説明

細胞分析装置

【課題】細胞からの分泌物を時間的空間的分解能を持って計測する細胞分析装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、特定の標的分子と結合する機能を持った捕獲領域に標的分子を結合させ、その結果として発生する細管のイオン流のインピーダンス変化を継続して計測する機能と、上記、捕獲領域に結合した標的分子を一定の周期でリリースさせる手段を有する細胞分析装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学物質には多種多様なものがあり、それらの性質も多種多様であるので、物質ごとに色々な検出法が考案され利用されてきた。
【0003】
アミノ酸や糖の分離に最も一般的に用いられている方法として、液体クロマトグラフィーが挙げられる。この方法では、形状のバリエーションだけではなく、分離単体の種類や分離溶媒の種類が多様であるので、最適な条件下で実行することで多くの生化学物質や化学物質を分離することが可能である。あるいはこれに類似の技術で、溶液の搬送を電気浸透流で行う方法も利用されている。また、タンパク質やポリヌクレオチド(DNAやRNA)などの、電荷を持った高分子の分離には一般的に電気泳動が用いられる。電気泳動においても、分離単体の選択と、溶媒の選択(多くの場合、pHと静電力のコントロールを行う)により、一般的には、サイズの2%くらいまでの違いを識別し分離できる。あるいはチャージの違いで分ける等電点電気泳動では0.02pHの違いに対応する等電点の違いでタンパク質を分離できる。ポリヌクレオチドの分野で、DNAシーケンサーに用いられている技術では、類似配列のDNAに限れば、700bpと701bpのDNAを長さの差で分離することも可能である。
【0004】
遺伝子の発現を解析する方法として、リアルタイムPCR法やジーンチップと呼ばれる方法がある。リアルタイムPCR法では特定のmRNAの増幅速度から発現量を高感度で定量的に解析することが可能である。ジーンチップではチップ上での網羅的な解析ができる。
【0005】
タンパク質を最も高感度に解析する方法としてイムノアッセイが挙げられる。この方法は臨床検査にも応用されており、10−21mol/sampleほどの検出感度がある。また、イムノアッセイは化合物の検出にも用いられている。
【0006】
生化学研究の分野は、このような分離手段に支えられて発展してきた。生命の構成要素を成分ごとに分離し、それらの特性を明らかにすることで、生命現象全体が再構築できると考えられていたからである。近年のゲノム研究をはじめとするオーミクス研究では、生体の構成要因は遺伝子だけでも数万に及び、それ以外に、ゲノム情報によらずに関係し合う化学物質や物質間の相互作用は膨大な数にのぼることが明らかになりつつある。このため、生命現象は物質の複雑な相互作用の結果であるという古典的な解釈が再浮上している。
【0007】
細胞の膜表面では、細胞膜内外を隔てる脂質二重膜に点在するわずか数nmの膜タンパク質が、シグナル伝達の仲介、イオン種の選択的透過など、生命機能維持に重要な活動を行っている。このような細胞膜表面でのダイナミックな現象は、局所領域(数十nm2)において非常に短時間(数ms)に起こる。そのため、上記従来の計測技術には無い、優れた時空間分解能を有する測定技術が必要である。これについては全反射顕微鏡による単一分子測定や、パッチクランプ法によるイオンチャネルの評価など、新たな計測システムの登場が、多くの細胞表面現象の解明に貢献してきた。しかしこれらの手法においては、計測するための条件設定が特殊であり、任意の細胞からの分泌物の評価を特に長期間連続しておこなうには難点があった。
【0008】
細胞膜表面現象に対する新たなアプローチとして、走査型プローブ顕微鏡(SPM)が挙げられる。SPMは、微小な針でサンプル表面をなぞるように走査し、表面形状をイメージングする技術である。SPMの一種である原子間力顕微鏡(AFM)は、生細胞のin situでの形状測定が可能である。しかし、溶液中での分解能の低下が課題である。
【0009】
走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)は、イオン電流を利用し、溶液中のサンプルの形状測定を行うSPMである。1989年、ハンスマ(Hansma)らにより報告され(非特許文献1)、1997年、コルチェフ(Korchev)らにより培地中において生細胞の測定が行われた(非特許文献2)。プローブには、パッチクランプ法に用いられるガラスピッペト電極を使用する。2本の電極間に電圧を印加すると、ピペット先端部でのイオンの移動を律速とするイオン電流が観測される。イオン電流は、ピペットが試料に近接すると、イオンの移動が物理的に阻害され減少する。この変化を利用して、ピペットと試料との距離を一定に保つ。
【0010】
SICMの解像度はピペット先端開口径に依存し、これまで融点の高い石英キャピラリーを利用し、12.5 nmの開口径のピペットが報告されている(非特許文献3)。しかし、ピペットの微細化により、イオン電流が微小(数pA)となり、安定した制御が困難となる。そこで、ロックインアンプによりイオン電流をフィルタリングし、安定したシグナルの取得に成功している(非特許文献4)。これらの工夫により、生細胞膜表面についてナノスケールの経時的表面観察が可能となり、膜貫通タンパク質やタンパク質複合体の分布や移動の様子が観察された(非特許文献3)。
【0011】
SICMの特徴は、液中において非接触で細胞の形状測定が可能な点にある。この際に、細胞の高さ情報を取得すると同時に、プローブを試料に最近接させる。これらの特徴は、他の分析システムと組み合わせることでより有効に活用できる。例えば、共焦点顕微鏡は高さ方向の分解能が非常に高いが、焦点を常に細胞表面に合わせることは困難である。そこでSICMにより得られた細胞表面の高さ情報を利用し、細胞表面の蛍光測定を行う走査型表面共焦点顕微鏡が開発された。この技術を用いて、イオンチャネルや受容体の局在化した200 nmほどの窪み(エンドサイトーシスピット)の蛍光観察が細胞の形状イメージングとともに行われた(非特許文献5)。また、走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)との融合も試みられた。従来のSNOMでは、生細胞表面の非接触走査は不可能であった。そこで、金属コーティングしたピペット内にレーザー光を導入し、細胞にプローブを近接させた状態で、近接場光学測定が行われた。この測定では、一度に形状と高分解蛍光のイメージを取得できる(非特許文献6)。さらに、SICMではイメージングだけでなく、インジェクターとしての利用も可能である。ピペット内に充填した酵素やDNAのインジェクション量を、Ag/AgCl電極に対する印加電圧により高精度数(4000 molecules/s)でコントロールした(非特許文献7)。また、局所的に薬剤を放出することで、特定の細胞にのみ薬剤を投与できる。パッチクランプとSICM技術の融合も試みられている。その手法には、2種類ある。1つは、SICMの形状情報を利用し、任意の局所領域にパッチクランプを行うスマートパッチ(Smart patch)である(非特許文献8)。心筋細胞の樹状突起やはっきりと構造を確認できない筋細胞の横行管などパッチクランプの困難な細胞の測定を行った。もう1つの手法は、イオンチャネルのマッピングである(非特許文献9)。パッチピペットで細胞全体のチャネルの計測を行うホールセル状態を形成し、スキャンピペットで特定のイオンを放出しながら形状測定を行う。この際に、バス中には、特定のイオンを除いておく。スキャンピペットがイオンチャネル上に来たときに、パッチピペットによりイオン電流が観測される。この手法により、細胞表面のどの部分にどのようなイオンチャネルが分布しているか観察可能となった。
【0012】
しかし、上記技術は、既知のイオンの細胞表面での応答に対する検出を超えて、細胞表面から分泌されるさまざまな物質を同定しながら時空間分解能を持って計測する技術とはなっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】P. K. Hansma, et al, Science, 243, 641 (1989)
【非特許文献2】Y. E. Korchev, et al. Biophys. J., 73, 653(1997)
【非特許文献3】AI Shevchuik, et al. Angew. Che. Int. Ed. 45, 2212(2006)
【非特許文献4】AI Shevchuk, et al. Biophys. J., 81, 1759(2001)
【非特許文献5】AI Shevchuk, et al. Pflugers Arch - Eur J Physiol, 456, 227 (2008)
【非特許文献6】Y. E. Korchev, et al. Biophys. J., 78, 2675 (2000)
【非特許文献7】A Bruckbauer, DJ Zhou, LM Ying, et al. J. Am. Chem. Soc., 125, 9834(2003)
【非特許文献8】J. Gorelik, YC. Gu, HA. Spohr, et al. Biophys. J., 83, 3296(2002)
【非特許文献9】Y. E. Korchev, YA. Negulyaev, CRW. Edwards, et al. Nat. Cell Biol., 2, 616(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の分離方法のうち、クロマトグラフィーでは担体と溶媒界面における媒質の分配に依存し、電気泳動では担体と媒質の相互作用の度合いにより分離を行う。このため、分離する媒質の分子数が少ないと、媒質が担体に吸着されてしまい、回収できないことが頻繁に起きる。クロマトグラフィーや電気泳動の担体体積と表面積を小さくすることである程度解決できるが、分離する試料体積も少なくする必要があり、限界がある。この限界に挑んでいるのがナノクロマトグラフィーやナノ電気泳動である。分子数が数分子まで少なくなると、吸着の問題以外にも、確率論的なエラーも増えるので確実に分子を分離することが更に難しくなる。特にクロマトグラフィーは統計的に十分な分子が統計的に十分な数の相互作用席とインタラクションすることを前提としており、分離すべき分子の数が少なくなったからといって担体の相互作用席すなわちカラム表面積を少なくしたのでは、分離すべき分子と担体の相互作用席の衝突確率が低下してしまい、分離が不正確になる。また、電気泳動においても、分離すべき分子数が少なくなっても電気泳動路を短くすることはできない。さらに上記一連の技術は、細胞から実時間で分泌される物質を、その分泌時間と量という時間情報、そしてどの細胞から放出されたかという1細胞レベルでの空間情報を保った形で計測することは原理的に困難となっている。
【0015】
また、生化学物質の場合、それを高純度に精製するのが必ずしも適切であるとは限らない。多くの場合、ある生化学物質は他の特定の物質と共同作業を行っており、それらを分離してしまうと本来の能力を発揮しないことがよくある。
【0016】
遺伝子の解析方法においては、リアルタイムPCR法では基本的に少ない種類の解析では威力を発揮できるが、網羅的に解析することは困難である。これに対し、ジーンチップではPCR過程を経るために定量的な解析は困難である。また、イムノアッセイにおいても、高感度ではあるが、タンパク質では増幅が不可能で一分子を定量的に解析するのは難しく、高集積化も困難である。
【0017】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解消し、単に生化学物質を分離、検出するという観点だけではなく、細胞の機能を明らかにするため、細胞に対して活性のある極小数の分子の時間的な変化量を計測し、1細胞レベルでの空間分解能を持って機能追跡が可能な形で分離する、新しい技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような状況に鑑み、本発明者らは、細胞から分泌される生体分子を、その物質が何であるかを高精度に同定し、同時に、時間分解能と空間分解能を持った形で定量的に計測することができる方法および装置を提供する。本発明者らは、特定の細胞から分泌される極微量の分泌物の同定が、この分泌物の中の特定の標的分子と特異的な結合をし、かつ、熱または交流電場を加えることで、繰り返し何度でも分子との結合強度を可逆に変化させることが可能であり、それによって結合した分子を一定の周期でリリースし、その後に、リリース前と全く同様に分子と特異的な結合をすることができる機能を有する捕獲物質を固定した微小な結合領域を持つ細管表面または細管近傍に配置されたチップ表面を利用して実現できることを見出した。
すなわち、本発明者らは、このような細管表面またはチップ表面(捕獲領域)に特定の分泌物を捕獲することができる捕獲物質を固定し、この捕獲物質と特定の分泌物との特異的結合によって細管を流れるイオン流のインピーダンスの変化を検出し、かつ、一定時間のインターバルで表面に結合した分泌物を除去して初期状態に戻すことを繰り返すことで、特定の分泌物の存在を継続して計測し同定する手法および装置、あるいは表面に結合した分泌物を表面に固定した物質からリリースし、リリースされる分泌物の総量を計測することで、特定の分泌物の存在を継続して計測し同定する手法および装置を開発した。
【0019】
すなわち、本発明は、以下の装置システムおよび方法を提供する。
【0020】
[1]細胞からの分泌物中の標的分子を測定する細胞解析装置システムであって、
標的分子を分泌する細胞および緩衝液を保持するための容器と、
上記容器内の上記緩衝液に一方の開口部が接するように配された細管であって、該細管内に上記緩衝液を通過させてその通過する該緩衝液中の上記標的分子の量的変化を計測する手段を備えた細管と、
上記細管の上記緩衝液に接する上記開口部近傍に配された、上記標的分子を特異的に結合する標的分子結合表面を備えた捕獲領域と、
上記捕獲領域に関連して配された、上記標的分子結合表面に結合した上記標的分子を一定時間の周期でリリースする手段とを備え、
上記標的分子の量的変化を計測する手段が、以下の(i)〜(iii):
(i) 上記標的分子結合表面に上記標的分子が結合することによって変化する上記細管内外のインピーダンスの変化または光散乱もしくは光吸収を含む光強度の変化を測定すること、
(ii) 上記リリースする手段により上記標的分子結合表面から上記標的分子がリリースされることによって生じる上記細管内外のインピーダンスの変化または光散乱もしくは光吸収を含む光強度の変化を計測すること、または
(iii) 上記細管を上記標的分子が通過することによって生じる上記細管内外のインピーダンスの変化を計測すること、
のいずれかまたはその組合せによって上記標的分子数を計測する、細胞解析装置システム。
[2]上記容器内に一個の細胞、または複数の細胞が2次元に平面上に培養され保持されている、上記[1]に記載の装置システム。
[3]上記標的分子結合表面が、1細胞レベルのサイズである、上記[1]または[2]に記載の装置システム。
[4]さらに、上記標的分子結合表面および上記細管の位置を1細胞レベルの空間分解能で3次元的に調節することが可能な位置制御手段を備える、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の装置システム。
[5]上記標的分子結合表面に、上記標的分子と特異的な結合能力を持ったDNAもしくはRNAまたはこれらに硫黄イオンを付加して酵素による分解を抑制した核酸鎖断片の一端が固定されている、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の装置システム。
[6]上記標的分子結合表面に、上記標的分子と特異的な結合能力を持った抗体の一端が固定されている、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の装置システム。
[7]上記標的分子結合表面に、上記標的分子と特異的な結合能力を持った高分子(macromolecule)の一端が固定されている、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の装置システム。
[8]上記標的分子結合表面に結合した上記標的分子を一定時間の周期でリリースする手段が、上記表面を加熱する手段を含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の装置システム。
[9]上記加熱手段として電気抵抗によって上記表面を発熱させる手段を含む、上記[8]に記載の装置システム。
[10]上記加熱手段として、上記表面の加熱したい領域に光吸収が他の領域より高い物質からなり、ここへの光吸収によって上記表面を発熱させる手段を含む、上記[8]に記載の装置システム。
[11]上記標的分子結合表面に結合した上記標的分子を一定時間の周期でリリースする手段が、上記表面に高周波電場を印加する手段を含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の装置システム。
[12]上記緩衝液を通過させてその通過する該緩衝液中の上記標的分子の量的変化を計測する手段が、上記細管を通過するイオン電流の電気的インピーダンス変化を計測することによって上記細管を通過する上記標的分子数を計測する手段である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の装置システム。
[13]上記緩衝液を通過させてその通過する該緩衝液中の上記標的分子の量的変化を計測する手段が、上記標的分子が上記細管を通過するときに発生する光学的散乱または吸収の量的変化を計測することによって上記細管を通過する上記標的分子数を計測する手段である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の装置システム。
[14]上記標的分子結合表面を備えた上記捕獲領域が、2つ以上の複数の上記標的分子について、それぞれについて1領域として複数の領域が基板上に配置されたものであり、かつ、各領域に各々独立して熱を発生させて、1領域単位で上記標的分子をリリースする手段を備える、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の装置システム。
[15]細胞からの分泌物の時間的空間的分解能を持った定量解析方法であって、
細胞からの分泌物のうち標的分子のみを微小領域に固定する工程、
上記標的分子が固定されたことを経時的に定量的に検出する工程、
上記微小領域に結合した上記標的分子を、一定の時間周期で該微小領域からリリースする工程、
を含み、
上記細胞からの分泌物を同定する、解析方法。
[16]細胞からの分泌物の時間的空間的分解能を持った定量解析方法であって、
細胞からの分泌物のうち標的分子のみを微小領域に固定する工程、
上記微小領域に結合した上記標的分子を、一定の時間周期で微小領域からリリースする工程、
リリースされた物質の量を定量的に計測する工程、
を含み、
上記細胞からの分泌物を同定する、解析方法。
[17]上記微小領域に結合した上記標的分子をリリースするために一定の時間周期で、上記標的分子がリリースされる最短の時間だけ熱を加える工程を含む、上記[15]または[16]に記載の方法。
[18]上記微小領域に結合した標的分子をリリースするために一定の時間周期で、上記標的分子がリリースされる最短の時間だけ高周波電場を加える工程を有する、上記[15]または[16]に記載の方法。
[19]上記標的分子の量を見積もるために上記細管を通過するイオン電流のインピーダンス変化計測を用いる、上記[15]または[16]に記載の方法。
[20]上記標的分子の量を見積もるためにリリースされた上記標的分子の光学的散乱または吸収などの光学的強度変化計測を用いる、上記[15]または[16]に記載の方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、細胞から分泌される極微量の標的物質を、時間的かつ空間的分解能を持って定量的に長期間連続計測しながら識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の細胞分析装置の一例を概念的に示す模式図である。
【図2】本発明の細胞分析装置の一例を概念的に示す模式図である。
【図3】検出される標的物質の時間的計測結果の例を模式的に示す模式図である。
【図4】複数の特定物質の結合領域を持つ基板表面の一例を概念的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、一実施形態において、細胞から分泌される生体分子である標的物質を時間的かつ空間的分解能を持って継続的に長期間計測する細胞分析装置システムを提供する。この装置システムは、典型的には、
(1)標的物質を選択的に固定する表面を持つ細胞分泌物の空間分布を見積もるのに十分な小さな捕獲領域を持つ固定層、
(2)捕獲領域に結合した標的物質の量を時間的な変化として計測する手段、
(3)時間的に特定の周期で繰り返し上記捕獲領域に結合した標的物質をリリースする手段、
(4)上記、捕獲領域の位置を特定の細胞の分泌物計測を可能にするために3次元で位置の制御することができ、かつ、その位置を計測中は維持することができる手段を備える。
本明細書において、「生体分子」とは、核酸、mRNAなどのRNA、アミノ酸、ジペプチド、トリペプチドなどのオリゴペプチド、タンパク質などのポリペプチド、単糖、2単糖やオリゴ糖、多糖類などの糖類、ステロイドなどのホルモン類、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどの神経伝達物質、そのほか内分泌攪乱剤、各種薬剤、カリウム、ナトリウム、塩化物イオン、水素イオンなど生命現象にかかわる任意の生化学物質を指す。
【0024】
上記(2)の標的物質の量の時間的変化を計測する手段として、
(2−1)標的物質が捕獲領域に結合することで変化するイオン電流量または光散乱光もしくは吸収などの光強度変化を計測する手段、
あるいは
(2−2)捕獲領域に結合した標的物質を(3)の手段によってリリースするときに、そのリリースされた物質の量を、リリース直後のイオン電流量または光散乱もしくは光吸収などの光強度変化を計測することで見積もる手段、
の2つの手段のいずれか、あるいはその両方を用いることができる。
【0025】
特にイオン電流量の計測については、ガラス等の細管の先端を利用して計測することが有用である。すなわち、細管の先端の内径が標的物質に対して十分そのサイズに近い細い直径である場合には、細管を物質が通過することで、一時的に管の内外のインピーダンスが増大することによって、物質の通過を容易に電気的に計測することができるだけでなく、たとえば、その細管の先端近傍に、上記、可逆に標的物質をリリースできる機能を有する捕獲領域が配置されていれば、この場合は、物質の通過ではなく、捕獲領域に標的物質が結合することによって先端の直径が見かけ上小さくなり、その結果、インピーダンスの増加量を見積もることができる。
【0026】
あるいは、エバネッセント光などの微量の標的物質の存在を光学強度によって計測することで、上記、インピーダンス計測と同様に、標的物質の捕獲領域への結合量の増大、あるいは、捕獲領域からのリリースによって一斉に放出される標的物質の量の定量的計測が可能である。
【0027】
さらに、(3)の一定のインターバルで捕獲領域に結合した標的物質をリリースして結合領域表面をリセットすることで、新たに標的物質の結合を繰り返し行うことができるが、この結合領域を、2次元マトリックス状に複数の領域に分割して、各分割領域にそれぞれ特定の物質に対して特異的な結合を行うように加工した領域範囲を複数作り、結合した標的物質をリリースするタイミングを各領域ごとに別時間で対応させて、それぞれのリリース量を見積もることによって、複数の標的物質の量を定量的に計測することができる。
【0028】
また、(3)の標的をリリースする手段として、熱的手段を用いる場合は、DNA鎖をプローブとして用いることによって、核酸成分については相補鎖で、たんぱく質等の物質についてはDNAの立体構造をDNAアプタマーとして用いることで常温では特異的結合プローブとなり、加熱することによってDNAプローブの熱変性によって標的物質はリリースされるが、捕獲領域が常温に戻れば、DNA鎖は変性することなく標的プローブの機能を復活させる。あるいは、高周波電場を加えると、DNA鎖はその性質によって、立体構造を解除して直線状に伸長し、熱変性と同様な形状変化を実現するが、高周波電場を解除すれば、やはり熱と同様に変性することなく標的プローブの機能を復活させる。また、抗体を標的プローブとして用いる場合であっても、加熱または高周波電場によって標的物質との結合能が低下することから標的物質をリリースすることができる。また、強い直流電場によって標的物質を計測用の細管に引き寄せれば、結合力が十分に弱い場合は、リリースさせて計測することが可能である。
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施形態をより詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲がこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
図1は本発明のうち電気特性を利用した細胞分析装置の実施例のひとつを示す概念図である。細管(例えば、ガラス製)101において、検出部である細管先端開口部の直径は100〜150nm前後に絞られ、また肉厚も薄いものとされている。細管の先端開口部以外の肉厚は太くても良い。細管101の先端部分を細くする方法は既存の方法で十分対応できる。たとえば、高周波加熱しながらフューズドシリカチューブを伸ばすことで先端部分を細くすると同時に先端部の肉厚を薄いものにできる。
【0031】
細管101の検出部開口の手前には、加熱用電極105が配置されており、その表面には標的分子を特異的に結合する捕獲領域108が配置されている。加熱用電極105は、捕獲領域108の表面に結合した標的分子をリリースする際に標的分子を加熱するために用いられる。捕獲領域108は、細管101の開口部先端部に、例えば、金薄膜層などを蒸着させる(例えば、スパッタリング、真空蒸着、ゾル・ゲル法、クラスタービーム法、PLDなどを用いて)ことで設けることができる。あるいは、表面に金薄膜の皮膜を形成した微小な基板(例:ガラス基板)を細管101開口部近傍に設けることで作製することができる。あるいは、マイクロプリンティング法などの微細プリンティング技術を用いて、ガラス製の微小管あるいはその近傍の、標的分子がリリースしたときに微小管に分子が誘導される場所に配置された微小領域に、捕獲領域をガラス表面に直接、シランカップリング等の固定法で固定しても良い。あるいは、固定化酵素のように、標的分子と特異的に結合する能力を持った微小固体を捕獲領域に合う形状に加工して、これを直接配置しても良い。
【0032】
緩衝液を入れた、細胞培養されている容器104で、細胞109から被検出対象の標的分子106と、標的分子とは異なる分泌分子107が試料溶液に分泌される。細管101内にも緩衝液を充填し、細管101の検出開口部を容器104に入れる。細管101の検出開口と反対側の端からは、一定の速度で吸引できるような機構を持つ。吸引する手段としてはシリンジポンプ等を用いると吸引圧力がより均一で良い。
【0033】
細管101内部と容器104中に計測用電極102を配置し、この間に一定の電圧をかけておく。そして、検出装置103によって電流値をリアルタイムで測定する。
【0034】
捕獲領域108について、mRNAを被検出対象分子とした場合の処理の一例を示す。被検出対象である標的mRNAと、この標的mRNAの特異的配列で異なる配列部分を認識するための相補的一本鎖DNAを認識分子プローブとする。一本鎖DNAである認識分子を認識素子担体である捕獲領域108に固定化させる方法としては、一本鎖DNAを化学合成にて取得し、合成時に3’もしくは5’末端にSHを導入しておき、捕獲領域表面に薄く蒸着した金薄膜層とAu-S結合にて固定化する。あるいは、一本鎖DNAである認識分子を固定化する方法として、捕獲領域108表面にアビジンもしくはストレプトアビジンをコートしておき、一本鎖DNAの3’もしくは5’末端にビオチンを導入したものをアビジン−ビオチン相互作用にて固定化する方法でもよい。また、化学結合による固定化方法として、カルボキシル基を末端に持つアルカンチオール化合物が捕獲領域表面に修飾しているものを用いる方法がある。カルボキシル基をカルボジイミドで活性エステルの形にした後、3’もしくは5’末端にアミノ基を導入してある一本鎖DNAをアミド結合にて固定化する。アルカンチオール化合物を金微粒子に修飾する方法は、Langmuir 15, 66-76(1999)記載の論文「Water-Soluble, Isolable Gold Clusters Protected by Tiopronin and Coenzyme A Monolayers」記載中の方法を用いて調整することができる。この他の固定化方法は以下のような例が挙げられる。
【0035】
(i)アルデヒド結合:認識物質一本鎖DNAの3’もしくは5’末端にアルデヒド基を導入したものを用意する。カルボキシル基表面の上記捕獲領域表面を用意し、カルボキシル基をカルボジイミドで活性エステルの形にした後、ヒドラジンを反応させる。この捕獲領域表面と3’もしくは5’アルデヒド基一本鎖DNAを反応させる。
【0036】
(ii)ジスルフィド結合:3’もしくは5’末端にアミノ基を導入した認識物質一本鎖DNAにN-(8-Maleimidocapryloxy)sulfosuccinimideのような2価性試薬を反応させてSH基と反応するマレイイミド基を一本鎖DNA末端に導入する。捕獲領域表面にSH基の導入したものを調整する。SH基の導入は、NH2表面の金微粒子に2−イミノチオランを用いて捕獲領域表面のアミノ基を修飾しSH基を導入する。マレイイミド基を導入した一本鎖DNAをSH基表面の常磁性粒子をpH7で混合することで反応させる。
【0037】
ここではDNA鎖を標的分子が核酸成分の場合の結合という例で示したが、1本鎖DNAは立体構造をとり、この構造をきちんと制御することによって抗体と同様なたんぱく質等と高い特異的な親和性を持った標的プローブとなることが知られている。DNA鎖をDNAアプタマーとして標的プローブとして用いる場合には、上記、DNA鎖の捕獲領域への結合の方法とまったく同様の方法を用いればよい。また、RNAなどの他の核酸鎖をプローブとして用いても良い。その場合についても、DNAと同様に扱うことができる。さらに、DNA鎖およびRNA鎖については、血清培地など細胞培養液中に核酸鎖分解酵素が含まれる場合があるため、たとえば上記DNAまたはRNAなどの核酸鎖について、その側鎖の一部に硫黄等の別イオンを付加した核酸鎖を用いることで核酸分解酵素による分解を抑制してもよい。また、抗体をプローブとして用いる場合は、上記結合方法のうち、たとえば抗体たんぱく質のアミノ基と捕獲領域表面との結合を利用すれば同様に抗体を捕獲領域に結合させることができる。
【0038】
実際の細胞分泌物の計測においては、培養容器の底面に培養されている細胞109に対して、計測する細管101は3次元にその先端の位置を移動させ、ドリフトが起きない形で希望する位置に細管101の先端を固定して計測することで、細胞表面のさまざまな位置における細胞分泌物の計測を行うことができる。また、このとき細胞109は、孤立した1細胞の培養細胞であっても、2次元に平面状に展開している細胞集団であっても、あるいは、培養液中で培養されている細胞塊の表面の細胞であってもよい。
【0039】
本実施例では、細管101の先端に、標的分子を結合させる捕獲領域108を配置することで、標的分子が捕獲されることによって細管を通過するイオン電流のインピーダンスが増加することを経時的に計測することができる装置システムとなっている。捕獲領域に結合した標的分子の計測も、電源1051から周期的に標的分子がリリースされる最短の時間でのパルス電圧の印加によって標的分子がリリースされ、これが細管に誘導されることで計測することができる。ここで電源1051からの周期的なパルス電圧の印加は、一定の時間周期で行っても良いが、特に細胞からの分泌物のリリースがダイナミックに変化する場合は、上記、細管のインピーダンスを計測しておき、一定のインピーダンスを超えたところで、適宜、パルス電圧を印加することで、計測する標的分子量の計測に対する飽和を防いでも良い。
【0040】
また、この例では、電極108には、本実施例では電流を流すことによってジュール熱を発生させて加熱をして標的物質のリリースを行うが、電極108に1MHz程度の高周波電場を印加しても良い。高周波電場を印加することで、DNA鎖やたんぱく質鎖は伸長することが知られており、これによって熱変性によってDNA鎖の立体構造をリリースするのと同様な効果が得られる。
【0041】
また、電極102にパルス的に強い電場を印加して、捕獲領域に捕獲された標的分子を強制的に引き寄せて、細管のインピーダンス変化によって計測することも可能である。
【0042】
(実施例2)
図1の装置システムにおいて、捕獲領域108を細管入り口に配置し、標的分子の捕獲領域への結合によって細管のインピーダンス変化を計測する実施例の一つを示したが、図2は、細管入り口近傍に、捕獲領域1081を配置し、ここへの標的分子の結合は細管のインピーダンス変化をもたらさないが、周期的な捕獲領域からの標識分子のリリースによって、細管のインピーダンスが急激に変化することで、この変化量から、捕獲領域に結合していた標的分子の量を見積もる手法の一例を示したものである。また、技術面についても、捕獲領域表面の加熱手段として図1の場合には、電気的な加熱手段を用いたのに対して、図2では光吸収を用いた場合の一例を示している。ここでは、細管が光伝導性を持っていることを利用して、細管101に、外部から加熱用赤外レーザー光源201の光を光ファイバー202によって導入し、上記、加熱用赤外レーザー光源からの波長の光に強い吸収特性を持つ素材からなる、捕獲領域1081において熱を発生させることで、捕獲領域1081に結合した標的分子をリリースするものである。例えば、利用する加熱用波長として、水やたんぱく質の吸収が無い1064nmのレーザーを用い、捕獲領域には、可視光領域で吸収が無く、かつ1064nmに対しては強い吸収を持つITOを用いればよい。特に可視光領域でも吸収があっても良い場合には、捕獲領域にはクロム等の金属酸化物の層を付加すれば、これが強い吸収を持って、これら吸収層を持つ領域のみで特異的に光が熱に効率的に変換される。このような捕獲領域1081は、細管101の開口部先端部にITO、金属酸化物などを蒸着させる(例えば、スパッタリング、真空蒸着、ゾル・ゲル法、クラスタービーム法、PLDなどを用いて)ことで設けることができる。あるいは、表面にITOや金属酸化物の皮膜を形成した微小な基板(例:ガラス基板)を細管101開口部近傍に設けることで作製することができる。
【0043】
また、図2では、電気的インピーダンス変化による計測に加えて、光散乱または光吸収などの光強度変化によって標的物質の計測が可能である。例えば、本実施例では、同様に細管に可視光領域のレーザー光をレーザー光源203から光ファイバー204を経由して導入し、細管の先端部にエバネッセント領域を構築することができれば、ここを標識微粒子を含む任意の微粒子が通過するたびに光学レンズ205を経由して光検出器206で散乱光を検出することができる。
【0044】
図3は、電気的特性として図1および図2の検出用電極102間に一定の電圧をかけておき、電流の変化を検出した場合の概念図を示す。まず図1のような装置システム構成の場合には、被検出対象物質である標的mRNAやその他の標的分子が導入された場合(開始点は鏃301、終了点は白抜き鏃302)、検出部である細管先端開口部を通過するイオン電流が標的分子の捕獲領域への結合によって徐々に減少する(グラフ311から314)。特に細胞からの分泌物が多い場合であるグラフ314においては、捕獲領域のリフレッシュ(結合標的分子のリリース、リリース点は破線303)前に、結合が飽和をしてしまうため、飽和に近づいたことをインピーダンスで計測できたところで、任意のタイミングでリリースをかける必要がある。他方、図2のような装置構成の場合には、グラフ(321から324)に示しているように、パルス電圧またはパルスレーザー加熱後にリリースされた標的分子の量を、光学強度の変化、または電気インピーダンスの変化のピークの高さもしくは増加の傾きの大きさの違いで見積もることができる。特にこの手法の場合には、事前に捕獲領域での結合が飽和量に達したかどうかは判別できないことに注意が必要である。
【0045】
図4は、捕獲領域に複数の分割領域を作成し、これら各領域に、異なる標的結合領域を作成し、かつ、この各領域に、おのおの独立して標的分子をリリースできる機構を加えたものの一例を模式的に示したものである。このような構成を用いると、各結合領域では、それぞれ1つの標的物質を選択的、かつ特異的に捕獲できるため、同一時間で複数のターゲット分子を捕獲し、その後、各捕獲領域から領域ごとにリリースを行うことで、細管そのものが物質の識別機能を有していなくても、単に通過する物質の量を定量的に計測できれば、複数の標的物質の定量的な計測は可能となる。具体的には、捕獲領域の基板401上に、複数の異なるそれぞれ単一種類の標的分子と結合する領域402を配置する。ここで、各捕獲領域402には、標的分子との結合部分403が、熱発生をする領域上に配置されており、かつ、この各熱発生領域には、ジュール熱を発生させるために電流が各領域単位で流れる配線404が配置されている。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、細胞から分泌される微量の標的物質を時間経過ならびに細胞単位の空間分解能で解析するめに有用である。
【符号の説明】
【0047】
101 細管
102 計測用電極
103 検出装置
104 容器
105 加熱用電極
1051 電源
106 検出対象の標的分子
107 標的分子とは異なる分泌分子
108 捕獲領域
1081 捕獲領域
109 細胞
201 加熱用赤外レーザー光源
202,204 光ファイバー
203 レーザー光源
205 光学レンズ
206 光検出器
301 細胞からの分泌開始時間
302 細胞からの分泌終了時間
303 捕獲領域からの標的分子のリリースの時間
311、312、313、314 グラフ
321、322、323、324 グラフ
401 基板
402 捕獲領域
403 標的分子との結合部分
404 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞からの分泌物中の標的分子を測定する細胞解析装置システムであって、
標的分子を分泌する細胞および緩衝液を保持するための容器と、
前記容器内の前記緩衝液に一方の開口部が接するように配された細管であって、該細管内に前記緩衝液を通過させてその通過する該緩衝液中の前記標的分子の量的変化を計測する手段を備えた細管と、
前記細管の前記緩衝液に接する前記開口部近傍に配された、前記標的分子を特異的に結合する標的分子結合表面を備えた捕獲領域と、
前記捕獲領域に関連して配された、前記標的分子結合表面に結合した前記標的分子を一定時間の周期でリリースする手段とを備え、
前記標的分子の量的変化を計測する手段が、以下の(i)〜(iii):
(i) 前記標的分子結合表面に前記標的分子が結合することによって変化する前記細管内外のインピーダンスの変化または光散乱もしくは光吸収を含む光強度の変化を測定すること、
(ii) 前記リリースする手段により前記標的分子結合表面から前記標的分子がリリースされることによって生じる前記細管内外のインピーダンスの変化または光散乱もしくは光吸収を含む光強度の変化を計測すること、または
(iii) 前記細管を前記標的分子が通過することによって生じる前記細管内外のインピーダンスの変化を計測すること、
のいずれかまたはその組合せによって前記標的分子数を計測する、細胞解析装置システム。
【請求項2】
前記容器内に一個の細胞、または複数の細胞が2次元に平面上に培養され保持されている、請求項1に記載の装置システム。
【請求項3】
前記標的分子結合表面が、1細胞レベルのサイズである、請求項1または請求項2に記載の装置システム。
【請求項4】
さらに、前記標的分子結合表面および前記細管の位置を1細胞レベルの空間分解能で3次元的に調節することが可能な位置制御手段を備える、請求項1〜3のいずれかに記載の装置システム。
【請求項5】
前記標的分子結合表面に、前記標的分子と特異的な結合能力を持ったDNAもしくはRNA、またはこれらに硫黄イオンを付加して酵素による分解を抑制した核酸鎖断片の一端が固定されている、請求項1〜4のいずれかに記載の装置システム。
【請求項6】
前記標的分子結合表面に、前記標的分子と特異的な結合能力を持った抗体の一端が固定されている、請求項1〜4のいずれかに記載の装置システム。
【請求項7】
前記標的分子結合表面に、前記標的分子と特異的な結合能力を持った高分子(macromolecule)の一端が固定されている、請求項1〜4のいずれかに記載の装置システム。
【請求項8】
前記標的分子結合表面に結合した前記標的分子を一定時間の周期でリリースする手段が、前記表面を加熱する手段を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の装置システム。
【請求項9】
前記加熱手段として電気抵抗によって前記表面を発熱させる手段を含む、請求項8に記載の装置システム。
【請求項10】
前記加熱手段として、前記表面の加熱したい領域に光吸収が他の領域より高い物質からなり、ここへの光吸収によって前記表面を発熱させる手段を含む、請求項8に記載の装置システム。
【請求項11】
前記標的分子結合表面に結合した前記標的分子を一定時間の周期でリリースする手段が、前記表面に高周波電場を印加する手段を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の装置システム。
【請求項12】
前記緩衝液を通過させてその通過する該緩衝液中の前記標的分子の量的変化を計測する手段が、前記細管を通過するイオン電流の電気的インピーダンス変化を計測することによって前記細管を通過する前記標的分子数を計測する手段である、請求項1〜4のいずれかに記載の装置システム。
【請求項13】
前記緩衝液を通過させてその通過する該緩衝液中の前記標的分子の量的変化を計測する手段が、前記標的分子が前記細管を通過するときに発生する光学的散乱または吸収の量的変化を計測することによって前記細管を通過する前記標的分子数を計測する手段である、請求項1〜4のいずれかに記載の装置システム。
【請求項14】
前記標的分子結合表面を備えた前記捕獲領域が、2つ以上の複数の前記標的分子について、それぞれについて1領域として複数の領域が基板上に配置されたものであり、かつ、各領域に各々独立して熱を発生させて、1領域単位で前記標的分子をリリースする手段を備える、請求項1〜4のいずれかに記載の装置システム。
【請求項15】
細胞からの分泌物の時間的空間的分解能を持った定量解析方法であって、
細胞からの分泌物のうち標的分子のみを微小領域に固定する工程、
前記標的分子が固定されたことを経時的に定量的に検出する工程、
前記微小領域に結合した前記標的分子を、一定の時間周期で該微小領域からリリースする工程、
を含み、
前記細胞からの分泌物を同定する、解析方法。
【請求項16】
細胞からの分泌物の時間的空間的分解能を持った定量解析方法であって、
細胞からの分泌物のうち標的分子のみを微小領域に固定する工程、
前記微小領域に結合した前記標的分子を、一定の時間周期で微小領域からリリースする工程、
リリースされた物質の量を定量的に計測する工程、
を含み、
前記細胞からの分泌物を同定する、解析方法。
【請求項17】
前記微小領域に結合した前記標的分子をリリースするために一定の時間周期で、前記標的分子がリリースされる最短の時間だけ熱を加える工程を含む、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記微小領域に結合した標的分子をリリースするために一定の時間周期で、前記標的分子がリリースされる最短の時間だけ高周波電場を加える工程を有する、前記請求項15または16に記載の方法。
【請求項19】
前記標的分子の量を見積もるために前記細管を通過するイオン電流のインピーダンス変化計測を用いる、請求項15または16に記載の方法。
【請求項20】
前記標的分子の量を見積もるためにリリースされた前記標的分子の光学的散乱または吸収などの光学的強度変化計測を用いる、請求項15または16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−10664(P2012−10664A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152412(P2010−152412)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(504296024)一般社団法人オンチップ・セロミクス・コンソーシアム (39)
【Fターム(参考)】