説明

細胞分離のためのマイクロ流体デバイスおよびその使用

【課題】例えば、母体血液から胎児赤血球を分離するように、1つの試料から細胞を分離するための方法の提供。
【解決手段】細胞を含む試料を一つまたは複数の微小流路内に導入する。本デバイスは少なくとも2つの処理段階を含む。第一段階として細胞混合物が選択的に所望の細胞型の通過を許容する微小流路内に導入され、次に所望の型が濃縮された細胞集団が所望の細胞の通過を許容する第2の微小流路内に導入され、所望の型がいっそう濃縮された細胞集団が生成される。細胞の選択は、例えば、サイズ、形状、変形性、表面特性(例、細胞表面受容体または抗原および膜透過性)などのその混合物中の細胞の特性、または細胞内特性(例、特定酵素の発現)に基く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、医学的診断およびマイクロ流体システムの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
血液から均質な細胞集団を分離するためには、数種のアプローチが考案されている。これらの細胞分離技術は、2つの大きなカテゴリー、(1)様々な細胞特異的マーカーを使用して固定かつ染色した細胞の選択に基づく侵襲的方法;および(2)対象となる細胞集団に特異的な生物物理学的パラメーターを使用して生きた細胞を分離する非侵襲的方法、に分類できる。
【0003】
侵襲的方法には、蛍光活性化細胞選別法(FACS)、磁気活性化細胞選別法(MACS)、および免疫磁気コロイド選別法が含まれる。FACSは通例、特異的細胞表面マーカーを発現する細胞へ結合する蛍光標識マーカーを使用するポジティブ選択法である。FACSは、さらに選別の基礎を構成できる細胞内マーカーであるために細胞に透過して染色するためにも使用できる。この方法は、典型的には1,000〜1,500Hzの速度で作動する迅速な方法であり、検査室医学において明確に確立されている。だがFACSには、高速では極度に短い滞留時間中に入手できる光子数が少なくなるために、高度の擬陽性率が結び付いている。複雑なマルチパラメーター分類アプローチを使用するとFACSの特異性を強化することができるが、複数検体に基づくFACSは高額の費用を要するために日常的な臨床検査に使用するには非現実的である。さらにFACSは、臨床適用するには相当に高度の技能をもつオペレーターを必要とし、骨の折れる作業であり、複数回の操作により細胞損失が発生し、その上に装置の費用が高額であるために制限される。
【0004】
MACSは、表面マーカーに対する抗体でコーティングされた磁気ビーズを使用して、特異的表面マーカーを発現する細胞を細胞混合物から単離する細胞分離技術として使用されている。MACSには、FACSと比較して安価で、容易に、そして高速で実施できるという利点がある。だがこの方法には、複数回の操作および取扱いに起因して細胞消失が発生するという欠陥がある。さらに、磁気ビーズはしばしば自己蛍光を発生するので、細胞から容易に分離することができない。その結果、細胞の機能および構造に関して調査するために使用される免疫蛍光技術の多くはこのアプローチと適合しない。
【0005】
磁気コロイドシステムは、血液から細胞を分離するために使用されてきた。このコロイドシステムは、細胞表面抗原特異的モノクローナル抗体に容易に付着できるヤギ抗マウスIgGがコーティングされた強磁性ナノ粒子を使用する。強磁性ナノ粒子で標識された細胞は、磁場内では光学的に透明な表面上にリソグラフィー法によって配置された強磁性Ni線に沿って整列する。このアプローチは、さらにまた細胞を磁気ビーズと混合して表面上で分離させることを含む複数の細胞処理段階を必要とする。さらにまたその後の分析のために個々の細胞を試料から選別することも不可能である。
【0006】
非侵襲的技術には、それらの特徴的な表面電荷密度に基づいて細胞を分離するために電場に対向する水平の交差流流体勾配を使用する電荷流動分離法(charge flow separation)が含まれる。このアプローチは、純粋に生物物理学的相違に基づいて細胞を分離できるが、十分な特異性を有していない。これまでにこの技術の主要な欠点の排除に取り組むためにデバイスの特性(例、セパレータースクリーン、バッファー向流条件など)を修飾することが試みられてきた。だがこれらのデバイス特性の修飾は、いずれも相違する試料において個別変動性が予想されるために、実際的な解決をもたらさなかった。
【0007】
先行技術の方法には高額の費用、低い収率、および特異性の欠如などの欠点があるので、混合物から特定の細胞型を枯渇させてこれらの限界を克服する方法に対する必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、1つの試料から細胞を分離する(例、母体血液から胎児赤血球を分離する)ための方法を特徴とする。本方法は、細胞を含む1つの試料を一つまたは複数の微小流路内に導入する段階から始まる。1つの態様では、本デバイスは少なくとも2つの処理段階を含む。例えば、細胞混合物が所望の細胞型の通過を選択的に許容する微小流路内に導入され、次に所望の型が濃縮された細胞集団が所望の細胞の通過を許容する第2の微小流路内に導入され、所望の型がいっそう濃縮された細胞集団が生成される。細胞の選択は、例えば、サイズ、形状、変形性、表面特性(例、細胞表面受容体または抗原および膜透過性)などのその混合物中の細胞の特性、または細胞内特性(例、特定酵素の発現)に基づく。
【0009】
実際に、本方法は次に様々なデバイスを使用する様々な処理段階を通して進行されてよい。1つの段階では、試料は他の型に比較して1つの型の細胞を優先的に溶解させる溶液と微小流路内で結合させられる。また別の段階では、細胞は微小流路内で障害物を含有するデバイスと接触させられる。障害物は、他の型に比較して1つの型の細胞へ優先的に結合する。または、細胞は対象となる細胞を同定するために個別に配列させられる。細胞はさらにサイズ、変形性、または形状に基づいて分離されてもよい。本発明の方法は、細胞を分離するために、上記の段階のうち1つだけを使用することができる、またはあらゆる順序で段階の組み合わせを使用することもできる。本発明の方法は、望ましくは試料内の所望の細胞を少なくとも75%、80%、90%、95%、98%、または99%回収する。
【0010】
本発明は、1つの試料から所望の細胞を分離するためのマイクロ流体システムをさらに特徴とする。本システムは、上記の方法の段階の1つまたはいずれかの組み合わせを実施するためのデバイスを含むことができる。これらのデバイスの1つは、少なくとも2つの流入流路;反応チャンバー(例、蛇行状流路);および流出流路を含む溶解デバイスである。このデバイスは、追加してまた別の流入口および希釈チャンバー(例、蛇行状流路)を含むことができる。溶解デバイスは、少なくとも2つの流入流路が反応チャンバーを通して流出流路に接続されるように配置される。希釈チャンバーが存在する場合は、希釈チャンバーは反応チャンバーと流出口との間に配置され、別の流入口は反応チャンバーと希釈チャンバーとの間に配置される。本システムは、また別の型と比較して1つの型の細胞へ優先的に結合する障害物を含有する細胞枯渇デバイスをさらに含むことができ、それらは例えば、抗CD45抗体、抗CD36抗体、抗GPA抗体、または抗CD71抗体でコーティングされている。本システムは、個別の細胞を封じ込めるための場所の二次元アレイを含有するアレイ化デバイスをさらに含むことができる。このアレイ化デバイスは、アレイ内で個別の細胞を選択的に操作する(例、遊離させる)ためのアクチュエーターをさらに含んでいてよい。最後に、このシステムはサイズに基づく細胞分離のためのデバイスをさらに含んでいてよい。このデバイスは、所望サイズ未満の細胞の通過しか許容しないふるいを含む。ふるいは、本明細書に記載のように、それを細胞懸濁液が通過する微小流路と一緒に配置されている。組み合わせて使用される場合、本システム内のデバイスは相互に液体連絡していてよい。または、デバイスを通過する試料が収集されて、別のデバイスへ移されてもよい。
【0011】
「枯渇した細胞集団」とは、細胞混合物中で特定の細胞型の相対比率が低下するように処理された細胞集団を意味する。その混合物から枯渇させられた細胞を引き続き収集する段階はさらに、枯渇した細胞が濃縮された試料を生じさせる。
【0012】
「濃縮された細胞集団」とは、細胞混合物中で特定の細胞型の相対比率が上昇するように処理されている細胞集団を意味する。
【0013】
「溶解バッファー」とは、細胞集団と接触させると少なくとも1つの細胞型の溶解を引き起こすバッファーを意味する。
【0014】
「溶解を引き起こす」とは、特定の細胞型の少なくとも90%を溶解させることを意味する。
【0015】
「溶解されない」とは、溶解される特定の細胞型が10%未満であることを意味する。望ましくは、溶解されるこれらの細胞が5%、2%、または1%未満であることを意味する。
【0016】
細胞の「型」とは、例えば特定表面抗原の存在などの一般的特性を有する細胞集団を意味する。単一細胞が数種の細胞型に属することがある。
【0017】
「蛇行状流路」とは、流路の両端間の直線距離より長い全長を有する流路を意味する。蛇行状流路は、完全に垂直または水平に方向付けられていてよい。または、蛇行状流路は例えば流路のある部分が垂直に方向付けられ、また別の部分が水平に方向付けられるように、「三次元」であってもよい。
【0018】
「マイクロ流体の」とは、一つまたは複数の1mm未満の寸法を有することを意味する。
【0019】
「結合成分」とは、それに細胞が結合する化学種を意味する。結合成分は、表面へ結合した化合物、またはその表面を作り上げる材料であってよい。代表的な結合成分には、抗体、オリゴペプチドもしくはポリペプチド、核酸、その他のタンパク質、合成ポリマー、および炭水化物が含まれる。
【0020】
「障害物」とは、例えば1つの表面からの突起部などの、流路内の流動に対する妨害物を意味する。
【0021】
1つの細胞型へ「特異的に結合する」とは、例えば抗体-抗原相互作用などの特定機序によってその細胞型へ結合する細胞を意味する。結合の強度は、一般に細胞が結合しているときに存在する流体の流動による剥離を防止するために十分であるが、個別の細胞は場合によっては通常の作動条件下で剥離することがある。
【0022】
「障害物の行」とは、障害物の中心が実質的に直線的に配列されているように配列された一連の障害物を意味する。行間の距離は、その上に中心が位置する2つの隣接する行の線間の距離である。
【0023】
「障害物の列」は、障害物の中心が実質的に直線的に配列されているように配列された行に垂直に配列された一連の障害物を意味する。列間の距離は、その上に中心が位置する2つの隣接する列の線間の距離である。
【0024】
本発明の方法は、固定および/または染色を行わずに複合混合物から特定細胞集団を分離することができる。均質な生きた細胞集団を入手した結果として、細胞について多数の機能的アッセイを実施することができる。本明細書に記載のマイクロ流体デバイスは、細胞を処理するための単純な選択的アプローチを提供する。
【0025】
本発明のその他の特徴および利点は、以下の説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0026】
本発明は、混合物から所望の細胞を分離する、または混合物中で所望の細胞集団を濃縮する方法を特徴とする。本方法は、一般に各段階が混合物中の不要な細胞の数を低下させる連続的処理段階に基づくが、本発明の方法では1つの処理段階が使用されてもよい。様々な処理段階を実施するデバイスは、個別であっても、1つのマイクロ流体システムに統合されていてもよい。本発明のデバイスは、細胞を溶解させるデバイス、細胞を結合させるデバイス、細胞をアレイ化するデバイス、およびサイズ、形状、または変形性に基づいて分離するためのデバイスである。1つの態様では、アレイ化する前に処理段階を使用して細胞数が低下させられる。望ましくは、本発明の方法は初期混合物に比較して少なくとも75%、80%、90%、95%、98%、または99%の所望の細胞を維持するが、潜在的には所望の細胞集団を一つまたは複数の不要な細胞型に比較して少なくとも100倍、1000倍、10,000倍、100,000倍、または1,000,000倍にさえ濃縮する。本発明の方法を使用すると、血液中で循環している血球を分離または濃縮することができる(表1)。
【0027】
(表1)血球の型、濃度、およびサイズ

【0028】
デバイス
A.細胞溶解
本発明の1つのデバイスは、例えば母体血液などの細胞混合物中で例えば母体赤血球などの細胞集団を選択的に溶解させるために使用される。このデバイスは、ほぼ同一条件下で極めて多数の細胞を処理することができる。溶解デバイスは、望ましくはその後の処理に先立って極めて多数の細胞を除去する。例えば細胞膜およびタンパク質などの破片は、その後の何らかの処理に先立って、例えば濾過または沈降によって捕捉することができる。
【0029】
デバイス
本発明の溶解デバイスの設計は、図1に示されている。このデバイスにおける流路の全体的に分岐状の構造は、並列処理ネットワーク全域で等価の圧力低下を許容する。このデバイスは、機能上、4つの個別区間に分離できる。1)例えば血液、溶解試薬、および洗浄バッファーなどの流体を接合部1および2へ運搬する分散型流入流路(図2);2)2つの接合部間に存在する細胞溶解反応のための蛇行状反応チャンバー(図3);3)溶解試薬を希釈するために接合部2の下流にある希釈チャンバー(図3);および4)溶解した試料を収集用バイアルまたは別のマイクロ流体デバイスへ運搬するための分散型流出流路(図4)。
【0030】
流入/流出流路
分岐状の流入および流出流路網は、各流路内への試薬の一様な分布を可能にする(8、図1に示されている)。マクロ世界をデバイスと接続するための3つのポートの直径は、典型的には1mm〜10mm、例えば2、5、6、または8mmである。ポート1、2、および3については、デバイスと一体成形された外部マニホールドにより気密シールを形成することができる(図1)。例えば血液、溶解試薬、および希釈剤などの3つの溶液バイアルはそのようなマニホールドと連結することができる。図1に示されている3種の溶液のためのポート1、2および3から反応チャンバーおよび混合チャンバーへの流入流路は、デバイスのz面(各々が1組の分布流路を備える3層、図2を参照)内で分離されていても、または外部マニホールド内に存在していてもよい。外部マニホールド内に存在する場合は、分布流路は、例えばステンレススチールから機械加工されたCNC(コンピュータによる数値制御)流路であり、直径500μmの寸法を有していてよい。マニホールドは、図1に示されている1’、2’、および3’の位置でエッチングされているポートでデバイスと気密的に連結することができる。マニホールド内に分散型流路を配置すると、デバイスの複雑性および費用が低下する。分散型流路をデバイス上に維持すると、試料間のキャリーオーバー汚染の問題を回避しながら、より小さなサイズの流路を選択できる柔軟性が高まる。各試料流入流路は別個の流出口を有していてよい、または図4に示されているように、各試料流入用の流出流路が結合されていてもよい。マニホールドの代替物として、例えばガスケットまたはニップルへの圧縮取付具によって、あるいはルアーロックなどの防水性結合具を使用して、各流体流入用または流出用の管路をデバイスに取り付けることもできる。混合接合部およびチャンバーを越えて流体を輸送するデバイス上の流路は、幅および深さが10μm〜500μmの範囲内、例えば幅および深さが大きくとも10μm、25μm、50μm、75μm、100μm、150μm、200μm、250μm、350μm、または450μmであってよい。流路の構造は、望ましくは長方形であるが、さらにまた円形、半円形、V字形、あるいは他の適切な形状であってもよい。1つの態様では、一つまたは複数の流出流路は流入流路の断面積の合計に等しい断面積を有する。
【0031】
反応チャンバーおよび希釈チャンバー
溶解および希釈のためには、2つの流体の流れが結合され、チャンバー内を通過させられる。チャンバーは直線状または蛇行状流路であってよい。図1に示されているデバイスでは、試料および溶解バッファーが接合部1で結合され、そして溶解した試料および希釈剤が接合部2で結合される。反応チャンバーおよび希釈チャンバーの蛇行状構造は、デバイスのための合理的な全体的設置面積を維持しながら、拡散または他の受動的機序により適正に混合するために2種の反応溶液の十分な滞留時間を可能にする(図3)。蛇行状流路は、例えばデバイスの全長を減少させるために、または混合を強化するためのカオス的移流を導入するために、二次元または三次元で構築することができる。滞留時間を短くするためには、直線状チャンバーが望ましいことがある。代表的な滞留時間には、少なくとも1秒間、5秒間、10秒間、30秒間、60秒間、90秒間、2分間、5分間、30分間、1時間、または1時間以上が含まれる。反応/希釈チャンバー内の流体流量は、最適な処理スループットを可能にしながら2種の試薬の十分な混合を可能にするために、流路の幅、深さ、および有効長を制御することによって正確に制御することができる。1つの態様では、細胞を溶解させる(反応チャンバー)および溶解した試料を希釈する(希釈チャンバー)ための蛇行状混合チャンバーは各〜26μLの流体量を有する。他の例の反応/希釈チャンバー量の範囲は、例えば多くとも20、50、100、または150μLなどの10〜200μLである。一部の態様では、反応および希釈チャンバーの幅および深さは流入および流出流路と同一の、すなわち10〜500μmの範囲を有する。または、これらのチャンバーは、デバイスを通過する一様な流動速度を保証するために、あらゆる流入(または流出流路)の結合断面積に等しい断面積を有していてもよい。1つの例では、チャンバーは100μm×100μmの流路である。チャンバーの全長は、少なくとも1cm、5cm、10cm、20cm、30cm、40cm、または50cmであってよい。
【0032】
母体RBCを溶解させるためには、デバイス流出流量の範囲は、20mLの試料に対して20〜60分間の処理時間、または10mLの試料に対して10〜30分間の処理時間を生じさせる1秒間当たり血液処理量5〜16μLであってよい。十分な数の胎児細胞を捕捉するために必要とされる試料量は、工程の効率のために10mL未満であることが予測されている。したがって、1試料当たりのデバイススループットは10分間未満であることが予測されている。有効な溶血を入手するために十分な滞留時間は、受動的ミキサー内での母体血液および溶解試薬の2種の溶液の収束時間から>30秒間であると思われる(T.Maren,Mol.Pharmacol.1970,6:430)。または、反応チャンバー内の滞留時間を補正するために溶解試薬の濃度を調整することができる。他の細胞型の流量および滞留時間は、理論または実験によって決定できる。1つの態様では、各流路内の流量は細胞への壁剪断応力が1dyne/cm2未満であることを保証するために<20μL/secへ限定される(細胞は>1dyne/cm2の剪断応力によって機能的に影響を受けることが知られているが、10dynes/cm2を超えるまでは大多数の細胞では有害な作用は見られない)。1つの態様では、各流路内の流量は、多くとも1、2、5、10、15μL/secである。図1を参照すると、接合部2へつながる希釈剤流入流路の有効長は、反応チャンバーの有効長より短くてよい。この特徴は、接合部2に溶解した試料が到着する前に希釈剤が流入して接合部2の下流にある流路をプライミングすることを可能にする。流出バイアル内で前収集されたオーバーフローバッファーは、収集されると、例えばその後の処理または分析のために溶解した試料の第2希釈液として機能できる。さらに、希釈剤は接合部2の下流にある流路を満たして希釈チャンバー内での溶解した試料とバッファーとのよりスムーズな流れおよび結合を可能にし、そしてこのプライミングは溶解した試料上の乾燥流路からのあらゆる有害な表面張力作用を排除する。希釈剤を運搬する流路の直径は、試料および溶解バッファーが導入されるにつれて反応チャンバーから推し進められる空気に結び付くあらゆる問題を防止するために、希釈剤が溶解した血液と同時に接合部2へ到達するのを可能にするように調整されてよい。
【0033】
上記の説明では8本の並列処理流路を備えるデバイスに焦点を当てているが、デバイスのサイズに依存して例えば1、2、4、16、または32本のいずれかの数の流路が使用されてよい。このデバイスは、溶解および希釈するために2種の流体を結合することに関して説明されているが、3種以上の流体が溶解または希釈するために結合されてもよい。この結合は、例えば反応物質の連続添加のタイミングを制御するために、1つの接合部または一連の接合部で行われてよい。例えば残留細胞を機能化するため、pHを変化させるため、または不要な成分を沈降させるために、追加の流体流入口が追加されてよい。さらに、流路の正確な形状および寸法も変更されてよい(代表的寸法は図5に示されている)。本発明のデバイスは、使い捨てまたは再使用可能であってよい。使い捨てデバイスは、試料間の汚染のリスクを減少させる。一定の場合には再使用可能デバイスが望ましいことがあり、その場合のデバイスは、汚染を防止するために例えば様々な洗剤および例えばプロテアーゼもしくはヌクレアーゼなどの酵素を用いて洗浄することができる。
【0034】
ポンピング
1つの態様では、このデバイスは例えばシリンジポンプ、蠕動ポンプ、吸引器、または真空ポンプを使用する負圧ポンピングを利用する。負圧は、流路内に未処理試料を残すことなく、完全量の臨床血液試料を処理することを可能にする。デバイスを通して試料をポンピングするためには、例えばシリンジポンプ、蠕動ポンプ、容積式ポンプ、流体カラム、または他の流体ポンプからの陽圧もまた使用できる。陽圧ポンピングに関連する死容積問題に起因する試料消失は、バッファーを用いて残留試料を追い出すことによって克服できる。ポンプは、例えばシリコン製ガスケットを使用して、典型的には気密シールによってデバイスへ接続される。
【0035】
このデバイスにおける並列流路内の流体流量は、同時に、または個別に制御することができる。各流路内での流量の可変性および差別的制御は、例えばマルチチャンネル式個別制御可能なシリンジマニホールドを使用することによって達成できる。この態様では、流入流路の分布は、並列流路網の全てを分断するために変更される。流出口は、収集用バイアルまたは他のマイクロ流体デバイスへの吸引(気密シールは必要とされない)流出口へ接続されたシリンジマニホールドを通して全流路からの流出物を収集することができる。または、各流路網からの流出物は、下流での処理のために個別に収集することもできる。別個の流入口および流出口は、一つまたは複数の個体からの複数の試料を並列処理することを可能にする。
【0036】
作製
本発明のデバイスを作製するためには様々な技術を利用することができ、利用される技術は一部には最適な材料に基づいて選択される。本発明のデバイスを作製するための代表的材料には、ガラス、シリコン、スチール、ニッケル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、シリコン類(例、ポリジメチルシロキサン)、およびそれらの組み合わせが含まれる。その他の材料は、当技術分野において知られている。これらの材料で流路を作製する方法は当技術分野において知られている。これらの方法には、フォトリソグラフィー(例、立体リソグラフィーまたはX線フォトリソグラフィー)、モールディング法、エンボス加工法、シリコン微細加工法、湿式もしくは乾式化学エッチング法、ミリング法、ダイアモンド切削法、リソグラフィーによる電気めっきおよび成形法(LIGA)および電気めっき法が含まれる。例えば、ガラスについては、後に湿式(KOH)または乾式エッチング(フッ素またはその他の反応ガスを用いた反応性イオンエッチング)を実施する伝統的なフォトリソグラフィーによるシリコン作製法を利用できる。レーザー微細加工法などの技術は、高度の光子吸収効率を備えるプラスチック材料のために採用できる。この技術は、この工程が連続的種類であるため、低スループット作製のために適合する。大量生産されるプラスチック製デバイスには、熱可塑性射出成形法、および圧縮成形法が適合する。本発明のデバイスを作製するためには、(サブミクロンで機能の忠実度を保存する)コンパクトディスクの大量生産に使用される従来的な熱可塑性射出成形法もまた利用されてよい。例えば、デバイスの機能は従来型のフォトリソグラフィーによってガラスマスター上で複製される。ガラスマスターを電気鋳造すると、頑丈で耐熱衝撃性、熱伝導性かつ硬質の型が作り出される。この型は、機能をプラスチック製デバイスに成形する射出成形法または圧縮成形法のためのマスターテンプレートとして機能する。デバイスを作製するために使用されるプラスチック材料並びに光学的品質および最終製品のスループットに関する要件に依存して、製造方法として圧縮成形法または射出成形法を選択できる。圧縮成形法(ホットエンボス加工法またはリリーフインプリンティング法とも呼ばれる)には、小型構造にとって卓越しているが高縦横比構造を複製する際に使用するのは困難でサイクル時間が長い高分子量ポリマーと適合する利点がある。射出成形法は、高縦横比構造とも良好に作用するが、低分子量ポリマーにとって最も適合する。
【0037】
デバイスは、一つまたは複数のピースで作製され、その後に組立てられてよい。1つの態様では、このデバイスの別個の層は図1に示されているように、単一流体用の流路を含有している。デバイスの層は、クランプ、接着剤、熱、陽極結合、または表面基間の反応(例、ウエハー結合)によって一緒に結合されてよい。または、一つより多くの平面内に流路を備えるデバイスは、例えば立体リソグラフィーまたはその他の三次元作製技術を使用して、単一ピースとして作製されてよい。
【0038】
1つの態様では、このデバイスはPMMAから製造される。例えば図1に示されているような機能は、標準的なフォトリソグラフィーおよびその後の電気めっきを使用して電気鋳造された型へ移される。この型は、図6Aで略図により証明されているように、圧力(5〜20トン)下でガラス転移温度(105℃)近くの温度でPMMA内に機能をホットエンボス加工するために使用される(圧力および温度は、デバイス内で最強度の機能の高忠実度複製を引き起こすように調整される)。この型は、次にPMMAデバイスを除去できるように冷却される。デバイスをシールするために使用される第2ピースは、類似または異なる材料から構成され、真空補助熱結合を使用して第1ピース上へ結合することができる。真空は、結合領域における空隙の形成を防止する。図6Bは、ポート1(血液試料源)および供給流路の接合部でのツーピースデバイス組立体の断面を示している。
【0039】
化学誘導
細胞または溶解した細胞から放出される化合物が流路壁上へ非特異的に吸着するのを減少させるために、一つまたは複数の流路壁は非付着性または反発性となるように化学修飾することができる。これらの壁は、ヒドロゲルを形成するために使用される試薬などの、市販の非付着性試薬による薄膜コーティング(例、単層)でコーティングできる。流路壁を修飾するために使用できる追加の化学種の例には、オリゴエチレングリコール、フッ化ポリマー、オルガノシラン、チオール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、ウシ血清アルブミン、ポリビニルアルコール、ムチン、ポリ-HEMA、メタクリル化PEG、およびアガロースが含まれる。反対に荷電した種に反発するためには、荷電ポリマーもまた利用されてよい。反発に使用される化学種の型および流路壁へ付着させる方法は反発される種の性質ならびに付着される壁および種の性質に依存するであろう。そのような表面修飾技術は、当技術分野において周知である。壁は、デバイスが組立てられる前、または後に機能化することができる。
【0040】
流路壁は、さらにまた例えば膜断片もしくはタンパク質などの試料内の物質を捕捉するためにコーティングされてもよい。
【0041】
方法
本発明では、例えば母体血液などの細胞の試料が一つまたは複数の微小流路内に導入される。試料内の細胞集団を選択的に溶解させるための試薬を含有する溶解バッファーは、次に血液試料と混合される。望ましくは、混合は、例えば拡散またはカオス的移流などの受動的手段によって行われるが、能動的手段が利用されてもよい。追加の受動的および能動的ミキサーは、当技術分野において知られている。溶解反応は、所望の時間にわたり持続させられる。この時間の長さは、例えば流路の長さまたは流体の流速によって制御することができる。さらに、流路内で混合される溶液の容積は、例えば流路のサイズまたは流動速度を変化させることにより、溶液の相対的容積流量を変化させることによって制御することが可能である。流速は、いずれかの望ましい時間にわたり、減速させる、上昇させる、または停止させることができる。溶解が発生した後、溶解試薬および溶解した細胞から放出されたいずれかの潜在的に有害な種(例、エンドソーム酵素)の濃度を低下させるために希釈剤を流路内に導入することができる。希釈剤は溶解試薬を中和する、またはさもなければ例えばpHもしくは粘度などの流体環境を変化させる種を含有していてよい、あるいは細胞の表面または細胞内標識化のための試薬を含有していてよい。希釈剤は、例えば吸光度測定値などの一定の検出スキームにとって重要なことがある溶液の光学密度をさらに低下させることができる。
【0042】
本明細書に記載の方法を使用して溶解できる代表的な細胞型には、成人赤血球、白血球(T細胞、B細胞、およびヘルパーT細胞など)、感染した白血球、腫瘍細胞、および感染性微生物(例、細菌、原虫、および真菌)が含まれる。これらの細胞のための溶解バッファーには、補体媒介性溶解を開始するための補体カスケード内の細胞特異的IgM分子およびタンパク質を含むことができる。また別の種類の溶解バッファーには、特異的細胞型に感染し、複製の結果として溶解を引き起こすウイルスを含むことができる(例えば、Pawlik et al.Cancer 2002,95:1171-81を参照)。その他の溶解バッファーは、当技術分野において知られている。
【0043】
本発明のデバイスを使用すると、血液試料中の胎児細胞を濃縮させるために、母体赤血球(RBC)の選択的溶解のために使用できる。この例では、母体血液試料10〜20mLが試料収集の初期1〜3時間以内に加工される。加工処理が3時間を超えて遅延する場合は、試料はそれが処理されるまで4℃で保存されてよい。本発明の溶解デバイスは、Orskov-Jacobs-Stewart反応の基本原理によって母体赤血球の選択的溶解を可能にする溶解試薬(NH4C1(0〜150mM)+NaHCO3(0.001〜0.3mM)+アセタゾルアミド(0.1〜100μM))と母体血液との混合を許容する(例えば、Boyer et al.Blood 1976,47:883-897を参照)。炭酸脱水酵素阻害剤であるアセタゾルアミドの胎児細胞内への高度に選択的な透過性は、母体赤血球の選択的溶血を可能にする。母体細胞中の内因性炭酸脱水酵素は母体赤血球を溶解させる二酸化炭素へHCO3-を転換させる。この酵素は胎児赤血球中では阻害されるので、それらの細胞は溶解されない。試薬へ長時間にわたり暴露させた後に一部の胎児赤血球が溶解するリスクを低下させるために、溶解試薬と細胞試料とのある期間の接触後に希釈剤(例、リン酸緩衝液)を添加してもよい。
【0044】
B.細胞結合
本発明のまた別のデバイスは、細胞をデバイスの表面へ結合させることによる混合物からの全細胞の枯渇を含む。そのようなデバイスの表面は、例えば細胞表面受容体に対する抗体またはリガンドなどの、細胞の特定小集団へ結合する物質を含む。本方法におけるこの段階は、所望の細胞がデバイスへ結合させられるポジティブ選択、所望の細胞がデバイスを通過させられるネガティブ選択を利用することができる。いずれの場合でも、分析またはその後の処理のために所望の細胞を含有する細胞集団が収集される。
【0045】
デバイス
このデバイスは、混合物中で、例えば特異的表面分子を発現する障害物などの、細胞集団へ結合できる様々な形状の障害物の配列を含有するマイクロ流体システムである。結合した細胞は、デバイス上で直接分析できる、または例えばその後の分析もしくは処理のためにデバイスから取り除かれてよい。または、障害物へ結合していない細胞は、例えばその後の処理または分析のために収集されてよい。
【0046】
代表的デバイスは、それを通って細胞が流動する平板流路を有する流動装置である;そのようなデバイスはU.S.Patent No.5,837,115に記載されている。図7は、マイクロ流体デバイスを通して例えば血液などの細胞混合物を潅流させるための注入ポンプを含む代表的システムを示している。本明細書に記載のようなその他のポンピング法もまた利用されてよい。このデバイスは、デバイスを通って流動中の細胞を視認するために、光学的に透明であってよい、または透明な窓を有していてよい。このデバイスは、フローチャンバーを通る、例えば規則化配列の、または無作為に分布した障害物を含有している。デバイスの上面および底面は、望ましくは相互に平行である。この概念は、図8に描出されている。障害物は底面または上面の一部であってよいが、望ましくは流路の高さを画定する。さらに、障害物の一部分を底面上に、そして残りを上面上に配置することもまた可能である。障害物はチャンバーの上部および底部の両方に接触してよい、または障害物と1つの表面との間に間隙があってもよい。障害物は、混合物中で、例えば特異的表面分子を発現する結合成分などの、細胞集団へ結合する例えば抗体、荷電ポリマー、細胞表面受容体へ結合する分子、オリゴペプチドもしくはポリペプチド、ウイルスもしくは細菌タンパク質、核酸、または炭水化物などの結合成分でコーティングされてよい。特定の細胞型に対して特異的である他の結合成分は、当技術分野において知られている。また別の態様では、障害物はそれに特定の細胞型が結合する材料から作製される。そのような材料の例には、有機ポリマー(荷電または非荷電)および炭水化物が含まれる。結合成分が障害物へ結合したら、障害物への細胞の非特異的付着を防止するために、本明細書に記載のようなコーティングが障害物の露出面にさらに適用されてもよい。
【0047】
障害物の形状は、図9に示されている。1つの実施例では、障害物は2.5cm×7.5cmの全体的寸法を備える基質上の2cm×7cmの表面積上にエッチングされる。基質の周囲には、閉鎖チャンバーを作製するために上面へ結合するために2mmの縁が残されている。1つの態様では、障害物の直径は50μm、高さは100μmである。障害物は、中心間の間隔を100μmとする行の二次元アレイで配列できる。この配列は、細胞が機械的に圧搾または損傷させられることなく障害物間で細胞が流動するための50μmの開口部を提供する。1行内の障害物は、望ましくは隣接行に対して例えば50μmずらされている。この交互パターンは、細胞と障害物との間の高衝突度数を保証するために、設計全体を通して繰り返されてよい。障害物の直径、幅、または長さは、少なくとも5、10、25、50、75、100、または250μmおよび多くとも500、250、100、75、50、25、もしくは10μmであってよい。障害物間の間隔は、少なくとも10、25、50、75、100、250、500、または750μmおよび多くとも1000、750、500、250、100、75、50、もしくは25μmであってよい。表2には、障害物の直径に基づいた代表的間隔を列挙した。
【0048】
(表2)障害物の代表的間隔

【0049】
障害物の寸法および形状は、重大に異なってよい。例えば、障害物は円筒形または正方形の断面を有していてよい(図10)。障害物間の距離は様々であってよく、流れに対する直交方向に比較して流れ方向は相違してよい。一部の態様では、障害物の縁間の距離は、混合物中の最大の細胞のサイズよりわずかに大きい。この配列は、細胞が障害物間で機械的に圧搾されることなく流動することを可能にし、さらに結合の確立を増加させるために細胞と障害物との衝突回数を最大化する。障害物の方向付けに比較した流れ方向は、細胞と障害物との相互作用を強化するために変化させることもできる。
【0050】
障害物の代表的な配列は、図11A〜11Bに示されている。これらの配列は各々、計算された捕捉効率を有する。細胞付着の計算には2つの相違する形状:正方形アレイ(図11A)、および正三角形アレイ(図11B)を考慮に入れた。全体としては、結果は接着効率で表されている。計算は、流体力学的効率および接着確率(η)を計算する2つの部分から構成される。流体力学的効率は、捕捉半径対円筒間の半距離の比率として決定される(図12Aおよび12B)。正方形アレイについては、η=(2rcap/l)*100%であり、他のアレイについてはη=((rcap1+rcap2)/d1*100%であり、正方形アレイについてはdl=d2=l/√2であり、三角形アレイについてはd1=l√3/2、d2=l/2である。接着確率は、細胞1個につき平均1.5の結合および1結合につき75pNを想定して、細胞に加えられた力に抵抗できる細胞分画を表している。
【0051】
三角形アレイについては、第1組より第2組の障害物により多くの細胞が接着した。図13A〜13Bは、障害物間の間隔が増加するにつれて効率が低下することを示している。間隔が増加するにつれて捕捉半径の外側の領域が大きくなり、細胞は障害物に決して接触しなくなる。さらに、試験した流量(0.25〜1mL/h)については、細胞1個当たりの力が結合を破断させる力より小さいために、全接着確率は高い。
【0052】
三角形アレイおよび150ミクロンの間隔については、流量が0.25〜1mL/hへ増加するにつれて、全体的捕捉効率が12%低下する(図14A〜14B)。接着は、流体力学的捕捉が改良されないために、より低い流量になることによっては改良されない。平均速度は、障害物間の間隔が増加するにつれて増加する。これは、計算では一定の圧力低下が使用されたためである。これは、流量は固定されて維持され、圧力低下が変動する実験とは相違する。これらの結果は、当業者であればその場合毎に外挿することができる。
【0053】
反復三角形アレイは、大多数の捕捉が最初の数行で発生するために、標的細胞の限定された捕捉を提供する。これについての理由は、これらの行および反復において流動場が確立されることにある。第1捕捉半径は余り多数の捕捉を作り出さないが、他方大多数の捕捉は第2捕捉半径内にある(図15)。捕捉半径内の細胞が捕捉されると、捕捉が発生できる唯一の方法は、細胞をそれらの流線または第2捕捉から移動させる細胞間衝突を通して行われる。図15を参照すると、捕捉を強化するために、流動場が確立された後に、行はrcap2=0.339lに等しい距離で垂直方向(通常の流動方向)からずらされている。最初の5列は、正三角形の2つの正規領域を形成する。これは、流れを確立し、正三角形アレイのための溶液と一致することを許容する。rcap2の外側に落ちた細胞の捕捉を促進するために、第4列は距離rcap2だけ下向きへ移動させられている。全列はl/2に等しい距離だけ離れている。rcap2の外側に落ちた細胞は、第4の三角形(第7列)内の第1障害物によって捕捉されるのが示されている。三角形4および5は、正三角形であろう。三角形6では、頂点3は間隔rcap2だけ下向きにずらされている。この配列は3つの三角形毎に繰り返されてよいが、すなわち反復距離は2.5lである。図16Aおよび16Bは、流量の関数としての捕捉効率および所望の細胞の相対集団を示している。
【0054】
上層は、望ましくはガラスから作られており、流入および流出の流れのために2本のスリットが超音波により穿孔されている。スリットの流入口/流出口の寸法は、例えば長さ2cmおよび幅0.5mmである。図17は、流入口/流出口の形状についての詳細を示している。次に流入口/流出口スリット上にはマニホールドを組み込むことができる。流入マニホールドは、注入シリンジポンプまたは他の運搬手段から、例えば柔軟性の生体適合性チュービングを通して血球を受け入れる。同様に、デバイスから流出する溶液および細胞を収集するためのリザーバーには流出マニホールドが接続されている。
【0055】
流入口および流出口の構成および形状は、様々な方法で設計されてよい。例えば、円形の流入口および流出口が使用されてよい。血球が障害物の位置する領域に到達したときにそれらが一様に分布されることを保証するために、次に障害物のない入口領域が設計に組み込まれる。同様に、流出口は、流出する細胞を損傷させずに一様に収集するために、障害物のない出口領域を備えて設計される。
【0056】
代表的装置の全体的サイズは図9に示されている(上部挿入図)。長さは10cmおよび幅は5cmである。障害物で覆われた領域は、9cm×4.5cmである。この設計は、様々な用途に合わせてもっと大きい、またはもっと小さいサイズに適応できるように十分柔軟性がある。
【0057】
このデバイスの全体的サイズは、流動スループットおよび枯渇(または捕捉)させられる細胞数に依存して、もっと小さくてももっと大きくてもよい。もっと大きなデバイスには、より多数の障害物および細胞捕捉のためのより大きな表面積を含めることができる。例えば血液などの処理される試料の量が大量である場合には、そのようなデバイスが必要になることがある。
【0058】
作製
本発明のデバイスを作製するための代表的方法は、図18に要約されている。この実施例では、標準的フォトリソグラフィーを使用してシリコン・オン・インシュレーター(SOI)ウエハー上で障害物のフォトレジストパターンが作製される。SOIウエハーは、厚さ500μmのSi(100)ウエハー、その上の厚さ1μmのSiO2層、およびその上の厚さ100μmのSi(100)層から構成される。フォトレジスト接着を最適化するために、SOIウエハーはフォトレジストコーティングを行う前にヘキサメチルジシラザンの高温蒸気に暴露させられてよい。UV感受性フォトレジストは、ウエハー上にスピンコーティングされ、90℃で30分間焼成され、クロム接触マスクを通して300秒間にわたりUV光線へ暴露させられ、現像液中で5分間現像され、そして90℃で30分間後焼成される。工程パラメーターは、フォトレジストの性質および厚さに依存して変化させてよい。クロム接触マスクのパターンがフォトレジストに移されると、障害物の形状を決定する。
【0059】
障害物のパターンと同一のフォトレジストパターンが形成されると、エッチングが開始される。SiO2は、エッチング工程のストッパーとして役立つことがある。エッチングは、さらにまたストッパー層を使用せずに所与の深さで停止するように制御することもできる。フォトレジストパターンは、プラズマエッチング装置内で厚さ100μmのSi層へ移される。一様な障害物を達成するためには、多重化ディープエッチングを利用することができる。例えば、基質はSF6を流動させるフッ素に富むプラズマへ15秒間暴露させられ、そして次にシステムは10秒間にわたりC4F8だけを流動させるフルオロカーボンに富むプラズマへ切り替えられるが、これによって全表面が保護膜でコーティングされる。引き続いてのエッチングサイクルでは、イオン衝撃への暴露により水平面からポリマーが優先的に取り除かれるが、このサイクルは例えばSiO2層に到達するまで複数回繰り返される。
【0060】
結合成分を障害物の表面へ結合させるために、基質を表面修飾前に酸素プラズマへ暴露させてそれに結合成分を付着させることのできる二酸化シリコン層を作り出すことができる。基質は、次に蒸留脱イオン水中で2回洗浄され、風乾させられてよい。暴露させたガラスへのシラン固定化は、新しく水中で調製した3-[(2-アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシランの2%(v/v)溶液中に30秒間試料が浸漬し、次に蒸留脱イオン水中で洗浄することによって実施する。基質は次に窒素ガス中で乾燥され、焼成される。次に基質は周囲温度で1時間、リン酸緩衝液中のグルタルアルデヒドの2.5%(v/v)溶液中に浸漬される。この基質が再び洗浄され、周囲温度で15分間にわたり蒸留脱イオン水中の例えば抗CD71、抗CD36、抗GPA、または抗CD45などの結合成分の0.5mg/mL溶液中に浸漬され、結合剤が障害物へ結合させられる。基質は次に蒸留脱イオン水中で2回洗浄され、滅菌のために70%エタノール液中に一晩浸漬される。
【0061】
結合成分を障害物およびデバイスの表面上に固定化するためには、上記の方法以外に多数の技術がある。容易に安価で実施するためには、表面上への単純な物理的吸収が選択対象となることがある。また別のアプローチでは、様々な結合成分を用いて機能化される自己集合性単層(例、金の上のチオール)が使用されてよい。結合されている結合成分およびデバイスを作製するために使用される材料に依存して、追加の方法を使用できる。表面修飾法は、当技術分野において知られている。さらに、一定の細胞は変更されていない材料の表面へ優先的に結合することができる。例えば、一部の細胞は正電荷表面、負電荷表面、または疎水性表面、あるいは一定のポリマー内に存在する化学基へ優先的に結合できる。
【0062】
次の段階には、障害物を含有する微細加工シリコンへ上層を結合させることによる流動デバイスの作製が含まれる。上層の基質は、捕捉中および捕捉後の細胞を視覚的に観察できるようにガラスであってよい。熱結合またはUV硬化性エポキシを使用するとフローチャンバーを作製することができる。上部および底部は、例えばシリコン製ガスケットを使用して圧縮はめ合いすることができる。そのような圧縮はめ合いは可逆性であってよい。その他の結合方法(例、ウエハー結合)は当技術分野において知られている。利用される方法は、使用される材料の性質に依存してよい。
【0063】
細胞結合デバイスは、様々な材料から作製されてよい。材料の選択に依存して、様々な作製技術もまた使用されてよい。このデバイスは、ホットエンボス加工法を使用して、ポリスチレンなどのプラスチックから製造することができる。障害物および必要なその他の構造は、底面を作製するためにプラスチックへエンボス加工される。次に上層を底層へ結合させることができる。射出成形法は、このようなデバイスを作製するために使用できるまた別のアプローチである。ソフトリソグラフィーを利用すると、さらにまたポリジメチルシロキサン(PDMS)から作製されたチャンバー全体を作製することができる、またはPDMSで障害物だけを作製し、次にガラス基質へ結合させて閉鎖チャンバーを作製することができる。さらにまた別のアプローチには、意図された構造のネガ複製を有するマスター上でのUVもしくは温度硬化性エポキシを使用することにより障害物を作製するためのエポキシ鋳造技術の使用が含まれる。フローチャンバーを作製するためには、さらにレーザーまたは他の型の微細加工アプローチが利用されてもよい。このデバイスの作製に使用できる他の適切なポリマーは、ポリカーボネート、ポリエチレン、およびポリメタクリル酸メチルである。さらに、伝統的な金属機械加工によって、本発明のデバイスを作製するためにはスチールおよびニッケルなどの金属もまた使用されてよい。このデバイスをワンピースで作製するためには、三次元作製技術(例、立体リソグラフィー)を利用できる。その他の作製方法は、当技術分野において知られている。
【0064】
方法
本発明の方法は、細胞混合物をマイクロ流体デバイスの表面と接触させる段階を含む。血液などの複雑な細胞混合物中の細胞集団は、次にデバイスの表面へ結合する。望ましくは、デバイスの表面へ結合できる細胞の少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、98%、または99%が混合物から取り除かれる。表面コーティングは、望ましくは細胞の非特異的結合を最小限に抑えるように設計される。例えば、結合成分へ結合できない細胞の少なくとも99%、98%、95%、90%、80%、または70%はデバイスの表面へ結合しない。デバイスにおける選択的結合は、細胞混合物中から特定の生きた細胞集団の分離を生じさせる。障害物は、障害物を含有するチャンバー内で結合の可能性が増加するように、細胞がそれと相互作用する表面積を増加させるためにデバイス内に存在する。流動条件は、細胞が障害物間内に進入するために機械的に変形させられる必要なく、細胞がデバイス内で極めて穏やかに取り扱われるような条件である。細胞が本発明のマイクロ流体デバイスを流入および流出するように細胞を輸送するためには、陽圧もしくは負圧ポンピングまたは流体カラムからの流動を利用できる。また別の態様では、細胞は、例えば非生物学的物質(例、ビーズ)、非生育性細胞破片(例、膜分画)または分子(例、タンパク質、核酸、もしくは細胞溶解物)などの非細胞性物質から分離される。
【0065】
図19は、障害物上にコーティングされた結合成分へ結合した特異的表面抗原を発現している細胞を示しているが、他の細胞はデバイスを通って流れている(細胞上の小さな矢印は、表面へ結合していない細胞の方向性を示している)。流動装置の上面および底面は、さらにまた細胞結合を促進するために同一結合成分、または相違する結合成分でコーティングされてもよい。
【0066】
本明細書に記載の方法を使用して分離できる代表的な細胞型には、成人赤血球、胎児赤血球、トロホブラスト、胎児線維芽細胞、白血球(T細胞、B細胞、およびヘルパーT細胞など)、感染した白血球、幹細胞(例、CD34陽性造血幹細胞)、上皮細胞、腫瘍細胞、および感染性微生物(例、細菌、原虫、および真菌)が含まれる。
【0067】
試料は、本明細書に記載の方法を使用して多数の均質な成分に分別することができる。細胞集団に対して特異的な様々な結合成分を含有する複数の類似デバイスを直列または並列で接続することができる。希少な細胞を分離しようとする場合は、直列分離を利用できる。他方では、血液中の様々な集団の差別的分布を入手しようとする場合は、並列分離を利用できる。図20Aおよび20Bは、血液から多数の細胞集団を分離するための並列および直列システムを示している。並列型デバイスについては、様々な細胞型へ結合する2組以上の障害物を別個の領域に配置することができる、またはそれらは例えばチェッカー盤パターンまたは交互列で相互間に散在させることもできる。さらに、デバイスの上部に1組の障害物を取り付け、別の組をデバイスの底部に取り付けることができる。各組は、次に様々な細胞集団へ結合するように誘導することができる。試料がデバイス内を通過すると、2種の相違する細胞型の別個の試料を提供するために上部および底部が分離される。
【0068】
細胞結合デバイスを使用すると、一定細胞集団の流出流れを枯渇させることができる、またはその後の分析のために一定の表面分子を発現する特異的細胞集団を捕捉することができる。障害物へ結合した細胞は、均質な細胞集団についてのその後の分析のためにチャンバーから取り出すことができる(図21)。この除去は、流れ方向に直交する一つまたは複数の追加の入口および出口を組み込むことによって達成されてよい。細胞は、細胞と障害物との間の結合力を克服するためのより高い剪断力である高流量でチャンバーにパージすることによってチャンバーから取り除くことができる。その他のアプローチには、例えばpH、温度、または電場によって作動させられる可逆性結合特性を備える結合成分を結合する段階が含まれてよい。細胞の表面上へ結合した結合成分、または分子は、酵素手段またはその他の化学的手段によって劈開させることができる。
【0069】
胎児赤血球単離の実施例では、溶解デバイスを通過した試料は、その表面がCD45でコーティングされている細胞結合デバイスを通過させられる。混合物中に存在するCD45を発現する白血球はデバイスの壁へ結合し、デバイスを通過した細胞は胎児赤血球が濃縮している。または、障害物およびデバイス表面は、全母体血液試料からの胎児有核赤血球(CD71細胞表面タンパク質を発現する)へ結合するために抗CD71でコーティングされる。成人白血球の1%もまたCD71を発現する。母体血液の試料がデバイスを通過させられ、CD71を発現する両方の細胞集団がデバイスへ結合する。これは、血液試料からの胎児赤血球の枯渇を生じさせる。胎児細胞は次に収集かつ分析される。例えば、細胞は蛍光インサイチュー・ハイブリダイゼーション(FISH)用の平面基質上で収集され、続いて細胞の固定およびイメージングが実施される。図22A〜22Cは本発明の結合デバイス内の障害物へ結合した細胞上のFISHの使用を示している。胎児起源の細胞は、蛍光プローブを使用してXおよびY染色体について染色される。これらのデータは、染色体異常の検出および診断のためのポスト上のFISH染色細胞の光学的イメージングの実行可能性を証明している。
【0070】
また別の態様
細胞結合デバイスのまた別の態様は、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸ヒドロキシメチル、ポリアクリルアミド、またはポリエチレングリコールなどであるがそれらに限定されない緩く架橋結合したヒドロゲル内に取り込まれた、化学的に誘導されたガラス/プラスチック製ビーズを利用する。化学的に誘導されたビーズは、この態様での障害物として機能する。細胞混合物は、2つの全く正反対に対向する流入口を通して細胞枯渇デバイス内に方向付けられる。陽圧(例えば、注入ポンプまたは流体カラムから)または負圧(例えば、プルモードのシリンジポンプ、真空ポンプ、または吸引器から)は、ヒドロゲルを通して液体を駆動する。試料中の細胞とヒドロゲルの三次元容積中に分散した化学的に誘導されたビーズとの相互作用は、例えば白血球などの細胞の枯渇(ネガティブ選択)または例えば胎児赤血球などの細胞の捕捉(ポジティブ選択)のいずれかを生じさせる。ビーズによる当該細胞の最高の相互作用および捕捉を可能にするために、分子量、架橋密度、ビーズ密度、ならびに分布および流動速度を最適化できる。高含水量ヒドロゲルは、試料を通る容易な流動を許容しながらビーズを捕捉する構造を提供する。試料は、次に2つの正反対に対向する流出口を通って収集される。分岐した流入/流出流路の設計は、ヒドロゲルの容積を通る試料の最高に均質な分布を保証する。
【0071】
さらにまた別の態様では、ビーズはヒドロゲルポリマーの側鎖の直接的な化学的誘導によって結合成分(例、合成リガンドまたはモノクローナル抗体(mAb))に置換される。このアプローチは、極めて高密度の分子捕捉部位を提供し、これによってより高度の捕捉確率を保証する。このアプローチの追加の利点は、この工程において例えばポリマーバックボーンおよび側鎖の化学的性質が胎児細胞を捕捉し、その後にヒドロゲルを架橋結合させるために設計されている場合は、ヒドロゲルに基づく細胞枯渇デバイスをポジティブ選択モード(特異的mAbを備える胎児細胞を選択する)における胎児細胞捕捉のためのセンサーとして使用できる可能性があることである。細胞は抗原-mAb相互作用を介して多数の側鎖へ結合し、したがってポリマー鎖のための架橋剤として機能するので、ポリマー架橋密度の上昇を原因とする経時的な流出量の減少は、数学的にはポリマーの三次元マトリックス内に捕捉される胎児細胞数と一致するはずである。所望の胎児細胞数が捕捉されると(流出流量の減少によって測定する)、このデバイスは母体試料のそれ以上の処理を停止して、胎児細胞の分析へ進行することができる。捕捉された胎児細胞は、側鎖内の光活性結合剤を使用することによって分析のために放出できる。光反応剤は標的リガンドまたはmAbをポリマーバックボーンへ結合させ、UVまたはIR照射へ暴露させると、リガンドまたはmAbおよび結び付いた細胞が放出される。
【0072】
C.細胞のアレイ化
このデバイスでは、典型的には望ましくない細胞が枯渇させられている細胞混合物がマイクロ流体デバイス内でアレイ化される。この段階のための代表的デバイスは、国際公開番号WO 01/35071に記載されている。アレイ内の細胞は次に、所望の細胞の位置を決定するために、例えば顕微鏡または比色アッセイによって分析される。所望の細胞は、例えば溶解、次にPCRによってアレイ上で分析されてよい、または細胞は例えば光学的ピンセットなどの様々な機構によってアレイから収集されてよい。WO 01/35071に記載された代表的デバイスでは、細胞はアレイ化デバイス内に導入され、デバイス内に機械加工された穴の中に受動的に沈殿できる。または、陽圧または負圧を利用すると細胞をアレイ内の穴へ方向付けることができる。細胞が穴の中に配置されると、選択された細胞は例えば気泡作動ポンプなどのアクチュエーターによってアレイから個別に放出させることができる。アレイ化デバイスには、さらに例えば誘電泳動トラッピング法などの細胞を固定化および放出するための他の方法が使用されてもよい。アレイから放出されると、細胞を収集し分析に供することができる。例えば、胎児赤血球はアレイ内で同定され、次に遺伝的異常について分析される。胎児赤血球は形態学的に、または特異的分子マーカー(例、胎児ヘモグロビン、転移受容体(CD71)、トロンボスポンジン受容体(CD36)、またはグリコホリンA(GPA))によって同定できる。
【0073】
D.サイズに基づく分離
また別のデバイスは、サイズ、形状または変形性に基づいて選択的に粒子の通過を許容するふるいの使用に基づいて粒子を分離するためのデバイスである。ふるい内の孔のサイズ、形状、または変形性がそのふるいを通過できる細胞の型を決定する。例えばサイズが連続的に増加する細胞を除去するためには、2つ以上のふるいを直列または並列で配列できる。
【0074】
デバイス
1つの態様では、ふるいには間隔をあけて離れている一連の障害物が含まれる。本発明のデバイスでは、様々な障害物のサイズ、形状、および配列を使用できる。ふるいでは、例えば円形、四角形、長方形、楕円形、または三角形の断面を備える障害物などの障害物の様々な形状を使用できる。迅速かつ効率的な濾過を保証するためには、障害物間の間隙サイズおよび障害物の形状を最適化できる。例えば、RBCのサイズ範囲は約5〜8μmであり、血小板のサイズ範囲は約1〜3μmである。全WBCのサイズは10μmより大きい。障害物間の大きな間隙はRBCおよび血小板がふるいを通過する速度を上昇させるが、大きな間隙はさらにWBCが消失するリスクを増加させる。間隙のサイズが小さいと、WBCのより効率的な捕捉を保証するが、RBCおよび血小板の通過速度もまた緩徐になる。用途の型に依存して、様々な形状を使用できる。
【0075】
障害物に加えて、ふるいは他の方法によって製造されてよい。例えば、ふるいはモールディング法、電気鋳造法、エッチング法、穿孔法、またはさもなければ例えばシリコン、ニッケル、もしくはPDMSなどの材料のシート内に穴を作製する方法によって形成できる。または、本明細書に記載のデバイス内のふるいとして適切な孔径を有するポリマーマトリックスまたは無機マトリックス(例、ゼオライトまたはセラミック)を利用することができよう。
【0076】
本発明のデバイスに関連する1つの問題は、ふるいの目詰まりである。この問題は、適切なふるいの形状および設計によって、さらにまたふるいを本明細書に記載のようにウシ血清アルブミン(BSA)またはポリエチレングリコール(PEG)などの非粘着性コーティングで処理することによって低下させることができる。目詰まりを防止する1つの方法は、ふるいと粒子との接触面積を最小限に抑える方法である。
【0077】
低剪断応力濾過デバイスの略図は、図24に示されている。このデバイスは、流路内の幅広部分であるディフューザー内につながる1つの流入流路を有する。典型的には、流路はV字形パターンで広がる。このディフューザーは、例えばWBCおよび胎児RBCの集団を濃縮しながら血液から小さなRBCおよび血小板を濾過するために成形された孔を有する2つのふるいを含有している。ディフューザーの形状は、デバイスを通って移動しながらより多数の細胞がふるいと接触するように層状フローの流線を拡大する。このデバイスは3つの流出口を含有しており、2つの流出口は例えばRBCおよび血小板などのふるいを通過する細胞を収集し、1つの流出口は濃縮されたWBCおよび胎児RBCを収集する。
【0078】
ディフューザーデバイスは、典型的にはRBCおよび血小板の100%枯渇を保証しない。しかし600:1の初期RBC:WBC比は、約1:1の比率へ改善することができる。このデバイスの利点は、細胞への剪断応力が細胞の表現型または生存度に影響を及ぼさないほど流量が十分に低いこと、そして大きな細胞の消失が最小限に抑えられる、または排除されるように大きな細胞(すなわち、ふるいを通過できない細胞)全部が維持されることをフィルターが保証することにある。この特性は、さらに一部の小さな細胞が消失されたとしても、ふるいを通過する細胞集団が大きな細胞を含有しないことを保証する。ディフューザーの角度を大きくすると、より大きな濃縮係数が生じるであろう。より高度の濃縮は、1つのディフューザーからの流出口が第2ディフューザーの流入口へ供給する、1つより多くのディフューザーの直列配列によって入手できる。障害物間の間隙を拡げると、ふるい内のより大きな孔を通って大きな細胞を消失することを犠牲にして、枯渇工程を促進することができる。胎児有核赤血球から母体赤血球を分離するためには、代表的間隔は2〜4μmである。
【0079】
方法
本発明のデバイスは、例えば血液からより大きなWBCおよび胎児RBCを濾過する、連続フローセルソーターである。このデバイス内のふるいの位置は、同時に目詰まりを回避して分離後の粒子の回収を許容しながら、最大数の粒子がふるいと接触することを保証するために選択される。一般には、粒子は典型的にはマイクロメートルサイズであるデバイス内の流路内の極度に低いレイノルズ数のために維持されているそれらの層流ラインを越えて移動させられる。
【0080】
作製
例えば本発明のデバイスの流路およびふるいを作製するためには、ポリジメチルシロキサン(PDMS)ソフトリソグラフィー、ポリマーキャスティング(例、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、またはウレタン)、射出成形法、ポリマーホットエンボス加工法、レーザー微細加工法、薄膜表面微細加工法、ガラスおよびシリコン両方のディープエッチング法、電気鋳造法および立体リソグラフィーなどの三次元加工法のような単純な微細加工技術を使用できる。上記に列挙した工程の大多数は、極微細機能を複製するためにフォトマスクを使用する。5μmを越える機能サイズのためには、透明性に基づくエマルジョンマスクを使用できる。2〜5μmの機能サイズにはガラスに基づくクロム製フォトマスクを必要とする。より小さな機能のためには、ガラスに基づく電子線直接書込みマスクを使用できる。これらのマスクは次に、例えば次にPDMS、エポキシ樹脂、およびアクリル樹脂のようなポリマー材料を複製成形するためのマスターとして使用できるSU-8フォトレジストを使用して、シリコンまたはガラスの場合にはエッチングするためのフォトレジストパターンを画定するため、またはネガ複製を画定するためのどちらかに使用される。加工された流路は、次にデバイスを完成させるためのガラスのような剛性基質上に接着させることができる。その他の作製方法は、当技術分野において知られている。本発明のデバイスは、単一材料または材料の組み合わせから作製されてよい。
【0081】
1つの実施例では、単純なソフトリソグラフィー技術を使用して、サイズに基づいて大きなWBCから小さなRBCおよび血小板を分離するためのデバイスを作製した。このデバイスの機能および形状を有するクロムフォトマスクを作製し、SU-8フォトレジスト内でデバイスのネガ複製を用いてシリコンウエハーをパターン化するために使用した。次に標準複製成形技術を使用して、このマスターを用いてPDMS流路およびふるい構造を作製した。PDMSデバイスは、O2プラズマによる処理後にガラススライドへ結合させた。このデバイスを通って流動する粒子または細胞の大多数がふるいと相互作用することを保証するために、ディフューザーの形状を使用して層流の流線を拡げた。より小さなRBCおよび血小板はふるいを通過するが、より大きなWBCは中央流路へ閉じ込められる。
【0082】
デバイスの組み合わせ
本発明のデバイスは、単独で、またはいずれかの組み合わせで使用できる。さらに、本明細書に記載の方法の段階はあらゆる順序で利用できる。胎児赤血球を検出かつ分離するための組み合わせデバイスの略図は図25に示されている。1つの実施例では、試料は細胞溶解段階を使用して処理することができ、次に所望の細胞を細胞結合デバイス内で捕捉することができる。捕捉された細胞が十分に純粋である場合は、その後の処理段階は必要とされない。または、アレイ化の前に溶解または結合の1つの段階だけが利用されてもよい。また別の実施例では、細胞混合物に溶解、サイズに基づく分離、結合、およびアレイ化を供させることができる。
【0083】
本発明の方法は、細胞溶解、細胞結合、アレイ化、およびサイズに基づく分離のための領域を含有する1つの一体型デバイス上で実施できる。または、このデバイスはセパレート型であってよく、各段階から入手された細胞集団は収集して引き続いての処理段階のための装置へ手動で移されてよい。
【0084】
陽圧または負圧ポンピングを使用すると、本発明のマイクロ流体デバイスを通して細胞を輸送することができる。
【0085】
分析
本発明の一つまたは複数のデバイスによって濃縮させた後、細胞を収集して、例えば核酸分析などの様々な方法によって分析することができる。試料は、さらに分析の前に処理されてもよい。1つの実施例では、細胞は蛍光インサイチュー・ハイブリダイゼーション(FISH)用の平面基質上で収集され、続いて細胞の固定およびイメージングが実施されてよい。そのような分析を使用すると、ダウン症候群、エドワード症候群、パトー症候群、クラインフェルター症候群、ターナー症候群、鎌状赤血球貧血、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、および嚢胞性線維症などの胎児異常を検出することができる。分析は、さらに例えば性別などの胎児の特定形質を決定するために実施することもできる。
【0086】
その他の態様
上記の明細書で言及した全ての出版物、特許、および特許出願は参照として本明細書に組み入れられる。本明細書に記載の方法およびシステムの様々な修飾および変形は、本発明の範囲および精神から逸脱せずに当業者には明白であろう。本発明を特定の態様と結び付けて記載してきたが、要求された本発明はこのような特定の態様へ不当に限定されるべきではないと理解されたい。実際に、本発明を実施するための当業者には明白である記載したモードの様々な修飾は、本発明の範囲内に含まれることが意図されている。
【0087】
その他の態様は、特許請求の範囲に含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】細胞の選択的溶解を可能にするマイクロ流体デバイスのレイアウトの略図である。
【図2】例えば血液試料、溶解バッファー、および希釈剤などの3種の流体をデバイスへ導入するための流路レイアウトの図である。
【図3】細胞試料が溶解バッファーと受動的に混合されるデバイスの反応チャンバーの反復ユニットの例示である。1つの実施例では、反応チャンバーを形成するために133のユニットが接続されている。
【図4】このデバイスの流出流路の図である。
【図5】細胞溶解デバイスの図である。
【図6】本発明のデバイスを作製する方法の図である。
【図7】細胞結合デバイスの略図である。
【図8】細胞結合デバイスの分解立体図である。
【図9】細胞結合デバイスの障害物の図である。
【図10】数種の型の障害物の図である。
【図11】図11Aは、障害物の正方形アレイの略図である。正方形アレイは40%の捕捉効率を有する。図11Bは、障害物の正三角形アレイの略図である。正三角形アレイは56%の捕捉効率を有する。
【図12】図12Aは、正方形アレイの流体力学的効率の計算の略図である。図12Bは、対角線アレイの流体力学的効率の計算の略図である。
【図13】図13Aは、150Pa/mの圧力低下に対する正方形アレイおよび三角形アレイについての流体力学的効率のグラフである。図13Bは、150Pa/mの圧力低下に対する正方形アレイおよび三角形アレイについての全体的効率のグラフである。この圧力低下は、平面形状では0.75mL/hrの流量に相当する。
【図14A】圧力低下の関数としての全体的効率のグラフである。
【図14B】障害物による分離が平均速度に及ぼす作用のグラフである。
【図15】障害物がねじれアレイにある正三角形アレイについてより高率で捕捉するための障害物の配列の略図である。捕捉半径rcap2=0.339l。障害物は、第1の番号が三角形の番号を意味し、第2の番号が三角形の頂点を意味するようにナンバリングされている。ねじれアレイは98%の捕捉効率を有する。
【図16A】エッジ間距離が50μmである直径100μmの障害物の形状に対する流量の関数としての細胞捕捉率のグラフである。作動流動レジメンは複数の細胞型:癌細胞、正常結合組織細胞、ならびに母体および胎児試料にわたって確立された。最適な作動流動レジメンは2.5mL/hrである。
【図16B】標的細胞対白血球の比率の関数としての細胞捕捉率のグラフである。成人血液の軟膜からの画定細胞数へ癌細胞、正常結合組織細胞、または臍帯血由来血球の画定数をスパイクすることによりモデルシステムを作製した。汚染細胞対標的細胞の比率は、混合物中10個という少数の標的細胞から始めて徐々に5対数増加させた。収率は、ポスト上に捕捉されたスパイクされた標的細胞数と試料内へスパイクされた細胞数との差として計算した。
【図17】様々な方向から見た細胞結合デバイスの流入口および流出口の図である。
【図18】細胞結合デバイスを作製する方法の図である。
【図19】細胞結合デバイスを通って流れる細胞混合物の図である。
【図20】図20Aは、様々な細胞型を直列で捕捉するための細胞結合デバイスの図である。図12Bは、様々な細胞型を並列で捕捉するための細胞結合デバイスの図である。
【図21】結合した細胞の回収を可能にする細胞結合デバイスの図である。
【図22A】本発明の障害物に付着した胎児赤血球の光学顕微鏡写真である。
【図22B】本発明の障害物に付着した胎児赤血球のFISH分析の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図22C】胎児赤血球についての個別ハイブリダイゼーション結果を示している図22Bの近接顕微鏡写真である。
【図23】細胞を捕捉するためにヒドロゲル内に捕捉されたビーズが使用されている細胞結合デバイスの図である。
【図24A】サイズに基づく分離のためのデバイスの図である。
【図24B】サイズに基づく分離のためのデバイスの電子顕微鏡写真である。
【図25】胎児赤血球を単離および分析するための、本発明のデバイスの略図である。 図面は、必ずしも縮尺表示されていない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つの細胞型の細胞混合物から第1の細胞型が濃縮された集団を生成する方法であって、
(a)少なくとも第1、第2、および第3の細胞型を含む細胞混合物を提供する段階と;
(b)該第2の細胞型と比較して該第1の細胞型が濃縮された第1の細胞集団を生成するために、該第1の細胞型の通過を選択的に可能にする第1の微小流路(microfluidiv channel)と該混合物を接触させる段階;ならびに
(c)該第2および第3の細胞型と比較して該第1の細胞型が濃縮された第2の細胞集団を生成するために、該第1の細胞型の通過を選択的に可能にする第2の微小流路と該第1細胞集団を接触させ、それにより第1の細胞型が濃縮された集団を生成する段階
を含む方法。
【請求項2】
段階(b)が、第2の細胞型と比較して第1の細胞型の相対的集団を少なくとも100倍、1000倍、10,000倍、100,000倍、または1,000,000倍増加させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
段階(c)が、第3の細胞型と比較して第1の細胞型の相対的集団を少なくとも100倍、1000倍、10,000倍、100,000倍、または1,000,000倍増加させる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
第2の細胞集団をアレイ化する段階(d)をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
第1の細胞型が胎児赤血球であり、第2の細胞型が母体赤血球であり、かつ第3の細胞型が母体白血球である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
試料から一つまたは複数の所望の細胞を分離するためのマイクロ流体システムであって、
(a)(i)少なくとも2つの流入流路;
(ii)反応チャンバー;および
(iii)流出流路を含み、
該流入流路が該反応チャンバーを通して該流出流路へ接続されている、溶解デバイス;
(b)微小流路内に配置された障害物を含む細胞結合デバイスであって、該障害物が第2の細胞型と比較して第1の細胞型へ優先的に結合する、細胞結合デバイス;ならびに
(c)個別の細胞を封じ込めるための場所の二次元アレイを含むアレイ化デバイス
を含むシステム。
【請求項7】
試料から一つまたは複数の所望の細胞を分離するためのマイクロ流体システムであって、
(a)(i)少なくとも2つの流入流路;
(ii)反応チャンバー;および
(iii)流出流路を含み、
該流入流路が該反応チャンバーを通して該流出流路へ接続されている、溶解デバイス;ならびに
(b)微小流路内に配置された障害物を含む細胞結合デバイスであって、該障害物が第2の細胞型と比較して第1の細胞型へ優先的に結合する、細胞結合デバイス
を含むシステム。
【請求項8】
試料から所望の細胞を分離するためのマイクロ流体システムであって、
(a)(i)少なくとも2つの流入流路;
(ii)反応チャンバー;および
(iii)流出流路を含み、
該流入流路が該反応チャンバーを通して該流出流路へ接続されている、溶解デバイス;ならびに
(b)個別の細胞を封じ込めるための場所の二次元アレイを含むアレイ化デバイス
を含むシステム。
【請求項9】
試料から一つまたは複数の所望の細胞を分離するためのマイクロ流体システムであって、
(a)微小流路内に配置された障害物を含む細胞結合デバイスであって、該障害物が第2の細胞型と比較して第1の細胞型へ優先的に結合する、細胞結合デバイス;および
(b)個別の細胞を封じ込めるための場所の二次元アレイを含むアレイ化デバイス
を含むシステム。
【請求項10】
障害物が、抗CD71抗体、抗CD36抗体、抗GPA抗体、もしくは抗CD45抗体、またはそれらの組み合わせでコーティングされている、請求項6、7、および9のいずれか一項記載のマイクロ流体システム。
【請求項11】
細胞結合デバイスが、第4の細胞型と比較して第3の細胞型へ優先的に結合する障害物をさらに含む、請求項6、7、および9のいずれか一項記載のマイクロ流体システム。
【請求項12】
アレイ化デバイスが個別の細胞の選択的放出のためのアクチュエーターをさらに含む、請求項6、8、および9のいずれか一項記載のマイクロ流体システム。
【請求項13】
反応チャンバーが蛇行状流路を含む、請求項6から8のいずれか一項記載のマイクロ流体システム。
【請求項14】
溶解デバイスが希釈チャンバーおよび第3の流入流路をさらに含み、反応チャンバーが該希釈チャンバーを通じて流出流路へ接続されており、該第3の流入口が該反応チャンバーと該希釈チャンバーとの間に配置されている、請求項6から8のいずれか一項記載のマイクロ流体システム。
【請求項15】
希釈チャンバーが蛇行状流路を含む、請求項14記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
試料から一つまたは複数の第2の細胞型を分離するための方法であって、
(a)一つまたは複数の微小流路内に(i)少なくとも第1および第2の細胞型を含む試料、および(ii)第1の細胞型を優先的に溶解させる溶液を導入して、第2の細胞型と比較して第1の細胞型のより高度な溶解を引き起こす段階;
(b)段階(a)の生成物を微小流路内に配置された障害物を含むマイクロ流体デバイスと接触させる段階であって、該障害物が該第2の細胞型へ優先的に結合する段階と;
(c)該障害物へ結合した細胞を収集し、それにより該第2の細胞型が濃縮された細胞集団を生成する段階;
(d)該第2の細胞型が濃縮された該細胞集団をアレイ化する段階;
(e)該第2の細胞型が濃縮された該集団中で一つまたは複数の該第2の細胞型を同定する段階;ならびに
(f)該一つまたは複数の第2の細胞型を収集し、それにより該試料から該一つまたは複数の第2の細胞型を分離する段階
を含む方法。
【請求項17】
試料から一つまたは複数の第2の細胞型を分離するための方法であって、
(a)一つまたは複数の微小流路内に(i)少なくとも第1、第2、および第3の細胞型を含む試料、および(ii)第1の細胞型を優先的に溶解させる溶液を導入して、第2の細胞型と比較して第1の細胞型のより高度な溶解を引き起こす段階;
(b)段階(a)の生成物を微小流路内に配置された障害物を含むマイクロ流体デバイスと接触させる段階であって、該障害物が該第2の細胞型と比較して該第3の細胞型へ優先的に結合する段階;
(c)該障害物へ結合していない細胞を収集し、それにより該第2の細胞型が濃縮された細胞集団を生成する段階;
(d)該第2の細胞型が濃縮された該細胞集団をアレイ化する段階;
(e)該第2の細胞型が濃縮された該細胞集団中で一つまたは複数の該第2の細胞型を同定する段階;ならびに
(f)該一つまたは複数の第2の細胞型を収集し、それにより該試料から該一つまたは複数の第2の細胞型を分離する段階
を含む方法。
【請求項18】
第2の細胞型が濃縮された細胞集団を生成するための方法であって、
(a)一つまたは複数の微小流路内に(i)少なくとも第1および第2の細胞型を含む試料、および(ii)第1の細胞型を優先的に溶解させる溶液を導入して、第2の細胞型と比較して第1の細胞型のより高度な溶解を引き起こす段階;
(b)段階(a)の生成物を微小流路内に配置された障害物を含むマイクロ流体デバイスと接触させる段階であって、該障害物が該第2の細胞型へ優先的に結合する段階;ならびに
(c)該障害物へ結合した細胞を収集し、それにより該第2の細胞型が濃縮された細胞集団を生成する段階
を含む方法。
【請求項19】
第2の細胞型が濃縮された細胞集団を生成するための方法であって、
(a)一つまたは複数の微小流路内に(i)少なくとも第1、第2、および第3の細胞型を含む試料、および(ii)第1の細胞型を優先的に溶解させる溶液を導入して、第2の細胞型と比較して第1の細胞型のより高度な溶解を引き起こす段階;
(b)段階(a)の生成物を微小流路内に配置された障害物を含むマイクロ流体デバイスと接触させる段階であって、該障害物が該第2の細胞型と比較して該第3の細胞型へ優先的に結合する段階;ならびに
(c)該障害物へ結合していない細胞を収集し、それにより該第2の細胞型が濃縮された細胞集団を生成する段階
を含む方法。
【請求項20】
試料から一つまたは複数の第2の細胞型を分離するための方法であって、
(a)一つまたは複数の微小流路内に(i)少なくとも第1および第2の細胞型を含む試料、および(ii)第1の細胞型を優先的に溶解させる溶液を導入して、第2の細胞型と比較して第1の細胞型のより高度な溶解を引き起こす段階;
(b)段階(a)の生成物をアレイ化する段階;
(c)該一つまたは複数の第2の細胞型を同定する段階;ならびに
(d)該一つまたは複数の第2の細胞型を収集し、それにより該試料から該一つまたは複数の第2の細胞型を分離する段階
を含む方法。
【請求項21】
試料から一つまたは複数の第2の細胞型を分離するための方法であって、
(a)少なくとも第1および第2の細胞型を含む試料を微小流路内に配置された障害物を含むマイクロ流体デバイスと接触させる段階であって、該障害物が該第2の細胞型と比較して該第1の細胞型へ優先的に結合する段階;
(b)該障害物へ結合していない細胞を収集し、それにより枯渇した細胞集団を生成する段階;
(c)該枯渇した細胞集団をアレイ化する段階;
(d)該枯渇した集団中で該一つまたは複数の第2の細胞型を同定する段階;および
(e)該一つまたは複数の該第2の細胞型を収集し、それにより該試料から該一つまたは複数の第2の細胞型を分離する段階
を含む方法。
【請求項22】
試料から一つまたは複数の第2の細胞型を分離するための方法であって、
(a)少なくとも第1および第2の細胞型を含む試料を微小流路内に配置された障害物を含むマイクロ流体デバイスと接触させる段階であって、該障害物が該第1の細胞型と比較して該第2の細胞型へ優先的に結合する段階;
(b)該障害物へ結合した細胞を収集し、それにより枯渇した細胞集団を生成する段階;
(c)該枯渇した細胞集団をアレイ化する段階;
(d)該枯渇した集団中で該一つまたは複数の第2の細胞型を同定する段階;および
(e)該一つまたは複数の第2の細胞型を収集し、それにより該試料から該一つまたは複数の該第2の細胞型を分離する段階
を含む方法。
【請求項23】
第2の細胞型が胎児赤血球である、請求項16から22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
段階(a)中の溶液がNaHCO3およびアセタゾルアミドを含む、請求項16から20のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
段階(a)の後に、一つまたは複数の微小流路内で段階(a)の生成物を希釈剤で希釈する段階をさらに含む、請求項16から20のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
障害物の各々が結合成分でコーティングされている、請求項16から19、21、および22のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
結合成分が、抗CD71抗体、抗CD36抗体、抗GPA抗体、もしくは抗CD45抗体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項16記載の方法。
【請求項28】
試料中の一つまたは複数の第2の細胞型の少なくとも75%、80%、90%、95%、98%、または99%がアレイ化デバイス内でアレイ化される、請求項16、17、および20から22のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
試料中の第2の細胞型の少なくとも75%、80%、90%、95%、98%、または99%が収集される、請求項18から19のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
第2の細胞型が濃縮された細胞集団を生成するための方法であって、
(a)少なくとも第1および第2の細胞型を含む試料を提供する段階;
(b)一つまたは複数の微小流路内に(i)該試料、および(ii)第1の細胞型を優先的に溶解させる溶解バッファーを導入して、第2の細胞型と比較して第1の細胞型のより高度な溶解を引き起こし、該濃縮された集団を生成する段階
を含む方法。
【請求項31】
段階(b)の後に、希釈した試料を生成するために、一つまたは複数の微小流路内で濃縮された集団を希釈剤で希釈する段階(c)をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
段階(c)の後に、希釈した試料を収集する段階(d)をさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
試料が2つまたはそれ以上の微小流路内に導入される、請求項30記載の方法。
【請求項34】
第1の細胞型が母体赤血球であり、第2の細胞型が胎児赤血球である、請求項30記載の方法。
【請求項35】
溶解バッファーがNaHCO3およびアセタゾルアミドを含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
溶解バッファーが少なくとも30秒間試料と接触させられる、請求項34記載の方法。
【請求項37】
第2の細胞型の少なくとも98%が溶解されない、請求項30記載の方法。
【請求項38】
(a)(i)少なくとも3つの流入流路;
(ii)蛇行状流路を含む反応チャンバー;
(iii)蛇行状流路を含む希釈チャンバー;および
(iv)流出流路
を含むマイクロ流体デバイス;ならびに
(b)他の細胞型より1つの細胞型を優先的に溶解させる溶解バッファー
を含むキット。
【請求項39】
(c)希釈剤をさらに含む、請求項38記載のキット。
【請求項40】
溶解バッファーがNaHCO3およびアセタゾルアミドを含む、請求項38記載のキット。
【請求項41】
流入流路および流出流路が10から500μmの直径寸法を有する、請求項38記載のキット。
【請求項42】
(ii)および(iii)の蛇行状流路が各々少なくとも10μLの容積を有する、請求項41記載のキット。
【請求項43】
(ii)および(iii)の蛇行状流路が各々少なくとも20μLの容積を有する、請求項42記載のキット。
【請求項44】
枯渇した細胞集団を生成する方法であって、
(a)少なくとも第1および第2の細胞型を含む試料を、該第2の細胞型と比較して該第1の細胞型へ優先的に結合する障害物を含むマイクロ流体デバイスと接触させる段階;
(b)該障害物へ結合した細胞または該障害物へ結合していない細胞を収集し、それにより枯渇した細胞集団を生成する段階
を含む方法。
【請求項45】
障害物が第1の細胞型の表面へ結合する結合成分でコーティングされている、請求項44記載の方法。
【請求項46】
第1の細胞型が胎児赤血球である、請求項44記載の方法。
【請求項47】
第2の細胞型が胎児赤血球である、請求項44記載の方法。
【請求項48】
試料内の第1の細胞型の少なくとも60%が障害物へ結合する、請求項44記載の方法。
【請求項49】
試料内の第2のの細胞型の少なくとも70%が障害物へ結合しない、請求項44記載の方法。
【請求項50】
障害物が二次元アレイで規則化されている、請求項44記載の方法。
【請求項51】
その各々が結合成分でコーティングされている、微小流路内に配置された障害物を含むマイクロ流体デバイス。
【請求項52】
障害物が二次元アレイで規則化されている、請求項51記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項53】
障害物の各々の高さが50から500μmである、請求項51記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項54】
障害物の各々が、高さに直交する5から500μmの範囲内の寸法を有する、請求項51のマイクロ流体デバイス。
【請求項55】
障害物の各々が他の障害物から少なくとも10から1000μm離れて配置されている、請求項51記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項56】
結合成分が、抗CD71抗体、抗CD36抗体、抗GPA抗体、もしくは抗CD45抗体、またはそれらの組み合わせを含む、請求項51記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項57】
(a)微小流路内に配置された障害物の、流体流路を規定する第1の領域であって、該第1の領域内の該障害物が第2の細胞型と比較して第1の細胞型へ優先的に結合する、第1の領域;および
(b)該微小流路内に配置された障害物の第2の領域であって、該第2の領域内の該障害物が第4の細胞型と比較して第3の細胞型へ優先的に結合する、第2の領域
を含む(ただし、該第1および第3の細胞型が同一ではない)、マイクロ流体デバイス。
【請求項58】
第2の細胞型および第4の細胞型が同一である、請求項57記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項59】
第2の細胞型および第3の細胞型が同一である、請求項58記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項60】
第1の領域および第2の領域が、微小流路内で流体の流れに対して直列に配列されている、請求項57記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項61】
第1の領域および第2の領域が微小流路内で流体の流れに対して並列に配列されている、請求項57記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項62】
第1の領域内の障害物が第2の領域内の該障害物間に散在している、請求項61記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項63】
(a)微小流路内に配置された障害物の、流体流路を規定する第1の領域であって、該第1の領域内の該障害物が、第2の細胞型と比較して第1の細胞型へ優先的に結合し、該障害物が少なくとも2つの実質的に平行な行で、かつ少なくとも2つの実質的に平行な列で配列されている、第1の領域;および
(b)該微小流路内に配置された障害物の第2の領域であって、該第2の領域内の該障害物が、第4の細胞型と比較して第3の細胞型へ優先的に結合し、該障害物が少なくとも2つの実質的に平行な行で、かつ少なくとも2つの実質的に平行な列で配列されている第2の領域を含む、マイクロ流体デバイスであって、第1および第2の領域が微小流路内で相互に隣接して配置されており、かつ第2の領域内の行が第1の領域内の行に対して第1の領域内の行間の距離より短い距離に配置されている、
を含むマイクロ流体デバイス。
【請求項64】
第1の領域内の障害物が、抗CD71抗体、抗CD36抗体、抗GPA抗体、もしくは抗CD45抗体、またはそれらの組み合わせでコーティングされている、請求項63記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項65】
第2の領域内の障害物が、抗CD71抗体、抗CD36抗体、抗GPA抗体、もしくは抗CD45抗体、またはそれらの組み合わせでコーティングされている、請求項63記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項66】
第1の領域内の列間の距離に対する第1の領域内の行間の距離の比率が約√3である、請求項63記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項67】
第2の領域内の列間の距離に対する第2の領域内の行間の距離の比率が約√3である、請求項63記載のマイクロ流体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図22C】
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【図23】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−75191(P2010−75191A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261622(P2009−261622)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【分割の表示】特願2004−540301(P2004−540301)の分割
【原出願日】平成15年9月29日(2003.9.29)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】