説明

細胞分化促進剤およびその用途

【課題】細胞分化促進剤の有効成分として有用な化合物を提供する。
【解決手段】下記の一般式(2−2)で表される化合物もしくはその塩を含む植物細胞分化促進剤。


(式中、R221は水素原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R222は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子であり、pは1〜5の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分化促進剤およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
挿し穂を挿し床または培地に挿し付けて発根させる挿し木法や、植物組織を培養し不定芽などを採取してこれを発根させる組織培養法は、農業生産、植林、育種、その他の分野において、目的に適った形質を持つ均質な植物体(クローン苗)を大量に生産するための手段として利用されている。これらの方法において植物組織の発根能は、クローン苗の生産性に大きな影響を与えるため、発根能の向上を図ることは重要である。
【0003】
特開2001−231355号公報(特許文献1)には、ユーカリ属植物およびアカシア属植物から選ばれる植物の採穂母樹を挿し穂として採取する前に、パクロプトラゾールにより処理すると、植物の発根能力が促されることが記載されている。
【0004】
一方、特開2002−47108号公報(特許文献2)には、特定の構造を有するトリアゾール化合物が、植物におけるブラシノステロイドの代謝を阻害する作用を有し、植物の成長(生長)および発達の調節に有用であることが記載されている。また、特開2003−113008号公報(特許文献3)には、前記特許文献2に記載のトリアゾール化合物を、ベンジルアデニンなどの植物生長ホルモンとともに植物に作用させると、植物の成長が促進されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−231355号公報
【特許文献2】特開2002−47108号公報
【特許文献3】特開2003−113008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法では、パクロプトラゾールにて採穂母樹をあらかじめ処理してから数ヶ月経過しないと挿し穂を得ることが困難であった。そのため、発根能の向上において即効性のあるものが求められていた。
【0007】
一方特許文献2および3の方法は、植物の生長に関するブラシノステロイドの制御を行う方法である。よって、挿し木法のように挿し穂の発根を促進する技術、すなわち根組織の分化のみを促進する技術とは異なる。一般に挿し穂の発根を促進する条件は、植物の生長を促進する条件とは異なる。植物の生長を止める条件により挿し穂の発根が促進される場合も多い。
【0008】
また、特許文献1に記載の方法は、植物に対する発根能が不十分であった。中でも、もともと発根能の低い植物(例えばユーカリ属植物など)にこの方法を適用した場合には、発根能の改善を見込めなかった。
【0009】
本発明は、細胞分化促進剤の有効成分として有用な化合物を提供することを目的とする。該化合物の例としては、植物からの発根を促進して、その発根率を向上させる不定根発根促進剤の有効成分となり得る化合物が挙げられる。また、本発明は、該化合物を含有する細胞分化促進剤を利用した、挿し木法、組織培養法などの方法によるクローン苗の生産性を向上させるための、中でも発根能が低い植物種に属するクローン苗の生産性を向上させるための、発根方法および発根用培地を提供することを目的する。さらにまた、本発明は、新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の〔1〕〜〔21〕を提供する。
〔1〕一般式(1−1)、一般式(1−2)、一般式(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)のいずれかで表される化合物もしくはその塩を含む細胞分化促進剤。
【化1】

(一般式(1−1)中、R111は水素原子、水酸基またはアルキル基であり、R112はアルキル基または置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、R113は置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、波線はシス配置またはトランス配置である。)
【化2】

(一般式(1−2)中、R121は水素原子、アルキル基、またはアルコキシアルキル基であり、R122は置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、R123およびR124はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基である。)
【化3】

(一般式(1−3)中、R131は水素原子、アルキル基またはアルケニル基であり、R132はアルキル基または置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、R133は置換基を有することがある芳香族炭化水素基である。)
【化4】

(一般式(2−1)中、R211は置換基を有することがある芳香族炭化水素基または置換基を有することがあるヘテロ複素環基であり、mは1または2であり、nは0または1であり、Aは窒素原子または−CH−である。)
【化5】

(一般式(2−2)中、R221は水素原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R222は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子であり、pは1〜5の整数である。)
〔2〕前記R111は水酸基であり、前記R112は4−クロロフェニル基またはt−ブチル基であり、前記R113は4−メチルフェニル基または4−ジメチルアミノフェニル基である、上記〔1〕に記載の細胞分化促進剤。
〔3〕前記R121はエチル基、メチル基、n−プロピル基またはメトキシメチル基であり、前記R122は4−クロロフェニル基、4−メチルフェニル基、n−ブトキシフェニル基または2,4−ジクロロフェニル基であり、前記R123およびR124はともに水素原子である、上記〔1〕に記載の細胞分化促進剤。
〔4〕前記R131は水素原子、メチル基または3−プロペニル基であり、前記R132は4−クロロフェニル基またはフェニル基であり、前記R133は4−クロロフェニル基である、上記〔1〕に記載の細胞分化促進剤。
〔5〕前記R211はナフチル基であり、前記mは2であり、前記nは0である、上記〔1〕に記載の細胞分化促進剤。
〔6〕前記R211は4−フェノキシフェニル基であり、前記mは1であり、前記nは1であり、前記Aは窒素原子である、上記〔1〕に記載の細胞分化促進剤。
〔7〕前記R211は3−インドール基であり、前記mは1であり、前記nは0であり、前記Aは窒素原子である、上記〔1〕に記載の細胞分化促進剤。
〔8〕前記R221は臭化メチル基であり、前記R222はフッ素原子であり、前記pは2である、請求項1に記載の細胞分化促進剤。
〔9〕前記細胞が植物細胞である、上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の細胞分化促進剤。
〔10〕植物の不定根形成促進剤である、上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の細胞分化促進剤。
〔11〕上記〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の細胞分化促進剤を含有する、植物のシュートの発根用培地。
〔12〕植物のシュートを上記〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の細胞分化促進剤の存在下栽培し、前記シュートから発根させる、クローン苗の生産方法。
〔13〕植物のシュートを上記〔11〕に記載の発根用培地にて栽培し、前記シュートから発根させる、クローン苗の生産方法。
〔14〕上記一般式(1−1)、上記一般式(1−2)、上記一般式(1−3)、上記一般式(2−1)および上記一般式(2−2)のいずれかで表される化合物もしくはその塩を用いて、細胞の分化を促進する方法。
〔15〕前記細胞が植物細胞である、上記〔14〕に記載の細胞の分化を促進する方法。
〔16〕前記細胞の分化が、植物の不定根の形成促進である、上記〔14〕または〔15〕に記載の細胞の分化を促進する方法。
〔17〕上記一般式(2−1)または上記一般式(2−2)で表される新規化合物もしくはその塩。
〔18〕前記R211はナフチル基であり、前記mは2であり、前記nは0である、上記〔17〕に記載の化合物。
〔19〕前記R211は4−フェノキシフェニル基であり、前記mは1であり、前記nは1であり、前記Aは窒素原子である、上記〔17〕に記載の化合物。
〔20〕前記R211は3−インドール基であり、前記mは1であり、前記nは0であり、前記Aは窒素原子である、上記〔17〕に記載の化合物。
〔21〕前記R221は臭化メチル基であり、前記R222はフッ素原子であり、前記pは2である、上記〔17〕に記載の化合物。
【0011】
本発明の態様としては、以下の〔1−1〕〜〔1−8〕が挙げられる。
〔1−1〕上記一般式(1−1)、上記一般式(1−2)および上記一般式(1−3)のいずれかで表される化合物もしくはその塩を含む植物の不定根形成促進剤。
〔1−2〕前記R111は水酸基であり、前記R112は4−クロロフェニル基またはt−ブチル基であり、前記R113は4−メチルフェニル基または4−ジメチルアミノフェニル基である、上記〔1−1〕に記載の不定根形成促進剤。
〔1−3〕前記R121はエチル基、メチル基、n−プロピル基またはメトキシメチル基であり、前記R122は4−クロロフェニル基、4−メチルフェニル基、n−ブトキシフェニル基、または2,4−ジクロロフェニル基であり、前記R123およびR124はともに水素原子である、上記〔1−1〕に記載の不定根形成促進剤。
〔1−4〕前記R131は水素原子、メチル基または3−プロペニル基であり、前記R132は4−クロロフェニル基またはフェニル基であり、前記R133は4−クロロフェニル基である、上記〔1−1〕に記載の不定根形成促進剤。
〔1−5〕上記一般式(1−1)、一般式(1−2)および一般式(1−3)のいずれかで表される化合物もしくはその塩を含むオーキシン活性促進剤。
〔1−6〕上記〔1−1〕〜〔1−4〕のいずれか一項に記載の不定根形成促進剤または上記〔1−5〕に記載のオーキシン活性促進剤を含有する、植物のシュートの発根用培地。
〔1−7〕植物のシュートを上記〔1−1〕〜〔1−4〕のいずれか一項に記載の不定根形成促進剤または上記〔1−5〕に記載のオーキシン活性促進剤の存在下栽培し、前記シュートから発根させる、クローン苗の生産方法。
〔1−8〕植物のシュートを上記〔1−6〕に記載の発根用培地にて栽培し、前記シュートから発根させる、クローン苗の生産方法。
【0012】
本発明の別の態様としては、以下の〔2−1〕〜〔2−13〕が挙げられる。
〔2−1〕上記一般式(2−1)または上記一般式(2−2)で表される新規化合物もしくはその塩。
〔2−2〕前記R211はナフチル基であり、前記mは2であり、前記nは0であり、前記Aは窒素原子である、上記〔2−1〕に記載の化合物。
〔2−3〕前記R211は4−フェノキシフェニル基であり、前記mは1であり、前記nは1であり、前記Aは窒素原子である、上記〔2−1〕に記載の化合物。
〔2−4〕前記R211は3−インドール基であり、前記mは1であり、前記nは0である、上記〔1〕に記載の化合物。
〔2−5〕前記R221は臭化メチル基であり、前記R222はフッ素原子であり、前記pは2である、上記〔2−1〕に記載の化合物。
〔2−6〕上記〔2−1〕〜〔2−5〕のいずれか一項に記載の化合物を含有する細胞分化促進剤。
〔2−7〕前記細胞が植物細胞である、上記〔2−6〕に記載の細胞分化促進剤。
〔2−8〕上記〔2−1〕〜〔2−5〕のいずれか一項に記載の化合物を含有する植物の不定根形成促進剤。
〔2−9〕上記〔2−1〕〜〔2−5〕のいずれか一項に記載の化合物を含有する植物ホルモン活性促進剤。
〔2−10〕前記植物ホルモンが、オーキシンである、上記〔2−9〕に記載の植物ホルモン活性促進剤。
〔2−11〕上記〔2−8〕に記載の不定根形成促進剤、または上記〔2−9〕もしくは〔2−10〕に記載の植物ホルモン活性促進剤を含有する、植物のシュートの発根用培地。
〔2−12〕植物のシュートを上記〔2−8〕に記載の不定根形成促進剤、または上記〔2−9〕もしくは〔2−10〕に記載の植物ホルモン活性促進剤の存在下栽培し、前記シュートから発根させる、クローン苗の生産方法。
〔2−13〕植物のシュートを上記〔2−11〕に記載の発根用培地にて栽培し、前記シュートから発根させる、クローン苗の生産方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞の分化を促進することができる。植物からの不定根形成を促進させ、発根率を向上させることができる。不定根形成の促進は、例えば、オーキシン類(以下、単に「オーキシン」ということもある)などの植物ホルモンの活性の促進によりもたらされる。よって、本発明によれば、クローン苗の生産性を向上させることができる。本発明によれば、発根能が低い植物種のクローン苗の生産性を特に顕著に向上させることができる。従って、本発明は、広く様々な植物種のクローン苗の大量かつ迅速な生産に寄与するものであり、中でも、発根能が低い植物種であっても、クローン苗を大量かつ迅速に生産することを可能とし、その産業的利用に途を開くものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1〜12および比較例2〜5における各化合物のユーカリ植物に対する発根率を示す図である。
【図2−1】図2−1は、比較例1において無添加で栽培されたユーカリ植物の発根の様子を示す図である。
【図2−2】図2−2は、実施例11において化合物MA65の存在下で栽培されたユーカリ植物の発根の様子を示す図である。
【図3】図3は、実施例13におけるMA65の丸葉ユーカリに対する発根率を示す図である。
【図4−1】図4−1は、実施例14において化合物MA65存在下で栽培されたシロイヌナズナのGUS活性を示す図である。
【図4−2】図4−2は、実施例14において化合物MA65存在下で栽培されたシロイヌナズナのGUS活性を示す図である。
【図4−3】図4−3は、比較例7において無添加で栽培されたシロイヌナズナのGUS活性を示す図である。
【図4−4】図4−4は、比較例7において無添加で栽培されたシロイヌナズナのGUS活性を示す図である。
【図5】図5は、実施例15〜19および比較例8〜12における各化合物のユーカリ植物に対する発根率を示す図である。
【図6】図6は、実施例20および比較例13におけるKSR221の丸葉ユーカリに対する発根率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の細胞分化促進剤は、一般式(1−1)、一般式(1−2)、一般式(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)のいずれかで表される化合物もしくはその塩を含む。また、本発明の不定根形成促進剤は、一般式(1−1)、一般式(1−2)および一般式(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)のいずれかで表される化合物もしくはその塩を含む。一般式(1−1)、一般式(1−2)、一般式(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)で表される化合物に含まれ得る置換基の定義について、まず説明する。
【0016】
本発明において、アルキル基としては、炭素原子数1個以上6個以下程度のアルキル基が例示される。アルキル基は、直鎖および分枝鎖のいずれであってもよい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられ、これらのうち、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基が好ましい。
【0017】
本発明において、アルコキシアルキル基としては、炭素原子数1個以上15個以下程度のアルコキシアルキル基が例示される。アルコキシアルキル基のアルキル鎖部分は、直鎖および分枝鎖のいずれであってもよく、直鎖であることが好ましい。アルコキシアルキル基のアルコキシ部分も、直鎖および分枝鎖のいずれであってもよく、直鎖であることが好ましい。アルコキシアルキル基の例としては、メトキシメチル基、メトキシエチル基などが挙げられ、メトキシメチル基が好ましい。
【0018】
本発明においてアルケニル基としては、炭素原子数2個以上6個以下程度のアルケニル基が例示される。アルケニル基は、直鎖および分枝鎖のいずれであってもよいが直鎖であることが好ましい。アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−ブテニル基などが挙げられ、2−プロペニル基が好ましい。
【0019】
本発明において、アルコキシ基としては、炭素原子数1個以上6個以下程度のアルコキシ基が例示される。アルコキシ基は、直鎖および分枝鎖のいずれであってもよいが直鎖であることが好ましい。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、n−ブトキシ基などが挙げられ、n−ブトキシ基(1−ブトキシ基)が好ましい。
本発明においてジアルキルアミノ基としては、炭素原子数が1個以上6個以下程度のジアルキルアミノ基が例示される。ジアルキルアミノ基のアルキル鎖部分は、直鎖および分枝鎖のいずれであってもよく、直鎖であることが好ましい。ジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基が挙げられ、これらのうち、ジメチルアミノ基が好ましい。
【0020】
本発明において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示され、フッ素原子、塩素原子が好ましい。
【0021】
本発明において、ハロゲン化アルキル基の例としては、炭素原子数が1個以上6個以下のハロゲン化アルキル基が挙げられる。ハロゲン化アルキル基のアルキル鎖部分は、直鎖および分枝鎖のいずれであってもよく、直鎖であることが好ましい。ハロゲン化アルキル基に含まれるハロゲン原子の数は1個でもよいし2個以上であってもよいが、1個であることが好ましい。ハロゲン化アルキル基の例としては、上記アルキル基の例として列挙したアルキル基を有する、フッ化アルキル基、塩化アルキル基、臭化アルキル基、ヨウ化アルキル基などのハロゲン化アルキル基が挙げられ、臭化メチル基が好ましい。
【0022】
本発明において、置換基を有することがある芳香族炭化水素基は、置換基を有する芳香族炭化水素基、置換基を有しない芳香族炭化水素基を意味する。芳香族炭化水素基とは、芳香族炭化水素の一価の置換基を意味する。芳香族炭化水素基の炭素原子数は特には限定されないが、3個以上15個以下が好ましく、6個以上10個以下であることがより好ましい。芳香族炭化水素基は、芳香環(例えば、炭素原子数4個以上7個以下の芳香環)が1個および2個以上結合(縮合も含む)している基であってもよい。芳香族炭化水素基の例としては、ペンタニル基、フェニル基、ヘプチル基、ナフチル基、アントラシル基、フェナントリル基などが挙げられ、これらのうちフェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0023】
置換基を有することがあるヘテロ複素環基とは、置換基を有するヘテロ複素環基、置換基を有しないヘテロ複素環基を意味する。ヘテロ複素環基とは、ヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子など)を含む複素環基を意味する。2以上の環が結合(縮合も含む)しているヘテロ複素環基の場合は、いずれかの基にヘテロ原子が含まれていればよい。ヘテロ複素環基としては、窒素原子を含むヘテロ複素環基が好ましい。ヘテロ複素環基の炭素原子数は特には限定されないが、3個以上15個以下が好ましく、6個以上10個以下であることがより好ましい。ヘテロ複素環基の例としては、ピロリル基、イミダゾール基、ピラゾリル基、フリル基、オキサゾリル基、チオフェニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基などの5員環基;ピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピペリジル基、ピペラジル基、モルホリル基、2H−ピラル基、4H−ピラル基などの6員環基;ピロリジル基、ピリンジル基、フタルイミド基、インドール基などのヘテロ原子含有縮合環基が挙げられる。これらのうち、ヘテロ原子含有縮合環基が好ましく、インドール基が好ましい。
【0024】
芳香族炭化水素基およびヘテロ複素環基に含まれ得る置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基(シクロプロピル基など)、アミノ基、モノ若しくはジアルキルアミノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(エトキシカルボニル基など)、アルカノイル基(アセチル基など)、アロイル基(ベンゾイル基など)、アラルキル基(ベンジル基など)、アリール基(フェニル基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基など)、ヘテロアリール基(ピリジル基など)、ヘテロアリールオキシ基(ピリジルオキシ基など)、ヘテロ環基(ピロリジニル基など)、水酸基、ニトロ基、シアノ基などが例示される。これらのうち、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基が好ましい。
【0025】
置換基を有することのある芳香族炭化水素基およびヘテロ複素環基において、置換基の数は0個以上5個以下であればよいが、通常は0個以上3個以下、好ましくは0個以上2個以下である。置換基を2個以上有する場合には、それぞれの置換基が同一の置換基であってもよく、異なる置換基であってもよい。
【0026】
置換基を有することのある芳香族炭化水素基およびヘテロ複素環基の、各一般式の骨格への結合部位は、特に限定されない。
【0027】
置換基を有する芳香族炭化水素基およびヘテロ複素環基上の置換部位は、特には限定されない。例えば、フェニル基の置換部位は、2位および/または4位であることが好ましい。
【0028】
置換基を有することのある芳香族炭化水素基の例としては、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、4−ブロモフェニル基、4−トリフルオロメトキシフェニル基、4−トルイル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−クロロ−4−トリフルオロメチルフェニル基、3−クロロ−4−トリフルオロメチルフェニル基、4−ブロモ−2−クロロフェニル基、ビフェニル−4−イル基、(4−クロロフェニル)オキシ−2−クロロフェニル基、4−(1−ブトキシ)フェニル基、4−フェノキシフェニル基、1−ナフチル基などを挙げることができる。これらのうち、4−クロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、4−(1−ブトキシ)フェニル基、4−ジメチルアミノフェニル基、4−メチルフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、4−フェノキシフェニル基、1−ナフチル基がより好ましい。
【0029】
本発明において4−クロロフェニル基は、下記式(a)で示される基を意味する。
【化6】

【0030】
本発明において2,4−ジクロロフェニル基は、下記式(b)で示される基を意味する。
【化7】

【0031】
本発明において4−(1−ブトキシ)フェニル基は、下記式(c)で示される基を意味する。
【化8】

【0032】
本発明において2,4−ジフルオロフェニル基は、下記式(d)で示される基を意味する。
【化9】

【0033】
本発明において4−フェノキシフェニル基は、下記式(e)で示される基を意味する。
【化10】

【0034】
本発明において4−ジメチルアミノ基は、下記式(f)で示される基を意味する。
【化11】

【0035】
本発明において1−ナフチル基は、下記式(g)で示される基を意味する。
【化12】

【0036】
置換基を有することのあるヘテロ複素環基例としては、下記(h)で示される3−インドール基が好ましい。
【化13】

【0037】
本発明において、4−メチルフェニル基は、下記式(i)で示される基を意味する。
【化14】

【0038】
上記一般式(1−1)中、R111は水素原子、水酸基またはアルキル基であり、R112はアルキル基または置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、R113は置換基を有することがある芳香族炭化水素基である。
【0039】
一般式(1−1)中、R111は水素原子、水酸基またはアルキル基であり、水酸基であることが好ましい。
【0040】
一般式(1−1)中、R112はアルキル基または置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、アルキル基または置換基を有する芳香族炭化水素基であることが好ましく、アルキル基または置換基を有するフェニル基であることがより好ましい。
【0041】
112としてのアルキル基は、炭素原子数1個以上4個以下のアルキル基であることが好ましく、また、分岐鎖を持つアルキル基であることが好ましい。
【0042】
112としての芳香族炭化水素基が有してもよい置換基の例としては、ハロゲン原子が挙げられ、塩素原子が好ましい。R112の芳香族炭化水素基上の置換部位は、4位であることが好ましい。R112としての置換基を有してもよい芳香族炭化水素基において、置換基の数は特に限定されないが、1個であることが好ましい。
【0043】
112の好ましい例としては、t−ブチル基、4−クロロフェニル基が挙げられる。
【0044】
一般式(1−1)中、R113は置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、置換基を有する芳香族炭化水素基が好ましく、置換基を有するフェニル基が好ましい。R113の芳香族炭化水素基が有してもよい置換基としては、アルキル基、ジアルキルアミノ基が好ましい。前記アルキル基およびジアルキルアミノ基は炭素原子数が1個以上3個以下であることが好ましく、また直鎖構造であることが好ましい。R113の芳香族炭化水素基が有してもよい置換基の好ましい例としては、メチル基、ジアルキルアミノ基が挙げられる。R113の芳香族炭化水素基上の置換部位は、4位であることが好ましい。R113の芳香族炭化水素基上の置換基の数は特に限定されないが、1〜2個であることが好ましい。
【0045】
113の好ましい例としては、4−メチルフェニル基、4−ジメチルアミノフェニル基が挙げられる。
【0046】
一般式(1−2)中、R121は水素原子、アルキル基、またはアルコキシアルキル基であり、R122は置換基を有することがあるフェニル基であり、R123およびR124はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基である。
【0047】
一般式(1−2)中、R121は水素原子、アルキル基またはアルコキシアルキル基であり、アルキル基またはアルコキシアルキル基であることが好ましい。R121としてのアルキル基は、炭素原子数1個以上4個以下のアルキル基であることが好ましく、炭素原子数1個以上3個以下のアルキル基であることがより好ましい。R121としてのアルキル基の好ましい例としては、エチル基、メチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。R121としてのアルコキシアルキル基は、炭素原子数が1個以上4個以下のアルコキシアルキル基であることが好ましく、炭素原子数が1個以上3個以下のアルコキシアルキル基であることが好ましく、また、直鎖のアルコキシアルキル基であることが好ましい。R121としてのアルコキシアルキル基の好ましい例としては、メトキシメチル基が挙げられる。
【0048】
一般式(1−2)中、R122は置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、置換基を有する芳香族炭化水素基が好ましく、置換基を有するフェニル基が好ましい。R122の芳香族炭化水素基が有してもよい置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基が好ましい。前記アルキル基およびアルコキシ基は炭素原子数が1個以上4個以下であることが好ましく、また直鎖構造であることが好ましい。R122の芳香族炭化水素基が有してもよい置換基の好ましい例としては、メチル基、塩素原子、n−ブトキシ基が挙げられる。R122の芳香族炭化水素基上の置換部位は、2位および/または4位であることが好ましい。R122の芳香族炭化水素基上の置換基の数は特に限定されないが、1〜2個であることが好ましい。
【0049】
122の好ましい例としては、4−クロロフェニル基、4−メチルフェニル基、4−ブトキシフェニル基(4−n−ブトキシフェニル基)、2,4−ジクロロフェニル基が挙げられる。
【0050】
一般式(1−2)中、R123およびR124はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、ともに水素原子であることが好ましい。
【0051】
一般式(1−3)中、R131は水素原子、アルキル基またはアルケニル基であり、R132はアルキル基または置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、R133は置換基を有することがある芳香族炭化水素基である。
【0052】
一般式(1−3)中、R131は水素原子、アルキル基またはアルケニル基である。R121としてのアルキル基、アルケニル基は、炭素原子数1個以上3個以下のアルキル基であることが好ましく、また、直鎖であることが好ましい。R131としてのアルキル基は、メチル基であることが好ましい。また、R131としてのアルケニル基は、3−プロペニル基であることが好ましい。
【0053】
一般式(1−3)中、R132はアルキル基または置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、置換基を有することがある芳香族炭化水素基が好ましく、置換基を有するフェニル基または置換基を有しないフェニル基が好ましい。R132の芳香族炭化水素基が有してもよい置換基としては、ハロゲン原子が好ましく、塩素原子が好ましい。R132の芳香族炭化水素基上の置換部位は、4位であることが好ましい。R132の芳香族炭化水素基上の置換基の数は特に限定されないが、0〜1個であることが好ましい。R132の好ましい例としては、4−クロロフェニル基、フェニル基が挙げられる。
【0054】
一般式(1−3)中、R133は置換基を有することがある芳香族炭化水素基であり、置換基を有する芳香族炭化水素基が好ましく、置換基を有するフェニル基が好ましい。R133の芳香族炭化水素基が有してもよい置換基としては、ハロゲン原子が好ましく、塩素原子が好ましい。R133の芳香族炭化水素基上の置換部位は、4位であることが好ましい。R133の芳香族炭化水素基上の置換基の数は特に限定されないが、1個であることが好ましい。R133の好ましい例としては、4−クロロフェニル基が挙げられる。
【0055】
一般式(2−1)中、R211は置換基を有することがある芳香族炭化水素基または置換基を有することがあるヘテロ複素環基であり、mは1または2であり、nは0または1であり、Aは窒素原子または−CH−である。
【0056】
211は置換基を有することがある芳香族炭化水素基または置換基を有することがあるヘテロ複素環基である。
【0057】
211としての芳香族炭化水素基、ヘテロ複素環が有してもよい置換基の例としては、フェニルオキシ基が挙げられる。芳香族炭化水素基、ヘテロ複素環は、2個以上の芳香環を含んでいる(2個以上の芳香環が互いに縮合していてもよい)芳香族炭化水素基、ヘテロ複素環であることが好ましい。R211としての芳香族炭化水素基、ヘテロ複素環としては、フェニル基、ナフチル基、インドール基が好ましく、それぞれ置換基を有していてもいなくてもよい。
【0058】
211の好ましい例としては、4−フェノキシフェニル基、ナフチル基、インドール基が挙げられる。
【0059】
一般式(2−1)中、mは1または2であり、nは0または1である。mが2のときはnは0であることが好ましい。mが1のときはnが0または1のいずれであってもよい。
【0060】
一般式(2−1)中、Aは窒素原子または−CH−である。すなわち、一般式(1)で示される化合物は、Aが窒素原子の場合、その構造中にトリアゾール環を有する化合物であり、Aが−CH2−の場合、その構造中にイミダゾール環を有する化合物である。
【0061】
一般式(2−1)における置換基の好ましい組み合わせとしては、R211はナフチル基であり、mが2であり、nが0であり、Aが窒素原子である組み合わせ;R211はナフチル基であり、mが2であり、nが0であり、Aが−CH−である組み合わせ;R211が4−フェノキシフェニル基であり、mが1であり、nが1であり、Aが望ましくは窒素原子である組み合わせ;R211が3−インドール基であり、mが1であり、nが0であり、Aが望ましくは窒素原子である組み合わせ、が挙げられる。
【0062】
一般式(2−2)中、R221は水素原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R222は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子であり、pは1〜5の整数である。
【0063】
221は水素原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、ハロゲン化アルキル基であることが好ましい。ハロゲン化アルキル基のアルキル部分の炭素原子数は1個であることが好ましい。ハロゲン化アルキル基のアルキル部分は直鎖であることが好ましい。ハロゲン化アルキル基の有するハロゲン原子の数は、1個以上であればよい。ハロゲン原子を2個以上含むハロゲン化アルキル基において、2個以上のハロゲン原子は異なるハロゲン原子を含んでいてもよいし同じハロゲン原子を2個以上含んでいてもよいが、好ましくは1個である。R221の好ましい例としては、臭化メチル基を挙げることができる。
【0064】
一般式(2−2)中、R222は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子であり、ハロゲン原子であることが好ましい。またpは置換基R222の数である、1〜5の整数であり、好ましくは2である。pが2以上の場合、2個以上のR222は互いに異なる種類の置換基であってもよいし同じ置換基であってもよいが、同じ置換基であることが好ましい。中でも、両方ともフッ素原子であることが好ましい。R222の、一般式(2−2)の骨格部分への結合部位にはとくには制限がないが、pが2の場合に、R222の結合は、下記一般式(2−20)で示される結合(式(2−20)中R222の定義は前述の通りである。2つのR222は同じでも異なっていてもよい。)が好ましい。
【化15】

【0065】
一般式(1−1)〜(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)で表される化合物は、1個または2個以上の不斉炭素を有する場合がある。すなわち一般式(1−1)〜(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)で表される化合物は、不斉炭素に基づく純粋な形態の光学活性体、ジアステレオ異性体、任意の異性体混合物(例えば、2以上のジアステレオ異性体の混合物)、ラセミ体などのいずれであってもよい。
【0066】
一般式(1−1)〜(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)で表される化合物の塩の形態は特に限定されず、置換基の種類に応じた形態、例えば酸付加塩が例示される。塩の種類は特に限定されず、塩酸、硫酸などの鉱酸類との塩、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、酒石酸などの有機酸類との塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミンなどの有機アミンとの塩、グリシンなどのアミノ酸との塩が例示される。
【0067】
一般式(1−1)で表される化合物またはその塩の例としては、以下のものを挙げることができる。
【0068】
・1−クロロフェニル−3−(4−メチルフェニル)−2−(1,2,4−トリアゾイル)−2−プロペン−1−オール(以下、MA73と称する。式(1−11)で示される構造を有する。)
【化16】

【0069】
・1−(2,2−ジメチルエチル)−3−(4−ジメチルアミノフェニル)−2−(1,2,4−トリアゾイル)−2−プロペン−1−オール(以下、MA65と称する。式(1−12)で示される構造を有する。)
【化17】

【0070】
一般式(1−2)で表される化合物またはその塩の例としては、以下のものを挙げることができる。
【0071】
・1−[[2−(4−クロロフェニル)−4−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(以下、SEA10と称する。式(1−21)で示される構造を有する。)
【化18】

【0072】
・1−[[2−(4−クロロフェニル)−4−エチル−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(以下、SEA13と称する。式(1−22)で示される構造を有する。)
【化19】

【0073】
・1−[[2−(4−メチルフェニル)−4−プロピル−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(以下、SAR33と称する。式(1−23)で示される構造を有する。)
【化20】

【0074】
・4RS−1−[[4−メチル−2−(4−(1−ブトキシ)フェニル)−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(以下、KSR179と称する。式(1−24)で示される構造を有する。)
【化21】

【0075】
・1−[[4−メトキシメチル−2−(2,4−ジクロロフェニル)−1,3−ジオキソラン−2−イル]メチル]−1H−1,2,4−トリアゾール(以下、KSR90と称する。式(1−25)で示される構造を有する。)
【化22】

【0076】
一般式(1−3)で表される化合物またはその塩の例としては、以下のものを挙げることができる。
【0077】
・3−(4−クロロフェニル)−1−フェニル−2−(1,2,4−トリアゾイル)−プロパン−1−オール(以下、MA31と称する。式(1−31)で示される構造を有する。)
【化23】

【0078】
・4−(4−クロロフェニル)−2−フェニル−3−(1,2,4−トリアゾイル)−ブタン−2−オール(以下、MA87と称する。式(1−32)で示される構造を有する。)
【化24】

【0079】
・2,4−ジ(4−クロロフェニル)−3−(1,2,4−トリアゾイル)−ブタン−2−オール(以下、MA88と称する。式(1−33)で示される構造を有する。)
【化25】

【0080】
・6−(4−クロロフェニル)−4−フェニル−5−(1,2,4−トリアゾイル)−1−ヘキセン−4−オール(以下、SEA22と称する。式(1−34)で示される構造を有する。)
【化26】

【0081】
一般式(2−1)で表される化合物またはその塩の例としては、以下のものを挙げることができる。
【0082】
・1−(1−ナフチル)−2−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)−エタン(以下、KSR236と称する。式(2−11)で示される構造を有する。)
【化27】

【0083】
・1−(1−ナフチル)−2−(1H−イミダゾール−1−イル)−エタン(以下、KSR233と称する。式(2−12)で示される構造を有する。)
【化28】

【0084】
・1−(3−インドリル)−2−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)−エタン(以下、KSR221と称する。式(2−13)で示される構造を有する。)
【化29】

【0085】
・1−(4−フェノキシフェニル)−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)−メチルケトン(以下、KSR122と称する。式(2−14)で示される構造を有する。)
【化30】

【0086】
一般式(2−2)で表される化合物またはその塩の例としては、以下のものを挙げることができる。
【0087】
・2,4−ジフルオロフェニル−ブロモメチルケトン(以下、KSR51と称する。式(2−21)で示される構造を有する。)
【化31】

【0088】
一般式(1−1)〜(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)で表される化合物もしくはその塩の由来は特に限定されない。例えば、化学反応により合成されたものを用いることができる。合成方法としては、特開2000−53657号公報、特許第3762949号公報、Zeitschriftfur Naturforschung,44c,pp.85−96,1989などの文献に記載された方法が例示される。
【0089】
本発明の細胞分化促進剤は、一般式(1−1)〜(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)で表される化合物もしくはその塩を含有する。すなわち細胞分化促進剤は、一般式(1−1)で表される化合物、一般式(1−1)で表される化合物の塩、一般式(1−2)で表される化合物、一般式(1−2)で表される化合物の塩、一般式(1−3)で表される化合物、一般式(1−3)で表される化合物の塩、一般式(2−1)で表される化合物、一般式(2−1)で表される化合物の塩、一般式(2−2)で表される化合物、および一般式(2−2)で表される化合物の塩から選ばれる、1種を単独で、あるいは2種以上を含有する。
【0090】
細胞の例としては植物細胞が挙げられる。本発明の細胞分化促進剤は植物細胞の根細胞への分化を顕著に促進する効果を有する。よって、本発明の細胞分化促進剤は、不定根形成促進剤として有用である。
【0091】
本発明の植物の不定根形成促進剤は、一般式(1−1)〜(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)で表される化合物もしくはその塩を含むものであればよく、必要に応じて、本発明の目的に反しない限り、他の成分(例えば、他の不定根形成促進剤)をあわせて含むものであってもよい。
【0092】
本発明の不定根形成促進剤は、植物を栽培する際に存在させることにより、不定根形成促進効果を発揮する。
【0093】
植物の種類は特に限定されない。植物は木本植物と草本植物とに分類され得るが、本発明においてはこれらのいずれにも適用可能であり、木本植物に適用されることが好ましく、草本植物よりも発根能が劣っている木本植物に適用されることがより好ましい。木本植物としては、ユーカリ属(Eucalyptus)植物、マツ属(Pinus)植物、スギ属(Cryptomeria)植物(スギ(Cryptomeria japonica)など)、サクラ属(Prunus)植物(サクラ(Prunus spp.)、ウメ(Prunus mume)、ユスラウメ(Prunus tomentosa)など)、アボカド属(Avocado)植物、マンゴー属(Mangifera)植物(マンゴー(Mangifera indica)など)、アカシア属(Acacia)植物、ヤマモモ属(Myrica)植物、クヌギ属(Quercus)植物(クヌギ(Quercus acutissima)など)、ブドウ(Vitis)属植物、リンゴ(Malus)属植物、バラ属(Rosa)植物、ツバキ属(Camellia)植物(チャ(Camellia sinensis)など)、ジャカランダ属(Jacaranda)植物(ジャカランダ(Jacaranda mimosifolia)など)、ワニナシ属(Persea)植物(アボカド(Persea americana)など)、ナシ属(Pyrus)植物(ナシ(Pyrus serotina Rehder、Pyrus pyrifolia)など)、ビャクダン属(Santalum)植物(ビャクダン(サンダルウッド;Santalum album)など)が例示される。これらのうち、ユーカリ、マツ、スギ、サクラ、マンゴー、アボカド、アカシア、ヤマモモ、クヌギ、ブドウ、リンゴ、バラ、ツバキ、チャ、ウメ、ユスラウメ、ジャカランタなどの植物に適用した場合に、より本発明の効果を発揮し得る。中でもユーカリ属植物、マツ属植物、スギ属植物、ツバキ属植物、マンゴー属植物、ワニナシ属植物が好ましく、難発根性として知られるユーカリ、マツ、スギ、チャ、マンゴー、アボカドがより好ましく、ユーカリがさらに好ましい。
【0094】
ユーカリとしては、難発根性で知られるユーカリが好ましく、ユーカリ・グロビュラス、丸葉ユーカリなどがより好ましい。
また、本発明において適用可能な草本植物の例としては、アブラナ科、ナス科、イネ科、マメ科などの科に属する植物が挙げられるが、これらの植物に限定されるものではない。このように、本発明においては、ナス科植物などの野菜類と共に、イネ、小麦などの穀物、豆類、トウモロコシなど食糧生産性植物にも一般に適用できるので、将来的な食糧生産技術の上からも大きな期待がもてる。また、アブラナ科、ナス科、イネ科、マメ科などの科に属する植物のうち、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、タバコ(Nicotiana tabacum)、イネ(Oryza sativa)、ミヤコグサ(Lotus corniculatus var.japonicus)はモデル植物として広く一般に用いられていることから、研究・開発の発展に貢献できる面でも大きな期待がもてる。
【0095】
植物としては、植物体の一部または全部であればよいが、不定根を形成することが期待される点で、通常は植物体の一部であり、好ましくはシュートである。
【0096】
シュートとは、発根能を有する組織全般をいう。該組織としては、枝、茎、頂芽、腋芽、不定芽、葉、子葉、胚軸、不定胚、苗条原基などの器官の一部である組織が例示される。シュートの由来は特に限定されず、温室または屋外に生育している植物個体から得られたものでもよいし、組織培養法により得られた培養組織であってもよいし、天然の植物体の一部の組織であってもよい。シュートは、挿し穂の母本植物、または多芽体から効率良く取得することができる。中でも、挿し穂(母本植物から得た挿し穂)、母本植物から採取した器官を無菌的に培養することにより得た多芽体、もしくは前記器官を無菌的に育成して得た茎葉であることが好ましい。
【0097】
多芽体は、本発明を適用してクローン苗を生産しようとする植物から、頂芽、腋芽などの芽を切取って、これを組織培養して誘導することができる。多芽体を、母本植物から採取した器官を無菌的に培養して形成させるには、特開平8−228621号公報に記載の方法および条件に従って行い得る。その方法および条件は概ね次の通りである。まず、材料とする植物から頂芽、腋芽などの芽の組織を採取し、採取した組織について、有効塩素量約0.5%〜約4%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液または有効塩素量約5%〜約15%の過酸化水素水溶液に約10分〜約20分間浸漬して表面殺菌を行う。次いで、これを滅菌水で洗浄し、固体培地に挿し付けて芽を開じょさせ、伸長してきた茎葉を同じ組成の培地で継代培養することにより、多芽体を形成させる。ユーカリ属またはアカシア属の組織(例えば腋芽)を用いる場合には、培地として、ショ糖1〜5重量%、植物ホルモンとしてベンジルアデニン(以下、BAと略す。)約0.02mg/l以上約1mg/l以下、ゲランガム約0.2重量%以上約0.3重量%若しくは寒天約0.5重量%以上約1重量%以下を含有するムラシゲスクーグ(以下、MSと略す。)培地またはMS培地の硝酸アンモニウム成分と硝酸カリウム成分とを半減させた改変MS培地を用いるのが好ましい。こうして形成された多芽体からは活発にシュートが伸長してくる。多芽体自体は、適当に分割して多芽体形成に用いた培地と同一組成の培地で培養することにより維持し、増殖させることができる。
【0098】
一方、シュートとして挿し穂を用いてもよい。通常は挿し穂に対し、不定根形成促進剤が投与されることで、その効果を発揮する。挿し穂としては、植物の少なくとも一部であればよく、緑枝(当年枝)、熟枝(前年以前に伸びた枝)などの枝;頂芽、腋芽などの芽;葉、子葉;胚軸などが例示される。木本植物の場合の挿し穂は、通常は緑枝、熟枝などの枝が用いられ、草本植物の場合の挿し穂は、通常は葉、芽が用いられるが、これらには限定されない。
【0099】
植物を本発明の不定根形成促進剤の存在下に栽培する方法は、特に制限はなく、植物の種類、部位、状態などから適宜選択できる。具体的には、不定根形成促進剤を含む発根用培地で植物(好ましくはシュート)を培養する方法;不定根形成促進剤を含む溶液を植物(好ましくはシュート)に接触させる方法、が例示される。シュートとして、組織培養法により得られた培養組織を用いる場合には前者が好ましく、シュートとして挿し穂を用いる場合には前者、後者のいずれも好ましい。なお、上記例示した両方法の併用、すなわち、不定根形成促進剤を含む発根用培地で植物を培養しつつ、不定根形成促進剤を含む溶液を植物に接触させる方法を採用することも、もちろん可能である。
【0100】
不定根形成促進剤を含む発根用培地で植物を培養する場合、発根用培地中の不定根形成促進剤の濃度は、好ましくは約0.01μM以上約2000μM以下、さらに好ましくは約0.01μM以上約500μM以下、とりわけ好ましくは約0.1μM以上約150μM以下である。
【0101】
発根用培地での培養の際に、後述のように支持体を用いることができる。支持体として多孔性成形品などの活性成分の吸着の少ない支持体を用いる場合に、不定根形成促進剤の発根用培地における添加量は、好ましくは約0.01μM以上約100μM以下、さらに好ましくは約0.05μM以上約50μM以下、とりわけ好ましくは約0.1μM以上約10μM以下である。
【0102】
不定根形成促進剤を含む溶液(不定根形成促進剤溶液)を植物(好ましくはシュート)に接触させる方法は特に限定されず、植物の種類、部位、状態、栽培方法などに基づき適宜選択し得る。該方法としては、例えば、シュートへ不定根形成促進剤溶液を直接散布する方法、支持体を不定根形成促進剤溶液で浸潤させる方法が挙げられる。
【0103】
不定根形成促進剤溶液は、不定根形成促進剤を、適当な溶媒(例えば、水など)に溶解させて調整され得る。水としては、脱イオン水、蒸留水、逆浸透水、水道水などが例示され、いずれも利用可能である。不定根形成促進剤溶液における不定根形成促進剤の濃度は、約0.01μM以上約2000μM以下であることが好ましく、約0.05μM以上約500μM以下であることがより好ましく、約0.1μM以上約150μM以下であることがさらにより好ましい。
【0104】
不定根形成促進剤溶液を植物(好ましくは、シュート)に直接散布する場合は、不定根形成促進剤溶液を、スプレーなどを用いて霧状に、植物の一部または全体に散布すればよい。不定根形成促進剤溶液の散布量は、不定根形成促進剤溶液中の不定根形成促進剤の濃度などにもより、一概には規定できないが、一般には1つのシュートあたり約0.5ml以上約5.0ml以下が好ましく、約1.0ml以上約3.0ml以下がより好ましい。散布回数は、1回でも2回以上であってもよいが、少なくとも栽培開始時に散布することが好ましい。さらに栽培条件に応じて、栽培期間中に適宜(例えば数日(2日〜3日)おき)追加で散布を行ってもよい。
【0105】
支持体を不定根形成促進剤溶液で湿潤させる方法としては、不定根形成促進剤溶液を支持体上部から散水する方法、不定根形成促進剤溶液を満たした容器内に支持体を置床し底面から潅水させる方法などが例示される。支持体上部から散水する場合、上部からの散水量は、1つの植物(好ましくは、シュート)あたり約1.0ml以上約30ml以下が好ましく、約5.0ml以上約10ml以下がより好ましい。底面から潅水させる場合は、不定根形成促進剤溶液が支持体に、実質的に均一に湿潤されればよい。支持体を不定根形成促進剤溶液で湿潤させる場合、不定根形成促進剤溶液のほかに別途発根用培地を用意し、両者で支持体を湿潤させてもよい。
【0106】
本発明において発根用培地とは、植物(好ましくはシュート)から発根させるために用いられる培地を意味する。発根用培地は、銀イオンおよび/または抗酸化剤を含有することが好ましく、銀イオンおよび抗酸化剤の両方を含有することがより好ましい。銀イオンは、チオ硫酸銀(STS、AgS46)、硝酸銀などの銀化合物(銀イオン源)として培地中に添加すればよい。中でもSTSは、培地に添加してシュートを培養すると、健全な根の発根及び伸長が促進されるので、本発明で用いる銀イオン源として好ましい。これは、このSTSに由来する銀イオンが、培地中で、チオ硫酸銀イオンの形態を取り、マイナスに帯電しているためと考えられる。発根用培地中に添加する銀イオンの濃度は、銀イオン源の種類その他の培養条件などにもよるが、銀イオン源の濃度として約0.5μM以上約約6μM以下が好ましく、約2μM以上約6μM以下がより好ましい。
【0107】
一方、抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、亜硫酸塩など、公知のものを用いることができる。中でもアスコルビン酸は、培地への残留性が低いので、本発明で用いる抗酸化剤として好ましい。発根用培地中に添加する抗酸化剤の濃度は、約5mg/l以上約200mg/l以下が好ましく、約20mg/l以上約100mg/l以下がより好ましい。
【0108】
本発明で用いる発根用培地は、上記成分に加え、無機成分、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類、植物ホルモン類などの成分を含み得る。
【0109】
無機成分としては、窒素、リン、カリウム、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ヨウ素、コバルトなどの元素、これらの元素から選ばれる1種以上を含む無機塩が例示される。該無機塩としては例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化コバルトなどの無機塩、これらの無機塩から選ばれる1種以上の無機塩の水和物が挙げられる。無機成分として、上記の例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用い得る。
【0110】
本発明で用いられる発根用培地においては、窒素、リン、カリウムが必須元素として含まれることが好ましい。よって、上記無機成分の例のうち、窒素、リン、カリウム、窒素を含む無機塩、リンを含む無機塩、およびカリウムを含む無機塩が好ましく、窒素、リン、カリウム、窒素を含む無機塩がより好ましい。無機成分は、発根用培地中の濃度が、1種の場合は約0.1μM以上約100mM以下となるように添加することが好ましく、約1μM以上約100mM以下となるように添加することがより好ましい。2種以上の組み合わせの場合はそれぞれ約0.1μM以上約100mM以下となるよう添加することが好ましく、約1μM以上約100mM以下となるように添加することがより好ましい。
【0111】
炭素源としては、ショ糖などの炭水化物とその誘導体;脂肪酸などの有機酸;エタノールなどの1級アルコール、などの化合物を使用することができる。炭素源として、上記例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用い得る。炭素源は、発根用培地中に約1g/l以上約100g/l以下となるよう添加することが好ましく、約10g/l以上約100g/l以下となるように添加することがより好ましい。しかし、培養を炭酸ガスを供給しながら行う場合には、培地は炭素源を含む必要は無く、含まないことが好ましい。ショ糖などの炭素源となり得る有機化合物は微生物の炭素源ともなるので、これらを添加した培地を用いる場合には、無菌環境下で培養を行う必要があるが、炭素源を含まない培地を用いることにより、非無菌環境下での培養が可能となる。
【0112】
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミドおよびリボフラビン(ビタミンB2)が挙げられる。ビタミン類として、上記例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用い得る。ビタミン類は、発根用培地中の濃度が、1種の場合は発根用培地中に約0.01mg/l以上約200mg/l以下となるように添加することが好ましく、約0.02mg/l以上約100mg/l以下となるように添加することがより好ましい。2種以上の組み合わせの場合はそれぞれ、発根用培地中に約0.01mg/l以上約150mg/l以下となるよう添加することが好ましく、約0.02mg/l以上約100mg/l以下となるように添加することがより好ましい。
【0113】
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニンおよびリジンが挙げられる。アミノ酸類として、上記例の中から1種を選択して、或いは2種以上を組み合わせて用い得る。アミノ酸類は、発根用培地中の濃度が、1種の場合は発根用培地中に約0.1mg/l以上約1000mg/l以下となるように添加することが好ましく、2種以上の組み合わせの場合は、それぞれ発根用培地中に約0.2mg/l以上約1000mg/l以下となるよう添加することが好ましい。
【0114】
また、植物ホルモン類としては、例えば、オーキシン類および/またはサイトカイニン類を使用することができる。オーキシン類としては、ナフタレン酢酸(NAA)、インドール酢酸(IAA)、p−クロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4D)、インドール酪酸(IBA)およびこれらの誘導体が例示され、これらから選択される1種以上または2種以上を組み合わせて用い得る。また、サイトカイニン類としてはベンジルアデニン(BA)、カイネチン、ゼアチンおよびこれらの誘導体などが例示され、これらから選択される1種以上または2種以上を組み合わせて用い得る。植物ホルモン類としては、オーキシン類のみ、サイトカイニン類のみ、或いはオーキシン類とサイトカイニン類の両方を組み合わせて用い得る。植物ホルモン類は、1種を用いる場合には発根用培地中に約0.01mg/l以上約10mg/l以下となるように添加することが好ましく、約0.02mg/l以上約10mg/l以下となるように添加することがより好ましい。2種以上を用いる場合にはそれぞれ、発根用培地中に約0.01mg/l以上約10mg/l以下となるよう添加することが好ましく、約0.02mg/l以上約10mg/l以下となるように添加することがより好ましい。
【0115】
なお、本発明においては、植物組織培養用培地として公知の培地に、必要に応じて不定根形成促進剤を添加するほか、さらに銀イオンおよび/または抗酸化剤を添加し、さらにまた、炭素源、植物ホルモン類を適宜添加して、発根用培地として用いてもよい。かかる植物組織培養用培地としては、例えば、MS培地、リンスマイヤースクーグ培地、ホワイト培地、ガンボーグのB−5培地、ニッチニッチ培地を挙げることができる。中でも、MS培地およびガンボーグのB−5培地が好ましい。これらの培地は、必要に応じて適宜希釈して用いることができる。
【0116】
上記発根用培地は、液体培地、固体培地のいずれであってもよいが、液体培地の方が作業効率および移植時に根を傷つけることが少ない点で好ましい。液体培地は、培地組成を混合し調製してそのまま用い得る。また固体培地は、液体培地と同様に培地組成を混合し調製すると同時に、或いは調整後に、寒天またはゲランガムなどの固化剤で固化させて使用し得る。固化剤の培地への添加量は、固化剤の種類、培地の組成などの条件によっても異なる。固化剤が寒天の場合、添加量は、0.5重量%以上1重量%以下であることが好ましい。固化剤がゲランガムの場合、添加量は、0.2重量%以上0.3重量%以下であることが好ましい。
【0117】
発根用培地への植物(好ましくは、シュート)の挿し付け方法は、培地の種類などの培養条件により適宜選択し得る。発根用培地が固体培地の場合は、発根用培地に直接シュートの基部を挿し付けて培養すればよい。一方発根用培地が液体培地の場合は、例えば、後述の支持体を発根用培地で湿潤させたものにシュートの基部を挿し付けて培養すればよい。なお、発根用培地に挿し付ける時にシュートの基部に傷をつけるといった物理的刺激を加えることも、発根率の向上のために好ましい。シュートの基部とは、シュートの一端であって根が形成される領域(葉の形成される端部に対し反対側)を意味する。シュートとして多芽体を用いる場合、シュートの基部は、切断面(多芽体を分割する際に生じる)を有する領域である。シュートの基部への傷のサイズ(大きさ、形状など)は特に限定されない。例えば、シュートとしての多芽体の基部(上述の切断面)を正面方向から見た際に十字型となるような傷を付けることが好ましい。傷を付ける際には、ハサミ、ナイフなどの用具を用いることができる。
【0118】
本発明において支持体とは、植物(好ましくは、シュート)を支持するための支持体である。発根用培地のうち固体培地を用いる場合などには、支持体は不要であるが、それ以外の場合には、通常、支持体が利用される。
【0119】
支持体は、栽培の期間中シュートを指しつけた状態で保持できるものが好ましい。また、栽培にあたり液状の発根用培地を用いる場合には、通常、支持体に浸潤させて用いられる。よって支持体は液体で浸潤され得るものが好ましく、中でも、不定根形成促進剤溶液、或いは不定根形成促進剤を含む液体培地により実質的に均一に湿潤され得るものが好ましい。発根用培地として、液体培地を用いる場合には、液体培地(不定根形成促進剤溶液を含まない)と不定根形成促進剤溶液とを別個に支持体に添加してもよいし、予め調製した不定根形成促進剤を含む液体培地を支持体に添加してもよい。支持体としては、従来慣用の支持体を用いることができ、特に限定されない。支持体としては例えば、砂、赤玉土などの自然土壌;籾殻燻炭、ココナッツ繊維、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズなどの人工土壌;発泡フェノール樹脂、ロックウールなどの多孔性成形品などを挙げることができる。かかる支持体を培養容器内に入れ、不定根形成促進剤溶液、或いは不定根形成促進剤を含む液体培地にて湿潤させることにより発根床が調製され得る。なお、発根用培地が固体培地の場合には、固体培地を直接培養容器に入れることで、発根床が調製され得る。
【0120】
本発明においては、発根用培地または支持体を納めるための培養容器を用い得る。培養容器としては、従来慣用の培養容器を用いることができ、特に限定されない。例えば、育苗ポット、プラグトレーなどが例示される。培養容器は密閉型でもよいし開放型でもよいが、密閉型のものが好ましい。密閉型の培養容器を用いることにより、散布された不定根形成促進剤溶液を保持することができる。また、シュートおよびこれから形成されるクローン苗を取り巻く環境の湿度維持が容易となる。
【0121】
シュートとして枝を用いる場合には、培養容器として密閉型の培養容器を用いることが好ましい。これによりシュートを高湿度下に置くことが容易となるので枝についた葉の蒸散作用が抑制され、従来行われていた葉の一部切除処理を省略することができる。
【0122】
培養容器は、容器内への炭酸ガス供給が可能な容器であることがより好ましい。このような培養容器としては、二酸化炭素透過性の膜で蔽われた開口部を有する容器が例示される。二酸化炭素透過性の膜で蔽われた開口部を有する容器を用いることにより、培養環境の湿度をも容易に調整し得る。開口部の形状は特に問わない。二酸化炭素透過性の膜の材料は特に限定されず、ポリテトラフルオロエチレンなどが例示される。また、膜の孔径も特に限定されず、約0.1μm以上約1μm以下のものなどが例示される。
【0123】
植物を栽培する際の栽培条件としては、植物から発根させ得る条件である限り特に限定されない。栽培条件は、植物の種類、部位、状態、発根用培地の種類などにより一概に規定することは難しいが、例えば、温度は、約23℃以上約28℃以下であることがより好ましい。光強度は、光合成有効光量子束密度として表され、約10μmol/m2/s以上約1000μmol/m2/s以下であることが好ましく、約50μmol/m2/s以上約500μmol/m2/s以下であることがより好ましい。いずれの場合でも、通常は約2週間以上約5週間以内で、シュートからの発根が観察されるようになる。
【0124】
栽培は、約650nm以上約670nm以下の波長成分と約450nm以上約470nm以下の波長成分とを9:1〜7:3の割合で含む光の照射下で行うことが好ましく、これらの波長成分を9:1〜8:2の割合で含む光の照射下で行うことがより好ましい。かかる波長成分を含む光を照射して栽培を行うことで、植物(好ましくは、シュート)からの発根がより促進され得る。
【0125】
さらに、炭酸ガスを栽培環境中に、通常は300ppm以上2000ppm以下、好ましくは800ppm以上1500ppm以下となるように供給することが好ましい。炭酸ガスの供給量の制御は、二酸化炭素透過性の膜を開口部に有する培養容器などを、二酸化炭素濃度を上記範囲に調節した人工気象器などの設備内に載置することにより行われ得る。
【0126】
湿度は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。この湿度であることにより、植物からの発根を促進することができる。また上限については特に制限はない。
【0127】
一方、シュートとして挿し穂を用いる場合には、遮光を行うことが好ましい。遮光率は、30%以上70%以下が好ましく、40%以上60%以下がより好ましい。
【0128】
以上のようにして、本発明の不定根形成促進剤を用いて、植物から不定根を発根させることができる。不定根が発根した状態のものは、通常、クローン苗と呼ばれる。本発明の不定根形成促進剤を用いて一定期間栽培(植物の種類、部位、状態などの条件にもよるが、例えばユーカリの場合には10日以上90日以下程度)を続け、根を充実させてから、これを育苗容器、苗畑などの用土に移植して育成し、植林などの所定の目的に使用可能な苗とすることができる。用土、苗を育成する際の温度、光強度などの条件は、発根させたい植物に適するように適宜設定すればよい。なお、培養組織由来のシュート(例えば、不定芽、苗条原基)を発根させた場合には、通常、育苗容器、苗畑などの用土への移植の前に、順化の過程を経る必要がある。
【0129】
本発明の細胞分化促進剤は、以上説明したように不定根形成促進剤として有用である。本発明における不定根形成促進作用は、下段で説明する作用に基づくと推測されることから、一般式(1−1)、一般式(1−2)、一般式(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)のいずれかで表される化合物もしくはその塩は、植物ホルモン活性促進剤の有効成分としても有用である。さらに、植物ホルモン活性促進剤は、植物ホルモン合成促進剤、植物ホルモン代謝(分解)阻害剤、または植物ホルモン代謝(分解)関連P450遺伝子発現阻害剤とも言い換え得る。
【0130】
植物ホルモン活性促進剤の対象となり得る植物ホルモンとは、植物生長調節物質のうち植物により生産され得る物質であり、かつ低濃度でも植物の生理過程を調節し得る物質のことである。植物ホルモンの例としては、オーキシン類、ジベレリン、サイトカイニン類、アブシジン酸、エチレン、ブラシノステロイドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。たとえば、本発明の不定根形成促進剤のうちには植物ホルモンのうち、植物の不定根形成に関与する植物ホルモンの活性を促進するものも含まれているものと予測される。かかるホルモンの代表的なものとして、オーキシン類が挙げられる。オーキシン類の例は上述のとおりである。ある化合物が植物ホルモン活性促進作用を有するか否かの確認方法は特に限定されない。例えば植物ホルモンがオーキシン類の場合、オーキシン誘導性レポーター遺伝子(例えばDR5::GUS)が導入された遺伝子組み換え植物(例えばシロイヌナズナ)に実際に作用させてβグルクロニダーゼ(GUS)活性を有することを確認することにより、オーキシン類の活性を促進する作用を確認できる。
【0131】
[作用]
本発明では、植物のシュートを、不定根形成促進剤の存在下栽培することにより、前記シュートから発根させることができる。その理由は、以下のように推察される。
【0132】
一般式(1−1)、一般式(1−2)、一般式(1−3)、一般式(2−1)および一般式(2−2)のいずれかで表される化合物もしくはその塩はP450遺伝子阻害作用を有すると考えられ、その不定根形成促進効果は、植物の組織におけるオーキシン類の活性の促進もしくは合成の促進、またはオーキシン類の代謝(分解)阻害など、何らかの形でオーキシン類の働きに関わると考えられる。オーキシン類の例については、既に説明したとおりである。ここで、P450遺伝子とは、シトクロムP450をコードする遺伝子である。シトクロムP450は、微生物から植物、動物まで生物界に広く分布する一群のヘムタンパク質であり、還元型で一酸化炭素と結合して450nmに極大を持つ特徴的な吸収スペクトルを示す。シトクロムP450は、モノオキシゲナーゼ様式の酸素添加酵素活性を有するが、触媒する反応の基質特異性が異なる。しかし、タンパク質の一次構造と高次構造の比較の結果、一つの共通祖先遺伝子から生物進化の過程で分化し、多様化した遺伝子ファミリーであると考えられている。
【0133】
シトクロムP450としては極めて多数の分子種の存在が知られている。高等植物において報告されているP450遺伝子の数は、ゲノムプロジェクトの終了したシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)で273個、イネ(Oryza sativa)で458個である。これらを、線虫(Caenorhabditis elegans)の83個、ショウジョウバエ(Drosophyla melanogaster)の89個、ヒト(Homo sapiens)の57個などと比較すると、高等植物のP450の数は際立って多いことが分かる。
【0134】
P450遺伝子は、植物において、二次代謝、除草剤の代謝の他、成長分化の制御などの多くの機能があり、それぞれの機能に関与するP450遺伝子が存在し、オーキシン類の代謝に関わるP450遺伝子も知られている。
【0135】
〔化合物〕
本発明は、一般式(2−1)で表される化合物および一般式(2−2)で表される化合物を提供する。
【0136】
【化32】

(一般式(2−1)中、R211は置換基を有することがある芳香族炭化水素基または置換基を有することがあるヘテロ複素環基であり、mは1または2であり、nは0または1であり、Aは窒素原子または−CH−である。)
【化33】

(一般式(2−2)中、R221は水素原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R222は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子であり、pは1〜5の整数である。)
【0137】
各一般式における置換基および各一般式で示される化合物については、細胞分化促進剤に関する説明にて述べたのと同様である。
【実施例】
【0138】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0139】
[実施例1〜12]
挿し穂の材料として、ユーカリプタス・グロビュラス(Eucalyptus globulus、以下、単にE.グロビュラスと略記する。)を用いた。すなわち採穂母樹から、5〜20cmの長さ、節が1〜3節、葉が2〜6葉程度に伸長した穂木を切り出し、挿し穂を調製した。
【0140】
得られた挿し穂の基部を、MA31(実施例1)、MA87(実施例2)、MA88(実施例3)、KSR90(実施例4)、KSR179(1:シス体)(実施例5)、KSR179(2:トランス体)(実施例6)、SEA10(実施例7)、SEA13(実施例8)、SEA22(実施例9)、SAR33(実施例10)、MA65(実施例11)、MA73(実施例12)(それぞれ、特開2000−53657号公報、特許第3762949号公報、Zeitschriftfur Naturforschung,44c,pp.85−96,1989に記載された方法に準じて合成した)をそれぞれ1μM、銀イオン源としてSTS(AgS46)5μM、抗酸化剤としてアスコルビン酸50mg/l、および植物ホルモンとしてIBA2mg/lを添加した、4倍希釈MS培地(組成:硝酸アンモニウム 412.5mg/l、硝酸カリウム 475mg/l、リン酸2水素カリウム 42.52mg/l、ヨウ化カリウム 0.21mg/l、なお、本培地に炭素源は添加されていない。)にて湿潤した発泡フェノール樹脂製多孔性支持体(スミザースオアシス社製、商品名:オアシス)に挿し付け、炭酸ガス濃度1000ppm、温度25℃、650〜670nmの波長成分と450〜470nmの波長成分とを8.2:1.8の割合で含む、光合成有効光量子束密度51.3μmol/m2/Sの赤色光照射下で2ヶ月間培養を行った。なお、このとき培養容器としては、最大寸法が縦10〜11.5cm×横10〜11.5cm×高さ10.0cm程度の、胴部がやや張出した形状の立方体のものを用いた。この培養容器の頂面には、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製膜(ミリポア社製、商品名:ミリシール)を貼り付けた円形開口部1個が設けられている。培養容器内の炭酸ガスの濃度は、培養容器外の炭酸ガスが培養容器の開口部の炭酸ガス透過性の膜より透過するため、培養容器の開口部の膜より透過した濃度(約1000ppm)であった。赤色光照射の培養容器への照射は、光照射装置として商品名:CCFL光源ユニット、メーカー名:日本医化器械製作所を用いて行った。また、培養容器をパラフィルムで封鎖する事により培養容器内の湿度の調整を行った。
【0141】
挿し穂は、この培養容器1個当たり16本を挿し付けた。挿し穂の供試数と、2ヶ月間培養後に発根したシュートの数(発根数)から、発根率を算出した。結果を表1−1および図1に示す。また、MA65を添加して栽培されたサンプルの、2ヶ月培養後の発根の様子を図2−2に示す。
【0142】
[比較例1]
不定根形成促進剤を添加しない培地を用いた以外は実施例1と同様にして培養を行った。結果を表1−1および図1に示す。また、化合物無添加で栽培されたサンプルの、2ヶ月培養後の発根の様子を図2−1に示す。
【0143】
[比較例2〜5]
本発明の不定根形成促進剤の代わりにブラシナゾール(Brz)1.0μM(比較例2)、パクロプトラゾール1.0μM(比較例3)、パクロプトラゾール0.1μM(比較例4)、パクロプトラゾール5.0μM(比較例5)、を添加した培地を用いた以外は実施例1と同様に培養を行った。結果を表1−2および図1に示す。
【0144】
【表1−1】

【0145】
【表1−2】

【0146】
表1−1、表1−2および図1から明らかなように、いずれの場合にも、無添加(図2−1)の場合と比較してユーカリの発根率が顕著に高まった。これらの発根率は、従来発根促進剤として知られていたBrzおよびパクロブトラゾールと比較しても高かった。特に、SEA13、MA65(図2−2)を用いた場合の発根率は90%前後であり、MA31、MA87、MA88、KSR179(トランス体)、SEA10、MA73を用いた場合には50%近くに達しており、いずれも顕著な発根率を示していた。
【0147】
[実施例13]
挿し穂の材料として、丸葉ユーカリを用いた以外は実施例11と同様にして培養を行った。結果を表2および図3に示す。
【0148】
[比較例6]
不定根形成促進剤を添加しない培地を用いた以外は実施例13と同様にして培養を行った。結果を表2および図3に示す。
【0149】
【表2】

【0150】
表2および図3から明らかなように、MA65を用いた場合には、無添加の場合と比較して丸葉ユーカリの発根率が顕著に高かった。
【0151】
[実施例14]
材料として、Tom Guilfoyleらによって作成された、オーキシン応答性プロモーター(DR5)およびレポーター遺伝子(β−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子)を導入した遺伝子組換えシロイヌナズナ(DR5::GUS)を用いた(Tom Guilfoyle et al.,The Plant Cell 9,pp 1963−1971,1997)。DR5::GUSはGUSの活性を指標としてオーキシンの蓄積量および、局在を観察するのに一般的に使われている。DR5::GUS種子を1%次亜塩素酸に5分間浸漬して滅菌し、滅菌水で5回洗浄した。次に、種子を1μMの化合物MA65、0.5倍に希釈されたMS培地および1.5%のショ糖を含んだ1%寒天培地上に播種しシャーレ内で無菌的に1週間生育させた。シロイヌナズナ組織を1.0mM 5−bromo−4−chloro−3−indolyl−β−glucuronide(XGluc)を含む反応液(50mMリン酸ナトリウム,pH7.0,メタノール)に浸漬し,脱気を行った後,37℃において24時間以上反応させた。その後、マイクロスコープ(キーエンス社製)にて、GUS活性を観察した。結果を図4−1および図4−2に示す。
【0152】
[比較例7]
化合物MA65を添加しない培地を用いた以外は実施例14と同様にして培養し、GUS活性を観察した。結果を図4−3および図4−4に示す。
【0153】
図4−1および図4−2では、GUS活性が植物体全体に強く見られるのに対し、図4−3および図4−4ではGUS活性が部分的で、活性も弱い。したがって、MA65を用いた場合には、細胞内のオーキシン量が増加していることがわかる。
【0154】
以上のことから、本発明の不定根発根促進剤は、優れた発根効果を発揮することが明らかとなった。また、本発明の不定根形成促進剤のうち化合物MA65は、オーキシン代謝(分解)の阻害によるオーキシン活性促進に関与していることが明らかとなった。
【0155】
[実施例15〜19]
挿し穂の材料として、ユーカリプタス・グロビュラス(Eucalyptus globulus、以下、単にE.グロビュラスと略記する。)を用いた。すなわち採穂母樹から、5〜20cmの長さ、節が1〜3節、葉が2〜6葉程度に伸長した穂木を切り出し、挿し穂を調製した。
【0156】
得られた挿し穂の基部を、KSR51(実施例15)、KSR122(実施例16)、KSR233(実施例17)、KSR221(実施例18)、KSR236(実施例19)を(それぞれ、特開2000−53657号公報、特許第3762949号公報、Zeitschriftfur Naturforschung,44c,pp.85−96,1989に記載された方法に準じて合成した)それぞれ1μM、銀イオン源としてSTS(AgS46)5μM、抗酸化剤としてアスコルビン酸50mg/l、および植物ホルモンとしてIBA2mg/lを添加した、4倍希釈MS培地(組成:硝酸アンモニウム 412.5mg/l、硝酸カリウム 475mg/l、リン酸2水素カリウム 42.52mg/l、ヨウ化カリウム 0.21mg/l、なお、本培地に炭素源は添加されていない。)にて湿潤した発泡フェノール樹脂製多孔性支持体(スミザースオアシス社製、商品名:オアシス)に挿し付け、炭酸ガス濃度1000ppm、温度25℃、650〜670nmの波長成分と450〜470nmの波長成分とを8.2:1.8の割合で含む、光合成有効光量子束密度51.3μmol/m2/Sの赤色光照射下で2ヶ月間培養を行った。なお、このとき培養容器としては、最大寸法が縦10〜11.5cm×横10〜11.5cm×高さ10.0cm程度の、胴部がやや張出した形状の立方体のものを用いた。この培養容器の頂面には、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製膜(ミリポア社製、商品名:ミリシール)を貼り付けた円形開口部1個が設けられている。培養容器内の炭酸ガスの濃度は、培養容器外の炭酸ガスが培養容器の開口部の炭酸ガス透過性の膜より透過するため、培養容器の開口部の膜より透過した濃度(約1000ppm)であった。赤色光照射の培養容器への照射は、光照射装置として商品名:CCFL光源ユニット、メーカー名:日本医化器械製作所を用いて行った。また、培養容器をパラフィルムで封鎖する事により培養容器内の湿度の調整を行った。
【0157】
挿し穂は、この培養容器1個当たり16本を挿し付けた。挿し穂の供試数と、2ヶ月間培養後に発根したシュートの数(発根数)から、発根率を算出した。結果を表3−1および図5に示す。
【0158】
[比較例8]
不定根形成促進剤を添加しない培地を用いた以外は実施例15と同様にして培養を行った。結果を表3−1および図5に示す。
【0159】
[比較例9〜12]
本発明の不定根形成促進剤の代わりにブラシナゾール(Brz)1.0μM(比較例9)、パクロプトラゾール1.0μM(比較例10)、パクロプトラゾール0.1μM(比較例11)、パクロプトラゾール5.0μM(比較例12)、を添加した培地を用いた以外は実施例15と同様に培養を行った。結果を表3−2および図5に示す。
【0160】
【表3−1】

【0161】
【表3−2】

【0162】
表3−1、表3−2および図5から明らかなように、いずれの化合物を添加した場合にも、無添加の場合と比較してユーカリの発根率が顕著に高まった。これらの発根率は、従来発根促進剤として知られていたBrzおよびパクロブトラゾールと比較しても高かった。特に、KSR51、KSR122、KSR221、KSE236を用いた場合には50%を超えており、いずれも顕著な発根率を示していた。
【0163】
[実施例20]
挿し穂の材料として、丸葉ユーカリを用いた以外は実施例18と同様にして培養を行った。結果を表4および図6に示す。
【0164】
[比較例13]
不定根形成促進剤を添加しない培地を用いた以外は実施例20と同様にして培養を行った。結果を表4および図6に示す。
【0165】
【表4】

【0166】
表4および図6から明らかなように、KSR221を用いた場合には、無添加の場合と比較して丸葉ユーカリの発根率が顕著に高かった。
【0167】
以上のことから、本発明の化合物は、優れた不定根形成促進効果を発揮することが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2−2)で表される化合物もしくはその塩を含む植物細胞分化促進剤。
【化1】

(一般式(2−2)中、R221は水素原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R222は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子であり、pは1〜5の整数である。)
【請求項2】
前記R221は臭化メチル基であり、前記R222はフッ素原子であり、前記pは2である、請求項1に記載の植物細胞分化促進剤。
【請求項3】
植物の不定根形成促進剤である、請求項1または2に記載の植物細胞分化促進剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の植物細胞分化促進剤を含有する、植物のシュートの発根用培地。
【請求項5】
植物のシュートを請求項1〜3のいずれか一項に記載の植物細胞分化促進剤の存在下栽培し、前記シュートから発根させる、クローン苗の生産方法。
【請求項6】
植物のシュートを請求項4に記載の発根用培地にて栽培し、前記シュートから発根させる、クローン苗の生産方法。
【請求項7】
一般式(2−2)で表される化合物もしくはその塩を用いて、植物細胞の分化を促進する方法。
【化2】

(一般式(2−2)中、R221は水素原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R222は水素原子、アルキル基またはハロゲン原子であり、pは1〜5の整数である。)
【請求項8】
前記細胞の分化が、植物の不定根の形成促進である、請求項7に記載の植物細胞の分化を促進する方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【公開番号】特開2013−47225(P2013−47225A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−186009(P2012−186009)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【分割の表示】特願2012−512098(P2012−512098)の分割
【原出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】