ページ)。
【0135】
上記のドメインもしくは配列、または転移活性を有すると同定されたドメインもしくは配列のいかなるものも、免疫グロブリンを細胞の細胞質中または核内に指向させるのに使用されうる。ペネトラチン(penetratin)としても知られる、上記のAntennapediaペプチドが好ましく、またHIV Tatも好ましい。転移ペプチドは、本発明による単一ドメイン免疫グロブリンのN末端またはC末端に融合させてもよいが、N末端融合体が好ましい。
【0136】
e)シグナルの生成
本発明の方法では、免疫グロブリンが標的に結合することによって、集合させられた2つの分子の相互作用によってシグナルが生成されることが有利である。したがって、生成されるシグナルは、本発明の方法で使用される分子の性質によるであろう。
【0137】
第1の実施形態では、シグナル生成分子が蛍光色素でもよい。特には、エネルギー移動(FRET)に関与する蛍光分子が好ましい。
【0138】
FRETは、周波数の異なる蛍光を発する2つの蛍光標識が、相互に、1個の標識からもう一方の標識までエネルギーの移動が可能となるのに十分近接している場合に検出可能である。FRETは広く当技術分野で公知である(総説として、例えば、Matyus、1992年、J.Photochem.Photobiol.B: Biol.、第12巻、323〜337ページを参照されたい。この文献を参照により本明細書に組み込む)、FRETは、エネルギーが励起したドナー分子からアクセプター分子に移動する非放射性の過程であり、この移動の効率は、以下に記載されるように、ドナー分子とアクセプター分子との間の距離に依存している。このエネルギー移動の割合は、ドナーとアクセプターとの間の距離の6乗に逆比例するので、エネルギー移動効率は、距離の変化に極めて敏感である。エネルギー移動は、距離が1〜10nmの範囲において、検出可能な効率で起こると言われているが、これは、ドナーとアクセプターと良好な対では、通常4〜6nmである。
【0139】
非放射性エネルギー移動は、蛍光色素の生物物理特性に基づいている。これらの原理は、他で総説されている(Lakowicz、1983年、Principles of Fluorescence Spectroscopy、Plenum Press、New York;JovinおよびJovin、1989年、Cell Structure and Function by Microspectrofluorometry、E.KohenおよびJ.G.Hirschberg編集、Academic Press;これら両方を参照により本明細書に組み込む)。簡潔には、蛍光色素は、特有の波長で光エネルギーを吸収する。この波長は、励起波長としても知られている。蛍光色素によって吸収されたエネルギーは、この後、様々な経路で放出されるが、その1つが光子の照射であり、これによって蛍光が生じる。照射された光の波長は、発光波長として知られており、特定の蛍光色素に固有の特性である。非放射性エネルギー移動は、それによって、実際に光子を放出せずにある1つの蛍光色素の励起状態におけるエネルギーが第2の蛍光色素に移動する量子力学的過程である。そのエネルギーは、その後、第2の蛍光色素の発光波長で放出されうる。第1の蛍光色素は、通常、ドナー(D)と呼ばれ、励起状態のエネルギーは、アクセプター(A)と呼ばれる第2の蛍光色素より高くなっている。この過程の重要な特徴は、アクセプターの励起スペクトルと、ドナーの発光スペクトルがオーバーラップすること、およびドナーとアクセプターとが十分に近接していることである。非放射性エネルギー移動が、効果的である距離は、ドナーの蛍光量子効率、アクセプターの消衰係数、それらのそれぞれのスペクトルのオーバーラップの程度、媒体の屈折率、および2個の蛍光色素の遷移モーメントの相対的配向を含めた多くの因子に依存する。蛍光色素の間の非放射性エネルギー移動を可能にするためには、もう一方の蛍光色素の励起波長とオーバーラップする最適の発光域を有することに加えて、DおよびAの間の距離も十分に短くなくてはならない。
【0140】
FRETアッセイでは、これらの分子のうち一方(アクセプター分子)の励起スペクトルが励起した蛍光分子(ドナー分子)の発光スペクトルとオーバーラップするように、蛍光分子が選択される。ドナー分子は、ドナーの励起スペクトルの範囲にある適度の強度の光で励起される。ドナーは、その後、吸収したエネルギーの一部を蛍光として放出し、アクセプター蛍光分子へのFRETによって、エネルギーの一部を消散する。ドナーが生成する蛍光エネルギーは、アクセプター蛍光分子によって消光される。FRETは、ドナーからの蛍光シグナル強度の減少、励起状態の寿命短縮、および、アクセプターの特性である、より長い波長(より低エネルギー)での蛍光の再発光としても現れうる。ドナーおよびアクセプター分子が空間的に分離した場合には、FRETは、減少するか、または消滅する。
【0141】
適当な蛍光色素は当技術分野で公知であり、これらには、化学蛍光色素と、GFP、および、異なった波長または強度で蛍光を発するその突然変異体などの蛍光ポリペプチドとが含まれる(国際公開第WO97/28261号を参照)。化学蛍光色素は、その合成中にそれに対する結合部位を免疫グロブリンまたは標的分子に組み込むことによって、免疫グロブリンまたは標的分子に結合させてもよい。
【0142】
しかし、蛍光色素は蛍光タンパク質が好ましく、蛍光タンパク質はGFPまたはその突然変異体が有利である。GFPおよびその突然変異体は、当技術分野で周知の方法に従って、免疫グロブリンまたは標的分子と共に、それらとの融合タンパク質として発現することによって合成してもよい。例えば、所望のGFPと、免疫グロブリンまたは標的とのインフレーム融合として転写ユニットを構築し、従来のPCRクローニング技法およびライゲーション技法を用いて上述の通りベクターに挿入してもよい。
【0143】
第2の実施形態では、免疫グロブリンおよび標的ポリペプチドは、生物学的シグナルを引き起こす分子と結合される。好ましいのは、ポリペプチド分子であり、相互作用して転写因子を形成するか、または、細胞内で遺伝子発現をモジュレーションする別の調節分子を形成するものが有利である。
【0144】
転写因子分子の例は、例えば、参照により本明細書に組み込まれている、FieldsおよびSong(1989年)、Nature、第340巻、245〜246ページなどの文献に記載されている。好ましい実施形態では、免疫グロブリン分子は、HSV1 VP16分子の活性化ドメインとの融合タンパク質として発現される。この転写因子ドメインは、DNA結合活性を介してそれが結合するプロモーターからの遺伝子転写をアップレギュレートすることができる。後者は、大腸菌LexAポリペプチドのDNA結合ドメインによって提供され、標的ポリペプチドとの融合タンパク質として発現される。また、Gal4 DBDなどの他のDNA結合ドメイン(DBD)を用いてもよく、様々な転写因子に由来する他の転写活性化ドメインを用いてもよい。LexA、Gal4、およびVP16の組合せは一般的に用いられている。ツーハイブリッドアッセイシステムの操作に関しては、次の文献に詳細に記載されている。Golemis,E.A.およびSerebriiskii,I、Recent developments in two hybrid technology.、Molecular Cloning: a Laboratory Manual、第3版、J.Sambrook編集、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2000年(以前はManiatis Cloning manual)。総説およびプロトコールの両方を含めて、「Methods in Molecular Biology: Two Hybrid Systems, Methods, and Protocols」、P.MacDonald編集、Humana Press;Serebriiskii、I.、G.Toby、R.L.Finley、およびE.A.Golemis、Genomic analysis utilising the yeast two−hybrid system。「Methods in Molecular Biology: Genomic Protocols」、M.Starkey編集、Humana Press;Fashena、S.J.、Serebriiskii、I.、およびGolemis、E.A.LexA based two hybrid systems。「Methods in Enzymology: Chimeric Genes and Proteins」、J.Abelson、M.Simon、S.Emr、J.Thorner編集、Academic Press;Serebriiskii、I.、Mitina、O.、Chernoff、J.、およびE.A.Golem、Use of a two−hybrid dual bait system to discriminate specificity of protein interactions in small GTPases。「Methods in Enzymology: Ras Regulators and Effectors」、C.J.Der.編集、Academic Press。
【0145】
生物学的シグナルは、検出可能な遺伝子産物の発現誘導など、いかなる検出可能なシグナルでもよい。検出可能な遺伝子産物の例には、ルシフェラーゼおよびGFPなどの生物発光性ポリペプチド、β−ガラクトシダーゼおよびCATなど、特異的なアッセイで検出可能なポリペプチド、および、HIS3などの代謝に必要な酵素、または、G418などの抗生物質抵抗性遺伝子など、宿主細胞の増殖特性をモジュレーションするポリペプチドが含まれる。本発明の好ましい態様では、シグナルは細胞表面で検出可能である。例えば、シグナルは発光または蛍光のシグナルであってもよく、これらは、細胞外から検出可能であり、FACSまたは他の光学選別技法による細胞選別を可能にする。別法として、シグナルは、それ自体、例えば蛍光基で標識されるか、または標識抗体を用いて検出可能となりうるCD分子、例えばCD4またはCD8などの細胞表面マーカーの発現を含んでもよい。
【0146】
この実施形態では、本発明は、所望の抗原に結合する抗体を単離するためにあらかじめファージ提示を適用することなく、ファージライブラリーなどの抗体ライブラリー全体のスクリーニングを可能にする。FACSなどの光学的選別を用いることによって、全ライブラリーのパニングを行って、細胞内で機能することができ、所望の標的に結合する抗体を選択することが可能となる。
【0147】
したがって、要約すると、本発明は、単一ドメイン実体が細胞内環境で標的に結合する能力を測定する方法であって、第1の分子および第2の分子の安定した相互作用がシグナルの生成を導く上記第1の分子および上記第2の分子を提供するステップと;上記第1の分子に結合する実体を提供するステップと;上記第2の分子に結合する標的を提供するステップであって、上記実体および上記標的の結合が、上記第1の分子および上記第2の分子の安定した相互作用を導き、上記シグナルを生成するステップと;上記シグナルをモニターすることによって、上記実体と上記標的との間の細胞内相互作用を評価するするステップとを含む方法に関する。好ましい実施形態では、この実体は単一ドメイン免疫グロブリン、好ましくは単一ドメイン抗体であり、かつ、この標的は抗原である。
【0148】
本発明を、例示のみを目的として、以下の実施例においてさらに記載する。
【実施例】
【0149】
迅速に単離でき、機能を妨害する試薬は、ヒトゲノムプロジェクトなどのゲノムプロジェクトにおける機能ゲノミクス部門の主要な構成要素である。イントラボディーも、また、疾患における細胞内標的に対する魅力的な試薬であり、scFvの有効性がもつ限界を克服するために様々なアプローチが考案されている4,5,7,8。細胞内抗体捕獲(IAC)技法は、免疫グロブリンV領域残基の足場を定義するのに有用であったが、これは特に、細胞機能において有利である4,9。scFvイントラボディーを使用する上での数的限界は、重鎖および軽鎖の組合せ効果であり、それによって、抗原特異的なイントラボディーの一次スクリーニングに、多様性が必要となることである。今までに確定しているものの中で最も小さい免疫グロブリンベースの認識ユニットは、単一可変ドメインであり10、これは、スクリーニングの全体的な複雑さがscFvより低くなるだろうという潜在的利点を有する11,12。本発明者らは、以前の研究で、抗HRAS scFvイントラボディーをIAC4,5によって単離したが、今回は、in vivoにおける個々のドメイン(すなわち、VHまたはVLドメイン)の抗原に対する結合を試験した。抗体フラグメントは、Gal4DNA結合ドメイン(DBD)に連結されたRAS、またはVP16転写活性化ドメイン(AD)に連結されたイントラボディーフラグメントをコードするベクターと共に最小量のルシフェラーゼレポータークローンでCOS7細胞をトランスフェクトすることを含むルシフェラーゼレポーターアッセイで試験した。抗体発現性クローンを図1に図示する。イントラボディーの発現レベルを比較したところ、各ケースで同様のレベルのタンパク質が生成されたことを示した。イントラボディー−VP16融合タンパク質をDBD−抗原と結合させた後にルシフェラーゼ活性化のレベルを比較した(図1)。重要なことに、最良のルシフェラーゼ活性化は、抗RAS VH単一ドメインフォーマットで実現された。例えば、抗RAS scFv33由来のVHセグメント(図1、33VH)は、親のscFvクローン(図1、33)よりも約5倍強くレポーター活性を刺激する。抗RAS VL単一ドメインは、全く活性化しなかった(33VL)。さらに、システインコドン(ドメイン内ジスルフィド結合に関与)の突然変異は、in vivo機能に実質的な影響を与えなかった(クローンI21R33VH−C22SおよびI21R33VH−C92S)。したがって、抗原に対する抗RAS scFv33の結合は、VHドメインのみを介して起こりうるものであり、今度はこのことによって、単一ドメインがイントラボディー機能のメディエーターかもしれないと示唆される。
【0150】
これらのデータは、抗原特異的なIDabの直接的なin vivo単離を行うのに十分多様なイントラボディーライブラリーを作製するのに、以前に記載した最適のイントラボディーコンセンサスフレームワーク4,9に結合した単一ドメインイントラボディーフォーマット(IDab)を使用できるかもしれないことを示唆した。本発明者らは、酵母抗原抗体相互作用アッセイ4,5におけるin vivoスクリーニング用に、そのようなライブラリーを作製した。Dab−VP16融合タンパク質をコードするように、様々なVHドメインを酵母ベクターにクローニングすることによって、2組のプールされたライブラリーを作製した(図2A)。それらの一般的な有用性を確かめるために、それぞれのDabライブラリーを、3種の異なった抗原、RAS、p53、およびATF−2(転写調節因子CREB/ATFファミリーのメンバー)でスクリーニングした。HIS3遺伝子およびlacZレポーター遺伝子を有する酵母細胞を、LexA DBDに融合した抗原を発現する抗原ベイトクローンでトランスフェクトし、IDabライブラリーでトランスフェクトした。各抗原によって、100個を越えるIDabクローンが単離された(ただし、Dabライブラリー1では、p53ベイトで16個のクローンしか得られなかった)(図2A)。それぞれの抗原で発色が最も急速であった10個のクローンをその後の研究用に選択した。同じ抗原で、選択されたクローンの中に、いくつかの同一のIDabが見つかった(例えば、抗p53クローン#102、#103、および#109)。さらに、すべてのクローンについて調査したところ、クローン#1、#14(RAS選択より)、ならびに#105および#107(p53選択より)は、同一の配列を有しており、これらのクローンがLexA DBDに結合したことを示唆した。これは、各IDabクローンをそれぞれのベイトで再アッセイして、それぞれの抗原に対する特異性を測定することによって評価した(図2B)。
【0151】
IDabの有効性は、哺乳類細胞で3つの転写トランス活性化アッセイを用いて試験した(図3)。IDabは、COS7ルシフェラーゼレポーターアッセイで試験した。VP16ADに融合したIDabを発現するために、それぞれを哺乳類発現ベクター、pEF−VP1613にクローニングした。pEF−IDab−VP16構築物と、特異的なベイトまたはGal4DBD−LexA融合体を含むベイトのどちらかとで、COS7細胞を同時トランスフェクトした(図3A)。一部のクローン、例えば抗RASクローン#6および#10は、レポーター活性に強い刺激を与えたが(図3A、左上手パネル)、例えば抗RASクローン#3(右上手パネル)、または抗ATF2クローン#27および#29(図3B)など、中程度の刺激しか与えなかったものもあった。興味深いことに、抗RASクローン#3は、他の抗RAS IDabに比べて長いCDR3を有する(図2B)が、ルシフェラーゼ活性化は、HRASを介して示すのみで、K−RASおよびN−RASとでは示さない。その一方、抗RAS Dabクローン#6、#7、#9、#10、#12、#13、#17、および#18は、3つの形態のRASに結合することができた(データは示されていない)。逆に、クローン#1、#2、#4、#11、#14、#16、および#19は、LexA抗原に対して有意にレポーター活性の増大を示した。
【0152】
抗RAS IDabsは、染色体CD414または緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター(それぞれ、図3DおよびE)を有するチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)で試験した。関係のない抗β−gal scFvR415を、RASベイトと共にCHO−CD4で同時発現させたときには、レポーター活性化が観測されなかったが、scFvR4と、lacZレポーターとを同時トランスフェクトしたときには、約18%の細胞がCD4発現を示した(図3D)。活性化はRASベイトでのみ観測されたので、抗RAS IDab33(抗RAS scFv33から改変されたオリジナルのIDab)IDab#6または#10(IDabライブラリーに由来)をベイトと共に同時発現させた場合、ベイト特異性が逆転した(図3D)。GFPタンパク質の生成が抗原特異的な方法で起こるCHO−GFP系を用いた際にも類似のデータが得られた(図3E)。これらの結果は、酵母Dabライブラリースクリーニング法を用いて、哺乳類細胞内での結合を促進するのに、in vivo特性が十分に良いIDabsを選択できることを示す。
【0153】
選択された4個の抗RASクローン#3、#10、#12のin vitroでの親和性を、バイオセンサを用いて、オリジナルのDab33と比較した。scFv33のKdは、9.97±8.82nM(表1)であったが、これは本発明者らの以前の研究と一致するものである。突然変異したscFvI21R33VHI21VL(抗RAS scFv33のフレームワークがI21「コンセンサス」VHに突然変異しているが、I21 VL配列を保持している)は、scFv33の親和性(Kd 18.19±1.85nM)を維持しており、VH抗原相互作用が最高に重要であることと一致している。scFv33のVHでDabを作製したときには、親和性の低減が観測され、オリジナルのscFv33よりほぼ1桁弱い親和性を示した(表1;Kd 90.13±9.70nM)。これは、VHは単独で特異性を維持するが、scFVのVLドメインは抗原の認識に補助的な役割を果たすことを示唆する。抗RAS Dabクローン#3、#10、および#12のKdは、それぞれ182.98±7.19nM、121.45±46.6nM、26.65±2.90nMであった。したがって、Dab33も含めて、抗RAS Dabでは、in vitroの親和性(これは「実際」の抗体抗原相互作用を示す)と、in vivoの活性(これには、in vivo溶解性、安定性、発現レベルを含めたいくつかの因子が関与する総合的な抗体抗原相互作用を示す)との間には相関関係がない。
【0154】
イントラボディーの主目的は、細胞内でタンパク質の機能を妨害することである。発癌性RASの機能は、腫瘍における構成的なシグナル伝達を介して媒介されるが、これは突然変異体RAS(HRASG12V)をNIH3T3細胞に導入することによって模擬でき、この結果、集密な細胞培養における接触阻害および増殖巣形成の減失がもたらされる。形質転換に対するIDabの影響は、イントラボディーの存在下または非存在下で、NIH3T3細胞をHRASG12Vでトランスフェクトすることによって評価した(図4)。HRASG12Vをコードする発現クローンを、NIH3T3細胞にトランスフェクトしたときには、形質転換クローンが検出された(図4A)が、ベクターだけがトランスフェクトされたときには、細胞はそれらの接触阻害を保持した。突然変異体RASの形質転換能は、scFvI21と共に同時トランスフェクトしても、影響を受けなかった(scFvは、哺乳類アッセイでいかなる検出可能なRas結合も示さない)(図4AおよびB)。逆に、HRASG12Vを抗RAS scFv(scFvI21R33VHI21VL、scFvが抗RAS scFv33のVHと、I21のVLとを含む)と共に同時発現したときには、形質転換の消失が起こり、HRASG12Vのみと比較して、増殖巣が若干約20%しかなかった(図4B)。2個の抗RAS IDabをこのアッセイで試験した。哺乳類レポーターアッセイにおけるこれらの刺激を考慮して、Dab#6および#10を選択した(図3)。これらのIDabsは、抗RAS scFvと同様に挙動し、形質転換指数に阻害作用を示した。抗RAS Dab#6および#10は、発癌性HRASG12Vの形質転換活性を陽性対照(図4B)の約10%にまで低下させ、IDab選択法によって、タンパク質機能を妨害するのに十分良いin vivo特性を有する試薬を生成できることを示した。
【0155】
イントラボディーをin vivoで用いる目的は、抗原結合性を通して生物学的応答を引き出すことであり、これには機能的ゲノム研究および治療における応用の可能性がある。これらの目的を達するには、そのようなイントラボディーフラグメントを同定する強力、迅速、かつ簡便な操作法が必要である。多様性のあるイントラボディーライブラリーをin vivoでスクリーニングして、in vitro活性を有するものを直接単離する本発明者らの発現戦略は、細胞内試薬としては、scFvより、単一ドメイン(この場合、VH単独、ただしVLも同様の特性を有し得る)の方が、抗原特異的な分子セットを生成するのに効果的でありうることを示す。単一ドメインイントラボディーは、現在のところ、細胞内治療適用の可能性を有する、最も小さい抗体ベースの認識ユニットである。IAC技術4,5,9を単一ドメインライブラリーに適用することには、ファージ抗体ライブラリーをスクリーニングするステップを回避するという即時的な利点がある。本発明者らの細胞内コンセンサスVHフレームワーク配列4,9は、保存されたドメイン内ジスルフィド結合を伴わずに、発現、溶解性、機能性など、細胞内で機能するための理想的な特性を示すので、特異的細胞内ライブラリーを多様化するのに適したフレームワークとして、これらの配列を使用することは、IDabライブラリーの有効性を増強する特徴を追加するものである。最後のキーポイントとして、IDabライブラリーの直接的スクリーニングでは、抗原ベイトをin vivoで生成するのにDNA配列のみが必要であるため、イントラボディーを同定するのに抗原精製を行う必要がないことが挙げられる。これは、ゲノム配列から新規のオープンリーディングフレームが生み出され、機能に関するデータが求められている機能ゲノミクスでの適用においてとりわけて利点がある。したがって、IDabは、新規の治療法および機能ゲノミクス研究における主要なツールとして機能する有力な候補である。
【0156】
方法
プラスミド
すでに記載したプラスミドは、pM1−HRASG12V、pM1−LacZ、pEF−VP16−scFv33(抗RAS)、pEF−VP16−scFvI21R33(抗RAS)、pEF−VP16−scFvR4(抗lacZ)pG5−Luc、pBTM−ATF−216、およびpG5GFP−hyg(CHO−GFP用)17である。pRL−CMVは、Promega Ltd.から入手した。
【0157】
哺乳類発現クローンpEF−33VH−VP16、pEF−I21R33VH−VP16、pEF−I21R33VHC22S−VP16、またはpEF−I21R33VHC22S−VP16をクローニングするために、それぞれのVHドメインフラグメントを、PCRによって親のpEF−scFv−VP16からオリゴヌクレオチド、EFFP 5’−TCTCAAGCCTCAGACAGTGGTTC−3’およびNotVHJR1’ 5’−CATGATGATGTGCGGCCGCTCCACCTGAGGAGACGGTGACC−3’を用いて増幅して、SfiIおよびNotIクローニング部位を導入し、さらにpEF−VP1613のSfiI−NotI部位にサブクローニングした。哺乳類発現クローンpEF−33VL−VP16、pEF−I21R33VL−VP16をクローニングするために、それぞれのVLドメインフラグメントを、PCRによって親のpEF−scFv−VP16から、VLF1 5’−ATCATGCCATGGACATCGTGATGACCCAGTC−3’およびVP162R、5’−CAACATGTCCAGATCGAA−3’を用いて増幅して、NcoIクローニング部位を導入し、さらにインフレームでpEF−VP16のNcoI−NotI部位にサブクローニングした。pBTM−p53wtおよびpM1−p53wtは、pGBT9−p53wt18からのEcoRI−BamHIフラグメントを、pBTM11619またはpM1ベクター20にサブクローニングすることによって生成した。pEF−Dab−VP16は、単離されたpVP16*−Dab(下記参照)のそれぞれのSfiI−NotIフラグメントをpEF−VP16にクローニングすることによって作製した。ベイトpM1−ATF−2は、pBTM−ATF−216からのSmaI−BamHIフラグメントをpM1ベクター20にサブクローニングすることによって作製した。pM1−LexA DBDクローンは、pBTM116ベクターからBLEXAF2、5’−CGCGGATCCTGAAAGCGTTAACGGCCAGG−3’、およびBAMLEXAR 5’−CGCGGATCCAGCCAGTCGCCGTTGC−3’を用いてLexAフラグメントをPCRで増幅して、さらに、pM1ベクターのBamHI部位にインフレームでクローニングすることによって作製した。
【0158】
ペリプラズム発現用には、pEF−scFv−VP16またはpEF−Dab−VP16のそれぞれのSfiI−NotIフラグメントをpHEN2ファージミドにクローニングすることによって、pHEN2−scFvまたはDabベクターを作製した(マップは、www.mrc−cpe.cam.ac.ukを参照)。pZIPneoSV(X)−HRASG12Vは、pEXT−HRASからのHRASG12V突然変異体cDNAのコード配列をpZIPneoSV(X)ベクター21にクローニングすることによって作製した。
【0159】
pEF−FLAG−Memb−Dabクローンは、pEF−Dab−VP16のSfiI−NotIフラグメントをpEF−FLAG−Membベクターにクローニングすることによって作製した。上記構築物すべてをシーケンシングによって確認した。
【0160】
Dab酵母ライブラリーの構築
酵母pVP16*Dabライブラリーの構築は、他に詳述されている通りに実行した13。この操作法は、scFv625(正準イントラボディーVHコンセンサスフレームワークと、抗RAS scFv33のCDR1−CDR2−CDR3とを含む)またはscFvI21R33(抗RAS scFvI21R33由来のコンセンサスフレームワークを含む)のVHセグメントCDR2および3をランダム化するフットプリント突然変異誘発を含む。これらのテンプレートは、pVP16*ベクターにサブクローニングした22,23。ライブラリーの多様化を実現するために、2対のオリゴヌクレオチドを用い、PCRで、2つのVHドメインを、別々に増幅した。
【0161】
テンプレートscFv625(コンセンサスVH)については、EFFP2およびconCDR2R、ならびにconCDR2FおよびrdmCDR3R、
テンプレートscFvI21R33(I21 VH)については、EFFP2および33CDR2R、ならびに33CDR2FおよびrdmCDR3R。
【0162】
プライマー配列:
テンプレートscFv625
EFFP2:5’−GGAGGGGTTTTATGCGATGG−3’、これはpEF−VP16のEF−1αプロモーター領域でアニールする。
conCDR2R:5’−CAGAGTCTGCATAGTATGTMNNMNNMNNMNNMNNACTAATGACTGAAACCCAC−3’
conCDR2F:5’−ACATACTATGCAGACTCTGTG−3’、これはプライマーconCDR2Rの一部とハイブリダイズする。
rdmCDR3R:5’−TCCCTGGCCCCAGTAGTCAAA(MNNMNN)nCCCTCTCGCACAGTAATAG−3’(CDR3に可変長を与えるために、また、CDR3をランダム化するために、nは1から6まで変動させた)。
【0163】
テンプレートscFvI21R33
EFFP2:5’−GGAGGGGTTTTATGCGATGG−3’
33CDR2R:5’−CAGAGTCTGCATAGTATATMNNMNNMNNMNNMNNACTAATGTATGAAACCCAC−3’
33CDR2F:5’−ATATACTATGCAGACTCTG−3’
rdmCDR3R:5’−TCCCTGGCCCCAGTAGTCAAA(MNNMNN)nCCCTCTCGCACAGTAATAG−3’
【0164】
増幅産物をアガロースゲルで分離、精製し、第2のPCR増幅を、EFFP2およびJH5R(5’−GGTGACCAGGGTTCCCTGGCCCCAGTAGTC−3’)を用いて行った。このPCRでは、2つのフラグメントを組み合わせて、増幅させた。最終ネステッド(nested)PCRは、EFFPおよびNotVHJR1(NotI制限部位を組み込む)を用いて行った。最終PCR産物を、SfiIおよびNot1Iで消化し、酵母pVP16*ベクターに連結させ、2つのpVP16*−Dabライブラリー1を作製した。連結させたDNAを、E.coli ElectroMAX DH10B(Invitrogen)にエレクトロポレーションで導入した。I21R33由来ライブラリー1の多様性は2x10であり、コンセンサスライブラリー1は1.4x10であった(すなわち、合計の多様性3.4X10)。
【0165】
第1のDabライブラリーそれぞれからのCDR1を、同様のフットプリント突然変異誘発ストラテジー13でランダム化することによって、Dabライブラリー2を構築した。それぞれのDabライブラリー1のVHドメインを、2対のオリゴヌクレオチド、sFvVP16FおよびrdmCDR1R、ならびにCDR1FおよびVP162Rを用いて、別々にPCRで増幅した。
【0166】
sFvVP16F:5’−TGGGTCCGCCAGGCTCCAGG−3’、これはpVP16*のADH1プロモーター領域とハイブリダイズする。
rdmCDR1R:5’−CCTGGAGCCTGGCGGACCCAMNNCATMNNMNNMNNACTGAAGCTGAATCCAGAGG−3’、これはCDR1内の4つのアミノ酸残基をランダム化する。
CDR1F:5’−TGGGTCCGCCAGGCTCCAGG−3’、これはrdmCDR1Rの一部とハイブリダイズする。
VP162R:これはpVP16*のVP16アクチベータードメインとハイブリダイズする。
【0167】
2つのPCRフラグメントを組み合わせ、sFvVP16FおよびVP162Rを用いて増幅し、SfiIおよびNotIで消化して、酵母pVP16*ベクターに連結した。ライブラリー2のそれぞれの多様性は、I21R33由来ライブラリーが3.04x10、そしてコンセンサス由来ライブラリーが2.215x10であった(すなわち、合計の多様性 5.25x10)。
【0168】
12クローンを、各ライブラリーから無作為に選択して、インサートとCDRの正しい挿入を確かめるため配列決定した。
【0169】
Dabライブラリーの細胞内抗体捕獲(IAC)スクリーニング
合成Dabライブラリーのスクリーニングは、記載4,9の通り、イントラボディー捕捉(IAC)技術のプロトコールに従って行ったが、ファージパニングのステップは除外した(Laboratory of Molecular Biologyのウェブサイトhttp://www.mrc−lmb.cam.ac.uk内のリンクも参照)。500μgのpBTM116−抗原、および1mgのプールされたpVP16*−Dabライブラリー1、またはプールされたpVP16*−Dabライブラリー2をサッカロミセス・セレビシアエL40に同時トランスフェクトした。陽性クローンを、栄養要求性マーカー、Trp、Leu、およびHisを用いて選択した。陽性コロニーを、Hisのプロトトロピで選択し、フィルターアッセイでβ−ガラクトシダーゼ(β−gal)活性によって確認した。選択された個々のクローンにおいて、関係のあるベイトベクターと関係のないベイトベクターとを用いて、His非依存性増殖およびβ−gal活性化を再試験することによって偽陽性クローンを排除した。β−galフィルターアッセイで青色の発色が最も早かった10個の二重陽性クローンの配列決定を行った。
【0170】
哺乳類ルシフェラーゼレポーターアッセイ
この操作法は以前に詳細に記載されている4,9。簡潔には、scFvまたはDabをpEF−VP16発現ベクターにクローニングし、抗原をpM1ベクター20にクローニングした。8μlのLipofectAMINE(商標)トランスフェクション試薬(Invitrogen)を用い、製造業者の指示に従って、COS7細胞を500ngのpG5−Luc、50ngのpRL−CMV、500ngのpEF−scFv−VP16またはpEF−Dab−VP16、および500ngのpM1−抗原ベイトで一過的に同時トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、細胞を、洗浄し、溶解させ、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)を用いて、ルミノメータでアッセイした。トランスフェクション効率は、Renillaルシフェラーゼ活性で正規化した。データは、それぞれ二重で行われた2つの実験を表す。scFv−VP16またはDab−VP16融合タンパク質の発現を確認するために、トランスフェクトしたCOS7細胞をSDS−PAGEで分析し、その後、一次抗体として抗VP16(Santa−Cruz Biotechnology、14−5)モノクローナル抗体、二次抗体としてのHRP結合ウサギ抗マウスIgG抗体(Amersham−Pharmacia Biotech(APB))を用いてウェスタンブロットを行った。このブロットは、ECL検出キット(APB)で可視化された。
【0171】
CD4およびGFPレポーターCHO細胞における哺乳類ツーハイブリッドアッセイ
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、10%ウシ胎児血清、ペニシリン、およびストレプトマイシンを含む最小必須培地α(α−MEM、Invitrogen)で増殖させた。CHO−CD4系14を用いたFACS分析は、以前の記載24の通りに行った。CHO−GFP系を確立するために、LipofectAMINE(商標)を用いてpG5GFP−Hygベクター17をCHO親系にトランスフェクトし、細胞を7日間、0.3mg/mlハイグロマイシン含有のα−MEM中で選択し、CHO−GFPの安定クローン39aを以降のアッセイ用に選択した。FACSアッセイには、3x10のCHO−CD4またはCHO−GFP細胞を、トランスフェクションの1日前に6ウェルプレートに接種し、0.5μgのpM1−抗原と、1μgのpEF−VP16−scFvまたはDabをこれらの細胞に同時トランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、細胞を、洗浄、分離して、PBS中に再懸濁した。CHO−CD4アッセイでは、抗ヒトCD4抗体(Pharmingen)と、第2層としてFITC結合抗マウスIgG(Pharmingen)とを用いて、細胞表面CD4発現の誘導を検出した。CHO−CD4またはCHO−GFP細胞の相対的な蛍光は、FACSCalibur(Becton Dickinson)で測定し、データはCELLQuestソフトウェアで分析した。
【0172】
Dabフラグメントの精製および親和性測定
in vitroアッセイ用には、Dabは、以前の記載の通り、細菌性ペリプラズムから発現させた。ペリプラズム発現と、Hisタグおよびmycタグとのために、Dabフラグメントを、pelBリーダー配列を含有するpHEN2ベクターにクローニングした。1リットルの培地中で、4時間、30℃で、Dabを発現させた。細胞を収集し、10mlの冷TES緩衝液(Tris−HCl pH7.5、EDTA、およびスクロース)で抽出を行った。透析の後、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィーを用いてDabフラグメントを精製し、Centricon濃縮器(YM−10、Amicon)を用いて濃縮し、アリコートを−70℃で保存した。Bio−Rad Protein assay Kit(Bio−Rad)を用い、製造業者の指示に従って、タンパク質濃度を測定した。scFvおよびDabの親和性は、BIAcore2000測定器(Pharmacia Biosensor)で、以前の記載の通り表面プラズモン共鳴法を用いて測定した。動力学速度定数(konおよびkoff)は、製造業者によって供給されたソフトウェアを用いて評価した。Kd値は、koffおよびkon速度定数から計算した(Kd=koff/kon)。すべての測定を二重で行った。
【0173】
NIH3T3細胞における形質転換アッセイ
継代の少ないNIH3T3細胞クローンD4(Dr C.Marshallからの寛大なギフト)をトランスフェクションの前日に6ウェルプレートに1ウェルあたり2x10細胞で接種した。トランスフェクションのために、2μgのpEF−FLAG−Memb−scFvまたはpEF−FLAG−Memb−Dabベクター、100ngのpZIPneoSV(X)−HRASG12Vベクターと、12μlのLipofectAMINE(商標)とを用いた。トランスフェクションの2日後に、細胞を10cmプレートに移した。集密に達した後に、それらを、5%ドナーウシ血清、ペニシリン、およびストレプトマイシンを含有するダルベッコ改変イーグル培地中に2週間保持した。接触阻害の減失による増殖巣形成を、クリスタルバイオレットでプレートを染色して計数した。
【表1】

【0174】
細菌でタンパク質を発現させたが、精製されたDabタンパク質の最終収量はかなり低かった(1リットル培養あたり最大0.5mg)。これはおそらく、疎水性VLインタフェースが露出しているため、高濃度ではDabの「粘性」が高く、凝集するためである25。バイオセンサ測定は、BIAcore2000を用いて行った。表に会合速度(Kon)および解離速度(Koff)、ならびにBIA−evaluation 2.1ソフトウェアで計算された平衡解離定数(Kd)の値をまとめる。Dab濃度が高いときには、Dabと抗原との非特異的な相互作用がわずかに検出された。
【0175】
参考文献



【0176】
上記明細書で参照されたすべての刊行物を参照により本明細書に組み込む。記載された方法および本発明のシステムの様々な改変および変形が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明は、特定の好ましい実施形態に関して記載されたが、請求されている本発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、本発明を実行するために記載された態様の様々な改変は、分子生物学または関連分野の当業者には明らかなものであり、添付した特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0177】
【図1】図1は、哺乳類細胞におけるRASタンパク質と、抗RAS scFvイントラボディーおよび単一ドメイン誘導体との相互作用を示す。
【図2】図2は、合成単一ドメインライブラリーを用いた細胞内抗体捕獲を示す。
【図3−1】図3−1及び図3−2は、哺乳類細胞における単一ドメインイントラボディーと抗原との相互作用を示す。
【図3−2】図3−1及び図3−2は、哺乳類細胞における単一ドメインイントラボディーと抗原との相互作用を示す。
【図4】図4は、RASに媒介されるNIH3T3細胞の発癌性形質転換に対する抗RAS単一ドメインイントラボディーによる阻害を示す。
【図5A−1】図5A−1及び図5A−2は、細胞内scFvの派生タンパク質配列のアライメントであって、抗BCR(B3〜B89と命名された)および抗ABL(A5〜A32と命名された)からのVHおよびVL配列を示す。
【図5A−2】図5A−1及び図5A−2は、細胞内scFvの派生タンパク質配列のアライメントであって、抗BCR(B3〜B89と命名された)および抗ABL(A5〜A32と命名された)からのVHおよびVL配列を示す。
【図5B−1】図5B−1及び図5B−2は、細胞内scFvの派生タンパク質配列のアライメントであって、選択されなかったファージディスプレイライブラリーから無作為に取得したscFvの配列比較を示す。
【図5B−2】図5B−1及び図5B−2は、細胞内scFvの派生タンパク質配列のアライメントであって、選択されなかったファージディスプレイライブラリーから無作為に取得したscFvの配列比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリン単一ドメインが細胞内環境で標的に結合する能力を測定する方法であって、
a)第1の分子および第2の分子を提供するステップであって、前記第1の分子と前記第2の分子との安定した相互作用がシグナルの生成を導くステップと、
b)前記第1の分子に結合する細胞内単一免疫グロブリンドメインを提供するステップであって、前記単一免疫グロブリンドメインが相補的な免疫グロブリンドメインから遊離しているステップと、
c)前記第2の分子に結合する細胞内標的を提供するステップであって、前記免疫グロブリンドメインと前記標的との結合が、前記第1の分子と前記第2の分子との安定した相互作用を導き、前記シグナルを生成するステップと、
d)前記シグナルをモニターすることによって、前記免疫グロブリンドメインと前記標的との間の細胞内相互作用を評価するするステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記第1の分子および/または前記第2の分子がポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の分子と前記第2の分子とが結合して、活性レポーター分子を形成する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記活性レポーター分子が転写因子、酵素、および生物発光性分子からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記活性レポーター分子が酵素であり、前記方法が前記酵素の基質存在下で行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の分子および前記第2の分子が前記活性レポーター分子のドメインである、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の分子がVP16の活性化ドメインであり、前記第2の分子がLexAのDNA結合ドメインである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記シグナルが、光学特性の変化およびレポーター遺伝子の活性化からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記シグナルが細胞の選別を可能にするものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫グロブリン単一ドメインが抗体単一ドメインである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体単一ドメインがVドメインおよびVドメインからなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
免疫グロブリンをコードする核酸を細胞内で発現することによって、前記免疫グロブリン単一ドメインを提供する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記免疫グロブリンをコードする核酸が、免疫グロブリンをコードする核酸のライブラリーから得られる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ライブラリーが、1レパートリーの免疫グロブリンをコードするライブラリーである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ライブラリーが、抗原に曝露された生物から単離された核酸から構築されている、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
e)シグナルを生じる免疫グロブリン単一ドメインを単離するステップ、
をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項17】
f)選択された免疫グロブリン単一ドメインを機能的細胞内アッセイに供するステップ、
をさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記免疫グロブリン単一ドメインおよび前記標的の一方または両方が、前記第1の分子または第2の分子と共に核酸構築物の形態で提供され、前記核酸構築物が転写されることで、前記第1の分子または前記第2の分子と共に前記免疫グロブリンおよび/または前記標的が産生される、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法における使用に適した免疫グロブリン単一ドメインを調製する方法であって、
(a)選択系で1レパートリーの免疫グロブリンドメイン遺伝子を発現して、所望の標的に特異的な免疫グロブリンドメインをコードする遺伝子を単離するステップと、
(b)前記免疫グロブリンドメインおよび第1の分子を含む融合ポリペプチドを生成するために、単離された遺伝子を、前記第1の分子をコードする核酸と作動可能に結合させるステップであって、ここで前記第1の分子は第2の分子との安定した相互作用によりシグナルを生成するものである、ステップと、
を含む方法。
【請求項20】
第1の分子と作動可能に結合した免疫グロブリン単一ドメインのライブラリーであって、前記第1の分子と第2の分子との安定した相互作用がシグナルの生成を導くライブラリー。
【請求項21】
前記第1の分子および/または前記第2の分子がポリペプチドである、請求項20に記載のライブラリー。
【請求項22】
前記第1の分子と前記第2の分子とが結合して活性レポーター分子を形成する、請求項20または21に記載のライブラリー。
【請求項23】
前記活性レポーター分子が転写因子、酵素、および生物発光性分子からなる群から選択される、請求項22に記載のライブラリー。
【請求項24】
前記活性レポーター分子が酵素であり、方法が前記酵素の基質存在下で行われる、請求項23に記載のライブラリー。
【請求項25】
前記第1の分子および前記第2の分子が活性レポーター分子のドメインである、請求項22〜24のいずれか1項に記載のライブラリー。
【請求項26】
前記第1の分子がVP16の活性化ドメインであり、前記第2の分子がLexAのDNA結合ドメインである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記免疫グロブリン単一ドメインが抗体単一ドメインである、請求項20〜26のいずれか1項に記載のライブラリー。
【請求項28】
前記抗体単一ドメインがVドメインである、請求項27に記載のライブラリー。
【請求項29】
細胞内環境で標的に結合する細胞内単一ドメイン免疫グロブリンを調製する方法であって、
a)第1の分子および第2の分子を提供するステップであって、前記第1の分子と前記第2の分子との安定した相互作用がシグナルの生成を導くステップと、
b)前記第1の分子に結合する細胞内免疫グロブリンを提供するステップと、
c)前記第2の分子に結合する細胞内標的を提供するステップであって、前記免疫グロブリンと前記標的との結合が、前記第1の分子と前記第2の分子との安定した相互作用を導き、前記シグナルを生成するステップと、
d)前記シグナルをモニターすることによって、前記免疫グロブリンと前記標的との間の細胞内相互作用を評価するするステップと、
e)前記標的と相互作用する1つまたは複数の免疫グロブリンを選択して、それから1つまたは複数の単一ドメイン免疫グロブリンを単離するステップと、
を含む方法。
【請求項30】
単一ドメイン免疫グロブリンのフレームワーク領域を突然変異させて、細胞内結合および/または安定性を促進させるステップをさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
細胞内単一ドメイン免疫グロブリン。
【請求項32】
細胞内単一ドメイン抗体である、請求項31に記載の細胞内単一ドメイン免疫グロブリン。
【請求項33】
ドメイン内ジスルフィド結合を欠失している、請求項32に記載の細胞内単一ドメイン抗体。
【請求項34】
前記免疫グロブリン単一ドメインが細胞内Vコンセンサス配列に適合したVドメインである、請求項1〜19および30のいずれか1項に記載の方法、あるいは請求項20〜28のいずれか1項に記載のライブラリー、あるいは請求項31〜33のいずれか1項に記載の免疫グロブリン。
【請求項35】
前記Vドメインが、図5aに示され、かつ配列番号3として表されたコンセンサス配列と少なくとも85%の相同性を示す、請求項34に記載の発明。
【請求項36】
前記免疫グロブリン単一ドメインが細胞内Vコンセンサス配列に適合したVドメインである、請求項1〜19および30のいずれか1項に記載の方法、あるいは請求項20〜28のいずれか1項に記載のライブラリー、あるいは請求項31〜33のいずれか1項に記載の免疫グロブリン。
【請求項37】
前記Vドメインが、図5aに示され、かつ配列番号4として表されたコンセンサス配列と少なくとも85%の相同性を示す、請求項36に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5A−1】
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【図5A−2】
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【図5B−1】
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【図5B−2】
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【公表番号】特表2006−518188(P2006−518188A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−552863(P2004−552863)
【出願日】平成15年11月14日(2003.11.14)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004942
【国際公開番号】WO2004/046185
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(597166578)メディカル リサーチ カウンシル (60)
【Fターム(参考)】