説明

細胞分裂を観察するデバイスおよび方法

本発明は、細胞分裂、特に細胞質分裂の収縮環を観察するための方法およびデバイス、このようなデバイスを製造するための方法、細胞分裂の変異を研究するための方法、ならびに細胞分裂を促進しまたは抑制する対象の化合物をスクリーニングするための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分裂、特に細胞質分裂の収縮環を観察するデバイスおよび方法、そのようなデバイスを製造するための方法、細胞分裂の変異の研究、ならびに細胞分裂を促進しまたは抑制する効果のある化合物のスクリーニング方法に関する。それは、生物学、薬理学および診断の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞質分裂の収縮環は、有糸分裂の端部において細胞の分裂を引き起こす基礎的な組織である。不健全な細胞質分裂収縮環は、抗癌薬の典型的なターゲットである。
【0003】
原核細胞および真核細胞に保護される収縮環は、厚さが約200nmの平面構造を有している。それらは収縮する側に対し垂直な面において、通常、蛍光顕微鏡によって観察される(Straight他,2003年;SunとMargolin,1998年;Wu他,2003年)。この方法では、空間的および時間的に乏しい分解能しか得られない。
【0004】
図1は、従来用いられているアプローチにおける制約を示している。単一の画像では、画像が焦平面と実際の収縮環との交差から得られるので、細胞質分裂収縮環が2つの点として現わされる。結果として収縮環の破損部は観察できず、このことが薬剤の効果の誤った解釈につながるおそれがある。収縮環をそのZ方向に沿って400nm毎にn枚の画像をスキャンニングすることにより(デコンボリューション法または共焦点観察法)、収縮環全体を取得する議論もなし得るだろう。しかし、この取得方法は有効とはいえない:i/収縮環への過露光による光脱色が信号および細胞の生存力にダメージを与える;ii/この方法で単一の収縮環を取得するには単一の面における取得に比較してn倍長い時間を必要とし、時間分解能を低下させる。
【0005】
したがって、細胞質分裂収縮環を観察対象とするためには、これらの欠点を克服することができるデバイスおよび方法の提供が強く求められている。
【0006】
個々の細胞の培養に適した微細ウェルのアレイが既に開示されている。しかし、それらいずれも、細胞質分裂収縮環の観察のための上述した欠点を克服するのに適したものではない。全てを説明尽くすものではないが、次の記事が挙げられよう。
【0007】
Ostuni他は、各ウェルが1つの細胞を付着させるのに適した微細ウェルのアレイを開示する(2001年,Langmuir,17,2828-2834)。このウェルは直径が100μmよりも小さく(たとえば50および25μm)、深さが50μmよりも小さい(たとえば1.3、5または50μm)。ウェル内の表面はフィブロネクチンでコーティングされる。
【0008】
Yamamura他は、単細胞微細アレイおよびそのスクリーニングへの使用について開示する(2005年,Analytical Chemistry,77,8050-8056)。この微細なチャンバーは、幅10‐μm、深さ12‐μmおよび30‐μmピッチのシリンダである。
【0009】
Ochsner他は、単細胞の3Dの形を制御するデバイスを開示する(2007年,Lab on a Chip,7,1074-1077)。この微細ウェルはフィブロネクチンでコーティングされる。ウェルの深さは10μmであり、横寸法が81μmから900μmである。3Dの形はウェルの形状(四角形、円形、三角形、長方形、紡錘形)により制御される。
【0010】
Mi他は、微細ウェルのための新しい微細加工法を開示する(2006年,Polymer,47,5124-5130)。この微細ウェルは単細胞の格納に適応され得る。
【0011】
しかしながら、これらの記事に開示されるデバイスは、キーとなる細胞小器官の観察品質を最適化できる点で有意義な改良となり得る光学的な解像度を示唆するものである。さらにこれらの文献は、いずれも細胞質分裂収縮環、特にその収縮面の配向についてはいかなる言及もされていない。
【発明の概要】
【0012】
この発明は、細胞質分裂収縮環の特異な収縮面における全体の観察をすることができるデバイスおよび方法を初めて提供するものである。今日まで、細胞質分裂収縮環が全て同じ配向にあるという条件下、より詳細には、ある配向において正確にかつ迅速に極めて多数の細胞の観察を可能にするという条件下に細胞を置くという発想を持つ者は誰もいなかった。
【0013】
したがって、本発明は、細胞の細胞質分裂収縮環を観察するデバイスであって、支持体と、それぞれが唯一の細胞を格納するのに適した複数のウェルを付帯する微細加工基材とを含み、ウェルが、細胞の細胞質分裂収縮環の収縮面を観察面に対して平行に配向させるのに適した構造を有することを特徴とするデバイスに関する。
【0014】
好ましくは、ウェルの幅は、円形細胞についてはその直径にほぼ等しく、卵形または棒状形を有する細胞についてはその細胞の短軸にほぼ等しい。好ましくは、ウェルの幅は、ウェルの深さよりも小さいかまたは一致する。
【0015】
好ましくは、支持体は、ガラスの板であり、好ましくはシラン処理されたガラスであり、より好ましくはシラン処理されたガラスのカバースリップである。しかし、高い解像度をもたらすことができる理由から石英質のカバースリップもまた考慮される。好ましくは、微細加工基材は、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)からなる。好ましい実施形態では、支持体および微細加工基材の厚さは200μmよりも薄く、好ましくは150μmよりも薄く、より好ましくは100および150μmの間である。デバイス上にウェルのいくつかのグループを分離する物理的障壁をさらに含むものでもよい。さらに、デバイス上のウェルのグループに異なる試料または媒体を送るためにマイクロ流動システムをさらに含むものでもよい。
【0016】
第1の実施形態では、細胞が細胞壁を有し、そしてウェルの深さが細胞の直径もしくは長軸の少なくともまたは約1/2である。
【0017】
詳細な実施形態において、細胞が酵母であり、ウェルの幅が1から6μm、好ましくは3から5μm、ウェルの深さが4から10μm、好ましくは6から8μmである。もうひとつの詳細な実施形態において、細胞がバクテリアであり、ウェルの幅が500nmおよび3μmの間である。
【0018】
第2の実施形態では、細胞には細胞壁がなく、デバイスがウェルを覆う蓋をさらに含み、ウェルの深さは、細胞がそれらの中に完全に格納される程度であり(すなわち、深さについてはおよそ細胞の長さ)、ウェルの底および蓋が細胞接着を促進する分子でコーティングされている。好ましくは、この細胞接着を促進する分子は、フィブロネクチンである。好ましい実施形態において、ウェルの深さおよび幅は約10−50μmであり、好ましくは約12−20μmである。
【0019】
本発明は、細胞の細胞質分裂収縮環を観察するための方法であって、a)細胞を擁する本発明によるデバイスを準備する工程;およびb)観察面に対して平行な細胞質分裂収縮環の収縮面で細胞質分裂収縮環を観察する工程を含む、方法に関する。
【0020】
本発明は、さらに細胞分裂を調節することのできる試験分子のスクリーニングまたは同定するための、本発明によるデバイスの使用に関する。詳細には本発明は、細胞分裂を調節することのできる試験分子をスクリーニングまたは同定するための方法であって、
−試験分子と接触させておいた細胞を擁する、本発明によるデバイスを準備する工程;
−細胞の細胞質分裂収縮環の収縮を評価する工程;
−試験分子があった場合となかった場合で細胞の細胞質分裂収縮環の収縮を比較する工程;および
−試験分子があった場合となかった場合で収縮が有意に異なる試験分子を選別し、これにより細胞分裂を調節することのできる試験分子を同定する工程
を含む、方法に関する。
【0021】
最後に、本発明は、本発明によるデバイスを製造するために適したポア直径および厚さを有するフィルターの使用に関する。詳細には本発明は、本発明によるデバイスを製造するための方法であって、
−適切なポア直径および厚さを有するフィルターを調製する工程;
−ポアの底を塞ぐように第1の支持体にフィルターを設置する工程;
−硬化し得る液体ポリマーを注入し、硬化させる工程の後に;
−フィルターから得られるレプリカを剥離し、これによりテンプレートを調製する工程;
−離型を容易にするためテンプレートに非接着処理を任意的に施す工程;
−第2の支持体上に硬化し得る別の液体ポリマーを塗布する工程;
−ポリマーでコーティングされた第2の支持体に対して徐々にテンプレートを押し付けまたは置いて、硬化させる工程の後に;
−得られた微細加工基材からテンプレートを取り除き、これによりデバイスを得る工程を含む、方法に関する。
【0022】
もうひとつの実施形態であり、細胞壁を有する卵形または棒状形の細胞に関して、本発明によるデバイスは、細胞の長軸に対して直交するいかなる面の観察においても有用である。したがって、本発明はまた、細胞壁を有する卵形または棒状形の細胞の長軸に対して直交する面を観察するための方法であって、a)細胞を擁する本発明によるデバイスを準備する工程;およびb)観察面に対して平行な面を観察する工程を含む、方法に関する。本発明は、さらに、細胞壁を有しそして観察面に平行に配置される卵形または棒状形の細胞の長軸に対して直交する面を観察するための、本発明によるデバイスの使用に関する。好ましい実施形態では、観察される垂直面が細胞の先端にある。さらに、本発明は、細胞壁を有する卵形または棒状形の細胞の先端成長を調節することのできる試験分子のスクリーニングまたは同定するための、本発明によるデバイスの使用に関する。より詳細には、細胞壁を有しそして卵形または棒状形を有する細胞の先端成長を調節することのできる試験分子をスクリーニングまたは同定するための方法であって、
−試験分子と接触させておいた細胞を擁する、本発明によるデバイスを準備する工程;
−細胞の先端成長を観察する工程;
−試験分子があった場合となかった場合で細胞の先端成長を比較する工程;および
−試験分子があった場合となかった場合で先端成長が有意に異なる試験分子を選別し、これにより先端成長を調節することのできる試験分子を同定する工程を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】細胞質分裂収縮環を観察する一般的な構成である。収縮環が観察面に対し垂直である;結果として焦平面(または観察面)に2つの点だけが可視化される。
【図1B】分裂酵母における細胞質分裂収縮環に関連する画像である。
【図2A】試験的な構成である。細胞がウェルに挿入される;結果として細胞質分裂収縮環が観察面に対して平行である。
【図2B】フィルターで調製されたウェルの中で細胞が成長する;黒の矢印は、成長および分裂した〜10時間後の姉妹細胞を示す。
【図2C】微細加工されたシリコンウエハのウェルの中で細胞が成長する;黒の矢印は、成長および分裂した〜10時間後の姉妹細胞を示す。
【図2D】試験展示のための試験用チャンバーである。10に及ぶウェルが観察用に調製される。
【図3A】フィルターを用いて卵型カップ表面を調製する方法である。平坦な面に接着したフィルターに液体のPDMSが注入される。
【図3B】養生硬化後、弾性スタンプが基材から剥離される。
【図3C】シラン処理後、弾性スタンプがカバースリップに塗布される液体のPDMSの薄い層に付けられる。
【図3D】網状化した後、スタンプが取り除かれて最終的な卵型カップ表面が達成される。
【図4A】ある特異面における細胞質分裂収縮環の収縮。静的:同一フレーム上で複数の収縮環が可視化される。
【図4B】動的:単一の収縮環の連続するフレームである(T=27℃)。
【図5A】収縮を阻止する特定の薬剤。エネルギー原を枯渇するアジ化ナトリウムが収縮環の収縮を阻止する;対照と対比する薬剤が存在する場合の平行なラインが注記される(T=27℃)。
【図5B】アクチン重合反応抑制剤であるラトランクリンAが収縮環を破裂させる。
【図6】収縮速度は一定であり温度に依存する。画像処理後、直径が時間の関数としてプロットされる。27℃で95nm/minの収縮速度が生じ、直径の減少は解析する範囲内で時間に対しリニアであることが示される。この速度は、18℃で15nm/minから36℃で130nm/minまで、温度とともに増加する。これらの数値は、収縮環動力学において期待される温度依存性と矛盾しない(PelhamとChang,2002年;Wu他,2003年)。
【図7A】(1)はPDMSまたはゲルが好ましい微細加工基材を示す。(2)はガラスのカバースリップを示す。(3)は透析膜または培地に対し浸透性を与える孔を有して微細加工される基板を示す。(4)はスペーサを示す。「対物」とは、顕微鏡の対物レンズを意図する。図7Aにおいて、デバイスは、可能な限り薄いガラスのカバースリップからなる支持体と、支持体に設置される微細加工基材とを含む。培地は微細加工基材の基に付加されることができる。この場合、ウェルの上側から栄養素が得られる。
【図7B】図7Bにおいて、デバイスは、可能な限り薄いガラスのカバースリップからなる支持体と、支持体に設置される微細加工基材と、加えて透析膜または孔を有して微細加工される基板のような培地に対して浸透性のある材料からなる上面とを含む。栄養素は、透析膜または微細加工される基板を通して上部から入れられる。
【図7C】図7Cにおいて、デバイスは微細加工基材を備え、ウェルが微細加工基材を貫通している。ウェルを備えるこの微細加工基材は、2つの透析膜または培地に対して浸透性を与える孔を有して微細加工される基板の間にサンドイッチされる。そして、カバースリップと透析膜または孔を有して微細加工される基板の底との間に培地を有して、全体がガラスのカバースリップの上にある。栄養素は、両側(上部および底部)から入れられる培地によって供給される。この実施形態では、最短作動距離の利点を得るために対物レンズが上側に設置される。微細加工基材がゲルで作られる場合、栄養素をウェルの全周からも入れることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明において、発明者は、収縮環の全体をその特異な収縮面において観察することができるデバイスおよび方法を提供する。特に、発明のデバイスは、ウェルを適切な形としコーティングすることで、細胞質分裂収縮環の収縮面を観察面に対して平行に配向させ、そして200μmよりも薄い厚さのデバイスに対する良好な解像度(すなわち、1.3よりも大きな開口数を有する対物レンズ)を許容する。したがって、極めて多数の細胞が正確性を有して迅速にそして容易に観察され得る。このアプローチは安価でもあり、そして自動化された観察を許容する。たとえば、1000よりも多い収縮環が約1時間で観察され得る。
【0025】
発明者は、シゾサッカロミセスポンベ分裂酵母(S. pombe,図1および図2参照)で細胞質分裂収縮環の収縮を観察したこの新しい方法を説明する。現段階では、自動化された手段で1時間に10に及ぶ細胞の観察が可能である。同一の方法は、微細加工基材の形およびコーティングを調整することで細胞の任意の種類−原核細胞および真核細胞−に拡張することができ(Weibel他,2007年)、また抗菌/抗癌薬(Jackson他,2007年)および癌診断(MathonとLloyd,2001年)のための大量スクリーニング処理への途を開くことができる。
【0026】
したがって、本発明は、支持体と、唯一の細胞を格納するのに適し、そして細胞の細胞質分裂収縮環の収縮面を観察面に対して平行に配向させるのに適した複数のウェルを付帯する微細加工基材とを含む、デバイスに関する。
【0027】
好ましくは、微細加工基材は、極めて多数のウェル、たとえば、少なくともまたは約10、20、50、100、150、200、300、400、500、1,000、5,000、10,000、50,000、100,000、500,000もしくは1,000,000のウェルを備える。たとえば、支持体は、基材のcmあたり100および4,000,000の間のウェル、好ましくは基材のcmあたり500,000および4,000,000の間のウェル、さらに好ましくは基材のcmあたり1,000,000および4,000,000の間のウェルを備える。ウェルは、顕微鏡で観察中に区別できるように十分離れている。詳細な実施形態では、ウェルは少なくとも200nm、好ましくは約200nm、500nm、1μm、5μmまたは10μmだけ隙間がある。ウェルの間の隙間を細胞が嫌う(すなわち、細胞接着を防ぐ)材料、たとえばポリエチレングリコール(PEG)で任意的に処理することができる。微細加工基材のウェルは、微細加工基材からなる底を有することができ(図3参照)または微細加工基材を貫通することもできる(すなわち、ウェルの底が支持体である、たとえば図7C参照)。
【0028】
「微細加工基材」とは、微細加工される固形の表面を意図するものであり、たとえばシリコン、機能性ガラス、ゲルマニウム、セラミック、半導体材料、PTFE、カーボン、ポリカーボネート、雲母、マイラ、プラスチック、石英、ポリスチレン、ガリウムヒ素、金、銀、金属、合金、編地またはこれらの組み合わせを含む。詳細には、微細加工基材は、生体適合性のある、または生体適合性の表面処理がされた固形材料で作られるのが好ましい。次の材料である、架橋結合され得るポリマー(PDMS、寒天、ポリアクリルアミド(PAA)...)、ガラス質の材料(ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)...)、金属または半導体材料は、微細加工のために用いることができる。
【0029】
「唯一の細胞を格納する」とは、ウェルが1個および1個だけの細胞を格納するのに適していることを意図する。
【0030】
「細胞質分裂収縮環の収縮面を観察面に対して平行に配向させるのに」とは、ウェルの構造が細胞質分裂収縮環の適切な配向を得るために適合されるということを意図する。ウェルの構造の第1の形態においては、ウェルの幅および深さが細胞質分裂収縮環の適切な配向を得るために適応される。ウェルの構造の第2の形態においては、細胞の付着点が細胞質分裂収縮環の適切な配向を得るために適応される。「収縮環の収縮面を観察面に対して平行に」とは、細胞質分裂収縮環の収縮面が支持体に対して平行であることを意図する。ここで観察面または焦平面は、有益性のある組織、すなわち収縮環が完全に画像として現れる場所として定義される(図1および図2参照)。ウェル/卵型カップの深さ方向は、この面に直交する。
【0031】
「約」とは、その5%前後の値を意味することを意図する。細胞のウェルの幅を定義するために「約」という語を用いるときには、それに5%以上を加味した値を含む場合があることを意味する。
【0032】
概ね円形の細胞に対しては、表面に接着する前の直径を直径として定義することができる。卵形または棒状形の細胞に対しては、短軸または長軸を定義することができる。
【0033】
細胞壁を有する細胞に対しては、通常卵形または棒状形を有しているが、細胞質分裂収縮環が常に長軸に対して直交する。したがって、デバイス内で細胞を適切に配向させることを通して、細胞質分裂収縮環の配向を容易に制御することができる。よって、細胞は、その長軸が支持体に対して直交するように置かれるべきである。S.セレビシエのような細胞壁を有する円形細胞は、細長く成長するため、同じ構成が円形細胞に対しても同様に働く。細胞付着分子を必要としない。
【0034】
細胞壁がない細胞に対しては、細胞質分裂収縮環の配向は細胞付着点により制御される。実際、対向する2つの点に付着する場合には、細胞質分裂収縮環は、対向する2つの付着点を結ぶ軸に対して直交する。したがって、支持体に対して直交するためには、対向する2つの付着点がウェルの底面と上面になければならない。ウェルが、事実上、他のいかなる付着点を有さないことは明らかである。それゆえに、この場合、デバイスはウェルを覆う蓋をさらに含む。したがって、特に細胞壁がない細胞のための実施形態においては、デバイスは、支持体と、唯一の細胞を格納するのに適した複数のウェルを付帯する微細加工基材とを含み、ウェルの底が細胞接着材料でコーティングされるとともにウェルの側面が抗接着性を有するとともに、デバイスが、細胞接着材料でコーティングされたウェルの上面をさらに含むことを特徴とする。この分野の当業者であれば、これを適切なやり方で提供するデバイスおよび方法の適用の仕方について知識がある。たとえば、関連する基板を調製するために、標準的な微細加工の手法を用いることができるであろう。たとえば、透析膜をフィブロネクチンでコーティングすることができる。このフィルターは、基板に接着することができるので、期待通りの卵型カップを形成することがきる。フィブロネクチンでコーティングされる上膜は、細胞が沈着した後にそれらの天部が押圧されるであろう。
【0035】
一般に、円形細胞のための各ウェルの幅または直径は、細胞の少なくとも平均直径だけあるが、その平均直径の2倍よりもかなり小さい。そして、卵形または棒状形の細胞のための各ウェルの幅は、細胞の少なくとも短軸だけあるがその長軸よりもかなり小さい。各ウェルの幅は、細胞の平均直径または短軸の寸法に可能な限り正確に合っている。好ましくは、各ウェルの幅は、細胞の直径または短軸の1、2、5、10、20または30%前後の寸法である。実際、弾性材料が微細加工基材に用いられる場合、基材に対し等方性の変形または歪をウェルの直径が拡大するように付与し、その状態でウェルに細胞が置かれる。そして、変形または歪が解放されると、結果的に細胞が万力の間にあるように強力に保持される。
【0036】
各ウェルの深さによって、細胞が外側の流れに抗して離れ出ないのであり、そして収縮環の収縮面が観察面に対し平行に配向される。好ましい実施形態では、各ウェルの深さが、細胞の直径もしくは長軸の少なくともまたは約1/3であり、好ましくは少なくともまたは約1/2である。「少なくともまたは約」とは、細胞の直径もしくは長軸の少なくとも1/3もしくは1/2であるか、または、細胞の直径もしくは長軸の1/3もしくは1/2の5%前後であることを意図する。それは、たとえば細胞の直径または長軸の1/2および細胞の直径または長軸の全長の間であることを含むことができる。各ウェルの深さは、また、およそまたは約細胞の直径もしくは長軸の寸法とすることもでき、これによれば細胞がウェルの中に完全に格納される。後者の場合、哺乳動物の細胞のように、細胞壁がない細胞にとっては特に好適である。しかし、バクテリアまたは真菌(たとえば酵母)のような細胞壁がある細胞にとっては、細胞の直径または長軸の1/2および3/4の間のウェルの深さが好ましい。
【0037】
本発明のデバイスの使用に適する細胞は、任意の真核細胞または原核細胞である。詳細には、原核細胞をバクテリアとすることができ、真核細胞を酵母、動物、哺乳類、人または植物の細胞のような真菌とすることができる。細胞を、たとえば線維芽細胞、造血細胞、内皮細胞、上皮細胞とすることができる。細胞は健全もしくは病態の組織または生体から得ることができる。細胞を天然型または遺伝子改変/組み換えの細胞とすることができる。詳細な実施形態では、哺乳類の細胞を腫瘍細胞とすることができる。
【0038】
哺乳類細胞のような細胞壁のない細胞の場合、ウェルの幅はたとえば約10−50μmであり、好ましくは12−20μmとすることができる。また、ウェルの底は細胞接着を促進する分子でコーティングされる。これらの分子は、この分野における当業者であるならば良く知られるものであり、抗原、抗体、(たとえばカドヘリンのような)細胞接着分子、ラミニンのような細胞外気質分子、フィブロネクチン、合成ペプチドその他を含むが、フィブロネクチンがより好ましい。また、ウェルの深さは、細胞がそれらの中に完全に格納される(すなわち、深さについてはおよそ細胞の長さ)程度であり、細胞接着を促進する分子でコーティングされる蓋によって覆われる。たとえば、ウェルの幅はたとえば約10−50μmであり、好ましくは12−20μmとすることができる。ウェルの底面および上面に位置する細胞付着箇所により、収縮環の収縮面の適切な配向を可能にする。この場合、発明のデバイスは、唯一の細胞を格納するのに適した少なくとも2つのウェルを付帯する支持体と、少なくとも2つのウェルを覆う蓋とを含み、ウェルの底および蓋が細胞接着を促進する分子によってコーティングされるとともに、細胞が嫌がる(すなわち、抗細胞接着)材料で側面が処理されることが好ましい。
【0039】
バクテリアまたは酵母の場合、好ましい実施形態では、ウェルの幅が細胞の直径または短軸の1、2、5、10、20または30%前後の寸法であり、深さが好ましくは長軸の1/3からその全長であり、より好ましくは1/3から1/2である。通常、0.5および3μmの間の単軸を有するバクテリアの場合、ウェルの幅を500nmおよび3μmの間とすることができる。バクテリアの長軸は、バクテリアによってかなり変動する。しかしながら、たとえば、1、3、5、7または10μmの深さが適切であり得る。特に大腸菌においては、ウェルの幅を800nm、深さを2μmとすることができる。酵母の場合、ウェルの幅が1および6μmの間であり、好ましくは3および5μmの間であり、ウェルの深さが4および10μmの間であり、好ましくは6および8μmの間である。それらの特徴を有するウェルは、ほとんどの酵母に適用される。好ましくは、ウェルの幅はウェルの深さよりも小さいかまたは等しい。分裂酵母の場合、ウェルの幅を5μm、深さを8μmとすることができる。細胞壁を有することがより一般的なバクテリアや真菌にとっては、蓋を必要とせず、むしろ不要である。実際、収縮環が収縮面は常に細胞の長軸に対して直交する。したがって、収縮環が収縮面の望ましい配向を得るには、細胞の適切な配置だけで十分である。
【0040】
ウェルの寸法(すなわち、幅と深さ)は、それぞれ特定の細胞を研究する当業者であれば、容易に適用することができる。
【0041】
共焦点、光学的および/または蛍光の顕微鏡にとって、支持体は利便性があるものでなければならない。適切な支持体としては、微細構造のために利用されるポリマーを備え良好な接着を促進する任意の平坦な基材とすることができる。より好ましい実施形態では、支持体はガラスの板を含むものまたはガラスの板である。たとえば、本発明による利便性のある支持体は、カバースリップまたはスライドである。より好ましい実施形態では、カバースリップは可能な限り薄い。たとえば、0.085から0.13mmまでの厚さが便利である。他の好ましい実施形態では、支持体は、たとえばセルロース膜(Sigma,MWCO 12-14,000)のような透析シートであるか、または仕切りの間で培地の取り交わしが可能な任意の膜またはこれらを含むものである。もうひとつの他の好ましい実施形態では、支持体は、ウェルの幅よりもかなり小さい(たとえばウェルの幅の10、20、30、40または50%よりも小さい)直径を有する孔を任意に有する微細加工基材を含むものまたは微細加工基材である。孔は、培地(培地とは、細胞の培養に適した培地を意図する)に対し浸透性を与えるのに十分な寸法を有する。
【0042】
加えて、蓋が必要な場合、利便性のある蓋は、たとえばセルロース膜(Sigma,MWCO 12-14,000)のような透析シートであるか、または仕切りの間で培地の取り交わしが可能な任意の膜とすることができる。また、蓋は、上述した孔を任意に有して微細加工されるものとすることもできる。
【0043】
微細加工される基材を調製するための微細加工技術は、当業者には周知である。
【0044】
たとえば、デバイスの微細加工基材を生成するのに用いられるスタンプを調製する微細加工技術は、たとえばフォトリソグラフィ、薄膜蒸着、ウエット化学エッチング、反応性イオンエッチング、誘導結合プラズマ深堀りシリコンエッチング、レーザ切削、空気研磨技術およびその他の技術とすることができる。ポリマー基材の材料は、加工の容易性、低コストおよび廃棄性とともに不活性であることにおいて好ましい。ポリマー基材の材料は、架橋結合され得るものが好ましい。それらは、生体適合性があり、細胞に対しては弱い接着性を有するものとすることができる。好ましい実施形態では、基材の材料はPDMSで作られる。技術は、たとえば以下の米国特許第6,753,131号、米国特許第6,516,168号および米国特許第6,143,412号に開示される。
【0045】
スタンプのための基材の材料は、以下の限定されないポリマー材料であって、
−ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(TEFLON(登録商標))、ポリ塩化ビニル(PVC)のようなガラス状のポリマー;
−ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリブタジエン、ポリウレタンなどのような弾性材料;
−ゲルなど(寒天、PAA...)を含むことができる。
【0046】
デバイスの微細加工基材は、射出成形、高温エンボスまたは架橋結合(ソフトリソグラフィ)され得るポリマー成形のような周知のモールド成形法を用いて、原型から容易に製造される。デバイスの微細加工基材のための基材の材料は、スタンプと同じとすることができ、または以下の限定されないポリマー材料であって、
−ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン(TEFLON(登録商標))、ポリ塩化ビニル(PVC)のようなガラス状のポリマー;
−ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリブタジエン、ポリウレタンなどのような弾性材料;
−ゲルなど(寒天、PAA...)を含むポリマー材料とすることができ、微細加工構造内で栄養素を拡散可能という利点により栄養素がウェルの全周を通して拡散できる。
【0047】
好ましい実施形態において、微細加工基材は、生体適合性がある材料で作られ、細胞に対しては弱い接着性を有する。最も好ましい実施形態において、微細加工基材はPDMSで作られる。次に好ましい実施形態において、微細加工基材は寒天、PAA(ポリアクリルアミド)などを含むゲルで作られる。
【0048】
本発明において発明者らは、微細加工基材を調製するためのオリジナルな、そして実際に安価な方法を提供する。実際、彼らは好適なウェルを調製するためのスタンプを調製するフィルターを使用する。詳細には、フィルターは、現状のポアの直径がウェルの幅に相当するように選択される。また、フィルターは、現状の厚さがウェルの深さに相当するように選択される。たとえばフィルターは、ポリカーボネートにおいてMillipore(Isopore)により商品化され、またはポリカーボネートもしくはポリエステルにおいて、GE Osmonics Labstore Poreticsにより商品化されたものとすることができる。これらの製品においては、その膜の製造工程により、正確なポア直径およびポア寸法が保証されている。たとえば、Millipore(Isopore)またはGE Osmonics Labstore Poreticsにより商品化されたフィルターは、以下、ポア寸法:0.08、0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1、1.2、2、3、5、8、10、12および14μmを有するものが入手可能である。好ましくは、フィルターの厚さは5および25μmの間に含まれる。もし、より大きなポア直径を必要とするならば、他の商業的に入手可能なより大きなポア直径を有するフィルターを用いることができる。
【0049】
詳細な実施形態において、本発明は、本発明によるデバイスを製造するための方法であって、
−適切なポア直径および厚さを有するフィルターを調製する工程;
−ポアの底面を塞ぐように第1の支持体上にフィルターを設置する工程;
−硬化し得る液体ポリマーを注入し、硬化させる工程の後に;
−フィルターから得られるレプリカを剥離し、これによりテンプレートを得る工程;
−離型を容易にするためテンプレートに非接着処理を任意的に施す工程;
−第2の支持体上に硬化し得る別の液体ポリマーを塗布する工程;
−ポリマーでコーティングした第2の支持体に対してテンプレートを穏やかに押し付けまたは置き、硬化させる工程の後に;
−得られた微細加工基材からテンプレートを取り除き、これによりデバイスを得る工程を含む、方法に関する。
【0050】
詳細な実施形態において、適したポア直径および厚さを有するフィルターは、ポア寸法が0.08および50μmの間に含まれ、好ましくは0.08および20μmの間であり、さらに好ましくは0.08および15μmの間であり、厚さが5および25μmの間に含まれるフィルターである。フィルターは、通常、ポリカーボネードまたはポリエステルフィルターである。実施形態において、もし必要であれば、本方法は生体適合性化させる薄い層でデバイスをコーティングする工程をさらに含むものでもよい。
【0051】
好ましくは、液体ポリマーは、架橋結合の後またはガラス転移以下に冷えた後に硬化されることができる。もしスタンプと微細加工基材とが同じ材料である場合には、本方法は、フィルターからスタンプを得た後であって、第2の支持体に弱い細胞接着性を有する生体適合性ポリマーを塗布する前に、シラン処理をする工程をさらに含むことが好ましい。弱い細胞接着性を有する生体適合性ポリマーは、好ましくはシロキサン系のポリマーである。最も好ましい実施形態において、微細加工基材はPDMSである。詳細な実施形態では、架橋性および生体適合性のあるポリマーは、どちらもシロキサン系のポリマーであり、より好ましくはPDMSである。
【0052】
たとえばひとつの方法が実施例の記載欄で詳細に説明される。しかしながら、発明のデバイスは、本方法で得られものに限定されない。当業者はそのようなデバイスを調製するためにいくつかの方法を適用することができる。
【0053】
好ましくは、最終的な微細加工基材は、たとえば約20−100μmの厚さを有し、約30−50μmであることが好ましい。好ましくは、シロキサン系のポリマーはPDMSである。好ましくは、支持体はガラスのカバースリップであり、可能な限り薄いものがより好ましい。
【0054】
細胞質分裂の収縮環を観察するのに必要な作動距離および解像度のために、支持体および微細加工基材の厚さは、可能な限り薄いことが必要とされる。実際、大きな開口数1.3−1.65の対物レンズが要求され、それらは観察の対象に対して接近していなければならない。したがって、厚さは好ましくは200μmよりも薄く、より好ましくは150μmよりも薄く、さらに好ましくは100および150μmの間である。
【0055】
したがって、第1の詳細な好ましい実施形態において、デバイスは、支持体と、上述したように唯一の細胞を格納するのに適した複数のウェルを付帯する微細加工基材とを含む。支持体はガラスのカバースリップであることが好ましい。微細加工基材は、このカバースリップにより支持される。微細加工基材は、たとえばPDMS基材またはゲルである。栄養素はウェルの上側を介して加えられる。対物レンズはガラスのカバースリップに接近して配置される。説明のための模式図が図7Aに示される。
【0056】
第2の詳細な好ましい実施形態において、デバイスは、支持体と、上述したように唯一の細胞を格納するのに適した複数のウェルを付帯する微細加工基材と、蓋とを含む。支持体は好ましくはガラスのカバースリップである。微細加工基材は、このカバースリップにより支持される。微細加工基材は、たとえばPDMS基材またはゲルである。蓋は、透析膜または微細加工される基板とすることができ、培地に対して浸透性を与える小さな孔を任意に有する。たとえば孔は0.05または1μmよりも小さい直径を有している。栄養素はウェルの上側を介して加えられる。対物レンズはガラスのカバースリップに接近して配置される。説明のための模式図が図7Bに示される。
【0057】
第3の詳細な好ましい実施形態において、デバイスは、微細加工される基材を貫通するウェルを備える微細加工基材を含む。ウェルを備えるこの微細加工基材は、2つの透析膜または培地に対して浸透性を与える孔を有して微細加工される基板の間にサンドイッチされ、そしてカバースリップと透析膜または孔を有して微細加工される基板の底との間に培地を有してガラスのカバースリップにより支持される。栄養素は、両側(上および底)から入れられる培地によって供給される。この実施形態では、最短作動距離の利点を得るために対物レンズが上側に配置される。説明のための模式図が図7Cに示される。
【0058】
本発明のデバイスは、細胞質分裂の収縮環の研究に有益である。細胞質分裂収縮環は、顕微鏡、特に蛍光顕微鏡により観察できる。通常、細胞質分裂収縮環は、蛍光たんぱく質を介して観察される(Glotzer M,Science.2005年3月18日;307(5716):1735-9)。
【0059】
蛍光たんぱく質は、細胞質分裂収縮環の任意のたんぱく質とすることができる。たとえば分裂酵母の場合、蛍光ラベルたんぱく質(たとえば、YFP、GFP、EGFP、mCherryなど)は、ミオシン(たとえばRLC−mCherryのようなミオシンII制御軽鎖またはmyo2−YFPのようなミオシンII重鎖)、パキシリン様たんぱく質pxl1(たとえばpxl1−GFP)、細胞膜−細胞骨格インタラクション(たとえばcdc15−YFPのようなF−BARドメイン)、1,3−ベータ−グルカン合成酵素(たとえばbgs1−GFPのような触媒サブユニット)などとすることができる。他の好適なたんぱく質がWuとPollardにより開示され(Wu他,Methods Cell Biol.2008年;89:253-73;Vavylonis他,Science.2008年1月4日;319(5859):97-100;Wu他,J Cell Biol.2006年7月31日;174(3):391-402;WuとPollard,Science.2005年10月14日;310(5746):310-4;Kovar他,Mol Biol Cell.2005年5月;16(5):2313-24;Wu他,Dev Cell.2003年11月;5(5):723-34)、そして他の細胞においてこれらの同族体が適切であろう。蛍光ラベルたんぱく質の場合、細胞はそのような蛍光ラベルたんぱく質を表示するように遺伝子的に操作される。これに代わり、収縮環は、収縮環マーカーまたは収縮環のたんぱく質に対し向けられる抗体の蛍光ラベルを用いて観察される。たとえば、抗ミヨシン抗体で染色した免疫蛍光法と同様に、ローダミンまたはアレクサ−ファロイジンがこの使用に適している(Glotzer M,Science.2005年3月18日;307(5716):1735-9)。
【0060】
基礎研究に加えて、発明のデバイスのための他の種類の2つの応用が想起される。第1の使用は有益性のある分子のスクリーニングである。したがって、本発明は分子のスクリーニングのための、本発明のデバイスの使用に関する。第2の使用は診断である。したがって、本発明は増殖性疾患の診断、特に腫瘍または癌の診断のための、本発明のデバイスの使用に関する。
【0061】
本発明は、細胞質分裂収縮環を観察するための方法であって、a)細胞を擁する本発明によるデバイスを準備する工程;およびb)観察面に対して平行な細胞質分裂収縮環の収縮面を観察する工程を含む、方法に関する。詳細には、工程a)は、観察されるべき細胞質分裂収縮環の細胞を準備する工程;準備される細胞に適用される、本発明によるデバイスを選択する工程、そしてデバイスに細胞を置く工程を含む。本発明は、観察面に対して平行な細胞質分裂収縮環の収縮面を有する細胞の細胞質分裂収縮環を観察するための、本発明によるデバイスの使用にも関する。
【0062】
第1の使用において、本発明のデバイスは、細胞分裂を調節する試験分子の能力の評価または試験、特に収縮環の収縮を調節する試験分子の能力の検定または試験に用いられる。詳細には、有益性のある分子は、特に細胞質分裂収縮環の収縮の阻止作用または抑制作用を通して細胞分裂を阻止または抑制することができる分子である。したがって、本発明は、細胞分裂を調節することのできる試験分子のスクリーニングまたは同定するための方法であって、
−試験分子と接触させておいた細胞を擁する、本発明によるデバイスを準備する工程;
−細胞の細胞質分裂収縮環の収縮を評価する工程;
−試験分子があった場合となかった場合で細胞質分裂収縮環の収縮を比較する工程;および
−試験分子があった場合となかった場合で収縮が有意に異なる試験分子を選別し、これにより細胞分裂を調節することのできる試験分子を同定する工程を含む、方法に関する。
【0063】
詳細には、工程a)は、試験されるべき試験分子上の細胞を準備する工程;準備される細胞に適用される、本発明によるデバイスを選択する工程と、デバイスに細胞を置く工程とを含む。
【0064】
第1の実施形態において、細胞は本発明のデバイスに置かれる前に試験分子に接触している。したがって、本方法は、試験分子に細胞を接触させ、接触した細胞をデバイス上に搬送する事前の工程を含むことができる。これに代わる実施形態では、細胞は本発明のデバイスに既に置かれた状態で試験分子に接触する。したがって、本方法は、細胞をデバイス上に搬送し、試験分子に細胞を接触させる事前の工程を含むことができる。
【0065】
この分野において既知の任意の方法を用いて、デバイスのウェルの中に細胞を置くことができる。たとえば、細胞は遠心分離法によりウェルの中に導かれ、好ましくは洗浄工程が後に続く。他の例では、細胞は、ガラスの基材に付着する前段階で膜を通して細胞試料をフィルタリングすることによって搬送されることができる;この処置の後に洗浄工程が続く。
【0066】
第1の実施形態において、収縮環の収縮を評価する工程は、開放した収縮環を有する細胞および閉じた収縮環を有する細胞の数を測定する工程を含む。この実施形態では、試験分子があった場合となかった場合で開放した収縮環および閉じた収縮環の数が有意に異なるときに、試験分子があった場合となかった場合で収縮が有意に異なるといえる。第2の実施形態において、収縮環の収縮を評価する工程は、収縮環の収縮の速度を測定する工程を含む。この実施形態では、試験分子があった場合となかった場合でこの速度が有意に異なるときに、試験分子があった場合となかった場合で収縮が有意に異なるといえる。第3の実施形態において、収縮環の収縮を評価する工程は、開放した収縮環を有する細胞および閉じた収縮環を有する細胞の数を測定する工程と、収縮環の収縮の速度を測定する工程の両方を含む。第4の実施形態において、収縮環の収縮を評価する工程は、試験分子があったかなかったかについて、いくつかの細胞の細胞質分裂収縮環を記録する工程を含む。「いくつかの」とは、好ましくは少なくとも100、1,000、10,000、100,000または1,000,000個の各条件における細胞を意図する。もし試験分子が細胞分裂を調節しないならば、細胞の収縮環は統計上任意の位置を有することができる。この記録された収縮環の重ね合わせは円板の結果となる。また、もし試験分子が収縮環の収縮を阻止または抑制するならば、細胞の収縮環は高い蓋然性で開放したままのはずである。この記録された収縮環の重ね合わせは円の結果となる。したがって、収縮環の収縮を阻止または抑制する試験分子は、記録された収縮環の重ね合わせの形状を通して選別できる。
【0067】
この方法の開始において細胞を同期化してもよいし、しなくてもよい。
【0068】
細胞が原核細胞の場合、同定される分子は抗生物質薬としての有益性があり、そして本方法は抗生物質特性を有する試験分子のスクリーニングまたは同定のための方法である。細胞が真核細胞の場合、同定される分子は抗増殖薬としての有益性があり、そして本方法は抗増殖特性、特に抗腫瘍特性を有する試験分子のスクリーニングまたは同定のための方法である。細胞が真菌の場合、同定される分子は抗菌薬としての有益性があり、そして本アプローチは、抗菌特性を有する試験分子のスクリーニングまたは同定のための方法である。
【0069】
試験分子の由来、性質および組成は様々であってよい。それは、脂質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、小分子などの任意の有機または無機物、または他の物質と分離したものもしくは混合したものであってよい。たとえば、試験化合物は、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはRNAiとすることができる。分子はたとえば生成物のコンビナトリアルライブラリの全部またはその一部であってよい。
【0070】
本発明のデバイスの優位性は、極めて多数のウェルおよび収縮環の収縮を自動的に記録することにより極めて多数の試験分子を同時に評価ができることにある。この実施形態において、本発明によるデバイスは、互いに分離される同一プレート上にあるウェルのグループであって、それぞれが異なる培地中で培養され得るグループをいくつか含むことができる。たとえば、ひとつのグループのウェルに試験分子を格納することができ、もうひとつのグループのウェルに他の試験分子を格納するかまたはいかなる試験分子も格納しないようにすることができる。この分離はテフロンシールまたは直接的なPDMSモールド分離のような物理的障壁により提供されることができる。たとえば、SPIが提供するSPI Teflon(登録商標)に見られる、Teflon(登録商標) Printed Slides of Anameがある。たとえば、ウェルの各グループは、少なくともまたは約100、1,000、10,000、100,000、1,000,000ウェルを含むとすることができる。デバイス上の異なる場所またはウェルのグループに異なる薬剤を送るためマイクロ流動システムをさらに用いることができる(Melin J,Quake SR,Annu Rev Biophys Biomol Struct.2007年;36:213-31;Hansen C,Quake SR,Curr Opin Struct Biol.2003年10月;13(5):538-44;Hong JW,Quake SR,Nat Biotechnol.2003年10月;21(10):1179-83;Quake SR,Scherer A,Science.2000年11月24日;290(5496):1536-40)。
【0071】
第2の使用において、本発明のデバイスは、特に癌または腫瘍の患者における増殖性疾患の診断に用いられる。実際、本発明のデバイスは、細胞分裂の数および速度と同様に収縮環の特性(たとえば形態学その他)の測定を許容する。
【0072】
したがって、本発明は、患者における増殖性疾患の診断のための方法または患者における増殖性疾患の診断のために有益な情報を得るための方法であって、
−被験体からの試料の細胞を擁する、本発明によるデバイスを準備する工程;
−細胞の収縮環の収縮を評価する工程;および
−当該細胞の収縮環の収縮と参照細胞の収縮環の収縮とを比較する工程を含む、方法に関する。
【0073】
詳細には、工程a)は、試験されるべき被験体試料からの細胞を準備する工程;準備される細胞に適用される、本発明によるデバイスを選択する工程、そしてデバイスに細胞を置く工程を含む。
【0074】
第1の実施形態において、参照細胞は健全な細胞(すなわち、増殖性の異常を患っていない細胞)である。したがって、収縮環の収縮に有意差がある場合に増殖性の異常または疾患を示すといえる。第2の実施形態において、参照細胞は増殖性の異常の影響を受けた細胞であり、収縮環の収縮に有意差がない場合に増殖性の異常または疾患を示すといえる。
【0075】
第1の実施形態において、収縮環の収縮を評価する工程は、開放した収縮環を有する細胞および閉じた収縮環を有する細胞の数を測定する工程を含む。この実施形態では、開放した収縮環および閉じた収縮環の数に参照からの有意な差があるときに、試験分子があった場合となかった場合で収縮が有意に異なるといえる。第2の実施形態において、収縮環の収縮を評価する工程は、収縮環の収縮の速度を測定する工程を含む。この実施形態では、この速度に参照からの有意な差があるときに、収縮が有意に異なるといえる。第3の実施形態において、収縮環の収縮を評価する工程は、開放した収縮環を有する細胞および閉じた収縮環を有する細胞の数を測定する工程と、収縮環の収縮の速度を測定する工程の両方を含む。第4の実施形態において、収縮環の収縮を評価する工程は、いくつかの細胞の細胞質分裂収縮環を記録する工程と、収縮環の重ね合わせ形状を測定する工程とを含む。
【0076】
もうひとつの実施形態であり、細胞壁を有しそして卵形または棒状形を有する細胞に関して、本発明によるデバイスは、細胞の長軸に対して直交するいかなる面の観察においても有用である。細胞は好ましくは酵母である。酵母の先端成長は科学界においては興味深い現象であるものの、入手可能なデバイスでは容易に観察することができない。それゆえに、発明のデバイスは、この先端そして先端成長を簡便に観察する手段を提供する。
【0077】
したがって、本発明はまた、細胞壁を有しそして卵形または棒状形を有する細胞の長軸に対して直交する面を観察するための方法であって、a)細胞を擁する本発明によるデバイスを準備する工程;およびb)観察面に対して平行な面を観察する工程を含む、方法に関する。
【0078】
本発明は、さらに、細胞壁を有しそして観察面に平行に配置される卵形または棒状形の細胞の長軸に対して直交する面を観察するための、本発明によるデバイスの使用に関する。好ましい実施形態では、観察される垂直面が細胞の先端にある。
【0079】
さらに、本発明は、細胞壁を有しそして卵形または棒状形を有する細胞の先端成長を調節することのできる試験分子のスクリーニングまたは同定のための、本発明によるデバイスの使用に関する。より詳細には、細胞壁を有しそして卵形または棒状形を有する細胞の先端成長を調節することのできる試験分子のスクリーニングまたは同定するための方法であって、
−試験分子と接触させておいた細胞を擁する、本発明によるデバイスを準備する工程;
−細胞の先端成長を観察する工程;
−試験分子があった場合となかった場合で細胞の先端成長を比較する工程;および
−試験分子があった場合となかった場合で先端成長が有意に異なる試験分子を選別し、これにより先端成長を調節することのできる試験分子を同定する工程含む、方法に関する。
【0080】
分子は先端成長を調節すること、特に成長を阻止することができ、微生物の成長を封じるという有益性を提供する。よってそれらは、抗バクテリアまたは抗菌の薬剤としての利用が可能である。
【0081】
本発明の更なる側面および優位性は、次の実験に基づく記載欄において開示されるが、これらは例示とみなすべきあり、本応用の範囲に限定するものではない。
【0082】
[実施例]
<微細加工基材において細胞分裂は影響を受けない>
本発明者らは、本発明者らの方法が正常な細胞成長に影響を及ぼさないように制御した。細胞は同じ処理(窒素飢餓、遠心分離、温度;方法を参照されたい)を受け、そして続いて本発明によりウェル(ここでは卵型カップと呼ぶ)中のレクチンコーティングされた基材上で垂直的または水平的のいずれかに成長させた(図2参照)。成長および分裂について同じ速度が両方の条件で得られた。さらに、本発明者らは、収縮環の収縮速度が、前処理(枯渇、遠心分離)を全く含まない正常な指数関数的成長条件に類似していたことを確認した。全体として、これらの実験は、本発明のプロトコールが細胞成長を撹乱しないことを示す。
【0083】
<細胞質分裂収縮環の収縮を単一の焦点面において可視化することができる>
本発明者らは、多種多様な収縮環の蛍光マーカーを成功裏に使用した(方法を参照されたい)。ここで、本発明者らは、mCherryに融合させたrlc1遺伝子によってコードされるミオシン軽鎖を用いての結果を説明する。図4は、収縮環の収縮の典型的な順序を示す。
【0084】
以下の特徴が指摘される:(i)収縮環は依然として収縮環状であり、これは細胞の適切に固定された配向を証明する;(ii)1つの画像についての本発明者らによる設定のための露光時間は短く、典型的には0.3秒であり、これは優れた時間分解能を有することを可能とする;(iii)収縮環は一定の幅を保持し、これは同じ構造の電子顕微鏡画像と一致する(Kamasaki他,2007年);この観察はさらに本発明の方法を確証する;(iv)収縮環は同じ焦点面上に留まり、手動または自動で焦点を合わせる必要が全くない;取得は自動であるので、同じ試料の全ての収縮環を、焦点を合わせて捉えることができ、これによりこの実験設定を用いての細胞同期化により1時間あたり10から10個の収縮環が生じる可能性がある。それゆえ、本発明の方法は、細胞質分裂収縮環について迅速で信頼性がありそして統計学的に有意な形状を与える。
【0085】
<収縮に影響を与える既知の薬剤>
ミオシン活性(Kamasaki他,2007年)およびアクチン重合(PelhamとChang,2002年)が、細胞質分裂収縮環の収縮に関与することが示された。本発明者らは細胞を、単量体アクチンと結合し、それゆえ、その重合を妨げることが知られる薬剤であるラトランクリンA(2μM)とともに培養した(Ayscough,1998年)。図5Bに示したように、収縮は停止した:収縮環は解体し、そしてこれによりミオシンがクラスター化して別個のパッチとなった。本発明者らはまた細胞を、代謝抑制剤のアジ化ナトリウムとともに培養し(DoyleとBotstein,1996年)(20mM):収縮は同様に止まった(図5A参照)。特定の抑制剤が収縮を阻止するという両方の結果はさらに、本発明のアプローチの信頼性をさらに実証する。
【0086】
<収縮速度は温度に依存する>
直径の減少は時間に対して直線性であることが示された(PelhamとChang,2002年):本発明者らは、この関係がまたこの実験設定においても直線性であることを確認した(図6参照)。さらに、収縮速度は温度に対して強い依存性があることが示された(Wu他,2003年);これはまたこの設定でも観察され、速度は温度とともに増加した:18℃で15nm/min、27℃で95nm/min、および36℃で130nm/min。
【0087】
最後に、所与の温度における速度は、文献においてすでに報告されている速度に類似していた(PelhamとChang,2002年;Wu他,2003年)。このことはさらに、細胞質分裂収縮環が、本発明の方法を用いて正常な動力学を示していることを証明する。
【0088】
[材料および方法]
<微細加工>
ここでは1つのフィルターについての手順を説明する(図3参照)。しかしながら、それは同時に10個のフィルターを用いても容易に実施される。ポリジメチルシロキサン(PDMS)をその硬化剤(Sylgard 184,Dow Corning)と10:1の比で十分に混合した。この溶液を30分間かけて脱気した。多孔性メンブレンフィルター(ポア直径5.0μm,光沢面を上,Millipore Isopore,TMTP01300)をペトリ皿の底に置いた。片面テープの接着側をフィルターの上部に適用した。フィルターのついたテープを取り出し、そして、フィルター側を空気に曝して、ペトリ皿に付着させた両面テープ上に接着した。PDMSをフィルター(非光沢面が上)に注ぎ、そして混合物を一晩かけて硬化させ;この工程に続いて、65℃における4時間の最終硬化を行なった。その後、スタンプを注意深く剥がした。それを1分間プラズマ洗浄にかけ(Harrick Plasma,PDC-32G,高い設定出力)、その後、10分間クロロトリメチルシラン97%(Sigma-Aldrich,C72854,TMCS)蒸気に曝した。
【0089】
液体の脱気したPDMS混合物を、パスツールピペットを用いて、プラズマクリーナーに1分間曝することによりそれを洗浄した後、ガラスのカバースリップ0番(直径25mm,Fisherbrand)上に塗布した(Balaban他,2001年)。その後、シラン処理したスタンプを、PDMSでコーティングしたカバースリップ上に置き、そして室温で一晩かけて硬化させた。この後に、65℃における4時間の最終硬化を行なった。スタンプを注意深くカバースリップから離すと、30μmの厚さのエラストマーの上層の上に卵型カップパターンが生じた。カバースリップは、シールされたチャンバーの底として使用し;試料の全体の厚さにより、短い作動距離および高い開口数を有する対物レンズを使用することが可能となった。細胞を通例の水平の条件において観察する別々の実験のために、レクチン(100μg/mlで25μl,Sigma,L2380)をカバースリップ上で乾燥させて、細胞接着を促進した。
【0090】
同じ方法を用いてより大きなフィルター(直径14cmまで)を使用することによってより大きな表面を調製することができることを注記する。細胞型に依存して任意のポア寸法を選択することができ;ここで本発明者らは、5μmのポア寸法を酵母の直径に一致させたが、これらの市販されているメンブレンフィルターは、バクテリアについての500nmから哺乳動物細胞についての12−20μmまでの範囲のポア寸法を有する卵型カップを調製するために使用される(Millipore Isopore,およびGE Osmonics Labstore Poretics)。さらに、通例の卵型カップ表面のアレイを、標準的なリソグラフィー法を使用して調製することができる。
【0091】
<株、培地および試薬>
標準的な方法が細胞増殖のために使用された(Moreno他,1991年)。簡潔に言うと、細胞をEMM4S中で指数関数的に増殖させ(Moreno他,1991年)、そして実験をチャンバー中で同じ培地を使用して実施した。
【0092】
本研究に成功裏に使用されたS. pombe株は、以下であった:
−JM 207 h+ rlc1 mcherry::natR ura- leu- ade-, J. Moseley
−JW 1110 h+ kanMX6-Pmyo2-mYFP-myo2 ade6-M210 leu1-32 ura4-D18, J.-Q. Wu (WuとPollard,2005年)
−PPG 5054, h+ leu1-32 ura4-D18 pax::KanMX6 leu1+::GFPpax+, Pilar Perez Lab(Pinar他,2008年)
−JW 977 h+ cdc15-mYFP-kanMX6 ade6-M210 leu1-32 ura4-D18, J.-Q. Wu (WuとPollard,2005年)
−519 h- bgs1Δ::ura4+ Pbgs1+::GFP-bgs1+:leu1+ leu1-32 ura4-Δ18 his3-Δ1, Pilar Perez (Cortes他,2002年)。
【0093】
これらの株はそれぞれ、以下の収縮環マーカーを含んでいた:
−rlc1-mCherry ミオシンII調節軽鎖
−myo2-YFP ミオシンII重鎖
−pxl1-GFP パキシリン様タンパク質Pxl1
−cdc15-YFP 膜−細胞骨格相互作用、F−BARドメイン
−bgs1-GFP 1,3−β−グルカンシンターゼ触媒サブユニットBgs1
【0094】
最後に、本発明者らは、2μMのラトランクリンA(Sigma,L5163)および20mMのアジ化ナトリウム(Sigma,S2002)を使用した。
【0095】
同じ実験法が固定細胞に対して効果的であり得る。任意の細胞型の細胞質分裂収縮環が、細胞骨格の標識を用いての免疫蛍光(たとえば、ミオシンII抗体(Straight他,2003年)、または蛍光標識されたファロイジン)によって捉えられる。最後に、全試料中の細胞の収縮環は、自動取得設定によって走査される。
【0096】
<実験チャンバーの準備>
指数関数期の細胞を32℃において増殖させた。約0.5の吸光度において、1000gで2分間の遠心分離によってEMM4S培地を2回除去し、次いでEMM−N培地へ細胞を再懸濁した(Moreno他,1991年):細胞を32℃で5時間かけて窒素飢餓させた。その後、細胞を1000gで2分間の遠心分離によってペレット化し、そしてそれらをEMM4Sに再懸濁した。卵型カップ表面(表面を上)を、50mlチューブに沈着させた自家製プラスチックホルダーの上部に注意深く入れ(Allenらによって使用される設定を適用(Allen他,2007年));13mlのEMM4Sをチューブに注いだ。細胞を30秒間の超音波に曝し(Branson 200,Ultrasonic Cleaner)、凝集した細胞を分離し、そして1mlの細胞懸濁液を50mlのチューブに加えた。その後、特別なプラスチックホルダー上に置かれている卵型カップ表面上の細胞を500gで2分間遠心分離にかけた。卵型カップ表面をホルダーから注意深く取り外し、そしてそれを自家製チャンバーに挿入した(図2D参照)。試料調製は、表面ホルダー上に上部金属片をねじ込むことによって達成された。新鮮な培地(EMM4S,3ml)を形成されたチャンバーに直ちに加えた。
【0097】
その後、新鮮なEMM4Sを用いての8回の追加の洗浄を、チャンバー中で培地をピペットで吸い込んだり出したりすることによって実施し、ウェル中に包埋されていない細胞を除去した。効率的な細胞の除去が、洗浄中に確認され、そして顕微鏡下においてさらに確認された。上蓋を試料に加えて蒸発を防ぎ、そして試料をターゲット温度の培養器に入れた。25℃における観察のために、10時間後、収縮環の収縮を観察した。
【0098】
<顕微鏡>
細胞を2つの異なる設定を用いて観察した:Deltavision取得システム(Applied Precision)、ならびにWasabi取得システム(Hamamatsu)ならびに冷却CCDカメラ(C4742-96-12G04 Hamamatsu)およびシャッター(Uniblitz,Vincent Associates)を備え付けたオリンパスCKX41倒立顕微鏡(Olympus)。以下の対物レンズを使用した:100×UPlanF1対物レンズ(Ph3,1.3 NA,Olympus)、100×UPlanSApo対物レンズ(1.40NA,Olympus)および60×PlanApo対物レンズ(1.45NA,Olympus)。実験を温度制御ユニット(DeltavisionについてはWeatherStation,または油浸対物レンズを介しての温度制御((Riveline他,1998年))を用いて実施した。画像をWasabiソフトウェア(Hamamatsu)またはImageJを用いて処理した。
【0099】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の細胞質分裂収縮環を観察するためのデバイスであって、デバイスは、支持体と、唯一の細胞を格納するのに適した複数のウェルを付帯する微細加工基材とを含み、ウェルが、細胞の細胞質分裂収縮環の収縮面を観察面に対して平行に配向させるのに適した構造を有することを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
ウェルの幅が、円形細胞についてはおよそ直径であるか、または卵形もしくは棒状形を有する細胞については細胞のおよそ短軸である、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
ウェルの幅は、ウェルの深さよりも小さいかまたは等しい、請求項1または2記載のデバイス。
【請求項4】
細胞が細胞壁を有し、そしてウェルの深さが、細胞の直径もしくは長軸の少なくともまたは約1/2であり、好ましくは少なくともまたは約1/2である、請求項1−3のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項5】
細胞が酵母であり、ウェルの幅が1から6μm、好ましくは3から5μmであり、そしてウェルの深さが4から10μm、好ましくは6から8μmである、請求項1−4のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項6】
細胞がバクテリアであり、そしてウェルの幅が500nmから3μmの間に含まれ得る、請求項1−4のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項7】
細胞には細胞壁がなく、デバイスはさらに、ウェルを覆う蓋を含み、ウェルの深さは、細胞がそれらの中に完全に格納されるようなものであり(すなわち、深さについてはおよそ細胞の直径)、そしてウェルの底および蓋が細胞付着を促進する分子によってコーティングされている、請求項1−3のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項8】
細胞付着を促進する分子がフィブロネクチンである、請求項7記載のデバイス。
【請求項9】
ウェルの深さおよび幅が約10から50μm、好ましくは約12から20μmである、請求項7または8記載のデバイス。
【請求項10】
支持体および微細加工基材の厚さが、200μmよりも薄く、好ましくは150μmより薄く、より好ましくは100から150μmの間である、請求項1−9のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項11】
支持体が、ガラスのプレート、好ましくはガラスのカバースリップである、請求項1−10のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項12】
微細加工基材が、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)製である、請求項1−11のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項13】
デバイスがさらに、デバイス上のいくつかのグループのウェルを互いに分離する物理的障壁を含む、請求項1−12のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項14】
デバイスがさらに、試料を、デバイス上のウェルグループに送るためのマイクロ流動システムを含む、請求項13記載のデバイス。
【請求項15】
細胞の細胞質分裂収縮環を観察するための方法であって、a)細胞を擁する請求項1−14のいずれか1項記載のデバイスを準備する工程;およびb)観察面に対して平行な細胞質分裂収縮環の収縮面で細胞質分裂収縮環を観察する工程を含む、方法。
【請求項16】
観察面に対して平行な細胞質分裂収縮環の収縮面で細胞の細胞質分裂収縮環を観察するための、請求項1−14のいずれか1項記載のデバイスの使用。
【請求項17】
細胞分裂を調節することのできる試験分子、特に細胞質分裂収縮環の収縮を調節することのできる試験分子をスクリーニングまたは同定するための、請求項1−14のいずれか1項記載のデバイスの使用。
【請求項18】
細胞分裂を調節することのできる試験分子をスクリーニングまたは同定するための方法であって、
−試験分子と接触させておいた細胞を擁する請求項1−14のいずれか1項記載のデバイスを準備する工程;
−細胞の細胞質分裂収縮環の収縮を評価する工程;
−試験分子があった場合となかった場合で細胞の細胞質分裂収縮環の収縮を比較する工程;および
−試験分子があった場合となかった場合で収縮が有意に異なる試験分子を選別し、これにより細胞分裂を調節することのできる試験分子を同定する工程
を含む、方法。
【請求項19】
増殖性疾患の診断、特に腫瘍または癌の診断のための、請求項1−14のいずれか1項記載のデバイスの使用。
【請求項20】
被験体の増殖性疾患のインビトロにおける診断のための方法であって、
−被験体からの試料の細胞を擁する請求項1−14のいずれか1項記載のデバイスを準備する工程;
−細胞の収縮環の収縮を評価する工程;および
−当該細胞の収縮環の収縮と参照細胞の収縮環の収縮と比較する工程
を含む、方法。
【請求項21】
請求項1−14のいずれか1項記載のデバイスを製造するための方法であって、
−適切なポア直径および厚さを有するフィルターを調製する工程;
−ポアの底面を塞ぐように第1の支持体上にフィルターを設置する工程;
−硬化し得る液体ポリマーを注入し、硬化させる工程の後に;
−フィルターから得られるレプリカを剥離し、これによりテンプレートを得る工程;
−離型を容易にするためテンプレートに非接着処理を任意的に施す工程;
−第2の支持体上に硬化し得る別の液体ポリマーを塗布する工程;
−ポリマーでコーティングした第2の支持体に対してテンプレートを穏やかに押し付けまたは置き、硬化させる工程の後に;
−得られた微細加工基材からテンプレートを取り除き、これによりデバイスを得る工程を含む、方法。
【請求項22】
請求項1−14のいずれか1項記載のデバイスを製造するための適切なポア直径および厚さを有するフィルターの使用。
【請求項23】
フィルターが、0.08μmおよび50μmの間を含むポア寸法および5および25μmの間を含む厚さを有するフィルターである、請求項21の方法または請求項22の使用。
【請求項24】
細胞壁を有しそして卵形または棒状形を有する細胞の長軸に対して直交する面を観察するための方法であって、a)細胞を擁する請求項1−6または10−14のいずれか1項記載のデバイスを準備する工程;およびb)観察面に対して平行な面を観察する工程を含む、方法。
【請求項25】
細胞壁を有しそして観察面に平行に配置される卵形または棒状形の細胞の長軸に対して直交する面を観察するための請求項1−6または10−14のいずれか1項記載のデバイスの使用。
【請求項26】
細胞壁を有しそして卵形または棒状形を有する細胞の先端成長を調節することのできる試験分子をスクリーニングまたは同定するための、請求項1−6または10−14のいずれか1項記載のデバイスの使用。
【請求項27】
細胞壁を有しそして卵形または棒状形を有する細胞の先端成長を調節することのできる試験分子をスクリーニングまたは同定するための方法であって、
−試験分子と接触させておいた細胞を擁する請求項1−6または10−14のいずれか1項記載のデバイスを準備する工程;
−細胞の先端成長を観察する工程;
−試験分子があった場合となかった場合で細胞の先端成長を比較する工程;および
−試験分子があった場合となかった場合で先端成長が有意に異なる試験分子を選別し、これにより先端成長を調節することのできる試験分子を同定する工程
を含む、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【公表番号】特表2012−517234(P2012−517234A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549559(P2011−549559)
【出願日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051717
【国際公開番号】WO2010/092116
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【出願人】(591197334)ザ ロックフェラー ユニバーシティ (9)
【出願人】(596076573)
【出願人】(500026533)アンスティテュ・キュリ (20)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT CURIE
【Fターム(参考)】